今日の海上は時化模様で定置網漁は操業できない。今日の仕事は陸作業のみなので時間が遅く、家でゆっくりしていた。すると漁協から電話があり、見たことのない魚が揚がったとの情報。風の影響のない場所の定置網が水揚げに来たらしい。何でもコイの顔をしたニベという事である。漁協の職員も毎日のように魚を見ており、魚には非常に詳しい。ここで揚がるニベの仲間も当然よく知っている訳で、その漁協職員が見たことないというので、これは初物だろうと思う。仕事にはまだ早いが重い検索図鑑も準備し市場へと向かう。行く途中、色々な魚が頭に浮かぶが、ニベの仲間で一番に思うのが以前に逃したホンニベ(ブログ2014 8.23)である。結局ホンニベもあれ以来出会う事がなかったのでワクワクしながら向かう。市場に到着し魚を見に行くと、何とカガヤキミゾイサキである。カガヤキミゾイサキは6年前に漁協の定置網で獲れ、日本初記録種として標準和名を提唱した魚である(ブログ 2015 11.30)。カガヤキミゾイサキは頭にも浮かばなく、予想外なうえ驚く。勿論魚ボラの標本用に確保する。最近のコロナウイルスの影響で大学側が標本を受け入れてくれるだろうかと思い、魚ボラの先生に連絡する。すると最少人数の学生がいて受け入れてくれるという事なので、仕事が終わり次第、大学へと走る。カガヤキミゾイサキは当時からそのうち日本でも見つかる可能性のある魚とされていただけに、報告後に日本各地で見つかるだろうと思っていたが、魚ボラの先生に確認するとまだ標本はなく、この個体が国内2個体目となるそうである。今年初の大学訪問なだけに先生や学生達とお魚談義もしたいところではあるが、このご時世なので、標本を渡して直ぐに帰る。
先月、日本初記録種としてツケアゲエソの論文が出版となり、地元鹿児島では地元紙(ブログ2020 3月22日)やテレビの報道で取り上げられた。その当時、論文の著者の学生から電話があり、今度ツケアゲエソを使い、つけ揚げ(さつま揚げの鹿児島での呼び名)を作るというテレビの企画があるという事でツケアゲエソの確保依頼をされていた。それからは毎回定置網や市場をチェックするも、エソは何度か揚がっていたが確認するとツケアゲエソではなかった。それから1ヶ月が経とうとする今日、ようやく市場でツケアゲエソを2個体発見。依頼からかなり時間が経ってしまっているがとりあえず確保する。年度を越えてしまい、著者の学生ももう社会人となってしまったが一応電話する。すると時間が経過している事よりもコロナウイルスの影響でテレビの企画自体が延期というか無くなってしまったらしい。コロナウイルスが猛威を振るっているだけに、薄々そのような状態だろうとは察していた。結局魚ボラの標本用として確保となる。
ツケアゲエソ
ワニエソ
オキエソ
今日、2月11日は毎年行われる伝統的で大事な集落行事があり、私はその責任者という事で一年で一番忙しい日である。私が漁業関係者という事もあり、この集落行事での神事にお供えするマダイをいつも準備している。毎年定置網で獲れるマダイを確保しているのだが、先週の土曜日から時化続きとなり、昨日も時化で前日までにマダイを確保することが出来ないでいた。養殖のマダイを選ぶ選択もできたが、やはり天然ものをお供えしたい思いがあり、今日に賭けていた。ところが時化続きで期待できたのだが、今朝の定置網漁ではマダイの入網は無く、残すは他の定置網頼みとなる。帰港すると自分の船の水揚げよりも、まずは市場に水揚げされたマダイを探す。ところがマダイはあったもののサイズが小さ過ぎる。そのような中、お隣の定置網の方にチダイの中に変わったものがいたと見せてくれる。見ると背鰭第3・4棘が著しく長くヒレコダイのようである。ヒレコダイは今までに何度か見ているのだが、魚ボラ用に確保した標本を調べた時にまだ未登録とわかり探していた。だが、今はヒレコダイを確保する余裕がなく、とにかくマダイを探さなければと、とりあえず写真にだけ収める。結局入札ギリギリに水揚げに来た定置網の中でマダイは見つかりホッとする。そこでもうヒレコダイの存在は忘れてしまい、水揚げ後、マダイを持って行事へと向かってしまった為、ヒレコダイを標本用に確保することが出来なかった。行事の途中でヒレコダイの事を思い出したが後の祭りである。行事は無事に終わったものの、家に帰ってから撮ったヒレコダイの写真を見ると、傷もなく伸長した棘や体高が高く、ヒレコダイの特徴がよく出ており、確保できなかった後悔に更に追い打ちをかけるような素晴らしい個体であった。
今日は定置網漁を終え、帰港すると、先に入港していた漁協定置網の水揚げに人だかりが。水揚げ作業をしながら人伝えに話を聞くと50キロ近くある大きなゴマアラとの事。ゴマアラとはここではチャイロマルハタやヤイトハタなど体側に黒点が散在するハタ類の事である。気になるので水揚げ作業の合間に見に行くと、活魚水槽には入らず1トンタンクに入れられており、腹を上にして浮いている。だが見ると体色は茶色っぽいがチャイロマルハタやヤイトハタとは違う感じに見える。ひっくり返っているので背の方を見ようとひっくり返そうとすると暴れ出し、合羽は着ているものの水を飛ばし、ずぶ濡れになりそうな感じ。結局ひっくり返すことはできなかったが、見た感じタマカイのような感じである。持っていたカメラを水槽の中に入れ背の方の写真を撮り、見てみるとやはり背の方にタマカイの模様が確認できた。タマカイは珍しく、一昨年の年明け(ブログ 2018年1月4日)以来の水揚げでこの市場では3例目となる。珍しいので魚体の真横からの写真を撮りたいが、水槽から出す訳にはいかず、入札まではまだ時間がある。入札後に仲買がそのままの状態で運んでしまうかもしれないので、入札が終わるのを待たずに今回写真を撮るのは諦める。勿論魚ボラの標本用に確保する事なんて、とてもじゃないけど考えもしない。
今日は市場で活魚を水揚げに行くと、水槽にヒゲハギが泳いでいる。この前のリュウグウノヒメの様に、水揚げではなく水族館用に活かしているのだろう。ヒゲハギは近年では珍しく、滅多に見ることが出来なくなっている。その為、魚ボラを始めてからはまだ何度かしか出会ってなく、それも鰭などがボロボロの個体(ブログ2014 4.24)や市場の床に落ちていて誰かに踏まれてしまった個体(ブログ2016 8.20)だけで、自分用にもまだ納得できる写真を撮れていない。今回の個体もよく見るとヒゲハギの特徴の皮弁が少ないのかあまり目立たない。それでも今となっては珍しい魚なので写真も撮りたいし、魚ボラの標本用にも確保したいところである。だが、もう入札時間間近で漁協職員に話をすることが出来ない。また、自分も次の仕事があるので時間が無く、結局確保するのを諦める。次はいつ出会えるのだろうか。
今日は定置網漁を終え帰港し、活魚を水揚げに行くと、リュウグウノヒメが水槽内にカゴを浮かばせ泳がせている。恐らく水族館用に活かしてきたのだろう。だが、漁協職員に聞くと水族館には連絡していないとの事。見ると既に浮いており、眼は赤く膨れており、水族館でも飼育は厳しそうである。必要ないので持って行ってもいいという事で魚ボラの標本用に頂く。これ以上傷付く前にと漁協内の冷蔵庫に入れておく。すると後から仲買の方から譲ってほしいと言われる。なんでも鹿大の魚ボラの先生とは別の水産学部の先生へ届けたいと。いつもお世話になっている先生に仲買さんだったので標本用には諦め譲ることに。リュウグウノヒメは今までに数個体は確認しており、魚ボラの標本登録もしており、更に標本写真も撮ってある。今回はすんなりと譲ることにする。
今日は市場で定置網漁の水揚げ後、他の定置網の水揚げ状況を見に行くと、お隣の定置網船がまだ水揚げ作業中。魚が選別され、残された雑魚の中を見るとサクヤヒメジの姿を発見。更にその雑魚の中を探すと10個体ものサクヤヒメジが見つかる。まだ水揚げ作業も中盤であり、この後も待っていればまだ多くのサクヤヒメジが出て来ると思われる。だが、自分も仕事に戻るのでこれ以上見ていられないのが残念であるが、最終的にどのくらいの個体数が混獲されていたのか気になる。数年前にここの海域の一番北側の道の駅にサクヤヒメジが沢山パックに入って売られていて驚いた。15年前に初めて見つかり8年前に新種となったサクヤヒメジ。新種の魚とは未だに稀少種であるのが当たり前であるので、サクヤヒメジは例外で珍しいパターンである。自分としては一般的に普及してもらいたいと願っており、徐々に近づいている感じになって来た。だが、個体数が増えて来ても未だに雑魚扱いである。ここを打破しないとサクヤヒメジを一般の人にも浸透させるのは難しいだろう。
今日は市場で水揚げ作業をしていると、お隣の定置網の人から「これ珍しいんじゃないの」と魚が投げ込まれる。見ると魚としては普通のコバンザメであるが、体色が黄色というか黄金色である。コバンザメの色彩異常・色彩変異個体と思われる。遠慮なく魚ボラの標本用に頂く。よく見ると小判とされる吸盤の部分は黄金色で、これこそ正に小判ザメである。今までに黄色いコバンザメは見た事がないので珍しいのかもしれないが、普通の魚として考えれば、黄色化した個体は様々な魚種で見る事があるのでそこまで珍しいという感じではない。論文になるようなネタであれば直ぐに大学へ持ち込み標本登録するのだが、そこまででもないような気がする。サイズ的にも家で冷凍保存できそうであり、今から大学へ走るか家の冷凍庫で冷凍保存するか悩むところである。
今日は定置網漁の水揚げ後、遅れて帰港した漁協定置網の水揚げの様子を見ていると、メアジの中に長年探していた魚を遂に発見。テルメアジである。テルメアジは10年前に宮崎の定置網で得られ、日本初記録種として報告されたメアジに似たアジの仲間である。私が鹿児島大学へ標本を提供しているのと同じように、宮崎の定置網漁師で珍しい魚を宮崎大学へ提供している方がおり、その方とネット上で知り合い、情報交換等行っていた。その方からアジ科の未記録種(のちのテルメアジ)が獲れた事を教えて頂き、それからはメアジが獲れるたびにその中からテルメアジを探していた。それから10年が経ち、ようやく見つけることが出来た。ミヤカミヒラアジも同じように先に宮崎で獲れ、教えて頂いてから翌年にこちらでも見つかり確保している。テルメアジもそのうち見つかるだろうと高を括っていたが、実に10年も経ってしまった。これだけ見つからないのでメアジとの見分けがつかないのだろうかとも思い、メアジを見るたびにいつも違いのある稜鱗を入念にチェックして来た。ところが今回はパッと見ただけでメアジの中にテルメアジを発見。後光が差しているかのように直ぐに目に飛び込んで来た。魚ボラの標本用に確保する。今日は会議があるので会議が終わってから大学へ持ち込もうとするが、学生に連絡するとわざわざ会議の場所まで受け取りに来てくれ、後は学生に任せる。今回テルメアジを確保したことで、何だか肩の荷も下りた感覚である。
上がメアジ、下がテルメアジ
今日は定置網漁後に市場で水揚げ作業をしていると、知り合いの漁師さんが来て、こんな魚が釣れたと生きた状態でバケツに入れて見せてくれる。見るとヌノサラシである。ヌノサラシは定置網や市場に素潜りなどでもまだ見たことのない魚であり、探していた魚でもある。ヌノサラシは皮膚からグラミスチンという粘液毒を出す事で有名であり、更にサイズが小さいので標本用にという事で持って来てくれた。有難く魚ボラの標本用に頂く。体色的には地味であるが、体側に数本のラインがあり、ちょっと派手さもあり、標本写真を撮りたかった魚である。家に持ち帰り、早速撮影に取り掛かる。標本を展鰭する為、最初に標本のヌメリを洗い流す。素手で体や鰭を水でよく洗うが、ヌメリがなかなか取れない。取れないどころかベタベタして来て、手にもこびり付いてくる。何とか標本のヌメリは取れたものの、自分の手にこびり付いたヌメリが取れない。石鹸や洗剤を使っても洗い流すことが出来ず、ベタ付くだけである。最初にも書いたが、このヌノサラシは皮膚から粘液毒を出す魚である。この手に付いて取れないヌメリには毒があるのだろうかと少々焦る。今後、手が荒れないか心配しながらの撮影となってしまう。魚を触ってこのような体験は初めてである。本当に今後、手が荒れないか心配である。
今日は定置網漁を終え、帰港すると市場に大きなカマスの仲間が水揚げされている。オニカマスだろうかと見に行くと、尾鰭の形状からオニカマスではなさそうで、体側に「く」の字の横帯が並んでいる。横帯が「く」の字となるとオオカマスとなるのだが、「く」の字というよりも曲がっていない横帯のように見える。となると、今年の初めに日本初記録種として報告されたばかりの新顔タツカマスとなる。タツカマスは知り合いの宮崎大の学生が執筆しており、収集依頼も来ていて魚に関しての説明も聞いていた。だが、実際に魚を前にするとオオカマスとの違いが良くわからない。自分ではタツカマスはオニカマスによく似ているのだろうと思っていたので尾鰭を見れば間違えないだろうと考えていたが、オオカマスに似ているとは予想外であった。だが、横帯がやはりオオカマスとは違う感じがしたので魚ボラの学生に連絡する。標本として確保して大学へ走ろうと考えていたが、学生がわざわざ受け取りに来てくれるとの事。取りに来た学生に標本を渡し、夜に連絡を頂くと、報告した宮大の学生にも写真で確認してくれたそうで、タツカマスだろうと返事を頂いた。これでタツカマスを初確保となる。タツカマスは結構前から釣り人らの間でブラックフィンバラクーダーと呼ばれ各地で確認されていた。実はうちの定置網でも以前に入ったことがあり、その時はオニカマスと思って写真だけ撮って水揚げしてしまい、後になってから写真を見て気付いた経緯があり、今回標本を確保出来て正直ホッとした感じである。
今日は定置網漁の水揚げ作業を終え、市場に揚がっている魚をサッと確認すると、ここではまだ見たことのない魚を発見する。見た感じで何とかタマガシラというのは直ぐにわかる。標本用に確保したいところではあるが、もうすぐ入札が始まるので漁協職員も忙しく、とても頼める状況ではない。また、自分も直ぐに沖作業へと行かなければならない。これは成魚であるが、確か幼魚は採集して確保していたような気がして、今回はあっさりと諦め、写真にだけ収める。仕事を終え、帰宅しこの魚を調べるとヒトスジタマガシラとわかる。確保済みの幼魚を見てみるとヒトスジではなくフタスジタマガシラにヒメタマガシラでありヒトスジタマガシラはまだここでは未確認の魚である事がわかる。ヒトスジタマガシラについて調べてみると、本土では珍しいみたいではあるが、お隣の宮崎でも既に見つかっているらしい。標本用に確保できなかったので本来なら非常に悔しいのだが、そのうちまた見つけることが出来そうな感じがあり、それほど悔しい感じがしない。それでも県本土初記録という事で報告くらいは出来ただろう。
ヒトスジタマガシラ
今日は定置網漁の操業を終え帰港すると、市場の活魚水槽に見慣れないハタの仲間が泳いでいるのを発見。今までに定置網や市場では見たことのないハタである。体側に小黒点が散在するハタの仲間は多く難しいが、図鑑では見覚えがあるのだが、魚種名までは出てこない。ハタの仲間なので高値の魚ではあるが、幸いサイズが小さいので標本用に確保する。家に帰り調べると直ぐにシロブチハタであることがわかる。今日は丁度息子が帰る日で鹿児島空港まで車で送るので、鹿大にちょっと寄って標本を持ち込むことにする。だが、大学に寄ると時間が経つのを忘れてしまいそうで、飛行機に間に合わなくなる恐れがあるので、大学には入らず、門の所で学生に渡し、そのまま空港へと向かう。シロブチハタは一応県本土初記録のようである。
今日は定置網漁を終え、市場で水揚げ作業をしていると、お隣の定置網が選別作業をしているその直ぐ横に、ポツンと大きめな魚が1尾入ったカゴに目が行く。ひと目でオオクチイケカツオとわかる。オオクチイケカツオは日本では非常に珍しく、まだ標本に基づく記録は宮崎と富山の2個体のみであり、この個体は国内3個体目のものと思われる。だが、この魚は台湾以南では普通種であり、近いうちに見つけることが出来るのではと思い探していた。そうは思っていたものの、実際目の前にして非常に驚き、更に興奮してしまう。もちろん魚ボラの標本用に確保し、漁協の冷蔵庫に保管する。それから水揚げ作業を終え陸で網の修理をしていても、確保したオオクチイケカツオが気になって仕方ない。今日は土曜日であり、魚ボラの先生、学生と連絡が取れるだろうか。また、誰かが対応してくれたとしても、今日は所用があり、夕方までには戻らなければならず、それまでに標本を渡すことが出来るだろうか。更に魚のサイズが大きいので蓋のある容器がなく、大学へどのように運ぶか。など、色々と不安要素満載である。仕事も終わり直ぐに魚ボラの先生に電話するが、やはり応答はない。だが、何とか一人の学生と連絡が付き、標本の受け入れをしてくれることになる。容器は漁協に魚が入るサイズの桶を借り、魚の上に氷を掛けて、氷が溶けてしまう前までに少しでも早く大学へと急ぐ。大学へは車で1時間掛かるが、途中で氷が解けだしピチャピチャと音がする。借りた桶が浅かったので溶けた水がこぼれそうになり、それからはゆっくりと走らざるを得なくなる。大学に到着すると車の中には少しだけ水がこぼれただけで済む。学生に標本を渡すと直ぐに帰らなければならない時間である。学生は一人しかおらず、標本のサイズも大きく一人では処理が大変そうではあるが、頼れる学生なので後は任せて帰路につく。そして夜にはその学生からメールで標本写真が送られてくる。今日は本当に標本を確保したことよりも一人の学生に助けられ、とても嬉しく感謝で一杯である。
今日はもう一種、帰港するとニザダイに似た魚を確保していると漁協職員の方に言われる。冷蔵庫へ見に行くとボウズハギである。ボウズハギはうちの定置網ではまだ獲れた事が無く、市場で一度だけ見つけ、標本用に確保しており、ここでは一応珍しい種である。前回は体側に特徴となる暗色横帯が出ていなかったが、今回はハッキリと表れている。そこまで珍しい魚ではないが、うちの定置網で獲ることが今後できるだろうか。