ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「卓球王 水谷隼 終わりなき戦略」(水谷隼著;卓球王国)を読む

2021-10-28 19:46:35 | 読む


先日、卓球の水谷隼選手が引退した。
地元静岡県でのTリーグの試合で、現役最後の試合を張本選手とのダブルスで終えた。


東京五輪で、伊藤美誠選手と組んだ混合ダブルスで中国ペアを破って金メダルを獲得した活躍は、今も記憶に新しい。

先月、書店に寄ったら、スポーツコーナーの棚に彼の著書が置いてあった。
「卓球王 水谷隼 終わりなき戦略」(水谷隼著;卓球王国)。
これは、あとがきには、「2020年7月20日」の日付があり、去年の9月に発刊されたものだ。
パラパラと立ち読んでみたが、買ってじっくり読んでみたくなった。
一流選手であった彼の、一流の考え方が、1冊の隅から隅まで書かれている本で、読み応えがあった。

彼は、卓球は、究極の対人競技と強く意識している。
だから、「自分のやりたいこと=勝つためのやり方」ではない。「勝つためのやり方=相手の得意を封じるやり方」と言う。
だから、自分のやりたいプレーをすることが勝ちにつながるわけではない。
なるほど、かつて卓球をしていた身としては、そうだとうなずいてしまう。
対人競技だから、練習で限界に挑戦することよりも、いかに技術や戦術を磨き、相手を上回るようなゲーム戦略を作れるかが重要だと主張している。

練習では、生きたボールと死んだボール、生きた練習と死んだ練習がある。
緊張感のないボール、雰囲気では、無駄な練習になるというのである。
だから、「ミスできないぞ。厳しいボールを打つぞ」という重苦しい雰囲気を作るように努力していく。
そのために、例えば監督から一番見えやすい台で練習する、学校の授業でも先生に一番目立つ席で集中して学習するようにした。
また、練習で簡単にミスをしてはいけない。
だから、「自分が1本ミスをすると、100万円を失うことになる」と考え、緊張感を持ち集中して練習に取り組むことが、競った試合での冷静なプレーにつながる。
本当に強くなるために、彼のしてきたことが具体的に書いてあった。

試合の進め方についても、負ける選手は接戦で無謀なことをするが、優勝する選手は無謀な攻めはしない。
接戦でも、冷静に戦える者は勝者となり、弱気になり迷う者は敗者となる。

試合は、たまたま負けることはない、負けるだけの理由がある。
試合中、競り合いで自分がサービスミスをしたら、「これはラッキー、チャンス。相手にスキが生まれる」と考えて戦う。
試合後は、必ず振り返ってメモを取る。
勝てそうもないと思いながらも、そこで反省する。なぜ勝てないのかと負けた原因を考え、どこかにつけ入るスキはないのかと探していく。
それが、次に勝つことにつながっていくというのは簡単だが、それをきちんとしていることが彼のすごいことだ。

彼は、日本の若手選手たちについても、強くなるためのアドバイスを行っている。
世界のトップに行くためには、数多くの試合経験が必要だ。
負けた時にどれだけ悔しがり、どれだけ自分を変えることができるか。
だと。
中国選手が勝ち続けるのは、競争の激しい中国を勝ち抜いたという自信と、負けたらチャンスは来ないというがけっぷちの覚悟の中で戦っているから。

強くなるための言及は、指導者にも。
ベンチコーチはすべての得失点を記憶していなければ指導者として失格。
なかなか厳しいが、正論だろう。

この本が出たのは、去年だったのだが、こうも断言していた。
東京五輪が開催されれば、混合ダブルスでの金メダルはチャンスがあるし、狙いたいと強く思っている。
その通り、実現して見せたのはすごいと思う。
その際の戦い方として、本書には、「ダブルスでは実力が落ちる方の選手を徹底して潰す」とあった。
五輪の決勝で、普通は女子選手をねらうのに、男子選手に迷いが見られたから、伊藤選手とそこをついて戦い、見事に日本初の五輪金メダル獲得につなげたのだった。

そんな水谷隼選手が、目の不調から現役引退というのは残念だが、リオ五輪で団体銀メダル・個人銅メダル、東京五輪で混合ダブルス金メダルという成績を収めた実績は、輝かしいものだと思う。
なぜ、それができたのか。
その答えが、この本にあるように思えたのだった。

また、先月下旬には、「打ち返す力 最強のメンタルを手に入れろ」(水谷隼著;講談社)という新刊も出た。
こちらも、いずれ読んでみたいと思う。
コメント
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