この「エヴァ―グリーン・ゲーム」は、第12回ポプラ社小説新人賞受賞作であり、昨年秋に出版された本だ。
著者の石井仁蔵氏は、ご当地新潟県新発田市出身の小説家。
1984年生まれで、東大文学部出身なのだという。
日本では競技人口が少ないチェス。
そのチェスを題材にして描かれた小説。
「相棒」で右京さんがよくやっていましたけどね。
チェスなんか知らないよ、やったことがない。
それなのに、登場する人物がチェスを通して、本当に生き生きと活躍する。
最初は、1章ごとに登場人物が変わる。
難病で小児病棟で入院生活を送っていた小学生の透が、チェスに没頭する少年と出会う。
ある日、チェス部の部長のルイに誘われた合コンで、昔好きだった女の子と再会チェス部の実力者である高校生の晴紀。
全盲ゆえに母からピアノのレッスンを強要された全盲の少女・冴理が盲学校の保健室の先生に偶然すすめられたチェスにハマる
児童養護施設で育ち天涯孤独の釣崎は、晴紀への暴行事件からチェスに興味を持つ。少年院を出た後、単身アメリカへ渡り、マフィアのドンとチェスの勝負することになる。
この4人が、大好きになったチェスにかかわりながら懸命に生き、残り2章で行われる大会で、優勝をかけて激突していく。
4人とも抱えている事情が違い、生き方がそれぞれ違うが、誰からもチェスは楽しい、チェスで負けたくない、もっと生きてチェスがしたい!ということが、がとてもよく伝わってくる話だった。
特に、破天荒でありながら最強の釣崎は、「ただ、チェスを指すこの一瞬のために、生きている」という生き方。
負けると命を取られる可能性もあった釣崎。
だが、決勝で命をかけて対戦しながら倒れる透に対し、釣崎は罵声を浴びせるが、それはチェスが好きで好きでたまらない人間にしか言えない叫びだった。
そこには、深い感動があった。
チェスをすることと、生きること、人生をうまく重ね合わせて読み応えがあった。
チェスをまったく知らない私でも、大会がどういう終わり方をするのだろうと、物語に引き込まれてしまった。
なるほど、新人賞を獲得するだけのことはある佳作だ。
面白かった。