迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

影櫻抄(かけら) 2

2022-04-01 06:13:00 | 戯作
その後も向かい家の少女とは、門口で時間を問わず会った。

いや、会った、というより、向こうから一方的に冷たい瞳で“刺して来た”、と言ったほうが当たっている。

私はどう考えても、あの白いワンピース姿の少女から、そのような視線を向けられる覚えがなかった。

一体何なのだろう……?

私は一度、思い切って少女に問いかけようと試みたことがある。

しかし少女は、門口からぱっと奥へ退(しさ)って、今度は樹木に囲われて薄暗い母屋の玄関先から、やはりあの瞳で、刺してくるのだった。

完全な拒否の態度だった。

しかし私は、敵意を含んだ瞳で刺すかの少女を、不思議と生意気でイヤな娘だとか、そのようには思わなかった。

また、心身を患っている娘のようにも感じられなかった。

私へ嫌悪感を抱いていることは確かのようだが、しかしそれとは別に、なにか訴えたいことがあるようにも感じられた。

その後も私は、何度か少女に接触を試みたが、結果はいつも同じだった。

けっきょく私は、もう確かめることは無理と、諦めることにした。

たかが子どものやることではないか……。

やがて職場の人事異動で仕事がにわかに忙しくなったこともあり、いつしか少女の瞳を気することは、ほとんどなくなっていった。



〈続〉






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