孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチン  自由放任主義者のミレイ大統領の「壮大な実験」 物価・財政は改善 低所得層は生活苦

2024-12-25 23:34:39 | ラテンアメリカ

(【12月11日 日経】)

【自由こそが豊かで、平和で、繁栄した社会をもたらす 公的規制は間違いであり、不道徳】
下記は今年1月に開催されたダボス会議におけるアルゼンチン・ミレイ大統領のスピーチの冒頭部分抜粋です。
なお、下記で「集産主義」と訳されている言葉は、一般的に言うところの「社会主義的なもの」という風に理解していいかと思います。

****ハビエル・ミレイ大統領の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での演説****
私は今日、西側諸国が危機に瀕していることをお伝えするためにここに来ました。
西側の価値観を守るべき人々が、社会主義、ひいては貧困につながる世界観に取り込まれてしまっています。残念なことに、ここ数十年、他人を助けたいという崇高な意図と、特権的なカーストに属したいという欲望にかられ、西側世界の主要な指導者たちは、自由というモデルを放棄し、集産主義のさまざまなバージョンに走りました。

私はここで、集産主義的な試みは、世界の市民を苦しめている問題の解決策では決してなく、それどころかその原因であることをお伝えしたいのです。

私たちアルゼンチン人ほど、この2つの問題を証言できる人はいません。
私たちアルゼンチンは、1860年に自由のモデルを採用し、35年で世界をリードする大国になりました。
一方、私たちが集産主義を受け入れたこの100年間で、アルゼンチン人は世界140位に転落するほど組織的に貧困化しました。

しかし、この議論を始める前に、なぜ自由市場資本主義が世界の貧困をなくすための実行可能なシステムだというだけでなく、そうすることが道徳的に望ましいと思われる唯一のシステムなのかを裏付けるデータを検証することが重要でしょう。

経済発展の歴史を見てみると、0年から1800年頃までの間、世界の一人当たりGDPはほぼ一定でした。
人類の歴史を通して経済成長の推移をグラフにすると、ホッケーの棒の形をしたグラフになり、基準期間を通して一定の指数関数になります。

人類の一人当たりGDPは90%の期間において一定であり、19世紀以降は指数関数的な成長が始まりました。(中略)
1800年から現在までの一人当たりGDPを見ると、産業革命後、世界の一人当たりGDPは15倍以上に増加し、爆発的な富を生み出し、世界人口の90%が貧困から抜け出しました。

忘れてはならないのは、1800年には世界人口の95%近くが貧困にあえいでいたのに対し、パンデミック前の2020年には5%にまで減少していたことです。

結論は明白です。問題の原因であるどころか、経済システムとしての自由市場資本主義こそが、世界中の飢餓、貧困、困窮をなくす唯一の手段なのです。

経験的な証拠は議論の余地がありません。したがって、自由市場の資本主義の方が生産性の面で優れていることは間違いないため、左翼の教義は、資本主義を「不公正である」として道徳的な問題を攻撃してきました。

彼らは、資本主義は個人主義的だから悪く、集産主義は利他的で「社会正義」を目指すものだから良いというのです。

この概念は、ここ10年の間に第一世界(先進資本主義国)で流行となりましたが、私の国(アルゼンチン)では80年以上にわたって政治的言説の中に常にありました。

問題は、社会正義は公正でないだけでなく、一般的な福祉にも貢献しないということです。それどころか、暴力的であるがゆえに、本質的に不正義なのです。国家は税金によって賄われており、税金は強制的に徴収されるからです。それとも、税金を払わない選択肢もあるとでも言うのでしょうか?

税金が増えれば自由は減ります。つまり、国家は強制力によって財政を賄い、税負担が高ければ高いほど、強制は大きくなり自由は少なくなるのです。

社会正義を推進する人々は、経済全体がさまざまに分配できるケーキだ、という考えから出発します。
しかし、そのケーキは与えられるものではなく、カーズナー(※イスラエル・M・カーズナー。オーストリア学派の経済学者)の言う「発見の過程」で生み出される富なのです。

良い品質の製品を魅力的な価格で生産すれば、その企業は業績を上げ、さらに多くの製品を生産するでしょう。つまり市場とは、資本家が正しい方向を見つけながら進んでいく発見のプロセスなのです。

しかし、国家が資本家の成功に対して罰を与え、この発見のプロセスを阻害すれば、資本家のインセンティブを破壊することになります。その結果、資本家の生産量は減り、「ケーキ」は小さくなり、社会全体に不利益をもたらします。

集産主義は、こうした発見のプロセスを阻害し、発見されたものの利用を妨げます。それによって企業家の手を縛り、より良い商品を生産し、より良いサービスをより良い価格で提供することを不可能にしてしまいます。

世界人口の90%を極度の貧困から脱却させ、そのスピードもますます速くなっているだけでなく、公正で道徳的にも優れている経済システム。

その自由市場資本主義を、学界・国際機関・政治・経済理論が悪者扱いするのはなぜなのでしょうか。自由市場資本主義のおかげで、世界は今日最高の状態にあります。人類の歴史上、今ほど繁栄した時代はありません。今日の世界は、歴史上のどの時代よりも自由で、豊かで、平和で、繁栄しています。(中略)

自由市場の資本主義と競争の法則が、世界の貧困をなくすという驚異的な成果を達成し、人類史上最高の時を迎えているのに、なぜ私は西側諸国が危機に瀕していると言うのでしょうか?

その理由は、自由市場・私有財産・その他のリバタリアニズムの制度という価値を守るべき国々で、政治・経済界の有力者たちが、ある者は理論的枠組みの誤りから、またある者は権力への野心から、リバタリアニズムの基盤を損ない、社会主義への扉を開き、私たちを貧困、悲惨、停滞へと追いやる可能性があるからです。

社会主義は常に、そしてどこでも、試みられたすべての国で失敗した貧困化現象であることを決して忘れてはなりません。(後略)【1月19日 自由主義研究所 note24】
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一読して分かるように、国家の規制を排した自由市場が機能する資本主義こそが、経済発展、貧困解消の源泉である、様々な規制はこの自由市場が生む成果を損ない貧困と衰退をもたらすものであるという、完璧な自由主義礼賛です。

「富裕者がさらに富裕になると、経済活動が活発化することで低所得の貧困者にも富が浸透し、利益が再分配される」と主張するトリクルダウン理論(日本でもそうした考えに近い政策がとられましたが、結果的に実質賃金は下がり続けました)を徹底的に追求したものとも見えます。

自由市場における資本主義的競争・工夫・努力が成長・繁栄の源泉であるということについては、多くの者が賛同するところでしょうが、自由市場に委ねていればすべてうまくいく、あるいは、その競争に敗れたものは切り捨ててもいいか・・・という話になると、意見はいろいろあるところでしょうし、程度問題・バランスの問題だということにもなるでしょう。

だからこそ、多くの国々が資本主義をベースとしながら様々な公的な規制や介入を行い「社会正義」を実現しようとしている訳ですが、ミレイ大統領に言わせれば、そういう考え方が誤りであり、結果的に貧困を生む不道徳だ・・・ということにも。 このあたりになると、一種の「信仰」のようにも見えます。

ただ、後日取り上げることも考えている日本の失われた20年・30年という経済衰退ぶりをみるとき、こうしたミレイ大統領的な思い切った発想こそが日本に欠けているものだ・・・という指摘もあります。

ちなみに、ミレイ大統領が指摘しているように、アルゼンチンはかつての先進国から(衰退)途上国に堕ちた例外的な国でもありますが、今日本はそのアルゼンチンに続く2番目の事例になろうとしているとの指摘もあります。

【就任1年 物価・財政は想定外に改善 トランプ氏同様、国連を含む多国間協調の枠組みには懐疑的】
大統領選挙中にチェーンソウを振り回して様々な規制をぶち壊すパフォーマンスや過激な主張で人気を博して当選したミレイ大統領の自由主義的な改革は「壮大な実験」とも見られていますが、就任1年目はマクロ経済的には物価も落ち着き、財政も好転し、予想された以上の成果を残しています。

****「痛み」伴う改革で成果 トランプ氏と連携模索―ミレイ大統領就任から1年・アルゼンチン****
アルゼンチンのミレイ大統領が就任して、10日で1年となった。インフレ退治に向け補助金削減など国民の「痛み」を伴う経済改革を断行し、一定の成果をもたらした。

外交ではトランプ次期米大統領との連携を模索。トランプ氏が返り咲きを決めた米大統領選後、外国首脳として同氏と最初に対面で会い、蜜月ぶりをアピールしている。

「最も重い鎖から解放されつつある」。
ミレイ氏は11月、月間のインフレ率が約3年ぶりの低水準になったと成果を誇示した。アルゼンチンは歴代の左派ポピュリスト政権が予算のばらまきを繰り返し、インフレが慢性化。4月には年間のインフレ率が300%近くにまで悪化した。

「小さな政府」を掲げるミレイ氏は、就任直後から財政面で大なたを振るった。公共料金への補助金を削減し、新規の公共工事も停止。

議会では議席数の劣勢をはね返し、規制緩和や国営企業の民営化を盛り込む法案可決に成功した。

財政が黒字に転じると、国外に逃避していたドルが流入。アルゼンチンは債務不履行を繰り返した過去があるが、格付け大手は11月、「救済を求めず返済する能力」が改善したと認め、格上げした。

一方、緊縮財政に伴う副作用も目立つ。国内総生産(GDP)は今年4~6月期まで3四半期連続で前期比マイナスを記録。賃金も伸びず、今年前半には国民の約53%が貧困状態に陥った。

「ミレイ氏の実験は依然、大きな間違いを犯す可能性がある」(英誌エコノミスト)と厳しい見方も出ている。それでも「古い政治」との決別を訴えるミレイ氏への反発は限定的で、政権支持率は50%前後で安定している。

対外政策では親米路線を前面に打ち出し、中ロなどで構成する新興国グループ「BRICS」参加を見送り。温暖化問題を軽視するトランプ氏に歩調を合わせるかのように、11月の国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では代表団に引き揚げを命じた。

ただ、関税導入による保護主義を掲げるトランプ氏に対し、ミレイ氏は経済を市場競争に委ねるのが基本姿勢で、両者には対立の火種もくすぶっている。【12月11日 時事】
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両者の間で関税の問題はどうなっているかは知りませんが、ミレイ大統領は大統領選勝利後のトランプ氏と面会を果たした初の外国首脳・・・というように、トランプ氏はミレイ大統領が大のお気に入りです。

****「アルゼンチンのトランプ」ミレイ大統領が本家と親密アピール…就任1年、国際協調には後ろ向き****
南米アルゼンチンの右派ハビエル・ミレイ大統領が昨年12月に就任し、1年が経過した。米国のトランプ次期大統領との親密ぶりを盛んにアピールし、回復基調の経済も追い風に存在感を示している。国際協調に後ろ向きなミレイ氏の奔放な言動に、関係国が翻弄ほんろうされる状況が続きそうだ。

「前例のない政治的行為 トランプ氏がミレイ氏を米大統領就任式に招待」。今月14日、アルゼンチンの地元メディアが相次いで「就任式招待」と報じると、ミレイ氏はすぐさま、一連の報道を自らのX(旧ツイッター)でリツイート(転載)した。トランプ氏との近さを内外に誇示する狙いは明らかだ。

ミレイ氏は11月、大統領選勝利後のトランプ氏と面会を果たした初の外国首脳となり、世界の注目を集めた。トランプ氏もミレイ氏を「お気に入りの大統領」と呼び、「アルゼンチンを再び偉大にする」と絶賛してみせた。

過激な発言などで「アルゼンチンのトランプ」とも称されるミレイ氏は、トランプ氏同様、国連を含む多国間協調の枠組みには懐疑的だ。大統領に就任してからの1年間で、国際会議の舞台などで関係国との摩擦もいとわない「ミレイ流」外交を貫いてきた。

象徴的だったのが、11月の一連の国際会議での振る舞いだ。女性への暴力根絶のための国連の決議案に加盟国で唯一、反対し、国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、代表団を交渉から離脱させた。主要20か国・地域(G20)首脳会議でも、超富裕層への課税や飢餓貧困対策などの項目に抵抗した。

左派との対決姿勢も隠さない。「社会主義というゴミと決別する」。ミレイ氏は今月4日、首都ブエノスアイレスで開かれた保守派の会合でぶち上げた。ブラジルのルラ・ダシルバ大統領やスペインのペドロ・サンチェス首相ら左派の首脳らを名指しで批判し、右派の結束を呼びかけた。

内政・外交ともに強気の姿勢を下支えするのは、国内の根強い支持だ。アルゼンチンのサン・アンドレス大が今月発表した調査によると、支持率は54%に上る。

危機的だった経済に好転の兆しが出ていることへの評価が特に高い。紙幣の増刷廃止などで深刻なインフレ(物価上昇)は収束に向かっており、昨年12月に前月比25・5%に達した消費者物価の上昇率は、11月に同2・4%にまで抑え込んだ。公務員の大幅削減や公共投資の凍結なども断行し、財政の黒字化も実現した。

中部コルドバ市でペットサロンを経営するマルティン・クエジョさん(45)は「改革に痛みを伴うのは当然だ。大統領は型破りだが誠実で、何より公約を守っている」と話した。【12月25日 読売】
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【低所得層の生活苦は増したとみられている】
ただ、政府の介入を廃する「壮大な実験」の結果、少なくとも現時点では低所得層の生活苦は増したとみられています。

****ミレイ大統領、国民向け演説で就任1年目の実績振り返る****
12月10日に就任から1年を迎えたアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は国民に向けたテレビ演説を行った。ミレイ大統領はその中で、就任1年目の主な実績について述べた。

まず、ショック療法により、落ち込んだ経済活動が足元で上向き始めたほか、前政権下で乱発された通貨供給を停止した結果、物価が安定し、経済が成長サイクルに入り始めたとの認識を示した。その上で、国民の我慢に対して謝意を示した。(中略)

ミレイ大統領は当初、憲法が大統領に認めている「例外的な事情により通常の手続きに従うことが不可能な場合」の立法権を行使して規制緩和を進めたが、7月に公布された「アルゼンチン人の自由のための基盤および出発点に関する法律」〔通称、基盤法、またはオムニバス法〕により、1年間に限って行政、経済、金融、エネルギーの分野の立法権が行政府に与えられると、規制緩和に勢いを増して着手した。

今回の演説では、800以上の規制を撤廃したとしている。

他方、公共工事の停止などによる歳出削減や国内経済の停滞により、失業率と貧困率は悪化した。国会予算事務局(OPC)によると、年金を含む社会支援関連予算の11月までの累計予算執行額は、前年同期比で実質18.3%減となっており、低所得層の生活苦は増したとみられている。

数多くの規制緩和や改革を実現し、マクロ経済は安定しつつあり、国民の支持率も高いまま推移していることから、ミレイ大統領にとって就任1年目の業績への評価は高い。

2年目は経済成長を軌道に乗せ、ミクロ経済を回復させることが急務となる。【12月19日 JETRO】
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****“アルゼンチンのトランプ”「痛み」伴う改革、無料の病院も… 大統領就任から1年****
南米で過激な発言などから“アルゼンチンのトランプ”とも呼ばれているミレイ大統領が、今月10日で就任から1年を迎えました。徹底的なコストカットで国の財政が改善された一方、国民の生活は苦しくなっています。(中略)

一方で国民生活には、しわ寄せが。電気・水道といった公共サービスの大幅な補助金カットに加え、賃金も伸びず、貧困率は50%を超えました。 路上生活者に配給を行うNGOによると、配給者は日増しに増えているといいます。

路上生活者に配給を行うNGO モニカ・デ・ルッシス代表
「この1年で増えたのは路上生活者になる一歩手前の人たちです。家賃や税金は払えるけれども、食べるお金がないのです」

行政サービスの削減で多くの公共事業も廃止の瀬戸際に立たされていて、無料で治療が受けられる公立の精神病院では…

記者 「国有地であるこの病院は今、競売にかけられようとしています。垂れ幕には健康は競売にかけられないと訴えています」

エリザベスさんは元夫からの暴力により、うつ状態となり、3人の子どもと共に25年通院を続けています。

エリザベスさん 「ここ(病院)のおかげで地獄から抜け出し、自由になれました」

今でも精神安定剤をもらいながら病院に通い続けていますが、清掃作業員などの仕事をこなし、家賃を支払うのがやっと。一緒に住むレストランで働く息子の給与に頼らざるを得ない状況です。

エリザベスさん 「悲しすぎます、終わってほしくない。私だけでなく、多くの人にとって病院がなくなることは苦悩でしかない」

第一メンタルヘルスセンター グスターボ・スラトボルスキー氏
「もし健康がビジネスになったら、金がある人だけ医療にアクセスできて、金がなければ、自分で解決しろと言われているようなものです」

国の再建に向け歳出カットの大鉈を振るうミレイ大統領に、国民の理解は続くのでしょうか。【12月15日 TBS NEWS DIG】
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どこまで国民の理解と我慢が続くのか・・・当初から懸念されているポイントですが、ミレイ大統領にとって都合がいいのは、人は“他人の痛み”はいくらでも耐えられるということでしょう。

ミレイ改革で経済が好転し、その恩恵を受ける人々がある程度に増えれば、そうした枠組みからこぼれ落ちた人々の苦しみは捨ておかれるリスクも。ミレイ流の自由放任主義はそうしたリスクを内在しています。

逆に言えば、そこまでやらなければ、アルゼンチンや日本みたいな衰退スパイラルに入った国を上向かせることはできない・・・ということか?
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アメリカ  「影の大統領」? 異例の権限のマスク氏、移民排斥の欧州政党を支持 対中国は?

2024-12-24 22:47:28 | アメリカ

(大統領選の集会に参加し、トランプ氏と握手するマスク氏(右)=2024年10月、米ペンシルベニア(AFP時事)【12月23日 時事】 たまたまカメラアングルのせいですが、目つき悪すぎ)

【「つなぎ予算案」審議で見せつけた「影の大統領」マスク氏の力】
アメリカ議会における「つなぎ予算案」をめぐる混乱、トランプ氏最側近の地位を固めたイーロン・マスク氏の影響力の強さは周知のところ。

トランプ氏にしても、マスク氏にしても、いささか「付き合いきれないね・・・」って感じはありますが、最終的には日本を含めた世界全体に影響を及ぼす二人ですから、呆れているばかりでもすまないので・・・

結局、「つなぎ予算案」はトランプ氏が望んだ“来年1月までと決まっている政府の借入金の限度を定めた「債務上限」の適用停止措置を延期”は共和党の財政規律重視派の反対もあって今回案には含まれませんでしたが、マスク氏が望んだように大幅削減となり、マスク氏はご満悦とか。

「債務上限」の問題はバイデン政権にしろトランプ次期政権にしろ、政策遂行の足かせになりますので、政権側はこれを撤廃あるいは適用停止したがり、野党側は財政規律を盾に政権を揺さぶるという構図がしばしば見られます。 一般に共和党側には財政規律を重視する立場の議員が多いのですが、その点ではトランプ氏の間に意見の相違があるようです。

でもってマスク氏。

****“影の大統領”マスク氏が介入で混乱 つなぎ予算案「無駄が多い」 大幅カットで可決****
(中略)マスク氏は18日、Xで「無駄な支出が多い」として、バイデン政権が主導する来年3月までのつなぎ予算に反対を表明しました。

つなぎ予算が成立しないと、政府職員の給与が支払われなくなり、例えば管制官や保安職員などが無給となります。観光客にも影響が出かねません。

■マスク氏ご満悦「みんなの勝利だ!」
それでもマスク氏は「この予算案は可決されるべきではない」という投稿を皮切りに、1時間のうちに予算案への反対を呼び掛ける投稿を続々と発信しました。

マスク氏のXから 
「法外な予算案に賛成する議員は2年後に落選すべき」「今すぐ当選した議員に電話して意見を言おう」「トランプ次期大統領が就任するまでにいかなる法案も可決されるべきではない。一切だめだ」

こうした投稿を受けてか、与野党で合意していた当初の予算案は否決され、白紙に戻りました。

民主党 下院議員 「議会は実態を知らない億万長者に屈してはいけない」

削減された予算案
CBSによると、予算の項目はどんどん削られ、1500ページ以上あった予算案は10分の1以下の100ページほどになり、ようやく可決されました。

CNNによると、カットされたのは議員の給与引き上げや中国への投資を制限する案などです。「中国に巨額の投資をするマスク氏に有利な形となった」と話す議員もいます。

ご満悦
こうした指摘も何のその。マスク氏はご満悦です。
マスク氏 「みんなの声が議員に届き、ひどい予算案は葬れた。みんなの勝利だ!」【12月23日 テレ朝news】
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こうした状況に、民主党サイドからは「影の大統領」といった声も。“マスク氏の存在感を際立たせることで、「他人が目立つこと」を嫌うトランプ氏との離間を図ろうとする政治的意図”もあるとか。

****米民主党、マスク氏を「影の大統領」指摘 トランプ氏との離間狙いか****
米連邦議会の民主党が、実業家のイーロン・マスク氏による法案審議への「SNS(ネット交流サービス)介入」に批判を強めている。共和党のトランプ次期大統領に代わる「影の大統領」だと指摘。マスク氏の存在感を際立たせることで、「他人が目立つこと」を嫌うトランプ氏との離間を図ろうとする政治的意図も透けて見える。

マスク氏への批判は、当面の政府運営資金を確保するための「つなぎ予算案」に反対したことを契機に強まった。民主、共和両党の上下両院指導部が17日に合意案を発表したが、マスク氏は18日未明にXへの投稿で「この法案は可決すべきではない」と訴えたのを皮切りに「法案は犯罪的だ」「今すぐ議員事務所に電話して、この脅威を止めてくれ」と半日にわたって投稿を繰り返した。

共和党内には元々、「つなぎ予算案」に付随して他の政策が法案に盛り込まれていることへの不満が高まっていた。ただ、11月の議会選に基づいて共和党が上下両院で多数派になるのは2025年1月からで、年内は上院で優勢な民主党にも配慮しないと法案は通らない。

つなぎ予算が20日までに成立しなければ、政府機関が一部閉鎖に追い込まれる。ジョンソン下院議長は党内の説得を試みたが、マスク氏が反対論をあおり、18日午後にはトランプ氏も反対を表明。法案可決の見通しが立たなくなり、審議は頓挫した。

一連の経緯について、民主党は「選挙で選ばれていない大金持ちが超党派の合意をつぶした」とマスク氏に批判の矛先を集中させた。

急進左派のサンダース上院議員(民主党系無所属)は「(当初のつなぎ予算案は)地球上で最も金持ちのイーロン・マスク大統領のお気に召さなかった」と指摘。マーフィー上院議員(民主党)は流動的な議会審議の状況について「大金持ちの意見が大事だ。15分後にはマスク氏のXへの投稿で状況は変わり得る」と形容した。

さらに共和党内でマスク氏を来月から始まる新会期の下院議長に推す声が出たことで、批判の声が高まった。下院議長は憲法の規定では現職議員である必要はなく、理論上はマスク氏も就任可能だ。ラスキン下院議員(民主党)は「既に(立法、司法、行政と並ぶ)第4の権力なのだから、下院議長なら降格だ」と皮肉った。

民主党がマスク氏を標的にするのは、11月の大統領選で勝利したばかりのトランプ氏よりも批判しやすいからだ。マスク氏は「世界一の富豪」だが、民意の後ろ盾はない。さらにマスク氏を「実質的な大統領」と言い続ければ、トランプ氏が不快感を示し、両者の不和を誘える可能性もある。

マスク氏もこうした政治的意図は意識しているとみられる。19日に共和党が示したつなぎ予算の代替案について、民主党が「マスク・ジョンソン提案」とレッテルを貼ったのに対して、「立案者は私ではない。トランプ氏、バンス氏(次期副大統領)、ジョンソン議長の功績だ」とトランプ氏を立てる姿勢を見せた。

自身への批判を強める民主党左派を念頭に、次の民主党予備選で「より穏健な候補を資金面で支援する」との考えも示し、民主党をけん制している。

マスク氏は11月の大統領選で、少なくとも2億6200万ドル(約409億円)を投じてトランプ氏を支援。次期政権では政府外助言機関「政府効率化省(DOGE=ドージ)」を率いて、歳出削減や規制緩和に取り組む見通しだ。【12月21日 毎日】
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“トランプとマスクはいずれも注目と権力を欲しがる強烈な個性の大富豪同士であるため、両者の間に緊張が生じる可能性は少なくないと専門家は指摘する。
同時に、マスク氏の莫大な富と、それを政治的な力として使う意思は、トランプと共和党に恩恵を与え、二人は良いコンビになる可能性もあるかもしれないが。”【12月24日 Newsweek】

【移民排斥を主張する独AfD、英「リフォームUK」を支持】
マスク氏の“言いたい放題”は内政だけでなく、外交面でも。

****マスク氏、ドイツ右派支持表明 ショルツ首相を「ばか」と批判****
米実業家イーロン・マスク氏は20日、X(旧ツイッター)で、排外主義を掲げて支持を拡大するドイツの右派政党、ドイツのための選択肢(AfD)への支持を表明した。ドイツのショルツ首相を「無能なばかだ」と批判し、辞任すべきだと投稿した。

ドイツは来年2月に下院選を実施する。マスク氏は2億人以上のフォロワーを持つ自身のアカウントで「AfDだけがドイツを救える」と述べた。

最大野党で支持率首位のキリスト教民主・社会同盟がマスク氏のように政府業務の効率化を進めようとしておらず、AfDとの連携も拒否しているとの女性インフルエンサーの投稿を転載し、コメントした。【12月21日 共同】
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更にマスク氏は「ドイツ極右政党AfDはオバマ政権と同じ」とも。その意味するところはよくわかりませんが。

****イーロン・マスク氏「ドイツ極右政党AfDはオバマ政権と同じ」と主張。物議を醸す****
「極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)はオバマ氏が就任した時の米民主党と全く同じ」というイーロン・マスク氏の主張が批判を招いている。(中略)

マスク氏は12月20日、このAfDだけが「ドイツを救える」とXに投稿。
これに対し、米民主党のクリス・マーフィー上院議員は「AfDは本質的にドイツのネオナチ政党で、ナチスのイメージを回復しようとしている。ドイツで生まれていない人々を排除するという危険な考えを持っている」とCNNで異議を唱えた。

マスク氏はこのマーフィー議員の意見に反論し「なんという大嘘つき。AfDの政策は、オバマ就任時のアメリカ民主党の政策と完全に同じだ!何一つ変わらない」という主張をX上で展開した。

しかし、ドイツの極右政党をオバマ政権と同一視する考えは、様々な人たちから批判されている。
実業家でビリオネアのマーク・キューバン氏は、「最もAfDと近いアメリカの政党は」とxAI社の対話型AI・Grokに質問したところ「アメリカ共和党、特に現在の右寄りから極右に最も近い」と回答したとXに書き込んだ。

アメリカの政治学者イアン・ブレマー氏は、AfDと民主党オバマ政権を同じだとするのは「なかなかの見解」だとマスク氏に返信する形で投稿。AfDは気候変動や移民などの様々な問題で「はるかに『ドイツ第一主義的』である」と述べた。

また、ドイツ社会民主党(SPD)のショルツ首相は、マスク氏の「ドイツを救えるのはAfDだけ」という発言について「言論の自由というのは、彼のような大富豪が正しくない、もしくは良い政治的アドバイスを含まない発言ができるということでもある」と記者会見で述べた。

ショルツ首相は11月に、自由民主党(FDP)の党首のクリスティアン・リントナー財務相を解任して三党連立政権の崩壊を招いた。その後、12月16日には議会で信任投票が否決され、2025年初めに解散総選挙が行われる。
世論調査によると、AfDはドイツキリスト教民主同盟(CDU)に次ぐ支持率を得ている。

AfDは9月にテューリンゲン州議会選挙で勝利して第1党になった。ドイツで極右政党が州議会選挙で勝利したのは第二次世界大戦以降初めてだ。

しかしテューリンゲン州のAfDトップであるビョルン・ヘッケ氏は、政治集会でナチスのスローガンを故意に使用した罪で有罪となり、罰金を科されている。(後略)【12月23日 HUFFPOST】
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“AfDはオバマ氏が就任した時の米民主党と全く同じ”云々の真意はよくわかりませんが、よくわかったのはマスク氏が移民排斥的な極右主張と波長がよく合うようだ・・・ということ。

移民排斥的極右ポピュリストは欧州各国で台頭していますが、イギリスではファラージ党首率いる「リフォームUK」。
マスク氏はこの「リフォームUK」に数百万ドルを寄付するとか。

****マスク氏、次は英国政界を席巻か 米国に続き****
ドナルド・トランプ次期米大統領のホワイトハウス復帰を支えたイーロン・マスク氏が、次は英首相の官邸があるダウニング街10番地にも政治的変動をもたらす可能性がある。

マスク氏は、キア・スターマー英首相を厳しく批判してきた。ポピュリスト政党の「リフォームUK」に数百万ドルを寄付し、変革をもたらすことも考えられるとして、英政界では危機感が高まっている。

英政府は外国人による巨額の政治献金を防ぐため、法改正を望んでいるとすでに表明している。

トランプ氏の支持者として知られるリフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は、最近になりマスク氏と会談。反移民を掲げて急成長する同党に対し、世界一の富豪が寄付を検討していると述べている。これを受けてリフォームUKの支持率が急上昇することも考えられる。(後略)【12月23日 WSJ】
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【上海に巨大工場を持ち中国政府に従順なマスク氏と対中国強硬論をウリにするトランプ氏はどのように折り合いをつけているのか?】
このあたりがマスク氏とトランプ氏の波長が合う理由のひとつでもあるのでしょうが、よくわからないのはトランプ氏が高率の追加関税という対中国強硬策を主張し、同様の対中国強硬論者が多い次期トランプ政権にあって、マスク氏のテスラは中国に大規模工場を持ち(テスラ社のEV生産台数の半分は上海のギガファクトリーが担っている)、中国に対しては協調的な姿勢であることです。

****対中強硬派ぞろいのトランプ政権に紛れ込んだ「親中」イーロン・マスクはどう動く****
<米中国交正常化の仲介役となったキッシンジャーのような役割を期待する声もあるが、実業家として利益だけが目当てと思われる節もある>

アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席は11月16日、アジア太平洋経済フォーラム(APEC)首脳会議に出席するため訪問中のペルーの首都リマで首脳会談を行った。バイデンと習の直接対談はこれが最後となるとみられる。

ドナルド・トランプ次期大統領が実業家のイーロン・マスクを閣僚に指名したことで、次期政権は複雑な「事情」を抱えることとなった。今後の米中関係も見通しにくい状況だ。

習は慎重な言葉選びで、トランプにはあえて言及せずに外交の継続性を求める中国政府の希望を強調した。「中国はアメリカの新政権と協力して対話を維持し、協力を拡大し、違いに対処し、両国民の利益のための中米関係の堅実な移行に向けた努力を行う用意がある」と、習は通訳を通して述べた。

電気自動車大手テスラのCEOであり、トランプの選挙運動に数千万ドルの寄付を行ったマスクは、実業家のビベック・ラマスワミとともに新設される予定の「政府効率化省」を率いることになっている。

新政権の内部では、対中政策に関して意見の激しい相違が見られる。トランプは対中タカ派のマルコ・ルビオ上院議員とマイク・ウォルツ下院議員を、それぞれ国務長官と大統領補佐官(国家安全保障担当)に指名した。トランプは中国からの輸入品に60%の関税をかけ、メキシコで製造された中国メーカーの電気自動車に制裁措置を取ると主張。

9月には8000億ドルの対中貿易赤字に触れ、「関税は最も偉大な発明品だ」と述べてもいる。

一方でテスラにとって、上海のギガファクトリーは生産台数の半分を担うドル箱であり、マスクの対中姿勢はトランプとは大きく異なる。

「テスラとしても私としても、こうした関税を求めたことはない」と、マスクはパリで行われた技術系イベントで述べた。「通商の自由を阻害、もしくは市場をゆがめるものはよくない。テスラは中国市場における競争で、関税や政府の支援がなくともおおいに善戦している。私は関税なしを支持する」

マスクは以前から、中国政府との友好的な関係を維持してきた。2020年にポッドキャストで「中国はすばらしい」とほめたたえ、中国共産党の創立100周年を祝って以降、彼は一貫して中国当局に従順な態度を示している。

2021年に中国当局がテスラに対し、28万5000台の自動車のリコールを求めた時も素直に応じたし、2022年に新型コロナウイルスのパンデミックでテスラの上海工場が閉鎖された際もおとなしく従った。カリフォルニア州で同じような流行対策が採られた際に「ファシスト」的だと激しく非難したのとは対照的だ。

米中間の問題は貿易に留まらない。アメリカの情報当局は、ウクライナ侵攻を続けるロシアにとって必要なハイテク製品について、中国からの輸入が増えているとの報告書を出している。

FBIは先ごろ、アメリカ政府やアメリカの政治家に対して中国が行っている「幅広く大規模な」サイバースパイ行為に関する詳細を明らかにした。

昨年、中国の偵察用気球がアメリカ領内で撃ち落とされた一件で、両国の緊張はさらに高まった。

一部の専門家からは、マスクがかつてのヘンリー・キッシンジャー国務長官に似た外交における仲介者の役割を果たす可能性があると指摘する声も出ている。

今年4月、マスクは中国の李強首相と会談。李はテスラを、米中の通商協力の成功例だと持ち上げた。(後略)【11月18日 Newsweek】
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マスク氏はトランプ氏支持を明確にするにあたり、当然に看板政策でもある対中国問題について意見のすり合わせを行っているはずです。

どういう話になっているかは知る由もありませんが、結局のところトランプ氏の対中国強硬姿勢は「ディール」のうえでのパフォーマンスであり、最終的にはウィンウィンの合意で結着をつける・・・そうしたトランプ氏の説明をマスク氏が了解したということでしょうか? 全くの想像ですが。

あるいはテスラを切り捨てても、トランプ政権のもと、宇宙起業スペースXなどでもっと稼げると踏んだのか?
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シリア  コバニ攻撃準備のトルコとクルド人勢力の緊張 空爆で残存化学兵器破壊を目指すイスラエル

2024-12-23 23:38:45 | 中東情勢

(シリアの首都ダマスカスで警備に当たる戦闘員(2024年12月20日、ロイター=共同)【12月23日 JBpress】)

【女子教育尊重でタリバンとの違いをアピールするHTS指導者】
アサド政権崩壊後のシリアは、政権を追放して首都ダマスカスをおさえた「シャーム解放機構(シリア解放機構 HTS 旧ヌスラ戦線)とその指導者ジャウラニ氏を軸に動いています。(“シャーム”とはシリア地域の古代名)

HTSをテロ組織に指定しているアメリカも、テロ組織指定解除も視野に入れて接触を始めています。

****アメリカ国務省高官がシリア訪問 「シリア解放機構」と協議へ、米政府高官の訪問はアサド政権崩壊後初めて テロ組織指定解除も議論か****
アメリカ国務省の高官らがシリアの暫定政府を主導する「シリア解放機構」と協議するため、首都ダマスカスを訪問しました。アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、アサド政権の崩壊後初めてです。

ロイター通信などによりますと、アメリカ国務省の報道担当者は20日、中近東担当のバーバラ・リーフ国務次官補ら3人がダマスカスを訪問中だと明らかにしました。

AP通信によりますと、アメリカ政府の高官がシリアを訪れるのは、2012年2月にアメリカ大使館が閉鎖されて以来、およそ13年ぶりで、アサド政権の崩壊後初めてです。

リーフ国務次官補らは、暫定政府を主導する「シリア解放機構」の代表団などと協議を行う予定で、政権移行やアメリカの支援、少数派の保護などについて話し合うということです。

アメリカ政府は「シリア解放機構」をテロ組織に指定していますが、この指定の解除についても議論されるとみられます。

また、2012年にシリアで行方不明になったアメリカ人ジャーナリスト、オースティン・タイス氏についても、主要な議題のひとつになるとみられます。【12月20日 TBS NEWS DIG】
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こうした動きの背景にあるのは、12月18日ブログ“シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?”でも取り上げたように、HTSおよびジャウラニ氏が“現時点では穏健・寛容で正しいことを言っている”ということがあります。

戦略的に見ても、HTS側に“その気”があるうちに、その考えを実行に導きシリアを穏健な形で安定させるというのは賢明でしょう。

****シリア、「アフガンと違い女子教育も」=旧反体制派トップ、穏健アピール****
シリア暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)指導者のジャウラニ氏は19日までに、シリアをイスラム主義組織タリバンが復権したアフガニスタンのような国にするつもりはなく、女子教育の機会を保障する考えを表明した。首都ダマスカスで英BBC放送のインタビューに応じた。

タリバンは2021年の政権奪取後、極端なイスラム法解釈に基づいて女性への高等教育を禁じるなどし、国際社会からの承認は進んでいない。

国際テロ組織アルカイダの流れをくむHTSは、イスラム過激派と見なされることも多い。ジャウラニ氏はタリバンとの違いを強調することで、穏健な印象をアピールした形だ。 

ジャウラニ氏はBBCで、シリアは部族社会のアフガンとは思考が全く違うと指摘。HTSが拠点としてきた北西部イドリブ県では「大学教育が8年以上行われ、大学での女性の比率は60%を超えると思う」と語った。 【12月20日 時事】
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当然ながら、「今はそう言ってるけど、そのうちに本性が・・・タリバンだって復権当時はまともなことも言ってたし・・・」という懸念もありますが、HTSの場合は指導者本人の言葉である点が異なるとも。

****シリアとアフガン 「テロ組織」権力掌握の行く末=松井聡(ワシントン)****
「政府軍はほぼ戦わずに逃げ出した」「国際社会は権力を掌握したテロ組織とどう向き合うべきなのか」――。

シリアのアサド政権崩壊に関する言及だと思う人も多いかもしれないが、2021年に南アジアを担当するニューデリー特派員として、アフガニスタンのイスラム組織タリバンの復権を取材した際に、タリバン幹部や国連関係者から聞いた言葉だ。

現在は北米総局員としてワシントンから米政府の動きを中心にシリア情勢を追う中で、アフガンを巡る情勢との類似性を感じている。国際社会が、権力を掌握した「テロ組織」とどう向き合うのかという課題は最も大きな共通点だ。

米政府はタリバンを「特別指定グローバルテロ組織(SDGT)」、シリアで反体制派を主導してきた「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を「外国テロ組織(FTO)」に指定している。

HTSは国際テロ組織アルカイダ系が源流だが、現在はキリスト教徒や少数派の保護など穏健な政策を強調している。

実は、タリバンも復権に前後して、「恐怖政治」だとして批判された旧政権時代(1996〜2001年)からの穏健化を強調していた。

ただ復権後も中学以上の女子教育を禁止するなど強硬路線は続いており、いまだにどの国からも国家承認されていない。これを引き合いに、「HTSは信用できない」と指摘する専門家もいる。

ただHTSとタリバンには違いもある。当時タリバンで積極的に「穏健化」を発信していたのは、各国との交渉窓口になっていた「政治事務所」のメンバーだった。国際社会と協調する重要性も理解しており、私も何度も取材したが、「タリバンは変わるだろう」と思う場面が少なからずあった。

だが復権後、実際に意思決定しているとみられるのは強硬派で最高指導者のアクンザダ師だ。タリバン内には同師に対して不満の声があるとも伝えられるが、国際社会は手詰まりのように見える。

一方、HTSで穏健路線を明言しているのは指導者のジャウラニ氏自身だ。内部の力学は不透明だが、タリバンに比べれば、その発言が実現される可能性は高いかもしれない。国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある。【12月22日 毎日】
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“国際社会はHTSの穏健路線を支援しながら、情勢の安定化を目指す必要がある”・・・まさに、そういうことでしょう。HTSがその期待に応えてくれることを願いながら。

なお、本来HTSとアルカイダの関係は単なる「名義貸し」に過ぎず、HTSおよびジャウラニ氏は思想的にも、実際やってきたことも非常に寛容で穏健であるとの指摘も(12月23日 JBpress 黒井文太郎氏“「シリアで新たな独裁が始まる」は本当か? アサド政権を倒した反体制派組織「HTS」の意外な素顔”)

【トルコvs.クルド人勢力 クルド人にとって内戦の象徴的拠点コバニ トルコはコバニ攻撃準備】
シリア国内での戦闘再燃の火種としてくすぶっている問題のひとつがクルド人勢力とトルコの対立。

18日ブログでは“米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。”【12月18日 ロイター】との報道をもとに、“現時点ではコントロールされているようです”とも書いたのですが、トルコはその後、この報道を否定しています。

****トルコ、米支援クルド勢力SDFとの停戦否定 「米発表は誤り」*****
トルコ国防省関係者は19日、シリア北部で米国が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコが停戦合意に達したという米側の発表は誤りだと述べた。

米国務省は17日、トルコとの国境に近いマンビジュ周辺での停戦は今週末まで延長されると発表していた。

トルコ政府関係者は匿名を条件に「トルコとしては、いかなるテロ組織との協議もあり得ない。米国の発表は間違いだ」と記者団に述べた。

一方、SDFはトルコが停戦に向けた国際的な努力に反し攻撃を続けていると非難し、戦闘を続ける構えを示した。

シリアのアサド政権が崩壊し、各地で武装勢力による戦闘が勃発する中、米政府は先週、トルコが支援するシリアの元反体制派とSDFの最初の停戦を仲介した。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、トルコはその中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

トルコ政府高官は、シリア北部への地上作戦を再検討しているかとの質問に、依然としてシリア北部から国境への脅威を感じていると述べた。【12月20日 ロイター】
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一方のクルド人勢力「シリア民主軍(SDF)」側は、トルコに対し停戦と引きかえの一定の譲歩も提案しています。

****シリア民主軍、トルコと全面停戦なら非シリア系兵は撤退へ=司令官****
米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」のマズロウム・アブディ司令官は19日、ロイターに対し、トルコとの国境に近いシリア北部でのトルコとの紛争が全面的な停戦に至った場合、支援のために中東各地から来た非シリア系クルド人兵士らが撤退するとの見通しを示した。

アブディ氏の発言は、トルコ国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)のメンバーを含めた非シリア系クルド人兵士がSDF支援のためにシリアに来たことを初めて認めた。トルコや米国などはPKKをテロリスト集団と見なしている。

アブディ氏は「シリアにはこれまでとは違った状況があり、政治的な段階を始めようとしている。シリア人は自分たちで問題を解決し、新しい政権を樹立しなければならない」とし、「トルコ軍および同軍の同盟勢力との間で全面的に停戦した後、この段階に加わる準備を進めている」と言及。

その上で「シリアで新たな動きがあるため、私たちの戦闘を支援してくれた兵士たちは誇りを持ってそれぞれの地域に戻る時だ」との認識を示した。

非シリア系クルド人兵士の撤退は、トルコ側の主要な要求の一つとなっている。トルコはSDFを国家安全保障上の脅威と見なし、シリア北部でのSDFに対する新たな軍事作戦を支援している。

アブディ氏は、トルコおよび同国の同盟勢力がトルコ国境に近いシリア北部の町アインアルアラブ(クルド名、コバニ)を攻撃する準備をしている中で、SDFは撤退を提案していることも表明。

提案によると、国内治安部隊と「全面的な休戦を条件としてこの地域を監督するために」米軍が駐留することになる。一方で「もしも攻撃があった場合には撃退する準備をしている」とも付け加えた。

シリアではアサド政権が約2週間前に崩壊して以来、内戦がエスカレートしている。トルコおよび同国と組むシリアの武装勢力は今月9日、SDFからシリアの都市マンビジュを奪取した。【12月20日 ロイター】
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現在トルコ側が攻撃を準備しているとされるコバニはシリア北部のトルコに接するクルド人居住地域の拠点都市ですが、2014年から2015年年明けにかけて、ISに包囲されたものの、一時は陥落したとも言われながらもクルド人側が多大な犠牲を払いつつも死守しました。

“コバニをめぐる攻防は、当時シリア内戦で最も注目される戦いだった”“周囲はISによって包囲され、住民はどこへも逃げられない状況が続いていた”“クルド人にとってはこの町が陥落することは住民の虐殺が起きることを意味していた”“クルド人はこの戦いを通じて団結したと言われている”【ウィキペディア】という経緯があるこのコバニをクルド人勢力としてはどうしても失いたくない思いがあると推測されます。

アメリカ、国連もクルド人勢力を支持、クルド人勢力と敵対していたトルコ・アエルドアン大統領もトルコ国内のクルド人情勢が悪化するおそれもあるため、コバニ支援に向かうイラクのクルド人がトルコ領内を通過するの許可する異例の対応も。

クルド人勢力とアメリカの「対IS」協力関係は現在まで続いています。

【アサド政権の残した化学兵器争奪戦 イスラエルは破壊のため容赦ない空爆実施 汚染リスクは?】
一方、今もシリアを空爆しているのがイスラエル。アサド政権が残した武器がイスラム過激派の手に渡るのを阻止する狙いと言われています。

1週間前の16日時点で“シリア人権監視団(英国)は16日、アサド政権崩壊後のシリアでイスラエル軍が行った空爆は470回を超えたと伝えた。”【12月17日 産経】とも。

****イスラエルのシリア空爆は主権侵害、直ちに停止を=国連事務総長****
 国連のグテレス事務総長は19日、イスラエルによるシリア空爆は主権と領土の一体性への侵害であり「中止しなければならない」と述べた。

グテレス氏は記者団に「シリアの主権、領土の統一と一体性は完全に回復されなければならず、全ての侵略行為は直ちに停止されなければならない」と述べた。

アサド政権が今月崩壊して以来、イスラエルは戦略兵器と軍事インフラの破壊を目的に数百回の空爆を実施。1973年のアラブ・イスラエル戦争後に創設され、国連平和維持軍が巡回しているシリアとイスラエル占領下のゴラン高原の間の非武装地帯に進軍した。

イスラエル当局はこの措置について国境の安全確保のための限定的かつ一時的なものと説明しているが、撤退時期は示唆していない。【12月20日 ロイター】
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アサド政権の残した武器の行方はイスラエル以外の関係国・関係機関も気になるところで、特にアサド政権が使用していた化学兵器が注目されています。

****アサド政権が残した化学兵器の「争奪戦」が始まった****
シリアのアサド政権が突然崩壊したことで、残された化学兵器の所在を突き止め、確保する競争が始まった。長年にわたり内戦と強権支配が続いてきたこの国では、さまざまな武装勢力やテロ組織が対立し合ってきた。

かつてシリアは世界最大級の化学兵器保有国だった。内戦中にアサド政権が東グータで猛毒の神経ガス・サリンを使用し、1400人が死亡すると、国際的な圧力が高まり、シリアは2013年に化学兵器禁止条約(CWC)に加盟した。

当時のアサド大統領は国際社会と協力して国内の化学兵器を解体することに同意したが、アメリカと同条約を管轄する化学兵器禁止機関(OPCW)は長年、アサドが致死性の高い一部の兵器を備蓄し続け、新たな兵器の開発も進めているのではないかと疑っていた。内戦中にアサド政権が化学兵器を使用し続けたことで、懸念はさらに高まった。

シリアは現在、アメリカなどがテロ組織と見なすイスラム系組織シャーム解放機構(HTS)が主導する勢力の管理下にあり、アメリカは残された化学兵器を捜索していると、匿名の米当局者は外交誌フォーリン・ポリシーに語った。

OPCWもシリア情勢を協議する緊急会合を非公開で開催した。
「シリアの政治・治安情勢は依然として不安定だ。化学兵器関連施設の状況に影響を与え、拡散リスクを生み出しかねない」と、OPCWのフェルナンド・アリアス事務局長は会議の冒頭で警告した。

シリアの反体制派指導者アフマド・アッシャラア(別名モハマド・ジャウラニ)は12月11日、HTSは化学兵器の潜在的な貯蔵場所を押さえるため、国際社会と協力しているとロイター通信に語った。

2011年の内戦開始以来、アサド政権が塩素、サリン、マスタードガスを使用した事例は何百件も記録されている。国際社会が残された化学兵器の所在確認を急ぐ多くの理由の1つは、シリア国内で活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の残党の手に渡る危険性があるからだ。

ISは不完全な粗製の化学兵器をイラクとシリアで何十回も使用したとみられている。ただし、シリアの化学兵器はISの残党が活動する地域から遠く離れた西部の旧政権支配地域に保管されている可能性が高い。

それ以上に懸念されるのは、新たな内戦やアサド家が属するアラウィ派の組織的反乱の際に、旧政権の当局者や科学者が化学兵器に手を伸ばす事態だと、化学・生物兵器に詳しいジョージ・メイスン大学のグレゴリー・コブレンツ准教授は言う。「私に言わせれば、ISよりも心配だ」

同様に化学兵器がテロ組織の手に渡ることを懸念するイスラエルは、早速動き出している。イラスエル軍は国連がゴラン高原沿いに設置したシリア領内の緩衝地帯に入った。

「私たちは多くの情報を持っている。自国民を守るため、必要なことは何でもする」と、オフィル・アクニス総領事(在ニューヨーク)はフォーリン・ポリシーに語った。

イスラエル軍はアサド政権崩壊直後から、化学兵器の貯蔵施設と疑われる場所への空爆を実施している。OPCWのアリアスは12日、「汚染のリスクがある」と空爆に懸念を示し、国際的調査の妨げになりかねないと警告した。

アクニスはこうも強調する。「もはや危険はないと確信できるまで、必要なことをやり続ける」【12月23日 Newsweek】
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対象が化学兵器ですから空爆による「汚染のリスクがある」というのは誰しも考えるところですが、「自国民を守るため、必要なことは何でもする」というイスラエル現政権にとってはシリア住民の生命ごときは眼中にないようです。
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ミャンマー  停戦交渉か戦闘継続か 形だけの総選挙強行か“全ての利害関係者の参加”か

2024-12-22 23:11:21 | ミャンマー

(煙が上がるミャンマー西部ラカイン州の国軍の西部軍管区司令部とみられる建物【12月21日 日テレNEWS】)

【中国 少数民族武装勢力に国軍との停戦を求める】
ミャンマー情勢については、かねてより国軍・少数民族武装勢力双方とつながりのある中国が、少数民族武装勢力に対し国軍との和平交渉に入るように介入を本格化し、少数民族武装勢力側からもこれに応じる旨の表明がなされている・・・という報道を、12月5日ブログ“中国  ミャンマーの少数民族側に国軍と停戦するように圧力 軍事政権支持を明確化”で取り上げました。

****中国がミャンマー情勢に本格介入か 少数民族“軍との和平交渉”に協力表明相次ぐ****
2021年のクーデター以降、内戦状態が続くミャンマーで、軍事政権の打倒を掲げ戦っていた少数民族武装勢力の一部が軍との和平交渉に応じる態度を相次いで表明しました。

ミャンマー北東部シャン州では去年10月以降、3つの少数民族武装勢力が共闘作戦を展開し、ミャンマー軍の拠点を次々と占拠するなど、攻勢を強めていました。

こうしたなか、共闘作戦に加わっていた武装勢力のMNDAA=ミャンマー民族民主同盟軍は3日、「ただちに戦闘を停止し、中国による和平の仲介に積極的に協力する」との声明を出しました。

先月、MNDAAの指導者が中国で拘束されたと、一部の独立系メディアなどで報道され、中国が停戦を迫っているとの観測が広がっていました。

また、MNDAAと共闘していたTNLA=タアン民族解放軍も先月25日、中国の仲介によるミャンマー軍との和平交渉に参加する意向を表明しています。

中国政府は投資や貿易といった利害関係を背景に、ミャンマー軍トップを中国に招待するなど、軍政支援を鮮明に打ち出していて、敵対勢力への圧力を本格化させているとみられます。

イギリスBBCなどによりますと、中国当局とミャンマー軍は、「共同警備会社」を設立する計画があるということで、中国から部隊が派遣されるような事態になれば、情勢のさらなる混乱が予想されます。【12月4日 TBS NEWS DIG】
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この動きが本格化すれば、これまでの少数民族武装勢力及び民主派武装組織と国軍との内戦状況が一変することにもなります。

ただ、少数民族武装勢力とは言っても、中国との関係に濃淡はあるでしょう。
上記記事で声明が紹介されているMNDAA=ミャンマー民族民主同盟軍はコーカン族で、コーカン族は中国から移住した漢族とされていますから、中国との関係は極めて密接です。

そのMNDAAの声明内容及び「指導者が中国で拘束された」云々については、以下のようにも。

*********************
9月4日、MNDAAは(1)MNDAAは独立国家を追求するのではなく、自治区を維持する意向である(2)MNDAAはNUG(民主派武装組織)とのいかなる連携も否定し、マンダレー、タウンジーへの攻撃を行わない(3)中国政府の和平イニシアティブに従い、政治的手段で問題を解決するという内容の声明を発表した。件の声明は即日削除されたが、その後、19日に再発表した[。

11月中旬、10月末に雲南省昆明を訪れたMNDAAのリーダー・彭徳仁が中国当局に身柄を拘束され、ラーショーからの撤退を迫られていると報道される。

中国当局は病気治療のための滞在だとこの報道を否定。その後、MNDAAは停戦合意に向けた国軍との交渉に応じるとの声明を発表した。【ウィキペディア】
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よくわかりませんが、背後に中国の強い力を感じます。

【ラカイン州ではアラカン軍が戦闘継続 国軍の管区司令部を制圧】
一方、MNDAA、タアン民族解放軍(TNLA)とともに2023年10月下旬にシャン州内で国軍に対し一斉蜂起したアラカン軍(AA)は国軍との戦闘を継続しており、国軍の西部軍管区司令部を完全に制圧したことが報じられています。

ミャンマー国内に14ある軍の管区司令部が制圧されるのは、今年8月の北東軍管区司令部に続いて2か所目です。

そもそもアラカン軍(AA)は西部のラカイン州を本拠地とするラカイン族の勢力で、中国・雲南省と接するシャン州とは全く反対側に位置しています。どういう経緯でそのアラカン軍がMNDAA、TNLAともにシャン州で蜂起したのかは知りません。

いずれにしても、アラカン軍(AA)は本拠地ラカイン州で国軍との戦闘を続けており、ラカイン州に居住するロヒンギャがAAと国軍の間で再び困難な状況に追い込まれているという話は、これまでも取り上げてきました。

(多数派ビルマ族から差別されるラカイン族、そのラカイン族に差別されるイスラム教徒ロヒンギャという差別の重層構造があり、これを利用する国軍がロヒンギャを徴用してAAとの戦闘の「盾」に使っているとも)

****ミャンマー西部の少数民族武装勢力「軍の司令部を占拠」 軍司令部の陥落は国内2か所目****
2021年の軍事クーデター以降、内戦状態が続くミャンマーで、西部ラカイン州の少数民族武装勢力は20日、ミャンマー軍の司令部を占拠したと宣言しました。

ミャンマー西部ラカイン州に拠点を置く少数民族武装勢力の「アラカン軍」は20日、国の実権を握っているミャンマー軍のラカイン州にある西部の管区司令部を占拠したとの声明を出しました。

「軍の司令官らを拘束した」と主張していて、多数の軍の兵士らが投降する映像などを公開しています。

国内に14か所にあるミャンマー軍の管区司令部が抵抗勢力側に制圧されるのは、今年8月に陥落した北東部シャン州の司令部に続き2か所目です。

ただ、北東部では中国政府がミャンマー軍の後ろ盾として和平協議の仲介に動いていて、少数民族側に圧力をかけるなど介入を強めています。【12月22日 TBS NEWS DIG】
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中国の介入に協力するとするMNDAA、タアン民族解放軍(TNLA)、国軍の司令部を陥落させたアラカン軍、異なる流れが同時進行しているように見えます。今後、どういう流れに向かうのか・・・よくわかりません。

【軍事政権 来年総選挙に向けて準備 関係国に状況説明】
一方、軍事政権は来年に総選挙実施を目指しています。スー・チー氏らを拘束したまま、民主派を排除した形だけの選挙で政権の正統化を目論んでいると思われますが、内戦の状況下での実施を疑問視する向きも。

中国・ロシアはこの総選挙を支持しています。
19日にはタイ・バンコクで軍事政権と周辺5カ国の外相級会合が開催され、軍事政権は総選挙実施に向けた準備状況などを説明したようです。

****ミャンマー軍政に対話促す=周辺5カ国と初会合****
クーデター後の内戦が続くミャンマー情勢を巡り、同国の軍事政権と周辺5カ国の外相級会合が19日、タイの首都バンコクで初めて開催された。周辺国からは抵抗勢力との対話を促す発言があり、軍政側は「政治的な対話の扉は開かれている」と応じた。

ミャンマーからはタンスエ副首相兼外相が出席した。中国は外務省の孫衛東次官を派遣し、タイ、ラオス、インド、バングラデシュの外相や高官も参加した。【12月19日 時事】
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****来年ミャンマーで実施予定の総選挙 タン・スエ氏、各国からの選挙監視団を受け入れる考え表明****
ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏は19日、中国やタイなど周辺国との会合で、来年ミャンマーで実施する予定の総選挙に各国からの選挙監視団を受け入れる考えを表明しました。(中略)

会議には、ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏や、タイ、中国、ラオスなど周辺5か国から外相や高官が出席し、国境警備や違法薬物対策などを協議しました。

タイ外務省によりますと、ミャンマーのタン・スエ氏は会議の中で、来年実施するとしている総選挙に向けた国勢調査や政党登録の状況など、準備の進ちょくについて説明したということです。

また、タン・スエ氏は総選挙の際、近隣諸国から選挙監視団を招待する意向も示したということです。

バンコクでは20日、ミャンマー情勢を話し合うASEAN=東南アジア諸国連合による外相会議も予定されています。【12月19日 日テレNEWS】
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【ASEAN “全ての利害関係者の参加”を求める】
20日のASEAN外相会議では、ASEANは全ての利害関係者の参加を望んでいることを軍政側に伝えたとのことです。

****ASEAN、ミャンマー選挙に全関係者の参加望む=タイ外相****
タイのマーリット外相は20日、ミャンマー軍事政権が来年計画している選挙について、東南アジア諸国連合(ASEAN)が全ての利害関係者の参加を望んでいることを軍政側に伝えたと明らかにした。

ASEAN関連会合後のインタビューで、「選挙が行われる場合、ASEANは全関係者が参加する包括的なプロセスを望む」と述べた。

タイは今週、 ミャンマー情勢に関する2つの地域会議を主催した。19日の会合でミャンマー外相は、軍政による政治ロードマップの概要と選挙実施に向けた進捗状況について説明した。

マーリット氏によると、関係各国はミャンマー外相に対し、解決策を見出す上で同国を支持するが、選挙は国内のさまざまな利害関係者を包含するものでなければならないと強調した。同氏はまた、ミャンマーに対して助言はするが干渉はしないと述べた。

中国外務省が20日明らかにしたところによると、孫衛東外務次官は19日にバンコクで行われた会議で、ミャンマーの和平・和解プロセスの前進に向けて、全ての関係者が支援すべきだと呼びかけた。また、ミャンマーの全当事者が対話と協議を通じて相違を解決すべきだと訴えた。【12月20日 ロイター】
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ASEANの言う“全ての利害関係者の参加”・・・・軍政側に配慮して名指しはされていませんが、スー・チー氏らの国民民主連盟(NLD)を含むものと思われます。(中国の言う“ミャンマーの全当事者”にNLDも含まれるのかどうかは定かではありませんが)

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2023年1月に国軍が政党の登録に関する新たな法律を施行し、同年3月28日を再登録の申請期限としていたが、これに反発したNLDは政党登録の手続きを拒否する方針を決定したほか、国軍主導の総選挙に参加しない意向を示したため、期限日の3月28日に連邦選挙管理委員会はNLDを含む反軍政の姿勢を取る40政党の解散(政党としての資格喪失)を発表したが、NLDは3月29日に発表した声明で、「国軍に正統性がないことは明らかだ。ミャンマー国民がいる限り党は存在する」として、政党としての資格を喪失した後も活動を継続する姿勢を示した。【ウィキペディア】
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ただ、軍事政権にとってスー・チー氏は犯罪者であり、NLDを選挙に参加させたら間違いなくNLDが圧勝します。そういうことを軍事政権が了承するとは思えません。

来年実施なら、残された時間はあまりありません。
形だけの選挙を限られた地域で行い、中国・ロシアがその結果を了承する・・・という形になるのか、時期を延期して軍事政権からの政権移譲も視野に入れて、より中身のある総選挙を実施するのか・・・

軍事政権外相のタンスエ氏は「解決のための扉は開かれている」と発言したそうですが、扉を開ける覚悟を決めるのは軍事政権の側でしょう。

内戦の戦局も絡んできますが、中国の介入による和平交渉の流れと、戦闘継続の流れが同時並行している状況で、どちらに流れが傾くのか・・・そこらも影響してきます。
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マカオ返還25周年  一国二制度の「優等生」 激しい抵抗を生んだ香港との違いは?

2024-12-21 23:30:28 | 中国

(中国マカオ特別行政区で19日、祖国復帰25周年を祝う文芸公演が開かれた。【12月20日 新華社】)

【行政長官に初の本土出身者 本土との融合の象徴、「横琴島」開発】
*****マカオ返還25周年式典に習近平氏出席 「1国2制度」の成果強調****
マカオがポルトガルから中国に返還されて25年となった20日、マカオで記念式典が開かれ、中国の習近平国家主席が出席した。新華社通信によると、習氏は演説で「返還後にマカオが得た輝かしい成果は、『1国2制度』が強国建設と民族復興の偉業に資する良い制度だと示している」と述べ、中国が主導するマカオ統治の正当性を強調した。

1887年にポルトガルに割譲されたマカオは1999年12月20日に中国に返還され、特別行政区となった。英国から返還された香港同様、1国2制度を導入して50年間は高度な自治が約束された。

だが近年、香港とともに、中国による統制強化が進む。2021年の立法会(議会)選挙では民主派の立候補が禁じられたが、マカオ社会に民主主義を求める機運は乏しい。

習氏は演説で、香港やマカオの統治について「『1国』を基本として『2制度』の利点を生かすことや、高いレベルの安全を維持して質の高い発展を進めることが必要だ」と主張した。

20日にはマカオ政府トップの行政長官に岑浩輝(しんこうき)氏(62)が就任した。岑氏は中国南部・広東省出身で、マカオ終審法院院長(最高裁長官)を務めた。

返還後のこれまでの行政長官3人はいずれもマカオ生まれで、中国本土出身者は初めて。任期は5年。10月の選挙では他に立候補はなく、各界の代表で構成する選挙委員400人のうち394人の票を得た。

マカオメディアによると、岑氏は就任式で習氏に向かって宣誓し、「偉大な祖国の後ろ盾と住民の団結で、マカオという宝石はさらに輝けると信じる」と述べた。カジノ関連産業に依存する経済の改革が課題となる。”【12月20日 毎日】
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初の中国本土出身の行政長官をいただき、「新たな段階」に向かって中国との一体化が進むと思われます。

****マカオ返還から25年、一国二制度「新たな段階」に…習近平主席は強国建設への貢献を要求****
(中略)習近平国家主席が記念式典で演説し、マカオに適用される一国二制度は「新たな段階に入った」として強国建設への貢献を求めた。マカオは返還後50年は高度な自治を認められているが、その折り返しを迎える中、習政権は中国本土との一体化を加速させている。

習近平主席は「経済建設」に重点
習氏は一国二制度について、あくまでも「一国が原則」とし、「国家の主権、安全、発展の利益が何よりも優先される。中央(政府)の管轄権はいかなる時も揺るがない」と強調した。

習政権が米欧とは異なる独自の発展を目指す「中国式現代化」を推進していることにも触れ、「マカオの一国二制度の実践も新たな段階に入った」として発展への貢献を要求。マカオ政府に経済改革などを求めた。

習氏は、2019年のマカオ返還20年の記念式典の演説では、香港で反政府抗議運動が起きたことを受けて「国家安全」を強調したが、今回は中国の景気減速を受け、「経済建設」に重点を置いた模様だ。

行政長官に初の本土出身者
習氏は演説で「マカオ人によるマカオ統治」に言及したが、20日にマカオ政府トップに就任した岑浩輝しんこうき・行政長官は広東省出身で、初めて本土出身の行政長官となった。10月の行政長官選挙で岑氏が唯一の候補者だったのも、習政権の意向があった可能性がある。

マカオ経済はカジノ産業に依存し、コロナ禍で大打撃を受けた。改革の必要性は長年指摘されてきたが、これまでの行政長官は地元財界出身だったことから、「痛みを伴う改革ができなかった」との指摘もある。

習氏は、マカオ終審法院(最高裁)院長を25年間務め、地元財界との縁が薄い岑氏に「経済の適度な多元化」の実現を期待するが、「マカオ人による統治は崩れた」(外交筋)との声も上がる。

本土との融合の象徴、「横琴島」開発
演説で習氏がマカオと本土の融合を図る象徴として挙げたのが、マカオの西隣にある中国広東省珠海の横琴島の開発だ。21年、マカオと広東省が共同開発する区域に格上げされた。

開発の余地が限られる狭いマカオの3倍の面積がある横琴島で発展を促したい考えで、島内には昨年秋、マカオ住民のための27棟の高層マンションが完成した。

しかし、住民からは「マカオとの行き来が不便」といった声も上がり、全4000戸のうち売約済みは3割程度にとどまる。科学技術など先端企業の誘致を目指す産業区も人影はまばらだ。マカオ住民の意向を無視した、本土との「融合」ありきの開発が突き進んでいる。【12月21日 読売】
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【マカオってどんなところ?】
そもそも「マカオ」というのはどういうところなのか・・・国際金融都市で世界有数の観光都市でもある香港は馴染みも深く、また、これまでも民主化や中国当局の弾圧などで頻繁に取り上げられていますが、マカオというと「カジノがあるところ」ぐらいのイメージしかありません。 

ある意味、パレスチナ・スーダン・コンゴより馴染みがない・・・。アジア方面を頻繁に観光していますが、これまでマカオに行こうと思った事は一度もありません。「マカオって、カジノがある中国なんでしょ」って。

****「アジアのラスベガス」、マカオの住民の暮らしぶりとは****
マカオは中国の特別行政区(SAR)で、香港と比較されることが多い。また大中華圏でギャンブルが合法である唯一の場所であり、「アジアのラスベガス」として知られる。人口は香港の700万人に対し、わずか60万人ほどだ。

マカオは、北のマカオ本島と南のタイパ島の二つの島で構成されている。かつては2島間を船で移動していたが、1972年に二つの島を結ぶ最初の橋が完成した。現在は3本の橋が架かっており、4本目も建設中だ。

わずか40平方キロメートルの世界
世界の人々は、マカオといえばギャンブルを思い浮かべるかもしれないが、マカオの住民は必ずしもそうではない。
マカオで最も古い家族の出身で、8代目のマカオ人であるマリナ・フェルナンデスさんは、ポルトガル語と中国語が混ざったパトゥア語を話す。

フェルナンデスさんによると、地元の住民はめったにカジノには行かず、ギャンブルをしにカジノに行く人はごくわずかだという。また公務員はカジノへの立ち入りを禁止されており、ギャンブルは地元の住民向けというより、観光客向けの娯楽だとフェルナンデスさんは言う。

マカオの生活費の上昇により、カジノや高級店の従業員の中には、マカオに隣接する比較的物価の安い中国本土の都市、珠海(しゅかい)から通勤する人が増えており、それに伴い、広東語ではなく標準中国語を話す従業員も増えている。

マカオは特別行政区であるため、珠海・マカオ間の往来には国境検問所を通過する必要があるが、中国の身分証を保有するマカオの永住者と市民は専用のレーンがあり、審査が迅速に行われる。

2021年のマカオの国勢調査によると、マカオの総人口のおよそ6分の5は中国系で、ポルトガル系はわずか数千人しかいない。

ポルトガル語は現在もマカオの公用語であり、標識や政府文書はポルトガル語の使用が義務付けられている。しかし、多くの地元住民は、特に1999年のマカオ返還(マカオの主権がポルトガルから中国に返還された)に先立ち、ポルトガル語ではなく英語や標準中国語を学ぶ選択をした。

インフラの整備が課題
タイパ島東部にあるマカオの空港は、小規模でターミナルも一つしかないが、近代的で、空港内の移動も容易だ。周辺地域からのフライトが大半で、シンガポール、ジャカルタ、ハノイ、バンコク、北京などへの定期便があるが、北米や欧州への長距離便に乗るには近くの香港、深圳、広州に行く必要がある。

現在、中国は香港、マカオ、広東省の9都市を結ぶグレーターベイエリア(GBA)の接続・促進を目的とした多くのプロジェクトを進めており、2018年に完成した、香港・珠海・マカオを結ぶ世界最長の巨大な海上橋、港珠澳(こうじゅおう)大橋もその一つだ。

一方、マカオ内部のインフラは十分に整備されているとは言い難い。車を持たない地元住民は主に公共バスを利用している。

香港には効率的で、よく整備された地下鉄があるが、19年に開業したマカオ唯一の鉄道、マカオLRTは今のところ一路線しかない。また米配車サービス大手ウーバーは17年にマカオでのサービスを中止しており、市内を走るタクシーは現金払いのみだ。

外国人に厳しい労働政策
マカオはその規模の小ささゆえに、外国人に対して厳しい労働政策を実施している。

リスボン出身のリカルド・バロカスさんは、13年に欧州からマカオに移住して以来、さまざまな職に就いてきた。
バロカスさんのようにマカオに移住した外国人の大半は、マカオで7年間居住、労働、納税をした後に永住権を取得する資格を得る。永住権があれば、労働ビザやスポンサー企業がなくてもマカオに居住可能だ。

マカオ政府発行の身分証明書(IDカード)を持つ居住者は、特別行政区の医療サービスを利用できる。またマカオ市民と永住者には、特別行政区政府から年間1万パタカ(約20万円)の手当が支給される。

しかし、フィリピンなど、マカオよりも貧しい地域から来た労働者の多くには別のルールが適用される。多くのフィリピン人は、家政婦や警備員として働くためにマカオにやって来るが、彼らは地元住民と結婚しない限り、永住権や市民権の資格を得ることはできない。(中略)

バロカスさんは「本音を言うと、マカオに来た人たちにはぜひ、カジノから出てきて、街の中を探索してもらいたい」と述べ、「マカオには美しい美術館や街並みなど、探索すべき場所が山ほどある」と付け加えた。【7月6日 CNN】
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【香港との違いは? アイデンティティーの差か】
香港と同じような「一国二制度」を導入しながら、香港が激しい民主化運動を経験した(今では完全に封じ込まれましたが)のに対し、“一国二制度の優等生”マカオについては、そのような話をほとんど聞かない。その差はどうして?

下記記事は5年前の香港で民主化運動が行われていた頃のもの。

****香港と同じ一国二制度 マカオではなぜ反中デモが起きないのか**** 
マカオを訪問中の中国の習近平国家主席は19日、夕食会で演説し、中国への返還20周年を迎えるマカオが「愛国」を「民主、法治、人権、自由」より優先したと称賛した。

デモが続く香港を牽制した形だが、香港と同じ一国二制度を享受するマカオでなぜ「愛国」が進み、反中デモが起きないのか。一国二制度の優等生が誕生した背景を探った。

マカオと香港の違いはまず、それぞれの旧宗主国であるポルトガルと英国によって形成された。

マカオでは1966年に中国系住民による大規模な暴動が発生、中国系住民側に死者が出た。反発した中国政府は人民解放軍を国境に集結させ、謝罪と賠償を要求。譲歩を余儀なくされたポルトガル政府とマカオ政庁の権威は失墜した。

マカオ立法会(議会)の民主派議員、蘇嘉豪(そ・かごう)氏(28)は「以後、マカオは親中派に牛耳られた。返還前に英国が民主化を進めた香港とは違う」と話す。

こうした歴史的背景に加え、返還前夜の状況もマカオの中国化を加速させた。

マカオでは99年の返還が近づくにつれ、中国の体制下に入る前にカジノの利権を確保しようと暴力団の抗争が激化、治安が極度に悪化した。このため返還と同時に駐留を開始する人民解放軍に、治安回復への期待を寄せるマカオ市民が多かった。進駐を拍手で迎えた市民もいたほどだ。

「香港の若者が今、抗議の声を上げているのは閉塞感があるからだ。マカオの若者とは異なる」と経済的背景の違いを強調するのは立法会の民主派議員、区錦新(く・きんしん)氏(62)である。

返還後、カジノ市場を開放したマカオは、昨年までの19年間で域内総生産(GDP)が9倍に激増。平均給与も3倍以上に増えた。

「マカオの経済発展の最大の受益者は若者たちだ。生きる権利が脅かされていると感じている香港の若者たちとは異なる」という。

一方、マカオ大社会科学学院の楊鳴宇(よう・めいう)准教授(32)は、アイデンティティーの問題を指摘する。
「香港では自らを香港人と考える人が増えている。香港映画、香港音楽といった香港人意識を醸成するような文化もあるが、マカオにはない。自らを中国人と考える人が多い」

マカオには、マカオ人として結集する土壌がまだないというわけだ。

国家分裂や反乱の扇動、政権転覆を禁じた「国家安全法」(2009年制定、香港は未整備)がマカオ市民への無言の圧力となり、「自己規制が進んでいる」(蘇氏)との見方もある。

これらの違いは政治状況にも反映されている。
立法会における民主派議員は、香港で定数70のうち23人を占めているが、マカオでは定数33のうち4人にとどまっている。

ただ、マカオでデモが起きないわけではない。14年5月には、政府高官に巨額の退職金と年金を支給する法案への抗議デモが行われ、主催者発表で2万人が参加。法案を撤回させた。

「マカオ市民は香港のように自由や民主ではなく、政府の悪政に立ち上がる。黙っているわけではない」と蘇氏は話す。

こうした市民の声を政治に反映させようと、マカオの民主派は香港の民主派同様、行政長官選に普通選挙を導入するよう求める運動を続けている。【2019年12月19日 産経】
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旧宗主国の統治の違い、返還後の経済改善の度合い、返還後の政治体制の違い・・・などがあげられていますが、一番の違いはアイデンティティーの問題ではないでしょうか。

香港は国際金融都市、世界有数の観光都市として世界に胸をはれるものがあり、結果的に中国本土を「遅れた国」「民度の低い国」と見下すようなところもありました。中国と香港のネット社会で激しい罵り合いもありました。

そうした中で「香港人」としてのプライドやアイデンティティーも形成され、その政治的あらわれが中国的統治への拒否感・民主化運動でもありました。「自分たちは中国なしでもやっていける」という思いも。

一方のマカオにはカジノ以外にめぼしいものはなく、そのカジノも民衆には縁遠く、厄介なもの。中国の統治を受け入れるなかで生活は格段に向上・・・抗議が起こる土壌がなかったと言えます。

【香港 民主化運動の幕引き図る習近平政権】
しかし、民主化運動に挫折した香港も1周遅れでマカオと同じような軌跡に。
習近平政権は香港でも「仕上げ」にとりかかっています。

****「愛国者による統治」進める習近平政権、狙い通りの幕引き 香港民主派45人量刑****
香港で19日、45人の民主活動家に一斉に量刑が言い渡された。

罪となったのは民主主義に基づいて実施された予備選に関わったことで、香港国家安全維持法(国安法)による民主化運動の弾圧を象徴する判決だ。「愛国者治港(愛国者による香港統治)」を進める中国の習近平政権の狙い通りの幕引きとなった。

判決後に親指立て笑顔
「我愛香港(私は香港を愛している)。バイバイ!」。この日、法廷には45人の被告全員が出廷した。量刑の言い渡しが終わった後、著名な民主活動家で、禁錮4年8月の判決を受けた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(28)はこう叫んで、法廷を後にした。

黄氏は、国安法施行後も「中国の独裁政権に反対する」と公然と主張し続ける強硬派として知られた。予備選に出馬した民主活動家たちの中心的メンバーだった。

今回の裁判では刑の減軽などを図るため罪を認めたものの、他の被告のように情状酌量を求める文書を裁判所に提出することはなかった。

黄氏同様、予備選に出馬し、多くの市民から支持されたのが何桂藍氏(34)だ。ネットメディア「立場新聞」の元記者で、2019年の反香港政府・反中国共産党デモの最前線でネット中継を行い、若者たちから「立場姉ちゃん」と親しみを込めて呼ばれていた。

何氏は罪を認めず、法廷で起訴事実を争った。「香港人は、政権があらゆる面をコントロールする制度の下で生きることを望んでいない」などと主張、自らの情状酌量も求めなかった。

結果、この日の判決は禁錮7年という重刑となった。しかし何氏は言い渡しを受けた後、傍聴席に向かって親指を立てて笑顔を見せたという。

判決の影響、香港政府は考えるべき
香港では民主派が大量に検挙されて以降、選挙制度の見直しが進み、立法会選に民主派が出馬することさえ難しくなっている。愛国者、つまり香港よりも中国共産党を愛する親中派一色に染まってしまった観がある。

こうした中、量刑の言い渡しが行われた裁判所には19日朝、500人を超える市民が傍聴券を求めて詰めかけた。「法廷に入れなくても(45人を)応援する姿勢を示したい」と話す市民もいた。

民主派団体の元代表で、自身も無許可集会に参加した罪などで約1年半入獄した経験がある陳皓桓氏(28)は取材に対し、「今日の判決は予備選で投票した約61万人の市民に対する判決であり、市民への弾圧だ。判決の影響がどれだけ大きいのか香港政府は考えるべきだ」と語った。【11月19日 産経】
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中国の強靭・圧倒的な力はチベット・新疆を抑え、マカオ・香港を平らげ、残る目標は台湾
台湾では香港以上に「台湾人」としてのアイデンティティーが強く、香港のように本土の手足となって動く現地当局もありません。

中国にとって有効な方法は経済的つながりで揺さぶることでしょう。
台湾内で中国との経済的つながりを重視する勢力が増えれば、社会不安も増大。そうした揺れ動く状況で、親中国勢力の要請を受けたという形で軍事進攻・・・
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核兵器に関する現在地 米ロの制限枠組みはほぼ破綻状態 ハイペースで増強する中国

2024-12-20 23:03:28 | 軍事・兵器

(【国際平和拠点ひろしま】)

【流れが逆行する米ロの枠組み】
****世界の核兵器保有数(2024年1月時点)****
広島県と連携協定を締結しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は毎年、シプリ年鑑(SIPRI YEARBOOK)を発刊しています。その中で、2024年1月時点の核兵器数が発表されました。

2024年1月時点の核兵器保有数は12,121で、2023年1月時点の12,512と比較して391減少しています。引き続き、約90%を米露が保有しています。この減少は、米国とロシアが引退した核弾頭を解体したからであり、運用可能な核弾頭数の削減は停滞が続き、その数は引き続き増加しています。

米国の配備弾頭数は変わらないものの、ロシアは増えています。

中国の核兵器数は90増加し、24の核弾頭を配備し始めた可能性があります。今後10年間で、米露と同じ数の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を潜在的に配備できるとみられています。

インドと北朝鮮も核兵器数を増加させています。北朝鮮の核弾頭数については、不確かなことが多いものの、90の核兵器を作るのに十分な核分裂性物質を生成した可能性がありますが、実際に核兵器として組み立てた数は、これよりも少ない50程度と考えられています。【国際平和拠点ひろしま】
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冒頭の核兵器保有数の推移(1945年~2023年)を見るうえで、留意すべきものとしてのNPT(核不拡散条約)、
INF全廃条約、新START(戦略核兵器削減交渉)の簡単な説明は以下のとおり。

****NPT(核不拡散条約)****
「核不拡散条約」NPTは、正式名称を「核兵器の不拡散に関する条約」(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)と言い、核兵器保有国の増加を防ぐこと(核兵器の拡散を防ぐこと)を主な目的とした条約です。(中略)

条約の内容としては、核兵器の不拡散、核軍縮の促進および原子力の平和利用の推進が三本柱とされています。しかし、不拡散が条約上の義務とされているのに対し、核軍縮と原子力の平和利用の促進は、事実上努力目標となっており、現実には条約の名前通り、核兵器の不拡散を目的とする条約としての役割を主に果たしています。【長崎大学核兵器廃絶研究センター】
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NPT締約国数は191か国・地域(2021年5月現在)。非締約国はインド、パキスタン、イスラエル、南スーダン【外務省】

****中距離核戦力全廃条約/INF全廃条約****
1987年、ゴルバチョフとレーガンの米ソ首脳が中距離核戦力(INF)全廃に合意して締結した。ソ連崩壊後ロシアが継承、核軍縮の枠組みとして期待されたが、1990年代から中国の軍拡という新たな情勢が出てきたことで維持が難しくなり、2019年8月失効した。

中距離核戦力とは 
中距離核戦力=INF(Intermediate-Range Nuclear Forces) とは、戦略核兵器(相手の政治中枢を破壊する目的の核兵器。およそ米ソ国境間の距離5500kmを超えてとばすもの)と戦術核兵器(敵部隊との遭遇戦で使用する核兵器)との中間にある核兵器という意味で、戦域核ともいう。

米ソ本国よりもその中間にあるヨーロッパ地域で配備され、70年代末にソ連がトレーラーで移動可能な中距離ミサイルであるSS20を開発したことから現実的な脅威として問題となった。NATO側も中距離核戦力パーシングⅡの配備を進め、70年代の戦略兵器制限交渉(SALT)、さらに戦略兵器削減交渉(START)の網にかからないところで配備競争が続いた。(中略)

中距離核戦力廃棄の意味
中距離核戦力(INF)は距離500km~5500kmの間で使用されるミサイルなどの核兵器のことで、アメリカとロシアが直接相手を攻撃するためものではない。上述のようにアメリカは西ヨーロッパのNATO加盟国である親米国に配備し、ソ連攻撃を狙うものであった。

米ソが大陸間弾道弾によって直接相手を攻撃するよりも、現実性の高い軍事配備であるので両国ともその配備数を競う傾向があった。その競争が際限なく行われることは両国の経済に負担になるので、制限の必要を両国が感じ、一気に全廃にすることに合意したものと思われる。この時点ではアジアでの配備は問題外であった。

核兵器廃棄と抜け道
その合意に基づき、1991年までに中距離核戦力(INF)として廃棄対象とされたミサイルが、アメリカ側は846基、ソ連側は1846基に及び、同年中に全廃が完了した。

その年、ソ連が崩壊し条約をロシアが継承し、ロシアとアメリカの間で相互査察が10年間にわたって実施され、2001年には完全履行を相互確認して終了した。(中略)

しかし、ここでの中距離核戦力は陸上のみに限定されたので、空中および海中から発射されるものは含まれていないという抜け道があったので、両国は巡航ミサイルの開発を密かに進めるなど、相互不信が続いた。

新たな対立
INF全廃条約は冷戦の終結の象徴であり、二大国による核戦力軍縮の枠組みとして世界中の期待を集めた。2007年にはアメリカとロシアも当初は他の核保有国へも条約参加を呼びかけるなどの動きを見せていたが、ロシアのプーチンは次第に大国主義を標榜してこの条約に拘束されることを嫌うようになった。

2009年、アメリカ大統領オバマはプラハ演説で核なき世界をめざすことを表明し、ノーベル平和賞を受賞した。そのオバマ政権は2014年7月、ロシアの地上発射型巡航ミサイルが500kmを越えるとして条約違反を指摘した。条約では一方が相手の履行に疑問を持てば特別検証委員会を開催すると定めていたが、その後委員会開催は2回にとどまった。

大きく情勢が変化したのが、2017年1月アメリカ大統領に共和党トランプが就任したことであった。トランプ(およびその背後のボルトンなどネオコンといわれる右派政治家)がこの条約が不都合だと考えたのは、1990年代から急速に軍備を拡張し始めた中国の存在であった。

中国はINF条約に拘束されないので、アメリカにとってはそれが足かせになると考えたのであろう。事実中国は2015年に軍事パレードで対艦弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルを誇示している。

2019年8月1日、INF全廃条約失効
アメリカのトランプ大統領は2018年末、ロシアに対し60日間以内にミサイルを破棄することを最後通告、受け入れられなかったとして、2019年2月1日に正式な離脱手続きに踏み切った。翌日、双方が条約義務履行停止を声明、半年後の8月1日に失効が発効した。

こうして中距離核戦力をフリーハンドで配備することが出来るようになったトランプとプーチンはそれぞれ配備競争を開始するであろう。またそれはかつてのような配備数を競うのではなく、より高性能な核戦力の開発に向かうであろうと言われている。

さらに、トランプの狙いは中国との力のバランスを維持することであるので、中国に対抗して日本への中距離核戦力の配備を求めてくることが予想される。(中略)

NewS 新STARTの延長
アメリカとロシアの間の核軍縮の枠組みとして、オバマ大統領の2010年に始まった新START(戦略核兵器削減交渉)は、このINF条約失効によって両国間の唯一の条約となったが、トランプ大統領の登場でその延長が危うくなっていた。バイデン政権の登場によって2021年2月に五年間の延長で合意が成立した。これによって米ロ間の核軍縮に向けてのチャンネルは残ることとなった。【世界史の窓】
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****中距離ミサイルの生産再開へ 米が欧州配備ならとプーチン氏****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は(7月)28日、米国がドイツなど一部欧州諸国へのミサイル配備計画を撤回しないなら、短・中距離ミサイルの生産を再開すると警告した。

プーチン氏はサンクトペテルブルクで行われた海上軍事パレードに出席し、米国がミサイル欧州配備計画を実行するなら、これまで一方的に行ってきたとする、短・中距離ミサイル配備の一時停止から「解放されたとみなす」と発言。そうしたミサイルシステムは「開発の最終段階にある」とも述べた。

さらに、「欧州および世界の他の地域における米国やその衛星国の行動を考慮した上で、対抗措置として(短・中距離ミサイルを)配備する」と語った。(中略)

米独両国は今月(7月)上旬、2026年から巡航ミサイル「トマホーク」など米国製長距離ミサイルのドイツへの「一時的な配備」を開始する方針を発表した。 【7月29日 AFP】
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“米ロ間の核軍縮に向けてのチャンネルは残ることとなった”とされている新START(戦略核兵器削減交渉)もロシアは23年2月に条約履行停止を表明。後継条約締結交渉は滞っています。

****新START****
第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約として米国とロシアが2010年4月に調印、11年2月発効。

配備戦略核弾頭数を1550、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や重爆撃機など運搬手段の総数を各800に制限したが射程が短い戦術核は対象外。

米ロは21年1月に条約を5年間延長した。22年2月にウクライナ侵攻に踏み切ったロシアは23年2月に条約履行停止を表明。後継条約締結交渉は滞っている。【3月13日 共同】
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****米、ロシアに新たな対抗措置=新START、有名無実化****
米国務省は1日、ロシアによる新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止に対抗する新たな措置を発表した。条約で義務付けられているミサイルや発射装置の情報共有を停止するほか、米国で検証作業を行うロシアの査察官に発行されたビザなどを取り消す。米ロ間に残された唯一の核軍縮の枠組みは、さらに有名無実化が進むことになる。

国務省は発表文で「米国はロシアに対抗措置を事前通告した。ロシアが再び順守すれば、対抗措置を破棄して条約を完全に履行する意向と用意があるとも伝えた」と説明した。

対抗措置はいずれも1日から実施。情報共有停止やビザ取り消しなどのほか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験の際の飛行経路などに関する情報提供も取りやめる。

米ロは年2回、新STARTに基づき配備済み核弾頭数などの核戦力情報を共有してきた。ロシアのプーチン大統領が2月に新STARTの履行停止を表明して以降、ロシアは情報共有に応じていない。【2023年6月2日 時事】 
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いろんな米ロの思惑もありながらも一定に歯止めがかけられ、核弾頭総数も減少してはきましたが、ここ数年INF全廃条約失効や新STARTの有名無実化で、流れが逆行し始めてもいます。

【中国 「予測を上回る勢い」】
その状況を更に難しくしているのが中国のハイペースの核兵器増強。

****中国の核弾頭「600発超」、4年で3倍…米国防総省「予測を上回る勢い」****
米国防総省は18日、中国の軍事・安全保障に関する年次報告書を公表した。今年半ば時点で中国が保有する運用可能な核弾頭数は、昨年5月時点と比べ100発増の600発超と推計し、中国の核戦力の増強に危機感を示した。2030年には核弾頭数が1000発を超える可能性が高いと予測している。

20年の報告書は保有数を200発台前半と見積もり、30年までに倍増するとみていた。当時からみて4年間で3倍となり、急速に保有数を増やした形となる。今回の報告書は「以前の予測を上回る勢い」と指摘した。

中国は核弾頭保有数を明らかにしていないが、米露間の新戦略兵器削減条約(新START)が戦略核弾頭の配備上限としている1550発に中国が迫っている状況だ。報告書は「今後10年間、核戦力を急速に近代化、多様化させるだろう」との見通しを示した。

中国は核兵器を搭載できる大陸間弾道弾(ICBM)のほか戦略爆撃機などの開発を進めており、報告書は「インド太平洋地域の標的にピンポイントで攻撃できることを示している」と指摘した。

ウクライナを侵略するロシアに対し、武器の製造に必要となる精密工作機械などを中国が売却しているとして、「中国がロシアの軍需産業を強く支えている」との懸念を示した。ロシアのウクライナ侵略を教訓に、中国が武器の国産化を進めているとの見方も提示した。【12月19日 読売】
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通常兵器では敵わないインドに対抗するために核兵器開発を進めるパキスタンも。

****パキスタンの長距離ミサイル開発、米国に「新たな脅威」=高官****
米国のジョナサン・ファイナー大統領副補佐官(国家安全保障担当)は19日、パキスタンが長距離弾道ミサイル能力を開発中であり、米国にとって「新たな脅威」になっていると述べた。

ファイナー氏はカーネギー国際平和財団で講演し、パキスタンは「長距離弾道ミサイルシステムから装備品に至るまで、一段と洗練されたミサイル技術」を追求し、かなり大型のロケットモーターの実験を可能にしていると述べた。

こうした傾向が続けば、パキスタンは米国を含む南アジア全域を攻撃する能力を持つことになると説明した。

米国本土に届くミサイルを持つ核保有国の数は「非常に少なく、敵対的な傾向がある」とし、ロシア、北朝鮮、中国の名を挙げた。

その上で、パキスタンの行為は米国に対する新たな脅威だと指摘した。同氏の発言は、2021年のアフガニスタンからの米軍撤退以降にかつて緊密だった米国とパキスタンの関係がいかに悪化しているかを浮き彫りにしている。【12月20日 ロイター】
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パキスタンの場合、政府が軍をコントロールできていないという問題も。
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スーダン内戦  戦闘・飢餓で崩壊状態の医療 戦闘、国軍有利の報道も・・・露、それを見込んだ動き

2024-12-19 23:07:28 | スーダン


(準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の攻撃で破壊された車両。スーダンのオムドゥルマンで10月撮影【12月11日 ロイター】)

【「戦争の両当事者による犯罪は、国際社会が完全に沈黙する中で続いている」】
****スーダンで続く「忘れられた紛争」****
2023年4月15日に始まったスーダンでの紛争・・・国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生・・・は、パレスチナやウクライナでの戦争とは違って、それらの戦争に匹敵する犠牲者を出しながらもあまりメディアに取り上げられることなく続く「忘れられた紛争」となっています。

「忘れられた」かどうかに関係なく、紛争の戦火から逃げまどい、飢えや医療崩壊に苦しむ住民にとっては等しく悲劇・地獄であり、「忘れられた紛争」の場合は人道支援も行き届かないというということでより悲惨な状況にもなります。

死者は推計で1万5千人にのぼるとされていますが、実際にはその10~15倍に上る可能性があるとの見方(バイデン米政権のスーダン特使トム・ペリエロ氏)もあります。【8月1日ブログ“スーダンの「忘れられた紛争」 国内外への避難民は人口の20%、1000万人超”より再録】
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戦闘は未だ激しく、12月9-10日の二日間だけで、交戦中の双方による爆弾や砲撃で民間人を中心に少なくとも127人が死亡したとのことです。

****内戦下スーダン、2日間で100人超が死亡 国軍とRSF双方が攻撃****
内戦下のアフリカ北東部スーダンで9─10日、交戦中の双方による爆弾や砲撃で民間人を中心に少なくとも127人が死亡した。

国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」は昨年4月以降戦闘を続けており、停戦交渉は停滞している。

国軍とRSFは人口密集地域を中心に攻撃を続けている。北ダルフール州では9日、市場に8発以上の樽爆弾が投下され、人権団体によると100人以上が死亡し、多数の負傷者が出た。

国軍は北ダルフール州周辺の最後の拠点となる州都アル・ファシールを巡りRSFと激しい戦闘を続けている。

一方、10日にはRSFがハルツーム州の国軍支配地域に砲撃を行い、少なくとも20人が死亡した。

国連の推計によると、内戦で約1200万人が家を追われ、3000万人以上が援助を必要としている。【12月11日 ロイター】
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9日、北ダルフール州の市場への国軍の空爆による被害者は多くが市場の商人や買い物客だったとみられ、地元の弁護士団体は声明で「戦争の両当事者による犯罪は、国際社会が完全に沈黙する中で続いている」と訴えています。

空爆による犠牲者は連日で、昨年4月に戦闘が始まって以降、国軍の空爆による犠牲者は数千人にのぼるとみられるとも報じられています。

10日のRSFによるハルツーム州国軍支配地域への砲撃では、市場や医療施設が標的になっており、走行中のミニバスが被弾し乗客全員が死亡したもようです。

“紛争地域のデータを収集する米NPO「ACLED」によると、スーダンでは昨年4月以降、少なくとも1万8千人が戦闘で死亡した。”【12月11日 共同】

【戦争による死傷者、大量飢餓の脅威、医療施設への攻撃・・・ほとんど崩壊している医療】
こうした状況ですので、もともと極めて不十分だった医療は「崩壊状態」です。

****スーダンの医師たち、医療崩壊と戦争の矢面に立たされる****
スーダンの医師モハメド・ムーサ氏は、自分の病院の近くで絶え間なく聞こえる銃声や砲撃音に慣れてしまい、もはや驚かなくなった。それどころか、彼はただ患者に接し続けている。

「爆弾には麻痺してしまった」30歳の開業医は、アル・ナオ病院からAFPの電話インタビューに答えた。

遠くで銃声が鳴り響き、頭上で戦闘機が唸り、近くの砲撃が地面を震わせる。苦境に立たされた保健ワーカーたちは「続けるしかない」とムーサ医師は言う。

2023年4月以来、スーダンはアブドゥルファッターハ・アル・ブルハン陸軍大将と、即応支援部隊(RSF)のリーダーであるモハメド・ハムダン・ダグロ元副将との戦争によって引き裂かれている。

この戦争は数万人を殺し、1200万人を根こそぎにし、国際救済委員会の援助団体が「過去最大の人道危機」と呼ぶ事態を引き起こしている。

アル・ナオの圧迫された病棟の中では、紛争の犠牲者は驚異的である。頭、胸、腹部への銃創、重度の火傷、粉砕された骨、切断–わずか4ヶ月の子供でさえ–などである。

病院自体も被害を受けている。アル・ナオ病院を支援している国境なき医師団(MSF)によれば、致命的な砲撃が何度も病院の敷地を直撃しているという。

他の地域でも悲惨な状況が続いている。北ダルフールでは、最近ドローンによる攻撃で州都の主要病院で9人が死亡し、MSFは飢饉に見舞われた難民キャンプにある野戦病院からの避難を余儀なくされた。

スーダンの医療制度は、戦争前からすでに苦境に立たされていたが、今やほとんど崩壊している。
エール大学の人道研究ラボとスーダン米国医師会が提供し分析した衛星画像によると、ハルツーム州の87の病院のうち、半数近くが戦争開始から今年8月26日までの間に目に見える被害を受けた。

10月の時点で、世界保健機関(WHO)はスーダン全土で119件の医療施設に対する攻撃を確認したことを記録している。

MSFの人道問題アドバイザーであるカイル・マクナリー氏は、「民間人の保護は完全に無視されている」と述べた。
彼はAFPに対し、現在進行中の「医療に対する広範な攻撃」には、「広範な物理的破壊が含まれ、その結果、文字通り、そして比喩的に、医療サービスが低下している」と述べた。

スーダンの医師組合は、スーダン全土の紛争地帯で、医療施設の90%が閉鎖され、数百万人が必要な医療を受けられなくなっていると推定している。

紛争の双方が医療施設への攻撃に関与している。
医療組合によると、戦争が始まって以来、78人の医療従事者が職場や自宅での銃撃や砲撃によって死亡している。

組合スポークスマンのサイード・モハメド・アブドゥラー氏はAFPに語った。
「病院や医療関係者を標的にする正当な理由はない。医師は…患者と他の患者を区別しない」

医師組合によると、RSFは負傷者の治療や敵の捜索のために病院を急襲し、軍は国中の医療施設を空爆している。

11月11日、MSFは、南ハルツームで機能している数少ない病院のひとつであるバシャール病院を戦闘員が襲撃し、そこで治療を受けていた別の戦闘員を射殺したため、ほとんどの活動を停止した。MSF職員は、戦闘員はRSFの戦闘員だと考えているという。

戦争による死傷者が後を絶たないことに加え、スーダンの医師たちは、大量飢餓という別の脅威にも対応しようと奔走している。

ハルツームからナイル川を隔てた対岸のオムドゥルマンの小児科病院には、栄養失調の子どもたちが大挙してやってくる。

ある医師によれば、8月中旬から10月下旬にかけて、この小さな病院には1日に40人もの子どもたちが収容され、その多くが重体だったという。

「毎日、3、4人の子どもたちが亡くなっていました。その理由は、病気が非常に末期で複雑であったため、あるいは必要な医薬品が不足していたためです」と、その医師は安全を考慮して匿名を要求した。

国連によると、スーダンは数カ月にわたって飢饉の淵に立たされており、人口の半分以上にあたる2600万人近くが深刻な飢餓に直面している。

赤十字国際委員会のスポークスマンであるアドナン・ヘザム氏は、「医療施設に対する物資と人的資源の面で早急な支援が必要だ」と述べた。「それがなければ、すでに限られているサービスが急速に悪化する恐れがある」と彼はAFPに語った。

医師のムーサ氏にとって、「耐え難い」と感じる日もある。「しかし、やめるわけにはいかない」【12月18日 ARAB NEWS】
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戦場と化した国土はどこも「地獄」ですが、スーダンの場合もパレスチナ・ガザ地区に匹敵するような悲惨な状況です。しかし、それにしてはニュースなどで取り上げられることがあまりにも少ない。

【セルビア、ロシアや中国など6カ国から武器供給】
こうした国軍とRSFの戦闘がいつまでも続くのは、武器・弾薬を支援する形で“火を絶やさない”外国の存在があります。

****スーダン内戦、国外からの武器流入で世界最悪の人道危機に拍車 ****
深刻な人道危機が起こるスーダン内戦で、セルビア、ロシアや中国など6カ国から武器供給が事態を深刻化させている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、国連武器禁輸措置を迂回したスーダン西部ダルフール地方への流通ルートを明らかにした。

アムネスティ・インターナショナルが7月に公表した調査で、何千もの武器がスーダンに流入し、一部は2004年以降、国連の武器禁輸措置の対象地域であるダルフール地方にまで拡散していることが判明した。

(中略)国連は紛争の影響で、スーダンの人口の過半数が前代未聞の食糧不安に陥っているとして、両当事者による戦争犯罪を糾弾している。

アムネスティの報告書は、海外から絶え間なく流入する武器が紛争を煽っている」と指摘した。調査は約2000件の出荷記録と数千枚の画像を分析し、内戦当事者の双方が手にする武器を追跡した。

対スーダン武器輸出は国連の禁輸措置に違反
アムネスティ・インターナショナル・スイス支部広報担当者、ナディア・ボーレン氏は、「複数の国が武器貿易条約(ATT)に違反して、スーダンに武器を輸出している」と解説する。

拳銃やライフル銃などの小型武器、また装甲戦闘車両やドローン妨害機器、何百万発もの弾薬、さらには迫撃砲などのより重い武器も輸出されているという。

2014年に発効した武器貿易条約は、武器の使用が人権侵害を引き起こす可能性が高い国への武器輸出を禁じている。一方で、世界の違法な武器移転を追跡する調査団体スモール・アームズ・サーベイ(本部・ジュネーブ)のデータ責任者ニコラ・フロルカン氏はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)で、同条約の文書には違反した際に科す制裁は盛り込まれていないと指摘した。

アムネスティは、スーダンへの武器輸出国としてセルビア、ロシア、トルコ、中国、アラブ首長国連邦(UAE)、そしてイエメンの6カ国を名指しした。そのうち、イエメンとロシア以外は、武器貿易条約の締結国だ。

2024年1月には、国連のスーダン専門家グループによる複数の調査が、RSFを支援するUAEからの武器の供与を確認した。その経由地として、RSFの拠点があるダルフール地方に隣接するチャド東部のアムジャラス空港を特定したが、UAEはこの告発を強く否定している。

猟銃を軍事転用
同調査は、武器を紛争に利用するための迂回供給ルートが少なくとも二つ確認した。民間用途(狩猟やスポーツ射撃など)の武器のみならず、軍事転用される可能性のある刃物も輸出されていた。

スモール・アームズ・サーベイによると、軍事転用による武器の迂回供給は増加傾向にあり、欧州内でも確認されている。「警報用の銃の軍事転用は、欧州連合(EU)における違法な武器取引の主要因のひとつとして挙げられている」とフロルカン氏は強調する。

こうした武器の迂回供給への対策として、国連事実調査団、そしてアムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権擁護団体は、武器禁輸をスーダン全域に広げるよう呼びかけている。

アムネスティのボーレン氏は「ダルフール地方に限定された武器禁輸は、民間人への被害を阻止するにはまったく不十分だ。スーダンに武器を輸出すれば、ほぼ確実に人権侵害を犯すために使用される」と主張し、武器貿易条約の締約国または署名国に対し、スーダンへの武器輸出を厳格に規制するよう訴えた。

しかし、こうした呼びかけに対する国際社会の反応は鈍い。国連安全保障理事会は9月、ダルフール地方における武器禁輸措置を1年間延長したが、適用範囲はスーダン全域に広げなかった。

また、8月にスイスのジュネーブ地方で行われたスーダン内戦の停戦協議は、停戦合意に達することなく終了している。【12月7日  swissinfo】
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【国軍が軍事的に優位に・・・政府に接近するロシア、「勝ち」が期待できる戦争の停止を望まず】
関係国の中でも国軍へ接近するロシアは停戦交渉にも消極的ですが、どうやら軍事的に国軍が優勢となっており、このまま戦闘を続ければ「勝てる」と考えているようです。

****スーダン停戦決議にロシアが拒否権****
(11月)18日、国連安全保障理事会で、スーダンの停戦を求める決議がロシアの反対で否決された。決議は英国とシエラレオネが共同提案したもので、14ヵ国が賛成し、反対はロシアだけだった。

英国のラミー外相は、「一ヵ国の反対で理事会の意思が挫かれた。この国は平和の敵だ。ロシアの拒否権は恥ずべき行為だ.ロシアはまた、本当の顔をさらけ出した」と強く非難した。米国のトーマス・グリーンフィールド国連大使も、「ロシアはアフリカと協調するようなことを言っているが、アフリカ諸国が賛成する停戦決議に反対した」と述べた。

一方、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は、ロシアは紛争当事者による停戦を支持すると述べて、決議案を「ポストコロニアルの香りがする」と批判した。ロシアの拒否権に対しては、スーダン外相が「スーダン及びその国家機関の独立と統一を支持するものだ」と評価する声明を出している。

スーダン内戦は、国軍指導者ブルハーンと準軍事組織RSFの指導者ヘメティの対立を軸に動いてきたが、ロシアは最近になってブルハーン寄りの姿勢を強めている。スーダンに停戦を呼びかける前回の決議の際、ロシアは棄権している。

ブルハーンと国軍はRSFに軍事力で勝利できると踏んでおり、そのために国際社会による停戦呼びかけに消極的な態度を取るのだと考えられる。

10月に入って、国軍側が優位に立っているとの分析記事が掲載された(10月11日付ルモンド)。ロシアはスーダンに接近したい思惑があり、そうした情勢を理解した上で、国軍側に秋波を送っていると見られる。

18日、米国のスーダン特使Tom Perrielloが18日、ポート・スーダンを訪問してブルハーンと面会した。当然、国連をめぐる状況が議論になったと考えられる。

2023年4月にスーダン内戦が始まってから、既に1年半が経過した。世界で最も深刻な人道危機と言われ、ウクライナやガザを上回る数の死者や避難民が生まれているが、周辺国の介入や当事者の頑なな態度のために停戦が成立せず、人道危機が拡大し続けている。【11月21日 現代アフリカ地域研究センター】
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「勝馬」に乗るためには、民間人犠牲の戦闘継続も厭わない・・・残念ながらこれが現実です。

【多くのスーダン難民を受け入れる南スーダンも医療は逼迫  国民の約半数は人道支援が必要】
なお。今朝のTVニュースでは隣国南スーダンの医療状況を取り上げていました。
南スーダンは2023年には、スーダンの内戦から逃れて来た60万人余りの難民も受け入れていますが、もともと南スーダン自体が国際支援を切実に必要とする国ですから、多くの難民がスーダンから流入するその状況は想像に難くありません。

****南スーダンでの国境なき医師団(MSF)の活動は****
2011年7月に長年の内戦の末、独立を果たした南スーダン。和平合意や統一政府の発足後も多くの地域で不安定な情勢は続き、国内での戦闘や暴力によって大勢の人が命を落とす状況が続いています。

加えて大洪水や食料危機、病気の流行など複数の緊急事態も発生。2023年には、スーダンの内戦から逃れて来た60万人余りの難民も受け入れています。

人道援助を必要とする人は、人口の1240万人のうち590万人に達しました(2023年、国連人道問題調整事務所)。【12月11日 国境なき医師団】
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南スーダンも混乱と貧困のなかで病院職員への長期間賃金支払いが滞っており、医療スタッフのストライキも発生しているとか。

そのニュースの次は北イタリアかどこかの洞窟で女性洞窟研究者が滑落し、救助隊が百数十人駆けつけて奇跡的な救出を実現したという喜ばしいニュースでした。

一方で満足な医療を受けることもできず大勢が命を落とす国があり、いっぽうで、一人の事故救出におびただしい救出チームが派遣される・・・これまた「現実」です。まだ、よくある「木から下りられない猫救出」のニュースでなかっただけ救いか・・・
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シリア  現時点では穏健・寛容で正しいことを言っているHTS指導者 実際の統治は?

2024-12-18 23:26:28 | 中東情勢

(8日、群衆に向かって演説を行う「シャーム解放委員会」(HTS)の指導者ジャウラーニー氏【12月9日 CNN】)

【各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているものの、イスラエルのゴラン高原緩衝地帯侵攻は長期化の様相】
シリアの反体制派が首都ダマスカスに進軍し、首都を「解放」したと宣言した8日から10日間が経過。
日常生活は戻りつつありますが、一方 各地で治安悪化、武装集団の市民襲撃が相次いでいるとも。

****シリア アサド政権崩壊から1週間 戻りつつある日常生活、一方 各地で治安悪化 武装集団の市民襲撃相次ぐ****
(中略)記者 「市民は日常生活へと戻り始めていまして、お店も開いていまして、ショッピングに繰り出す市民の姿も多く見られます」

シリアの首都ダマスカスでは、すでに夜間外出禁止令が解除され、日常生活が戻りつつあります。一方で、各地で治安の悪化が懸念されています。

イギリスに拠点を置く「シリア人権監視団」は、中部ハマの郊外で武装した集団が民家を襲撃し、合わせて5人が殺害されたと伝えました。ハマ郊外では、別の場所でも11人が殺害されるなど、武装集団による市民襲撃が相次いでいるということです。

また、「シリア人権監視団」は、北部のアレッポや南部のスワイダなどでも市民が銃撃され死亡したと伝えています。【12月15日 TBS NEWS DIG】
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懸念されているシリア国内の各勢力の衝突は、現時点ではコントロールされているようです。

****トルコと米支援クルド勢力SDFの停戦、今週末まで延長=国務省****
米国務省のミラー報道官は17日、トルコとの国境に近いシリア北部のマンビジュ周辺における、米が支援するクルド人主体の組織「シリア民主軍(SDF)」とトルコとの間の停戦が今週末まで延長されたと発表した。先週、米政府が停戦を仲介したものの、期限切れになっていたという。

ミラー氏は、米政府は停戦が可能な限り長く延長されることを望んでいるとした。その上で「シリアの今後の道筋について、引き続きSDFやトルコと協議していく」と述べ、シリアでの紛争が激化することはどの当事者にとっても利益にならないとした。

SDFは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目指す米主導の連合と協力しているが、その中核である「クルド人民防衛隊(YPG)」について、トルコは国内で非合法化されている武装組織「クルド労働者党」(PKK)の派生組織と見なしている。

SDFのマズルム・アブディ司令官は17日、米国の監視下で治安部隊を再配置し、北部の都市コバニに非武装地帯を設置する案を提示する用意があると表明した。Xへの投稿で、提案はトルコの安全保障上の懸念に対処し、地域の恒久的な安定を確保することが目的だと説明した。

しかし、両者の戦闘は継続しており、SDFの別の声明によると、17日にはトルコが支援する部隊がコバニ南部の地域を攻撃した。【12月18日 ロイター】
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一方、イスラエルはこの機に乗じてゴラン高原緩衝地帯に進軍し、懸念材料になっています。ただ、イスラエルも「シャーム解放機構」(HTS)も互いに対決を起こす考えはないとはしています。

****「シリアとの対決に関心なし」=ゴラン高原入植拡大を承認―イスラエル首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は15日に公表した動画で、アサド政権崩壊後の対シリア政策について「変化する現場の現実によって決定する。シリアとの対決に関心はない」と強調した。

シリアの旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏は14日、シリアとの間に設けられた緩衝地帯に軍を展開させたイスラエルを批判。一方で、「シリアは長年の戦争で疲弊し、新たな紛争を起こすことはできない」と述べていた。

イスラエルのメディアによると、同国政府は15日、イスラエルが1967年の第3次中東戦争でシリアから奪った占領地ゴラン高原で入植者を倍増させる計画を承認した。4000万シェケル(約17億円)を投じ、インフラ整備を促進する。ネタニヤフ氏は「ゴランの強化は国家の強化だ」と訴えた。 【12月16日 時事】
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イスラエルの今回軍事作戦は長期化の様相も。

****イスラエル首相シリア視察 要衝の山、軍占領長期化か****
イスラエルのネタニヤフ首相は17日、シリア首都ダマスカスを望む要衝ヘルモン山の山頂のシリア側を視察し「安全が保証される別の取り決めが見つかるまで、この地にとどまる」と発言した。イスラエル軍はシリアのアサド政権崩壊の混乱に乗じてシリア側を制圧。「一時的な防衛措置」と強調していたが、占領を長期化させる可能性がある。(後略)【12月18日 共同】
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【「今のところ正しいことを言っている」HTS指導者】
こうした状況で、今後のシリアに最大の影響力を持つのは、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)、およびその指導者アフマド・アッシャラア氏がどのような統治を目指しているのか・・・という点です。

****シリア新政権樹立へ、反体制派アッシャラア氏が大きな影響力か…過去にアル・カーイダ参加も穏健姿勢を前面に****
シリアのアサド政権崩壊を受け、新政権の樹立に向けた動きが始まった。大きな影響力を持つとみられているのが、反体制派を主導し、アサド政権打倒を宣言したイスラム過激派組織「シャーム解放機構」(HTS)の指導者アフマド・アッシャラア氏だ。

中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラなどによると、アッシャラア氏は1982年、サウジアラビアで生まれ、シリアで育った。2003年に米英軍のイラク攻撃が始まると、米国を敵視してイスラム教スンニ派の過激派組織「イラクのアル・カーイダ」に加わったが、後に米軍に拘束され、5年間収監された。

00年に始まった第2次インティファーダ(反イスラエル蜂起)や01年の米同時テロが過激思想に向かわせたとの指摘もある。

11年にシリアで内戦に火が付くと帰国し、イスラム過激派組織「イスラム国」の前身組織の支援を受けて「ヌスラ戦線」を設立した。強権を振るうアサド政権の打倒を掲げて自爆攻撃や拉致を繰り返し、米国からテロ組織に指定された。

14年のアル・ジャジーラのインタビューでは「シリアはイスラム法に基づき統治されるべきだ」と述べ、アサド政権の中核を占めたシーア派の一派・アラウィ派やキリスト教徒ら少数派を認めない強硬姿勢を示した。16年に路線の違いからアル・カーイダと決別すると、他組織との統合の末、ヌスラ戦線をHTSに改組した。

この頃から軍服姿での露出を控え、自身や組織についた過激派のイメージ払拭ふっしょくを図り始め、穏健姿勢を示すようになったとされる。21年には米メディアのインタビューにも応じ、ブレザー姿で「HTSは西洋に脅威を与えない」と主張した。

首都ダマスカスを制圧した8日頃から、自身の名前も、アル・カーイダ加入後に使っていた通称の「アブムハンマド・ジャウラニ」から切り替え、本名を名乗り始めた。

8日には国営テレビを通じて「シリアは全ての人々のものだ」と述べ、宗教宗派を問わずに共生する融和姿勢を示した。国民や国際社会の支持を得る狙いがあるとみられる。

一方で、首都の著名なモスク(礼拝所)で8日に行った演説では「『イスラム国家』全体の勝利だ」と述べ、イスラム国家樹立への思いものぞかせた。

穏健姿勢への転向を「表面的」と見る向きは根強く、国連や米欧は今もHTSをテロ組織に指定している。シリアには旧アサド政権のほか、HTSなど複数の反体制派やクルド人勢力が支配する地域があり、各勢力を束ねて統治するには困難が伴うと予想される。

エジプトの研究機関「アラブ政治戦略学センター」のムフタル・ゴバシ副所長は「アッシャラア氏の出自を知った上で、今後の振る舞いを見ていく必要がある」と指摘した。【12月11日 読売】
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まだ10日間・・・ということで、今後の方向性はわかりません。
現時点での発言は「穏健」なものになっていますが、アフガニスタンで政権を打倒したタリバンも復権当初は比較的穏健な発言もあって、「以前のタリバンとは少し変わったのかも・・・」と期待もさせましたが、現状はかつてのタリバンと大差ありません。

“平和的協力を望むという武装勢力の主張をうのみにするのは間違いだろう。だが同時に、完全に無視していても戦争終結にはつながらない。”【12月18日 Newsweek】

【HTSの今後の動きを見守る欧米】
アメリカ、欧州は当面は注意深く見守り、その「穏健な」発言を実行に移すなら協力も・・・というところ。

****米軍はシリア駐留継続へ、IS壊滅目指す=ホワイトハウス高官****
米ホワイトハウス高官は10日、過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させるために、シリアのアサド政権崩壊後も米軍は同国に駐留を続けると表明した。(中略)

アサド政権を崩壊に導いた反体制派の主力組織シャーム解放機構(HTS)は国際武装組織アルカイダの流れをくみ、米国はテロ組織に指定している。

ファイナー氏は「このような組織については、政策の正式な変更はない」と述べ、テロ組織の指定は組織の発言や意図ではなく活動に基づいて決定するため行動を注視していくと説明した。

一方で、これらの組織が過去数週間に発言している内容の一部は「非常に建設的」だと評価した。その上で、そうした発言に「シリアに信頼できる包括的な統治」をもたらす行動が伴うかどうか見守ると述べた。

また、バイデン政権はトランプ次期大統領の政権移行チームメンバーと連絡を取り、シリアに関する情報を提供していると語った。【12月11日 ロイター】
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****シリア政権移行への干渉けん制=国民主導なら「承認」―米国務長官****
ブリンケン米国務長官は10日、反体制派がアサド政権を打倒したシリアについて声明を出し、政権移行作業への干渉を控えるよう各国をけん制した。シリア国民主導で新政権が発足すれば「承認し、全面的に支持する」と表明した。

ブリンケン氏は、2015年の国連安保理決議が定めたシリア国民主導の新憲法制定や選挙実施を目指す政権移行プロセスに言及。この移行作業を「信頼に足る、包括的で宗派によらない政府へとつなげるべきだ」と強調した。【12月11日 時事】 
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****EU、シリア制裁緩和の用意 前向きな措置実施なら=カラス上級代表****
欧州連合(EU)の外相に当たるカラス外交安全保障上級代表は16日、アサド政権崩壊後のシリアについて、新政権の下で包括的な政府が樹立され、女性や少数派の権利の尊重などの「前向きな措置」が講じられれば、EUは対シリア制裁の緩和を検討する用意があると述べた。

カラス氏はまた、シリア暫定政府を主導する「シャーム解放機構(HTS)」の幹部と会談するため、EUが高官をシリアに派遣したと明らかにした。

EUはこの日、ブリュッセルで外相会合を開催。カラス氏は会合後に記者団に対し、アサド政権の後ろ盾となっていたロシアとイランのほか、過激主義的な勢力はシリアの将来に関与すべきでないとの考えを示し、「(会合で)多くの外相が、シリア新政権はロシアの影響力排除を条件にすべきだと強調した」と述べた。

その上で「(シリアでの)過激主義や急進化は望んでいない」とし、「シャーム解放機構は今のところ正しいことを言っている」と言及。同時に、今後の行動に基づき判断していくとの考えを示し、「シリアの発展を支援するため、前向きな措置が見られた際に積極的に行動できるよう計画を準備しておく必要がある」と語った。【12月17日 ロイアー】
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「今のところ正しいことを言っている」・・・実行に移されるといいのですが。
12月17日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、来年1─6月に約100万人のシリア難民が帰国するとの見通しを示しています。
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アメリカ  新たな権力者へすり寄るテック業界大物たち 司法の場の流れも手繰り寄せるトランプ氏

2024-12-17 23:29:24 | アメリカ

(【12月16日 Newsweek】)

【トランプ氏への寄付金相次ぐテック業界大物 “絶好の機会”と見なしている】
権力者に企業経営者がすり寄るというのは「当たり前」かも。それをとやかく言うのは、すりよる術さえない貧乏人のひがみか。

ただ、連日のようにそうした動きが報じられると「なんだかな・・・」という感も。

****米メタがトランプ次期大統領の就任式に100万ドルを寄付 米報道****
フェイスブックなどを運営するアメリカIT大手のメタが、1月20日に行われるトランプ次期大統領の就任式に100万ドル(日本円でおよそ1億5000万円)を寄付したと、アメリカメディアが伝えました。 これはアメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が11日に伝えたものです。 

メタのザッカーバーグCEOとトランプ氏は11月末、フロリダ州にあるトランプ氏の私邸「マール・ア・ラーゴ」で会食したことがわかっていて、この場でメタ側が就任式に寄付する考えを伝えたということです。 

また、ザッカーバーグ氏がメタが開発する最新のスマートグラスのデモンストレーションを行い、トランプ氏にプレゼントしたとも伝えられています。 

トランプ氏は2020年の大統領選挙で、ザッカーバーグ氏がフェイスブックを操り、陰謀を企てたと主張していて、今年9月に発売された自身の著書の中では「今回、彼が違法行為をすれば、残りの人生を刑務所で過ごすことになる」などと圧力をかけていました。 

メタは過去2回の就任式でいずれも寄付をしていないということで、ウォール・ストリート・ジャーナルはメタによる寄付について、「険悪だった次期大統領との関係改善に向けた動き」と伝えています。【12月12日 TBS NEWS DIG】
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****米アマゾン、トランプ氏の就任基金に100万ドル寄付へ-メタに続き****
米アマゾン・ドット・コムは、トランプ次期米大統領の就任基金に100万ドル(約1億5300万円)を寄付すると、アマゾンの広報担当者が述べた。米メタ・プラットフォームズによる寄付に続くもので、テクノロジー大手は次期政権と良好な関係を築こうとしている。

トランプ氏は12日、CNBCとのインタビューで、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏とも来週会談すると述べた。

アマゾンの広報担当者によると、直接的な寄付に加え、100万ドル相当の現物寄付として就任式をストリーミング配信するという。また寄付は会社の資金から出す予定でベゾス氏が拠出するわけではないとした。(中略)

ベゾス氏は今月、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)主催のディールブック・サミットで、トランプ政権2期目について「非常に楽観的で、期待している」とし、「トランプ氏は規制緩和に多くのエネルギーを注ぎ込むようだし、私にその手助けができるのなら手助けするつもりだ」と語っていた。【12月13日 Bloomberg】
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*****米オープンAIのCEO、トランプ次期大統領の就任に100万ドル寄付を計画****
(中略)アメリカメディアは13日、オープンAIのサム・アルトマンCEOがトランプ次期大統領の就任式に向けた資金として100万ドル、日本円で1億5000万円あまりの寄付を計画していると報じました。 

アルトマンCEOは「トランプ氏がAI時代へとアメリカを導く。アメリカが優位に立ち続けるため、その取り組みを支援したい」としています。 

た、アマゾン・ドット・コムも同額の100万ドルの寄付を計画しているほか、フェイスブックのメタは既に100万ドルを寄付しています。 イーロン・マスク氏がトランプ氏の側近として影響力を強める中、IT大手各社がトランプ氏との関係改善を図ろうとしているものとみられています。【日テレNEWS】
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権力に近いとどんないいことがあるのか・・・イーロン・マスク氏の下記ケースなど見ると、100万ドルぐらい“安いもの”かも。

****「自動運転の事故報告義務」撤廃を提言 マスク氏経営のテスラにメリットか****
トランプ次期政権の移行チームは、自動運転車の事故の報告義務を撤廃するよう提言しました。トランプ政権で影響力を持つイーロン・マスク氏が経営する電気自動車大手テスラは、この報告義務に反対しています。

アメリカ道路交通安全局は、自動運転システムなどを搭載した車両の安全性の調査のため、事故の報告を義務付けています。

この報告義務についてトランプ次期政権の移行チームは、過剰なデータ収集だとして撤廃を提言したと、ロイター通信が報じました。

テスラはトランプ政権で影響力を持つイーロン・マスク氏が経営しています。
ロイターの分析では死亡事故45件のうち40件がテスラの車両だということです。 報告義務が撤廃されればテスラにメリットがあるとみられています。(中略)

トランプ氏の就任に際し、SNS大手のメタはすでに100万ドルを寄付し、オープンAIも100万ドルの寄付を表明するなど、IT各社が次期政権にすり寄る構図になっています。【12月14日 テレ朝news】
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まだまだ続きます。金融界からも。

****BofAとゴールドマン、トランプ氏就任委に寄付へ 金額未定****
米第2位の金融機関バンク・オブ・アメリカ(BofA)と投資銀行ゴールドマン・サックスは、トランプ次期米大統領の就任委員会に寄付する予定だと、各行の広報担当者が13日明らかにした。金額についてはまだ決まっていないとしている。

BofAと米金融大手JPモルガン・チェースは、トランプ氏の2017年の大統領就任に伴い寄付を行っている。JPモルガンはコメントを控えた。

連邦選挙委員会によると、就任委は開会式やパレード、舞踏会などの関連行事を企画し資金を出すが、宣誓式自体は対象外という。

BofAは、17年のトランプ氏および21年のバイデン氏の就任基金にそれぞれ100万ドルを寄付。JPモルガンは17年のトランプ氏就任時に50万ドルを寄付した。【12月16日 ロイター】
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こうなると寄付しないと「何か因縁つけられるかも」って不安になるかも・・・ヤクザのみかじめ料みたいなものか。

しかし、不安になるならまだしも、「億万長者たちが恐れているとは思えない。彼らはこれを絶好の機会と見なしていると思う」とも。

こうした動きに「節操がない」と眉をひそめる向きも。

****アルトマン、サッカーバーグ、ベゾス......テック界の富豪が次々と節操なきトランプ献金****
<テック業界の大物たちが次々にトランプの基金への高額寄付を表明。二期目のトランプの大胆な動きを見越して、チャンスに賭けているようだ>

テック業界の億万長者たちは列をなして、ドナルド・トランプ次期大統領の就任式関連の基金に寄付を表明している。ここ1年、テック業界を脅かしてきた人物に、すでに3人の大物が100万ドルずつの寄付を表明した。

「アメリカ人はトランプに投票した。彼を支持することは危険だという認識は......なかったようだ」と、モントリオール大学ビジネススクールのグウィネス・エドワーズ准教授(戦略経営学)は本誌に語った。

「億万長者たちが恐れているとは思えない。彼らはこれを絶好の機会と見なしていると思う」と、彼女は言う。

AI開発企業オープンAIのサム・アルトマンは13日、トランプ大の大統領就任式基金に100万ドルの寄付をすると発表した。メタの創設者兼CEOのマーク・ザッカーバーグ、アマゾンのジェフ・ベゾス会長も同じ約束をしている。

オープンAIの広報担当者は本誌に対し、基金への寄付はアルトマンの「個人的な寄付」であることを確認した。アルトマンは声明の中でこう付け加えた。「トランプ大統領はわが国をAIの時代へと導く。私はアメリカが一歩先を行くための彼の努力を応援したい」

トランプは、テスラ創業者でXのオーナーであるイーロン・マスクとのパートナーシップを通じてテック業界とのつながりを築いているが、その絆はこうした寄付によってさらに強固なものになるだろう。マスクは実業家のビベック・ラマスワミとともにトランプ政権で政府効率化省(DOGE)を率いることになっている。

寄付を発表した最初のテック・リーダーはザッカーバーグだったが、その決断に一部のリベラル派と保守派のコメンテーターから怒りの声が上がった。

ザッカーバーグはトランプと揉めた過去がある。新型コロナのパンデミックの際に、妻とともに選挙インフラを支援するために約4億ドルを寄付したが、一部の共和党員から、それはジョー・バイデンが2020年の大統領選挙で勝利するための裏工作だと非難された。

だが、今回のザッカーバーグの発表の次の日に、ベゾスが寄付を発表した。政治雑誌ニュー・リパブリックはこの動きを事実上、トランプに「膝を屈する」決断と呼んでいる。

ベゾスはまた、今年の大統領選において、特定の大統領候補への支持表明は「偏見の認識」を生むと主張。自分が所有するワシントン・ポストがカマラ・ハリス候補を推薦する動きを阻止する決定を下し、おおいに批判された。

ベゾスは自身の決断を説明する論説の中で、「支持候補の表明をやめることは、原則に基づく決断であり、正しい決断だ」と書いている。ポスト紙の元編集長を含むトランプ批判派は、この選択を「臆病」、「憂慮すべき」、「意気地なし」と呼んだ。

セールスフォースのマーク・ベニオフCEOなど、他のテック業界のリーダーたちも選挙中からトランプを支持しており、就任式に向けて同様の資金援助を表明する可能性がある。

サンフランシスコ・クロニクル紙とのインタビューで、ベニオフはトランプの当選を「新たな序章へのチャンス」と呼んだ。「大統領の成功を願うのは当然のことだと思う」

エドワーズは、テック業界のリーダーたちは、トランプの大統領就任を前に、ある選択を迫られていると主張した。「多数派に従ってゲームに参加し、何かを得られることを期待するか、それとも静観するか」という選択だ。

「トランプに反対する立場を取ることは、常にリスクを伴う。選挙の勝利が、トランプをつけあがらせている」と、エドワーズは説明した。「彼は自分のレガシーを重視し、自分の名声を強固なものにするために大胆な動きをする可能性が高い」

エドワーズはトランプを「使命に燃える男」と評し、「テック業界の億万長者にとってはトランプ列車に飛び乗ったとして、失うものは何もない」と述べた。【12月16日 Newsweek】
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ついでに言えばソフトバンク・孫正義CEOも。こちらは寄付ではなく投資ですから「同列に扱うな」と怒られそうですが。

****ソフトバンク孫正義CEO トランプ次期大統領と会談へ 米国内への1000億ドル=15兆円投資と10万人の雇用創出を表明か****
アメリカ・CNBCによりますと、トランプ次期大統領と会談するソフトバンクの孫正義CEOが、▼アメリカに1000億ドルをソフトバンクが投資することや、▼AIの関連分野で10万人の雇用創出を表明する見通しであることがわかりました。

孫CEOは、16日にフロリダ州のトランプ氏の邸宅で会談する予定です。【12月17日 TBS NEWS DIG】
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【司法の場の流れもトランプ氏へ】
権力にすり寄るのは億万長者だけではないようで、すべてがトランプ氏を軸に、かれにとっては都合のよい形で回り始めたようにも。司法の場での流れも変わったようです。

****トランプ氏とABCニュース和解 名誉毀損で「異例の勝利」****
アメリカのトランプ次期大統領が名誉を毀損(きそん)されたとしてABCニュースを相手取り起こした訴訟で、ABC側が23億円余りを寄付する形で和解が成立したことが分かりました。

ABCニュースの司会者ステファノプロス氏が、3月に放送された番組で「トランプ氏は女性作家をレイプした責任がある」と言及したことを受けて、トランプ氏側は名誉を毀損されたとして提訴していました。

トランプ氏が、女性作家に性的暴行を行ったなどとして損害賠償の支払いを命じられた民事訴訟では、レイプについては証拠の裏付けが不十分だと判断されています。

フロリダ州の裁判所に提出された和解文書によりますと、トランプ氏が今後設立する財団と博物館にABC側が1500万ドル=23億円余りを寄付することなどを条件に和解が成立したということです。

トランプ氏はこれまでにも自身に批判的なメディアを標的に複数の訴訟を起こし、いずれも敗訴していましたが、ニューヨークタイムズはトランプ氏の「異例の勝利」だと伝えています。
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トランプ氏に関する起訴についても、トランプ氏側の時間稼ぎ戦術がまんまと奏功し、大統領当選をもってほとんどが雲散霧消したみたい。

****検察がトランプ氏への起訴取り下げ求める 議会乱入事件など****
アメリカ司法省の特別検察官は、およそ4年前の連邦議会乱入事件についてトランプ次期大統領に対する起訴の取り下げを求める書面を裁判所に提出し、認められました。特別検察官は大統領の在任中の訴追、起訴は行わないとする司法省の立場に沿った判断だと説明しています。

アメリカ司法省の特別検察官は25日、2021年1月の連邦議会乱入事件をめぐってトランプ次期大統領が国家を欺こうとした罪などに問われた事件について、起訴の取り下げを求める書面を連邦地方裁判所に提出し、裁判所はこれを認めました。

また、大統領退任後に最高機密を含む文書を不正に自宅で保管していたとされる事件についても控訴を取り下げるよう、連邦控訴裁判所に書面で申請しました。

書面の中で、特別検察官はいずれの事件についても「訴追した判断に変わりはない」などとしながらも「憲法により大統領の在任中の訴追、起訴は禁じられている」とする従来の司法省の立場から、トランプ氏の2025年1月の就任前に起訴の取り下げが必要だと判断したと説明しています。

書面には大統領の任務の遂行は妨げられてはならないという憲法上の要請と「何人も法を超越しない」という法の支配の原則が相反するものになったとも記されていて、難しい判断だったことをにじませています。

一方で、トランプ氏が次の任期を終えた後、起訴する権利を妨げないことを裁判所に求めました。

事件の捜査を担当するスミス特別検察官は、トランプ氏の大統領就任の前に辞任する意向を示していると報じられています。

トランプ次期大統領「勝利した」
特別検察官が2つの事件で自身に対する起訴の取り下げを裁判所に申請したことについてトランプ次期大統領はSNSに投稿しました。

この中でトランプ氏は「これらの裁判は私がこれまで経験してきたほかの裁判と同じように中身のない、法に基づかないもので、決して起こされるべきではなかった。民主党が私という政治的な対立相手と闘うために1億ドルを超える納税者の資金がむだになった」と批判しています。

その上で「これは政治的なハイジャックでわが国の歴史における最悪の事態だ。それでも私は粘り強く闘い、あらゆる逆境に負けず、そして勝利した」としています。

トランプ次期大統領をめぐるほかの刑事裁判は
トランプ次期大統領が、不倫の口止め料をめぐって有罪の評決を受けたニューヨーク州の裁判については、裁判所が26日に予定していた量刑の言い渡しを延期しています。

来月以降、裁判所が検察・弁護側双方の意見などを踏まえ、量刑の言い渡しをトランプ次期大統領の4年の任期の終了後までさらに延期する可能性や、裁判手続きを取りやめる可能性があります。

このほかトランプ次期大統領は2020年の大統領選挙で敗れた際に、南部ジョージア州の州政府に圧力をかけて結果を覆そうとした罪に問われていますが、手続き上の理由で審理は進んでいません。【11月26日 NHK】
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 議会乱入事件は本来、民主主義国における大統領の資格の有無に直結する裁判ですから、大統領選挙に入る前に白黒つけておくべき類の話だったと思いますが・・・

政治的意味合いは比較的薄い不倫口止め裁判については、かろうじて評決を破棄するよう求めたトランプ側の申し立てが棄却されたとか。

****トランプ氏不倫口止め裁判 判事が大統領免責特権を認めず申し立て棄却****
アメリカのトランプ次期大統領が有罪評決を受けた不倫口止め裁判を巡って、ニューヨーク州の判事は、評決を破棄するよう求めたトランプ側の申し立てを棄却しました。

大統領経験者として初めて有罪評決を受けたトランプ氏の不倫口止めを巡る裁判は量刑の言い渡しが延期されていますが、トランプ氏側は今月、ニューヨーク州の裁判所に対し、「大統領職に混乱が生じる」として評決を破棄するよう求めていました。

これに対してニューヨーク州の判事は16日、大統領の免責特権を認めずトランプ氏側の申し立てを棄却し、有罪評決は有効だとする判断を示しました。

量刑が言い渡されるべきかどうかなど、今後の裁判の進行については言及していません。【12月17日 テレ朝news】
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テック業界の億万長者にしろ、司法の場の流れにしろ、トランプ氏に草木もなびく昨今のようです。日本流に言えば「選挙でみそぎを済ませた」ということか。あるいは「勝てば官軍」といったところか。


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トランプ関税に交錯する「不安」と「思惑」

2024-12-16 23:23:21 | 経済・通貨

(【12月3日 矢嶋 康次氏 ニッセイ基礎研究所】 より大きな赤字をもたらしている国ほど狙われやすい・・・・ということにも その点ではベトナムは要注意 日本は以前に比べると重要性が低下)

【カナダ首相を「カナダ州知事」と揶揄 メキシコ大統領は報復関税に言及】
“トランプ氏は11月25日、就任初日にメキシコとカナダの輸入品すべてに25%の関税を課し、中国には追加で10%の関税を課すことを表明した。トランプ氏は選挙期間中、すべての中国品に対して最大60%の追加関税を課す考えを示して来た。日本やそれ以外の国に対しては10-20%の関税を課し、メキシコからの輸入自動車に対しては200%超の関税を課すことを主張していた。”【12月3日 ニッセイ基礎研究所】

“タリフマン(関税男)”ことトランプ次期大統領の動きに中国はもちろんですが、その他の国々も戦々恐々といったところ。

カナダ・トルドー首相は早くも足元を見られたような状況。

****トランプ氏、トルドー首相をやゆ「カナダ州知事」****
ドナルド・トランプ次期米大統領は10日、隣国カナダのジャスティン・トルドー首相を「カナダ州知事」とやゆした。

トランプ氏は真夜中すぎ、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「先日、偉大なカナダ州のジャスティン・トルドー知事と夕食を共にすることができて光栄だった」「近いうちに知事に再会し、関税や貿易に関する深い協議を続けられることを楽しみにしている」と投稿した。

トランプ氏は来年1月に就任後、カナダからのすべての輸入品に25%の関税を課すと脅した後にフロリダ州でトルドー氏と会談した際にも、カナダが「米国の51番目の州」になることを提案したと報じられている。

FOXニュースによれば、トランプ氏はトルドー氏に対し、カナダが25%の関税に耐えられないのであれば、米国に吸収されるべきだと述べた。

カナダのマーク・ミラー移民・難民・市民権相はトランプ氏の投稿について記者団に問われると、TVアニメ「サウスパーク」に言及し、「まるでサウスパークのエピソードを生きているようだ」と述べた。

1999年の劇場版では、米国とカナダが全面戦争に突入。米国人の登場人物たちはカナダを非難して挿入歌「ブレイム・カナダ」を歌う。

カナダのクリスティア・フリーランド副首相兼財務相は、記者団にトランプ氏はカナダが米国の一部となることを真剣に望んでいると思うかと問われると、「それは明らかに、次期米大統領に聞くべき質問だ」と答えた。 【12月11日 AFP】
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トランプ氏はこの悪い冗談が気に入っているようで、11月29日に南部フロリダ州の私邸でトルドー首相と会談した際にも・・・

“トルドー氏は、関税によってカナダ経済が完全に破綻すると再考を求めた。
これにトランプ氏は、米国から巨額の利益をむしり取らなければ生き残れないのかと反論。カナダが「米国の51番目の州」になるべきだと畳み掛けた。”【12月4日 産経】

カナダ同様に輸入品すべてに25%の関税、自動車に対して200%超の関税・・・と言われているメキシコは、今のところ強気姿勢で報復関税に言及しています。

****メキシコ「トランプ関税で40万人の米雇用喪失」、報復関税も検討****
メキシコのシェインバウム大統領は27日、トランプ次期米大統領がメキシコからの全輸入品に25%の関税を課す方針を実施した場合、米国の40万人の雇用が失われる可能性があると警告した。また、報復関税を導入する構えも示した。

シェインバウム大統領は定例会見で「米国が関税を課せば、メキシコも関税を引き上げるだろう」と述べ、報復措置導入を明言した。

エブラルド経済相も関税により米国で大規模な雇用喪失や成長率の低下が起き、メキシコに生産拠点を持つ米企業が支払う税金が実質的に倍増することで大きな打撃を受けると警告した。【11月28日 ロイター】
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【トランプ関税の米経済、世界経済への影響】
トランプ関税の米経済自体への影響などについては、以下のようにも。(あくまでも「予想」のレベルですが)

****トランプ関税劇場の号砲****
11月25日、米国のトランプ次期大統領は自身のSNSにて「就任初日に対中関税を10%、対メキシコ・カナダ関税を25%引き上げる」と表明した。

とはいえ、当事者間の交渉によって引き上げが保留される、或いは大幅な除外措置がとられる可能性があるなど、今後の不透明感は強い。

仮に同関税措置がトランプ氏の言及通りに実現する場合、米国のインフレ率は約+0.2%pt加速し、中期的なGDP水準は-0.2%押し下げられると試算できる。

また、関税の対象国が日本やEUへと波及しそれぞれが報復措置に踏み切る場合、米国GDPへの影響は-1.2%まで拡大する。

世界経済への影響を巡っては、関税引き上げによる中国、メキシコ、カナダの対米輸出減少の影響がサプライチェーンを通じて各国に波及し、中期的なGDP水準を-0.1%押し下げる見通しだ。他国が報復措置に踏み切る場合、こうした下押し幅は-0.2%まで拡大する。【12月5日 第一生命経済研究所】
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【ベトナム 近年対米黒字拡大で「次の標的」を懸念】
一方、米中貿易戦争以降、一番恩恵を受けてきた国の一つがベトナムですが、対米貿易黒字が膨らんでいることから、トランプ氏が同国を次の関税の標的にする可能性があるとの懸念が業界関係者やアナリストの間で広がっています。

****米中対立の漁夫の利を得ていたベトナム****
ベトナムは近年、対米貿易黒字で中国、メキシコ、欧州連合(EU)に次ぐ第4位であるが、これは世界の製造業がトランプ関税の影響を避けるために中国から工場を移したからである。しかし、この「チャイナ・プラス・ワン」の成功は、ベトナムを脆弱な立場に追いやった。
 
ベトナム経済は、輸出の30%近くを占める米国に大きく依存している。ベトナムは今後、特に中国への関税を回避するために同国を経由する製品について、厳しい監視を受ける可能性が高い。

トランプは今回の大統領選挙でベトナムについて言及しなかったが、かつてベトナムについて「唯一最悪の悪用者」、「中国よりも更にひどく我々を利用している」などと発言したことがある。

ベトナム政府関係者は、トランプ大統領の貿易敵視政策がもたらす潜在的リスクをよく理解している。
東南アジア全体が米中貿易戦争の恩恵を受けるなか、ベトナムほど投資誘致に成功した国はない。ベトナムの成功は、中国に近いという優位性、ビジネス・フレンドリーな政策と優遇措置のおかげだ。

2023年のベトナムへの外国投資は366億ドル。ベトナムの対米貿易黒字は1040億ドル以上に急増し、トランプ大統領が就任した17年の380億ドルの約3倍となった。

トランプ退任後、米越関係は強化されてきた。両国は昨年、越政府が与える外交関係の最高レベルである「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げした。バイデン政権はまた、中国による先端チップ製造へのアクセスを制限するキャンペーンの一環として、ベトナムでの半導体生産を後押しする取り組みを支援してきた。【12月16日 WEDGE】
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****ベトナム、対米貿易黒字急増で関税リスク高まる 業界に懸念****
(中略)ベトナムにはアップル、グーグルの親会社アルファベット、ナイキ、インテルのような米国の多国籍企業が大規模な拠点を置いており、対米黒字が中国、欧州連合(EU)、メキシコに次いで4番目に多い。

米商務省が5日発表した貿易統計によると、1─10月の対ベトナム貿易赤字は1020億ドルと、前年同期比約20%増加した。

貿易調査団体のハインリック財団の貿易政策責任者デボラ・エルムズ氏は「トランプ氏にとって主要な指標は貿易赤字であり、ベトナムの数字は望ましくない」と指摘。ベトナムは米国に対して簡単には報復できないため、トランプ政権が早期に行動を起こす理想的な対象との見方を示した。

米商工会議所が先週、ハノイで主催したビジネス会議で上映されたビデオで、トランプ氏の息子で最高顧問のエリック氏は米国から「不当な利益を得た」国の一つにベトナムを挙げた。

この会議で企業や通商団体の関係者らは、米国がベトナムに関税を課す可能性について懸念を表明した。(中略)

ベトナムは液化天然ガス(LNG)や医薬品、航空機などの輸入を増やすことで、対米貿易黒字を減らせるとの見方もある。しかしエルムズ氏は「ベトナムが黒字を大幅に削減するために、迅速かつ十分な規模を輸入できる状況にあるとは思わない」と語った。【12月6日 ロイター】
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もっとも、トランプ次期政権が中国との対決姿勢を強める場合、南シナ海において中国と対峙するベトナム・フィリピンはアメリカにとって重要なパートナーともなりますので、そうした安保保障的な観点から、ベトナムへの圧力は緩められる・・・との観測もあります。

【東南アジア諸国 対中国高関税で「漁夫の利」的に相対的優位となることへの期待も】
また、ベトナムに限らず東南アジア諸国には、仮に関税が引き上げられても、劇的に高くなる中国に比べたら相対的に有利になる・・・との見方も。

****東南アジア諸国「トランプ関税」に戦々恐々、タイでは7015億円損失の試算****
東南アジア諸国連合(ASEAN)で、米国のトランプ次期大統領の貿易政策に対する警戒と期待が交錯している。「トランプ関税」による打撃が東南アジアに及ぶとの懸念が広がる一方、中国から東南アジアへの生産拠点の移管につながることへの期待も根強い。

「漁夫の利」
(中略)東南アジア各国は米国が有力な貿易相手国という国が多い。例えばタイの2023年の輸出総額は2850億ドル(約43兆6000億円)だが、このうち米国向けは17%を占め、国別では最多だ。

タイ商工会議所大学はトランプ氏が公約通り関税を引き上げた場合、「タイ経済は最大45億8480万ドル(約7015億円)を失う」と試算しており、ペートンタン首相は「輸出を支える必要性は認識している」と対策を講じる方針を示す。

アジア開発銀行(ADB、本部・マニラ)は12月に改定した最新の経済見通しで、「米国の貿易政策の変更がアジア・太平洋地域の成長を鈍化させる可能性がある」と懸念を示した。

一方、カンボジアの英字紙クメール・タイムズは11月、カンボジア商工会議所幹部の「米中貿易戦争が中国企業のカンボジアへの投資を加速させる」との発言を伝えた。米国が対中関税を大幅に引き上げれば、関税が相対的に低くなるカンボジアに生産拠点を移す企業が増える「漁夫の利」を期待したものだ。ベトナムでも同様の見方が広がる。【12月15日 読売】
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現段階では全ては不安と思惑ですが、今後次第に「現実」に。

【日本経済への影響  米中ガチンコ勝負ならアメリカにとって日本の協力も重要 一方、その余波は日本にとっても深刻】
日本も影響を避けられませんが、「不安」と「思惑」が交錯。

****日米貿易交渉の課題-第一次トランプ政権時代の教訓*****
1――トランプ関税による日本への影響は?
(中略)米国を代表するシンクタンクの1つであるピーターソン国際経済研究所の試算によると、米国が2025年に貿易相手国すべてに10%の追加関税を発動し、相手国から報復がないという前提のもとで、日本への影響はベースライン対比の実質GDP成長率が、2年目で▲0.14%減少と他国対比の影響は小さくなっている。

ただ、相手国からの報復措置や中国の最恵国待遇を取消し、中国に60%の追加関税を発動するなどすれば、この数倍の影響が出てくるだろう。今後の展開は、米国の要求次第で変わり得る。
日本としては、米国との交渉を通じて影響を減らす努力が必要となるが、それができなかった場合には、日本企業の米国流出が加速することも想定される。

米国が関税引き上げなど、ある意味で意地悪をしてきたとき、8年前であれば中国市場という逃げ場が残されていたが、分断が深まる世界ではそうした選択肢を選ぶことはできず、日本企業は意地悪をされても米国市場に向かわざるを得ないだろう。

そうなれば、米国の言う通り、日本企業は米国に工場を移転し、競争力の源泉である自動車や半導体などの産業を、国外に出していくことになる。

その結果、生産や雇用は米国に流出し、日本への利益還元も悪くなる。日本としては、こうした悪い流れを作らない交渉と企業を強くする産業政策を、セットで推進して行く必要がある。

2――第一次トランプ政権時代、結果として日本の交渉はうまく行った
今回、米国が何を要求して来るかなど、不確定要素は大きいものの、8年前の第一次トランプ政権時代に行ったような交渉ができれば、日本への影響を小さくできる可能性はある。前回は、日本にとって肝になる自動車・自動車部品への関税引き上げを先送りできた。(中略)

合意では、武器購入や防衛費増額など安全保障面での協力を約束し、次の選挙をにらんで米国から要望が強かった牛肉や豚肉など農産品の市場開放で、TPP水準までの関税引き上げに応じている。ただ、日本にとって一番痛い自動車への追加関税の発動を回避することができ、コメの輸入枠導入も先送りすることができた。

3――今回交渉のポイントと見通し
前回合意した日米貿易協定では、第2段階の貿易交渉が棚上げされた状態にある。米国からは農産物などの市場開放とともに、自動車に対する要求が出て来るだろう。とりわけ自動車分野では、非関税障壁の撤廃や輸出数量規制、原産地規則の厳格化といった話が出てくる可能性は考えられる。また、為替の話が出てくる可能性も否定できない。対米輸出で黒字を稼ぐ日本にとって、厳しい交渉になることが予想される。

ただ、日米関係に重きを置いた交渉ができれば、守り一辺倒というわけでもない。日米通商協議が始まった2018年対比でみると、直近2023年の対日貿易赤字は確かに広がっているものの、米国の貿易赤字に占める日本の割合は低下し、国別順位で見ても低下している。

また、対米直接投資では、日本が5年連続最大の投資元であり、投資残高も拡大している。防衛費も大きく拡大し、GDP対比でみた防衛関係費も2018年対比で0.38pt上昇している。それに伴い、米国からの防衛装備品の購入も拡大し、米軍基地駐留経費の負担額も増加している。

米国にとって安全保障面における日本の重要性は増している。前回の交渉時には、ここまで厳しい米中対立には発展していなかった。

米国が中国とのデカップリングを目指すとすれば、日本との関係は8年前より重要になったと言える。それを踏まえれば、日米関係が決定的に損なわれる事態が生じるとの懸念は、それほど心配しなくて良いかもしれない。

ただ、8年前と違って、第3国と米国との間で生じる間接的な問題が、日本により大きく影響する可能性があることには注意を要する。

4――メキシコの自動車、中国の半導体の行方は、日本にとって影響が大きい
トランプ氏は、メキシコから入ってくる自動車の関税引き上げを梃子に、不法移民問題を動かそうとしている。さすがに、選挙期間中に主張していた200%超の関税発動はないだろうが、それなりの関税引き上げには動きそうである。

日本の自動車会社の多くは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を前提に、安価な労働力を活用できるメキシコに工場を立地し、そこで作った製品を米国に輸出している。

外務省の調査によれば、メキシコに進出した日系企業の拠点数は1,500近くある。トランプ氏が、大統領権限などを用いて、メキシコにも関税を掛けるようになれば、現地生産のメリットは失われる。サプライチェーンの組み換えが発生し、日本の自動車会社には大打撃になる。

さらに、米中がガチンコでやり合った場合、日本から見て輸出割合の高い中国向けの輸出が、さらに鈍ることも考えられる。日本の対中輸出品目では、半導体製造装置や電子部品が大きな割合を占めている。先端品から汎用品まで規制対象が広がれば、対中輸出で稼ぐ日本のビジネスも影響を受けざるを得ない。

ただ、不法移民問題で発動されるメキシコの自動車関税や、米中覇権争いの中で発動される中国の半導体規制は、日本としてどうしようもできない面がある。日本ができるのは、日米交渉をうまくやることだけである。

「守り」については、米国や同盟国との意思疎通を今まで以上に緊密なものとし、「攻め」については、日本の再評価と言う良い流れを活かす産業政策の推進が、これから極めて重要になって来るだろう。【12月3日 矢嶋 康次氏 ニッセイ基礎研究所】
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あまり「安心」できるような記事ではありませんが、対米黒字が拡大しているベトナムと違って、幸か不幸か日本の対米黒字割合は相対的には小さくなっている、つまりアメリカにとってさほど重要な標的ではなくなっていること、中国と殴り合いをやるつもりなら、日本の協力が重要なこと・・・あたりは「安心」材料

不法移民問題で発動されるメキシコの自動車関税や、米中覇権争いの中で発動される中国の半導体規制が本格化すると、日本もその嵐の中に・・・といったあたりが「不安」材料といったところのようです。
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