孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  米のウクライナ停戦からの欧州排除・今後の欧州への関与逓減方針を受けて対応を協議

2025-02-17 23:31:07 | 欧州情勢

(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の終結に向けて、アメリカ・トランプ政権とヨーロッパ各国との立場の隔たりが浮き彫りになる中、ヨーロッパ各国の首脳がフランスに集まり緊急の協議を行うことになりました。【2月17日 NHK】 ちょうど今頃(日本時間 17日22時30分)会議が行われている時間でしょうか)

【トランプ政権 欧州から手を引いて対中国に専念する方針】
トランプ政権のウクライナ戦争停戦に向けた動きが加速しています。流れは基本的には米ロ主導で、ウクライナは基本線が定まった段階で参加、欧州は蚊帳の外・・・といったところ。

****ロシア・ウクライナ戦闘終結に向け トランプ政権「4月20日までに停戦目指す」方針****
ロシアとウクライナの戦闘終結に向けた交渉がサウジアラビアで始まる見通しの中、アメリカのトランプ政権が4月20日までに停戦を目指す方針であると報じられました。

ブルームバーグ通信は16日、トランプ政権がヨーロッパ諸国の政府関係者に対し、4月20日のイースター=復活祭までにウクライナでの停戦を目指す方針を説明したと報じました。

サウジアラビアで行われる戦闘終結に向けたアメリカとロシアの間の交渉は「18日に行われる」とロシアの新聞コメルサントが伝えていて、協議に参加するアメリカのウィットコフ中東担当特使は、「まずは信頼関係の構築をはかる」と話しています。

アメリカ トランプ大統領
「(Q.ゼレンスキー大統領も協議に関与していきますか)ええ。彼は関与していきます」

トランプ大統領は戦闘終結に向けた交渉に、ウクライナのゼレンスキー大統領も関与するとの考えを示しました。

自身とプーチン大統領のサウジアラビアでの首脳会談については、「日程は決まっていないが、すぐにでも行われるだろう」との見通しを示しています。(後略)【2月17日 TBS NEWS DIG】
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2月18日にはサウジアラビアで高官による協議、近いうちにトランプ・プーチン会談、その後ぐらいにトランプ・ゼレンスキー会談をはさんで4月20日(復活祭 イースター)で停戦。 あくまでもすんなりと事が運べば・・・ですが。

ロシア・プーチン大統領は80周年の節目にあたる5月9日の対独戦勝記念日で国内的に実質勝利宣言・・・といった流れでしょうか。

この流れで目立つのはトランプ政権のウクライナも含めた欧州軽視・・・というか無視。

****和平交渉、欧州に「席なし」 トランプ政権特使が明言****
トランプ米政権のウクライナ・ロシア担当特使ケロッグ氏は15日、トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と合意したロシアとウクライナの和平交渉開始を巡り、欧州は参加しないとの認識を示した。

交渉のテーブルに欧州の席はあるかと問われ「ない」と明言した。ロシアに有利な形で交渉が進むことへの欧州の懸念に拍車がかかりそうだ。(後略)【2月16日 共同】
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****米バンス副大統領 欧州は民主主義を損ねていると痛烈に批判「基本的価値観で後退」****
アメリカのバンス副大統領はSNSへの規制などを巡ってヨーロッパ各国が民主主義の価値を損ねていると痛烈に批判しました。

バンス副大統領
「ヨーロッパに関して、最も懸念しているのはロシアでも中国でもない。懸念すべきは内側にある脅威だ。ヨーロッパはアメリカと共有する最も基本的な価値観で後退している」

バンス副大統領は14日、ドイツで開催された安全保障の国際会議で演説し、ヨーロッパ各国で進むSNSへの規制などについて反対派を検閲した冷戦時代の共産主義体制を彷彿させると指摘し、民主主義の価値を損ねていると批判しました。

また、表現の自由について政治的に異なる意見を排除しなかったために「アメリカはトランプ氏を大統領に選出できた」と誇示しました。(後略)【2月15日 テレ朝news】
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欧州から手を引いて対中国に専念するというトランプ政権の基本的方向を端的に語ったのが、13日にブリュッセルで開催されたNATO国防相会合でのヘグセス米国防長官。

****ヘグセス米国防長官、ウクライナNATO加盟「非現実的」 平和維持へ米軍を派遣しない****
北大西洋条約機構(NATO)は13日、ブリュッセルで国防相会合を開いた。今回が初参加のヘグセス米国防長官は、ロシアに侵略されたウクライナのNATO加盟を否定する一方、ウクライナ支援でNATOの負担増を要求。

米国の戦略的資源を対中国に全面投入したい思惑からウクライナ戦争の幕引きと欧州安保からの離脱を急ぐトランプ米政権の下で、NATOの結束は早くも揺さぶられた。

NATOのルッテ事務総長は13日、米露首脳がウクライナ戦争の終結交渉の早期開始で合意したことに関し「交渉は恒久的な和平を実現させるものでなければならない」とした上で、ウクライナがより「強い立場」で交渉に臨めるようNATOによる支援継続の重要性を強調した。

また、交渉の過程では「ウクライナの密接な関与が不可欠だ」と指摘した。

一方、ヘグセス氏は同日、「ロシアの戦争機構に立ち向かうのは欧州の責任だ」と述べ、欧州の加盟国に国防費の大幅な増額を求めた。

ヘグセス氏は12日、ウクライナで停戦が実現した場合は同国への安全の保証が必要だと認めつつ、同国のNATO加盟は「非現実的だ」と一蹴。ウクライナの平和維持活動をNATO任務とせず、欧州を中心とする有志国が軍を展開すべきだとし、米軍を派遣しないとも明言した。

ルッテ氏によると、NATO加盟国によるウクライナに対する2024年の軍事支援の総額が500億ユーロ(約7兆8千億円)を超えた。支援額の半分以上は「欧州の加盟国とカナダからの拠出だ」としている。

ルッテ氏は「ウクライナへの軍事支援を平等化すべきだとするトランプ米大統領の主張に同意する」と強調しつつ、欧州の加盟国がウクライナ支援を既に実質的に牽引(けんいん)していることを訴えた。

NATOは昨年7月の首脳会議で、24年に400億ユーロ規模の軍事支援を供与すると表明。ルッテ氏は支援の規模を維持したい考えだが、ヘグセス氏は「米国の最優先課題は中国をインド太平洋地域で抑止することだ」とし、米国が欧州の安全保障への関与を減らす立場を明確に打ち出した。【2月13日 産経】
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【停戦後のウクライナにおける停戦監視維持は欧州に】
こうした基本認識のトランプ大統領にすれば、内容がロシア寄りだろうが何だろうが、「現実的」な線でとにかく早期に(中間選挙に向けて米国内にアピールできる)「停戦達成」という実績さえ作れればそれでよし、あとは米軍は派兵しないので欧州が自分の責任で好きにすればいい、・・・といったところかも。

****トランプ氏は「停戦でどちらが得しようが二の次」…中林美恵子教授が指摘****
(中略)米国防長官が米軍の派兵を否定したことについて、倉井氏は「米軍が衛星の情報や戦闘機を提供するということがないと、持続性のある合意は期待しがたい」との見方を示した。

(早稲田大学教授)中林氏は「トランプ大統領は、プロセスや大義以上に『とにかく停戦ができればいい、どちらが得をしようが損をしようが二の次』という立場が強い」と指摘した。【2月17日 読売】
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トランプ政権はウクライナのNATO加盟を「非現実的」と否定していますので(実際そうでしょう。ロシアは絶対認めませんし、欧州もロシアと火種がくすぶる状態でウクライナに加盟されても困るのが本音でしょう)、どうやって停戦を監視・維持し、ウクライナの安全を保証する枠組みを作っていくかが問題となります。

アメリカもさすがに「関係ない」とは言えませんが、あくまでも主体は欧州であるという立場から「アメリカに何をして欲しい?」と聞きつつ、「欧州はどこまでやる気ある? 何ができるの?」と問いかけ。

****「必要な米国の支援」意見募る=ウクライナ停戦、4月下旬目標か―米政府****
ロイター通信は16日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの安全を保証する枠組みに関し、米政府が欧州各国に外交文書を送付し、枠組みに参加する上で必要だと考えている米国の支援内容などを尋ねたと報じた。文書の全文を入手したとしている。

これに関連し、米ブルームバーグ通信は関係者の話として、トランプ政権が欧州側に4月20日のキリスト教のイースター(復活祭)までにウクライナでの停戦を実現したいと伝えたと報じた。

ただ、複数の当局者はこの目標について、非現実的とみられると指摘。ある関係者は年末までの解決というシナリオがより可能性が高いと述べた。

文書は先週送られ、設問は6項目。「短期・長期的にどういった米国の資源が必要になると考えているか」と質問した。また、安全保証の枠組みに参加可能と思われる国を挙げるよう要請し、「和平合意」の一環としてウクライナに部隊を派遣する意思があるかどうかも尋ねた。

派遣される欧州主導部隊の規模や展開方法・場所・期間なども打診。ウクライナの交渉力を高めるため同国に供与する用意がある追加の能力・装備を列挙することも求めた。【2月17日 時事】 
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ウクライナ・ゼレンスキー大統領は「欧州軍」創設を訴えています。

****ゼレンスキー大統領「ヨーロッパ軍」創設訴え****
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの脅威やアメリカの方針転換への懸念から、「ヨーロッパ軍」を創設すべきだと訴えました。

「多くの指導者たちがヨーロッパには独自の軍隊、つまりヨーロッパ軍が必要だと語ってきた。そして、私は本当にその時が来たと信じている」(ゼレンスキー大統領)

ゼレンスキー大統領は15日、ドイツのミュンヘンで開催されている安全保障会議で演説し、「ヨーロッパ軍」の創設を訴えました。ロシアの脅威に加えて、トランプ政権がヨーロッパの防衛に積極的に関与しない懸念が強まったことを理由としています。

ただ「ヨーロッパ軍」の具体的なあり方や、NATO(=北大西洋条約機構)との関連性については言及していません。【2月17日 ABEMA Times】
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「欧州軍」というきちんとしたものではなく、欧州有志国のウクライナへの派兵ということであれば、フランスのマクロン大統領が昨年2月に提案していますが、当時はマクロン大統領のスタンドプレーとも見られ、ショルツ独首相が派兵の可能性を即座に否定するということで、否定的な空気でした。

ただ、アメリカが欧州から手を引き、欧州のことは欧州に任せるという方針がはっきりしてきた今、改めて欧州各国のウクライナへの停戦維持部隊派遣が現実の問題となっています。

****マクロン仏大統領、ウクライナ問題で緊急欧州首脳会議を招集****
フランスのマクロン大統領は17日、英国の首相を含む欧州首脳を招き、ウクライナ紛争に関する緊急首脳会議を開催する。

仏大統領府によると、マクロン氏は16日に「協議」を呼びかけた。ウクライナに対する米国のアプローチの激変と、それに伴う欧州大陸の安全保障へのリスクについて話し合う。

首脳会議には他に、ドイツのショルツ首相、ポーランドのトゥスク首相、北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長、イタリアのメローニ首相、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員会委員長、コスタ欧州理事会議長(大統領)が出席する。(後略)【2月17日 ロイター】
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イギリス・スタマー首相は平和維持軍の一員としてウクライナに英軍を派遣する用意があると前向き姿勢です。

****スターマー英首相、戦後ウクライナへの平和維持軍派遣に前向き****
スターマー英首相は16日、戦争終結後の平和維持軍の一員としてウクライナに英軍を派遣する用意があると述べた。

英軍兵士を「危険な目に遭わせる」ことを軽々しく検討するわけではないとしつつ、ロシアのプーチン大統領のさらなる侵略を抑止するためには、ウクライナの恒久的な平和を確保することが不可欠と述べた。(中略)

スターマー氏はデイリー・テレグラフ紙に、ロシアとウクライナの戦争が終結しても、プーチンが再び攻撃を仕掛けてくるまでの一時的な小休止に終わってはならないと寄稿した。

ウクライナへの平和維持軍派遣を検討していると明言するのは初めて。これまでは、和平合意で役割を果たすことに前向きと述べるにとどめていた。【2月17日 ロイター】
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スウェーデンのマリア・マルメル・ステネルガード外相も2月17日、、ウクライナ戦争終結後に平和維持軍を派遣する可能性を排除しないと述べています。

ドイツは、財政的にも、兵員・装備の面でも、あるいは国民の意識の面でも、今以上の軍事面での負担増大は苦しい状況です。

****ドイツ国防「問題だらけ、解決策皆無」「ドローンは装備ない」 ウクライナ停戦実現すればNATOは...****
ドイツ連邦軍の現在の戦闘即応性は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年当時よりも低下している――。複数の軍当局者や議員、防衛専門家らがロイターに語った。

23日の総選挙後に誕生する次期政権が防衛支出を拡大したとしても、特に防空や砲兵部隊、兵員の不足はその後何年も足かせになりそうだという。

ドイツ連邦軍協会トップのアンドレ・ベストナー大佐はロイターのインタビューで「ロシアのウクライナ侵攻前、わが軍には即応性が約65%だった8個旅団があった」と説明した。

しかしベストナー氏は、その後ウクライナへの武器弾薬・装備供与やドイツ連邦軍自体の演習急増により、利用できる装備が逼迫(ひっぱく)したため「地上部隊の即応性は50%前後に下がってしまった」と嘆いた。

ショルツ首相はロシアのウクライナ侵攻後、弱体化したドイツの軍備を刷新すると宣言したが、それから3年を経ても事態は改善していない。それどころか今年と2027年までに約4万人の部隊を北大西洋条約機構(NATO)に提供するという約束は、非常に大きな逆風に直面している、というのが関係者の見方だ。

関係者が明かしたこのような状況は、トランプ米大統領の返り咲きによって欧州が地政学上の新たな時代を迎える中で、ドイツが危うい立場に置かれていることを浮き彫りにしている。

ロシアがNATOの東端部分に攻撃を仕掛けてきた場合、真っ先に反撃する地上部隊兵力の大部分を供出する役割を担うのがドイツとポーランドだ。

これを踏まえてショルツ氏が評した「時代の大転換」の下でのドイツ国防改革は、関係者によると国内の緊迫感の欠如や、調達システムの機能不全、資金難といった理由から今のところ進展していない。

関係者は、ドイツが今年初めまでに完全装備の部隊をNATOに提供できていないし、同部隊を支援する防空戦力も存在しないと指摘。27年までに提供を約束した部隊に至っては装備の充足率が20%程度に過ぎず、今から全てを発注しても期限までに整わないと、野党キリスト教民主同盟(CDU)議員で議会の予算委員会に属するインゴ・ゲデヒェン氏は解説した。

<トランプ氏の圧力>
トランプ氏は欧州に防衛費負担を増やすよう圧力をかけているほか、米政府内でウクライナの戦争終結交渉が話題になっているだけに、ドイツの軍備のぜい弱さはことさら注目を集める格好だ。またウクライナでの停戦が実現すれば、ドイツは停戦監視に必要な軍事面でのさらなる要求に直面するだろう。

ドイツの主要政党はいずれも、NATOが求める最低限の防衛支出である国内総生産(GDP)比2%を維持すると公約している。ただトランプ氏はNATOに支出を2倍以上に増やしてGDP比5%を目指してほしいと要望。NATO自体もGDP比3%への目標引き上げを検討中だ。

ドイツのピストリウス国防相は先月、連邦軍の即応態勢を確保するためにはGDP比3%の支出が必要になると述べたが、トランプ氏が呼びかけた5%はドイツ政府予算全体の4割を超えてしまうと訴えた。(中略)

<国民の意識が足かせ>
ロシアのプーチン大統領は軍が2方面の脅威に対応できるようにするため、総兵力を150万人に増強する取り組みを進めている。

一方ベストナー氏は、14年以降のロシア軍によるウクライナへの軍事力行使に対して欧州でドイツだけが鈍い反応をしたわけではないとしつつも「特に国民が『スヌーズ(アラームの一時停止)ボタン』を押した」と語り、防衛問題に対する国民の冷めた姿勢が改革の遅れに影響したと認めた。

実際1月に行われた世論調査では、次期政権にとって喫緊の課題としては国防よりも移民と経済が上位に挙げられた。

冷戦時代のドイツ(旧西ドイツ)の防衛支出はGDPの3-4.5%に上り、現役兵50万人と予備役80万人の態勢を維持していた。しかし現在の連邦軍は、18年に設定した20万3000人という目標兵力にいまだ到達しておらず、常設部隊では2万人ほど人員が不足しているという。

CDUのバデフル氏は、ドイツが戦闘即応性を備えるには現役兵25万人前後、予備役50万人が必要になるとみている。

最新の世論調査によると、総選挙後にはCDUと社会民主党(SPD)の連立政権が発足する公算が最も大きい。ただ極右や極左の政党が第3勢力の統一会派を組み、連邦軍への支出をするための新たな特別基金創設などに反対する可能性もある。【2月17日 Newsweek】
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ドイツでは2月23日に総選挙が行われます。事前の予測では極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が高い支持率を得ています。AfDは政権には参加しないと見られていますが、親トランプそしておそらく親ロシアの同党の躍進如何では、ドイツの決定に大きく影響してきます。
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コンゴ  反政府勢力M23の攻勢止まらず 拡大する子供への性暴力・徴兵 鉱物資源をめぐる争い

2025-02-16 23:10:37 | アフリカ

(武力衝突によって、北キブ州のカニャルチニャからゴマへ、6人の子どもを連れて避難してきた母親のマシカさん。「この戦いが終わり、私たち家族が故郷の村へ戻れるように、助けてほしい」と言う(コンゴ民主共和国、2025年2月4日撮影)【2月13日 ユニセフ】)

【ツチ系反政府勢力M23 東部主要都市ゴマを制圧して南下、ブカブ空港も制圧】
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)で政府軍と隣国ルワンダの支援もうけているとされるツチ系反政府勢力「3月23日運動(M23)」の衝突が激化していることは、1月29日ブログ“コンゴ ルワンダ支援の反政府勢力M23の攻勢 注目される米トランプ政権の対応”で取り上げました。

コンゴで内戦が続く背景、豊富な資源の存在がそうした混乱を助長していることなどについては、上記ブログをご覧ください。

前回は、M23が東部の主要都市ゴマに侵攻・制圧したようだ・・・というあたりまででしたが、その後も、世界がトランプだ、ウクライナだ、パレスチナだと大騒ぎしている間にもM23の進撃は続いています。

****コンゴ武装勢力、南へ進軍 大統領は失地回復作戦の意向****
ルワンダが支援するコンゴ民主共和国(旧ザイール)の反政府勢力「M23」は東部最大の都市ゴマを掌握した後、29日には南キブ州の州都ブカブを目指して進軍した。コンゴのチセケディ大統領は同日夜、失地回復作戦を計画していると述べた。

チセケディ氏は国民に向け、外交的解決が望ましいとしながらも、軍事的な反撃に出る意向を示した。

東アフリカ共同体(EAC)は緊急首脳会議を開き、コンゴ東部での即時停戦を呼びかけるとともに、コンゴに対してM23と交渉するよう求めた。チケセディ氏は会議に出席せず、ルワンダのカガメ大統領は出席した。

ゴマでは29日、反政府勢力が掌握を強め、ルワンダとの国境をパトロールしていた。

ゴマ郊外のいくつかの地区では銃声が聞こえ、27日の戦闘による遺体が路上に放置され、病院はパンク状態となり、国連平和維持軍は基地に避難していた。【1月30日 ロイター】
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“国連平和維持軍は基地に避難”・・・・このあたりが国連平和維持活動の限界であり、国連は自分たちを守ってくれないと住民からも信頼されない所以でもあります。

“国連は国の安定化を図るため、長年、PKO部隊を東部地域に派遣していたが、大きな成果を挙げられず、2023年12月に撤退開始。今年12月までに撤退完了する予定だ。”【1月31日 テレ朝news】

かねてより同じツチ系のM23を支援していると見られているルワンダ軍も国境を越えたとも。

****ルワンダ軍、コンゴ越境か 東部州都へ、紛争拡大恐れ****
国連のドゥジャリク事務総長報道官は30日、コンゴ(旧ザイール)の反政府勢力「3月23日運動(M23)」を支援している疑いがある隣国ルワンダの軍部隊が、コンゴ東部南キブ州の州都ブカブを目指して越境したとの報告があると明らかにした。

M23とルワンダ軍はコンゴ東部北キブ州の州都ゴマに既に進出しているとされ、コンゴで長年続く紛争が拡大する恐れが出ている。

ドゥジャリク氏はニューヨークでの記者会見で、ゴマで散発的な戦闘が続く一方、M23もブカブに向けて南進していると説明。情勢が極めて不安定になっており、水や食料の不足から人道危機が悪化する可能性があると指摘した。【1月31日 共同】
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M23は2月4日から人道上の理由で一方的に停戦すると発表。

****コンゴ民主共和国 反政府勢力が停戦を宣言****
コンゴ民主共和国の反政府勢力「M23」は3日、SNSを更新し「人道的な理由で4日から停戦を宣言する」と一方的に声明を出しました。 停戦の期限や政府側の同意が得られているかどうか言及しておらず、実現するかは不透明です。

「M23」は東部にあるブカブを目指して進軍しているとされていますが、声明では「ブカブを占領するつもりはない」としています。(後略)【2月4日 ABEMA Times】
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しかし、どういう経緯かはわかりませんが停戦は機能せず、戦闘は継続、被害・犠牲者は拡大、M23は依然として南キブ州の州都ブカブを目指して南下しています。

****コンゴ民主共和国での衝突続く 犠牲者3000人近く 国連人権理事会が実態調査へ****
アフリカ中部のコンゴ民主共和国で、政府軍と反政府武装勢力との衝突が続くなか、国連人権理事会は3000人近くが死亡し、性暴力も増加しているとして、実態調査を行うと発表しました。

コンゴ民主共和国では、政府軍と隣国ルワンダの支援を受けているとされる反政府武装勢力「M23」との衝突が激化しています。

国連人権理事会は7日、緊急会合を開き、先月末以降、3000人近くが死亡し、性暴力が増加するなど最悪の事態が続く可能性があるとして、実態調査を行うと発表しました。

ターク国連人権高等弁務官は「もし何もしなければ、衝突が国境を越えて拡大するおそれがある」として、「悲劇的な状況を終わらせるために、影響力を持つ全ての人々がすぐに行動しなければならない」と警告しました。【2月8日 TBS NEWS DIG】
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M23はブカブ後略を開始したようです。

****コンゴ反政府勢力、東部の空港占拠=州都ブカブへ進軍か****
アフリカ中部のコンゴ(旧ザイール)東部で政府軍と衝突している反政府勢力「3月23日運動(M23)」は14日、南キブ州の州都ブカブ近郊の空港を占拠した。治安当局筋などがAFP通信に明らかにした。

M23は先に東部の主要都市ゴマを制圧。その後「人道的理由」から一方的に停戦を宣言したが、実際には進軍を続けているもようだ。占拠された空港は、ブカブ制圧に向けた最後の軍事上の障壁とされていた。【2月15日 時事】 
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“占拠された空港は、ブカブ制圧に向けた最後の軍事上の障壁とされていた”とのことですが、実際にはM23は大きな抵抗にあうことなく空港を制圧、政府軍は撤退したとの情報も報じられています。

西ヨーロッパ全体にも匹敵する広大な面積のコンゴの首都キンシャサは国土の西端にあり、政府軍にはアマゾンに次ぐ広さのコンゴ川流域熱帯雨林をはさんで遠く離れた東部地域を死守する士気はないようです。そもそも多くの武装組織が跋扈する東部地域には政府のコントロールが及んでいないと言うべきか。

首都の政権首脳にとっては、どこか遠い世界での出来事にも思えているのかも。それは言い過ぎにしても、自分たちに危害が及ぶような切実感はないかも。

【拡大する住民犠牲 性暴力や徴兵など子どもの被害増加】
戦闘拡大によって住民被害、特に子供達への性暴力や徴兵も深刻になっています。

****コンゴ民主共和国東部の情勢激化性暴力や徴兵など子どもの被害増加*****
ユニセフ(国連児童基金)事務局長のキャサリン・ラッセルは、急激に悪化するコンゴ民主共和国東部の状況を憂慮し、以下の声明を発表しました。

性暴力や徴兵など子どもの被害増加
コンゴ民主共和国東部における暴力の激化と、それが子どもや家族へ及ぼす影響に、強い危機感を抱いています。北キブ州と南キブ州では、紛争当事者が子どもに対する重大な権利侵害を行っているとの恐ろしい報告が寄せられています。性的暴行を含む性暴力は近年で最悪のレベルに達しているとのことです。

ユニセフのパートナーが報告したところによると、2025年1月27日から2月2日までの1週間に、42の保健医療施設で対応した性的暴行の件数は5倍に膨れ上がりました。手当てを受けた人のうち、30%が子どもでした。

被害者の多くが名乗り出ることをためらう傾向にあるため、実際の数ははるかに多いと思われます。 ユニセフのパートナーには、性的暴行によるHIV感染リスクを低減するための薬剤が不足しています。

ある母親は、6人の娘が食料を探している間に、武装した男たちにつかまり、次々と性的暴行を受けたことを、スタッフに語りました。一番下の娘はわずか12歳でした。

戦闘を逃れるために何度も避難
コンゴ民主共和国東部の広範囲にわたって、子どもと家族は容赦ない爆撃や銃撃にさらされ続けています。ここ数カ月の間、避難民キャンプで暮らす何千人もの弱い立場にある子どもたちは、戦闘を逃れるために何度も避難を余儀なくされています。

この混乱の中で多くの子どもが家族と離ればなれになり、武装集団による誘拐、徴兵、徴用、性暴力のリスクにさらされています。ここ2週間だけで、北キブ州と南キブ州でおとなの同伴者のいない子どもが1,100人以上も確認されており、その数は増え続けています。

ユニセフのスタッフは速やかに、おとなの同伴者のいない子どもや家族と離ればなれになった子どもを登録し、一時的な里親に預け、必要な医療や心理社会的ケアを受けられるようにしています。

この地域では、このように危機が深刻になる以前から、武装集団への子どもの徴兵は増え続けていました。 紛争当事者が若き戦士の結集を呼び掛けている今、徴兵はさらに速いペースで行われるでしょう。 

報告によると、12歳という幼い子どもたちが武装集団に徴兵されたり、参加を強要されたりしているとのことです。

紛争当事者は、子どもに対する重大な権利侵害をただちに停止し、その発生を防がなければなりません。また、国際人道法上の義務に従い、民間人と彼らの生存に不可欠なインフラとを保護するための具体的な措置を講じる必要があります。

人道支援を実施するパートナーは、支援を必要とするすべての子どもと家族に安全に、かつ妨げられることなくアクセスできなければなりません。(後略)【2月13日 ユニセフ】
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【国連やアフリカ連合 停戦を求めるも効果なし】
国連人権理事会は【2月8日 TBS NEWS DIG】にあもあるように、7日には実態調査を行うと発表、隣国ルワンダ軍には反政府勢力への軍事支援中止とコンゴ領内からの撤退を求めてはいますが、実効性はありません。

アフリカの周辺国やアフリカ連合(AU)も、停戦を求めるものの、戦闘を止める手だてを講じることが出来ません。

****コンゴ、アフリカ首脳ら停戦要求 共同声明、人道回廊設置も****
鉱物資源が豊富なコンゴ(旧ザイール)東部で続く反政府勢力「3月23日運動(M23)」と政府軍の戦闘を巡り、周辺各国の首脳らは8日、アフリカ東部タンザニアのダルエスサラームで会合を開いた。

共同声明で、即時かつ無条件の停戦と、M23がほぼ掌握したコンゴ東部の主要都市ゴマに支援を届ける人道回廊設置を求めた。

会合にはM23を支援するルワンダのカガメ大統領も出席した。欧米メディアによると、コンゴのチセケディ大統領はオンラインで参加した。

共同声明は関係国やM23による直接協議も要求した。【2月9日 共同】
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なぜこうした事態にもかかわらず、コンゴのチセケディ大統領が現地参加しなかったのか・・・知りません。ルワンダのカガメ大統領などとの確執があってのことでしょうか。

*****アフリカ連合、域内紛争対処できず コンゴ民主続く衝突****
アフリカ連合(AU)は15〜16日、エチオピアの首都アディスアベバで首脳会議を開いた。焦点はコンゴ民主共和国の東部で続く政府軍と反政府勢力の戦闘への対応だ。だが、域内で加盟国の利害がぶつかるAUが有効な手立てを打ち出すのは難しく、外交的進展は乏しかった。(後略)【2月16日 日経】
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【鉱物資源をめぐる争い】
域内で加盟国の利害がぶつかる・・・・ツチ・フツの民族問題の他、豊富な資源をめぐる利害でしょう。

****コンゴ民主共和国で政府軍と反政府勢力の衝突激化 米中は鉱物獲得の動き****
アフリカのコンゴ民主共和国で、政府軍と反政府勢力の衝突が激化している。豊富な鉱物は武装勢力の資金源になっており、中国とアメリカも資源獲得の動きを見せていて、紛争の拡大が懸念される。

■100以上の武装勢力 危険情報は「レベル4」
(中略)コンゴ民主共和国はアフリカ中部に位置し、かつてはザイール共和国という名前だった。
1960年、ベルギーから独立。面積は、アフリカの国で2番目に大きい234万5000平方キロメートル。これは日本の6倍以上にあたる。南米アマゾンと並び、“地球の片肺”と呼ばれる、コンゴ盆地の広大な熱帯林を抱える。

人口はおよそ9900万人。主な産業は、銅、コバルト、ダイヤモンド、金などの鉱業。隣国のアンゴラ、ザンビアなどにまたがって“カッパーベルト”と呼ばれる銅山地帯が広がっている。

東部地域は政府の統治が行き届いておらず、100以上の武装勢力が存在する。そのため日本の外務省の危険情報では、この地域はレベル4=退避勧告となっている。(中略)

■反政府勢力「M23」にルワンダの影 鉱物が資金源に
そして、この紛争には隣国ルワンダが介入しているとの見方がある。
コンゴ民主側は、M23を隣国ルワンダが支援していると指摘。また、国連のグテーレス事務総長もルワンダ軍に対し、M23の支持をやめることと、コンゴ民主から撤退することを要求した。

コンゴ民主から撤退とはどういうことか。
そもそも、ルワンダ軍は、国境を超えてコンゴ民主国内に入り、M23を支援していると見られている。ただし、ルワンダ側は支援を否定している。

では、ルワンダが支援しているとされる背景には、何があるのか?
紛争が起きている東部地域にも、希少鉱物がある。電子機器部品に使用されるタンタルは、世界の生産量40%がコンゴ民主産。そして、半導体部品などに使用されるタングステン。さらに金とスズもある。

これらの鉱物は、M23など武装勢力の資金源になっている側面がある。鉱物を採るための“入坑税”や“通行税”を徴収するなど、鉱物の採掘・流通・取引に介入しているという。

東京大学大学院教授・遠藤貢さんによると、「国内で採れないはずの鉱物がルワンダの主要な輸出品目になっている」といい、ルワンダがM23を通じて、コンゴ民主内の鉱物資源を手に入れている実態があると指摘している。

■コバルト狙う中国 コンゴ民主側は警戒
なかでも、大争奪戦が起きているとされる鉱物がある。
コンゴ民主は、コバルトという鉱物の一大産地。生産量は世界1位で、国内の埋蔵量は全世界の46%を占めるとみられている。

コバルトは、EV(電気自動車)のバッテリーに使用されるとあって近年、需要が急増。また、スマホのバッテリーにも使われるなど、「重要鉱物」の一つだ。

そんなコンゴ民主のコバルトの争奪戦で、他の国を大きくリードしているのが中国。
南部にある国内最大級のコバルト鉱山「テンケ・フングルーメ鉱山」は、中国企業が株式の80%を取得。ロイター通信は去年、「コンゴ民主共和国の鉱業部門は、中国企業がほぼ支配している」と伝えた。

また、コンゴ民主のチセケディ大統領は、2023年と翌24年に中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。23年には、2国間の関係をそれまでより格上げし、「全面的戦略協力パートナーシップ」に位置付けた。

一方で、ロイター通信によると、去年11月に中国企業がコンゴ民主の鉱山会社に買収を提案したところ、コンゴ民主の国営企業も買収を提案し、中国企業の動きを阻止。政府も鉱山会社に「提案を受けないよう通達」したという。コンゴ民主は、重要鉱物の中国支配を警戒しているとみられる。

こうした“中国一辺倒”の状況をアメリカも警戒している。
カッパーベルトで採れた鉱物資源をザンビアからコンゴ民主、アンゴラを鉄道で経由して大西洋まで運ぶ「ロビト回廊」という計画が3カ国の間である。

アメリカのバイデン前大統領は2023年9月、ロビト回廊の開発への支援を表明。日本円で総額およそ6200億円を投資するとした。

さらに去年12月、バイデン前大統領はアンゴラを訪問した際、コンゴ民主のチセケディ大統領と会談し、支援強化を打ち出した。

ただ、新たにトランプ大統領が就任したことで、その関係が今後どうなるのかが注目される。【1月31日 テレ朝news】
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対外援助の90日間凍結を打ち出しているトランプ政権は、遠く離れたアフリカなどには関心はないと思われますが、利権絡みとなれば話は別でしょうか。

「かつて2000年代、小型スマートフォンやゲーム機が普及したときにタンタルを巡る争いが激化し、それが紛争の激化につながった。同じことが今回も起きる可能性がある」(東京大学未来ビジョン研究センターの華井和代氏)

こうした私達の生活を支える「紛争鉱物」に関して私達ができることは?

****「紛争鉱物」とは? 3000人死亡、集団強姦も蔓延するコンゴ民主共和国の一助となるために私たちにできること*****
(中略)
すでに生活に欠かせない電子機器。紛争に関連し、人権侵害が行われているとはいえ、ただちに手放すのは現実的ではない。

華井氏は「『コンゴの鉱物やテクノロジーを使いません』というのではなく、『透明化』していく。そこで何が行われているのかを知り、紛争に関わらないように頑張っている鉱山からはむしろ買う。労働者や地域に利益を還元することによって利益がちゃんと分配される。そういう公正な仕組みを作ろう、仕組みを支えるために消費者として声を上げていく、関心を持っていくことが必要だと思う」と提言した。【2月15日 ABEMA Times】
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米副大統領「欧州は民主主義を損ねている」 ポピュリズム・権威主義台頭で揺らぐリベラル民主主義

2025-02-15 23:37:34 | 民主主義・社会問題

(【2月15日 日経 ミュンヘン安全保障会議で演説するバンス米副大統領=ドイツ南部ミュンヘンで2025年2月14日 日経】)

【トランプ政権 ウクライナの幕引きを急いで欧州への関与を減らし、対中国に専念したい】
ブリュッセルで13日開かれた北大西洋条約機構(NATO)国防相会合で、欧州はもちろん当事国ウクライナの頭越しに停戦交渉をプーチン大統領と進めようとするトランプ大統領の姿勢にウクライナ・欧州は強く反発しています。

****トランプ政権のウクライナ和平交渉に「対露融和」「譲歩」と批判噴出 NATO国防相会合****
ブリュッセルで13日開かれた北大西洋条約機構(NATO)国防相会合は、米露首脳がウクライナ戦争の和平交渉の早期実施で合意したことに関し、欧州の加盟国からトランプ米政権の取り組みが拙速な和平に堕することを懸念する意見が相次いだ。

対ウクライナ軍事支援で積極的な役割を果たしてきた欧州の頭越しに交渉の流れが作られたことへの不満も強く、今後も禍根を残しそうだ。

ロシアに欲しいものを全て与えている
会合に出席した欧州連合(EU)のカラス安全保障上級代表はNATO本部で記者団に「交渉開始の前から(米国が)ロシアに欲しいものを全て与えているのはなぜか」と疑問を呈し、トランプ米政権の取り組みは「(対露)宥和政策だ」と強い調子で批判した。「その場しのぎの行動は不正な取引につながる」とも指摘した。

ドイツのピストリウス外相は、ヘグセス国防長官がウクライナの領土を2014年の状態に回復することを和平合意に盛り込むのは「非現実的だ」と述べたことに対し、「今の段階で米国がロシアに譲歩する必要はなかった」と批判し、「和平合意ではプーチン露政権の挑発行動を止められない」と懸念を示した。

ウクライナや欧州が交渉当事者から外されることへの懸念も強い。欧州とカナダは昨年、対ウクライナ軍事支援の約60%を負担しており、スウェーデンのヨンソン国防相は「欧州が交渉に関与するのは当然だ」と指摘した。

NATO加盟「約束していない」
NATOのルッテ事務総長は閉幕後の記者会見で「ウクライナは必ず和平交渉に参加する」と強調しつつ、ウクライナが停戦後の安全を保証する策として切望するNATO加盟について「和平合意の中にNATO加盟が盛り込まれるとは約束していない」と述べ、同国のNATO加盟を否定したヘグセス氏に同調する立場を示した。

NATO高官は「ヘグセス氏の発言は和平合意の内容に盛り込むかどうかを述べたもので、NATO加盟自体を否定するものではない」との解釈を示した。

ヘグセス氏「NATOを再び偉大に」
一方、ヘグセス氏は国際舞台で初の記者会見となる閉幕後会見で、ウクライナが領土を14年以前の状態に回復できないのは「戦況からも明らかな現実だ」などと反論。「トランプ大統領は地球上で最高の交渉者だ」と主張して交渉の行方に自信を示した。

ヘグセス氏はまた、トランプ氏のスローガン「米国を再び偉大に」になぞらえて「NATOを再び偉大にしなくてはならない」と語り、欧州の加盟国が国防費を最大で国内総生産(GDP)比5%まで引き上げるなど、欧州の防衛強化に向けて応分の負担を担うことを改めて要求した。【2月14日 産経】
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ヘグセス米国防長官は「米国の最優先課題は中国をインド太平洋地域で抑止することだ」とアメリカが今後欧州への関与を減らしていくことを明快に語っています。

トランプ大統領がウクライナ・欧州の頭越しにプーチン大統領との「取引」を進めたいのも、ウクライナ問題に早く道筋をつけて、対中国に専念したいという思いがあるようです。

*****ヘグセス米国防長官、ウクライナNATO加盟「非現実的」 平和維持へ米軍を派遣しない****
北大西洋条約機構(NATO)は13日、ブリュッセルで国防相会合を開いた。今回が初参加のヘグセス米国防長官は、ロシアに侵略されたウクライナのNATO加盟を否定する一方、ウクライナ支援でNATOの負担増を要求。

米国の戦略的資源を対中国に全面投入したい思惑からウクライナ戦争の幕引きと欧州安保からの離脱を急ぐトランプ米政権の下で、NATOの結束は早くも揺さぶられた。

NATOのルッテ事務総長は13日、米露首脳がウクライナ戦争の終結交渉の早期開始で合意したことに関し「交渉は恒久的な和平を実現させるものでなければならない」とした上で、ウクライナがより「強い立場」で交渉に臨めるようNATOによる支援継続の重要性を強調した。

また、交渉の過程では「ウクライナの密接な関与が不可欠だ」と指摘した。

一方、ヘグセス氏は同日、「ロシアの戦争機構に立ち向かうのは欧州の責任だ」と述べ、欧州の加盟国に国防費の大幅な増額を求めた。

ヘグセス氏は12日、ウクライナで停戦が実現した場合は同国への安全の保証が必要だと認めつつ、同国のNATO加盟は「非現実的だ」と一蹴。

ウクライナの平和維持活動をNATO任務とせず、欧州を中心とする有志国が軍を展開すべきだとし、米軍を派遣しないとも明言した。

ルッテ氏によると、NATO加盟国によるウクライナに対する2024年の軍事支援の総額が500億ユーロ(約7兆8千億円)を超えた。支援額の半分以上は「欧州の加盟国とカナダからの拠出だ」としている。
ルッテ氏は「ウクライナへの軍事支援を平等化すべきだとするトランプ米大統領の主張に同意する」と強調しつつ、欧州の加盟国がウクライナ支援を既に実質的に牽引(けんいん)していることを訴えた。

NATOは昨年7月の首脳会議で、24年に400億ユーロ規模の軍事支援を供与すると表明。ルッテ氏は支援の規模を維持したい考えだが、ヘグセス氏は「米国の最優先課題は中国をインド太平洋地域で抑止することだ」とし、米国が欧州の安全保障への関与を減らす立場を明確に打ち出した。【2月13日 産経】
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トランプ大統領が勝手にプーチン大統領と交渉を進め、停戦後のウクライナの平和維持については欧州で軍事的に支えろ、アメリカは関与しない・・・と言われても、欧州側も「何を勝手なことを・・・」という思いでしょう。

トランプ大統領がウクライナ戦争の幕引きを急ぐのは、欧州から手を引いて対中国に専念したいということに加え、ウクライナ停戦を自分の手で実現することで、自分の「手柄」を誇りたいという思いもあってのことでしょう。(できれば憎たらしいオバマ元大統領が受賞したノーベル平和賞を自分も欲しい・・・)

確かに、ウクライナも青息吐息ですし、ロシアも長期の戦争で疲弊しているということで、停戦のタイミング的には「そろそろ」という段階にきており、トランプ大統領があと一押しすれば結果は出るかも。

そのためには、やれウクライナのNATO加盟とか領土回復とか「非現実的」なことばかり主張するウクライナ・欧州の意見を聞いていたらまとまるものもまとまらない、ウクライナ・欧州抜きでプーチン大統領と「現実的」取引した方がいい、あとはまた関税なり支援停止なり棍棒を振り回して力づくでウクライナ・欧州には停戦案をのませればいい・・・といったところでしょう。

停戦の行方、どういった内容になるのか、ウクライナ・ロシアの立場は・・・等々については、また別機会で。

【バンス米副大統領、欧州民主主義を痛烈批判 欧州はSNSへの規制など民主主義の価値を損ねている】
今回取り上げたいのは14日のミュンヘン安全保障会議でバンス米副大統領が展開した“まるでケンカを売るよう”(EUの外相に当たるカラス外交安全保障上級代表)な痛烈な欧州批判、トランプ政権の正当化です。

****バンス氏、欧州民主主義を痛烈批判 SNS規制や不法移民は「内なる脅威」****
米国のバンス副大統領は14日、ミュンヘン安全保障会議の演説で、欧州の民主主義を攻撃した。

厳しいインターネット規制を「検閲」と位置づけ、不法移民流入は政治に責任があると批判。「米国と共有すべき基本的価値が後退している」と述べ、欧州側は猛反発した。

バンス氏は、北大西洋条約機構(NATO)で欧州の防衛負担の強化が課題になっているとしたうえで、「欧州について懸念されるのはロシアや中国よりも、『内なる脅威』だ」と述べた。

ネット規制は、欧州連合(EU)が偽情報や不法コンテンツを排除するため進めているものだが、バンス氏は自由な発言を封じ込めていると指摘した。

昨年11月のルーマニア大統領選でSNS(交流サイト)によるロシアの介入疑惑からやり直しが決まったことにも言及し、「まずは(民主主義の)水準を問うべき」と決定に懐疑的な見方を示した。11月の選挙では、親ロシア派候補が最多得票していた。

不法移民については、流入に歯止めがかからず、「欧州は管理できなくなっている」「政治家たちの決定の結果だ」と叩いた。強制送還に着手したトランプ政権との違いを強調した。

バンス氏が特にやり玉にあげたのは、会議開催国のドイツだ。移民排斥を掲げる右派政党「ドイツのための民主主義」(AfD)が支持率を伸長させているのに、政界が排除していると批判した。ミュンヘンで13日、アフガニスタン人男性が車で人混みに突っ込み、約30人を負傷させた事件に触れたうえで、「国民の懸念に配慮しなければ、民主主義は生き残れない」と述べた。

バンス氏に続いて登壇したピストリウス独国防相は、「発言は受け入れがたい」と強い怒りを示した。EUのカラス外交安全保障上級代表も「まるでケンカを売るようだ」と不快感を示し、米欧の文化対立の様相を呈した。【2月15日 産経】
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****バンス氏「外交デビュー」 欧州右派勢力と連帯「民主的な仕組みを守るより民意に従え」****
バンス米副大統領は14日、ドイツでミュンヘン安全保障会議に出席し、本格的な「外交デビュー」を果たした。演説では、ロシアや中国への対応よりも、欧州の不法移民対策やインターネット規制のあり方への批判に多くの時間を割いた。

独右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の指導者とも会談し、欧州で力を増すポピュリズム(大衆迎合主義)勢力との連帯を前面に打ち出した。

「欧州のエリート機構は人々の意思に対して懐疑的すぎる」。バンス氏は14日、米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)のインタビューでこう述べ、安保会議での演説は、民意を封じる「ファイアウオール(障壁)」の打破を意図したものだと語った。

バンス氏によれば、欧州で封じられている民意の最たるものが、不法移民対策の厳格化を求める声だという。「根本的に大事なことは民主的な仕組みを守ることではなく、民意に従うことだ」と極端ともいえる民主主義論も披露してみせた。移民増加への不安や反エリート感情を巧みにくみ取るトランプ大統領の手法が念頭にあることは間違いない。

上院議員1期目の途中で指名され、外交経験が乏しいまま副大統領に就任したバンス氏にとり今回の外遊は、トランプ氏の「後継候補」として存在感を発揮できるかが試される場だった。

バンス氏は演説で、偽情報の拡散などを阻止するために欧州連合(EU)が進めるインターネット規制を「検閲」と断じるなどし、居並ぶ各国首脳や閣僚らのひんしゅくを買った。それでもトランプ氏は同日、記者団に「素晴らしい演説だった」と評価。バンス氏にとっては大きな意味を持つ。

またバンス氏は14日、ドイツからの移民排斥を唱えるAfDのワイデル共同代表と会談。詳細は明らかにされていないが、今月23日に総選挙を控える独政界では、会談の事実そのものが実質的な選挙干渉だとの反発が広がる。

トランプ氏は第1次政権期からハンガリーの強権指導者、オルバン首相と蜜月関係を築くなど欧州右派勢力との連帯を強めてきた。第2次トランプ政権に参画する大富豪イーロン・マスク氏もAfDへの支持を公言している。バンス氏の国際舞台でのデビュー戦は、こうした流れをいっそう加速させるものとなった。【2月15日 産経】
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****米バンス副大統領 欧州は民主主義を損ねていると痛烈に批判「基本的価値観で後退」****
アメリカのバンス副大統領はSNSへの規制などを巡ってヨーロッパ各国が民主主義の価値を損ねていると痛烈に批判しました。

バンス副大統領
「ヨーロッパに関して、最も懸念しているのはロシアでも中国でもない。懸念すべきは内側にある脅威だ。ヨーロッパはアメリカと共有する最も基本的な価値観で後退している」

バンス副大統領は14日、ドイツで開催された安全保障の国際会議で演説し、ヨーロッパ各国で進むSNSへの規制などについて反対派を検閲した冷戦時代の共産主義体制を彷彿させると指摘し、民主主義の価値を損ねていると批判しました。

また、表現の自由について政治的に異なる意見を排除しなかったために「アメリカはトランプ氏を大統領に選出できた」と誇示しました。(中略)

バンス氏は演説で「アメリカがスウェーデンの環境活動家のグレタ氏に10年批判されて生き残れるなら、ヨーロッパがマスク氏に数カ月批判されても生き残れるはずだ」と皮肉りました。【2月15日 テレ朝news】
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「根本的に大事なことは民主的な仕組みを守ることではなく、民意に従うことだ」・・・・やれ人権とか差別とか偽情報とかグダグダ言わずに国民の声に素直に従えばいい、それが民主主義であり、トランプ政権だ。

人権・差別などのエリート的な価値観を盾に国民の声を無視する西欧的民主主義なるものは真の民主主義にあらず・・・と言いたいようです。

しかし、国民の声に向き合うにしても、人権とか公正さとか揺るがすことができないものは存在し、それを無視してヘイトだろが偽情報だろうかかまわず国民に垂れ流し、国民の声なるものを誘導・捏造しようとしうのは衆愚政治・ポピュリズムであり、それがトランプ政権であり、それは真の民主主義にあらず・・・と個人的には思います。

****トランプ氏「欧州は言論の自由失いつつある」、副大統領演説に呼応****
トランプ米大統領は14日、欧州の人々は言論の自由を失いつつあるとの見解を示した。バンス米副大統領も同日ドイツで開幕したミュンヘン安全保障会議の基調演説で、ヘイトスピーチや誤情報の規制を巡り欧州連合(EU)を激しく非難した。

トランプ氏は大統領執務室で記者団に対し、ミュンヘン安保会議でのバンス副大統領の演説は好意的に受け止められたと主張。

だが実際には、欧州では即座に批判の声が上がっており、会場近くにいたロイターの記者によると、人々はあぜんとした表情で拍手もなかったという。【2月15日 ロイター】
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【揺らぐリベラル民主主義】
一方的に真偽にかかわらず自分の主張を過激にまくしたて、相手を誹謗中傷するようなトランプ的ポピュリズムを受入れやすい流れがアメリカに限らず欧州でも国民の側にも。

****英のZ世代、半数が「独裁」容認 「男女平等行き過ぎ」男性は不満も***
英国で「Z世代」と呼ばれる若い人々が、「独裁政治」を受け入れる傾向があることが世論調査で浮き彫りになった。

また、最近の男女平等の取り組みについては「行き過ぎ」と答える男性も多かった。英紙ガーディアンなどが伝えた。

全世代3000人を対象にした英テレビ局「チャンネル4」の1月の世論調査によると、13〜27歳の52%は「議会や選挙を気にせず、強力なリーダーが統治する方が英国は良くなる」と答えた。

また、「軍が統治する方が良くなる」との回答も33%に上った。英メディアでは「Z世代は独裁や権威主義容認」などと報じられている。

宗教社会学者でロンドン大キングスカレッジのリンダ・ウッドヘッド教授は、ガーディアンに「彼らはスマートフォンを手にした瞬間からオンラインで自己発信できた世代だ。民主主義は遅く、効率も悪い。古い政治システムのもとでは、発言権を得るまでに時間がかかる。この世代はそれに慣れていない」と分析した。

また、Z世代の男性の45%は「男女平等の取り組みは行き過ぎで、今では男性が差別されている」と回答した。【2月15日 毎日】
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****「悪い前例が後世に」揺らぐリベラル民主主義…“世界的思想家”語るトランプ2期目****
(中略)
(民主主義をテーマとした著書で知られる国際的な政治思想家)フクヤマ氏の原点となった『歴史の終わり』。自由、平等といった価値に基づく、リベラルな民主主義こそが人類の政治制度の最終形態だとうたわれました。

しかし、いまの世界を見渡せば、権威主義的国家が国際秩序を揺るがし、西側諸国でも民主主義が後退しているとの声が広がっています。

政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「民主主義は民衆の選択、リベラルが指すのは法の支配や政府権力を制限する“抑制と均衡”。インド・ハンガリー・アメリカで民主主義の後退が危惧されるが、『政府の権力を制限すべき』との考えが脅威にさらされている。トランプ氏は、司法による制限を嫌い、同様の考えが世界中を浸食しています」

2020年の選挙結果を認めない支持者らが議会を襲撃した事件。トランプ氏は、就任早々、彼らに恩赦を与えました。一方で、自らの敵は訴追するとの発言を繰り返しています。

政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「(Q.トランプ氏がリベラル民主主義の破壊者になる恐れは)アメリカは耐えられるでしょう。ただし、国家制度は弱められます。

彼は、敵を排除したがっている。司法省を利用し、政敵を訴追するつもりです。これは裁判と検察制度に対する重大な侵害です。彼がつくる悪い前例は、後世に受け継がれてしまうでしょう。

大失敗もありえます。各国に高い関税を課せば、インフレ率は直ちに上昇し、有権者は受け入れないでしょう。台湾侵攻もありえることだし、あらゆることが起こり得る。これまでのように運が味方し、成功する可能性もある。経済は成長を続け、国民は、功績を称えるかもしれない。どちらの結果になるか、いまは予測したくありません」【1月22日 テレ朝news】
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トランプ大統領の独断的な力の行使は、政治・経済にとどまらず、政権に盾突くメディアは排除する、「反キリスト教的な偏見」を根絶するといった社会全般に及び、アメリカ社会を大きく変質させています。
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韓国  政治世界における日本の植民統治へのこだわり 「日本の植民統治を称賛したら処罰」法案発議

2025-02-14 23:45:46 | 東アジア

(2024年1〜11月に最も多く訪日した外国人観光客は韓国で、その数は795万300人・・・とのことですから、2024年の年間では800万人を大きく超える過去最高になっていると思われます。)

【特に若年層で薄れたようにも見える「反日」感情】
経済的には1人当たりGDPで日本を追い越した韓国

****日本を大きく上回る結果に…IMFの推定に続き、政府の推定でも韓国の1人当たりGDPが3万6000ドル台に****
韓国の1人当たりの国内総生産(GDP)が3万6000ドル台に達したと推定された。(中略)

昨年の日本の1人当たりGDPは3万2859ドル、台湾は3万3234ドルと推定されており、政府の見通しとIMFの基準のいずれでも韓国が日本と台湾を大きく上回る結果となった。【2月3日 サーチコリア】
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言うまでもなく、竹島の問題、慰安婦や徴用工など歴史問題で韓国と日本の間には容易に克服できない問題があります。

韓国側には半導体素材3品目に対する日本政府の対韓輸出規制強化をきっかけに韓国で爆発的に盛り上がった「ノージャパン運動」のように根深い反日感情がある一方で、事あるたびに大きく叫ばれる「反日」に多くの日本人がいささかうんざりしている実情もあります。

一方で、特に歴史や外交上の問題より自身の満足感を重視する若年層においては、日本料理やアニメ、あるいはKPOPとあいった相手国文化を受け入れている現象も目立ちます。

この世代が嫌っているのは日本より中国。キムチ起源論争のような「中国が韓国の歴史と文化を歪曲している」という不満が背景にあります。

****18-39歳韓国人男女の57%が「日本に好感」 東北アジア歴史財団世論調査****
25-29歳の韓国人男性の74.8%が日本に好感を持っていることが分かった。また、18-24歳の韓国人男性では71.1%が日本に好感を持っていることも分かった。

18-39歳の韓国人男女の57.3%が日本に対して好感を持っている反面、中国に対して好感を持っている割合は10.1%にとどまった。日本に対する好感度は中国に対する好感度の5倍以上に達しているということだ。(後略)【2024年8月15日 朝鮮日報】
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また、韓国においては海外旅行の旅行先としては日本が圧倒的に人気があるという現象も。

****「大型連休だ、日本へ行こう」今年も大量の韓国人観光客が押し寄せる…旧正月の旅行予約で日本がトップ3独占****
再び多くの韓国人観光客が日本を訪れる見通しだ。
韓国では旧正月(旧暦1月1日、今年は1月29日)を前後して6連休となるため、その連休を利用して海外へ出かける韓国人観光客が増加すると見られる。

1月15日、旅行プラットフォーム「トリップドットコム」が予約状況を分析した結果、2024年の旧正月期間(2024年2月9日〜12日)に比べ、今年の旧正月連休期間(1月25日〜30日)の韓国人の海外旅行需要は73.15%増加していることがわかった。(中略)

韓国人観光客が最も多く訪れる国・地域は、日本だ。
日本政府観光局によると、2024年1〜11月に最も多く訪日した外国人観光客は韓国で、その数は795万300人に上る。これは、外国人観光客全体(3337万9900人)の23.8%に当たる数字で、断トツの第1位だ。

そんな世界一の“日本旅行好き”である韓国人観光客が、旧正月の連休を利用して今年も多く訪日する見通しだ。

再び「トリップドットコム」の予約状況を見ると、東京、大阪、福岡の順で予約が多く、バンコク、上海、香港がそれに続いた。さらに、札幌、ニャチャン(ナトラン)、ホーチミン、ダナンがランクインした。

日本がトップ3を独占し、トップ10に4都市が入るという人気ぶりだ。

この結果に、オンライン上では「身近な海外旅行は日本が一番」「あれだけ日本に文句を言っておいて、旅行するのは日本という矛盾」「ノー・ジャパンや福島汚染水の話題はどこにいった」「旧正月の連休も内需は伸びそうにない」といった反応が寄せられた。

年始からこの勢いであれば、昨年に続き、今年も最も日本を訪れる外国人観光客は韓国人かもしれない。【1月15日 サーチコリア】
***********************

【「日本の植民統治を称賛したら処罰」法案の意味】
ただ、政治の世界は相変わらず・・・・保守派尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の日本重視で改善傾向も見られた日韓関係ですが、彼の失脚、反日的言動の目立つ野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が次期大統領候補1位ということで、再び懸念される状況にもなっています。

(もっとも、李在明代表については次期大統領を意識してか“日本に関する発言を「180度転換」”といった変身ぶりもあるようです。また韓国政局は伊大統領弾劾にもかかわらず、野党・李在明代表の支持が伸びないという状況で、この先は不透明になっています。)

そうしたなかで、野党議員から「日本の植民地時代を称賛したら処罰」法案が発議されたとのこと。

****韓国議員が「日本の植民統治を称賛したら処罰」法案発議=韓国ネットには賛成の声「絶対に必要」****
2025年2月12日、韓国・オーマイニュースは「最大野党『共に民主党』のホ・ソンム議員が、正しい歴史認識を確立するための『日帝植民地支配称賛等の処罰に関する特例法案』を発議した」と伝えた。

記事によると、今回の法案には、日本植民地時代の歴史的事実を否定したり、日本の植民統治を擁護・美化したりする行為を処罰する内容が盛り込まれている。

ホ議員は「過去に日本は大韓帝国の国権を強制的に侵奪し、軍人・軍属・労務者を強制徴用したり、女性を強制動員して慰安婦としての生活を強いたりするなど、われわれ民族を抑圧して反人倫的な戦争犯罪を行った。それにもかかわらず一部で歴史的事実を歪曲(わいきょく)し、日本の統治を称賛する行為が続いており、これを正すための法的措置が必要だ」と訴えた。

また「歴史を否定することは、独立有功者とその遺族の名誉を傷つけるだけでなく、憲法と国のアイデンティティを否定する深刻な問題」とし、「この法案が韓国の伝統性と民族の精気を守り、後世に正しい歴史認識を植えつけるきっかけになってほしい」と強調したという。

この記事を見た韓国のネットユーザーからは「歓迎する。むしろ遅いくらい。早く成立させてほしい」「この法律は絶対に必要。もっと早くにつくっておくべきだった」「賛成します。大韓民国の国民なら当然同意する」「これに反対する人は親日売国奴」「良いね。法が変われば認識も変わる」「三一節(独立運動記念日)にマンションの外壁に旭日旗を掲げた人を処罰できず、とてももどかしかった」「罰として無期懲役、もしくは日本に奴隷として送ってほしい」など賛成の声が多数寄せられている。【2月12日 レコードチャイナ】
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日本の植民統治への反発があるのは当然と言えば当然ですが、日本人的には「どうしてそんなにこだわるのか?」と感じてしまう部分も。

しかし、韓国国内の政治事情からすると、日本の植民統治への評価は単に歴史認識だけですまず、韓国の国家アイデンティティそのもの、現在の韓国政治の分断にも関係するものとなるようです。

****「日本の植民地時代を称賛したら処罰」法案が発議…韓国が“その時代”に異常なこだわりを見せる理由***
韓国の国会議員が「日本の植民地支配称賛等の処罰に関する特例法案」を発議し、注目を集めている。代表発議したのは韓国最大野党「共に民主党」のホ・ソンム議員だ。(中略)

歴史的な事実を見ると、1910年8月の「韓国併合に関する条約」によって、大日本帝国が大韓帝国を併合して統治下に置いた。その結果、韓国は1945年まで日本の一部となった。

一言でいえば、その時代の美化を禁止する法律といえる。

日本統治時代の“見方”が重要なワケ
この法案の念頭にあるのは、「日本の植民地時代が韓国の発展に貢献した」という歴史観を持つ「ニューライト」と呼ばれる勢力だろう。ニューライトは韓国の保守派のなかでも、植民地時代の近代化を肯定的に評価する立場を取る勢力を指す。

韓国の独立運動家やその遺族らで構成された「光復会」がホームページに掲載した「9大ニューライト定義」を見ると、ニューライトは「日本政府の主張通り『植民支配合法化』を図る一連の知識人や団体」となる。「日帝強占期の朝鮮人の国籍を日本だと強弁する」「慰安婦や徴用を『自発的だった』と強弁する」などが“ニューライト判別法”とのことだ。

次期大統領に最も近い人物とされている「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、昨年10月の国会で開かれた最高委員会議で「国家の正統性を毀損する“親日ニューライト”ウイルスを公職から根絶すべきだ」と激しく批判している。

これは、雇用労働部のキム・ムンス長官が「日帝時代、私たちの先祖の国籍は日本だった」と発言したことに対しての批判だった。キム長官は、与党「国民の力」の次期大統領候補の筆頭だ。

つまり、韓国では日本統治時代を美化するのが保守層=与党「国民の力」、否定するのが進歩層=最大野党「共に民主党」となる。

この対立は根深い。李代表が「国家の正統性を毀損する」と指摘しているように、その時代をどうとらえるかは、韓国という国家の成り立ちそのものに関わる問題だからだ。

韓国では、韓国を「大韓民国臨時政府」(1919年)の正統な継承国家であるとする立場と、日本統治時代を経て1948年8月15日の大韓民国政府樹立で初めて誕生したという立場が対立している。

キム長官のように日本の統治時代を肯定的に捉える立場では、当時の朝鮮半島は日本の一部であり、国家としての韓国は存在しなかったと考える。そのため、親日的な活動をしていた人々も「祖国を裏切った」のではなく、合法的な統治のもとで生きていただけだと主張する。

一方、李代表のように日本の統治時代を否定する立場では、韓国の独立運動家たちこそが正統な国家の担い手であり、日本に協力した親日派は民族の裏切り者であると見なす。この立場では、日本統治を美化することは、独立運動の正当性を否定し、韓国の国家アイデンティティそのものを揺るがす行為とされる。

1910年から始まった日本の統治時代をどう評価するかは、単なる歴史認識の違いにとどまらず、韓国社会における保守と進歩の対立を鮮明にする要因の一つとなっているといえるだろう。

今回、ホ議員が代表発議した法案は、特定の歴史観を否定する立場を法的に保護し、それに反する主張を処罰の対象とする内容であるため、オンライン上では賛否が巻き起こっている。

ホ議員を支持する側は「歓迎する。ドイツではナチスを称賛すれば処罰される」「もっと早くから必要だった法案だ」「法が変われば認識も変わる」「これに反対するのは売国奴ではないか」といった反応を寄せた。

一方、反対側は「国民の口をふさぐ独裁を目指しているとしか思えない」「日本旅行に行く人も処罰されそう」「共産主義の称賛を禁止するほうが先では?」といった声を上げている。

なお、韓国では過去にも「日本の植民地支配擁護行為者処罰法案」「日本帝国主義の植民統治および侵略戦争などを否定する個人または団体の処罰に関する法律案」「日帝強占下における民族差別擁護行為者処罰法案」などが発議されたことがあるが、いずれも制定には至らず廃案となっている。【2月13日 サーチコリア】
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【「慰安婦は自発的に売春」と発言した韓国元教授、無罪が確定】
最近の司法判断については、下記のようなものも。

****大学の講義中に「慰安婦は自発的に売春」と発言した韓国元教授、無罪が確定…支援団体は不満爆発****
大学の講義中に日本軍慰安婦について「売春」と発言し、名誉毀損の容疑で裁判を受けていたリュ・ソクチュン元延世大学教授の無罪が確定した。

2月13日、韓国最高裁(オ・ソクジュン大法官)は「原審の無罪判決には、論理や経験の法則に反し、自由心証主義の限界を超えたり、名誉毀損罪の成立に関する法理を誤認したりした誤りはない」として、名誉毀損の部分について無罪を宣告し、原審判決を確定した。

リュ元教授は2019年9月19日、延世大学の専攻科目『発展社会学』の講義中に、学生約50人の前で「日本軍慰安婦の女性たちは、売春に従事するために自発的に慰安婦になった」と発言した。

また、「挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会=慰安婦支援団体)が、慰安婦の女性たちに強制動員されたと証言するよう指導していた」とする趣旨の発言をし、論争を巻き起こした。

先に行われた1審と2審の裁判では、リュ元教授の慰安婦に関する「売春」発言については無罪と判断されたが、挺対協に関する発言の一部については有罪判決が下された。

裁判部は、慰安婦に関する「売春」発言を無罪とした理由について、「被害者個々に関する具体的な事実の陳述とは見なしがたく、表現の自由を尊重すべきだ」と説明した。

また、挺対協が北朝鮮と連携しているとする発言については、「挺対協の政治的理念や活動に関する意見の表明、もしくは評価に過ぎない」と判断した。

しかし、「証言の強要」に関する発言については、「被告の発言は『挺対協が強制動員に関する虚偽の証言をするよう慰安婦たちを教育し、慰安婦たちが事実と異なる証言をしている』とするものであり、名誉毀損罪における『事実の適示』に該当する」と認定した。

さらに「被告の立場や発言の経緯、内容、それによって侵害された挺対協の社会的名誉の程度などを考慮すると、その罪質は悪質である」とし、罰金200万ウォン(約21万3000円)を言い渡した。

リュ元教授と検察の双方が上告したが、最高裁は原審の判断を支持した。

この最高裁の判断を受けて、「正義記憶連帯」(旧・挺対協)が声明を発表し、「今回の判決は結果的に、リュ・ソクチュンの日本軍『慰安婦』被害事実否定行為に免罪符を与えたものだ」と指摘した。

また、「ドイツをはじめとするヨーロッパのほとんどの国では、ホロコーストや反人道的犯罪を否定する行為が人間の尊厳を侵害し、集団への憎悪を引き起こすものと判断され、表現の自由の保護対象から除外され、厳しく刑事処罰されている」と述べ、「今回の判決によって裁判所は被害者の人権を守り、法的正義を確立する機会を自ら放棄した」と批判した。

そして「歴史的真実を否定し、歪曲する者たちを阻止し、被害者の名誉を毀損する行為を厳しく処罰できるよう、『日本軍“慰安婦”被害者保護法』の改正が必要だ」と主張した。

なお、韓国では最近、著書の中で慰安婦被害者を「自発的な売春婦」と表現したパク・ユハ世宗大学名誉教授に対し、慰安婦被害者9人が提起した損害賠償訴訟の控訴審でも、原告敗訴の判決が言い渡されている。【2月13日 サーチコリア】
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なお、韓国司法については、国民世論次第で司法判断が決まるなど罪刑法定主義・法治主義・法の支配が崩れがちな政治・社会体質を皮肉った「国民情緒法」、または「国民感情法」といった言葉もありますが、そのあたりは日本でも「大岡裁き」が人気があるように、法の世界に情を持ち込むことが期待されるのは韓国だけではないかも。

2013年にヒットした法廷を舞台にした韓国ドラマ「君の声が聞こえる」をつい最近動画配信で観ていて、韓国の法廷でもいろいろな葛藤があるみたいと思った次第。
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インド・モディ首相、「友人」トランプ大統領と会談 貿易黒字、高度人材ビザ、アダニ事件が議題か

2025-02-13 23:36:47 | 南アジア(インド)

(共同声明を発表後、インドのモディ首相(右)と抱き合うトランプ米大統領=ニューデリーで2020年2月25日、AP【2月13日 毎日】)

【モディ首相とトランプ大統領 似た者同士の「友人」】
1月17日ブログ“インド 世界でも断トツの「トランプ大好き」 経済関係や中国への対応で米印関係に課題も”でも取り上げたように、“(1月)15日発表の各国世論調査によると、トランプ次期米大統領の選出は「自国にとってよいこと」と考える人の割合がインドが84%で最も高く、欧州や韓国では低迷した。地域による温度差が浮き彫りになった。”【1月16日 産経】と、インドではトランプ大統領は非常に人気があります。

その理由は、バイデン前政権は「弱い」というイメージがあり、そのくせ人権問題などで上から目線の小言が多い、それに対しトランプ氏は「強い指導者」のイメージがあり、実利で折り合えればうるさいことは言わない・・・という評価があるようです。

“つい最近まで山賊が出るほどの国だった”【2024年11月9日 WEDGE】インドでは、ルール遵守よりも、「強い指導者」が好まれる・・・ということで、その「強い指導者」ぶりをインドで演出して人気があるのがモディ首相。

アメリカとインドはともに中国を警戒する共通の立場にあることに加え、「強さ」のアピール、トランプの「アメリカを再び偉大に」政策とモディ首相の「ヒンドゥー・ナショナリズム」にはイデオロギー上の共通点も多いといったことで、二人は似た者同士で馬が合う関係にもあります。

“モディ氏は出発前の声明で、トランプ氏を「友人」と呼んで関係強化に意欲を見せた。第1次トランプ政権時代の2020年、モディ氏は地元の西部グジャラート州にトランプ氏を招いて大規模な集会を開くなど親交を温めてきた。”【2月13日 毎日】

【対米貿易黒字・関税の問題で対策をとるインド】
ただ、トランプ政権での米印関係には問題も。昨日取り上げたベトナム同様に対米貿易黒字・関税の問題です。

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インドにとっては貿易赤字削減のために関税を操作するトランプの手法は厄介だ。インドは世界最高水準の関税を維持し、巨額の対米貿易黒字を記録している(2022年は457億ドル)。

前トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、2期目でも要職への起用が取り沙汰されるロバート・ライトハイザーは、インドを「世界最大の保護主義国家」と評しており、貿易摩擦の激化は避けられない。【2024年12月11日 Newsweek】
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そこらは十分に承知しているインド・モディ首相は訪米・トランプ大統領との会談にあたって対策を用意しているとも報じられています。

****インド首相、関税引き下げ提案か=トランプ氏と会談へ訪米****
インドのモディ首相は12日、トランプ米大統領との首脳会談に臨むため、訪問先のフランスから米国に向け出発した。会談では「公正な貿易関係」を求める米国との摩擦を回避するため、関税引き下げのほか、エネルギーや防衛装備品の調達拡大を提案する可能性がある。

「(米印)両国の協力関係をさらに向上させ、深める行動計画を策定する機会となる」。モディ氏は外遊に先立つ10日の声明で、そう強調した。米国訪問は13日まで2日間の予定。

ロイター通信は複数の政府筋の話として、インドが米国からの輸入を促進するため、電子部品や医療機器、化学薬品といった10以上の分野で関税引き下げを検討していると伝えた。

インドにとって米国は最大の輸出相手国。インド商工省によると、2023年の貿易総額は約1200億ドル(約18兆4000億円)で、約312億ドル(約4兆7900億円)の対米黒字だった。

首脳会談では、米国からの戦闘車両調達や戦闘機用エンジンの共同生産も話し合われる見込み。米側には、インドをロシア製兵器への依存から脱却させ、自陣に引き込みたい狙いもある。【2月12日 時事】 
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“インド政府は高級車や太陽光パネルなど32の品目について輸入関税を見直す計画だ。財務省高官が明らかにした。世界的に貿易を巡る緊張が高まる中、米国からの輸入増加を図るのが狙い。”【2月6日 ロイター】

“インド政府は2月に入り、米国製オートバイ「ハーレーダビッドソン」を念頭に、排気量の大きいオートバイなどの輸入関税の引き下げを発表した。インドが関税措置の標的となることを避けるため、トランプ政権の不満に先手を打った形だ。”【2月13日 毎日】

【急増するインド移民 高度人材ビザでは米政権内の「MAGA派」と「テック派」の間で亀裂も】
上記のような貿易問題に加えて、両国にはH-1Bビザ(高度な専門的技能や知識を持つ外国人向けのビザ)の問題もあります。

先のアメリカの大統領選挙でも、民主党の大統領候補ハリス氏は母親がインド出身、共和党のヘイリー元国連大使、大統領選の共和党予備選に出馬したラマスワミ氏もインドにルーツを持ち、バンス副大統領の妻・ウーシャ氏もインド系、グーグルやマイクロソフトCEOもインド系・・・・・・と、近年アメリカ政財界におけるインド系の存在感が増していますが、その背景にはインドから移民急増、そして不法移民も・・・ということがあります。

そした事情を背景にした今後のインド移民受入れのあり方はトランプ政権内で、あくまでも移民を排除したい「MAGA派」と高度な人材を求めるマスク氏などの「テック派」の対立をも生んでいます。

****アメリカとインドの関係は?「ビザ」巡り、MAGA派とテック派に亀裂****
日本時間の13日午前、インドのモディ首相がアメリカを訪問。トランプ大統領との首脳会談に臨む。関税を取引材料に要求を突き付ける「トランプ外交2.0」で、アメリカとインドの関係はどうなっていくのだろうか。

■アメリカに住むインド出身者…10年で1.5倍以上に
米国でインド移民が急増

トランプ大統領は就任直後から不法移民対策に乗り出しているが、それはインドも例外ではない。
 
米国勢調査局のデータによると、アメリカに住む外国人の人口は2023年時点でおよそ4780万人。そのうちインド出身者はメキシコに次いで2番目、およそ470万人。10年で1.5倍以上に急増している。

また、ピュー・リサーチ・センターによると、インド出身の不法移民は2022年時点の推定で72万5000人いるという。これは、メキシコ、エルサルバドルに次ぎ、3番目に多い数字だ。
 
ブルームバーグによると、アメリカとインドの両政府はインド人の不法移民1万8000人を特定。軍用機で強制送還する準備を進めており、5日には104人を軍用機で送還した。

この時、移送された人が手錠をかけられていたことなどから、インドでは抗議デモが起きた。

ただ、インド外務省の報道官は送還に協力したことについて「これはインドからアメリカへの合法移住のルートを増やすためだ」と説明している。

■インドが拡大熱望…アメリカの高度人材ビザ
「MAGA派」と「テック派」の亀裂が浮き彫りに

この合法移住ルートについて、インドが重視しているものがある。 ロイター通信によると、それは「H-1Bビザ」だという。

H-1Bビザは高度な専門的技能や知識を持つ外国人向けのビザのことで、2023年に発給されたH-1Bビザは38万6000件あり、そのうち72%がインド出身者。ビザ取得者の65%はコンピューター関連に従事し、アメリカのテック企業の躍進を支えているという。

このH-1Bビザを巡り、1期目のトランプ政権は「アメリカ人の雇用を保護する」と発給を厳格化。トランプ氏のコアな支持層である「MAGA派」は高度人材ビザの廃止を主張している。

一方、2期目のトランプ政権を支えるイーロン・マスク氏などテック企業を率いるエリートの「テック派」は、優秀な移民は必要でビザの発給を拡大すべきとしている。

「MAGA派」と「テック派」の亀裂が浮き彫りになるなか、トランプ氏は去年12月、「すばらしい制度だ」とテック派に歩調を合わせる発言をした。

■政財界にインド系の影響力拡大
インド系の影響力拡大

アメリカ国内ではインド系の存在感が高まっている。
米国勢調査局によると、在米インド人の平均年収はおよそ15万7000ドル(およそ2400万円)で高額となっている。

経済界では、グーグル、マイクロソフト、IBMなど、名だたる大企業の経営トップにインド系が就いている。

また、政治への影響力も大きい  去年の大統領選を争った民主党のハリス前副大統領、共和党のヘイリー元国連大使、大統領選の共和党予備選に出馬したラマスワミ氏はインドにルーツを持ち、バンス副大統領の妻・ウーシャ氏もインド系だ。

■インド新興財閥の不正疑惑 トランプ氏とも接点?
インド新興財閥の不正疑惑
そして、インドのモディ首相の政権運営にも影響するのか?新興財閥の不正疑惑について見ていく。

去年11月、バイデン政権下のアメリカ検察当局がインドの新興財閥「アダニ・グループ」を率いるゴータム・アダニ氏らを起訴した。インド政府関係者への贈賄と賄賂の資金調達で、アメリカの投資家をだました疑いがもたれている。

トランプ大統領との接点も
さらに、このアダニ氏はトランプ大統領との接点も報じられている。

ブルームバーグによると、トランプ一族のメンバーはこれまでにアダニ氏の自宅を訪れたことがあるといい、トランプ氏周辺の関係者らはアダニ・グループを中国の覇権に対抗する重要なパートナーとみているという。

そして、捜査の進展にトランプ氏が影響する可能性も指摘されている。

■大統領令でアダニ氏を救済か
大統領令で救済か?

ロイター通信によると、トランプ大統領は大統領令に署名した。
その大統領令は、アメリカで事業を展開する企業が外国政府関係者に賄賂を贈ることを禁じる「海外腐敗行為防止法」について、訴追の一時停止と法の見直しを求めるものだという。

インドのニュースメディア、ビジネス・スタンダードによると、アダニ氏らの訴追には「海外腐敗行為防止法違反」も含まれているといい、この分野に詳しい弁護士の見解として「大統領令を受けて、司法省が進行中の外国贈賄事件の優先順位を下げたり、却下したりする可能性がある」としていて、アダニ氏らの捜査に影響が出る可能性を指摘している。【2月13日 テレ朝news】
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【インド新興財閥アダニ・グループの創業者アダニ会長の事件ではトランプ・モディ両氏に共通の利害があり幕引きか?】
インド新興財閥アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニ会長(62)らが贈賄事件に関与して不正な資金調達を行ったなどとして、ニューヨーク州の連邦大陪審に証券詐欺などの罪で起訴された件については、昨年12月12日ブログ“インド アメリカの「上から目線での介入」、民主主義価値観の押しつけに不満、だからトランプ氏が好き”でも取り上げました。

上記【テレ朝news】ではアダニ氏とトランプ大統領の関係が触れられていますが、財閥トップのアダニ氏がモディ首相と同郷で親密な関係にあり、モディ首相の庇護を受ける形で急成長したのではないかとも見られていることで、そのモディ首相との関係をめぐってインド議会は大荒れとなりました。

しかし、アダニ氏がモディ首相ともトランプ大統領とも近い・・・ということは、トランプ・モディ両氏にとって事件を大きくしたくないという共通の利害があるということでもあり、結果は素人でも分かるという感じがします。

両氏の会談は、日本時間では14日早朝に行われるようです。
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ベトナム  米中対立の“漁夫の利” 巨額の対米貿易黒字は関税”標的”に 今後も米中間でバランス

2025-02-12 23:49:47 | 国際情勢

(対米貿易黒字の推移 赤:中国 緑:EU 黄:メキシコ 青:ベトナム 【2月6日 ロイター】)

【米中対立の“漁夫の利”を得る形で成長してきたベトナム経済 対米黒字は第4位 トランプ関税“標的”のリスクも】
ベトナム経済はかつての中国のように驚異的な拡大を見せています。

****ベトナム、25年成長率目標を8.0%に上方修正へ****
ベトナムのグエン・チ・ズン計画投資相は12日、同国は2025年の国内総生産(GDP)伸び率目標を従来の6.5─7.0%から8.0%に上方修正すると明らかにした。修正には国会の承認が必要。

同相は国会で、今年の輸入と輸出はともに12%増、貿易黒字は300億ドルと予想されると述べた。

昨年のGDP伸び率は7.09%でアジア最高水準だった。

ズン氏は、工業生産と外国投資が今年の経済成長をけん引すると予想。外国投資の流入は280億ドルとなり、国内の小売売上高は12%増加するとの見通しを示した。

その上で「われわれは今年なお課題に直面しており、インフレ抑制とマクロの安定確保を優先する」と述べた。
今年のインフレ率については4.5─5.0%と予想した。【2月12日 ロイター】
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成長率8%・・・日本の現状からはかけはなれた数字ですが、5%前後にとどまる中国と比べても遥かに上をいきます。

ベトナム経済成長の背景には、2024年12月16日ブログ“トランプ関税に交錯する「不安」と「思惑」”でも取り上げたように、多くの企業が米中対立のリスクを避けるため、中国からベトナムに工場を移したことがあり、結果、ベトナムは対米貿易で第4位の黒字国になっています。

****米中対立の漁夫の利を得ていたベトナム****
ベトナムは近年、対米貿易黒字で中国、メキシコ、欧州連合(EU)に次ぐ第4位であるが、これは世界の製造業がトランプ関税の影響を避けるために中国から工場を移したからである。しかし、この「チャイナ・プラス・ワン」の成功は、ベトナムを脆弱な立場に追いやった。
 
ベトナム経済は、輸出の30%近くを占める米国に大きく依存している。ベトナムは今後、特に中国への関税を回避するために同国を経由する製品について、厳しい監視を受ける可能性が高い。

トランプは今回の大統領選挙でベトナムについて言及しなかったが、かつてベトナムについて「唯一最悪の悪用者」、「中国よりも更にひどく我々を利用している」などと発言したことがある。

ベトナム政府関係者は、トランプ大統領の貿易敵視政策がもたらす潜在的リスクをよく理解している。
東南アジア全体が米中貿易戦争の恩恵を受けるなか、ベトナムほど投資誘致に成功した国はない。ベトナムの成功は、中国に近いという優位性、ビジネス・フレンドリーな政策と優遇措置のおかげだ。

2023年のベトナムへの外国投資は366億ドル。ベトナムの対米貿易黒字は1040億ドル以上に急増し、トランプ大統領が就任した17年の380億ドルの約3倍となった。

トランプ退任後、米越関係は強化されてきた。両国は昨年、越政府が与える外交関係の最高レベルである「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げした。バイデン政権はまた、中国による先端チップ製造へのアクセスを制限するキャンペーンの一環として、ベトナムでの半導体生産を後押しする取り組みを支援してきた。【2024年12月16日 WEDGE】
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当然にこの巨額の対米黒字はトランプ大統領の「標的」となるリスクをはらんでいます。

****ベトナムの対米貿易黒字、24年は中国・欧州・メキシコに次ぎ4番目****
米政府が(2月)5日公表したデータによると、ベトナムの対米貿易黒字は昨年過去最高を記録し、中国、欧州連合(EU)、メキシコに次いで4番目に高い水準となった。

2024年のベトナムの対米貿易黒字は20%近く増加し、1230億ドルを超えた。中国の対米貿易黒字は2954億ドルで、18年のピークを大きく下回った。(中略)

トランプ米大統領はこれまでのところ関税を巡りベトナムについて何もコメントしていない。ただ、アジアを拠点とするヒンリッヒ財団の貿易政策責任者、デボラ・エルムズ氏は、トランプ氏が依然貿易赤字に固執していることを踏まえると、ベトナムが関税のターゲットになる可能性は高いと指摘する。

一方、ベトナムは米国からの輸入を増やすと表明しており、他の相殺措置も講じているため、懲罰的な措置を逃れると指摘するアナリストもいる。【2月6日 ロイター】
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ベトナムの輸出を主要品目別にみると、“1位は「コンピュータ電子製品・同部品」で573億2,500万ドル(前年比3.2%増)、2位は「電話機・同部品」で523億7,600万ドル(9.7%減)、3位は「機械設備・同部品」で431億2,700万ドル(5.7%減)だった。”【2024年10月23日 JETRO】

ただ、ベトナムでそれらの品目を一から作っている訳でなく、“ベトナムは中・韓から素材・部品を輸入し、国内で組み立て、米国、EUに完成品(縫製品、履物、PC、携帯電話)を輸出する構造。”【2022年5月 在ベトナム日本国大使館経済班】

トランプ大統領は2月10日、鉄鋼およびアルミニウムの輸入品に25%の関税を課すと発表しましたが・・・ここにもベトナムが関与しています。

****鉄鋼・アルミの25%関税、トランプ最大の標的・中国には効果なし?****
(中略)主たるターゲットは中国で、長年にわたる貿易戦争の一環だ。

だが、ここにはパラドックスがある。第1期のトランプ政権、ならびにジョー・バイデン前大統領のもとで課された関税によって、中国はすでに、アメリカに対して、鉄鋼あるいはアルミニウムを直接輸出することはほとんどなくなっているからだ。

それでいて中国は世界市場を支配しており、中国国内での過剰生産とデフレも相まって、アメリカ以外の国々には、ますます安価な中国製金属が大量に流入している。

中国は、世界の鉄鋼生産の54%を、アルミニウムに至っては60%を生産している。その一部は、ベトナムなどの第三国で再梱包されたのち、最終的にアメリカに送られている。

中国が大量生産を続けていることから、カナダとメキシコは、自国で産出する金属を輸出に回し、国内の需要は中国から輸入した鉄鋼でまかなうことが可能になっている。

もし中国がこうして第三国を経由して関税を逃れるのであれば、中国にコストを負担させる唯一の道は、すべての国に関税を課すことだ、というのがトランプ政権の論理だ。これは、バイデン政権における、よりターゲットを絞ったアプローチとは大きく異なる点だ。(後略)【2月12日 Newsweek】
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“ベトナムは米国に対して簡単には報復できないため、トランプ政権が早期に行動を起こす理想的な対象”(貿易調査団体のハインリック財団の貿易政策責任者デボラ・エルムズ氏)といった見方もあります。

ベトナムがトランプ関税の「標的」になるリスクが高いということで、外国人投資家がベトナムから資金を引き上げる動きも加速しています。

****外国人の「ベトナム株売り」加速、トランプ関税のリスク意識****
外国人投資家による「ベトナム株売り」がここ数週間加速している。ベトナムは、英指数算出会社FTSEラッセルによる格上げが予想されているが、トランプ米政権の関税政策が輸出型経済のリスクとして意識されている。

アナリストは、ベトナムの昨年の対米貿易黒字が過去最高で、輸入品には高い関税を課していることから、米国の関税リスクにさらされていると指摘する。

株式市場のデータによると、1月の外国人投資家の売り越しは6兆4000億ドン(2億5118万ドル)。昨年12月の約3倍で、市場規模がはるかに大きいインドネシアを上回った。

外国人の資金引き揚げは2月に入ってから加速し、売り越し額は第1週だけで4兆2000億ドンに達した。
今週も外国人の売りが続いており、トランプ政権が鉄鋼輸入品に25%の関税を課すと発表した後、鉄鋼メーカーが打撃を受けている。(後略)【2月12日 ロイター】
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【南シナ海における安全保障の面では、ベトナム・アメリカ双方に関係強化のメリット ただし、政治体制維持の点ではベトナム・中国には強い絆 今後も米中の間でバランスをとるベトナム】
当然に、ベトナムも高い対米依存のリスクは十分に承知していますので、これまでも対応をとってきていますし、これからも。

****【米中対立の漁夫の利を得ていたベトナム】トランプ関税で後退か、それでも高い南シナ海での存在感****
(中略)ベトナム政府は、「バンブー外交」という非同盟外交政策の下、米中と友好関係を培ってきた。しかし、米国からの購入が増加すれば、ベトナムは最大の貿易相手国であり隣国である中国を怒らせないように注意しなければならない。

中国からの投資も、23年には80%増加した。今年、ベトナムで最も多くの新規プロジェクト数を占めたのは中国である。(中略)

*   *   *
トランプも政権時に2度訪問
この記事が指摘している通り、ベトナム政府が、トランプ政権発足に備え、巨額の貿易黒字に関するリスク分析と対応策策定に努めているのは間違いない。

ベトナムは、トランプ前政権時代に貿易黒字削減に向けて強い圧力を経験し、様々な措置を講じてきた。ただし、23年の対米貿易黒字額は、17年当時の約3倍1040億ドルとなった。

(中略)いずれにせよ、輸出製品に対して10~20%の関税が課されることとなれば、輸出減、雇用減も含め国内経済への悪影響が懸念される。

トランプ前大統領時代の米越関係を振り返ってみると、当時、トランプ大統領はあからさまに東南アジア諸国連合(ASEAN)を軽視していたが、ベトナムは2回訪問している。

1度目は17年11月のことで、トランプ大統領はアジア太平洋経済協力(APEC)ダナン首脳会議に出席後、国賓としてハノイを訪問し、首脳会談を行った。主要議題は、貿易黒字と南シナ海に関する安全保障分野の協力であった。

貿易黒字削減に関して、ベトナム側は、ボーイングジェット100機購入を約束した。安全保障分野では、首脳会談翌年3月に空母カールビンソンがダナン港に寄港、75年のベトナム戦争終結後、米国空母の初のベトナム寄港であった。

トランプ2度目の訪越は、19年2月ハノイでの第二回米朝首脳会談時で、米朝首脳会談前に米越首脳会談が開催された。

なお、17年5月、ASEAN首脳の中で一番初めにワシントンに招待されたのはフック首相(当時)である。その3年ほど前から、ホワイトハウスのベトナムへの関心が見違えるほど大きくなっていた。

この変化の背景には、貿易黒字問題に加え、南シナ海問題に関するベトナムの「ぶれない対中姿勢」への高い評価があったものとみられる。今般、次期国務長官にルビオ上院議員が指名されたが、同氏は南シナ海問題に関連して、中国に対する厳しい言動を繰り返してきており、フィリピンおよびベトナムとの連携維持が期待される。(後略)【2024年12月16日 WEDGE】
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しかし、上記のような対米配慮・接近は中国を刺激することにもなり、ベトナムはアメリカと中国の間で難しいバランスをとる必要があります。

近年、アメリカはベトナムとの関係を重視して関係を強めてはいますが、南シナ海での中国との対立はあるといっても、基本的にベトナムは中国と同じ社会主義国であり、政治体制の維持という点で中国との関係はアメリカが考える以上に強いものがあります。

****<米国には理解できないベトナムのジレンマ>中国と組めば国を失い、米国と組めば政権を失う…トランプで米越関係はどうなる?****

テキサス大学のグレイテンズ准教授とカーネギー国際平和財団シニアフェローのカードンが、Foreign Policy誌(電子版)に1月13日付けで掲載された論説‘Vietnam Wants U.S. Help at Sea and Chinese Help at Home’で、ベトナム、米国、中国の関係を論じている。

この論説は、「ベトナムにとって、米国との安全保障分野の協力強化は中国の覇権を阻止するために必要である一方、中国との協力強化は政治体制維持のために必要である。米国はその点をよく理解し、ベトナムとの協力関係強化を過大評価すべきでない」と指摘している。要旨は次の通り。

過去4年間、バイデン政権はベトナムとの防衛関係強化のために多大な投資を行ってきた。2023年9月、バイデンがベトナムを公式訪問し、「包括的戦略パートナーシップ」を発足させ、米越関係は新たな高みに達した。

米国にとって、ベトナムとの防衛協力は、インド太平洋における「安全保障上の利益」となり、特に南シナ海での中国の活動に対抗するために重要である。

しかし、国防関係だけに焦点を絞ると、米越関係の真の姿について誤解を招きかねない。ベトナムには自国の利益があり、米国が理解できないような方法で道を切り開いてきた。重要なことは、ベトナムの指導者たちが中国との結びつきをさらに深めていることだ。

ベトナムの米中両国に対する二重の働きかけは、米国との関係が偽りということではない。ベトナムは、主権および南シナ海の権益に対する中国の具体的脅威に対抗するため、積極的に米国の支援を求めてきた。ただし、パートナーシップは狭い範囲にとどまっている。

ベトナムの指導者にとって決定的な重要課題(政権生き残り)について、中国は大きな影響力を有する。中越の緊密な関係が米国の影響力を制約することは大いにありうる。

ベトナムにとり「中国と組めば、国を失うかもしれない。米国と組めば、政権を失うかもしれない」とのジレンマが、米中両方と関係を結ぼうというハイブリッド戦略に繋がっている。

米越関係の強化は、ベトナムが中国との関係を犠牲にすることを意味しない。対外防衛と海洋安全保障に重点を置く米越関係とは異なり、中越協力はベトナム共産党政権を支えるためである。

習近平の国家安全保障上の最優先課題は、「中国共産党支配の維持」である。米国は、ベトナムの指導者も同様の政治的安全を志向していることを受け入れなければならない。「社会の安定と民族団結」を維持するために、中国はベトナムの警察、治安、諜報機関と協力している。

米国防総省は越国防省と協力し、「地域の平和と繁栄」というビジョンを掲げ、海上での中国への対抗に焦点を当てている。その一方、ベトナムの国内治安当局は、米国発の自由主義の影響等に対抗するため、中国と緊密な関係を築いてきた。

ベトナムの基本的な治安原則は、「反人権と民主主義」を掲げる中国とよく似ている。現在、中国との協力は、「インテリジェンス共有」、「反内政干渉」、「反分離主義」、反体制勢力による『和平演変』、『カラー革命』防止のための協力強化に重点を置いている。

また、多様な非伝統的安全保障ニーズ(サイバー犯罪や国際的人身売買、麻薬)について、ベトナムは、米中両方と協力している。

ベトナムは、米中両国と治安問題で緊密に協力することを選択した。これは、中国が他国にアピールするのは経済的なものだけだという従来の常識を覆す。中国は米国が真似できない援助(権威主義体制の手助け)を提供しているため、米国は限界を認識しなければならない。
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トランプ政権下での貿易は
この論説が指摘する通り、ベトナムの対米協力の目的(中国の覇権阻止)と対中協力の目的(体制維持)には大きな違いがあり、ベトナムは双方を必要としている。

この二つの目的を達成するため、ベトナムは対外政策では、「バンブー外交」および「4つのNO政策」(軍事同盟を結ばない、他国と対立しない、外国の基地を持たない、武力による威嚇や武力の行使をしない)を駆使して、米中両国との関係緊密化に成果を上げてきている。ベトナム外交は非常にしたたかである。

今年、米越両国は国交樹立30年周年、ベトナム戦争終結50周年を迎えることから、両国首脳レベルの要人往来が期待される。

トランプ政権から、貿易黒字国(越の24年1~10月対米貿易黒字額は1020億ドル、国別世界3位)に対する圧力が増すことに対しては、第一次政権時の経験をも踏まえ、既にそれなりの準備をしていると思われる。

例えば、ベトナム軍の武器調達は、従来60%以上がロシア製であったが、ウクライナ侵攻後はロシアからの調達が難しくなっており、米国製武器の輸入が見込まれる。米国製民間航空機や天然ガスの輸入もありうる。

米中対立先鋭化でどう動くか
(中略)最近、(南シナ海での軍事拠点化を進める)中国に対抗するためベトナムも軍事拠点化を進めていると報じられている。ベトナムは「南シナ海の安全と自由航行」を守るためには、米国との協力強化が不可欠と認識している。

米中対立が先鋭化した時にベトナムの「立ち位置」がどうなるかは、米中両国にとっても大きな関心事であろうが、ベトナムの「主権」や「国民の生命」に甚大な影響が及びうる事態になれば、ベトナムは「4つのNO」を放棄し、立ち上がると思われる。

中国は、その点をよく理解しており、この2~3年、ベトナムの「取り込み」に相当のエネルギーを割くとともに、南シナ海ではベトナムを刺激しないように、対越行動を自重している。

確かに、論説が指摘する通り、米国のベトナムとの協力には限界があることは間違いではないのだろう。しかし、米国は豪州、日、韓のような地域のパートナーと協力し、麻薬対策や人身売買対策などの問題に関して、能力開発、訓練、その他の支援を提供する、といった工夫をすることはできる。【2月12日 WEDGE】
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外国人向けの代理母出産  タイ・ジョージア・ウクライナの事情 

2025-02-11 23:45:02 | 国際情勢

(引き取りを待つ代理出産で生まれた赤ちゃん。ウクライナ・キエフのホテルにて(2020年5月15日撮影)【2020年6月6日 AFP】)

【タイ 外国人向けの代理母出産を再解禁検討】
タイでは1月23日、同性婚を認める法律が施行され、同性同士のカップルでも男女の夫婦と同様に婚姻を認めることになりました。同性同士の結婚を認める法律の施行は東南アジアで初めて。

それに伴って「代理母出産」に関する法律の改正も進んでいるようです。

****同性婚認めたタイ 同性カップルの「代理母出産」も容認へ****
23日に同性婚を認める法律が施行されたタイでは、同性カップルに子どもを持つ道を開くことになる「代理母出産」に関する法律の改正も進む。10年前に禁止された外国人向けの代理母出産を再解禁することも検討されている。

現行法で代理母出産を利用できるのは、法律婚をした男女のカップルで、いずれかがタイ人であることなどが条件。代理母は、カップルの親族である必要がある。

地元メディアによると、タイ保健省は、結婚に関する規定の文言が変わったのに合わせ、代理母出産の関連条文も従来の「夫」「妻」から「配偶者」に変更することを検討している。今後、改正案を議会に提出する方針だ。

一方、元々タイは代理母出産の世界的な拠点として外国人にも知られていた。しかし2014年、タイで代理母出産を利用したオーストラリア人のカップルが、生まれてくる双子の1人に先天的な病気があることを知り、引き取りを拒否したとされる問題などが判明した。

翌年、外国人カップルの依頼を受けた代理母による出産を禁止するなどしたが、逆に違法な代理母ビジネスの横行につながった。

今回の改正案には、代理母出産を再び外国人カップルに解禁する内容も盛り込まれている。タイ保健省のパヌワット局長は「代理母出産のプロセスを透明化し、違法なビジネスの撲滅にもつながる」と説明している。【1月23日 毎日】
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タイで外国人依頼の代理母出産が禁止になったのは、日本人男性がかかわる事件もあるとされています。

****代理出産で子ども13人、裁判所が日本人男性の親権認める タイ****
タイで日本人男性が多数の子どもを代理出産させていた問題で、バンコクの裁判所は20日、タイ政府の保護下にある子ども13人を引き渡すよう求めた男性の訴えを認めた。

この問題は2014年、バンコクのアパートで乳幼児9人が見つかったことで発覚。タイの警察当局は後に、DNA鑑定によって男性がこの9人を含め、代理出産で生まれた少なくとも13人の子どもの実父であると確認されたと発表した。

裁判所は声明で、「子どもたちの幸福と機会のため、代理出産で生まれた13人はすべて原告の法的な子どもであると認定する」と述べた。

男性は日本の有名企業創業者の息子で、騒動発覚後にタイを出国。しかしその後、子どもたちの引き渡しを求めてタイの社会開発・人間安全保障省を相手取って訴えを起こした。

裁判所によれば代理母となったタイ人女性らも親権を求めて訴えを起こしていたが、その後に親権を放棄しており、男性が子どもたちの「唯一の親」とみなされた。

また、男性は豊富な資産を持ち、日本で子どもたちを世話するための保育士やベビーシッターをすでに雇っていると裁判所は指摘した。

この件が明るみに出たことで、規制のなかったタイの代理出産ビジネスに対して厳しい目が注がれるようになり、当局は2015年、外国人が現地女性に金を支払って代理出産させることを法律で禁止した。【2018年2月20日 AFP】
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【ジョージア 代理母出産違法ビジネス タイ人女性100人超に手術強制か】
ただ、強い需要がある状況で禁止されると違法なビジネスが横行し、被害が水面下で拡大するというのが世の常。

****東欧で中国系犯罪組織が「卵子農場」、タイ人女性100人超に手術強制か タイ当局が捜査****
100人以上のタイ人女性が東欧のジョージアで中国系犯罪組織が管理する「卵子農場」と称される施設に軟禁されているとみてタイ当局が捜査している。

タイ人女性らは毎月強制的に卵子を採取されているといい、脱出した被害女性を保護するタイの「パヴェナ子供・女性財団」は採取された卵子は販売目的で他国に密輸されているとみている。

被害女性3人を救出
タイの英字紙「バンコク・ポスト」紙などが報じた。
子供・女性財団は昨年9月、中国系犯罪組織に身代金を支払って釈放されタイに帰国した被害女性から事件の相談を受けた。

タイ外務省も国際刑事警察機構(インターポール)と連携し、1月30日に被害女性3人をタイに送還させた。ジョージア内務省も2月6日に3人の送還を発表した。(中略)

合法的な代理母目的で渡航も
当初、SNSで女性向けの求人広告を通じ、不妊夫婦のため「代理母」になる目的でジョージアに渡ったという。

合法的な仕事と紹介されていたが、ジョージア到着後、中国系犯罪組織側にパスポートを没収された。案内された4軒の施設には少なくとも100人のタイ人女性が住み、健康状態は悪そうだったという。

代理母を求める夫婦は現れず、タイ人女性らは卵巣を刺激するホルモンを投与され、毎月1度麻酔をかけられて卵子採取手術を受けさせられたと訴えた。

財団代表のパヴェナ・ホンサクル氏は採取された卵子は体外受精に使用されるため、海外に密輸されていると指摘する。パヴェナ氏は3日、フェイスブック(FB)に「被害にあったタイ人女性は今も数百人いる」と訴えた。

財団は3日、中国系犯罪組織の取り締まりのため中国政府の協力を求めるようタイ政府に要請している。【2月10日 産経】
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【“代理出産王国”のウクライナやロシア ウクライナ戦争で中心はジョージアへ】
ジョージア(旧グルジア)もそうですが、ウクライナやロシアなど旧ソ連圏では外国人向けの代理出産ビジネスが定着しているとか。

ロシアのウクライナ侵攻後はロシアとウクライナという“代理出産王国”でのビジネスが困難になり、上記事件が起きたジョージアに中心が移っているようです。

****ともに代理出産王国のロシアとウクライナ 「女性搾取ビジネス」も侵攻2年で変化の波****
外国人向けの代理出産ビジネスが、ウクライナやロシアなど旧ソ連圏に定着している。不妊に悩む欧州や日本、中国のカップルにとっては子を得る貴重な手段だが「貧しい女性を搾取している」との批判も根強い。

(2024年2月)24日で2年となるロシア軍のウクライナ侵攻によって変化も生じている。

◆手続き簡単、安価なウクライナ 侵攻前は年2000人誕生
ウクライナは各国人からの代理出産の依頼を多く引き受けてきた。英BBC放送によると、侵攻前は約50の専門病院があり、代理出産で年2千人以上が生まれた。ウクライナでは、依頼主が出生証明書で両親と記載され、養子縁組などの手続きは不要だ。

「欧州諸国より数倍安い」「ウクライナ女性は責任感が強い」。代理出産を扱う首都キーウの産婦人科病院のホームページには外国人向けの宣伝文句が並ぶ。
地元女性を代理母に勧誘するページもある。出産経験があり、非喫煙者で過度に酒を飲まず、遺伝性疾患がないことなどが条件だ。報酬は2万~2万7千ユーロ(約320万~432万円)。

ウクライナの平均年収の5~6年分に相当する。食費や住居が支給されるケースも多く、代理出産で収入を得ようとする女性は少なくない。

卵子を提供すればさらに報酬がある。依頼主が選べるよう顔写真や学歴、民族的出自を事前に登録するという。

◆「女性の奴隷化」批判も 侵攻後はジョージアへシフト
ウクライナで代理出産は合法だが、批判もある。2020年に大統領全権・児童の権利委員ムイコラ・クレバ氏は「女性の搾取、奴隷化だ。障害児は捨てられ、外国の同性愛カップルや(幼児性愛などの志向がある)性犯罪者が親になる可能性もある」と主張した。

侵攻の影響もある。米メディアによると、外国人の依頼主が減り、代理出産の中心地はジョージア(グルジア)に移りつつある。(後略)【2024年2月7日 東京】
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コロナ禍とウクライナ戦争で、代理出産を依頼したものの、依頼主が赤ちゃんを引き取れないというケースも多発したようです。

****日本も無視できぬ「ウクライナ代理出産」深刻問題****
新型コロナとロシアの侵攻で子を引き取れない
日本人のカップルがウクライナ女性に「代理出産」を依頼し、すでに60人以上の子どもが生まれている――。その実態は前編で報告した。ただ、ウクライナでの代理出産にはさまざまな問題もある。

もちろん、それらは同国に限っての話ではない。どうしても子どもがほしいというカップルの望みをかなえる可能性のある代理出産。そこには、どんな問題が潜んでいるのか。

代理出産の実情を伝えるリポートの後編は、新型コロナウイルスの流行とロシアとの戦争によって生まれた子どもを引き取ることが難しくなっている現状を報告し、代理出産の課題を考える。

ウクライナでの代理出産に関する海外の報道などを調べてみると、ウクライナで代理母が出産してくれたにもかかわらず、子どものパスポートが発給されず、同国で足止めされたというケースが複数報告されている。
なぜ、そんなことが起きるのか。

代理出産を合法とするウクライナでは、依頼者に親権があるが、依頼者の国では代理出産によって子どもが生まれた場合、依頼者をその親と認めないことがある。このため依頼者の国のパスポートが子どもに発給されなかったというケースが出てくる。

ウクライナが注目を集めるようになったワケ
海外での代理出産で最も多いのが、赤ちゃんと代理母、依頼者カップルの3者をめぐる法的地位の問題だ。
誰が子どもの親なのかをめぐって、法廷で争われたこともある。

タレントの向井亜紀さんがアメリカ人に代理出産を依頼して双子を得たケースでは、生まれた子どもを「実子」として出生届を出したが、受理されなかったため、不受理の取り消しを求める裁判を起こした。最高裁は2007年、不受理を認める決定を出した。結局、向井さん夫婦と子どもたちは特別養子縁組による「法的な親子」を選択せざるをえなかった。

2008年には「マンジちゃん事件」と呼ばれる出来事があった。インドで日本人夫婦の依頼によって子どもが生まれたが、夫婦が離婚し、子どもは無国籍状態となったケースだ。

赤ちゃんは現地で「マンジ」と名付けられ、世界で大きく報じられたことから、記憶している方がいるかもしれない。このケースでは子どもは特例として亡命者の扱いで日本に入国し、夫とその母(子どもの祖母)に引き取られた。

2014年にはタイで日本人の独身男性が代理出産によって十数人の子どもをもうけていたことが発覚した。これらがきっかけとなって、インドとタイでは代理出産に関する規制が強化され、外国人が代理出産することは難しくなった。

こうした結果、注目を集めるようになったのがウクライナだった。
活況を呈していたウクライナの代理母ビジネスは、新型コロナウイルスのパンデミックとロシアによる軍事侵攻で状況は一変した。ウクライナへの入国が困難となり、代理出産によって生まれた子どもを依頼者が引き取ることも難しくなった。

「代理出産で生まれた子どもを引き取ることができない。助けてほしい」
エージェントA社は、日本人夫婦からこんな相談を受けたとネットで報告している。それによると、この夫婦は依頼先のエージェントB社と連絡が取れなくなったため、別のエージェントであるA社に相談してきたという。

その時点で赤ちゃんは生後1カ月半。A社が調べたところ、赤ちゃんはキーウの病院で置き去りになっており、A社が病院から赤ちゃんを救出。最後はポーランド国境まで連れていき、日本人夫婦に引き渡したとしている。

各国の依頼者を悩ませる新型コロナと戦争
新型コロナウイルスと戦争で混乱するウクライナで代理母が産んだ子どもをどう引き取るか。この問題は今、各国の依頼者を大きく悩ませている。(中略)

新型コロナウイルスの流行が始まった2020年、キーウで代理出産を手掛けるクリニック「Bio TexCom」は、依頼者が引き取ることができず、ウクライナにとどまっている数十人の赤ちゃんがずらりとベビーベッドに寝かされた写真をホームページに掲載した。

「赤ちゃんたちは専門のスタッフが24時間世話をしており、安全です。クリニックは1日も休まず医療活動を続けています」とするビデオも公開した。ビデオではスタッフが赤ちゃんを抱っこしたり、ミルクを飲ませたりしている。

依頼者の国籍はフランスやドイツ、メキシコ、ポルトガル、中国などさまざまだ。ロシアによる軍事侵攻が始まると、依頼者の不安を和らげようと、多くの物資を保管したシェルターの動画も公開した。(後略)【2022年8月23日 森本修代氏 東洋経済ONLINE】
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“依頼者が引き取ることができず、ウクライナにとどまっている数十人の赤ちゃん”・・・上記記事で紹介されている病院は良心的な病院ですが、引き取りができないまま闇から闇へ流された赤ちゃんも存在したのかも・・・というのは私の全くの想像です。

最近目にした記事で、ウクライナで胎児の臓器が「若返り治療」の名目で欧米の超富裕層に提供されている、そうしたことに政府機関が関与しているという、信用しがたいものがありましたが、あまりに荒唐無稽で信用しかねます。ロシア側のプロパガンダでしょうか。もしかしたら臓器ではなく「胎盤」プラセンタの誤解ではないでしょうか。

一方で、“ロシア、捕虜の内臓切除か 臓器移植の闇市場存在?―ウクライナ報道”【2024年7月26日 時事】といった報道もありますが、こちらはウクライナ側のプロパガンダかも。


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内モンゴル  同化政策で消える文化 高度な自治実現を目指す活動家の懸念される安否

2025-02-10 23:19:03 | 中国

(内モンゴルの民族団結を促すスローガン【2月8日 TBS NEWS DIG】)

【習近平主席指導で進められる同化政策 20~21年には激しい抵抗運動も】
「アジア」という地域でイメージするのは(私の場合)、中国・韓国・北朝鮮・台湾など東アジア、ASEAN諸国の東南アジア、インド・ネパール・スリランカ更にはパキスタン・バングラデシュなどの南アジアの国々。

中央アジア・イラン・アフガニスタンとなると「地理的にはアジアなんだろうけど・・・」という異質な感じも。

そうした「アジア」のイメージで抜け落ちがちなのがモンゴル。(相撲ファンはそうでもないでしょうが)

そうした背景もあってか、モンゴルに関する相撲以外の日本語報道は非常に少ないのが現実です。

周知のように、独立国家としてのモンゴル以外に、中国には内モンゴル自治区も存在します。

歴史的に見ると、日本は満州国を作った当時、内モンゴルにも侵攻しておりこの地域に深く関与しています。

このあたりの経緯を簡単にまとめると、以下のようにも。

****二つのモンゴル、その歴史的経緯 日本が作った「蒙古聯盟自治政府」*****
清王朝は約300年の栄華を極めたが、1911年、孫文が「漢民族の国家を再興する」という旗印を掲げて辛亥革命を起こし、清王朝を崩壊させた。

1915年、ソ連は中華民国・北京政府に提案して「キャフタ条約」を結び、独立を望んでいたモンゴル人の意思を無視して、モンゴルを二つに分けた。

ソ連に隣接する外モンゴル(北モンゴル)に自治を認める代わりに、中国に隣接する内モンゴル(南モンゴル)を中華民国領に編入したのである。1924年、外モンゴルはソ連の影響を受けて社会主義国となり、モンゴル人民共和国として独立した。

(中略)(日本は)ロシア革命を経てソビエト連邦となっていた同国を中国・東北部から追い出し、そこに退位した清朝皇帝・溥儀をいただいて「満州国」(1932年)を樹立した。それと同時に、ソ連に対する“防共”戦線の最前線とみなす内モンゴルに進攻して占領。日本に協力する「蒙古聯盟自治政府」を樹立した。

(中略)だが1945年、日本は第二次世界大戦に負けて、満州や内モンゴルから退去した。

4年後の1949年、中国共産党が支配する中華人民共和国が誕生し、清朝政府の後継者を公言して、内モンゴルを自国領として引き継いだ。内モンゴルにとっては、また新たな試練に晒されることになった。試練は21世紀の今日になってもなお続いている。いや、前にも増して過酷になった。(後略)【2021年5月8日 譚 璐美氏(作家) JBpress】
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国際ニュースであまり多くは登場しないモンゴルに注目が集まったのが2020年~2021年、中国による同化政策、それに対する住民の抵抗が大きく取り上げられました。それが上記記事最後にある“前にも増して過酷になった”という件です。

習近平指導部による同化政策強化の一環として、内モンゴルの小中学校ではモンゴル語による授業が大幅に減らされ、漢語による授業が大幅に増やされました。

****習主席、同化政策を強化 内モンゴルで標準中国語の推進を指示****
中国の習近平国家主席は5日、同化政策の強化を指示し、内モンゴル自治区当局は「民族問題を解決」して標準中国語の使用を推し進めていくべきだと述べた。

同地区では昨年、モンゴル語に代わって標準中国語で教育が義務化されることに反対する住民らが激しい抗議活動を行った。

中国政府は、少数民族を多数派の漢民族に同化させる政策の一環として、標準中国語による教育の義務化を全国的に推し進めているが、内モンゴル自治区では昨年、モンゴル語の代わりに標準中国語で教育を行うようカリキュラムが変更されたことを受け、数万人が抗議デモや授業のボイコットを行った。

同自治区での抗議活動はまれだが、過去数十年で国内最大規模となった抗議デモを受け、政府は取り締まりを開始し、装甲車両で複数の学校を包囲し、警察当局はデモを主導した数十人を拘束。

さらに当局は、子どもに学校をボイコットさせた親に対して、解雇や罰金、子どもの退学という脅しをちらつかせ、地域によっては、同級生らを説得して登校させた子どもに金銭の提供を申し出ていた。

内モンゴル自治区での弾圧は、同様の同化政策を実施している新疆ウイグル自治区やチベット自治区における中国政府の動きに呼応する。

国営メディアによると、習氏は5日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、内モンゴル自治区での文化や民族についての「誤った認識」を正すため、地元当局は「全国共通の教材の使用をしっかりと推進」すべきだとの考えを示した。

習氏は内モンゴル自治区での抗議活動について、地元当局に「中国の特色で民族問題を解決するという正しい道を歩み続けるべきだ」と求め、内モンゴル自治区の住民らは「漢民族は少数民族から切り離せず、少数民族も漢民族からは切り離せないことを覚えておくべきだ」と述べた。 【2021年3月6日 AFP】
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当時、内モンゴルにおける「文化的弾圧」に対し、(外)モンゴルの反応はあまり大きなものはありませんでした。

****草原の民・モンゴル族、「内」と「外」の微妙な関係****
中国政府が内モンゴル自治区の少数民族モンゴル族に強めている同化政策は、国際社会に懸念を広げつつある。その同胞による独立国家で「外モンゴル」とも呼ばれるモンゴル国の動きは鈍い。それでも、中国はその動向が気にかかる。

(中略)9月12日には、「母語を救おう」をスローガンとした抗議デモが、東京、大阪、名古屋のほか、米国、ドイツなどで行われた。中国の少数民族問題に敏感な米国では議員らも関心を示す。

モンゴル国政府は公式の反応は示していないが、やむを得ない部分もある。長年にわたり、石炭や銅など輸出総額の9割前後を中国が占める。直接投資を受ける外国企業の約5割も中国企業だ。国内経済の生命線は中国に握られている。

エルベグドルジ元大統領は昨年9月、個人の立場で「母語の尊重」を呼びかけ、今年3月には国内に支援組織を発足させた。それでも支援は民間レベルにとどまり、同胞の危機に積極的に動いているように見えない。

背景には、モンゴル族が、長年にわたり共存してきた漢族と「融合した」と見下すモンゴル国の「純血主義」も指摘される。モンゴル国民の歴史的な強い嫌中感が、内モンゴルの同胞に対する複雑な感情につながったものだ。

中国は、モンゴル国の事情を見越しているはずだ。それなのに、王毅ワンイー国務委員兼外相は昨年9月、ウランバートルに出向き、「国内問題に干渉するな」とわざわざクギを刺した。(後略)【2021年10月12日 読売】
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モンゴル国の動きが鈍いのは、「純血主義」も指摘されていますが、一番は中国を刺激したくないというところでしょう。

【教育現場で消えるモンゴル語 「僕は少しは話せます」 (外)モンゴル国ではモンゴル文字復活の動き】
中国の同化政策は今も続いています。

****中国による「同化政策」…言葉をめぐって揺れる「2つのモンゴル」【報道特集】****
中国では今、少数民族の言葉が存続の危機に陥っています。内モンゴル自治区で何が起きているのか。一方で隣のモンゴル国は今年、長年使われていなかったモンゴル文字の復活を決めました。言葉をめぐって揺れる2つのモンゴルを取材しました。

旭鷲山「モンゴル人として残念」
大相撲の元小結・旭鷲山。1991年にモンゴルから来日し、史上初のモンゴル出身力士として多彩な技で人気を集めた。(中略)

引退後、故郷のモンゴル国に戻り、国会議員などを務めたが、今「あること」が心配だという。
「モンゴルの言葉を話してはいけない、モンゴル文字は学校で教えてはいけない。これは本当に残念ですね。特に僕らは同じモンゴル人なので大変残念です」

「2つのモンゴル」で起きていること
それはモンゴルの隣の国、中国で起きていた。中国北部にある内モンゴル自治区は、人口約2400万人。そのうちの2割、約400万人がモンゴルの人々だ。

「各民族はザクロのように固く団結しよう」 いたるところで目につくのは、民族団結を促すスローガン。実がギュッと詰まったザクロは、民族団結の象徴とされている。

中国では、多数派を占める漢族のほか、55の少数民族が暮らしている。モンゴル族も、ここでは少数民族の一つに数えられている。(中略)

これまで公用語である中国語とともにモンゴル語を学び、使うことが許されていた。しかし5年前、事態は一変する。

中国「同化政策」に広がる抗議
(中略)モンゴル族の親たちが、学校の前に集まり抗議の声を上げた。きっかけは2020年、中国政府が「国語」や「歴史」といった一部のモンゴル語の教科書を中国語に切り替えるなど、モンゴル語による授業を大幅に減らす方針を打ち出したことだ。 ここ数年、中国政府は少数民族に対し、中国語教育を強化するなど漢族への同化政策を進めている。

「モンゴルの言葉が失われてしまう」
危機感を抱いた生徒や親による抗議活動は瞬く間に拡大した。授業をボイコットする動きも広がったが、中国政府は抗議活動の参加者を次々と拘束。徹底的に抑え込んだ。アメリカを拠点とする人権団体によると、約1万人が当局に拘束されたという。

国際的な非難にさらされた中国政府は、こう主張した。
中国外務省・華春瑩報道官 「モンゴル語の授業時間も、使用教材も、授業で使う言語も変わりません。中国語とモンゴル語を使うことに変わりはありません」

しかし、2023年には習近平国家主席自ら内モンゴル自治区を視察。中国語の使用を徹底するよう指示を出すなど、方針は強化されている。

抗議活動から5年。現地はどうなっているのだろうか?

「モンゴル語が話せない」親の懸念
内モンゴル自治区・西部にあるオルドス市には、モンゴルの子どもたちが多く通う民族学校がある。
中国の国歌が流れる校庭で、敬礼する子どもたち。校舎には「中国語を話そう」というスローガンが掲げられていた。

抗議活動に参加したという人に話を聞いた。
モンゴル族の親 「この学校はまだましで、子どもたちはモンゴル語で勉強していますが、他の学校ではもうできません」 モンゴル語による授業はここ数年で大幅に削減されたという。

モンゴル族の親 「今は自分たちが家で言葉を教えるしかありません。モンゴル語による授業を受けられないから、子どもは幼稚なモンゴル語しか話せなくなっています」 この男性もまた、モンゴル語が失われてしまうという危機感を抱いていた。

モンゴル族の親 「(モンゴル語による)授業は禁止されました。子どもは幼稚園に通う歳ですが、モンゴル語で教える幼稚園も無くなりました。当時、激しく抵抗したけれど最後は中国共産党の勝ちですよ」
モンゴル語による授業削減という中国政府の方針に抗議して辞職した教師もいたという。

モンゴル族の親 「子どもが民族の言葉を学べなくなれば民族は消えてしまうでしょう。私の同級生の子どもたちの多くはモンゴル語が話せなくなっています。深刻な問題です」

モンゴル族の子どもが通う民族学校の教師は、授業の変化をこう証言した。
民族学校の教師(漢族) 「小学1年生は全部中国語です。今は全部中国語ですよ。モンゴル語の授業は少しはあるけれど、他は全部中国語で教えています」

(中略)
Q.モンゴル族の子どもたちはモンゴル語を話せるの? 「僕は少しは話せます」
Q.中国語とモンゴル語どっちが話しやすい? 「中国語です。 モンゴル族の子どもも中国語で授業を受けるので」

変化が起きていたのは、学校だけではなかった。

消されていくモンゴル文字
街中では、これまでモンゴル族の文化を保護するため併記されていた「モンゴル文字」の表記が少なくなり漢字のみの看板が並んでいた。(中略)

中国で消えるモンゴル語。失われゆく、モンゴルのアイデンティティー。危機感を抱いたのはとなりの国、モンゴル国で暮らす人々だ。

80年ぶりのモンゴル文字復活
2020年、中国国内での抗議活動に呼応するようにモンゴル国でも「モンゴル語を守ろう」というキャンペーンが展開され、瞬く間に世界各地に広がった。キャンペーンを主催したNGOは、中国政府の弾圧から逃れてくる内モンゴル自治区の人たちを助ける活動も行ったという。

NGO「言語を守ろう」 バーサンジャルガルさん(33)
「モンゴルでは『命より名誉が大事。名誉とは言葉や文化を守り抜くこと』です。命をかけてモンゴル語を守ります」

市民たちも、中国の状況に胸を痛めていた。
モンゴルの市民 「民族を絶滅させるためには、まず言葉に手をつけてくるのです。とても残念です」(中略)

実は、モンゴル国で暮らす人々の多くは「モンゴル文字」が読めない。長らく旧ソ連の強い影響下にあったため、1940年代「モンゴル文字」にかわりロシアで使われている「キリル文字」を導入したからだ。(中略)

中国国内で進む急速な「モンゴル語消滅」の動きは、モンゴル政府のある決断を後押しすることになった。それは…
言語政策国家委員会  ナランゲレル事務局長(36) 「2025年1月1日からモンゴル文字とキリル文字で公文書を作成すると決めました」(中略)

モンゴル国で暮らすモンゴル人は約330万人。一方、内モンゴル自治区には400万人が暮らしている。もし、内モンゴルからモンゴル文字が消えてしまったら。危機感は強い。

モンゴル政府は今後、公文書だけでなく、道路標識や看板などにも徐々にモンゴル文字を広げていく方針だ。

80年ぶりの「モンゴル文字」復活の動きは、教育現場でも広がっている。
この学校では小学校6年生から高校3年生が週2回、モンゴル文字を学んでいる。先生の悩みは、日常生活の中でモンゴル文字に触れる機会が少なく、生徒がすぐに忘れてしまうことだ。それでも生徒たちは、自らの民族の歴史と文化を再確認するように、積極的に学んでいる。(中略)

モンゴルで始まった「モンゴル文字」復活の動きは、一度失った言葉を取り戻すには長い年月がかかることを教えてくれる。(後略)【2月8日 TBS NEWS DIG】
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【高度な自治の実現などを訴えてきたハダ氏 体調悪化 連絡が取れない状況】
中国政府による同化政策が進められる内モンゴルにあって、モンゴル族の人権の擁護や、モンゴル語の保護、高度な自治の実現などを訴えてきたのが南モンゴル民主連盟代表のハダ氏。

ハダ氏は1995年に「国家分裂罪」などで懲役15年の判決を受けていました。同氏の体調悪化が報じられています。

****中国軟禁下の南モンゴル人権活動家、緊急搬送 日本の国会議員がノーベル平和賞候補推薦も****
米国に拠点を置く人権団体「南モンゴル人権情報センター」は1月30日、中国内モンゴル自治区で高度な自治実現を目指し、公安当局に軟禁されている南モンゴル民主連盟代表のハダ氏(69)について区都フフホトの病院に緊急搬送されたと発表した。ハダ氏は日本の国会議員の推薦で今年のノーベル平和賞候補となっている。

多臓器不全の疑い
同センターは30日、酸素マスクを付けて集中治療室に横たわるハダ氏とみられる姿や太ももの写真も合わせて公開した。ハダ氏の妻から入手したといい、太ももには打撲傷とみられる紫色のあざが映っている。

妻によれば、中国の保健当局は25日にハダ氏が危篤状態にあることを伝え、妻は病院の集中治療室で意識をほとんど失った状態のハダ氏と面会したという。多臓器不全の疑いがあるといい、原因については明かされなかった。

ハダ氏は1980年代から中国の憲法で保障されている南モンゴルの民族自決権の回復を言論活動を通して主張し、95年に逮捕された。刑期を終えた後も中国当局が管理するアパートで軟禁されているという。

無償で治療し解放を
30年間自由を奪われても平和的に抵抗活動を続けるハダ氏は「南モンゴルのネルソン・マンデラ」と呼ばれ、自民党の山田宏参院議員ら4人の与野党議員はノーベル平和賞候補に推薦し、1月26日にノルウェーのノーベル委員会に受理された。

中国の弾圧政策に抗議する民族団体「南モンゴルクリルタイ」(世界南モンゴル会議)は今月1日、中国政府に対する抗議声明を出し、ハダ氏に適切な治療を無償で施した上で、軟禁状態を解くことを求めた。【2月3日 産経】
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その後「行方不明」報道も。

****中国・内モンゴル自治区の民主活動家が行方不明か 中国政府に自治区の高度な自治訴え****
(中略)容体が一時的に回復したとして家族はハダ代表との面会が許されたということですが、再び集中治療室に運ばれてからは接触できず、家族の問い合わせに対して、病院側はハダ代表の容態や居場所について回答を拒否しているということで、行方不明になっていると報じています。(後略)【2月10日 TBS NEWS DIG】
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アメリカ  連邦政府解体、「反キリスト教」取り締まりが進行、アメリカはどこに向かうのか?

2025-02-09 23:06:43 | アメリカ

(「侍女の物語」・・・「極端な思想を持つ政権が、強硬な姿勢で国を変えていく」世界
舞台となる世界では、環境汚染によって不妊率が爆増、各国で深刻な少子化の解消が火急の課題となっていた。宗教主義国“ギレアド共和国”では、妊娠可能な健康な身体を持つ女性は家族、仕事、財産、人権を奪われ、“子どもを産むための道具=侍女”として上流階級の夫妻のもとに送り込まれることが法律で定められている…。【シネマカフェ】)

【「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」 連邦政府職員を「ディープステート」として国民の敵に仕立てて粛清】
周知のように、急激な改革を推し進めるアメリカ・トランプ大統領は200万人超の連邦政府職員への破格の条件での早期退職を呼びかけています。残った職員には政権への忠誠を義務付ける内容で、退職に応じなければ、今後「政権に忠実でない」という理由で解雇されるおそれがあります。

****連邦職員に「早期退職」呼び掛け=米政権、200万人に大なたか―報道****
米メディアは28日、トランプ政権が200万人超の連邦職員に対し、「早期退職」を呼び掛けたと報じた。2月6日までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給するという。

トランプ大統領は連邦機関を「ディープステート(闇の政府)」と敵視しており、自身に従わない公務員の追放を本格化させる。

報道によると、人事管理局が一斉送信したメールには、今後連邦機関が縮小され、職員の扱いが常勤雇用から「随意雇用」に移される可能性に触れられていた。さらに職員には「忠実さ」を測る新たな行動基準を課し、違反があれば解雇を含む懲戒処分の対象になると警告。「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」を選ばせるような内容となっている。

軍や郵政公社、移民対策、国家安全保障に携わる者は対象外。正確な数は不明だが、ホワイトハウスは全職員の5〜10%が募集に応じると見込む。

ニューヨーク・タイムズ紙は、実際に政府が約束した給与を支払う能力があるのかは不透明な上、政治的圧力からキャリア公務員を守る法律に違反する恐れもあると指摘。

最大労組「米政府職員連盟」は声明で、「公務員の追放は多大な影響と混乱をもたらす」と批判し、組合員に安易に応じないよう呼び掛けた。

トランプ氏は既に、非政治任用職の解雇を容易にする職務分類を設ける大統領令に署名。意に沿わない職員を一掃する準備を進めている。

先週には連邦政府の「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業廃止を命じ、担当部署を事実上閉鎖。連邦職員の在宅勤務を認めない大統領令も出し、子育て世帯などが仕事を続けられなくなる可能性が指摘される。いずれの措置も連邦機関縮小や反対派排除に向けた「大なた」の一環とみられている。【1月29日 時事】 
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連邦機関を「ディープステート(闇の政府)」と敵視・・・これまでは「陰謀論」扱いでしたが、トランプ大統領は大真面目です。

****連邦政府職員を「ディープステート」として国民の敵に仕立てて粛清し、トランプが得るものとは****
<選挙で選ばれたわけでもないのに国家の中枢で隠然たる権力を振るい、トランプのような「改革者」の妨害をしてきた「ディープステート」とは、実際はどんな人間たちなのか>

米ドナルド・トランプ大統領が目指す連邦政府解体に向けた取り組みの一環として、連邦政府人事管理局(OPM)が200万人を超える連邦職員に早期退職を呼びかけたことに批判の声が上がっている。

だが人事管理局はこの批判を一蹴しており、同局のマクローリン・ピノバー報道官は米公共放送ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)が報じた声明の中で、「(早期退職の提案は)組織の再編にあたって連邦職員を支援するため綿密な審査の上で考案された、またとない寛大なチャンス」だと述べた。(中略)

米退役軍人保健局のある職員は、現場の士気は「きわめて低い」と次のように語った。「私たちは怠慢で無能だと言われている。私たちも一般の人々と同じように仕事を持つ普通の人間なのに、トランプは彼らと私たち連邦職員を敵対させようとしている。これこそ職員の士気をくじき混乱を招くやり方だ」

怠惰で無能なくせに、隠然たる力でトランプのような「選ばれた指導者」の邪魔立てをする、それが陰謀論者の言う「ディープステート」で、トランプが再び大統領に返り咲いた今、連邦政府職員は完全に一般国民と敵対し、粛清すべき存在となった。(中略)

トランプ政権の高官たちは、思い切った連邦政府改革が必要だと主張し続けてきた。2024年11月の大統領選挙でトランプが勝利した後、イーロン・マスクは自らが所有するソーシャルメディアのX(旧ツイッター)で、いつもの調子でこう切り捨てた。
「政府の無駄使いの規模たるや、目も当てられないひどさだ!」

セントルイス連邦準備銀行によれば、2022年夏以降、連邦政府の職員数は増加を続けている。
財務省のデータによれば、2022年度の連邦政府の歳出総額は6兆7500億ドル。つまりマスクの掲げる2兆ドルの歳出削減目標を達成するには、政府の規模を一気に三分の一に削る必要がある。(後略)【2月6日 Newsweek】
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政権側は“全職員の5〜10%が募集に応じると見込む”とも報じられていますが、すでに4万人とも6万人ともいわれる職員が退職に応じています。

****トランプ政権の早期退職募集に4万人以上が応じる****
アメリカのトランプ政権が連邦政府の職員に呼びかけていた早期退職の募集に、4万人以上が応じたことがわかりました。

レビット報道官
「今後さらに増えると思いますが、4万人の退職で何千万ドルも節約できます。(この退職募集は)とても寛大な申し出です。出勤したくない人や国民の金を無駄にする人は早期退職の受け入れをお勧めします」

トランプ政権は先週、およそ200万人の連邦政府職員に対し、2月6日までに退職を決めれば9月までの給料を支払う一方で、勤務を続ける場合は週に5日間の出勤を求めることを通知しました。

(中略)ロイター通信は「6万人に上っている」と伝えています。(後略)【2月7日 TBS NEWS DIG】
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この早期退職勧奨プログラムの申請期限は6日でしたが、期限直前に連邦地裁は一時差し止めの判断を示しています。

****政府職員への退職勧奨、一時差し止め CIA含む200万人超対象―米連邦地裁****
米東部マサチューセッツ州の連邦地裁は6日、トランプ政権が連邦政府職員200万人超に呼び掛けている早期退職プログラムを一時的に差し止めた。連邦職員を代表する労働組合が「法的根拠がない」としてプログラムの中止を求めていた。米メディアが伝えた。

トランプ大統領は「小さな政府」を志向し、連邦機関の大幅な縮小を公約している。
早期退職プログラムは6日深夜までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給するという内容で、中央情報局(CIA)など情報機関も対象となる。米メディアによると、退職に応じなければ解雇される可能性がある。

連邦地裁は是非に関する審理が行われる10日まで同プログラムを差し止めた。既に退職に応じた職員の扱いは明らかになっていない。【2月7日 時事】
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あくまでも「一時差し止め」であり、プログラム自体が廃止された訳でもなく、見方によっては“期限が6日から10日に延期された”とも言えます。“ホワイトハウスは、この一時停止を退職者数を増やす機会と見ている”とも。

****米大統領令に待ったかける司法判断が相次ぐ 連邦職員の早期退職勧奨を停止、「出生地主義」廃止は差し止め****
ドナルド・トランプ米大統領が署名した大統領令に対し、裁判所が相次ぎ待ったをかけている。マサチューセッツ州の連邦地裁は6日、連邦職員に対して同日深夜までに自主退職するよう奨励するドナルド・トランプ大統領の計画について、一時的な停止を命じた。5日にはメリーランド州の連邦地裁が、アメリカで生まれた人ほぼ全員に自動的に市民権を与える「出生地主義」の廃止を命じた大統領令を差し止めた。

BBCがアメリカで提携するCBSによると、マサチューセッツ州のジョージ・オトゥール・ジュニア連邦地裁判事は、連邦職員組合が提起した訴訟で審理を行う10日まで、早期退職を呼びかける大統領令の計画を一時停止させる決定を出した。

トランプ政権は、連邦政府の規模を縮小する一環として、9月30日までの給与と引き換えに早期退職を奨励する計画を発表していた。
ホワイトハウスによると、4万人以上の職員が6日までの退職に同意したという。しかし、一部の職員はこの取引の条件に混乱があると話している。

判事の命令は、自主退職の期限である6日午後11時59分の数時間前に出された。

司法省の弁護士は、連邦職員に対して期限が一時停止されたことを通知すると述べたと、CBSは報じている。
ホワイトハウスは、この一時停止を退職者数を増やす機会と見ているようだ。

キャロライン・レヴィット報道官は声明で、「出勤を拒否する連邦職員が、この非常に寛大で一生に一度の申し出を受け入れられるよう、期限を延長してくれた判事に感謝している」と述べた。

人事管理局(OPM)は、期限を10日午後11時59分まで延長し、自主退職の手続きを続けるとしている。
OPMは、「このプログラムは阻止されているわけでも、キャンセルされているわけでもない」と述べ、「政府は延期された退職の申し出を尊重する」としている。

トランプ政権は以前、多ければ20万人の職員がこの申し出を受け入れることを期待していると述べていた。だがこの日は、期限直前に申し込みが急増するとみていると、米メディアに述べた。(後略)【2月7日 BBC】
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一部の職員はこの取引の条件に混乱がある・・・・それはそうでしょう。数日で「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」を決めろという話ですから。

【縮小・解体が進む政府機関 対外援助機関は閉鎖へ】
ただ、並行して各省庁での人員削減が進んでいます。

“米政権、環境保護庁職員100人超を休職扱いに 司法省でも削減へ”【2月7日 ロイター】
“米政権、厚生省職員数千人削減へ大統領令を準備=報道”【2月7日 ロイター】

「多様性、公平性、包摂性(DEI)」関連部門や環境対策などリベラルな政策に関係する部署が標的となっていますが、機関そのものが消滅する形になっているのが紛争や貧困地域で医療や食料支援など対外人道援助を扱うUSAID(アメリカ国際開発庁)。

****対外援助機関「閉鎖しろ」と投稿 トランプ氏、世界で混乱拡大****
トランプ米大統領は7日、対外援助を担う国際開発局(USAID)について、自身のソーシャルメディアに「閉鎖しろ」と投稿した。同日の記者会見で「全てが詐欺だ。有効活用されているのはほんのわずかだ」と述べた。USAIDは職員が休暇に入るよう指示を受けるなど機能不全に陥り、世界各地で支援を巡って混乱が拡大している。

トランプ氏は、政府の支出削減を担う新組織「政府効率化省」を率いる実業家マスク氏が「大規模な腐敗や無駄を明るみに出した」と評価した。USAIDの事業や取引を自身でも確認したとし「不正か非常識なものだった」と強調。政府を挙げて調査を進めるとした。マスク氏もUSAIDの閉鎖を主張している。

USAIDはワシントンの本部が閉鎖され、米国外で支援事業に従事する職員は7日深夜から休暇に入るよう指示を受けた。

ロイター通信によると、政権は1万人以上の職員を611人(別報道では290人)に絞り込む計画。米紙電子版はUSAIDを巡る混乱がガザに対する食料やテント、医療品の支援を危険にさらしていると報じた。【2月8日 共同】
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人道支援に関しては、トランプ大統領は先月、90日間凍結すると発表しており、各地で事業の停止など混乱が生じています。

“ミャンマーからタイに逃れた避難民たちが暮らすキャンプでは、アメリカからの資金が止まった病院が閉鎖されました。ロイター通信は7日、肺の病気を患い入院していた71歳の避難民の女性が、病院の閉鎖によりキャンプ内の自宅に移ることを余儀なくされ、退院した4日後に死亡したと報じました。”【2月7日 TBS NEWS DIG】

USAID閉鎖については、期限の数時間前になってワシントンの連邦地裁判事が、設定された期限を一時的に保留するよう命じています。トランプ大統領が断行しようとする「改革」と司法による一時停止判断が交錯して、正直なところ何がなんだかよくわかりません。

【選挙で選ばれたわけでもないのに国家の中枢で隠然たる権力を振るうマスク氏への批判も】
このUSAID解体を推し進めているのが政府の新組織「政府効率化省(DOGE)」を率いる実業家マスク氏です。

****アメリカの影の大統領は誰なのか?タイム誌が表紙で疑問と警鐘****
ホワイトハウスで本当に権力を握っている人物は誰なのか――。米タイム誌が最新号の表紙で疑問を投げかけた。
最新号の表紙に描かれているのは、大統領執務机に座る世界一の富豪イーロン・マスク氏だ。片手に飲み物を持ち、歴代大統領が使用してきた机からじっとこちらを見ている。

マスク氏は2024年のアメリカ大統領選挙でトランプ氏を支持し、再選を助けた。ワシントンポストはマスク氏はトランプ氏支援に少なくとも2億8800万ドルを費やしたと分析している。

トランプ氏は大統領選挙に勝利した後にマスク氏をDOGEトップに任命し、さまざまな連邦政府のシステムへのアクセス権を与えている。その中にはマスク氏が所有する企業が連邦政府と結んでいる数十億ドル規模の契約も含まれている。

マスク氏は財務省の連邦政府の決済システムや中小企業庁(SBA)へのアクセスが許可されているほか、トランプ政権が発足してから数週間の間に、国際開発庁(USAID)の解体に向けた動きに関与したとされる。

ホワイトハウスはマスク氏の肩書きを「特別政府職員」としている。倫理規定によると、特別政府職員はフルタイム勤務ではなく、給与は支払われない。一方、CNNは関係者への取材として、マスク氏は最高機密にアクセスする権限を与えられていると伝えている。【2月8日 HUFFPOST】
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政府機関について“選挙で選ばれたわけでもないのに国家の中枢で隠然たる権力を振るう”ディープステートというなら、マスク氏こそ・・・・という感も。

マスク氏に関しては選挙でも選ばれた訳でもなく、その巨大な権限の範囲が明確でないこと、一部にマスク氏事業との利益相反的な面があることなど批判もあり、また、「影の大統領」とも言われる状況で、トランプ支持者との間での主導権争い的なものもあるようですが、そのあたりはまた別機会で。

【「米国に神を取り戻す」 「反キリスト教」取り締まりを指示 聖書的原則に基づく「キリスト教国家」に向かうのか】
縮小・解体される政府機関が相次ぐ中で、新設される機関がマスク氏の「政府効率化省(DOGE)」、そして反キリスト教的偏見を根絶するためのチーム。

****「米国に神を取り戻す」 トランプ氏が連邦機関での「反キリスト教」取り締まりを指示****
トランプ米大統領は6日、米国内に広がる「反キリスト教的な偏見」を根絶するためとして、連邦機関でのキリスト教差別などを取り締まるタスクフォース(TF)を司法省内に設置すると明らかにした。

トランプ氏を支持するキリスト教右派勢力が主張する米国の「キリスト教国家化」に沿ったもので、憲法が定める「政教分離」の原則に抵触する可能性が高い。

首都ワシントンで毎年開かれる全米祈禱(きとう)朝食会の関連イベントで表明した。トランプ氏は、司法省や徴税機関の内国歳入庁(IRS)、連邦捜査局(FBI)といった機関が「キリスト教徒を標的にし差別している」と主張。これらを「即座にやめさせる」ため、ボンディ司法長官に直属するTFを設置するとした。キリスト教徒に対する暴力には「完全な訴追」で対応するとも語った。

米憲法は「国教樹立の禁止」など政教分離の原則を定め、政府が特定の宗教・宗派を後押しすることを禁じている。これに対しトランプ氏の支持層には、米国は聖書的原則に基づく「キリスト教国家」であるべきだと主張する声が強い。

リベラル系の非営利団体「教会と国家の分離のための全米連合」は6日の声明で、「キリスト教ナショナリストによる米国を作り替えようとする試みの一部だ」とTF設置を批判した。

トランプ氏は6日の演説で、昨年起きた自身への2度の暗殺未遂で「宗教との関わりが変わった」とし、「米国に神を取り戻さなくてはならない」と強調した。1月20日の就任演説では、自身が暗殺を免れたのは「神に選ばれた」からだと述べていた。

またトランプ氏は6日、ホワイトハウスに信仰問題を扱う新部署を設置し、トップにキリスト教福音派の女性伝道師ポーラ・ホワイト氏を起用すると発表した。ホワイト氏は、トランプ氏の個人的な「霊的アドバイザー」とされ、第1次政権でもホワイトハウスと宗教界を結ぶ連絡役に任命された人物。「繁栄の神学」と呼ばれる現世利益的な信仰を説いており、伝統的なキリスト教界では異端視する向きも多い。【2月7日 産経】
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新部署のトップにキリスト教福音派の女性伝道師ポーラ・ホワイト氏は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)関連のイベントにビデオメッセージを寄せているとか。もっとも彼女だけでなく“トランプ政権と旧統一教会を巡っては、バンス副大統領が5日に教団と関連のある行事で講演している。”【2月7日 産経】

統一教会絡みはともかく、“米国は聖書的原則に基づく「キリスト教国家」であるべき”という路線が進むのはとても怖い。 加えて、トランプ大統領が本気で「神に選ばれた」と考えていたとしたら・・・

『侍女の物語』の描くディストピアが現実のものになりそうな恐怖も感じます。
石破首相、トランプ大統領と「相性が合う」と喜んでいていいのかな?
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イラン  トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否

2025-02-08 22:29:18 | イラン

(イラン最高指導者ハメネイ師とトランプ大統領【2月6日 VIETNAM.VN】
トランプ大統領はイランへの「最大限の圧力」復活させる一方で、会見で「イランと取引できれば素晴らしい」と述べ、イラン側との交渉にも意欲を示しています。)

【中東情勢を不安定化させる危険がある「追い詰められたイラン」】
おととしのハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、イスラエルとの衝突が軍事的なものになり、支援してきたハマスだけでなく虎の子の親イラン組織ヒズボラも大打撃を受け、支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・イランの地政学上の立場は壊滅的な打撃を受けています。

イランの中東における影響力はかつてないほど弱体化していますが、そのことは更なる中東情勢の不安定化をまねく可能性もあります。

****<トランプ再来、窮地に陥るイラン>イアン・ブレマーのユーラシアグループも指摘するリスク、3つの難題を読み解く*****
(中略)ユーラシアグループは2025年1月6日、2025年の10大リスクを発表した。(中略)中東に関して注目されるのは、リスクNo.6に「追い詰められたイラン」が入っていることだろう(中略)

同レポートには、「年内に制御不能なエスカレーションが起こる可能性は十分」とある。この理由として、ガザ危機やシリア政権崩壊によるイランの抑止力の低下、トランプ再登場による対イラン強硬政策の発動、国内での反体制運動の静かな高まり等が挙げられている。

こうした中、25年1月17日、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領はモスクワを訪れ、イラン・ロシア包括的戦略パートナーシップ条約を締結した。

その3日後の20日、アメリカではドナルド・トランプが47代大統領として就任した。同大統領はイランに対し、「最大限の圧力」キャンペーンを再開するのではないかと囁かれている。(中略)

多方面で難題に直面するイラン
近年、イランを取り巻く状況は大きく変化している。長らく、イランは中東において代理勢力(「抵抗の枢軸」)の育成に成功し、戦略的優位を確立したと評されてきた。しかし、ここにきて同国にとっての安全保障環境は悪化傾向にある。

第1に、イランとイスラエルの「影の戦争」が「表の戦争」に移行した点は大きい。(中略)
24年4月にイスラエルによるとされる在シリア・イラン大使館への攻撃が発生し、革命防衛隊員7人(シリア・レバノン方面の司令官含む)が殺害されると、今度はイランがイスラエル本土に対して「真の約束」作戦と題する弾道ミサイル・ドローンを組み合わせた攻撃で報復した。

その後、ハマスのハニヤ政治局長の首都テヘランでの殺害(7月31日)を受けて、同年10月1日にもイランは「真の約束2」作戦を実行、それに対して同26日はイスラエルからの応酬がなされ、防空システムと弾道ミサイルの製造能力に多大な被害(注:イラン側は否定)が生じるなど事態は緊迫することとなった。

第2に、24年12月8日のシリアにおけるアサド政権崩壊の影響も大きい。(中略)
これによって、イランからパレスチナ・レバノンへの橋頭保の役割を担っていたシリアで、イランは足場を失う形となった。イランにとってイスラエルへの前方抑止の機能を失ったことを意味しており、安全保障上の打撃となった。

第3に、冒頭でも言及した、トランプの再登場である。トランプ第1期政権は、18年5月にオバマ前政権の最大のレガシーの一つといわれた核合意から単独離脱、イランに対し「最大限の圧力」を課した。これによって、イランの財政は、金融取引制限、原油輸出による外貨収入の激減、通貨下落、若者の失業等によって逼迫する事態に陥った。

また、トランプ政権は20年1月にイランの地域における影響力拡大の立役者だったソレイマニ革命防衛隊ゴドス部隊司令官を殺害するなど、軍事的圧力も強めた。

全体として、イランが優位にあるという安全保障認識は、徐々に過去のものとなりつつある。

イラン体制が示す対処方針
それでは、このようなイランの「劣勢」に対し、体制指導部はどう対処しようとしているのか? 前述の諸要因に対応する形で、体制指導部の認識・立場を確認したい。

第1に、イスラエルに関し、革命防衛隊は「真の約束」作戦の第3弾を実行する立場を崩していない。(中略)

第2に、「抵抗の枢軸」に関し、ハメネイ最高指導者は、抵抗戦線は弱体化していないと強弁している。(中略)イランは抑圧者と見做すアメリカとイスラエルに対する「抵抗」を続ける意思を依然有すると推測される。

第3に、アメリカとの関係に関し、イラン政府高官はアメリカ大統領選挙の結果はイランに影響を与えないといった立場を見せている。(中略)

一方で、24年11月中旬、イラン国連代表部大使が、トランプ政権で政府効率化省を任されたと噂される富豪のイーロン・マスク氏と会談したと伝えられた。真偽は不明だが、仮に事実であるならば、両国は緊迫する中でも対話のチャンネルを維持したいものとみられる。

イランでは、対外政策の意思決定主体は複数の機関によって分掌されており、相互がバランスを取り合う仕組みになっている。

改革路線で有権者の支持を得て当選したペゼシュキアン大統領、そして国際協調路線を取るアラグチ外相は、欧米との対話に前向きな姿勢である。しかし、最高指導者、革命防衛隊、国家安全保障最高評議会(SNSC)は異なる考えを有している可能性があり、実際の対外行動は複数の主体の思惑が絡まりあった末に決められることになる。

イランとしては、交渉相手から最大限の譲歩を引き出すべく、硬軟織り交ぜた戦術を講じるだろう。

抑止力回復に向けたいくつかのアプローチ
それでは、イランは実際にどのようなアプローチで事態に対処するのか、あり得る方向性をいくつか挙げよう。

第1に、欧米との軋轢が深まる中、イランの東方重視政策が継続されると考えられる。イランは21年3月には、イラン・中国25カ年包括的協力協定を締結した。これによって、制裁下でもイラン産原油を中国が購入し続けている。

また、本年1月17日にはロシアと20カ年包括的戦略パートナーシップ条約を締結してもいる。イランとしては、仲間となる国を増やし国際的な孤立を解消するとともに、金融・原油取引制限の中でも外貨獲得ができる抵抗経済の確立を追求している。

第2に、現在までイランは核開発を平和利用のためと説明してきているが、核ドクトリンを変更する可能性が取り沙汰されている。(中略)

第3に、軍事技術を不断に向上させ、それを誇示するかもしれない。(中略)

この他、イランはホルムズ海峡というチョークポイントに対する影響力を有していることから、何らかの形で海上での示威行為が顕在化する可能性や、「抵抗の枢軸」ネットワークの再構築に向けた取り組みを活発化させる可能性もある。

特に、イエメンのフーシ派、イラクのシーア派諸派との関係維持は、パレスチナ、レバノン、シリアでの劣勢を踏まえれば、その重要性を増している。

最悪のシナリオは、アメリカの圧力が経済面だけではなく、軍事面にも広がることである。イスラエルのネタニヤフ首相の進言を受けて、アメリカがイランの体制転換を追求すべしとなれば、中東地域の情勢、ひいてはエネルギー需給を含めた国際情勢に深刻な影響を及ぼし得よう。

不確実性の増す将来
本稿を通じて見た通り、イランを巡っては、イスラエルとの対立、「抵抗の枢軸」の弱体化、トランプ再登場、イラン国内での体制不満の高まり、最高指導者の高齢問題等、課題山積である。

イラン国内では、1月18日に首都テヘランの最高裁判所で判事2人が何者かによって殺害される事件が発生するなど、不穏な気配も漂う。竹のような柔軟性を持つイラン体制が事態にどう対処するかは、25年の中東情勢を読み解く上で重要な焦点である。(中略)

もしイスラエル・アメリカがパレスチナ・ガザ地区住民をはじめ被抑圧民に対する攻撃や抑圧を強める場合、イランおよびイランと考えを同じくする抵抗戦線は再び「抵抗」を活発化させることだろう。

欧米諸国は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「CRINK(クリンク)」、台頭する枢軸(the Rising Axis)、動乱の枢軸(the Axis of Upheaval)等と呼称して分断を深めるのか、それとも対話の道を模索するのか。欧米諸国によるイランへの対応のあり方が問われている。分断の道を選べば、イランをさらに中露の側に押しやることになる。【1月25日 WEDGE】
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【「最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」 トランプ大統領のイラン政策への牽制か】
上記記事で、イランのアプローチのあり得る方向性の2番目に、核ドクトリンの変更、すなわち核兵器開発があげられていますが、最高指導者ハメネイ師はこれまで同様「軍の核兵器開発を許可しない」という立場をいささか唐突に表明しています。

おそらく、圧力を強めるトランプ政権に対して「交渉」の余地を示すものと思われます。

****イランが『核兵器開発禁止令』発出 対トランプ政権への狙いとは?*****
<イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じた。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルなのか>

ペルシャ語放送のイラン・インターナショナルによれば、イラン軍司法機関のプルハガン長官が1月21日に核開発禁止を発表した。第2次トランプ米政権発足の翌日だ。

「故ホメイニ師は敵に対しても、違法兵器や非通常兵器の使用を認めなかった」と、プルハガンは述べた。「この原則に基づき、最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」

IAEA(国際原子力機関)は昨年12月上旬、イランの核開発と濃縮ウランの備蓄増加への懸念を表明。
イランは既に、ウラン濃縮度を核兵器級に迫る60%に引き上げている。核兵器製造を阻止するため、トランプ米大統領と政権は「最大限の圧力」路線の復活を討議している。

「核を軍事目的で利用する意図は全くない」。イランのペゼシュキアン大統領は先日、駐イラン英大使にそう語った。米政府にその声は届くのか。【1月27日 Newsweek】
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【トランプ大統領 「最大限の圧力」再開 交渉の余地も示唆】
一方、トランプ大統領は2月4日、第1次政権時に実施したイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。

覚書は財務省に対して、イランへの経済圧力の強化を指示。財務省と国務省には、イラン産原油の輸出ゼロを目的としたキャンペーンを実施するよう指示しています。

同時に、イランに対し『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とのメッセージを送り、硬軟両様の構えです。

****トランプ氏「取引したい」 対イラン「最大限圧力」も交渉の余地示唆****
トランプ米大統領は4日、核開発を進めるイランに対して「最大限の圧力」をかける政策を復活させる大統領覚書に署名した。

その後の記者会見では「可能な限り攻撃的な制裁を実施する」と強調したが、一方で「熱心に耳を傾けているイランにこう言いたい。『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』」とも話し、交渉の余地があることを示した。

覚書では、財務長官に対して新たな制裁や既存の制裁の厳格な執行など最大限の経済的圧力をイランにかけるよう命じ、国務長官に財務長官らと調整してイラン産原油の輸出をゼロに追い込むためのキャンペーンを実施するよう指示した。国務長官には、国際機関を含めて、世界中でイランを孤立させる外交キャンペーンを主導するよう求めた。

トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相と開いた共同記者会見で、「私は本日、イランの政権に対する『最大限の圧力』政策を復活させる措置を取った」と強調。「最も強力な制裁を科し、イランの石油輸出をゼロにし、イランの政権が地域全体および世界全体でテロの資金源となる能力を低下させる」と狙いを説明した。

一方、「最大限の圧力」を復活させることについては「私はイランが平和で成功することを望んでおり、やるのが嫌だった」と主張。イラン側に向け「あなたたちが生活を再建し、素晴らしい成果を上げることができるような取引を成立させたい」とも語った。

ただし、「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」とも強調。「彼らが核兵器を持つようになると私が考えれば、彼らにとって非常に不幸なことになるだろう」と警告した。

トランプ氏は第1次政権時の2018年、米英仏独露中の6カ国とイランが15年に結んだイラン核合意からの一方的な離脱を表明。イラン産原油の禁輸などの経済制裁にとどまらず、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害するなどイランに「最大限の圧力」をかけた。【2月5日 毎日】
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前出のイラン側の事前の「核兵器開発禁止令」表明は、トランプ政権の「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」という姿勢に対応するもので、予想されるトランプ政権の圧力を緩和させることを期待し、交渉の余地を残しておきたいというイラン側の思いでしょう。

なお、“イランがトランプ氏の暗殺を企てれば「イランを全滅させる」と述べた。そのための指令をすでに出したと説明した。米司法省は昨年11月、イラン軍組織が命じたトランプ氏の暗殺計画に関与したとして、イラン人の男を起訴したと発表していた。”【2月5日 産経】とも。

【イラン側反発 最高指導者は対米交渉を拒否】
イラン側は、トランプ大統領の「最大限の圧力」政策に反発していますが、同時に核兵器保有を容認しない方針もを強調しています。

****「最大限の圧力、失敗する」=イラン、トランプ氏に反発****
トランプ米大統領が敵対するイランへの「最大限の圧力」政策を復活させたことに対し、イランのアラグチ外相は5日、「(第1次トランプ政権時に)既に失敗しており、再び失敗するだろう」と主張した。イランのメディアが伝えた。

トランプ氏は4日、イランの核兵器保有を容認しない方針を強調したが、アラグチ氏は「懸案は解決可能だ」と指摘。「イランは核拡散防止条約(NPT)加盟国であり、(核兵器の製造や保有を禁じる最高指導者ハメネイ師の)ファトワ(宗教令)も出ている」と述べ、核兵器開発の意図を改めて否定した。【2月5日 時事】 
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ただ、最高指導者ハメネイ師はアメリカとの交渉を拒否する姿勢を見せています。事前に投げかけた「核兵器開発禁止令」発出の効果が見られないとの反応でしょうか。

これにより当分は「交渉」が進展する余地は小さいと思われます。

****イラン ハメネイ師 米交渉拒否 トランプ氏を批判****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は7日の演説で、米国との交渉を拒否する方針を表明した。トランプ米大統領は5日、イランとの交渉に前向きな姿勢を示していたが、イラン核開発を巡る現状打開の糸口は当面なくなった。米国の対イラン制裁強化やイラン側の核開発加速などで対立が深まる可能性が高まった。

ハメネイ師は軍将校らを前にした演説で、「米国とは交渉すべきでない。あんな政府との交渉は、賢明でも聡明そうめいでも名誉でもない」と述べた。理由として、米政府が核合意を順守しなかった過去の「経験」を挙げ、トランプ氏を「合意を破り捨てた同じ人物だ」と指摘した。

さらに、ハメネイ師は「米国の脅威には脅威で応じる。攻撃されれば攻撃する」と断言し、軍事衝突の選択肢にも言及した。

これに先立つ6日、米財務省は、イラン軍参謀本部に代わって年間数百万バレルのイラン産原油の中国への輸出を支援したとして、イランや中国などの個人やタンカー会社に制裁を科すと発表した。トランプ氏がイランに「最大限の圧力」をかけるよう4日に指示した後、米政府が制裁を発動するのは初めてだ。

トランプ氏は、イランの外貨獲得手段である原油輸出をゼロにする目標を掲げている。今回の制裁では、取引で重要な役割を果たす中国の金融機関は対象外で、イラン側とのディール(取引)の材料にする可能性があるが、イラン外務省報道官は7日、米政府の決定は「違法」とする非難声明を発表した。

イランは2018年、米英露など6か国と結んだイラン核合意から第1次トランプ政権が一方的に離脱し、制裁を再開したのに対抗して核開発を加速させた。現在、兵器級に近い濃縮度60%のウランを製造している。

米国が制裁を強化すれば、イランはさらに核開発を進めるとみられ、イランの核武装を憂慮するイスラエルを刺激することになる。イランの核施設への攻撃など軍事的な対立への発展も懸念される。【2月8日 読売】
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イランでは昨年7月、欧米との対話を通じて制裁解除を目指すペゼシュキアン大統領が就任しました。しかし、軍事や外交の最終決定権を持つハメネイ師がアメリカとの交渉を否定する姿勢を示したことで、対話路線の追求は難しくなる可能性があります。

もちろん、今は互いに強気の姿勢を見せあう段階で、今後は状況次第ですが。
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