孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

格差社会  米:万長者の元妻たちの巨額寄付 中国:習近平政権が掲げる「共同富裕」

2022-01-03 22:07:34 | 民主主義・社会問題
(【2021年11月10日 舞田敏彦氏(教育社会学者) Newsweek

【コロナ禍で格差拡大】
生きていけないような絶対的貧困はともかく、一定程度の所得があれば、所得の多寡そのもの以上に人の心をむしばむのが格差の問題。

格差社会という言葉に示されるように、現代社会は格差が拡大しつつあると言われて久しいですが、コロナ禍はその格差拡大を助長していると指摘されています。

****超富裕層の資産、世界全体の3.5%で記録更新 コロナで格差増=研究者****
世界全体の家計資産に占める「超」富裕層の資産保有比率は今年3.5%と、コロナ禍が発生した昨年初めごろの2%強から一段と上昇し、過去最多水準を記録した。社会科学者のグループが7日公表した最新の「世界不平等リポート」で、超富裕層による「世界の富の支配」が改めて浮き彫りになった。

リポート執筆を主導したルーカス・チャンセル氏は「コロナ危機は超富裕層とその他の人々の格差を助長した」と指摘した。

2019年にノーベル経済学賞を共同受賞したアビジット・バナジー氏とエステール・デュフロ氏も執筆に加わった。報告書は「資産が将来の経済的な利益や権力、影響力の主な源泉となる以上、この状況は今後格差が一段と開く事態を予見させる」と述べ、「極めて少数の超富裕層の手に経済力が異常に集中」していると説明した。

今回のリポートによると、資産上位0.01%の富裕層52万人の合計資産も世界全体に占める比率が昨年の10%から11%に切り上がった。

富裕層が富を拡大した背景としては、コロナ禍対応のロックダウンに際して世界の経済活動の多くがオンラインに移行する流れに乗じたことや、世界経済の回復期待の中で金融市場の資産価格が上昇した恩恵を指摘した。

リポートは各地域に目を向け、福祉制度が整っていない国では貧困が急増した一方、米国と欧州では政府の大規模支援によって少なくとも一部の低所得層の痛手は和らげることができたと指摘。チャンセル氏は「貧困との闘いにおいては社会福祉国家の重要性が証明されている」と強調した。【12月8日 ロイター】
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【アメリカ 億万長者の元妻たちによる新たな「タッグ」】
欧米の超富裕層のなかには、ビル・ゲイツのように寄付行為で社会に富を還元することに積極的な者もいます。
日本に比べたら「寄付」という行為が文化的に根付いている土壌があってのことでしょう。

下記はビル・ゲイツではなく、その元妻とアマゾン創業者の元褄の話。

****.「元夫が絶対にやらないこと」Amazon創業者と離婚…億万長者の“元妻”が6000億円超を矢継ぎ早に“寄付”したわけ****
億万長者の元妻たちによる新たな「タッグ」が米国を席巻しつつある。
 
1人は、2019年7月に米アマゾン社の創業者ジェフ・ベゾスと離婚したマッケンジー・スコット(51)。もう1人は、2021年8月に米マイクロソフト社の共同創業者ビル・ゲイツと離婚したメリンダ・フレンチ・ゲイツ(57)だ。
 
2021年8月の時点で、マッケンジーの総資産は590億ドル(約6兆4830億円)、メリンダの総資産は61億ドル(約6700億円)と推定される。

億万長者と別れ莫大な資産を保有する2人が初めてタッグを組み、同年7月「2030年までに米国における女性の活躍と地位向上を実現」するためのプロジェクトに4000万ドル(約40億円)を寄付すると発表したのである。

具体的には「育児支援の公共インフラ整備」「女性のIT・ソフトウェア専門家育成」「女性の高等教育・キャリア支援」「女性の起業支援」を推進する4つの団体にそれぞれ11000万ドル(約10億円)を寄付するという。

「女性による女性の支援」がトレンド
なぜ彼女たちは、あり余るお金を寄付につぎ込むのか。その理由についてマッケンジーは「変化が必要なシステムによって生み出された富を手放すためのもの」としている。自分たちの元夫が築き上げたシステムから得られた富は不当なものだから還元すべき、とも読める。
 
かつて米国では裕福な女性による典型的な寄付といえば「夫の金、夫の名」で「夫の出身大学」へ寄付する、あるいは夫の名前を冠した図書館や病院といった公共物を寄贈することであった。しかし近年、「女性による女性の支援」が、フィランソロピー(慈善活動)における女性の活躍とともに新たなトレンドとなっており、彼女たちの行動は象徴的だ。
 
メリンダは離婚前から積極的に慈善事業に携わってきた。2010年には国連総会において貧困撲滅やHIVの蔓延防止などを訴え、2019年のワシントンポスト紙の取材には「(虐待の被害者に直接会うなど)胸が張り裂けるような思いをすることが、仕事に取り組むエネルギーになる」と話している。世界最大の慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の立ち上げをはじめ、夫ゲイツが慈善活動に参画するようになったのは「メリンダのおかげ」(ゲイツ周辺)だという。

ベゾスが絶対にやらないこと
一方のマッケンジーはベゾスとの離婚が決まるや否や「元夫が絶対にやらないこと、すなわち壮大な資産を世界の人々と共有すること」(ヴァニティ・フェア誌)に着手した。

ちなみに米国の長者番付トップ5のうち、「ギビング・プレッジ」(寄付誓約宣言:ビル・ゲイツや投資家のウォーレン・バフェットらが富裕層の寄付を促すために始めた慈善活動)に参加していないのは、ベゾスだけだ。
 
離婚後に5億ドルのスーパーヨットを購入した元夫がアマゾンの社員によるストや労働環境の問題、環境問題などで叩かれているのを後目に、マッケンジーは矢継ぎ早に59億ドル(約6480億円)の寄付を行った。

寄付が生む恩恵の副産物
「私には不釣り合いなほどのお金があります。金庫が空っぽになるまで寄付し続けます」と宣言した通り、2020年に全世界で行われたコロナ関連寄付金の約20%が彼女によるものだった。さらにこの年、支援先候補となる6490もの組織・団体を徹底調査し、最終的に384団体への寄付を決めている。
 
寄付先決定にあたっては、単に研究を行ったり、プログラムを運営したりしているだけではなく、それらの取り組みが社会やコミュニティにどのような影響を及ぼしているかを重視しているようだ。

「寄付を行うことで初めて気づいたことがあります。それは私が寄付することでその団体やそれを率いている人々、活動に関心を抱いてもらえる、という恩恵の副産物です」(マッケンジーのブログ)

金は出すが、口は出さない“マッケンジー流”
小説家でもあるマッケンジーは内向的でメディアには殆ど姿を見せない。だが自身のブログにおいて、「少数の人に富が集中する不均衡な状態が解消されることを願っている」と綴り、その解決策は、富を持つ人たち以外によって見出されるべきだという考えを示した。(中略)

マッケンジーの寄付でもう一つ特徴的なのは、「金は出すが、口は出さない」点にある。マッケンジーは「(現場の)経験豊富な方々が最も課題を的確に把握しておられ、資金の使い道について適切な判断を下せると考えています」として、寄付金の用途を縛らず、受益者にすべてを任せている。

財団を作ることもなく、ひたすら「草の根」の活動を支援し続ける“マッケンジー流”は〈まったく新しい寄付のあり方〉(NYタイムズ)として、称賛を浴びている。

もはや「億万長者の元妻」ではなく、新時代の活動家
億万長者の元妻たちによる新しい形のフィランソロピーには、どのような意義があるのだろうか。

第一にジェンダー格差の是正こそが次代の重要なトピックであることを改めて世に知らしめたこと。第二に米国において、慈善事業への寄付金のうち、女性を支援するための寄付の割合が2%を割っている現状に風穴を開けること。そして最も重要なことは、彼女たちの行動が新たな寄付を促す効果があるという点だ。インディアナ大学の研究によると、とりわけ女性は、他の女性による寄付行動に関心を示し、自らも寄付を行う傾向があるという。
 
メリンダとマッケンジーは、ともにシアトル郊外に住む「ご近所さん」ではあったが、これまで特に親密であったというわけではなく、今回のタッグを公表するにあたっても、お互いに対する言及はない。それでも目指すべき場所は一致している。彼女たちはもはや「億万長者の元妻」ではない。自分たちの声を取り戻した新時代の活動家なのである。【1月3日 文春オンライン】
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「私だって資産が590億ドル(約6兆4830億円)あれば・・・」というのは貧乏人のひがみでしょうからやめときます。

それはともかく、自発的寄付行為だけでは社会は変わらないでしょう。

【日本 一番多い世帯は所得100万円台・貯蓄ゼロの世帯という現実】
日本ではこうした富裕層による寄付というのはあまり一般的ではありませんが、岸田首相が分配重視を打ち出しているように、日本にあっても格差是正が重要な課題となっています。

****所得と貯蓄の世帯数集計で分かる、日本社会の「富の格差」****
<日本で一番多いのは、年収100万円台で貯蓄ゼロの世帯という過酷な現実>

国民の生活は苦しくなっているが、その指標として使われるのは所得だ。1985年以降の推移を見ると、世帯単位の平均所得のピークは1994年の664万円だったが、2002年に600万円を割り、2019年では552万円となっている(厚労省『国民生活基礎調査』)。この四半世紀で100万円以上減ったことになる。中央値は437万円だ。世帯の単身化、高齢化が進んでいるとはいえ、国民の稼ぎが減っていることは明らかだ。

だが収入は少なくても(なくても)、貯蓄が多いという世帯もある。リタイアした高齢者世帯などだ。生活のゆとりの分布を知るには収入だけではなく、いざという時の備え、湯浅誠氏の言葉で言う「溜め」にも注目しないといけない。

所得階級と貯蓄階級のマトリクスにて世帯数を集計した表が、上記の厚労省調査(2019年)に出ている。(中略)

(冒頭グラフの)横軸は所得、縦軸は貯蓄額の階級で、この2つを組み合わせた各セルに該当する世帯数がドットサイズで示されている。一見して、所得・貯蓄とも少ない困窮世帯が多いことが分かる(左下)。所得300万未満、貯蓄200万未満の世帯は全体の15.1%に当たる(緑の枠線内)。その一方で右上の富裕世帯も結構あり、社会の富の格差も見て取れる。

ちなみに「日本で一番多い世帯は?」という問いへの答えは、上記のグラフのドットサイズから、所得100万円台・貯蓄ゼロの世帯ということになる。

単身非正規の若者、ないしはカツカツの暮らしをしている高齢者世帯などが多いと想像されるが、強烈な現実だ。所得と貯蓄を合わせて見ても、日本社会の貧困化が進んでいるのが分かる。

赤丸(左下)は所得・貯蓄とも100万円未満の世帯で、生活困窮のレベルが甚だしく、生活保護の対象のレベルだ。全体の3.2%に相当し、2019年1月時点の全世帯数(5853万世帯)に掛けると、実数で見ておよそ187万世帯と見積もられる。

現実の生活保護受給世帯はどうかと言うと、同年7月時点の被保護世帯数は約162万世帯(厚労省『被保護者調査』)。生活保護は、困窮世帯を十分に掬えて(救えて)いない。日本の生活保護の捕捉率の低さは、よく指摘される。

その生活保護だが、コロナ禍で困り果てる人が増える中、受給者は増えているだろうと思われるが現実は違う。生活保護受給者数の推移の近況を棒グラフにすると、<図2>(略)のようになる。2019年7月から2021年7月までの月単位の変化だ。

ご覧のように真っ平だ。コロナ禍だというのに保護受給者は増えておらず、よく見ると微減の傾向すらある。これでは「日本の生活保護は定員制なのか」という疑問も禁じ得ない。恥の意識につけ込んだ扶養照会(申請者の親族に援助できないか問い合わせる)などの水際作戦も功を奏しているのだろう。

なお同じ期間にかけて、母子世帯の保護受給世帯は明らかに減っている。京都の亀岡市では、2015年度から19年度にかけて母子世帯の保護利用が大幅に減っているのはどういうことか、削減のターゲットにされているのではないかと、市民団体が調査に乗り出すとのことだ(11月9日、京都新聞Web版)。

日本では世帯の貧困化が進んでいて、最後のセーフティーネットである生活保護も十分に機能していない。どうにもならず自殺者(とくに女性)が増え、自棄型の犯罪が起きるのも道理だ。

まずは生活保護の運用の見直しが必要で、効果が定かでない扶養照会などは廃止を検討するべきだろう。<資料:厚労省『国民生活基礎調査』、厚労省『被保護者調査』>【2021年11月10日 舞田敏彦氏(教育社会学者) Newsweek】
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【中国 「共同富裕」を掲げる習近平政権】
欧米富裕層の寄付行為も、(何をやるのか定かでない)日本の分配重視も格差社会の現状を変えるほどの力はないように思われますが、その点、良し悪しは別にして、中国は「馬力」が違います。

経済・政治体制を問わず格差が重大問題であることは同じで、中国でも高度成長の結果として格差拡大が問題なっています。そうした現状を踏まえて習近平国家主席が「共同富裕」を打ち出しているのは周知のところです。

****「共同富裕」って何なの?習近平政権のねらいは?****
中国の習近平国家主席はことし8月、「共同富裕」というスローガンを大々的に打ち出し、注目を集めました。(中略)
国際部の建畠一勇記者がわかりやすく解説します。

「共同富裕」って何なの? 
ひと言で言うと、格差是正のことです。

実際、中国共産党はスローガンで「貧富の格差を是正し、すべての人が豊かになることを目指す」としています。

もともとは、今の中国で「建国の父」とされる毛沢東が唱えたものですが、習主席は従来よりも一歩踏み込む形で「高すぎる所得を合理的に調節し、高所得層と企業が社会にさらに多くを還元することを奨励する」と述べ、所得の高い人や大手企業に寄付などを促しました。

どうして今、「共同富裕」なの? 
背景には、中国の経済成長にともなう貧富の格差拡大があります。

中国は「豊かになれるものから先に豊かになる」という「先富論(せんぷろん)」を掲げながら市場経済化を進め、世界2位の経済大国になりました。

しかし、国が豊かになるとともに所得の格差も拡大し、スイスの金融大手「クレディ・スイス」は、去年(20年)の時点で中国の上位1%の富裕層が中国全体の資産の30.6%を保有しているとして、富裕層に富が集中していると指摘しています。(中略)

習指導部の思惑は?
習指導部としては、格差の是正に取り組む姿勢をアピールすることで国民の不満を和らげ、政権の求心力向上につなげたい思惑があるとみられます。

また、中国の情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「習主席にとっては、来年の党大会で総書記(党トップ)として、異例の3期目入りが実現できるかどうかが1番の優先課題となっている。『習主席に引き続きやってもらわねば』という党内外の世論が重要になるので、来年の党大会を視野に入れた動きではないか」と指摘しています。

中国企業はどう受け止めているの?
中国企業の間では、大手IT企業を中心に巨額の資金の拠出を表明する動きが相次ぎ、「共同富裕」の方針に追従する動きを見せています。

ネット通販最大手の「アリババグループ」は、「共同富裕」の理念を体現するモデル地区建設の支援などを掲げ、2025年までに日本円で1兆7000億円を投入するとしています。

IT大手の「テンセント」は、低所得者の支援や農村部振興などのために日本円で8500億円の資金を拠出するとしています。

出前代行サービスなどを展開するIT大手の「美団」なども、「共同富裕」に貢献する姿勢をアピールしています。
なぜ、大手IT企業がこぞって追従しているの?

去年からことしにかけて相次いだ中国政府による「IT企業叩き」が関係しているのではないかとの見方があります。
「アリババ」はことし4月、独占禁止法違反の疑いで日本円でおよそ3000億円に上る巨額の罰金を科されました。
「テンセント」は、収益の柱の1つとなっているオンラインゲームが、未成年の使用を制限する政府の規制の対象となりました。

こうしたことから、IT企業側としては、さらなる圧力を避けるためにも、「共同富裕」に追従したほうが得策だと判断した可能性があります。

興梠教授は「中国共産党は国家が統制できない、統制外の民間の組織を嫌う。あまりにも強大になった民間企業は、共産党や国有企業にとって脅威であるという発想だ」と指摘します。

いろんな思惑がある中で、「共同富裕」ってうまくいきそうなの?
 習指導部としては、急成長した大手IT企業からの資金の拠出などを通じて、富の再分配を進めたい考えとみられます。

しかし、一方で、相続税や固定資産税の導入など、共産党幹部の既得権益に踏み込むような抜本的な税制の改革案は現時点では示されておらず、「共同富裕」という形での富の再分配については、効果を疑問視する指摘も出ています。

ちなみに先月(10月)、習近平指導部は日本の固定資産税にあたる「不動産税」を一部の都市で試験的に導入することを決定。ただ、反発も予想されるなど、全国的な導入にはまだ課題もありそうです。

中国経済への悪影響はないの?
大手IT企業などへの締めつけ強化は、企業活動を萎縮させて技術革新などが生まれにくくなるほか、株価の下落にもつながり、企業の資金調達が難しくなることから、結果的に中国の経済成長の妨げになるおそれも指摘されています。(後略)【2021年11月8日 NHK】
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中国共産党の「馬力」をもってしても格差是正は難事業です。
上記にもある「不動産税」試験実施について、“ただ、障害は多い。試験都市の候補には広東省深圳市などが挙がるが、北京市は外れる公算が大きい。党高官やその親族が所有する物件が多く、政治的な反発が強いためだとされる。
政府の不動産金融への規制強化などでマンション市場が冷え込んだことも逆風だ。”【1月1日 日経】とも。

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米  中ロへの対立軸として民主主義サミット 中国は「中国式民主」主張 AIと親和性がいい中国統治

2021-12-06 23:31:57 | 民主主義・社会問題
(ピンクが民主主義サミット参加国・地域【ウィキペディア】 (民主主義サミットには約110の参加国・地域が参加するということで、その参加国を見ていくと、その「民主主義」に関してやや疑問に思われる国も多々。要するに中ロ包囲網・・・でしょう)

【米主導の民主主義サミット 民主主義の価値を共有する国を結集し、中ロなどに対抗】
民主主義国の盟主を自認するアメリカも当然ながら問題は多々抱えていますが、特に、トランプ前大統領が2020年米大統領選の結果の正当性に疑義を唱えたことで、その民主主義の「後退」が指摘されています。

****米国、初めて民主主義「後退国」リスト入り****
スウェーデン・ストックホルムに本部を置く政府間組織「民主主義・選挙支援国際研究所」は22日、報告書「民主主義の世界的状況」2021年版で、初めて米国を「民主主義が後退している国」に分類したことを明らかにした。「目に見える悪化」は2019年から始まったと指摘している。
 
報告書によると、世界全体では少なくとも4人に1人が「民主主義が後退している国」に住んでいる。これに「権威主義的」または「ハイブリッド型」の政権下にある国を合わせると、世界人口の3分の2人以上が該当する。
 
報告書を共同執筆したアレクサンダー・ハドソン氏はAFPに、「米国は質の高い民主主義国家で、公平な行政(汚職と予測可能な執行)の指標は2020年にさらに向上した。しかし、市民の自由や政府に対するチェック機能の指標は低下しており、これは民主主義の根本に深刻な問題があることを示している」と説明した。
 
報告書は、「歴史的な転換点は2020〜21年、ドナルド・トランプ前大統領が2020年米大統領選の結果の正当性に疑義を唱えた際に訪れた」としている。
 
ハドソン氏はさらに、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警官に殺害された事件を受けて広がった「2020年夏の抗議デモの中で、集会・結社の自由の質が低下した」と指摘した。
 
IDEAでは、世界約160か国について過去50年間の民主主義指標に基づいて評価し、「民主主義国(後退国を含む)」「ハイブリット型政権」「権威主義的政権」の三つに分類している。

IDEAのケビン・カサスザモラ事務局長は、「信頼できる選挙結果に異議を唱える傾向が強まっていることや、(選挙への)参加を抑制しようとする動き、分極化の急激な進行などに見られるような、米国における民主主義の目に見える悪化」は「最も懸念すべき展開の一つだ」と述べている。
 
過去10年余りで、民主主義「後退国」は2倍に増加した。また、2020年には「権威主義」に傾いた国の数が、民主化した国の数を上回った。IDEAは、この傾向は2021年も続くと予想している。
 
2021年の報告書では、民主主義国は98か国で、近年最少となった。「ハイブリッド型」の国は20か国で、これにはロシア、モロッコ、トルコなどが含まれる。「権威主義的」な国は47か国で、中国、サウジアラビア、エチオピア、イランなどが入っている。
 
報告書は、民主主義の弱体化傾向について、新型コロナウイルス感染症の大流行が始まって以降「より深刻で憂慮すべきものになっている」と述べている。 【11月22日 AFP】
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そうした指摘はともかく、バイデン大統領としては、中国に対抗していくうえで、中国の専制主義・権威主義に対するアメリカなど同盟国の民主主義を前面に押し出すことで対立軸をつくり、同盟国の求心力を高めていく戦略です。

その流れにあって、アメリカは9日、10日に「民主主義サミット」をオンライン開催します。
バイデン大統領は、強権的な政治体制のもとで市民の権利が制限される権威主義の国が力を増しているのが問題だと訴え、民主主義をどう守るかを話し合おうと呼びかけています。

その実態は、中国・ロシアへの対抗でしょう。ですから、そこには中国・ロシアは招待されていません。

こうした発想は、政治理念で世界を二分してしまい、気候変動問題などへの取り組みに悪影響が出るという意見もあります。中国は「冷戦思考の再現だ」と反発しています。

****台湾招待、同盟国トルコは除外=来月開催の民主主義サミット―***
米国務省は23日までに、オンライン形式で12月9、10の両日開かれる「民主主義サミット」の招待リストを公表した。

約110の参加国・地域に日本や欧州主要国のほか台湾が含まれる一方、バイデン政権が権威主義体制と見なす中国やロシアは招待しなかった。(中略)
 
ホワイトハウスによると、民主主義サミットは民主主義国の指導者らを集め、(1)権威主義に対する備え(2)汚職との闘い(3)人権尊重の促進―をテーマに議論を深める計画。民主主義の価値を共有する国を結集し、中ロなどに対抗する狙いがある。
 
権威主義的傾向を強めるトルコやハンガリーは北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながら、招待されなかった。【11月24日 時事】 
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【中国 「民主主義の実践は国によって異なり、模範はない」】
当然ながら中国・ロシアは強く反発しています。
中国の王毅国務委員兼外相はアメリカに対して「世界の指導者を気取り、各国に米国を見習うよう求めている」と批判。「一つの国の基準に基づいて線引きを行い、分裂と対立を作り出す」とも。

****「世界の指導者気取り」 中国外相、民主主義サミット巡り再び米批判****
中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は26日、ロシア、インドの外相とオンラインで会談し、米国が12月に開催を予定している「民主主義サミット」に触れて「民主主義をかたる内政干渉には反対だ」と語った。中国外務省が発表した。
 
米政府は「民主主義サミット」に台湾を含む計110カ国・地域を招待する一方で、中ロなどを排除。中国は反発し、米国への批判を繰り返している。
 
王氏は会談で民主主義サミットについて「一国の基準で線を引き、分断と対立を作り出す」と米国を名指しで非難。「米国は世界の指導者を気取っているが、民主主義の実践は国によって異なり、模範はない」と語った。
 
王氏は24日のイランのアブドラヒアン外相とのオンライン会談でも、民主主義サミットを「イデオロギーで線引きし、陣営間の対立をあおるものだ」と批判していた。
 
中国外務省によると、バイデン米政権が外交ボイコットを検討している北京冬季五輪について、中ロ印外相の共同文書で支持を明記。イランのアブドラヒアン氏も「円満な成功を信じている」と語った。【11月27日 朝日】
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台湾を招待したことについては、中国外務省の趙立堅副報道局長は11月24日の記者会見で、「断固とした反対」を表明した上で、「台湾独立勢力と一緒に火遊びすれば、自ら身を滅ぼすだろう」と述べ、米国をけん制しています。

****ロシア、民主主義サミットに反発****
ロシアのペスコフ大統領報道官は24日、バイデン米政権が12月にオンライン形式で開く「民主主義サミット」に関し、「米国は新たな分断線をつくり、自国から見て良い国と悪い国に分けることを好んでいる」と反発した。タス通信が報じた。
 
バイデン政権はロシアをサミットに招待しなかった。ペスコフ氏は米国が民主主義に関する自国の考え方を他国に押し付け、民主主義という言葉を「私物化」しようとしていると非難した。【11月24日 時事】 
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【「中国式民主」として「全過程人民民主」とは?】
アメリカに「専制主義」などと批判される中国・習近平政権は「中国式民主」があると主張。
王毅外相は、ロシア、インドとの会談で「民主の実践は国情によって異なり、一つの型や規格しかないということはありえない」と米国を牽制しています。

そうした発想から、中国は独自の「中国式民主」として「全過程人民民主」なるものをアピールしています。アメリカの民主主義は欠陥をないがしろにしており、投票のときしか有権者の声を聞かないとも批判しています。

****中国流「民主」掲げ対抗 「一部の国の専売特許でない」 米サミットに抗議****
米国が日欧などを招いて開く民主主義サミットを前に、中国共産党政権が「民主主義は一部の国の専売特許ではない」との大々的な宣伝キャンペーンを始めた。

「全過程人民民主」という概念を掲げ、中国には自国の実情に根ざした民主主義があると主張。政治システムやイデオロギー領域でも米国の「覇権」に挑む姿勢を鮮明にしている。

「ある国が民主的か否かはその国の人民が判断すべきで、国際社会が一緒に判断すべきだ。今、ある国が民主の旗を振って分裂をあおり緊張を高めている」
 
4日、中国政府が開いた記者会見で、国務院新聞弁公室トップの徐麟主任が米国を念頭に語気を強めた。3日には王毅(ワンイー)国務委員兼外相が、友好国パキスタンのクレシ外相と電話会談し「米国の目的は民主主義ではなく、覇権を守ることにある」などと対米批判を重ねた。
 
中国では外務省が2日に「何が民主で、誰が民主を定義するのか」と題する座談会を開いたほか、各地の大学やシンクタンクが同様の討論会を開催。国営メディアも民主主義についての記事やインタビューを相次ぎ掲載しており、民主主義サミットに抗議する一大キャンペーンの様相だ。
 
政府やメディア、大学なども動員した動きが、習近平(シーチンピン)指導部の強い意向を反映しているのは明らかだ。

 ■自国の政治を「全過程人民民主」
しかし、習指導部の狙いは、民主主義サミットによる「対中包囲網」の打破だけではなさそうだ。
 
中国政府は4日、「中国の民主」と題する白書を発表した。白書は「長い間、少数の国々によって民主主義の本来の意味はねじ曲げられてきた。一人一票など西側の選挙制度が民主主義の唯一の基準とされてきた」と主張。

中国が自国の現実や歴史に根ざして実践する民主主義を「全過程人民民主」と呼び、ソ連崩壊後、信じられてきた欧米型の民主主義の優位を相対化しようとする習指導部の決意を強く打ち出した。
 
「全過程人民民主」の全体像ははっきりしないが、地方レベルの直接選挙や人民代表大会など、中国では政策の立案から実施まで様々なプロセスで民主制度が機能しているとした。
 
さらに、「中国は民主主義と専政(強力な統治)の有機的な統一を堅持する」「民主主義と専政は矛盾しない。ごく少数の者をたたくのは大多数の人々を守るためであり、専政の実行は民主を守るためである」とも主張。共産党の支配を支える現在の政治システムを正当化している。
 
体制に批判的な人権派弁護士らの摘発や、香港紙「リンゴ日報」への弾圧など、中国の権威主義的な統治に対する米欧の批判はやまない。

だが、政治分断で混乱する米国を尻目に、中国側は自国の制度への自信を深めている。そうした意識が民主主義サミットを機に噴き出した形だ。

 ■白書「中国の民主」の主な内容
・各国の民主主義は各国の歴史と文化、伝統に根付いており、道筋と形態は異なる
・中国共産党の指導は全過程人民民主の根本的な保障。中国のような大国で14億人の願いを伝え、実現するには堅強な統一指導が必要
・権力乱用はいわゆる政権交代や三権分立ではなく、(人民代表大会、行政、司法、世論などの役割を合わせた)科学的な民主監視によって解決する
・よい民主とは社会の分裂や衝突をもたらすものではない【12月5日 朝日】
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****「欠陥ないがしろ」 中国が米国の民主主義を批判する報告書****
中国外務省は5日、米国の民主主義を批判する報告書を発表した。金権政治や人種差別といった問題点を列挙し、「長期間、米国は自国の民主主義制度の構造的な欠陥をないがしろにしている」と強調した。バイデン米政権が近く開く「民主主義サミット」を前に、民主主義陣営を主導する米国への対抗を強めている。

1万5千字近くに及ぶ報告書は「米国の民主状況」と題し、米国内の研究などを基に論じている。米国の民主主義制度が「金権政治」に陥り、「民衆の参政権に制約を与えている」と主張。少数のエリート層による統治が進んでいるとしたほか、大統領選の選挙人制度が問題点を抱えているなどと指摘した。

今年1月に起きた連邦議会議事堂襲撃事件や、昨年5月に米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が白人警官に首を圧迫されて死亡した事件などを挙げて、「米国は民主主義の優等生ではない」と非難した。

また、アフガニスタンやイラク、シリアでの米国の軍事行動で多くの被害が出たと訴え、「米国が民主主義を無理強いしたことで、多くの国で人道的な災難をもたらした」と批判した。

米国の民主主義制度について「特有のものであり、普遍性は備えず、非の打ちどころがないものではまったくない」と強調した。(後略)【12月5日 産経】
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アメリカの(そして日本の)民主主義に多くの欠陥があるのは事実ですし、中国の指摘には妥当なものもあります。
ただ、中国の「全過程人民民主」なるものが民主主義の名に値するものかどうかは、今更ここで論じる必要もないでしょう。

「専政の実行は民主を守るため」とか「科学的な民主監視」とか・・・「なんじゃそりゃ?」という感も。

【AIが「人知」超えるとき、選挙制度に基づく民主主義は崩壊し、AIと親和性のある中国型計画経済が発展・・・との指摘も】
しかしながら、理念はともかく、中国的な専制主義がAI技術の進展と相まって、今後ますます現実面で効果を発揮する可能性を指摘する向きもあります。

****AIが「人知」超える2045年が転換点に=自由資本主義より中国型体制が有利―西原元早大総長****
国際アジア共同体学会(会長・進藤榮一筑波大名誉教授)が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、西原春夫早稲田大名誉教授・元総長(アジア平和貢献センター理事長)が講演した。

「人工知能(AI)の能力が人間の判断・能力を超えるシンギュラリティは2045年にも到来する」と指摘。AIと親和性のある中国型計画経済を発展させると強調した。

西原春夫早稲田大名誉教授・元総長の講演要旨は次の通り。

◆「21世紀・中国」をどう見るか
世界は転換期にあり、世界の大きな流れは中国を発展させる方向にある。日本のメディアは(中国の)難点ばかりを指摘するが、人類の歴史の大きな流れを報じていない。

大きな流れとは何か。人口知能(AI)の発達である。

(1)AIの能力が人間の判断を上回るシンギュラリティは2045年にも到来する。二十数年後にこの時代が実現すると、AIの人間行動の判断や予測が人間の能力を上回る。

(2)AIが発展すれば選挙制度に基づく民主主義は崩壊する。バイデン大統領が主張するような民主主義と専制主義の対立はなくなる。資本主義も社会主義も同じようなことになる。

(3)今までは国家、企業、個人の活動の成り行きや成果についての予測できなかったが、可能になる。

「人知」に限界があったためマルクスの時代にはマルクスレーニン主義の実現は不可能だった。人知に限界があったからソ連はじめ社会主義国は崩壊した。

AI時代には、自由資本主義より(膨大なデータに基づく)計画経済の方が実態を正確に把握でき、能率的で的確な予測と政策遂行が可能だ。

議会制民主主義の選挙制度が形骸化し、国民の意見・欲求や利益を反映されなくなった。選挙でしか国民の要求が分からない中、権力の濫用のほか癒着や汚職も目立っている。国民の総意を表しておらず民主主義が機能していない。

中国では1950年代の「大躍進運動」、60〜70年代の「文化大革命」、80年代末の「天安門事件」など混乱があったが、人間の知恵と能力が有限だったためである。

多くのメディアは、中国の発展過程を大きな視点に基づいて報道すべきである。新型コロナ感染問題では中国はほぼ封じ込めており、数万人の感染者を記録している欧米と対照的である。

習近平国家主席は、共産党設立100年に当たる2021年と、中華人民共和国設立100年に当たる2049年との間に社会主義の現代化を実現しようとしている。AIが人間を凌駕するシンギュラリティが実現すれば理想に近づくと見ていることは明らかだろう。【12月4日 レコードチャイナ】
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議会制民主主義の選挙制度が形骸化し、それぐらいならAIを駆使した少数者の専制統治がましかも・・・、あるいは更に進んで、全知全能のAIが政治を決定する社会もあるかも・・・という近未来ディストピアですが、あまりワクワクする話ではないです。
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「パンドラ文書」が明かした現旧首脳のオフショア蓄財 独裁者のマネロンに群がる欧米民主主義国

2021-10-13 23:31:07 | 民主主義・社会問題
(【10月4日 中日】)

【「共同富裕」と「成長と分配の好循環」が重視する格差解消・分配】
中国では習近平国家主席が鄧小平が唱えた先富論の後半である「共同富裕」に力を入れ「先富者からの第三次分配」を推進する方向性を打ち出していますが、日本では岸田首相が「新自由主義からの転換」、「新しい資本主義」として、分配を重視した「成長と分配の好循環」を掲げています。

その類似性や特徴、相違はさておき、中国にしても日本にしても「分配」が重視されるというのは、格差の拡大が深刻化しており、この格差を放置しては、社会主義であろうが資本主義であろうが体制がもたない・・・という認識があってのことでしょう。

コロナ禍にあっても富裕層の資産は増え続け、格差は拡大し、しかも多くの富裕層は様々な節税対策などで税金もほとんど払っていない・・・という実態については、8月7日ブログ“格差社会への処方箋としてのベーシックインカム”でも取り上げました。

【「パナマ文書」に続く「パンドラ文書」が暴く現旧首脳の資金運用の実態】
今回の話題は、その(合法・違法の様々な回避手段で)「税金もまともに払っていない」というあたりの話。

5年前の2016年に「パナマ文書」というものが明らかにされ、世界中で話題になりました。

****パナマ文書****
パナマの法律事務所、モサック・フォンセカによって作成された、租税回避行為に関する一連の機密文書である。
この文書は、1970年代から作成されたもので、総数は1150万件に上る。

文書にはオフショア金融センターを利用する21万4000社の企業の、株主や取締役などの情報を含む詳細な情報が書かれている。これらの企業の関係者には、多くの著名な政治家や富裕層の人々がおり、公的組織も存在する。【ウィキペディア】
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世界にはカリブ海の英領バージン諸島、ケイマン諸島、富裕層への税優遇制度の手厚いオランダやアメリカのデラウェア州、サウスダコタ州など、税負担が軽減・免除され、かつ、他国の税務当局が求める納税情報の提供を企業・個人情報の保護などを理由に拒否して他国が干渉出来ないことから富裕層の資金が集まるタックスヘイブンが存在します。

モサック・フォンセカ法律事務所は富裕層クライアントのために、税務調査官が金融取引を追跡できない複雑な財務構造を作るサービスを提供していましたが、その情報が暴露されたのが「パナマ文書」でした。

そして今回は「パンドラ文書」

****「パンドラ文書」 世界の首脳らの租税回避が明らかに****
国際調査報道ジャーナリスト連合は3日、世界の現旧首脳35人が、巨額資産を隠すためタックスヘイブン(租税回避地)を利用していたと発表した。広範に及ぶ調査で明らかになったもので、ヨルダン、アゼルバイジャン、ケニア、チェコなどの首脳が名指しされている。
 
世界各地の金融サービス企業14社から入手された約1190万件の文書は、「パンドラ文書」と名付けられた。調査には、米紙ワシントン・ポスト、英国の公共放送BBCやガーディアン紙などの報道機関から、ジャーナリスト600人以上が協力している。
 
文書を分析したICIJによると、各国の現旧首脳35人が汚職やマネーロンダリング(資金洗浄)、租税回避などに関与してきたという。
 
ICIJは、多くの国では財産を外国に置くことや、外国のダミー企業を利用することは違法ではないと強調する。だが合法・違法にかかわらず、今回のような情報の暴露は、租税回避や腐敗の撲滅を公言してきた首脳らにとって不名誉なものとなる。
 
ICIJは、租税回避地にある企業約1000社が、各国の政府高官や上級公務員ら336人とつながっていることを突き止めた。うち10人以上が、現職の首脳や閣僚、大使らだったとしている。 【10月4日 AFP】
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膨大な情報量の「パンドラ文書」では、各国の現旧首脳の資金運用の実態が明らかにされていますが、その中からいくつかあげると・・・

****パンドラ文書が明かしたオフショア蓄財、特に「不都合な」6件の手口****
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公表した「パンドラ文書」と呼ばれる膨大な財務資料は、世界の現旧首脳や政治家の多くがタックスヘイブン(租税回避地)を利用して資産を蓄えていたことを明らかにした。
  
この資料は法務・金融サービスを手掛ける14社からICIJが入手したもので、合計1190万点、ファイルサイズは2.94テラバイトに上り、規模は2016年のパナマ文書を上回る。

「民主主義大国を含む世界の隅々でオフショアのマネーマシンが稼働し」、知名度の高い世界有数の銀行や法律事務所が複数関与していることが明らかになったと、ICIJは指摘した。パンドラ文書で明るみに出た取引のうち、特に目を引く内容は以下の通りだ。

ヨルダン国王の不動産帝国
ヨルダンのアブドラ国王はスイスの会計士と英領バージン諸島の弁護士を使って、総額1億600万ドル(約120億円)相当に上る高級住宅14件を秘密裏に購入したと、ICIJは伝えた。海岸を見下ろすカリフォルニア州の物件、2300万ドル相当も含まれるという。

ヨルダンは国民や数百万人規模の難民の生活支援で外国からの援助に頼っている。

同国王の弁護士らはICIJに対し、ヨルダン法で国王は税金の支払いを義務付けられておらず、公金を流用したことは一度もないとし、「オフショア企業を通じて不動産を保有しているのは安全とプライバシーの理由からだ」と説明した。

チェコ首相の南仏邸宅
チェコで首相再選を目指し選挙運動中のバビシュ氏は、「2009年に南フランスの高級不動産を秘密裏に購入するため、オフショア企業を通じて2200万ドルの資金を動かした」とICIJは指摘。

この不動産は「シャトー・ビゴー」と呼ばれる邸宅で、バビシュ氏が保有するチェコ企業の子会社が所有し、画家のピカソが晩年を過ごした村にあるという。

女王とアゼルバイジャン
ICIJに参加する英紙ガーディアンによると、アゼルバイジャンのアリエフ大統領の家族はここ数年で約5億4000万ドル相当の英不動産を取引した。このうち約9100万ドル相当の物件をエリザベス女王の不動産を管理するクラウンエステートが購入していた。

この購入についてクラウンエステートは内部調査を現在進めていると、広報担当者が同紙に語ったという。アリエフ一族はコメントを拒否した。

サウスダコタ、ネバダのヘイブン
米国にとって特に「不都合な真実」は、「オフショア地域」に匹敵する金融の秘密性を法律で保証するサウスダコタやネバダなどの州の役割で、オフショア経済における米国の複雑さが増していることを示していると、ICIJに参加する米紙ワシントン・ポストが報じた。

同紙によると、ドミニカ共和国の元副大統領はサウスダコタ州に複数の信託口座を設け、個人資産とドミニカ製糖大手の株式を保管している。

パキスタンの政治エリート
パキスタンでは現旧閣僚を含むカーン首相側近や身内が「数百万ドルの財産を多数の企業や信託に隠している」とICIJは伝えた。

反汚職を旗印に首相に就任したカーン氏にとって、政治的な頭痛の種になりそうだ。パンドラ文書の公表前に首相報道官は記者会見で、首相はオフショア会社を保有していないが、閣僚や顧問の行動は各自の責任になると述べていた。

ブレア元英首相の不動産購入
ブレア元英首相と夫人はロンドン中心地に立地する約900万ドル相当のオフィス購入にオフショア会社を活用し、およそ42万2000ドルを節税したと、ガーディアンが報じた。この物件の一部はバーレーンの閣僚の一族が保有していた。

取引に違法性はないが、「英国の一般市民には当然の税負担を、不動産を保有する富裕層には回避の抜け道があることを示している」と同紙は指摘した。【10月6日 Bloomberg】
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【他国のタックスヘイブンを非難してきたアメリカ自身が租税回避地に】
名前があがっているパキスタン・カーン氏は、首相就任前の2016年、「パナマ文書」で表面化したエリート層の資産移動について調査を求める運動の先頭に立っていました。

同じような話は、他国のタックスヘイブンを非難してきたアメリカについても言えます。

****富豪資金流入、米が租税回避地に サウスダコタ州に信託資産40兆円****
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した「パンドラ文書」から、米国がタックスヘイブン(租税回避地)化している実態の一端が判明した。他国のタックスヘイブンを非難してきた米国だが、中西部サウスダコタ州などが世界の富豪や政治家らの資金の有力な流入先になっている。(中略)

ICIJの調査によると、サウスダコタ州の信託会社に預けられている顧客資産は総額3600億ドル(約40兆円)で、この10年間で4倍以上に膨れあがった。州内最大の信託会社の一つ「サウスダコタ・トラスト・カンパニー」は54カ国からの顧客を抱えていた。
 
サウスダコタ州の人口は全米50州のうち46番目の約89万人。同様の規制緩和は、人口が少ないアラスカ州やデラウェア州などにも広まった。信託を新たな産業として育て、経済活性化の起爆剤にしたいという思惑があった。
 
タックスヘイブンは秘匿性の高さから、不正資金の洗浄や資産隠しに利用される場合がある。そのため国際社会は、カリブ海の島国など主要なタックスヘイブンに顧客情報などの透明性を確保する法令の導入を求めてきた。(ドミニカ共和国元副首相)モラレス氏の一族がサウスダコタ州に資産を移したのは、バハマで規制が強化された翌年だった。
 
ICIJは、「成長する米国の信託産業は、国外のタックスヘイブンをしのぐレベルの財産保護と秘密保持を約束することで、国際的な富豪らの資産をかくまっている」と指摘する。

米政府は今年1月、企業に実質的所有者の開示を求める「企業透明化法」を制定したが、信託の受益者などについての言及はない。【10月5日 朝日】
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【国家の富を私物化する「泥棒政治家」のマネーロンダリングを助ける「民主主義国」の巨大なネットワーク】
単に租税回避地になっているというだけでなく、「民主主義」を掲げるアメリカなどの国々が、独裁者や強権支配者の資産のマネーロンダリングを助ける巨大なネットワークを形成しているという「不都合な真実」が明らかになっています。

****パンドラ文書が暴き出した民主主義の錬金術****
人々を抑圧し国家の富を貪る「泥棒政治家」の蓄財を助けるシステムが明らかに

自由と民主王義の旗を高々と掲げるわが陣営は世界中の専制主義国家と互いの存続を懸けて戦っている・・・・欧米諸国の指導者はそう豪語する。まさにその戦いのために、ジョー・バイテン米大統領は今年12月に「民主主義サミット」を開催すると宣言した。
 
バイテンやその呼び掛けに応じた首脳たちの現状認識は間違っていない。確かに今中国からロシアまで専制政治や強権支配がまかり通り、民主化の動きを圧殺し、リベラルな国際秩序を脅かしてい。

だがそれを阻止しようとするバイテンらの試みには重大な「見落とし」がある。それは欧米の民主国家とその指導者らが独裁者の不正蓄財を助けている、という事実だ。
 
欧米には世界中の独裁者が不正に蓄えた資金を動かし、隠匿し、洗浄できる仕組みがあり、当局もそれを黙認しているのだ。
 
不正資金の最初の引き受け手はペーパーカンパニーだ。そこに資金を移せば、個人を特定できる情報は全て剥ぎ取られ、いわば「匿名の資金」となる。その金が不動産や高級品、美術品などの資産に化ける。この手の取引では、仲介業者や売り手は出所不明の金を喜んで受け入れ、法外な手数料や暴利を貪る。
 
法の網の目を巧みにかいくぐるこうした資金の流れは、世界中の独裁者にとって願ってもない仕組みだ。それがあるおかげで彼らはこっそり欧米に資金を移し、欧米の金融機関の個人情報保護ポリシーを悪用して匿名の資産を保有できる。
 
この巧妙なカラクリを白日の下にさらしたのが、10月3日に公開された「パンドラ文書」だ。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が法律事務所や金融サービス会社から入手した膨大な財務資料などを分析してまとめた。 

パンドラ文書はアメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツなどの当局が不正資金の取引を黙認し、独裁者の蓄財を助けてきた実態を暴き出した。資料から国家の富を私物化する「泥棒政治家」のマネーロンダリング(資金洗浄)を助ける巨大なネットワークの全貌を詳細にたどれる。
 
このネットワークを通じて、世界中から欧米に何十億ドル(場合によってはそれ以上)もの単位でどんどん資金が流入しているのだ。それが国庫からくすねた金だろうと、少数民族から搾取した金だろうと、それで儲けた業者の法的責任が問われることはない。
 
例えばアゼルバイジャンの独裁的なイルハムーアリェフ大統領の一族は何億ドルもの資金をロンドンの金融会社に託していた。EU離脱後のロンドンはますます資金洗浄の中心地になり、この手の不正資金の流人は珍しくない。

ブレア元首相の隠し資産
(中略)
民主国家の指導者は、欧米の最大の利益、つまりは民主主義の最大の利益のために働くというそぶりさえ見せなく
なった。それどころか、欧米の元指導者は泥棒政治家を利用し、泥棒政治家は欧米の業界をいくっも利用して、それぞれ私腹を肥やしている。
 
一方で、不動産やプライベート・エクイティ(未公開株)の取引、オークションなどで泥棒政治家の富のおこぼ
れにあずかろうとしている欧米の金融プロフェッショナルにとって、重要なのは富の蛇口が開けっ放しであることと、おいしい手数料を得ることだけのようだ。コンサルタントやロビイスト、弁護士たちは、国境を越えた資金の流れが規制によって脅かされないように奔走している。
 
匿名のペーパーカンパニー、匿名の信託、規制や監督のない匿名の金融取引を基盤とする業界・・・。欧米の秘密主義の金融ツールは、限られた少数の支配者や反民主王義の有力者が自国の人々から好きなだけ富を奪い、市民を困窮させ、地域全体を不安定にし、自分の意のままに非自由主義的な活動に資金をつぎ込むことを可能にしている。

カギは金融取引の透明性
もっとも欧米諸国が、例えば独裁者たちの金融ネットワークを遮断して破壊するために制裁を発動しても、彼らは秘密保持を可能にする金融ツールに守られて制裁を逃れることができる。失脚した後でさえ、残虐行為で得た果実を享受しているのだから。 

これは泥棒政治というコインの裏表のようなものだ。中国の太子党(共産党幹部の子弟)、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)、ベネズエラの政権を支持する実業家、イランの役人、ハンガリーの極右ネットワーク、アゼルバイジャ
ンのギャング兼政治家など、彼らは皆、欧米の同じサービス、同じネットワーク、同じオフショア企業、同じ金融ツールを利用している。 

彼らは国内に向けて反欧米や反民主主義のたわ言を吐きながら、その欧米の民主国家に頼って自分たちの富を守り、
資金洗浄をして、隠した資産を必要なときにどんなことにでも使う。

今、私たちがやるべきことは分かっている。政治的立場を超えたグループが、既に賢明な政策提案を行っている。
 
カギとなるのは透明性だ。ペーパーカンパニーや信託、財団に関する透明性であり、不動産、美術品、高級品に関する透明性だ。これらの金融ツールに関わる弁護士ら欧米のプロフェッショナルに対する規制と合わせることによって、秘密を担保する金融ネットワークを表舞台に引きずり出すことができるだろう。
 
最近では、英政府が海外領土に企業の受益所有権の公的登録制度を整備させ、アメリカやカナダがペーパーカンパニー部門の浄化に乗り出すなど、進展も見られる。EUは弁護士や信託業者などに対する規制の強化を進めている。
 
ただし、このまま終わることは決してない。こうした解決策を実行するためには、重大な政治的意思が必要だ。アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、バルト諸国などは、自らオフショア経済を支える柱になってきた。そして、その全てが世界各地の泥棒政治に利用され、悪用されてきたのだ。
 
パンドラ文書の流出を機にこうした仕組みが終焉を迎えるだろう、などと考える理由は見当たらない。【10月19日号 Newsweek日本語版】
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とりあげられている取引の多くは「合法」なのでしょう。
ただ、そのことが格差社会の下層で喘ぎながら租税回避などの手段を持たない多くの人々の不満・怒りを更に増長させるところでしょう。

なお、違法性が疑われる案件に関しては
“チリ検察、大統領を捜査 パンドラ文書で疑惑”【10月9日 共同】
“「パンドラ文書」で大統領を調査=租税回避地利用か―エクアドル議会”【10月12日 時事】
といった、国内での疑惑追及も始まっています。
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格差社会への処方箋としてのベーシックインカム

2021-08-07 22:46:10 | 民主主義・社会問題
(超格差社会シリコンバレーでホームレスの人々に水や食料を届けるバットマンの格好をした男性【8月6日 GLOBE+】)

【1990年以降、所得の不平等は世界の3分の2以上の国々で拡大】
格差社会という言葉が耳慣れた言葉になって久しいですが、「富裕層が富むことで経済が活発になり、貧しい人も含む社会全体に富が行き渡る」とする経済理論・トリクルダウンに基づき先進国各国で取られた富裕層への減税は、結果的には豊かになったのはお金持ちだけで、格差を助長したきたとの調査結果も。

****富裕層への減税は社会のため? いいえ、富むのはお金持ちだけでした。最新研究が「トリクルダウン」を否定****
お金持ちに減税すると、豊かになるのは結局お金持ちだけ――。

過去50年の間に、様々な国で導入された富裕層への減税。
その背後にあるのが「富裕層が富むことで経済が活発になり、貧しい人も含む社会全体に富が行き渡る」とする経済理論・トリクルダウンだ。

しかしイギリスの経済学者たちによる最新研究から、富裕層の減税に社会全体を豊かにする効果はなく、むしろ富裕層だけが豊かになってきたことが明らかになった。   

豊かになるのは富裕層だけ
(中略)研究者たちは1965〜2015年の50年間に、日本やアメリカ、イギリスなど18の先進国で実施された富裕層への大幅減税を調査した。そして、それぞれの減税が所得不平等や、経済成長、失業率にどんな影響を与えるかを調べた。

その結果、大幅減税の後、上位1%の人たちがシェアする税引前の国民所得が0.8%増加していた。この効果は、短期間と中期間続いた。

一方で、国民1人あたりのGDPや失業率に変化はなく、トリクルダウンによる社会全体への経済効果は見られなかった。

研究者たちは「富裕層への大幅減税は、所得の不平等を引き起こしていた」「それと比較して、減税は経済成長や失業率には大きな効果はなかった」と指摘する。

様々な研究が問題視する、富裕層への減税
富裕層への減税は、特に1980年代以降に、様々な国で何度も実施されてきた。
アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権が導入した減税がよく知られているが、日本でも安倍政権下で法人税率が引き下げられ、大企業や富裕層を優遇する政策が取られてきた。

しかし近年、様々な研究が「富裕層への減税は富裕層の収入を増やすものの経済発展にはほとんど効果がない」と指摘している。研究者たちは「今回の研究もそれらの関連する研究結果と合致する」と述べる。

研究者の1人、リンバーグ氏はCBSのインタビューで「研究から、富裕層の税率を低くする経済的に正当な理由はないと言えます。実際に歴史を振り返ってみると、戦後の富裕層への税率が高かった時代の方が、経済成長率は高く、失業率は低かった」と語っている。【2020年12月18日 HUFFPOST】
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コロナ禍の経済打撃も、超富裕層には関係ないようです。

****コロナ渦中、超富裕層の総資産額は過去最高に 7月末で1080兆円****
2020/10/08 20:02
保有資産が10億ドル(約1060億円)を超える資産家、いわゆるビリオネア(超富裕層)の総資産額は今年、世界的な新型コロナウイルス危機をよそに、過去最高を記録した。スイス金融大手UBSと国際監査法人プライスウォーターハウスクーパースが7日、報告した。(後略)【2020年10月8日 AFP】
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一方で、税に関する不公平感を助長する現実も。

****米富裕層「ほぼ税金を払ってない」 アマゾン創業者ら上位25人の納税記録入手、報道****
非営利の米報道機関プロパブリカは8日、アマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏ら富裕層の納税記録を入手したと発表した。上位25人の総資産は2014〜18年に計4010億ドル(約43兆円)増加したが、連邦所得税の支払額は136億ドルにとどまったと分析。膨大な資産を保有しながら「ほぼ税金を払っておらず、納税ゼロの年もあった」と指摘した。【6月9日 産経】
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昨年初頭の国連報告でも、各国で所得格差が拡大していることが示されています。

****世界の3分の2の国で所得格差が拡大 国連が報告書****
国連は、日本を含む先進国やアジア・アフリカ諸国など世界の3分の2の国で所得格差が広がり不平等が進行しているとする報告書を発表し、各国政府に対してデジタル格差の解消や社会保障の普及に取り組むべきだと勧告しました。

これは国連が21日発表したもので、1990年から2016年までの各国の所得水準の推移を見ると、欧米や日本など先進国の多くと中国やインド、それにアフリカ諸国の一部など世界の3分の2の国で格差が広がり、社会の不平等が進行していると指摘しています。

このうち途上国ではデジタル技術が教育や保健サービスの普及を促進した反面、インターネットの普及率が先進国の87%に対し19%にすぎないとして、デジタル格差が深刻だと分析しています。

地球温暖化の影響については、このまま進めば温暖化のリスクにもろい国や地域と、そうでない国や地域との経済格差を広げると警告しています。

そのうえで報告書は各国政府に対して、国際協力を通じたデジタル格差の解消や、社会環境の変化に対応した職業訓練への投資の拡充、それに誰もが受けられる社会保障制度の構築に取り組むべきだと勧告しています。

記者会見した国連のハリス事務次長補は「社会の不平等を緩和するため政府がまずすべきことは、すべての人が機会を得られるようにすることだ」と話しています。【2020年1月22日 NHK】
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【日本 「1億総中流の平等な国だ」という誤った認識が対応を遅らせる】
日本においても格差が進行していますが、その対策はやや鈍いようにも。
背景には“「日本は1億総中流の平等な国だ」という誤った認識が定着してしまったこと”がるとの指摘が。

****日本の格差対策を遅らせた「1億総中流」幻想 今からでもできることは何か****
1990年以降、所得の不平等は世界の3分の2以上の人が暮らす国々で拡大している。国連が昨年公表した報告書は格差の現状をこう分析し、事務総長のアントニオ・グテーレス氏は「所得格差と機会の欠如が世代を超えた不平等、いらだち、不満の悪循環を生み出している」と指摘した。

国家間の所得格差はこの数十年、中国やインドなどの新興・途上国が急速に経済発展する中で縮小した。一方で、それぞれの国内では格差が広がっている。
この問題を浮き彫りにしたのが、フランスの経済学者トマ・ピケティが2013年に刊行し、世界的ベストセラーとなった「21世紀の資本」だ。欧米などの100年以上にわたる税務記録を分析し、富裕層に富が集中していくことを示した。

先進国では第2次大戦で一気に所得格差は縮小したが、80年代ごろから富裕層への富の偏在が強まった。
日本で「格差社会」が流行語となったのは15年前。現状はどうなっているのか。日本の格差の実態を見つめ続けてきた早稲田大学の橋本健二教授(62)に話を聞いた。(聞き手・中村靖三郎)

――歴史的に見ると、今の日本の格差はどんな状態にあると見ていますか。
敗戦直後は富が破壊され、富裕層ほど失う財産が多く、農地改革などでも格差は縮小しました。ところが1950年代半ばから経済復興が加速すると、格差は拡大に転じた。

その後、高度経済成長が本格化すると、今度は人手不足となって雇用が改善し、格差は縮小し、1975年前後に底に達しました。

しかし、高度成長が終わると、格差は拡大に向かい、それが現在までずっと続くんです。近年は拡大は止まっていますが、数十年続いた格差拡大が高止まりになっていると言えます。(中略)

――なぜこれほど長く格差拡大が続いてしまったのですか。
高度経済成長が終わり格差が拡大しやすくなった時期に、何も対策がとられなかったことに起因します。高度成長が終わった後、70年代後半にパート主婦を中心に非正規労働者が増加し、非正規労働者を大量に雇用する素地ができた。その後、バブル期にも正社員はあまり増えず、非正規労働者は増加した。そしてバブル崩壊で大企業は新卒採用を大幅に減らしました。

その後の金融危機で非正規労働者はさらに増え、氷河期世代が生まれた。次のリーマン・ショックでも企業は正社員の採用を減らし、非正規に切り替えた。このように日本経済はこれまで、危機を迎えるたびに正社員が非正社員に置き換えられるということが繰り返されてきたのです。

――非正規労働が増えたことで、どんな問題が生まれていますか。
たくさんありますが、最大の問題は、日本の労働者が正規と非正規に完全に分断されてしまったということです。非正規労働の賃金では自分1人が生存するのにぎりぎりの賃金しか受け取れず、家族を養うのも難しい。

家族を持てず次世代を生み育てることができない人々が構造的に生み出されるようになったというのは極めて深刻な問題です。

今後、バブル期に初めて生まれたフリーターと呼ばれる人々が高齢期を迎えて、無年金の高齢者となっていく。70歳をすぎても生活するために非正規労働者として働き続けるしかない人が多く生まれかねないのです。

――なぜこんな事態になってしまったのでしょうか。
非正規労働者の増加という形で格差拡大が放置された背景には、「日本は1億総中流の平等な国だ」という誤った認識が定着してしまったことがあります。

「中流」言説は1967年公表の「国民生活白書」にさかのぼり、70年代後半から急速に広まり始めました。当時は確かに国際的に見ても日本の格差は小さかった。

しかし、80年代には格差が広がり始め、そうした指摘も多くあったのに、政府は全くそれに耳を傾けなかった。そして、90年代の終わりに、首相の諮問機関「経済戦略会議」が、「日本経済再生への戦略」という答申をまとめます。

そこでは、日本経済再生のためには「過度に結果の平等を重視する日本型の社会システムを変革し」、「個々人の自己責任と自助努力をベースとする健全で創造的な競争社会を構築」することが必要だと提言します。

これがその後の政府の政策の方向性を決めました。つまり、格差拡大が続き、もうここで手を打たないと取り返しがつかないというタイミングで、政府は規制緩和に大きくかじを切り、事態を深刻化させたのです。

――コロナ禍によって今後、どうなると見ていますか。
これまで繰り返されてきた、正規労働者の非正規への置き換えがもう一度やってくる可能性があります。

ただ、一方で、今は非正規労働者への置き換えが限界まで来ている。例えば、飲食店などは店長1人だけが正規で、あとはみんな非正規ということが多く、これ以上、非正規労働者の雇用を増やす余地がもう、あまりなくなってきている。

そうすると、コロナで職を失った非正規労働者が、職を取り戻すことができないまま、失業、あるいは半失業者として滞留する事態を考えておかなければいけないと思います。

日本の失業統計は基準が非常に厳しく、統計上「失業者」とは捉えられていない事実上の失業者がたくさんいる。野村総合研究所は今春、コロナ禍でシフトを減らされ勤務時間や賃金が大幅に減らされた労働者が多数いるとの調査結果を発表しました。こうした統計上は表に出ない事実上の失業者や無業者がかなり増えてきているのが現状です。

――著書「アンダークラス2030」では、「根本的な対策を考えない限り、氷河期世代に起こったことは、今後のすべての世代に起こるだろう」と指摘されています。どんな対策が必要ですか。
企業はすでに人員の一定比率を非正規労働者で雇用するという経営スタイルを確立している。仮に非正規労働者の誰かが頑張って就職活動して、正規に転換できたとしても、その分を他の人が埋めるだけ。もう誰かが努力すれば正規に移動できるという個人の問題ではなく、完全に構造的な問題と言わなければならない。

短期的には、コロナ禍の中でも、氷河期世代が生まれた金融危機やリーマン・ショックのときのように新規採用を大幅に減らした間違いを繰り返さない。

長期的には非正規労働者が正規に転換できるように、正社員の労働時間を減らして、ワークシェアリングを一般化させる必要がある。ワークシェアリングを強力に進めることで、全体的に格差が縮小し、貧困問題を解決することにつながるだろうと思っています。【8月1日 GLOBE+】
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【すべての人に最低限の生活の土台を保障するベーシックインカム】
日本以上に格差が深刻なアメリカ、そのアメリカで無条件でお金を配り、すべての人に最低限の生活の土台を保障するベーシックインカムの実験が行われています。

****巨大ITとホームレス 超格差社会シリコンバレー、ベーシックインカム実験が始まった****
グーグルやアップルといった巨大IT企業が集中する米カリフォルニア州のシリコンバレー。6月のまだ日が高い土曜の夕方、中心都市サンノゼの街に突如、紫色のマントをはためかせたバットマンが現れた。
(中略)バットマンが向かった先は、中心部から歩いて10分ほどのハイウェーの高架下。ホームレスの人たちが集まって寝泊まりしているエリアだ。「タコスはどう?」。そんな声をかけながら、水や食料をつめこんだカートをひいてテントを一軒ずつ訪ねて回り、安否を気遣った。

普段は大学に通う男性(20)がこの活動を始めたのは3年前。あまりに非人間的な境遇を目の当たりにし、「自分にできることを」と駆り立てられた。バットマンに変身するのは、少しでも問題に目を向けてほしいからだ。

この3年でホームレスの人たちを取り巻く状況は「かなり悪化している」。公園などからは閉め出され、パンデミック後はこれまで以上に公的支援が届きにくくなったと感じる。

一番の気がかりは子どもたちだ。親が仕事を解雇され、家賃を払えなくなった――。そんな子を何人も見てきた。「この子たちは何も悪くない。胸が張り裂けそうになる」

米住宅都市開発省の報告書(2020年)によると、サンノゼのホームレスは9605人と全米トップクラス。シリコンバレーの平均年収は約15万ドルと全米平均の2倍を超すともいわれる一方で、あらゆる物価が上昇し、住まいを追われる人が続出している。

バットマンは言った。「ここでは最低賃金では生活できず、本当に多くの人が追い詰められている」(中略)

この街で昨年、ある試験事業が始まった。サンノゼを含むサンタクララ郡が里親制度を終えた若者に無条件で毎月現金を配るベーシックインカム(BI)だ。24歳の72人に昨年7月から月1000ドル(約11万円)が給付されている。

90万ドルの予算があてられた。背景に里子の約半数がホームレスになるという過酷な現実がある。事業のきっかけを作ったNPO代表のジゼル・ハフさん(85)は「彼らは、他の若者が持っている家族のサポートがまったくなく、人生に立ち向かう準備ができていない。このお金で初めて自分の人生を選択する機会を得られる」とBIの必要性を強調する。(中略)

郡は6月、1年間だった給付期間を半年延ばすことを決定。恒久的な制度にするかを今後検討するという。カリフォルニア州議会は7月、郡の取り組みを受け、州全域の元里子らにBIを給付するプログラムを承認した。

デンバー、オークランド、コンプトン……、自助努力を重んじてきた全米で今、BIに試験的に取り組む自治体が続々と出ている。

背景には、従来のセーフティーネットは資産要件や就労など様々な条件をつけて対象を狭く絞り込み、本当に必要な人に支援が届かないとの問題がある。

数々のプロジェクトに携わる非営利調査会社「ジェイン・ファミリー・インスティテュート」のスティーブン・ヌニェス主任研究員は「既存の制度は貧しい人や非正規雇用の移民たちを不信感を持って扱い、多くの人を置き去りにしてきた」と話す。

BIはこれまでフィンランドやカナダなどでも導入が検討されたが、本格的に実現した国はない。無条件でより広く支給するには多額の財源が必要になるほか、「お金を渡せば、働かなくなるだけ」「酒やたばこに消える」といった批判も根強い。

しかし、ヌニェスさんはこれらを「誤解」と言い切る。数十年にわたる様々な実証研究では、BIによって働かなくなるのはごく一部で、むしろ職業訓練や子育てなどに多くの時間が割かれた。

19年から2年間、試験実施したカリフォルニア州ストックトンでは、初めの1年でフルタイムの仕事につく人の割合は28%から40%に上昇。支出先も食費や日用品がほとんどで、酒やたばこは1%未満だった。

暴力や犯罪が減ったことが示された実証結果もある。もはや研究の焦点はBIの効果の有無から、最も効果的な水準や頻度、既存のセーフティーネットとの組み合わせ方に移っている。

無条件でお金を配り、すべての人に最低限の生活の土台を保障する。そんなBIは、まずは本当に必要な人からお金を配る形で実現を模索し始めている。全米に広がり、格差問題を解く鍵となっていくのか。(中略)

ベーシックインカム(BI)
同志社大学の山森亮教授によると、「すべての個人が、権利として、無条件で、普遍的に、一定の金額を定期的に受け取ることができる制度」と定義される。生活を維持できる以上の金額まで保証するものを「完全BI」、その水準は満たさないものを「部分BI」と呼ぶ整理もある。

米国では公民権運動の指導者マーチン・ルーサー・キング牧師らがより包括的な概念として「guaranteed income(保証所得)」を訴えた。元里子など、特定のグループに対する無条件の給付もBIと呼ぶ事例もある。

BIの起源は18世紀末にさかのぼるとされ、1970年代の英国での労働者階級の女性の解放運動などを通して確立されていった。所得制限など様々な条件をつける従来の福祉制度では給付漏れや人権侵害にあたるような受給者調査が避けられず、「公正な制度にするには、すべての個人が自動的に給付を受けられる仕組みが必要という考え方が出てきた」(山森教授)という。

近年はグテーレス国連事務総長、フランシスコ教皇、米フェイスブックのザッカーバーグCEOなどが次々とBIの必要性を提唱。コロナ禍以降、日本の特別定額給付金(1人10万円)など各国で現金給付の実施が相次ぎ、BIの機運が高まっている。【8月6日 GLOBE+】
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日本でも竹中平蔵氏がBIを提唱しています。
“【竹中平蔵】低所得者に「もらえる税」を ベーシックインカム議論、もう避けられない”【8月7日 GLOBE+】

ただ、新自由主義者のこの人が言うと、弱者救済と言うよりは、生活保護制度の廃止など社会保障制度のスリム化が目的で、「(それだけでは生活できない)一定額を配るからあとは自助努力で何とかしろ」という話にも、あるいは、格差社会に対する不満のガス抜きとしてのBIにも思えてしまいます。
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イスラエル製スパイウエアが示す「監視社会」の恐怖

2021-07-23 20:09:55 | 民主主義・社会問題
(マクロン仏大統領 7月20日、ブリュッセルで撮影【7月23日 ロイター】)

【カショギ氏婚約者、フランス大統領も】
現代社会はAI、インターネット、各種通信技術、あるいは監視カメラなどの発達によって非常に便利なった半面、個人のプライバシーが国家などによって監視される危険もある「監視社会」であることは、いまや常識です。

そういう「監視社会」にあって、イスラエル製のスパイウェア「ペガサス」への懸念が広がっています。

****イスラエル製スパイウエアの監視リスト流出、携帯番号5万件超 記者や国家元首も****
イスラエルの民間企業NSOグループが開発した携帯電話向けマルウエア(悪意のあるソフトウエア)が、世界中の人権活動家やジャーナリスト、企業経営陣、政治家らの監視に使われていたことが18日、流出した5万件超の携帯電話番号リストをめぐる国際的な調査報道で明らかになった。
 
NSOグループはかねて、各国政府にスパイウエアを提供していると非難されている。米ワシントン・ポスト、英ガーディアン、仏ルモンドなどが加わった調査報道では、NSOが開発したマルウエア「ペガサス」が世界中の顧客によって悪用されている恐れがこれまでの想定以上に大きいことが分かり、プライバシーや人権の侵害を懸念する声が広がっている。
 
調査報道によると流出したデータは、2016年以降にNSOの顧客が要注意人物として特定したとみられるスマートフォンの電話番号5万件以上のリスト。掲載された電話番号のうち、実際にハッキングや監視の標的となった電話の数は不明だという。
 
ワシントン・ポストは、掲載された電話番号37件について該当するスマートフォンを犯罪科学的分析にかけたところ、端末へのハッキングの「試みと成功」が確認されたと報じた。うち2件は、2018年に殺害されたサウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏と親しかった女性2人の電話の番号だったという。
 
ガーディアンによれば、リストに電話番号が記載されていた記者の所属する報道機関は、フランス通信、ウォールストリート・ジャーナル、CNN、ニューヨーク・タイムズ、アルジャジーラ、フランス24、ラジオ・フリー・ヨーロッパ、メディアパルト、パイス、AP通信、ルモンド、ブルームバーグ、エコノミスト、ロイター通信、ボイス・オブ・アメリカなど。
 
ワシントン・ポストによると、調査報道ではリストに掲載された電話番号のうち50か国以上にまたがる1000件超を特定した。複数のアラブ王族、企業経営陣65人以上、人権活動家85人、ジャーナリスト189人、政治家・政府関係者600人以上が含まれ、国家元首や首相、閣僚の電話番号もあったとしている。
 
ペガサスは侵襲性の高いスパイウエアで、標的のスマートフォン内のデータへのアクセスはもちろん、カメラやマイクの機能を強制的にオンにでき、携帯電話をまるで小さなスパイのように利用することが可能になる。 【7月19日 AFP】AFPBB News
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“標的のスマートフォン内のデータへのアクセスはもちろん、カメラやマイクの機能を強制的にオンにでき、携帯電話をまるで小さなスパイのように利用することが可能”・・・個人情報は丸裸にされてしまいます。

国際情勢を震撼させたサウジアラビアによるジャーナリスト・カショギ氏殺害に、この「ペガサス」がどのように関与したのかはわかりませんが・・・・。

****イスラエル製ソフトで記者監視か カショギ氏婚約者の携帯も標的****
(中略)2018年にトルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺害されたサウジ人記者、ジャマル・カショギ氏の婚約者も標的になっていたという。
 
(中略)カショギ氏の事件では、発生数カ月前に婚約者の携帯が標的になったという。
 
NSOは18日、同紙などの調査報道について「裏付けがなく、誤った主張だ」と否定。イスラエル政府はこれまでペガサスの輸出を許可してきたが、イスラエル国防省は19日、ペガサスの使用方法に問題があった場合は「適切な措置を取る」との声明を出した。【7月20日 毎日】
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リストに掲載された電話番号には政治家・政府関係者600人以上が含まれていますが、その一人がフランスのマクロン大統領。

****マクロン仏大統領の電話、スパイウエアの標的に 流出リストで発覚****
世界各国の首脳などを狙った電話のハッキングソフトウエアの標的に、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が含まれていると、大手メディアなどが報じた。(中略)

NSOグループは疑惑を否定しており、ソフトウエアは犯罪者やテロリストの監視に使われるものだと説明。ペガサスは人権について評価の高い軍や法執行機関、情報機関にのみ提供していると述べた。

一連の報道に結び付いたのは、パリを拠点にする非政府組織(NGO)「フォービドゥン・ストーリーズ」と、人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによる調査。これについてNSOグループは、「間違った推測と根拠のない論説にあふれている」と述べている。

仏紙ル・モンドは、モロッコの情報機関が、マクロン大統領が2017年から使用している電話端末を特定したと報道した。

これに対しモロッコは、NSOグループの顧客ではないと反論している。

問題のリストに載っているからといって、ソフトウエアが使われたとは限らないが、掲載された番号を利用する人物が標的候補であることを意味する。マクロン大統領の電話端末にこのソフトウエアがインストールされたことがあるかどうかは不明だ。

大統領や首相、国王の番号も
リストには、イラクのバラム・サリフ大統領や南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領に加え、パキスタン、エジプト、モロッコの各首相、さらにはモロッコのムハンマド6世の電話番号が含まれていると報じられている。
また、世界34カ国の政府高官や政治家、あわせて600人以上の番号も記載されていたという。

フランスの大統領府は、この報道が真実であれば、非常に深刻な事態だと述べている。

BBCのゴードン・コレラ・セキュリティー担当編集委員は、今回の発覚によって、各国首脳を監視できる環境が売りに出されている可能性があること、それをより広範囲の国々が入手可能なことが明らかになったと指摘。

リストに載っているうち、実際にどれだけの番号が標的にされたかは不明だが、その可能性があると示されただけでも、NSOグループや、他国の首脳にスパイ行為を行っていた国にとっては圧力になると分析している。【7月21日 BBC】
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【笑わせる提供企業の馬鹿げた言い訳】
真相はわかりませんが、「ソフトウエアは犯罪者やテロリストの監視に使われるものだ」「ペガサスは人権について評価の高い軍や法執行機関、情報機関にのみ提供している」というNSOグループの言いぐさは笑止です。

人権意識の高い軍や法執行機関、情報機関・・・そんなものが世界のどこにあるというのでしょうか?

ほぼすべてのその種の機関にとって、人権活動家、政府批判ジャーナリスト、あるいは外交的に問題がある相手国の国家元首は、犯罪者やテロリストと「同じようなもの」でしょう。

日本の公安もこの「ペガサス」利用を検討したそうです。【下記 JBpress記事】
予算や法的問題もあって、契約には至らなかったとのことですが、いったい誰の監視を依頼しようとしたのでしょうか?

【高価だが、民間のソフトウェアとしては最強の優れモノ】
こういう話を聞くと、「自分のスマホは大丈夫だろうか?」という心配も生じますが、大丈夫です。

「ペガサス」は私のような“ちんけ”な一般庶民を相手にするものではなく、国の軍・情報機関などが数千万円、数億円規模の資金(10人監視の場合で設置料金を含めると1億円以上)を投じて、その費用に見合う相手を監視するものです。

逆に言えば、監視する側にすればそれだけの資金を投じる「価値」がある“優れモノ”だということです。

****こっそりスマホの情報を強奪、暴かれた「スパイウェア」の脅威****
イスラエルの悪名高いスパイウェア(監視システム)が大きなニュースになっている。(中略)

5万台以上のスマホが監視下に
NSOグループが開発したのは「ペガサス」と名付けられたスパイウェア。同グループはこれを世界の国や法執行機関などに販売してきた。ペガサスは、その“性能”の高さから世界のサイバーセキュリティやインテリジェンス専門家の間では非常に有名なソフトウェアである。(中略)
 
筆者は、サイバー攻撃やスパイ工作をテーマに取材する過程で、このスパイウェアについても何年も前から動向を注視してきた。本記事では、日本ではあまり知られていないスパイウェアの実態をまとめてみたいと思う。

スパイウェアがあればスマホのマイクは盗聴器に、カメラは監視カメラに
筆者が取材してきた国際機関の関係者や情報機関関係者らが口を揃えるのは、ペガサスが非常に優れた監視ソフトだということだ。民間のソフトウェアとしては最強だと言ってもいいかもしれない。
 
このシステムは、スマホなどにたやすく潜入することができ、通話やメールだけでなく、位置情報や連絡先、カレンダーに至るまで、すべての個人データを収集し、監視することが可能になる。

さらには、スマホのマイクやカメラの機能を乗っ取って勝手に操作し、盗聴器や監視カメラのような監視ツールとして使うこともできるという。しかも驚くことに、そうした工作の形跡を一切残さないとも言われている。
 
それだけに価格も非常に高価である。まず、50万ドルという一律の設置料金に、監視ターゲット1人につき料金が加算される仕組みだ。例えばiPhoneユーザー10人の監視をするなら、追加で65万ドルが請求されることになる。アンドロイドのスマホを使うターゲットも10人で65万ドルほどと言われている。

さらに維持費として、年間に支払っている金額の17%を支払う必要があるという。ペガサスを導入していたメキシコ政府は、8000万ドルほどをNSOグループに支払っていたと明らかになっている。
 
NSOグループは、2010年にイスラエルで設立されている。イスラエル軍でサイバー作戦を担う「8200部隊」の関係者による資金援助などで立ち上がった同社は、イスラエルの大都市テルアビブに近いヘルツリーヤという地域に本社を構えている。(中略)

NSOグループのパンフレットによれば、「NSOはサイバー戦争の分野をリードする企業」とされ、サイバー防衛だけでなく攻撃的なサイバー攻撃で当局の技術的な側面を支える、と喧伝している。つまり、サイバー攻撃やハッキングなども行う、という意味だ。
 
サイバー攻撃というのは、その9割以上が、電子メールから始まると言われる。ペガサスの監視システムによるサイバー攻撃も例外ではなく、電子メールから始まることが多い。
 
明らかになっているその手口によれば、ターゲットになった人のスマホに、まずは知り合いを装って電子メールやSMS(ショートメッセージ)を送る。そしてメールやSMSに貼り付けられたリンクをクリックさせたり、添付ファイルを実行させたりする。それだけで、そのスマホを乗っ取ることができるのだという。
 
成功率も高いという。友人や知人、家族などを装ってメールやSMSを送ってくるから、サイバー攻撃の罠が仕掛けられたこの「偽メッセージ」が怪しいと思われることはまずない。受信者は添付写真やリンクを、疑うことなくクリックしてしまうのだ。

スパイウェアの販売先は厳格に選別されているというが・・・
もちろんこのサイバー攻撃が無差別に行われるようなことになれば、倫理的、人権的に大きな問題となる。
 
NSOは、スパイウェアを売却する相手を厳格に選別しているとし、売却先は基本的に政府または各国の捜査当局や情報機関などに限定している、と主張する。さらに、契約時には監視対象をテロ集団や犯罪組織に限るよう約束させているとしている。
 
だが、「実際には制限は行き届いていない」との批判も多い。なにしろ、ペガサスを導入した国が、真っ当なジャーナリストのことを「あいつはテロリストだ」と言ってしまえばそれまでである。事実、先に触れたメキシコもジャーナリストを監視対象にしていた。

サウジが暗殺したカショギ氏周辺もペガサスの標的に
(中略)
ちなみに世界には、NSO以外にもスパイウェアを販売している企業がある。イギリスには、ガンマ社という企業が「フィンフィッシャー」というスパイウェアを販売しているし、イタリアにはハッキングチーム社(現在は社名を変更して活動しているとみられている)が同様のスパイウェア「ガリレオ」を提供してきた。

このハッキングチーム社は、2015年に同社の電子メールがハッキングされて漏洩し、同社の顧客情報などが漏れてしまうという笑えない騒動を起こしている。
 
これにより同社の信用は失墜した。ちなみに当時の顧客には、ウガンダ、ウズベキスタン、エチオピア、オマーン、カザフスタン、サウジアラビア、スーダン、ナイジェリア、ハンガリー、ベネズエラ、マレーシア、ロシアといった国々の情報機関が含まれていた。特に独裁色の強い国家に重宝されていた。
 
しかし顧客はそればかりではなかった。CIA(米中央情報局)やDEA(米麻薬取締局)、スペインの情報機関であるCNI(国家情報センター)、シンガポールのIDA(情報通信開発庁)、そして韓国の国家情報院もシステムを購入していたのだ。ドイツの民間銀行や、イギリスの通信会社も導入していたと指摘されている。
 
実は日本の情報機関も、このサイバー攻撃による監視システムの導入を検討していたことが判明している。公安調査庁は2015年、庁内でこのスパイウェア商品のデモンストレーションをハッキングチーム社から受けていたことが明らかになっている。ただし予算や法律に問題があったようで、実際には導入に至らなかったそうだ。
 
それでもこのスパイウェアに興味を示し、実際にそれを目にしたというのは情報機関としては正しい動きだったと言えるだろう。どんなスパイウェアが世の中にあるのかを知るのは有益だからだ。

スパイウェアへの対策が不可欠な時代に
筆者の知人に、これらのスパイウェアのデモンストレーションを間近で見たことがあるという人物がいる。その人によれば、目の前であっという間に説明を受けている側のスタッフの電子メールの内容などが丸裸にされたという。とんでもないシステムだと、この人物は評していた。
 
とにかく、これらの監視システムは、強権国家の手に渡れば、人権を無視して悪用される可能性が高い。だからこそ、世界の人権団体や報道機関が調査を行なって動向をチェックしてきた。
 
今回の調査報道によって、スパイウェアの実態が広く世界に知られることになった。しかしデジタル化が進む世界では、われわれの個人情報や生活の実態は、スパイウェアと“悪意”とを併せ持つ何者かがいれば簡単に丸裸にされ、監視まで容易になる。
 
5G(第5世代移動通信システム)が普及すれば社会のデジタル化はいっそう進む。その前に、こうしたスパイウェアに関しては、個人レベルでも政府レベルでも、何らかの対策が必要になるだろう。【7月21日 山田 敏弘氏 JBpress】
***********************

マクロン大統領は“とりあえずの対策”として、携帯電話を替えたそうです。

****仏大統領、携帯電話を変更 スパイウエア「ペガサス」巡る懸念で****
フランスのマクロン大統領の携帯電話がイスラエル企業が開発したスパイウエア「ペガサス」の標的になっていた可能性があるとの報道を巡り、フランス大統領府の関係者は22日、マクロン氏が携帯電話と電話番号を変更したと明かした。

ロイターに対し、「マクロン氏は複数の電話番号を保有した。これはマクロン氏がスパイウェアの標的になっていたことを意味しない。セキュリティーを強化しただけだ」と述べた。フランス政府のアタル報道官は今回の件を受け、大統領のセキュリティープロトコルを変更していると述べた。【6月23日 ロイター】
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悪意ある者の手にかかると、知識も何もない私みたいな人間はなすすべもない・・・そんな時代になったようです。便利でけどね・・・。
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顔認証技術の進歩で進む個人情報活用 ルール作りの必要も

2021-03-12 22:22:16 | 民主主義・社会問題

(広東省東莞市の公衆トイレで行われている顔認証によるトイレットペーパーの支給【2020年12月6日 レコードチャイナ】)

 

【顔認証を使うシーンなどのルールがあいまい 警察に過度の裁量】

いまや街のあちこちに監視カメラ・・・というのは、ごく日常的な光景にもなっており、犯罪防止などで便利と言えば間違いなく便利です。

 

ただ、自分が知らない間に撮影されているという、落ち着かない感じも。そうしたデータが誰によってどのように利用されているのかと考えると、不安な感じも。

 

単に画像が撮影されるだけでなく、AIを駆使した「顔認証」技術によって、犯罪捜査などにも活用されています。

 

下記記事は、監視カメラが多いことでは世界有数のレベルにあるイギリス・ロンドンからのリポート。

 

****街中で撮られた私の写真、自宅に届いた 監視カメラ大国イギリスの今****

駅や商店街に設置され、犯罪に目を光らせる監視カメラ。人々の顔の特徴を見分ける「顔認証技術」を搭載し、さらに役立つ存在に……と思ったら、いや、待てよ。それだけではない議論が今、世界で巻き起こっている。

 

ロンドンの自宅に、一通の封書が届いた。中身は駐停車違反通知。朝、子どもを学校に送った際に、校門前で一時停車した場所がいけなかった。反省しつつ驚いた。通知書には証拠写真が、車を降りた子どもの姿とともに載っていた。(中略)

 

英国は監視カメラ大国として知られる。英報道によれば、ロンドンだけで40万台を超えるとされる。1990年代に防犯目的で政府が推進し、2005年のロンドン同時多発テロを機にさらに拡大した。テロや凶悪犯罪が絶えない社会で市民の理解を得てきた。

 

その監視カメラ社会はいま、人工知能(AI)によりさらに「進化」しようとしている。顔の特徴から人を見分ける「顔認証」技術の登場だ。

 

ただ、待ったをかける判決が昨夏、注目を集めた。英西部ウェールズ地方に住む大学職員のエド・ブリッジスさん(38)は17年12月、カーディフの商店街にクリスマスプレゼントを買いに出た。警察のバンが1台、路上に止まっていた。車体の腹に「顔認証」とある。説明は他になく、「自分の顔がスキャンされたのか」と気味悪く思った。

 

翌年3月、カーディフで平和デモに参加した彼は、通りの向かいに同じバンを見つけ、今度はゾッとした。「顔認証技術は、私を含む参加者に向けられていた。市民の安全と権利を守るべき警察による、威圧と感じた」

 

人権団体に相談し、警察の顔認証技術の利用はプライバシー権の侵害で違法だと裁判に訴えた。19年9月の一審判決は敗訴。しかし、20年8月、日本の高裁にあたる英控訴院が判断を覆し、ブリッジスさんが勝訴した。

 

英国に顔認証利用に特化した法律はまだない。警察は、監視カメラの設置ルールとデータの扱いを定めたデータ保護法などに照らし、適正だったと主張したが、判決は顔認証を使うシーンなどのルールがあいまいだと指摘。

 

肝となる「顔の照合リスト」を誰がどう作るかで、警察に過度の裁量が与えられていることを問題視した。技術そのものの捜査での有用性には理解を示したうえで、警察の野放図な利用は許されないというわけだ。

 

ブリッジスさんは、警察がAIのような新たな捜査技術を持つことに全て反対というわけではない。「ただ、常に市民のプライバシー権とのバランスが求められる。自分のデータをどこまでコントロールし、どこから警察に委ねるか。根本的な問題なのに、現状は法的整備が不十分だ」

 

■BLM契機に顕在化した米国

警察による顔認証利用への懸念は昨年、米国でも相次いだ。ここでの契機は、黒人差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動だった。

 

米大手IT企業のIBMは昨年6月、米議会下院に宛てた手紙の中で、顔認証システムの一般提供をやめると表明。アービンド・クリシュナ最高経営責任者(CEO)は「テクノロジーは透明性を高め、警察が社会を守るのにも役立てられるが、差別や人種による不公平を助長してはならない」と述べ、開発企業の立場から法整備の必要性を訴えた。

 

同様の趣旨でアマゾンも、自社の顔認証システムを警察が使うことを1年間中止し、マイクロソフトも一時的な取りやめに踏み切った。米ミネソタ州で白人警官が黒人男性を死なせた事件が起きた直後の判断だった。

 

顔認証は黒人を見分ける精度が低いという研究結果もある。警察の差別的な捜査姿勢と相まって、誤認逮捕などを招きかねない。BLMデモの参加者の監視につながるのではないか。そんな指摘が出ていた。

 

■企業対応、手探り

英ウェールズの警察当局は「(判決の指摘部分に)対応することで運用は可能」との立場で、利用を諦める気はなさそうだ。

 

英国では市民にも、顔認証の防犯目的利用への期待がある。(中略)

 

ロンドン警視庁は昨年、顔認証カメラの本格運用を発表した。採用するのは、日本で開発をリードするNECのシステム。使用場所はネットで周知され、結果も公表される。

 

コロナ禍の影響で、最後の運用は昨年2月、繁華街のオックスフォード・サーカスだった。開示資料によると、約8600人の顔が認識処理され、約7300人分の「リスト」と照合された結果、システムによる警告は8件。うち7件は間違いで、残る1件が検挙につながった。

 

顔認証利用の議論は、日本では煮詰まっていない。

(中略)欧米でプライバシーへの懸念を契機に規制をめぐる議論が広がる現状について、本部長の野口誠さんは「新しい技術を社会が受け入れるのに、必要なプロセスだと思う」と話す。議論が成熟した先に、この技術が課題解決に生かせる社会が見えてくると考えるからだ。「正解はなく、悩みながらというのが正直なところです」【3月12日 GLOBE+】

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【「監視カメラ大国」中国 「天網」システムが反体制派弾圧に利用されているとの批判も】

イギリス・ロンドンが「監視カメラ大国」として知られていますが、“やはり”と言うべきか、台数で言えば(おそらく、“活用度合い”で言っても)中国各都市が抜きんでているようです。

 

そして、監視カメラ台数と犯罪防止の間には明確な相関関係はないようですが、それでも中国が監視カメラを増やし続けるのは、もっと「政治的な監視体制」のためであると想像されます。

 

****イギリスレポートの監視カメラ動向****

「監視カメラ」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持つだろうか。監視カメラを設置することで、犯罪を抑止できるという考えもありますし、プライバシー侵害を叫ぶ声もある。

 

さらに、今顔認証技術が急速な発展を見せ、誰がどこにいて、何をしているかが、一目瞭然になる世界が見えており、そこに対する不安も聞かれる。

 

イギリスの比較サイトComparitechが発表した世界各都市の監視カメラ動向をまとめたレポートは、監視カメラにかかわる問題を考察していく上において、参考になるので、ご紹介したい。

このレポートは、世界120都市の監視カメラ台数を分析したうえで、人口1000人当たりの台数へと換算して、それをランキングしたものである。

 

  • 監視カメラ上位は、やはりあの国…。
    では、監視カメラが最も設置されている国はどこであろうか。予想していただき、続きを見てもらいたい。

 

このレポートによると、1位は、中国・重慶。監視カメラ約258万台。人口は約1535万人。1000人当たりのカメラ台数は、約168台。2位は、中国・深圳。監視カメラ約193万台。人口は約1212万人。1000人当たりのカメラ台数は、約159台となっている。以下、3位上海(1000人当たり113台)、4位天津(93台)、5位済南(73台)、6位ロンドン(68台)、7位武漢(60台)、8位広州(52台)、9位北京(39台)、10位アトランタ(15台)
と続く。やはりというか、上位10位のうち8つを中国を占めている。予想は当たっていただろうか。

 

  • 監視カメラ台数と安全性に関する意外な結果
    Comparitechはこのレポートの中で、監視カメラを設置する最たる理由としてよく挙げられるのは、「監視カメラを増やすことで犯罪抑止になる」という主張である。この主張が、本当に妥当なものであるかを安全指数(犯罪指数)に照らし合わせ、その相関関係を分析している。(中略)

 

(各都市の監視カメラ台数と安全指数を比較した)上記数字から、(安全都市ランキングで世界一位の東京が、監視カメラ数ランキングでは、0.65台で77位と低い位置にあるように)監視カメラの台数と安全性には、強い相関性がないことがうかがえる。

 

つまり、この分析における結論は、監視カメラの数と安全性の相関関係は弱く、「監視カメラを増やすことで犯罪抑止になる」という主張の正当性は、残念ながら低いということである。端的にまとめると、「監視カメラを増やしたからといって、必ずしも街の安全性が高まることはない」ということだ。(中略)

 

  • 中国が監視カメラ設置を続ける理由
    このレポートによると、2020年までに中国の監視カメラは、2億から6億2600万台まで及ぶとされている。深圳は今後数年で、監視カメラをの台数が、現在の193万台から、1668万台に増やす計画となっており、単純に一人当たりカメラ1台以上というとんでもない割合となってくる。

 

では、なぜ中国はここまで監視カメラを導入するのであろう。確かに犯罪抑制という一面もあるが、「天網」と呼ばれるシステムの強化であると言われている。

 

この「天網」とは、簡単に言えば監視カメラの映像とAIによって、中国国内の人々を特定してしまうシステムである。

 

2010年代から中国各地で試験的に始まり、2020年までの中国全土の導入を掲げている。中国はこれらは、行方不明者や犯罪者を見つける事ができるとしている。2018年時点で、2000人を超える犯罪者を逮捕を天網で成功したとしている。しかもこのシステム、すでに世界54か国に輸出されているという。

一方で、欧米メディアは中国の反体制派弾圧に利用されているとし、厳しい批判を浴びせている。AIによる画像認識は、様々なアルゴリズムと蓄積されていくビックデータによって、日々進化を遂げている。

 

日本は一体どういった道を進んでいくのだろうか。プライバシーについて、それぞれが考えるべき時が近づいているのかもしれない。【2020年04月08日 NSK日本セキュリティー機器販売】

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【中国国内にも個人情報の扱いに関する慎重論も 中国政府がガイドライン作成】

「中国=ディストピア的監視社会」というイメージについては、誤ったイメージによるもので「幸福な監視社会」という反論もあります。

 

****【書評】街中に監視カメラ、ネット検閲…それでも中国人が幸福な訳****

(中略)

『幸福な監視国家・中国』 梶谷懐・高口康太 著/NHK出版

 

(中略)「デジタル監視社会」の実体に詳しい専門家ですら、中国の監視社会については正確に理解できていないらしい。多くの誤解がある。

 

その原因は、バイアスのかかった先行情報を参照した結果、後追い情報もさらにバイアスのかかったものになる、という負の連鎖が起きているからだ。驚くのは、外からの視点と中国自身の現状に対する内からの視点とでは、評価が真逆なのだという。

 

この本は、現代の中国社会で起きていることを、冷戦期の社会主義国家のイメージで語るのはかなりミスリーディングだ、というスタンスをとる。「監視社会」やそれに伴う「自由の喪失」を論じるのであれば、同時に「利便性や安全性の向上」にも目を向けなければならないということだ。

 

というわけで、かなりめんどうくさい。うさんくさい。警戒しながらじっくり読むべし。【2020年12月9日 柴田忠男氏 MAG2NEWS】

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ただ、中国国内でも顔認証技術の乱用を危ぶむ声もあるようです。

 

****顔認証でペーパーが出てくる公衆トイレ、本当に必要?=「リスク」指摘する声も―中国****

広東省東莞市の公衆トイレで行われている顔認証によるトイレットペーパーの支給について、専門家からリスクを指摘する声が上がった。中国中央テレビ(CCTV)が4日付で報じた。

同市の一部の公衆トイレでは、顔認証システムを用いたペーパーの配布が行われている。トイレットペーパーの盗難や無駄遣い防止が主な目的で、顔を機械に読み取らせることで決められた量のペーパーが自動で出てくる。一度読み取ると、一定の時間は利用することができない仕組みだ。

顔認証の機械本体は、設定した時間ごとに保存されている顔情報を自動的に削除するという。しかし、ネットワークセキュリティーの専門家は「本体に情報が保存されていないからといって、システム内に保存されていないわけではない。データベースが漏洩(ろうえい)したり盗用されたりした場合、身元が明らかにされるリスクがある」と警告した。

顔認証によるトイレットペーパーの支給について、ネットユーザーからは「(顔認証は)不便だけど、そのまま設置すると持ち去る人間がいる。いっそ有料にすればいい。顔認証を使う必要があるだろうか」「近くにもある。公衆トイレの管理者はトイレットペーパーの浪費を抑えたいだけだろうが、設備の運営会社はたぶんビッグデータを集めたいのだろう」「顔ではなく指紋なら良いのでは?事件の容疑者逮捕にも役立つかも」といった声が寄せられた。

ほかには、「すべてのソフトに個人情報はある。気にしてたら何も使えない。本当に個人情報を使って何かされたら、それは違法なのだから法的な追及を受けるだろう。一般人の個人情報に大した価値はない」との意見も見られた。

中国では各地でスマートコミュニティーの建設が進むにつれ、多くの場所に顔認証システムが導入されている。地域の治安維持に有効という声がある一方で、個人情報を勝手に収集するプログラムは違法だと訴える人、収集された情報が漏洩した場合のリスクを懸念する人も出始めている。

中国のネット上では先日、「杭州市不動産管理条例(改正案)」が話題になった。同条例案では、不動産業者は区分所有権者に対し、指紋や顔認証などの生体認証を用いた共用施設の使用を強制してはならないと規定されている。背景には、個人情報収集の合理性と合法性をめぐる議論があるようだ。【2020年12月6日 レコードチャイナ】

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顔情報を含めて、いろんな方法で集められた個人情報は「信用情報」にまとめられ、生活の多くの場面で使用されることが想定されます。

 

中国政府も個人情報収集に関するルール作りの必要性は「一応」認識しているとのことのようです。

 

****中国、社会信用システム巡るガイドライン公表 国民の懸念に対応****

中国国務院(内閣に相当)は24日、企業や個人の間の信頼を高めることを目的とした「社会信用システム」について、整備に関するガイドラインを公表した。

同システムは詐欺や脱税、債務逃れなどを抑制する狙いがあるが、規制や法整備が不十分なため、個人情報の収集、データ保護、プライバシーなどについて国民の間で懸念が生じている。

ガイドラインによると、政府は社会信用システムの質の高い開発を促進し、不正行為を抑止する長期的なメカニズムを構築する。これにより「公正で誠実な市場環境」の実現を支援するとした。

企業や個人の不正行為に関するデータや情報、関連する処罰は法に基づいて処理すると説明した。

中国は信用システムを構築してきた世界的な経験から学び、国際基準を順守し、国民の懸念が大きい分野では慎重に行動するとしている。

また政府部門間の共有などデータの収集を改善し、信用情報の開示は企業秘密や個人のプライバシーを侵害しない形で行うと表明した。

金融機関、信用格付け機関、インターネット企業、データ企業を重点的に監督し、個人情報の収集・保存・使用・処理・開示を厳しく規制するとした。【2020年12月24日 ロイター】

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【「顔認証」でわかる政治的立場】

中国政府の「プライバシー尊重」という言葉をどのように評価すべきか・・・と言う話は、各人に判断にゆだねるとして、現実はどんどん進んでいます。これを国家権力が「テロ対策」の名目で「活用」しないということは考えられないかも。

 

****72%の精度で政治的立場を予測する「顔認証技術」の可能性と危険性****

スマートフォンやパソコンといったデバイスのロック解除から飛行機の搭乗手続きまで、顔認証技術は活用の場をどんどん広げています。最近では性格や感情までも読み取ることが可能になってきている模様。そんな顔認証技術の可能性と危険性を示唆する研究が最近、発表されました。

 

↑顔認証技術も2つの顔を持つ 

アメリカのスタンフォード大学の研究チームは、顔認証技術の危険性について研究を行うため、人物の顔写真からその人の政治的立場を予測する技術について実験を行いました。

 

研究チームはアメリカ、カナダ、イギリスの3か国から合計108万5795人を対象に、デートサイトやFacebookに掲載されたプロフィール用顔写真を集め、さらに本人から政治的な志向、年齢、性別などの情報を収集。プロフィール写真からは人物の顔以外のパーツは排除し、オープンソースの顔認証アルゴリズムを使ってリベラル派か保守派か予測しました。

 

すると、アメリカのデートサイトのユーザー86万2770人の政治的志向は72%という確率で予測が当たりました。そのほかの結果はカナダのデートサイトの精度が68%、イギリスのデートサイトが67%、Facebookのサンプルが71%。その一方で人間の精度はわずか55%だったので、顔認証技術のほうが顔写真からより正確に政治的立場を予測することができると判明したわけです。

 

この結果は顔認証技術の驚異的な能力を示す反面、政治的立場といったプライベートな情報も比較的に高い確率で予測することが可能であり、プライバシーや言論の自由を脅かす危険性を伴っていることを示しています。(後略)【2月4日 GetNavl web】

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“(G20で)中国の習近平国家主席は、世界の人の往来を回復させるため、中国の独自システム「健康コード」を国際的に普及させることを提案した。”【2020年11月22日 FNNプライムオンライン】というように、コロナ対策の面からの個人情報活用が進む可能性も。

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民主主義は「オワコン」か? と言うより「日本はオワコン」では?

2020-10-24 23:02:43 | 民主主義・社会問題

(【10月1日 デイリー新潮】)

【なぜ「悪いやつ」が成功するのか?】

普段、「民主主義とは何か?」とか「民主主義は“オワコン”か?」といった類の議論にはあまり縁がないのですが、すべてを自身の再選のために関連付けたトランプ政治、アメリカ大統領選挙の動向など見ていると、そうした「民主主義」に関する疑問も湧いてきます。

 

どんなに嘘をつこうが、どんな性格破綻者であろうが、国民の4割ほどの支持を得て、一部には熱狂的な支持者も。選挙予測は様々ですが、最後はトランプが勝つと予測するものも少なくありません。

 

****なぜ「悪いやつ」が成功するのか? 知識人から忌み嫌われた「史上最凶のポピュリスト」****

トランプ、プーチン、習近平……強権発動を厭わない「悪いやつ」ばかりが権力を握っているように見えるのは、どうしてなのか。近年の政治指導者の劣化を苦々しく思っている人も多いだろう。

 

しかし、イギリス史を専門とする君塚直隆・関東学院大学教授は、「同時代の人びとから〈悪党〉と忌み嫌われた人物が、のちに歴史を動かした名指導者として評価されることも多い」と語る。(中略)

 

とりわけ異彩を放っているのは、ヴィクトリア女王時代に長年にわたり首相を務めた第3代パーマストン子爵である。「パクス・ブリタニカ(英国による平和)」を実現した指導者と評価される一方、アヘン戦争などの「砲艦外交」に代表される強引な政治手法が、多くの批判を浴びた。

 

パーマストンがいかに同時代の知識人や政治家たちから忌み嫌われたかを、同書を再構成して紹介しよう。(中略)

 

稀代のポピュリスト?

一方で、パーマストンが常にイギリス国民から強固な支持を受け、大英帝国の全盛期を支えたことは否定できない事実である。

 

パーマストンは80歳で病死するまで首相の座にあり続けた。驚くことに、その死の直後に女性スキャンダルが持ち上がったことがある。野党保守党で彼と対峙したベンジャミン・ディズレーリはこのスキャンダルにあたり次のような言葉を残した。

 

「パーマストンの老いらくの恋だって! ばかげた話だ。だが選挙の時に知られなくてよかった。そんなことになっていたら、彼はさらなる人気をつかんだことだろう」

のちに首相として卓越した政治手腕を見せたディズレーリのこの言葉には、政治指導者に国民が何を求めているかについての洞察が含まれているように思われる。

 

端的に言えば、清廉潔白な人物よりも、老いてもなお愛人を作れるだけの器量と精力を失わない人物のほうに、国民は自らの命運を託そうとするものなのだ。その意味で、パーマストンは稀代のポピュリストだったと言えるだろう。【10月1日 デイリー新潮】

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国民は清廉潔白な人物よりも、老いてもなお愛人を作れるだけの器量と精力を失わない政治家を好む・・・・トランプ大統領はこのあたりの国民心理を実にうまく利用しています。

 

【デジタルをプラットフォームとした液体民主主義 その危うさも】

でも「それでいいのか?」「民主主義ってそんなものか?」という疑問も。

 

****半数の人が「不満」という民主主義 でも「終わった」と切り捨てるのはまだ早い****

みんなで決めるって、むずかしい。顔をあわせて話し合うのが一番だけど、大勢だとちょっと無理。代表を選んで託せば、時間は節約できるけど、もどかしい。古代ギリシャで産声をあげて約2600年、民主主義はそんなジレンマを抱えてきた。

 

直接制」と「代表制」の良いとこ取りはできないのか? 政治哲学が専門の五野井郁夫・高千穂大学教授(41)に素朴な疑問をぶつけてみた。

 

――アメリカの調査機関ピューリサーチセンターが今年2月に発表した調査では、34カ国で平均52%の人々が、うまく機能しない自国の民主主義に「不満だ」と答えました。日本も53%に上ります。今、代表民主制というシステムが、うまく機能していないように見えます。

 

選挙で選んだ誰かに政治を託す。それが代表制というものですが、これは「欠点」をいくつも抱えています。油断すると、選ばれる人が固定化し、利益集団を代表して資産が流れ込みやすい。二世、三世の議員も多い。自民党の世襲率は4割弱に上ります。

 

こうしたことが積み重なって、自分たちの意見がくみ取られていないと不満が高まってしまう。政治に参加しても報われたという感覚が持てない、つまり政治学で言うところの「政治的有効性感覚」をくじかれてしまうわけです。

 

本来、みなで顔を合わせて議論して決める直接民主制が理想として望ましい、と私は思います。(中略)

そもそも、じかに語りかける形で議論ができるのは、顔の見える範囲、つまり「数万人程度」が限界だと言われています。(中略)

 

――なるほど。私も日本の若者たちの話を聞いていて、国会での議論が「自分事」に感じられないという意見をよく耳にしました。直接制と代表制、どっちがいいのでしょうか?

 

顔をつきあわせてじかに議論した方が、民主主義の「質」は高い。でも、人口が増えれば、全員で集まることが不便になり、代表を選出して自分たちの代わりとせざるをえないわけです。

 

代表制は、政治参加の「量」で直接制に勝るわけですが、他人を介する分どうしても意思は反映されにくくなる。「質」をとれば、「量」を犠牲にしなくてはならない。その逆もしかり。民主主義の歴史は、この「質」と「量」のトレードオフでした。

 

民主主義は長い間、その二つを併せ持つことをずっと夢見てきましたが、昨今のテクノロジーの発達が、その「夢」を可能にするかもしれません。デジタル・デモクラシーを前提とした「液体民主主義」など、新たな形態の登場です。

 

液体民主主義とは

インターネットを活用した政治的な意思決定の新しい仕組み。たとえば、有権者が持つ1票を政策ごとに0.3票、0.7票といった具合に分けて投票できたり、課題ごとに見識のありそうな別の有権者に自分の票を「委任」できたりする

 

デジタル時代の新しい民主主義の形態として、2000年代に入って欧州を中心に議論され、北欧スウェーデンの地域政党やドイツなどの新興政党「海賊党」が党内の意思決定に試験的に採用した。

 

――液体民主主義は一見、テクノロジーを駆使した、とても便利で革新的な方法のように言われていますが、五野井さんは懐疑的な見方をしていますね?

 

はい。液体民主主義は、直接民主制と代表民主制の両方の良いとこ取りをするシステムと言えます。自分の1票を信頼する者に委任することができる。しかも、委任した者が期待したような判断をしなければ、その委任を撤回、あるいは一部を保留するといったこともできる。

 

デジタルをプラットフォームとしてますので、時間も節約できるし、選挙もお金がかからない。極論すれば、家でもどこからでも、スマホで政治参加ができてしまう。現代社会に生きる我々のライフスタイルに非常にフィットするわけです。

 

ただし、大変危うい側面もあります。まず、インターネットなどの情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間の格差、つまりデジタルディバイドの問題があります。また、本人確認、買票、透明性の確保やプライバシー保護などの問題をどう克服するのかといった問題もあります。

 

そして、何より問題なのは民意が瞬時に伝わってしまう分、ポピュリズムの危険をはらんでいることです。昨日決めたことが今日には違う結果になってしまう可能性もあるし、みんながその時にOKなら、それでOKとなってしまう危うさがあります。

 

それも説得されたOKではなく、何となく雰囲気でOKということになってしまう。本来は熟考すべきことですら全てがすっとフロー化して流されてしまうかもしれない。プラトンも、のちにプラトンを受け継ぎつつ共和主義と人民主権の関係を再構成したルソーも、ともにこれを危惧していました。

 

――現状の民主主義のシステムにすぐ取って代わる段階にないということですか?

 

(中略)他方、私たちが政治を「サービス」と勘違いしていることが問題の根底にあります。資本主義社会においては、お客様であること、サービスを受けることが当たり前になっていますが、政治とはそもそも、「お客さま」として待ちの姿勢でいてはダメで、自分たちから積極的に関わっていくべきものです。

 

政治のサービス化が起きると、いったいどうなるか。自分や身の回りの問題さえよければ、国全体のことなんてどうでもいい。そんな非常に近視眼的な視座にたってしか、政治を考えられなくなってしまいます。

 

サービスを提供されるように、政治家や行政から民主主義を提供されていくわけです。しかもテクノロジーが発達すると、マーケティングの手法でそれが非常に早いレスポンスで提供されるようになります。

 

よく言えば、twitter等の「民意」を可視化してぶつけることで政治家を脅すこともできますが、悪く言えば、政治家にその時々で顔色をうかがわせるような状態になってしまう。政治があまり国民に向いていない現状では効果があるかもしれませんが、長い目で見れば健全とはいえません。

 

――うーん。古代ギリシャで原型が登場して2600年も経つのに、いまだに完成しないなんて、もしかして、民主主義というシステムそのものがオワコン(終わっているコンテンツ)なんじゃないか、そんな気もしてきますが……。

 

いえいえ、まったく終わっていません。民主主義はオワコンだという人はたしかにいますが、それは使う側の問題だと私は考えます。そもそも、民主主義がダメだと言う前に、ちゃんと使いこなせているのか、すべての可能性を試したのか、そう問いたい。

 

たとえば、代表民主制といえば、すぐに選挙を思い浮かべるかもしれませんが、自らの主張を政治的に訴えていく方法は実際それだけではありません。デモやストライキ、請願、リコール、住民投票、国政調査権……民主主義や憲法で保障されている様々なツールを、多くの人々はまだほとんど試みたことがない。使っていない機能、眠っている機能はないか。

 

可能性を試しきっていないのに、うまくいかないからと民主主義をばっさりと切り捨ててしまうのは、「産湯とともに赤子を流す」ようなものです。それと並行して、新たな民主主義の可能性を模索していく。それが重要なのではないでしょうか。【10月2日 GLOBE+】

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【日本の若者の「正解主義」】

一方、新型コロナへの対応は、中国やベトナムのような強権支配国家の方がうまく対応しているとの見方も。 

みんなで決める民主主義の限界を指摘する声も。

 

一方で、民主主義国における形骸化も。

もとより、民主主義は面倒で時間がかかるもの。菅首相の日本学術会議問題、政権に考え方に反する者は任命できないというのなら、それでいいかを議論すべきですが、「総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」と訳の分からない説明で、きれいごと的な面倒な議論はしたくないという議論回避の姿勢が。

 

それは民主主義の否定では?たたき上げ政治家には民主主義の理念などは無価値に思えるのか?

 

****【吉田徹】民主主義はだめな制度? 答えは「あなたが信じるかどうか」にある****

みんなで何かを決めるって、本当にむずかしい。緊急事態なら、なおさらだ。新型コロナウイルスの対応では、一党独裁の中国やベトナムはずば抜けて早かった。一面的な見方だと分かっちゃいるけど、議論ばかりでなかなか決まらない民主主義がもどかしく見える。

 

そして、ふと思ってしまうのだ。この制度、もしかして、時代遅れ? オワコン(終わったコンテンツ)なんじゃ……。コロナ禍の不安の中で沸き上がる疑問を、政治学者の吉田徹・北海道大学教授(45)にぶつけてみました。

 

――吉田さんは、今回のコロナ禍は「これまでの国の好ましからざる特徴を、さらに強める作用がある」と説いていますね。どういう意味ですか?

 

(中略)パンデミックは社会の脆弱(ぜいじゃく)な部分に巣くい、拡散していきます。今の新型コロナの危機によって、各国の民主主義が抱えていた矛盾や問題点というものが、目に見える形で如実に出てきているといえるでしょう。

 

――一方で、日本に目を向けるとどうでしょう。若者たちの声に耳を傾けると、政治を「自分ごと」に感じられないという声が高まっているようです。

 

日本の若者は必ずしも政治に関心が低いわけではありません。フランスのシンクタンク「Fondapol」が2011年に行った国際調査では、日本の若者(16〜29歳)の80%が投票を義務と捉えており、25カ国の平均81%と変わりません。こうした政治意識の高さは内閣府の青少年調査でも明らかになっています。

 

ただし、デモや党活動など、投票以外の政治参加になると、他国より意欲が低いというところに特徴があります。

 

――何が原因なのでしょうか?

戦後、政治への直接参加のうねりを最初に作ったのは、ヨーロッパでは60年代の学生・労働運動、アメリカでは公民権・反戦運動でした。フェミニズムや環境保護など、今でいう「リベラル」な意識もこの時代を源泉にしています。

 

その意識は子や孫の世代に受け継がれ、現在になっても各国でのムーブメントの担い手となりました。投票率や党員数は先進国では漸減していますが、代わりにデモなどの非伝統的な政治参加は比例して増加傾向にあります。

 

しかし日本では、新卒一括採用や年功序列などを特徴とするメンバーシップ型雇用の特性も相まって、団塊の世代の政治意識は継続せず、過激化した学生運動の反省から、教育現場でも政治的な話題に触れないことが原則とされました。

 

その結果、教育学者の苅谷剛彦氏の言葉を借りれば、いまの日本の若年層に顕著になったのが「正解主義」です。最近、「勉強不足だから投票できない」と、ある高校生が言っていたのを聞いて驚きました。政治に「正解」があると、試験勉強の延長で捉えていることの証左でしょう。(中略)

 

純化のそしりを恐れずにいえば、日本の場合、感染症対策のみならず、政策一般に対しても「正解があるはずだ」という期待値が有権者の側に強くあります。こうした期待値は、行政に瑕疵(かし)はあってはならないという無謬(むびゅう)性を前提とした官僚政治にもつながっているかもしれません。(後略)【10月11日 GLOBE+】

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【「多数派から支持を得ている人に投票するようにしています」 政権批判は「空気が読めない人」】

この日本の若者の政治意識の話、とても興味深いので、関連記事をもうひとつ。

 

****なぜ若者の政権支持率は高いのか 学生との対話で見えた、独特の政治感覚****

(中略)

東京都知事選を翌日に控えた7月4日、土曜日の昼下がり。私は、ある学生団体が主催するオンライン討論イベントに招かれた。テーマは民主主義。日本政府のコロナ対応はうまくいったと思う?  明日の都知事選、どんな視点で投票するんですか?  

 

全国各地から参加してくれた若者たちと意見を交わすうち、都内の大学に通う4年生の男子学生(23)の発言に、メモを取る手がとまった。

 

「ぼくは選挙に行くとき、候補者の主張を調べはします。でも、どうしても距離を感じてしまうので、多数派から支持を得ている人に投票するようにしています」――。

 

え、どういうこと?  理由はこうだった。

 

子育て、年金、医療、働き方……各候補が様々な政策を主張するけれど、どれも「自分ごと」に感じられない。でも、選挙に行かなきゃ大人じゃない。国民の義務を果たしていないと言われたくない。

 

そんなあやふやな考えの自分の1票が変な影響を与えないよう、せめて大多数の支持する「安パイ」に入れておこう。そう考えたというのだ。

 

うーん。私は考え込んでしまった。民主主義に対する若者の考えをこれまでいろいろ聞いてきたけど、これは新しいタイプだ。

 

(中略)その気持ちを、学級委員や生徒会の「選挙」に例えて、彼は言った。「クラスの人気者はお調子者やスポーツマンが多い。でも、本当に当選したら学校が荒れるかもしれない。人気はそこそこでも、堅実な人に入れておこう、そんな気持ちに似ています」

 

9月の自民党総裁選の動きを見ていても、「隣のクラスの学級委員決め」という感覚しか持てなかった。「僕に何か言えるとすれば、安倍首相には『お疲れ様でした』、次期首相には『よろしくお願いします』だけです」

 

クールな受け答えが印象的だった。でも、学校の代表選びと実社会の選挙はやはり違うよね?

 

彼もその辺は重々、承知している。「親から仕送りを受け、納税もろくにしていない、ふわふわした学生の身分だから、そんなことが言える。就職して結婚、子供ができたら、違った考え方をすると思います」

 

私がこれまで取材した若者はみな、政治を公に語るのを嫌った。個をさらすことに、私の世代より敏感なのだろう。彼も取材には快く応じてくれたが、匿名が条件だった。

 

そもそも、政治に期待した記憶があまりない。彼はそう語った。新型コロナウイルスへの対応も、「魔法のような対策はない」と最初から諦めていた。「子供の頃にあった東日本大震災で政府の対応がひどくて、社会に無力感が広がったのを見たからかもしれません」

 

そして、こう告白した。「政治は時代によって変わって当然、もし来月から独裁的な政権になるって言われたとしても、今はそういう時代なんだと受け入れてしまう、そんな自分がいるんです」

 

最近の若いのは……。そうぼやきたくなる人もいるだろう。だが、あえて弁護すれば、彼は大学院進学を志す真面目な学生であり、勇気を出して話してくれたと思う。政治を身近に感じられず、他人ごとのように俯瞰してしまう。そんな現代の若者の「本音」がにじんでいるように私には感じられた。

 

そして、彼のように民主主義を独自の視点でとらえる若者は今、驚くほど増えている。学生たちと接する政治学者たちが、異口同音にそう訴えているのだ。

 

■政権批判は「空気が読めない人」か

駒沢大学法学部の山崎望教授は、2017年後期のゼミを振り返って言う。「学生たちに『共感』というか、ああ、そう考えちゃうよねと腑に落ちました」

 

当時、世間を騒がせていた森友・加計学園の問題を議論した。安倍政権を肯定する意見がゼミ生25人の7割を占めた。 「何政権であろうと、民主主義国家としてよくないのでは? 私がそう水を向けると、彼らはきょとんとした顔でこう言うんです。『そもそも、総理大臣に反対意見を言うのは、どうなのか』って」

 

政権に批判的な残りの学生に対しても、肯定派は冷たかった。「空気を読めていない、かき乱しているのが驚き、不愉快、とまで彼らは言うんです」

 

なぜ、そう考えるのか? 学生たちにリポートを書いてもらうと、「政治の安定性を重視しているから」という理由が多かった。不安定でも臨機応変に対応すればいいんじゃないの? 山崎氏がさらに問うと、肯定派はみな言葉に詰まってしまったという。

 

「理屈ではなく感覚なんです。安定に浸っていたい、多数派からはじかれて少数派になりたくない。そんな恐怖が少数派は罪という考えまで至るのではないでしょうか」

 

山崎氏は「仮説」を立てた。今の若者たちの多くは、日本古来の「システム」のようなものが政治の根幹にあって、それが自由民主主義だと思っている節がある。その下で選ばれた首相や与党を批判するのは、古来のシステムにごちゃごちゃ文句を付けているようなもの。逆に、政権を批判する野党やジャーナリスト、活動家には関わりたくない――。(中略)

 

山崎氏は言う。「非常に奇妙な『神格化』が起きています。首相への熱烈な支持、信頼は薄くても、民主主義という政治システムに選ばれたこと自体が、『カリスマ』のよりどころなのです。とくに政治経験の少ない若い人は、純粋にそんな気持ちを抱くのではないでしょうか」(後略)【9月30日 GLOBE+】
********************

 

「正解」がわからないから、みんなが支持する人にとりあえず賛成してしておく、政権を批判して秩序を乱すのは「空気が読めない人」・・・・「民主主義はオワコンか?」という話から入りましたが、上記記事を読むと「日本はオワコン」というのが今日の結論。

 

民主主義に関しては、取り上げたい記事がまだ多数ありましたが、長くなりすぎるのでまた別機会に。

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新型コロナ感染拡大がもたらす変化  国際政治の強権化 在宅勤務拡大による格差助長

2020-08-21 22:23:39 | 民主主義・社会問題

(【8月21日 FNNプライムオンライン】 タイ 全校朝礼において国歌斉唱中に政府への抗議の意志を示す3本指を掲げる高校生 映画館で国王賛歌が流れた際に起立せず不敬罪で逮捕された・・・といったこともあるタイでの信じがたい光景です。それだけ危機感が強いということでもあるのでしょう。)

 

【政治 強権化の進行】

新型コロナの感染拡大は政治・経済・社会の様々な面で「変容」をもたらしていますが、政治面でしばしば取り上げられるのが「政治が強権化する危険がある」ということです。

 

このブログでも、タイなど、コロナ危機で「非常時権限」を手にした政権が、その権限を政治的弾圧などに恣意的に使う傾向がみられることはしばしば取り上げてきました。

 

そのほか、感染拡大という事実を隠蔽するための強権行使、外出規制などを徹底させるための暴力的手段などに関する報道をしばしば目にします。

 

****コロナ惨禍の背後で密かに進む国際政治の強権化****

人前で「コロナ」と言っただけで逮捕される! 落語の落ちではない。現実の国際社会での実際に起きている事実である。

 

そのようなことが起きている場所は、イランの東北部に位置する旧ソ連の国、トルクメニスタンである。人口は500万人あまり。ベルディムハメドフ大統領による独裁が続いている。

 

コロナと発言しただけで逮捕されるので、誰も「自分がコロナに感染しているかもしれない」と病院で言うことができないからだろう。米ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、現時点(8月17日)時点で、トルクメニスタンにおける新型コロナウイルスの感染者の数は確認されていない。

 

新型コロナ感染者については感染者が多い国にばかり注目があたる。しかし、感染者数が少ない国にこそ、実は問題が潜んでいると言える。

 

コロナ禍は、世界各国の政治を大きく変えている。論点を大きくまとめると、以下の2つになると考える。

 

一つ目は、巨額の財政支出による経済財政の不安定化だ。多くの国が感染症防止と経済維持のために、巨大な財政支出を行っている。1929年の世界恐慌時の財政支出と正確に比較することは難しいが、今後の展開によっては、世界恐慌時を超える財政支出がなされることになるだろう。

 

この状況が続けば、世界の大半の国のGDPが大きく減少することになることは間違いない。

 

国際通貨基金(IMF)は6月の段階で、2020年の世界経済がマイナス4.9%の減少になるとの予測を示しているが、その後の各国統計などを見ると、とてもその程度の減少にとどまるとは思われない。感染症防止と経済維持のため、世界史上各国の政府の財政支出が未曽有のレベルに達している。

 

現在の財政支出は緊急事態としてやむを得ない面がある。しかし、歴史上経験したことがない財政支出が経済財政を不安定化させることを考えれば、国民や議会としては一定の財政規律を求めていくことも同時に重要である。

 

二つ目は、新興国を中心に進む政治の強権化によって民主主義の基盤が揺らぎ、人権が蹂躙されていることだ。この点は今後の国際政治を見ていく上で大変に重要な事実を含んでいるが、コロナ禍の方に焦点があたるため、報道の扱いが相対的に小さいと思われる。

 

世界で相次ぐ選挙や裁判の延期

この強権化の実態は、筆者の分析では3つに分類できる。

 

第一に、民主主義の根幹である選挙や裁判が延期になっていることだ。

 

米国において、トランプ大統領が2020年11月に行われる予定の大統領選挙の延期について言及したことは記憶に新しい(もっとも、下院で多数派を占める民主党の反対はもとより、足元の共和党内からも反対意見が続出しており、延期の可能性はほぼないだろう)。

 

世界全体を見ると、選挙の延期が相次いでいる。

エチオピアは、8月に実施予定であった総選挙の延期を決定した。民族融和を打ち出して2019年にノーベル平和賞を受賞したアビー首相が、政治経済改革を推進していた矢先の延期決定である。アビー首相は、総選挙を自らの民族融和に向けた政治基盤強化のために活用しようと考えていた。これにより、同国の政治的経済的安定が遠のいてしまった。

 

国家安全維持法が施行されて民主化運動に制約が強まっている香港では、9月に予定されていた立法会の選挙が1年延期されることになった。表の理由はコロナ感染防止であるが、裏の理由は民主派への牽制であろう。

 

その他、スリランカの総選挙、英仏の地方選挙など多くの選挙が延期になっている。民主主義・選挙支援国際研究所(International IDEA)の調査では、2月21日から4月30日までの間に、少なくとも52の国と地域で選挙が延期された。

 

また、世界では裁判の延期も起きている。

 

コロナを奇貨に権限強化に乗り出す指導者

そもそも刑事事件でも民事事件でも、迅速な裁判は民主主義における重要な権利であり制度である。裁判が長引くこと自体が民主主義の基盤を脅かすのだ。立法権に関る選挙と司法権に関る裁判が延期されていることは、民主主義の根幹が揺らいでいるといってよい。

 

第二に、コロナに関連する表現の自由や報道の自由、反体制派に対する制約、弾圧である。先にお話ししたトルクメニスタンの事例がこれにあたる。

 

コロナの感染者が広がっているという事実を認めること自体を政権の弱体化と考える政治指導者が、自らの政治的権力を維持強化するために制約を課し、弾圧を加えている。

 

コロナ禍に乗じた反体制派の弾圧や自分の政治権力強化も枚挙にいとまがない。

タイやカンボジアでは、野党指導者や反体制ジャーナリストの逮捕が続いている。EU加盟国であるハンガリーでは、2020年3月にコロナ対策のためオルバン首相の権限を無制限に拡大させた(6月に解除)。これについて、野党は野党の弾圧に使われると反発していた。

 

ジンバブエでは、都市封鎖が行われる中、待遇改善を求めた看護師が逮捕、起訴された。

 

コロナ禍が契機であるとは言えないが、コロナ禍の時期に、憲法を改正して、自らの大統領任期を拡張したプーチン大統領のロシアの事例も、広くこの系統に属するといえる。権力者は緊急事態を奇貨として、自らの権力基盤を強化するのだ。

 

第三に、警察による一般住民への暴力などの人権蹂躙である。

アフリカの一部の国では、外出制限が続く期間に警察による住民に対する発砲事件が発生している。例えば、ケニアでは外出禁止時に外出していた青年を発見した警察が無差別に発砲し、流れ弾にあたって近くの自宅ベランダにいた少年が死亡している。

 

このような警察の対応を見ていると、中世にペストが流行した際の、集団ヒステリーによる魔女狩りを思い起こすのは私だけであろうか。明らかに過剰なヒステリックな対応で住民の人権が著しく蹂躙されている。

 

このように多くの新興国においては、民主主義と人権が危機に瀕しているといっても過言ではない。

 

歴史を紐解けば、さらに悪い展開が想定される。政府のパンデミック対策を批判することによる大衆迎合主義の台頭である。

 

大きな惨禍は社会をアップグレードする好機

8月17日現在、世界において政権のコロナ対策を批判することで政権を奪取した大衆迎合的な政権はないと思われる。新興国の各国政府は、このような事態を恐れ、反体制派の弾圧に動いているからだ。

 

しかし、今後経済的な苦境が長期化する中で、選挙やクーデターによる政権交代が起きてもおかしくないだろう。

 

経済的苦境が邪悪な政治を生み出した歴史として忘れてはならないのは、極端な事例であるがドイツのナチスであろう。第一次大戦の敗北による賠償金支払いや世界恐慌による経済的苦境をテコに、大衆の人気を得たヒトラーは欧州、さらには世界を蹂躙した。

 

時代的背景が異なるため、ナチスが敢行したユダヤ人虐殺や対外的な侵略が現時点の国際政治で起きるとは想定しにくい。

 

しかし、極端に強権化した政権やコロナ対策を否定するような政権が台頭して、国際政治に混乱をもたらせる可能性は大いにあり得る。コロナ禍は世界全体の問題である。一国でも対策を否定することになれば、世界的な収束は遅れるのだ。

 

さて、このような状態にいかに対応すべきであろうか。

第一に、国連や民主主義国の政府がさらに提言を出すことだ。

 

言うまでもなく、国連はコロナ禍による人権蹂躙に対して多数の提言を出している(国連の提言はこちら)。しかし、コロナ禍に乗じた表現の自由や政治活動の自由に対する制限や弾圧については、国際社会に影響力を持つ形では提言ができていないのではないか。

 

筆者の見る限り、少なくともCNNやBBC、New York Times で国連の提言は大きくは取り上げられていないようだ。また、G7サミットなどの場で、世界の首脳が民主主義や人権の危機について共同声明を出すようなことも検討されてよい。

 

第二に、新興国の政治経済についての報道量を増やすことだ。日本のメディアに特にいえることだが、コロナ報道が、日本国内と欧米主要国の感染状況に集中しており、中東やアフリカ、(中国を除く)アジア、中南米など新興国の感染状況の報道がそもそも少ない。同様に、コロナによる新興国の政治状況や経済影響についての報道も少ない。

 

第三に、援助・投資を通じて圧力をかけることだ。国際機関や先進国が援助・投資を行う際に、条件として強権化に対する是正を求めることが重要になる。一方で、経済制裁を強めれば、相手国の一般国民の経済生活を直撃することになりかねない。コロナで疲弊した一般国民をさらに追い込むような対応は避けるべきだ。

 

以上、ネガティブな内容が続いたが、ペスト禍収束後に人口が減少した労働者や農民の賃金が上がり近代への道が開かれたり、ナチスの惨禍を経て国際的に平和や人権問題の重要性が認識され、国際機関の活動が活発したり、歴史を振り返れば、大きな惨禍は人類社会を前に進めてもいる。

 

今こそ一人ひとりがこのような歴史に学び、次のステップに行くための判断を間違えないようにしたい。

【8月21日 山中 俊之氏 JBpress】

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****コロナへの恐怖、強権国家の呼び水に 試される民主主義****

 経済成長を続ける東南アジアは、一方で「未成熟な民主主義」と指摘される国も少なくない。野党が解党に追い込まれたり、政権を批判するジャーナリストが有罪判決を受けたりし、新型コロナウイルスの感染拡大も政治の強権化に拍車をかけている。

 

米政府の代表などとして長年、アジアの民主化に携わってきた、全米民主研究所(NDI)のデレク・ミッチェル所長に現状を読み解いてもらった。(中略)

 

 ――東南アジアで民主主義が後退しているという指摘があります。

 「民主的な権利や自由を一部の権力者が消し去ろうとしている。タイの(軍事政権下でつくられた)現行憲法ができた過程は不透明で、人々の意思を反映していない。

 

カンボジアでは実質的な一党支配のもと、野党党首が裁判にかけられるなど強権的な政治が続き、人々の政治への参加の道が狭められている。フィリピンでは『薬物対策』の名目で(政府に批判的な)メディアへの弾圧が横行している」

 

 ――一方、「混乱につながる民主主義より安定した政治の方がプラスだ」という主張を受け入れる人々もいます。

 「銃を持った権力者に『安定と発展を与える』と言われれば、『まあ、いいか』と思う人もいるかもしれない。ただその『安定』はどのくらい続くのか。数十年前に東南アジアの中心だったミャンマーは軍政を経て他の国に大きく遅れた。タイでは2014年のクーデター後、経済成長が鈍化している」

 

 「透明性と人々の参加が必要な民主主義は、人々の声を反映し、常によりよい方向に修正しながら進む仕組みだ。独裁的な政治では、踏み外した道から戻れなくなる」

 

 ――新型コロナウイルスの感染拡大を「口実」に政治がさらに強権化し、国民への干渉を強める例も目立ちます。

 「タイではコロナ対策として何度も『非常事態宣言』が延長されている。『安全のため』を理由に集会の規制を可能にし、政府に反対する個人や野党が批判の標的にされた。問題は、それが感染防止に本当に必要なのかが十分検証されていないことだ」

 

 「社会が危機に陥ると民主主義が機能しなくなることは多い。人々は恐怖のあまり、『強い権力』を求めがちになるからだ。かなりの強制力をもった規制をした国で感染拡大が抑えられているのは事実だが、必要性の検討なしに、多くの人々の自由を制限し続けるのは正しくない」(後略)【8月9日 朝日】

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【国際政治安定化のために必要なワクチン供給における途上国への配慮】

政治・経済的な基盤の弱い途上国が強権支配やポピュリズムに落ちていかないために重要な現実的課題がワクチンの安定供給でしょう。

 

すでに先進国などにより囲い込み合戦・争奪戦が展開され、資金力のない途上国がはじき出されていることは、これまでも取り上げてきました。

 

排除された国々において、どのような不満・批判が噴き出すかは想像するだけで恐ろしいものがあります。

 

このワクチン供給において、国際協力で途上国が排除されないような仕組みを作っていくことが、世界のあちこちに感染源を残さないコロナ対策としても、また、世界の政治的安定のためにも不可欠でしょう。

 

****ワクチン共同出資枠組みに関心 Gavi、米中除く173カ国*****

途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」のセス・バークレー事務局長(63)は20日、新型コロナ感染症のワクチン開発に各国が共同出資する枠組みに、これまでに日本を含む173カ国が関心を示したと明らかにした。

 

感染防止の「穴」が生じないためにも「全ての国に参加を促したい」として、まだ意向を示していない米国や中国にも参加を呼び掛けた。

 

枠組みは「COVAX」と呼ばれ、WHOやGaviが主導。出資金は複数の製薬企業のワクチン開発に利用され、開発が実現した際に、参加国が人口の少なくとも20%分のワクチンを確保できる。【8月21日 共同】

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世界をリードする立場にあるアメリカ・中国がまだ意向を示していないというところが重要なところです。

 

アメリカ・トランプ政権は「アメリカ第一」で、他国のことなど眼中にないのでしょう。

中国は、「マスク外交」のような「ワクチン外交」を独自に展開することで、自国の存在感を強めることを狙っているのでしょう。

 

【社会 在宅勤務対応の可否が深める格差】

コロナ感染が社会生活に与える影響のひとつがテレワークなどの在宅勤務の拡大です。

 

先日のTV放送によれば、日本でも都心をはなれて郊外や、場合によっては別荘地などに生活の拠点を移す動きがみられるとか。

 

そのことはそうした対応ができない人々との間の格差、安全で高報酬の仕事と危険で低賃金の仕事の格差を深刻化させることも考えられます。

 

****在宅勤務普及が米国の格差助長する恐れも、専門家が警告****

サンフランシスコ地区連銀が20日に開催した将来の働き方についてのパネル討論会で、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う在宅勤務の広がりによって、米国社会の格差が一段と拡大しかねないとの意見が専門家から出た。

新型コロナの感染がなお拡大している中で、現在米国の労働人口のおよそ4割が在宅で勤務している。各種調査ではパンデミック収束後も少なくとも部分的に在宅勤務の継続を望む声が大半で、アトランタ地区連銀の最近の調査では企業側もそれを想定している。

ただスタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授は、在宅勤務従事者はそうでない働き手に比べて大卒者の割合が5倍に上ると指摘した。

一方でブルーム氏は、別のおよそ3割は対面で仕事を続けており、彼らの職種は比較的低賃金で、勤務中ないし通勤中に新型コロナウイルスに接触してしまう危険があり、残りの3割は失業もしくは休職状態で、せっかくの技能や仕事上のつながりが失われて将来低い賃金しか得られなくなりかねないと説明。「在宅勤務化は格差を大幅に増大させるリスクがある」と警告した。

これに対してソフトウエア開発プラットフォーム運営会社Github(ギットハブ)のエリカ・ブレシア最高執行責任者は、在宅勤務ができるようになったことでビジネスは「これまでよりずっとinclusive(さまざまな人の技術や経験を活用できる状態)」になったとの見方を強調した。

ブレシア氏によると、家事などの合間に柔軟に働ける環境により、それまで仕事に就けなかった人を雇えるようになっている。ギットハブはパンデミック以前から、在宅勤務制度を導入済みという。【8月21日 ロイター】

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ギットハブの話は、ソフトウエア開発という特殊な技能を持つ人々に関しての話でしょう。

問題は、そういう人々の需要に応じて食事などを自宅に配送するサービスに従事する人々など、対面で低賃金労働を余儀なくされる人々の存在でしょう。

 

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新型コロナ対策としてのスマホによる接触追跡 異次元の監視社会へ突入する入口か

2020-05-01 22:45:31 | 民主主義・社会問題

(香港のデモ参加者は身バレ防止にマスクをつけるが、逮捕者が相次いでいるという。【4月16日 PRESIDENT Online】)

【感染拡大抑制に役立つスマホアプリの世界的な開発競争】
新型コロナ対策として各国がスマホを活用した接触追跡に乗り出していることは周知のところです。

****コロナ感染経路、スマホ使った「接触追跡」の最前線****
新型コロナウイルスの感染経路を把握し、感染拡大抑制に役立つスマートフォン・アプリの世界的な開発競争が展開されつつある。 
 
スマホアプリの2大メーカーであるアップルと、アルファベット子会社グーグルは前週、感染者の近くにいた人を見つけ出して本人に通知することができるアプリを共同開発すると発表。「コンタクト・トレーシング(接触追跡)」と呼ばれる技術への注目が高まるきっかけになった。
 
◎携帯端末を新型コロナ対策に使う方法 
スマホや一部の携帯端末は、基地局やWiFi、GPS(全地球測位システム)などを介して、位置情報を送り続けている。スマホの場合、近距離無線通信技術のブルートゥースで近くの端末と接続もできる。 

こうした位置情報は、個人もしくは集団が外出禁止命令を守っているかどうか、監視する手段となり得る。また、ウイルスを保持する人と接触したかどうかを見極め、検査や隔離の必要性を判断することにも使える。 

スマホのメッセージ機能を利用すれば、体調の聞き取りをしたり、位置情報や身体データを通じた健康状態の「点数化」をしたりすることも可能だ。 

◎スマホを接触追跡に役立てるには 
ブルートゥースを用いると、スマホは近くにある他のスマホを識別する。感染者が出た場合、その感染者に近づいたスマホからの識別情報が記録されリスト化されているために、そうしたリストにあるスマホが、持ち主に検査を受けるよう、あるいは自主隔離するよう通知する。 

基本的には、スマホを使った接触追跡は、多くの人手を使って患者の渡航記録を聞き取り、さらに接触者に電話したり戸別訪問したりする従来の手法よりも効率的だ。 

しかし、ブルートゥースは到底、完璧な対策とは言えない。この技術は、咳をされても特に問題ないような15フィート(約4.5メートル)の距離があったり、近距離でもあっても壁を挟んでいたりする場合でも、スマホに記録が残ってしまう。

それでも開発者らは、スマホ同士がいわゆる握手できる距離に近づいたことを正確に判定することが可能になる方法を目指し、鋭意努力しているという。 

ブルートゥースは、都会の雑踏のほぼ全員を接触者とみなしてしまいかねないGPSや基地局のデータに比べれば、精度は高い。 

◎これらの方法は今使えるか 
シンガポールが世界に先駆け、ブルートゥースを利用した接触追跡アプリ「トレース・トゥギャザー」を開発した。強力な政府の監視システムを感染追跡に転用すると表明して話題になったイスラエルも、「ザ・シールド」と呼ばれるアプリを持つ。また、インドも接触追跡アプリを保有している。 

韓国は位置情報データを駆使して接触追跡をしており、台湾は位置情報を隔離の強制に使っている。中国はアプリに基づくさまざまな追跡システムを導入しつつある。 

こうした取り組みは、政府系調査機関や公衆衛生当局が主導して世界中で進んでおり、欧州連合(EU)はドイツが音頭を取って加盟国が接触追跡のプラットフォーム開発で足並みをそろえることを目指している。いくつかの欧州諸国は、これと別に独自のアプリ開発も手掛けており、英国も開発作業中だ。 

米政府はまだ、アプリ開発を進めていないものの、少なくとも2つの大学の研究グループと、ある特任ソフト開発チームが州や自治体から公認を得ようとしている。【4月18日 ロイター】 
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こうした手法は、別の見方をすれば、国家による国民の行動監視技術が確立されたということにもなります。

上記記事で多くの国の名前があがるなかで、日本の名前が出てこないのはなぜか?
技術的な問題か? それとも、こうした手法に対する拒否感が強いのか?・・・と思っていたら、日本政府も他国にならい、感染者が接触した人々を洗い出す携帯アプリを5月上旬から導入するようです。

【「監視社会と言われればそうかもしれないが、得る物も多い」】
上記の国々のなかで大きな成功を収めたとされているのが韓国。
一方で、その「監視」側面への警戒もあります。

****仏出身の文明評論家「韓国は監視が厳しい社会」=韓国ネット反論****
2020年4月29日、韓国・朝鮮日報は、フランス出身の著名な文明評論家であるギ・ソルマン氏が、韓国の新型コロナウイルスの防疫対策を評価しつつ、「韓国は監視が厳しい社会」と指摘したと報じた。 

ソルマン氏は、韓国では、李明博(イ・ミョンバク)政権時代、政府の国際諮問委員を務めたほか、度々訪韓している「知韓派」でもあるという。 

ソルマン氏は、フランスの時事週刊誌「ル・ポワン」とのインタビューで、韓国の防疫対策について「最高の結果を出した」とし、「選別的な隔離措置という隙がなく厳格な対策で、感染者数の割に死者が少なかった」などと評価。

「集団感染が確認された際は全員を検査し、重症患者は入院させ、それ以外の患者は施設で隔離させるという措置を取ることにより、社会全体を封鎖することを回避できた」などと語ったという。 

一方、携帯電話の位置情報を収集し、感染者の移動履歴を追跡した対策については「韓国人はこれを受け入れたが、それは韓国人が非常に監視された社会で生活しているからだ」と指摘。

携帯電話の位置情報による行動の追跡が、私生活と個人の自由を侵害するとして拒否感を示すフランス人は多いといい、ソルマン氏は「非常に監視された社会」との表現を用いて、不快感を示したという。 

これに、韓国のネットユーザーからは「感染者を追跡することは、都市を封鎖したフランスよりも、はるかに賢明な判断だったと思う」「感染者の行動経路が把握できなければ接触者の隔離や訪問先の消毒も難しくなる」「監視社会と言われればそうかもしれないが、得る物も多い」「感染者の行動履歴の把握を監視うんぬんと言うのは間違いだ」「韓国人は社会に監視されていると感じたことはない」などと、ソルマン氏の指摘に反論する声が多く上がっている。 (後略)【5月1日 レコードチャイナ】
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【新型コロナウイルスへの対策を口実に、国民を完全な統制下に置くことまで目指されてもいる】
問題は、新型コロナ対策としてのスマホによる「接触追跡」導入によって国民の行動監視が可能となり、その「うまみ」を経験した国家が、感染終息後にこうした「監視」を放棄するのか? といったところでしょう。

国民の側も、いったん「新型コロナ対策」として受入れ、その実用性を認識すれば、こういう「行動監視」システムへの抵抗感は薄れます。

更に言えば、ポスト・コロナの「行動監視」を視野に入れて、現在の「感染防止」対策が作られているのでは・・・といった懸念も。

****ロックダウンでスタートする完全監視社会? ロシア・モスクワの場合****
(中略)
感染者の行動監視のためにスマホアプリを開発。だけど…
まず、モスクワ情報技術局(DIT)のEduard Lysenko局長は、このほどラジオ番組において、感染者の行動を監視すべく、スマートフォンアプリを開発したと説明。

表向きは、これ以上の感染を防ぐため、市民を守る目的と語られたのですが、実際に初期バージョンの同アプリを検証した専門家から、明らかに違法な監視ツールだと非難されています。

ただ位置情報を把握するだけのはずなのに、同アプリからは、ユーザーの連絡先などの個人情報が筒抜けとなり、勝手にスマホの設定を変えたり、カメラを操作して監視可能になっていたそうですね。

おまけに、開発に何千万円も注ぎこまれたわりには、セキュリティレベルは非常に脆弱で、暗号化されることなく、各種データが海外のサーバまで送られかねないんだとか。

全市民にID発行
さらに、この監視アプリに加え、モスクワでは、全市民に個別のQRコードのIDを発行予定。このIDなしに、薬局や買い物、近所の散歩であっても、勝手に出歩けば罰金刑や懲役刑を科すという厳しい内容のようです。

どうやらロシアでは、海外の影響力を排除して、閉じられたインターネット社会を築き、国民を完全な統制下に置くことまで目指されてもいるみたいですが、新型コロナウイルスへの対策を口実に、その流れが加速していきそうな勢い。

いまや街頭の監視カメラからショップの買い物履歴、アプリにID管理まで組み合わせ、誰がどこで何をしているのか、すべて掌握しようとの狙いのようです。

アプリはいったん配布中断に
なお、さまざまな問題点を指摘された監視アプリは、ひとまず配布が中断され、いま初期のフィードバックをもとに、さらなる高い完成度を目指しつつ、開発に磨きがかけられているそうです。(後略)【4月8日 GIZMODO】
********************

【政府もビジネスサイドも導入できないまま、そのチャンスをうかがっていた。コロナ下で監視のレベルが異次元に突入】
ロシアのように、感染防止を名目に、「監視社会」への扉が開かれるのではないか・・・という疑念・批判があります。

****新型コロナにケータイが効く? ビッグデータという名の私の情報が使われる****
新型コロナウィルス(COVID-19)が広がる世界で、スマートフォンを使った「感染拡大防止策」が次々に実施されている。日本政府も、感染者が接触した人々を洗い出す携帯アプリを5月上旬から導入すると発表した。

「これは安心」とあなたは思っているかも知れない。けれど、これが前代未聞の個人監視プログラムなのだ。保健医療対策に、携帯電話を使って個人の行動を監視するという新奇な発想は、まさにビッグデータ時代のパニックの申し子として、ウィルス以上の速さで地球上に拡散している。

まず、先に感染が広がった中国、韓国、台湾などで、政府がスマホの位置情報を利用し始めた。(中略)

続いて感染者が急増した欧州、イギリス、アメリカも、官民共同でブルートゥースを使ったデータ収集アプリの開発に着手している。(中略)日本政府が計画している携帯アプリも、これとほぼ同じ仕組みだ。

緊急事態はビジネス・チャンス 
多くの政府が、検査の受けにくさや、病院のベッド、医療従事者の防護服の不足など、保健医療体制のお粗末さを露呈するなかで、携帯監視プログラムが救世主とばかりに登場したそのスピードは、驚くばかりだ。なぜだろうか?

私はデジタル監視技術について20年以上取材・研究を続けてきたが、コロナ下で監視のレベルが異次元に突入したことは間違いない。

これに匹敵するのは20年前の9.11で、あのときはアメリカ政府が「テロとの戦い」を掲げて、ほとんど地球上の全員を潜在的に「テロリスト」とみなす監視政策を始め、空港での指紋採取・写真撮影などがその後の国際的スタンダードになっていった。

今回のコロナ対策でも、ほとんどすべての人々を潜在的「感染者」とみなして特定、追跡しようとするところがよく似ている。

9.11後の監視拡大が私たちに教えたのは、監視技術はそれ以前から準備されていたということだ。例えば指紋や顔認証といった生体認証技術は、通常では(少なくとも20年前は)人々の抵抗感が強いため、政府もビジネスサイドも導入できないまま、そのチャンスをうかがっていた。

 9.11で人々がショック状態に陥っている間に、アメリカ政府は「愛国者法」を成立させ、その拡大解釈によって、秘密裏に市民の携帯電話やメールを大量に監視してきたことを、エドワード・スノーデンは2013年に告発した。

カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインは著書『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』で、対テロ戦争がセキュリティ産業を急成長させ、デジタル監視を戦場だけでなく、日常にも押し広げてきたことを指摘している。

そして今、コロナ「感染拡大防止」をうたい、携帯監視が登場した。個人を尾行するような技術はあまりにプライバシー侵害的でこれまで表に出しにくく、普段なら政府や企業が必死に否定する秘密の機能だ(スノーデンの告発を受けたグーグルやアップルが監視活動への協力を否定したように)。

が、官民共同の監視プロジェクトは今や大義名分を得て表舞台に登場し、この機会に市民権を得ようとしている。

20年前と違うのは、IT企業、データ産業、アプリなどを開発するスタートアップ会社がビジネスとして巨大化していることだ。

日本でも緊急事態宣言に経済界からの要望が強かったことを、思い出してほしい。政府は「感染対策」と言うけれど、その背景には強い商業的な動機があり、ウィルスへの恐怖をテコにした監視の強力な売り込みの嵐のただ中に、私たちが立たされていることは、知っておいた方がフェアだろう。

クラインは今、こうした新たなショックと不安を商機にした「コロナウィルス資本主義」に警鐘を鳴らしている。

ビッグデータは個人情報
私たちは、パソコンや携帯電話を通じてデジタル・ネットワーク上に様々な「電子の足跡」を残している。メールやチャットはもちろん、インターネットの検索や閲覧、ビデオの視聴や通話、ゲームの利用など、デジタル通信機器を介する行為はすべて記録されている。

携帯はどこからでも通信網に接続するために、自分の位置情報を発信している。これら膨大な個人情報がビッグデータと呼ばれている。

政府はこのビッグデータをコロナ対策に使おうとしているが、これは通信を扱っている企業の手を借りなければできない。

大手IT企業にとって政府は取りっぱぐれのないお得意様なので、「やってる感」と「スピード感」を出したい政治家に技術を提供する。

だが、これが本当の解決につながるかは、また別の話だ。対テロ戦争下で広がった監視が、世界をちっとも安全にしなかったように……。

官民が一体となってデジタル監視に着手することで、政府と民間に別々に保存されている個人情報をリンクしていく道も開ける。

個人情報は現在、あらゆるマーケティングに利用されるので、このうまみは企業側にとって将来的に非常に大きい。企業が、政府が、私たちの個人情報を見て、どんなうまみがあるのか――については、連載の回を追って明らかにしていきたい。

しかし覚えておいてほしい。私たちが使う携帯電話やパソコンから産み出されるビッグデータは、れっきとした個人情報なのだ、と。

自分のオンライン上の会話や行動をすべて実名で公開されてもいい、という人はあまりいないだろう。だからプライバシーや通信の秘密が多くの国で憲法上保障され、日本もそうした国々のひとつだ。

本人の同意を得ずに政府が個人の通信にアクセスできるのは犯罪捜査のときだけで、警察は理由を明らかにして裁判所から捜査令状を取る必要がある。

この盗聴捜査の手法がコロナ対策になし崩し的に使われ、不特定多数の人々を取り込んでいくことは、民主主義のルールが掘り崩され、だれもが犯罪者のように扱われていく、ということでもあるのだ。 (後略)【5月1日 小笠原みどり氏 GLOBE+】
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【ひとつの近未来事例、香港】
国家が国民の行動監視を行うようなったら、どういう社会になるのか?
その一つの事例が香港の今。

****恐怖のデジタル監視社会!「なぜ香港の若者がスマホを捨てるのか」****
 市民の居場所は全部ばれています 

2019年3月から続く「逃亡犯条例改正」への反対に端を発した香港のデモ。“中国化”に反対する抗議運動に発展し、人口700万人の香港で200万人(主催者発表)もが集い、中学生から大学生まで若者たちが声を上げる。その裏でデモ参加者と警察との「デジタル攻防戦」が起きている。

そもそも、ほとんどのデモは違法行為とみなされているため、参加者はマスクやサングラスで顔を隠し、身元の特定を防いでいる。それでもなぜか、逮捕される人が相次ぎ、半年間で6000人を超えている。

理由の1つに、香港当局がデモ参加者をデジタル追跡しているからだといわれる。発端は19年6月11日、通信アプリ「テレグラム」で2万人が参加するチャットグループの管理人が自宅で逮捕された出来事だ。警察が携帯電話をたどって本人を割り出したと報じられている。

デモ参加者の間で広がる「デジタル断ち」
そんな中、デモ参加者の間では「デジタル断ち」と呼ばれる行動が広がる。デジタル空間での痕跡を最小限にする取り組みで、電子マネーの利用もやめ、現金での生活に戻すようになっている。(中略)

デジタル追跡によって逮捕していることは、当局は公式に認めているわけではないが、香港中文大学のロックマン・ツイ助教授はこう話す。「警察は裁判所の命令なしに通信会社からデータを提供させているとみられます。企業が集めたデータを使って市民を逮捕できるようになっているのです」。

しかし香港の若者たちは、日本以上にデジタル漬けだ。携帯電話の普及率は280%を超え、ネットなくして日常生活は過ごせないとさえ言われる。

そもそも肝心のデモの情報もSNSを通して参加者間で共有するため、デジタル痕跡を100%消すことは不可能。私はその苦しいジレンマを目撃した。(中略)

便利さと引き換えに積み上げられていく膨大なデジタルデータに、現実の人々がのみ込まれる世界が始まっていた。【4月16日 PRESIDENT Online】
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新型コロナがもたらす社会変化 強い指導力と国民監視の強権支配体制か?

2020-04-15 23:28:34 | 民主主義・社会問題

(【2017年4月13日 CITY WATCH】 トランプ大統領の専制君主のような言動への批判は今に始まった話でもありませんが・・・)

【14世紀ペスト大流行は欧州に「自由」をもたらした】
新型コロナの世界的感染拡大、特に欧米社会に対する強烈なダメージは、中世ヨーロッパにおけるベスト(黒死病)の大流行への注目を惹起しています。

数字はいろいろあるとは思いますが、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したとも推計されています。

大規模な疫病は社会の変質をもたらしますが、14世紀欧州を襲ったペスト大流行は「自由」をもたらすことにもなり、その後のルネサンスや自由経済を生み出すことにもなったようです。

****感染症による社会の変質を考える 東京大学入試問題から****
(中略)感染拡大が続く新型コロナウイルス。緊急事態宣言が出るなど私たちにとっては未曽有の事態となっているが、歴史をひもとくと、世界規模の感染症の流行は何度も起きている。

 ■ペスト後にめばえた「自由」の数々 受験世界史専門塾代表・ゆげひろのぶさん
14世紀にパンデミックを起こし、黒死病と呼ばれたペスト。大航海時代に欧州とアメリカ大陸で交換されたと言われる天然痘と梅毒。ベンガル地方の風土病が、英国の覇権拡大で世界に伝搬したコレラ。第1次世界大戦の終戦の一因にもなったスペイン風邪……。感染症が大規模に流行するたびに多くの人命が失われました。

一方、感染症は、歴史の教科書に載っている様々な出来事のきっかけにもなっています。
 
「ペストは近代の陣痛」という言葉があります。ペストの流行が、暗く息苦しい中世から明るく自由な近代への転換をもたらしたという考えです。(中略)

中世の西ヨーロッパは神に対して敬虔(けいけん)でした。ところが人口の3分の1がバタバタと死んでいく。そうすると「神様はいないのでは……」「どうせ死ぬなら好き勝手に」となります。

ペストが猛威を振るった14世紀に出された『十日物語』には、修道院長が露骨に性交を迫る場面があり、近代小説の始まりとされます。ペストは従来の価値観に大きな変化をもたらしました。これがルネサンスです。
 
次に経済的側面です。同じく中世の西ヨーロッパでは、農村は共同体でした。畑には柵がなく、みんなで働いて、領主に年貢を納めた残りをみんなで分け合いました。

しかしペストによる大量死は極端な労働力不足をもたらします。そこで領主は農民の労働意欲を上げるために、それぞれに土地を貸し出します。

すると農民たちは、麦を植えるか、豆を植えるか、羊を飼うかと、自分で考え行動し、その成果も失敗も自身が受け入れます。これが資本主義、自由経済の始まりです。経済面でもペストは自由をもたらしたのです。
 
問題から外れてその後の歴史を見ると、特にペストが深刻だったイギリスで資本主義が発展しました。その結果、強国となって、英語と資本主義を世界中に広げました。(中略)

こうした社会の変化はペストに限った話ではありません。コレラは飲み水を介して流行が広がったので、予防のために上下水道の整備が進みました。結核予防のため、空気の通りを良くする大通りなど近代都市のインフラが整備されました。
 
現代に当てはめれば、新型コロナウイルスによる外出自粛は、テレワークやネット授業を急速に普及させています。新たな感染症の流行は大きな脅威ですが、それがもたらす変化の側面も、私たちは熟考すべきかもしれません。(談)

 ■新型コロナ、地方分権進むか
(中略)ヒトに感染するコロナウイルスは7種類が報告されている。四つは通常の風邪を引き起こすウイルスで、残る三つが2002~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)、12年に出現したMERS(中東呼吸器症候群)、そして今回の新型コロナウイルスだ。

山本(長崎大学熱帯医学研究所)教授は「20年弱で新型が3度というのは異常な出現頻度だ」と言い、「無秩序な開発や地球温暖化による生態系の変化で、ヒトと野生動物の距離が縮まっている。巨大都市化をさらに進めるのか、それとも人口も含めた地方分権をするのか。今後の変化は我々の意識次第だろう」とみる。(後略)【4月15日 朝日】
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【新型コロナが助長するのは強権支配か?】
ペストは「自由」をもたらしましたが、新型コロナ対応では強権的な中国が危機を一応乗り切ったことで「成果」を誇っているのに対し、欧米民主主義国は対応に苦慮している現実もあり、危機対応と言う面で「強権的政治体制」のメリットを示しているという見方もあるかも。

また、感染防止対策としての「市民監視」が強化され、コロナ後の「監視社会」に道を開くことになるかも・・・という不安もあります。

****コロナ危機、ハラリ氏の視座 「敵は心の中の悪魔」****
新型コロナウイルスによる感染症の脅威に世界中がすくんでいる。私たちはどう立ち向かうべきなのか。人類史を問い直し、未来を大胆に読み解く著作で知られるイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんが電話でのインタビューに応じた。今まさに分かれ道にさしかかっている、と言う。(中略)

 ――ウイルスの感染拡大で、私たちはどのような課題に直面していると考えますか。
「世界は政治の重大局面にあります。ウイルスの脅威に対応するには、さまざまな政治判断が求められるからです。三つの例を挙げてみましょう」
 
「まず国際的な連帯で危機を乗り切るという選択肢があります。すべての国が情報や医療資源を共有し、互いを経済的に助け合う方法です。他方で、国家的な孤立主義の道を選ぶこともできる。他国と争い、情報共有を拒み、貴重な資源を奪い合う道です。どちらの選択も可能で、政治判断に委ねられています」
 
「また、ある国はすべての権力を独裁者に与えるかもしれない。独裁者がすでにいる場合もあれば、新たな独裁者が生まれる場合もあります。一方で、別の国では民主的な制度を維持し、権力に対するチェックとバランスを重視する道を選ぶでしょう」(中略)

強さ求める国民、慎重な政府
 ――独裁と民主主義のうち、どちらが感染症の脅威にうまく対応しているでしょうか。
 
「日本や韓国、台湾のような東アジアの民主主義は、比較的うまく対処してきました。感染者や死亡者の数は低めに抑えられています。しかし、イタリアや米国は同じ民主主義でも、状況ははるかに悪い」
 
「独裁体制でも中国は、うまくやっているように見えます。中国がもっと開かれた民主主義の体制であれば、最初の段階で流行を防げたかもしれない。ただ、その後の数カ月を見れば、中国は米国よりもはるかにうまく対処しています。

一方でイランやトルコといった他の独裁や権威主義体制は失敗している。報道の自由がなく、政府が感染拡大の情報をもみ消しているのが原因です」

 ――どちらの政治体制が望ましいとも言えないわけですか。
「現状では、独裁と民主主義が生む結果の間に明白な差はないようにみえます。しかし、長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できるでしょう。理由は二つあります」
 
「情報を得て自発的に行動できる人間は、警察の取り締まりを受けて動く無知な人間に比べて危機にうまく対処できます。数百万人に手洗いを徹底させたい場合、人々に信頼できる情報を与えて教育する方が、すべてのトイレに警察官とカメラを配置するより簡単でしょう」
 
「独裁の場合は、誰にも相談をせずに決断し、速く行動することができる。しかし、間違った判断をした場合、独裁者は誤りを認めたがりません。メディアを使って問題を隠し、誤った政策に固執するものです。これに対し、民主主義体制では政府が誤りを認めることがより容易になる。報道の自由と市民の圧力があるからです」(中略)

 ――市民への監視や管理を強めた中国の手法が成功例とされることは、どう考えますか。
「新技術を使った監視には反対しないし、感染症との闘いには監視も必要です。むしろ、民主的でバランスの取れた方法で監視をすることもできると考えます」
 
「重要なのは、監視の権限を警察や軍、治安機関に与えないこと。独立した保健機関を設立して監視を担わせ、感染症対策のためだけにデータを保管することが望ましいでしょう。そうすることで、人々からの信頼を得ることができます。たとえばイスラエルでは、警察による監視をすれば、少数派のアラブ人からの信頼を決して得ることができません」
 
「独裁体制では、監視は一方通行でしかない。中国では、人々がどこに行くのかについて政府は知っていますが、政府の意思決定の経緯について人々は何も知りません。これに対し民主主義には、市民が政府を監視する機能がある。何が起き、誰が判断をして、誰がお金を得ているのかを市民が理解できるなら、それは十分に民主的です」

 ――日本は私権の制限に慎重で、民主主義を守りながら対応をしています。しかし国民が不安に駆られ、より強い政府を求める声も出ています。
 
「政府に断固とした行動を求めることは民主主義に反しません。緊急時には民主主義でも素早く決断して動くことができる。政府からの情報を人々がより信頼できるという利点もある。政府が緊急措置をとるために独裁になる必要はありません」(後略)【4月15日 朝日】
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ユヴァル・ノア・ハラリ氏の議論はグローバリゼーション、国際協力体制などに及んでいきますが、そのあたりはまた別機会に。

「長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できる」とする同氏ですが、現実世界では、危機対応で強い指導力が必要・・・と、強権的政府がコロナ対策で「焼け太り」するような事例も目につきます。

****コロナで浮上する政府の権力濫用****
新型コロナウイルスへの対応には強力な指導力が必要である一方、それを悪用した権力の濫用、さらには統治権の全権委任などの独裁化が懸念される。

例えば、ハンガリーの新たな法案では、3月11日に出された非常事態宣言を無期限に延長し(終了は政府の判断による)、この間、政府に政令による新たな立法と既存の法律の停止を認める。更に、パンデミック対策を妨害していると認められる者、および偽りの情報を拡散していると認められる者には刑罰を課すことを可能とするものである。

政府は先例のないパンデミックの脅威に対抗するために必要な措置だと説明しているが、その内容は憲法の枠組みを逸脱するものと見られ、統治の全権をオルバン首相に委ねるものに他ならない。(中略)

ハンガリーのケースとは様相を異にするが、東欧やバルカンにはパンデミックを理由に(あるいは口実に)政府の規制権限を強化する動き、具体的には人々を監視する色彩のある措置を導入しようとの動きがあるようである。

スロバキアでは3月25日、感染した人の動きを追跡し自己隔離の要求に従っているかを確認する目的で通信会社の位置情報に保健当局がアクセスすることを認める法案を議会が可決した。これはシンガポール、韓国、台湾が採用した措置に倣ったものだと当局者は述べている。

ポーランドの首相は自己隔離を求められている人が本当に自宅待機をしているか確認するために「電子的解決策」を導入すること考えていると発言。セルビアの大統領はイタリアの電話番号を持っている人の行動を追跡していると述べた。
 
エコノミスト誌(3月28日号)の社説‘The state in the time of covid-19’は、パンデミック対策のため西側諸国が外出規制とビジネス閉鎖を行い、経済の下支えのために巨額の資金を投入し、更に韓国とシンガポールの例に倣えば医療と通信のプライバシーすら危うくしかねない状況を観察して、「これは第二次大戦以降で最も劇的な国家権限の拡大である」と書いている。

政府は果敢に行動せねばならない、しかし、危機に際して一旦手にした権限を政府は放棄しようとしないというのが歴史の教訓である。

「危機はより大きな権限と責任を持った永久に大きな国家、そしてそれを賄うに足る税金をもたらす」と社説は警告する。

その上で、社説は、最大の問題は監視(surveillance)の拡散であり、パンデミックが終わった後も監視を利用することの誘惑にかられることだと指摘する。
 
国民の行動を監視し、医療や行動のデータを収集することはパンデミック対策には有効であるに違いない。しかし、ハンガリーのケースは論外として、危機に際する緊急措置の恒久化を阻止すること、いわば政府の「焼け太り」を阻止すべくそれぞれの国民が注意を怠らないことが求められているのであろう。【4月15日 WEDGE】 
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アメリカでは経済活動の再開に向けて強い指導力を発揮したいトランプ大統領と、「大統領は、なんでも思い通りできる国王ではない」とするクオモNY州知事などが対立しています。

****トランプ氏は「国王でない」 経済再開めぐり州知事ら反発****
ドナルド・トランプ米大統領が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて停止している米経済活動の再開に向けて、国王に相当する権力を行使しようとしているとの批判を受けている。
 
再選をかけた11月の大統領選で苦戦が予想される共和党のトランプ氏は、世界最大の規模を誇る米経済をできるだけ早期に再始動させたい意向で、14日にはそのためのタスクフォースが発表される予定。

しかし米経済の屋台骨であるカリフォルニアとニューヨークの両州(いずれも州知事は民主党所属)は、トランプ氏に主導権を渡すことを拒み、独自の再開計画を発表しようとしている。
 
トランプ氏は13日の定例記者会見で「米大統領の権力は完全だ」と述べ、自身が州知事の決定を覆して再開日程を決定できると主張し、物議を醸した。
 
ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事は米CNNテレビに対し、「この国にいるのはトランプ国王ではなく、トランプ大統領だ」と反論。「彼が私の州の人々の公衆衛生を危険にさらす形での再開を命じたとしても、私は従わない」と表明した。
 
大統領選で民主党候補としてトランプ氏と対決する見通しのジョー・バイデン前副大統領も論争に加わり、自分は「米国王の地位に立候補しているわけではない」とツイッターに書き込んだ。 【4月15日 AFP】
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【国民が強制措置とその補償を国家に求める「依存」の指摘も】
一方、所得補償など、国民が国家に過度に依存する傾向を危ぶむ声も。

****新型コロナで肥大化する国家の危険度****
この2ヵ月間、世間の話題は新型コロナウイルスのことばかり。苦しいときの神頼みではないが、国家や政府に強制措置を取ってもらいたい。だが自分に何か強制するなら、損害の補償はしてもらいたい・・・こんな声が聞こえてくる。

そうした要求に押されて、先進諸国の政府は(日本を除き)市民の外出を取り締まり、金融市場への下支えなどで肥大する一方だ。

これがどのくらい後戻り不能で、専制政治への種をまいてしまったのか、検証してみたい。
 
まず民主主義。近代民主主義の中心地である欧州では、コロナヘの対応はまちまちで、ハンガリーのオルバン政権のように悪乗りして無期限の非常大権を手にした例もある。

だが西欧諸国では、今は警官が市民の外出を取り締まっても、いずれ民主主義体制に戻るだろう。いくつかの革命も経て、民主主義は彼らの精神に染み込んでいる。
 
問題はアメリカだ。秋の大統領選を見据えて、コロナ対策も政争の種になっている。民主党が予備選の一時停止を迫られたなか、トランプ大統領はコロナ問題についてと称して毎日長丁場の記者会見を実施。政敵や外国を非難して、選挙運動に使う始末だ。

コロナ問題が長引けば、トランプは再び非常事態を宣言して大統領選を延期し、無期延命を図りかねない。
 
そして中国は性懲りもなく、「ウチは政府が強権を振るったからコロナを退治できた」と強弁し、途上国に専制政治を薦めている。

こうしたなかで、日本も含め民主主義を維持できる国々は団結を強めるべきだ。例えばOECDのハイレペル会合を開き、各国の民主主義の状況を毎年レビューし、途上国に対しては上から目線ではなく、親身の支援を表明することなどができよう。

個人補償へのルール作りが必要
もう1つ気に掛かるのは、経済活動に対する政府と中央銀行の限りない関与増大だ。(中略)

アメリカでは一般市民でも金融資産、特に年金積立の多くを株式で保有するため、トランプにとって株価の維持と引き上げは再選に不可欠。国家が金融市場をのみ込み、バラマキの道具に使っているとも言える。
 
翻って日本でも、長期国債の約47%は日銀が保有し、上場投資信託(ETF)も日銀が現行から2倍となる年12兆円を買い上げる構えでいる。
 
さらに国家は、個人の所得補償に大々的に乗り出した。この数年先進国では、ロボットに職を奪われる労働者に対する国家による所得保障の是非が議論されてきたが、コロナで収入を失った人たちへの補償という形で、未来が一歩早く実現してしまった。
 
これは、台風や大地震で所得や財産を失った人たちにも国家補償を行うという発想にもつながる。日本経済の生産力と貯蓄の規模を考えれば可能性はある。

だが、「補償」の肥大化による国家資本主義が勤労意欲や経済効率を損なえば有害だ。災害時の個人補償については、その可能性とルール作りを進めるべきだし、個々の審査を迅速化するにはマイナンバーの普及などを通じて国民の所得をガラス張りにし、デジタル化することが不可欠になる。
 
コロナに打ちひしがれてはいけない。だが、政府への過度の依存も問題だ。官民のバランスを保ちながら、次の疫病を見据えた対策を整備する必要があろう。【4月21日号 河東哲夫氏 Newsweek日本語版】
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