孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナ対応を「好機」とするハンガリー・オルバン首相とイスラエル・ネタニヤフ首相

2020-04-05 23:32:08 | 民主主義・社会問題

(国会議員就任の宣誓式で16日、新型コロナウイルスへの対策で空席だらけとなった国会で式典に臨むネタニヤフ首相(右)とガンツ元参謀総長(手前)【3月21日 朝日】

【ハンガリー・オルバン政権の「行き過ぎた施策」に欧州懸念】
新型コロナの感染拡大は各国政府にとって大きな負担となっていますが、この機に乗じて支配権限を強化しようとすようにも見える動きも見られます。

****コロナ非常事態宣言の無期限延長可能に、ハンガリーに欧州各国が懸念****
ハンガリーが新型コロナウイルス対策の非常事態法で、首相の権限拡大や非常事態宣言の無期限延長を可能としたことに対し、欧州各国で懸念が広がっている。
 
民族主義のビクトル・オルバン首相率いる与党が権勢を振るうハンガリーの議会は先月31日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて非常事態法を可決。政府が新型ウイルス危機が収束したと判断するまで、無期限で非常事態の延長を可能にすることを含めた幅広い権限をオルバン氏に与えた。 
 
こにれ対し欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は2日、「特別な」懸念を抱いていると表明。同氏は、新型ウイルスの世界的な大流行(パンデミック)に対処するために、欧州連合加盟国は異例の施策を講じる必要があると認めつつも、「行き過ぎた施策があることに懸念を抱いている…特にハンガリーの状況を懸念している」と述べた。
 
今回可決された新法では、非常事態の延長に必要とされていた議会の承認が不要になる。また非常事態宣言の期間中は選挙を実施できない。さらに新型ウイルスや対策についての「虚偽」情報の流布には最高5年の禁錮刑が新たに導入され、「虚偽」の記事を発表したジャーナリストにも適用される可能性がある。
 
与党フィデス・ハンガリー市民連盟が3分の2を占める議会は、法案を賛成137、反対53で可決。非常事態法は31日の午前0時に施行された。
 
ハンガリー政府のゾルタン・コバーチ報道官は、「われわれは批判されているだけではなく、政治的な魔女狩りと組織的な中傷キャンペーンの対象にされている」と述べ、同法への批判を一蹴した。
 
一方、人権団体や報道機関、そして一部のEU加盟国はこのハンガリーの非常事態法について、過去10年にわたり同国を牛耳ってきたオルバン氏の権力掌握手段ではないかと懸念を示している。
 
1日には、EU加盟国のうちフランス、ドイツといった大国を含む13か国が「一部の非常事態措置の導入によって、法の支配や民主主義、基本的人権などの原則が侵される危険性について深刻な懸念を抱いている」とする共同声明を発表した。だが、ハンガリーを名指しはしなかった。
 
また2日には、欧州議会の中道右派政党、欧州人民党 に連なる各国内政党13党が、オルバン氏が党首を務めるフィデス・ハンガリー市民連盟を除名するようEPPに求めた。

また同じ13党は、欧州委員会に「ハンガリーの状況に強く対処するよう」求めた。この要求に署名した各国内政党の党首の中には、ギリシャとノルウェーの首相も含まれていた。 【4月3日 AFP】
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今回の措置が懸念されるのは、ハンガリー・オルバン首相の統治が強権支配で民族主義を重視する「非自由民主主義」を主張するという特異な性格を有しているからです。具体的にはロシアや中国的なモデルを念頭に置いているとも指摘されています。

非常事態法は、感染対策に必要なら根拠法がなくても特別措置を講じられる権限を政府に与え、国民が隔離政策に従わない場合、禁錮3年以下の刑を科したり、フェイク(偽)ニュースなど感染対策を妨げる情報を流した場合は禁錮5年以下の刑を科したりすることも規定しています。

しかし、オルバン首相は、自身に近い人物によるメディアの買収や、政権に好意的なメディアへの優遇などを通し言論への圧力を強めてきた経緯があり、非常事態法の下、メディアなどへの取り締まりが強まるとの懸念が国内の人権団体などから出ています。【4月2日 朝日より】

しかも、その期限は無期限で、政府が新型ウイルス危機が収束したと判断するまで。

ハンガリー・オルバン政権は、また一歩、異質な政治の方向に進んだようです。

【イスラエル・ネタニヤフ政権 「コロナ対策を口実に緊急命令を望むがままに出している。これは独裁と呼ばれるものだ」】
新型コロナの危機に乗じて・・・とは言わないまでも、危機が政権にとって“都合のいい”ものにもなっているのがイスラエル。

****何でもありかコロナ対策 市民を監視、都合悪い裁判は…****
新型コロナウイルス対策の名の下に、イスラエル政府が強硬な政治手法を使っていると批判が上がっている。

市民の携帯電話情報の監視、首相の汚職裁判の延期――。緊急事態ならば、政府にはどこまで異例の対応が許されるのか。

「緊急時命令」
そう題された公文書の存在が17日、地元紙で報じられた。文書にはこうある。「裁判所の命令なしに位置情報を受け取ることを認める」
 
イスラエル政府は17日、感染防止のために、治安機関が市民の携帯電話の位置情報にアクセスすることを特別に承認した。位置情報から、感染者が過去14日間に接触した人物を特定し、自宅隔離を求めることが目的だという。最も基本的なプライバシーの一つである、個人の行動履歴に関する重大な判断は賛否を呼んだ。
 
さらに問題視されたのは「国会無視」で措置を承認した手続きだった。本来は国会の小委員会で承認を得るはずだったが、野党の慎重論から16日に結論が出ず。これを受け、政府は国会を通さずに実行することを決断したのだ。17日午前1時半という決定時刻が、その異例さを物語る。
 
17日夜、ネタニヤフ首相は会見で「本日、新型コロナウイルスへの感染者と接触した人を特定するため、デジタル技術の使用を開始した」と宣言した。
 
イスラエルでは以前から、治安機関が携帯電話会社から市民の通信情報を入手してきたとされる。目的は「テロ対策」などに厳しく限定されてきた。今回の措置はその一線を越えた。イスラエル社会のなかには感染防止への効果を期待する雰囲気はある。だが、問題視する専門家は少なくない。
 
治安機関「シンベト」のアミ・アヤロン元長官は「我々はテロ防止以外の目的には情報を一切使ったことはなかった。それを国会の承認なしに拡大したのは問題だ」と話す。
 
アヤロン氏は、プライバシーに関わる決定をする場合には「政府への人々の信頼度が重要だ」と言う。「ネタニヤフ氏は汚職疑惑で起訴され、総選挙でも国民の半数の支持を得られていない。せめて野党も加えて決断を下すべきだった」
 
また、元検事総長のマイケル・ベン・ヤイール氏はフェイスブックにこう投稿した。「『命を救う』というのは、個人情報を侵害することを正当化する魔法の言葉にはならない」

首相の汚職裁判も延期に
イスラエルでは3月に入り、新型コロナウイルスへの感染者数が急増。ネタニヤフ氏は連日会見を実施し「これは戦争だ」と見えない脅威との闘いを強調。20日からは、食料の買い物など必要な場合を除く「外出禁止令」に踏み切った。
 
そんな中、ネタニヤフ氏は自らの汚職疑惑をめぐり、17日に初公判を迎える予定だった。だが2日前の15日未明、アミール・オハナ法相が感染対策として、緊急時を除く裁判手続きの停止を発表した。注目の初公判は5月に延期となった。

ネタニヤフ氏の苦境を避けるために感染対策を利用したのではないか――。裁判の延期は疑念を呼んだ。まさに政局は、選挙後に政権を争う重要な時期。オハナ法相はネタニヤフ氏に近い与党の議員だった。
 
イスラエルでは2日に総選挙があり、野党のガンツ元参謀総長が過半数の支持を得て組閣を試みている。ネタニヤフ政権はいわば「暫定内閣」の状況だ。国会も機能していない中での決定には「民主主義の手続きに反する」と批判が出た。
 
国会は16日に開会したものの、「10人以上の集まりを禁じる」という感染防止対策などを理由に、議会や各委員会は開かれていない。

次期首相の座を狙うガンツ氏は「緊急時だからこそ、国会を動かすべきだ。行政権だけが機能している現状は民主主義に反する危険な状態だ」と与党の振る舞いを痛烈に批判する。
 
「サピエンス全史」の著者として知られるイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は19日、ツイッターにこう投稿して話題を呼んだ。「ネタニヤフ氏は選挙で敗れた。そして、コロナ対策を口実に緊急命令を望むがままに出している。これは独裁と呼ばれるものだ」【3月21日 朝日】
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【コロナのおかげで政権続投も】
新型コロナ危機のおかげで、“与党の振る舞いを痛烈に批判する” 次期首相の座を狙うガンツ氏とも「合意」が成立し、政権続投への道も開けたようです。

****イスラエル・ネタニヤフ首相続投へ 新型コロナで反対勢力転換「緊急的統一内閣を」****
(3月)2日のイスラエル総選挙を受けて組閣を担当している中道政党連合「青と白」の共同代表、ガンツ元軍参謀総長は26日、これまでの「反ネタニヤフ首相」の方針を転換し、ネタニヤフ政権に合流する意向を示した。

この日の国会で、新型コロナウイルスへの対応のため「緊急的統一政府」を目指す必要があると強調した。ネタニヤフ氏の支持勢力が国会の過半数を確保する見込みとなり、首相続投の公算が大きくなった。
 
イスラエルメディアによると、今後はネタニヤフ氏とガンツ氏が交代で首相を務めるという。ガンツ氏のグループに有力ポストを割り振る形で連立協議が進むとみられる。
 
ガンツ氏は26日のイスラエル国会で、ネタニヤフ氏率いる右派「リクード」を中心とする右派・宗教勢力の支持を得て賛成多数で議長に選出された。ガンツ氏は、ネタニヤフ氏側への歩み寄りについて、「今は正常時ではなく、特別な判断を強いられた」と説明した。
 
ガンツ氏は総選挙後、定数120の過半数に当たる61人の野党議員から推薦を得て、リブリン大統領から組閣指示を受けていた。

「青と白」は収賄罪などで起訴されたネタニヤフ氏の退陣を求めていたが、ガンツ氏の方針転換を受けて分裂する見込みだ。ガンツ氏と共に共同代表を務めるラピド氏は「戦わずして降伏し、ネタニヤフ政権に潜り込んだ」と、ガンツ氏を非難した。【3月27日 毎日】
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ネタニヤフ首相にとっては、自身の裁判は延期になるは、政権続投は確保できるは、新型コロナは非常に好都合なものともなっています。

【ユダヤ教超正統派住民が感染源に 政治的影響は?】
そんなイスラエルで、興味深いニュースが。

****ユダヤ教「超正統派」居住区で感染拡大 集団礼拝やめず 大家族で“密集”し生活****
イスラエルのユダヤ教超正統派住民の居住区で、新型コロナウイルスの感染が深刻化している。礼拝を優先し、政府が呼びかける「不要不急の外出禁止」などの情報を信じない人が多いことなどが背景にある。

今後、大規模な集団感染を引き起こす可能性もあり、イスラエルのメディアは、超正統派にとって第二次大戦中のナチス・ドイツによる「ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)以降、最大の脅威」と警鐘を鳴らしている。
 
超正統派が集住する地域で深刻なのが、イスラエルの中心商業都市テルアビブに近い人口約20万人のブネイブラクだ。4月2日までに、人口約90万人の最大都市エルサレムとほぼ同じ900人以上が感染した。
 
イスラエルは建国時、国家統合のためユダヤ教の伝統を公的に守ることを約束し、超正統派に特別な地位を与えた。多くの男性が就労せずに宗教研究に没頭することを支援し、政府の補助金で生活する人も多い。

出生率は6・0前後と高く、子だくさんの家族が2世代、3世代とアパートに「密集」して暮らすケースもあり、こうした生活環境も感染拡大の要因の一つとみられる。

テレビやインターネットと距離を置き、政府や報道機関の情報よりも聖職者の言葉を信じる傾向もあり、政府がシナゴーグ(ユダヤ教会堂)での礼拝規制に踏み切った後も、超正統派居住区では礼拝が続けられていたという。
 
現地メディアによると、感染症の専門家は2日に国会で証言し、「ブネイブラクの潜在的感染者は、人口の約40%に上っている可能性がある」と指摘した。事実なら、現在判明している感染者の80倍以上に当たる。
 
当局は住民の検査拡大に努める。だが8〜15日のユダヤ教の祝祭「過ぎ越し祭」を前に、家族から隔離されることを恐れて検査を受けたがらない住民もいるという。(中略)
 
政府はブネイブラクを事実上封鎖し、特別な許可がない限り出入りを許していない。イスラエルは3月中旬にいち早く全世界からの渡航を原則禁止する措置を取るなど、厳しい防疫態勢を敷いている。4月4日現在、感染者は7500人以上、死者は41人に上る。【4月4日 毎日】
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宗教活動が「三密」状態をつくることで感染を拡大させることは、韓国やイスラム世界でも問題になりました。

イスラム国家におけるイスラム教への対応同様、イスラエルにとって国家の柱でもあるユダヤ教への対応は微妙なものがあります。

これまでも、イスラエル政治においてユダヤ教超正統派は微妙な問題を惹起する存在でした。
何度総選挙をやっても政権がスタートできないという状況も、保守派におけるユダヤ教超正統派への評価が分かれているせいでもあります。

****「超正統派」優遇 高まる不満 イスラエル、異例の再選挙へ****
今年四月の総選挙で勝利したイスラエルのネタニヤフ首相が組閣のための連立交渉に失敗し、異例の再選挙に持ち込まれた。

要因の一つは、ユダヤ教超正統派の兵役免除を巡る右派陣営の意見対立だ。

原則、国民皆兵制のイスラエルだが、超正統派の人口が増え、兵役を免れているなどの実質的な優遇措置が「負担の公平性」の観点から国民の不満を招いている。ユダヤ教国家と民主国家。二つの側面を持つイスラエルが抱える根源的な問題でもある。 

 ■ユダヤ教の伝統
もみあげを長く伸ばし、黒い帽子とコートを着た男性たち。エルサレムでよく見かける彼らは「ハレディム(神を畏れる人)」とも呼ばれる超正統派だ。

ユダヤ教徒の中でも、戒律を厳格に守り、教義の研究に日常をささげる。信仰の妨げになるため、多くが就労や納税をせず、インターネットを使うのも少数派だ。生活は補助金で賄われる。
 
イスラエルでは十八歳以上の男性は三年間の兵役に就く義務を負うが、超正統派が通う宗教学校生は免除される。第二次大戦でホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を経て建国された一九四八年、ユダヤ教の伝統的精神を守る目的で導入された。聖書を学ぶ時間を奪われる兵役に反対し、「聖書を究めることで、神がユダヤを守っている」と信じる。
 
当初は免除対象者が四百人にすぎない少数派だったが、超正統派は出生率が高く、一人の女性が出産する子どもは世俗派の二・四人に対して六・九人。九一年には人口の5・2%だったのが、二〇一七年には12%を占めるまでに。六五年には三分の一に達するとの推計もあり、国家財政の負担も増している。

 ■生活様式
こうした超正統派に対し、世俗派には不満が募る。政治評論家ハビブ・ゴール氏は「私にも信仰心はある。だが、子どもが(パレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織)ハマスとの戦闘の最前線にいる時、超正統派は家で聖書を読んでいると想像すれば、誰もが不公平を感じる」と漏らす。
 
一方、イスラエル中部に住む経営コンサルタントのヨセフ・クリチェリさん(50)は「古代ユダヤの考え方、生活様式は急に変えられない。兵役を強制するのは良くない」と理解を示す。信仰心が薄い世俗派が過度に増えれば、「ユダヤ人の国というアイデンティティーが失われる」と考える。
 
実際には、超正統派の中にも兵役に就く人たちが一定数いる。ただ、食べ物の戒律や男女別の徹底などの教えが軍の規律と合わず、「軍は頭痛の種になるから必要としていない」(ゴール氏)という面もある。

 ■政治的思惑
超正統派は人口増に伴って政治的な影響力も伸長。一四年に兵役を課す法律がいったんは可決されたが、超正統派の二政党がネタニヤフ連立政権に加わって骨抜きにされた。

一七年には最高裁が兵役免除を違憲と判断、一年以内に是正するよう言い渡したが、先送りされてきた。政治コラムニスト、アキバ・エルダール氏は「今や政界のキングメーカーになった」とみる。
 
四月の総選挙(定数一二〇)でも、二政党は計十六議席を獲得。連立交渉でリーベルマン前国防相の極右政党「わが家イスラエル」(五議席)が主張した免除廃止の法制化に反対した。

リーベルマン氏は「宗教の教えで運営される政権には参加しない」と表明。計六十五議席の右派陣営で組閣を目指したネタニヤフ氏だったが、極右政党の不参加で、過半数を得られなかった。(中略)

イスラエルの選挙は歴史的に、パレスチナ問題を争点に右派と左派が争う構図だったが、最近は国民の右傾化が著しくなっている。超正統派を巡る論争は、九月に予定される再選挙で主要な争点になるかもしれない。【2019年6月24日 東京】
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これまで、ユダヤ教宗教保守はネタニヤフ政権を支える存在でした。

今回のユダヤ教超正統派住民による新型コロナ感染拡大で、ネタニヤフ首相の対応に変化がみられるのか?
ガンツ氏との連立が合意されたら、政権維持のためにユダヤ教宗教保守に過度の配慮をする必要も消えそうですが・・・。(ガンツ氏の「青と白」は分裂するとのことで、どれほどが政権支持にまわるのかは知りませんが)

ユダヤ教超正統派への配慮を必要としなくなる・・・ということであれば、ネタニヤフ首相にとっては、これも新型コロナがもたらした「好都合」のひとつかも。

 

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新型肺炎対策で改めて認識された顔認証・ビッグデータ活用の有効性 個人情報保護とのバランスは?

2020-02-19 23:16:12 | 民主主義・社会問題

(中国・河南省鄭州市の鄭州東駅で、顔認証システムを備えたスマートグラスを装着した警察官(2018年2月5日撮影)【1月26日 AFP】)

【ビッグデータ利用で百貨店利用客2万人を割り出す】
新型コロナウイルス肺炎に揺れる中国からは、連日、(良くも悪くも)いかにも“中国らしい”と思わせるニュースが多々伝えられています。

ここ二日ほどだけでも・・・

“6日間でマスク工場建設へ 突貫工事開始 北京”【2月18日 NHK】
“家族でマージャンしてたら暴力的取り締まり、中国ネット非難”【2月19日 レコードチャイナ】
“マスク着用勧告に従わない男性を柱に縛り付け物議―中国” 【2月19日 レコードチャイナ】
“中国・湖北省の医療従事者、褒賞として子どもの試験で加点へ”【2月19日 AFP】
“中国、医療従事者の士気維持に躍起 殉職者は「烈士」認定”【2月19日 産経】

当局も感染封じ込めに必死ですから、なりふり構わぬ対応のなかで、“いかにも・・・”と思わせるものが出てきます。

(別に、脱線気味ながらも奮闘する中国当局を揶揄している訳ではありません。船内における十分な感染防止対策を取ることなくクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を最悪の集団感染の場としながら、いまだにその「失敗」を認めようとしない、何が起きているかも明らかにしない日本政府のお粗末さ・無責任さに比べたら、まだましでしょうから。)

突っ込みどころ満載のこうしたニュースのなかで、「うーん・・・」と唸ってしまったのが下記の記事。

****百貨店から感染拡大か 客ら2万人割り出し隔離 中国 天津****
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中国の天津では、市内にある大規模な百貨店から感染が広がったとして、利用客らおよそ2万人を自宅に隔離する徹底した対策が行われています。

中国メディアによりますと、天津の宝※テイ区にある百貨店では、先月31日に従業員の1人に新型コロナウイルスの感染が確認されたあと、利用客と従業員に相次いで感染が確認され、今月12日までに感染者が35人に増えました。

これを受けて地元当局は百貨店の従業員およそ200人全員を隔離したほか、地域の住民に百貨店を利用していた場合は報告するよう呼びかけ、さらに、ビッグデータを使いながら、担当者が地域の住宅を1軒ずつ回って、最終的におよそ2万人の利用客らを割り出したということです。

地元当局はこの2万人に自宅での隔離を求めたうえで、7人が発熱していることを突き止め、このうち5人は感染していないことが確認され、残る2人を確認中だということです。

天津では17日までに確認された感染者は124人で、このうち3人が死亡しています。

※テイは土偏に「抵」のつくり【2月18日 NHK】
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ビッグデータを活用しながら、百貨店の利用者2万人を割り出す・・・・この分野では世界最先端を行く中国ならではと言えるでしょう。利用者2万人を割り出すなんて、日本では到底真似ができないことです。

一方で、そうした割り出し作業において、個人のプライバシーなどはどのように扱われているのだろうか?という疑問も。
こういうことができるなら、当局がその気になれば何だってできてしまう社会なんだということを再認識する面も。

【プライバシーか、犯罪捜査などの効率性か】
こうしたAIを駆使したテクノロジーは「超監視社会」と呼ぶべき現象を現実のものにしつつあり、中国はその最先端にいることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

一方で、今回のようなケースを見せられると、その効力を認めざるを得ないところもあります。
監視云々は中国に限った話でもなく、そのメリットを前向きに評価すべきとする「幸福な監視社会」といった見方もあります。

あらためて、テクノロジーがもたらす二面性を印象付けた一件です。

****福音が呪縛か、中国が独走する顔認証システムの未来****
AI(人工知能)と監視カメラのテクノロジーとを融合させた「顔認証システム」が、いま世界で急速に広がっている。
 
監視カメラなどに映った不特定多数の顔の映像から個人を識別するこの技術は、世界各国の警察が有効なテクノロジーとして導入を進めている。犯罪捜査や犯罪抑止の点からは著しい効果が出ている。
 
その一方で、今アメリカでは、顔認証システムを巡って集団訴訟が提起され、物議を呼んでいる。顔認証システムが「危険」だと見られているのだ。
 
これから5G(第5世代移動通信システム)やIoT(モノのインターネット)、そしてAIの技術がますます発展していく時代に、日本でも本格的に導入される可能性がある顔認証システムについて、一体何が問題となっているのか考察してみたい。

都市部の「天網工程」と地方の「雪亮工程」
そもそも顔認証システムとは、監視カメラなどで拾われてパソコンなどに入力された人物の写真を、データベースに大量の顔写真を蓄積しているAIのシステムに照会することで、個人を特定するテクノロジーだ。

2021年までに世界中に10億台の監視カメラが設置されると言われているが、それには顔認証システムが一緒に使われることになる。使途は主に、強権国家による監視、本人確認業務の自動化、そして警察の捜査である。
 
監視のための顔認証はすでに世界各地で導入されている。有名なのは中国である。中国には今、国内に3億5000万台の監視カメラが設置されている。実に国民4人に対して1台の計算になる。さらに2020年のうちに、その数は6億台以上にまで増設される計画だという。
 
これらのカメラを駆使し中国政府は、都市部を徹底的に監視する大規模監視システムである「天網工程」や、地方を網羅するシステムの「雪亮工程」を導入している。

顔認証技術を提供しているのは、香港が拠点の商湯科技開発(センスタイム)だ。さらに監視カメラの世界シェアでトップクラスを誇る杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ)といったメーカーも顔認証プログラムを提供している。

中国は政府も国民も、西側諸国に比べて人権感覚が希薄なため、パスポートや免許など公的な書類の写真から、街中で集められる監視カメラ映像などまで、プライバシーなどお構いなしに、徹底して顔写真を集めている。そして皮肉なことに、それによって顔認証システムの精度がどんどん上がっており、世界をリードするようなテクノロジーの進化をもたらしている。プライバシーを尊重する欧米諸国ではできない芸当だ。
 
今世界で混乱を巻き起こしている新型コロナウイルスでも、この監視システムは「有効活用」されている。住民が武漢を訪問したあとに別の地域に移動すると、顔認証や車のナンバーなどから個人が特定され、当局から突然連絡を受けるというケースが報告されている。

特定された個人は、当局から「外出を控えるように」と命じられているのだという。さらに今回は、中国製のスマホアプリなども駆使され、個人がさまざまに紐づけられてウイルス対策に使われている。
 
中国はご自慢のこの顔認証システムを、わかっているだけで少なくとも18カ国に輸出している。ウクライナやアルメニア、UAE、シンガポール、マレーシア、パキスタン、スリランカ、ケニアなどだ。こうした国々も、中国のように国民を顔認証システムで管理していると言っていいだろう。

SNSから無断で顔写真を集めまくった米企業
顔認証には監視活動とは別の使途もある。本人確認作業などの自動化だ。日本では、空港で顔認証システムが導入されているところもあるし、2020年東京五輪でもNECの顔認証システムが本人確認で使われることになる。

欧州でも、2019年の欧州サミットでフランスが顔認証システムを活用しているし、ドイツでも導入が進められている。オーストラリアやニュージーランド、カナダなども取り入れており、導入する国は増え続けている。
 
また最近ではスマートフォンなどにも顔認証システムは使われている。インドでは、NECの顔認証システムを導入して、全国民にID(識別番号)を与えるための証明として使われている。それによって、これまでインドでは常識になっていた賄賂や搾取などの汚職が減少している。
 
そして今、冒頭で触れたようにアメリカで問題になっているのは、もう一つの用途である警察の捜査についてである。
 
2020年2月14日、イリノイ州シカゴの住民が、顔認証システムを提供している企業「クリアビューAI」を訴える集団訴訟を起こした。この企業、一般的な知名度はないが、治安当局にはよく知られた企業だった。

というのも、実に全米で600の法執行機関にシステムを提供しており、犯人などを追跡するのに非常に効果的だと評判になっていたからだ。その正確度も、98%以上だと言われている。
 
ところが問題は、同社の顔認証システムは、インターネット上のありとあらゆるサイトから、人の顔写真を拾い集めていたことだった。
 
現代では、一般のビジネスパーソンであっても会議や社内イベントの写真もどんどんアップされるし、メディアでの露出がある人もいる。さらにフェイスブックやYouTube、インスタグラム、ツイッターなどSNSでは、多くの人たちがプライベートな旅行やイベント、飲み会など様々な写真を公開している。

しかも、タグ付けなどで写真におさまっている人たちの名前がわかる場合も少なくない。

同社のシステムでは、そうした写真を勝手に30億枚も収集・蓄積し、写真を使ってAIですぐに個人を検索できるようになっていた。言うなれば、「顔のネット検索」を可能としていたのだ。

この顔認証システムは、捜査当局にはかなり重宝されている。例えば、インディアナ州では2019年2月にこんなケースがあった。
 
2人の男性が駐車場で喧嘩になり、一方が拳銃を持ち出して相手の腹部に向かって発砲。目撃者がその様子を写真に収めており、警察はその写真から発砲した男の顔を把握した。

警察はその顔写真をクリアビューAIのシステムに取り込み、検索をかけると、瞬く間に同一人物と思われる男が見つかった。誰かが以前にSNSで公開していた動画の中に、該当する男が写っていたことから、男が特定できたのだ。

しかもこの男、前科もないし運転免許証も持っておらず、政府には一切顔写真などのデータは存在していなかった。クリアビューAIのスステムがなければ、容易に逮捕はできなかったはずだ。
 
だが、このシステムが使えたことで、犯行が起きてからわずか20分以内に事件は解決したというのだ。
 
他にも事件解決に至ったケースは数多くある。児童への性的虐待が疑われた人物が、別の人がインターネットに公開したジムの写真の鏡に写っている人物とマッチしたために逮捕に至った、郵便物を盗んでいた犯人や路上で死んでいた身元のわからない男性もすぐに個人が特定された、監視カメラに映っていた泥棒のタトゥーを検索して犯人が判明した——などだ。

犯罪捜査に役立つことは間違いないが
確かに当局には便利なものだろうが、問題はその情報収集の仕方にあった。フェイスブックやツイッターなどから勝手に写真を集めるのは使用規約に違反している。そんなグレーな部分があることを承知していたから、システムを導入している当局もその事実を積極的には公表していなかった。

しかし、昨年末ごろからクリアビューAIについての記事がメディアで多く見られるようになり、それに伴って、シカゴのように訴訟にまで発展したというわけだ。
 
また、そもそも顔認証システムにはプライバシーの問題があるなどとして、警察による導入を禁止している自治体もある。米カリフォルニア州サンフランシスコ市が2019年5月に警察による顔認証システムの使用を禁じると、同州オークランド市も後に続いた。マサチューセッツ州サマービル市も同様の決定を下している。

さらに、有色人種を誤認しやすいという報告も出ており、人権問題にもつながるという指摘もある。また欧州でも同じような動きは見られ、欧州委員会も顔認証システムの禁止を検討しており、議論になっている。
 
こうした動きもあり、アメリカでは、2月12日に上院が規制や規範を作るまで警察による顔認証技術の使用を停止することを命じる法案を提出したし、ツイッターやグーグル、YouTubeは、クリアビューAIに対して写真の使用停止を求める文書を送っている。
 
一方で、顔認証による捜査は、世界でも導入検討が着々と進んでいるのが実態だ。フランスやドイツ、イギリス、オランダなどが導入予定であり、今後もその利用は広がる可能性が高い。すでに述べた通り、中国は米当局よりも大々的に、人権への配慮もなくどんどん顔認証データを集め、そのシステムを拡大させながら技術を高めている。
 
顔認証システムが導入されることで治安が良くなることは間違いない。犯罪は劇的に減るだろう。中国の顔認証システムを導入しているケニアでは犯罪率が46%も減少したとの話もあるし、インドでは顔認証システムで2930人の行方不明児が発見されているという。
 
プライバシーを重視するか、犯罪率の減少を求めるか——どちらを優先するかは、その国家の体制や、国民の価値観によるだろう。

まだ日本では、顔認証システムが警察に導入されていないが、今後、そういう議論は確実に高まってくる。その時までに、先んじて導入している国々で起きている議論などは注目しておいた方がよい。【2月19日 山田敏弘氏 JBpress】
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【中国でも広がる個人情報侵害への不安 しかし、対策はおそらく形式的なものへ】
“中国は政府も国民も、西側諸国に比べて人権感覚が希薄なため・・・”というのは事実でしょうが、中国でもプライバシーが全く意識されない訳でもなく、政府・社会の在り方に危機感を持つ人もおり、国民の関心も高まっているようです。

****中国、顔認証技術めぐり初の民事訴訟 国民に広がる個人情報侵害への不安****
中国では、空港やホテル、ネットでの買い物、公衆トイレに至るまで、顔認証技術が浸透しているが、法律を専門とする大学教授が昨年10月、顔認証技術の使用をめぐりサファリパークを訴えたことが分かった。

国内メディアによると、このような訴えは中国では初めてだという。この訴訟により、国内では個人情報の保護と侵害についての議論が高まっている。

中国政府は先進技術において世界のリーダーとなる政策を掲げており、その一環で顔認証技術や人工知能(AI)の商業利用や防犯などを手掛ける企業を支援している。

市民の多くも、これらの技術がもたらす利便性・安全性と引き換えに、ある程度の個人情報の放棄を認めているとの調査結果もある。

だが、指紋や顔認証による生体認証データの蓄積が進んできたことから、状況は変化している。
浙江省杭州にある浙江理工大学の教授である郭兵氏が、サファリパーク「杭州野生動物世界」を訴えたことに対する国民の反応は、法的予防策が整備される前に顔認証などの技術使用が拡大していることへの不安の表れだ。
 
中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」では、この訴訟に関連した投稿に1億以上のアクセス数があるが、多くのユーザーは、個人情報収集の禁止を求めている。こうした意見は、中国で金融詐欺や携帯電話番号の流出、フィッシング詐欺など、個人情報の侵害が横行している現状に一因がある。
 
裁判の日程は分かっておらず、郭氏の直接のコメントは得られなかったが、同氏は、自身の民事訴訟において、顔認証などのデータ収集は「それが流出するか、不法に提供または侵害された場合、消費者自身とその資産の安全性が簡単に脅かされてしまう」と主張している。
 
科学技術省は同省の広報誌で、サファリパークのやり方は性急かつ乱暴で、国民感情に無関心なことを表していると述べている。

■技術進歩の面では米国に大きく遅れている
中国ではいまだ個人情報に特化した法律が整備されていない。現在、法案化が進められているが、いつ導入されるか定かではない。
 
一方で政府は、先進技術による一大監視国家を築こうとしている。至る所に監視カメラが設置されているが、当局は犯罪対策と国民の安全を守るためには必要だと説明している。
 
個人情報保護に関する法律を導入した場合、政府が進める監視国家政策を妨げる可能性があり、個人情報保護法が成立したとしても、大きな変化はないのではないかと専門家らは指摘する。
 
北京師範大学の法学部教授で、亜太網絡法律研究中心の創設者である劉徳良氏は、「企業内に個人情報やデータ保護の専門家を配置するような象徴的な動きはあるかもしれないが、形式的なものにすぎないだろう」と述べている。
 
中国の新奇なハイテク技術を伝えるニュースは多いが、実際には、技術進歩の面では米国に大きく遅れており、中国が勝っているのは技術の広範囲な商業使用のみだとする専門家らの声もある。
 
中国の携帯電話でのインターネット利用者数は8億5000万人以上と世界最多で、企業にとって中国は、技術の実行可能性を探るための格好の実験場だ。
 
国内では、領収書の支払い、学校での出席確認、公共交通機関の改札の効率化、交通規則を無視して道路を横断する歩行者の特定など、さまざまな用途に顔認証が用いられている。

観光地によっては、トイレットペーパーの使用量を抑えるため、顔認証でトイレットペーパーを受け取れる仕組みの公衆トイレが設置されている場所もある。
 
だが、中国消費者協会の2018年11月の報告書によると、携帯アプリの90%以上が個人情報を、10%は生体認証データを過度に収集しているとみられている。
 
懸念が広がったのは、昨年12月に政府が通信事業者に対し、直販店で新しい電話番号を契約する顧客を登録する際、利用者の顔認証データを収集することを義務付けてからだ。

さらに、多数の顔認証データがインターネットで1件10元(約158円)ほどで販売されているという国内メディアの最近の報道も、そうした動きに拍車を掛けた。【1月26日 AFP】
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拡大する格差が生み出す社会不安・民主主義の揺らぎ

2020-01-26 22:01:46 | 民主主義・社会問題

(バングラデシュ首都ダッカを流れるブリガンガ川で、工業化学物質が入っていた袋を洗う男性(2020年1月9日撮影)【1月21日 AFP】)

【富の集中 拡大する格差】
若い頃に読んだ数少ない経済学関係の本のなかで、唯一印象に残っているのは市場経済の「効率」と「公正」を扱った本で(新書だったと思いますが、著者も書名も忘れました)、「市場経済は資源配分において優れた効率性を有することは認める。しかし、貧乏人の住む家が、隣の金持ちの家の犬小屋にさえ劣るということは受け入れがたい」といった趣旨の記述です。

別に「格差社会」云々を持ち出すまでもなく、現実には「犬小屋」にも到底及ばないことが、極めて普通・日常的・当たり前のことともなっています。

****世界の富裕層 上位2100人 46億人分より多い資産持つ****
世界の富裕層の上位2100人余りの資産を足し上げると、世界の総人口のおよそ6割に当たる46億人の資産の合計を上回ることが、国際的なNGOがまとめた報告書で明らかになりました。

世界の貧困問題に取り組む国際的なNGOの「オックスファム」は20日、スイスで開催されている「ダボス会議」にあわせて経済格差に関する報告書を発表しました。

それによりますと、去年の時点で10億ドル以上の資産を持つ富裕層2100人余りの資産の合計は、世界の総人口のおよそ6割に当たる46億人の資産の合計を上回っていたということです。

そのうえで、上位1%の富裕層が今後10年間、税金を0.5%多く払えば、介護や教育などの分野で1億1700万人を新たに雇うことができる金額になるとしています。

報告書は男女の経済格差に関連して、主に女性が担っている介護や育児などの無報酬の労働の価値は、年間で少なくとも10兆8000億ドルに相当すると推計しています。

そして、政府が介護などの分野に投資し、女性に適切な賃金が支払われるしくみを作るべきだと提言しています。

NGOの代表は「女性の無報酬の労働が経済の隠れたけん引役であることを知ってほしい。女性は適切な賃金の支払いを必要としている」と述べ、各国に格差の解消に向けた取り組みを求めました。【1月22日 NHK】
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“10兆8000億ドル”という金額はIT業界の生む所得の3倍以上で、オックスファム・インディアのアミタブ・ベハール最高経営責任者(CEO)は「経済の隠れたけん引役は実際は、女性が無報酬で行っている(他人の)ケアであることを強調する必要がある。この状況は変わるべきだ」と述べています。【1月20日 ロイター】

昨年は世界の各地で反政府デモが繰り広げられましたが、そうした現象の背景には「格差」に対する不満があると思われます。

「世界では30カ国以上でデモが起きている。デモ参加者は格差を受け入れるつもりはない、現在の状況下で暮らしたくないと訴えている」(前出オックスファム・インディアCEO)【同上】

似たような話はよく目にしますが、やはりオックスファムの報告によれば、アフリカではさらに富の集中が著しいようです。

****アフリカ大陸で富豪3人が富独占 6億人貧困層の資産合計を上回る****
国際非政府組織(NGO)オックスファムは4日までに、アフリカ大陸で上位3人の大富豪が持つ資産が全人口の約半数に当たる貧困層約6億5千万人の資産を合計した額を上回るとの報告書を発表した。

「アフリカでは富裕層の資産が増える一方で、極度の貧困も進行している。不平等が貧困撲滅の取り組みを台無しにしている」と批判した。
 
最も格差が深刻な国は南部のエスワティニ(旧スワジランド)で、同国の大富豪の推定資産は約49億ドル(約5200億円)に上る。大富豪が所有する企業の取引先レストランで働き続けた場合、この資産を得るのに約570万年かかるとした。【2019年9月5日 共同】
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アフリカで絶えない内戦・紛争、容易に拡大する過激な武装勢力・・・・そうしたものの背景に上記なような現実があるのでしょう。

そして多くの国で、不平等・格差は拡大する傾向にあるようです。

****世界の3分の2の国で所得格差が拡大 国連が報告書****
国連は、日本を含む先進国やアジア・アフリカ諸国など世界の3分の2の国で所得格差が広がり不平等が進行しているとする報告書を発表し、各国政府に対してデジタル格差の解消や社会保障の普及に取り組むべきだと勧告しました。

これは国連が21日発表したもので、1990年から2016年までの各国の所得水準の推移を見ると、欧米や日本など先進国の多くと中国やインド、それにアフリカ諸国の一部など世界の3分の2の国で格差が広がり、社会の不平等が進行していると指摘しています。

このうち途上国ではデジタル技術が教育や保健サービスの普及を促進した反面、インターネットの普及率が先進国の87%に対し19%にすぎないとして、デジタル格差が深刻だと分析しています。

地球温暖化の影響については、このまま進めば温暖化のリスクにもろい国や地域と、そうでない国や地域との経済格差を広げると警告しています。

そのうえで報告書は各国政府に対して、国際協力を通じたデジタル格差の解消や、社会環境の変化に対応した職業訓練への投資の拡充、それに誰もが受けられる社会保障制度の構築に取り組むべきだと勧告しています。

記者会見した国連のハリス事務次長補は「社会の不平等を緩和するため政府がまずすべきことは、すべての人が機会を得られるようにすることだ」と話しています。【1月22日 NHK】
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【若者・女性へのしわ寄せ まともな仕事に就く機会を得られないことが生む社会不安】
不平等のしわ寄せを受けやすいのが、経済的基盤が弱い若者や女性です。

****世界の若者22%が「ニート」状態 ILOが年次報告書*****
国際労働機関(ILO)は20日、世界の15~24歳の若者のうち、22%が「ニート」状態となっているとする年次報告書を発表した。
 
報告書は、仕事や通学をせず職業訓練も受けていないこの年齢層の若者は世界で約2億6700万人に上ると指摘。

さらに、多くは有給で働いていても「標準以下の労働条件に耐えている」と警告した。特にアフリカでは、若者が増えているものの、非正規雇用の比率は95%に達しているという。
 
性別による労働上の不平等にも言及。女性の労働市場参加率は47%で、男性よりも27ポイント低い。「男女格差には大きな地域差があり、介護者としての女性の役割を主張するなど、性別に対する固定観念が一部の地域に染みこんでいる」と指摘している。

世界全体の失業率については、2019年から横ばいの5・4%。21年には5・5%に上がると予測している。【1月21日 朝日】
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今後も状況は改善が見込めず、むしろ悪化する可能性が高いようです。当然ながら、そのことは社会不安の原因ともなります。

*****世界の約5億人、十分な仕事に就けず ILO報告*****
連の国際労働機関は20日、雇用情勢に関する年次報告書を発表し、世界で4億7000万人以上が失業中か十分な職に就けていないと明らかにした。また、まともな仕事に就く機会を得られないことが社会不安の一因になると警告した。

 ILOによると、世界の失業率は過去10年間のほとんどで比較的横ばいで推移しており、昨年は5.4%だった。失業率は今後も大きく変化しないと予想されているが、減速気味の経済により、増加する人口に対する仕事の数が減って失業者が増加する恐れがある。
 
年次報告書「世界の雇用および社会の見通し」の中でILOは、今年の失業者数が、昨年の1億8800万人からさらに増えて1億9050万人に上ると予想している。
 
同時にILOは、世界で約2億8500万人が不十分な仕事に従事していると強調。不十分な仕事とは、希望する勤務時間より短い時間しか働くことができない、職探しを断念した、労働市場に参加する機会が少ないなどの状態を意味する。
 
失業者と不十分な仕事に従事している人は合わせて5億人近くに上り、世界の労働者人口の13%を占めるとILOは指摘している。 【1月21日 AFP】
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【民主主義の基盤を浸食する社会の分断】
経済のグローバル化の恩恵を一部の富裕層・エリートだけが享受しているとの不満は、ポピュリズムやナショナリズムの形をとった政治的な流れともなり、民主主義の基盤を浸食する事態ともなっています。

****なぜ民主主義は苦境にあるか、いかに解決するか  政府への不信と経済的苦難が人々を分断させた ****
民主主義は決して政府の最良の形態を意図したものではなかった。むしろ民主主義の美徳は単に、統治される側の利益を統治する側の利益より優先することにある。
 
しかし今日、世界中の民主主義国家は通常よりも混乱し、機能が低下しているように見える。独裁的リーダーらがこうした傾向を声高に指摘し、そこにつけ込もうとする一方で、民主的リーダーらは何かが軌道を外れてしまったのではないかと思案に暮れている。
 
米国では党派間の分断が進む中、ドナルド・トランプ大統領が弾劾訴追を受けている。米上院は間もなく、トランプ氏を罷免するかどうか投票にかける。

英国では2016年に有権者が欧州連合(EU)からの離脱を選択した後、政府はその方法について合意するまでに3年間を要し、3人の首相がもがき苦しんだ。
 
カナダのジャスティン・トルドー首相は、与党が議会の過半数を維持できなかったため、少数派政権を率いようとしている。

西側リーダーのまとめ役だったドイツのアンゲラ・メルケル首相は引退に向かっており、同氏が属するキリスト教民主同盟(CDU)が連立与党の結束を保てるかどうかは不透明な状況だ。

ブラジルでは、元軍人のジャイル・ボルソナロ大統領が民主的な諸機関を批判しており、一部市民の間で民主主義への支持が薄れていることが世論調査で明らかになっている。
 
民主主義諸国の中で最も人口が多いインドでは、世俗主義から宗派対立への流れが進行しているとみられ、緊張が高まっている。イスラエルの首相は起訴されており、同国の指導者らは激しい対立が続く中で、何度選挙を繰り返しても組閣ができない状況にある。

民主主義の拡大を支援する国際組織「民主主義・選挙支援国際研究所」は、数週間前に発表した報告書の中で「民主主義は脅威にさらされており、民主主義の約束の復活が求められている」と強調した。同様に、バンダービルト大学の研究者らも最近「米州の民主主義はさらなる後退のリスクに直面している」と結論付けた。
 
いま問われているのは、民主主義が現在抱える問題が、単に民主社会にとって不可避の周期的な修正局面の1つなのか、それとももっと腐食性の高い現象を示すものなのかということだ。
 
「世界中の民主主義の健康状態の悪化は深刻だが、決して末期的ではない」と国際経験が豊富なウィリアム・バーンズ元米国務副長官は話す。「多くの民主主義国は深刻な統治危機に直面している。国民に奉仕する能力をまひさせる一連の機能不全だ」

ポピュリズムと怒り 
民主主義の苦しみの理由を一言で説明することはできない。いくつかの要因が重なり合い、結合力のある社会や連立政権を生み出すことがより困難になっているのだ。
 
西側の民主主義国では、2007年に始まった金融危機によって打撃を受け、着実で公平な経済成長を監督する政府の力への信頼が失われた。

この危機により、経済のグローバル化が経済のはしごの最上層にいる人たちにとって有益であるのと同様に、中間層や下層にいる人たちにとっても有益だとの考えへの信頼も失われ、一部の米国人に自分たちの悩みは政策立案者らにとってほとんど重要でないと思わせる結果となった。
 
こうした心理は、ポピュリズムとナショナリズムの台頭を後押しした。ポピュリストの運動は、民主主義社会のエリートに対する怒りと恨みをあおり、有権者をより小さな「サイロ」に追い込んだ。

サイロの中では、同じ境遇の人や似たような不満を抱く人と一体感を持つ傾向にある。こうしたサイロ効果は、民主主義社会が育むはずの幅広い中間層から人々を引き離し、より小さな基盤に依存する政府を誕生させる。この結果、統治する側が効率的に業務を遂行することがより困難になる。

情報技術(IT)は民主主義社会を一層分裂させている。インターネットやソーシャルメディアを使って何百万人もの人々と瞬時にやりとりできる能力は、社会を結びつけられる力のように見えるかもしれない。

しかし実際には逆の効果をもたらしている。人々はインターネットで個々の特定のサイロにいる、似たような考えを持つ人のニッチなグループを見つけることによって、国民という大きな枠組みから逃れることができるようになった。
 
「グローバル化の時代、流動性と機会が減る中で人々が自分の人生をコントロールできると思えないと、アイデンティティーへのこだわりが極めて強くなる」。外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長はこう述べた。「現在は小さなコミュニティーを形成する能力が事実上無制限になっている。このため国家的なコミュニティーの形成が一層困難になっている」
 
この過程で、派閥同士が対立する構図が生まれる。ツイッター上の議論が激しさを増すこともしばしばだ。このような環境では、政治家はアイデンティティー政治を行い、特定の支持者の不満に対応しようとする誘惑にかられる。

これはまさにトランプ氏が自身の集会でやっていると指摘されていることであり、インドのナレンドラ・モディ首相がヒンズー教に基づくナショナリズムに訴える過程でやってきたことである

消えゆく中間層 
これら全ての力により、民主主義を機能させるためのコンセンサスや妥協を見いだすことが一層困難になっている。その代わり、民主主義社会内の派閥同士の対立が激しさを増すばかりだ。

権威主義的な政府、とりわけロシアと中国の政府は、こうした傾向が西側の民主主義の欠陥の兆候だと指摘するにとどまらず、その問題を悪化させるような手段を講じている。
 
ロシア指導者のウラジーミル・プーチン氏は周知の通り、ソーシャルメディアを利用して米国や西欧の選挙に介入していると広く非難されている。主な目的は西側社会により多くの対立の種をまくことだとされる。(中略)
 
こうしたことを念頭に置くと、民主主義社会は状況を有利に展開するためには何をすればいいのだろうか。ひとつには、自分たちの体制の改革が必要かもしれない。

ハース氏は「成熟した民主主義国家は、人間の場合と同様、動脈硬化を起こす」と指摘した。同氏は、米国の民主主義の基盤となっている共通の理念を若い世代に認識させるため、彼らに公民教育を行う新たな措置を提唱している。(中略)
 
究極の処方箋は、民主的に選出された指導者たちが、選んでくれた人々だけでなく、政治的分裂の反対側にたまたま位置する人々の声にも、より真剣に耳を傾けることなのかもしれない。【1月20日 WSJ】
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世界各地で噴出する若者らの既成政治への怒り アルジェリア、レバノン、イラク

2019-11-24 21:42:28 | 民主主義・社会問題

(香港理工大学の構内に立てこもった学生たちにスマートフォンの光で支持の意思を示す人々(19日)【1124日 WSJ】)

 

【より直接的な行動を選択する若者 既成の政治エリートへの怒り】

これまでも取り上げてきたように、南米、中東、香港など世界各地で政治に対する抗議行動が発生し、その多くか過激化しています。

 

そうした抗議デモの中心にいるのは、これまで政治には関心がないとされていた若者たちであり、その行動を特徴づけているのは新世代の暗号化メッセージアプリの活用です。

 

若者たちは既成政治への不信感から、従来のような投票によって政治に関与するという方法ではなく、より直截的方法でその不満を噴出させているように見えます。

 

*****世界でデモ拡散、民衆を突き動かす怒り *****

過去の抗議活動を踏襲しながら、新たな社会運動の輪郭を形成

 

今年6月、対話アプリでつながった数十万人が香港市内を占拠した。中国政府によって市民生活が脅かされるのを阻止しようと立ち上がった若者たちだ。

 

それから4カ月余りが過ぎ、反政府デモは世界10カ国以上に拡大した。チリやボリビア、レバノン、スペインなど、数百万人の市民がデモに参加。平和的なものもあるが、その多くが暴徒化している。

 

数千人が負傷し、多数の死者も出ている。デモ隊は道路や空港を封鎖し、自分たちの激しい怒りの矛先が向いている機関に攻撃を加えている。

 

イランは16日、インターネットを遮断。全土に広がるデモを鎮圧するため武力行使に踏み切った。中南米では大規模デモが拡散しており、その波は5カ国目となるコロンビアも飲み込んだ。

 

世界に飛び火するデモを線でつなぎ、関連づけることは不可能だ。だが、数多くの地域で市民が蜂起しているという事実(その多くは戦術やスローガンまで共有している)は、「アラブの春」や1968年の学生デモなど過去の抗議活動を踏襲しながら、新たな社会運動の輪郭を形成している。

 

デモの直接の発端は国ごとに異なる。だが、その根底には社会や経済に対する似たような不満があり、既存の政治秩序に対する変革要求をあおる構図となっている。(中略)

 

抗議活動が発生している都市の多くは、所得格差が大きい。デモで中心的な役割を果たしている若者の多くは、両親と同水準の豊かさが得られるのか疑問を抱えながら生きている。

 

彼らの怒りの矛先は政界のエリートたちへ向けられている。市民の感覚とはかけ離れ、自分たちや同じような身分にある者にしか仕えないエリートたちのことだ。

 

デモ活動の勢いを猛烈に高めているのが「ワッツアップ」や「テレグラム」といった新世代の暗号化メッセージアプリだ。互いにまったく面識のない大規模なデモ隊グループが、匿名でやり取りすることを可能にしている。

 

ツイッターやフェイスブックなどのプラットフォームは考えを広く公開するには素晴らしい場所だが、こうした新たなテクノロジーでは、デモ隊予備軍を互いにつなぐことで、大規模な行動についてリアルタイムで合意を形成することができる。しかも、身元が割れるのを恐れずに。

 

またネットが世界をつないでおり、活動家たちは他国の同じようなデモ隊の動向を注視し、彼らとつながることで学んでいる。

 

カタルーニャ州バルセロナでは、独立を求めるデモ隊が「香港のデモ戦術」と題されたパンフレットを配布。伝説の武道家、ブルース・リー氏の有名な助言である「水のようにあれ」をスローガンにした香港デモ隊の「奇襲」戦術を踏襲している。

 

香港のデモ隊は、警察の目や監視カメラに向かってレーザー光を照射しているが、チリでも同じ手法が用いられるようになった。

 

「これらの抗議活動は一度限りの特異な現象ではない」。こう指摘するのは、カーネギー国際平和財団でデモ活動を研究するリチャード・ヤングス氏だ。「これは主流派の現象になりつつあり、世界の政治における主要な特性として今後も続くだろう」

 

ヤングス氏はその理由として、現在の政治制度が自分たちの要求にうまく対応していないと考えられていることがあると述べる。デモ参加者は「政治からは身を引き、より直接的な行動を選択している」。

 

多くのケースにおいて抗議活動の最前線にいるのが若年層、しかもかなり若い層だ。チリでは、地下鉄の改札口を飛び越えて入った高校生らがデモ発端のきっかけだ。香港では平日夜開催のデモでも、制服をまだ着たままの少年・少女らが参加している。

 

若者の参加は、それまで広く浸透していた「スマートフォン中毒の若者世代は基本的に無関心で、ネット上の幻滅感を現実の世界で行動へと変えることはない」という通念を覆す。

 

この抗議活動を突き動かしているのは、おそらく成功体験だろう。デモが発生した国では、指導者が次々とデモ隊の要求に応じざるを得ない状況に追い込まれた。だが、デモ隊はさらなる要求を掲げ、戦い続けている。

 

「デモを長く継続するほど、より多くのものを政治家から引き出せる可能性がある。政治家は今、われわれを恐れているからだ」。今月、バグダッドで起きた数十年ぶりの大規模なデモに参加した無職のイラク人、ワリード・イブラヒムさん(32)はこう話す。イブラヒムさんらを突き動かしているのは、経済発展を実現できない政界のエリートたちへの激しい怒りだ。

 

レバノンでは10月、ワッツアップ通話への6ドルの税金案に反対する市民デモが発生。サード・ハリリ首相は課税案を撤回したものの、10月下旬には辞任に追い込まれた。デモ隊は目下、宗派の違いに基づく政治制度を改革するよう要求している。

 

香港では、本土当局に譲歩を余儀なくさせるという、かつてなら想像もできなかったことを成し遂げた後も、若者がデモを続けている。

 

中国当局が後ろ盾となっている香港政府は8月、デモの引き金となった容疑者の本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案を正式に撤回。だがデモ隊は、普通選挙や警察の暴力行為に関する調査など、要求をさらに強めた。

 

デモ続行の決定は、匿名のメッセージグループ間で決定され、その後、デモは激しさを増した。

 

チリの旧世代の目には、デモに参加する若者らは、苦労して手に入れた選挙権などを当たり前のものだと考えていると映る。

 

同国では、長い流血の独裁体制を経て、30年前に民主主義へと移行した歴史があり、若者はこれを経験していない。チリは民主化後に経済が着実に成長し、根強い格差もこの20年で解消に向かっている。

 

大学教授のセバスチャン・バレンズエラさんは「若者は民主化後に育っており、軍事独裁(政権)の記憶はない。だが、選挙は何の役にも立たないと考えており、投票しない」と話す。

 

民主主義・選挙支援国際研究所の報告書によると、1990年代初頭以降、投票率は世界的に低下しており、政府に対する信頼感が総じて下がっていることを示唆している。

 

今年世界的な現象となったデモが、長期的にどのような変化をもたらすのかは不明だ。社会運動による影響は、その渦中で明らかになることはほとんどない。そして、答えがないまま、数世代にわたって議論されるかもしれない。

 

すでに確立された遺産もある。テクノロジーを活用してリアルタイムで市民の抵抗を促す匿名グループが持つ力だ。まるで10年前の行進や占拠などの運動が、スローモーションのように思える。

 

例えば、20代の香港デモ参加者イユさん。彼女は、7月のデモ隊による立法会(議会)占拠に直前で加わった一人だ。平和的な行進になると思っていたが、テレグラムのさまざまなチャンネル上でのやりとりを見ていると、次第に雰囲気が変化していくのが分かったという。その直後、香港政府のシンボルである立法会の占拠に参加するボランティア募集の告知メッセージを受け取った。

 

数分の間に、同じメッセージを受け取った数百人のデモ参加者が立法会前に集まり、実行の機会をうかがっていた。そして一斉に建物の中へと流れ込んだ。香港デモの象徴的な瞬間だった。

 

「数カ月前は、暴力的な行動はしたくなかった」と語るイユさん。「今ではもう気にしない」【1124日 WSJ

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【アルジェリア 従来同様の大統領選挙を拒否する人々】

今日報じられている事例としてはアルジェリアがあります。

 

*****アルジェリアでデモ拡大 12月大統領選へ刷新要求****

北アフリカのアルジェリアで、12月の大統領選を前に支配体制の刷新を求めるデモが拡大した。

 

大統領選の立候補者審査に不正があったとの見方が市民の間で強まり、2月から40週続いてきた金曜日の抗議活動が再び活性化。選挙は受け入れられないとの抗議が広がっている。

 

1212日に予定される大統領選には20人以上が立候補を申し出たが、最終的に必要条件を満たしたとされる5人に絞り込まれた。うち2人は首相経験者で、他の3人も4月まで20年続いた長期政権下で閣僚などを務めた人物。“清新な候補”は現れなかった。【1124日 共同】

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アルジェリアでは今年4月にブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っていました。

 

空白からの回復にあたり、旧来の手法を踏襲しようとする政治エリートたちに対し、民衆は政治体制の改革を求めています。

 

****政治空白続くアルジェリア、デモ隊の首都立ち入りを禁止*****

アルジェリアのアハメド・ガイドサラハ軍参謀総長は18日、政治改革を求めて各地から集まってきたデモ隊の首都アルジェへの立ち入りを阻止するよう警察に命じた。

 

アルジェリアは今年4月、長期政権を維持してきたアブデルアジズ・ブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っている。前大統領の辞任後も数か月にわたって大規模デモが続いているが、暫定政府は12月に大統領選を実施すると発表した。

 

デモ隊は、選挙の前にまず政治改革と前大統領派の排除を行うよう求めている。一方、ガイドサラハ氏は何としても年内に大統領選を実施する構えだ。アルジェでは昨年2月以降、毎週火曜日と金曜日にデモ隊が結集している。

 

ガイドサラハ氏によると首都立ち入り禁止令は、デモ隊を首都に輸送する「車やバス」を食い止めるのが目的。車両を押収し「所有者に罰金を科す」としており、移動の自由を悪用して「市民の平和を害する」「悪意ある複数の集団」への対策として必要だとしている。 【919日 AFP

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【レバノン ヒズボラ支配への抵抗】

レバノンでは宗教・宗派間の権力分割、その背後で実質的影響力を高めるヒズボラという政治構図がありますが、人々はこうした既成政治への不満を表明しています。

 

*****アンタッチャブル「ヒズボラ」へ反抗はじめたレバノン市民*****

レバノンでは10月中旬より、政治改革、腐敗撲滅、生活の向上等を訴える抗議運動が激化、1029日にはハリリ首相が辞任する事態となった。アウン大統領は1031日、抗議運動の要求通り、テクノクラートから成る新政府を組織したいと述べた。

 

米国のポンペオ国務長官は、新政府の設立を要求し、軍と治安当局が彼等からデモ参加者の権利と安全を守るよう要請した。もし、レバノンが経済改革を遂げ、腐敗と戦うのであれば、国際機関と協力して経済支援をしたいと国務省筋は述べた。この支援には昨年誓約されたが凍結されている117億ドルの支援パッケージが含まれる。

 

今回のレバノンでの抗議運動は、政治改革、反腐敗を超える注目すべき点がある。それは、レバノンの政治を支配して来たイランが支援するヒズボラへのあからさまな反抗である。

 

ヒズボラは今回のデモまではほとんど手を触れることの出来ない存在だった。しかし、そのシーア派の支持者すらデモに参加した。

 

ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師はデモ当初の1019日には新政府樹立の要求に反対していた。25日には街頭デモは「混乱と崩壊につながる空白」を生みつつあると警告した。

 

しかし、抗議運動はこの脅迫を無視し抗議を継続したのである。改革運動の参加者は、ヒズボラは閣僚の人選に介入しようとするかも知れないが、アウンが非政治的な政府を求めたことは一歩前進だ、と見ているようだ。(後略)【1121日 WEDGE

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【イラク イランの影響力への反発】

イラクでも、内戦からの復興を実現できていない無能な既成政治への不満が噴出しており、その怒りの矛先はイラク政治に大きな影響力を有しているイランにも、更には、こういう混乱期に人々を扇動して影響力を拡大してきたサドル師にも向いているようです。

 

****「出口なし」イラク民衆の怒りはどこへ向かうのか*****

イラクでは9月初めより、大規模な反政府デモが起こっている。政府の腐敗、無能、失業等に対する抗議である。デモは一時小康状態となったが、政府側の強硬な弾圧によって多くの死者が出ており、未だ収まる気配はない。

 

イラクのアブドゥル・マハディ首相政権は昨年の選挙後、第1党となったシーア民族派のサドル派とイランに支持されたアミリ派(シーア派民兵組織の政党)の妥協によって生まれた政権であるが、サドル派は首相を見限り、アミリは様子見の態度を取っている。

 

イラクでは以前にも同様なデモ、騒乱が発生したが、今回の運動はイランに支援されたシーア派民兵組織及びイランそのものにも、また、以前の民衆運動を支持したサドル師に対しても民衆の怒りが向けられている。

 

政府においては、より強硬な鎮圧策を支持するグループ、当面首相が対応すべきとするグループ、首相退陣を予期して次の首相候補を模索するグループなどに別れている。騒乱はより過激になり、自信を持ち、大規模になりつつある。

 

今回の抗議運動の大きな特色は、雇用、電力不足、腐敗というような具体的な問題への抗議というよりも(勿論、それもあるが)、サダム・フセイン以降の基本的な政治体制(シーア、スンニー、クルド3派による大政翼賛的パワーシェアリング・システム)への挑戦となっていることである。

 

ナジャフの宗教指導者(シスターニ師)、イラン、サドルを含め、従来の権威全般に対する否定的な性格を帯びている。従って、政府側の対応は難しい。アブドゥル・マハディ首相は、後任についての合意が出来れば辞任する用意のある旨表明しているが、単なる首のすげ替えだけでは収まらない可能性がある。

 

今のところ、抗議運動は、特定の政治勢力による扇動ではなく、自発的な性格を持っているが、今後どの程度組織化が進むのか注目される。サドル派がこれに乗る可能性はあるが、今回は運動主体側がサドル派をも既成政治の一部として攻撃しており、見通しにくい。

 今

回の政府側の対応は、従来に比べて強硬なものであり、政府側の危機感の表れである可能性が大きい。今後、政府側がより強硬な鎮圧策に出るかどうかはイランの考え方によるところが大きい。

 

体制維持への危機感が強くなれば、イラン系民兵組織による本格的な弾圧に出る可能性があるが(そうなれば、イランの影響力が強まる)、当面は首相の交代や選挙の実施などによるアメと強い鎮圧策というムチを混ぜながら対応していくのではないかと思われる。

 

今回の運動が主張しているように、今の3派によるパワーシェアリングの体制が政府の非能率、腐敗の温床となっていることは事実だが、これに変わる体制(例えば、与党、野党による政権交代システム)を築くのは容易ではない。宗派政治からの脱却はイラク政治の大きな課題であるが、実現するとしても時間がかかる(政党の非宗派化は徐々に進んではいるが、未だ未成熟)。斬進的に進めていくほかないであろう。

 

イラクの現政治体制は、シリアのように抑圧的なものではなく、またレバノンにように機能不全なものではないので、大きな騒乱状態に陥るとは思われない。

 

但し、やっとIS戦に勝利し、選挙で選ばれた新政権による安定への方向が見え始めた時点での今回の騒乱が長引けば、スンニー派過激分子、IS残党等の反政府活動が復活し、経済、政治の停滞が深刻化することが危惧される。【1120日 WEDGE

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各地での若者らを中心とする民衆の既成政治への怒りの噴出は、これまで一定の成果を獲得していますが、単なる一時的なものでなく、より基本的な政治の変革に至るかどうかについては難しいものがあります。

 

SNSなどを活用した、特定の政治勢力によらない行動であるだけに、長期的な政治改革を具体化していくには不向きな面もあります。

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ロシアにおける非民主的メディア統制と抵抗 世界では「民主主義の後退」が進行

2019-06-11 23:03:34 | 民主主義・社会問題

(【116日 SPUTNIK】 英経済誌『ザ・エコノミスト』誌による民主化度調査 濃い緑ほど民主主義、濃い赤褐色ほど独裁的傾向)

 

【ロシア プーチン支配体制でのメディア統制 ジャーナリストからは抵抗も】

豊かさ、幸福度、暮らしやすさ、男女平等・・・等々は、様々な要素が複雑に絡み合った結果ですから、それを数値化することにはもとより無理があります。

 

ただ、無理は承知の上で、一定の条件のもとで抽象的概念の状況を簡単な数値で表すということは、ひとつのアプローチとしては一定に有用でしょう。

 

そこで、英経済誌『ザ・エコノミスト』誌による世界各国の「民主化度」に関する調査です。

 

****昨年の民主化度 ロシアは中国やアフリカ諸国より下、日本は韓国より低く、米国より上に****

英経済誌『ザ・エコノミスト』誌は、2018年の民主主義の水準での世界各国の指数を公表した。

 

世界167カ国での指数は、「選挙と多元主義」「市民の自由」「政府の活動」「政治参加人口」と「政治文化」の5つのカテゴリーにもとづいて算出された。その結果、ロシアは中国やアフリカ諸国より低く、日本は韓国より低いことが判明した。(冒頭グラフ参照)

 

『ザ・エコノミスト』誌の評価に基づき、各国はそれぞれ「完全な民主主義」「不完全な民主主義」「ハイブリッド体制」そして「独裁体制」の4タイプの民主主義に分類されている。

 

このランキングでロシアは、ジブチとアフガニスタンの間に位置し、カザフスタンと同じ144位を占め、「独裁体制」と規定された。

 

その結果、ロシアは、中国やトーゴ、エスワティニ(旧スワジランド)、ジンバブエ、カメルーン、ルワンダ、ニジェール、モザンビーク、ベネズエラ、カンボジア、その他の国々を下回った。このランキングでウクライナは84位で「ハイブリッド体制」となった。

 

日本は22位で、21位の韓国を下回った。米国は25位だった。これらの国々は「不完全な民主主義」に分類された。

 

「完全な民主主義」の国々には、ノルウェーやアイスランド、スウェーデン、ニュージーランド、カナダ、アイルランド、フィンランド、オーストラリア、スイス、 英国、ドイツ、ウルグアイ、モーリシャス、コスタリカ、スペイン、オーストリア、ルクセンブルク、 オランダが選ばれている。【116日 SPUTNIK

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あくまでもひとつのアプローチですが、ロシアの民主化度が低い評価となったこと自体は、妥当性のある結果でしょう。

 

米中覇権争いのなかで、異質な政治体制のもとで成長を続けてきた中国、従来の民主主義の旗手であったアメリカ社会を内部から荒廃させ、変質させるトランプ政治が、世界の民主主義を考える際の問題として強く意識されるようになったため、その陰に隠れる形にはなっていますが、ロシアにおけるプーチン大統領を頂点とする似非民主主義も欧米的民主主義とは異なるものの代表事例です。

 

 

そのプーチン大統領の求心力も、年金改革以来、かつての輝きを失っていますが、その結果、欧米的民主主義の方に近寄るかと言えばそうでもないようで、ロシア独自のいささか屈折した方向に向かっているようです。

 

****独裁者スターリンの胸像設置 ロで新設異例、高まる肯定評価****

ロシア西シベリアのノボシビルスクで9日、第2次大戦での対ナチス・ドイツ戦勝74周年に合わせて、旧ソ連時代の独裁者スターリンの胸像設置式典が行われた。

 

1953年の死後に始まったスターリン批判を受けてロシアでほぼ撤去された像が公共の場で新設されるのは異例。背景には近年高まる肯定的評価がある。

 

胸像の設置は、スターリンを「戦勝に導いた英雄で、戦後の経済復興も実現した」と評価する共産党が推進。公道に面した同党の地元委員会の敷地に設けられた。しかし市民の反対署名が1万人以上集まるなど論争を呼んだ。【510日 共同】

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ロシアの民主主義の危機、プーチン体制の非民主的支配を語る際に常に指摘されるのが、政権側に都合が悪いジャーナリスト(アンナ・ポリトコフスカヤ氏など)や野党指導者(プーチン政権を批判していた野党の指導者ボリス・ネムツォフ元第一副首相など)、政敵、あるいは(政権にとっての)“裏切り者”が次々に暗殺されて消えていくという恐怖です。

 

結果、ロシア国内のメディア、ジャーナリズムはプーチン支配体制に飼いなされたような状況にあり、政権批判などはほとん表に出てこない・・・・と、欧米側には理解されていますが、ロシア国内ジャーナリストに中にあっても、そのようなロシアの現状に対する不満はあるようです。

 

****ロシア有力紙コメルサント、政治部デスクが全員退職 ベテラン記者2人の解雇に抗議****

ロシアの有力日刊紙コメルサントで20日、ベテラン記者2人が解雇されたことへの抗議として政治部デスク全員が退職した。同国のメディア産業では、ほぼすべての新聞社が政府の規制に従っており、今回のような抗議は異例。

 

これに先立つ同日、同紙のグレブ・チェルカソフ副編集長は、経営陣がスクープ記事を書いたベテラン記者2人を退職に追い込んだことを受け、自身を含むコメルサントの政治部デスクの11人が退職すると発表していた。

 

スクープ記事を書いたのは、同紙在籍10年を数えるイワン・サフロノフ、マキシム・イワノフ両記者。記事は先月書かれたもので、ロシアの上院議長が現職のワレンチナ・マトビエンコ氏からセルゲイ・ナルイシキン対外情報局長官に交代する可能性があるとしていた。

 

コメルサントのレナタ・ヤムバエワ副編集長は両記者の解雇について、同紙の編集部員らに対する最近の圧力の一例にすぎないと語っている。

 

反政府活動家らは、ウラジーミル・プーチン大統領は権力の座に就いてからの20年間で批判者を抑圧し、ロシアメディアの大半を政府の管理下に置いたとして同大統領を非難している。(後略)【521日 AFP】AFPBB News

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****ロシア世論、独立系記者逮捕に異例の反発 三大紙が1面に共同声明****

調査報道で知られるロシアの独立系メディアの記者が先週、麻薬密売容疑で逮捕されたことに対し、独立系だけではなく親政権派のジャーナリストらからも釈放を求める声が上がり、当局は世論の異例の反発に直面している。

 

逮捕されたのは、独立系ニュースサイト「メドゥーザ」のイワン・ゴルノフ記者。合成ドラッグのメフェドロンやコカインを「大量に」売ろうとしていた疑いが掛けられており、有罪となった場合には最高20年の禁錮刑が科される可能性があるが、弁護団は事件は仕組まれたものだと主張している。ゴルノフ記者自身は、葬儀業界の疑惑を調査していたために拘束されたと考えている。

 

今回のゴルノフ記者逮捕に対し、ほとんどのメディアが政権筋の見解に従うロシアにしては珍しく、報道関係者らの連帯が生じている。

 

10日にはロシア三大新聞のコメルサント、ベドモスチ、RBKが一斉に1面トップに巨大な文字で「私は/われわれはイワン・ゴルノフ」というメッセージを掲載。政権に対し公然と抵抗する行動に出た。(中略)

 

1面に共同声明を掲載した3紙は、ゴルノフ記者の逮捕は脅迫行為に当たると主張し、同記者を拘束した警官に対する捜査を要求した。

 

新聞を売るモスクワの売店の多くで10日午後の早い時間帯までにこの特別版が売り切れた。3紙はすべて民間企業だが、このところ政権による報道統制の圧力がますます強まっていた。

 

■「一度に一人ずつ」の抗議行動も

(中略)ゴルノフ記者の逮捕については、他のジャーナリストや記者の支援者の間に激しい憤りをもたらしている上、政権に極めて忠実なテレビジャーナリストの中にも同記者を支持する動きが出ている。また米国や欧州連合など国際的にも懸念が広がっている。

 

モスクワ市内の裁判所前には数百人の支援者が集まった。勾留されていたゴルノフ記者は先週末、自宅拘禁に移された。

 

モスクワの警察本部前では7日以降、一度に一人ずつ参加する抗議行動が行われている。これは当局から事前の許可を得る必要がない唯一の抗議方法だ。12日にはゴルノフ記者支援のデモ行進も行われる予定だ。

 

一方、ロシア政府は「過ちを認め」繰り返さないことは重要だと述べたが、警察当局を擁護する姿勢を示している。(後略)【611日 AFP】AFPBB News

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政権に忠実なジャーナリストの心中にも良心の断片は残っている・・・ということでしょうか。

 

【世界における民主主義の後退】

日本を含めた西欧的民主主義国家では、民主主義は問題点は多々あるものの、独裁や強権支配体制より“良い政治体制である”と信じてきましたが、世界的に見た場合の深刻な問題は、非民主的な国々が次第に民主化を進めているというよりは、ロシアに見られるような非民主的な政治が、世界全体で増加しているように思えることです。

 

****世界的に民主主義離れの傾向 崩れ落ちる平和の礎****

9月15日の国際民主主義デーに際し、スイスの政治学者クロード・ロンシャン氏は「現在、世界中でオートクラシー化(独裁化)が広がっている」と警鐘を鳴らす。

 

支配者が権力を独占し、思いのままに行使するこの支配形態は、必ずしも独裁政治に直結するわけではないが、民主主義の崩壊が始まっていることには間違いない。(中略)

 

民主化と相反する「オートクラシー化(独裁化)」という言葉は最近まであまり知られていなかった。しかし研究プロジェクト「バラエティー・オブ・デモクラシー」(V-DEM)がまとめた年次報告書「万人のための民主主義?」の中では、この概念が重要なキーワードになっている。(中略)

 

「オートクラシー化」が急に浮上してきた理由は、2017年に行われたこの調査で178カ国中、24カ国に民主制度の縮小傾向が見られたためだ。これは民主制度が拡大している国の数と同じだった。

 

停滞する民主化の波

ソビエト連邦崩壊後、民主化の波が起こり、東欧の共産主義諸国は自由な市場経済と政治競争が保障される自由民主主義の道を歩み出した。

 

しかし自由は得たものの、多くの国では経済が思うように発展しなかった。明るい未来への展望は、この先に立ちはだかる問題への悲観へとすり替わり、新たに「強いリーダーたち」に希望を求めるようになった。

 

民主制度の拡大・縮小化があった国々を人口の比率で表すと、縮小化が進んだ国の割合の方が高い。この傾向は2016年以降2年連続で見られ、今回は特にその傾向が顕著だ。1970年からの民主主義の発展を表すグラフでも同様の動きが読み取れる。

 

オートクラシー化は弱小国だけに見られる傾向ではないとゲーテブルク大学の調査に参加した民主主義の専門家は言う。2017年には、世界各国の中でむしろ人口の多い国々でこの傾向が強かったという。

 

ナレンドラ・モディ首相が率いるインド、ドナルド・トランプ大統領が率いる米国、ミシェル・テメル大統領が率いるブラジル、そしてウラジーミル・プーチン大統領が率いるロシアがその例だ。これはオートクラシー化がアジア、アメリカ、欧州で広がりつつあることを意味する。

 

独裁政治と隣り合わせ

オートクラシー政権(独裁政権)の典型的な特徴は、自由の抑圧、メディアの監視と制限、そして反対派の弾圧だ。

 

オートクラシー化とは、民主主義の原則に従った国を独裁傾向の政府幹部が統治するようになること意味する。

 

V-DEMの年次報告書には、具体的な調査結果が記載されている。それによると、2017年、最も抑圧されたのは「公の場で個人の意見を述べる自由」だった。「集会の自由」は広範囲で制限され、アンケートに答えた専門家らが最も危惧しているのは、科学分野での規制が出始めていることだった。

 

またそれに並行して、オートクラシー主義者は法治主義を縮小する傾向にある。そうなると裁判所の独立性や国際法の考慮といった側面が危ぶまれることになる。この二つは民主主義制度の中でも特に重要、かつデリケートな構成要素だ。

 

選挙は改善するも民主主義には至らない

選挙の発展に関して言えば、年次報告書の著者らはそこまで悲観的に見ていないようだ。国際的な研修制度や監視活動が実を結び、選挙は以前と比べはるかに公正に行われるようになった。

 

問題は、メディアに自由が許されていない点だ。メディアは上から圧力を掛けられるか、意見の形成が人為的に操作されてしまう。

 

選挙を正しく行うだけでは民主的な環境を保障できないことはよく指摘されている。そのためには憲法で守られた市民権と議会が政府を監視できる枠組みが欠かせない。

 

だが正にこれがネックになっている。その結果、最悪の場合には民主的な権利を持つオートクラシー政権か、あるいは専制君主を持つ民主主義が台頭することになる。

 

自由民主主義から完全な独裁制へ

同報告書では専門家が世界178カ国を均一に評価し、4段階に分類した。

 

完全な民主主義:選挙制度が整い、自由と平等が保障され、市民が積極的に政治に参加し、社会がうまく機能している状態。39カ国(世界人口の14%)はこの条件を完全に満たしていた。

 

選挙だけの民主主義:公正な選挙は行われているが、自由民主主義に特徴的な条件は一部しか満たしていない。56カ国(世界人口の38%)が該当。

 

選挙だけのオートクラシー: 選挙は行われているが、おおむね理不尽で不公平な社会を正当化するために利用されている。56カ国(世界人口の23%)がこの段階にある。

 

完全なオートクラシー: 選挙は行われるが、表面的な意味しか持たない。自由が保障されず、二大政党制のような民主主義的機構やメディアの独立性に欠ける。27カ国(世界人口の4分の1)がこの段階に分類された。

 

民主主義かオートクラシーの二つに大きく分けると、昨年の時点で95カ国が民主的国家に分類された。つまり世界人口の約半数強が民主主義と関係する国家で暮らしていることになる。(後略)【2018914日 swissinfo.ch

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****民主主義の後退正統性の礎を失う世界****

気がついたら、民主主義が後退していた。

まず、プーチン政権のもとのロシアでは、大統領選挙で選ばれるという外形こそ保っているものの、立法府による行政権力の統制が弱まり、司法の独立も損なわれた。政府の批判は弾圧され、ジャーナリストが暗殺された疑いも生まれている。ロシアの議会制民主主義は形骸化した。

 

エルドアン大統領のもとのトルコでも、やはり大統領選挙や議会選挙が行われているとはいえ、憲法改正によって大統領に権力が集中し、立法と司法の役割は低下した。ロシアと同様にトルコでも、民主政治は形だけのものとなった。

 

民主化が後退する一方で、権威主義体制における社会統制は強化された。中国では長期拘禁が繰り返され、中国出身の国際刑事警察機構(ICPO)前総裁孟宏偉は行方不明となったまま国家監察機関の取り調べを受けていると伝えられている。

 

新皇太子のもとで専制支配が強まったサウジアラビアでは、現体制に批判的な報道を続けたジャマル・カショギはイスタンブールのサウジ総領事館に入ったまま行方不明となり、総領事館のなかで殺害された疑いが持たれている。

 

スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド教授がその著書「民主主義の精神」において民主主義が世界的に後退していると指摘したのは2008年のことだった。

 

この指摘を受けて英「エコノミスト」誌は民主化指標を毎年発表してきたが、2017年のデータも含めた最新版でも民主主義の後退を指摘している。(中略)

 

アメリカ政府の役割も変わった。ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、さらにバラク・オバマと、3代のアメリカ大統領はいずれも民主化支援をアメリカ外交の柱の一つに掲げてきた。

 

世界の民主化を進めるというアメリカの自画像は誇張と厚かましさがともなうとはいえ、たとえばミャンマーにおける民政移管においてアメリカの果たした影響は無視できない。

 

だがトランプ政権は、ドイツやカナダなど民主的な同盟国と衝突する一方で、ロシア、サウジアラビア、さらに北朝鮮などの民主主義とはほど遠い諸国との間では友好的な首脳会談を行っている。権威主義体制の支配者を外交の相手に敢(あ)えて選んだかのように見えるこの外交姿勢ほど民主化支援政策の後退を明示するものはない。

 

アメリカによる民主化支援政策の後退は、世界規模における民主主義の後退、さらに権威主義体制の相対的な安定という現実に対応した外交政策の転換であった。

 

理念ではなく実利に基づき、どのような国や政権が相手であっても、外交交渉を通じて自国にとって有利な成果を獲得することを目指す。際だってクラシックな国際政治の認識がここにある。

*

私は、民主主義の政治的な表現は、指標に集約しがたい多様性があると考える。世界各国の民主化がアメリカ外交のために達成されたとも思わない。それでもなお、民主主義の後退と権威主義体制の安定という国際政治の動向には懸念を持たざるを得ない。

 

それは民主主義が法の支配と国際関係の安定の基礎にあるからだ。どれほど多様であっても民主主義は政治権力の正統性の基礎であり、どれほど紛争を伴ったとしても民主主義を共有する諸国は国際体制のなかにおける紛争解決を模索してきたのである。

 

権威主義体制が優位となった世界では、そのような正統性も国際体制の安定も期待することはできない。権力闘争と力の均衡の支配する古風な国際政治の復活が、つい目の前に迫っている。【20181022日 藤原 帰一氏】

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多くの側面から論ずべき問題が多い「民主主義の後退」という現象ですが、とりあえず今日はここまで。

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変質する議会制民主主義  仏における直接民主制志向の動き 左右両極台頭で衰退する中道

2019-02-04 23:05:42 | 民主主義・社会問題

(仏パリで開かれた「国民討論会」の集会で市民に話をするエマニュエル・マクロン大統領(2019年2月1日撮影)【2月4日 AFP】)、

【議会は姿が見えず、直接民主主義的な「国民討論会」が脚光を浴びる】
フランス・マクロン政権による自動車燃料税引き上げに対する抗議から端を発した「黄色いベスト運動」は、昨年11月にスタートし、グローバリズム経済における格差やマクロン大統領のエリート主義的言動・金持ち優遇に対する不満を含め、全般的な反政府・反マクロン運動として、今も続いています。さすがに参加者は、このところ減少気味ではあるようです。

****フランス抗議デモ、2週連続減少 12週目、全国5万8千人****
フランスでマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動のデモが2日、12週連続で行われた。同国メディアによると、内務省は全国の参加者が約5万8600人だったとの集計を明らかにした。

前週1月26日の約6万9千人から減り、規模縮小は2週連続。
 
マクロン政権はデモを受け、1月から全国で市民の意見を聴く「国民大討論」に取り組んでいる。政権を支持しない層が固定化する一方、支持率はやや改善するなど政治情勢の緊迫感は多少和らいでいる印象だ。
 
パリではデモ参加者に負傷者が出ていることに抗議するとして約1万500〜1万3800人が参加し、前週より規模が拡大した。【2月3日 共同】
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これまでの改革に対する抵抗に対しては全く譲歩することがなかった強気のマクロン大統領ですが、今回は政権に対する草の根的な批判に危機感を持ち、燃料税引き上げを撤回するという譲歩を示しています。

また、上記記事にもあるように全国で市民の意見を聴く「国民討論会」を開催して、不満の解消に努めています。

この直接民主主義的な「国民討論会」をマクロン大統領は結構楽しんでもいるようですが、抗議運動とその対応の過程で、「議会」の姿が全く見えません。

そのことに関して、議員というプロを排したポピュリズム的な危うさを指摘する声もあります。

****プロ不在のポピュリズム 仏マクロン大統領と国民の「討論」****
18世紀のフランス革命の亡霊が、蘇ったようだ。
 
革命前夜、ルイ16世が民意を知ろうと設けた「陳情書」が、マクロン大統領の下で復活した。全国約5000カ所で、市民は思いのたけを書いている。「黄色いベスト」の抗議運動を取り込もうと、大統領は「国民討論会」も始めた。
 
先週、パリの会場に行くと、大変な熱気だった。500人の定員はすぐ満席になり、約100人が小雨の中で行列を作った。
 
司会者が「何でも話してください」と言うと、早速、「金持ちの課税逃れがひどい」という発言が出た。この後は堰(せき)を切ったように、「政策は国民投票で決めろ」「年寄りにデジタル化を押しつけるな」などの訴えが続く。黄色いベストを着た女性が顔を真っ赤にして、「月1200ユーロ(約15万円)の年金は、3分の1が家賃に消える。生活は限界だよ」と政府を罵倒し、拍手を浴びた。
 
約2時間、ほとんどマイクの奪い合い。とりわけ税制への不満は強かった。
 
マクロン氏は結構、楽しんでいる。各地の集会で国民と膝をつき合わせ、「生活改善のため、改革は絶対必要だ」と説得を試みる。「直接民主主義」を彷彿(ほうふつ)とさせる討議が気に入っているらしい。
 
双方は言いっぱなしで、議論はあまりかみ合わないように見える。それでも討論会を機に、20%台に低迷していた大統領の支持率は、久々に30%を超えた。
 
大統領にとって、国会をスキップして国民と対話することは、権力基盤の強化になるだろう。だが、黄色いベスト運動に煽(あお)られて、手法はどんどんポピュリズム(大衆迎合主義)に近づいていく。
 
国民討論会は3月まで、3000カ所以上で行われ、陳情書やインターネットで意見も募る。政府は4月に国民の意見を集約し、「政治に生かす」と公約した。ネットで寄せられた意見だけで、すでに50万件。どんな法案を作っても、みんなを満足させることが不可能なのは間違いない。
 
目下、最大の敗者は「議会制民主主義」のようだ。いま政界の土俵には、大統領と国民しかいない。国会議員は出番が消え、政党政治が不在になった。

大統領の討論会は最大約7時間、テレビで生中継されるのに、国会審議は全く報道されない。1月の世論調査で「政党を信用する」と答えた人は9%まで減った。
 
議会制民主主義では、国民が選挙で代表を国会に送る。この仕組みの中で、税や年金制度が時間をかけて作られた。

フランスは北欧と並んで、所得格差が小さい福祉大国である。だが、黄色いベスト運動は「国民の声」を大義名分に、官僚や議員などプロの専門性を頭ごなしに否定する。「現状打破」のポピュリズムが広がり、政治は煽られる。
 
フランスだけではない。黄色いベストは西欧で「抵抗のシンボル」になった。デモ隊はドイツやオランダなど各国に出現した。
 
ルイ16世は陳情書を編纂(へんさん)させ、貴族や庶民の代表を「三部会」に集めた。財政危機を乗り切るための討論会だったが、逆に革命への扉を開いた。
 
マクロン氏は先週、仏メディアの記者を集めて、「国民投票も検討中だ」と述べた。さらにポピュリズムに扉を開けば、その先には大きな陥穽(かんせい)が待っている。【2月4日 産経】
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【「国民討論会」を締めくくる「国民投票」】
記事最後に触れられている「国民投票」については、「国民討論会」を締めくくるイベントとして位置づけられています。

*****マクロン大統領、「黄ベスト」収拾へ5月に14年ぶり国民投票か 仏紙****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、自身の政策に対する抗議運動「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」への対応の一策として、今年5月に国民投票の実施を検討していると、仏紙が3日報じた。実施されればフランスでは14年ぶりの国民投票となる。
 
仏週刊紙「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」は、国民投票ではマクロン氏が大統領選で公約に掲げた国民議会の議員数削減の是非が問われると伝えている。また、議員の任期に期数制限を設けてベテラン議員の影響力を抑制する提案の是非も問われるという。
 
黄ベストデモへのマクロン氏の対応をめぐっては、欧州議会選挙が行われる5月26日に国民投票を行うのではないかとの観測がある。
 
マクロン氏は1月31日、国民投票の準備が進んでいるとする週刊誌カナール・アンシェネの報道について問われ、「検討中の課題の一つだ」と答えた。
 
発足から2年8か月のマクロン政権は、燃料税引き上げや生活苦への抗議に端を発する黄ベストデモの暴力化で最大の危機に直面している。

昨年12月、マクロン氏は最低賃金の引き上げや増税の一部撤回などの対応策を発表。さらに今年に入り、政策の選択や政策課題について市民と直に語り合う「国民討論会」を立ち上げ、国内各地で集会を開いている。
 
国民投票は「国民討論会」を締めくくるとともに、直接民主制を求める黄ベストデモへの回答ともなるイベントと目されている。 【2月4日 AFP】
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抗議行動に対し「国民討論会」で不満を聞き、懸案事項を「国民投票」で決する・・・・となると、確かに議会の出番がほとんどありません。

抗議行動自体が、議会を含めた既成政治への不満を核としていますので、そうした不満に応える形で「国民投票」という直接民主主義的手法が検討されているのでしょう。

本来は物事の決定は「様々な関連事項」を検討したうえで冷静・合理的に行う必要がありますが、そうした検討を行うべき“政治のプロ”としての議会・議員が排されると、抗議行動における過激な、声が大きい主張がクローズアップされ、そうした煽られるような雰囲気の中で「国民投票」で決着するというスタイルになると、ポピュリズムの弊害も危惧されます。

もちろん、それは議会・議員が“政治のプロ”としての本来の役割を果たしていない・・・との不満があっての話ですが。

インターネット・SNSの普及によって、国民・有権者は、政党・議員・新聞・テレビといったものを介することなく情報を収集し、発信することができるようになった現代は、19世紀・20世紀的な民主主義の環境とは異なる時代に足を踏み入れています。

ブレグジット、トランプ現象、黄色いベスト運動などは、そうした新しい政治環境における動きでもありますが、本当に冷静・合理的な判断がなされたのか・・・という危うさもつきまといます。

【左右両極の台頭で弱体化する中道 政治はまひ状態に】
既成政治全般を声高に批判するポピュリズ的雰囲気にあっては、右でも左でも、より過激な主張が有権者の心をとらえます。

結果的に、議会にあっても極右・極左勢力が勢いを強め、中道的な政党は凋落し、「様々な関連事項」を検討するよな議論は影をひそめることにもなります。

****中道派の弱体化、世界の政治をまひ状態に  極右・極左が勢いづき、分断が進む ****

この2年間、世界はまず右派のポピュリストの台頭に、そして次に活力を取り戻した左派に揺さぶられ続けた。いずれも物事を不安定化する根深いトレンド、すなわち中道派支持層が減少していることの産物だ。
 
欧州連合(EU)離脱をめぐる英国の混乱や、米国の政府機関閉鎖が示す通り、中道派を支持する層の縮小は各国政府の実行能力を奪っている。さらに移民や貿易、気候変動といった世界共通の課題に立ち向かうのに必要な国際協力もむしばんでいる。
 
とりわけ今週、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に集まる世界のビジネスリーダーにとっては脅威となる。彼らは中道派政党が主導する市場寄りの政策や世界的な市場開放による最大の受益者だからだ。

彼らは次第に左右両極の反政府勢力に対処する必要に迫られている。だがこの両勢力はグローバル化や大手銀行、大手IT(情報技術)企業に対する不信感を除き、ほとんど主張に共通点がない。

中道派の崩壊は何年もかけて進行中だが、その形態は国によって異なる。西欧では、既成政党から分派した新興政党が勢いを増したことがきっかけとなった。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のサイモン・ヒックス教授(政治学)によると、2007年~2016年に西欧諸国の社会民主主義(中道左派)政党の得票率は31%から23%に、中道右派政党の得票率は36%から29%に低下した。

受益者は極右・極左
その主な受益者は極右だが、最近では極左もそこに割り込んできた。

ドイツで連立政権を組む中道左派・社会民主党(SDP)と中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)は昨年、どちらも州議会選挙で得票率が大幅に落ち込んだ。一方、反移民・反EUを掲げる新興極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と移民を支持する環境政党「緑の党」が大きく躍進した。

イタリアでは現在、極右政党とポピュリスト左派政党が連立政権を率いている。
 
米国と英国では中道派支持者の衰退が主要政党を両極化させ、党内の亀裂も生んでいる。米共和党と英保守党の内部ではエスタブリッシュメント(既成勢力)とナショナリストの対立が深まるばかりだ。
 
一方で、英労働党のジェレミー・コービン党首は同党を左傾化し、米民主党では進歩主義者と自称民主社会主義者が同じことをしようとしている。彼らはトニー・ブレア元英首相やバラク・オバマ元米大統領なら決して受け入れなかっただろう政府の介入を提言している。(中略)
 
同様の動きは一部の新興国でもみられる。昨年、ブラジルとメキシコでは一度も政権を握ったことのない新興政党の大統領が選出された。ブラジルは極右政党、メキシコは極左政党出身の大統領だ。

逆方向の反動
政治はどのように分断されたのか。10年前まで右派および左派の大半の既成政党は、権力掌握と票獲得のために徐々に中道寄りとなり、その過程でお互いの立場の多くを認め合った。

中道左派はグローバル化と規制緩和を受け入れ、中道右派は社会保障制度を受け入れた。両者ともに移民を支持していた。
 
だがこれが結果的に、自分の選択に満足できない有権者を増大させることになった。LSEの政治学者サラ・ホボルト教授は、欧州ではここ数十年間に政党への愛着が薄れてきたと指摘。

例えばブルカラーの労働組合員は中道左派に投票すると決まっていた一世代前に比べ、有権者ははるかに頻繁に支持政党を変えるようになった。
 
またインターネットの存在が、従来型メディアの寡占状態を打ち破ったのと同様に、従来の政党の牙城を切り崩した。

「何の規制も受けずにメッセージを支持基盤や支持基盤の中のオピニオンリーダーに届けられることが、こうした新興政党の大きな力になった」と、アムステルダム自由大学の政治学者カトリン・デフリース教授は指摘する。
 
政治的忠誠心の後退とより強力な通信技術という組み合わせが、新興の非主流派政治運動の追い風となった。彼らはただ、中道政党は失敗したと主張するだけでよかった。さらに停滞する賃金や金融危機、歯止めのきかない移民流入などが彼らに道を開いた。(中略)
 
「新たな均衡」へ
政治的中道派層の縮小が国家のガバナンス(統治)をより困難にしているなら、国際社会の統治はほぼ不可能ということになる。

たとえある国がもう1カ国と協定締結にこぎ着けたとしても、「自国でそれを確実に履行できる保証が得られなくなっている」とデフリース氏は話す。

イタリアの現政権を構成する左翼と右翼のポピュリストは、EUとカナダが締結した自由貿易協定(FTA)を批准しないと警告している。

ベルギーの首相は反移民政党が連立政権を離脱したのを受け、先月辞任した。議会の過半数を維持できなくなったためだ。辞任の引き金は、国連が採択した移民協定をめぐる対立だった。
 
今後何年かはなお状況が緊迫するだろう。世界の経済システムを下支えする機関が圧力にさらされるためだ。世界貿易機関(WTO)は機能不全に陥るかもしれない。トランプ氏がその正当性に異議を唱えているからだ。

トランプ氏が再交渉した北米自由貿易協定(NAFTA)は、民主党の反対により議会でつぶされる可能性がある。

EUは既に目前に迫った英国の離脱問題に頭を悩ませているが、EU内でもイタリアやハンガリー、ポーランドから異論が出る可能性がある。こうした国々の政府はEUの統合拡大という前提を疑問視している。
 
いつかの時点で中道派と反主流派が同様に自らの立場に適応し、より多くの票を獲得することや共存することを目指せば、政治的安定が戻ってくるだろう。ただ、デフリース氏の指摘するように、イデオロギーの多様性を生み出すこうした勢力が姿を消すことはなさそうだ。「分断化が続くことが新たな均衡だ」【1月22日 WSJ】
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分断された政治状況で議会政治がまひするとき、左右両極は更に既成政治批判を強め、いずれかのポピュリストが大衆掌握に成功したとき・・・というのは大戦前の話ですが・・・・。
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「上位26人が下位38億人分の富を保有」 仏財務相、格差への警鐘 その仏では金持ち優遇批判

2019-01-23 23:33:24 | 民主主義・社会問題

(インド・ムンバイ 「空から見える格差」【2018年8月22日 BBC】)

【極度の貧困は減少、しかし拡大する貧富の格差】
現代はグローバリズムが拡大する一方で、経済的格差も拡大しているということは常々指摘されていることです。

****「世界中が怒りを感じている」上位26人が下位38億人分の富を保有。富裕層があと0.5%でも多く税金を払えば、貧困問題は解決するのに****
<国際慈善団体オックスファムが年次報告書で貧富の格差がまた拡大したと指摘。各国政府に富裕層や企業への増税を呼びかける>

新たに発表された報告によると、世界で最も裕福な26人が、世界で所得が最も低い半数38億人の総資産に匹敵する富を握っており、しかも貧富の格差は拡大し続けているという。

イギリスを拠点に貧困問題に取り組んでいる国際慈善団体オックスファム・インターナショナルが、このほど年次報告書を発表。

拡大する一方の貧富の格差を是正するため、富裕層への増税が必要だと各国政府に呼びかけた。2008年の世界金融危機以降、世界の超富裕層の資産総額が数十億ドル単位で増えた一方で、世界人口のうち所得が低いほうの半数にあたる38億人の資産総額は10%以上減少した。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラによれば、オックスファムのウィニー・ビヤニマ事務局長は声明の中で、「世界中の人々が怒りや不満を感じている」と警告。「各国政府は、各企業や富裕層が応分の税を支払うようにすることで真の変革をもたらさなければならない」として、富裕層にほんの少し増税するだけでも、教育費や医療費を賄うための十分な資金調達が可能だと指摘した。

最富裕層にあと0.5%だけ増税すれば
報告書によれば、実際にブラジルやイギリスなど一部の西側諸国では、最も裕福な10%の方が最も貧しい10%よりも所得税率が低い。

「最も裕福な1%があと0.5%だけ多くの税金を支払えば、教育を受けられずにいるすべての子供2億6200万人に教育を授け、330万人に医療を提供して命を救ってもまだ余るだけの財源を確保できる」という。

報告書はまた、世界の超富裕層が約7.6兆ドルの租税回避をしているせいで、途上国は年間約1700億ドルの所得を失っている、ともいう。

前向きな報告もあった。過去数十年で極度の貧困状態にある人の数が大幅に減少したのだ。

英ガーディアン紙は、「極度の貧困状態にある人の数が大幅に減少したことは、過去25年における最大の成果のひとつだ。しかし貧富の格差が拡大していることで、さらなる貧困解消の可能性が脅かされている」というオックスファムのマシュー・スペンサー活動・政策担当ディレクターの言葉を報じている。

「私たちの経済の仕組みは、一部の特権層に富が集中するようになっており、その一方で何百万もの人々が生存ぎりぎりの生活を強いられている。女性たちは一人きりで子供を産んで命を落としており、子供たちは貧困から脱出する手段となる教育を受けられずにいる」と彼は指摘した。

同じく貧富の格差が拡大し続けているアメリカでは、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州・無党派)や、昨年史上最年少で当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(29歳、ニューヨーク州・民主党)を筆頭に、進歩的な政治家が政府に対して格差問題への対処を強く求めている。

オカシオコルテスは年収1000万ドル超の富裕層向けの最高限界税率を70%に引き上げるよう提案。最近の世論調査ではアメリカ国民の59%がこの改革を支持すると回答した。

アナリストらはまた、アメリカの富裕層は何十年も前から個人所得税の優遇措置を受けていると指摘。米経済が急成長を遂げていた1960年代、年間所得40万ドル(現在の約300万ドルに相当)を上回る富裕層を対象とした税率は70%以上だった。その10年前は約90%。それに対して現在は、年間所得が15万7500ドルを超えても、税率はたった32%だ。

主に富裕層と企業に恩恵をもたらしているドナルド・トランプ米大統領による大型減税は、財政赤字の劇的な増加を招いている。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アナリストたちは2019年に財政赤字は1兆ドルを超えると予想している。

サンダースは1月18日、「最も裕福な1%と高収益の大企業については、トランプ減税を撤廃すべきだ」とツイッターに投稿した。

「所得と貧富の不平等が広がっている今のような時代は、リッチな人々をさらにリッチにさせるのではなく、老朽化が進むインフラの再建と持続可能な経済の構築に取り組むべきだ」【1月22日 Newsweek】
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“資産額10億ドル(約1100億円)以上の富裕層の人々が世界各地に保有する資産の総額は2018年、毎日25億ドル(約2700億円)ずつ増加した。
 
世界一の富豪である米アマゾン・ドットコムの創業者ジェフ・ベゾス氏の資産は昨年、1120億ドル(約12兆2800億円)に増えた。オックスファムによればベゾス氏の総資産のわずか1%が、人口1億500万人のエチオピアの保健医療予算全額に匹敵するという。”【1月21日 AFP】とも。

“上位26人が下位38億人分の富を保有”といった種類の数字は、以前から指摘されているところで、今回問題提起しているオックスファム・インターナショナルも、1年前の昨年1月に“世界の最富裕層1%、富の82%独占 国際NGO”【2018年1月22日 AFP】との指摘を行っています。

ただ、さすがに“26人”ということになると、やはり印象も強まります。極度の貧困は減少したとは言いつつも、下位38億人の生活が依然として厳しいところが問題でしょう。

こうした富裕層のグローバルな革新的・先進的経済活動によって経済全体が活性化・拡大し、結果的にその“おこぼれ”は中間層・貧困層にもおよび、市民全体の経済的底上げに通じる・・・という話はわからないではないですが、現実問題として、そのような“底上げ”が実現していない、中間層は貧困増に転落し、貧困層の生活苦は続いているという現状があります。

【グローバリズムの拡大 成功者はよりコスモポリタンに 恩恵を受けない層は「ローカル」にしがみつき「閉じこもる」 その不満を煽る「ポピュリズム」】
オックスファムが“世界の最富裕層1%、富の82%独占”との指摘を行った昨年1月というのは、ダボス会議で、格差拡大への批判・不満が“トランプ現象”に象徴されるようなグローバリズム批判・内向きの保護貿易主義・ポピュリズムといった動きを世界各地で惹起しているという問題意識で議論がなされた時期でした。

****グローバル時代の格差拡大とダボス会議が抱える矛盾 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
<グローバリズムの発展と共に格差拡大への反発や排外主義が世界各国で発生しているなかで、ダボス会議がどこまでの危機感を持っているかには疑問が>

今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)には、トランプ米大統領が出席するということで話題となっています。

ダボス会議といえば、「グローバリズム」や「新技術の実用化」といったテーマを推進する立場で行われている会議ですから、これに対して「グローバリズムへの否定」という姿勢を取っているトランプの登壇は「見もの」だというわけです。

私はダボス会議のベースにある基本的な考え方は間違っているとは思いません。21世紀という時代は、ヒト、モノ、カネ、情報が国境を越えて飛び交う時代であり、国や地域にしても、企業や個人にしても、このグローバリズムに最適化をしてゆくことが経済として最も合理的だからです。

反対に国境や地域に閉じこもるのでは、大きなデメリットを背負うことになります。また、閉じた世界の中でメリットを享受しようとすれば、「外部との遮断措置」を物理的に行わなくてはなりません。

日本の諸規制にしても、アメリカが考えている国境の壁、そして中国のグレート・ウォールなどもそうです。物理的に成立しないか、コスト的に潰れていくか、あるいは規制の内部を衰退に追いやるなど副作用は計り知れないわけです。

では、このままグローバリズムを拡大して行くのがいいのかと言うと、変化のスピードが速過ぎれば問題が出ます。先進国の中で行われ、先進国の賃金水準が適用されていた仕事が、途上国に移転されれば、先進国では急速に大規模な失業が発生します。

また、先進国から途上国に作業が移転し、急速に経済成長が起これば物価や地価の急速な上昇を招いたり、混乱が生じます。

そうした「ローカルな世界」から「グローバルな世界」への移行に伴う痛みもありますが、より深刻な問題としては「ローカル」と「グローバル」の間に計り知れない格差が生まれているということです。

そんな中で、21世紀の地球社会というのは、20世紀の地球社会とは大きく様相が変わって来ています。

20世紀の世の中では、グローバルな発想は「庶民の味方」であり、利己的な権力者や富裕層は「ローカルに閉じた世界」を志向していたのでした。

例えば、多くの君主国や発展途上の資本主義国は、勤労者を国境の中に囲い込む中で、劣悪な労働環境と勤労者の低賃金状態を放置していましたが、それに対する社会主義の運動は「インターナショナルな労働者の団結」を目指していました。

また多くの途上国型の独裁者は、一部の財閥と結託して富と権力を独占する一方で、世界からの「自由の風」が国内に入ってくるのを警戒していました。

さらに、社会主義国家が官僚制独裁政治に陥って庶民からの信認を失った時代には、自由を求める個人は国境の手前で射殺されていました。その反動として、自由社会のグローバルな影響力が拡大してベルリンの壁は倒されたのです。

ですが、21世紀の現代というのは、金融・情報通信・新技術という高度に知的な職種だけが、成功者としてグローバルな世界で繁栄する時代です。

その中で、その成功者のサークルに入れない人々には、「サーカスとしてのナショナリズム」と「規制などで守られた雇用というパン」が「国家というローカル」によって与えられるという「20世紀とは正反対の状況」が発生しているわけです。

つまり、国境を越えていける人間だけが富める時代であり、その結果として富める者の側は、「多様性」であるとか「寛容性」という価値観を掲げながら、「国境」を「より低く」したり「国家」というものを「より軽く」したりしたいという志向性を持つことになります。

反対に、ローカルに縛られ、しがみついている人間には排外や、孤立、多様性への嫌悪といったカルチャーが色濃くなって行くという負のスパイラルが発生するわけです。

アメリカの場合、オバマやヒラリーは、「こうした時代の流れには逆らえない」のであって、だからこそ「万人に機会を与える」ための医療保険や大学無償化を進め、移民を歓迎する政治を行ったわけです。

格差は問題かもしれないが、機会の均等ということを徹底して進めれば、結果については自己責任として構わないという考え方と言っていいでしょう。2016年の大統領選の結果は、この発想法に対しての「ノー」でした。

問題は、このような格差が拡大して行けば、成功者のサークルではよりコスモポリタンなカルチャーが濃厚になる一方で、ローカルにしがみつく層はより「閉じこもる」方向になって行くということです。

その上でトランプのような「右派のポピュリズム」という政治手法を使えば、後者の持っている深い怨恨の感情を政治的求心力にする手法は、今後も出てくる可能性があると思います。

今回のダボス会議というのが、どこまでこうした危機感を持って運営されているのかどうかは分かりません。少なくとも、タイトルだけは「分断された世界の中で共通の未来を作り出す」というのですから、多少の危機意識はあるのでしょう。

ですが、少なくとも、このように「グローバル」と「ローカル」の間に経済的な格差だけでなく、世界観に関わる断裂が生じているというのは大変に危機的な状況だと思います。

そのような時代に、世界経済フォーラムの大きな会議を、スイスの豪華なスキーリゾートで行うという感覚は、私には違和感があります。【2018年1月25日 Newsweek】
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【「世界的な格差が今後も拡大すれば、資本主義は崩壊する可能性」仏財務相】
上記のダボス会議から1年が経過し、事態はまったく変わっていません。
格差は“26人”に代表されるような状況にあり、これに不満を抱く人々は、ポピュリズムに煽られる形で「ローカル」にしがみつき、「サーカスとしてのナショナリズム」にのめりこんでいます。

このような世界の現状に対し、フランスの経済・財務相が、フランスが今年議長国を務める主要7カ国(G7)会合に関する演説で強い警鐘を鳴らしています。

****仏財務相、世界的な格差が資本主義の崩壊招く可能性を警告****
ルメール仏経済・財務相は、フランスが今年議長国を務める主要7カ国(G7)会合に関する演説で、世界的な格差が今後も拡大すれば、資本主義は崩壊する可能性があると警告した。

ルメール氏は、G7は共通の最低法人税率を設定することを検討し、巨大な多国籍企業の影響力に対応策を講じるべきだと主張。

「資本主義を作り変える必要があり、さもなければ世界的な格差の拡大によって存続できなくなる」との見方を示した。

社会的な格差は先進国でポピュリスト(大衆迎合)政党が台頭している主な理由とされており、仏政権に抗議する「黄色いベスト運動」の引き金になったとも考えられている。

ルメール氏は「グローバル化の恩恵を受けていないと主張する人々が発している警鐘」に各国政府は注意を向けなくてはならないと語った。(中略)

さらに、最富裕層と最貧困層の所得差が拡大している問題についてもG7で検証する考えを示した。【1月23日 ロイター】
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ルメール仏経済・財務相の発言は、EU合意を待たずにフランスが乗り出したIT大手企業に対する「デジタル課税」なども念頭に置いてのことでしょう。

****仏、「デジタル課税」を1月導入 税収年640億円 ****
フランスのルメール経済・財務相は17日、記者会見でグーグルなどIT大手への「デジタル課税」を2019年1月から始めると発表した。年間の税収は5億ユーロ(約640億円)を見込んでいる。

仏各地のデモに対応して打ち出した生活支援策で財政赤字が拡大する見通しになっており、新たな財源確保を狙う。

ルメール氏によると、IT大手によるネット広告、個人情報の売買などに課税する。詳しい税率は明らかにしなかったが、課税対象は大手に限定するとみられる。スタートアップ企業の成長を阻まないためだ。

欧州連合(EU)は19年3月までのデジタル課税での合意を目指している。これまでフランスはEUでの合意ができるまで、独自の課税は始めない考えだった。

だが低税率を武器に企業を誘致してきたアイルランドなどが反対して合意が見通せなくなっており、しびれを切らした形だ。

蛍光の黄色いベストを着て集まる反政権運動「黄色いベスト」のデモを収めるために打ち出した生活支援策で約100億ユーロ(約1兆2800億円)の政府負担が発生するなか、税収を少しでも増やす狙いもある。(中略)

世界の法人税は、事務所や工場などの経済的拠点を基に企業に課税してきた。ただネットを通じてサービスを提供するIT大手には課税しにくく、税制が時代遅れになっているとの指摘がある。【2018年12月18日 日経】
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【格差・金持ち優遇批判に揺れるフランス
もっとも、フランス・マクロン政権は、まさに格差を助長するような「富裕税の廃止」が国民の怒りを買う形で、なかなか収束しない反政権運動「黄色いベスト」に揺れており、そのフランスが“世界的な格差が資本主義の崩壊招く”云々というのも興味深いところです。

マクロン大統領は格差を助長し、“26人”に代表されるような現状を更に加速させる「金持ちの味方」との批判を浴びています。フランスとしては、決してそうではない・・・ということを国内的にもアピールしたいとの思いがルメール仏経済・財務相の発言の背景にはあるのでしょう。

19日土曜日も8万4000人がデモに参加したということで、事態の沈静化には至っていません。

“富裕税に代わる不動産富裕税の創設は,企業に対して不動産部門以外の分野に投資することを鼓舞しようとするもので,一般国民には資産課税を廃止する富裕者層への租税上の優遇措置であるとの疑念を抱かせることになった。”【1月14日 瀬藤澄彦氏 世界経済評論IMPACT】

もちろん、マクロン大統領は「金持ちの味方」としてではなく、経済活性化の狙いから富裕税廃止を提唱しているのでしょうが、庶民の暮らしを圧迫する燃料増税と相まって、国民心理・生活現状への配慮が足りなかった・・・との結果になっています。

おそらく苛立ちまぎれの発言でしょうが「(燃料を買う金がないなら)電気自動車を買えば」云々といったマリー・アントワネット的な失言もあって、国民の苦しみを理解できない傲慢なエリートとの批判を浴びることにもなっています。

労働市場改革などでは強気で押し通したマクロン大統領ですが、燃料増税中止・最低賃金引上げと、はじめて譲歩を示し、「国民大討論」で国民の声に耳を傾ける姿勢をアピールしています。

ただ、一度失った信頼を取り戻すのはなかなか・・・。富裕税廃止をおろさないところも、マクロン大統領らしい“強気”でもあります。まあ、ここで引いたら失政を認めることになるとの“崖っぷち状態”でもあるのでしょう。

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個人情報管理の在り方 現実化している「信用スコア社会」 安全運転促進アプリに自殺予防システム

2019-01-09 22:30:48 | 民主主義・社会問題

(ネットフリックス配信ドラマ「ブラックミラー・ランク社会」より 互いの評価で決まる“ランク”のアップに夢中になる人々)

【中国の合コンでは「あなたのスコアはどのぐらいなの?」】
これまでも時折取り上げてきたように、世の中は取引履歴などの個人情報を基にした「信用格付け社会」に向かっているようです。

当然に、便利な点・不安な点はありますが、最先端を行く中国では、合コンで「あなたのスコアはどのぐらいなの?」という話ができるとか。面白いと言うか、怖いと言うか・・・。

個人情報の扱いに関しては、“おおらかな”中国とは異なり厳しい管理が要求される日本ですが、この便利さには恐らく抵抗できないでしょう。

****中国に続き日本も突入か「信用スコア社会」で起こる大激震 ── キャッシュレス社会で銀行はこう変わる ****
キャッシュレス決済が急速に普及する中国では、取り引きなどの履歴からその人を格付けする「信用スコア」の活用が世界に先駆けて進んでいる。

日本でも、LINEが「LINE Score」で信用スコア事業への参入を表明したほか、みずほ銀行とソフトバンクの「J.Score」をはじめ、最近ではヤフーやNTTドコモも参入を表明するなど、徐々に注目を集めるようになってきた。

信用スコアが下支えする社会とはどのような社会なのか。シリコンバレー vs. 中国の最新技術動向を追った書籍『テクノロジーの地政学』(日経BP社刊)の共著者、シバタナオキ氏と吉川欣也氏の見立てとは。

個人が格付けレベルを即答できる世界、便利なのかディストピアなのか

── 日本でも2018年に信用スコア事業への参入表明をする企業が出てきました。たとえば中国には、スマホ決済の「アリペイ」に紐づく信用スコアとして「芝麻信用」(ジーマ信用、ゴマ信用とも)があります。どのように活用されているのでしょうか?

吉川:中国ではみんな自分のスコアを答えられるので、たとえば合コンで「あなたのスコアはどのぐらいなの?」っていう話ができるんですよね。

今までは「どこの出身?」「どこの大学に行ってるの?」「どんな会社に勤めてるの?」「今どこに住んでいるの?」
という4つぐらいを聞けば、だいたいどのくらいの収入があって、どのくらいの生活レベルか想像がついた。あと「お父さんは何をやっているの?」とかね。それで信用度をはかっていたと思うんです。

それが中国では今やはっきりと信用度が可視化されていて、みんながそれを数字で言える。そこはとても面白いですよね。

シバタ:アメリカにも「FICOスコア」というクレジットスコアがありますが、さすがに合コンのネタにはならないですよね。アパートを借りたり、家を買ったりする時には重要だけど、友達同士で「俺はスコアがいい」という自慢話にはならない。そこは中国ならではですね。

── 今、信用スコアが注目を集めるようになってきた理由はどう分析していますか?
シバタ:さっきの吉川さんの話にもあったように、日本ではこれまで終身雇用のおかげで、「どこの会社に勤めているか」を聞けば、それで何となくわかるということがあった。ところが、世界を見渡すとそうじゃない国がほとんどなんですよね。

特に中国みたいに経済が急発展した国では、勤め先だけでは、誰をどのぐらい信用していいか分からない。だから、信用スコアのようなものが必要になる。

日本もこれから終身雇用がなくなってフリーランサーの人が増えると思うので、やはり信用スコアのようなものが必要になってくるのかなと思います。(中略)

── その人の信用度をスコアではかる世の中に、懸念される問題があるとしたらなんでしょう?

シバタ:たとえば破産してスコアがすごく落ちてしまうと、かなり長い期間にわたって信用がなくなるというか、マイナスになるわけですよね。

ローンが組めないだけでなく、たとえばアパートを借りたいときも、信用スコアが悪いと借りられない。ゼロリセットがしにくくなるというのは、間違いなくネガティブな要素なんじゃないかと思います。(中略)

吉川:(中略)一方で一番怖いのは、自分のスコアが家族に波及することです。たとえば家族の中にスコアが低い人がいると、結婚に支障が出るといったことが、たぶん問題になってくると思います。

シバタ:今のはすごく怖い話で、自分個人のスコアだったら良いですけど、例えば大学に入る時に「家族全員の信用スコアを出せ」みたいな話になると、これはちょっとまた違う世界ですよね。極端な話、父親の素行が悪くて借金していたから、大学に入れないみたいな話が出てくる可能性もあるわけじゃないですか。

── それは本当に怖い話ですね。テクノロジーを使って個人を評価するのは良いところもある反面、親戚とかっていう話まで広がってくると、差別などにもつながりかねない。(中略)

吉川:(中略)インターネットもまさにそうですが、テクノロジーにはいい面も悪い面もある。使い方次第で世の中を良くする方にも行くし、怖い方向にも行きかねない。ゆくゆくはこういった情報は国が管理しないとマズいのではないかとは思います。

シバタ:1つ大事なのは、「どういう方針でどういうものを見てスコアを決めているか」という方針は開示すべきだということですね。アメリカのクレジットスコアの場合は、そこが開示されているんです。だから調べれば「たくさん借金をして、ちゃんとオンタイムに返せる人が信用できる」っていう考え方だとわかる。

中国も「芝麻信用」には芝麻なりの考え方があると思うので、それを開示して、ある程度の透明性を維持することが必要なのではと思います。【1月3日 伊藤 有氏、太田百合子氏 BUSINESS INSIDER】
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信用が可視化されてわかりやすいだけに、“(そうした情報が残ることで)失敗からの立ち直りが難しい”“自分以外の家族の情報なども求められる”等々のいろんな問題も想定されます。

なお、個人情報の扱いに関する中国でのとらえ方は以下のようにも。

****プライバシーを守りながら、個人信用スコアを活用する****
このような社会信用スコアについて、日本人の感覚だと、「プライバシーの侵害」や「なんか怖い」といった印象を持たれる方が多いかと思う。しかし、中国人の感覚は逆だ。むしろ、プライバシーが保てると感じている。

例えば、ホテルが宿泊時のデポジットを不要にするとき、従来であれば、その人の勤先や資産状況、過去の信用事故情報などを知らなければ、なかなかデポジット不要にはできない。

しかし、現実にはホテルがそのような調査をすることは難しいし、宿泊客に尋ねることもできない。結局、クレジットカードを提示してもらうか、現金を預かるデポジット制度をやめることができなかった。

しかし、芝麻信用の場合、ホテル側に伝わるのは、総合得点と5つの観点のバランス評価のみだ。具体的な中身については知らされない。しかし、それでホテル側はじゅうぶんで、宿泊客のプライバシーを根掘り葉掘り聞くことなく、デポジット不要にできるのだ。【「中華IT最新事情」】
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一方、そのディストピア的側面については、いつも取り上げるネットフリックス配信ドラマ「ブラックミラー・ランク社会」のとおり。

【個人の“政治的な志向”が勝手に売られる 国家管理はもっと怖いかも】
“ゆくゆくはこういった情報は国が管理しないとマズいのではないか”・・・・民間企業が勝手に個人情報を扱うというのも問題が起きますが、一方で個人情報が国家によって一元管理される社会というのも怖いような・・・。

個人情報の“不適切な”利用に関しては、以下のような「政治傾向」が勝手に売られるといった案件もあるようです。

****オーストリアの郵便会社、個人情報を政党に販売 批判集まる****
オーストリアの郵便事業会社で、国が50%以上出資するオーストリアポストが、政治的な志向を含む顧客の個人情報を収集して販売していたことが明らかになり、同社には8日、批判が浴びせられた。

個人情報保護団体は、フェイスブックがユーザー情報を共有したスキャンダルと同様のものだと指摘している。
 
調査報道サイト「アデンドゥム」によると、オーストリアポストは顧客約300万人の氏名や住所、年齢、性別といった情報を、ターゲットマーケティングに利用する他企業に販売していたという。

さらに同サイトは、最大で220万人分に上るユーザーのおおまかな政治的な志向をまとめた情報も含まれると推測。選挙運動において潜在的な支持者をより効果的に狙い定められるよう、複数の政党に販売されたとしている。
 
個人のプライバシー保護を訴える団体「エピセンターワークスは、欧州連合のデータ保護規則に違反すると訴えている。
 
これに対しオーストリアポスト側は、国内法の下ではそのような情報の活用は合法と認められており、自社の行為に問題はないと主張している。 【1月8日 AFP】AFPBB News
********************

“ユーザーのおおまかな政治的な志向”がどのように把握されているかは知りませんが、一方で、そういう情報が国家管理されるとなると、“国家”の性格・思惑次第では国民の思想管理・統制も可能となります。

【安全運転をすれば特典がもらえて保険料も安くなるアプリ
怖い話はいくらでもありますが、「これは便利かも・・・」と思わせるような使い道も。

****安全運転をするとご褒美がもらえるアプリ****
心がけていても中々実践できないのが安全運転だが、もし自分の運転をアプリが見守り、安全運転をすることによりポイントがたまり特典と交換できるとしたらどうだろう。

そのようなアプリを実際に作り出し、ドライバーに提供している企業がある。しかもこのアプリはドライバーの日々の運転の習慣を自動車メーカーと保険会社が共有するため、安全運転を続けると保険料の低減にもつながるという。
 
アプリを提供するのは英国に本拠を置くレクシス・ネクシス(LexisNexis)社で、アプリはレクシス・ネクシス・テレマティクスと呼ばれるものだ。

独立したアプリというよりはOEMとして自動車メーカーに提供され、メーカーと提携する保険会社に対しUBI(Used Based Insurance 、利用状況に応じた保険料金)のユーザーへの提供を可能にする。
 
具体的にどのように作動するのか、というとGPSを使い、例えば道路の制限速度に対しドライバーが速度オーバーをしていないか、あるいは急ブレーキを踏んでいないか、などをアプリがチェックし、それを点数化する。

そして点数が高ければそれがポイントとなり、コーヒーの無料券などと交換できる、という仕組みだ。(中略)

このアプリを作り出した理由について、レクシス・ネクシス社では「年間に世界で120万人が交通事故によって死亡し、負傷者は2000~5000万人と言われている。これを少しでも軽減し、安全運転をドライバーが自然に心がけるようなアプリを提供しようと考えた」という。

自動車メーカーにとってはユーザーサービスの一環になるし、保険会社は事故で支払う保険料の軽減につながる。さらにアプリを通してユーザーがどのような運転習慣を持つのか、というデータを蓄積できる、という点も大きい。
 
もちろん、このような形で自分の運転情報を第三者と共有したくない、と考えるユーザーに対してはアプリを起動させずにメーカーのアプリのみを使用する、というオプションもある。しかし特典がつくため、多くのユーザーがアプリを使用することを選ぶという。(中略)
 
米国ではクレジットスコア(過去の借金歴や返済歴により個人の社会的信用度を示す数字)が良ければ住宅ローンや自動車ローンなどの金利が有利になる、というのが普通だが、ドライビング・スコアもクレジットスコアと同様の指標として社会に広めよう、という考え方だ。
 
安全運転をすれば特典がもらえて保険料も安くなる、というのならこのアプリを使いたい、と考えるユーザーは多いだろう。

レクサス・ネクシスに賛同する保険会社の数も増えており、今後このアプリをOEMとして導入する自動車メーカーも増えそうだ。これまでありそうでなかった新しいタイプのアプリは、世界中に普及していくかもしれない。【1月9日 WEDGE】
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個人の行動が逐一監視されている・・・という面もありますが “安全運転をすれば特典がもらえて保険料も安くなる”というのは受け入れられやすいでしょう。

【フェイスブックの自殺予防・通報」機能な】
交通事故予防からさらに一歩踏み込んで、“自殺予防”となると、個人のメンタルな部分に“得体のしれないもの”に管理が及んでくる・・・という話にもなります。

全く知りませんでしたが、フェイスブックには「自殺予防・通報」機能なるものがあるそうです。

****フェイスブックの「自殺予防・通報」機能に賛否両論 ****
冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

<フェイスブックが17年から実施している自殺予防・通報のシステムには、実際に救命ができているという評価の反面、プライバシー保護が十分でないとか判断の精度が低すぎるといった反対意見も出ている>

フェイスブックは、2017年9月10日の「WHO(世界保健機関)の自殺予防デー」に自殺防止のキャンペーンを本格化すると告知。この前後から、自殺に関する投稿内容のモニターを開始しました。ザッカバーグCEOによれば、この1年間で「3500人への支援」ができたとしています。

さらに、2018年11月にはフェイスブックは、投稿内容のなかから「自身を傷つける緊急性のあるリスク」を発見するための、AIによる自動巡回についてより詳しい発表をしました。

投稿、コメントなど文字情報だけでなく、動画(ライブも含む)も対象として自動巡回を行い、検知された場合に、警察の自殺予防セクションなどに通報がされるシステムです。

この発表の後、米国内では1カ月あたり100件の検知という実績が上がっているという報道もありますが、その一方で賛否両論が起きています。

まず賛成意見としては、人命最優先という価値観から、具体的な救命ができているという考え方があります。各国・各州の警察当局からは、そのような声がありますし、精神病医の中にはそのような見解があると報じられています。

また、特に銃社会であるアメリカの場合は、自殺衝動から乱射事件を起こして無関係な多くの人を「巻き添え」にするケースがあることから、その「予兆」が自動的に発見できることへの評価もあります。

その一方で、反対意見も多くなっています。

一番多く指摘を受けているのは、プライバシーの問題です。メンタルヘルスという、人間にとって最もプライベートな問題を、本人の了承なしに警察当局など第三者に渡すということは、例えば欧州では2018年5月に実施された「EU一般データ保護規則(GDPR)」に違反します。従って、フェイスブックは、この自殺防止モニターについてはEU域内では実施していないとしています。

この点では、アメリカ国内でも批判があります。例えば、一般的に医療関連の企業や団体に要求されるプライバシー管理の水準と比較して、フェイスブックの対応は緩すぎるというのです。

少なくとも、医療機関の場合、メンタルヘルスの問題は、本人の同意なく第三者に渡すべきではないという規則が徹底しているからです。

精神科医などの専門家からは、フェイスブックのアルゴリズムが「粗雑にすぎる」という批判が出ています。

例えば、「とても悲しい」とか「自分はひとりぼっち」という字句を見て危険というフラグを立て、それに呼応するような内容が発見できると自動的に警告が出るというのは「まるでブラックボックスに等しい」というのです。

つまり、人間の自殺意思というのは、もっと複雑な前後の文脈を見て判断しなくてはならない中で、判断の精度が低すぎるという意見です。

これに対してフェイスブックは、AIによる統計処理だけでなく、実際に警告を出す際には専門家による監視がされるとしていますが、その「専門家」というのは、医師免許とか学位という本格的なものではなく、内部研修を受けたスタッフという意味合いのようで、この点に関しても批判があります。

また本人だけでなく、友人のコメントもチェックの対象となっており、「悲しい」という本人の書き込みに対して「私が助けてあげる」とか「大丈夫」といった周囲の反応もAIはチェックして、全体的な会話が一定のパターンに入ると自動的に警告をするというのですが、自殺の危険があるという本人だけでなく、周囲の発言までモニターされることへの抵抗感も多く聞かれます。

フェイスブックに関しては、2016年の中間選挙において政治的な意図を持った団体や人間が、加入者のプライバシーにアクセスできたことで大きな批判を浴び、そのプライバシー情報の管理体制が厳しい批判にさらされています。

現在の批判は、政治的な利用から発展して、フェイスブックを含む多くのネット関連企業が、お互いにプライバシー情報を共有していた問題に移っていますが、利用者の怒りはさらに増大しています。

そんな中で、このAIによる自殺リスクの警告システムを成功させることで、フェイスブックとしては「プライバシー情報を利用することが、公益となる」という事例を作りたいという意図も感じられます。

この自殺リスク検出システムですが、フェイスブックでは日本でも稼働されていると発表しています。

日本の場合は、自殺による死亡率が高いことから有効性への期待がある一方で、日本語のニュアンスを読み取ることの難しさについては、相当にハードルが高そうにも思われます。また、プライバシーへの感覚ということでは、アメリカとも欧州ともまた違った厳しさと緩さとがあります。

すでに稼働しているということですが、日本での運用については、もっと透明性を高め、しっかり賛否両論のディスカッションをすると同時に、医療機関や警察などとの連携をきちんと制度化することも必要と思います。【1月9日 Newsweek】
******************

「俺もう死にたいよ!」なんてコメントすると、本人が知らないところで警察に通報がいく・・・というのは、どうでしょうか?

まあ、自殺予防ということであれば一定に受け入れられるかとも思いますが、そういうことができるということは、ネット上の投稿内容などをAIが判断して、危険思想の持主かどうか?政府に批判的かどうか?といった判断も容易にできるし、すでに現在も行われている・・・ということでしょう。(2013年にスノーデン容疑者が明らかにしたように、世界のあらゆる情報は情報機関などによって一定の管理下にあるようですから)

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エチオピア  民族間の融和、エリトリアとの関係改善、経済活性化・・・期待されるアビー首相の改革

2018-10-15 21:54:54 | 民主主義・社会問題


(首都アディスアベバにおいて「暴力のない生活へ」というテーマで開催された女子マラソンの参加者 【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】)

民族間の対立で混乱するエチオピアで、初のオロモ州出身首相
エチオピアでは、少数民族ティグレ人が政治・経済を掌握しており、疎外されてきた最大民族オロモ人らの不満が噴出していました。

長引く混乱を受け今年2月にハイレマリアム首相が辞意表明したのに続き、非常事態を宣言。

そうした混乱を収拾すべく与党連合は3月、政府に抗議行動を続けてきた最大民族オロモ人であるアビー・アハメド元科学技術相(42)を新首相に選ぶことを決めました。民族間の緊張緩和が期待しての起用でした。

そのあたりの話は、6月24日ブログ“エチオピアとジンバブエで政治指導者を巻き込む爆弾テロ 背景に政変への不満層か?”でも取り上げましたが、簡単になぞると以下のようにも。

****アビー首相の誕生****
(中略)2012年、メレス首相の死去により首相の座を引き継いだSEPDMを代表するハイレマリアム・デザレン首相は、こうしたオロモ州とアムハラ州、オガデン地区を中心とした反政府運動の高まりを受け、政治犯の解放や拷問を行った刑務所の閉鎖を行うことで鎮静化を図った。

しかし、相次ぐ再逮捕により反政府勢力との溝を埋められず、自身の政治改革や経済改革も与党内でティグレ勢力によって阻まれたハイレマリアム首相は、2018年に辞任を発表した。

そして、その後任として初オロモ州出身首相となったのがアビー氏であった。

アビー首相は、オロモ出身だけでなく、ムスリムの父とキリスト正教会の母を持ち、与党を構成する民族のオロモ、アムハラ、ティグレの言語を話すことができるという多様なバックグラウンドがある。

4月の就任演説では、過去の政権による反政府勢力の殺害を謝罪し、国民が政府に異議を唱えることを歓迎するなど民主主義への姿勢を示した。

このように、アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている。(後略)【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】
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アビー首相の進める隣国エリトリアとの関係改善は、東アフリカ全域の緊張緩和にも
“アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている”ということの、代表事例が前回ブログでも触れた、長く対立してきた隣国エリトニアとの関係改善です。

エリトリア・・・・「ああ、バルト三国の・・・」というのは“エストニア”(今、書いていても混乱しますが・・・)
エリトリアは東アフリカ「アフリカの角」にあって、その閉鎖性から「アフリカの北朝鮮」とも呼ばれてきた国です。北朝鮮同様の国内の過酷な独裁的政治事情もあって、欧州などへの難民も非常に多い国です。(欧州に流入する難民のなかで、シリア人に次いで多いのがエリトリア人とも)

前回ブログでは、エチオピアのアビー首相が、仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の国境画定委員会が定めた境界線を受け入れる形で、国境係争地をエリトリアに返還することを表明し、関係改善に乗り出したところまで取り上げましたが、その後、その成果が形となって表れています。

****エチオピアとエリトリア、戦争終結 「平和友好共同宣言」調印****
エチオピアとエリトリアは(7月)9日、エリトリアの首都アスマラで共同声明を発表し、「戦争は終結した」と表明した。アスマラで一連の歴史的な会談を行った両国首脳は、20年にわたる対立と紛争に終止符を打つことで合意した。
 
エリトリアを公式訪問したアビー・アハメドエチオピア首相とイサイアス・アフウェルエリトリア大統領が「平和友好共同宣言」に調印した。

このことをツイッターで明らかにしたエリトリアのヤマネ・ゲブレメスケル情報相によると、共同宣言は「両国間の戦争は終結し平和と友好の新しい時代が始まった」とした上で「両国は政治、経済、社会、文化、安全保障の面で緊密に協力していく」とする内容。
 
エチオピアの政府系ニュースメディア、ファナ放送会社は、エチオピア航空が早ければ来週にもエチオピアの首都アディスアベバとアスマラ間で旅客便の運航を開始すると伝えている。
 
両国間では20年ぶりに直通電話回線も復旧し、国境を隔てて離ればなれになっていた家族が会話できるようになったことに喜びの声が上がった。

アディスアベバで製品デザインに携わる30歳の男性はAFPの取材に対し、エリトリアに住む家族の声を戦争後初めて聞いたとして「(嬉しさを表す)言葉が見つからない」と述べた。

「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ最東北端部に位置するエチオピアとエリトリアの間では、1998年に国境紛争が発生し、2000年の停戦までに8万人が死亡した。その後もエチオピアは国連の仲介で定められた国境線に反発し、対立が続いていた。
 
4月に就任したアビー首相は改革路線を推進。国境紛争については6月、紛争のきっかけとなった村バドメのエリトリア帰属を認めた2002年の常設仲裁裁判所・国境画定委員会の決定に従い、バドメを含む国境付近の係争地をエリトリアに返還する方針を表明し、これを機に両国の雪解けが始まっていた。
 
共同宣言の署名式を終えたアビー首相は9日、2日間の公式訪問を終えて帰国の途に就いた。【7月10日 AFP】
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アビー首相によるエリトリアとの関係改善は、両国関係にとどまらず、ジブチ・ソマリアを含む東アフリカ地域全体の緊張緩和をもたらしています。

*****ソマリア首都に41年ぶりの直行便、エチオピアの航空会社****
エチオピアの航空会社が13日、首都アディスアベバとソマリアの首都モガディシオを結ぶ直行便の第1便を運航した。両都市間で商用便が運航されたのは41年ぶりで、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ最東北端部で国境を接する両国の関係改善が改めて示された形だ。
 
関係者によると、エチオピアの民間航空会社ナショナル・エアウェイズの航空機が、モガディシオのアデン・アッデ国際空港に到着した。ナショナル・エアウェイズは直行便を週4便運航したいとしている。
 
同社のオーナーで最高経営責任者のアベラ・レミ氏はアデン・アッデ空港で開かれた記念式典で、「アディスアベバとモガディシオの直行便が運航を開始した今日はわれわれにとって歴史的な日だ。ここまでの道のりは決して容易ではなく、厳しい状況に何度も直面したが、最終的に成功し、ようやくこの日を迎えることができた」と語った。
 
7月には、エチオピア航空がアディスアベバと隣国エリトリアを結ぶ直行便を20年ぶりに再開した。

かつて両国は長年対立し、国境をめぐる紛争では大勢の死者が出たが、今年はエチオピアの若手改革派であるアビー・アハメド首相が主導した和平プロセスにより、関係改善が急転直下で進んだ。

これを受けて域内の外交関係は目まぐるしく変化し、ソマリアとエリトリアの国交回復や、ジブチとエリトリアの関係正常化への動きももたらした。【10月14日 AFP】
*****************

最速「ボルト首相」の“救世主”的改革 課題と期待
これだけでも、“ノーベル平和賞”級の成果ですが、アビー首相の改革路線は外交にとどまらず、国内の民族間の融和(これが最大課題でしょう)や経済改革(外資参入を拒み独占状態だった国営エチオピア航空や国営通信会社エチオテレコムなどの株式を国内外の投資家に一部売却する方針を表明)に及んでいます。

“就任後2カ月で、国内外の課題解決に矢継ぎ早に取り組む首相の姿勢は強い印象を与え、短距離走の元最速王者になぞらえて「ボルト首相」と呼ぶ声も出ている。”【6月16日 毎日】

もちろん、改革が大胆で、急速であればあるほど、抵抗も強くなります。当然に、これからの課題も多々あります。

****エチオピア大改革:アビー新首相は救世主となれるか****
(中略)
アビー改革は政治問題の解決となるか
初のオロモ出身首相であるアビー首相の誕生は、オロモでの政治的不満に対する鎮痛剤の役割を果たした。彼は、オロモの民衆の不満の原因となっているティグレが支配する政治の改革を進めようとしている。

加えて、権力独占が再び起こらないようにするため、首相に任期制限が適用されるように憲法を修正する予定だ。

これらの改革はオロモで歓迎され、不満が緩和されたことで、デモの減少や緊急事態宣言の解除につながった。

また、アビー首相はオガデン地区に対して、政治犯の拷問や拷問を行っていた刑務所の廃止、停戦合意を行うことで和平を目指そうとしている。これにより、長年にわたるソマリ系移民とエチオピア政府との溝が埋まることが期待されている。

そして、アビー首相は国外において最も対立が激化していたエリトリアとの和平にも着手した。エチオピアとエリトリアの国境争いを終わらせる歴史的な「平和と協力の宣言」を発表し、2018年6月エリトリアの首都アスマラにおいて、エリトリアのイサイアス大統領との会談を実現させた。

この会談において、バドメ地域のエリトリアへの帰属を合意が為され、和平が成立した。加えて、国交正常化も実現し、ブレなどの国境が通れるようになったことで、内陸のエチオピアはこれまでジブチからしか海にアクセスできていなかったが、エリトリア側からのルートも開かれた。

国境により断絶されていた家族が再会し、両国間の通話や航空便が利用できるようになるなど、その恩恵は非常に大きく、現地は祝福ムードに包まれている。

また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。

残る課題
こうしたポジティブな報道が続く一方で、エチオピアでは解決すべき課題は多く残っている。

アビー首相の誕生とその改革も全国民が喜んでいるわけではない。6月23日、手榴弾がアビー首相の政治集会にいる群衆に投げ込まれ、1人が死亡し153人がけがを負うという事件が起こった。

アビーは、複数政党による民主主義の活発化を図っているが、必ずしも与党の票を維持しながら野党と仲良く共存できるとは限らない。

次の2020年の選挙で、予想される議席の再分配が摩擦や対立につながる可能性もある。

アビー首相の誕生による効果が最も期待されたオロモ州においても、問題は多く残る。オロモの人々の中にはエチオピアからの独立を目指す分離主義者も存在しており、彼らはアビー首相を裏切者だとみなしている。

また、亡命していたOLF(オロモ解放戦線)のリーダーたちと1,500人の兵士が9月にエチオピアに戻ったが、それにより首都アディスアベバで衝突が起こり、23人が亡くなった。

また、法制度や警察は、長年非民主的な政権の干渉を受ける存在であったため、これらの機関が中立を保ち、法の支配を高めることが今後の課題である。

経済面においても海外からの多額の負債を抱えており、深刻なインフレに陥っている。これを受けて、政府は市場開放や国営企業の民営化といった経済改革に着手しており、それによって経済の活性化を成し遂げられるかが鍵となりそうだ。

これまでエチオピアでは、近隣国や民族などの様々な利害が絡み合い、争いが長く続いたことで不安定な情勢が続いていた。

しかし、そのような状況の中で就任したアビー首相は、ほとんど改革が施されてこなかった既存の政治体制や経済に関して、新たな方向へと舵を切った。

その第一歩として、長年問題とされてきたオロモ問題の緩和やエリトリアとの和平が次々と実現させているアビー首相は、まさにエチオピア国民にとって大きな希望であるといえる。

一方で、エチオピアにはまだまだ多くの課題が残っている。アビー首相は国民の大きな期待に応えて救世主となれるのか。よりよい国と地域の実現に向けたさらなる変革を今後も期待したい。【9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】
**********************

もちろん現地ではいろんな評価、問題があるのでしょうが、日ごろ暗いニュース、陰惨なニュース、刺々しい対立のニュースが多い国際面にあって、珍しく明るい、希望が持てるエチオピア・アビー首相の改革に関する話題です。

これまで、遠くて時間がかかるアフリカはエジプト以外は行ったことがありませんが、来年あたりエチオピア観光というのも「あり」かも。日本からは中東乗り換えで、一番近いアフリカでしょう。興味深い観光資源がいろいろあるようです。

なお、「アフリカの北朝鮮」ことエリトリアも今でも観光できるようです。エチオピアとの関係が改善して直行便も飛び、旅行者が増えれば、これからは今以上に旅行しやすくなるのかも。(エリトリアの観光資源は・・・・知りませんが)

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トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で、サウジ反政府ジャーナリストが行方不明

2018-10-06 22:34:25 | 民主主義・社会問題

(トルコ・イスタンブールのサウジアラビア領事館前で、行方不明となっているサウジ人記者ジャマル・カショギ氏の写真を掲げて抗議する人々(2018年10月5日撮影)【10月6日 AFP】
トルコ・アラブメディア協会主催の抗議で、一般国民の動向とはまた別もののようにも)

サウジ皇太子「トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構」
大使館や領事館は現地の当局でも立ち入りが困難で、映画・TVドラマでは、しばしば事件の舞台ともなります。

トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で起きた“反政府ジャーナリスト行方不明”事件もそんなドラマを思わせるような展開です。

****サウジ批判のジャーナリストが行方不明 訪問先トルコで****
サウジアラビア政府を批判してきた同国の著名ジャーナリストが、訪問先のトルコ・イスタンブールで行方不明になり、両国の対立を招いている。

トルコ政府は「イスタンブールのサウジ総領事館内にいる」と主張し、サウジ政府は「総領事館を出た後、行方不明になった」と反論。両政府の言い分は真っ向から食い違うため、外交問題に発展することが懸念されている。
 
行方不明になったのは、サウジ国籍のジャマル・カショギ氏。米国を拠点にワシントン・ポスト紙などに寄稿し、サウジのイエメンへの軍事介入やムハンマド皇太子が主導する改革に批判的な論調で知られる。
 
AP通信などによると、カショギ氏は2日、結婚の手続きのためにイスタンブールのサウジ総領事館に入った後、行方がわからなくなったという。

カショギ氏の婚約者が総領事館の外で同氏が出てくるのを待っていたが、入館から数時間経っても出てくる姿を確認できなかったという。
 
トルコ大統領府のカルン報道官は3日の記者会見で、カショギ氏はサウジ総領事館内にいるとの見解を示した。だが、サウジ側はこれを即座に否定した。
 
トルコとサウジは昨年6月、サウジがカタールと断交したことをめぐり、トルコがカタールを支持し、外交関係が一時ぎくしゃくした経緯がある。

中東の地域大国であるトルコとサウジが、カショギ氏の行方不明問題をめぐって再び外交関係をこじらせれば、二国間だけでなく地域全体に影響が及ぶことが危惧される。【10月5日 朝日】
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TVニュースによれば、カショギ氏はこのような事態になることも懸念していたようで、総領事館に入る前に、外で待つ婚約者に「もし、自分が出てこないときは・・・・」と、そうした場合の対応を指示していたとか。

総領事館前では5日、カショギ氏の「解放」を求める支持者の集会が行われたとも。

この件に関して、サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子は、「トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構」と語っているとか。

****スパイ小説並みのサウディ・ジャーナリストの消息****
(中略)アラビア語メディアはサウディの皇太子が5日、
「総領事館の施設はサウディの主権下にあるがサウディ側としては何も隠すことはないので、トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構である」と語ったとのことです。【10月6日 中東の窓】
********************

なお、【中東の窓】を書かれている野口氏は外交官として働いていらしたので、サウジ皇太子の“総領事館の施設はサウディの主権下”云々に関して、以下のようにも。

“国際法上は不正確。総領事館施設等は不可侵権を有するが、その国の主権下にあるわけではない。
また同じく不可侵権を有する大使館とは違って、火災等の際には、施設団の長の許可なしに官憲が立ち入ることができることになっていて、若干不可侵権も制限されている。”

上記記事によれば、al jzeera netなどでは、“khshoiggi は素早く総領事館から表に連れ出され、さらにトルコ外に移送され、現在はジェッダの牢獄に閉じ込めらている”といった情報も流れているとか。

そのように、すでに移送済みのために“トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構”と開き直っているのか、あるいは、いくらトルコ・エルドアンが怒っても、さすがにサウジアラビア総領事館に立ち入ることはしないだろう・・・と考えているのか(実際に立ち入って見つけることができなければ、トルコ側としては振り上げたこぶしの下ろしどころがなくなります。)。

サウジアラビアでは、2012年に米国務省の「勇気ある国際的な女性賞」を受賞した女性権利活動家サマル・バダウィ氏が拘束され、解放を求めるカナダ(【8月6日 Bloomberg】ではバダウィ氏自身がカナダ国籍を有するとされていますが、【8月30日 朝日】では、やはり反政府的ブロガーでサウジ政府に拘束されている弟の妻がカナダで解放を求めて活動しており、カナダ国籍を取得したとも。)との間で、サウジ側が「露骨な内政干渉」だと猛反発、駐カナダ大使の召還や、新規の貿易や投資の凍結を表明するなど外交問題に発展しています。

上記のようなサウジアラビアの政治体質を考えれば、今回“事件”も、ありそうな話です。

なお、上記【中東の窓】によれば、中東ではこの種の拉致事件は珍しくないとも。

*******************
小説そのものみたいになってきますが、中東関連ではこの種の話は必ずしも珍しくなく、ふと思いつくだけでも、

イスラエルの核施設で働いていた技術者が英国に亡命し、核兵器の秘密を暴露した時に、モサドが美人スパイを使って罠にかけ(こういうのをhoney trap 蜜の罠と言うが)誘拐して、イスラエルに連れ帰り、裁判にかけて有罪とした事件 
   
逆に失敗した事件では、1966年だったか、エジプト情報局がイスラエルとの2重スパイの嫌疑で、情報員1名を拉致して外交荷物と書いた木の箱に入れて、カイロに送ろうとして、彼が空港で騒ぎだして・・麻酔が切れたか?・・ばれた事件(中略)

等があり、もう少し思い出せれば、いろいろと出てくるかと思いますが、この記事が事実であれば、サウディ情報局等は、周到に用意の上、結婚手続きの書類を渡すという口実でkhasshoggi を総領事館におびき出し、拉致したものでしょう。(後略)【10月6日 中東の窓】
********************

政府批判派拉致では似たような体質のトルコ
なお、仮にサウジアラビアが反政府ジャーナリストを在トルコ総領事館で拉致したとしても、もう一方の当事国トルコも似たようなことをやっており、あまりサウジを非難できる立場でもないようにも。

****外国で批判派を拉致するエルドアンの国際感覚****
トルコのエルドアン大統領は9月28日、訪問先のドイツでメルケル首相と会談。アメリカ在住のイスラム教宗教指
導者フェトフッラー・ギュレン師を支持する「ギュレン運動」関係者の引き渡しを求めた。
 
エルドアンは16年7月のクーデター未遂事件をギュレン派の仕業と断定。徹底した弾圧と権力強化を図ってきた。既に何千人ものジャーナリスト、政治家、公務員が職を追われ、刑務所に送られた。
 
ギュレン本人の身柄についてもアメリカに引き渡しを要求しているが、オバマ前政権もトランプ現政権も十分な証拠がないとして拒否。
ドイツ政府当局者も、この問題を分析するための時間がもっと必要だと述べた。
 
ギュレン運動は世界100カ国以上に宗教学校を設立。支持者が教師を務めている。トルコ政府は外交ルートを通て学校の閉鎖と教師の引き渡しを求めているが、時には力ずくで拉致しようとすることもある。
 
今年7月には、モンゴルでトルコ人教師が拉致されて飛行機に乗せられ、離陸直前に事件を知ったモンゴル当局に阻止されるという出来事があった。
 
3月にはコソボで、6人のトルコ人が正当な法的手続き抜きで突然、国外追放になった。トルコ側の報道によれば、この身柄引き渡しにはコソボ当局も協力したが、後に同国政府内部で意見対立が表面化。コソボのハラディナイ首相は内相と情報機関のトップを解任した。
 
コソボ政府当局者は本誌に対し、同国でエルドアンは100人前後の拉致を計画していたと語った。
 
関係者の引き渡しを求めるエルドアンをメルケルは「証拠不十分」といなした。アメリカとの対立や通貨危機による苦境を打開したいエルドアンだが、ドイツで明らかになったのは人権感覚をめぐる世界との溝だった。【10月9日号 Newsweek日本語版】
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サウジアラビアにしても、トルコにしても、似たり寄ったりの政治体質です。

サウジアラビア 国営石油会社「サウジアラムコ」の株式上場は2年延期
その両国に関する話題を1件ずつ。
サウジアラビア関連では、以前も取り上げたことがある、世界最大の国営石油会社「サウジアラムコ」の株式上場の件。

****サウジアラビア 国営石油会社の株式上場計画を2年延期****
サウジアラビアのムハンマド皇太子は、史上最大規模になるとして注目されてきた国営石油会社「サウジアラムコ」の株式上場の計画について、ことし予定されていた計画を2年程度、延期する考えを示しました。

サウジアラビアは、世界最大の国営石油会社「サウジアラムコ」の株式を上場させ、売却で得たばく大な資金をもとに、石油以外の分野への投資を加速させる計画を進めています。

アメリカの大手メディア、ブルームバーグは5日、計画を主導するムハンマド皇太子が、ことし予定されていた株式の上場を早くても再来年の後半まで2年程度、延期する考えを示したと伝えました。

その理由についてムハンマド皇太子は、「サウジアラムコ」に政府系の石油化学会社を事実上統合させて企業価値を高めるためだとしています。

この計画は、上場後の時価総額の見通しが日本円で200兆円規模に上ることから、世界最大規模の株式上場として日本はじめ各国で注目を集めていますが、上場先の海外の取引所も決まっておらず、実現には懐疑的な見方が出ていました。

ムハンマド皇太子は、こうした見方を否定したうえで、「石油化学の需要はまだ伸びる」と述べて、計画の実現に自信を示しました。

上場計画が実現しなければ、脱石油の経済改革が看板倒れに終わるおそれも指摘されているだけに、ムハンマド皇太子としては、新たな上場の時期をみずから明らかにすることで、不安を払拭(ふっしょく)したい狙いがあるものとみられます。【10月6日 NHK】
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以前取り上げた際(9月1日ブログ“サウジアラビア 対外的強硬路線を突き進む皇太子 国内改革の中核事業に国王反対”)には、皇太子の父親でもあるサルマン国王が同計画に反対している・・・との反皇太子派からのリーク情報を取り上げましたが、そのあたりはどうなったのでしょうか?

いかに“実力者”皇太子とは言え、国王が正式に反対を表明していては実現できません。

なお、「サウジアラムコ」の株式上場は皇太子が進める改革の財源となる中核事業ですが、ムハンマド皇太子がたとえ国王の反対にあっても、あるいは反皇太子派の妨害があっても、この脱石油の改革にまい進するのは、電気自動車の普及など、「いずれ石油に対する需要は先細る、そのとき石油しかないということではサウジアラビアは立ち行かない」との危機感があるようです。

邪魔するものは、たとえ王族であろうが切り捨ててでも改革を実現する・・・との覚悟のようですが。

トルコ EU加盟交渉の継続問う国民投票検討
トルコ関連では、ほとんど形骸化しているEU加盟交渉の話。

****トルコ大統領、EU加盟交渉の継続問う国民投票検討へ****
トルコのエルドアン大統領は4日、長らく行き詰まっている欧州連合(EU)加盟交渉を今後も継続するかどうかを問う国民投票の実施を検討すると明らかにした。

トルコのEU加盟交渉は2005年に正式に始まった。国民投票の結果次第では交渉が打ち切られ、トルコは欧米諸国と一段と距離を置くことになるかもしれない。

エルドアン氏はイスタンブールでの会合で「もう2018年になったが、EUはまだわれわれを待たせている」と指摘。8100万人がどのような決定をするか、国民投票にかけることを検討する考えを明らかにした。

国民投票の実施が決まれば、すぐにそれに向けた措置を実施すると説明した。【10月5日 ロイター】
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EU側に人権などの価値観が異なる(あえて“宗教が異なる”とは言いませんが)トルコを本気でEUに迎え入れる考えはないでしょう。特に、イスラム主義を鮮明にしつつあるエルドアン政権では。

トルコより後から加盟交渉に入った国が、トルコを追い抜いて加盟への手続きを進めています。

ただ、あえて加盟交渉打ち切りの国民投票実施となると、EUとの間でまた波風が大きく立ちそうです。
加盟交渉を行っているということが、EUとトルコの関係を調整するうえでの枠組みともなってきました。

国内的にも、EUとの関係を重視する世俗派・反エルドアン勢力との対決姿勢が鮮明になります。

EUとしては、難民問題で防波堤となっているトルコとの関係は必要不可欠なものにもなっています。メルケル首相がギュレン派関係者の引き渡しを求めるエルドアン大統領と会談を続けているのも、そうした事情あっての話です。
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