孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  「ヒジャブ」問題に端を発した抗議デモ 現体制を終わらせる事態になりうるのか?

2023-01-06 22:11:55 | イラン
(マフサ・アミニさんの死から40日目、アイチ墓地に数千人が向かう様子。2022年10月にツイッターに投稿された写真。【1月3日 ARAB NEWS】)

【長引く「ヒジャブ」に端を発した抗議デモ】
イランでは、22歳の女性が髪を隠す布「ヒジャブ」の「不適切」着用を理由に逮捕され、急死した事件を受けた抗議デモが3カ月以上続いています。

単に、死亡した女性の問題、あるいは、「ヒジャブ」の問題にとどまらず、デモ参加者は「自由」を求め、「独裁者(ハメネイ最高指導者)に死を」といったスローガンが叫ばれ、現体制そのものへの抗議にもなっています。

最高指導者ハメネイ師は、デモ隊の一部はアメリカに扇動された「暴徒」だと断じ、警察官や革命防衛隊の傘下にある民兵組織「バシジ」が銃器も使ってデモ鎮圧を図ってきました。

死傷者は増え続けており、ノルウェー拠点の人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」によると、2022年12月17日時点で、デモ参加者ら計469人が死亡。一方、治安部隊の犠牲も出ており、イラン地元紙は同10日、計60人以上の治安部隊員が死亡したと報じています。【日系メディアより】

情報統制が厳しいイラン国内のことですから、犠牲者はもっと多い可能性もあります。

抗議行動が収まらないなかで、デモの対応にあたる治安部隊の間で「疲れ」が出ている、「治安部隊にとってもデモの終わりが見えず、自分たちが危険な目に遭う恐れが増している。隊員の間で疲弊感が漂い始めている可能性はある」(在テヘランの外交関係者)といった情報も伝えられています。

体制側も“引き締め”を図っています。

****イラン、対米批判強め結束誇示 精鋭部隊司令官殺害から3年****
イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が米軍に殺害されてから3年となった3日、ソレイマニ氏の出身地ケルマンにある墓には大勢の市民が訪れ、祈りをささげた。

イラン指導部は各地で追悼式を開いて、体制への抗議デモを支援する米国に対する批判を強め、保守強硬派を中心とした市民の結束を内外に誇示した。

市民は墓に白い花を手向けたほか、手を置いたり口づけをしたりして追悼した。ソレイマニ氏は過激派組織「イスラム国」(IS)に対峙した英雄として国民の人気が高い。

米軍は2020年1月3日にソレイマニ氏らをイラクで殺害した。【1月3日 共同】
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【「イスラム革命体制が今回の反政府デモで倒れると思うのは希望的観測に過ぎない」との見方】
昨年12月にはイランの検事総長が、国民に不評で今回問題の発端となった道徳警察の廃止に言及すような“体制側の譲歩”とも見えるような動きもありましたが、今後の焦点は、長引く抗議行動で現体制が危機に瀕するようなことがあるのか・・・という点になります。

これに関しては、論者によって差があります。“差”というより、どの側面を重視してものを言うか・・・ということでしょう。

下記は、“今回の反政府デモがイランのイスラム革命体制を脅かすとは思われない”という趣旨の記事です。

****続くイラン抗議デモ だが革命体制崩壊は希望的観測****
米ヴァージニア工科大学のイスファハーニ教授が、Project Syndicateのウェブサイトに、最近のイランの反政府デモについて‘Iran’s Conservative Tightrope’と題する論説を寄稿し、今回の反政府デモがイスラム革命体制を脅かすとは思われないと断言する一方、イラン革命後、女性の教育水準が高くなっているにもかかわらず、保守強硬派は、服装規定を女性に強要しようとして今回のデモを招いたなどと指摘している。要旨は次の通り。

イランのデモはテヘランから田舎に拡大し、その要求も道徳警察に対する抗議から、「独裁者(ハメネイ最高指導者)に死を」に変わった。

しかし、今回の反政府デモがイランのイスラム革命体制を脅かすとは思われない。抗議デモは、政府を倒す手段を有していないし、体制側も分裂する兆しはない。国外の敵(サウジアラビア、イスラエル、米国)は、国内の異なる勢力を団結させることを助けている。

過去20年間以上、イランの改革派(ハタミ元大統領やロウハニ前大統領)は、限られた成果だがイスラム共和国をより寛容なものとするべく努力してきた。

苛立った保守強硬派は、真のイスラム革命とは何かを国民に分からせ、地域の覇権国家としてのイランの立場を確実にすることを期待し、非常に保守的なライシ師を大統領に当選させた。しかし、ライシ大統領は権限も経験も欠いている。

ヒジャブ着用の強制をめぐり、若い女性たちと体制側との緊張は徐々に高まっていたが、保守強硬派は注意を払っていなかった。多くの保守強硬派は、かえって、今こそ緩んだ1983年のヒジャブの着用規定のタガを締める時だと考え、公共の場での女性に対する監視を強めた。

しかし、1983年と比べイランの社会は変化している。かつてイラン女性は、高等教育を受けず、外で働かずに6〜8人の子供をもうけていたが、現在では、子供の数は平均2人で、20代の女性の38%が高等教育を受けている(同世代の男性は33%)。彼女たちは、道徳警察に逮捕され、再教育施設に入れられることは我慢できない。

10年間にわたる経済政策の失敗は、イランの若者達の怒りを蓄積させている。イランの大学の卒業生は、最初の職につくまで平均2年半も待たされている。ほとんどの20代後半のイラン人は、金銭的に自分達の家庭を作れず両親と同居している。

体制側は、反政府デモを沈静化させるには、大幅な経済成長の実現よりも嫌われ者の道徳警察を廃止する方が遥かに簡単であると考えるだろう。(中略)

*   *   *

多くの欧米のメディアは、問題児のイランのイスラム革命体制が倒れて欲しいという希望的観測に基づいて、ヒジャブ着用問題から始まった反政府デモの記事を書いているが、上記の考察は、状況を冷静に指摘している。

例えば、「今回の反政府デモがイランのイスラム革命体制を脅かすとは思われない。抗議デモは、政府を倒す手段を有していないし、体制側も分裂する兆しはない」と論じているが、これには同意できる。

また、サウジやイスラエルなどの反政府デモを支持している外国勢力がイラン国内で不評であり、かえって国内の団結を高めているという指摘や、イランの女性は1980年代には教育水準が低くかったが現在では男性よりも高等教育を受けているのでヒジャブの着用を強制されることは耐えがたく感じているという指摘は、非常に参考になる。

12月4日、イランの検事総長が道徳警察の廃止に言及し、また、ヒジャブ着用規定についても見直しが進められているという報道が流れている。しかし、この体制側の譲歩について、今回の反政府デモでいよいよイスラム革命体制がぐらつき、譲歩を強いられたと考えるのは早計であろう。

デモの限界を見透かすイラン当局
むしろ、12月初めにクルド人地域で革命防衛隊がかなり強硬な反体制デモ弾圧を行い、9日には反体制デモ関係者1名が処刑されたことに見られるように、体制側は反体制デモの限界を見極めた上で、事態の収拾に動き始めたと見られる。

今回の道徳警察の廃止も、反体制デモからデモのきっかけとなった女性達を引き離す効果を狙っての戦術と思われる。

反体制デモ側は、12月5日から全土で3日間のゼネストを呼びかけ、バザール(市場)の商店が閉まっている写真が一部の西側メディアで取り上げられているが、それ以上のニュースになっていない。西側メデイアの期待と裏腹に、全国的なゼネストは失敗したのであろう。

40年以上かけて構築されたイスラム革命体制が今回の反政府デモで倒れると思うのは希望的観測に過ぎない。もちろん、国民をあからさまに抑圧する現在の保守強硬派一色に染まった独裁体制が、永遠に続くとも思えないが、今はその時ではない。

なお、保守強硬派のアフマディネジャド元大統領が、保守強硬派の支持者を裏切って、より広汎な個人の自由と道徳警察の廃止を訴えているらしいが、元大統領の真意は不明である。そもそも今回の反体制デモのきっかけとなった道徳警察は、同元大統領の時代に設置されたものである。【1月6日 WEDGE】
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【他の要因も加わって不測の事態もありうるとの見方も】
一方で、体制にはかつてない圧力がかかっており、「例えば、最高指導者の死や核施設に対する軍事攻撃が今後1年間で起こるかもしれず、そうなればイランの革命に重大な影響を与えるだろう」「弾圧の際の残忍さ・凶暴さに、深刻な経済的不安定が加われば、抗議運動にさらなるエネルギーが注がれる可能性がある」と、イラン体制の崩壊が引き起こされることもあり得るとする見方も。

****2023年展望:イラン体制の未来が危機に瀕している理由****
ワシントンD.C.:「マールギュ・バール・ディクタトール(独裁者に死を)」― イラン・イスラム共和国のほぼ全土を覆い尽くしたデモの大波のスローガンとなっている言葉だ。

報道機関は依然として国家の国内治安当局の厳しい統制下に置かれているものの、学校でのデモ、エネルギー施設でのストライキ、テヘランからアフヴァーズまでの主要道路沿いの集会などをスマートフォンで撮影した解像度の低い動画が、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師による支配をかつてないほどに揺さぶっている。

イラン体制が大きな挑戦に直面するのは2009年の「グリーン革命」以来だ。当時、ソーシャルメディアがリアルタイムのアクセスと、不満を抱え改革を求めるイランの若者たちのために大いに必要とされていた声を提供できるようになった時代に巻き起こったこの運動は、世界の想像力を捉えた。

2009年のデモに対するマフムード・アフマディネジャド大統領(当時)の体制の対応は残忍かつ迅速なものだった。
「イスラム革命」の限界点と思われた状況に世界は魅了されたものの、改革を求める声に応えたのは異常なまでの残忍さと大量殺人だった。それを実行したのは、政府の私服準軍事支部「バスィージ」と、革命防衛隊(IRGC)の特別部隊「パサドラン」だ。

イラン国内のデモ参加者たちはこれまでと同じく決意を固めている。「モジャヘディネ・ハルグ」の抵抗部隊のメンバーでイランの都市ラシュトから来たアテフェさん(32)は、「(イラン)国民の利益に反する体制のせいで貧困、破壊、着服が蔓延していること」が「反乱とデモのスピードと進展を加速させている」原動力だと語った。「この3ヶ月でイランは完全に変わりました」

ハメネイ師の治安部隊は今回ばかりは、持続的な全国的反乱となりつつあるデモを鎮圧するために以前と同じ戦略は使えないかもしれないと、観測筋や専門家は見る。

米国を拠点とする「民主主義防衛財団」のイランアナリストであるサイード・ガセミネジャド氏はアラブニュースに対し、ハメネイ師の体制が終焉を迎えるのは時間の問題だという考えを示した。

イラン体制による弾圧の犠牲者の写真を載せたプラカード。今月、パリのフランス国民議会の近く。(AFP)同氏は次のように語った。

「体制とイラン国民大多数の間には血の海が広がっている。改革計画の失敗を30年間経験し続けているから、政治改革だろうが経済改革だろうが社会改革だろうが、国民はもはや改革という神話を信じていない。体制が置かれているのは、デモに譲歩すればほぼ間違いなく自らの終焉を早めることになるという状況だ」

これまでイランでは、身体的・性的暴力や、変革を求める人々の処刑・大量逮捕は、経済・社会環境の改善を間もなく行うという約束と同時に行われてきた。しかし、この戦術も自然消滅したようで、妥協の可能性は低くなっている。

ガセミネジャド氏は次のように語った。「残忍な暴力の行使が体制の唯一の選択肢となっている。今のところそれは功を奏していない。たとえ一時的に効き目があったとしても、過去5年間に見られたように、あらゆるデモの後にはさらに大きいデモが起こるのだ」

それでは、2023年には1979年に始まった体制が崩壊するのだろうか。

そのような帰結もあり得ないとは言えなくなっている。IRGCが国民のデモを鎮圧しようとして暴力の行使を独占しているかもしれないが、他の要因も作用し始めており、イラン体制の崩壊が引き起こされることもあり得る。

ガセミネジャド氏は、「2023年には様々な要因によってイスラム共和国の運命が決まる」と予想する。
「例えば、最高指導者の死や核施設に対する軍事攻撃が今後1年間で起こるかもしれず、そうなればイランの革命に重大な影響を与えるだろう」

体制に対して突然ショックが与えられることもあり得る。ハメネイ師はもはやIRGCの精鋭部隊「コッズ部隊」元司令官のガーセム・ソレイマニ氏に頼ることはできない。2020年にバグダッドで米国のドローン攻撃により殺害されたからだ。(中略)

イラン体制はこれまで国内で、虐殺と政治的機敏性の合わせ技でこうした困難を乗り越えることができていたが、あらゆる階層の様々な思想的背景を持つ国民が直面している悲惨な経済状況が、支配層エリートに大きな存続の危機を突きつけるかもしれない。

ワシントンD.C.を拠点とする「戦争研究所」が最近発表したレポートは次のように述べている。「イラン経済は潜在的に重大な混乱の時期に入りつつあるようだ。最近になってデモの調整役やソーシャルメディアユーザーはイラン国民に対し、至急銀行預金を引き出し金(きん)を購入するよう呼びかけている」

「アメリカン・エンタープライズ研究所」で重大脅威プロジェクトの責任者を務めるフレッド・ケイガン氏は、イラン通貨の急激な下落によって前例のないインフレが進んでおり、銀行システムに深刻な負荷がかかっていると指摘する。

マクロ経済的トレンドとデモが相まって、経済の主要部門の大部分を掌握してきたハメネイ師とIRGC(革命防衛隊)は従来のビジネスの扱い方の再考を余儀なくされている。

ケイガン氏はアラブニュースに対し次のように語った。「この状況がどこに向かっているか、あるいはどれほど酷くなるかを判断するのは時期尚早だと考えている。しかし、体制が既に国民に対して行っている犯罪や、弾圧の際の残忍さ・凶暴さに、深刻な経済的不安定が加われば、抗議運動にさらなるエネルギーが注がれる可能性がある」

テヘランおよびイラン全土で続いているデモは、最高指導者アリー・ハメネイ師とその体制にかつてないほどの圧力をかけている。(UGC/AFP)同氏は、現在のデモは以前のものよりも良く組織されており、より持久力があると考える。

体制は銀行部門の支払い能力を維持することの重要性には特に意識的だ。銀行部門は、IRGCや、ハメネイ師が頼っている主要な支配層エリート家系を潤してきた慈善財団「ボニャド」と深く繋がっているからだ。

ケイガン氏は次のように語った。「イラン体制は自国の外貨準備を使用して銀行を救済せざるを得なくなる可能性に直面するかもしれない(…)デモ参加者たちは既に、協調的なストライキやボイコットを利用して限定的な経済的混乱を引き起こす実験をしている」

また、デモに対する体制の対応は最終的に、より的を絞ったアプローチの一環として銀行口座や引き出しの凍結にまで拡大するかもしれない。しかし、そのような取り組みによって「体制にとって非常に問題となるような形で連鎖が始まる可能性がある」とケイガン氏は言う。

体制を維持している経済的エンジンは、イランのより広範な地政学的野心と密接に絡み合っている。ロシアのウクライナでの戦争機構を支援するためのシャヘドドローンの販売・輸出により、大いに必要としている資金を稼いでいるのだ。エネルギー輸出は、国内の前例のない混乱の中で体制が存続するのに十分な外貨準備をもたらし続けていると、ガセミネジャド氏は言う。

同氏は次のように語った。「イランは現在も日量110万バレル以上の石油を輸出しており、非石油輸出もまだ堅調だ。人権侵害者に的を絞って象徴的な制裁を科すのは結構なことだが、体制の弾圧機構の資金源となる収入を断つことを主要な優先事項の一つとすべきだ」

ハメネイ師とその後継者は難局を乗り切ることができる可能性もある。過去を振り返ると、国際社会、特に西欧は、イランの国内外での行動を非難した後にこぞって同国とビジネスをしていた。

しかし、経済が急激に悪化し、失うものはほとんどないと言うイラン国民がますます増える中、2009年には暴力的に鎮圧された変革のチャンスが2023年には訪れるかもしれない。【1月3日 ARAB NEWS】
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抗議行動だけでは体制は倒れないという点では、前出【WEDGE】記事とそんな差はないのかもしれませんが、イランと敵対するアラブ系メディアだけに“希望的観測”というか“期待”も幾分こめられているのかも。

国民が体制による残忍な暴力の行使をはねかえし、変革を実現するためには、社会・経済への別のインパクトも加わる必要があるでしょう。
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イラン  「風紀警察廃止済み」発言はあるものの、抗議行動への強硬対応を続ける公算大か

2022-12-11 23:21:23 | イラン
(【12月5日 ロイター】 火炎びんによるものと思われる炎と煙で騒然とするテヘラン市街)

【「風紀警察廃止済み」発言 一定の譲歩? 様子見の観測気球?】
イランでは、顔を覆うスカーフを適切に着用していなかったとして警察に拘束された22歳のクルド人女性が9月に死亡したことに端を発し、1979年のイラン革命以来最大規模の反政府デモが全土を揺るがしています。
国際的人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は11月29日、この反政府デモに関連して少なくとも計448人(うち子供60人)が殺害されたと発表しています。

ただ、情報が統制されているイラン国内での動きは伝えられる情報が少なくよくわかりません。犠牲者の実態ももっと大きい可能性もあります。なお、イラン内務省は200人が死亡したとしています。

よくわかりませんが、抗議運動は収まっていないようです。

****イランで抗議運動収まらず、新たにスト呼びかけも****
イランで女性の髪を隠すスカーフのかぶり方を巡って拘束された女性が死亡したことをきっかけに始まった抗議運動は、収束の気配が見えない。4日には新たにストライキの呼びかけが広がった。

女性の死亡後、抗議行動が2カ月余り続いた後、イランのモンタゼリ検察長官は女性を拘束した風紀警察を廃止したと発言。ただ風紀警察を傘下に置く内務省は、廃止を正式に認めておらず、国営メディアは風紀警察を監督する権限はモンタゼリ氏にないと伝えた。また複数のイラン政府高官は引き続き、女性にスカーフを適切に着用させる政策に変更はないと強調している。

こうした中で、抗議運動を展開している人々は3日間の経済活動をやめるストライキを行うとともに、7日に首都テヘランのアザディ(自由)広場に向けてデモ行進をしようと訴えている。ツイッターにシェアされたさまざまな個人の投稿内容をロイターが確認した。

この7日にはライシ大統領がテヘランで学生向けに演説をする予定だ。【12月5日 ロイター】 
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この呼びかけの結果、7日に何らかのデモがあったのかどうか・・・わかりません。

わからない話ばかりで恐縮ですが、当局側対応もはっきりしません。
上記記事にもある「風紀警察廃止」の話も、その情報が流れた直後には国営メディアが否定するということで、実際の動きがどうなっているのか・・・・

****「風紀警察は活動停止」 イラン、取り締まり緩和示唆 デモ収束は見通せず****
イランの検察当局者は4日までに、街頭で女性の服装を監視する「風紀警察」が活動を停止したと述べた。ロイター通信が伝えた。風紀警察は9月中旬、頭髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」を適切にかぶっていないとして女性(22)を拘束し、女性が不審死を遂げたことで大規模な反政府デモが起きる原因となった。

街頭では最近、風紀警察の姿が減ったとの観測があり、政府が取り締まりの緩和を示唆するシグナルを発した可能性もある。ただ、風紀警察を管轄する内務省は活動停止を確認していない。テヘランでは7日に反政府デモが行われる予定で、事態の収束にはつながらないとの見方が多い。

イランの通信社は3日、同国のモンタゼリ検察官が風紀警察は活動を停止したと述べたと伝えた。同検察官は「(国民の)振る舞いは引き続き監視される」としている。国営テレビ局アルアラムは、海外メディアが発表を政府の「後退」と評していると報じる一方、風紀警察は司法当局とは直接関係がないと伝えた。(中略)

イランはイスラム教を国教とし、聖典コーランに基づいて女性に全身が隠れる服装を義務付けている。ヘジャブもその一環で、風紀警察は街頭で女性の服装を監視し、連行して指導するケースもあった。(後略)【12月5日 産経】
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もし、実際に風紀警察が廃止されるなら、反政府抗議行動への一定の「譲歩」ともなります。しかし、風紀警察は内務省管轄で、内務省からの発表はありません。

****イラン検察幹部「風紀警察廃止済み」 取り締まり継続も****
イスラム法に照らして市民の服装などを監視するイランの風紀警察について、同国検察幹部が「すでに廃止された」と指摘した。イランの各メディアが4日報じた。風紀についてはイラン革命防衛隊の下部機関の民兵組織バシジも日常的に取り締まっており、市民への締め付けが実質で緩むかどうかは不透明だ。

イランでは9月、髪を隠すスカーフの着用が不適切だとの理由で風紀警察に拘束された女性が死亡したことをきっかけに反政府デモが各地に広がった。保守強硬派のライシ政権はなお収拾し切れておらず、デモ参加者に一定の譲歩を示した可能性がある。(中略)

風紀警察は内務省が管理し、組織改編にからむ権限を検察は持たない。保守強硬派のアハマディネジャド政権(当時)だった2006年に発足。穏健派のロウハニ前政権で活動が縮小したが、21年にライシ大統領が就任すると、存在感を高めていた。

反政府デモの参加者は、大統領を指導する最高指導者ハメネイ師も批判。各地で治安部隊と衝突している。(後略)【12月5日 日経】
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この「風紀警察」に関する情報は、その後目にしていません。
抗議が収まらない状況で、当局側にも対応に迷いはあるようです。

“死傷者が膨らむ中、イラン政府関係者によると、政府内にはデモへの武力弾圧に疑問の声も出ていた。ライシ大統領も過度な抑圧には慎重な見方を示しているとされ、政府内ではヒジャブをめぐる法改正や風紀警察による取り締まりの緩和を模索する動きもあった。”【日系メディア】

「ひとまず『廃止』と言ってみて社会の反応を見るつもりだろう」との見方もあるようです。

【最高指導者ハメネイ師の身内からも批判】
収まらない抗議行動ということでは、最高指導者ハメネイ師の身内からも批判が出ています。

****イラン最高指導者の妹、「専制」を非難 抗議デモ支持****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の妹バドリ・ホセイニ・ハメネイさんが、同師の「専制的」な統治を非難し、国内で続く抗議デモへの支持を表明する書簡が7日、公開された。(中略)

ハメネイ師は、イランと敵対する米国とその同盟国がデモを扇動していると非難。イラン当局はデモを「暴動」と呼んでいる。

イラン在住とみられるホセイニ・ハメネイさんは、フランス在住の息子マフムード・モラドハニさんがインターネット上で公開した書簡で、「私は兄の行動に反対している」と言明。ハメネイ師による統治を「専制的カリフ制」と呼び、1979年のイラン革命を主導したルホラ・ホメイニ師の統治時代から現在まで続くイラン政府の「罪」を憂いているすべての母親に同情すると表明した。

また、「私の関心はこれまでも、これからも、イランの人々、特に女性たちにある」とし、「人々の勝利と、イランを支配するこの暴政の転覆を早期に目にしたいと望んでいる」とした。 【12月8日 AFP】
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すでにハメネイ師のめいにあたる、上記バドリ・ホセイニ・ハメネイさんの娘も政権を批判し逮捕されています。

****イラン当局、ハメネイ師のめい逮捕 政権批判受け****
イラン当局は、最高指導者アリ・ハメネイ師が率いる政府について「残忍で子どもを殺す政権」だと動画で批判したとして、同師のめいを逮捕した。

ハメネイ師のめいのファリデ・モラドハニさんの親は反体制派で、自身、収監経験がある。

ファリデさんの兄弟であるマフムードさんはツイッターで、出頭を命じられたファリデさんが検察の事務所に出向いたところ、23日に逮捕されたと明らかにした。

マフムードさんは26日、ファリデさんの動画をユーチューブに投稿。ファリデさんはその中で「自由な人々よ、われわれと共に。 残忍で子どもを殺す政権への支持をやめるよう、あなた方の政府に伝えて」と語っていた。動画がいつ撮影されたかは不明。

ファリデさんは、ハメネイ師の姉妹であるバドリさんの娘。バドリさんは1980年代に家族と縁を切り、イラン・イラク戦争のただ中に敵国イラクに亡命していた。

イランの人権活動家通信によると、ファリデさんは今年4月から保釈中だった。今回再び逮捕されたため、禁錮15年を言い渡されている現行の刑の執行が再開されることになるという。現時点で容疑は明らかにされていない。【11月28日 AFP】
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ハメネイ師の妹バドリ・ホセイニ・ハメネイさんにしても、その娘のファリデ・モラドハニさんにしても、以前からの反体制派で、特に今回抗議行動で政権批判に転じたという訳ではないようです。
ただ、両名が改めてこの時期に政権批判を明らかにしているのは、「今が正念場」と認識しているからなのかも。

【政権側は今後も強硬対応を続ける公算が大 見せしめのデモ参加者死刑執行も】
一方のハメネイ師は(これだけでは何のことかわかりませんが)「国家の文化システムの革命的再構築」を呼びかけています。

****イラン最高指導者、文化システムの「革命的再構」求める****
イランの最高指導者ハメネイ師は6日、「国家の文化システムの革命的再構築」を呼びかけた。国営メディアが伝えた。

国家文化評議会の会合で、「国家の文化構造に革命を起こす必要がある。最高評議会は様々な分野での文化の弱体化に注意を払うべき」と述べたという。(後略)【12月7日 ロイター】
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「国家の文化システムの革命的再構築」・・・・何のことか意味不明ですが、「文化の弱体化に注意を払うべき」ということは“イスラム的価値観を守れ”ということなんでしょう・・・。

言葉より行動の方がわかりやすい。

****デモ参加者に初の死刑執行=「治安要員を襲撃」―イラン****
イランのタスニム通信によると、イラン当局は8日、抗議デモで「治安要員を刃物で襲撃した」などとして先に死刑判決を受けた男1人に対し、刑を執行した。執行は初めてとみられ、今後も強硬対応を続ける公算が大きい。

イラン当局はデモ参加者の多くを「暴徒」と見なして逮捕、訴追している。これまでに少なくとも5人が襲撃や放火などの罪で死刑判決を受けている。【12月8日 時事】 
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“今後も強硬対応を続ける公算が大きい”とのことのようです。

【最高指導部の権力が揺らぐ可能性は低い】
中国のコロナ対策批判で起きた白紙運動は、習近平体制にとってショッキングではあるにしても、それで体制が大きく揺らぐものでもないとの見方が一般的ですが、イランについても同様の見方です。

****イラン政治体制、抗議行動でも当面揺るがず=イスラエル軍分析官****
イスラエル軍の情報部門で首席分析官を務めるアミット・サール准将は5日の軍事系シンクタンクの会合で講演し、イラン国内で続いている抗議行動によってもイスラム聖職者が率いる最高指導部の権力が揺らぐ可能性は低いとの見方を示した。

イランでは髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切として拘束された女性が急死したことを巡り、全土で抗議デモが発生している。イスラエルはイランと長年の冷戦状態にある仇敵の仲。イスラエル情報部門はイラン当局による核開発を警戒・監視し続けている。

サール氏は「抑圧的なイランの政治体制はこれらの抗議を何とか乗り切っていくように思われる。イラン体制側は事態に対処するための非常に強力な手段を構築している」と指摘。ただ、抗議行動が弱まったとしてもそれらをもたらした要因は残り続けるとし、「イランの政治体制は何年も問題を抱えていく可能性がある」と予測した。

一方、同氏の上官に当たるアーロン・ハリバ少将は同じ会合で「長期的にはイランの政治体制が生き残ることはないだろう」と発言。その上で「自分はその日がいつかを示す立場にはない。われわれは予言者ではない」とも述べた。【12月6日 ロイター】
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最後の「長期的には・・・」云々は、イラン側もイスラエルについて同様の見解でしょう。

【双方とも窮地にあるロシア・イランの接近】
外交的には、イランはロシアへの接近を強めています。

****米高官「ロシアとイラン、本格的な防衛協力へと変化」…ドローン供与に欧米から批判****
米国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は9日、イランが8月以降、ウクライナを侵略するロシアに数百機の無人機(ドローン)を提供し、弾道ミサイル数百発の供与やドローンの共同生産を検討していると記者団に語った。両国関係が「本格的な防衛協力へと変化している」として警鐘を鳴らした。

ロシアもイランに対し、ヘリコプターや防空システムを提供している可能性があり、「前例のないレベルの軍事的、技術的支援を提供している」という。イランが今春、ロシアの主力戦闘機「Su(スホイ)35」の操縦訓練を受けたとの情報があり、来年にも機体を受け取る可能性があると分析した。

米政府は9日、イランからのドローンの輸送に関わったとして、露航空宇宙軍など3機関に制裁を科した。

ウクライナ情勢を協議するために9日開かれた国連安全保障理事会の会合でも、欧米はイラン製ドローンの対露供与を相次いで批判した。米国のリチャード・ミルズ国連次席大使は「イラン製無人機をウクライナでの戦争に用い、民間人の死者を生んでいるのはロシアだ」と指弾し、フランスは、国連が調査するよう求めた。【12月10日 読売】
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双方ともに追い詰められているロシアとイランが協力しあって・・・という話は、よくわからないことが多いイラン国内事情に比べるとわかりやすいです。

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イラン  国内の厳しい人権危機のなかで、“政治”に揺れるW杯出場チーム

2022-11-25 22:55:04 | イラン
(21日イングランド戦 イランの選手たちは試合前の国歌斉唱で口を閉ざしたままだった【11月22日 東スポ】)
(25日ウェールズ戦 試合開始前、国歌を歌うイランイレブン【11月25日 時事】)

【「スポーツと政治は別物」とは言うものの】
サッカーW杯カタール大会に関しては、日本チームの大活躍で盛り上がっていますが、これまでも取り上げたようにカタール国内の外国人労働者や性的マイノリティに関する扱いには大きな問題があります。

そのことをW杯に絡めて云々することは、日本では「スポーツに政治を持ち込むべきではない。スポーツと政治は別物」という考えで嫌われます。

欧米では、いろんな機会に個人の考えを表明することは是とされることが多く、スポーツ大会参加者が政治的な意思表示をすることは珍しくありません。国民も政治的な視点からイベントの是非を評価することも日本よりは多く見られます。

今日そのあたりのことを論じるつもりはありませんが、ひとつ言えるのは紛争の真っただ中にある国おいては、多くの事柄が政治的立場と繋がってくるため、「スポーツと政治は別物」と言うような余裕はありません。
「どちらの側に立っているのか」を問われます。

【抗議デモで死者400人超、子どもを含む1万4000人が拘束 深刻な人権危機】
11月22日ブログ“イラン・トルコで激しさを増す国内外のクルド人勢力への弾圧・攻撃 国を持たない民族の悲劇か”でも少し触れたように、イランでは頭髪を覆うヒジャブ(スカーフ)の被り方が不適切として拘束された女性が警察の暴力を受けて死亡したのではないかという疑惑(イラン政府は否定)から9月に始まった抗議デモが長期化し、単にヒジャブの問題だけではく、「自由」を求める運動、イスラムによる宗教的強権支配体制への批判にも発展しています。

****イランのデモ、民衆蜂起の様相=イスラエル軍情報部門トップ****
イスラエル軍の情報部門トップは21日、イランで広がる抗議デモについて、民衆蜂起の様相を呈し始めているの見方を示した。一方、現時点で政権存続に「現実的な脅威はない」とも語った。

イランでは今年9月、顔を覆うスカーフを適切に着用していなかったとして22歳の女性が警察に拘束されて死亡した。事件をきっかけに抗議活動が続いている。

イランと長年対立するイスラエル軍のアーロン・ハリバ参謀本部諜報局長は、テルアビブ大学国家安全保障研究所で、「抗議行動は既に民衆蜂起の領域に達していると思う」と指摘。「いくつかの出来事を見ると、発生時間、国家機関や国家の象徴が受けた被害、死者数など、政権にとって大いに問題となる異次元の何かが起きている」と語った。

「現時点で政権に対する現実的な危険はないと考える」とした上で、「社会行動の予測は参謀本部諜報局の責任で行うものではない」とも述べた。【11月22日 ロイター】
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イラン当局は厳しい弾圧姿勢で抗議デモに臨んでおり、イランの人権活動家通信(HRANA)によると、この抗議行動に関連して、11月19日時点で未成年者58人を含む抗議者410人が死亡したとされています。情報統制が厳しいイランの国内事情はよくわかりませんので、実際の犠牲者はもっと多い可能性もあります。(以上、22日ブログからの再録に加筆)

国際的にもイラン当局のデモ弾圧に厳しい批判が起きています。

****国連人権理、イランの人権侵害巡り調査団設置 デモ弾圧で****
国連人権理事会は24日、イランの人権状況について特別会合を開き、9月以降広がる抗議デモへの弾圧など、同国の人権侵害を巡る調査団を設置する動議を可決した。賛成が25カ国、反対が6カ国、棄権が16カ国だった。

イランでは、イスラム教徒の女性の髪を隠すスカーフの着用法が不適切だとして拘束されたクルド人女性が死亡したことに対する抗議デモが広がっている。

ヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官はイラン当局に対して、抗議デモを鎮圧するための「不当な」武力行使を止めるよう要請。イランは深刻な人権危機に直面しており、子どもを含む1万4000人が拘束されていると懸念を示し、イラン政府は国連の現地訪問を受け入れていないと指摘した。

イラン当局による取り締まりは、クルド人が多く住む西部地域で特に厳しくなっており、国連によると先週は40人の死亡が報告された。【11月25日 ロイター】
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【イランチーム イングランド戦では国歌斉唱せず】
こうした実弾が飛び交い、多くの市民の血が流れる厳しい状況の中でW杯に参加したイランチームでしたが、試合前の国歌が流れる際に、選手たちが国歌を歌わない様子が話題にもなりました。

イラン政治体制に批判的な立場からは、現在のイラン国歌はイランのものではなく、(現行政治体制の)イスラム共和国のものだと指摘する声もあるようです。

(蛇足ながら、こうしたイランのアイデンティティとイスラムを峻別する考えは、以前イランを観光した際にも聞きました。国際的にはイランは厳格なイスラム国家とみなされていますが、「イランはイスラムではない」と。その考えは、本来のイランの伝統・文化はペルシャ帝国以来受け継がれているものであり、イスラムは近年に持ち込まれたものに過ぎないというもののようです)

国歌を歌わないというイランチームの選択は、国内で続く反政府デモに連帯を示した形と見られています。
DFエフサン・ハジサフィ選手は20日の記者会見で、デモ参加者を念頭に「私たちは応援し、共感している。人びとが期待するような変化を望む」と述べたとも報じられています。

“試合後、イランのカルロス・ケイロス監督は「W杯の規定に沿い、ゲームの精神に則っている。(選手たちは)自由に抗議することができる」とコメント。選手からは今回の行動を支持する声が目立っている。”【11月22日 東スポWEB】

しかし、イランの国営テレビは、選手が試合前に国歌斉唱のために整列する場面を放映しませんでした。

【イラン国内には大敗を喜ぶ声も】
試合は、イランが2―6でイングランドに大敗しましたが、イラン国内にはイランチーム自体が“政権寄り”だと見なし、その敗北を喜ぶ声もあるとか。

(ただし、そうした声が一般的なものかどうかはわかりません。少なくとも敬虔なイスラム教徒が多い地方部では現体制が支持されており、体制批判は少ないと思われます。逆にテヘランなど都市部では現体制に批判的な傾向が強く、激しい抵抗運動が行われています)

****イングランドに喫した「大敗」を、イラン国民が大喜び...何が起きているのか****
<純粋にサッカーを楽しみ、自国の代表チームを応援できる状況ではない現在のイラン。自国の敗北を喜ぶ複雑な心境とは?>

イラン代表チームが蹴散らされる姿に、イランの市民が歓喜した。11月21日、ワールドカップ(W杯)カタール大会1次リーグの初戦で、イランはイングランドと対戦。ドーハのハリファ国際スタジアムで行われた試合で、イングランドが試合を決定づける3点目のゴールを決めた瞬間、イランの首都テヘランのシャハラン地区で人々が歓声を挙げる様子が動画に収められた。

ロンドンを拠点とするペルシャ語放送局、イラン・インターナショナルが、この時の様子を映した動画をツイッターに投稿した。この試合では結局、イングランドがさらに3得点を挙げ、6対2でイランに圧勝している。

なぜテヘラン市民たちは、自国の代表チームの敗北を喜んだのか。それは、代表チームがW杯で戦う一方で、イラン国内で続いている女性たちを中心とする激しい抗議デモが関係している。

今回のデモのきっかけは、22歳の女性マフサ・アミニの死だ。アミニは今年9月13日、頭髪を適切に覆っていないなどの理由でイランの道徳警察に拘束され、3日後に死亡した。

この出来事に抗議するデモが拡大すると、当局は厳しい取り締まりを開始。人権擁護団体「イランの人権活動家」によれば、治安部隊による暴力的な取り締まりで、抗議デモの死者数は既に少なくとも419人に上っている。

さらにデモ開始以来、イラン国内でのサッカー試合は当局の決定によって、全て非公開になっている。

代表チームは国民より政権寄り?
W杯の対イングランド戦の会場では、抗議デモのスローガンである「女性、生命、自由」という文字や弾圧の犠牲になったデモ参加者の名前を記したTシャツを身に着けたり、プラカードを掲げるイランサポーターの姿が見られた。

ただそうした中で、代表チームは政権寄りで、今回の抗議デモへの連帯を示してこなかったと国民からは見られているようだ。

それもあって、冒頭の動画のようにチームの失点を喜ぶ声が上がったものと思われる。また動画には、歓声とともに「独裁者に死を」と唱える声も収められている。

この試合の前のセレモニーでイラン国歌が流れた際にも、サポーターらはブーイングを浴びせた。ただ、ピッチ上のイラン代表選手たちは口をつぐんだままだった。

故国での抗議デモへの連帯を示すため、国歌斉唱を拒否するかどうかはチーム全員で決めると、代表選手の1人のアリレザ・ジャハンバフシュは試合に先立って語っていた。

「散髪」のゴールパフォーマンスを
主将のエフサン・ハジサフィは試合前、抗議デモへの支持を表明した。「何よりもまず、家族を失ったイランの人々にお悔やみを述べたい」と、ハジサフィは記者会見の冒頭で発言した。「私たちの国の状況は正しいものではなく、国民は不満を感じていると認めなければならない」

さらに今回のW杯をめぐっては、イランの出場禁止をFIFA(国際サッカー連盟)に求める声や、選手に抗議デモへの連帯表明を促す声が上がっていた。

頭髪を覆うヒジャブの着用強制に対する抵抗の象徴的な行動として、イランをはじめとする各地で女性たちが髪を切っていることを受け、イラン出身の両親を持つロンドン生まれのイギリス人俳優・コメディアン、オミッド・ジャリリは、イランと戦うチームの選手たちに、ゴールパフォーマンスで髪を切るしぐさをするよう呼び掛けた。

「ごくささやかな行為で世界に巨大な影響を与えるチャンスがあると、イングランド代表選手に言いたい」。イラン対イングランド戦の開始前、ジャリリはツイッターに投稿した動画でそう訴えた。

「(イランと同じグループBの)イングランド、ウェールズ、アメリカの代表選手はゴールを決めたら、髪をはさみで切るしぐさをしてほしい。そんな簡単なジェスチャーで、イランの女性や少女に大きなメッセージを送ることができる」【11月23日 Newsweek】
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前述のように、自国チームの敗北を喜ぶ声が一般的なものかどうかはやや疑問ですが、そうした声もあるようです。

イランの現状からすれば、「スポーツと政治は別物」ではなく、世界が注目するW杯こそがイランの現状を発信する、多くの市民が弾圧によって血を流す現状を改善する“絶好の機会”ということになります。

逆に、その機会を利用しないことは、結果的に市民に銃を向ける当局の姿勢を暗黙の内に認めることにもなる・・・。

【国歌斉唱拒否という重い選択 帰国後の処分の可能性も ウェールズ戦では対応一変】
自国の代表チームの敗北を喜ぶ市民もいるという状況で、国歌を歌わないという選択をしたイランチームの選択も重いものがあります。帰国後どのような処分がなされるのか・・・

選手だけでなく、反政府的プラカードを持ちこんだ観客も映像で面が割れており、帰国後処分される危険も。

****W杯で命懸けの国歌斉唱拒否に出たイラン選手の運命****
<サッカーW杯の国歌斉唱という檜舞台でイラン・チームは口をつぐんで歌わなかった。帰国すれば逮捕、国歌にブーイングしたイラン人観客たちも危ないという。改めて知るイラン体制の恐ろしさ>

FIFAワールドカップでは11月21日、イラン対イングランド戦がおこなわれたが、試合に先立つ国歌演奏中に、口をつぐんで歌わなかったイラン代表選手は、帰国後に重大な結果に直面するおそれがある。(中略)

ソーシャルメディア上のイラン人たちは、この国歌はイランのものではなく、実際には(イラン・)イスラム共和国のものだと指摘し、そのふたつを明確に区別している。

ニューヨークタイムズ紙のツイートによれば、イランのサッカーファンたちは、カタール・ドーハのハリファ国際スタジアム内に「イランに自由を」「女性、生命、自由」などと書かれたプラカードを持ちこんだという。スタジアムの外には、イラン革命前のパーレビ朝の旗を持ちこもうとして入場を許されなかったファンたちもいた。

W杯を中断させたかったイラン
(中略)イラン当局は、12月18日まで続くワールドカップの期間中、国内の抗議活動に言及しないことを事前に要請した。

別の報道では、イラン当局は、ワールドカップを中断させるためにテロ攻撃の実施を検討していたが、ホスト国カタールの反応を考えて思いとどまったと伝えられている。

ニューヨーク州立大学オルバニー校で国際法と人権について研究するデイビッド・E・グウィン教授が本誌に語ったところによれば、現在進行中の抗議活動は、イランの厳しい経済状況と結びついており、国歌斉唱を拒んだイラン選手だけでなくその家族も、「拘束や逮捕を含めた重大な結果に直面するおそれがある」。

「イラン政府は、とりわけ公共の場での抗議活動を鎮圧しようと、断固たる姿勢と容赦のなさを示してきた」とグウィンは語る。「選手たちの公的な立場は、とくにワールドカップを闘っているあいだは、彼らを守ってくれるかもしれないが、そうした立場ゆえに、選手たちは政権にとって大きな不安要素にもなる。イラン政府は、著名人が前面に出て火に油を注ぐことを望んでいない」

スタンドにいた人たちも危険にさらされる可能性がある。そうした観戦者の多くは、さまざまな形態のメディアを通じて世界中に顔が伝えられている。

「イランの治安組織である革命防衛隊は、そうした人──とくにプラカードを掲げていた人--──の身元を突き止め、経歴を掘り下げて、拘束や逮捕を正当化しようとする」とグウィンは語る。「有名ではないので選手より重要性は低いかもしれないが、少なくとも帰国後は監視下に置きたいと考えるだろう」【11月22日 時事】
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“イラン当局は、ワールドカップを中断させるためにテロ攻撃の実施を検討していた”・・・いささか眉唾ものですが、それはともかく、当局側が神経を尖らせているのは間違いないでしょう。

今日(25日)行われた、ウェールズ戦ではイラン選手は試合前の国歌斉唱で肩を組んで歌ったそうです。

当局からの「圧力はなかった」とのことですが、常識的に考えて「圧力がないはずはないだろう」という感も。「両親、兄弟がどうなってもいいのか?」ぐらいの脅しがあっても不思議ではないようにも。

****イラン、国歌を歌う 「圧力受けていない」―W杯サッカー****
25日に行われた1次リーグB組のウェールズ―イランで、イランの選手が試合前の国歌斉唱で肩を組んで歌った。21日のイングランド戦では沈黙し、イラン国内の情勢と関連して注目された。

イランでは9月、イスラム法に基づく頭部を覆うスカーフ着用義務に違反したとして警察に拘束された女性が死亡。抗議デモが続き、多数の死者が出ている。イラン代表が国歌を歌わなかったのはデモへの支持を表すためとみられた。

イングランド戦では国歌が流れる間サポーターからブーイングを受けたが、ウェールズ戦ではスタンドも一緒に歌い、涙ぐむような人もいた。
24日の試合前日会見でFWタレミは「政治的なことは話したくはないが、私たちはいかなる圧力も受けていない」と語った。【11月25日 時事】
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“ウェールズ戦ではスタンドも一緒に歌い、涙ぐむような人もいた”・・・雰囲気がそうさせるのでしょうか? 逆に、雰囲気次第ではブーイング?  よくわかりません。

まあ、ウェールズ戦、試合に勝ててよかった。イラン政府のご機嫌も少しはなおった?
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イラン  バイデン米大統領は「解放する」とは言うものの熾烈な当局のデモ弾圧 対露ドローン供与問題

2022-11-07 22:43:32 | イラン
(テヘラン市内をバイクで走るイランの警官隊(2022年10月) 【11月5日 Newsweek】)

【バイデン大統領「われわれはイランを解放するつもりだ」】
最近「???」と感じたのはバイデン大統領のイランに関する「イランを解放」という発言。

****バイデン米大統領「イランを解放」と発言、選挙演説で****
バイデン米大統領は3日、中間選挙に向けたカリフォルニア州での演説で、政府に対する抗議デモが続くイランについて「解放」すると表明した。デモ参加者は間もなく自由になるだろうと述べた。

会場の外でイランの抗議者らを支持する集会が開かれる中、バイデン氏は「心配することはない。われわれはイランを解放するつもりだ。彼らはすぐに自由になるだろう」と語った。

具体的にどのような措置を取るのかには言及しなかった。ホワイトハウス国家安全保障会議は現時点でコメント要請に応じていない。

イランでは髪を覆うスカーフの着用が不適切として警察に拘束された女性が死亡した事件を受け、抗議活動が7週間にわたって続いている。

米国は2日、イラン政府が女性の権利を否定し、抗議活動に対し残忍な弾圧を行っているとして、45カ国からなる国連の「女性の地位委員会(CSW)」から同国の除外を目指すと表明した。【11月4日 ロイター】
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「イランを解放」ということは、イラン現体制を転覆させるということになります。イランからすればとても容認できる話ではなく、外交的には絶縁状みたいなことにもなります。核合意再建に関する協議も停止してしまいます。もう、合意をあきらめたのでしょうか。

何らかの具体的な話があってのことでしょうか? 仮にあったとしても、軽々に発言べきものでもないでしょう。

特に意味はなく、演説の勢いで口にした言葉でしょうか? そうであるなら、やはり軽率でしょう。かねてより懸念されている「バイデン大統領は大丈夫か?」という話にも。

台湾有事をめぐる従来からの「あいまい戦略」を否定するような発言は、何回も繰り返しているところをみると“うっかり”ではなく「確信犯」のようですが、今回イラン発言の真意は?

【熾烈なイラン当局のデモ弾圧】
ヒジャブ(スカーフ)の被り方が不適切として拘束されたのち、警察で死亡した女性をめぐる抗議行動は今も続いているようですが、単にヒジャブの問題、警察の暴力の問題にとどまらず、自由を求める現体制否定の闘いともなっており、それだけに当局側の弾圧も熾烈なようです。

****イラン革命防衛隊司令官、デモを「暴動」と呼び強く警告も…収束の兆し見えず***
女性の髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」の着用をめぐり抗議デモが続くイランで、精鋭部隊・革命防衛隊の司令官がデモを「暴動」と呼び、やめるよう強く警告しました。しかし、デモは翌日も行われ、収束の兆しは見えていません。

イランでは、ヒジャブの着用が不適切だとして警察に拘束された女性が死亡し、抗議デモが続いています。
ロイター通信によりますと、革命防衛隊の司令官は29日、「“暴動”はきょうで終わりだ。もう街に出るな」と抗議デモをやめるよう強く警告しました。

しかし、イランの大学では翌日もデモが行われ、女性がヒジャブに火をつけ、抗議の意思を示しました。また、集まった学生らは「イスラム共和国はいらない」と声をあげました。

治安当局はデモの鎮圧のため実弾も使用し、これまでに1万4000人以上を逮捕したということですが、依然として収束の兆しは見えていません。【10月31日 日テレNEWS】
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最高指導者ハメネイ師も警察当局の鎮圧行動を支持しています。

****殴りバイクでぶつかり、最後は至近距離で発砲...イラン警官、デモ参加者への非道な暴行現場****
<激しいデモが続くイランで、警官隊によるデモ参加者への常軌を逸した暴行の様子が撮影された。被害者の容態などは不明のままだ>

スカーフを適切に着用していなかったとして若い女性が道徳警察に拘束され、死亡した事件を受けて抗議運動が過熱しているイラン。緊迫した状況が続く首都テヘランで、警官隊がデモ参加者に激しい暴行を加える様子がビデオに収められた。

11月1日にSNSに投稿された2分強の動画には、夜の道路に横たわる男性に、12人ほどのイラン警察が襲い掛かる様子が映っている。警官たちは男性を蹴りつけ、棒で殴り、バイクでひこうとする様子も見られる。そして最後には、至近距離から男性に発砲する。アルジャジーラによれば、この銃は散弾銃と見られるという。

この男性がその後どうなったかは明らかになっていない。(中略)

イラン警察は、この事件が起きた場所や時間などを操作するとともに、関与した人物の特定を進めていると発表した。また国営メディア上で発表した声明で、「警察は暴力や非正規な行動を決して容認しておらず、違反者は規則に従って確実に法的措置を受けることになる」とした。

警察は暴行する「自由を与えられている」
一方、国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」イラン支部は、国連人権理事会にこの事件の調査を要請し、「彼らは抗議者を残酷な手段で殴ったり撃ったりする自由を与えられている」と声明で述べた。

ノルウェーに本部を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」によれば、イランで女性の死亡を受けて抗議デモが発生して以降、子供40人を含む277人が治安部隊によって命を奪われたという。拘束された人は1万4000人以上に上るとの情報もある。

ただ当局はこれまで、デモ参加者の死亡について関与を否定し、外国が支援する「潜入者」や「テロリスト」によるものだと非難している。【11月5日 Newsweek】
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****イラン当局、デモ参加者約1000人を起訴 公判へ=報道****
 強硬な取り締まりで知られるイランの司法当局は首都テヘランの暴動で約1000人を起訴し、近く公判を開く見通し。同国のタスニム通信が伝えた。当局は長期化する抗議活動の鎮圧に向けた動きを強めている。

スカーフのかぶり方が不適切だとして9月にマフサ・アミニさん(22)が風紀警察に拘束され急死した事件に抗議するデモは、学生や女性を中心に約7週間にわたって繰り広げられており、当局が弾圧を強めているにもかかわらず収束していない。

イランの指導者らは、デモ隊を暴徒と呼び、厳しい措置を取ると警告。米国を含む敵国が暴動をあおっていると非難している。

タスニム通信によると、テヘランの司法当局トップは、治安当局の襲撃や殺害、公共物の放火を含む破壊行為を行った約1000人の裁判が革命裁判所で開かれると表明。報道によると、今週に公開裁判の形で行われる。

司法当局によると、警察官に車で突っ込んだとされる22歳男の判決はまだ下っていないが、死刑に相当する「地球の腐敗」という罪に問われているという。【11月1日 ロイター】
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可能であるなら「イランを解放」してほしいところですが、単に口にするだけなら“米国を含む敵国が暴動をあおっている”とする体制側主張を刺激するだけで、一層の弾圧をまねくことになる危険も。

【イランのロシアへのドローン供与 強化されるイラン・ロシア関係の一端】
イランに関してここのところ問題になっているのが、ロシアに対するドローン供与。

イラン側もこれまでの否定を覆して“少数の無人機を侵攻前に供与した”と認めていますが、ウクライナ・ゼレンスキー大統領は「まだうそをついている」と批判。

****ロシアへの無人機供与認める ウクライナ侵攻前とイラン外相****
イランのアブドラヒアン外相は5日、ロシアがウクライナに侵攻する数カ月前に無人機(ドローン)をロシアに供与したと記者団に明らかにした。国営テレビが伝えた。イランはこれまで、ウクライナで使用される武器を送っていないと重ねて主張していた。

一方で、一部米メディアが報じた弾道ミサイルの供与については「ロシアに対していかなるミサイルも送っていない。完全に間違っている」と改めて否定した。

ロシアは、無人機によるウクライナのインフラ攻撃を激化させており、米欧はイラン製が使用されているとして、同国を強く非難。対イラン制裁で圧力を強めている。【11月5日 共同】
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****イランは「まだうそをついてる」 大統領、対ロ無人機供与で****
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日のビデオ演説で、イランが同日、ロシアへの無人機(ドローン)供与を認めたことに言及した上で「まだうそをついている」と批判した。少数の無人機を侵攻前に供与したとのイランの主張に対し、ウクライナ軍が「昨日だけで11機破壊した」と指摘した。

ゼレンスキー氏は、イランの要員がロシア軍に無人機の扱い方を指導しているとし「そのことに関して、イランは沈黙している」と述べた。

10月に続いたウクライナ首都キーウ(キエフ)を含む各地への攻撃にはイラン製無人機が多用されたとみられている。【11月6日 共同】
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イランはロシアへのドローン供与の見返りに、核合意再建協議の決裂に備えて核開発に関する援助をロシアに求めているとも報じられています。

****米CNN、イランが露に核開発巡る援助要請と報道…米研究機関「無人機提供の見返りに」****
米CNNは4日、米情報機関の分析として、イランがロシアに対し核開発を巡る援助を要請したと報じた。イラン核合意の立て直しに向けた協議が破綻した場合に備えているとの見方を伝えた。

報道によると、イランは核物質の提供や核燃料の製造に関する支援を求めているが、ロシアが応じるかどうかは不明だという。

ロシアは核開発抑止を柱とする核合意の当事国で、イランの核兵器保有に反対している。軍事転用が懸念されるイランの核開発拡大をロシアが受け入れた場合、米政府は大きな方針転換につながる可能性があるとみて警戒を強めている。

米政策研究機関「戦争研究所」は5日、ロシアにイラン製無人機(ドローン)を提供する見返りに、イランが核開発への支援を求めているとの見方を示した。(後略)【11月6日 読売】
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イランのロシアへのドローン供与は2年前から極秘交渉されており、ロシアがウクライナ侵攻に備えて入念に準備していたとの見方も。
また、弾道ミサイルも交渉中とのこと。

****無人機供与、2年前から極秘交渉 イラン、弾道ミサイルも協議****
中東イランがロシアに攻撃用無人機(ドローン)を供与した問題で、供与に向けた両国間の極秘交渉は2020年末に始まり約半年で合意に至ったことが7日、分かった。イラン外交筋と革命防衛隊関係者が明らかにした。

機体は21年夏に初納入された。交渉の詳細が判明したのは初めて。ロシアはイラン製弾道ミサイルにも高い関心を示し、現在も売却交渉が継続中という。

ロシアは侵攻前の21年春に部隊を集結。交渉はその数カ月前に始まったことになり、兵器の海外調達を進めていた可能性がある。イランは核問題で米欧と対立、ロシアと軍事分野で急速に連携を深めた実態が分かった。【11月7日 共同】
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バイデン大統領としては、イラン現体制もロシアのプーチン支配体制もまとめてひっくり返したいところでしょうが、明日の中間選挙結果次第では、その前にアメリカ・バイデン政権が窮地に陥ることもあります。

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イラン  ヒジャブ着用をめぐる女性死亡事件への抗議 「自由」を求める声と妥協の余地がない現体制

2022-10-24 23:27:00 | イラン
(イランの首都テヘランのイマーム・ホメイニ国際空港に到着し、記者の取材に応じる(ヒジャブなしでの競技参加で注目された)エルナズ・レカビ選手。国営イラン放送の映像より(2022年10月19日撮影)【10月20日 AFP】)

【長期化するヒジャブ女性死亡事件への抗議 ただ、最近のイラン国内の状況に関する情報は少ない】
イランで、スカーフ(ヒジャブ)の被り方が不適切として宗教警察に拘束され、その後死亡した女性をめぐって、警察の暴行によって死亡したとして政府への抗議デモが長期化していることは、10月10日ブログ“イラン 長引く抗議デモ イスラムによる統治体制への批判に拡大 没落する中間層の不満も”でも取り上げました。

当局側は警察の暴行を否定し、女性が有していた既往症との関連を指摘していますが、体制・政府の意向が支配的なイラン議会もその線に沿った報告書を発表し、騒動の幕引きを図りたい構えです。

****イラン議会が報告書「死亡は暴行が原因ではない」 デモ拡大の発端となった“ヒジャブ着用”女性の死めぐり****
スカーフの着用をめぐる女性への弾圧などを受けてデモが拡大しているイランで、議会は抗議活動の発端となった女性の死亡について、「身体への暴行が原因ではない」とする報告書を発表しました。

イランでは、ヒジャブ、髪の毛を覆うスカーフのかぶり方が不適切だとして拘束されたマフサ・アミニさんが急死したことをうけ、デモが激化しています。

地元紙などによりますと、イラン議会は16日、報告書を発表し、アミニさんの死亡について、「身体への暴行で死亡したのではない」としたうえで警察の救護措置が遅かったと指摘。謝罪と職員の研修強化を求めました。

また、女性に義務付けられているヒジャブのつけかたなどについて曖昧さをなくすための法改正を求めていますが、事態の収束に繋がるかは不透明です。

人権団体によりますと、一連の抗議活動が始まってから、少なくとも子ども23人を含む201人が死亡しているほか、デモ参加者が収容されているとみられる刑務所で大規模な火災が発生し、これまでに4人が死亡しています。【10月17日 TBS NEWS DIG】
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抗議デモに伴う犠牲者数は、報道規制が厳しいイラン国内でのことなので、よくわからないのが実態です。上記記事数字より遥かに多い可能性もあります。

政権側は、抗議デモの背後にアメリカなどの外国勢力が扇動しているとして厳しい鎮圧を行う姿勢です。

****バイデン氏、イランで「混沌とテロ」を煽動=ライシ大統領****
イランのライシ大統領は16日、バイデン米大統領がイランで「混沌とテロと荒廃」を扇動していると非難した。国営イラン通信(IRNA)が伝えた。同国では4週間にわたって抗議デモが続き、国家規模の動揺が生じている。

ライシ氏は「米大統領は、発言を通じて他国における混沌とテロ、荒廃を扇動している」とし「(イラン革命の指導者が)米国を大いなる悪魔と呼んだ不滅の言葉を米大統領は忘れてはならない」と述べた。

バイデン氏は15日、「イランは基本的人権を行使しているだけの自国民に対する暴力を止めなければならない」と発言した。【10月17日 ロイター】
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こうした当局の強硬姿勢がありますので、今現在イラン国内でどのような抗議が行われているのかはよくわかりません。

ここのところは、具体的な抗議行動の様子などに関する記事は目にしていません。ほとんど封じ込まれた状態なのかも。

そうした当局の弾圧がない外国では、在住イラン人による抗議が今も続いています。

ドイツの首都ベルリンでは22日、イラン人らによる大規模な抗議デモが開かれたました。警察発表で約8万人が参加したとのことですから、かなり大規模なデモです。
同様の抗議行動は、アメリカのワシントンやロサンゼルスでも行われました。そして東京でも。

****イランの自由求めて 東京都内でデモ****
東京都渋谷区で22日、イランで服装規定違反の疑いで逮捕されたマフサ・アミニさんが死亡した事件を受け、抗議集会が開かれた。【10月23日 AFP】
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最近話題になったヒジャブを着けずに試合参加したスポーツクライミングの女子選手の件も外国でのことです。

****ヒジャブ非着用のイラン選手帰国 空港で「英雄」の声援受ける****
韓国で行われたスポーツクライミングの大会で、女性の髪を隠すスカーフ「ヒジャブ」を着用せずに出場したイラン女子代表のエルナズ・レカビ選手が19日に帰国し、空港で支持者から「英雄」として迎えられた。

スポーツ選手を含むすべての女性にヒジャブ着用を義務付けているイランでは、服装規定違反の疑いで逮捕されたマフサ・アミニさんの死をめぐる女性主導のデモが1か月以上継続している。そうした中、ヒジャブを着用せず試合に臨んだレカビ選手は、当局の怒りを買ったとみられている。

レカビ選手は帰国に先立ち、自身のインスタグラムアカウントへの投稿で、ヒジャブを着用しなかったのは意図的ではなかったとして謝罪。首都テヘランのイマーム・ホメイニ国際空港に到着した際も、同様の説明を繰り返した。

だが活動家は、こうしたコメントがイラン当局からの圧力を受けて出されたものであると懸念している。

空港の外にはレカビ選手の支持者が多数集まり、「エルナズは英雄だ」や「よくやったエルナズ」との声援や拍手を送ったり、スマートフォンでその瞬間を撮影したりした。同選手を乗せていると思われる車が空港を去る際にも声援と拍手は続いた。中にはヒジャブを着用していない女性もいた。

米ニューヨークに拠点を置く人権団体イラン人権センターは、レカビ選手が「英雄の歓迎」を受けたとする一方で、「身の安全をめぐる懸念は残っている」と指摘している。 【10月20日 AFP】
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【新たな事件も】
一方、イラン国内では抗議行動に伴う新たな事件も。

****15歳少女殴られ死亡か スカーフ問題に続く新疑惑 イラン****
女性のスカーフ着用強制に伴う死亡事件を発端に反政府デモが続くイランで、15歳の少女が治安当局に殴られ死亡した疑いが新たに浮上した。教員組合は「無実の人々の殺害」をやめるよう訴えている。  

同組合の声明によると、北西部アルダビルでアスラ・パナヒさんが他の生徒と共に差別や不公正に反対するスローガンを叫び始めた際、スカーフを着けた私服姿の女性警官に暴力を振るわれた。

学校に戻って再び殴打され、今月13日に搬送先の病院で死亡したという。他にも生徒数人が拘束され、生徒1人が意識不明に陥った。  

国営テレビは、パナヒさんのおじとされる男性が「彼女は心不全で死亡した」と語るインタビューを放映。一方、アルダビルの議員は「錠剤を飲んで自殺した」と話すなど、死因を巡る情報が交錯している。【10月20日 時事】 
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英BBCなどによると、“治安部隊は生徒に対し、イランの現体制を支持する歌を歌うよう強要した。歌は「こんにちは司令官」で、米軍に2020年1月、イラクで暗殺された革命防衛隊のソレイマニ司令官を賛美する内容だった。
だが、パナヒさんら複数の生徒は歌うことを拒絶し、政府を批判する声を上げた。その後、パナヒさんは治安部隊に暴行された。他の複数の生徒も病院に運ばれたり、逮捕されたりしたという。”という報道も。

この事件に関する続報などは目にしていません。

【「自由」を求める声 妥協の余地がない政権側】
抗議デモが長期化した背景には、単に女性のヒジャブだけの問題ではなく、現在のイランの抑圧的な政治体制への不満が自由を求める人々から噴出していることがあります。

逆に言えば、そうであるだけに当局・政権側としては「一歩譲れない」という対応にもなります。

****「政府を倒そうと思っている」長期化するイランの抗議デモに在日イラン人が語る思い…ヒジャブ着けずに競技に参加したイランの女性選手も****
イランでスカーフの着用が不適切だとして拘束された女性が死亡して約1か月。抗議デモは今も続いています。日本でも行われたデモに参加した、在日イラン人の男性からは「みんな政府を倒そうと思っている」そんな声も聞こえてきました。

■イラン抗議デモ「どれだけ血を流しても諦めない」 子ども27人含む215人死亡
イラン各地で1か月以上続く抗議デモ。収束の兆しは見えません。

10月11日に公開されたテヘランで行われたデモの映像では、デモに集まった学生たちが「女性!生活!自由!」と叫び、「血」を意味するペルシャ語の文字を”人文字”で表現しています。「政権によってどれだけ血を流しても私たちは決して諦めない」という意味が込められているそうです。

人権団体IRAN HUMAN RIGHTSによりますと、デモの鎮圧などで少なくとも子ども27人を含む215人の死亡が報告されています。(中略)

■「みんな一つになって政府を倒したい」背景には女性の立場の低さ
抗議の声は日本でも。来日して30年になるイラン人のナシール・パルヴィジさん(58)も母国への憤りを募らせています。9日に外務省前で行われたデモで抗議の声を上げていました。(中略)

大規模デモはなぜ、ここまで世界に広がっているのか。
ナシールさん 「我々は今、みんな一つになって政府を倒そうと思っているんです。いまデモに参加している人たちはほとんどが若い人で、これからの自分たちのことが心配で」

ナシールさんは大規模デモが広がる背景にイラン国内の女性の立場の低さがあると話します。

ーー女性というのはイランの中でどんな存在?
ナシールさん 「(女性の立場は)弱い。すごく弱い。人間として見ていない、女性のことを。ただ子どもを産んで終わり。あとは家の面倒を見て終わり」(中略)

小川彩佳キャスター: 今回のデモは若者や女性の参加が目立つということですが、価値観が変わってきているということでしょうか?

中東調査会 青木健太研究員: 1979年のイラン革命から43年を経て若者や女性の価値観が徐々に変化していると思います。
8月に4年ぶりにイランに現地調査に行ったが、ヒジャブを頭に被らずに肩にかけるだけの若い女性が特に北部、テヘランで多く見られました。過去には髪を少し見せるくらいの女性は多くいましたが、完全にというのは少なかった。
その意味では特に都市部で変わってきていて、それを道徳警察が厳しく取り締まる事案が増えているということも仄聞していましたので、そういった違和感を感じていた中で、9月16日のアミニさんの死亡事件を受けて抗議デモが広がっていったということになります。

国山ハセンキャスター: デモの長期化の理由について青木さんは「女性や若者の蓄積した不満が爆発した」と見ています。

【蓄積していた不満】
・ヒジャブ着用義務に中産階級の若者が反発
・2019年のガソリン値上げを受けたデモで暴力的な弾圧。数百人が死亡
・2021年の大統領選で投票の自由意志が奪われた

ヒジャブの着用義務以外にもずっとたまっていた体制側への不満が一気に噴き出した形なんでしょうか?

中東調査会 青木健太研究員: 抗議デモのスローガンを見てみると、「女性」「人生」「自由」ということを叫んでいる。あるいは「独裁者に死を」ということを叫んでいる。やはり女性が中心になっていることが今回のデモの大きな特徴。また、「自由」という言葉が入っていることが今回の抗議デモの参加者が求めていることを象徴しているように思います。

さらに言えば、アメリカの経済制裁によって経済状態が苦しくなっていて、経済的困窮も背景にあると思います。

■体制側は強固な姿勢 収束には長期化も?
小川キャスター: 今回のデモに対してイランの最高指導者・ハメネイ師は「デモを鎮圧する治安部隊の全面的支持」を10月3日に表明しています。このデモ、いつ収束するといえるんでしょうか?

中東調査会 青木健太研究員: 現段階で長期的見通しは難しいが、私は長引くと見ています。反体制側に統一した指導者が存在しないということで、体制側からしてみれば対話をする相手がいないという状況にある。
当初は大規模な活動でしたが、小規模なグループで散発的に行われることが全国各地に広がっていったという状況なので、なかなか収束に結びつけることが難しい。

今のイランの体制は宗教界や治安機関によって支えられているので、イスラームに基づく統治ということに関して、妥協するということが体制の基盤を危うくすることになりますので、融和策をとることも難しい。なかなか早期に収束することは見通せない状況だと思う。【10月19日 TBS NEWS DIG】
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経済的な不満だけなら何らかのバラマキでとりあえず鎮めることも可能ですが、「自由」という話になると「体制」の存続にかかわる問題で妥協の余地がありません。

***イラン抗議デモは「ベルリンの壁」に匹敵 米在住女性活動家****
イスラム教徒の女性が髪を隠すスカーフ「ヒジャブ」は、イラン政府にとって抑圧の道具になるかもしれないがアキレス腱(けん)にもなり、「ベルリンの壁」崩壊のような事態につながるのを政府は阻止しようと努めている──米ニューヨークを拠点に活動するイラン人ジャーナリストで人権活動家のマシー・アリネジャド氏はAFPにこう語った。(中略)

「私から見て、ヒジャブ着用の強制はベルリンの壁のようなものです。この壁を壊せば、(イラン・)イスラム共和国は存在しなくなる」とアリネジャド氏はAFPに語った。「ヒジャブの強制は(イラン・)イスラム共和国にとってアキレス腱。だからこそ政権はこの革命を本当に恐れています」

ヒジャブは「私たちを抑圧し(中略)女性を支配するための道具」であり、「女性を通じて社会全体を支配するためのものです」 イラン人女性が「服装を指図する人側にノーと言う」ことができるようになれば、独裁者にノーと言う力を持つようになるとアリネジャド氏は主張する。(後略)【10月15日 AFP】
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【経済的苦境への抗議も重なる】
「自由」を求める声は、現行政治体制のもとで経済的苦境に苦しむ市民の声とも重複しています。

“中間層がここにきて、50%に跳ね上がったインフレと、今年最安値を更新した通貨リアル急落による重圧に苦しめられている。イランでは人口の約3分の1以上が貧困層で、この比率は2015年の20%から急上昇。中間層も全体の50%を割り込んだ。

テヘラン北部にある裕福な地域の通りで抗議デモに参加していた52歳の主婦は「デモの根本にあるのは経済問題で、これが今爆発している」と話す。彼女はヒジャブを取り、他の女性の群衆とともに振り回していた。【10月5日 WSJ】

経済的側面としては、イラン経済の根幹をなす石油産業労働者のストライキに波及しています。

****ヒジャブから石油産業に飛び火したイランの反政府デモ****
<風紀警察の手によるとみられる女性の死に対する抗議が、イランの財源を支えるエネルギー産業の労働者に波及、全土でストライキが相次いでいる。エネルギー産業の労働争議は、1979年のイラン革命の原動力だったともいわれ、政府幹部にも焦りがみえる>

22歳のクルド系女性、マフサ・アミニの死をきっかけにイランで始まった抗議活動は、10月第3週に入ってから、同国の主要産業である原油・石油化学セクターにまで拡大しており、その現場を映したオンライン動画が出まわっている。この抗議活動は、イランの原油生産とグローバルサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があるし、体制転換にもつながりかねない。(後略)【10月12日 Newsweek】
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後先の話で言えば、生活困窮からの労働者争議の方が年初から存在し、アミニさんの事件への抗議に合流した経緯があります。

“デモの第1波は今年に入って始まった。主導したのは、賃金が貧困ラインを割り込んだ石油業界の従事者や教師らの業界団体だ。 労組はこれまで、アミニさんが違反したとされるヒジャブ着用義務づけの法律を廃止するための運動に加わるよう、組合員に求めている。”【10月5日 WSJ】

【農村部の支持を得ている現体制 都市部の抗議だけでは体制転換は困難】
ただ、体制転換という話になると、そうそう事は進まない・・・という指摘も。

****イランで抗議デモが広がっても体制転覆はしない事情****
(中略)イランで体制を批判する大規模なデモが起きると、イラン嫌いの米国や欧州諸国はこのようなデモを大きく取り上げるきらいがあるが、イランのイスラム革命体制が今にも倒れると思うのは早計であろう。

なぜならば、イランのイスラム革命体制は、40年間かけて強固な支配体制を構築しており、特に1979年のイラン革命前の王政時代には、農村部の犠牲の上に都市部の繁栄があったが、革命後、イスラム革命体制は、農村の開発に力を入れた結果、元々、信心深く保守的な農村部の支持を確保していると思われるからである。

度々起きている全国規模のデモも、都市部で起きており、農村部で大規模な反政府デモが起きたとは聞かない。逆に言えば、これまで農村の犠牲の上で特権を得ていた都市部の住民が今度は損な役回りとなり、都市部住民がイスラム革命体制に対して不満をつのらせがちであることも大規模なデモが都市部で起こる遠因であろう。(後略)【10月14日 WEDGE】
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都市部の不満層だけの抗議で終わるのか、保守的農村部にまで抗議が拡大するのか・・・そこが抗議行動、そしてイラン政治体制の今後を決める分かれ道になります。
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イラン  長引く抗議デモ イスラムによる統治体制への批判に拡大 没落する中間層の不満も

2022-10-10 21:26:01 | イラン
(頭部をスカーフで覆っていない女子学生たちがホメイニ師とハメネイ師の肖像に向かって中指を立てた【10月5日 BBC】)

【現行統治システムの中核を成すイデオロギーへの批判が表面化】
イランの首都テヘランで頭髪を覆うスカーフの着用方法をめぐり連行された後、昏睡状態に陥り、3日後に死亡した女性をめぐって、警察の暴力によって女性が死亡したとして抗議デモが拡散した件は、これまでも数回取り上げてきました。


事件発生から4週間目に入った現在も抗議行動は続いています。
死者の数は、情報統制が厳しいイランのことですのではっきりしませんが、人権団体によると、当局による抗議デモの弾圧などでこれまでに子ども19人を含む185人の死者が報告されている・・・とも報じられています。【10月10日 TBS NEWS DIGより】

当局は、女性は「病死」であり警察の暴行はなかったとして、デモの鎮静化を図っています。

****イラン女性急死、法医学当局「脳腫瘍に関する既往症と関連」…暴行疑惑で抗議活動続く***
イランの法医学当局は7日、服装規定に違反したとして警察に拘束された後に急死したマフサ・アミニさん(22)の死因に関する報告書を発表した。死因は頭部などへの殴打ではなく、既往症と関係があると結論づけた。国営メディアなどが伝えた。

アミニさんは9月13日に拘束された後、意識不明となり、3日後の同16日に死亡した。報告書では死因について、アミニさんが8歳の時に手術を受けた脳腫瘍に関する既往症との関連を指摘した。

アミニさんは意識を失った後に心肺蘇生処置を受けたが、脳に「損傷」を負い、「脳の低酸素状態による多臓器不全で死亡した」としている。(後略)【10月8日 読売】
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しかし、女性の父親は、彼女には病歴はなく逮捕前まで健康上の問題は一切なかったと語っており、また、暴行を受けたと思われる状態を見たと主張し、死因に関する上記の公式発表を否定しています。

****イラン抗議デモ、4週目へ 女性の父、当局の死因発表を否定****
イランで服装規定などを取り締まる「道徳警察」に逮捕されたマフサ・アミニさんが拘束下で死亡したことに端を発した抗議デモは8日、4週目に入った。全土で女子学生がスローガンを叫び、労働者がストをし、デモ隊が治安部隊と激しく衝突している。(中略)

(死因に関する公式発表に対し)アミニさんの父親は在英ペルシャ語放送イラン・インターナショナルに対し、「私はマフサの両耳と首の後ろから血が出ているのを自分の目で見た」と述べ、公式発表を否定した。

■抗議の輪
テヘランの女子大学、アルザフラー大学では、保守強硬派のエブラヒム・ライシ大統領が新年度の始まりに訪れた際にも、抗議デモが続いていた。

在外人権団体イラン・ヒューマン・ライツは同大のキャンパスで「抑圧者に死を」と叫ぶ若い女性たちが目撃されたと報告している。

アミニさんの地元の西部クルディスタン州サッケズでは、女子学生が「女性、命、自由」とスローガンを唱えながら、スカーフを振り回して行進する様子が撮影された。人権団体によると8日に行われた抗議デモだという。

■「警察は殺人者」
抗議参加者はインターネット規制をものともせず、新しいメッセージ戦術を取っている。
例えばネットには、「もう恐れない。私たちは戦う」と書かれた巨大横断幕がテヘラン市内の陸橋に掲げられた画像が投稿された。AFPは画像が真正であることを確認した。

また同じ幹線道路にある当局の広報ボードの文言を、「警察は公僕」から「警察は殺人者」に書き換える男性を捉えた映像も拡散している。(中略)

■外国人拘束も
(中略)イラン当局は外国勢力が抗議デモを扇動していると繰り返し主張。先週には欧州出身者計9人を逮捕したと発表した。フランスやオランダは、イランへの渡航に関する警告や同国からの出国勧告を発している。(後略) 【10月9日 AFP】
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イランではこれまでも大規模な抗議行動は何回もおきていますが、従来のものが選挙の不正やガソリン価格など経済問題であったのに対し、今回は女性のスカーフ着用、つまりイスラム的価値観の強要が問題となっており、現在の神権政治ともいわれるイスラムを中核とする統治体制への不満と見ることができます。

****きっかけは1人の女性の死。今回のイラン抗議デモがこれまでと違うのはなぜか****
<「ふしだらな格好」を道徳警察にとがめられた若い女性が、病院で死亡。抗議行動は全土に広がり、体制批判にも発展している。近年はデモが頻発しているイランだが、今回のデモは何が違うのか>

イランが燃えている。きっかけは1人の女性の死だ。地方から首都テヘランを訪れていたマフサ・アミニ(22)は、地下鉄の駅を出たところで「道徳警察」に目を付けられ、連行された。

理由は、ヒジャブ(イランの女性に着用が義務付けられている髪を隠すためのスカーフ)から髪が少し出ていたからとも、ぴったりしたジーンズをはいていたからともいわれる。

残念ながら、この種の逮捕はイランでは珍しくない。そして拘束中に命を落とすことも、そんなに珍しくない。
だが、アミニの死は「イランで時々ある残念な出来事」では終わらなかった。

「病院のベッドに横たわる彼女の写真が流出したのだ」と、イラン系アメリカ人の弁護士ギスー・ニアは言う。「顔は腫れ上がり、首には分厚いガーゼが巻かれ、呼吸器につながれていた。その衝撃的な写真が、元気なときの美しい彼女の写真と共に、ソーシャルメディアで広く共有された」

9月に一部の女性たちが始めた抗議行動は、たちまち男性も巻き込んでイラン全土に広がり、体制批判にまでつながっている。いったいイランで何が起きているのか、スレート誌のメアリー・ハリスがニアに話を聞いた。

(中略)
――イランの女性は非常に教育水準が高いが、それでも自由を制限されている。

イランの女性は識字率が非常に高く、教育もある。男性よりも女性のほうが大卒者は多いとも聞く。ただ、女性たちを家庭にとどまらせるよう仕向けるさまざまなルールがある。女性が外で働いたり、スキルを活用したりすることは奨励されていない。

――近年のイランでは、抗議デモが頻発している感がある。多くは不正選挙に対するものだが、それ以外の部分で、今回のデモは何が違うのか。

2009年に大統領選の結果に対する大規模な抗議デモが起きた。非常によく組織されたもので、「グリーン革命」として世界的にも注目を浴びた。(中略)ただ、基本的にデモはテヘランの中心部に限定されていた。

だが、それ以降の抗議デモは大きく異なる。2017年12月と18年1月の抗議デモは全国的なもので、明らかに反政府的な色合いを持っていた。

2019年11月には、ガソリン価格が突然引き上げられたのをきっかけに、全国的に大規模デモが起きて、現体制に対する批判へとつながった。

――抗議行動がどんどん激しくなり、混乱を帯びたものになってきたということか。

人々が昔ほど抗議の声を上げることに恐れをなさなくなったことは間違いない。抗議デモが起きる頻度が高くなり、場所も都市部だけではなくなった。

ある地方での水不足がきっかけだったり、低賃金に対する不満がきっかけだったりと、原因も多種多様だ。
だが、今回は経済難などではなく、神権政治の中核を成すイデオロギーが問題になっている。ヒジャブの着用義務は、イスラム神政を口実にした人権抑圧を象徴するルールだ。

性差別的な法的枠組みの象徴でもある。なにしろ裁判では、女性の証言は男性の証言の半分の価値しかないと見なされるのだから。イランには民族的・宗教的マイノリティーや、性的少数者に対する差別もある。(後略)。【10月3日 Newsweek】
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“神権政治の中核を成すイデオロギーが問題になっている”となると、政権側は一歩も後へ引けません。譲歩や妥協が困難な問題です。
最高指導者ハメネイ師は、抗議行動はアメリカやイスラエルによって意図されたものだとして、警察対応を支持しています。

****イラン最高指導者、警察の対応支持=デモの死者130人超か****
イランの最高指導者ハメネイ師は3日の演説で、国内各地で続く若者らの抗議デモについて「あらかじめ計画されていた暴動だ」と断じ、鎮圧に向けて強硬姿勢を取る警察など治安当局の対応を支持する考えを示した。国営通信が報じた。最近のデモについてハメネイ師の発言が伝えられるのはこれが初めて。

一方、オスロに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」(IHR)は2日、デモが激化した9月16日以降の衝突による死者は133人になったと発表した。最高指導者が強硬対応を容認したことで、流血がさらに拡大する恐れもある。(中略)

ハメネイ師は、女性が命を落としたことについて「深い悲しみを覚えた」と述べた。しかし、抗議行動の拡大は「(イランを敵視する)米国やシオニスト体制(イスラエル)などが意図したものだ」と主張した。【10月3日 時事】 
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しかし、ハメネイ師のこうした姿勢は女性の怒りを増幅させているようで、抗議行動は多くの女子学生が参加し、最高指導者、宗教指導層を批判するものともなっています。

****イラン抗議デモ、女子学生が多数参加 前例ない行動も****
イランで全国的に広がっている抗議デモで、これまでなかった行動が相次いでいる。10代の女子学生たちはスカーフを外して振り回し、宗教指導層を非難する言葉を唱え、侮蔑的なジェスチャーを見せるなどしている。(中略)

BBCが確認した動画からは、いくつかの都市の校庭や路上で抗議デモが行われたことがわかる。
首都テヘランのすぐ西に位置するカラジでは、女子学生たちが学校から教育関係者を追い出したとされている。

ソーシャルメディアに3日に投稿された動画には、女子学生たちが「恥を知れ」と叫び、水の空ボトルと思われるものを、教育関係者が校門から出て行くまで投げつけていた様子が映っている。

同じカラジで撮影された別の動画では、学生たちが「団結しなければ、1人ずつ殺される」と声を張り上げているのが聞こえる。

南部の都市シラーズでは3日、女子学生数十人が主要道路の通行を妨害。スカーフを振りながら、「独裁者に死を」と声を合わせた。すべての国家問題で最終決定権をもつ、同国の最高指導者アリ・ハメネイ師に向けたものだ。

4日には、カラジ、テヘラン、北西部のサケズ、サナンダジュでも、女子学生の抗議デモが報告された。
また、多くの女子学生が教室で、頭部を覆わずに立っている場面の写真も出回った。学生たちは、ハメネイ師と、かつての最高指導者ルホラ・ホメイニ師の肖像画に向かって、中指を立てるひわいなしぐさを見せている。

女子学生らがこうした抗議行動を起こした数時間前には、ハメネイ師が沈黙を破って、イランの宿敵であるアメリカとイスラエルが「暴動」を仕組んだと非難していた。また、抗議デモを暴力的に弾圧した治安部隊への全面的な支持を表明していた。【10月5日 BBC】
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最高指導者への批判は、国営テレビのハッキングという形にもなっています。

****ヒジャブめぐるデモ イランで国営テレビがハッキングされる ハメネイ師に銃の照準****
スカーフの着用をめぐり拘束された女性が死亡した中東・イランでは、抗議活動が続いていますが、国営テレビが放送中にハッキングされました。

8日、イランの国営テレビで午後9時のニュース番組が報じられていた最中、突然、画面が切り替わり、白い仮面が登場したあとに最高指導者ハメネイ師に対し、銃の照準が合わせられるかのような映像が流れました。
反体制派が国営テレビを数秒間に渡って乗っ取り=ハッキングしたとみられています。

ハメネイ師は炎に包まれているように見え、画面下には一連の抗議活動の発端となったアミニさんや、デモ途中に死亡したほかの3人の女性の写真が表示されました。(後略)【10月10日 TBS NEWS DIG】
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ハッキングされた最高指導者ハメネイ師の画面には「若者の血があなたの手から滴る」とも表示されていたとか。

抗議デモの火に油を注ぐように、デモに参加した別の女性の不審な死も問題になっているようです。

****イラン抗議デモ 別の17歳少女が死亡 政権側の関与疑う声広がる****
イランでスカーフのかぶり方をめぐり逮捕された女性が死亡したことに抗議するデモが広がるなか、デモに参加していたとみられる17歳の少女が死亡しているのが見つかりました。
検察は死亡した理由はデモとは関係ないとしていますが、政権側の関与を疑う声が広がっていて、さらに反発が強まっています。(後略)【10月10日 NHK】
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【政権批判が広がる根底には崩壊しつつある経済下で苦しむ中間層の怒りも】
先ほど、“現在の神権政治ともいわれるイスラムを中核とする統治体制への不満”が表面化していると書きましたが、スカーフに敏感な若い女性だけでなく怒りが広く共有されるのは、長引く制裁で疲弊した経済への不満が根底にあっての話でしょう。

****イラン抗議デモ 中間層怒りのマグマ****
米国による制裁や汚職・失策で崩壊寸前の経済、縮む中間層

髪を覆うスカーフ(ヒジャブ)着用を巡る問題が引き金となり3週間にわたりイランを揺らしている抗議デモは、崩壊しつつある経済下で苦しむ中間層の怒りを巻き込み、一段と大きな運動へと発展してきた。

(中略)口コミで組織されソーシャルメディアで情報を拡散するデモ隊の要求は、女性の権利向上を求める運動から、イラン社会の隅々まで支配するイスラム教統治の廃止を求める運動へと急速に様変わりしている。

「女性・テクノロジー・貧困という3要素がデモを拡大させている」。外国企業にイラン事業戦略を助言するテヘランの実業家モスタファ・パクザドさんはこう話す。「若者は厳しい制約によって自分の人生がまさに台無しにされているとの思いが強い」

1979年のイラン革命以降、同国の中間層は安定のかなめだった。核や弾道ミサイルの開発、テロや武装勢力への支援を理由にイランが米国などから厳しい制裁を科される中でも、経済成長をけん引した。過去40年に人口の6割を占めるまでに拡大。強固な教育制度に支えられ、壊滅的な戦争や幾度の原油価格急落を経験しながらも、医師や弁護士、エンジニア、トレーダーといった高度人材を送り出している。

その中間層がここにきて、50%に跳ね上がったインフレと、今年最安値を更新した通貨リアル急落による重圧に苦しめられている。イランでは人口の約3分の1以上が貧困層で、この比率は2015年の20%から急上昇。中間層も全体の50%を割り込んだ。

テヘラン北部にある裕福な地域の通りで抗議デモに参加していた52歳の主婦は「デモの根本にあるのは経済問題で、これが今爆発している」と話す。彼女はヒジャブを取り、他の女性の群衆とともに振り回していた。

(中略)イランの石油・金融業界を標的にした米国の制裁措置によってドル資金調達の道が断たれ、イラン経済を崩壊寸前に追い込んでいる。エコノミストはこうした見解でほぼ一致する。
それでもイラン国民の63%は、制裁ではなく経済運営の失策と汚職が原因だと考えている。(中略)

かつて世界有数の産油国だったイランだが、足元の産油量は日量約250万バレルと、1970年代の600万バレル余り、2016年の400万バレルから大きく落ち込んでいる。

新型コロナウイルス禍からの景気回復の恩恵は、インフレ高騰で打ち消されているとエコノミストは指摘する。国際通貨基金(IMF)が先週公表した研究によると、イランの大卒者の雇用は制裁発動後に7%減少した一方、高技能の男性労働者の賃金は約2割減った。

デモの第1波は今年に入って始まった。主導したのは、賃金が貧困ラインを割り込んだ石油業界の従事者や教師らの業界団体だ。労組はこれまで、アミニさんが違反したとされるヒジャブ着用義務づけの法律を廃止するための運動に加わるよう、組合員に求めている。(中略)

中間層の多くにとっては1979年以降、ビジネスを行う自由が一程度認められ、稼ぐことができていたことで、政治的弾圧や厳格なイスラム教の価値観の強要に対する不満が和らいでいた。政府はエリート層に集中していた石油収入を再配分し、無償で医療や教育、家族計画プログラムを提供した。

イランの強力な教育制度によって、農村部の貧困層でも社会階級を上がり、家を所有することが可能になった。大学の学位取得が法律や医学といった専門職への扉を開いた。

社会格差や教育水準、寿命などから国の発展レベルや豊かさを測る国連の「人間開発指数」によると、イランは2015年の段階で、メキシコやウクライナ、ブラジル、トルコを上回っていた。

イランでは同年、米国や欧州、ロシア、中国との間で結んだ核合意により、国際的な孤立から脱却できるとの希望が高まっていた。

ところが、期待されていたような追い風は吹かなかった。ドナルド・トランプ氏が2016年に米大統領に当選したことで、西側企業の間ではイランとの取引を敬遠する動きが広がった。トランプ氏が核合意の離脱を表明し、制裁を復活させた2018年以降、イランの中間層が貧困層へと転落するケースが顕著になる。

イランの中間層はかつて、2013~21年に大統領を務めたハッサン・ロウハニ氏などの改革派に望みをつないでいた。だが、世論調査や取材からは、選挙を通じて政治を変革することへの期待が中間層の間で失われたことがうかがわれる。昨年の大統領選では、ハメネイ氏が改革派の候補者による出馬すら認めないことが明らかになると、投票率が過去最低に沈んだ。

ロウハニ氏の後継であるブラヒム・ライシ大統領は、経済的な自立と、西側ではなくロシア・中国との貿易を重視する考えを強調している。

英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の中東・北アフリカ・プログラム副責任者、サナム・バキル氏は「イランではガス抜きの調整弁が存在しない。経済的な機会も、社会的な機会も、政治的な機会もなく、弾圧の雲が立ちこめるだけだ」と話す。(後略)【10月5日 WSJ】
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イラン抗議デモ  鎮圧姿勢強めるライシ大統領の気になる経歴 イラク・クルド人拠点への攻撃も

2022-09-29 22:13:59 | イラン
(イランの首都テヘランで行われたデモで、髪を覆うスカーフを燃やす人々。(2022年9月22日撮影)【9月27日 AFP】)

【スカーフ女性死亡への抗議デモは、政権への不満、支配聖職者層の解体を求める声にも拡大】
9月22日ブログ“イラン スカーフをめぐる女性死亡で広がる抗議デモで混乱 瀬戸際の核合意再建問題”でも取り上げたように、イランでは今月16日、スカーフのかぶり方が不適切だとして逮捕された22歳の女性が死亡したことをめぐり、警察が心臓発作が原因だと説明しているのに対し、警察官による暴行が原因だとして抗議するデモが各地で起きましたが、未だ収束していないようです。

長引く背景には、単に女性のスカーフの問題だけでなく、保守強硬派政権下での宗教的価値観強要による自由の制約、更には長引く制裁で改善しない経済苦境への市民の不満などが抗議行動の根底にあるように思えます。

そうした不満は「独裁者に死を」といった声にも。

****イランでデモ隊と治安部隊が衝突、「独裁者に死を」唱える動画も****
イランでは女性の頭髪を覆うスカーフの着用が不適切だったとして拘束された女性が死亡したことへの抗議活動が激化しており、国営メディアやソーシャルメディアによると27日、数十の都市で機動隊・治安部隊とデモ隊が衝突した。

ソーシャルメディアに投稿された動画には、テヘランなどで治安部隊と衝突しながら支配聖職者層の解体を求めるデモ隊の姿が映し出されている。ツイッターの動画では、最高指導者ハメネイ師を指して「独裁者に死を」と唱えている様子も見られた。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはツイッターで、イランの治安部隊がデモ隊に実弾などを使用、「数十人が死亡、数百人が負傷」と指摘した。

一方、国営メディアは、デモ参加者を「偽善者、暴徒、凶悪犯、扇動者」と表現。国営テレビはいくつかの都市で警察が「暴徒」と衝突したと報じた。

インターネット遮断監視組織NetBlocksによると、デモ参加者がソーシャルメディアに動画を投稿することを困難にするため、当局はいくつかの州でネットアクセスを制限している。【9月28日 ロイター】
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【「暴動は許さない」と鎮圧に向けた姿勢を強めるライシ大統領の不穏な経歴】
国営メディアによれば治安当局との衝突などでこれまでに41人が死亡する事態となり(人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ(IHR)」によると、抗議デモが続く11日間で、少なくとも76人の抗議者がイラン治安部隊によって殺されたとも)、国内外で当局対応への非難の声が高まるとともに、政権側としてはこれ以上の混乱は体制を揺るがすものとして容認できないところに来ているようにも見えます。

****イラン大統領“暴動はレッドライン” 女性死亡の抗議デモで****
イランでスカーフのかぶり方をめぐり逮捕された女性が死亡したことに抗議するデモが続いていることについてライシ大統領は、レッドラインを越えて暴動に発展しているとして取締りを徹底する姿勢を強調しました。混乱の収束に向けて、デモへの参加を思いとどまらせるねらいがあるとみられます。

(中略)ライシ大統領は28日、国営テレビのインタビューに答える形で、女性の死因に関する調査結果が数日以内に公表される予定だと明らかにしました。

その一方で「デモと暴動は違う。社会の治安を乱すことは許されず、暴動はレッドラインを越えている。人々の命と財産を傷つける者には裁きを受けさせる」と述べ、取締りを徹底する姿勢を強調しました。

(中略)ライシ大統領としては混乱の収束に向けて、デモへの参加を思いとどまらせるねらいがあるとみられます。(後略)【9月29日 NHK】
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2019年11月、ガソリン価格高騰から抗議デモが激化した際には、当局の弾圧によって死者は1000人を超えたとのアメリカ側の観測もあります。(1500人以上との指摘もあります)
ただ、イラン政府は死傷者数などデモの詳細を明らかにしていませんので、真相は不明です。

今回もそうした大規模な犠牲者が懸念されますが、その懸念を膨らませるのはライシ大統領の経歴です。
最高指導者ハメネイ師に近い保守強硬派のライシ大統領は、「イスラム法学者」「司法府でキャリアを積んだ」などと説明されていますが、別の顔もあります。

****「死の委員会」の一員だったライシ氏****
ライシ氏は2019年からイランの法相を務めているが、何よりも若い頃から長年にわたり、検察官として反体制派の弾圧、処刑に関与してきたことで知られる。

特に1988年、当時の最高指導者ホメイニ師の勅命によって実行された反体制派大弾圧の責任者の1人とされていることは重要だ。

ホメイニ師は1988年にいわゆる「死の委員会」を設立、政治犯として拘束されていた反体制派モジャヘディン・ハルク機構(PMOI)の支持者らを直ちに処刑するよう命じた。ライシ氏はその「死の委員会」の一員だった。

数千人から数万人にのぼるとされる犠牲者の遺族を代表するNGO「1988年イラン大虐殺の犠牲者のための正義(JVMI)」は、家族には事前に何も知らされぬまま処刑は秘密裏に行われたため、最後のお別れをする機会もなかった、彼らは6人ずつクレーンに吊るされて処刑され、遺体には消毒液がかけられ、夜のうちに集団墓地に密かに埋められた、としている。

しかしイラン当局は、今もその事実を認めていない。

2021年5月には150人以上の元国連職員や人権専門家が、この1988年イラン大虐殺について調査を行うよう要求する書簡を国連に提出、これを受け取ったミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は「人道に対する罪」に相当する可能性に言及した。(後略)【2021年6月1日 FNNプライムオンライン イスラム思想研究者 飯山陽氏「イラン次期大統領最有力候補の血塗られた過去」】
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ホメイニ時代の数千人から数万人にのぼるとされる反体制派大弾圧の責任者の1人・・・その経歴が今また繰り返されることがなければいいのですが。
情報が統制された国家ですので、仮に大弾圧が行われても、イラン国外にはその情報はなかなか伝わってきません。

【イラク・クルド自治区のクルド人勢力拠点への越境攻撃も】
前回9月22日ブログでも触れたように、死亡した女性がクルド系だったことで、混乱は国境を超えて、隣国イラクのクルド自治区にある反政府活動を続けるクルド人勢力の拠点への攻撃という形にも拡大しています。

****イランがイラク北部のクルド自治区攻撃、13人死亡 国内騒乱巡り****
イランの革命防衛隊は28日、隣国イラク北部のクルド人地域の武装勢力を標的にミサイルと無人機で攻撃を行ったと明らかにした。当局によると、13人が死亡した。

イランでは今月、クルド系女性がを理由に警察に拘束され死亡したことを巡り、大規模な抗議デモが発生。イラン当局はクルド勢力が関与していると非難している。

イラクの国営通信社は、この攻撃でクルド人自治区のアルビルとスレイマニヤ近郊で13人が死亡し、58人が負傷したと、クルド人当局の話として伝えた。

イラクのクルド関係筋によると、28日朝に行われた攻撃はスレイマニヤ近郊のクルド側拠点の少なくとも10カ所が対象だったという。

米中央軍は、アルビルに向かうイラン無人機を撃墜したと明かし、「空爆による米軍の負傷者や死者はなく、装備に被害はない」と声明を発表した。

イラン革命防衛隊は攻撃後、テロ勢力と見なす同地域のクルド人への攻撃を続けると表明した。【9月29日 ロイター】
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イラン革命防衛隊は、イラクのクルド人勢力が「北西部からイランを攻撃して同国に侵入し、不安と暴動を扇動して混乱を広げている」と非難し、攻撃を正当化しています。

“イラク政府はイラン大使を呼び出し抗議。国連イラク支援ミッションはツイッターへの投稿で、「ミサイル外交は壊滅的な結果をもたらす無謀な行為だ」と非難した。米国も、攻撃を「強く非難する」と表明し、さらなる攻撃を行わないようイランに警告した。”【9月29日 AFP】

イラクではシーア派内部の反イラン派と親イラン派の対立から政治混乱が続いていますが、イランの今回のようなイラク主権を無視した越境攻撃のような行動が、イラク国内の対立を激化させているのでしょう。(もっとも、イラク主権無視はトルコもアメリカ・・・といったところでしょうが)

【東隣アフガニスタンではイラン抗議デモに連帯する女性も】
上記イラクはイランの西隣ですが、イランの東隣はタリバン支配のアフガニスタン。
「不適切な服装」云々で言うなら、アフガニスタンではイラン以上に厳しい制約があります。そのことへの女性たちの不満も。

****「イラン抗議運動」支持の女性集会を強制解散 タリバンが空砲で****
アフガニスタンの女性たちが29日、首都カブールで、隣国イランで服装規定違反を理由に「道徳警察」に逮捕された女性の死をめぐって広がった抗議運動を支持するデモを行ったが、イスラム主義組織タリバンにより強制的に解散させられた。

AFP特派員によると、イラン大使館の前に約25人の女性が集まり、イランでの抗議運動で用いられたスローガン「女性、命、自由!」を叫んだ。これに対し、タリバン兵は空砲を撃つなどして集会を中止させた。

女性たちが手にした紙には、「イランは立ち上がった。今度は私たちの番だ!」「カブールからイランへ、独裁にノーと言おう!」などと書かれていた。タリバン兵はこれらの紙を素早く奪い取り、デモ隊の前で破り捨てた。【翻訳編集】
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タリバン復権をあっけなく許したアフガニスタン男性でしたが、アフガニスタン女性は粘り強く勇敢なようです。

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イラン  スカーフをめぐる女性死亡で広がる抗議デモで混乱 瀬戸際の核合意再建問題

2022-09-22 22:35:47 | イラン
(テヘランで通りに繰り出したイランのデモ隊=AFP通信が21日入手【9月22日 時事】)

【「スカーフで髪を隠さなかったら拷問死か!」 拡散する抗議デモ 増える犠牲者】
イランでは、2019年にガソリン価格高騰に不満を抱く市民が行った抗議デモなど、しばしば国民の大規模な抗議行動が起きますが、今回イランを揺るがしているのはイスラム女性が義務付けられているスカーフの問題。

「スカーフを被る」と言っても、その対応は個人差があります。
宗教的価値観を重視する女性は髪の毛全体を隠す形できちんと。
逆に、そうした宗教的価値観の強制を嫌う女性は、前髪を大きく出す形で。

現在は保守強硬派のライシ大統領のもとで、スカーフについても厳しくチェックされる状況にあります。
今回問題となった女性は、スカーフのかぶり方が不適切だとして警察に拘束され、死亡しました。

SNSで女性が病院のベッドで治療を受けているとされる写真が拡散。頭部付近に血痕のようなものが見えるため、警察官の暴行を疑う声が強まり、頭を殴打されたとも報じられました。

17日に女性の地元で営まれた葬儀には数千人が参列し、その一部が当局の対応を批判し、最高指導者ハメネイ師も非難する抗議行動に発展、治安部隊と衝突する事態に。

その後も抗議行動は拡散し、死者がでる事態に。

****スカーフ着用めぐり逮捕の女性死亡 抗議で死者3人 イラン****
イランで、頭髪を覆うスカーフの着用方法をめぐり警察に逮捕された女性が死亡したことを受け、抗議デモが広まっている。女性の出身地である西部クルディスタン州のイスマイル・ザレイ・クーシャ知事は20日、同州のデモで3人が死亡したことを明らかにした。

マフサ・アミニさんは、家族と訪れていた首都テヘランで13日、服装規定などを取り締まる「道徳警察」に逮捕され、警察署に連行された。

その後、昏睡(こんすい)状態に陥り病院に搬送され、16日に死亡。警察署で何が起きたのかははっきりしないが、アミニさんの頭部には打撲傷があったとされる。

報道によると、同州では18日、約500人がデモを行い、参加者の一部が車の窓を割り、ごみに放火。警察が参加者を逮捕したり、催涙ガスを使用したりした。テヘランでも19日、デモ隊に対し警察が警棒や催涙ガスを使用した。

同国のファルス通信によると、知事は同州のデモでの死者3人について、死亡日時は明らかにしなかったものの、「敵の企て」により「不審な」死を遂げたと説明。

ディバンダーレで「治安当局が使用していない種類の武器」で1人が殺害され、サケズでは1人の遺体が病院の近くの車の中に置き去りにされた状態で見つかったとした。3人目の死者については詳細に触れなかった。 【9月21日 AFP】
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警察当局はアミニさんが意識を失った理由を「心臓発作」と説明。19日にも改めて暴行を否定し、アミニさんには「5歳の時に脳の手術を受け、以前から身体的な問題を抱えていた」と説明。「警察の対応に問題はなかった」と主張しています。

しかし、アミニさんの父親は19日までに地元メディアに対し、彼女に病歴はなく、逮捕前まで健康上の問題は一切なかったと語っています。

全国各地で数十~数百人規模の抗議集会が開かれ、一部は暴徒化して投石やタイヤの放火に及び、警察車両の窓ガラスが割られることも。
抗議デモは21日も続き、死者も増えています。

****イランの抗議デモ、死者6人に スカーフ巡り女性死亡で****
イランメディアは21日、イランで女性が髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切だとして警察に拘束され、死亡したことに対する20日の抗議デモについて、警察関係者1人が南部シラーズで、市民2人が西部ケルマンシャーで死亡したと報じた。一連の抗議デモでの死者は計6人になった。

シラーズでは警察官4人が負傷し、デモ参加者15人が逮捕された。ケルマンシャーでは市民や治安当局者ら計25人がけがをした。

17日から始まった抗議デモはイラン各地に拡大。21日も首都テヘランで市民が抗議活動をし、デモは5日連続となった。【9月21日 共同】
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【大統領・最高指導者は亡くなった女性に寄り添う姿勢を見せて、抗議デモ鎮静化を図る】
ライシ大統領は16日、内務省に徹底した捜査を指示。18日には遺族に電話し、「あなたの娘は私の娘のような存在だ」と哀悼の意を伝え、「何が起きたのかは明らかにされる」と捜査の徹底を約束しています。

最高指導者ハメネイ師の代理人も19日に遺族宅を訪れ、「ハメネイ師も心を痛めている。侵害された権利の擁護のため、すべての機関が行動を取る」と伝えたそうです。

このあたりが、イランに対する欧米の宗教独裁国家イメージとはやや異なるところかも。

確かにイランは最高指導者を頂点とする宗教的権威が最重視される政治であり、今回事件のような宗教的価値観の強制もある社会ですが、一方で、そうした政治体制に批判的で自由を求める国民も多く、保守派とされる指導層も国民からの批判を強く警戒しています。

少なくとも大統領は選挙で選ばれるシステムですから(選挙への体制側の介入はありますが)、国民の批判が拡大すると政治システムが維持できなくなります。その点で、いわゆる民意が重視される民主主義的側面もあります。単なる宗教独裁国家ではありません。

死者は12人なったとの報道も。イランの情報は不透明で何が起きているかよくわからい部分がありますので、実際はもっと多いのかも。「宗教的価値観押しつけからの自由」「警察の横暴・人権無視」に加えて、下記記事が指摘するようにクルド問題が絡んでくると話は更に厄介にも。

****デモ衝突の死者12人 イランの混乱やまず―人権団体****
警察の拘束下での女性死亡を発端とする抗議デモがイラン各地で続き、人権団体によると、治安部隊との衝突などによるクルド人地域での死者は、21日時点で少なくとも12人となった。ロイター通信が報じた。

インターネット上には自動車を燃やすなどして抵抗するデモ隊の動画が相次いで投稿され、混乱がやむ気配は見られない。

女性は少数派クルド人が暮らす西部コルデスタン州出身。頭部を覆うスカーフを適切に着用していなかったことを理由に13日警察に逮捕され、16日に死亡が発表された。

クルド系の人権団体ヘンガウは、コルデスタン州では女性への連帯の意を示すデモに治安部隊が発砲するなどし、死傷者が出る事例が相次いでいると報告している。【9月22日 時事】
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「国家を持たない最大民族」クルド人はトルコやイラクでよく問題になりますが、イランにも多くが暮らしており、その政治行動はイラン当局と対立しています。

【国連総会 イランは欧米側の人権に関する「二重基準」を批判】
折しも開催されている国連総会で、アメリカとイランが核合意再建問題の他、女性の死を受けて人権問題でも批判を応酬する形にもなっています。

****イランと米国、核合意再建・人権問題巡り国連で対立****
米国とイランは21日、国連総会で安全保障や人権問題を巡り対立した。イランのライシ大統領は2015年の核合意への復帰を確約するよう米国に要求。バイデン米大統領はイランに決して核兵器を持たせないと表明した。

ライシ氏は人権分野における一部政府の「二重基準」が人権侵害の 慣行化につながっていると非難。カナダで発見された先住民の墓標のない墓やパレスチナの人々の苦悩、米国で収容された移民の子どもなどに言及した。

イランでは最近、髪を覆うスカーフの着用が不適切として拘束された女性が死亡した事件を受け抗議デモが広がっており、批判をかわす狙いがあるとみられる。

ライシ氏はまた「(15年の核)合意復活に向け、全ての問題を解決しようという偉大で真剣な意志がある」と述べ、「われわれが望むのはただ一つ、約束の順守だ」と指摘。米国が核合意から離脱したことに触れ、「恒久的な合意」を保証する重要性を訴えた。

バイデン氏は核合意復帰への意欲を改めて表明した上で「イランが核兵器を持つことを容認しない」と強調。また、イランのデモ参加者らに同調し、「われわれは基本的権利を守るためにデモに参加しているイランの勇敢な市民、女性たちとともにある」と語った。【9月22日 ロイター】
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【もはや“後がない”核合意再建問題】
一方の、核合意再建問題の方は、一時は“交渉も大詰め”と見られていましたが、結果を出すには至らず、行き詰まりも。

****イランと欧米、核合意巡り平行線 米「国連総会で突破口見えず」****
イランにある3カ所の未申告施設でウランが検出された問題に関する国際原子力機関(IAEA)の調査を巡り、イランと欧米諸国は20日も対立を続けた。

米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、今週の国連総会で2015年の核合意再建に向けた突破口が開かれるとは期待していないと述べた上で、米国は合意再建を望んでいると改めて表明した。

フランスのマクロン大統領はこの日、イランのライシ大統領と会談。マクロン氏は会談後、「欧米が正式に設定した条件を受け入れるかどうかイランが回答する番だ」と記者団に述べた。

イランは、核合意再建に向けた提案内容を完全に実行する前に、検出されたウランの痕跡に関するIAEAの調査終了を約束するよう米国に要求している。

欧米諸国はこの要求を拒否し、イランがIAEAに満足のいく回答をしたときにのみ調査は終了すると主張している。

マクロン氏は20日、欧米がIAEAに調査終了を迫ることはないと述べた。

一方、ライシ氏は、イランはIAEAが調査を終了し、2018年に核合意を放棄した米国が再び放棄した場合の影響を制限するための保証を引き続き要求していると語った。

イラン政府によると、ライシ氏はマクロン氏に対し「保証の要求は完全に合理的で論理的な要求だ」と述べ、IAEAが調査を終了することなくイランが合意することは不可能だとの見解を示した。【9月21日 ロイター】
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イラン側は、イランだけが不公平な扱いを受けていると主張しています。
IAEAの調査が続くのは、それだけイランに不審な行動があるためでもありますが。

****核兵器の意図、改めて否定=査察は「不公平」―イラン大統領****
イランのライシ大統領は21日、国連総会で演説し、核開発について「イランは核兵器を製造したり保持したりするつもりはなく、(核兵器は)防衛政策上も存在しない」と表明した。

イランはこれまでも兵器化の意図は繰り返し否定しており、米欧との核合意再建交渉が難航する中、改めてイランの立場を強調して国際社会に理解を求めた。

また、ライシ大統領は国際原子力機関(IAEA)による査察をめぐり「イランで行われている核活動は世界のわずか2%なのに対し、査察の35%がイランで行われている」と主張した。

再建交渉をめぐっては、イランによるIAEAの査察拒否が妥結の障害となっており、「不公平」と訴えることで対応の正当性をアピールした。【9月22日 時事】 
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イランが求めている「保証」は、アメリカで共和党が復権すれば、トランプ前大統領のときと同じように、また合意から離脱し、制裁が復活するという懸念によるもので、それはイランからすれば当然でしょう。

****イラン核兵器保有の土俵際にある核合意再開交渉****
クインシー研究所のパリシイ副所長が、Foreign Affairs誌ウェブサイトに8月26日付けで掲載された論説‘Last Chance For America and Iran’で、現在交渉されているイラン核合意再開交渉で合意すべきであり、米共和党が政権を奪還したら、再開された核合意を廃棄すると公約しているが、そうさせないためには合意の内容をより野心的にする必要がある、と書いている。主要点は次の通り。

・合意への反対者は、新たな核合意はより短期間かつ弱いものだと批判している。確かにイランが核爆弾を製造のために必要な濃縮ウランを得られる期間(ブレイク・アウト・タイム)が当初の合意では12カ月であったが、現在の合意案では6カ月から9カ月に短縮されている。しかし、現時点でイランは数日で必要量の濃縮ウランを手に入れることが可能なので半年というのは遙かにましだ。

・バイデンは2020年の大統領選挙でバイデン候補は、速やかに復帰する旨を公約に掲げていたので、イラン側は米国の核合意復帰を期待していたが、バイデン大統領は核合意復帰を急がず、貴重な数カ月間を、核合意に強く反対しているイスラエル、アラブ首長国連邦、サウジアラビアとの協議に費やす一方、イランとの信頼醸成については気にしなかった。

・イラン政府関係者は、バイデン大統領が、交渉の代わりに対イラン制裁を継続することによって、より厳しい条件をイランに課そうとしていると考え、対抗措置としてウランの濃縮計画を急速に拡大した。21年6月に核合意再開交渉が始まった時には、既に交渉の雰囲気は最悪であった。

・21年8月に就任した保守派のライシ新大統領は、核合意は優先的な課題では無いとして、過去の核合意について見直しを続け、その間もウラン濃縮のための遠心分離機を増設して濃縮ウランの備蓄を増やし続けた。米国側は、イランが事実上の核兵器保有国になるための時間稼ぎをしているとの疑いを強めた。

・米共和党が24年に政権を奪還すれば、再開された核合意を廃棄すると公約しているが、そうさせないためには合意の内容をより野心的にする必要がある。米国が再開された核合意から離脱しない件については、引き続き協議することとし、(米国を含む)全ての合意の当事者が、仮に合意に違反すれば、その対価を払うようにするべきである。

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イランの核合意再開問題は、ボレル欧州連合(EU)外交安全保障政策上級代表が、「最終合意案」を提示したが、案の定、イラン側は、色々とコメントを付けており、交渉を再開して時間稼ぎをしようとしているように見える。交渉が続いている限り、イランは核開発を継続出来る。

更に、問題なのは、8月29日、イランのライシ大統領が、未申告の核物質問題を止めなければ合意再開は難しいと発言したことである。未申告の核物質問題とは、イランが金属ウランを製造していたことついての国際原子力機構(IAEA)の調査の件であるが、金属ウランは、核爆弾の製造に必要不可欠な技術だ。

イラン側は、繰り返し核兵器の保有を否定しているが、核爆弾製造に必要な量の濃縮ウランを備蓄し、IAEAの調査の中止を要求していることは、イランが核兵器を開発しようとしていることを強く疑わせる。

政権交代懸念の米国への対策は
他方、共和党は、24年に政権を奪回すれば、核合意が再開していても廃棄すると公約している由だが、極めて党派的、かつ、無責任と言わざるを得ない。

トランプ政権以来、「過去に例の無い制裁」をイランに課しているが効果を上げていない以上、後は軍事オプションしか残されない様に思われるが、共和党はイランと戦争を行う覚悟があるのだろうか。

上記の記事は、このままでは、たとえ核合意が再開しても2年間しか継続出来ないので、合意を永続的とするために、
(1)米国が再度核合意から離脱する場合に米国にペナルティを科す。
(2)米国・イラン間の経済関係を再開し、米国の経済界にイランとの関係を維持するためのインセンティブを持たせる。
(3)イランと敵対するサウジアラビア等との間に対話を通じて信頼醸成、緊張緩和を進める。
と提言するが、いずれも非現実的と言わざるを得ない。

イランは、既に核爆弾1個を製造に必要な濃縮ウランを備蓄し、半年以内にさらに2個分の備蓄が可能と言われている。

恐らく、濃縮ウランから核爆弾を製造するために必要な金属ウラン製造技術を開発しており、起爆装置の研究も行っている可能性がある。

他方、イスラエルのF-35戦闘機がイランの領空侵犯を繰り返しているという報道があったが、イランの核問題は、いよいよ土俵際に来ているように思われる。【9月21日 WEDGE】
******************

8月段階の「大詰め」の雰囲気もまた最後を詰め切れずに決裂する可能性が大きくなっていますが、今回決裂すれば、アメリカ・イスラエルにとっては、あとは実力でイランの核開発を阻止するという選択肢しか残らないことにも。世界は新たな厄介の火種を抱えることにもなります。
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イラン核合意再建交渉“大詰め” EUの最終文書提示でイラン・アメリカの回答が出そろう 結果は?

2022-08-25 23:15:25 | イラン
(【8月10日 ARAB NEWS】 8月初旬、ウィーンで再開された核合意再建交渉)

【イラン革命防衛隊のテロ組織指定解除で暗礁に乗り上げたイラン核合意交渉】
イラン核合意のこれまでの経緯に関して超簡単にまとめると以下のようにも。

****イラン核合意 これまでの経緯*****
核合意は2015年に米英仏独露中の6カ国とイランが締結した。イランが核兵器開発につながるウラン濃縮活動を制限する代わりに、欧米側が経済制裁を緩和する仕組み。

18年にトランプ前米政権が一方的に離脱して制裁を再発動し、反発したイランは合意の制限を大幅に超えるウラン濃縮などを進めてきた。

バイデン米政権の発足後、米・イランの両国は21年4月に合意正常化へ向けた間接協議を開始した。

一時は妥結の機運が高まったが、今年2月に核合意当事国であるロシアがウクライナに侵攻し、交渉は中断。6月にカタールで再開したが進展がないまま終了し、8月上旬にウィーンで再開した。【8月25日 毎日】
*********************

上記記事に“一時は妥結の機運が高まった”とあるのは、今年2月、3月段階。
当時は下記のように“今週末にも合意”といった話が出るまでになっていました。

****イラン核合意再建協議、今週末に合意も=ボレルEU上級代表****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は4日、2015年のイラン核合意の再建に向けた米国とイランとの間接協議について、今週末に合意に達するかもしれないと述べた。

英国の交渉責任者、ステファニー・アルカク氏もツイッターで間接協議が合意に近づいているとの見解を示した。

ロシアのウリヤノフ在ウィーン国際機関代表は「イランは(米国との)直接会談の準備はできていない」としたものの、「おそらく来週半ばには合意に達するだろう」とした。【3月5日 ロイター】
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その交渉最終段階にきてハードルとなったのが、ウクライナ侵攻で制裁を課されたロシアが、核合意に沿って参画するイランの核関連事業を制裁対象外にすることを求めたことでした。

これについては、アメリカ側が譲歩姿勢をみせて、合意に向けた流れはなんとか維持されました。

****露のイラン核関連事業は制裁対象外 米、核合意妥結へ譲歩姿勢****
イラン核合意の再建に向けた多国間協議をめぐり、米国務省のプライス報道官は15日の記者会見で、ロシアが同合意に沿って参画するイランの核関連事業については、ウクライナ侵攻を受けて発動している対露制裁の対象とはしないと明らかにした。

同協議は妥結間近とされながらも、ロシアが今月に入って自国に科されている制裁の対象からイランとの取引を除外するよう要求したことで停滞。ロシアがこうした除外規定を制裁回避に利用するとの懸念も指摘されていた。

そんな中でバイデン政権は今回、一定の譲歩姿勢を示した格好だ。ラブロフ露外相は同日、米国から「文書での保証」を受け取ったと述べ、協議の進展に前向きな態度をみせた。(後略)【3月16日 産経】
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しかし、イラン側がイラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定解除を求めたことで、交渉は暗礁に乗り上げました。

****イラン核合意再建、革命防衛隊のテロ組織指定解除が最後の障害に****
イラン核合意の再建について、複数の外交関係者は、イラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定を米政府が解除するかが、交渉の行方を左右するとの見方を示した。

米政府内ではこの問題を受けて核合意再建に反対する声が上がっているほか、IRGCのテロ組織指定解除を公に批判していたイスラエルなどの中東同盟国も反発している。

1年近くにわたる交渉ではほぼすべての意見の対立が解消されてきたが、政府高官らは、この問題でイランとの妥協点を見いだせなければ話し合いが破綻する可能性もあると述べている。

米政府はIRGCが数百人の米国人を殺害したと指摘しているほか、エリート部隊のゴドス軍は中東地域の代理組織やシリアで戦った親イラン勢力向けに兵器などを提供している。IRGCは弾道ミサイル関連のプログラムや、人権侵害疑惑を理由に、長年にわたって米政府から制裁を受けていて、2017年には対テロ制裁リストに加えられた。

米政府高官らによれば、ジョー・バイデン大統領や側近の多くは判断を先延ばしにするのではなく、イランと合意を結んでその後に改善に努めていくことの方がいい選択だと考えている。

ホワイトハウスはまた、イランの核開発プログラムを制限する合意が、中東地域に安定をもたらすカギとなり、これによって政府も中国やロシアに専念することが可能になるとみている。【3月22日 WSJ】
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【8月に交渉再開 EUの最終文書提示でイラン・アメリカの回答・意見が出そろう 内容は不明】
その後はウクライナ問題で交渉も中断していましたが、8月に再開。ただし、あまり期待値は高くありませんでした。

****米国とイラン、核合意建て直しで間接協議再開 事態打開は望み薄か****
2015年のイラン核合意立て直しに向けた米国とイランの間接協議がオーストリアのウィーンで再開された。イランの国営メディアが4日伝えた。

ただ米国、イラン両政府ともこの協議で事態が打開できる公算は小さいとみている。(中略)

(イラン外務次官)バゲリ氏はツイッターで、ボールは米国側にあると主張した上で、米政府は「成熟した態度を示し、責任ある行動を取るべきだ」と述べた。

一方米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は4日記者団に「われわれはイランが合意に応じるのをいつまでも待つわけにはいかない。合意実現可能という点で残された時間は非常に短くなりつつあるようだ」と語った。

今年3月、11カ月にわたる間接協議を経て両国は核合意の修正版を巡っていったんは大筋で妥結したものの、その後状況が一転。イラン側が米国に革命防衛隊に対するテロ組織指定解除を要求し、米政府が拒否していることで意見の対立が続いている。【8月5日 ロイター】
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交渉はEUを介した間接交渉で行われていますが、「最後の努力の時が来た」とするEUはイランと米国に「明快で決定的な政治決断」を求めました。

そしてEUは、これ以上変更を加えることはできないとする最終文書を提示。
イラン側は“満更でもない”ようにも。

****イラン、要求満たされればEUの核合意再建案受け入れも=国営通信社****
国営イラン通信(IRNA)は12日、イラン外交官の話として、2015年のイラン核合意の再建に向けた欧州連合(EU)の提案はイラン側の主要な要求が満たされる場合に受け入れ可能だと伝えた。

核合意再建に向けた米国とイランの間接協議が終了した8日、仲介役を務めるEUは合意の最終文書を提示したことを発表。EU高官は、文書にこれ以上変更を加えることはできないとし、数週間以内に当事国から最終決定が得られるとの見方を示していた。

IRNAによると、イランのある外交官は政府がEUの提案を検討中だとし、「セーフガード、制裁、保証の問題についてイランに約束するのであれば受け入れ可能だ」と述べた。

イランは核合意の復活に当たり、将来の米大統領がトランプ前大統領のように合意を破棄しないという保証を求めている。【8月15日 ロイター】
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イランはEU最終文書への回答を示し、「3つの課題が解決すれば数日内に合意が可能」とも。

****イラン、核合意再建「最終文書」に回答 外相は「3つの課題」に言及****
イランは15日、2015年核合意再建に向けて欧州連合(EU)が示した「最終文書」に回答した。EU当局者が明らかにした。ただ、詳しい回答内容は明かさなかった。

イランのアブドラヒアン外相は先に「3つの課題が解決すれば数日内に合意が可能」との見解を示しており、イランが同意か拒否のどちらを回答したとしても、なお変更の余地があることを示唆した。

外相は「われわれはイラン側のレッドライン(越えてはならない一線)を尊重するよう求めた。われわれは十分な柔軟性を示してきた。合意しても40日あるいは2─3カ月後に現場で実現しないようなものは求めていない」と強調した。

米国側はイラン政府が「本題から外れた」要求を撤回して初めて核合意の再建が可能との立場を示している。イランは同国で検知された未解明のウランの痕跡に関する国際原子力機関(IAEA)の調査の停止や、軍事部門「革命防衛隊」の米国のテロ組織指定解除を求めており、これらの要求が念頭にあるとみられる。

アブドラヒアン外相はまた、「交渉が決裂した場合は米国と同様、われわれには代替案がある」と語った。【8月16日 ロイター】
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アメリカ側はイランの回答を慎重に精査、これに対しイランが「アメリカは「先延ばし」しているといる」と批判する展開も。

懸案となっていた「革命防衛隊」のアメリカのテロ組織指定解除については、イラン側が譲歩を示したようです。

****イラン、テロ指定解除の要求撤回 核協議で対米譲歩****
米国務省のプライス報道官は22日、イラン核合意の再建に向けた米イランの間接協議で、イランが軍事組織、革命防衛隊に対するテロ組織指定解除の要求を撤回したと明らかにした。欧州連合(EU)を仲介役にした交渉の主要争点の一つとなってきたが、イランが譲歩を見せた格好だ。

プライス氏は、EUによる妥結案が不十分だとしてイランが今月提出した追加意見も踏まえ「未解決の相違点がいくつか残っている」とも指摘。イラン核開発の制限内容などについて双方の溝が埋まっていないとみられ、合意に到達できるかは不透明だ。【8月23日 共同】
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そして、アメリカもイランの回答に関しの意見を返答。

****米、イラン側に意見返答=核合意再建交渉めぐり****
米国務省のプライス報道官は24日、イラン核合意再建交渉をめぐり、欧州連合(EU)が示した「最終文書」に対するイランの回答に関し、米政府の意見を返答したと明らかにした。イラン外務省も同日、EUを通じて米政府の意見を受け取ったと発表した。

プライス氏は「米側の精査は終了した」と語ったが詳細については触れていない。イラン側は米政府の意見を慎重に検討した上で、EUに伝える方針。【8月25日 時事】 
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イラン、アメリカ双方の回答・意見の内容は明らかにされていませんが、交渉が“大詰め”段階にあるのは確かです。

****核合意正常化へ米が回答 イラン「慎重に検討」 協議大詰め****
イラン核合意の正常化に向けた米国とイランの間接協議で、イラン外務省は24日、仲介役の欧州連合(EU)が8月上旬に取りまとめた最終文書案に対する米国側の回答を受理し、「慎重な検討を始めた」と明らかにした。ロイター通信が伝えた。

イラン側は既に回答を送付している。文書案と各国の回答内容は公表されていないが、協議は大詰めを迎えた模様だ。

ロシアのウクライナ侵攻で資源エネルギー価格が高騰する中、合意正常化によって、原油と天然ガスの主要産出国であるイランへの経済制裁が解除されると、価格引き下げ要因になるとみられる。

ロイターによると、イラン側は精鋭軍事組織・革命防衛隊を米国の「外国テロ組織」指定から解除せよといった要求を示していたが、最終案への回答では取り下げたという。双方が妥協し、協議が妥結するか注目される。(後略)【8月25日 毎日】
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合意が成立すれば、イラン核開発に対し一定の歯止めがかかり、中東の安定化が図られることになります。
もっとも、イスラエルは合意はイランの核開発を隠す隠れ蓑に過ぎないと見ており、“中東の安定”が直ちに実現される訳でもありませんが。

イランは制裁の一定の解除で、困窮する経済の立て直しを図ることが可能になります。
アメリカは中東の安定で、ロシア・中国対応に専念することが可能になります。ウクライナ情勢を受けて進むイランのロシア接近にも一定に歯止めをかけることができます。

【合意成立・イラン産原油の市場復帰の影響】
また、イラン産原油の市場復帰で、ロシア産原油排除の穴を埋めて原油市場を安定化させることができる・・・ひいては、アメリカ国内のガソリン価格高騰の鎮静化にも・・・との期待も。アメリカ・バイデン政権が合意復帰に取り組んできたのも、その石油の話があってのことでしょう。

ただし、世界経済の景気後退で需要減少を心配しているサウジアラビアなど産油国は、イラン原油の市場復帰で値崩れすることを恐れており、イランが復帰するならその分を減産するという動きもあるようです。

****OPECプラス、イラン産原油の市場復帰に合わせ減産も=関係筋****
石油輸出国機構(OPEC)を主導するサウジアラビアは今週、非加盟産油国も含む「OPECプラス」の減産に触れたが、関係筋によると、直ちに減産に踏み切るとはみられず、イランが核合意再建で米欧と合意し、原油の輸出を再開するのに合わせて実現する可能性が高い。

報道によると、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は22日、先物市場の流動性の乏しさとマクロ経済への懸念を背景とする原油安に対応するため、OPECプラスは減産する用意があると述べた。

9人のOPEC筋によると、9月5日に予定されるOPECプラスの会合はあまりにも時期が近いため減産は見送られると想定され、イラン産原油の復帰によって実際に市場の供給量が増えてから減産が必要となる可能性がある。

関係筋の1人は「OPECプラスは(対イラン)制裁解除後のイラン産原油の市場復帰に準備を整える必要がある」と述べた。

イランの現在の産油量は日量260万バレルで、制裁解除後に最大能力の400万バレルに達するまでに約1年半を要するとみられる。関係筋によると、同国はすぐにでも、貯蔵されている原油の一部売却に着手する可能性がある。

OPECプラスは、7月と8月の増産幅をそれぞれ日量64万8000バレルに小幅拡大することに合意。9月については、米国など主要消費国からの圧力を受けて、さらに10万バレル増産することを決めている。【8月24日 ロイター】
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上記のような減産となれば、イラン産原油の市場復帰でも原油価格は直ちには下がらないかも。それでも産油国と言えども需給バランスに抗する形での価格コントロールは容易ではなく、結局は需給バランスが求める均衡点に落ち着くというのが経済原則でもあります。
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イラン  ロシアと接近、中国も加えて反米協調 現実にはロシアとの競合も 実力行使のイスラエル

2022-05-29 22:54:05 | イラン
(5月26日、ギリシャ海運・島しょ政策省の関係筋などは、米国がギリシャ周辺でロシアの運航船に積まれたイラン産原油を押収したと明らかにした。写真は同日、ギリシャ沖で原油の積み替えを受けるイラン船籍のタンカー「ラナ」【5月27日 ロイター】)

【イラン・ロシア・中国で反米協調】
イラン核合意再建協議について革命防衛隊のテロ組織指定解除をめぐって“膠着状態”にあることは、5月16日ブログ“イラン 核合意再建協議は膠着状態、決裂の可能性も 国内では食料品補助金廃止で抗議行動が拡大”で取り上げましたが、その後の動きについてはほとんど報じられていません。「望み薄」との見方も。

****イラン核協議「妥結は望み薄」 米、テロ指定解除を否定****
米国のマレー・イラン担当特使は25日、上院外交委員会の公聴会で、イラン核合意の修復に向けた同国との間接協議について「ひいき目に見ても妥結する可能性は乏しい」と証言した。

イランが合意と無関係な要求をする限り「拒否し続ける。合意はない」と述べ、イランが求める革命防衛隊に対するテロ組織指定の解除に否定的な見方を示した。
 
革命防衛隊はイラン指導部の親衛隊的な性格を持つ軍事部門。2018年に核合意を一方的に離脱したトランプ前米政権が19年にテロ組織に指定しており、合意とは直接の関係はない。指定を巡って間接協議は折り合いがつかず、行き詰まっている。【5月26日 共同】
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こうした欧米との歩み寄りが進展しない状況の結果なのか、あるいは逆に、欧米との歩み寄りを阻害する背景なのかはともかく、このところはイラン同様に欧米の制裁を受けるロシアとの接近が目立ちます。

****ロシアとイラン、石油・ガス相互供給を協議****
 ロシアのノバク副首相は25日、イランと石油・ガスの相互供給や物流ハブの設置について協議したと明らかにした。欧米の対ロシア制裁に対応する措置となる。

同氏はイラン訪問中にロシア国営テレビに対し、何年も制裁下にあるイランの経験について話し合ったと語り、「相互に商品輸送を図るためにイランは主要な物流ハブになり得る」と述べた。

両国間のモノの貿易量は現在の年間1500万トンから数年内に5000万トンに拡大する潜在性があるとの見方を示した。

ロシアがイラン北部にエネルギーを供給し、イラン南部からアジア太平洋地域に石油・ガスを輸出する可能性に触れ、近い将来に合意締結があるかもしれないと述べた。【5月26日 ロイター】
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実際に、イラン産原油を積んだロシア運用の船舶が拿捕されるということも起きています。

****露イラン、原油密輸で協力か ギリシャ拿捕 米没収****
ウクライナに侵攻したロシアに対する欧州連合(EU)の制裁の対象だとして、ギリシャ当局がロシアの運用する船を拿捕(だほ)したところ、イラン産の原油を積んでいたことが判明した。

米国は26日、原油を没収して別の船に積み替え、同国に送ることを決めた。ロイター通信が複数の関係者の発言として報じた。

拿捕された船は「ペガス」で、米国はEU同様、露国防省に関係があるとして制裁対象に指定していた。ギリシャが拿捕したのは先月のことで、ペガスには19人のロシア人が乗っていた。イラン政府は在テヘランのギリシャ大使館の責任者を呼んで抗議した。

ペガスはロシアの侵攻後、船名や船籍が変わっており、ロシアとイランが協力して偽装した疑いがありそうだ。米財務省は今月25日、イランの最高指導者に直属する革命防衛隊の原油密輸や資金洗浄に関与したとして、ロシアに拠点を置く企業などを新たな制裁対象に指定、監視を強める方針を示していた。

核合意の修復を目指すイランと米国の間接協議は休止状態で、両国の対立が深まる可能性もある。【5月26日 産経】
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「敵の敵は味方」ということで、ともに欧米と対立し制裁を受けるイランとロシアが接近するというのは、ある意味自然な流れにも思われます。

【ロシアがイランの天然ガス顧客を奪う動きも】
しかし、現実はもう少し複雑。
イランにしても、ロシアにしても制裁を受けながらの生き残りに必至。自分が生き残るためには・・・

****液化石油ガス、ロシアが値引き輸出 イランから顧客奪う****
ウクライナに侵攻し、米欧から事実上の貿易制限を受けるロシアが主要輸出品の一つ、液化石油ガス(LPG)の値引き販売に乗り出した。アフガニスタン、パキスタンなど、イランの大口顧客が相手だ。

イラン核合意の再建協議でも、ロシアは土壇場で新たな条件を持ち出し、イランへの制裁解除を遅らせている。ロシアとイランの「蜜月」が揺らいでいる。

イランも核開発を理由に貿易制限の制裁を受けている。暖房、調理だけでなく自動車の燃料にも使うLPGの輸出は重要な外貨獲得の手段だ。

だが、イランの石油輸出業界のトップは地元紙に「アフガニスタンに1トン約600~700ドル(約7万7000~8万9000円)で販売していたが、最近では450ドルへの値下げを求められる」と打ち明ける。

ロシアの安値攻勢はカザフスタン、ウズベキスタンといったほかのガス供給国にも値下げを迫る。

統計サイトのワールドメーターによると、(メタンが多く液体が生じない)乾性の天然ガスをイランは年9兆立方フィート(約0.25兆立方メートル)生産する。米国、ロシアに次ぎ世界で3番目に多い。このうち3分の1程度を輸出する。

イランがガスを販売する契約を結ぶ相手はイラク、トルコ、アフガニスタン、パキスタンだ。アゼルバイジャンとはガスのスワップ取引の契約がある。その中で、長期の顧客になりそうなのはイラクだけだと複数のアナリストは指摘する。

イラン国営ガス会社(NIGC)のトップは5月中旬の記者会見で、イラクがガス購入契約の更新を求めていると明らかにした。一方、現在の契約が間もなく失効するトルコとは新たな年間契約を巡る交渉を続けていると説明した。

イランのジャーナリストは最近、ロシアがトルコへのガス供給を想定し、これから3年間、トルコのガスタンクを借りる契約を結んだという業界情報をツイッターに投稿した。これが事実ならば、イランのガス輸出には打撃となる。

NIGCのトップは日本経済新聞に対し、トルコやアフガニスタンのような顧客をロシアに奪われる可能性を否定しなかった。「効率よく安いエネルギー資源を確保する自由はどの国にもある」と述べ、仮に顧客を失っても仕方がないという姿勢をみせた。

米欧がロシア産の原油や天然ガスの輸入を停止あるいは制限する制裁を発動することで、イランは核合意の再建交渉が前進すると期待した。米国がイランに歩み寄って核合意の枠組みに復帰し、イランに科していた制裁を解除して石油や天然ガスの輸出拡大を容認すると見込んだからだ。

ところがロシアは3月、核合意の再建交渉をまとめる条件として、同国への制裁をイランとの貿易・投資に適用しないよう米国に迫った。交渉の妥結後、イランへの制裁がある程度、解除されることを見越しての対応だ。米国は応じず、交渉は宙に浮いている。国際社会でイランはロシアを頼りにしていたが、いまは、いら立っている。

イラン核合意は同国の核開発を抑制するのが目的だ。2015年、米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の6カ国がイランとまとめた。18年、トランプ政権だった米国が離脱を表明すると、ロシアは中国とともにイラン寄りの姿勢を示した。【5月25日 日経】
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互いに利用しようという動きと、相手を押しのけてでも・・・という動き。
イラン国営ガス会社が“仮に顧客を失っても仕方がないという姿勢”というのは、国家としてはロシアとの協調を重視する意思決定がなされているということでしょうか?

イラン・ロシアの協調に、同じくアメリカと対立する中国も加われば、反米協調の出来上がりです。

****露、イランに接近 市場拡大、中国含め反米協調狙う****
ロシアが経済を中心にイランとの関係強化を進めている。ウクライナに侵攻したロシアは米欧の強力な制裁で経済が疲弊しており、イランを自陣に引き留めて市場拡大につなげる狙いがうかがえる。

米欧がウクライナでの戦闘への対応で忙殺される裏側で、ロシア、イランに中国を含めた反米3カ国が連携を強めている可能性も否定できない。

ロイター通信などによると、露のノバク副首相は25日、イランの首都テヘランで同国の高官と協議し、協力強化を盛り込んだ複数の文書に署名した。ノバク氏は侵攻後、米欧など「非友好国」の対露圧力が強まったため、「イランとの関係発展の必要性が高まった」と述べた。

イランでは干魃(かんばつ)による不作が続いており、露は小麦など穀物500万トンをイランに供給する見通しだ。核開発問題で米国の制裁を受けているイランの高官は、外貨を介さず、両国の通貨で決済を行うことに意欲を示した。

ノバク氏は、露がイランにエネルギーを供給し、イランは南部の港からアジア諸国に原油・天然ガスを輸出する枠組みでも近く合意するとの見通しを述べた。イランは米制裁で原油輸出が禁じられているが、中国は非公式にイランから原油を購入して同国の経済を支えている。

一見不可解なこの枠組みからは、欧州が依存脱却を進めて行き場を失う露産原油をイラン経由で搬出する狙いさえちらつく。

露とイランはすでに、協調して原油の不正取引を行っている疑いもある。ギリシャ政府が先月、同国近海で停船を命じた船にはロシア人約20人が乗っていたが、イラン産原油を積んでいたことが判明。同船は露の侵攻後、船籍や船名を変えて偽装を図ったとみられ、米国は監視を強化する方針を打ち出している。

露の侵攻で原油は高値傾向が続き、中国という〝販路〟を持つイランは、核合意を修復して対米関係を改善することへの意欲を失っていると指摘される。

昨年、25年もの長期に及ぶ包括的な協力協定をイランと結んだ中国と違い、露は近年、イランとの間で目立った協力強化を打ち出してこなかった。侵攻後のイランへの接近は、露が制裁で深刻な影響を受けていることを示すとともに、中国とイランを頼りにそのダメージの緩和に動いている可能性を示している。【5月27日 産経】
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アメリカは欧州ではNATOの同盟関係でロシアに対抗し、アジアではクアッドやAUKUS、更にはIPEFといった枠組みで中国包囲網を形成しようとしていますが、ロシア・中国更にイランが協調する形で欧米主導の枠組みに対抗する・・・そういった情勢にもなりつつあるようです。

【きな臭いイスラエルの動き】
イランにとって、アメリカ同様に・・・というか、アメリカ以上に厄介な“天敵”が、イラン核開発を絶対阻止する構えのイスラエル。アメリカはその影響を考えて直接的な実力行使には慎重ですが、イスラエルは手段を選ばず実行します。

イスラエルは、核合意などイランの時間稼ぎに過ぎないと眼中にありません。“実力”で核開発を阻止しないと・・・という立場です。

****革命防衛隊大佐を射殺=首都自宅前、イスラエル関与か―イラン****
イラン国営メディアによると、精鋭の「革命防衛隊」の大佐が22日、首都テヘラン市内の自宅前で何者かに射殺された。実行主体は不明だが、イラン側は殺害の手口から敵対するイスラエルなどの関与を疑っているとみられ、何らかの報復によって緊張が高まる恐れもある。
 
報道によれば、殺害されたハッサン・サイアド・ホダイ大佐は車で自宅に着いた際、オートバイ2台に分乗した何者かから銃弾5発を受けて死亡した。革命防衛隊は「反革命勢力のテロで暗殺された」と非難した。同大佐は革命防衛隊で対外工作を担うコッズ部隊に所属し、シリアなどでの戦闘歴があるという。
 
革命防衛隊は大佐暗殺に先立ち、イスラエル諜報(ちょうほう)機関とつながりがある集団を摘発したと発表していた。「窃盗や破壊行為、誘拐」などの容疑を主張しているが、殺害事件との関連性は不明だ。【5月23日 時事】 
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****イランの大佐暗殺に関与=イスラエルが米に伝達―NYタイムズ****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は25日、イラン革命防衛隊の大佐が自宅前で何者かに射殺された事件で、イスラエルが暗殺への関与を米側に伝えていたと報じた。

イランは当初からイスラエルの関与を疑っており、ライシ大統領は「偉大な殉教者が流した血に対し、報復は避けられない」と宣言していた。
 
大佐は革命防衛隊で対外工作を担うコッズ部隊に所属していた。同紙が情報当局者の話として伝えたところによると、イスラエル側は、コッズ部隊の中で外国人の拉致や暗殺を担う秘密部隊「840ユニット」の活動に警告を発するために殺害したと説明したという。【5月26日 時事】 
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イランのライシ大統領は「間違いなく報復する」と報復を確約しています。

****イラン大統領「間違いなく報復する」 革命防衛隊の大佐暗殺****
(中略)イランのライシ大統領は23日、国際的組織が関与した暗殺だと非難し、「間違いなく報復する」と述べた。複数のイランメディアが伝えた。(後略)【5月23日 産経】
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その「報復」より先に、イスラエルによるイランの研究施設攻撃が報じられています。

****ドローンでイラン軍研究所攻撃か=イスラエル関与濃厚―米紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は27日、イランの首都テヘラン近郊パルチンにある国防軍需省の研究施設で25日に起きた「事故」について、イラン国内から飛び立ったドローンによる攻撃だったと伝えた。

ドローンが建物内に突っ込んで爆発したとみられ、その手法からイスラエルの関与が濃厚という。【5月28日 時事】
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イランは欧米制裁によって経済苦境にあり、食料品価格高騰をめぐって国内にデモや混乱が起きています。食料品価格を落ち着かせるためにはロシア・中国との関係だけでは不十分でしょう。
アメリカはロシア産石油の禁輸で同盟国の足並みをそろえ、エネルギー市場を安定化させるためには、イラン産石油が欲しいところ。

そうした両者の歩み寄りを促す事情もありますが、ここのところ目立つのは上述のようなロシア・中国との協調、あるいはイスラエルとの衝突といった離反の流れです。

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