孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  深刻化する水不足 淡水化技術など「水資源」対策の協調体制構築は緊張緩和に役立つ

2021-06-11 23:20:26 | イラン

(干上がり、「白い砂漠」と化しつつあるイラン最大の塩湖「ウルミア湖」 【1月10日 GLOBE+】)

 

【世界各地で深刻化する「水資源」をめぐる対立】

世界各地で多くの国々とって死活的に重要な資源である「水資源」をめぐって、独占的な水資源利用ともなるダム建設などで関係国の対立が激しくなっています。

 

アジアのメコン川流域での中国と東南アジア下流域国の対立、ブラマプトラ川での中国・インドの対立、アフリカ・ナイル川でのエチオピア・エジプトの対立等々。

 

中東地域のように基本的に水資源が不足している地域では、ダム建設による水量の変化は劇的な影響をもたらします。

 

****チグリス・ユーフラテス川が干上がる? 上流のダム建設で流量激減****

豊かな流れによって古代メソポタミア文明を育んだチグリス川とユーフラテス川が、上流で建設が進むダムの影響で干上がる恐れに直面している。

 

下流に位置するイラクは、新たなダムを稼働させつつある隣国トルコとイランとの間で緊迫した協議を続ける一方、水利インフラ整備を急いでいる。

 

イラクで最も深刻な影響を受けているのが、国内で唯一海に面した南部バスラ県だ。チグリス・ユーフラテス両河川が合流してからペルシャ湾にそそぐまでのシャット・アルアラブ川は、数百万人のイラク人に農業用水を供給する源だが、流量はすでに激減し、海水の逆流が起きている。

 

数千年前から川岸に栄えてきた人々の暮らしや野生動物の生息地は、じわじわと圧迫され失われつつある。

 

かつてイラクの特産品として知られたナツメヤシを育てて数十年になる農家の男性(70)は、「ここ数年で(土壌の)塩分濃度が上がり、畑は死にかけている」と語った。真水は今やほとんど得られず、農地は塩害でひび割れて、大昔からこの地に生い茂ってきたナツメヤシの木々が立ち枯れている。

 

「この川はすっかり死んでしまった」。男性は農地を放棄し、仲間の農家と共に水を求めて北部へ移住するという。

 

チグリス・ユーフラテス流域では砂漠化と人口増加が同時進行しており、トルコとイランは以前にも増して貴重な水源の確保に躍起になっている。イラクのメフディ・ハムダニ水資源相によると、トルコ・イラン両国が上流に新たなダムを建設し、支流を水源に利用し始めたことで、イラク国内のチグリス・ユーフラテス川の流量は半減した。

 

とはいえ、ハムダニ氏はまだ希望を捨ててはいない。イラク政府も、首都バグダッド北方のマコールに大規模な貯水池の建設を計画しており、完成すれば「より大量の水を確保して発電に利用したり、洪水からバグダッドを守ったりできるようになる」という。この貯水池計画は、2003年のサダム・フセイン政権崩壊以降で最大規模のインフラ事業となる。

 

だが、専門家らは、新たなインフラ事業だけでイラクを流れるチグリス・ユーフラテス川を守ることはできないと警告する。持続可能な川の利用には、水の共有についてトルコ・イラン両政府と合意することが不可欠だというのだ。

 

イラク南部にある農業の中心地ディワニヤの農協組合長は、イラク側には交渉材料があまりないのに「トルコはいつでも水戦争を仕掛けることが可能だ」と悲観的だ。2016~18年に起きたような干ばつに再び見舞われれば、5年以内にチグリス・ユーフラテス川は干上がって、野生動物は死に、飲料水にも困る日が来る恐れがあるという。

 

「唯一の解決策は、経済的圧力だ」とこの組合長は主張し、商品やサービスの輸入制限と引き換えに交渉できるかもしれないと語った。

 

原油と水の交換取引を提案する声もある。ただ、世界では原油の使用量が減少しつつあり、イラクは早急に行動する必要がある。

 

2035年にはトルコとイランのダムが完成する。そうしたら、命を育むチグリス・ユーフラテスの流れは、遠い記憶となってしまうかもしれない。(後略)【2020年9月21日 AFP】

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【温暖化により水不足が更に進むイランなど中東地域】

こうした「水資源」をめぐる争いの深刻化の背景に、温暖化の影響があります。

 

****温暖化の水資源への影響****

温暖化が進むと、現在の地球の気候が変化すると予測されています。たとえば、地中海沿岸、中近東、アフリカ南部、アメリカの中西部では、降水量が減り、年間の河川流量も減ると予測されています。

 

反対に、温暖化によって、年間の河川流量が増えると予測されている地域もあります。ロシアやカナダなどの高緯度地域がこれに相当します。

 

また、温暖化によって、雨の強度や頻度も変化すると予測されています。この結果、干ばつの影響を受ける地域が広がったり、大雨の頻度が増えて洪水リスクが増大したりすると予測されています。このとき、河川流量の時間的な変動も大きくなるので、水資源が不安定になる地域があると考えられています。

 

温暖化によって気温が高くなると、降雪量が減り、融雪の時期も早まります。こうなると、春や夏の水資源量が減ったり、融雪による水資源が得られる時期が変化したりすると考えられています。【地球環境研究センターHP】

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今でも水不足の中東地域は温暖化によって更に厳しい環境になることが予想されます。

すでにその兆候は現れています。

 

オルーミーイェ湖(別名ウルミア湖)はイランの北西にあるイラン最大の塩湖で、面積はおよそ5,960 km²(琵琶湖の約9倍)。2000年代以降、水位低下が著しく、面積も減少傾向にあります。

 

****イランの巨大塩湖「ウルミア湖」 半分以上干上がり、まるで「白い砂漠」****

イラン北西部にあるウルミア湖は、かつては世界有数の面積を誇る塩湖だった。それが今では水位が低下し、ひどいときは半分以上が干上がって、あちこちで湖底が露出している。

 

そんな情報を知ったドイツのドキュメンタリー写真家(フリーランス)のマキシミリアン・マン(28)は、地球温暖化の深刻さを問題提起したいと、ウルミア湖のルポ取材を決めた。

 

2018〜19年の間に季節を変えて計3度訪問したが、「塩湖はむしろ白い砂漠のようだった」。国立公園に指定された観光名所だが、今では訪問客も減り、周辺の農地には塩害が広がる。

 

「滞在中とても親切にしてくれた」という地元住民の健康にも影響が出ていた。欧米では一般的にあまり知られていない湖だが、その深刻な現状は世界中で起きている気候変動の映し鏡のようだった。(中略)

 

■湖底が露出するウルミア湖

イラン最大の湖で、オルーミーイェ湖やウルミエ湖とも呼ばれる。もともとの面積は5960平方キロメートルあり、中東ではカスピ海に続く大きさの巨大な塩湖だったが、2000年以降、水位低下が顕著となった。今では1970年時の12%まで面積が縮小したとされる。

 

原因の一つは地球温暖化だ。夏季に気温の異常上昇が起きるようになり、湖水が蒸発して広範囲で湖底が露出した。さらに、流入する河川でのダム建設などに加え、周辺農地で多くの井戸が違法に掘られたことがある。

 

フラミンゴやペリカンなどの野鳥はほぼ姿を消したという。【1月10日 GLOBE+】

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このオルーミーイェ湖(ウルミア湖)に象徴されるように、イランは水不足に直面しています。

(2017年7月にイランを旅行した際の、イスファハンの有名な「世界三名橋」のひとつとされる優美なアーチ橋「ハージュー橋」 「橋」とは言いつつ川は干上がっていました。上流にある工場の取水の関係で、しばしばこういう水枯れ状態になるとか。)

 

【中東で高まる安全保障面の緊張を緩和するひとつの方策が「水資源」をめぐる協調】

一方で、イランをめぐる厳しい国際状況は周知のとおり。

“米、硬軟両面でイラン揺さぶり 制裁と解除を同時実施”【6月11日 産経】

 

仮に何らかの合意が現段階で成立しても、イランに反米保守強硬派の新大統領が誕生することを考えると、将来的な交渉進展は極めて難しいようにも思えます。

 

そうなると、イランの核開発に拍車がかかります。

“イラン、数週間で核製造も 米国務長官が危機感”【6月8日 共同】

 

と言うか、そうした核製造が完成する前に、イスラエルが行動に出るでしょう。

かくして、イスラエルとイランの間で大規模な衝突の危険性が・・・・

 

中東イランでの戦火で、中東石油に頼る日本にも激震が。

 

上記のような緊張する国際情勢を緩和する一つの方策が、水不足に苦しむイランへの淡水化技術の供与、それに伴う国際的枠組みの構築です。

 

核開発などの問題に比べたら、環境問題や市民生活にも関わる「水資源」問題は協調をとりやすい分野でしょう。

 

****イラン人口の1/3が苦しむ水不足だが...中東の対立解消へのチャンスにできる****

<ペルシャ湾岸諸国の中でイランは海水淡水化で出遅れている。米バイデン政権が一役買えば全ての国に利益がもたらされる>

 

かつて偉大なペルシャ文明を生んだ地が、いま干上がろうとしている。今年のイランは50年来の深刻な干ばつに見舞われている。総人口約8500万人のうち、約2800万人には水が足りない。地域としては主に中部と南部。都市部の住民も農業地帯も悲鳴を上げている。

 

苦境に立たされているのはイランだけではない。世界で最も水資源の乏しい17カ国のうち、12カ国はペルシャ湾の沿岸諸国を含む中東・北アフリカにある。

 

水資源の問題は地域全体の問題だ。ペルシャ湾の北に位置する大国イランと、南西側を占めるアラブ諸国は水の安全保障で協力すべきだ。そうすれば得られるものは多い。できなければペルシャ湾の生態系も脅かされる。

 

水の問題なら、政治的・宗教的な思惑の違いを超えて協力しやすいだろう。アメリカも積極的に協力を後押しすべきだ。ジョー・バイデン大統領の政権は気候変動への取り組みを最優先課題としているのだから。

 

この10年間、イラン政府は深刻化する水不足の問題に対処するため、多くの政治的・財政的資源を投入してきた。海水の淡水化施設を増やすための新構想や、水不足の深刻な中部にペルシャ湾から水を運ぶ計画などだ。

 

この国家的なプロジェクトは既に進行中で、主要な給水路を4本造り、淡水化施設も増設するという。総額2850億ドルもの資金を投じて2025年までに完成させる計画で、約7万人分の雇用創出効果もあるとされる。

 

経済制裁が悪影響を及ぼす

淡水化された水は、重工業やイランの広大な農業部門に供給される(農業部門はイランの水使用量の90%を占める)。これが実現すれば貴重な地下水をくみ上げずに済むので、地方の農民・放牧民も水に困らなくなる。

 

そうすれば、地方から都市部への人口移動の波を止めることもできるだろう。水不足は既に一部の地域で、住民間の対立や住民と治安部隊の衝突を招いている。今のイラン政府にとって、水問題はさまざまなレベルで重要な政策課題だ。

 

外交問題とも関連している。水不足の深刻化は度重なる干ばつだけが理由ではない。背景には、アメリカによる容赦ない経済制裁の発動もある。そのせいでイラン政府の資金調達力や、水処理の最新技術の入手は大幅に制限されている。

 

一方で、アメリカの制裁によって石油の輸出先を失ったイラン政府は、別の産業分野の振興を急いでいる。石油化学や鉱業、製鉄などだ。これらの産業にはアジア諸国、とりわけ中国が熱い視線を注いでもいる。

 

しかし、いずれの産業も大量の水を使う。多角的な産業の振興は工業用水の需要を大幅に増加させるのだ。イランが相次ぐ経済制裁を受ける前の2000年には、工業・鉱業部門で使用される水資源は国全体の約1.2%にすぎなかった。しかし、21年には3%に達すると予想されている。重工業が盛んな中部の都市イスファハンでは、現状でも地域の河川が枯渇寸前となっている。

 

この間、イラン政府は急増する需要に追い付こうとするばかりで、需要の抑制にはほとんど取り組んでこなかった。入手可能な最新の数値によれば、イランの国民1人当たり水使用量(食品の製造などに使われた水を含む)は1日5100リットルで、水不足の悩みがないフランスやデンマークより多い。

 

さらに水の供給を増やすには、海水の淡水化を一段と進めるしかない。

だが、イランはこの分野で出遅れている。湾岸諸国では既に約850の淡水化プラントが稼働しており、アラブ諸国はいずれも水供給量の55〜100%を淡水化(脱塩水)で賄っている。対するイランの水供給量に占める脱塩水の割合はまだ約0.1%で、イラン政府はこの割合を増やしたい考えだ。

 

しかし海水の淡水化には、環境への影響が懸念されている。淡水化によって生じるブラインと呼ばれる濃縮塩水は海に排出されるから、海の生態系に悪影響がもたらされる。しかも海水の淡水化には多くのエネルギーが使われるため、温室効果ガスの排出増加にもつながる。

 

湾岸地域共通の機関がない

それでも、淡水化プラントは今後も増え続ける。ある試算によれば、ペルシャ湾岸のアラブ諸国では新たに1000億ドル規模の淡水化プロジェクトが計画されている。もちろん、これとは別にイラン(その人口は湾岸諸国の合計をはるかに上回る)の増設計画がある。

 

この「淡水化競争」を展開するに当たって、資金面でゆとりのあるアラブ諸国は最新鋭の、すなわち環境へのダメージがより少ない淡水化技術を導入することが可能だ。

 

だが経済制裁に苦しむイランは、旧式の淡水化技術しか使えない。そのため現在進行中および計画中の淡水化プロジェクトが環境に及ぼす悪影響を最小限に抑える能力も、アラブ諸国に比べて限られるだろう。ペルシャ湾の生態系は共有の資産だから、イランが最新の淡水化技術やノウハウにアクセスできなければ、ペルシャ湾の南側のアラブ諸国にも、その影響が及ぶことになる。

 

ペルシャ湾岸の全ての国が水不足の問題を抱えているにもかかわらず、この問題に共同で対処する地域的な機関は存在していない。今の湾岸諸国には数日分の飲料水を備蓄しておく能力しかないのだが、いざ水の供給が危機的状況に陥った場合に、これらの国々が頼れる共通の多国籍機関はない。

 

これまで水問題に対処するために創設された唯一の機関は、1979年に生まれた湾岸海洋環境保護機構(ROPME)だが、現在は機能していない。ROPMEを復活させるか、あるいはこの地域の環境問題への対処を一括管理する同様の国際機関を立ち上げるのか、議論はまだまとまっていない。

 

現状では海水の淡水化を進める以外に、水資源を確保する方法はないということだ。そうであれば、淡水化プロセスがもたらす副作用を最小限に抑える方法など、水に関する政策や安全保障の問題については関係諸国が協調して対処すべきだ。それが地域全体の利益となる。

 

だが当然のことながら、イランも湾岸アラブ諸国も水政策に安全保障の観点を持ち込みがちだ。例えばイランでは、環境保護の活動家が治安当局から厳しく監視され、スパイ容疑を掛けられることもある。

 

イランと湾岸アラブ諸国の間には政治的・宗教的な緊張関係があり、地域の環境問題で協力関係を築くことはかなり難しい。だが、何もしないのは最悪の選択だ。

 

水産資源の乱獲から急速な沿岸開発、塩分濃度の上昇まで、ペルシャ湾の生態系の問題には関係諸国が一致して対処する必要がある。イランも湾岸アラブ諸国も、今は地球環境に有害な石油の輸出に依存しているが、気候変動の影響を受けやすい国であるのも事実だ。もともと気温は高いし、水資源は乏しい。

 

「気候難民」が生まれる恐れ

既にどの国も、石油依存から脱却するために産業構造の多角化に取り組んでいる。だが、環境対策には一層の努力が必要だ。中東では記録的な気温上昇と水不足によって土地が農業に適さなくなり、地域内で膨大な数の人々が「気候難民」と化す恐れもある。

 

政治的な緊張が解消される見込みはないから、環境面での協力のハードルは高い。しかし水不足が一段と深刻化するなか、イランとアラブ首長国連邦(UAE)そしてサウジアラビアは徐々に、共通の問題に共同で対処する道を探し始めている。

 

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は4月下旬にイランとの関係改善を呼び掛け、イラン政府もこれを歓迎した。中東ではどうしても地政学的な対立に目が行きがちだが、地域の環境問題は協力関係を築く上で最も争点が少ない分野と言えるだろう。

 

ペルシャ湾岸の地政学的紛争とは異なり、当事者間の環境面の利益はゼロサムではない枠組みで構築できる。一国だけで問題を解決することはできないし、問題解決による利益が一国だけにもたらされることもない。同時に、水をめぐる協力が他の問題に関する有意義な協力の道を開く可能性もある。

 

元米国務長官のジョン・ケリーを気候変動問題担当大統領特使に指名した米バイデン政権は、イランとアラブ諸国の環境問題についての協力を促す機会をつくり、外交的影響力を行使できる立場にある。

 

ケリーは4月にUAEを訪問し、気候変動に関する地域対話に出席した。その場にはUAEとクウェート、エジプト、バーレーン、カタール、イラク、ヨルダン、スーダン、オマーンの代表はいたが、イラン代表の姿はなかった。

これではいけない。大国イランの参加なしで、ペルシャ湾に面する全ての国に共通する環境問題を解決できるはずがない。

 

バイデン政権がイランと互恵的な関係を築く方向を模索し、湾岸アラブ諸国もイランとの緊張緩和を目指し始めた今こそ、水問題と気候変動対策で協力すべきだ。それが全ての関係国の利益となる。【6月11日 Newsweek】

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イラン・アメリカ 核合意復帰をめぐる膠着状態 ハメネイ師は強硬姿勢 イラン原油輸入を増やす中国

2021-03-22 23:26:02 | イラン

(春分の日は、イランでは春の新年ノウルーズとして祝われます。画像は、イラン北部ギーラーン州でのノウルーズを迎える儀式祭礼【3月18日 ParsToday】 )

 

【バイデン政権 イランとの交渉再開に向けた姿勢も】

アメリカのイラン核合意への復帰をめぐっては、両国が互いに相手側の譲歩を先に求めるチキンレース状態が続いています。

 

****米国とイランのいがみ合い 核合意復活は実現するか****

米国とイランは、核合意を巡り、それぞれ相手がまず行動すべきであると主張して膠着状態にあるが、膠着状態は緩和に向かう兆候も見られる。

 

イランはIAEAによる抜き打ち検査を拒否し、査察の回数は削減されたものの、核合意で認められたIAEAの専門家による定期査察は今後3か月間継続されることとなった。

 

したがって、監視が完全にできなくなる状態は避けられたことになる。他方、米国はトランプの「最大限の圧力」を緩和し始めた。国連でのイランの外交官の旅行制限を緩和し、合意の他の当事国、ドイツ、フランス、英国、中国、ロシアと一緒にイランの政府当事者と会合することを提案した。

 

フィナンシャル・タイムズ紙の2月25日付け社説‘Joe Biden has a narrow window to save Iran deal’は、バイデン政権が制裁を解除することなくイランの要望を受け入れる一つの選択肢として、日本や韓国のようなイランの原油の輸入国が、保持する何十億ドルという石油代金へのイランのアクセスを認めることを提案している。

 

社説は、「イランは、その基金を食料や新型コロナウイルスのワクチンを含む医薬品といった制裁の対象でない『人道的な』物資の輸入に使える」と言うが、実現性はよく分からない。

 

社説は、米国はイランが過剰な濃縮ウランや重水の国外持ち出しを差し止めている制裁を解除すべきである、とも提案する。

 

しかし、そもそもこの制裁の解除を止めたのはトランプの理不尽な決定であったので、その制裁の解除は前進ではなく後退を元に戻すだけに過ぎず、イランが核合意に復帰するインセンティブにはならない。

 

イラン側は核活動を拡大するという挑発的な行動は止めるべきである。しかし、イランが20%濃縮を再開したり、新しい遠心分離機を開発したりしているのは、米国が制裁を解除しないためであるとしており、イランが一方的に核活動の拡大を止めることはないだろう。

 

イランの核合意を取り巻く状況は厳しい。2020年1月イラン革命防衛隊ゴドス部隊のソレイマニ司令官が米軍によって暗殺され、これに対する報復として今年1月イランによるイラク中西部の米国のアサド空軍基地などに対する攻撃が行われ、さらにこの攻撃に対する報復として2月26日、米国によるシリア東部のイラン支援民兵組織の空爆が行われた。このような状況の下で核合意への復帰に努めるのは容易ではない。

 

なお、イラン核合意の欠陥はイランのミサイル計画とイランの地域での活動が含まれていないことであることが夙に指摘されている。

 

これはこの二つの難問を取り込もうとするとどれほど時間がかかるか分からないので、取り敢えずイランの核活動の制約のみが取り上げられた経緯がある。

 

上記社説は「核合意ができれば二つの難問にとりかかる努力を始める場を作ることができる」と言っているが、ことはそれほど簡単なものではない。

 

イランのミサイル計画一つをとっても、イランはいまやドローンと精密兵器を攻撃の中心としている。2019年9月のイランによるサウジアラムコのアブカイク製油施設攻撃も、ドローンと精密兵器によるものであった。このように今やイランが得意としている兵器の規制の話にイランが乗ってくるとは考えにくい。【3月18日 WEDGE】

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上記“米国はトランプの「最大限の圧力」を緩和し始めた”という流れの一環でしょうか、バイデン大統領は交渉再開に向けてやや柔軟な姿勢も見せています。

 

****制裁緩和も選択肢とイランに伝達 米、交渉再開へ前進も****

イラン核合意の立て直しを目指すバイデン米政権は、イランが合意履行を段階的に再開する見返りとして、米国の制裁を部分的に緩和することも選択肢だとの立場をイラン側に伝えた。米政府当局者が12日、明らかにした。

 

合意履行には制裁解除が不可欠とするイランの主張に米国が耳を傾ける姿勢を示した形で、交渉再開に向けた動きが進む可能性もある。

 

イランのロウハニ政権は米国の制裁解除とイランの核開発制限を同時並行で進める案を欧州連合(EU)を通じて米側に示す方向で調整している。【3月13日 共同】

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【ハメネイ師は強硬姿勢「アメリカの約束は信頼できない」 6月の大統領選挙に向けて勢いを増す保守強硬派】

ただ、「イラン」と言っても、アメリカとの交渉を再開して制裁解除への道筋をつけたいロウハニ大統領など穏健派と、アメリカとの対決姿勢を好む保守強硬派では大きく異なります。

 

6月に予定されている大統領選挙を睨んだ両勢力の綱引きにもなっています。アメリカ・バイデン政権の柔軟姿勢も、ここでイランを追い詰めても、大統領選挙で保守強硬派を利し、反米政権を誕生させる結果になるとの判断があってのことと推測されます。

 

保守強硬派の意向を示しているのが、最高指導者ハメネイ師の「米の対イラン制裁は殺人」「対イラン制裁を解除するとの米国の約束は信頼できない」といった最近の言動です。

 

****イランのハーメネイー師 「米の対イラン制裁は殺人」****

イランの宗教的指導者アリー・ハーメネイー師はアメリカが同国に科している制裁は殺人であると発言した。

 

ノウルーズの祝祭にちなんで国営テレビで国民演説をしたハーメネイー師は、内政及び外交政策で発生している最新情勢に関して見解を述べた。

 

ハーメネイー師は、「アメリカがイラン及び一部諸国に科している経済制裁は大きな殺人である。彼らは制裁によってイランを弱体化させ、強制を受け入れさせることを目指している。しかしこの政策は無効になり、この状況は国産の強化につながった」と述べた。

 

イランの核合意復帰の条件は「アメリカが全制裁を解除し、これを実践すること」であると繰り返し述べたハーメネイー師は、「アメリカの愚かな前の統治者(ドナルド・トランプ前大統領)の最大限の圧力政策は無効になった。新政府も同様の政策を取ればそれも無効になるであろう」と述べた。【3月21日 TRT】

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****イラン、米国の制裁解除は信用できず=ハメネイ師****

イランの最高指導者ハメネイ師は21日、対イラン制裁を解除するとの米国の約束は信頼できないと表明、米国が対イラン制裁を全面解除するまで2015年の核合意には復帰しないと述べた。

ハメネイ師は国営テレビの演説で「オバマ政権時代は米国を信頼し、われわれの義務を履行していたが、向こうはそうではなかった。米国は書面上は制裁を解除すると表明していたが、実際には制裁を解除しなかった」とし「彼らの約束を信用することはできない」と発言。

「彼らは書面上は制裁を解除したと表明したが、われわれとの契約締結を望むすべての企業に対し、危険でリスクが高いと伝えていた。彼らは投資家を追い払った」と述べた。

その上で「米国はすべての制裁を解除すべきだ。われわれがそれを検証し、制裁が本当に解除されれば、何の問題なくわれわれの義務を再び履行する」とし「我々は忍耐力が強く、急いではいない」と述べた。

またハメネイ師は、国内の政策当局に対し、制裁が近く解除されないという最悪のケースに基づいて行動するよう指示。「制裁が継続されることを想定して、制裁に基づいた経済計画を策定すべきだ」と述べた。【3月22日 ロイター】

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また、ワシントンの米軍基地へのテロ攻撃といった不穏な動きも。

背後にいるのは保守強硬派の革命防衛隊だしょうか?

 

****イランが米首都の陸軍基地攻撃を計画か 米報道****

AP通信は21日、複数の米情報当局高官の話として、イランが米ワシントン市内にあるフォート・マクネアー陸軍基地の攻撃を計画している可能性があると伝えた。米軍は事態を受け、基地周辺の警戒態勢を強化したとしている。

 

米高官らによると、攻撃計画は1月、通信情報を専門とする米情報機関「国家安全保障局」(NSA)がイラン革命防衛隊による交信を傍受して判明した。

 

計画では、基地自体への攻撃に加え、基地内に公邸があるマーティン陸軍副参謀長の殺害も画策していたことが分かった。

 

イランは攻撃手法として、2000年10月に米兵17人が死亡した、国際テロ組織アルカーイダによる米駆逐艦コールへの自爆攻撃のような、船舶による水上からの攻撃を検討している可能性が高いという。

 

基地は、ポトマック川とアナコスティア川の合流点となる半島の先端にあり、米軍はワシントン市当局に対し、基地周辺の川に75〜150メートルの緩衝地帯を設け、ボートなどの接近を禁止するよう要請した。

 

ただ、一帯は水上タクシーや遊覧船などの往来が激しく、市当局が緩衝地帯の設置に難色を示し、基地側と対立しているという。【3月22日 産経】

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こうした攻撃が実施されれば、「交渉」機運など一気に吹き飛びます。

話がでるだけでも緊張をたかめますが、そうした攻撃を計画する側、その情報をリークする側、それぞれの政治的思惑も。

 

【イラン原油輸入を増やす中国 米のイラン包囲網の突破口?】

イラン経済がアメリカの制裁で石油輸出が止まり瀕死の状態にあることは周知のところですが、抜け穴もあるようです。

 

****中国がイラン原油大量輸入 米制裁対象、経済活発化で需要拡大****

米国が制裁対象としているイラン産原油を中国が大量に買い付けていることが明らかになった。他国が米国の怒りをかわすためイランからの輸入を控えるなか、3月の中国のイラン産原油の輸入量は前月比で2倍以上になるとみられている。

 

トレーダーやアナリストによると、今月に入り、中国の精製処理能力の約4分の1が集結する山東省へのイラン産原油の輸送が急増し、中国の港湾は混雑し、貯蔵タンクは満杯になっている。

 

2018年半ばに第1弾が発動された米国の対イラン経済制裁により、イラン産原油の割安感が目立っている。トレーダーによると、中国では国際指標の北海ブレント先物より1バレル=3~5ドル安い価格で取引されるのが一般的だ。

 

このため、新型コロナウイルス禍からの回復で春節(旧正月)休暇後の経済活発化でエネルギー需要が拡大するなか、一部の地場企業が世界的な原油価格高騰をにらみながら在庫積み増しに動いているという。

 

市況商品関連のデータ会社ケプラーのアナリスト、ケビン・ライト氏の試算によると、中国のイラン産原油の輸入量は3月に前月比129%増の日量85万6000バレルとなり、過去2年間で最多になる見通しだ。

 

同氏の試算には原産地をごまかすため、中東やシンガポール、マレーシア、インドネシアの沖で積み荷を船から別の船に移す「瀬取り」を経て取引された原油も含まれる。

 

石油精製業者やトレーダーの多くは米国で銀行取引が行えなくなったり貨物が押収されたりするなどの影響を恐れ、イラン産原油の輸入に消極的だ。こうした中、イラン政府は原油輸出による収入を拡大し、制裁で打撃を受ける経済を立て直すべく、積極的な販売活動を進めている。

 

米国のトランプ前政権がイランとの核合意から離脱したことにより、米イラン関係は急激に悪化した。イランの公式統計によると、同国の原油輸出量は米国による制裁前の日量約250万バレルからほぼゼロにまで激減した。しかし、イランはなお日量約200万バレルの生産を維持している。(後略)(Bloomberg News)【3月13日 SankeiBiz】

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こうした中国企業の動きの背後には、中国政府の対米政策があると思われます。

 

****中国、イラン産原油の輸入拡大 米政権に試練****

中国はイランとベネズエラからの石油輸入を急増させ、ジョー・バイデン米政権の外交政策における二つの優先課題に対抗している。米当局者によると、長らく滞っている交渉の再開へ向け、米政権の必要とする重要な外交手段がこれによって損なわれている。

 

商品(コモディティー)データ会社ケプラーによると、中国によるイランからの原油輸入は3月、日量91万8000バレルに上る見通しで、米国が2年前にイラン政府に原油禁輸措置を発動して以降最大となる。

 

他の輸送追跡情報でもこうした動向が確認されており、中には日量100万バレルとの推計もみられる。

 

バイデン政権は2015年の核合意への復帰を交渉するため、イランとの協議を探っているが、イラン政府はそうした申し出をはねつけている。米国はドナルド・トランプ前大統領の下で核合意から離脱した。

 

金融データ会社リフィニティブによると、中国はベネズエラ産原油の購入も増やしている。米国はベネズエラのマドゥロ政権に対し、信頼できる民主的な選挙を実施するよう圧力をかけるため、制裁措置の活用を試みてきた。

 

イランとベネズエラの当局者によると、イランによる国際的な核合意順守や、ベネズエラによる自由選挙の実施を交換条件とする制裁緩和をバイデン氏が提案した後に、中国への原油輸出が拡大した。トランプ氏は両国に対し制裁圧力を強める政策を取っていた。

 

中国はさらに、北朝鮮に対する国際的な制裁を軽視する姿勢を強め、北朝鮮を支援する一部の密輸活動を隠そうともしなくなっている。米当局者が最近明らかにした。

 

原油価格の上昇と相まって、こうした動きはイランとベネズエラに対米交渉を迫る圧力を弱めている、と米当局者は話す。

 

イラン担当の米当局者の1人は、「中国による非公式な購入により、石油制裁を巡る交渉の必要性が低下している」と述べた。(中略)

 

イランの石油業者は昨年11月以降、値引き価格に引き寄せられたアジアの買い手から新たな取引を打診されているという。バイデン政権下で制裁の圧力が弱まると買い手が考えているためだ。

 

イラン当局者や業者の制裁逃れは一段と巧みになっている。貨物の原産地を隠すため、ペルシャ湾や南アジアで瀬取りをしたり、仮想通貨など銀行以外のプラットフォームを使って支払いを受ける新たな手法を編み出したりしている。

 

イランのエシャク・ジャハンギリ第1副大統領は15日、ここ数カ月にイランの原油輸出量が増加したと述べたが、詳細には触れなかった。

 

イラン国営通信(IRNA)によると、ジャハンギリ氏は「送金で問題があった。このため原油輸出の収入を取り込む方法について一計を案じる必要があったが、最近になって突破口が開けた」と述べていた。(中略)

 

米中関係は既に、安全保障や経済を巡る多くの不一致で緊張が高まっている。米政府の二大敵対国と中国政府との原油貿易はさらなる大きな懸案となる。

 

米当局者は中国に対し、イランからの原油輸入を支援する企業は制裁のリスクを冒しているとし、中国政府はベネズエラとの貿易を巡り厳しい措置に直面する可能性があると指摘している。国務省は中国との連絡についてコメントすることは控えた。【3月22日 WSJ】

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(送金問題について)「最近になって突破口が開けた」というのは、デジタル人民元でしょうか?

 

****中国が狙うイランの原油と天然ガス~支払いはデジタル人民元で(中)**** 

デジタル人民元による支払い、アメリカにとっては悪夢

 

中国にとっては、アメリカに取って代わるまさに千載一遇のチャンス到来というわけだ。中国の習近平国家主席はイランの最高指導者ハメネイ師と直談判を繰り返し、「中国イラン総合戦略パートナーシップ」協定を結んだ。両国間の長期的な通商、軍事協力を加速させる内容である。この合意を受け、中国はイランに対し、今後25年の間に4,000億ドルの投資を行うと表明。

 

具体的には、イラン国内の銀行・通信・港湾・鉄道などの広範なインフラ整備に中国が全面的に支援体制を組むことになる。その見返りに、中国はイラン産の原油を国際価格と比較して大幅に下回る金額で調達できるという仕掛けである。

 

すでに、イランにとって中国は最大の貿易通商相手であり、とくにイラン産原油の最大のバイヤーになっている。しかも、支払いはデジタル人民元でOKという。

 

これらはアメリカにとって悪夢といっても過言ではないだろう。イラン封じ込めを意図していたアメリカの対中東政策を根底から覆す動きを中国が演じているからだ。(後略)【3月4日 浜田和幸氏 NET IB News】

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このあたりは、先のアラスカでの米中会談でも議論になったのではないでしょうか。

 

****米が中国に対し、対イラン石油制裁行使の継続を表明****

アメリカの政府関係者の一人が、「米政府は中国政府に対し、トランプ前大統領時代にイランの石油に対して行っていた制裁が継続されるだろうと伝えた」と語りました。

 

ファールス通信によりますと、匿名とされているこの米政府高官は、「対イラン石油制裁解除に向けたいかなる計画も存在しない」と述べました。(後略)【3月18日 ParsToday】

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イラン・アメリカのチキンレースは、イラン国内の大統領選挙などの政治状況、中国の動きなども加わって、不透明な状況が続いています。

 

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イランとアメリカ  ともに国内に強硬派 譲歩が困難な状況での“チキンレース”

2021-02-26 22:14:30 | イラン

(【2月24日 FNNプライムオンライン】右はイラン最高指導者ハメネイ師

ハメネイ師は22日、核活動を巡るアメリカの圧力に決して屈しないと述べ、兵器に利用する意図はないとしつつも、必要に応じてウラン濃縮度を最大60%に引き上げる可能性があると述べています。【2月23日 ロイターより】)

 

【バイデン政権 イランを背景とするイラク武装勢力の挑発に「相応の軍事的対応」】

イラク北部アルビルでは15日、米軍駐留拠点がロケット弾攻撃を受け、1人が死亡、米兵を含む9人が負傷。

20日にはイラク中部のバラド空軍基地ロケット弾数発が撃ち込まれ、駐留米軍の仕事を請け負っているイラク人1人が負傷。

22日日には首都バグダッドにある旧米軍管理区域(グリーンゾーン)の米国大使館近くに、少なくとも2発のロケット弾が着弾。

 

イラクでは、イランと連携するイスラム教シーア派の民兵組織によるとみられる米軍・アメリカを標的とした攻撃が相次いでいました。

 

執拗な攻撃は、アメリカへの「挑発」と思われ、背後にはイラン・・・といっても、イラン・ロウハニ政権というより、イラン・ロウハニ政権とアメリカ・バイデン政権の核合意復帰に関する交渉を阻止したいイラン革命防衛隊などの対米強硬派の存在があるのでは・・・とも想像できます。

 

“2月23日、バイデン米大統領は、イラク軍や連合軍に対する最近のロケット弾攻撃についてイラクのカディミ首相と電話で協議し、関与した者の「責任を全面的に問う」必要があるとの考えで一致した。”【2月24日 ロイター】

 

攻撃側の背景・意図を考えると、アメリカがどのように対応するのか注目されましたが、アメリカ国防総省は25日、シリア東部にある親イラン民兵組織の施設を空爆したと発表。バイデン政権になって初めての軍事行動となります。

 

****米シリア空爆 バイデン政権、イランの武装勢力支援許容せず****

米国防総省のカービー報道官は25日、米軍がシリア東部にある親イラン系イスラム教シーア派武装勢力の施設に対して空爆を実施したと発表した。バイデン政権が親イラン系武装勢力に軍事行動をとるのは初めて。

 

米政権はイラン核合意への復帰を目指しつつも、中東地域を不安定化させるイランによる近隣諸国の武装勢力支援を許容しない立場を明確に示した。

 

報道官によると、今回の作戦はバイデン大統領の指示で実施された。2月中旬以降に相次いだイラクの米軍関連施設に対する攻撃への対抗措置とし、「大統領は米国や有志国連合の人員を守るために行動するという明確なメッセージを(イランに)送るものだ」と強調した。

報道官は「シリア東部とイラクの情勢の緊張緩和を図るために慎重な行動をとった」とも説明した。(中略)

 

空爆では、シーア派武装組織「神の党旅団」(カタイブ・ヒズボラ)などの親イラン系勢力が利用する国境管理地点の複数の施設を破壊したとしている。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は米当局者の話として、空爆で数人の武装勢力メンバーを殺害した可能性があると伝えた。

 

シリア人権監視団(英国)によると、空爆先はイラク国境に面するシリア東部アルブカマル周辺で、弾薬を積んだトラック3台が破壊され、少なくとも親イラン勢力の民兵22人が死亡、多数が負傷した。

 

バイデン政権は、イランの核合意復帰に向けた外交交渉に着手しようとしており、大規模攻撃で対話路線が頓挫するのを避けたい思惑があったとみられる。

 

一方で米政権はイランに合意から逸脱した核関連活動を順守状態に戻させた後、イランによる武装勢力の支援と弾道ミサイル開発の停止に向けた追加合意の締結を目指したい考えだ。

 

しかし、イランは米国が経済制裁の緩和に応じない限り、応じない構えだ。一方、議会では共和党を中心にトランプ前政権で進められたイラン封じ込めを緩和することに反対論が根強い。

 

武装勢力支援をやめないイランを牽制(けんせい)するために中東での米軍の軍事行動が続く事態となれば、中国の脅威をにらんだインド太平洋地域に軸足を移すことを目指す米国の軍事戦略に支障をきたす恐れもある。【2月26日 産経】

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“国防総省は今回の空爆について、連合諸国との協議を含む「外交手段」と合わせて実施した「相応の軍事的対応」で、「あいまいなところのない明確なメッセージ」を発するものだったと説明。

 

「バイデン大統領はアメリカと連合国の人員を守るために行動する。同時に、シリア東部とイラクの全体状況を鎮静化させるための、慎重な行動」だと述べた。”【2月26日 BBC】

 

イラン・ロウハニ政権が国内強硬派の反対でアメリカとの交渉において難しい立場にある現段階で、アメリカとしても、いたずらにイランとの緊張を高めることは本意ではないでしょうが、アメリカ国内にも反イランの強硬派が存在し、バイデン政権が何も対応しないと「弱腰」批判を受け、イランとの交渉も更に難しくなる・・・という判断でのバイデン大統領の微妙な「報復」に思われます。

 

【イラン、アメリカともに国内に強硬派を抱え、先に譲歩はできないチキンレース】

イランとの交渉の方は、互いに相手が先に譲歩することを求める「チキンレース」状態にあり、イラン側の「国際原子力機関(IAEA)による核施設などへの抜き打ち査察を認める追加議定書の履行停止措置」という“揺さぶり”によって、時間的な制約も3か月と限定されています。

 

****イラン、核施設などへの抜き打ち査察停止=欧米揺さぶり加速****

イランは23日、国際原子力機関(IAEA)による核施設などへの抜き打ち査察を認める「追加議定書」の履行を停止した。

 

IAEAとの合意で一定の監視活動は当面続く予定だが、今後はイランが申告していない核関連物質や核活動の検証作業が大幅に制限される見通しで、核開発の実態把握が難しくなる恐れがある。

 

イランは保守強硬派主導の国会で昨年12月に制定された法律に従い、米国が21日までに制裁を解除しなければ、追加議定書で規定された抜き打ち査察の受け入れを停止すると警告していた。米国が制裁を解除するめどは立たず、核合意のさらなる逸脱により欧米諸国から譲歩を引き出そうと揺さぶりを強める構えだ。

 

イランのザリフ外相は23日、ツイッターで「米国は違反をやめず、欧州も合意を順守していない」と履行停止を正当化した。

 

追加議定書は、核兵器を持たない核拡散防止条約(NPT)締約国がIAEAと結ぶ「包括的保障措置協定」に追加する形で、より広範な査察をIAEAに認める。イランは核合意締結後の2016年から自主的に暫定履行した。

 

履行停止により、査察能力は「約2〜3割縮小する」(イランのアラグチ外務次官)という。【2月23日 時事】

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****米イラン「3カ月」の攻防 ロウハニ大統領の時間わずか****

イラン核合意に基づく義務の逸脱行為を続ける同国のロウハニ政権は23日に国際原子力機関(IAEA)の核施設などへの抜き打ち査察の受け入れを停止する一方で3カ月間に限り「必要な検証・監視活動」を認める妥協をした。

 

イランはこの間の交渉でバイデン米政権から制裁解除を引き出すことを狙っているが、両国間の隔たりは大きく、双方が歩み寄れるかは「3カ月」の攻防にかかっている。

 

 ■3カ月の時間稼ぎ

2018年に核合意を離脱したトランプ米前政権はイランに対して「最大限の圧力」政策を取り、合意に基づいて解除されていた経済制裁を復活させた。

 

イランのメディアによると、ロウハニ大統領は24日、制裁の早期解除を求め「そうすれば前進する道が開け、交渉が可能になる」と訴えた。IAEAとの妥協で確保した「3カ月の猶予」を浪費すべきでない−とのメッセージだ。

 

イランはバイデン政権や、核合意当事国などとの多国間の対話に前向きだ。同国のアラグチ外務次官は多国間会合への参加を「検討している」と述べ、近く回答する見通し。欧州連合(EU)は米イランを含む核合意当事国の非公式会合を呼びかけており、査察をめぐる「3カ月」の妥協は、外交交渉を視野に時間稼ぎをした形だ。

 

米イラン間では、双方で拘束されている自国民の解放をめぐる交渉も始まった。信頼醸成の一環とみられ、国交がない両国の交渉はスイスを介して間接的に行われている。

 

しかし、米政権は制裁解除よりも、イランが核合意の逸脱行為をやめるのが先だと主張している。米国は多国間会合に出席するとしているが、イラン側が核開発を止めることが前提という側面も大きい。

 

 ■勢い増す保守強硬派

核合意締結を主導した国際協調派のロウハニ師に残された時間は少ない。

 

保守強硬派が勢いを増すイランでは6月に大統領選が予定されている。ロウハニ師は任期満了で出馬できずレームダック(死に体)化が進んでおり、5月下旬までの3カ月、膠着(こうちゃく)状態のまま推移すれば、対米批判一色で柔軟性に欠ける保守強硬派から次期大統領が選出され、米国との和解が遠のく可能性がある。

 

抜き打ち査察の受け入れ停止に先立ち、ロウハニ師が率いる政権とIAEAが21日に妥協案で合意したのを受け、反米の保守強硬派が多数を占めるイラン国会は22日、同師個人を非難し、訴追を求める決議を採択。国会では昨年12月、米国が制裁を解除しなければ核開発を加速させるよう政府に義務付ける法律を成立しており、同師はこの法律に違反したとの主張だ。

 

ロウハニ師には保守強硬派の攻撃をかわしつつ、欧米との間で核合意を立て直す困難な仕事が待ち受ける。エジプトの政治評論家、バセム・アリ氏は「ロウハニ師にとって非常に厳しい3カ月になる」との見方を示した。

 

 ■米、膠着打開に動くか

バイデン政権は「外交は、イランに核兵器を得させないための最善の方法」(サキ大統領報道官)とし、トランプ前政権下で悪化した米イラン関係を対話により打開する方針に転換した。しかし、両国の立場の違いは大きく、米国が現在の膠着状態の打開に動くかは不透明だ。

 

米政権は18日、EUがイランとの対話の場を設定すれば米国も参加する用意があると表明した。ブリンケン米国務長官は、イランが核合意を順守すれば「米国も同様の対応をとる」と述べた。対話の意思はあるが、イランが核合意に基づく義務を履行するかによるというメッセージを送ったものだ。

 

バイデン政権が、トランプ前政権の「最大限の圧力」路線から「対話」にかじを切った背景には、前政権の政策が「イランの核開発計画を促進させ、中東地域でイランの態度を一層、攻撃的にさせた」(国務省高官)との反省がある。

 

サキ氏は24日の記者会見で「より長期的で強力な枠組みを構築する」とし、イランの弾道ミサイル開発なども交渉に含める考えに言及。「欧州の誘いにイランがどう反応するか待っている」と期待をかけたが、核開発に加え弾道ミサイル開発に制限をかける路線はトランプ前政権が模索したものの頓挫しており、交渉が長期化する可能性がある。

 

「対話」を重視するバイデン政権の姿勢は、イラン側に足元を見られる恐れもあり、「イランの脅しを前にしてとっている融和策ではないのか」(トランプ政権の元高官)との批判も上がる。米側にも容易に妥協できない事情がある。【2月25日 産経】

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イラン・ロウハニ政権、アメリカ・バイデン政権ともに何らかの形で「合意」したいが、それぞれ国内に強硬派を抱えている状況で、自国からの譲歩はできない、相手から先に譲歩してくれないと・・・といった“チキンレース”です。

 

特に、ロウハニ大統領は“レームダック”化しつつあり、国内強硬派による「米国が制裁を解除しなければ核開発を加速させるよう政府に義務付ける法律」もあって、非常に苦しい立場です。

 

ただ、上記記事が指摘するように、ここでロウハニ大統領を見放せば、6月の大統領選挙はおそらく反米強硬派の候補者が勝利し、イランとアメリカは交渉もできない状況となり、中東の緊張は現在以上に強まることが想像されます。中東石油に頼る日本としては望ましくない未来です。

 

一方、トランプ前政権と協調する形でイスラエルとともに「イラン包囲網」の中核にあったサウジアラビアに対するバイデン政権の対応も、カショギ氏殺害事件に関するムハンマド皇太子の関与を示す報告書を米国家情報長官室が近く公表するということで、微妙なかじ取りを求められています。

 

そのあたりは、長くもなりますので、報告書が明らかにされた時点で改めて取り上げます。

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イラン核合意へのアメリカの復帰 現状は厳しいものの改善を模索する動きも

2021-02-19 23:01:06 | イラン

(【2月17日 NHK】)

 

【イラン・アメリカ 両国のトップが、互いに相手が先に行動を起こすべきだと主張して相譲らない状況】

周知のように、イランと米バイデン政権に関して、トランプ前大統領が一方的に離脱したイラン核合意への復帰をめぐっての動きが報じられています。

 

制裁解除で経済を立て直したいイラン・ロウハニ政権、国際協調を重視する米バイデン政権ともに、核合意を再起動させたい思いはありますが、ともに国内に強硬派を抱え、簡単には動けない状況にあります。

 

現段階では、イランは「米の制裁解除が先」、アメリカは「イランの合意遵守が先」と、ともに相手側の譲歩を求めており、進展が難しい状況にもあります。

 

このままでは事態はデッドロックに乗り上げ、6月のイラン大統領選挙で対米強硬派大統領の誕生し、両国関係は交渉もできない状況に悪化、中東地域の軍事的緊張と、核の拡散に歯止めがかからなくなることも懸念されています。

 

****「米バイデン政権とイラン核合意の行方」(キャッチ!ワールドアイ)****

アメリカのバイデン政権の発足で新たな展開に期待が持たれていた「イラン核合意」についてです。激しさを増す両国の駆け引きとイランの国内情勢を読み解きます。出川解説委員です。

 

Q1:アメリカでバイデン政権が発足してから、まもなく1か月を迎えます。これまでのアメリカとイランの関係をどう見ていますか。

 

A1:はい。バイデン大統領が、選挙戦での公約通り、「イラン核合意」に復帰するかどうかが注目されていましたが、もうすでに、深刻な「ボタンの掛け違い」が起きています。

 

バイデン大統領は、7日に放送されたアメリカのCBSテレビのインタビューで、「イランを交渉の場に戻すために、アメリカから先に制裁を解除することはあり得るか」と質問されると、「あり得ない」と答えました。そのうえで、まず、イランが核合意の制限を超えてウラン濃縮を行うのを停止する必要があるとの立場を示しました。

 

これに対し、イランの最高指導者ハメネイ師は、同じ7日の演説で、「アメリカこそが、すべての制裁を完全に解除しなければならない。それが確認できれば、われわれは核合意を再び守る。この方針は絶対であり、変わらない」このように述べて、核合意から一方的に離脱したアメリカが制裁を解除するのが先だという立場を強調しました。


このように、両国のトップが、互いに相手が先に行動を起こすべきだと主張して相譲らず、アメリカによる核合意への復帰も、制裁の解除も、見通しが立たない状況です。そして、イランは、バイデン政権の発足の直前から、核合意から大幅に逸脱する動きを見せています。

 

Q2:どのような動きですか。

 

A2:
▼まず先月はじめ、ウランの濃縮度を20%まで引き上げました。これは、核合意が結ばれる以前の濃縮度に戻したことになり、明白な核合意違反です。イランはその意図を否定していますが、濃縮度を20%から、核兵器級の90%まで引き上げるのは、技術的には難しくないとされ、国際社会に危機感が広がっています。

 

▼続いて、先月下旬、新型の高性能の遠心分離機を使って、ウラン濃縮活動を始めました。

 

▼さらには、核兵器の材料にも使われるおそれがある「金属ウラン」の製造を開始したことが、先週、IAEA・国際原子力機関によって確認されました。

 

▼そして、アメリカによる制裁解除がなかった場合、今月20日以降(筆者注 イランが通告している査察停止は23日から)、IAEAによるイランの核施設への「抜き打ち査察」の受け入れを停止すると予告しています。

 

Q3:イランがこうした動きを見せる背景には、何があるのでしょうか。

 

A3:バイデン政権に揺さぶりをかける狙いがあると考えられますが、イランの国内政治も影響しています。

 

イランのロウハニ政権は、「アメリカが制裁を解除すれば、直ちに20%の濃縮をやめる」と表明していますので、核合意を壊す意図がないことは明らかです。この4年間、トランプ大統領の退任をひたすら願い、挑発に乗らないよう、忍耐を重ねてきました。バイデン政権には、速やかに制裁解除を実行してもらいたいと切望しています。

ところが、核合意を維持したい国際協調派のロウハニ大統領、思い通りに行動できなくなっています。トランプ政権による核合意からの一方的離脱と制裁の影響で、反米の保守強硬派が台頭し、去年、議会の多数を握りました。

 

去年、革命防衛隊の司令官や、核開発計画を推進してきた科学者が暗殺されたことへの報復の意味も込めて、12月初め、議会が、政府に対し、核開発の拡大を義務づける法律、「制裁解除に向けた戦略的措置法」を制定しました。


この法律に、▼ウラン濃縮度を20%に引き上げることや、▼IAEAの抜き打ち査察に協力しないことなどが盛り込まれているのです。

 

ロウハニ大統領は、今年の夏で任期満了を迎えます。6月に大統領選挙が行われる予定で、すでに、いわゆる「レームダック化」が始まっています。

 

制裁で苦しい生活を強いられる国民の不満をバックに、政権奪還を狙う保守強硬派が、ロウハニ政権を弱腰と批判し、圧力をかけていることも、ウラン濃縮度の大幅な引き上げなど、一連の強硬な動きの背景にあるのです。

 

そして、すべての重要な問題の決定権を握る最高指導者のハメネイ師は、「アメリカとの直接交渉を禁止する」と述べています。ロウハニ大統領のできること、残された時間、少なくなっています。

 

Q4:イラン政府が「制裁が解除されなければ、IAEAの抜き打ち査察を受け入れない」としているのは、そうした保守強硬派の主導で作られた法律に基づいてのことなのですね。このまま今月20日の期限を迎えると、どうなるのでしょうか。

 

A4:このままでは、まず制裁は解除されないでしょう。今後、IAEAが、事前の予告なく調査する「抜き打ち査察」ができなくなりますと、イランの核開発計画の実態を、十分に検証することができなくなり、軍事転用が秘密裏に進むのではないかとの疑念が関係国の間に広がります。そうなりますと、核合意を維持してゆくこと自体が、非常に難しくなります。

 

Q5:アメリカが政権交代しても、イラン核合意を元の形に戻すのは、簡単ではなさそうですね。

 

A5:正直なところ、かなり厳しくなっていると思います。制裁解除がないまま、6月のイラン大統領選挙を迎えれば、反米強硬派の大統領と政権が誕生し、核合意の存続はおろか、アメリカとの対話の機会も作れなくなる恐れがあります。

 

ただし、まだ望みが消えたわけではありません。バイデン新政権の陣容を見ると、イラン核合意の成立に深く関わった当時のオバマ政権の要人たちが、外交・安全保障問題担当の高官に指名されています。一方、イランのザリーフ外相も、EU・ヨーロッパ連合による仲介を受け入れる意向を示しています。


双方とも、仮に、核合意が崩壊した場合、中東地域の軍事的緊張と、核の拡散に歯止めがかからなくなり、イスラエルやサウジアラビアなども巻き込んだ戦争に発展しかねないと危惧しています。今こそ、日本を含む国際社会が、核合意を維持するため、双方の対話の機会を設定し、外交努力に全力を注ぐことが大切だと思います。【2月17日 NHK】

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【アメリカのイエメン対応や国連制裁「復活」撤回など、事態改善に向けた動きも】

事態を更に困難にする抜き打ち査察受け入れ停止の23日が迫るなかで、状況を改善させる方向の動きとしては、アメリカのイエメン対応の変更があります。

 

****イランの核合意骨抜きに国際社会反発 23日から査察停止****

イラン核合意の履行状況を検証している国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は16日、イランが23日から抜き打ち査察の受け入れを停止すると通告してきたことを明らかにした。ロイター通信などが伝えた。

 

核開発の完全な検証が困難になる恐れがあり、合意当事国ドイツの外交筋が「まったく受け入れられない」と述べるなど、国際社会の反発が強まっている。(中略)

 

その一方で、緊張緩和のきっかけとなり得る動きも出ている。バイデン米大統領は今月上旬、イエメン内戦を「終わらせるべきだ」と述べ、15年から内戦に介入している親米のサウジアラビアなどへの軍事支援を停止すると述べた。

 

サウジなどは内戦で、イランと連携するイスラム教シーア派系の民兵組織フーシ派と戦っている。バイデン政権は「世界最悪の人道危機」(国連)の解決のため、トランプ前政権が行ったフーシ派の「テロ組織」指定も解除する意向を表明。

 

こうした動きについて、イランのザリフ外相は、「(米国が)過去の誤りをただす一歩になりうる」と評価した。

 

ただ、米側は将来、イランのミサイル開発や周辺国への影響力行使に制限を課す協議もイランと行う方針で、同国側は警戒を強めている。双方の隔たりは簡単には埋まりそうにない。【2月17日 産経】

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また、バイデン政権は、国連安保理の対イラン制裁「復活」を一方的に主張したトランプ前政権の方針を撤回することを安保理に通知。

 

****米、対イラン国連制裁「復活」撤回=安保理に通知****

米政府は18日、2015年のイラン核合意に基づき解除された国連安保理の対イラン制裁「復活」を一方的に主張したトランプ前政権の方針を撤回すると安保理に書簡で伝えた。バイデン政権は前政権が離脱した合意への復帰を検討している。

 

トランプ前政権は18年に核合意から離脱。その後、イランの合意違反があった場合に国連制裁を再発動させることができる核合意の仕組みを利用し、昨年9月に制裁「復活」を主張していた。ただ、核合意に残る英仏独は復活を認めない立場を示していた。【2月19日 時事】

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【米 合意復帰・対話の用意を表明 EUを軸にした環境整備への期待も】

こうしたなか、ブリンケン米国務長官は、イランが核合意を順守すれば合意に復帰する立場、また、イランと対話する用意があることを明らかにしています。

 

****米、イランと対話の用意 トランプ前政権の方針転換****

ブリンケン米国務長官は18日、イランが核合意を順守すれば「米国も同様の対応をとる」とし、合意に復帰する立場を示した。そのためにイランと対話する用意があることも明らかにした。米英独仏の4カ国外相によるオンライン形式の会談で述べた。

 

トランプ米前政権は2018年に核合意から一方的に離脱し、イランに対して「最大限の圧力」政策を続けた。バイデン米政権はこの方針から転換した形で、今後のイラン側の出方が注目される。

 

4カ国外相が出した共同声明によると、外相らは、イランが濃縮度20%のウランや金属ウランの製造に乗り出したことに懸念を表明し、イランを核合意の順守に立ち戻らせることで一致した。

 

外相らは、イランが国際原子力機関(IAEA)に抜き打ち査察の受け入れ停止を通告したことについても「重大な行動の結果」を考慮するよう求め、再考を促した。英独仏以外の核合意当事国である中国ならびにロシアと協力していくことも確認した。(後略)【2月19日 産経】

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また、別の米高官は、EUがイランとの対話に向けた会合を開催すればアメリカも参加する用意があることを明らかにしています。

 

****EUが調整すれば米はイランとの対話に向けた会合参加へ=米高官****

米国は、欧州連合(EU)がイランとの対話に向けた会合を開催すれば参加する用意がある。米高官が匿名を条件にロイターに明らかにした。

実現すれば、2015年にイランと主要6カ国が結んだ核合意の復活に向けた道が開ける可能性がある。トランプ前米政権は、核合意から一方的に離脱すると表明していた。

米高官は、米英仏独4カ国の外相会談後に「そうした会合が開かれれば、われわれは参加する用意がある」と語った。

これに先立ちEU高官は、イラン核合意参加国の英中仏独ロおよび米国の会合をEUは開催する用意があると述べていた。【2月19日 ロイター】

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事態改善に向けた米バイデン政権とEUの思惑は概ね一致しているようです。

ただ、アメリカ・イラン双方とも国内外の反対勢力を振り切ってまで動けるかどうかですが・・・。

 

****イラン核合意・識者談話****

 ◇EUと思惑一致

中川浩一・三菱総合研究所主席研究員(米国の中東外交)の話 

 

バイデン米政権が欧州連合(EU)を仲介させる条件でイランとの対話の用意を表明したのは、6月のイラン大統領選で保守強硬派が勝利するのを阻止したいバイデン政権と、対イラン制裁を解除し、ビジネスを再開させたいEUの思惑が一致したからだ。

 

今後イラン大統領選に向けて米・イラン間のチキンゲームが加速するだろう。ロウハニ大統領をはじめイラン穏健派が、国内の強硬派を抑えて米国との対話を受け入れられるかが注目される。

 

バイデン政権は本音はイラン核合意に一刻も早く復帰したいが、イランと敵対するイスラエルやサウジアラビアに加え、国内では共和党の反発も強く、簡単には戻れない。

 

そのためバイデン大統領は、まずイランが合意を逸脱する措置を停止することが復帰の条件だと強調し、今回の対話表明もその方針を変えたわけではない。

 

トランプ前政権が構築した対イラン包囲網を支持してきたイスラエルやサウジは、バイデン政権の核合意復帰を断固として止めようとするだろう。

 

特にイスラエルは、オバマ政権時代のぎくしゃくした関係に戻ることが予想されており、復帰阻止のため対イランで独自の行動を取る可能性もある。【2月19日 時事】 

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「先ず相手の譲歩が先だ」というのは交渉ごとの常ですが、EUを仲介とする形で、両者同時に半歩ずつ譲るような「落としどころ」を見つけられるか・・・模索が続いています。

 

上記記事にもあるイスラエルの対応には不安がありますが。

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イラン  米政権交代を控えての動き 韓国籍タンカー拿捕 ウラン20%濃縮再開

2021-01-05 22:02:28 | イラン

(イラン革命防衛隊(IRGC)が拿捕した韓国船籍のタンカー。タスニム通信提供【1月5日 AFP】)

 

【イラン革命防衛隊による韓国籍タンカー拿捕 背景に凍結資産問題】

4日、中東・ホルムズ海峡近くのペルシャ湾で、イラン革命防衛隊によって韓国船籍の石油タンカー1隻が拿捕されました。

 

表向きの拿捕理由とは別に、韓国銀行にあるイラン産原油の代金がアメリカによるイラン制裁のため凍結されていることへの“揺さぶり”が背景にあると指摘されています。

 

****韓国タンカー拿捕で米制裁による資産凍結に圧力か イラン****

イラン革命防衛隊は4日、原油輸送の大動脈である中東・ホルムズ海峡近くのペルシャ湾で同日朝、韓国船籍の石油タンカー1隻を拿捕(だほ)したと発表した。タンカーをイラン南部の港に移送し、船員を拘束した。

 

タンカーは石油化学製品を積載しており、イラン側は「海洋環境に関する法律に違反した」と主張している。

 

韓国政府は付近海域にいた海軍部隊の駆逐艦をホルムズ海峡近海に急派した。韓国外務省は5日、駐韓イラン大使を呼んで抗議。船員らを速やかに解放するよう求めている。

 

近く外務省幹部らをイランに派遣するほか、崔鍾建(チェ・ジョンゴン)第1外務次官が10日にもイランを訪れ、イラン政府と協議する。

 

韓国外務省や韓米メディアによると、タンカーは韓国籍の5人を含め、ミャンマーやインドネシア、ベトナム国籍の計20人が乗船し、サウジアラビアからアラブ首長国連邦(UAE)の港に向かっていた。

 

イラン外務省は、韓国政府に「船員は安全だ」と説明。拿捕について「海洋汚染を調査せよとの(イランの)裁判所の命令に従った措置だ」と主張している。韓国にあるタンカー所属会社は「海洋汚染の可能性はない」と反論している。

 

イランと韓国をめぐっては、米国による2018年の対イラン制裁の強化に伴い、韓国の銀行にある原油の代金70億ドル(約7200億円)以上が凍結された。イラン側は5日、資産の凍結には「根拠がない」と強く反発。拿捕によって米制裁を揺さぶる狙いとの見方が浮上している。

 

イランと韓国は、凍結資産を新型コロナウイルスのワクチン代など人道目的に充て制裁を回避する案を検討していたとされ、協議を詰める方針だったという。【1月5日 産経】

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韓国のウリィ銀行とIBK企業銀行にはイランの原油輸出代金約70億ドル(約7200億円)が凍結されています。

 

この資金を、制裁対象外の人道物資である新型コロナワクチンの購入にイランが充てる形で、事実上の資産凍結を解除する方向で話が進められており、それについてアメリカも承認したとのことでが・・・。

 

****イラン 韓国内の凍結資産でコロナワクチン購入要請=米国も承認****

イランが韓国内の銀行にある凍結資産について、新型コロナウイルスのワクチン購入のために使う案を韓国政府と協議していることが5日、分かった。

韓国政府内では医薬品など人道物資を取引する場合は制裁の例外となるため、このような資金活用について米国政府の承認を受けたが、イランはまだ結論を出せずにいるという。

外交部の当局者によると、イランはワクチンを共同購入する国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」に加わるため、韓国政府に対し凍結資産をワクチン代金として入金するよう要請し、韓国政府は米財務省と協議した結果、ワクチン代金について制裁の例外とする承認を受けた。

韓国の銀行は米国の対イラン制裁に反しない範囲内で資産を移す案をイランに示したが、まだイラン側から回答を受け取っていないという。

ウォン建ての資産をCOVAXに送金するには、まず米国の銀行でドルに両替しなければならないが、イラン側は資産が再び凍結される可能性を懸念しているようだ。(後略)【1月5日 聯合ニュース】

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アメリカも承認する形で話が進んでいたなら、敢えてタンカーを拿捕するような手荒いことをする必要もないようにも思えますが、ドル両替時の資産再凍結など、話が難航している部分があったのでしょうか。

 

韓国政府は、拿捕船解放の交渉のための実務代表団をイラン現地へ派遣することを発表しています。

 

****拿捕船の解放交渉へイランに代表団派遣 外務次官も10日出発=韓国****

韓国船籍のタンカーがホルムズ海峡近くのペルシャ湾でイラン革命防衛隊に拿捕(だほ)された問題で、韓国政府が船舶と船員の早期解放に向け、交渉のための実務代表団をイラン現地へ派遣する。外交部の崔泳杉(チェ・ヨンサム)報道官が5日の定例会見で発表した。(中略)

同部は拿捕事件が起きる前から、韓国内の銀行にあるイラン中央銀行の凍結資産の問題などを協議するため崔次官のイラン訪問を推進していた。この資産問題に対するイラン政府の不満が拿捕事件の原因になった可能性も指摘されており、崔次官がイラン側と解決策を見いだせるかどうかが注目される。

一方、外交部はこの日、シャベスタリ駐韓イラン大使を呼び出して拿捕事件に対する遺憾の意を表明し、速やかな解放を改めて要請した。

崔報道官によると、シャベスタリ大使は今回の事件が単なる「技術的」な事案だとするイラン政府の立場を重ねて伝え、イランの外交当局もできる限り早期の解決に努めるとの姿勢を明確にしたという。

タンカーには船長を含む韓国人5人やミャンマー人11人、インドネシア人2人、ベトナム人2人の計20人が乗船していた。シャベスタリ氏はこの日、外交部庁舎に入る際「船員は安全か」との報道陣の質問に対し「全員安全だ」と答えた。【1月5日 聯合ニュース】

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【米政権交代が迫るなかでの、拿捕事件、更にはウラン濃縮再開問題】

拿捕事件の背景として凍結資産問題などのイラン絡みの話が浮上しているのは、更にその背景に、イラン敵視政策のトランプ政権から、話し合いの余地もあるとされるバイデン政権への、アメリカの政権交代が間近に迫っていることで、イラン側が揺さぶりをかけている・・・とも指摘されています。

 

そういう観点からの“揺さぶり”としては、ウラン20%濃縮活動再開も報じられています。

 

****イラン、ウラン濃縮度20%の作業開始 さらに核合意逸脱****

イラン政府報道官は4日、中部フォルドゥの地下施設でのウラン濃縮活動について、濃縮度を20%にする作業を再開したと述べた。同国のメヘル通信が伝えた。

報道官は「フォルドゥの濃縮施設で、数分前に濃縮度20%のウランを生産する作業を開始した」と述べた。

イランは、米国が核合意から離脱し、対イラン制裁を再開したことに対抗し、2019年からウラン濃縮などで核合意を逸脱する行動に出ている。

イランは1日に国際原子力機関(IAEA)に、フォルドゥの地下施設で最大20%にウランを濃縮する活動を再開する計画と通達していた。

核合意では、ウラン濃縮度は3.67%までとされていた。【1月4日 ロイター】

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20%まで濃縮すれば、核兵器に必要な90%濃縮は比較的容易に進むとも言われています。

 

****イランがウラン濃縮20%意向 IAEAに通知 中東の緊張激化必至****
国際原子力機関(IAEA)は1日、イランが中部フォルドゥの施設でウラン濃縮度を20%まで高める意向を伝えてきたと明らかにした。ロイター通信などが報じた。

 

20%程度まで高めれば、核兵器に使う90%以上の高濃縮ウラン製造も容易となり、中東地域の緊張激化は必至だ。

 

イラン側は時期は明言しなかったが、実際に高めた場合、2015年にイランが主要6カ国(米英仏独露中)と結んだ核合意前の水準に戻る。イランは既に合意で定められた3・67%を超えているが、これまでは4・5%程度にとどめてきた。

 

米国は18年にトランプ政権が合意から離脱したが、バイデン次期政権はイランの合意順守を条件に米国の合意復帰を検討している。

 

20%の濃縮は、イランの核科学者暗殺を受けて昨年12月にイラン国会が成立させた法律に基づく措置の一環とされる。【1月2日 毎日】

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【敵の敵は味方 利害が一致する対立国強硬派】

イラン国内的には、イランの核科学者暗殺を受けて昨年12月に反米保守強硬派主導で、核開発の拡大を義務付ける法律が成立しています。

 

****イラン国会、核開発拡大を法制化 反米保守強硬派が影響力****

イランで(12月)2日、政府に核開発の拡大を義務付ける法律が成立した。来年1月に米次期大統領に就任する見通しのバイデン前副大統領は、イランの合意順守を条件にトランプ政権が離脱した合意に復帰する意向で、イランが合意違反を加速すれば復帰が困難になる。

 

イランの核科学者ファクリザデ氏が11月下旬に暗殺され、同国指導部はイスラエルが関与したとして報復を明言。反米保守派の発言力が強まっている。

 

英BBC放送(電子版)によると、法律は核合意当事国の英仏独が合意に定められたイランとの原油や金融の取引を2カ月以内に履行しなければ、国際原子力機関(IAEA)の査察を停止するよう政府に求めた。履行しない場合、ウランの濃縮度を現状の約4・5%から20%に上げる作業も始めるよう要求した。

 

合意の規定上限は3・67%で、ウランは濃縮度90%になれば核兵器転用が可能。欧州の企業はトランプ政権が科した制裁に抵触するとしてイランとの取引を手控えてきた。

 

反米の保守強硬派が多数派のイラン国会が1日に法案を可決し、憲法違反の有無を審査する護憲評議会が2日に承認し、法律として成立した。保守穏健派のロウハニ大統領は制定に反対していた。

 

イランでは来年6月実施の大統領選で反米の保守強硬派が勝利するとの観測があり、そうなれば米・イランの関係改善は遠のく公算が大きい。【12月3日 産経】

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基本的にイランの“権利”を制約する核合意に反対する保守強硬派、アメリカとの関係改善で経済制裁緩和を目指すロウハニ大統領などの穏健派、アメリカのイラン敵視政策のトランプ政権、オバマ前政権の遺産である核合意復帰も視野に入れるバイデン新政権・・・政権交代が“あと2週間あまり”に迫ったこの時期、それぞれの立場・思惑が交錯しています。

****イランの20%濃縮を欧米批判 核合意の行方、不透明に****

イランが中部フォルドゥの地下核施設で核兵器級に近づく濃縮度20%のウラン製造に着手し、欧米などから2015年の核合意の重大な違反に当たるとして批判が相次いでいる。米次期大統領就任を確実にしたバイデン前副大統領はイランとの対話再開を模索する意向を示してきたが、先行きは不透明になってきた。

 

ロイター通信によると、米国務省の報道担当者は4日、「核による恐喝だ」とイランを非難。イスラエルのネタニヤフ首相も「イランの核兵器製造は許さない」と警告した。一方、欧州連合(EU)の欧州委員会は5日、「強い懸念」を表明しながらも合意維持の重要性を強調した。(中略)

 

濃縮度20%のウラン製造開始は4日、イラン政府報道官が明らかにした。同国原子力庁報道官は同日深夜に濃縮度が20%に達するとの見通しを示していた

 

イランは核合意の締結前、がん治療を目的に濃縮度20%のウラン製造に成功したと表明したことがある。同国のザリフ外相は4日、合意の全当事国が規定を順守すれば、イランも合意に立ち戻る意思があるとツイッターに投稿した。

 

トランプ米政権が再開した制裁でイラン経済は悪化の一途をたどっている。イランには、米政権交代をにらんで強硬姿勢を誇示し、米国に合意復帰や制裁解除を促す意図がありそうだ。欧州の当事国である英仏独に対し、合意に盛り込まれた金融・原油取引の履行を迫る狙いもうかがえる。

 

バイデン氏はイラン側の規定順守を条件に合意に復帰する意向を示してきたが、イランの弾道ミサイル開発や周辺国への影響力行使に懸念を示すなど、現行の合意内容は不十分との見方も示している。イランと米側の隔たりが広がる中、早期の関係改善は困難との見方が強まっている。【1月5日 産経】

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イラン国内の話で言えば、タンカー拿捕もウラン濃縮再開も、反米保守強硬派主導の動きのようにも思えます。

保守強硬派の立場からすれば、アメリカとの対立が先鋭化して核合意復帰が吹き飛んでしまう事態が望ましいのでしょう。

 

それではイラン国民の生活は苦しくなるばかりですが、イラン経済は革命防衛隊などの既得権益層が制裁下で利権を独占するシステムにもなっており、そういう保守・既得権益層はむしろ制裁が続く方が望ましいのでしょう。

 

そうしたイラン国内の保守強硬派の立場を強め、結果的に彼らを支援しているのが、トランプ政権・イスラエルなどの“対イラン強硬策”というようにも俯瞰できます。

 

敵の敵は味方だ・・・ということで、イラン保守強硬派とトラン政権の利害は一致します。

 

アメリカの政権交代が“あと2週間あまり”に迫ったこの時期、イランに敵対するサウジアラビア側でも動きがみられますが、そのあたりは話が長くなるので、また別機会に。

“カタール断交、解消へ サウジなどが合意 トランプ米政権の意向が背景”【1月5日 産経】

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イラン  核科学者殺害で保守強硬派の主張が前面に 穏健派ロウハニ大統領が期待する交渉に足かせ

2020-12-04 23:28:58 | イラン

(イランの核科学者モーセン・ファクリザデの棺を運ぶ人たち=2020年11月29日【12月3日 GLOBE+】)

 

【核科学者殺害はイスラエルの犯行?】

イランの核開発の中心的な存在だった核科学者が11月27日、テヘラン郊外で何者かによって殺害された事件については、詳細はわからないなかで、イラン側は敵対するイスラエルの犯行としています。

 

****イランで核科学者暗殺 イスラエルの関与主張、報復を宣言****

イラン政府は、同国軍の研究・革新機関を率いていた著名核科学者のモフセン・ファフリザデ氏が27日、首都テヘラン郊外で武装集団の襲撃を受けて暗殺されたと発表した。イランは敵対関係にあるイスラエルの関与を主張し、「厳しい報復」を宣言した。

 

ファフリザデ氏は、テヘラン州東部ダマバンド郡アブサード周辺を車で移動していた際に襲撃を受けた。イラン国防軍需省によると、武装集団が車を襲い、護衛隊との銃撃戦に発展。同氏は重傷を負い、医療チームが救命を試みたものの、後に「殉職した」という。

 

ファフリザデ氏は2008年、米国から「イランの核開発に貢献した活動や取引に関与」したとして制裁を科されており、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相からはイラン核兵器プログラムの父と評されたこともある。

 

イラン国営テレビは、イスラエルが同氏に対し「長年深い敵意を持っていた」と報道。イランのモハンマドジャバド・ザリフ外相はツイッターに「きょう、テロリストがイランの著名な科学者を殺害した。この卑劣な行為にはイスラエルの関与を示す重大な兆候があり、犯行グループの必死な戦争挑発行為を示している」と指摘。国際社会に対し「恥ずべき二重基準をやめ、この国家テロ行為を非難する」よう呼び掛けた。

 

イラン軍のモハマド・バゲリ参謀総長は、ファフリザデ氏の死は「国の防衛体制にとってつらく大きな痛手」であるとし、関与した者には「厳しい報復」措置を取ると警告した。 【11月28日 AFP】

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イラン側は、犯行に使用された武器はイスラエル製だったと主張しています。

 

****イラン核科学者暗殺、イスラエル製武器使用か モサド関与も主張*****

イランの首都テヘラン東方で「核開発の父」と称される核科学者ファクリザデ氏が暗殺された事件で、イランの国営英語衛星放送局プレスTVは30日、匿名の当局者の話として、暗殺現場から採取された武器にイスラエル軍需産業が製造したことを示す「ロゴと特徴」があったと伝えた。

 

また、イラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長は同日、暗殺にはイランの反体制非合法組織「国民抵抗評議会」が関与し、イスラエルの対外情報機関モサドと協力して行ったとの見方を示した。

 

同氏は暗殺は「電子機器による遠隔操作」を使った複雑なものだったとも述べた。イランのメディアは自動小銃が遠隔操作され、人工衛星と連動した兵器もあったと報じている。

 

イラン指導部は暗殺を受けてイスラエルへの報復を明言しており、イランの保守系紙ケイハンはイスラエルの関与が確認された場合、同国北部の港湾都市ハイファに攻撃を行うべきだと主張した。

 

同紙は最高指導者ハメネイ師に近く、反米の保守強硬派の意見を反映しているとされるが、米次期大統領に就任する見通しとなったバイデン前副大統領はイランとの対話を模索しており、米国との関係が深いイスラエルへの大規模な報復は控えるとの観測もある。

 

また、イスラエルのコーヘン情報相は30日、暗殺の犯行組織は不明だとした上で、イランの報復に備えて警戒していると明かした。

 

イラク外相は29日、イラン外相との電話会談でファクリザデ氏への弔意を伝え、暗殺は地域の安定を損なうと非難。イスラエルと国交正常化で合意したアラブ首長国連邦(UAE)も暗殺を批判し、関係国・組織に自制するよう呼びかけるなど、中東では緊張激化を懸念する声が出ている。【11月30日 産経】

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モサドなどのイスラエル側が関与しているなら、指紋をベタベタ残すかのように、わざわざ自国製の武器を使うか?という素朴な疑問もありますが、犯行を公には認めないイスラエルとして、イランを挑発するために敢えて明確な証拠を残した・・・というのも、これまた“ありそうな話”です。

 

遠隔操作による武器云々はよくわかりません。イラン側の責任逃れではないかとの指摘も。

 

****イラン科学者の暗殺に遠隔操作説 発生1週間、責任逃れか****

イランの核科学者モフセン・ファクリザデ氏の暗殺事件から4日で1週間。イスラエルの関与を疑う政府は複数犯による待ち伏せ攻撃と発表したが、国防政策を統括する組織の高官は遠隔操作兵器を使った無人作戦との見方を示唆。

 

技術的には可能とみられるが、事件の特異性を強調して阻止に失敗した当局の責任逃れを図ったとの見方もある。

 

「敵は全く新しい特別なやり方で目的を遂げた。電子機器が使われた。現場には誰もいなかった」。国防政策を統括する最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長は11月30日、暗殺事件をこう説明した。【12月4日 時事】

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【「報復」に備え、軍事的緊張も】

“イラン指導部は暗殺を受けてイスラエルへの報復を・・・・”ということで、軍事的緊張もあります。

アメリカもペルシャ湾に空母を展開していますが、暗殺とは無関係とか。

 

****米空母、ペルシャ湾展開=イラン核科学者暗殺で緊張****

ロイター通信などは28日、米海軍の原子力空母「ニミッツ」がペルシャ湾で展開していると伝えた。イランは、核開発の主導的役割を担ったとされるイラン人科学者が何者かに暗殺され、対立するイスラエルや米国の関与を疑い報復を警告している。米軍はイラン情勢の緊張悪化をにらみ、警戒を強めているもようだ。

 

米第5艦隊の報道官は「特定の脅威があったわけではない」と述べ、暗殺との関連を否定。トランプ政権が表明したアフガニスタンとイラクの駐留米軍削減の支援が目的で、「いかなる脅威にも対抗し、撤収する米軍に対する敵の行動を防ぐためだ」と強調した。

 

展開したのは暗殺2日前の25日という。【11月28日 時事】 

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暗殺2日前に展開ということで、事件とは無関係とのこと。

事前に事件が起きることを知っており、早めに展開した・・・ということはないでしょう。いくらなんでもそんなドジはふまないでしょう。多分。

 

【イスラエルの目的は挑発か そうだとすれば期待どおりの効果】

仮にイスラエルの犯行だとすると、その目的は?

いくら主導的な立場にあった科学者とはいっても、今更彼一人を殺害しても全体の流れには影響しないでしょう。

 

常識的に考えられるのは、イランを挑発する目的。

アメリカ大統領がイラン核合意から離脱し、イスラエルとともにイラン包囲網を構築するトランプ氏から、イラン核合意への復帰も視野にあるバイデン氏に交代すると、イスラエルにとっては不都合。

 

そこで、トランプ政権のうちにイランを挑発し、イランにことを起こさせ、バイデン氏に交代しても容易には核合意に復帰できない環境をつくろうというのが狙い・・と、誰しも思うところ。真相はわかりませんが。

 

****イラン核科学者の暗殺 イスラエル関与疑惑浮上で中東緊張****

(中略)イスラエルは事件についてコメントしていない。だが、米ニューヨーク・タイムズ紙は3人の情報当局者の話を引用し、イスラエルが背後にいると指摘している。

 

イスラエル紙ハーレツによると、イスラエルは約10年前からイランの核科学者を暗殺してきた疑いがある。10〜12年には少なくとも4人の科学者が殺害された。

 

今回の事件は、イランに経済制裁などの強い圧力をかけてきたトランプ氏が米大統領選で敗北し、対話に前向きなバイデン前副大統領の就任が確実となってから数週間というタイミングで発生した。

 

このため、イランの盛り返しに危機感を覚えたイスラエルが、来年1月のバイデン氏就任前にイランに打撃を加え、同時に米イラン間の対話機運を失わせる狙いがあるとの見方が米国の専門家などから出ている。

 

一方、イラン・テヘラン大学のマランディ教授はアルジャジーラに対して「イランの核計画は既に発展しており、若い科学者も大勢いる」としてイランにとって大きな打撃にはならないとの見方を示しつつ、「イラン側は敵対者への対応をより積極的にするだろう」と報復攻撃の可能性を指摘した。

 

イスラエルに接するシリアやレバノンには親イランの民兵組織がおり、イランはこうした勢力を利用して攻撃に出る恐れもある。一方のイスラエルは既にシリア領内の親イラン民兵への攻撃を強化しており、11月中旬以降、数十人が空爆で殺害されたとみられる。

 

イランでは20年1月、革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍によって殺害された。7月には中部ナタンツの核関連施設で爆発が起き、イスラエルや米国の関与が疑われている。【11月28日 毎日】

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もし、イランが軍事行動にでれば、「死に体」トランプ大統領とイスラエルは「待ってました」とばかりに報復行動に出て、バイデン新政権が後戻りできないような状況をつくるでしょう。

 

イラン側も、言葉の上のでの「報復」云々の過激さはあるものの、実際の話となると、軍事的行動は難しいでしょう。特に、「話ができる」バイデン氏への政権交代が間近な今、ことを起こすのは得策ではありません。

 

アメリカ・バイデン新政権との交渉に期待する穏健派のロウハニ大統領は、そういう「策略にはまることはない」との考えでしょう。

 

ただ、“20年1月、革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍によって殺害された。7月には中部ナタンツの核関連施設で爆発が起き、イスラエルや米国の関与が疑われている。”といったように、アメリカ・イスラエルにやりたい放題されているイラン(アメリカ・イスラエルの側からすれば、イランが周辺国で好き放題やっているから・・・ということなのでしょうが)の世論は別物。

 

ソレイマニ司令官とは違って、殺害されたファクリザデ氏が隠された存在であったこともあり、国民の中には彼を知らない人も多数いるほどで、国内での報復を求めるボルテージは上がっていない状況とのことですが、イランは政治的には穏健派と保守強硬派が対立しており、アメリカとの交渉を望まない保守強硬派からすれば、世論を味方につけて、アメリカ・イスラエルとの対決姿勢を強める絶好の機会ともなります。

 

****経済制裁、イランの家計圧迫 米バイデン新政権へ、期待と不信感****

トランプ米政権による経済制裁で大きな打撃を受けてきたイランで、悪化する暮らしに国民の不満が募っている。来年6月に迫った大統領選では「経済」が大きな争点になりそうだ。米国のバイデン新政権への期待もあるが、苦境打開につながるのか――。

 

 ■物価上昇、コロナで追い打ち

(中略)物価上昇は特に昨年5月以降、急激に進んでいる。イラン統計局によると、消費者物価指数は今年11月までの年間平均で前年同期比29%上昇した。背景には、イランを「世界最大のテロ支援国家」と呼ぶトランプ米政権による「最大限の圧力」政策がある。

 

イランは2015年に米英仏独中ロと核合意を結んだ。核開発の制限と引き換えに16年1月に制裁が緩和され、経済は一時、回復基調に。国際通貨基金(IMF)によると、実質国内総生産(GDP)の成長率は15年の1・6%減から16年には12・5%増となった。

 

だが、トランプ政権は18年5月に核合意を離脱し、同8月から制裁を再発動した。イランはドル決済の枠組みから排除され、昨年5月以降は原油禁輸措置により輸出先が激減した。IMFによると、GDP成長率は18年に5・4%減、19年に6・5%減へと落ち込んだ。

 

外貨不足で通貨リアルは暴落。輸入が滞り、物が不足し、全体的な物価高へと広がった。そこへ、コロナ禍が追い打ちをかけた。

 

家計の圧迫が買い控えを招き、経済をますます冷え込ませている。テヘラン中心部の衣類店では制裁が解除された4年前と比べて売上高は8割減った。店長のアラシュさん(39)は「制裁が解除された後は順調に客足が戻った。今はもう衣類を買う余裕がないのだろう」。諦めたような表情で、閑散とした表通りに目を向けた。

 

 ■ロハニ師に失望、強硬派勢い

トランプ米政権の強硬姿勢はイラン国内で、核合意による制裁解除と経済再生を掲げてきたロハニ大統領への失望感を生み、米国との対立路線を主張する保守強硬派を勢いづかせた。今年2月の国会選挙では290議席のうち7割を保守強硬派が占めた。

 

11月2日には、濃縮度20%のウランを年間120キロ製造する法案を可決。核兵器製造に必要な高濃縮ウランを短期間でつくれるとされる濃度にまで高めるものだ。実行に移される可能性は低いが、米国への対決姿勢を鮮明にした。米国への不信感は積み重なっており、保守強硬派を中心に「米国を信用するな」という考えは根強い。

 

イランは米国による制裁再開が国連決議違反だと非難し、核合意復帰や制裁解除は当然と主張する。ザリフ外相は11月18日付のイラン国営紙で「米国がまず国連決議を履行すれば我々も義務を果たす」と強調した。

 

一方で、バイデン次期大統領は核合意への復帰を示唆しており、制裁解除への期待もある。11月27日にイランの核開発を牽引(けんいん)してきた核科学者のモフセン・ファフリザデ氏がテヘラン郊外で殺害された事件を受けて、ロハニ大統領は同28日、米国やイスラエルの関与を指摘したが、「彼らの策略にははまらない」と述べて「報復」を明言せず、抑制的な対応を続けている。

 

イランでは来年6月に大統領選が予定される。これまで米大統領選の翌年に行われ、米国の選挙結果の影響を受けてきた。イランを「悪の枢軸」と呼んだ共和党ブッシュ大統領の続投が決まった翌年、反米の保守強硬派アフマディネジャド大統領(05~13年)が誕生した。来年で大統領任期を終えるロハニ師(13年~)は保守穏健派で、当選時は民主党オバマ政権だった。

 

イラン大統領選の行方は米国の新政権発足で関係改善が進むか、それによって経済の回復につなげられるかが左右する。イランの外交専門家は言う。「国民が経済回復を実感できないままなら、強硬派がさらに影響力を増し、穏健・改革派との分断が進むだろう。

 

そうなれば、バイデン政権がイランとの対話を望んだとしても、イラン側が応じるか確証はない」【12月1日 朝日】

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【バイデン新政権との交渉に期待する穏健派ロウハニ大統領 交渉を潰したい保守強硬派】

イラン国会では保守強硬派が、軍事行動ではなく、核合意交渉での穏健派ロウハニ大統領の手足を縛るような決議も。

 

****イラン議会、ウラン高濃縮と査察阻止のため新法を可決 大統領は反対****

イランの議会は2日、国連の核施設視察を阻止したり、ウラン濃縮を推進したりできる新法を可決、成立させた。

新法では、外国からの制裁が向こう2カ月で緩和されない場合、政府に対しウランの濃縮率を20%まで引き上げるよう求める。これは2015年のイラン核合意で定められた3.67%を大きく上回る。

 

イランのハッサン・ロウハニ大統領は、この法律の施行に反対を表明した。

 

イランでは11月28日、最も著名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏が首都テヘラン近郊で暗殺された。イラン政府はこれについて、イスラエルと国外の反政府勢力による、遠隔操作の兵器を使った犯行との見解を示した。

イスラエルはこの事件について公式のコメントを発表していない。

 

ファクリザデ氏は2000年代初め、イランの核開発計画で重要な役割を果たした。イラン政府は一連の核開発事業はすべて平和利用のためだと強調している。

 

2015年の核合意は、イランが核開発の規模を制限する代わりに、欧米各国がイランに対する経済制裁を緩和するというもの。

 

しかしドナルド・トランプ米大統領は2018年、核合意から離脱すると発表した。その後、欧州の参加国はイランの石油・金融セクターに制裁を科した。

 

新法が核開発に与える影響とは

監督者評議会によって承認された新法では、イラン政府は核合意に参加した欧州各国に対し、2カ月以内に制裁を緩和するよう求める。

 

制裁が期日までに緩和されなかった場合、イラン政府はウランの濃縮率を20%まで引き上げるほか、ナンタズとフォルドウの核開発施設に最新の遠心分離機を導入する。さらに、これらの施設に対する国連の査察を拒否する権利を政府に与えている。

 

国営ファルス通信は2日、「議長は本日、書簡で大統領に対し、正式に新法の施行を要請した」と伝えた。

 

新法が承認される前、ロウハニ大統領は「外交に打撃となる」として、政権は法案に反対していると話していた。

来年1月に就任するジョー・バイデン次期米大統領は、核合意に復帰する意向を示している。また、イランが「核合意を厳格に順守する」のであれば制裁を解除するとも発言している。

 

米紙ニューヨーク・タイムズの取材でバイデン氏は、「難しい問題だ」とした上で、「中東地域に最も求めていないこと、それは核保有量の拡大だ」と述べた。

 

イランは2019年7月に核合意で定められた濃縮率3.67%を突破。現在は4.5%まで引き上げている。

低濃縮ウランは、通常3〜5%ほどの濃縮率で、原子力発電の燃料に使用できる。兵器レベルになると濃縮率は90%以上。【12月3日 BBC】

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敵対する国の強硬派同士は、最も反目する関係にありながら、和平・交渉を望まないという点では利害が一致します。

 

イスラエル側の挑発を承知で、イラン保守強硬派が敢えてそれに便乗する形で、国内政治バランスを変えようとしているように見えます。

 

そういう意味では、もしイスラエルの犯行だったとすれば、「うまい手」だったのかも。

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イスラム教国で多発する「名誉殺人」 宗教に「名誉殺人」を誘発、是認、隠蔽する側面も

2020-08-29 22:19:39 | イラン

(【5月29日 CNN】 駆け落ちしたことで、父親に首を切り落とされたイランの14歳少女ロミナ・アシュラフィさん)

 

【娘の首を切り落として禁固9年】

このブログでもときおり取り上げる「名誉殺人」という不似合いな言葉で呼ばれる、忌まわしい不名誉な単なる殺人。

 

****名誉殺人****

婚姻拒否、強姦を含む婚前・婚外交渉、「誤った」男性との結婚・駆け落ちなど自由恋愛をした女性、さらには、これを手伝った女性らを「家族名誉を汚す」ものと見なし、親族がその名誉を守るために私刑として殺害する風習のことである。

 

射殺、刺殺、石打ち、焼殺、窒息が多く、現代では人権や倫理的な客観から人道的問題としても議論される。(中略)

 

殺害被害者は基本的に女性側であり、男性の場合は同性愛者の場合である。「名誉の殺人」ともいう【ウィキペディア】

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この種の殺人はいつになっても後を絶ちませんが、最近話題になったのがイランの事件。

 

****け落ちした10代少女を父親が斬首、激しい非難の声 イラン****

イランで15歳年上の男性と駆け落ちした10代少女が父親に首を切られ殺害される事件が発生し、国内で激しい非難の声が上がっている。

 

ハッサン・ロウハニ大統領は27日の閣議で遺憾を表明し、同様の暴力事案に対応する法案を早急に通す意向を示した。

 

地元メディアによると、死亡したのはロミナ・アシュラフィさん。アシュラフィさんは21日、北部ギラン州ターレシュの自宅で就寝中に父親によって斬首されたとみられている。

 

男性が親族の女性を殺害するいわゆる「名誉殺人」とみられるこの事件はイラン国内で広く報じられており、地元紙エブテカールは一面で「安全でない父親の家」という見出しで報じた。

 

報道によると父親が男性との結婚を許さなかったため、アシュラフィさんは家出。しかし、父親が警察に通報した後、アシュラフィさんは自宅に戻ったという。

 

またアシュラフィさんは当局に発見された際、自宅に戻れば命の危険があると訴えていたとイランメディアは伝えている。

 

ただ、一般の人々を最も憤慨させていることは、父親が寛大な刑罰に処される可能性が高いことだとエブテカールは指摘。父親は3〜10年の禁錮刑を言い渡される見通しだが、処罰が著しく軽減される可能性もあり、同紙はイランの「家父長制度」における「慣行化された暴力」の問題を強く批判している。

 

ツイッターではアシュラフィさんの名前を表すペルシャ語のハッシュタグが登場し、事件を非難する投稿が多く寄せられている。
 
イランの法律では、女性が結婚できる年齢は13歳からと定められている。 【5月29日 AFP】AFPBB News

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こうした事件が大きく報道されたのは“たまたま”に過ぎず、世界的には年間5千件、あるいは、それ以上が起きているとも言われています。事件として扱われることなく、闇から闇に葬られるものも多数あると想像されます。

 

事件そのものも忌まわしいものですが、上記記事にもあるように、こうした事件を一定に「許容」する社会的風潮あるいは宗教的判断があるというところが、やりきれません。“国内で激しい非難の声が上がっている”のは救いでもありますが。

 

この事件で下された判決は、禁固9年。

 

私の理解では“不当に軽すぎる判決”に思えますが、“父親は3〜10年の禁錮刑を言い渡される見通しだが、処罰が著しく軽減される可能性もあり”ということでは、実際の判決は想定されたもののなかでは比較的重い方だったというべきでしょうか。

 

****駆け落ちした14歳の娘を斬首、父親に禁錮9年の判決 イラン****

イランで、10代の娘を就寝中に斬首した父親が、禁錮9年の判決を言い渡された。地元メディアが28日、報じた。ただ殺害された娘の母親は、死刑を望んでいるという。

 

男性が親族の女性を殺害するいわゆる「名誉殺人」とみられるこの事件に対しては、国民の間で激しい怒りが広がり、メディアは「制度化された暴力」だとして非難を繰り広げた。

 

メディアの報道によると、14歳のロミナ・アシュラフィさんは北部ギラン州ターレシュの自宅で頭部を切り落とされた。

 

少女の母親ラナ・ダシュティさんはイラン労働通信に対し、「司法当局が『特別な対応』を主張したにもかかわらず、判決は私と家族にとって恐ろしいものになった」とコメント。「夫には二度と私たちの村に戻ってきてほしくない」とし、判決を見直して「死刑」にするよう訴えている。

 

ダシュティさんは他の家族の命を危惧しているという。

 

報道によると、ロミナさんは15歳年上の男性との結婚を父親が許さなかったために駆け落ちした。だが当局に保護され、自宅に戻れば命の危険があると懇願したにもかかわらず、自宅に連れ戻されていた。

 

現地メディアによると、ロミナさんが結婚を望んでいた男性は禁錮2年の判決を言い渡された。だが罪状の詳細は明らかになっていない。(後略)【8月29日 AFP】AFPBB News

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イランでは同性愛は死刑を含む刑罰で罰せられるのに対し、娘の首を切り落として禁固9年というのは・・・・。

文化・宗教の違いといってしまえば、それまでですが。

 

【地域的因習「名誉殺人」を誘発、是認、隠蔽する側面があるイスラム教】

この「名誉殺人」はイスラム教国に多くみられますが、インドなど他の宗教国家でも見られ、宗教にもとづくものではなく、地域的因習に依拠するものと言われています。

 

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アムネスティ・インターナショナルは、名誉殺人が行われている国および地域として、バングラデシュトルコヨルダンパキスタンウガンダモロッコアフガニスタンイエメンレバノンエジプトヨルダン川西岸ガザ地区イスラエルインドエクアドルブラジルイタリアスウェーデンイギリスを挙げている。

 

名誉殺人は、主に中東イスラーム文化圏を中心に行われているため、イスラーム教と関連した風習と見なされることが多い。

 

しかし、イスラーム教徒以外の間でも行われており、実際はイスラーム教とは無関係であり、もっぱら地域の因習によるものであるとされる。【ウィキペディア】

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上記で欧州の国家があがっているのは、中東などからの移民がその風習を持ち込んだことによるものです。

 

“イスラーム教とは無関係”とは言いながらも、イスラム教国以外で目立つのはインドぐらいという現実を見ると、こうした地域的因習をイスラム教が「容認」している面も関係しているように思われます。

 

****首、毒殺......イランで続発する「名誉殺人」という不名誉****

<勧められた結婚の拒否、性的暴行被害のほか、運動することや高等教育・キャリアを望む姿勢も「名誉を汚す行動」に含まれる>

 

年上の「彼氏」と駆け落ちした14歳の少女が家に連れ戻されたあと父親に鎌で斬首され死亡、夫以外の男と関係したと疑われた18歳の妊婦が父親と兄弟に毒を飲まされ死亡、夫以外の男と逃走した19歳の女性が夫といとこによって斬首され死亡、帰宅が遅れた22 歳の女性が父親に鉄の棒で殴られて死亡......。

 

これらはいずれも、2カ月ほどの間にイランで発生したいわゆる「名誉殺人」である。

 

名誉殺人は家族の名誉の回復を目的として実行される殺人だ。家族内の女性が「名誉を汚す行動」をしたり、そう噂されたりした場合に、当該女性を殺害することで名誉を回復させることができる、と信じられている。

 

 根源にあるのは、名誉が慎み深さや「処女性」と結び付いており、家族の名誉は家族内の女性の行動に懸かっているという考えだ。

 

女性の家族の行動を管理するのは男性の責任だとされる。この考えを共有する人々の中で、名誉殺人は今も容認されている。

 

「名誉を汚す行動」には、勧められた結婚を拒否する、異性と交流する、性的暴行の被害を受けるなどのほか、自転車に乗る、運動をするといった「処女性」を失う可能性のある行動や、「西洋的過ぎる」こと、つまり両親に従順でない、頭髪を隠すヒジャーブを着用しない、西洋的な服装をする、高等教育やキャリアを望む、異教徒の友人や彼氏を持つことなども含まれる。

 

 国連は2000年、世界で1年間に約5000件の名誉殺人が発生しているという推計を発表した。しかし名誉殺人は自殺として処理されたり隠蔽されることも多く、正確な数は不明だ。

 

それはアジアや中東だけでなく、欧米でも発生している。 一般に名誉殺人はイスラム教とは無関係と説明される。

 

しかしニューヨーク市立大学スタテンアイランド校のフィリス・チェスラー名誉教授は、名誉殺人の加害者の91%がイスラム教徒だという調査結果に立脚し、名誉殺人は主にイスラム教徒のイスラム教徒に対する犯罪だという論文を発表した。

 

また国際法学者のハンナ・イルファンや犯罪学者のリンゼイ・ディバースは、イスラム教には名誉殺人を誘発、是認、隠蔽する側面があると指摘する。

 

サウジアラビアの法学者サーレフ・マガムシー師は2014年、「娘や息子を殺した父は殺される(死刑に処される)か?」という質問に対し、「父は息子のために殺されない」という預言者ムハンマドの言葉を典拠とし、「多くの法学者は、父は殺されないとしている」と回答した。

 

<死刑判決は下されないと知っていた父親>

イスラム法は殺人について、被害者親族が犯人に対して同害報復刑か賠償金を決める権利を有すると定めるが、スンニ派4法学派のうち3派は父が娘を殺しても同害報復刑の対象にはならないとし、1派のみ母親がそれを求める権利を認める。

 

イラン・イスラム刑法も、娘を殺した罪で有罪となった父に対し、最長で禁錮10年の刑を科するにとどめる。

 

ニューヨーク・タイムズ紙は既出の14歳の娘を殺した父親について、あらかじめ法の専門家に相談し、娘を殺しても死刑判決が下されることはないと知っていたと報じた。

 

ポンペオ米国務長官は7月1日の会見で、イランで続発する名誉殺人に言及し、「イランの腐敗した指導者たちは40年間こうした殺人を容認し、女性たちの人間性を奪ってきた」と批判した。

 

しかしこれはイランだけの問題ではない。 必要とされるのは名誉殺人を厳しく罰する法の整備と、家族の名誉のために女性が殺されることはあってはならないと教える教育である。女性の人権の確保は、真の民主主義実現には絶対不可欠だ。【7月31日 飯山陽氏(イスラム思想研究者)Newsweek】

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【イスラム教国の中でもひときわ多発する、中央政府の統制力が弱いパキスタン】

「名誉殺人」が横行するイスラム教国にあっても、ひときわ多発(年間1000件、あるいは、それ以上)するのがパキスタンで、上記イランの事件と前後して下記の事件が報じられています。

 

****また「名誉殺人」。男性と動画に映ったパキスタンの10代少女2人が、家族によって殺害される****

パキスタンでは今でも、“名誉”殺人で女性たちが犠牲になっています

 

パキスタン北西部のワジリスタンで、男性と一緒に動画にうつっていた10代の少女2人が、家族に殺害された。

パキスタンの警察は、殺人と証拠を隠した容疑で少女の父と親戚を逮捕したと発表

家族や親戚による「名誉殺人」として捜査を進めている。

 

■動画がきっかけで殺された

事件は5月14日に、北ワジリスタンと南ワジリスタンの境にある村で起きた、とパキスタントゥデイは伝える。

警察の報告書によると、殺されたのは16歳と18歳の少女で、家族の名誉のためという理由で親戚に射殺され、その後に埋められたという。

 

 2人がうつっていた動画は、1年前に携帯電話で撮影されたものと考えられているが、最近になってソーシャルメディアに投稿されたという。

 

動画には男が3人の少女と一緒にいる様子がうつっており、そのうちの2人に男がキスした、とBBCは伝える。

3人目の少女は身を隠していると考えられおり、警察は彼女を守るために居場所を探している。

 

少女にキスした男と動画をアップロードした男の友人も逮捕したと警察は発表したが、殺人を実行した犯人はまだ捕まっていない。

 

■法律ができた後も続く、名誉殺人

名誉殺人は、家族に“不名誉”がもたらされたと主張する家族や親戚による殺人で、ほとんどの場合、被害者は女性だ。

 

パキスタンでは、2013年にダンスを踊っている動画見た親戚によって、15歳と16歳の少女が殺された

2016年には、SNSに自撮り写真を投稿したモデルの女性が、兄によって殺害された

 

この事件の後、名誉殺人を厳罰化する法案が採決された。しかしその後も名誉殺人は減っていない、とパキスタン人権委員会(HRCP)は訴える。

今回の事件の後、名誉殺人に厳しく対処するよう求める声明をHRCPは発表した。

 

「2016年に法律が採択されて以降、名誉殺人の件数と、それを社会が許容するケースが減ったという証拠は、ほとんどありません」

 

「女性の体と行動には名誉が伴う、という古くて死を招く考え方は、今でもパキスタン全体に広がっています」

 

「性差別を簡単に許容する家父長制、そして“名誉”殺人を正当化し、承認し、実行する家父長制を、どちらも決して許容するべきではありません」

 

HRCPはまた、今回の殺人事件をソーシャルメディアで批判している人たちに対して脅迫や揶揄が起きていることにも懸念を示しており、名誉殺人の支持者を容認しないよう国に強く求めている。【5月20日 安田 聡子氏 HUFFPOST】 

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“アフガニスタンと国境を接する北ワジリスタンおよび南ワジリスタンの部族地域は保守性が極めて強い。アムネスティ・インターナショナルによると、女性だけでの外出は認められないこともあり、女性がどれだけ家族に対して従順であるかによって一家の社会的立場が判定される。

 

2019年のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によれば、パキスタンでは年間推計1000件の名誉殺人事件が発生している。しかし公式統計はなく、報告されないままだったり、家族が自殺や自然死として届け出ることもある。”【5月19日 CNN】

 

パキスタンで多発する理由としては、“パキスタンは中央政府の統制力が弱く、地方においてはその土地の部族の力が伝統的に強いため、部族の慣習法が国の法律に先立つ状態となっているためである”【ウィキペディア】とも。

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イラン ともにアメリカの圧力を受ける中国と接近 国内的には批判も

2020-08-25 22:56:39 | イラン

(訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)【7月12日 YAHOO!ニュース】)

 

【経済が低迷する中で不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も】

アメリカと中国が対立を深めるなかで、アメリカはイラン敵視政策を続ける・・・となれば、ともにアメリカと対立するイランと中国が接近するというのは誰しも考えるところで、実際にそういた動きがみられます。

 

****中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか****

最近、イランと中国の接近に注目が集まっている。

 

報じられているイランと中国の協定案は、投資と安全保障に関する25年間の包括的戦略パートナーシップを語っている。

 

具体的には、中国はイランの空港、港湾、電気通信、運輸、石油・ガス田、インフラ、銀行に投資し、イランから25年にわたり、1日1000万バレルに達する需要を満たす大量の原油を値引いて受け取るという。

 

報じられているイランと中国の協定は、両国の経済にとって重要であるのみならず、地政学的にも大きなインパクトを持ちうる。

 

中国が今後25年にわたりイランから一日1000万バレルの需要を満たす石油を輸入することは、トランプ政権から最大限の圧力をかけられているイランにとってまさに生命線であり、中国にとっては経済の運営に不可欠な石油を確保することになる。

 

中国によるイランの港湾などインフラへの投資はイラン経済に活を入れることになるであろうし、中国は資機材などの輸出で経済の活性化にプラスとなる。兵器開発や情報共有など軍事面でも関係を強化するという。

 

中東の地政学への影響について、フィナンシャル・タイムズの国際問題編集長デイヴィッド・ガードナーによる8月3日付けの論説は、「サウジアラビア、エジプト、UAEとバーレーンは3年以上カタールを封鎖してきたが、ここにきて米国はサウジなどにカタールの封鎖を止めるよう言っている。それはイランと中国の同盟の見通しが強まったためである。

 

中国が、バーレーンの米国第5艦隊の基地、カタールのアルウデイドの中東最大の米空軍基地のすぐそばのイランのペルシャ湾岸への進出を考えているとしたら、アラブ諸国の対立は有害である」と解説している。

 

ただ、協定はまだ草案の段階である。イランは元来大国との付き合いに慎重であり、どこまで中国との関係に深入りするか分からない。

 

米大統領選挙の民主党候補に確定しているバイデンは、イラン核合意に復帰すると明言しており、バイデンが次期大統領になれば米国の対イラン制裁が再び解除され、イランの西側との経済関係が復活することが予想される。しかし、選挙結果は分からず、イランとしては双方の可能性にヘッジする必要がある。

 

イランの慎重さは2015年のイラン核合意の際にもみられる。核合意締結に際してのイランの第一の選択肢は西側との経済関係の再建であったと思われる。しかし、その一方で、イランは核合意の翌年の2016年に習近平を招聘し、中国との提携を模索している。

 

中国にとってイランとの関係強化は経済面のメリットにとどまらず、南西アジア、さらにはペルシャ湾への進出の足掛かりを得ることになる。

 

中国は一帯一路計画の西進を図っており、イランは重要なパートナーとなりうる。また、中国はイランのChahbahar港を支配下の置くかもしれないと報じられている。

 

Chahbahar港はインドが開発したものだが、米国の圧力で手放したものである。中国は、西アジアに足場を築くことは、この地域及びさらにはペルシャ湾での影響力行使に欠かせないと考えているようである。

 

ただ、イラン国内では、経済が低迷する中では不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も聞かれるとのことで、イラン特有の慎重さも見られるとのことである。イランの内閣は協定案を承認したが、まだ国会には提出されていないと報じられている。

 

イランと中国の協定は両国にとってのみならず、中東情勢、中国の外交に大きな影響を与えるものである。中国が乗り気であることは間違いないが、何事にも慎重なイランが最終的にどう対処するか注目される。【8月20日 WEDGE】

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11月の米大統領選挙の結果をみないと、うかつには動けない・・・というのは当然のことでしょう。

 

ただ、話はそういうところにとどまらず、そもそも中国と上記のような条件で連携することについて、イラン国内には強い不満もあるようです。

 

****米大統領選を前に中国と〝急接近〟するイランの真意****

「嘘つきに死を!」

イラン・ザリーフ外相に強烈なヤジが飛び、演説はたびたび中断した。7月5日に開かれた国会での外交方針説明での出来事だ。特に槍玉にあげられたのが中国との関係だった。

 

発端は、6月21日にロウハニ大統領が閣議で承認した、中国との間の25年間に及ぶ包括的な協力に関する計画だった。

 

この計画について国内外のメディアは、イランは中国から4000億ドル(約43兆円)相当の投資を受ける見返りとして、ペルシャ湾に浮かぶキーシュ島を25年間リースする、イラン産原油を割引価格で売却する、中国施設を警備する目的で中国人民解放軍5000人がイランに駐屯することを許可するなどが合意に含まれると報じたのだ。

 

「国民には何も知らされていない!」とアフマディネジャド前大統領が噛みつき、国民の間でも、「25年間も中国に隷属するのか?」、「新たな植民地政策である中国の一帯一路計画にイランが飲み込まれてしまう」といった懸念の声が上がった。

 

このようにイラン国民が反発する心の奥底には、西側へのあこがれとコンプレックス、その一方で自らもアジアに属しながら東方世界を下に見る傾向がある。

 

筆者はこれまでイラン・ペルシャ語専門の外交官として彼らと交流し、分析してきたが、彼らは、地域の大国として世界に認められ、西側諸国と対等に向き合いたいと強く渇望している。

 

一方、この中国との長期計画は、ハメネイ最高指導者と革命防衛隊からの支持を得ているようだ。ハメネイ師は早速国会に対して、政府に対する侮辱や敵対は許されないと釘を刺し、イランは今、国内で一体となる必要があると訴えた。

 

国難の時期にあるイラン

元来「アメリカはもとより欧州諸国は信用できない」というのはハメネイ師の常套句であり、またイランにおいて「LOOK EAST」(東方政策)は目新しいものではない。

 

2005年にEU3(英仏独)との核交渉が暗礁に乗り上げたときには、ラリジャニ国家安全保障最高評議会書記(当時の核交渉責任者)が交渉を有利に進める策として提唱し、中国との関係強化に動いている。

 

そして、イラン核合意(包括的共同作業計画、JCPOA)が行き詰まりを見せた18年10月、ハメネイ師は、西側諸国に留学経験のある知識層に対して「西ではなく、発展を遂げようとしている東を見るべき」と説き、その東方志向を端的に示している。

 

今や「経済マフィア」とも呼ばれる革命防衛隊にとっても、中国との接近によってもたらされる港湾、道路、鉄道などの国内インフラの整備は、自らの利益につながると考えているのだろう。

 

では、なぜ、今、このような長期計画が浮上したのか? 

 

それは、イランを取り巻く国際的な、そして国内の状況が厳しいことに起因する。米国との対立激化、米国によるソレイマニ司令官の暗殺、形骸化するイラン核合意、制裁で疲弊した経済に追い打ちをかける新型コロナウイルス「第二波」の襲来、イスラエルなどの関与が噂される国内での不審な爆発事案の続発など、イランは今、イスラム革命以降、最大の国難の時期にあると言っても過言ではない。【8月25日 WEDGE】

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アフマディネジャド前大統領・・・久しぶりにその名前を目にしました。ご健在のようです。

 

以前は、革命防衛隊はアフマディネジャド氏の権力基盤でもありましたが、「経済マフィア」とも呼ばれる革命防衛隊が賛成している中国接近をアフマディネジャド氏が激しく批判するということは、彼と革命防衛隊の関係は以前とは異なるということなのでしょう。

 

ハメネイ最高指導者と革命防衛隊からの支持を得ている政府方針が国会で激しいヤジにさらされる・・・というのは、ある意味で、宗教権威に基づく特殊な政治形態とイメージされるイラン政治ですが、 “欧米民主主義”に近い側面もあるとも思えます。

 

少なくとも、中国はもちろん、ロシアなどでも見られない光景ではないでしょうか。

 

それにしても、「新たな植民地政策である中国の一帯一路計画」という見方がイランにあるというのは、非常に興味深いことです。

 

【困窮する市民生活 当局は抗議を厳しく取り締まる】

イランがアメリカの制裁、原油価格低迷で、その市民生活が著しく困窮しているのは周知のところで、治安当局は反政府抗議活動を厳しく取り締まっているとも。

 

****悪化する経済危機に抗議するイラン市民を警察が厳しく取り締まる****

イラン警察は7月17日、イラン南部で経済的苦境への抗議で「規範破壊」のスローガンを唱える群衆の抗議活動を強制的に追い払ったと述べた。

 

呼びかけに続いて7月16日午後9時に、少数のベフバハン市民が経済状況への抗議活動で集まった」とモハマド・アジジ・ベフバハーン市警察部長は述べた。

 

当初警察は群衆と話し合おうとしたが、「しかし彼らは立ち去ることをしなかったばかりか、規範破壊とのスローガンを大声で唱え始めた」と部長は述べた。イラン当局が反体制派のスローガンとして使う常套の文句だ。

 

治安部隊は抗議活動を「断固とした態度」で追い払ったと彼は述べ、犠牲者や物的損傷を出すことなく「平穏」を取り戻したと付け加えた。

 

イランの革命防衛隊は、7月16日に無数の「扇動者」を逮捕して「テロ集団」も崩壊させたと述べた。

 

マシュハド市で逮捕された者たちは「反革命集団との繋がり」を持ち、街の抗議活動を呼びかけていたという。

シラーズ市では、「反体制破壊活動」を阻止すべく、政府が狂信的テロ集団と認定して国外追放したムジャヒディンハルク(MEK)のメンバーたちを拘束したと革命防衛隊は発表した。

 

信憑性は確認されていないがSNSには、フゼスタン州の都市の通りに何十名もの市民が集まっているらしい画像や動画が投稿された。(後略)【7月18日 ARAB NEWS】

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【深刻な新型コロナ感染】

新型コロナの感染も深刻で、国民の3割が感染したとも。

 

****イランで国民の3割、2500万人が感染か…抗体検査で推計****

イランのハッサン・ロハニ大統領は18日、新型コロナウイルスの国内感染者数が累計で2500万人に達したとする政府の推計結果を明らかにした。イラン国民約8000万人のうち、3割程度が感染していたことになる。

 

イラン政府の公式発表によると、19日現在で国内で実際に確認された累計の感染者数は27万人超となっている。

 

イラン保健省の報道官は19日、推計はウイルスの感染歴を調べる抗体検査に基づくものだと説明した。米国では6月、感染が深刻だったニューヨーク市の住民の抗体検査で、約2割の人に感染歴があったとする結果が出ているが、イランでは、これを上回っている可能性がある。

 

ロハニ師は18日の政府の会合で、保健省からの報告書に推計が盛り込まれていたと述べ、「さらに3000万〜3500万人が感染する可能性がある」との見方を示した。

 

「我々には、団結して感染の鎖を断ち切るほかに選択肢はない」とも述べ、都市封鎖などを行わずに経済を回していく方針を改めて示した。失業対策を行う財源がないことを念頭に置いているとみられる。

ロイター通信によると、トルコ政府は19日、イランへの航空機の乗り入れを止めたと明らかにした。イランの感染状況を見極める目的があるとみられる。【7月20日 読売】

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ただ、マスク着用やソーシャルディスタンスに関する市民の対応にも問題があるようです。

 

****イラン、7分ごとに1人が新型コロナで死亡=国営テレビ****

イラン国営テレビは、同国では新型コロナウイルスにより7分に1人が死亡していると報じ、適切なソーシャルディスタンス(社会的距離)が取られていないと警告した。

保健省によると、3日に確認された過去24時間の新型コロナによる死者は215人。

国営テレビは保健省のラリ報道官の発言として、これにより累計死者数は1万7405人となったとした。3日の感染者数は2598人、累計は31万2035人となった。

国営テレビは、マスクを付けず、距離を取らずにテヘランの繁華街を行き交う人々の様子を伝えた。

一部専門家は、新型コロナ死者に関する公式発表の正確性を疑問視している。4月には議会の研究所が、死者数が保健省発表の2倍に達している可能性を示唆するリポートを公表。公式統計は病院での死亡例と検査で陽性となった人のみに基づいていると指摘した。

英BBCは、匿名筋によるデータでは、死者数が公式発表の3倍に達している可能性があると報じた。保健当局はこの報道を否定、数字の操作はないとしている。

4月半ばに感染拡大抑制のための規制が緩和されてから死者数が増加しており、保健当局は規制が順守されなければふたたび対策を講じるとしている。

同国では先月から、公共の場と屋内でのマスク着用が義務化されている。【8月4日 ロイター】

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【核合意は米大統領選挙までは維持 トランプ政権は無理筋の圧力】

こうした厳しい状況のもと、イラン政府は核合意に関してはとりあえず米大統領選挙までは様子見の姿勢です。

 

****イラン、米大統領選まで核合意維持の意向=外交筋****

複数のイラン当局者は、イランが2015年に国際社会と合意した核開発活動の制約が継続されるかは、11月の米大統領選挙の結果次第だとの認識を示した。

米国は先週、安保理がイランに対する武器禁輸措置の延長を定めた決議案を否決したことを受け、対イラン制裁を復活させる「スナップバック」を使うと表明。

またポンペオ米国務長官が20日にニューヨークを訪問し、イランに対する国連制裁の全面復活を求める見通しとなっている。

ただ、3人のイラン当局者はロイターに対し、イラン政府は11月3日の米大統領選でバイデン前副大統領(民主党)が勝利すると見込み、核合意を存続させる方針を決定していると述べた。(中略)。

バイデン氏は、イランの合意順守を条件に、米国が2018年に離脱した核合意に復帰する意向を示している。この合意は自身が副大統領を務めたオバマ政権下で行われた。(後略)【8月19日 ロイター】

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一方のアメリカ・トランプ政権は再選戦略の一環で、対イラン圧力を強めていますが、国際的には強引な“無理筋”とも見られています。

 

****イラン制裁復活手続き開始 米孤立「権限なく無効」****

ポンペオ米国務長官は20日、対イラン国連制裁の全面復活(スナップバック)を求める書面を国連安全保障理事会に提出し、手続きを開始したと表明した。ニューヨークの国連本部で記者団に語った。

 

イラン核合意を承認した安保理決議に基づく手続きだが、核合意を離脱した米国には手続き開始の権限がなく無効だとする見方が有力だ。

 

米国は孤立しており、制裁復活を主張しても各国が従わない事態も想定される。【8月21日 共同】

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****EU、米の権利否定=対イラン国連制裁復活で****

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は20日、米国が対イラン国連制裁復活の手続きに着手したことを受けて声明を出し、「米国は一方的にイラン核合意を離脱しており、当事国だとは考えられない」と指摘し、米国に制裁を復活させる権利はないとの立場を示した。【8月21日 時事】

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権利があろうがなかろうが、力でアメリカの方針を国際社会に押し付けようというのがトラン政権の方針ですが・・・・困ったものです。

 

イスラエルとの国交正常化に舵を切った対岸のUAEとは緊張が高まっています。

 

****UAE船が漁船に発砲 「漁師2人死亡」とイラン放送****

国営イラン放送は20日、ペルシャ湾で17日に、アラブ首長国連邦(UAE)の沿岸警備当局の船が複数のイラン漁船に発砲し、漁師2人が死亡したと報じた。UAEとイスラエルの国交正常化合意を受け、イランとUAEの関係は冷却化している。

 

イラン外務省は、在イランUAE大使館幹部を呼んで抗議した。

イラン放送などによると、これとは別にイラン領海で17日、違法な航行をしたとしてイラン当局がUAE船を拿捕し、乗組員を拘束した事件も起きたという。【8月20日 共同】

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イラン国会議員選挙  体制を支える保守強硬派圧勝 しかし記録的低投票率 さらには新型肺炎の脅威

2020-02-24 22:11:37 | イラン

(イラン・テヘランで、マスクを着用して道路を渡る人々(2020年2月22日撮影)【2月23日 AFP】)

 

【「全国の投票率は42.57%、テヘランは約25%だった」】
21日に行われたイランの国会議員選挙は、選挙前から予想されていたように、保守強硬派が圧勝したようです。

穏健派のロウハニ政権が核合意を進めたものの、アメリカ・トランプ政権の合意離脱・制裁によって経済は回復せず、改善しない生活苦への市民の反発・失望が示された結果です。

そのほか、「護憲評議会」の事前審査で穏健派・改革派候補が大量失格とされたことから、穏健派・改革派支持層が選挙そのものへの期待をなくしていたことも大きく影響したと思われます。

そうした選挙への期待の喪失は、記録的な低投票率となっています。

****イラン国会選、強硬派が圧勝 投票率は1979年以降最低****
21日に投票が行われたイラン国会選挙は最高指導者ハメネイ師に近い強硬派が圧勝した。ただイラン内務省の23日の発表では、投票率は1979年のイスラム革命以降で最低を記録。ハメネイ師はイランの敵が新型コロナウイルスの脅威を誇張し、有権者の投票を抑制したと主張した。

核合意を巡る米国との対立や国民の不満が強まる中、今回の国会選の投票率は政権への支持を占う試金石とみられていた。

イランの内相は、テレビ放送された記者会見で「全国の投票率は42.57%、テヘランは約25%だった」と述べた。2016年の国会選の投票率は62%、12年は66%だった。

強硬派は首都テヘラン市で30議席を獲得。ガリバフ元テヘラン市長がトップ当選を果たした。革命防衛隊の元司令官でもあるガリバフ氏は、新国会で議長に就任するとの見方が強まっている。

投票日の21日に「宗教上の義務」だとして投票を呼び掛けていたハメネイ師は23日、イランの敵が新型コロナウイルスに関する「ネガティブな宣伝工作」を仕掛けたことが投票率の低さにつながったと非難した。

イランでは投票の2日前に初の新型ウイルス感染者が確認された。これまでにテヘランを含む4都市で43人の感染が確認されている。また8人が死亡しており、震源地の中国以外では死者数が最多となっている。

イラン国会は外交や核政策に大きな影響力を持たないが、強硬派が圧勝したことで同派が来年の大統領選に向け弾みをつける可能性があるほか、外交政策の強硬化につながる可能性もある。【2月24日 ロイター】
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期待・関心の低さについては、以下のようにも。

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(中略)ハメネイ師は21日の投票後、「投票は宗教的義務だ」と呼びかけており、保守強硬派の多くは投票所に足を運ぶとみられている。

だが、前回選挙でロハニ派勝利の原動力となった若者や改革派・保守穏健派は、しらけムードだ。前回選挙では、テヘラン中心部の投票所の外には長い列ができたが、21日午前には投票を待つ人の姿はまばらだった。
 
米国の制裁で低迷する経済や、ガソリンを予告なしに最大3倍に値上げしたロハニ政権に不満の矛先が向かっている。
 
昨年11月の反政府デモの中心地となったテヘラン近郊のイスラムシャー。デモは、ガソリンの値上げをきっかけとして始まり、銀行などが焼き打ちにあうなどした。
 
「候補者たちの名前や顔を知らない。投票に行く気はないし、あれだけ激しいデモをしても何も変わらなかったのだから、選挙ではなにも変化はない」。タクシー運転手のサジャッドさん(36)は、焼け焦げたままの銀行の前でそう吐き捨てた。
 
テヘランの公務員ニコーさん(45)も「経済も悪くなったし、4年前に期待したことは何も実現されなかった。だから、投票はしない」。改革派の集会で手伝いをしていたアミールさん(33)すらも「投票には行かない。どうせ保守強硬派が勝つ」と肩を落とした。(後略)【2月23日 朝日】
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穏健派・改革派への締め付けに関しては、以下のようにも。

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テヘラン市内に掲示された候補者のポスターなどはほとんどが保守強硬派。改革派・保守穏健派のポスターは探さなければなかなか見つからないという状況だった。

ただ、そもそも、米国の制裁の影響で、紙の価格が昨年の5倍以上に跳ね上がり、ポスターの総数自体も少なかった。
 
選挙運動の関係者からは「大型のポスターは作製できず、チラシも半分の数にせざるを得なかった」と恨み節も聞こえてきた。各集会の盛り上がりに差異はなかったものの、その開催頻度は圧倒的に保守強硬派が多かった。ロハニ師と路線対立する保守強硬派が優位で、改革派などに逆風が吹いているのを肌で感じた。
 
今回の選挙には約1万6千人が立候補登録した。だが、イスラム教に忠実かどうかなどの基準で審査する「護憲評議会」が立候補を認めたのは7148人。7千人以上が失格し、そのほとんどがロハニ師を支持する人たちだったとされる。 

ロハニ師は「一つの政治勢力だけでなく、選挙では競争があるべきだ」と批判したが、最高指導者ハメネイ師の影響下にある護憲評議会は「政治的意図はない」と一蹴した。
 
イランでは、選挙区の定数と同数の候補者の名前を書いて投票できる。つまり、例えば定数30の首都テヘランでは、候補者から30人を選んで投票できる。テヘランの各選挙陣営は、同じ政治勢力の30人のリストを作って選挙運動をするのが通例だ。だが、テヘランだけでも1300人以上が立候補しており、有権者は名前や顔もわからずにリストを見ながら投票している。
 
16年の前回の国会議員選では前年にイランが米欧と結んだ核合意を追い風に、ロハニ師を支持する改革派・保守穏健派が躍進。テヘランで全30議席を独占した。国会全体でも最大勢力となった。

だが今回は、立候補登録したものの失格した現職国会議員は75人に上り、多くが改革派・保守穏健派だったとみられる。有力候補者が失格になるなか、「30人集めてリストをつくれただけでも幸運だった」(選対関係者)という声ももれた。(後略)【同上】
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体制を積極支持する保守強硬派は圧勝しましたが、投票率が50%を割り込み、1979年の革命以来最低を記録したことで、高投票率で革命体制への国民の信任を内外に示したかった指導部のもくろみは外れた形にも。

指導部は新型コロナウイルス感染拡大や敵国の情報戦が投票率を下げたと主張、打撃を最小限に抑えようとしています。

今後については、保守強硬派圧勝でアメリカとの対立が更に先鋭化するとの指摘が多くなされていますが、市民不満が高まる経済状況では、体制側・保守強硬派としても、いたずらにアメリカとの対立にのめり込むのではなく、経済重視のスタンスは必要になるとも考えられます。

【“国内で12人が死亡し、47人が感染” もっと感染者は多いのでは? 聖地コムの封鎖は?】
選挙結果は予想された範囲内のものでしたが、むしろ注目されるのは、体制側が低投票率の要因ともしている新型コロナウイルス肺炎のイラン国内での急拡大です。

新型肺炎は中東全域に拡散しつつありますが、その震源地的な様相を呈しているのがイラン。
中東各国はイランとの国境を封鎖するなどの対応に乗り出しています。

****新型ウイルス、中東に広がる警戒感 イランの死者増加で国境封鎖相次ぐ***
イラン当局は23日、新型コロナウイルス感染による国内の死者が8人になったと発表した。

中国国外の死者数としては最多で、周辺国は自国への感染拡大を阻止するため、対イラン国境を封鎖するなど緊急措置を相次いで講じた。
 
中東での新型ウイルス流行懸念が高まる中、イランと国境を接するトルコ、パキスタン、アフガニスタン、アルメニアの4か国は23日、陸路の国境を封鎖すると発表。空路でのイランからの入国に制限を課す動きも相次いだ。
 
イラクとクウェートは、既にイランとの行き来を禁じている。
 
イラン当局は「予防措置」として、国内14州で学校や大学などの教育機関を閉鎖。展覧会やコンサート、映画上映も今後1週間は中止された。
 
中東では、レバノンでもイランのコムから帰国したレバノン人女性が新型ウイルスに感染していることが確認された。レバノンでの感染確認は初めて。

また、イスラエルは23日、感染者の韓国人観光客と接触のあった生徒約200人に対し、自宅待機による隔離を指示した。 【2月24日 AFP】AFPBB News
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感染はすでにイラン周辺各国に広がっています。

****イラン周辺国で感染=クウェート、バーレーンなど―新型肺炎****
新型肺炎による死者が増加しているイランの周辺国でも24日、感染者が相次いだ。国営クウェート通信(KUNA)によると、クウェートで3人の感染が判明。

バーレーンの国営通信もバーレーン人1人の感染が確認されたと伝えた。いずれもイランを訪れていた。【2月24日 時事】 
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****アフガニスタンで初の新型コロナ感染 イランとの国境****
アフガニスタンの保健省は24日、イランと国境を接する西部ヘラート州のアフガニスタン人男性(35)から新型コロナウイルスを検出したと発表した。アフガニスタンで感染が確認されたのは初めて。
 
保健省は23日、男性を含めたヘラート在住の3人に感染の疑いがあると発表し、ウイルス検査を進めていた。男性以外の2人からは、ウイルスが検出されなかったという。
 
また、アフガニスタン政府は23日からイランとの人の往来を当面禁止。イランのほか東隣のパキスタンからも卵や鶏などの輸入を止めるなど、地域経済に影響が及んでいる。【2月24日 朝日】
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イラン国内では死者数は更に増えて12人へ。

****新型ウイルス感染、イランで新たに4人死亡 死者12人に****
イランで、新型コロナウイルスの感染によって新たに4人が死亡した。同国の議会関係者が24日、明らかにした。同国内でのウイルス感染による死者数はこれで12人となった。
 
半国営イラン学生通信が伝えたところによると、国会で行われた非公開審議の後、保健相が国内で12人が死亡し、47人が感染したと発表したという。 【2月24日 AFP】
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発症者・死亡者数で見ると、宗教的な聖地で、体制を支える保守強硬派の牙城でもありコムでの犠牲者が多くなっています。

****イラン、新型ウイルスの死者5人に(23日時点) 学校や文化施設の閉鎖指示****
イランで22日、新型コロナウイルス感染による死者が東アジア以外で最多の5人となった。これを受けて当局は、学校や文化施設の閉鎖を指示した。
 
イラン初の感染者は19日に確認され、当局は首都テヘラン南部にあるイスラム教シーア派の聖地コムで高齢者2人が死亡したと発表した。中東で新型コロナウイルス感染による死者が確認されたのはこれが初めて。
 
保健省報道官は22日、新たに10人の感染が確認され、うち1人が死亡したと国営テレビに発表した。8人はコム、2人はテヘランの病院に入院したが、死者がどちらの病院で出たかは明らかにしなかった。
 
これで、イランで確認された感染者数は計28人となった。
 
国営テレビは、「予防措置」として、当局がテヘランやコムなど全国14州・都市の学校や大学などの教育施設を23日から閉鎖するよう指示したと報じた。
 
政府はまた、感染拡大を防ぐため「全国のホールでのアートや映画関連のイベントの開催が、週末まで中止となった」と発表した。
 
イランの人々は感染を避けようとマスクの購入を急いでいる。イランのインターネット通販大手ディジカラは21日、36時間以内でマスク7万5000枚が売れたと明かした。需要が闇市場での価格高騰を招くことへの懸念から、同社のマスク販売における手数料は請求していないという。 【2月23日 AFP】
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素人的発想ですが、疑問に思われるのは、“国内で12人が死亡し、47人が感染”という死亡者比率の高さです。

イランの医療水準がそんなに低いとは思われませんので、死亡者が12人でたということは、感染者数は47人ではなく、桁が一つ、あるいは二つ違うのでは・・・・という疑問が。

周辺国への拡散状況からも、イラン国内での感染が発表数字より相当に悪いのでは・・・とも推測されます。

当局が数字を隠蔽しているのか、あるいは、感染者の把握ができていないのか。

もし感染の震源が聖地コムだとすると、何事につけ優遇されている聖地、宗教関係者が集中する宗教的中心都市、保守強硬派の牙城ですから、武漢のような当該都市に多大な犠牲を強いる封じ込め対策がとれるのか? 聖地コムで宗教施設閉鎖ができるのか? という問題も出てくるかも。

閉鎖すべきは大学よりモスクでしょう。
モスクでの集団礼拝をやめないと、感染は一気に拡大するでしょう。(すでに、そういう状況が発生しているのでは・・・とも思えます) 

でも保守強硬派牙城・聖地コムでモスクを閉鎖できるのか? ロウハニ大統領では難しいでしょう。 宗教権威ハメネイ師の指導力次第でしょう。

また、周辺国の国境封鎖などは、苦境にあえぐイラン経済への更なる負担にもなります。

体制にとっては、選挙圧勝を喜んでいる場合ではありません。

低投票率に示される民意をくみ取ると同時に、新型肺炎という異質の脅威に緊急に対応する必要があります。
対策が遅れて感染がさらに深刻化すれば、もともと経済的困窮でくすぶっている不満が一気に表面化する危険もあります。

 

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イラン  21日に国会議員選挙 核合意の経緯は穏健派に逆風 国民の願いは経済改善

2020-02-17 23:18:42 | イラン

(投票風景 (保守強硬派、穏健派の推薦リストである)ビラのかわりにスマートフォンの画面を見る人も=2012年2月26日 出典: 神田大介撮影【2017年10月17日 神田大介氏 withnews】)

【「選挙は、宗教的民主主義の具現」】
今週金曜日の21日、イランでは国会議員選挙が行われます。

下記は、イラン系メディア「ParsToday」の関連記事です。

****視点;イラン国会議員選挙 - 様々な政治趣向や政党の存在****
今月21日、第11期イラン国会議員選挙及び最高指導者の選出を担う専門家会議の第5期第1回中間選挙が行われます。 

選挙は、宗教的民主主義の具現であり、同時に国民が国の運命を決定付ける場に参加することを意味します。

現在、選挙に向けて116の政党が正式に承認されています。これらの政党には、原理主義、改革派、無所属・中道派という3つの潮流が存在します。各選挙組織は、選挙の舞台にあらゆる趣向を導入すべく奔走しています。
 
(中略)いずれにせよ、4年に一度の割合で実施される国会選挙において、様々な階層や政治的派閥に属する様々な背景を持つ人々が国会での議席を得るために競い合い、有権者によって選択の対象となるわけです。中でも過去に際立った成功を収めた人物が選ばれる確立が高くなります。
 
今回、特に大きく報道されているのは、過去3期にわたり国会議長を務めてきたラーリージャーニー氏が不出馬を表明していることです。これは原理主義や改革派の間で大きな反響を呼びました。

ネット空間やメディアの予測では、ラーリージャーニー議長の国会選挙の不出馬の理由は、同議長がイラン大統領選挙出馬に向けて計画を立てているとする可能性が指摘されています。【2月15日 ParsToday】
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最後に出てくるラーリージャーニー議長・・・日本メディアでは「ラリジャニ議長」と表記されることが多い保守強硬派の中心人物です。アフマディネジャド元大統領のような庶民の出ではなく家柄も名家で(宗教権威に支えられたイラン保守派政界ではこういう「権威」が重要視されます)、以前から注目されていた政治家です。いよいよ大統領選挙に・・・ということでしょうか。

116の政党が承認されているとのことですが、日本や欧米で普通に見られる大政党は存在しないようです。しかも、
今回選挙の情報はしりませんが、4年前の前回選挙では290議席に1万2000人あまりが立候補を届け出ました。

大政党もなく、1万人を超す立候補者・・・どうやって有権者は選択するのか?(前回選挙では、人口約850万人の首都テヘランは定数が30に対し、最終的な候補者数が1111人)

後出記事でも説明されていますが、保守派、穏健派などの陣営がそれぞれ推薦リストを用意し、有権者はそのリスト(自分が気にった方)を見ながら投票する・・・というのが一般的なようです。

【「アメリカに騙された」・・・核合意を推進したロウハニ・穏健派には逆風】
最近のイラン社会では、ガソリン価格引き上げに伴う抗議デモが広がり、一部は体制批判に及び治安部隊との衝突で多くの犠牲者がでる事態に。

その後、米軍による革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害で、一転、反米的体制への求心力が高まったように見えました。

しかし、革命防衛隊によるウクライナ航空機撃墜を隠蔽していたとして、再び体制批判が表面化

・・・といったように、目まぐるしい動きがありますが、国民の間では「穏健派の言うように国際社会に譲歩して核合意を結んだのに、一向に制裁は解除されず暮らしはよくならない。アメリカに騙された」という不満が基本にあるように思われます。

「アメリカに騙された」という思いは、核合意を推進したロウハニ大統領など穏健派への批判となります。

****イラン大統領 革命記念日演説 保守強硬派の国民から罵声も ****
アメリカとイランの対立が先鋭化する中、イランのロウハニ大統領は11日イスラム革命の記念日に合わせた演説を行いアメリカとの対決姿勢を強調しました。

しかしこれまで欧米との対話路線を推進してきたことに保守強硬派の国民から罵声が浴びせられ、国内での立場が厳しさを増しています。
 
イランのロウハニ大統領は11日、現在の政治体制が樹立されたイスラム革命から41年となるのに合わせ、国民向けの演説を行い「アメリカはここ数年、イラン国民にひどい圧力をかけている。イランを壊し、降伏させようとしている」と述べ、経済制裁の強化や先月のソレイマニ司令官殺害などで圧力を強めるトランプ政権を非難しました。

そのうえで、「政府、国民、軍、国をあげてイランの国旗と最高指導者のもとで抵抗を続ける」と述べて、アメリカと対決する姿勢を強調しました。

しかし会場からは、保守強硬派の国民らが「妥協した者に死を」とか「恥知らず」といった罵声を浴びせかけ、アメリカの離脱で機能不全に陥っている核合意を結ぶなど、欧米との対話路線を掲げてきたロウハニ大統領を厳しく非難する一幕もみられました。

イランではアメリカが制裁を強化する中で経済が厳しさを増し、国内では政府を非難するデモも頻発していて、ロウハニ大統領にとって厳しい政権運営が続いています。【2月12日 NHK】
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そうした流れを受けて、今回選挙では穏健派の退潮、保守強硬派の台頭を予想するのが一般的な見方となっています。

****イラン国会選挙、強硬派台頭か 21日投票、穏健派は退潮****
米国と敵対し、核問題を巡り欧州との関係も冷え込んでいるイランの国会選挙(一院制、定数290、任期4年)の投票が21日に迫った。国際協調に重きを置くロウハニ政権を支えてきた改革派や穏健派の多数が立候補の事前審査で失格となり、反米の保守強硬派が優勢との見方が広がっている。
 
米イラン間では1月、米軍による革命防衛隊の有力司令官殺害やイランの報復攻撃で、武力衝突の直前まで危機が高まった。選挙で強硬派が台頭すれば、イランが米国との対決姿勢をより強める恐れがある。
 
イランでは最高指導者が重要政策で最終決定権を持ち、大統領や国会は従属的な立場だ。【2月17日 共同】
*******************

“改革派や穏健派の多数が立候補の事前審査で失格”・・・毎回、選挙のたびに問題となるところです。
日本や欧米とも似通った選挙という民主的仕組みがあるものの、最高指導者を頂点とする宗教権威によって大きく制約されている、イラン民主主義の限界でもあります。

審査は、最高指導者が直接・間接に任命した『護憲評議会』という組織が行います。
下記記事は、前回選挙に関するもの。

*******************
国(の一機関)が事前審査をします。基準は、イラン国籍がある、30歳以上75歳以下、選挙区で悪い評判がない、イスラム法学者の統治に忠誠を誓うこと、など。

審査は密室で行われ、失格の通知にも理由は一切説明されないため、国に都合の悪い候補者が落とされているのではないか、という批判が絶えません。

この選挙では、届け出の締め切りから3週間後、約7300人が失格になったと報じられました。全体の6割です。【2017年10月17日 神田大介氏 withnews】

【「今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願い」】
そうした状況でも前回選挙では国民の経済改善への期待を担って穏健派・改革派が勝利しましたが、今回は・・・

****激動のイラン 国民の選択は****
(中略)
現在のイラン情勢は

西海
「スタジオには、現代のイラン政治が専門の、日本エネルギー経済研究所・研究理事の坂梨祥(さかなし・さち)さんです。
今年(2020年)に入り、非常に緊迫したイラン情勢ですが、現地はどうなっているのでしょうか。」

日本エネルギー経済研究所 研究理事 坂梨祥さん
「イランの情勢は、とても混とんとしています。
年明けにアメリカ軍がイランの司令官を殺害して、イランでは壮大な葬儀が行われました。
その後、イランがアメリカに報復攻撃を行って、一件落着と思われたのですが、緊張が極度に高まる中でウクライナ民間航空機の誤射が起こり、体制がそれを隠そうとしていたことに批判が広がりました。あまりにもたくさんのことが一度に起こって、整理が追いつかない状況にあります。」

西海
「司令官の殺害後は体制への求心力が非常に高まったのですが、その後の民間機の誤射が分かった後は、一部で最高指導者を批判するようなデモも起きました。国民全体では、どちらを向いているのでしょうか?」

坂梨祥さん
「誤射自体は、非常に緊張が高まる中で国民を守ろうとして起こったミスなので、体制への反発は、むしろそれを隠していたことに対するものだったわけです。体制が誤りを認めたので、このまま抗議行動が広がることにはならないと思います。」

議会選挙の情勢は
西海
「来月、イランで議会選挙が行われます。まず、現在の議席数はどうなっているのでしょうか。」

坂梨祥さん
「ロウハニ政権を支持する保守穏健派と改革派の連合が多数派、対する保守強硬派が少数派です。
ロウハニ大統領は対話路線を掲げていて、保守強硬派は、より欧米との対決姿勢を前面に打ち出す人たちです。」

西海
「この内訳は、日本の議会だとはっきりするのですが、イランでは分からないものなのでしょうか?」

坂梨祥さん
「現在、イランには大きな政党がなく、議会の説明が非常に難しい状況です。」

西海
「政党がないと、どのように投票するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「政党単位で戦われるわけではないイランの選挙では、各グループが、リストを作って選挙戦を戦っています。
前回の選挙では、ロウハニ大統領の対話路線を支持する人たちが水色のリスト、保守強硬派と呼ばれる人たちが黄色のリストを作りました。人々はこれを投票所に持ち込んで、リストに書かれている名前を書き写して1票を投じます。」

西海
「かなり独特なやりかたですけど、前回の2016年の選挙では、ロウハニ大統領を支持する勢力が勝ちましたね。」

坂梨祥さん
「前回の選挙は核合意が成立して、経済の復興に対する期待が高まったタイミングで行われました。選挙の半年前には核合意が成立して、制裁解除があった翌月に選挙が行われました。なので、核合意を成立させた立て役者であったロウハニ大統領を支持しようという人たちが選挙に勝ったということです。しかし、今回は様子が違うかもしれません。」(中略)

「今回の選挙は、前回とは真逆の状況にあります。2018年5月、トランプ大統領が核合意を離脱して、その後どんどん制裁が強化されているので、イラン経済が窮地に陥っているなかで選挙が行われます。

そのため、保守強硬派がもともと言っていた『アメリカという国を信じるべきじゃなかった』『アメリカを信じたのがそもそも間違いだった』という意見が力を持ってしまう可能性があります。

それを示すかのように、今回の選挙では、ロウハニ大統領を支持する人たちが資格審査で失格になっていると報じられています。」(中略)

西海
「今の最高指導者はハメネイ師ですけど、『アメリカとの交渉はしないんだ』という強い姿勢を示しています。
こういう姿勢は、選挙にも影響するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「ハメネイ師はこれまで30年以上にわたって最高指導者を務めていますが、この30年の間に、実は、イランがアメリカに歩み寄ったことも何回かあったんです。

でも、イランから見るとアメリカはそのたびに、イランに結局、冷たくしてきたという認識が、体制の上層部、特に最高指導者にはあります。

たとえば同時多発テロ事件のあと、アメリカがアフガニスタンを空爆したわけですが、それに際して、イランは情報を提供したりしてアメリカに協力していました。

でも、その直後に、アメリカはイランのことを『悪の枢軸』と呼び、『イランはアメリカが倒すべき体制である』としました。

もうひとつの例としては、過激派組織IS=イスラミックステートとの戦いを挙げることができます。
アメリカが年明けに殺害したソレイマニ司令官は、イラクでISと戦っていました。

アメリカもイラクでISと戦っていたので、ISとの戦いでは、アメリカとイランは同じ側に立っていたんです。

それにもかかわらず、ISの脅威が下火になったところで、アメリカはあたかも『用済み』であるかのように、ソレイマニ司令官を殺害したわけです。

そのようなことが繰り返されてきて、ハメネイ師の目には、アメリカはイランが歩み寄っても必ず裏切る国だと、これまでもそうだったと考えているわけです。

ですから、今のイランの体制では、『アメリカを信じるべきではなかった』という考えが優勢になっていて、ロウハニ大統領の『アメリカとも話をしなければ』という主張は通りにくくなっている可能性があるんです。」

国民の思いは
西海
「体制がそちらの方向に向いているということですね。一方の国民は、本音の部分ではどうなのでしょうか。」

坂梨祥さん
「イランには、もちろんいろいろな人がいます。でも多くのイラン人が、アメリカの文化に憧れを抱いています。iPhoneを使っている人も多いですし、コカ・コーラもみんな大好きです。多くの人が、政治は政治、自分が好きなものは好き、と思っていると思います。

ただ、アメリカの経済制裁の影響で貿易が非常に困難になり、外国企業が次々とイランから撤退したことで、失業率が上がったり、あるいは大学を卒業しても仕事に就けない人も増えています。

あと、制裁の影響で、物の値段もどんどん上がっていて、去年(2019年)の11月にはガソリン価格が非常に値上がりし、大規模なデモにまで発展しています。

今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願いだと思います。」

今回の選挙は?
西海
「そうすると、この希望を託す選挙は、どのようになるのでしょうか?」

坂梨祥さん
「今のイランの国民は、イランに対して、『最大限の制裁』という圧力をかけるアメリカと、そのような圧力には決して屈しないとする体制のはざまで板挟みになってしまっていると言えます。

ただ、ロウハニ政権が掲げてきた対話路線は、トランプ大統領が核合意を破棄したことによって行き詰まってしまいましたし、かといって、アメリカの圧力にだけは負けないと言っているような人たちに、経済を改善させる具体的なアイデアがあるようにも見えません。

つまり、現在国民としては、選挙とはいっても、『誰に経済状況の改善の望みを託せばいいのか?』という状況に置かれてしまっていると思います。

ただ、イランというのは、実は驚きに満ちた国なんです。これまでの選挙でも繰り返し、投票の数日前というタイミングになって、選挙が突然盛り上がって、結果的に体制や、あるいは世界を驚かすような結果が生み出されてきました。

今回の選挙でも、どのようなドラマが生まれるか、まだまだ目が離せないと思います。」【1月27日 NHK】
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前出のように、核合意をめぐる経緯は穏健派には逆風となっていますが、「今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願い」という点で、保守強硬派に託してどうなるのか?という疑問も。

今月21日、イラン国民の審判は?

 

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