孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  トランプ政権の対決姿勢のおかげで台頭する反米・保守強硬派 抑圧される市民の自由

2019-03-08 23:00:09 | イラン

(イラン・テヘランで女性のヒジャブ取り締まりで群衆ともめる宗教警察(多分、黒ずくめの女性)【2月20日 CNN】)

【自由を求める市民 アメリカ文化への憧れも】
いつも書いているように、イランは宗教・政治世界で力を有する保守強硬派と、自由な生活を求める一般市民の思いがせめぎあう関係にあり、そうした微妙なバランスの上に穏健派のロウハニ政権は成り立っています。

そんなイランで興味深い記事が。一般市民が宗教警察の取り締まりを実力で阻止したというものです。

****ベール着用違反の女性ら、連行を群衆が阻止 イラン****
イランの首都テヘラン市内で先週、イスラム教のベール「ヒジャブ」を正しく着用していないとして女性2人を連行しようとした宗教警察の車両が、通行人らに襲撃される騒ぎがあった。

騒ぎは15日、保守強硬派のアフマディネジャド前大統領の自宅があるテヘラン東部ナルマク地区で起きた。国営イラン通信(IRNA)によると、群衆は警察車両のドア1枚を破壊し、警察側が空中に威嚇射撃する場面もあった。女性らが車両から解放されると、群衆は解散したという。

現場の映像には、クラクションを鳴らして抗議する市民らの姿や、車両を取り囲む集団の様子などが映っている。

イランでは1979年の革命以来、女性のヒジャブ着用が義務付けられてきたが、最近はソーシャルメディアなどを通し、これに抵抗する運動も広がっている。

頭全体を覆うヒジャブの代わりに短いスカーフだけで外出したり、スキー場で帽子姿になったりする女性も多く、着用の規則に違反した場合も逮捕ではなく15ドル(約1700円)程度の罰金で済むなど、戒律の適用は緩み始めていることがうかがえる。【2月20日 CNN】
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アメリカ・トラン政権は、核合意から離脱し、イスラエルやサウジアラビアなどとともにイラン包囲網を形成して、イランを徹底的に叩く姿勢を続けていますが、上記のように自由な生活を望む多くの市民は、むしろアメリカ文化には憧れ的なものを抱いており、「アメリカに死を!」といったスローガンとは異なる側面も見られます。

****憧れつつ「米国に死を」叫ぶ イランの複雑な対米感情****
かつて米国のブッシュ(子)大統領から、金正日政権の北朝鮮、フセイン政権のイラクとともに「悪の枢軸」と非難されたイラン。

最近でも、トランプ米大統領がイランを「世界随一のテロ支援国家」と罵倒すれば、イランも最高指導者ハメネイ師が「悪と暴力の権化」とやり返す。

ペルシャ湾に面した産油国イランと米国の関係はどうして、ここまでもつれたのか。また、イランの人々は米国にどんな感情を抱いているのか。
 
イラン政府にとって米国は、体制転換を狙う「敵国」との位置づけだ。それには幾つかの理由があり、敵視の根は長く、深い。
 
イランは1953年、当時のモサデク政権が、米中央情報局(CIA)の関与した軍事クーデターで転覆させられた過去を持つ。また現在のイスラム体制は、79年に親米のパーレビ王朝を打倒した革命で成立している。革命翌年の80年に始まったイラン・イラク戦争では、米国にイラク支援に回られた経験もある。
 
さらに、自国の核開発疑惑をめぐり、2011年以降、国連安全保障理事会だけでなく、米国独自の厳しい制裁を科せられ、経済への打撃が続いている。オバマ政権時代の16年には、核合意に基づいて制裁が一部解除されたが、昨年8月以降は、トランプ政権によって再び制裁が復活した。
 
一方、米国にとって、イランに対する敵視政策が決定的になったのが、79年11月に起きた在テヘラン米国大使館占拠人質事件だ。解決までに444日かかり、米政権と米国民に強くイランへの嫌悪感を刻み込んだ。
 
これに加え、米国内ではイランと対立するイスラエルロビーや、親イスラエルが多いキリスト教福音派の存在が大きく、米国の対イラン政策に影響を及ぼしている。

政治家にとって、イランへの敵視が、選挙の票や資金集めに役立つ構図ができている。特にトランプ氏は福音派を最大の支持母体にしており、長女イバンカ氏の夫で敬虔(けいけん)なユダヤ教徒のクシュナー氏が大統領上級顧問を務めるなど、政権内に親イスラエルの考えをもつ幹部が多い。
 
トランプ政権の誕生後、イランの首都テヘランなどで行われる反米デモは激しさを増している。ただ、参加者は国民の一部で、イラン人の米国観は複雑だ。
 
テヘランではiPhoneなどの米国製品が人気を集めるほか、米国の有名なハンバーガーショップをまねたとみられる店舗などもあふれかえる。

市内で売られる海賊版やネットのダウンロードで、米国の音楽やハリウッド映画を楽しむイラン人も珍しくない。米政府やトランプ氏は嫌いでも、米文化への憧れを持つ人が多いのが実情だ。
 
あるイラン人の30代女性は「リーバイスのジーンズにナイキの靴をはき、左手にiPhoneを持ちながら、右の拳を突き出して『米国に死を』と叫ぶ。これがイラン人だ」と話す。
 
最近でも、オバマ前大統領の妻ミシェル氏が書いた回想録「Becoming」のペルシャ語版が、イランでベストセラーになっている。イランメディアによると、1月15日にペルシャ語の翻訳版が発売された後、すでに16回増刷され、「記録破りのペース」(イランのメヘル通信)という。(中略)
 
イラン人ジャーナリストも「オバマ氏は大統領だった時期に、(穏健派とされる現在の)ロハニ大統領と電話会談した。イランでは当時、米国との無意味な争いに終止符が打たれるのではないかとの希望が広がった。多くのイラン人の心にその記憶が今も残っている」と言う。
 
ただ、トランプ政権のイラン敵視政策が続くなか、ロハニ師も、イスラム体制の堅持を掲げる最高指導者ハメネイ師ら、国内の保守強硬派に配慮せざるを得ない状況だ。

イランの国是である「反米」を唱える政府の主張と、米国文化を受け入れている国民の意識は、どこまで重なるのか。私たちは、目をこらしていく必要がある。【2月13日 朝日】
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【制裁で困窮する一般市民】
一方、経済的にはアメリカの制裁はイラン経済・市民生活を確実に締め上げています。

****イラン観光地、悲鳴=制裁や通貨暴落で「収入激減」****
トランプ米政権が「前例のない経済的圧力」として制裁を復活させ締め付けを強めているイランでは、主要産業の観光が大打撃を受けている。通貨リアル暴落やインフレ激化でイラン人の購買力が低下し、業者の収入も激減。観光で生計を立てる人々は悲鳴を上げている。
 
サファビー朝の都として繁栄を極め、かつては「世界の半分がここにある」と称されたイラン中部の観光地イスファハン。2月上旬、中心部にある世界遺産のイマーム広場は観光客でにぎわっていた。ただ、広場を囲むように土産物店が並ぶバザールの店主らの表情はさえない。
 
「2年前に比べて客が激減した。生活費は4倍に上がったのに、収入は3分の1だ」。バザールにある宝石店のファルハドさん(35)は肩を落とした。ペルシャ特有の繊細な柄の雑貨を売るアリさん(30)も「雑貨は必需品ではないので、家計が苦しければ買ってもらえない。通貨の価値が下がって商品の価格を倍にしたが、客には申し訳ない気持ちでいっぱいだ」と嘆く。
 
国際社会との融和を志向したロウハニ政権の下、一時は制裁も解除されて経済が上向き、イスファハンでも欧米の観光客が増えた。

ただ、イランを敵視するトランプ政権発足で事態は一変。政治的緊張も高まったせいか、今ではその姿はまばらだ。

衣料品店で働くモハンマドさん(20)は「来るのはイランより貧しい国の人ばかりだ」と、欧米に代わって近年増えているイラクやシリア、アフガニスタンなどからの訪問者をやゆする。
 
国内に23の世界遺産を有するイランは、経済活性化の一つとして2025年までに年間2000万人の外国人旅行者誘致を目指すが、その前途は多難だ。(後略)【2月16日 時事】
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イランの観光資源は素晴らしいものがあり、本来はもっと多くの観光客に楽しんでもらえるものなのですが。

イランの経済が制裁で締めあげられているといっても、保守強硬派の革命防衛隊などが手広く独占的に行っている事業は、制裁で自由な経済活動が抑制されるほど、逆にうま味が増すところがあり、アメリカの経済制裁は反米・保守派と利害が一致している面があります。

【トランプ政権の対決姿勢で、勢いを増すイラン保守強硬派 揺らぐ穏健派ロウハニ政権】
アメリカの制裁で市民生活が困窮すれば、当然に核合意を主導し、制裁解除・経済の回復を語っていた穏健派ロウハニ政権への視線は厳しいものに変わります。

政界にあっては、核合意が進められていたころはやや身を潜めた感もあった保守強硬派が政権批判を強め、穏健派ロウハニ政権の求心力は揺らいでいます。

核合意を主導したザリフ外相の辞任騒動は、そうしたロウハニ政権の苦境を象徴する出来事でした。

****イラン保守強硬派、圧力強める 穏健派の外相、辞意表明 核合意の立役者、大統領は慰留示唆****
イランのザリフ外相は25日、自身のインスタグラムに「職務を続けるには不適任で、在任中の全ての不足点を謝罪する」と記した画像を投稿し、辞意を表明した。

ロハニ大統領は慰留する考えを示唆した。ザリフ氏はイラン核合意の立役者で、米国の合意離脱と制裁再開によるイラン経済の停滞を受け、保守強硬派からの批判が強まっていた。
 
ザリフ氏の辞意表明に対し、ロハニ師は26日、テヘランでの演説で「厳しい状況でのザリフ氏の仕事ぶりに感謝する」とし、慰留する考えを示した。対外融和路線をとる保守穏健派のロハニ政権にとってザリフ氏は象徴的な存在で、辞任すれば大きな痛手になる。
 
イランでは米国の制裁再開で、国民生活が圧迫されている。国内の保守強硬派は「核合意で米国に妥協した上に経済もよくなっていない」と政権を批判しており、ザリフ氏は主要な標的になっていた。
 
イランのネットメディアは26日、ザリフ氏が「辞意は外務省の地位を守るためで、(撤回させるための)懐柔は必要ない」と取材に語ったなどと報じた。

国営メディアなどによると、外相にもかかわらず、25日にシリアのアサド大統領のイラン訪問を事前に知らされず、ロハニ師との会談にも同席出来なかったという。

イラン政府関係者は、「たとえザリフ氏が翻意しても、イランの外交政策に亀裂が生じたのは事実で、今後の政権運営に悪影響だ」とみる。【2月27日 朝日】
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ロウハニ大統領は「辞任を受け入れることは国益に反する」として辞任を認めない考えを示し、結局、ザリフ外相も辞意を撤回してロウハニ政権にとどまることになりました。

保守強硬派からの厳しい批判の矢面に立つザリフ外相が、ロウハニ大統領に対し「自分をとるのか、保守派に屈するのか、明確にしてくれ」との踏み絵を迫った・・・という一件でしょうか。

ただ、下記の記事なども併せると、保守強硬派主導の流れがイラン政治で進んでいるようにも思えます。

****イラン、司法府代表に保守派重鎮 最高指導者ハメネイ師が任命****
イランの最高指導者ハメネイ師(79)は7日、サデク・ラリジャニ司法府代表の後任として保守強硬派の重鎮、ライシ前検事総長(58)を任命した。

ハメネイ師のウェブサイトで明らかにした。ライシ師は高齢のハメネイ師の信頼が厚いとされ、有力な後継者候補の一人との見方もある。任期は5年。
 
ライシ師はイラン北東部マシャド出身でイスラム教シーア派の聖地コムで学んだ聖職者。1979年のイラン革命後は革命体制の秩序を強権で維持する司法当局の要職を歴任し、2014年に検事総長に就いた。
 
16年にはハメネイ師に国内最大聖地のイマーム・レザー廟の最高位に任命された。【3月8日 共同】
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ライシ師は2017年の前回大統領選挙でロウハニ師に敗れた、反米・保守強硬派を代表する人物です。

司法面でも懸念されるニュースが。

****イランの人権派女性弁護士、有罪判決か 人権団体が発表****
イランの人権派弁護士で、欧州議会が人権や民主主義を守る活動で功績があった人に贈るサハロフ賞の受賞者ナスリン・ソトウデさんがイランの裁判所で有罪判決を受けたと国際人権団体などが、7日までに明らかにした。

ソトウデさんは昨年6月に当局に拘束されたとみられ、数十年にわたる禁錮刑に処される可能性があるという。イラン当局は、判決などについて公表していない。
 
「イラン人権センター」(米国)によると、ソトウデさんは、公共の場で髪の毛を隠す布(ヘジャブ)の着用義務に抗議して拘束された女性の弁護をしたことなどで、国家安全保障を侵害した罪などに問われているとみられるという。【3月7日 朝日】
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アメリカ・トランプ政権がイランを締め上げるほどに、イランでは反米・保守強硬派が力を増し、市民生活の自由は奪われるという残念な結果になります。イラン保守強硬派にとって最大の協力者はトランプ大統領という関係です。

トランプ大統領の対決姿勢がもたらす成果は、宗教支配の体制転換ではなく、せいぜいが穏健派政権の崩壊・反米保守強硬派政権の誕生でしょう。そして核開発の再開、中東情勢の緊張、市民の自由抑圧、宗教支配の強化・・・。

それでもトランプ大統領は「偉大な勝利」とツイートするのでしょう。何が“勝利”なのかは知りませんが。

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イラン  保守強硬派による自由を求める人々の圧殺に手を貸すアメリカの対イラン強硬策

2019-02-09 22:53:03 | イラン

(比較的当局の規制が緩いペルシャ舞踊に現代風アレンジを加えて教室で教えるエスマイリさん(本文参照)【2月6日 NHK「それでも私は踊りたい」】

【イランを敵視嫌悪する米社会・トランプ政権】
イラン革命から40年という節目にあたり、イランの現状を特集した記事がいくつか目につきます。
その中からいくつか。

オバマ前大統領のレガシーでもあったイラン核合意から離脱して経済制裁を科すアメリカ・トランプ政権ですが、そうした強硬姿勢の背景には、アメリカ世論のイランに対する厳しい見方があります。

****【イラン革命40年】トランプ政権、イラン封じ込めへ圧力包囲網****
イラン革命を受けて長年の断交状態にある米国とイランの関係は、トランプ政権がオバマ前政権の遺産である「イラン核合意」から離脱し、強力な経済制裁を科したことで改めて対立状況に回帰した。

トランプ政権は、中東最大の同盟国であるイスラエルや、サウジアラビアなどアラブ・ペルシャ湾岸のイスラム教スンニ派諸国と連携してイランを封じ込める構えで、対立のさらなる先鋭化は避けられそうにない。
 
トランプ政権のイランに対する強硬姿勢は、同国を「米国の敵」とみなす米世論に支えられている。CNNテレビが昨年5月に実施した世論調査では、イランを「深刻な脅威」とする回答が78%に上った。また米調査機関ピュー・リサーチ・センターによる同月の調査でも、イラン核合意に「反対」との回答は40%で、「賛成」32%を上回った。
 
トランプ氏は5日の一般教書演説でもイランを「有数のテロ支援国家」「急進主義的な体制」などと非難した上で、核合意からの離脱はイランに核を持たせないためだと強調した。
 
こうした対イラン政策の基本路線は、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が中心となって策定されているとみられる。
 
ボルトン氏は今年1月、同じく対イラン強硬派で、航空宇宙大手元役員のチャールズ・カッパーマン氏を副補佐官に据えるなど、対イラン圧力を一層強める構えを打ち出している。【2月9日 産経】
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アメリカ世論のイランへの厳しい見方は、イラン革命直後に在テヘラン米大使館がイラン人学生らに占拠された人質事件の“トラウマ”が大きく影響しているのではないかと、私は考えています。

以来、アメリカにとってイランは“絶対悪”であるとの見方が定着し、革命から40年を経過した今も、イラン国内の現状をありのままに見ることが難しくなっているように思えます。

****トランプ政権、貫く強硬路線****
「世界随一のテロ支援国家」。トランプ米大統領はイランをこう呼ぶ。
 
米歴代政権のイラン敵視も79年がきっかけだ。革命直後に在テヘラン米大使館がイラン人学生らに占拠される人質事件があり、解決に444日がかかった。米国はイランと断交した。
 
この事件が米国民にイランへの嫌悪を抱かせた。米ギャラップ社の世論調査でイランを「好ましくない」と答える割合はほぼ一貫して8割前後だ。
 
米国人口の約25%を宗教右派のキリスト教福音派が占め、その多くが親イスラエルの考えを持つ。保守派ユダヤ系ロビー団体「米国・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」なども豊富な資金力を使い、政治家にイスラエル擁護の政策を働きかける。(後略)【2月6日 朝日】
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確かにイランは宗教指導者が最高権力を有する特異な政治体制ではありますが、大統領や議会に対しては一定に民意が反映する国家でもあります。

宗教に過度に束縛されない自由な生活を望む国民を多数存在し、女性の社会参加なども一定に見られる国です。
その点においては、アメリカの「同盟国」サウジアラビアに比べたら、むしろ欧米社会に近いようにも思えます。

イランが周辺地域に勢力圏を確保しようとしているのは事実ですが、それはアメリカを含め、多くの大国が行っていることとそれほどの大差はないようにも思えます。

テロ云々で言えば、9.11やアルカイダ・ISとのかかわりでは、「同盟国」サウジアラビアの方が深いでしょう。

核開発について言えば、核合意で一定に歯止めがかかる予定でしたが、今はそれも危うくなっています。(そもそも論で言えば、イランの核開発がダメで、なぜイスラエルの核保有は問題にされないのか? もっと言えば、なぜアメリカの核はよくて、他国の核はダメなのか?という根本的疑問もあります)

そのようなことを考慮すれば、別にイランが人権に配慮した民主的な国家だと言うつもりもありませんが、“絶対悪”として敵視することも公平さ・冷静さを欠いているように思えます。

【自由を求める人々と体制秩序維持を目指す勢力のせめぎあい】
アメリカの経済制裁のもとでイラン国民の生活は困窮しています。
そうした状況で、自由を求める流れと、アメリカに反発しイラン革命が目指した特異な体制を支持する勢力とがせめぎあっています。

****イラン革命から40年 賛否鮮明、臆せず政権批判も****
イスラム教シーア派の法学者が権力を掌握したイラン革命から、11日で40年となる。

首都テヘランには革命の立役者ホメイニ師の写真が飾られ、体制を支持する人々からは称賛の声が聞かれた。一方で、トランプ米政権の核合意破棄と経済制裁再開で困窮に拍車がかかる中、政権批判を展開する人も少なくない。

賛否はともに鮮明で、国民を二分する溝が深まっていることをうかがわせた。
 
テヘランの大通りには、ホメイニ師や2代目の現最高指導者、ハメネイ師の写真や肖像画があふれている。「神が守る国に敗北はない」といったスローガンを掲げた横断幕やイラン国旗も至る所で目につく。
 
しかし、革命記念日を祝うムードは感じられない。イランでは昨年、通貨リアルの価値が対ドルで半分以下に急落。官庁街近くの通りにはヤミ両替の男性がずらりと並び、数メートル歩くたびに「チェンジマネー?」と次々に声をかけられた。100ドル札と引き換えにホメイニ師の肖像をあしらった10万リアル札を百枚以上、輪ゴムで束ねて手渡す姿も見られた。
「あらゆるものが1年以内に3倍は値上がりした」と多くの人がいう。ファルハドさん(40)は本業の車のパーツ販売だけでは妻子を食べさせられず、ヤミ両替にいそしむ。「政府は40年前の出来事を革命だというが、実体は体制への攻撃であり、国家を侵略したのだ。自由な国になるよう願っている」と話した。
 
米の制裁は病気を抱える人にも打撃を与えている。薬局店経営のメヘルザドさん(34)によると、制裁で薬品の輸入量が減り、客足も途絶えた。「欧米企業が制裁に抵触するのを恐れているのだろう。特に、がん関連の薬は在庫が底を尽き、密輸業者が出始めているようだ」という。
 
一方、革命に関わる場所で話を聞くと、政府を賛美する声で埋め尽くされた。
 
テヘラン郊外の広大な墓地には、「殉教者」と刻まれた墓碑が延々と並ぶ。そこで会ったじゅうたん職人のアクバルさん(53)は「現在の国家の誇りや強(きょう)靱(じん)さ、治安のよさは殉教者がもたらした。彼らがいなかったら現在のイランは存在しない。私は体制を完全に支持する」と話した。
 
殉教者とは革命前の反王制デモやそれに続くイラン・イラク戦争、最近ではシリア内戦に加わって命を落とした人々をさす。アクバルさんの兄もイラクとの戦争で戦死したという。この40年間がイランにとって激動の連続だったことを実感させる。
 
殉教者を悼みにきた20代の大学生は、「米の制裁のためにイランは自助努力を重ね、何でも自ら製造しつつある」と述べ、制裁が国家の独立性を高める方向に作用していると訴えた。
 
シリアやレバノンなど周辺国への影響力維持を狙っているとされるイラン。しかし、国内は団結とはほど遠く、経済を中心に混乱が一段と深まる公算が大きい。革命から40年という節目の今年も波乱含みで推移することは確実だ。【2月9日 産経】
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国際的にはあまり大きく扱われませんが、イランにとっては孤立無援のなかで戦ったイラン・イラク戦争の苦難は非常に大きな出来事であり、その殉教者を悼む気持ちは、いわゆる保守強硬派だけでなく、自由な体制を求める人々の間でも共通していると思われます。

より自由な生活を求める人々については、折に触れて報じられていますが、最近目にしたなかで印象的だったのがNHKで放映された“踊り続ける”女性の話です。

****それでも私は踊りたい****
流行りの音楽にあわせて人前で踊ることが、禁じられた国があります。とりわけ女性が人前で踊るようなことがあれば男性以上に厳しい目が注がれます。それでも女性たちは踊り続けていました。いつか社会が変わることを願いながら。

男子禁制のダンス教室
集合住宅の地下にあるダンス教室。(中略)

しかしここはイランの首都テヘラン。ダンス教室は女性専用です。インストラクターを務めるエスマイリさん(33)はイランでは珍しいプロの女性ダンサー。ダンス教室は、エスマイリさんが自宅の一角に100万円かけて整備しました。

ほかのどの国でも子どもが踊ることに夢中になるように、エスマイリさんは幼いころから踊ることが大好き。独学でダンスを覚え、プロのダンサーを夢見るようになりました。

しかしイランでは、歌や踊りは宗教上の理由から厳しく制限されています。特に女性は公の場で踊りを披露することが原則として禁止されていて、とりわけ西洋の音楽を使ったものは御法度です。幼稚園のおゆうぎのようなものはともかく、この国で女性が人前で踊る機会は極めて限られているのです。

「ダンスを職業にすることには両親からも反対されました。公の場で踊れば、罪にも問われることになります。」(エスマイリさん)

エスマイリさんがダンサーを職業とするには難しい現実がそこにはありました。そこで始めたのが(それ自体も以前はタブー視されていましたが)ダンスを人に教えることだったのです。

人に見せることは許されない踊り。それでも、ダンスは若い世代を中心に急速に普及し、生徒はこれまでに500人ほどに上りました。そんな動きをエスマイリさんは前向きにとらえています。

「踊りは、人それぞれの趣味であって精神にも良いという考えが広まっています。宗教的にも決して悪いことではないと、意識の変化が起きているのです。」(エスマイリさん)

取り締まられたサンクチュアリ
ダンサーにとって、その姿をほかの人に見て欲しいと思うのは当然の欲求です。

この5年ほどの間でイランでも個人がインターネットで自由に発信する機会が増え、女性たちの間でも自らのダンスを録画し、公開する動きが相次ぎました。インターネットは、人々にとって現実社会では禁じられた「踊る」という行為を披露できる貴重な空間となっていたのです。

しかし、こうした流れに水を差す出来事がありました。宗教の教えに厳格なイランの司法当局は去年7月、インターネットに自身が踊る動画を投稿した10代の少女を拘束したのです。エスマイリさんの教え子の一人でした。

ネットには「ダンスは犯罪ではない」といった抗議の声があふれました。女性たちは踊りを披露する大切な“舞台”を失うことになったのです。

「伝統舞踊」ならOK
若いダンサーを育ててきたエスマイリさんにとっても当局の取り締まりはつらい出来事でした。それでもダンスを学ぶ女性たちに少しでも機会を与えたいと今、新たな取り組みを始めています。

この地域に伝わる「ペルシャ舞踊」をイチから学び、現代風にアレンジを加えた上で、教室で教えているのです。

なぜ伝統的な舞踊なのか。「伝統をいかした踊り」であれば、条件付きで政府の許可が得られ、ステージを開催することができます。「西洋風のダンス」ではなく、「伝統をいかした踊り」の体裁をとることで、当局の規制をかいくぐることができるというわけです。

こうしてことし1月、テヘラン北部の会場で、エスマイリさんたちが企画したダンスのイベントが開催されました。男性の入場は禁止、人目に触れるような宣伝も行ってはならないという条件つきです。写真は、ダンサーの親に撮影してもらいました。

エスマイリさんやその教え子たちもステージに立ち、踊りを披露しました。(中略)
「人々に見せることができる、“アート”があることは、素晴らしいことです」初めて人前で踊ったという女性は晴れやかな表情で話していました。

エスマイリさんはダンスを続ける理由について次のように話します。
「ダンスは、人の信念と同じで排除することなどできません。なぜなら、これは『生き方』だからです。」(エスマイリさん) (後略)【2月6日 NHK】
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【自由な表現の場としてのインターネット・SNS】
上記記事にもあるように、制約の多いイランでもインターネットの普及は自由な表現の場として大きな影響力を持つようになっています。

****(イラン・イスラム革命40年:上)自由か統制か、イラン岐路***
イランで、親欧米路線の急激な近代化を進めた王制を打倒するイスラム革命が起きてから、今年で40年となる。革命後に生まれた世代が多数を占める今、自由を求める声が高まり、革命当時の理念は揺らぐ。中東の大国が岐路に立っている。

 ■公然デート・髪覆わぬ女性――ロハニ政権で取り締まり緩和
 週末の昼下がり。テヘランの公園で若い男女がデートを楽しんでいる。寄り添って手をつなぐマリアムさん(27)とアリさん(28)は「周りは気にしない」。抱き合ったり、夜間にキスをしたりする男女もいる。(中略)

保守強硬派アフマディネジャド政権(2005~13年)では、風紀警察や民兵組織「バシジ」が国民を監視。デートする未婚の男女や、露出の多い服装の人を逮捕することもあった。
 
潮目が変わったのは13年。ロハニ師(70)が「若者や女性を力で抑え込むのはよくない」と主張して大統領に当選し、取り締まりが緩和された。だが、今も逮捕される危険はつきまとう。
 
携帯電話でのネット利用者は年々増えて約6100万人。ある女性記者は「若い世代はネットで世界のファッションや文化に触れている。体制側も変化に対応せざるを得ない」とみる。

バシジ関係者は「今の若者にはイスラム革命を経験した世代の常識が通用しない」と指摘する。

 ■強硬派からはネット規制論
体制側は警告に余念がない。反イスラム的な行為を紹介する国営テレビの番組「踏み外した道」が昨年7月、SNSを特集。ヘジャブを着けずにダンスする動画をSNSインスタグラムに投稿して逮捕された18歳の女性が泣いて悔いる姿を映し出した。
 
同テレビは今年1月にも、反政府デモをもたらした「道具」としてSNSを批判する番組を放送した。ツイッターなど外国企業が運営するSNSはイラン側で統制するのが難しく、目の上のたんこぶになっている。

大手紙記者は「体制側はSNSが体制批判に使われることをレッドライン(超えてはならない一線)とみている」。
 
体制側はこれまでも社会の秩序を乱すとしてネット上の言論を規制してきた。サイトの遮断は、ツイッターやフェイスブック、最大で約4500万人の利用者がいたテレグラムや欧米のニュースサイトなど数百万件に上るとされる。
 
多くの国民は違法を承知でVPN経由でSNSを利用。規制と抜け道探しのいたちごっこが繰り返されている。保守強硬派からは「中国のようにネットを完全に管理すべきだ」との声も上がる。
 
だがネットやSNSは経済活動にも欠かせない。送金や決済はネットが当たり前で、SNSでビジネスをする企業も多い。

治安維持の要である革命防衛隊関係者はこう語る。「完全にネットを止めて力で抑え込むことは可能だが、国内外の批判や経済の混乱は避けられず、国民の心がイスラム法学者による統治から離れ、国の根幹が危険にさらされる」

 ■改革、最高指導者の意向次第
イランでは保守強硬派、保守穏健派、改革派という3政治勢力があり、いま主導権を争っているのは保守の2派だ。
 
初代最高指導者のホメイニ師が89年に死去し、後継のハメネイ師(79)が厳格なイスラム教に沿った社会づくりを掲げ、国のかじ取りを担う。

その考えに忠実なのが保守強硬派だ。宗教界や司法部門、革命防衛隊などが属するとされ、イスラム教に敬虔(けいけん)な層や地方の貧困層などが支持する。(中略)

一方、保守穏健派は自由の拡大を目指し、都市の若者に支持されるが、ハメネイ師の意思に背くことはない。代表格のロハニ師は、核開発を制限する見返りに制裁を緩和させる核合意を成立させた。だが、トランプ米政権による核合意離脱と制裁再開で窮地にある。
 
ロハニ師は21年に大統領の任期を終える予定。国民からは、その後も故ラフサンジャニ元大統領のように改革の後ろ盾になってほしいとの期待がある。
 
だが、ハタミ元大統領が退任後に反体制デモを支持したとして、メディアでの露出を禁じられるなどした先例がある。その後、同氏をはじめとする改革派は影響力を低下させた。ロハニ師もまた、最高指導者の意向次第では厳しい立場に追い込まれる可能性がある。(後略)【2月5日 朝日】
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【自由圧殺に手を貸すアメリカの対イラン強硬策】
自由を求める人々と、イスラム的秩序を重視する保守強硬派がせめぎあうイランにあって、アメリカ・トランプ政権のイラン包囲網が市民生活を疲弊させ、アメリカとの合意を進めた穏健派・ロウハニ政権の力を弱め、結果的に反米・保守強硬派の勢力を強めることになること、それにより、上記のダンスにうちこむエスマイリさんのような人々を圧殺することを懸念します。

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イラン  アメリカによる制裁の影響は? 火が付く危険が増す対イスラエル・湾岸アラブ

2018-12-06 23:41:35 | イラン

(【11月13日 朝日】)

【「イランにとって厳しい局面にはなるが、経済はさまざまな理由から耐え抜いていくだろう」】
アメリカ・トランプ政権はイラン核合意から離脱し、イランへの制裁を科すことで、アメリカにとってより有利な再交渉にイランを引っ張り出すことを目論んでいますが、そうしたシナリオが可能なのか?

制裁を受けるイラン経済の状況はよくわかりませんが、「苦しいのは間違いないが、崩壊するほどではない」というのが下記記事の見方です。

****米制裁下のイラン、経済崩壊を回避できるか****
イランは米国の経済制裁を受け、景気後退に見舞われるだろうが、経済が全面的に崩壊する事態は避けられる見通しで、原油価格上昇や米国と他の関係国にすきま風が吹いていることがその理由だ──。各国政府当局者や専門家はこうした見方をしている。
 
ある欧州の外交官は「イランを取り巻く状況は2016年以前よりも良い。なぜなら原油価格が高く、米国は国際的に孤立しているからだ」と話した。

イランは2016年初め、核開発制限を受け入れる国際的な合意の枠組みの下でいったん制裁を解除されたが、今年5月にトランプ米大統領が核合意離脱と制裁復活を表明。特に影響が大きい原油の禁輸と金融制裁が(11月)5日に発動された。

トランプ氏の狙いは、イランに核開発でより厳格な制限を設け、弾道ミサイル計画を撤回させ、イエメンやシリアなどの紛争地域における同じイスラム教シーア派の武装集団への支援をとりやめさせることだ。

しかし以前の制裁を有効に実施し、イランに核開発制限を認めさせた国際的な結束は、トランプ政権発足とともに消えてしまった。以後、米国と同盟諸国は、貿易から集団安全保障に至るあらゆる問題で対立している。

実際、米国以外で核合意に署名したドイツ、フランス、英国、欧州連合(EU)、ロシア、中国はそろってトランプ政権の核合意離脱を批判。EUは、米国の制裁下でもイランとの貿易取引が可能になるような仕組みを導入する準備を進めているところだ。

別の外交官は「イランにとって厳しい局面にはなるが、経済はさまざまな理由から耐え抜いていくだろう」と述べ、当事国の1つであるロシアも欧米の制裁を受けていることや、イランの宿敵のサウジアラビアが国内の金融・政治問題に掛かりきりになっている状況、米中貿易摩擦などを挙げた。

石油メジャーから商社、海運会社まで外国企業が米国の目を恐れてイランとの取引から手を引きつつあるのは間違いない。

それでも依然として相当な量の原油が輸出されつつあるので、イランが来年恐らく景気後退に陥るとしても経済は崩壊しないはずだ、とフィッチのソリューションズ・アナリスト、Andrine Skjelland氏は予想する。

同氏はロイターに、イラン政府はなおかなりの外貨収入を確保し、生活必需品の輸入に補助金を供与してコストを引き下げ、ある程度国内の物価上昇を抑え続けるとの見通しを示した。

イラン当局は、買い手を引き付けるために原油の値引き販売もやむを得ないかもしれないとの考えを示唆している。同国の貿易に関係しているある当局者は「石油収入は減っても国家運営にはまだ十分な額になる。市場価格より1ドル低くすれば、いくらでも買い手はつく」と主張した。(中略)

国際通貨基金(IMF)も、イランの成長率は石油収入の目減りで今年がマイナス1.5%、来年は同3.6%になると予想した。

とはいえイラン側は意気軒昂で、トランプ氏は核合意を否定するという点で孤立化し、原油は値上がりを続け、米国が石油禁輸適用を8カ国・地域に対して除外したことなどを自分たちのプラス材料だと強調する。

あるイラン政府高官は「たとえイランの原油販売量が日量80万バレルに減ったとしても、経済のかじ取りはできる。だが実際にはもっと多く出荷しており、わが国の経済は崩壊からは程遠い。国家予算が想定している原油価格は1バレル=57ドルで、足元は75ドルを超えている」と述べた。

イラン最高指導者ハメネイ師の側近は「米国の禁輸除外がなくても、われわれは原油を売り、制裁をすり抜けていく。味方になってくれる国は多く、米国は何もできない」と言い放つ。【11月10日 ロイター】
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原油価格の方は、トランプ大統領の安値誘導発言もあって(基本的には供給過多による調整でしょうが)、10月初めをピークとして急激に低下し、現在は1バレル=50ドル強のラインまで落ち込んでいます。

その点では、イランにとって厳しさを増していますが、国際社会からの支援がないイラン・イラク戦争を耐え忍んだ国ですから、そう簡単には白旗を上げることはないでしょう。

【イランが核活動を再開する時、米国はどうやって始末をつける積りなのか?】
あり得る変化としては、経済の混乱から現在の穏健派ロウハニ政権が崩壊して、より反米的な保守強硬派に変わり、イランが核開発をおおっぴらに再開するという変化ですが、それはアメリカにとっては事態をより困難にする変化でもあります。

そうなると事態を止めるには戦争しかなくなります。

****米国の制裁ではイランは変わらない****
11月5日トランプ政権は、対イラン制裁の復活第2弾として、エネルギー、造船、海運および金融の分野の制裁を発動し、核合意に伴い解除されていた制裁が全面的に復活した。

トランプは、「自分ならオバマが交渉した破滅的な核合意よりも良い取引きが出来る」として、制裁によりイランを交渉のテーブルに引っ張り出すことにしたのである。トランプのお手並み拝見となる。

なお、米国は、中国、インド、韓国、トルコ、イタリア、日本、ギリシャ、台湾の8の国・地域についてイラン石油の輸入に係わる制裁の適用を180日間免除するとした。ポンペオ国務長官は、免除の決定は原油価格の高騰を防ぐためであることを示唆している。
 
トランプが本当に交渉を望んでいるのか確かではないが、イランが交渉に出て来るようには思えない。トランプに脅かされ制裁の圧力屈して交渉に応じる一方でなお政権を維持する選択肢がロウハ二はあろうはずがない。

そうであれば、トランプ政権の狙いはレジーム・チェンジだということになる。イランに世俗的な普通の民主的政権が出来ることは歓迎であるが、そういう可能性があるという兆候は何処にもない。
 
イランはこれまでのところ抑制的に対応している。欧州が核合意にコミットしている限り、イランもこれを遵守するとの態度である。不満のはけ口をミサイルの発射やペルシャ湾での挑発的行動に求めることもしていない。
 
イランの抑制的態度を支えているのは欧州の努力である。その努力の一つの現れが欧州企業のイランとの正当な取引きを保護するためのEUの対抗立法である。(中略)

しかし、その効果は疑わしい。トタル社やジーメンス社のイランのビジネスからの撤退を防げていない。米国のビジネスからの排除と米国の金融システムへのアクセスの遮断を内容とする米国の第二次制裁に対しては無力であろうと思われる。
 
EUによるもう一つの努力は「特別目的事業体(special purpose vehicle)」である。
11月2日、モゲリーニEU外交安保上級代表と英独仏の外相・財務相は共同声明で、米国の第2弾の制裁復活を遺憾としたが、その中でイランとの金融のチャネルの維持とイランの石油・ガスの輸出の継続にコミットしており、そのためにロシア、中国とも協力して作業を進めると強い調子で述べている。

具体的に検討されているのが「特別目的事業体」という仕組みである。これは、一方でイランからの輸入に伴い支払いを要する企業、他方でイランへの輸出に伴い支払いを受ける企業、両者の間で精算を可能とする仕組みを設ける、即ち、ドルを介することなく、EUとイランとの間で一種のバーター取引を可能とする仕組みを設けるというもののようである。

イランのザリフ外相はこの仕組みに期待するような発言をしているが、その実現可能性、実現したとしてどの程度有効に機能するかは目下不明である。
 
今後の問題は、イランが何時まで米国の制裁に耐え核合意を遵守することが出来るかにある。欧州にすら経済的利益を期待出来ないとなれば、イランが核合意を維持する意味はない。

中国は米国に義理立てする必要はないであろうからある程度協力を当てに出来るであろう。ロシアはイランの石油を買って転売する仕組みをイランとの間に有しており、引き続き支援すると言っている。

それでもイランの石油輸出は最近のピークの280万バレル/日の3分の1程度に落ちるという見通しもあるからイランは苦しい。

追い詰められる。そういう状況で沈黙していることに政権は耐えられないとなれば、イランは核合意を離脱し核活動を再開するかも知れない。

核合意で強化された査察体制を妨害し、核活動の実態は見えにくくなる。そうなった時、米国はどうやって始末をつける積りでいるのかは誰にも判らない。【12月3日 WEDG】
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“トランプ政権の狙いはレジーム・チェンジだということになる”・・・・イランの体制はそう簡単には崩れないでしょう。

あるとしたら、先述のように穏健派から露骨な反米保守強硬派への変化であり、それはイランの核合意離脱、核開発再開を意味します。

なんのためにイランをそこまで追い詰めたのか・・・という話にもなります。(戦争をしたいというのであればわかりますが。イランを叩きたくてウズウズしているイスラエルはともかく、計算高いトランプ大統領はカネのかかる戦争は望んでいないでしょう。もっとも、イスラエルがイランを攻撃するのは支援するでしょうが)

【表の制裁とは別の動きも】
中国とは90日という期限を設定して経済戦争を仕掛けていますし、ロシアとも60日の期限を設定して中距離核戦力(INF)全廃条約に関する駆け引きを始めています。

そうした中国・ロシアとアメリカの関係が好転しなければ、中国・ロシアはイラン支援をやめないでしょう。

中国・イラン・アメリカの関係をめぐる興味深い記事がありました。

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イランが今夏、突如として米国からの大豆輸入をスタートさせた。

それまで大豆を買ったことがなかったイランが、八月に一億四千万ドル分の大豆を購入。九月以降にも続けて輸入しているが、総額二億ドル分を同国内で消費するかは不透明。

そのため、米中貿易戦争で米国産大豆に高関税をかけた中国に横流ししているのではないかという観測が出ている。【「選択」12月号】
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ひょっとしたら、支持基盤の大豆農家支援のためトランプ政権も黙認の取引だったりして。
そもそも、制裁を受けているイランがアメリカから大豆を大量輸入できるというのも初めて知りました。

制裁が声高に叫ばれる表の世界とは別物の、裏の現実があるということでしょうか。

【イラン・アメリカ 互いにけん制】
“不満のはけ口をミサイルの発射やペルシャ湾での挑発的行動に求めることもしていない”とのことですが、全く鳴りを潜めている訳でもありません。

****「イランがミサイル発射実験を実施」米国務長官が非難声明****
アメリカのポンペイオ国務長官は、イランが、国連安全保障理事会の決議に違反して、中距離弾道ミサイルの発射実験を行った、と非難する声明を出しました。
ポンペイオ長官は1日、声明を出し、イランが中距離弾道ミサイルの発射実験を行ったと指摘しました。

実験したのは、複数の弾頭を同時に搭載できる「多弾頭型」のミサイルで、中東の全域とヨーロッパの一部が射程に入るとしています。実験の場所や日時は明らかにしていません。(中略)

一方、イランはこれまでのところ、実験を行ったのか明らかにしていません。(後略)【12月2日 NHK】
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一方、米軍の動きは以下のようにも。

****米国がペルシャ湾に空母展開、イランをけん制****
米軍の空母ジョン・C・ステニスが数日内にも中東地域に展開されることが明らかになった。同地域に米空母が配備されるのは8カ月ぶりで、この空白期間は過去20年で最長。国防総省関係者が明らかにした。イラン政府をけん制することが主な目的になる。
 
トランプ政権はイランの弾道ミサイル発射テストだけでなく、同国が支援するシリア、イラク、レバノン、そしてイエメン内の組織に対しても新たな制裁を発動し、米イラン関係は緊迫化している。
 
空母はそのほかにも、イラクとシリアで続く過激派組織イスラム国(IS)との戦いや、アフガニスタンでの対タリバン戦も支援する。(中略)
 
今年に入り空母打撃群が中東地域に不在だったのは、中国・ロシアへと軍事力を再配備する戦略に基づくものだったと国防総省当局者らは述べている。一方でその流れは、イランが安全保障上最大の問題だとするホワイトハウスの考えに反するものでもあった。【12月4日 WSJ】
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中東において過去20年で最長の空母不在の空白期間があったということは、少なくとも軍事的にはイランを含む中東情勢には、トランプ大統領が叫ぶほどには(少なくとも国防総省・米軍は)関心を払っていなかった・・・ということにもなります。

イランは、アメリカによる原油の禁輸制裁に対し威嚇的な発言をしていますが、これは毎度の話で、特に目新しいものでもありません。

****原油輸出、イランが不可能なら他の湾岸諸国も不可能に=大統領****
イランのロウハニ大統領は4日、イランが原油を輸出できなければ、他の湾岸諸国からの原油輸出も不可能になるとの考えを示した。

ロウハニ氏はテレビ演説で「イランはイラン産原油を売却しており、今後もそれを続ける。米国はイランの原油輸出を止めることはできないということを認識すべきだ」と語った。

「ある時点で米国がイラン産原油の輸出を阻止しようとすれば、湾岸諸国のどの国からも原油輸出ができなくなる」と強調した。ロウハニ氏は7月にも同様の発言をしている。

また、イスラム革命防衛隊の司令官は7月に、米国がイランの原油輸出を阻止すれば、イランはホルムズ海峡を封鎖すると述べている。【12月5日 ロイター】
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キナ臭い「イラン対イスラエル・湾岸アラブ諸国」
イランをめぐる情勢に火が付くとしたら、イラン・アメリカ関係よりは、イランを敵視するイスラエルとの関係の方でしょう。

イスラエルは11月29日、シリアの首都ダマスカス近郊と同国南部の複数の地域を空爆しています。
攻撃対象地域には「レバノンの(シーア派原理主義組織)ヒズボラとイラン部隊の武器庫」があるともいわれています。

“イスラエルはこれまで、イランに属する標的への攻撃と称し、隣国シリアに数百回の空爆を実施してきた”【11月30日 AFP】

一方、イランはシリア南部における勢力を確実なものにしつつあります。

イスラエル系jerusalem posy netによれば、“イランの影響力の拡大と浸透で、革命防衛隊やヒズボッラ―が至る所で、支配しており、シリア政府との境界があいまいになり、どこまでがアサド政権でどこからがイランの実質的支配化が判らなくなった”【12月2日 「中東の窓」】とも。

イスラエルが強気なのは、アラブ諸国における変化があります。従来は「イスラエル対アラブ」という対立軸があり、少なくとも建前上はイスラエルによって蹂躙されたパレスチナを支援する「アラブの大義」がありました。

しかし、現在ではアラブにおけるイスラエル容認が進み、「イスラエル対イラン」の対立軸に、イランと対立するアラブ諸国もイスラエル側で組する構図に変わっています。

****イランをめぐる大義なき戦争へ****
「イスラエル対イラン」と「アラブ対イラン」の対立軸が一体化する日

(中略)さらにイランと対抗する上で、アラブ諸国も建前上対立してきたイスラエルにくみする姿勢を見せている。バーレーンは9月に「イランが中東を不安定化させている」と非難し、アラブ諸国は対イスラエル貿易ボイコットなどをやめるべきだと主張。シリア空爆もイスラエルの正当な権利と表明した。
 
これまでもサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国が、対イランでイスラエルと協力関係にあることは公然の秘密であった。ただこうした見解が政府関係者から公式に表明されることは、大きな変化だ。

超国家的な「アラブの大義」が語られなくなり、極めて国家的な脅威認識や安全保障観が前面に出てきたことは、先に述べた国民意識の変化と軌を一にするものだろう。

こうした反イラン陣営の形成は、かってのアラブ-イスラエル紛争と同様のモーメントを生み出す恐れがある。
すなわち、「イスラエル対イラン」という対立軸が、サウジアラビアをはじめとする「湾岸アラブ諸国対イラン」という対立軸と一体化すれば、局地紛争が別の紛争と連動する可能性が高まる。

アメリカも中東紛争の管理を忌避するようになっている今、1つの紛争の勃発が中東全体を覆う大義なき戦争を引き起こすかもしれない。【11月13日号 Newsweek日本語版】
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イランが核合意を離脱して核開発を再開させれば、そのときイスラエルは・・・・。


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イラン  北朝鮮とは異なり、トランプ政権の過激なレトリックと制裁で妥協に向かわせるのは困難

2018-10-05 23:30:24 | イラン

(武装集団による軍事パレード襲撃が起きたイラン南西部アフワズで、地面に横たわる負傷兵の前を走る兵士(2018年9月22日撮影)【9月23日 AFP】)

【「イランは国際テロの世界の中央銀行だ」】
イラン核合意を破棄したアメリカ・トランプ政権がイランを目の敵にしていることは今更の話で、トランプ大統領の国連総会での演説もイラン批判に終始しました。

9月28日には、劣悪な公共サービスに対する抗議デモが続くイラク南部バスラの米領事館を閉鎖するとともに、イランの支援を受けた民兵組織による「間接射撃」を非難し、何らかの被害が生じた場合には「イラン政府に直接責任を問う」と警告しています。

また、10月4日に公表された「国家対テロ戦略」においても、イランへの集中的な対応が鮮明になっています。

****米対テロ戦略、アルカイダからイランへ=トランプ政権、焦点転換****
トランプ米政権は4日、複雑化するテロ情勢への対策をまとめた「国家対テロ戦略」を公表した。

オバマ前政権の前回戦略が国際テロ組織アルカイダに焦点を当てていたのとは異なり、トランプ政権の対イラン強硬姿勢を反映。軍事的手段だけにとどまらず、テロ組織の資金源の根絶やプロパガンダ対策などを盛り込み「全ての手段を駆使してテロと戦う」と明記した。
 
新戦略の策定は約7年ぶり。イランに関しては「中東地域でテロ組織を支援し、米国に脅威をもたらす工作員のネットワークを育てている」と強調。ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)も4日の記者会見で「イランは国際テロの世界の中央銀行だ」と痛烈に批判した。(後略)【10月5日 時事】
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イランは確かに中東において影響力拡大を狙った露骨な政策をとっており、国内体制は特殊なイスラム「神権政治」といったイメージもあります。

しかし、(ほんの1週間ほどの観光ではありますが)実際に垣間見たイランはごく普通の社会であり、政治的には、イスラム指導者にとっても選挙により示される民意が重要であるという点では、欧米的民主主義とそんなに大きな差異もありません。

イスラムの最高指導者が大統領を超える権限を有するという点は特殊ではありますが、どこかの国では奇妙な大統領が権限を行使しており、奇妙さでは五十歩百歩です。

イランには人権抑圧もありますが、女性の権利などはアメリカの同盟国サウジアラビアなどに比べたらはるかに認められていると思われます。世の中には人権抑圧国家は掃いて捨てるほど存在します。

なぜアメリカがイランをそこまで敵視するのか・・・・ということについては、個人的にはイスラム革命時のテヘラン米大使館占拠事件がアメリカ人のトラウマになっているのではないかと考えています。

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アメリカの中東政策にとって、イラク戦争とシリア内戦を通じて中東世界に影響力を拡大したイランの存在は最大の脅威である。

イラクのサダム・フセイン亡き後、アメリカの最高友邦であるイスラエルを脅かす存在はイランだけになった。

さらに1979年のイラン・イスラム革命で、親米のパーレビ国王体制が打倒されたこと。この余波でテヘランの米大使館が3か月以上もイランの学生たちに占拠されたという悪夢もある。【10月1日 伊藤力司氏 日刊リベタ】
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より政治的思惑としては、中間選挙を控えて、宗教保守「福音派」へのアピールという面も指摘されています。

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・・・・アメリカ世論調査で最高40%強の支持率しか上げていないトランプ政権は、11月の米中間選挙で与党共和党が上下両院での多数派を維持できるかが、最大の勝負である。

その中間選挙を乗り切るには、米国内の政治世論上最も有力なユダヤ閥・親イスラエル勢力を味方に付けることだ。

さらに、アメリカ国民の4分の1を占めるというキリスト教プロテスタントの「福音派」は、強力な親イスラエル集団だという。

こうした事情を勘案すれば、トランプ大統領が声高にイラン制裁と親イスラエルを呼びかけることが、何よりの中間選挙対策であることが見えてくる。果たして11月7日、米市民はトランプ政権をどう判断するだろうか。【同上】
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イランをやり玉に挙げれば国民支持が得られる・・・・一種のポピュリズムです。

アメリカの軍事プレゼンスはイランから対ロシア・中国にシフト
しかしながら、トランプ政権の過激な“イラン叩き”“イラン敵視政策”の一方で、空母配備などの軍事プレゼンスの観点からみると、アメリカはイランを意識した中東から、最近対立が顕著になっているロシア・中国に向けた軍事力配備にシフトしているとも指摘されています。

****米の対イラン批判激化、一方で軍事プレゼンス低下****
最大の脅威はイランではなく中国とロシアだとみなされている

トランプ米政権は今年、イランの脅威に対するレトリックを強めるばかりだった。

だがその一方で、当局者や軍事専門家らによれば、米軍はペルシャ湾周辺で、大きな紛争の際に必要になるはずの艦船や軍機、ミサイルを削減するなど、プレゼンスを低下させている。
 
空母セオドア・ルーズベルトが3月に太平洋方面に去って以来、ペルシャ湾には空母打撃群は存在していない。空母の展開に詳しい当局者らによると、過去20年間で、これほど長い期間、米空母が同海域を訪れていない例はなかった。(中略)

さらに、ジム・マティス国防長官は今月、ヨルダン、クウェート、バーレーンから計4基のパトリオット・ミサイル防衛システムを引き揚げる予定だ。

軍幹部が先週ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に明らかにしたところによれば、これは中東での能力を削減し、中国とロシア向けを強化するのが狙いだ。
 
イランの脅威に対する見立てとペルシャ湾周辺の軍事プレゼンスの間の明らかなミスマッチは、米国の戦略シフトや装備の制約などが原因だ。

2018年の米国の国家安全保障戦略で最大の脅威とみなされているのは、イランではなく中国とロシアだ。

同時に、保守や維持管理のスケジュールにより、米空母の運用が制限されている。また安全保障上のあらゆる脅威に十分に対応するには、艦船や機材が不足している。(後略)【10月2日 WSJ】
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アメリカの制裁で疲弊するイラン市民生活
トランプ政権としては、激しいイラン攻撃のレトリックと経済制裁で、北朝鮮のようにイランをアメリカ主導の対話の方向に向かわせることができる・・・との思惑があるようです。

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米政府を擁護する人々は、米国のレトリックと制裁による圧力は、イランを(対立ではなく)対話に向かわせるための一種の抑止力であり、トランプ大統領の対北朝鮮戦略とよく似たものだと語る。

ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は先週、イランの行動に「大きな変化」が起きると米政府は予想していると述べた。【同上】
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確かにアメリカ主導の経済制裁でイラン経済が苦境にあり、市民生活は困難に直面し、市民にロウハニ政権への不満も拡大していることは間違いありません。

****紙おむつ消えたイラン「米の陰謀だ」 市民は不満募らす****
米国が核合意を離脱し、8月に制裁を再開したことを受け、イランで乳幼児の紙おむつが店頭から姿を消しつつある。外国企業がイランとの取引に消極的になり、原材料不足で生産が止まったとみられる。

最高指導者ハメネイ師は「おむつの不足は政府批判をさせようとする(米国などの)陰謀だ」と呼びかけるが、生活必需品の欠乏に、国民の不満は高まっている。(中略)

ネット上では「ミサイルは持てるのに、紙おむつがないのはどういうことか」といった皮肉も飛び交っている。【9月17日 朝日】
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****通貨暴落に苦しむイラン 海外脱出は「夢」に 消費の落ち込みがさらに景気を冷やす悪循環に****
イランの中間層は通貨急落で、旅行や留学などの海外渡航ができなくなっている

経済混乱に見舞われているイランでは、通貨リアル急落により、多くの市民が休暇や出張、留学などを目的とする海外渡航を断念せざるを得ない状況に追い込まれており、消費の落ち込みがさらに景気を冷やす悪循環に陥っている。
 
リアルは1月以降、対ドルでおよそ75%下落し、今月には1ドル=約14万リアルの安値に沈んだ。そのため、航空燃料などを含むドル建ての財・サービス価格は大幅に値上がりしており、多くの中間層にとって、旅行費用は手の届かない水準に跳ね上がっている。(後略)【9月16日 WSJ】
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****イラン観光地、米制裁が痛撃 欧米客激減、水・電力不足追い打ち****
イランの観光地で欧米からの来訪客が激減している。トランプ米政権の制裁に加え、インフラ面の不備が災いしている。石油依存を脱して観光を経済の柱に、という政府の思惑通りにはいかないようだ。(後略)【10月1日 朝日】
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EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表は9月26日、アメリカによるイラン制裁に対抗してイランに進出している欧州企業を守るため、現在検討されているイランとの貿易を継続するための特別目的事業体(SPV)について、11月までには立ち上げることが可能との見方を示していますが、どれだけの効果があるのかは不透明です。【9月27日 ロイターより】

ナショナリズムを刺激し、政府・体制への不満から国民の目をアメリカ・サウジなどへ向けさせることにもなった軍事パレードテロ
困窮する市民の不満はアメリカだけでなく、ロウハニ政権、あるいは現在の政治体制にも向けられていましたが、そうしたなかで9月22日に起きたのが、軍事パレードに武装グループが乱入して銃を発砲し、軍の精鋭部隊の兵士など25人が死亡した事件でした。

イランは、事件の背後にアメリカの支援を受けるサウジアラビア・UAEが存在していると非難しています。

****サウジとUAEが資金」=軍事パレード襲撃―イラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は24日、自身のツイッターを通じ、南西部アフワズの軍事パレードを22日襲撃した実行犯が「サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)から資金提供を受けていた」と主張した。

(中略)ハメネイ師は「襲撃の黒幕を徹底的に罰する」と強調。イランはサウジやUAEに加え、米国も襲撃に関与したとして反発を強めている。【9月25日 時事】 
******************

この軍事パレード襲撃はイラン国民に少なからぬ衝撃を与え、民族主義を鼓舞する結果となっているとの指摘があります。

****民族主義が広がる神権国家イラン****
軍事パレードへのテロで政府への不満は消散 代わりに盛り上がるナショナリズムの不安

イランの古都シラーズに住む主婦ザリ(42)にとって、市場で食料品の価格をチェックするのは重要な日課の1つ。3人の息子は10代で、ただでさえ食費はばかにならないのに、最近はアメリカの経済制裁の影響もあり、物価の高騰が激しい。(中略)

(軍事パレードへのテロの報道を観て)ザリはショックで凍り付いた。「もう食料品なんてどうでもよかった」(中略)「うちの子たちも、数年後には兵役に行かなくてはいけない。もしそこでこんな目に遭ったら……。そのとき初めて『私たちの国は攻撃されているんだ』と実感した」(中略)

ザリと同じことを思った人は少なくない。(中略)どの国もそうであるように、テロはイラン人の愛国心を奮い立たせ、結束させている。

その兆候はしばらく前からあった。(中略)ここ20年ほどは、ナショナリズムがじわじわと盛り上がっている。(中略)

現体制はイスラム主義を断固維持しつつ、こうしたナショナリズムの高まりを利用しようとしてきた。9月22日のテロ事件は、そんな中で起きた。
 
とりわけ衝撃的だったのは、犠牲者に徴集兵が多く含まれていたことだ。イランでは全男性に2年間の兵役が義務付けられていることから、彼らが犠牲になる事件は、政治的立場や社会的地位を超えて誰もが自分の家族のことのように悲しむ。

しかも今回の事件は、イラン・イラク戦争(80~88年)の開戦38周年を記念するパレード中に起きた。

世界的には忘れられつつあるが、当事国であるイランとイラクにとって、この戦争は今も生々しく記憶されてい
る。「イラン・イラク戦争は第三次世界大戦だった」と、政府系文化施設の責任者モルテザ・サルハンギは語る。(中略)

(すべての欧米諸国がイラクを支援するなかで)イラン側の犠牲者が数十万人に達した8年間の戦争は、リアルポリディック(現実政治)という概念を痛感させた。(中略)

「もはや子分でいたくないと望んだというだけで(アメリカは)イランの孤立を図り、中東での最大の敵とみた」(中略)「だが今の若者はそれを信じようとしなかった」(中略)

8000万人を超えるイランの人口の過半数を占めるのは、35歳未満の若年層だ。その多くはイラン革命もイラン・イラク戦争も体験していないか、記憶していない。

そうした若者たちにこれらの体験の意味を説明するのは、政府にとって困難な課題になってきた。
 
イランの若者や女性、労働層は体制への不満を募らす一方だ。彼らの心をつかむために何をすべきか、論議が繰り返されてきた。その重要性が高まったのは09年、革命以来最大の反政府デモが巻き起こり、現体制下で初めて「独裁者を打倒せよ」との声が響き渡ったときだ。(中略)

そこへきて起きたアフワズの事件は体制側にとって、国民に脅威の図像を描いてみせる格好のチャンスだ。さらに好都合なことに事件の数日前には、サウジアラビアがイラン国内の対立をあおるため、イランの反体制派武装組織モジャーヘディーネ・ハルグ(MEK)を支援していたことが報道された。
 
そればかりではない。アフワズでの襲撃事件と同じ日、MEKが共同主催したニューヨークでの会議で、ドナルド・トランプ米大統領の顧問弁護士を務めるルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長がイランの体制転換を呼び掛けるという驚くべき偶然もあった。

「祖国を守るために戦う」
イランの最高指導者アリーハメネイ師はこの機を逃さなかっだ。アフワズで起きた事件は「アメリカの操り人形である近隣国家の陰謀が継続していることの表れだ。彼らは、私たちの愛する祖国を不安定化させようとしている」と語った。(中略)

(革命防衛隊で2年間の兵役についている25歳に)ハミドの意識は変化している。「自分をナショナリストだと思ったことはなかった。望みは兵役を終えて、外国で学業を続けることだけだった。でも今は、彼らが経済を含めたさまざまなレベルでイランに戦争を仕掛けようとしていると感じる。祖国を守るために戦うっもりだ」

こうした意識がイラン国内でどれほど広がっているかを把握するのは難しい。とはいえアフワズの事件を契機に、ネット上でナショナリズムが高まり、反アラブ感情、とりわけサウジアラビアなど湾岸諸国への反感が膨れ上がっていることは確かだ。
 
主婦のザリは襲撃事件以来、息子3人が戦場に送られるかもしれないと不安で眠れない。
「イラン・イラク戦争中も、その後に制裁が科された時期も経済的に苦しかった。変化を期待していたけれど、今では分かる。アメリカはイランに干渉したくてたまらないのだ、と」
 
だから、ザリは覚悟を決めた。「物価が上がり続けてもいい。以前のように歯を食いしばって耐える。でも外国勢力の言いなりになる気はない。イランは独立した国家だ」 【10月9日号 Newsweek日本語版】 
*****************

イランでは、今も車道のわきにイラン・イラク戦争の犠牲者の肖像が延々と並んでいます。
イランがミサイル開発に執着するのも、イラン・イラク戦争当時、イラクのミサイル攻撃で苦しんでいるとき、どの国も1発のミサイルもイランに供与してくれなかった経験によるものと言われます。

トランプ大統領にとっては、北朝鮮との会談実現が大きな成功体験となっているようです。
しかし、金正恩委員長(あるいは一部の軍幹部)の意向で国の方針が決定する北朝鮮と、「神権国家」ともいわれながらも国民の民意を前提とするイランでは事情が異なります。

イラン国民がアメリカおよびその支援を受ける国との戦いへの意思を固める時、ベトナムやアフガニスタンでのアメリカの理解を超えた抵抗の再現となります。

長くなるので端折りますが、街にコカ・コーラが溢れているように、想像以上に世俗的なイラン人は基本的にはアメリカ文化への憧れがあるように見えます。アメリカが今のような恫喝ではなく、そのあたりにうまく働きかければ、双方にとってウィン・ウィンの関係が築けると思うのですが。
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イランを追い詰めて得られるものは反米保守強硬派政権と危険な緊張

2018-08-02 23:44:43 | イラン

(次の指導者? 革命防衛隊のスレイマニ司令官は国民に英雄視されている(昨年12月の反米デモでスレイマニの写真を掲げる参加者)【8月7日号 Newsweek日本語版】)

経済制裁再開を前に通貨リアルの暴落が止まらない
トランプ米政権がイラン産原油の輸入停止を各国に呼び掛けていることを受け、イラン・ロウハニ大統領は禁輸が実行された場合にホルムズ海峡を封鎖する可能性を示唆、これに対しトランプ大統領が「米国を二度と脅してはならない」とツイッターで警告するなど、両者の対立は深まっています。

イランの穏健派ロウハニ政権が、トランプ大統領による核合意離脱・制裁再開という圧力によって、窮地に立たされていることは間違いありません。イラン経済は通貨暴落に見舞われ、国民の不満も高まっています。

****イランの穏健派ロウハニ大統領、通貨暴落と米制裁再開で窮地****
<核合意を推進したイランの穏健派大統領ロウハニが苦しい立場に追い込まれている。景気が思ったほど回復しない上、トランプの経済制裁再開を前に通貨リアルの暴落が止まらない>

イランの大都市で生活苦に抗議するデモが続く中、国会はハッサン・ロウハニ大統領を召喚して経済政策の舵取りについて問い質す。

国会招致の日まで、ロウハニには1カ月の期間が与えられた。そこでこれまでの経済政策に対する責任を追及され、通貨リアルの暴落と物価高騰から生じた社会不安への対応策を聞かれることになるだろうと、米出資の自由欧州放送(プラハ)が8月1日に報じた。

リアルは急落を続け、7月28日に1ドル=9万8000リアルだった為替レートは、翌日には11万2000リアルに達した。

イランは2015年、核兵器開発をやめる見返りに経済制裁を解除してもらう核合意(JCPOA)を欧米など6カ国と結んだのに、なぜ経済がほとんど改善しないのか、と国会議員たちは息巻いている。

ドナルド・トランプ米大統領は今年5月、他の締結国や国連の反対を押し切って核合意から離脱したが、イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシアは合意を維持している。

合意から2年が経ったが、イランの銀行は海外の金融機関との取引を制限されたまま。当初ロウハニ政権は、核合意はイラン経済にとって大きな転機になると喧伝し、海外からの投資も激増すると主張していた。

アメリカの制裁再開を8月6日に控え、ロウハニは政治的、社会的にいよいよ厳しい立場に立たされている。

7月31日にはイラン各地に抗議デモが広がり、ソーシャルメディアの投稿を見る限り、翌8月1日にも続いているもようだ。物価高に伴う生活苦と、汚職に対する怒りが相まって、昨年末から首都テヘランや他の都市で大規模デモが続発している。

経済制裁より深刻な問題も
ロウハニ政権は景気対策を打ち出すことでデモの沈静化を図ってきた。7月25日にはイラン中央銀行の総裁を交代させ、通貨リアルの安定を目標に掲げた。

「たとえ最悪の事態になっても、私はイラン国民に対して生活必需品の提供を約束する。砂糖、小麦、食用油は十分に備蓄している。市場介入するのに十分な外貨も確保している」、とロウハニは6月に言った。その際、通貨リアルの急落は「海外メディアのプロパガンダ」のせいだ、と批判した。

米コロンビア大学で教鞭をとるイラン専門家、ゲイリー・シックは7月30日、米政府系の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に出演した際、イランは石油や天然ガスなどの天然資源の管理に失敗し、経済的にマイナスの副作用を引き起こした、と語った。

「天然資源の管理と、(水資源の枯渇といった)環境問題への対策という両面で、イランは深刻な問題を抱えている。過去数十年にわたる失策のツケだ」、とシックは説明した。

アメリカによる経済制裁の再開はイラン経済に悪影響を及ぼすことになるものの、長期的な問題の影響の方がはるかに深刻だという。

だがこうも言う。「経済制裁への恐怖から、イラン経済は確実に悪化した。通貨リアルが急落しているのも驚かない。次に何がイラン経済を待っているのか、誰にも分からないのだから」【8月2日 Newsweek】
********************

上記記事の最後に出てくる“水資源の枯渇”という問題は、イランよりはチグリス・ユーフラテス川の恵みを受けてきたメソポタミア・イラクが深刻だという話もあるようですが、それはまた別機会に。

制裁の中核は11月からのイラン経済を支えるイラン石油の輸入禁止でしょう。
世界の2大原油消費国の中国とインドは、イランからの原油輸入を増やしているという話はあるにしても、アメリカが「ドルを介した国際決済」を管理する形で米国内の銀行・金融機関の取引を厳しく監視すれば、そうもいかなくなるのでは。

会談提案で揺さぶりをかけるトランプ大統領 ロウハニ大統領にとっては高いハードル
イランの苦境を見透かすように、トランプ大統領はロウハニ大統領との会談について「彼らが望むならいつでも会う」と“揺さぶり”をかけています。

****トランプ氏、イラン揺さぶる トップ会談に意欲示す****
トランプ米大統領は30日、イランの核開発をめぐって対立する同国のロハニ大統領と前提条件なしで会談する意欲を示した。

8月7日に米国がイランに対する経済制裁を再開させるのを前に、イランを揺さぶる狙いとみられる。イランでは反米を基調とする保守強硬派が勢いを増しており、対外融和を掲げる保守穏健派のロハニ師は厳しいかじ取りを迫られている。
 
トランプ氏は30日、ホワイトハウスで会見し、ロハニ師について「私は誰とでも会う。彼らが望むなら、いつでも好きな時にだ」と述べたうえで、「条件はつけない」と強調した。
 
ただし、「彼らに(会談の)準備ができているかは分からない。今は大変な時だろう」とも指摘した。保守強硬派と保守穏健派の対立が深まるイランの国内事情を見透かし、イランの核開発をめぐる交渉を米国有利に進め、11月の米中間選挙を前に政治的成果を得たい思惑も透ける。
 
トランプ政権は5月、米英仏中ロ独がイランと2015年に結んだ核合意について、イランの核開発規制に期限があるなど「致命的な欠陥がある」として離脱。90日と180日の猶予期間を経て、全ての制裁を再開させると表明した。
 
最初の制裁再開は8月7日の予定で、イランの自動車関連企業との取引やイラン政府による米ドル取得などが対象。

制裁で経済が大打撃を受ける恐れから、イランはすでに物価高になっており、6月には首都テヘランで物価高に抗議するデモも相次いだ。国会では保守強硬派の議員がロハニ師の経済運営に反発し、ロハニ師は中央銀行総裁の更迭に追い込まれた。(中略)
 
11月初旬には、イランの輸出の3分の2を占める原油を対象にする制裁も再開される。この制裁が実施されれば、イラン経済はさらに苦境に追い込まれるのは避けられない。
 
しかし、ロハニ師がトランプ氏との会談に応じるには、ハードルが高いとみられる。会談に応じれば、国政の最終決定権を握る最高指導者ハメネイ師の影響下にある保守強硬派から「米国に屈した」と非難されるのは必至で、政権基盤も揺らぎかねない。

そのため、ロハニ師はトランプ氏に対し、対決姿勢を示さなければならないとみられる。【8月1日 朝日】
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利害だけを考えればトランプ大統領が目論むように、イランとしては交渉に応じるしかない・・・ということになりますが、イラン国内には利害を超えた対米感情があり、上記記事にもあるように“ロウハニ師がトランプ氏との会談に応じるには、ハードルが高い”とも見られています。

****トランプ氏、イランは「近く対話に応じる」 「屈辱的」と反発の声も****
ドナルド・トランプ米大統領は7月31日、緊張が高まっているイランとの関係について「近いうちにイラン側が対話に応じる」と述べ、ハッサン・ロウハニ大統領らイラン指導部との対話開始が目前であるとの考えを示した。

ただ、イラン国内では米国との対話に懐疑的な見方が強く、米国との交渉は「屈辱的」なものになるという意見も出ている。

トランプ氏は米フロリダ州タンパで行われた集会で、「近いうちにイラン側が対話に応じる気がする」「実現しないかもしれないが、それでも構わない」と語った。一方で2015年に米英仏独ロ中の6か国とイランが締結した核合意については「最悪で不公平」と述べ、改めて非難する姿勢を見せた。

トランプ氏は7月30日、イラン指導部と前提条件なしで「いつでも」会うと表明したが、イラン側はこれまでのところ反応を示していない。

 国が今年5月にイラン核合意からの離脱を表明して以降、イランでは米政府との交渉について想像すらできないという声も上がっており、保守系メディアのファルス通信はイラン議会のアリ・モタハリ副議長の発言として、「イランに対する(トランプ氏の)軽蔑的な発言もあり、交渉という考えは想像も及ばない。交渉は屈辱的なものになるだろう」と伝えている。【8月1日 AFP】
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イランの体制変更は目指していないとするアメリカではあるが・・・・圧力の先にあるのは体制変更ではなく、反米保守強硬派の実権掌握の可能性
一方、アメリカ側は、あくまでも現在アメリカが求めているのは“外交交渉”“イランの政策変更”であって、イランの体制そのものをどうこうしようというものではない・・・というのが表向きの立場です。

****米政権、イランの体制変更・崩壊は望まず=マティス国防長官****
マティス米国防長官は27日、米国はイランの体制の変更、もしくは崩壊は望んでいないと述べた。

マティス長官は、トランプ政権はイランの体制変更、もしくは崩壊に向けた政策を策定したかとの記者団に質問に対し、「何も策定されていない」とし、「イランは軍事力や秘密警察などを利用して及ぼすことのできる数々の脅威を巡る態度を変える必要があると考えている」と述べた。

オーストラリアのメディアは、オーストラリア当局は米国は来月にもイランを爆撃する可能性があるとの見方を示していると報道。マティス長官はこれについて「作り話に過ぎない」とし、「こうしたことは現時点では検討されていない」と述べた。【7月28日 ロイター】
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しかし、ボルトン大統領補佐官がかねてより「イランの行動や目的は変わることはない。よって我々にとって唯一の解決方法は、イランの体制そのものを変えることだ」という主張を繰り返しており、かつては「イランを空爆せよ」とも主張していたことは周知のところです。

大統領補佐官になってからは、そうした強硬論は控えて、「政権転覆は、トランプ政権の方針ではない」とはしていますが、ボルトン補佐官誕生以前から、トランプ政権の対イラン政策には「政権転覆」が含まれているのでは・・・との見方もあります。

イランには現体制の武力打倒を目指すムジャヒディン・ハルク(MEK)といった組織もあって、アメリカやイスラエルがこうした組織支援を通じて、イラン現体制への破壊工作などを画策しているのでは・・・とも。

ただ、MEKのような勢力はイラン国内ではほとんど影響力を持っておらず、そうした面での体制転換は非現実的と思われます。

アメリカがイランを追い詰めた結果生まれるのは、体制転換ではなく、現在の穏健派ロウハニ政権が倒れ、より対米強硬論の保守強硬派(例えば革命防衛隊司令官のスレイマニ氏など)が実権を握り、さらに緊張が高まることではないか・・・と思われます。

****イラン最強硬派が政権を握る悪夢****
核合意を離脱して制裁再開に動くアメリカ 体制転換を見据えるが、その先に待つものは

79年のイラン革命以降、歴代米政権はほぼ例外なくイランの体制転換を望んできた。トランプ政権もしかりだ。対イラン強硬派のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら米政権高官は今や、イランの現体制を揺さぶるべく最大限の圧力をかけようとしている。
 
5月8日にイラン核合意から離脱して以来、アメリカは対イラン制裁の再開に向けて動き、イラン産原油の輸入国に全面禁輸を求めてきた。通貨リヤルが市場最安値を更新し、イラン経済がかつてない圧迫にさらされているように見えるなか、アメリカはこの危機に乗じてイランの政治システムに変革をもたらすべきだとの声も上がる。
 
マイク・ポンペオ米国務長官は5月21日に行った演説で対イラン戦略の概略を語り、政権交代に向けた「スケジュールを定める」ようイラン国民に呼び掛けた。さらに1ヵ月後、今度はツイートで「腐敗や不正、指導層の無能力に嫌気が差している」人々への支持を表明した。
 
しかし、イランの現体制は彼らが考えるほど脆弱ではない。仮に圧力で変革が実現するとしても、その先に何か起こるか、トランプ政権は立ち止まって考える必要がある。
 
情勢は不穏であっても、イランの体制は崩壊の瀬戸際にはない。それどころか、2つの事実が生き残りの可能性を示唆している。
 
第1に、現体制は40年近くにわたって、圧力強化にさらされつつも存続している。(中略)

抵抗勢力不在で内戦へ?
第2に、イランではこの数カ月間に生活苫や水不足に抗議するデモが発生したが、これらは経済難や汚職、資源の不適切管理に対する不満の広がりを受けたもの。体制転換を担える組織的な反政府運動の一環ではない。(中略)

現在の社会不安がイランの体制崩壊につながると仮定したところで、反体制派武装組織モジヤーヘディーネ・ハルグ(MEK)など、ボルトンら体制転換論者が指導者に据えたいと望む勢力が新体制の舵を取る可能性は極めて低い。
 
MEKはイラン国内に組織的な支持基盤を持たない。80年代にイラン・イラク戦争中にイラクのフセイン政権に協力し、イラン国内でテロを行った過去から裏切り者と見なされてきた。

イランの世俗派や体制に批判的な若者層からは、現政府を率いる宗教指導者よりも原理主義的だと嫌われている。
つまり数十年に及ぶ外国からの支援にもかかわらず、アメリカの対イラン強硬派が「抵抗勢力」としてたたえるMEKはイラン国民の支持を得ていない。現指導部に取って代われる有力な選択肢とは到底言えない。
 
となると、想定可能な1つ目の事態は内戦の勃発だ。そうなればイランのみならず、地域全体の安定が破滅的な影響を受けることになりかねない。

イラクやアフガニスタン、シリアで深まる泥沼は欧米にとって最悪のシナリオの象徴。イラン国民にとっては、近隣国のように不安定化と内戦に陥ることへの懸念が、政府への抵抗を自重する大きな要因になっている。(中略)

たとえ今の生活が苦しくても、抜け出す道がシリアやイラクと同じ混乱につながるのならば、国民は安全と安定と秩序を選択するはずだ。

クーデターが起きたら
想定できる2つ目の事態で、体制崩壊の結果として起こる可能性がより高そうなのが、秩序回復をうたう軍による権力掌握だ。

クーデターを率いる可能性が最も高いのは、米政権内の対イラン強硬派が最も恐れる男。イラン革命防衛隊の精鋭で、対外軍事行動や特殊作戦を担うクッズ部隊のカッサム・スレイマニ司令官だ。
 
スレイマニは次の指導者の最有力候補だ。シリアとイラクにおけるテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討戦で果たした役割を受けて、国民の間で英雄視する動きが高まっている。(中略)公式な指導者には就任しなくても、スレイマニがイランの事実上のリーダーになる見込みは十分ある。
 
状況を考え合わせると、最大限の圧力に踏み切ろうとする米政権の政策は、結果的にアメリカに悪夢をもたらしかねない。

イランの体制転換を主張する者たちは、不安定化と混乱を招く前によく考えてみるべきだ。転換後の新たな体制は、米政府にとって今以上に厄介な存在になりかねないのだから。【8月7日号 Newsweek日本語版】
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別に“クーデター”という形でなくても、現在の穏健派が国民支持を失い、保守強硬派にとって代わられるということは十分にあり得る可能性でしょう。

改革派のムサビ元首相らの軟禁解除の意味合いは?】
アメリカと国内保守強硬派によって追い詰められつつある・・・・という感の穏健派ロウハニ政権ですが、意外だったのは、7年前から自宅軟禁下にある改革派野党指導者のミルホセイン・ムサビ元首相とメフディ・カルビ元国会議長が軟禁解除されるという動きです。

****イラン、改革派のムサビ元首相らの軟禁を解除 家族証言****
2009年のイラン大統領選後に起きた大規模な抗議デモを主導したとして7年前から自宅軟禁下にある野党指導者のミルホセイン・ムサビ元首相とメフディ・カルビ元国会議長について、同国の最高安全保障委員会が2人の軟禁解除を承認していたことが分かった。家族が地元メディアに明らかにした。
 
現地ニュースサイトは、カルビ氏の息子が「自宅軟禁解除の決定がSNSCに認められたと聞いた」と語ったと報道。最終的に最高指導者アリ・ハメネイ師の承認をもって両氏の軟禁解除が決定するという。
 
現在のところ両氏の軟禁解除に関する公式な発表は出ていないが、米国からの圧力と経済悪化に直面するイラン政権幹部は保守派と改革派を一致団結させようと躍起になっている。(中略)
 
ロウハニ氏は2013年、2017年の大統領選でムサビ氏とカルビ氏の釈放を公約として掲げ、SNSCの議長も務めているが、これまで2人の釈放に向けた動きはみられていなかった。【7月29日 AFP】
******************

保守強硬派が歓迎する動きとも思われませんが、こうした動きの意味合いが“保守派と改革派を一致団結させよう”というものなのか、それ以外のところにあるのか・・・・よく知りません。国民の支持をつなぎとめようとする動きでしょうか。
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イラン・米の「石油」攻防激化 ホルムズ海峡封鎖や物々交換も トランプ氏はツイッターで「下げろ!」

2018-07-06 23:26:54 | イラン

(モスクワ・クレムリンで、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(右)と握手するプーチン大統領(2018年6月14日)【6月17日 AFP】 近年のOPECを仕切るのは、サウジアラビアとOPEC外のロシアの協調で“ROPEC”とも。)

米:イラン石油輸入を「ゼロ」しないと輸入国へ制裁 例外は認めない
アメリカ・トランプ政権のイラン核合意離脱、イランへの経済制裁によって両国のせめぎ合いが激しくなっていますが、石油がその主戦場ともなっています。

アメリカは来月以降、制裁を発動し、原油の取り引きは11月から対象とする方針で、一部のヨーロッパ企業はイランからの撤退の検討を進めています。

イランは埋蔵量、生産量とも世界4位を誇る有数の原油産出国です。
イランにとっては石油は外貨収入の根幹であり(2016年度で、輸出額の約3分の2が石油関連)、石油収入は国家予算の3割を占めています。

制裁解除によって2015年のマイナス成長から2016年の高成長(GDP成長率6.5%)に転じたのも石油輸出拡大がけん引しています。

アメリカは、このイラン経済の命綱を完全に断ち切ろうと強い圧力をかけています。石油輸出停止でイラン経済が崩壊すれば、政治的にも現在のロウハニ政権は崩壊します。

****米政権、イラン産原油輸入でも「ゼロ寛容」 違反なら制裁****
トランプ政権は11月4日までにイラン産原油の輸入を完全停止しなければ、輸入国に制裁を科す構えだ。

米国はイラン産原油の輸入国に対し、11月4日までに輸入量を「ゼロ」に削減しなければ、制裁を科す方針だ。イランを政治、経済の両面から孤立させる狙いがある。米国務省当局者が26日、明らかにした。
 
イラン産原油の輸入国は、輸入量を著しく減らした国への制裁を免除する形で、長期間かけて輸入量を徐々に減らすことを米国が認めると考えていた。背景には、過去のトランプ政権当局者の発言に加え、オバマ前政権も、数年をかけてイラン産原油の輸入を減らすことを認めていたことがある。
 
だが、国務省の高官は、トランプ政権はいずれの国も免除する考えはないと指摘し、イランに対して強硬姿勢で臨む立場を示した。

一方で、他の中東産油国に対しては今後、十分な原油量を市場に供給するよう求めるとしている。

この高官の発言が伝わると、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物8月限は3%急伸し、バレル当たり節目の70ドルに乗せた。これはトランプ政権がイラン核合意からの離脱を表明した5月以来の高値。(中略)

各国政府は、マイク・ポンペオ国務長官やホワイトハウスはこの問題に関して「冗談を言っている訳ではない」とくぎを刺されたもようだ。
 
銀行がイランとの取引に消極的になっており、英調査会社ボルテクサによると、イランの原油輸出量は5月の日量270万バレルから今月は平均同220万バレルまで落ち込んでいる。

石油精製国内最大手のインド石油会社は今月に入り、国営インドステイト銀行がイランとの取引停止を決めたことを受け、イラン産原油の輸入削減を検討していると明らかにした。
 
イランが輸出する原油のおよそ3分の1を購入する欧州の精製会社も、イランとの取引を打ち切り始めている。イタリアのサラスは、11月4日の期限前から銀行が資金供給を嫌がっているとして、イラン産原油の輸入を停止することを検討しているという。

欧州の精製会社はすでに、サウジアラビアやロシア、イラクからの原油輸入を増やし始めているとしている。【6月27日 WSJ】
******************

米国務省発表では、すでにエネルギー産業を中心に約50の企業がイランとの取引を取りやめる意思を示したとのこと。【7月3日 共同より】

今後の動向のカギは中国の対応
日本にも影響します。
日本は、いまも原油輸入量の5%程度をイランに頼っており、かつて米国が制裁強化した時も一定量の輸入は黙認されてきた経緯がありますが、今回は完全停止を求められています。

菅義偉官房長官は、6月27日、「米国の措置が及ぼす影響について注意深く分析をしており、日本企業に悪影響が及ばないよう、米国を含め関係国としっかり協議していく」【6月27日 朝日】とも。

イランのロウハニ大統領は、アメリカが各国に対して、イラン産原油の輸入を停止するよう求めていることについて、「一方的な措置で、国際法に反する」と述べて強く非難していますが、当然ながらアメリカは聞く耳を持ちません。

イランの最大貿易相手国である中国は、アメリカの圧力を拒否する姿勢を示しています。

****中国、米のイラン産原油禁輸要請を拒否****
中国外務省の陸慷報道官は27日の記者会見で、米国によるイラン産の原油輸入禁止要請について「国際法に合致する枠組みの中で、正常な取引や協力を保持している」などと述べ、従わない考えを示した。【6月27日 産経】
*******************

ただ、中国としても、制裁違反でアメリカの金融システムから締め出されることになるとその損失は大きく、どこまで耐えられるかは疑問です。

中国は、イラン産原油の主要購入先であり(2017年の輸入シェアは24%)、中国の動向が今後のカギとなります。

イランでは、アメリカの制裁措置を回避する手段として“物々交換”も検討されているとか。

****イラン原油取引、物々交換を検討 米制裁対応****
トランプ米政権がイラン産原油輸入の完全停止を欧州などに求めたことを受け、イラン政府は、各国との原油取引について、食物や日用品との物々交換方式とする検討を始めた。イラン学生通信が2日伝えた。

米国の制裁を回避し、大口顧客の中国やインドへの原油輸出を続けるための方策とみられる。

原油収入はイランの国家予算の約3割に当たり、経済の屋台骨だ。2015年のイラン核合意から離脱した米国は、第三国も対象とする「二次的制裁」の再開を表明し、各国に対しイラン産原油の全面輸入停止を求めている。
 
各国がイランから原油を輸入する際は、イラン中央銀行との間で決済が必要だが、決済に携わった外国銀行は制裁で米国の金融システムから締め出されるため、欧州などの銀行はイランとの取引に消極的にならざるを得ない。物々交換なら、制裁を回避できる可能性がある。
 
イラン学生通信によると、ロハニ大統領の側近でもあるジャハンギリ第1副大統領は2日、「原油輸出を減らしてはならない。米国の制裁を回避するためには、イランの原油と(小麦などの)農産物などとの物々交換も一つの方法だ」と強調。政府内で物々交換方式の作業部会をつくる方針を明らかにした。
 
ロイター通信などによると、イランは欧米から厳しい経済制裁を受けていた12年にも、原油や金塊との物々交換で米や紅茶を輸入するなどしていたという。【7月4日 朝日】
*********************

イラン:反米強硬派台頭 例によってホルムズ海峡封鎖の主張も
ただ、こうした対応には限界があります。イラン国内では反米強硬派が勢いを増し、“例によって”ホルムズ海峡ズ海峡封鎖にも言及されています。

****反米強硬論勢い増す=イラン、原油禁輸要請に反発****
イランのメディアによると、精鋭部隊「革命防衛隊」の幹部は4日、米国が各国にイラン産原油の輸入停止を求めていることに対し、「イランの原油を止めたいなら、いかなる原油輸送もホルムズ海峡を通過させない」と述べ、海峡封鎖も辞さないと強調した。

米国の強力な圧力を受けて経済が変調を来しているイランでは、反米の強硬論が勢いを増している。
 
ロウハニ大統領も訪問先のスイスで3日行った記者会見で、「他の産油国は輸出できて、イランだけできないのは国際ルールに反する」と批判。

敵対するイランの苦境を尻目に原油増産に前向きなサウジアラビアなど近隣の産油国の輸出をイランが妨害しかねないとの受け止めが広がり、世界経済全体の混乱要因となる恐れもある。【7月5日 時事】 
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ホルムズ海峡ズ海峡封鎖は、危機的状況に際してイランが持ち出す“切り札”でもありますが、どこまで現実性があるかは疑問です。

イラン革命防衛隊の海峡封鎖発言に対し、米海軍のビル・アーバン報道官は「米海軍は国際法の下で航海の自由と通商の自由な流れの確保を確実にするために用意を整えている」と、“やれるものなら、やってみろ”との対応。

軍事的に可能かどうかという問題もありますが、先述のようにイランの最大の貿易相手国は中国であり、万一、ホルムズ海峡が封鎖された場合、中国の中東からの原油輸入が大きく阻害されますので、中国がそういう措置を許さないという面もあります。

****中国、ホルムズ海峡封鎖警告巡りイランを批判 「平和のため努力を****
イラン革命防衛隊高官が、ホルムズ海峡を通過する原油輸送を阻止する可能性があると警告したことについて、中国外務省の陳暁東次官補は6日、イランは中東の安定のため一段の努力を行い、隣国と良好な関係を保つ必要があるとの認識を示した。

中国にとってサウジアラビアやイラク、クウェートは最も重要な原油供給国であり、カタールは液化天然ガス(LNG)の供給国だ。ホルムズ海峡が封鎖されれば、中国経済に深刻な影響が及ぶ。

陳氏は記者会見でイランの警告について質問されると、イラン問題も含め、中東の平和について中国とアラブ諸国は緊密に連絡を取っていると答えた。

その上で「(イランは)湾岸の国であることから、良き隣人となり、平和的に共存するよう努力すべきだ」と述べ、「中国は引き続き前向きかつ建設的な役割を果たす」との考えを示した。

中国は来週、アラブ諸国との首脳会議を北京で開く予定で、習近平国家主席が10日に開幕の挨拶を行う。【7月6日 ロイター】
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ロウハニ政権が崩壊すれば、そのあとは反米保守強硬派 イランの民主化も遠のく
イランのロウハニ大統領は、IAEA(国際原子力機関)への協力に消極姿勢をとる可能性を示す一方で、この事態をなんとか乗り切る“覚悟”を示してはいます。

“ロウハニ氏はウィーンで、核合意存続に向け奔走中だ。米国の制裁について「犯罪であり攻撃」と指摘し、トランプ氏に立ち向かうよう欧州など各国に呼び掛けた。

同氏は「イランはこれまでと同様、今回の一連の米制裁を乗り切ってみせる。米国の現政権が永久に続くことは無い。ただ他国に対する歴史的評価は今日の行動に基づいて行われる」と述べた。”【7月5日 ロイター】

いずれにしても、イラン経済が非常に苦しいのは間違いないです。
イラン通貨の暴落、インフレ等の経済情勢悪化に対して、6月25日にはテヘランの大バザールで抗議行動があり、多くの店舗も閉鎖されるという異例の事態も。

“テヘランの抗議活動は各所に広がり、「シリアから撤退し、国民のことを考えろ」とか治安部隊の暴力を非難したり、ハメネイの退陣を求める垂れ幕等が出現したとしています。”【6月27日 「中東の窓】

****イランは米の圧力に屈しない=ロウハニ大統領****
イランのハサン・ロウハニ大統領は27日、米国による新たな制裁発動に備え、国民に弱気にならないよう演説で呼びかけた。経済不振が続く同国では抗議行動が広まり、イラン政府はその抑制に動いている。
 
(中略)ロウハニ氏は「賢く愛国的なイラン国民であれば、このような圧力、暴政、卑劣な言葉、そして侮辱には屈しない」と述べた。また国民に団結を求め、「米国を屈服させよう」呼びかけた。

イラン国内では政府の経済政策に不満が高まり、ここ数日にわたり抗議行動が広まっている。国際通貨基金(IMF)はイランの経済見通しに関し、核合意発表後は一部制裁の解除を受けて好転したものの、今年の国内総生産(GDP)成長率は低迷すると予測。イラン政府はふた桁台のインフレ率や失業率の高まりへの対応でも苦戦している。
 
その中で米国が新たな制裁を課すと警告したことで、ここ数カ月は下落基調にあった通貨リアルもさらに急落した。地元ビジネスも影響を受け、今週は首都テヘランにある国内最古のバザールでストライキが発生。抗議行動は各地に広まっている。
 
ロウハニ氏は演説の中で、「苦難に耐えられること、われわれの独立や民主主義、イスラムの教え、国の制度、そして信仰は手放さないことを世界に示すべきだ」と述べた。【6月28日 WSJ】
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ロウハニ大統領がどこまで耐えられるかはわかりませんが、トランプ大統領の強引な圧力が奏功して現政権が崩壊したとしても、そのあとに出現するのは、民主化や人権に消極的な反米強硬派でしょう。
何のためのイラン核合意離脱・強力な制裁再開なのか、よく理解できません。

【「二兎を追う」トランプ大統領 石油価格引き下げにこだわる背景には米国内事情も
そのトランプ大統領は、イラン原油が市場から消えることで原油価格が高騰することのないように、サウジラビアに圧力をかけてOPECの増産を求めています。

****OPEC、日量100万バレルの小幅増産で合意 7月から実施****
石油輸出国機構(OPEC)は22日開催した定例総会で、OPEC加盟国とロシアなどの非加盟国が協調し、世界の原油供給量の1%に相当する日量約100万バレル増産で合意した。7月1日から実施する。関係筋2人が明らかにした。

OPEC加盟・非加盟国がこれまでの協調減産を転換して増産に踏み切ることについては、米国による経済制裁を理由にイランが反対姿勢を示していた。

ただ、米国や中国、インドなどの原油消費大国から価格抑制や供給逼迫回避に向けた増産要求が高まる中、総会が始まる数時間前に主要産油国サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相がイランのザンギャネ石油相を説得した。

関係筋によると、ベネズエラなど最近生産が落ち込んでいた一部産油国がフル稼働に戻る見通しは立っておらず、他の産油国が不足分を埋め合わせることは認められていないことから、実際の増産量は100万バレルを下回る見通し。(後略)【6月22日 ロイター】
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価格低下につながる増産にイランが最終的に同意したのは、増産の国別配分が明確にされなかったことでイランのメンツも立つこと、もともとの減産目標以上に落ち込んでいる現在生産量が本来の減産水準に戻るだけとも解釈できること、増産を求めるロシアへ配慮したことなどが挙げられています。

トランプ大統領の方は、OPECに対しまだ不満なようで、例によってツイッター外交を展開しています。

****トランプ氏、ガソリン高でOPEC非難 「今すぐ引き下げろ****
トランプ米大統領は4日、ガソリン価格を吊り上げているとして石油輸出国機構(OPEC)を再び非難し、加盟国に価格引き下げに向けた一段の対応を求めた。

トランプ氏はツイッターに「市場を独占するOPECは、ガソリン価格が上昇していることを忘れるべきでない。OPECは助けになることをほとんど何もしていない。それどころか、米国が非常に少ない額で多くの加盟国を守っているにもかかわらず、OPECは価格を吊り上げている。これは双方向的なものでなければならない。今すぐ価格を引き下げろ!」と投稿した。【7月5日 ロイター】
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自分でイラン原油締め出しによる価格高騰を招いておいて、「下げろ!」というのもおかしな話です。
アメリカ国内のガソリン価格が上がることで有権者の反発を招くことを警戒しているのだろうか・・・とも思っていましたが、もっと明確な法的規制もあるようです。

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再三にわたり増産要請を行うトランプ大統領側にも米国防授権法の「縛り」がある。「2018会計年度」国防授権法は「イランからの原油供給が減少した場合に価格への影響が少ないことを証明しなければイランへの制裁を発動できない」としているからだ。
 
米国では夏のドライブシーズンを迎えガソリン価格の上昇懸念が高まっている状況下で、イランの原油生産減により原油価格が上昇すればガソリン価格は高騰する懸念がある。

秋の中間選挙を有利に戦いたいトランプ大統領は「イランへの猛烈な制裁」と「ガソリン価格の安定」を得たいところだが、「二兎を追う者は一兎を得ず」になりかねない。【7月6日 藤 和彦氏 JBPress「中国経済の急減速を織り込んでいない原油市場」】
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今後、原油価格がどう動くのかは、供給側・需要側双方のいろんな要因によりますが、そのあたりは今回はパスします。詳しくは上記記事で。藤和彦氏は、最大の要因として、米中の貿易摩擦激化でもたらされる中国の金融危機・急激な経済減速による石油需要減少を指摘しています。

ツイッターを利用し、原油市場を思い通りにしようとするトランプ米大統領のやり方は逆効果を招くことも。

イランのホセイン・カゼンプール・アルデビリOPEC理事は「あなたがOPECに命令し始めてからだ! そのツイートは原油価格を少なくとも10ドル押し上げた。どうかやめていただきたい。さもなければもっと上昇する!」「あなたは実際、彼らの名誉を傷つけ、主権を脅かしている。もっと礼儀を心得るべきだと思う」とも。【7月6日 WSJより】

イラン産原油を完全に市場から締め出し、一方で価格は下げろ・・・・“二兎”を捕まえることができるのか・・・どうでしょうか?

シェール革命で大幅増産したアメリカは中東石油の制約から解放された・・・とも言われていましたが、そう簡単には中東との関係は切れないようです。
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トランプ大統領の一方的イラン核合意離脱 その独善と愚行がもたらすもの

2018-05-24 22:40:45 | イラン

(イラン・イスファハンの「エマーム広場」 スカーフから前髪を出した女性も、しっかりとスカーフを被った女性も、夕暮れのひと時を思い思いに楽しんでいました。【昨年7月旅行時に撮影】)

米「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」 イラン「米は何様のつもり」】
去年、イランを旅行して目にしたのは、“神権政治”といったおどろおどろしいイメージとはかけはなれた、欧米・日本同様に自由な社会を望む人々の生活でした。(もちろん、わずか数日の観光旅行者の目でみて・・・という話ですが)

しかし、一方で、人々が集まるチャイハネ(茶店)が当局の指示で姿を消すなど、自由を求める市民の動きと、保守的勢力の微妙なバランスの上にイラン社会が成立しているようにも見えました。

8日にイラン核合意離脱を表明したアメリカ・トランプ政権は21日、ポンペオ米国務長官が核合意に代わる「新たなディール(取引)」の用意があると、新たな包括的な対イラン戦略を表明しています。

新合意の内容については、▽核計画の完全開示と永続的な放棄▽ウラン濃縮の停止とプルトニウム生産の完全な断念▽核弾頭が搭載できるミサイルの打ち上げ、拡散の停止▽テロ組織支援の停止▽シリアからすべての部隊の撤退▽近隣諸国への脅迫行動の停止など12項目の要求を挙げています。

そして、イランが要求に従わない場合は、「歴史上最強の制裁を科す」とも断言しています。

また、イランが行動で重大な変化を示した場合の「見返り」として、(1)あらゆる制裁の解除(2)外交・通商関係の完全な回復(3)先端技術へのアクセス(4)イラン経済の国際経済システムへの再統合を支援するとも表明しています。【5月22日 朝日より】

ポンペオ米国務長官は、アメリカが最終的に(イラン国民のために)イランの体制転換を求めていることを何度も示唆しています。

****対イラン強硬策、実効性は 核放棄・シリア撤退・・・米12項目要求****
トランプ米政権が21日に公表した包括的な対イラン戦略は、イランに高い要求を突きつけ、体制転換を求めていることも示唆する厳しい内容だった。

米国はイランの核開発やミサイル開発を大幅に規制する新たな国際合意を目指すが、イランは猛反発し、欧州も懐疑的で、実現は不透明だ。
 
「最後は、イラン国民が指導者を選択する」
21日に戦略を発表したポンペオ米国務長官は、米国がイランの体制転換を求めていることを何度も示唆した。

イラン国民を思いやる言葉も重ね、「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」と強調した。
 
トランプ大統領は8日、オバマ前政権下で米英仏独ロ中6カ国とイランが2015年に結んだ核合意から離脱すると表明。核合意で解除されていた制裁は8月と11月に再発動される。
 
対イラン強硬派をそろえるトランプ政権が打ち出した今回の戦略は、イランを追い込み、体制転換も排除しないものだ。

ポンペオ氏はイランに「史上最強の制裁を科す」と断言した。背景には、オバマ前政権の政治的遺産である核合意が「崩壊寸前のイランを救った」とするトランプ氏の持論がある。
 
ポンペオ氏が提示したイランへの12項目の要求には、核開発の放棄や弾道ミサイルの開発中止のほか、シリアからの兵力撤退など中東でイランの影響力を消滅させる項目が並ぶ。米国はイランにディール(取引)を迫り、見返りとして国交回復などを挙げる。
 
米国が再発動する経済制裁は、イランと取引がある他国の企業にも影響が及ぶ。だが、ポンペオ氏は「各国は(イランで)経済活動を停止しなければならない」と訴え、「米国第一」で圧力を強化する姿勢を明らかにした。【5月23日 朝日】
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こうした「イラン国民のために史上最強の制裁を科す」というアトランプ政権の姿勢に、当然ながら、イランは「何様のつもりか」と強く反発しています。

****世界は米による代理決断受け入れず」イラン大統領、米に猛反発****
(中略)ロウハニ大統領はこれに強く反発。

複数のイランメディアが報じたところによると、同大統領は文書で「イランと世界に代わって決断を下すとは何様のつもりだ」と問い、「世界は今や、米国が世界のために決断することを受け入れはしない。国にはそれぞれの独立性がある」と述べた。
 
さらにドナルド・トランプ米大統領について、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代まで「15年逆行する動き」であり、「2003年と同じ文言の繰り返し」だとその政権運営を批判した。【5月22日 AFP】
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今回のアメリカの要求は、イランにとってはのめないものであり、また、穏健派と保守強硬派の微妙なバランスの上に立つイラン政治にあっては、アメリカへの歩み寄りは保守強硬派からの“弱腰批判”に直結します。

***イラン、対決姿勢鮮明「米は何様のつもり****
(中略)核開発の完全断念やウラン濃縮の停止といった米国の要求は、核合意の修正が必要となる。だが、ロハニ師は「核合意の再交渉は一切しない」立場だ。
 
核・弾道ミサイル開発関連以外の要求も、イランにとって受け入れがたいものばかりだ。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの支援は、敵対するイスラエル牽制(けんせい)に不可欠だ。ヒズボラへの支援を続けるためにも、シリアに駐留する部隊を撤退させることはできない。
 
イランでは反米を基調とする保守強硬派が「米国の要求に屈するな」と訴えている。ロハニ師は対外融和路線を掲げる保守穏健派で、保守強硬派と対立している。米国に歩み寄る姿勢を少しでも見せれば、弱腰批判を避けられない。(後略)【5月23日 朝日】
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穏健派ロウハニ大統領としては、アメリカ抜きの核合意を欧州と維持することで、経済への打撃を食い止めたいところで、(トランプ大統領の方針が中東における核ドミノなどをもたらしかねない危険性があることに加え)イランとの現在・将来の経済関係を無にしたくない欧州側も思いは同じです。

しかし、イランと取引をした第三国の企業も対象とするアメリカの制裁措置によって、欧州がイランとの関係を続けることは困難と思われています。

フランスのエネルギー大手トタルがイランと交わしたガス田開発プロジェクトから手を引くと発表したように、すでにアメリカ市場へのアクセスを断たれるのを恐れるイラン進出欧州企業が続々とイランからの撤退をはじめています。(撤退する欧州企業の空白を埋めるのは中国だとも推測されています)

【「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった」 イラン国内にいら立ち、怒り、裏切られたという思い
国民感情レベルでみても、トランプ大統領の一方的合意破棄によってイラン国内には「アメリカに裏切られた」という思いが強く存在しており、今後経済の悪化ともに、アメリカへの反感、ひいては経済制裁解除を求めてアメリカ・欧州との核合意を進めた穏健派ロウハニ政権への失望、イラン独自路線を主張する保守強硬派的な政治雰囲気がますます強まることが予想されます。

****イランはアメリカを二度と信用しない****
<新時代の対米関係を夢見た革命防衛隊隊員は、今やアメリカの核合意離脱を悔やむ>

「アメリカはイランとの約束を守るはずだと、信じた私たちがバカだった」。そう語ったハサンは80年代の対イラク戦争に参加した、イラン革命防衛隊の元軍人。今の職業は映画監督だ。

「79年のイラン革命からもう十分な歳月が流れた。またアメリカといい関係になれると思っていたのだが」。首都テヘランの国営映画会社にある自室の電話口で、ハサンはそう言って深いため息をついた。(中略)

アメリカとの関係を変えることは可能だし、それは正しいことだと思えた稀有な時期が、こんなふうに終わってしまうのか。彼らの口調には、そもそも甘い期待を抱いたことへの後悔の念がにじみ出ていた。

今から4年前、彼らはハサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相の路線をめぐって熱い議論を重ねていた。核合意の交渉に欧州諸国とロシア、中国だけでなくアメリカも加えることの是非についてだ。

当時の彼らは、昼食時に集まって意見を交わしていた。ハサンはアメリカとの対話を支持していて、「この合意ができたら、ザリフはモサデクの再来だな」と興奮して語ったこともある。1951~53年にイランの首相だったモハンマド・モサデクは、英米に搾取されていた石油産業の国有化を推進した人物。ただし親米派のクーデターで首相の座を追われている。

あのとき、ガセムはハサンに反論して、こう言っていた。「そして結局は、同じようにアメリカに捨てられるのか」
ガセムは戦争で兄弟2人を失っていた。長兄はイラク軍の爆撃で死亡、末弟は毒ガス攻撃の後遺症で05年に死亡した。(中略)

「アメリカは中東で痛い目に遭ってきた。あんな乱暴なまねはもうできない」。ガセムにそう反論した同僚のアリは、期待を込めてこうも言った。「それに、彼らも学んだはずだ。この地域で政権転覆を目指すのは無駄だという教訓をね。ロウハニとオバマ(米政権)なら、何とか話をまとめるだろう」

筆者は14年に、革命防衛隊の隊員20人以上による議論の場に何度も同席した。当時は慎重ながらも楽観的な見方が多かった。革命防衛隊が核合意を阻止するという欧米メディアの観測に反して、実際に私の接した隊員たちは交渉に期待していた。

改革の一歩という期待
ガセムのような慎重派がいたのは事実だが、筆者の会った人の半数以上は、ハサンの「両国とも過去の遺恨を忘れるときだ」という発言に賛同していた。

年齢40代後半から50代前半の彼らは、これからは自分たちが国を背負っていくのだと自負。欧米諸国に積極的に関与し、宗教的な縛りを減らし、経済を開放する意欲に燃えていた。

筆者の目にした隊員たちは狂信的な過激派ではなく、自分の意見を自由にぶつけ合っていた。政治家や官僚の無能さを鋭く指摘し、革命以来この国を牛耳っている聖職者への批判も口にしていた。 

もちろん、全員が核合意に賛成していたわけではない。しかし80年代にイラン・イスラム共和国を守るために命懸けで戦った彼らは、革命の理想を失わずに内部から改革を進める必要性を感じていた。つまり彼らは現実主義者だった。

ハサンをはじめ、筆者が何年も対話してきた元隊員らは、イデオロギーにこだわり過ぎることのリスクを承知していた。(中略)

核合意は15年7月に成立。しかしハサンたちは、手放しでは喜べなかった。それは待望の変化への重要な一歩だったが、あいにくアメリカ側に不気味な予兆があった。

16年の大統領選挙だ。当選したドナルド・トランプは核合意の破棄を唱えていた。そしてイラン嫌いのジョン・ボルトンが国家安全保障担当の大統領補佐官となり、マイク・ポンペオが国務長官になり、ついに5月8日、核合意からの離脱を発表した。

対米関係が徐々に改善されていくことに期待していた隊員たちは、落胆するしかなかった。

大使館人質事件が遺恨
「ガセムが正しかったな。アメリカ人を信じるべきじゃなかった」とハサンは言った。

当初から核合意の先行きを危惧していたガセムも、それ見たことかと喜ぶ代わりに、こう指摘した。「仲間たちがイランの核合意を支持したときに見落としていたのは、革命でイランから追い出されたことを根に持つ勢力が米政界の主流にいる事実だ。革命直後の在イラン米大使館人質事件は、彼らにとって飼い犬に手をかまれたようなものだった。アメリカが望んでいるのは、われわれの全面降伏だ」

「どちらの国にも、新たな関係を築こうとする人はいる」とガセムは続けた。「しかしアメリカのオバマ派もイランのロウハニ派も、所詮は政界の一勢力にすぎない」

いら立ち、怒り、裏切られたという思い。14年に会い、この数週間に電話で話した彼らの口ぶりからは、そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。そして彼らは異口同音に「自分はバカだった」と漏らした。

「イランは核合意を守ってきたが、アメリカは約束を破った。それだけでなく、イランについて嘘を広めようとしている」。ハサンは、イランが秘密裏に核兵器の開発を続けているとのアメリカとイスラエルの主張に怒りを表した。

「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった。でも米国民や国際社会も、また(アメリカとイスラエルの)同じ嘘にだまされるほどバカなのか」

トランプのアメリカが今後どう出ようと、イランは欧州諸国との協調を維持すべきだ。筆者が接触してきた元革命防衛隊員たちは全員、本気でそう願っている。「しかしアメリカとの関係では、私たちは二度とバカなまねはしない」。そう言ったのは元幹部のメフディだ。

「この国の頂点に立つ老師たちは、もともと一度としてアメリカを信用したことがない。彼らは今頃、私たちを物笑いの種にしているだろうな」【5月18日 Newsweek】
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トラウマにとらわれたアメリカのタカ派が長年追求し続けている「体制転換」という現実無視の夢想
イランに圧力をかけることで体制転換が実現する・・・という発想がどこから出てくるのか?
トランプ大統領のかける圧力は、イラン国内にひろく存在した常識的・現実主義的な市民感情を押しつぶし、アメリカが夢想する神権政治的な体制へとイランを追いやるだけにすぎないように思われます。

トランプ大統領とその支持者たちのイランへのイメージは、大使館占拠事件のときのまま時が止まっているようにも思えます。そのトラウマにとらわれたイラン憎しで凝り固まっているようにも。

もちろん、イランが周辺地域にその影響力を拡大しようとしているのは事実です。ただ、それはアメリカも、ロシアも、中国も・・・どこの大国・地域大国でも行っている行為であり、イランだけのことではありません。

アメリカの圧力の結果、反米・保守強硬派の強まるイランも核合意を離脱し、核開発に乗り出すことに。
そうなればパキスタンの核開発パトロンであるサウジアラビアは核兵器の移転を求めることにもなります。(両国の間には、そのような密約があると言われています)

サウジが核兵器を保有すると、アラブ首長国連邦、クウェートなどもパキスタンから核兵器を購入し、エジプトは自力で核開発を行う・・・・中東の核ドミノが始まります。【5月20日 佐藤優氏 産経】

イランの核開発を警戒するイスラエルは、イランの核開発が成果を出す前に軍事行動に出る可能性も。
中東大乱の幕開けです。トランプ大統領の望みがそうした戦争でイランを叩きつぶすことであるなら、大成功かも。
ただ、イラン・イラク戦争を耐えたイランは空爆などでは屈服しません。イスラエル・アメリカもイランの泥沼にはまることになるかも。

****イラン核合意離脱を欲した米強硬派が夢見る愚かなシナリオ****
<イランに核兵器を持たせたくないなら、核合意を維持強化するのがベストの選択肢だった。世紀の失策をやらかしたトランプ一味の考えとその恐るべき影響は>

以前から予想されていたように、ドナルド・トランプはイランとの核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)からの離脱を決定した。これはトランプ自身のエゴやバラク・オバマに対する嫉妬、強硬派の支持者やタカ派の大統領顧問たち、何より彼自身の無知に屈した結果だ。

今回のトランプの決定は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱と共に、彼の最悪の外交失策となる可能性が高い。

なぜこんなことになったのか。トランプの心の内を理解することが重要だ。

トランプは、イランが核兵器を保有するのを阻止しようとしたわけではない。もしそれが狙いならむしろ合意の維持にこだわり、最終的には合意を恒久化するために交渉する方が、はるかに筋が通っている。

そもそも、イランの核関連施設を監視し査察する国際原子力機関(IAEA)と米情報機関は、核合意に署名して以来、イランはこれを完全に遵守していると保証している。政治ジャーナリストのピーター・ベイナートが指摘するように、約束を守っていないのはアメリカのほうだ。

アメリカは信用を失った
トランプは、シリアのバシャル・アサド政権やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラを支援するイランに対抗しようとしたわけでもない。もしそれが狙いなら、イランの核兵器保有を妨げる合意を維持し、他の国々をアメリカの陣営に引き入れて、イランに圧力をかけることこそ合理的だったはずだ。

だが、核合意を成立させた多国間の連合を新たにまとめることは不可能であるばかりか、イランはアメリカと交渉する気を失くしてしまった。トランプはいずれそのことを思い知るだろう。

信用を犠牲にしてまで核合意を離脱したトランプの真意は単純だ。イランをペナルティボックスに入れて、外界との接触を断とうとしたのだ。

この点、イスラエルと米イスラエル・ロビーの強硬派、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官、マイク・ポンペオ国務長官らタカ派の思惑は一致している。

彼らの最大の懸念は、アメリカと中東の同盟国がイランを正当な中東の大国と認めざるを得なくなること、イランが中東である程度の影響力をもつのを認めなければならなくなることだった。

イランが中東を支配しようとしている、という話ではない。イランはおそらくそんなことをめざしていないし、達成できる見込みもない。問題は、中東におけるイランの権益を認めなければならないことであり、その結果、地域の問題について話し合うときには、イランの意向も考慮せざるを得なくなるということだ。

これは、イランが国際社会から孤立した「のけ者」であり続けることを望むアメリカのタカ派にとって、受け入れがたい事態だ。

アメリカのタカ派やイランの反政府勢力が長年追求し続けているのは「体制転換」という甘い夢だ。(中略)

タカ派は、体制転換には2つのルートがありうるとみている。

第1のアプローチは、経済的圧力を強めてイランの一般国民の不満を煽り、現在のイスラム共和制が崩壊するのを期待する。第2は、イランを挑発して核兵器開発計画を再開させ、アメリカが予防的に戦争を仕掛ける口実にすることだ。

制裁による体制転換は望めない
これらの選択肢をもう少しくわしく見てみよう。(後略)【5月9日 Newsweek】
*********************

トランプ大統領の独善と愚行は、イラン国内の自由・民主化を求める市民感情を押しつぶし、イランを反米強硬派へと走らせ、中東に核拡散の危機を招き、イスラエルを巻き込んだ戦争を惹起するだけにすぎないように思います。
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イラン核合意  5月にトランプ大統領は制裁再開・合意破棄の流れ 懸念されるイラン国内・中東への影響

2018-04-16 23:07:51 | イラン

(2017年9月、テヘランの広場に設置されたミサイル【4月10日 ロイター】 ミサイル開発は、イラン・イラク戦争の悲惨な記憶を抱えるイランにとって安全保障上の“核心”であり、制限は困難とも)

5月のイラン核合意破棄に向かって突き進むトランプ政権
アメリカでは、イラン核合意に基づく経済制裁解除を継続するかどうか定期的に大統領が判断する仕組みになっており、オバマ前大統領のレガシーでもある核合意に否定的なトランプ大統領のもとで、今年1月の見直し時期も相当に危ぶまれながらもなんとか制裁再開が見送られ、かろうじて核合意が維持されました。

ただし、「これが最後だ。合意の欠陥が修正できなければ、核合意を終わらせる」とも。

****トランプ大統領 イラン核合意は維持も強硬姿勢鮮明に****
(中略)アメリカのトランプ大統領は、12日、声明を発表し、アメリカがイラン核合意に基づいて解除しているイランに対する経済制裁について制裁の再開を見送り、核合意は当面維持される見通しとなりました。

核合意に参加したヨーロッパなど関係国や、トランプ政権内部からも合意の維持を求める声が相次いでいたと伝えられていて、トランプ大統領としては、こうした意見に配慮したものとみられます。

一方で、トランプ大統領は、今の核合意は失敗だと非難し、核施設への査察の強化や、ミサイル開発の制限などが必要だと主張したうえで、「これが最後の機会だ。私はヨーロッパ諸国に合意の欠陥の修正を呼びかける。修正できなければ、核合意を終わらせる」として今後、核合意からの離脱も辞さない構えを示し、イランやヨーロッパ諸国を強く警告しました。【1月13日 NHK】
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そして、来月12日が次の見直し時期になりますが、流れは制裁再開に向かっています。

トランプ大統領は3月には、「イラン核合意などいくつかのことで意見が合わなかった」ということで、核合意維持を主張していたティラーソン国務長官を解任し解任し、後任には対イラン強硬派のポンペオ氏を起用、また、安全保障担当大統領補佐官には、マクマスター氏に代えて、かつて「イランの爆弾を止めるには、イランを爆撃せよ」と主張していたボルトン氏を起用・・・ということで、5月の制裁再開に向けた布陣を進めているようにも見えます。

ポンペオ氏は上院外交委員会で行われた指名承認公聴会で、イラン核合意の「修正」を支持する考えを示したうえで、15年の締結前にイランが核開発を「急いでいた」とは考えておらず、合意が破棄されても核開発を急ぐ状況にはならない見通しだと指摘しています。【4月13日 ロイター】

下院でも・・・

****イラン追加合意、不成立なら離脱 ポンペオ氏表明****
ポンペオCIA長官は12日、イラン核合意について「修正が米国の国益にかなうことだ」と公聴会で述べた。

マティス国防長官も下院軍事委員会の公聴会で「修正が必要だ」と発言、トランプ大統領が核合意離脱・破棄の判断期限に設定している5月12日に向け英仏独3カ国などと「追加合意」に向けた検討を続けたい考えを示した。
 
イランが2015年に米欧など主要6カ国と結んだ核合意に関しトランプ政権は、一定期間後に核開発制限が解除される「サンセット条項」の撤廃や核関連施設への査察強化などを反映した追加合意を求め、実現しなかった場合は合意を離脱し対イラン制裁を再発動する考えを示している。

ポンペオ氏は「まだ1カ月の時間が残されている」としつつ、「大統領は考えを明確に示している」と指摘した。
 
一方、マティス氏は、修正に関し「同盟国と緊密に連携している」と述べ、離脱の是非については現時点での論評を避けた。【4月14日 毎日】
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ボルトン氏は最近でも「(イラン核合意は)米国にとっては戦略上、大失敗だったと思う。表面をいじることは常に可能だが、豚に口紅を塗って実際に何か変わるのだろうか。答えは明らかに『ノー』だと思う」(3月20日、FOXニュースでの発言)と語っています。【3月24日 Bloombergより】

****トランプ米大統領、5月にイラン核合意破棄も=上院外交委員長****
米上院外交委員会のボブ・コーカー委員長(共和党)は18日放送の米CBSの番組で、トランプ大統領が5月にもイランとの核合意を破棄するとの見方を示した。

コーカー氏は「欧州の関係国が枠組み維持に本気で取り組まなければ、大統領は離脱を決めると思う」と発言した。

ロイターが確認した機密文書によると、英国、フランス、ドイツは、大陸間弾道ミサイル実験などを理由に欧州連合(EU)として新たな対イラン制裁を提案し、米国を核合意につなぎ留めようとしている。

トランプ大統領は1月、欧州関係国がイラン核合意の欠陥修復に合意する必要があり、そうでなければ制裁を再開すると表明。トランプ氏が5月12日に制裁停止措置を延長しなければ、制裁は再開されることになる。【3月19日 ロイター】
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一方で、こうした制裁再開・核合意破棄に向かう流れに反対し、核合意維持を求める声も。

****米の外交安保専門家118人 イラン核合意の維持求める声明****
(中略)トランプ大統領は、今月、ティラーソン国務長官を解任し、後任に保守強硬派のCIAのポンペイオ長官を指名したのに続いて、安全保障担当のマクマスター大統領補佐官も交代させ、後任にイランや北朝鮮への武力行使も排除しない姿勢のボルトン元国連大使を起用すると発表しました。

これを受けて、ペリー元国防長官やスコウクロフト元大統領補佐官など共和・民主の外交安全保障の専門家118人は、トランプ政権がイランの核合意から離脱するおそれがあるとして、合意の維持を求める声明を発表しました。

声明は、核合意が国際社会の監視のもとイランの核開発に厳しい制限を課していると評価しているほか、アメリカが離脱することにヨーロッパの同盟国が反対していることや、北朝鮮の核交渉にも悪影響を与えかねないことなど10の理由を挙げて、トランプ政権に核合意の維持を求めています。

声明に署名した元高官は、一連の人事の刷新で外交安全保障のタカ派色が強まり、核合意から離脱しないようトランプ大統領を説得できる側近もいなくなったとして、強い懸念を表明しています。【3月28日 NHK】
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なお、ムニューシン米財務長官は11日、トランプ米大統領が5月12日に対イラン制裁の停止措置を解除すると決定したとしても、2015年のイラン核合意からアメリカが離脱することを必ずしも意味するわけではないとの見方を米下院歳出委員会の公聴会で示しています。【4月12日 ロイター】

EU:ミサイル開発に関する制裁案協議は難航
トランプ大統領が特に問題視している、現在の核合意にミサイル開発制限が含まれていないことに関して(もともと核開発とは別物ですから)、核合意の維持を希望する欧州は英独仏を中心に、核合意とは別枠でミサイル開発制限に向けた制裁を取りまとめることでトランプ大統領をなんとかなだめようとしていますが、うまくいっていないようです。

****<EU>イラン制裁見送りの公算大 外相会議で制裁案協議へ****
欧州連合(EU)は16日に外相会議を開く。イランの弾道ミサイル開発に関連し、英独仏提示の制裁案が協議されるが、複数のEU外交筋によると合意は見送られる公算が大きい。3カ国は制裁案について、米国をイラン核合意から離脱させないための説得材料と位置付けていた。
 
トランプ米大統領は2015年に米欧など6カ国とイランが結んだ核合意に弾道ミサイル開発の制限が含まれていない点などを問題視。修正ができなければ離脱すると表明し、欧州側に再交渉を求めた。

この日のEU外相会議は、トランプ氏が設定した5月12日の期限までに加盟国の外相が公式に集まる最後の機会だった。
 
英独仏とEUは核合意とミサイル開発は「別の問題」という立場だ。また核合意本体の修正には、共に署名した中露とイランも応じる可能性が極めて低い。

このため3カ国はミサイル開発やシリア内戦でのアサド政権への支援をめぐり、イランの軍事関係者を対象にした資産凍結などの制裁案をフランスが主導して3月中旬にまとめ、EU加盟国に提示して協議を続けてきた。
 
制裁決定はEU28加盟国の全会一致が条件だが、複数のEU外交筋によると、イタリアなどが反発している。核合意に基づくイランへの制裁解除による経済便益の影響が背景にあり、トランプ氏の説得材料にならないとしてオーストリア、スウェーデンなども反対する。

英独仏は外相会議で決裂した場合でも加盟国との協議を続け、特例の手続きも視野に来月12日までに合意につなげたい意向だ。

またフランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相は今月下旬にそれぞれ米国を訪問し、トランプ氏に核合意を維持するよう説得する。【4月16日 毎日】
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イラン・イラク戦争の“トラウマ”からミサイル開発制限には応じないイラン
ただ、EUが経済制裁などを背景にイランのミサイル開発に制約を加えようとしても、イランがこれに応じる可能性は低いとも指摘されています。

日本や欧米などではあまり意識されていませんが、イランにとって深刻な“トラウマ”ともなっているのは、イラン・イラク戦争において、イラク・フセイン元大統領によるミサイル攻撃によって多大の犠牲を出しながら、イラン側にはこれに応戦するミサイルが1発もなく、どの国もイランを支援してくれなかった・・・という記憶です。

昨年7月にイランを旅行しましたが、道路わきにイラン・イラク戦争で犠牲となった若者らの肖像が延々と並んでいる光景に、そのあたりの深い傷跡を感じました。

****迫る核合意見直し期限、イランが交渉に応じない理由****
トランプ大統領が設定した5月12日の期日を控え、歴史的なイラン核合意を救うための最後の努力として、欧州各国は同政権が問題視している主要項目について集中的な取り組みを行っている。

米国が主張する最も重要な項目は、イランによる弾道ミサイル開発を制限することに「失敗」した点だ。非核ミサイル開発の継続を許したことで、この合意による核開発制限が期限切れとなった場合、イランはすぐに核弾頭を搭載することが可能だと批判派は指摘している。

フランスのルドリアン外相は先月5日、イランを訪問して同国指導部にミサイル開発を巡る交渉に応じるよう要請した。また、米国の要求を、欧州は受け入れざるを得なくなると警告した。

マクロン大統領の下、中東で積極的な姿勢を打ち出している仏政府はその2週間後、イランの弾道ミサイル開発と7年に及ぶシリア内戦関与に対し、より強硬な対応を取るよう欧州連合(EU)を促した。

これを受け、核合意に署名した仏独英3国が、イラン政府のミサイル開発やシリア情勢に関与した「人物や集団」に対する新たな制裁を提案した。

このような一連の動きは、長期的には確実に失敗するだろう。トランプ氏が国家安全保障問題担当の大統領補佐官にタカ派のボルトン元国連大使の起用を決め、米国がイラン核合意から脱退する可能性が高まったことを踏まえれば、なおさらだ。

欧州諸国がいかなる懲罰的な対応を取ろうとも、イランが、ミサイルの射程距離に表面的な「上限」を設ける以上のミサイル開発規制に同意することは考えにくい。(イラン政府はこれまで、射程距離2000キロを超えるミサイル開発を自粛すると示している。これは、何らかの軍事衝突が起きた場合に、イスラエル中心部や中東地域の米軍基地を狙える射程だ。)

イラン政府の立場からみれば、ミサイル開発は自己保存の問題だ。数十年に及ぶ西側による制裁の影響で、強力な空軍を構築できなかったという事情もある。

イラクとの長い戦争期間中に、当時フセイン大統領が率いたイラク空軍が、いかにテヘランやタブリーズ、イスファハンやシラーズといったイラン主要都市に組織的な空爆を加えたか、イラン人は今も忘れていない。

「都市攻撃」として悪名を馳せた、1984年以降の都市部に対する戦略的な空爆作戦によって、多くの市民が犠牲となった。(中略)

イラン側も、戦闘機を派遣して報復したが、空爆の防御は防空システムに、より依存していた。これを受け、フセイン大統領は次第に組織的なミサイル攻撃を増やすようになった。ミサイル装備を持たず、国際制裁下にあるイラン政府には、なすすべがなかった。

イランのザリフ外相は、ミサイル開発が国際社会との通商関係にマイナスの影響を及ぼしていることについて日本の記者に質問され、当時を振り返ってこう答えている。

「イランには、サダム・フセインを止めるために撃ち返すことのできるミサイルが1発もなかった。われわれは、国民を守るためのスカッドミサイル1発を求め、いろんな国に次々と懇願して回った。ひたすら懇願に懇願を重ねたのだ。はした金のために、イランに国民防衛を放棄せよとあなた方は言うのか」

次に、イラン政府は、トランプ政権側が核合意の約束を守らなかったと考えている。そればかりか、米側が核合意の文言と精神に反する「あいまい政策」を利用して、イランが経済的利益を得ることを積極的に邪魔しようとしたとみている。

イランのアラグチ外務次官は2月に行われた英国放送協会(BBC)とのインタビューにおいて、ミサイル開発交渉に消極的なイラン政府の姿勢を説明する中で、この点を指摘している。

「われわれはすでに、核プログラムについて交渉を行い、その合意はイランにとって成功と言えるものではなくなっている。なぜその他の問題について交渉せねばならないのか。特に、われわれの国家安全保障に直接絡む問題について」と、同次官は話した。

イランと西側の数十年に渡る根深い不信と制度化された敵意により、イラン指導部は、譲歩や妥協をすればするほど、相手は前進し要求してくると確信するようになっている。

この確信は、イランの最高指導者ハメネイ師の演説にも繰り返し登場しており、特に国家安全保障分野のイランの政治決定プロセスにおける政治心理に入り込んでしまっている。

イラン政府が一般的に、国内の抗議活動や外国からの圧力に対して譲歩したがらないのは、これが一因だ。彼らの観点では、妥協はさらなる妥協につながり、目の前の政治問題だけでなく、政権の存続までもが救済不可能なまでに脅かされかねないのだ。

米政権が要求する通りにイランのミサイル規制を核合意に盛り込んだり、欧州が望むように別のミサイル合意を交渉したりすることで、核合意を存続させられるとは、極めて考えにくい。イラン政権と軍当局は、イランの「ミサイルと防衛力」についての交渉はありえないとの立場でほぼ一致している。

仮に国際圧力を受けてイラン側が交渉に合意したとしても、イランのミサイル開発の「質的」な制限や削減に至る交渉が出来ると期待するのは、甘く非現実的な考えだ。【4月10日 ロイター】
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合意破棄で、イラン国内では経済混乱・保守強硬派台頭・遠のく民主化 国際的にはサウジの核開発、イスラエルの軍事リアクションを誘発
イラン・ロウハニ大統領は、トランプ大統領が核合意離脱を決めた場合、イランは即座に核開発を再開させる決意を表明しています。

****イラン ロウハニ大統領 合意破棄には即座に対抗****
(中略)イランのロウハニ大統領は9日、首都テヘランで演説し「イランは最初に合意を破る国にはならない」と述べて、イランとしては合意を順守していく考えを改めて示しました。

そのうえで「仮に合意が破棄された場合には1週間とたたないうちに対応する。彼らは後悔することになる」と述べてアメリカが合意から離脱した場合即座に対抗措置をとる考えを示しました。

具体的に措置の内容については言及しませんでしたが、イランの原子力庁の責任者は地元メディアに対し「高濃縮ウランの製造は、4日間で再開できる」と述べ、核兵器の開発につながる高濃縮ウランの製造再開の可能性にも言及し、トランプ政権をけん制しました。【4月10日 NHK】
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個人的に懸念するのは、対イラン制裁再開でイラン経済が再び混乱し、結果的にロウハニ大統領など核合意を進めた穏健派が国民支持を失い、保守強硬派が発言力を強め、イランの民主化・自由拡大がさらに遠のくことです。

****イランの通貨が下落 過去最低水準に トランプ大統領の圧力で****
アメリカのトランプ大統領は、イランが核開発を制限する見返りに、制裁を解除するとした核合意について、来月にも合意から離脱し、制裁を再開するかどうか判断を示すとみられています。

こうした中、イランの通貨リアルは下落を続け、今週1ドル=58000リアルほどと過去最低の水準を記録し、ドルに対する価値は1年前に比べて60%ほど下がっています。

イラン中央銀行は10日、混乱を避けるために、リアルの市場での為替レートを固定する措置を発表し、ドルの販売が一時的に停止されました。

テヘラン市内の両替所ではドルを買い求める大勢の人が長い行列を作り、会社員の男性は「ドルが必要ですが、いつ入手できるかわかりません」と話していました。

また、輸入品を中心に物価の上昇が続き、市民生活にも影響が出ています。

トランプ大統領は、閣僚や政権幹部に対イラン強硬派を新たに起用するなど圧力を強める構えを示しており、イラン国内では経済の不透明感が増しています。【4月11日 NHK】
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国際的影響としては、イランが核開発を再開させればサウジアラビアも核開発に乗り出すことがあります。
ムハンマド皇太子は、3月の訪米の直前、CBSとのインタビューで「サウジは原爆の保有を望まないが、イランがそれを開発する場合は我々は間違いなく可能な限り早期に開発する」と述べています。

また、イランの脅威を安全保障上の最大問題とするイスラエルが、イランの核開発再開を座視すrとも思えず、何らかの軍事的アクションが予想されます。

これらにより、中東情勢はその不安定度を一気に高めることになります。
それでも、トランプ大統領はやるのでしょう。中東がどうなろうが気にもしていませんので。

シェール革命でアメリカの中東依存度が低下したこともありますが、もともとトランプ大統領が関心を示すのは、オバマ前政権と違うことをやって支持者にアピールすること、それに(コミー前米連邦捜査局長官によれば)ロシアに握られているされる売春婦との放尿プレイ動画のことぐらいのようですから。
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イラン  自由を求める女性・若者と体制の間の、権力をめぐる体制内部の“せめぎ合い”

2018-02-03 22:02:24 | イラン

(ヘジャブを掲げて抗議する女性。テヘラン市街とみられる(ツイッターから)【2月3日 産経】)

スカーフ着用強制、男性スポーツ観戦禁止への抗議
最近、イスラム支配体制のイランで話題になっているのが、イスラムの象徴とも見られることが多い女性のスカーフ着用強制への女性からの抗議の声です。

****頭髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」脱いで抗議 SNS投稿相次ぐ イラン、改革と秩序どう両立****
イスラム教シーア派の最高指導者が統治するイランで、「ヘジャブ」(頭髪を覆うスカーフ)を脱いだ写真などをソーシャルメディアに投稿する女性が相次いでいる。

1979年のイスラム革命以降、女性のヘジャブ着用が義務づけられていることへの抗議の意思を示したものだ。社会の秩序維持と、変革を求める女性の声をどう両立させるかが問われている。
 
今回の動きは首都テヘランで昨年12月、31歳の女性がヘジャブを脱いでいる写真を公開したのが発端。人通りの多い街頭で、素顔のままヘジャブを結びつけた棒を持った写真が、ソーシャルメディア上で拡散した。
 
ロイター通信によると、約30人の女性が、同様の行為を行って逮捕された。31歳の女性は数週間、当局に身柄を拘束されたもようだ。
 
女性の社会との関わりをめぐっては、世界で唯一、車の運転を認めていなかったサウジアラビアが、今年6月にも解禁する方針を打ち出した。一部の女性が車の運転席に座った写真などをインターネット上に公開し、解禁を求めてきた。
 
サウジでは女性は全身黒ずくめの服の着用を義務づけられているほか、就職や結婚、旅行に際しても男性の後見人の許可が必要とされ、むしろイランよりも厳しいルールがある。
 
イランとサウジは、シリアやイエメンの内戦などで互いに牽制(けんせい)し合う“代理戦争”を展開している。サウジの場合、次期国王と目されるムハンマド・ビン・サルマン皇太子の意向を反映した結果とみられている。
 
その一方で、皇太子は国内の社会改革に前向きとされ、米紙ニューヨーク・タイムズは昨年12月、イランとサウジの政府が女性の自由拡大という側面でも競い合う可能性があると指摘し、歓迎する識者の寄稿を掲載した。【2月3日 産経】
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社会的自由を求める女性の動きとしては、“ライバル”サウジアラビアでは一部解禁となった女性のスポーツ競技場での観戦に対する要求も。

****男装した女性のサッカー観戦相次ぐ 付けひげも イラン****
女性が男性スポーツを競技場で観戦することが原則として禁じられているイランで、男装した女性の観戦が相次いでいる。

地域の覇権を競うサウジアラビアでは女性の観戦が解禁されたばかり。ネット上には「イランではなぜだめなのか」と解禁を求める声が上がっている。
 
地元メディアによると、ザフラと名乗る女性は昨年末、首都テヘランであった男子プロサッカーの試合をニット帽と付けひげで男装して観戦。「ひいきチームの試合を生で見られなかったら一生後悔する。男装観戦をやっている人がいるとネットで知り、勇気をもらった」と語った。
 
イランでは先月下旬、若い女性が付けひげなどで男装し、男子プロサッカーを観戦する様子がSNSに投稿されて話題になった。以来、主催者側は警戒を強化。12日に北東部マシュハドであった試合では、観戦しようとした男装女性2人が警備員に止められた。
 
イランでは1979年のイスラム革命以降、人気のある男性スポーツを女性が競技場で観戦することができなくなった。禁止する法律はないが、痴漢や暴力を受けるのを防ぐための措置という。
 
一部の国会議員は解禁を求めているが、「社会的な優先事項ではない」(イランサッカー連盟)と消極的な声も強い。【1月15日 朝日】
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止められない外部からの情報流入
昨年7月に1週間ほどイランを観光しましたが、そのときの印象としては、イスラム支配体制という政治の枠組みに比べ、普通の一般国民の生活ぶりは、ワインなどたしなむ人も少なくないとか、モスク近くの住宅はアザーンが“うるさい”ので比較的安いとか、男性乗車の乗合タクシーに女性客が乗り込んできたりとか、イスラム的制約にあまり縛られていないような雰囲気も。(もちろん、ほんの数日の物見遊山の印象にすぎませんが)

そうした生活スタイルを後押ししているのが、メディアやネットを通じた外国の情報でしょう。

下記記事は、先ごろの反政府抗議行動において、革命前の“王政”を懐古する若者たちがいたことに関し、その背後に外国メディアの意図的戦略がある・・・との内容ですが、“王政懐古”云々はともかく、現代社会にあっては海外からの情報を遮断して、特異な社会秩序を維持するというのは至難の業であることは確かでしょう。

****イラン王政懐古の掛け声は衛星波に乗って広がる****
<革命から39年、王政時代に憧れる若者たち。その裏に亡命者の思惑と巧妙なメディア戦略が>

「革命を起こしたのは間違いだ!」「レザ・パーレビ!」

パーレビ王朝を打倒した1979年のイラン革命から今年1月で39年。昨年12月28日に発生しイラン各地に飛び火した反政府デモで、参加者の一部からは故モハマド・レザ・パーレビ元国王の長男の名前を叫ぶ声が上がった。

レザ・パーレビ元皇太子は57歳の今も亡命先のアメリカで暮らしており、今さら王座に返り咲くとは思えない。一方、イランのデモ参加者の大部分は20代以下――つまり自分が知らない王朝の復活を要求しているわけだ。

彼らの真剣さを疑うわけではないが、政治的見解については説明が必要だろう。なぜいま若者たちはパーレビ王朝復活を求めているのか。

原因は一言で言えばテレビ、とりわけ亡命イラン人による衛星放送のせいだ。

革命当初の亡命者はほとんどが国王の支持者で、彼らの多くがロサンゼルスに住み着いた。1990年代前半から、こうした亡命者の一部は祖国に向けて放送を開始した。

政府は当初、必死に放送をブロックしようとした。警察や治安部隊が民家を強制捜索。屋根やベランダや居間にこっそり設置された衛星放送受信アンテナを探し出して没収した。

しかし90年代後半〜2000年代前半に受信アンテナの低価格化・小型化が進み、エリート層でなくても購入でき、隠れて設置しやすくなった。しまいには当局が検挙し切れないほど普及。地元メディアによれば、総人口の70%以上が衛星テレビを視聴しているという。(中略)

最高指導者アリ・ハメネイは、欧米と亡命者がイランに対し、主にメディアを武器にして侵略する「ソフトウォー」を仕掛けていると繰り返し主張。このメディアによる侵略に新たな番組編成で反撃するよう、保守派民兵組織バシジと国営メディアに指示している。

だが視聴者を引き付けているのは、味気ない国営メディアではなく、外国の放送チャンネルだ。14年、国営文化交流センターの責任者は次のように語った。「国営テレビはつまらなくて壁に頭をぶつけたくなる。どのチャンネルでも年取った聖職者がどう生きるべきかを説教している。若者が見なくても責められない。私は現体制を支持し、イラン・イスラム文化の促進に努めているが、その私だって見やしない」

コンテンツは欧米並みに
イラン向けの衛星放送は始まって20年以上になるが、劇的に変わったのはこの10年だ。(中略)09年の英BBCペルシャ語放送の登場を皮切りに、イラン向け衛星テレビ局の質は変わった。

現在では欧米並みの高水準が当たり前のようになっている。だが何より重要なのは、コンテンツが劇的に向上したことだ。想定する視聴者層にアピールするパーレビ王朝寄りのニュースや娯楽番組がついに提供されようとしている。(中略)

それが特に顕著に表れているのが(ロンドンからの衛星放送で多くの視聴者を獲得している放送局)マノトの娯楽番組だ。リアリティーTV、ゲーム、歴史ドキュメンタリーなど多彩なラインアップで、10年以降は革命前のイランを賛美する傾向を強めている。

「古きよきイラン」を演出
なかでも昨今の王政回帰ムードを理解するカギといえる番組が『タイムトンネル』。『ニュースルーム』の人気司会者の1人を進行役に古い記録映像やドキュメンタリー、写真などを使って革命前のイランを描き出す。革命以前の文化をノスタルジックに見せる。ベールから解放されたミニスカートの女性たち。ナイトクラブとアルコールとダンスがあふれる音楽シーン......。要するに、革命を境に禁じられ、特に若者が待望している側面を見せるのだ。

決め手は、『タイムトンネル』が批判をしないことだ。見終わったときには、イランの何もかもが完璧で穏やかで、何より楽しいと思えた時代への憧れしか残らない。当時の抑圧や格差の蔓延には一切触れない。視聴者を「何もかも完璧だったのに、なぜ革命なんか起こしたんだ」という気持ちにさせる。(中略)

それでもイスラム共和制を取る現政権が国内の野党勢力を弾圧していなければ問題はなかっただろう。反政府派と野党指導者のほとんどが逮捕されたか亡命を余儀なくされ、保守派と改革派の膠着状態が長期化するなか、若者たちは現体制に代わる選択肢に飢えている。

たまたま手近にあった唯一の選択肢が、パーレビ王朝の復活を待ちわびるニュース・娯楽産業だったというだけの話だ。【1月30日 Newsweek】
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先述のイラン旅行の印象で言えば、イスラム革命が否定したはずの革命前のパーレビ王朝時代の国王宮殿などが、(特に、批判めいた形ではなく)ごく普通に“きれいで豪華な施設”として公開されていることが不思議に思えました。

イランにとってイスラムは歴史的には“比較的新しい流入文化”であり、イラン人のアイデンティティーの根幹をなすペルシャ帝国以来の連綿たるイラン・ペルシャの栄華を否定することは、イスラム支配体制としてもはばかられるということでしょうか。

根底には経済的困窮への不満
“王政懐古”はともかく、イランの若者を、一か月前の抗議運動に噴出したような体制批判に向かわせている背景、一部には革命全の過去に憧憬を抱かせている背景に、現在の経済的困窮への不満があることは言うまでもないところです。

****イラン反政府デモから1カ月】制裁にあえぐ経済、民衆困窮 政権「反米」目くらまし****
・・・・物価高への不満を機に始まったデモは全国80の都市や町に広がった。治安部隊との衝突で20人以上が死亡し、約4千人が一時拘束されたとの情報もある。イランの失業率は約13%だが若年層に限れば30%近いとされる。
 
政権は来年3月までに90万人分の雇用を創出すると述べ、国民の声に耳を傾ける姿勢を示した。
 
欧米諸国はイランに数々の経済制裁を科してきた。核・ミサイル開発疑惑だけでなく、中には人権侵害をめぐる制裁もある。トランプ米政権が2015年締結の核合意の破棄をちらつかせる中では、海外からの投資の急増は期待できず、自国で経済のてこ入れを進めるしか手はない。
 
しかし、ロウハニ大統領が切れるカードは少ないようだ。最高指導者直属の革命防衛隊や、宗教慈善団体「ボンヤード」などが国内のビジネスに深く関与し、実に国内総資産の6割を支配していると推計する識者もいる。こうした組織は税金を免除されている上、競争を嫌って起業や雇用創出を阻んでいるとされる。
 
政権は「反米」を叫ぶことで、汚職や腐敗といった問題から民衆の目をそらせる狙いとみられる。デモで批判のやり玉に挙がった穏健派のロウハニ大統領の求心力が落ち、反米が主体の強硬派が影響力を拡大すれば、米国との対決色がさらに強まる公算が大きい。【1月31日 産経】
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【“欧米の扇動”を警戒する体制側
体制側は、体制批判につながるアメリカなど外国の影響が国民生活において強まることを警戒しており、“小学校での英語教育を禁止する”という反応も。

****<イラン>小学校で英語教育禁止へ 西側の影響力警戒****
イラン政府は今月に入り、小学校での英語教育を禁止する方針を明らかにした。指導部は、幼い時期から子供に英語を教えることが「西側による文化侵略」につながるとの見解を示したという。ロイター通信などが伝えた。

イランでは昨年12月28日から約1週間、全土で反政府デモが起き、指導部は「欧米が扇動した」と主張。政権側が一層、米国などの影響力に警戒を強めている模様だ。
 
イランでは中学校に入学する12歳ごろから英語を学ぶのが一般的だが、一部は小学校で開始し、富裕・中間層では子供を英語塾に通わせる家庭も珍しくない。

英国留学経験者の保守穏健派ロウハニ大統領は「英語は就職に役立つ」と推進の立場だったが、今回の決定について「止める力はなかった」(英BBC)と報じられている。
 
一方、反米の最高指導者ハメネイ師は近年、一部の保育園にまで英語教育が導入されている現状に否定的で、度々「西洋文化の浸透」につながると指摘。一方で外国語教育そのものには反対せず「スペイン語やフランス語、東洋の言語も学ぶべきだ」と述べていた。(中略)

ハメネイ師を支える精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らは「米国などがデモ隊を扇動した」と主張。今回の英語禁止の背景には、欧米思想の若年層への過度な浸透を防ぎたい指導部の思惑があるとみられる。【1月12日 毎日】
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体制内部の権力闘争 次期最高指導者をめぐる争いも
イランの場合、“体制側”とか“政権”と言っても、改革派も支持する保守穏健派のロウハニ大統領などの勢力と、ハメネイ氏周辺・革命防衛隊・イスラム聖職者などの保守強硬派では全く立場が異なり、また、保守強硬派内部にあってもハメネイ氏周辺とアフマデネジャド前大統領は激しく対立している・・・といった分裂・抗争状態にあります。

そのあたりの権力闘争が、一か月前の抗議行動の勃発・拡散に関係していると言われています。

****イラン最高指導者「後継」巡る暗闘劇****
抗議デモが映した権力争いの混沌
イラン全土を抗議デモが覆う三カ月前のことだ。
ニュースサイト「アマドニュース」に、驚愕の一報が載った。イラン司法府長官で、最高指導者アリ・ハメネイ師の後継候補の一人、サデク・ラリジャニ氏の娘が、英国のスパイとして逮捕されたというのだ。首都テヘランの権力者、政治家は大慌てで確認に奔走し、一時は当局が「ラリジャニ一家に疑惑はない」と声明を出した。(中略)

首都を揺るがせたスパイ事件
父サデク氏は、「アヤトラ」の称号を持つ高位聖職者で、今年三月に五十八歳になる。ハメネイ師の側近である上に、兄はアリ・ラリジャニ国会議長。ハメネイ師の最高顧問であるジャヴァド氏ら他の三兄弟も要職に就き、ラリジャニ五兄弟は、「兄弟強盗団」と陰口をたたかれるほど羽振りが良い。
 
このため、少なくとも体制派政治家の間では間もなく、ひそひそ話で交わされる程度になった。
 
だが、マフムード・アフマディネジャド前大統領だけは違った。十一月中旬、自らの側近二人を連れて、テヘラン郊外の「シャー・アブドルアズィーム廟」に記者を集めて、「ラリジャニ家の全員がスパイだ」と大演説をぶった。
 
アフマディネジャド氏とラリジャニ兄弟は過去数年、不倶戴天の敵で、公衆の面前で怒鳴り合ったこともある。(中略)

前大統領は昨年の大統領選に出馬しようとして、護憲評議会の審査で失格とされた。(中略)
 
傷に塩を塗るような前大統領の粘っこい批判に、兄弟はただちに反撃。政府系メディアを使って、前政権時代の汚職、腐敗の数々を改めて国民に想起させた上、巨額横領で死刑判決が確定している、前大統領の盟友ババク・ザンジャニ死刑囚の「死刑執行間近」といったニュースをうたせた。(中略)

年末年始のイランを襲った全土での抗議デモは、この(ハメネイ師のアフマデネジャド批判)講話の翌日に始まった。

イラン・ウォッチャーの多くが、「デモを始めたのは、マシュハドの高位聖職者アフマド・アラモルホダー師で、アフマディネジャド派が間もなく便乗した」と一致した見方を示すように、抗議は当初、改革派ロウハニ大統領に抗議する保守派のデモだった。
 
今回の震源地マシュハドは、昨年の大統領選をロウハニ氏と争った、エブラヒム・ライシ師の地盤で、アラモルホダー師はライシ師の義父。抗議デモ開催にはライシ師も画策に加わったようだ。
 
きっかけは、ハメネイ講話と同じ日に、テヘラン警察が「女性のベールの巻き方が悪くても、いちいち逮捕拘束はしない」と発表したことだ。マシュハドの保守強硬派はこのニュースに反発して、ロウハニ政権に抗議したのである。
 
アフマディネジャド氏は(中略)自宅軟禁状態にあると見られ、イラン当局はデモが収束した後の一月六日になって、「前大統領逮捕」を発表した。

デモの波には実際に政府に不満を持つ若年層も加わり、死者は二十人を超えたが、二〇〇九年の「緑の革命」に比べると、格段に保守的要素が濃く、体制内の暗闘の性格があった。
 
米ジョンズ・ホプキンス大学上級国際関係大学院のヴァリ・ナスル学長は、「テヘランの大衆が大挙して加わらなかったことで、今回のデモはイラン政府にとって脅威にはならなかった」と言う。

次々と消える有力後継候補
注目すべきは、前大統領とラリジャニ兄弟の抗争や、ライシ師の暗躍がすべて、ハメネイ師の後継に向けた権力者同士のせめぎ合いであることだ。
 
最高指導者は今でも元気に「反米・反トランプ」を語り続けるものの、「病弱」説は絶えない。しかもハメネイ師が望んだ後継候補は、次々に消えている。(後略)【「選択」 2018年2月号】
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最高指導者の後継者争いもさることながら、イラン核合意に関し、1月12日に“合意違反を理由とした制裁の再発動を見送る”と発表したトランプ大統領は「これが最後のチャンスだ」と言っていますので、次回の報告時期の5月に向けて、アメリカの合意破棄の動きが現実になれば、イランの政治体制も大きく揺らぐことになります。
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イラン  収束しない抗議行動 体制批判に先鋭化 武力鎮圧の懸念も

2018-01-03 22:43:44 | イラン

(【1月2日 WSJ】非常に印象的な写真ではありますが・・・・)

政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点に
イランにおいて、核合意後も物価・失業などの経済困難が改善しない状況に対する不満が噴き出す形で始まった抗議行動が、イスラム支配の体制批判に先鋭化している状況については、12月30日ブログ“イラン 異例の抗議デモ 自身がイランの困難の元凶でありながらイランを批判するトランプ大統領”において取り上げました。

混乱は犠牲者増加を伴って拡大しており、収束にはいたっていません。

****<イラン>デモ死者21人に 全土に拡大、首都450人拘束****
イランで昨年12月28日に始まり全土に広がった反政府デモで、当局側との衝突による死者は今月2日までの6日間で少なくとも21人に達した。

警察官にも死傷者が発生。デモ隊などの拘束者は首都テヘランだけでも450人に上る。AFP通信などがイラン国営メディアの情報として報じた。

騒乱は収束の気配が見えず、イスラム体制打倒の主張や治安施設の襲撃も発生。体制護持が任務の「革命防衛隊」などが強硬な鎮圧に転じれば、反発で抗議活動が激化する懸念もある。
 
イランからの報道によると、死者は西部ツイセルカンと中部ガデリジャンで各6人、中部シャヒンシャハルで3人、西部ドルードで2人、南部イゼーで1人。中部ナジャファバードでは警官1人がデモ参加者に猟銃で撃たれ死亡し、3人が負傷した。今回の騒乱で治安当局者の死亡は初めて。
 
デモ隊の一部は暴徒化している。警察署や行政施設に投石を繰り返し、警察車両にも放火。治安部隊は催涙ガスや放水で鎮圧を図っている。また、政府はソーシャル・ネットワーキング・サービスを制限し、情報統制を強化している。
 
デモは最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど、反体制的色合いを強めている。ロウハニ大統領は31日「国民は政府を批判しデモをする権利があるが、暴力や公共施設の破壊は許容できない」と自制を呼びかけたが、効果は出ていない。
 
イランは1979年の革命で親米派の国王を追放。現在は政教一致の厳格な体制下、宗教的な権威の最高指導者が政治の広範な権限を握る。今回のデモでは王政時代を懐かしみ、一部で「シャー(国王)復活を」との声も上がったという。
 
イランでは2009年、大統領選で敗れた改革派候補の支持者らによる反政府デモを治安当局が鎮圧し、数十人が死亡。今回はそれ以降で最大規模の衝突となった。若年層の失業率が3割近くと高く不満が高まっていた。デモ隊は今回、シリアやイエメンの内戦など中東各地の紛争への政府の介入も非難し、「国内を見ろ」とも訴えている。【1月2日 毎日】
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政権は、革命防衛隊や民兵などによる武力鎮圧にはまだ踏み込んでいません。

****見えぬ打開策…武力弾圧踏み切るか****
イランで物価高への不満を機に起きた反政府デモは、大統領選の不正疑惑に端を発した2009年のデモ以降では最大規模となった。このときはデモの主導者がおり民衆の要求も明確だったが、今回は国のかじを取る中枢へと不満が拡大した上、各地でデモが同時多発的に進行している形だ。

打開策が見えない中、政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点になってきた。(後略)【1月3日 産経】
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今回の抗議行動の様相・性格等については、以下のようにも。

****イランの反政府デモ、知っておくべき5つのこと****
先月28日にイランの各地で始まった反政府デモ。市民は40年近く続いてきた宗教指導者による支配に反発を強めている。
 
2009年大統領選の結果に対する暴動以来で最も広範かつ規模が大きい今回のデモで、参加者は政権交代を求めている。イランにはイラク、レバノン、シリア、イエメンといった中東諸国に対する大きな影響力があるので、政権交代となれば広範に大きな波紋が広がる可能性がある。
 
イラン反政府デモに関して知っておくべき5つのポイントをまとめた。

1. デモはどのようにして始まったのか
昨年9月以来、経済的不満が焦点だった小規模かつ散発的なデモはイランの複数の都市で広がってきた。人々は各地で汚職疑惑、宗教法人への予算配分、退職基金の破綻などに抗議してきた。
 
12月28日、イラン北東部の都市マシュハドでは、インフレやロウハニ大統領が経済的繁栄をもたらすという約束を破ったことへの怒りを表現するために人々がデモ行進した。

イラン国民はロウハニ政権と欧米など6カ国との核合意によってイランの孤立が終わり、外国からの投資、雇用創出、購買力の増加などがもたらされると期待していた。核合意を受けてイラン経済は成長したものの、政府のデータでは失業率が約12.5%、インフレ率が10%近くとなっている。
 
そうしたデモのニュースはテレグラム、ワッツアップといったイランで人気のソーシャルメディアで拡散された。すると数時間のうちにケルマーンシャー、イスファハン、テヘランなど、他の都市でも抗議行動が起きた。

2. デモ隊は何を要求しているのか
デモ隊は従来からある改革への要求を越え、政権交代と最高指導者ハメネイ師の退任を要求している。
 
テヘランではデモ隊がハメネイ師の壁画に向かって「死んでしまえ」と叫ぶ場面もあった。地球上での神の代理人と考えられているハメネイ師をあからさまに批判することは死刑に相当する罪である。

3. デモ隊はどういったスローガンを唱えているのか
イラン国民はペルシャ語で詩の一節であるかのように韻を踏んだ政治スローガンを作ることに長けている。
デモ隊が唱えているスローガンの一部は以下の通り。
 「われわれはイスラム共和国を求めていない、そんなものは求めていない」
 「彼らはイスラム教を人々を狂気に追いやる言い訳に使っている」
 「独立、自由、イラン共和国」
 「改革主義者よ、原理主義者よ、ゲームは終わった」
 「われわれは皆イラン人だ、アラビア人ではない」
 「われわれは貧しくなっているのに、イスラム教聖職者は高級車に乗っている」

4. 政権はどう反応したか
機動隊や私服の民兵がイラン各地の街に繰り出したが、取り締まりは以前の抗議デモよりもかなり緩くなっている。
 
一部の政府高官は経済的不満について、政府が対処する必要がある正当なものだと認めるなど、従来とは異なる方針も取っている。

それと同時に、抗議活動を乗っ取って政情不安を扇動しているのは外国メディアや亡命中の反体制派リーダーなど外的な力だとも主張した。

5. 抗議デモはどこへ向かうのか、米政権はどう反応するのか
イランでの抗議デモは、リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する傾向がある。抗議デモが長引けば、政権は大量逮捕や軍による封鎖などでその取り締まりを強化するかもしれない。
 
ドナルド・トランプ米大統領はツイッターへの投稿で、イランで起きていることには世界が注視していると述べ、デモ隊への支持を表明した。ポール・ライアン下院議長(共和、ウィスコンシン州)やトム・コットン上院議員(共和、アーカンソー州)らもイラン国民との連帯を表明した。
 
イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。【1月2日 WSJ】
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体制批判を強める抗議行動 ロウハニ大統領の立場は?】
TVニュース映像では、最高指導者ハメネイ師の肖像を群衆が踏みつけにするなど、行動は過激化してもいるようです。

体制側が管理しづらいソーシャルメディアで拡散した今回の抗議行動ですが、“リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する”という限界もあります。

イスラム支配体制の閉塞感に不満を感じている国民がすくなからず存在するのは事実です。
昨年7月にイランを旅行した際にも、そのあたりは感じました。

ある者は「イランはイスラムではない」とも。その言わんとすることは、イランのアイデンティティーはペルシャ以来の歴史・文化にこそあるのであって、イスラムは数百年前にイランに入ってきたものでイランの本質に根差すものではない・・・ということでしょう。

実際、一介の旅行者の目からしても、イスラム支配体制という割には、イスラムがそれほど目立たないような印象も受けました。

ただ、そうしたイスラム支配体制に距離感を感じる一般国民が動かない限りは、体制の変革はなかなか実現しないようにも思えます。

体制批判があからさまに叫ばれる状況で、穏健派ロウハニ大統領の立場は微妙です。

ロウハニ大統領は、前回ブログでも取り上げたように、抗議行動が起きる直前に、「権利は政府にではなく、国民にある」と強調した上で、国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけていました。

****イラン大統領、デモに自制促す=批判と暴力「違う****
イランのロウハニ大統領は12月31日、国内各地に波及している反政府デモに関連し「国民は憲法に則して自由に政府を批判したり、抗議したりできる。だが、暴力や公共物の破壊行為は批判とは異なる」と述べ、デモ隊に自制を促した。閣議での発言を国営メディアが伝えた。
 
28日に始まった反政府デモに大統領が反応を示したのは初めて。デモ隊は、当初の経済苦境に対する不満への抗議にとどまらず、最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど「イラン革命体制」への批判も強めてきた。抗議行動が収拾に向かうかは不透明だ。
 
首都テヘランでは31日も200人規模のデモが行われた。大量拘束の情報も伝えられる。
 
また、ロウハニ大統領は閣議で、トランプ米大統領が「抑圧的な体制が永遠に続くことはあり得ない」とツイートしたことに反論。「イランという国家を敵視する男がイラン国民に共感する権利はない」と強く反発した。【1月1日 時事】 
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混乱が収束したのちに、体制批判ともなった混乱の責任を問われる事態も想定されます。

ただ、今回の抗議行動の発端は、保守強硬派側の“仕掛け”によるものとの指摘もあります。

“今回のデモの広がりは、反ロウハニ強硬派が意図したわけではなく、強硬派が開いた集会がたちまち制御不能となり各地に飛び火したもののようだ。”【12月30日 BBC】

“発火点は先月28日、北東部マシャドで起きた反政府デモだった。イランで信仰されるイスラム教シーア派の聖廟があるマシャドには、昨年の大統領選で穏健派のロウハニ現大統領の対抗馬として保守強硬派に支持されたライシ前検事総長が、管理を任された宗教関連財団もある。
 
このため、欧米メディアでは当初、ライシ師と関係が深く国内に大きな影響力を持つ革命防衛隊が、ロウハニ師の求心力を弱体化させるため、取り締まりの手を緩めたとの観測が出た。”【1月3日 産経】

そうした背景がイラン政治において、どのように扱われるのか?

そもそも、核合意後も物価・失業が改善しないことの批判をロウハニ大統領は受けていますが、そうした経済状況の背景には、前回ブログでも触れたように、アメリカ・トランプ政権のイラン敵視政策があります。

それに加え、保守強硬派を支える革命防衛隊や宗教関連団体が経済を牛耳る構造も大きな原因としてきされています。

“ロイター通信に識者が語ったところでは、革命防衛隊や宗教関連団体は国内資産の6割に関与しているとされ、経済改革の大きな障害になっており、ロウハニ師が打てる手段はほとんどないとしている。同師への民衆の期待がしぼみ、反米を掲げる保守強硬派が大統領の“失政”を批判し続ければ、経済改革の実現がますます遠のくという悪循環に陥る事態も予想される。”【1月3日 産経】

アメリカなど“イランの「敵」”によって扇動されていると責任転嫁する体制側
一方、体制側は、“暴動”の背景にはアメリカなど外国勢力の画策があるとしています。

****イラン最高指導者、デモは「敵」のせいと非難 米は国連会合要請へ****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は2日、同国各地でこれまでに21人が死亡した反政府デモの責任は「敵たち」にあると非難した。一方、デモへの支持を表明している米国はイランに対する圧力をさらに強め、国連(UN)での緊急会合開催を要請する方針を示した。
 
ハメネイ師は国営テレビで放送された演説で、先月28日に始まった抗議行動について沈黙を破り、「敵たちが団結し、あらゆる手段、金、兵器、政策、保安機関を用いてイランに問題を生み出そうとしている」「敵は常に、イランに侵入し攻撃する機会と隙を狙っている」と非難した。
 
今回の反政府デモや、同デモを支持する米国の姿勢については、2009年に行われた大規模な抗議運動を支持した改革派からも批判の声が上がっている。
 
米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、イラン反政府デモの問題について国連安全保障理事会と国連人権理事会での緊急会合の開催を求めていくと言明。さらに、抗議行動がイランの「敵」によって扇動されたというハメネイ師の主張について、「完全なたわ言」だとはね付けた。【1月3日 AFP】
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イランメディアは以下のようにも。

****イランが、同国での最近のデモに関するアメリカの内政干渉的な発言を非難****
イラン国連代表部が声明を発表し、イラン国内で最近発生した暴動や騒乱を支持するという、アメリカの政府関係者の内政干渉的な発言を強く非難しました。

イルナー通信によりますと、イラン国連代表部は2日火曜、この声明において、イラン国内で最近発生した暴力行為や放火などの行為をアメリカが支持したことは、アメリカとこれに同盟する地域諸国の政策の失敗を隠蔽するための工作であるとしています。

また、「アメリカによるこうした発言は、地域におけるアメリカとその地域同盟国の地域での失敗を隠蔽するためのものであり、このような方法によって勇敢なイラン国民に復讐しようとしている」としました。

さらに、「過去40年間においてイランの治安と安定は国民の力によるもので、イラン国民はメディアに惑わされることなく自らの業績を維持し、その本来の権利や歴史に残る業績が暴力によって破壊されることを許さない」としています。

この声明はまた、アメリカのヘイリー国連大使の脅迫的な発言が、イランにおける暴力主義や騒乱を支持するものであるとしています。(後略)【1月3日 Pars Today】
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トランプ大統領は抗議行動を支持するツイートを行っていますが、“イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。”【前出 1月2日 WSJ】とも。

****「抑圧政権は永続しない」 イランのデモでトランプ大統領がツイート****
イランで広がる反政府デモについて、トランプ米大統領は30~31日、ツイッターに「イランの善良な国民が変革を欲していることを世界中が理解している」「抑圧的な政権は永遠には続かない」などと投稿した。
 
トランプ氏は「イランで大規模な抗議活動が起きている。国民はいかに自分たちの金と富が(政権に)盗まれテロに浪費されているか、ようやく分かった。国民はもう現状を甘受しないつもりのようだ」ともツイート。イラン政府に言論の自由など国民の権利を尊重するよう訴えた。(共同)【1月1日 産経】
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イランにおける抑圧的なイスラム支配体制を変えるには、アメリカ・トランプ政権がイラン敵視政策をやめて、イランの経済状況改善を支援し、国内で保守強硬派と対峙する穏健派・改革派の影響力を強めていく・・・というのが現実的方策だと考えますが、現状は逆方向にあるようにも思えます。
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