孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  ウクライナの米供与長射程兵器によるロシア領内軍事拠点攻撃容認

2024-11-18 23:10:54 | 欧州情勢

(長射程兵器ATACMS【11月18日 NHK】  最大射程約300キロ・・・名古屋から東京を狙えます)

【ウクライナに領土断念を迫るトランプ次期大統領 政権移行チーム「停戦案」 ウクライナ拒否】
昨日ブログではトランプ復権に向けた世界各国の動きをとりあげましたが、トランプ復権で最もドラスティックに変わる可能性があるのがウクライナの問題。トランプ氏は今年5月「自分がアメリカ大統領なら、24時間以内に戦争は解決する」と豪語しています。

24時間云々はともかく、トランプ氏がウクライナ支援に消極的であり、同氏を支持する人々も、ウクライナ支援ではなくアメリカ国内の自分たちの生活を守るためにカネを使うべきだとしていること、アメリカの支援がなければウクライナの戦争継続は極めて困難なことから、トランプ氏が早期結着に向けてその力を行使することが予想されています。

ただ、「早期決着」が可能になるのは現在戦局において優位な立場にあるロシアの賛同が得られる場合でしょう。
そうしたロシアの主張にほぼ沿う形でウクライナに停戦を迫ることが予想され、そのあたりは11月11日ブログ“ウクライナ  ルール・理念なき「力による平和」・ディールのトランプ流外交でどうなる?”でも取り上げたところです。

トランプ新政権が考える「停戦」の中身については、現在のロシア占領地域をそのままにした形での、政権移行チームによる以下のような案が報じられています。

****トランプ次期大統領 政権移行チーム ウクライナの戦闘凍結案を検討 約1290キロにわたる“非武装地帯”設ける案 米WSJ紙報道****
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、トランプ次期大統領の政権移行チームが非武装地帯を設けるなどの戦闘凍結案を検討していると報じられています。

これは、6日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」がトランプ次期大統領に近い複数の人物の話として報じたものです。

トランプ氏の政権移行チームは、ウクライナの前線を固定化して、およそ1290キロメートルにわたる非武装地帯を設ける戦闘凍結案を検討しているということです。事実上、ロシアがウクライナの国土のおよそ2割を占領し続けることになるため、ウクライナ側が受け入れる可能性は今のところ低いとみられます。

また、案では、ウクライナには少なくとも20年間、NATOに加盟しないことを約束させる代わりに、アメリカがウクライナに武器を供給し続け、ロシアを抑制するとしています。【11月12日 TBS NEWS DIG】
**********************

この停戦案について、ウクライナ側は拒否の意向をアメリカに示しています。

****ウクライナ戦闘凍結「非現実的」 米次期政権案に拒否の意向示す****
ロシアに侵攻されるウクライナのポドリャク大統領府長官顧問はトランプ次期米大統領の政権移行チーム内で検討中とされる戦闘凍結案について「ウクライナが領土と主権を断念しなければならない。筋が通らず、非現実的だ」と述べ、拒否する意向を示した。共同通信と12日会見した。ポドリャク氏はゼレンスキー大統領の最側近の一人。

政権移行チーム内では前線を固定化して戦闘を凍結し、ウクライナが望むNATO加盟を棚上げする案が浮上したと報じられた。トランプ氏は選挙戦で、来年1月20日の就任前に戦争を解決するなどと豪語してきたが、終結の見通しは立たない。

ポドリャク氏はトランプ氏のウクライナ政策は公になっていないとした上で、凍結案は「ウクライナに犠牲を強いるだけで、ロシアに何も強制していない。侵略者を勢いづかせる」と批判し、ロシアに圧力をかけ譲歩を迫るべきだと主張した。

ポドリャク氏によると、ゼレンスキー氏は7日にトランプ氏と約30分間にわたって電話会談し、ウクライナの立場を説明した。【11月14日 共同】
********************

ただ、トランプ新政権が武器支援停止をチラつかせて圧力をかけてきた場合、ウクライナ側がアメリカの要請を断り切れるのか?もちろん支援がなくても戦うとはしていますが・・・・

【攻勢を強めるロシア】
一方、ロシアは攻勢を強めています。

****ロシア、ウクライナが奪還した東部要衝に攻撃 北東戦線で攻勢か****
当局によると、ロシアの小規模な突撃部隊が13日、ウクライナ東部ハリコフ州の都市クピャンスク郊外に短時間侵入した。北東戦線でロシアが攻勢を強めている可能性がある。

同市は重要な鉄道拠点で、2022年2月のロシアによる侵攻開始初期にロシア軍によって占領されたが、同年9月にウクライナが反撃して奪還していた。

ウクライナ軍によると、ロシア軍はウクライナ軍兵士に偽装するなどして波状攻撃を仕掛けた。ただ、ウクライナ軍はこれを撃退したという。

ロシア軍はクピャンスク戦線についてコメントしていないが、あるロシア当局者はロシア軍が同市郊外に足場を築きつつあると述べた。ロイターはこの証言を独自に検証することはできなかった。【11月15日 ロイター】
*********************

また、ウクライナがロシア領内に侵攻した地域についても、北朝鮮兵士を含む5万人規模で攻勢をかけ奪還をめざしているようです。

更に、厳冬期を迎えるウクライナの電力インフラに対しても。

****ロシア軍がウクライナ全土に大規模攻撃、厳冬期を前に発電所など標的か…計画停電実施へ****
ロシア軍は17日、ウクライナの首都キーウを含む全土に大規模な攻撃を実施した。厳冬期を前に発電所などの重要インフラ施設を標的にしたとみられる。攻撃で南部ミコライウ州や西部リビウ州などで少なくとも7人が死亡。施設への被害は大きく、18日は計画停電が行われる見通しだ。

今回の攻撃は8月以来、3か月間で最大規模とされる。ウクライナ側によれば、露軍は極超音速ミサイル「キンジャル」や巡航ミサイルなど約120発のミサイルと無人機90機を発射。ウクライナ軍は、このうちミサイル104発、無人機42機を撃墜したという。

地元当局などによると、南部のオデーサ州やミコライウ州、西部のリビウ州で計5人が死亡。東部ドニプロペトロウシク州では鉄道の施設が被害を受け、鉄道会社職員2人が死亡した。

ロイター通信によれば、首都キーウでも市街地で爆発音が響いた。住民らは避難した地下鉄駅の構内で身を寄せ合っていたという。

ウクライナの国営電力会社「ウクルエネルゴ」は17日、攻撃による施設の被害の影響で、ウクライナ全土で18日午前6時から午後10時の間、計画停電を実施すると発表した。【11月18日 読売】
********************

【バイデン大統領 長射程兵器によるロシア領内軍事拠点攻撃容認 北朝鮮参戦で方針転換】
こうしたウクライナにとって厳しい情勢で報じられ、大きな注目を集めているのが、アメリカ・バイデン政権の長射程兵器を使ったロシア領内への攻撃を容認する方針転換です。

ウクライナを支援するバイデン政権としては、トランプ新政権への引継ぎまでに極力ウクライナを有利な立場にしたいこと、北朝鮮の参戦という新たな事態への対応があると見られています。

****バイデン大統領 長射程兵器露攻撃容認 北朝鮮参戦で方針転換 派兵停止圧力も****
米メディアは17日、ウクライナに米国が供与した長射程兵器を使ったロシア領内への攻撃を、バイデン大統領が容認したと報じた。ロシアのウクライナ侵略に北朝鮮が参戦したことを契機に政策転換した。

早期停戦を主張するトランプ次期大統領の大統領選勝利を受け露軍の攻勢強化も予想され、ウクライナ軍の反撃能力をテコ入れする。北朝鮮に派兵停止を迫る圧力も意識したとみられる。

米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、バイデン氏が容認に踏み切ったのは、米国が供与している射程300キロの地対地ミサイル「ATACMS」による露領内の軍事拠点への攻撃。ウクライナのゼレンスキー大統領は同日の声明で「われわれは言葉では攻撃しない。ミサイル自体が語るだろう」と述べ、使用に意欲を示した。

ゼレンスキー氏はATACMSによる対露攻撃を戦勝計画の柱に位置づけ容認を求めてきたが、バイデン氏はロシアの米欧への報復を懸念し拒んできた。しかし、北朝鮮がロシアの侵略を支援するため約1万人の部隊を派兵。一部は、ウクライナが今夏以降占拠を続ける露西部クルスク州に投じられた。

同州が露軍側に奪還され、戦況がウクライナに不利に傾く事態を回避するため、バイデン氏は14日からの南米訪問の直前に決断した。

ウクライナはATACMSで同州内の露軍や北朝鮮軍の集結地点などを直接攻撃するとみられ、米高官は同紙に対し「これ以上派兵すべきでないとのメッセージを北朝鮮に送る」と語った。

ロシアの侵略開始以降、バイデン氏はウクライナが勝利に必要と訴える兵器や能力の提供を迅速に許可しない対応を続けてきたが、北朝鮮参戦とトランプ氏の勝利で環境は一変し、残る任期中に自らの権限で最も効果的な決断に踏み切った形だ。長射程兵器を提供する英仏なども追随するとみられる。【11月18日 産経】
*******************

欧州も同調する動き。

****EU製武器によるロシア領内攻撃、加盟国の合意を期待=ボレル氏****
 欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は18日、ウクライナがEU製の武器をロシア領内への攻撃に使用することについて、EU内で合意することへの期待を示した。

EU外相会議の前に、「ウクライナが矢を止めるだけでなく、射手を撃ち抜くためにも、われわれが提供した武器を使えるようにすべきと何度も訴えてきた」と述べた。

「これが行うべきことだと信じている。再び議論になると思うが、各国が同意することを願っている」と語った。【11月18日 ロイター】
**********************

当然ながらロシアは反発しています。ロシアの反応が核兵器をチラつかせることもなく比較的穏当なのは、まだ政治発表がないせいでしょうか。

****米、ウクライナに長距離攻撃許可なら緊張高まる=ロシア大統領府****
ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領内を攻撃することを米政府が許可すれば、緊張が高まり、米国の紛争への関与が深まることになると述べた。

ロイターは17日、関係筋の話として、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領内を攻撃することをバイデン政権が許可したと報じた。

ペスコフ報道官は、退陣するバイデン政権が火に油を注ぎ、ウクライナ紛争をエスカレートさせることを望んでいると述べた。【11月18日 ロイター】
*******************

ペスコフ報道官は「質的に新たな緊張の段階であり、米国の関与が新たな状況にあることを意味する」と語っていますが、“新たな緊張”ということでは、北朝鮮参戦という“新たな緊張”をもたらしたのはロシアの方です。

【トランプ氏周辺は猛反発 一枚岩でもない共和党内部】
アメリカ国内ではトランプ氏周辺は猛批判の様子。

****なぜ今さら長射程ミサイル解禁なのか、ウクライナ戦争をめぐるバイデン最後の賭け****
<ウクライナに米国製兵器でロシア領内を攻撃することを許可したバイデン政権に対して、戦争をエスカレートさせるのかとトランプ支持派がX上で猛烈な批判を展開している>

(中略)バイデン政権の決定はすぐに反発を招き、トランプ支持者の一部がX(旧ツイッター)で、戦争の早期終結という公約のトランプに対し、任期残り2カ月のバイデンがウクライナ戦争をエスカレートさせるようとしていると非難した。

ジョージア州選出の共和党議員のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、バイデンをこう非難した。「アメリカ国民は11月5日の大統領選投票日に、外国の戦争に資金を提供したり戦ったりすることを望まないという考えを明らかにした。われわれは自分たちの問題を解決したいのだ。もうたくさんだ。こんなことはやめなければならない」

ベンチャーキャピタリストで政治経済の話題を配信するオールイン・ポッドキャストの共同ホストを務めるデービッド・サックスもXに投稿し、「トランプはウクライナでの戦争を終わらせる権限を勝ち取った。では、バイデンは任期最後の2カ月で何をしようというのか? 大規模な戦争拡大だ。彼の目的はトランプに最悪の状況をもたらすことだ」

ユタ州選出のマイク・リー上院議員(共和党)がXに投稿した「リベラルは戦争が大好き」「戦争は大きな政府を促進する」というコメントに対しては、実業家でトランプ政権に入る予定のイーロン・マスクが「これは真実だ」と返信した。

バイデンの決断についてトランプはまだ声明を出していないが、長男のドナルド・トランプ・ジュニアはXにこう書いている。「軍産複合体は、父が平和を創造し命を救うチャンスを得る前に、確実に第3次世界大戦を起こしたいようだ。何兆ドルもの資金を確保しなければならない。無駄に命が失われる! 愚か者め!」

保守系学生団体ターニングポイントUSAの創設者チャーリー・カークは、Xでこう主張した。「バイデンは第三次世界大戦を起こそうとしている。病的だし、完全に頭がおかしい。アメリカの兵器をロシアの内陸に撃ち込んだりするべきではない!ロシアがアメリカにミサイルを撃ち込むためにミサイルを供与するようなものだ」(後略)【11月18日 Newsweek】
******************

もっとも、“米共和党で安全保障政策に精通するターナー下院議員は「もっと早くゼレンスキー氏の嘆願に耳を傾けるべきだった」とバイデン氏の対応の遅さを批判した。”【11月18日 時事】ということで、共和党内部も浮くラナイ支援に関しては一枚岩ではないようです。

たしかに、政権最終盤の今になって・・・というのは中途半端な感も。やるなら「もっと早く・・・」という感も。

第1次トランプ政権時も、あと数日で・・・といった段階で、バイデン政権への置き土産のような施策もとられましたが・・・。

もっとも、「ATACMS」によるロシア領内の軍事拠点への攻撃がゲームチェンジャーになりうるかどうかは知りません。繰り返しになりますが、「もう少し早ければ・・・」

【中国企業 ロシア向け軍用ドローン生産】
ロシア支援の側では北朝鮮参戦以外にも。

****中国、ロシア向けドローン生産か EUが指摘と香港紙****
香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは18日までに、欧州連合(EU)が中国新疆ウイグル自治区でロシア軍のための軍用ドローン(無人機)が生産されている決定的な証拠を得たと報じた。複数の外交筋の証言としており、EUは中国に確認を求めている。

中国政府の承認を得たものかどうかは不明。ただ外交筋は中国で政府の許可なしに軍用品や兵器の生産は難しいとみている。

同紙によると、EU当局者の一人は、中国の工場で生産されたドローンがロシアに送られ、ウクライナでの戦争に使われたと語った。

EU当局者は中国当局がどの程度認識しているか確認する必要があるとの考えを示した。【11月18日 共同】
*****************

中国政府は関与を否定するでしょうが、中国みたいな国で、政府の許可なくロシアに軍用ドローンを供与なんて話があったら、そっちがビックリでしょう。

外国メディアへの規制が厳しい新疆ウイグル自治区で・・・というのが、いかにも・・・と言う感も。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ  ルール・理念なき「力による平和」・ディールのトランプ流外交でどうなる?

2024-11-11 23:00:15 | 欧州情勢

(2019年、G20大阪サミットで撮影【11月11日 ロイター】 個人的には、ウクライナが両者の間でどのように扱われるかということもさることながら、強権的プーチン大統領と非常に親密とされるトランプ氏の「体質」が非常に懸念されます。)

【トランプ氏 「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指す】
復権が決まったトランプ氏は「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指しているとされています。

その実例が、かつてシリアにミサイルを撃ち込み、そのことを中国・習近平主席との会食で周氏に伝えたことがあげられます。シリアに明確な力を示すとともに、中国に対して「中国にも容赦しないぞ」みたいな圧力をかけた・・・・。

****第三次大戦前夜の世界 トランプ流「力による平和」の内実問われる 試金石はウクライナ 「トランプ2.0」の衝撃①****
米大統領に返り咲くトランプ前大統領は2期目の政権で、「力による平和」を外交・安全保障政策の柱に据えるとされる。敵対者を圧倒する軍事力で侵略を抑止し、無謀な戦争を回避して平和を実現する戦略である。

過去にはレーガン大統領が1981年に就任後、ソ連に対して「力による平和」を推進し、東西冷戦の勝利に導いた。

「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」。トランプ氏が訴え続けてきた危機意識だ。 

共和・民主両政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏は昨年9月、「米国がロシア、中国、北朝鮮、イランという4つの敵対国連合と同時に向きあう未曽有の事態」を米外交誌で警告した。 

中東では翌10月、イスラム原理主義組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃し、イスラエルとイランおよび親イラン勢力との紛争が拡大した。ロシアはウクライナ侵略の長期化に伴って中国、北朝鮮、イランと結託を深め、北朝鮮がロシアに派兵して参戦するに至った。 

米議会が設置した超党派専門家パネル「国防戦略委員会」も報告書で「近い将来、大規模な戦争が起きる可能性」を指摘した。

権威主義勢力に対する抑止が効かなかったバイデン政権への国民の不信は、民主党候補、ハリス副大統領への厳しい評価に直結した。有権者は「(自らの任期中に)大規模戦争は起きなかった」と誇示するトランプ氏にかじ取りを託した。 

シリアへの巡航ミサイル攻撃が実例
ペンス前副大統領の補佐官だったケロッグ退役陸軍中将は、トランプ氏には「力による平和」の実例があると語る。2017年にシリアのアサド政権が猛毒のサリンを民間人に使用したとして、シリアの空軍基地に対して行った巡航ミサイル攻撃だ。 

「米国が対処すれば大量破壊兵器の使用を容赦しないという明確なシグナルになるだろう。ロシアも北朝鮮もあなたの出方を見ている」。ケロッグ氏はこうトランプ氏らに進言したという。数時間後、トランプ氏はマティス国防長官が提示した基地への限定攻撃を指示した。 

「この行動で抑止の一線が確立された」とケロッグ氏は語り、力を行使する指導者の意思が抑止を形成するのだと強調する。

2期目のトランプ氏に「力による平和」の内実はあるのか。それがすぐに試されるのはウクライナだ。
トランプ氏はプーチン露大統領と即座に停戦交渉を開始するというが、具体的戦略は明言していない。

プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ。ウクライナが多大な譲歩を迫られるような交渉にトランプ氏は本気で動くのか。それとも、プーチン氏を慌てさせる「選択肢」を用意するのか。

■ウクライナには「変貌」期待する声も
(中略)
ウクライナの人々は、将来への不安感と重ね合わせて米大統領選の行方を注視した。男性によれば、発言が変わりやすく、プーチン露大統領との親密な関係を誇示するトランプ氏は「信用されていない」。ただ、「トランプ氏がロシアに強硬な態度へと変わることを期待する声も一部にある」という。

「トランプ氏は世界をかき乱す破壊力の持ち主だ」と語るのは国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏だ。トランプ氏の「予測不可能性」に期待する向きは多い。同盟国は予測困難なトランプ外交に何を期待するかより、自ら何ができるかを示すことが重要とミード氏は述べている。(後略)【11月7日 産経】
********************

【真相がわからない「トランプ・プーチン電話会談」報道】
そのウクライナに関して、トランプ氏がプーチン大統領と電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した・・・と、今日朝方報じられました。

****トランプ氏、プーチン氏にウクライナ戦争拡大しないよう忠告=米紙****
トランプ次期米大統領はロシアのプーチン大統領と7日に電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した。米紙ワシントン・ポストが10日、関係筋の話として報じた。

トランプ氏は選挙期間中にウクライナ戦争を1日で終結させる解決策を見つけると述べていた。

複数のメディア報道によると、トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領とも6日に話をしたという。【11月11日 ロイター】
********************

しかし、夕方になってこれをロシアが否定。

*****ロシア大統領府、プーチン氏とトランプ氏の電話会談を否定****
ロシア大統領府(クレムリン)は11日、ウラジーミル・プーチン大統領と米国のドナルド・トランプ次期大統領が先週、ウクライナ紛争について電話会談したとする米メディアの報道を否定した。(中略)

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者団に対し、「完全に虚偽の情報」だと述べ、電話会談が行われたというのは事実ではないと否定した。 【11月11日 AFP】FPBB News
******************

奇妙なのはトランプ氏側からの情報がないこと。
単なる偽情報なのか、偽情報だけどトランプ氏にとってはロシアに圧力をかける好ましいイメージなので放置したのか、実際に電話会議が行われたが、ロシアとしてはプーチン大統領がトランプ氏から指示・圧力を受けたようなイメージは好ましくないとして否定したのか・・・よくわかりません。

【国務長官候補はウクライナ支援否定】
ウクライナ支援をめぐっては各方面からトランプ氏へのいろんな要望・期待も。

バイデン大統領は支援継続を求めています。

****バイデン氏、トランプ氏にウクライナ支援から撤退しないよう要請へ****
サリバン米大統領補佐官は10日、バイデン大統領がトランプ次期大統領にウクライナ支援から手を引かないよう求める考えだと明らかにし、13日に予定する両氏の会談では国内外の政策上の優先事項について話し合うとの見通しを示した。(中略)

バイデン氏がトランプ氏就任までの70日間で「議会と次期政権に対し、米国がウクライナから手を引くべきではなく、ウクライナから手を引けば欧州のさらなる不安定化を招くと訴える」考えだとした。

議会にウクライナ追加支援の法案可決を求めるかどうかとの質問には明確な回答を避けた。

米政府監査院によると、バイデン政権下で議会は1740億ドル余りのウクライナ支援予算を承認してきた。

トランプ次期政権で国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はCBSのインタビューで、「米国民は他国の主権を守るために資金や資源を使う前に、ここ米国の主権が守られることを望んでいる」と述べ、ウクライナ支援を批判した。【11月11日 ロイター】
**********************

上記記事にもあるように、国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はウクライナ支援に否定的です。

****次期トランプ政権で国務長官候補のハガティ前駐日大使 ウクライナ支援継続に反対姿勢****
アメリカの次期トランプ政権で国務長官など要職への起用が取り沙汰されている共和党・ハガティ上院議員がウクライナ支援よりもアメリカ国内の問題に焦点をあてるべきとして支援継続に強く反対する姿勢を示しました。

10日、CBSテレビに出演したハガティ上院議員はウクライナ支援について「膨大な金額が使われている。アメリカ国民は国境問題などの国内の問題に焦点をあてたいのだ」と支援継続に否定的な立場を強調しました。

また、自身を「ウクライナ支援に関して1セントからでも反対してきた数少ない上院議員だ」と評し、「アメリカ・ファースト」主義を徹底すべきだと強調しました。

また、日本などの同盟国については「各国がそれぞれの防衛力を強化すべき」と主張したうえで、日本の防衛費倍増は「前向きだ」として、トランプ次期政権下では日韓の連携がより緊密になるとの見方を示しています。

ハガティ上院議員は前回のトランプ政権時に駐日大使を務め、大統領選挙の際には副大統領候補の一人に名前が挙がっていました。【11月11日 テレ朝news】
********************

【焦りを募らせるウクライナ】
当事者のウクライナは、戦局的に劣勢にあり、領土をロシアに占領された状態でトランプ氏の停戦交渉が始まるとの状況に「焦り」を示しています。

****ウクライナ、トランプ和平案に焦り「安全保証のない停戦は危険だ」…米の支援停止に現実味****
米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、ウクライナへの軍事支援停止やウクライナに妥協を迫る停戦交渉が現実味を帯びてきた。トランプ氏とロシアのプーチン大統領が対話に前向きな姿勢を見せる中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は焦りを募らせている。

ゼレンスキー氏は7日、ハンガリーの首都ブダペストで行われた「欧州政治共同体」(EPC)首脳会議後の記者会見で、「信頼できる明確で現実的な安全の保証がない中で、停戦の話をするのは危険だ。ウクライナの占領を続け、独立と主権を破壊するための地ならしでしかない」と述べた。トランプ氏が意欲を示しているプーチン氏との交渉への警戒感をあらわにした。

ロシアに国土の約2割を占領されているウクライナは、占領の固定化につながる「戦闘の凍結」には反対だ。停戦後、ロシアの再侵攻を防ぐための「安全の保証」も米欧に求めている。

トランプ氏はウクライナへの軍事支援に否定的で、当選後すぐに和平を実現させると根拠なしに主張してきたが、具体案は語っていない。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは6日、トランプ氏の政権移行チームがウクライナの和平について、〈1〉現在の前線に沿って非武装地帯を設ける〈2〉ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を少なくとも20年間認めない代わりとして、米国は軍事支援を継続する――という案が検討されていると報じた。バンス次期副大統領も9月、非武装地帯の設定とウクライナの「中立化」を主張した。

こうした案は、ウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退やウクライナのNATO加盟断念を求めるロシアの主張に近い。

一方、新政権で再び閣僚に就く可能性が取りざたされているポンペオ前国務長官は、NATOへの早期加盟を支持する立場だ。欧州の負担を増やして支援を継続し、対露制裁を強化した上で交渉することを提案している。

トランプ氏が新政権で実際にどのような対応をとるかは見通せない。トランプ氏の当選後、ゼレンスキー氏らウクライナ政府高官はこぞって、トランプ氏が1期目に多用した「力による平和」という言葉を使い、トランプ政権への期待を示した。まずは良好な関係を築き、トランプ氏の翻意を促す狙いのようだ。

ただ、ウクライナ抜きの和平交渉はせず、必要な限り支援するとしてきたバイデン政権の方針は転換される公算が大きい。

ウクライナが侵略終結に向けて策定した「勝利計画」は、米国の支援が停止となれば前提条件が崩れる。ウクライナの野党議員は6日、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」とSNSで嘆いた。【11月9日 読売】
********************

【戦局は「膠着」からロシア攻勢に転換】
一方、ロシアは冒頭【産経】記事に“プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ”とあるように、東部戦線での占領地域を拡大するとともに、ウクライナがロシア領内に侵攻した地域についても奪還を目指しています。

膠着状態と言われてきた東部戦線は、ロシアの攻勢で動き始めています。

****ウクライナ軍が東部で劣勢、兵力不足で要衝陥落…情報機関「もはや膠着状態ではない」****
ロシアの侵略を受けるウクライナ東部では今年秋に入って要衝の陥落が相次いでおり、ウクライナ軍の劣勢が目立ち始めている。以前から課題となってきた兵力不足が大きな要因で、戦況は悪化している。

ウクライナ軍参謀本部は8日、東部ドネツク州の輸送拠点ポクロウシクの南方約40キロ・メートルのクラホベ方面で前日、50回の戦闘があったと発表した。露軍はポクロウシクを陥落させるため、周囲を包囲する作戦を取っているとみられる。

英誌エコノミストによると、ウクライナ軍が10月に失った領土は約620平方キロ・メートル。1か月に失った面積としては侵略開始以降、最大となる。ウクライナ軍総司令官は今月2日、SNSで「これまでで最も強力な攻勢の一つに耐えている」と述べた。

ウクライナ軍は、10月初めに同州ウフレダルから撤退した。下旬には同州セリドベを失ったとみられている。いずれも露軍との紛争が始まった2014年から防衛拠点としてきた要衝だ。

東部では露軍とウクライナ軍の戦力が拮抗きっこうする状況が続いてきた。だが、米紙ニューヨーク・タイムズは今月1日、米軍や情報機関が「もはや戦況は膠着こうちゃく状態ではない」と分析していると報じた。

ウクライナ軍が苦戦する最大の原因は、兵力不足とされる。同じ部隊が交代なしで戦い続け、疲労による戦力低下が指摘されている。

露西部クルスク州への越境攻撃で防衛がさらに手薄になったとの指摘もある。同州では露軍がウクライナ軍が制圧した地域の奪還を始めたほか、援軍で派遣された北朝鮮兵が参戦し、ウクライナ軍は守勢を余儀なくされている。【11月8日 読売】
*********************

ウクライナがロシア領内に侵攻したロシア西部クルスク州についても、ロシアによる大規模な奪還作戦が予定されており、それには北朝鮮から「援軍」も含まれているとも報じられています。

****北朝鮮軍兵士5万人含む部隊がロシア西部で戦闘準備 近日中に攻撃開始か 米報道***
ウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州で、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊が戦闘準備に入ったとアメリカメディアが報じました。

ニューヨークタイムズは10日、アメリカとウクライナの当局者の話として、ロシア軍が、ウクライナ軍の越境攻撃が続くクルスク州で、反撃のため、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊を編成したと報じました。

ウクライナの当局者は、数日中に北朝鮮軍による攻撃が始まるとみています。

また、アメリカの評価として、ロシア軍は主戦場であるウクライナ東部の戦線から、兵士を撤退させることなく、兵力を集めていて、複数の戦線で同時に戦闘をすることが可能になっていると伝えています。

アメリカの当局者は、北朝鮮軍の兵士は砲撃や、基本的な歩兵戦術、塹壕を撤去する訓練を受けていて、ウクライナの陣地へ正面から投入されるとみているということです。【11月10日 テレ朝news】
********************

クルスク州への越境攻撃でウクライナは東部戦線で防衛がさらに手薄になって劣勢に立たされ、ロシアは東部戦線から兵士を撤退させることなくクルスク州奪還作戦を始める・・・となると、ウクライナの越境攻撃開始時に言われていたように「妥当な作戦だったのか?」という疑問を裏付ける形にもなります。

【この状況でロシア有利の停戦となれば、「ルール」より「力」が優先することにも】
いずれにしても、停戦交渉の場における立場の優劣を決めるのは戦局の状況。すでに多くの地域を占領され、その奪還が実現できず、更にロシア側の攻撃圧力にさらされ後退も余儀なくされているウクライナとしては、トランプ氏が停戦交渉に乗り出すと、非常に厳しい状況となります。

しかし、ロシアの「力による現状変更」を認めることになる停戦については、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」ということにもなり、「ルール」より「力」が優先することについて「それでいいのか?」という疑問も。

ディール(取引)に基づく国際秩序・・・・そこには理念もルールもありません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州  トランプ氏復権で不安を抱えながらも対応を急ぐ 存在感を増すオルバン首相

2024-11-10 23:08:28 | 欧州情勢

(7日、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた欧州政治共同体(EPC)首脳会合【11月8日 共同】)

【欧州、トランプ政権に不安を抱えながらも関係作りに腐心】
欧州各国首脳はトランプ氏当確が明らかになると祝意を表明してはいますが、「アメリカ第一」を掲げ、欧州との防衛協力やウクライナ支援に消極的なトランプ氏との関係について内心は大きな不安を抱えています。

****欧州、トランプ政権に不安も関係作りに腐心 ブダペストの首脳会合でウクライナを討議****
欧州連合(EU)に英国、ウクライナなど近隣諸国が加わる「欧州政治共同体(EPC)」の首脳会合が7日、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた。米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、米欧同盟の行方に不安が広がる中、欧州側はトランプ氏との関係の構築に腐心している。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、トランプ氏が早期停戦に向け圧力をかけることを警戒し、同会合で英仏独など欧州主要国に支援継続を確認したい意向とみられる。会合を前にマクロン仏大統領、スターマー英首相はそれぞれ6日、トランプ氏と電話会談した。

欧州各国はトランプ氏に祝意を示す一方、安全保障への不安をにじませた。

リトアニアのナウセーダ大統領は「わが国は国内総生産(GDP)の3・5%を防衛費にあて、これからも投資する」とX(旧ツイッターで)で発信。トランプ氏が欧州側の防衛費負担が少ないと不満を表明していることを受け、貢献を強調した。

これに対し、ウクライナの早期停戦を支持するハンガリーのオルバン首相は、トランプ氏の勝利を「世界が待ち望んでいた」と手放しで歓迎。Xへの投稿でトランプ氏と電話会談したと明かし、「われわれは大きな計画を持っている」と書き込んだ。

EPCは2022年、ロシアのウクライナ侵略を受けて発足した枠組みで、首脳会合は今回で5度目。EU加盟27カ国を含めて47カ国が招待された。【11月7日 産経】
**************************

ロシアの占領を容認する形でウクライナに停戦圧力をかける恐れがあるウクライナのゼレンスキー大統領は“「トランプ氏が具体的にどう行動するかは分からない」と懸念を表明。一部の欧州首脳からロシアに譲歩するよう働き掛けがあると述べた上で、「欧州にとって自殺行為だ」と受け入れを拒んだ。”【11月7日 時事】

【存在感を増すハンガリー・オルバン首相 トランプ・オルバン両氏に共通する「反移民」「反エリート」の姿勢は欧州極右にも共通】
トランプ氏復権で意気軒高なのがトランプ氏と政治姿勢が近く、親密な関係を持つハンガリー・オルバン首相。

****ハンガリー首相の存在感が増大 EUで、トランプ氏に立場近く****
米大統領選でトランプ次期大統領が勝利したことを受け、強権的な政治姿勢で知られるなど立場の近いハンガリーのオルバン首相の存在感が欧州連合(EU)で増している。

オルバン氏はロシア寄りとされ、EUのウクライナ支援を繰り返し妨害するなどして孤立を深めたが、風向きが変わる可能性が出てきた。

「オルバン氏の発言には重みがある」。欧州外交筋は、次期米政権への対応も議題となったハンガリーの首都ブダペストでの7日の欧州政治共同体(EPC)首脳会合後、同氏を評価。トランプ氏支持を鮮明にし、同氏と関係が良好なオルバン氏への期待がのぞく。

一方、オルバン氏は7日の記者会見で「個人的関係と国家間の関係を混同してはならない。米国の大統領はハンガリー国民の苦境への対処よりも、もっと大きな問題を抱えている」として期待感の抑制に努めた。

ハンガリーは7月から半年間、加盟国が輪番で担当するEU議長国を務めている。加盟国がハンガリー主催の会議への閣僚派遣を見合わせるなどEU内で亀裂が拡大していた。【11月8日 共同】
********************

オルバン首相とトランプ前大統領の関係の背後にある「反移民」「反エリート」の考えは、両氏の関係を越えて近年台頭が著しい欧州極右・右派勢力に共通するものです。

****「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 国際秩序に打撃のリスク 「トランプ2.0」の衝撃③****
米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領(78)が勝利を確定的にした6日、トランプ氏といち早く電話で言葉を交わした外国首脳の一人にハンガリーの強権指導者、オルバン首相(61)がいる。トランプ氏との親密さを誇示するように、X(旧ツイッター)に「私たちには未来に向けた大きな計画がある!」と投稿した。

2人が盟友関係にあることはよく知られる。トランプ氏は選挙演説で何度もオルバン氏を「強い指導者」「素晴らしい男」と絶賛した。オルバン氏も公然とトランプ氏を支持し、7月には米南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸に足を運んだ。

欧州連合(EU)内で批判され、異端視されることの多かったオルバン氏が、トランプ氏との近さゆえに存在感を増していく可能性がある。

オルバン氏が首相に返り咲いた2010年以降のハンガリーでは、報道の自由や司法の独立性、LGBT(性的少数者)の権利などへの制限が進んだ。自由民主主義の規範から逸脱していると批判を浴びるが、オルバン氏はむしろ、自分こそが来たるべき「非リベラル民主主義」時代の先駆けだと胸を張る。

盟友のオルバン氏、欧州難民危機が追い風に
オルバン氏が権力を盤石にする契機の一つとなったのは、中東・アフリカの難民らが欧州に押し寄せた15年の難民危機だった。「反移民・難民」の旗幟(きし)を鮮明にし、人道的対応を求めるEUのエリート官僚らへの攻撃を強めた。

そうした「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつある。

フランスの「国民連合」(RN)やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)といった右派勢力の台頭が典型だ。今年6月にEU各国で行われた欧州議会選では、フランスでRNが首位、ドイツでAfDが2位につけた。

トランプ氏も同じ系譜にある。初当選した16年大統領選では、不法移民流入を阻止する「国境の壁」建設や、反エスタブリッシュメント(既得権益層)を掲げた。これらの主張は、20年大統領選での落選を経てさらに先鋭化している。

今回の大統領選では、1100万人超とも2千万人超ともいわれる不法移民に「最大級の強制送還作戦」を行うと訴えた。民主党などのリベラル勢力を「内なる敵」と呼び、「州兵や米軍を使って排除する」とも語った。

反エスタブリッシュメントの主張はしばしば、リベラル勢力から成る「ディープステート(闇の政府)」が米国を牛耳っているという陰謀論の色彩まで帯びる。

欧州の新興右派勢力には福祉政策の拡大を掲げているものが多く、トランプ氏もそうだ。

共和党の支持基盤である保守派では従来、連邦政府の支出や権限を縮小し、企業の自由競争を促す「小さな政府」論が支配的だった。

しかしトランプ氏は大統領選で、社会保障年金やメディケア(高齢者向け医療保険)の維持だけでなく、体外受精の費用を保険会社が負担するよう「義務付ける」と豪語するなど、民主党左派とみまがう主張を展開した。

こうしたこともあって、仏RNや独AfD、オルバン氏やトランプ氏らはポピュリズム(大衆迎合主義)勢力に分類されることが多い。

「自国第一」に由来する侵略国ロシアへの甘さ
その政策と人気に盲点はないか。最も懸念されるのは、この勢力に共通する「自国第一」の姿勢が、ウクライナを侵略するロシアへの甘い態度につながっていることである。

オルバン氏はプーチン露大統領と親しく、EUと北大西洋条約機構(NATO)内で最も親露的な立場をとる。ウクライナは「勝てない」と公言し、欧州各国は対ウクライナ支援を縮小して停戦圧力をかけるべきだとしてきた。

その主張は、ウクライナでの早期停戦を実現するとし、ロシアとのディール(取引)を志向するトランプ氏とも通じる。

仮にロシアに領土を割譲するような形でウクライナ侵略戦争が終われば、「一方的な領土変更は認めない」という第二次大戦後の国際秩序は根幹から揺らぐ。また、世界で「自国第一」の傾向が強まり、米国主導の集団安全保障体制が弱体化することは、プーチン氏が強く願ってきたことにほかならない。

米右派の最大イベント「保守政治行動会議(CPAC)」では近年、オルバン氏ら欧州の右派政治家が大歓声で迎えられ、連帯を確かめ合うのが恒例の光景となっている。トランプ氏の当選確実が伝えられたとき、旧ソ連構成国のキルギスを訪問中だったオルバン氏はわがことのように喜び、「ウオッカで祝杯をあげた」という。

「反移民」「反エリート」が米欧で共振する現象は、世界に何をもたらすのだろうか。【11月10日 産経】
**********************

【フランスは米依存脱却を主張するも北欧などは対米関係重視姿勢】
上記のハンガリー・オルバン首相は別格として、欧州内部にはトランプ氏復権への対応で温度差があります。

****欧州、トランプ政権復活で安保強化誓うも温度差 仏「米依存脱却を」北欧「米国は最重要」****
米国でトランプ政権の復活が決まり、欧州連合(EU)と近隣諸国は7日、ブダペストで開いた「欧州政治共同体(EPC)」首脳会合で欧州安全保障の強化を打ち出した。

一方で、米依存脱却を目指す西欧と米国を頼みとする北欧の温度差も浮き彫りになった。英独仏の欧州3大国が内政に足をとられ、指導力を発揮できないことも不安を増幅している。

フランスのマクロン大統領は会合で「われわれは、ずっと米国に安全保障を依存できない」と発言。トランプ氏の大統領就任を前に、かねてからの持論である欧州独自安保の構築に意欲を見せた。「欧州は草食動物ばかり。これでは肉食動物の食い物にされる」とも述べ、米中やロシアに対抗できる「強い欧州」を目指すべきだと訴えた。

ベルギーのデクロー首相もマクロン氏に同調し、「安全保障を米国に『外注』していてはいけない」と述べた。ロシアの侵略を受けるウクライナ支援も、欧州が半分以上を担うようになったと強調し、「米国不在ではダメになるというわけではない」とした。

これに対し、ラトビアのシリニャ首相は「米国は主要パートナーであり、今後もそうだ」と強調。そのうえで「わが国の防衛費は国内総生産(GDP)の3%以上。ほかの国も同様にしてほしい」と呼びかけた。

仏独の防衛費は今年、北大西洋条約機構(NATO)基準値の「GDP比2%」に達したばかり。ベルギーは1・3%にとどまっており、自助努力を促した形だ。デンマークのフレデリクセン首相も「トランプ氏が欧州にさらなる努力が必要と言うなら、私は完全に同意する。米欧同盟はわれわれには最も重要だ」と述べた。

NATOのルッテ事務総長は、北朝鮮がロシア支援の見返りにロシアから軍事技術を供与されているとして、「中露、北朝鮮の連携は、米国と欧州、さらに日本にとっても脅威になる」と主張した。米欧同盟の意義は欧州安保にとどまらないと指摘することで、米国の欧州離れを牽制(けんせい)した。

7日はEPC首脳会合に続いて、EUの非公式首脳会合が開かれた【11月8日 産経】
*********************

【EUのミシェル大統領 「現実を受け止めなければ」】
EPC首脳会合に続いて開かれたEUの非公式首脳会合において、EUのミシェル大統領は記者団に「米国の有権者による明確な意思表示を尊重し、現実を受け止めなければならない」と指摘しています。

****EU、トランプ氏勝利で対策協議 「現実を受け止めなければ」*****
EUは7日、ハンガリーの首都ブダペストで非公式首脳会議を開いた。首脳らは夕食会で米大統領選のトランプ氏勝利を受け、良好な米EU関係を維持するための対策を協議した。非公式首脳会議は8日まで。

ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、トランプ氏はEUが重視するウクライナ支援に消極的な立場で、欧州各国が防衛費を十分に負担していないとしてNATOにも批判的だ。トランプ氏は選挙戦で輸入品への関税も主張し、欧州では警戒感が強まっている。

EUのミシェル大統領は記者団に「米国の有権者による明確な意思表示を尊重し、現実を受け止めなければならない」と指摘した。【11月8日 共同】
**********************

いささかどろなわの感はありますが、下記のような動きも。

****米国産液化天然ガスの輸入を検討 欧州連合、トランプ氏意識****
欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は8日、ウクライナに侵攻するロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入を米国産に切り替えることが可能かどうか検討する意向を示した。トランプ次期米大統領を意識し、交渉カードとして利用する考えとみられる。

ハンガリーの首都ブダペストで行われたEU非公式首脳会議後の記者会見で述べた。加盟国の首脳らは非公式首脳会議でトランプ次期政権への対応を協議し、安全保障や貿易面の関係強化を目指す方針で一致した。【11月9日 共同】
*******************

【米民主党と友党関係にある英労働政権 これまでのハリス支持から、今後の米英「特別な関係」維持に腐心】
EUもトランプ氏との今後の関係に腐心していますが、アメリカとの“特別な関係”を誇示してきたイギリスもEU以上に困っているでしょう。

イギリスで政権を担う労働党はアメリア民主党と「友党」の関係にあって、労働党のスタッフ約100人が、民主党候補のハリス副大統領陣営を支援するためにアメリアカ入りする計画が明らかになり、波紋を広げました。

****トランプ氏陣営“英労働党がハリス氏支援のためスタッフ派遣”****
アメリカ大統領選挙の投票が来月5日に迫る中、共和党のトランプ前大統領の陣営は、イギリスの与党・労働党が対立候補のハリス副大統領の陣営を支援するためスタッフを派遣しているとして、調査を申し立てました。イギリスの労働党は個人のボランティア活動で、組織的ではないと否定しています。

トランプ陣営が22日に発表した声明によりますと、イギリスの労働党の幹部がハリス陣営の選挙運動を支援するためアメリカに派遣する党のスタッフをSNSで募集し「住まいは私たちが調整します」などと投稿したということです。

そして、労働党がハリス陣営を組織的に支援しているとして「外国からの干渉にあたり違法だ」などと主張し、連邦選挙委員会に調査を求めています。

これについて23日のイギリス議会で質問された労働党のレイナー副党首は「人々は自分の金と時間を使ってやりたいことをしている」と述べ、あくまでも個人のボランティア活動で、組織的ではないという認識を示しました。

アメリカとイギリスはともに「特別な関係」と呼ぶ緊密な同盟関係を保ち、互いを重視してきただけに、イギリスの野党からはトランプ氏が返り咲いた場合アメリカとの外交や貿易などに深刻な影響が出かねないとして労働党に対する批判の声も上がっています。【10月24日 NHK】
*********************

“「これは違法だ」。トランプ氏を支援する米実業家イーロン・マスク氏は10月中旬、X(ツイッター)にそう記した。ただ、英紙タイムズによると、外国籍のボランティアが選挙運動を手伝うことは、無報酬であれば米国の法律で認められているという。”【10月23日 毎日】

選挙戦最終盤の時期に100人程度のスタッフが入っても、何の効果もないと思いますが・・・
民主党・ハリス陣営への“義理立て”のようにも思えます。

実際にスタッフが派遣されたのかどうかは知りません。これだけ問題視されたら実施は難しいかも。

上記問題に加え、今後、対米関係構築の最前線に立つラミー外相は、かつてトランプ氏を「ネオナチ」などと罵倒していた経緯があります。

****トランプ氏復権に焦る英政権 外相は過去に「ネオナチ」と批判****
米共和党のトランプ次期大統領の当選を受け、伝統的同盟国・英国が「困惑」(米ブルームバーグ通信)の度を深めている。

スターマー英首相率いる与党・労働党はもともと米民主党と友党関係にあり、現在の対米外交の「顔」であるラミー外相は、かつてトランプ氏を「ネオナチ」などと罵倒していた過去があるためだ。スターマー氏は「英米の特別な関係は変わらない」と強調し、良好な関係をアピールしている。
 
「歴史的勝利、おめでとうございます」。スターマー氏は6日の声明でトランプ氏に祝意を表し、英米の「緊密な同盟」は不変と強調した。
 
だが今回の大統領選期間中には、労働党スタッフらが民主党のハリス副大統領陣営を支援するため米国入りする計画が発覚し、トランプ氏陣営が不快感を示した一幕もあった。

労働党内には「反トランプ派」が多く、外相就任前のラミー氏は2018年、トランプ氏を「暴君」「女性嫌いで、ネオナチに同調する反社会的人物」と批判していた。同じく労働党のカーン・ロンドン市長も、今回のトランプ氏当選で多くの人々が「民主主義や女性の権利」の行方を不安視していると述べた。

再選視野の備えも
一方でスターマー政権は7月の発足以降、トランプ氏の当選も視野に入れて関係構築を試みてきた。スターマー氏とラミー氏は9月に国連総会出席のため訪米した際、トランプ氏と2時間ほど夕食を共にした。
 
その後、ラミー氏は「(トランプ氏批判は)古いニュース」「彼は協力できる人物だ」と発言のトーンを変えている。北大西洋条約機構(NATO)の中で「欧州の防衛費支出は不十分だ」と欧州批判を繰り返してきたトランプ氏の主張についても、ラミー氏は「正しい指摘」と賛同した。

だが、トランプ氏は過去の言動を忘れない「根に持つタイプ」(ブルームバーグ通信)とも報じられており、関係修復は容易ではないとの見方もある。【11月9日 毎日】
********************

上記のようないきさつがなくても、米英の「特別な関係」を維持していくためには、イギリスはトランプ氏から折につけ、相当の譲歩・貢献を要求されるかも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドイツ  ナチス・ホロコーストへの反省からイスラエル支持を国是に 一方でナチス的なものの復活も

2024-11-05 22:58:33 | 欧州情勢

(テューリンゲン州議会選に向けたAfDの選挙集会(8月31日)【9月3日 Newsweek】)

【今もナチスの犯罪と向き合い続けるドイツ社会】
日本が戦前軍国主義下の出来事を「昔のこと」としているのに対し、ドイツは今もナチスの犯罪と向き合い続けています。

****99歳元収容所事務員に有罪 「最後のナチス裁判」―独****
ドイツ連邦裁判所は(8月)20日、ナチス・ドイツの強制収容所に事務員として勤務していたことから殺人ほう助罪に問われ、地裁で有罪判決を受けた女(99)の控訴を棄却した。

1万人余りの殺害に加担したとして、2年の禁錮刑を下した地裁判決が確定。女は当時18~19歳の未成年だったため、執行猶予が付いた。ナチス犯罪の当事者は高齢のため公判が難しく、今回が「最後のナチス裁判」になる可能性がある。

確定判決によると、イルムガルト・フルヒナー被告は1943年6月~45年4月、ポーランド北部シュツットホーフ収容所の所長室で唯一の速記係として勤務。業務を通じてガス室での殺害やアウシュビッツ収容所への移送を助け、ユダヤ人など1万505人の殺人と、5人の殺人未遂をほう助した。

弁護側は、被告が収容所の実態を知っていたか証明できていないなどと主張。しかし連邦裁は「従順な部下として、所長らを心理的にも支えた。その働きは官僚的な組織運営にとって極めて重要だった」と結論付けた。収容所の事務員に対する初の有罪判決だった。【8月20日 時事】
*******************

****ドイツ大統領、ナチスが壊滅させた村で「許し」乞う ギリシャ訪問で****
ドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー大統領は10月31日、ギリシャ・クレタ島で第2次世界大戦中にナチス・ドイツによって壊滅させられた村を訪問し、ナチスが犯した罪の「許し」を乞うた。
 
シュタインマイヤー氏は同島のカンダノス村で感情のこもった演説を行い、ギリシャ語で「きょう、私はドイツを代表して許しを乞いたい」と述べた。続いてドイツ語で「ドイツがここで犯した重大な犯罪について、生存者と子孫の皆さんに許しを乞いたい」と語った。
 
1941年に連合国軍がドイツ軍の空挺(くうてい)部隊による侵攻を阻止しようとした「クレタ島の戦い」で、住民が参戦したカンダノス村では180人が命を落とし、村は壊滅させられた。
 
シュタインマイヤー氏はドイツ大統領として初めてクレタ島を訪問。虐殺の生存者らに迎えられたが、中にはドイツ政府が戦時賠償金の支払いを拒み続けていることに対する抗議のスローガンを叫ぶ人もいた。 【11月1日 AFP】
***************************

その一方で、ナチス復活を目論むような動きも。

****ナチス建国図り軍事訓練=過激派8人を拘束―独検察****
ドイツ検察は5日、ナチス思想に基づく国家の再建を図りテロ組織を結成した疑いで、過激派グループの男8人を拘束したと発表した。報道によるといずれも20代で、武装して準軍事的な訓練を繰り返していたという。

検察によると、男らは「ザクセン分離主義者」を自称する反ユダヤ主義や終末論的な考えを持つ15〜20人のグループに属し、ザクセン州など東部地域一帯を武力で制圧することを計画。「来たる『Xデー』にドイツが崩壊する」と想定し、市街戦や銃器の使用、夜間行進などの訓練を行っていた。【11月5日 時事】 
*********************

上記のような“ナチス思想に基づく国家の再建を・・・”といったものが、「おかしな考えの人間はどんな社会にもいる」といった類のものなのか、あるいは、ドイツ社会でうごめくものから派生するものなのか・・・

【「イスラエルとその国民の安全はドイツの『国是』だ。」(ショルツ独首相) 一方で、イスラエル批判も拡大】
ナチスのホロコーストへの反省ということから、ドイツはイスラエルを継続的に支援してきました。個人的には“ホロコーストへの反省”と“現在のイスラエルの行っていることへの支持”はイコールではないと思いますが。

ショルツ独首相は「イスラエルとその国民の安全はドイツの『国是』だ。」とも。
しかし、ドイツ国内ではガザでの民間人犠牲を厭わない攻撃に対し、イスラエル批判が高まっています。

****揺れるドイツ イスラエルを守る「国是」がなぜ?どうする?****
「イスラエルの国家の存立と安全のために立ち上がることがわれわれの使命だ」
これはイスラエルと強い同盟関係にあるアメリカ大統領の言葉ではありません。ドイツ・ショルツ首相の言葉です。

イスラム組織ハマスとイスラエルとの軍事衝突で、一貫してイスラエル寄りの姿勢を示すドイツ。そこにあるのは、ナチスによるあの負の歴史です。

しかし、いまその「国是」とするイスラエル寄りの方針に反発の声も高まり始めています。ドイツでいったい何が起きているのでしょうか。

ナチスの反省を受け継ぐドイツ
11月9日、ドイツは「水晶の夜事件」から85年を迎えました。日本人のなかには知らない人もいるかもしれませんが、ドイツ国民の記憶に深く刻み込まれた事件です。

ヒトラー率いるナチス政権下にあった1938年11月9日から10日にかけて、ナチスのメンバーがユダヤ人の住宅や商店を襲撃。ユダヤ教の礼拝所シナゴーグも破壊され、多くのユダヤ人が殺されました。割られて散乱したガラスが月明かりで「水晶」のように光ったとしてその名で呼ばれるようになりました。

のちに600万人にのぼるユダヤ人が虐殺された「ホロコースト」につながった事件として、毎年各地で、追悼行事が開かれています。

ユダヤ人が強制収容所へ送り出された駅のホーム跡(ベルリン郊外)そのひとつ、ベルリンの中心部から少し外れた駅に残る鉄道のホーム跡地で開かれた行事。このホームは、ナチス政権下のベルリンで暮らしていたユダヤ人をアウシュビッツなどの強制収容所に送るために使われました。

9日夜には、地元の高校生など数百人が集まってろうそくをかざし、命を奪われたユダヤ人に祈りを捧げました。ドイツでは、こうした行事が毎年行われ、社会全体でナチスの反省を共有し、「ホロコーストを繰り返さない」という誓いを受け継いできました。

イスラエルの安全は「国是」と語る首相
そのドイツにとって第2次世界大戦後に建国されたユダヤ人国家、イスラエルは特別な存在です。イスラエルを守ることには歴史から生じる特別な責任があるなどと言われ、ドイツ政府は今回の軍事衝突でも一貫してイスラエル寄りの姿勢を示しています。

その姿勢を象徴するのがショルツ首相が使う「国是」という言葉です。ショルツ首相は、10月17日、軍事衝突開始後、G7=主要7か国の首脳として初めてイスラエルを訪れました。そして、イスラエルの安全のために取り組むことは「国是」だと述べました。

「イスラエルとその国民の安全はドイツの『国是』だ。ドイツの歴史とホロコーストから生じたわれわれの責任により、イスラエルの国家の存立と安全のために立ち上がることがわれわれの使命だ」

今回の衝突をめぐりドイツ政府は「イスラエルにはハマスの攻撃に対して自衛の権利がある」と常に強調。民間人の犠牲は避けるべきで、人道物資の搬入を目的とした戦闘休止は支持する一方、停戦については否定的な姿勢を示し、イスラエルに攻撃をやめることまでは求めていません。

国内で上がり始めた反発の声
ただ、ドイツ国内ではイスラエルによるパレスチナのガザ地区への激しい攻撃で民間人の犠牲が増えるにつれ、政府のイスラエル寄りの姿勢への反発の声が上がり始めています。

各地で政府に対して停戦を呼びかけるよう求めるデモや集会が開かれるようになっていて、11月4日にはデュッセルドルフで1万7000人、ベルリンで9000人(いずれも参加者数は地元メディア)が参加しました。ハマスの攻撃以降で最大のパレスチナ寄りのデモでした。

集会の参加者で目についたのが中東などにルーツを持つ人たちでした。多くは、戦後、移民としてやってきた人や移民の子どもとして生まれたドイツ人です。(中略)

(両親がパレスチナの出身で、自身はベルリンで生まれた)サイードさんは、現状についてこう不満を語りましたー。

サイードさん  「ドイツにおいては、ホロコーストの責任を忘れてはならないし、反ユダヤ主義をどんなかたちであっても許してはいけないと思います。ただ、いまの問題は、ドイツ政府や政治家が『反ユダヤ主義』と『イスラエル批判』を混同し、声を上げないことです。民主主義国家として戦争犯罪を非難し、少なくとも停戦を求める責務があるはずです」

さらに、集会には外国にルーツのないドイツ人も参加していました。(中略)

ドイツの世論に変化も?
ドイツの世論の受け止めはどうなっているのでしょうか?

有力紙ウェルトが(23年)10月中旬に行った世論調査では、政府がイスラエル寄りの姿勢を明確に示していることについて、66%が「正しい」、16%が「正しくない」、18%が「わからない」と答え、イスラエル寄りの政府の姿勢には一定の支持が寄せられているとみられます。

しかし、その後の世論調査では軍事行動への厳しい見方も出てきています。
公共放送ARDが(23年)10月下旬から11月上旬に行った調査では、市民の犠牲を伴うイスラエルの軍事行動についての意見を聞いたところ、「正当化できない」と答えた人が61%で「正当化できる」の25%を大きく上回りました。イスラエルがハマスの掃討を掲げて行ってきた大規模な攻撃に懸念が広がっていることも伺えます。(中略)

イスラエルの安全が「国是」だと言い切る首相の言葉からは、ホロコーストの歴史を踏まえた強い責任感や使命感が感じられる一方、政府の対応と国民の受け止めにはズレも生じていて、歴史にとらわれバランスを失いかねない危うさも感じます。

第2次世界大戦後、ナチスの歴史を踏まえ、世界に平和や人権を重んじる国になったとアピールしてきたドイツ。デモや集会に参加する人たちからは、その大方針を貫いて欲しいという思いも感じられます。今回の衝突はイスラエルと強く結びつくドイツを揺らし続けています。【2023年12月1日 NHK】
********************

上記記事は約1年前のものですが、ドイツ政府の対応は基本的には変わっていません。

連立与党・緑の党のべアボック外相は10月14日にドイツ議会でドイツ政府としてのイスラエル支持・支援に関して、「(パレスチナのイスラム組織の)ハマスが人々や学校の陰に隠れている場合、難しい問題ですが、私達は(そこへ攻撃することを)ためらうことはしません。だからこそ、私は国連に対し『民間人のための場所であっても保護対象から外れる場合がある』『テロリストが悪用しているからだ』と明確にしました。それがドイツがよって立つ理念であり、私達にとって、イスラエルの安全保障が意味するものだからです」と演説。

これはイスラエルが民間人・民間施設を攻撃していることを正当化する発言です。

“ベアボック外相の発言に対しては、国連のパレスチナ問題に関する特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼ氏も、自身のX(旧ツイッター)に、「国連の独立専門家として、私はドイツがイスラエル/パレスチナに対して取っている立場や、その危険な意味合いと結果を深く懸念している。」と。【10月30日 YAHOO!ニュースより】

シュタインマイヤー大統領も「ドイツはイスラエルを支持する責任がある」と。
しかし、一方でイスラエルの攻撃に抗議するデモも広がっています。

****ドイツ、反ユダヤ主義に警鐘 奇襲1年、イスラエル支持批判も****
ドイツ各地で7日、イスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲から1年に合わせ、犠牲者追悼の行事が開かれた。

ベルリンでの式典でシュタインマイヤー大統領は、ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の過去に触れ「ドイツはイスラエルを支持する責任がある。反ユダヤ主義の台頭を二度と許さない」と警鐘を鳴らした。

ドイツは過去の反省から、第2次大戦後にユダヤ人国家として建国したイスラエルの安全保障を国是とする。

一方、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザやレバノンへの攻撃に抗議するデモもドイツ各地であり、参加者はイスラエルを支持する政府を批判した。【10月8日 共同】
******************

【極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」台頭に重なるナチスに同調する動き】
ナチス的なものの復活については、特にドイツ東部で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭していることはこれまでも取り上げてきましたが、その動きと重なる部分もあるようです。

****ナチスの影、街を分断 格差埋まらず極右肥大化―「よそ者」に矛先・ドイツ東部****
ザクセンなど旧東ドイツの3州で、9月に州議会議員選挙が実施される。反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第1党をうかがう勢いだ。

東西統一から34年近くを経ても旧西ドイツ地域との経済格差は埋まらず、不満の矛先は増加する「よそ者」に向かう。今月中旬訪れたザクセン州では偏狭な民族意識が街に分断を生み、第2次大戦後の独社会で長らくタブーだった、ナチスに同調する動きが顕在化していた。

◇難民待遇に不満
ポーランド国境にあるザクセン州ゲルリッツ。「ドイツで罪を犯した者は、速やかに国外追放されなければならない」。街外れのレストランで、AfDのゼバスティアン・ビッペル州議が熱弁を振るうと、立ち見を含む約100人の聴衆が大きな拍手で賛意を示した。

会場にいた60代の女性は「私は45年間働いたが、年金だけでは生活できない。外国人(難民)は働いていないにもかかわらず、たくさんお金を受け取っている」と不満をあらわにした。

AfDを巡っては、党首側近が今年1月、右翼活動家と移民の大量追放計画を謀議したと報じられた。ナチスのユダヤ人迫害を想起させる内容に社会は震撼(しんかん)した。

AfDは反国家的勢力と結び付いていると認定され、公安当局の監視下にある。それでもゲルリッツ地区では、6月の欧州議会選で40.1%の高い得票率を得た。

ビッペル州議は時事通信の取材に「支持者はわれわれが極右ではないと分かっている」と強調した上で、「住民は国境に関わる犯罪に長年悩まされ、収入は国内で最も低い水準だ。街は変化を望んでいる」と語った。こうした訴えが、多くの外国人を受け入れ、環境保護やウクライナ支援などを優先する政治に置き去りにされたと感じる市民を吸い寄せている。

◇かぎ十字「当たり前」
州都ドレスデンから南西約20キロのピルナでは7月、小学校の児童らがナチスを象徴するかぎ十字を作ったり、右翼の間で流行している「外国人は出ていけ」という替え歌を歌ったりしたことが明るみに出た。

「昔はあり得なかった。今は右翼の憎悪表現が当たり前になっている」。同じ学校に子どもが通っているという自営業の男性は嘆いた。

ピルナでは2月、ドイツで初めてAfDが擁立した市長が就任した。市庁舎では例年、LGBTなど性的少数者のパレードの時期に合わせて多様性を表す虹の旗が掲揚されてきたが、今年は新市長が取りやめた。

パレード主催団体副代表のクラウス・エルグナーさん(37)は、右翼思想を持つ人々から公然と侮蔑されることが増えたと感じている。

「彼らはAfDの存在感の増大に力を得ている。だんだんとそれが『普通』になっている」と危機感を訴えた。ピルナに通う女子学生(17)は「対立するデモが繰り返され、街は分断されている。コミュニケーションが足りていない」と表情を曇らせた。

州議選は9月1日にザクセンとテューリンゲン、22日にブランデンブルクの3州で実施される。直近の世論調査では、AfDが各州25~30%前後の支持率で、優勢を保っている。【8月25日 時事】
********************

9月1日の東部2州の州議会選挙の結果は“ドイツ東部2州で1日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、テューリンゲン州で移民排斥を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第1党となった。同党が2013年の結党以来、州議会で第1党となるのは初めて。ザクセン州でも第1党に肉薄した。”【9月2日 産経】と予想されたようにAfDが躍進し、国政与党が大敗しました。

****「ホロコースト記念碑は『恥ずべき記念碑』」****
ドイツの民主主義への脅威を監視する連邦憲法擁護庁(BfV)は昨年、AfDの青年団「ヤング・オルタナティヴ」を極右過激派組織と認定。ザクセン州とテューリンゲン州のAfD支部も極右過激派組織と認定されている。にもかかわらず州議会選で歴史的な大成功を収めたのはなぜか。

テューリンゲン州のビョルン・ヘッケAfD党首はナチス時代のレトリックを使い、極端な民族主義・極右的見解で物議を醸してきた。ベルリンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を「恥ずべき記念碑」と呼び、ナチスの過去を「180度逆転」させるよう提唱した。

ヘッケ氏はナチスの準軍事組織ナチスSA(突撃隊)のスローガン「ドイツのためにすべてを」を使用したとして何度も有罪判決を受け、罰金を科せられている。ドイツの裁判所はヘッケ氏を 「ファシスト 」と呼んでも名誉毀損に当たらないとの判決を下している。【9月3日 木村正人氏“極右「ドイツのための選択肢」が地方選で「歴史的」勝利...東西の分断はドイツに何をもたらすのか?” Newsweek】
*******************

イスラエル支援を国是とするようなホロコーストへの反省と、ナチス的なものの復活が共存するドイツ社会です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ大統領選挙の行方を見守るウクライナ国民とゼレンスキー大統領

2024-11-03 23:23:16 | 欧州情勢

(会談に臨むゼレンスキー大統領とトランプ候補(9月27日、ニューヨーク)【9月28日 BBC】)

【「米大統領選で戦争の重要な方向性が決まるが、私たちは関与できない」】
周知のようにアメリカ大統領選挙は5日に迫っていますが、アメリカ国内での激しい選挙戦だけでなく、その結果が世界の政治経済に及ぼす影響の大きさから、世界中が見守っています。

ハリス候補勝利ならほぼ現状維持ですが、トランプ候補勝利なら大きく変わります。
特に、現在アメリカの支援を生命線としてロシアと戦うウクライナにとっては、米大統領選挙の結果は死活的に重要で、自分たちではいかんともし難いもどかしさを感じながら、その結果を注視しています。

****ウクライナ「命運握られた状況」 兵士や遺族、米大統領選を注視****
ウクライナの戦死者遺族や現役兵士が、5日に迫った米大統領選の行方を注視している。民主党候補のハリス副大統領がウクライナ支援継続を明言する一方、共和党候補トランプ前大統領はロシアによる侵攻を交渉で終結させると主張。遺族らは大国の選挙結果に「命運を握られた状況」だとして無力感にさいなまれている。

「奪われた領土の放棄を迫られるのなら、怒りを感じる」。ビクトリア・ボリシュクさん(50)は涙ながらに訴え、ハリス氏の当選を願った。

夫セルギーさん(48)は今年3月、東部の激戦で亡くなった。2022年の侵攻直後に軍に動員され、帰還後も志願して再び戦地に赴いていた。

「夫は国を愛し、守り抜いた。歴史に名を刻んだ」とボリシュクさん。トランプ氏が当選して「支援がなくなってもウクライナは戦い続ける。だが武器が不足して犠牲は増える」と予想した。

侵攻初期に制圧された東部ドネツク州マリウポリ出身のアンナ・キシリシュナさん(51)は「米大統領選で戦争の重要な方向性が決まるが、私たちは関与できない」と嘆いた。【11月3日 共同】
*******************

【トランプ氏「この戦争は負け戦だ」 トランプ復権なら現状是認で進む停戦交渉】
ロシア・プーチン大統領に好意的とされるトランプ氏はかねてよりウクライナ支援による戦争継続には消極的で、「自分なら1日で戦争を終わらせる」と豪語しています。

****「私なら24時間以内に戦争終わらせる」 ウクライナ巡りトランプ氏****
2024年の米大統領選で返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領は(23年5月)10日、米CNN主催のイベントに登壇した。ロシアによるウクライナ侵攻について「私が大統領なら、24時間以内に終わらせる。勝ち負けではなく、どう決着をつけるかという問題だ。人が殺されるのを止めるのだ」と主張し、ウクライナへの支持を明言しなかった。

トランプ氏は「(ロシアもウクライナも)両国とも弱みと強みがある。終わらせるには(米国の)大統領の力が必要だ」と強調した。

プーチン露大統領については「大きな過ちを犯したが、頭が良く、ずる賢い人物だ」と評価。「(彼は)戦争犯罪人か」との質問には「戦争犯罪人だと言えば、問題解決のためのディール(取引)がずっと難しくなる。後で議論されるべきだ」とかわした。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領とは「非常に良い関係にある」と述べたが、対ウクライナの軍事・財政支援の継続に関しては明言を避けた。その上で「欧州各国はもっとお金を出すべきだ」と主張した。(後略)【2023年5月11日 毎日】
********************

“24時間以内”はともかく、短期に戦争を収束させるということは、ロシアがウクライナ領土を大きく占領している現状を一定に是認する形ともなり、ウクライナにとっては領土割譲を迫られることにもなります。

最近では、トランプ氏はゼレンスキー大統領をアメリカから多額の資金を引き出すセールスマンだと批判し、ウクライナの戦争についても「負け戦」と断定しています。

****「この戦争は負け戦だ」トランプ氏がゼレンスキー氏を非難****
トランプ前大統領は(10月)17日に公開されたポッドキャスト番組のインタビューで「ゼレンスキー氏はロシアとの戦争を始めさせるべきではなかった。この戦争は負け戦だ」と述べ、戦争の責任がゼレンスキー氏にあるとも受け取れる発言をしました。

また、「ゼレンスキー氏は今まで見た中で最も偉大なセールスマンだ。彼がアメリカに来るたびに我々は1000億ドルを与えている」と非難し、「自分が大統領だったらあの戦争は決して起こらなかった」と、従来の主張を繰り返しました。

トランプ前大統領はウクライナへの軍事支援に消極的で、大統領選挙で勝利すればアメリカのウクライナ政策が大きく変わる可能性があります。【10月18日 ANNニュース】
*******************

“負け戦”と断じる戦争のために資金を投じることはないでしょう。トランプ氏が考える「24時間で終わらせる」という停戦のあり方はおのずと見えてきます。

トランプ氏とは相性のいい、またロシア寄りとされるハンガリー・オルバン首相はトランプ氏の意を受ける形での和平仲介を行う用意があるとしています。

オルバン首相は7月11日、トランプ氏と会談、ウクライナ情勢をめぐり和平などについて協議したとみられます。

****トランプ氏、再選ならウクライナの「和平仲介」する用意 ハンガリー首相が見解****
 ハンガリーのオルバン首相は17日までに、欧州の指導者らに対して、米国のトランプ前大統領が再選された場合には本人自らロシアとウクライナの間に立ち、「和平の仲介役として行動する用意がある」と告げた。

欧州では、トランプ氏が再選すればウクライナ政府に向けてロシアへの領土割譲を迫るのではないかとの懸念が広がっている。

オルバン氏は欧州理事会のミシェル議長と欧州連合(EU)加盟国の全首脳に書簡を送り、トランプ氏が再選を果たせば「大統領就任を待たず、和平の仲介役として行動する準備を即座に整えるだろう」と指摘。同氏にはそのための詳細かつ根拠の十分な計画があるとの見解を示した。【7月17日 CNN】
********************

【戦況 後退を余儀なくされているウクライナ】
トランプ氏復権の予想と併せてウクライナにとって具合が悪いのは、戦局が思わしくなく、犠牲を顧みないロシアの攻勢で後退を余儀なくされていることです。

****ロシアのウクライナ制圧面積、10月は22年3月以降で最大 データ分析****
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍が10月に制圧した面積は27日時点で478平方キロに及び、月間としては、侵攻開始直後の2022年3月以降、最大となった。AFPが28日、米シンクタンクの戦争研究所のデータを基に分析した。
 
ロシア軍はウクライナで今年8月に477平方キロ、9月に459平方キロを掌握したが、10月はそれを上回る。特に戦略的な要衝である東部ドネツク州ポクロウシク周辺で、ロシア軍が戦線を大きく押し込んだことが寄与した。
 
ロシア軍は現在、南・東方面からポクロウシクに向かっており、わずか数キロの地点にまで迫っている。
 
さらに、戦線北方に位置するハルキウ州クピャンスク近郊でも40平方キロ以上を掌握している。
 
戦力で上回るロシア軍を相手に、ウクライナ軍が東部で苦戦を強いられている状況が改めて浮き彫りになった。
 
AFPが分析に使用したのは、ISWが毎日発表しているデータで、ロシア・ウクライナ両軍が公表した情報および衛星画像に基づいている。 【10月29日 AFP】
********************

****ウ軍、最も強力な攻撃に直面 東部激戦地でロ軍の集落制圧続く****
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は2日、2022年のロシアの侵攻以降、最も強力な攻撃の一つに現在直面しているとの見解を示した。チェコ軍幹部との会談後に通信アプリで明らかにした。ウクライナ東部の激戦地でロシア軍の集落制圧が続いている。
 
ロシアによる市民への攻撃も激しく、ゼレンスキー大統領は声明で、10月に無人機シャヘドがほぼ毎日飛来し、計2千機を超えたと説明。欧米や中国が無人機部品を供給しているとして、輸出管理の厳格化を求めた。(後略)【11月3日 共同】
********************

こうした戦況では、トランプ氏の提案する現状是認的な停戦案を拒むことは難しいでしょう。拒んで、トランプ氏が支援を停止すれば事態は更に悪化します。

ゼレンスキー大統領と9月27日に会談したトランプ氏は「戦争を終わらせるべき時だ」と話したとのこと。

****トランプ候補、ゼレンスキー氏と会談 ロシアとの戦争終わらせるべきと****
米共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ前大統領は27日、訪米中のウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領とニューヨークで会談し、ロシアがウクライナで続ける戦争を終わらせるべき時だと話した。

ニューヨークのトランプ・タワーで記者団を前に、ゼレンスキー氏と並んだトランプ候補は、「我々は双方としっかりやりとりをして、これを収めてまとめるように取り組む」と述べ、「(戦争は)終わらなくてはならない。いずれは終わらなくては。(ゼレンスキー氏は)地獄のような思いをしているし、彼の国も地獄のような経験をしている」のだと話した。

ゼレンスキー大統領はその場で、「ウクライナをいかに強化するか、我々の計画をすべて共有することが大事だ」としたうえで、「もちろんそれは今の時点で決めなくてはならない。というのも、11月以降がどうなるのか私たちにはわからないので。誰が大統領になるか決めるのは、アメリカ人だけだ。

けれども11月まではプーチン(ロシア大統領)を自分たちでは止められないこともわかっている。でもそうしなくては。戦場では果敢な兵士たちが努力する。

けれども11月以降は決断しなくてはならないと理解しているし、アメリカが強力でいてくれることを期待しているし、頼みにしている。だからこそ私は、両候補と会うことにした」のだと話した。

ゼレンスキー氏はさらに、自分とトランプ候補は「この戦争は終わらせなくてはならないし、プーチンには勝たせてはならないのだという認識で一致している」と話し、自分の「勝利計画」について詳細をトランプ候補に説明するつもりだと述べた。【9月28日 BBC】
*********************

「誰が大統領になるか決めるのは、アメリカ人だけだ」というのがゼレンスキー大統領の悩みです。

ハリス氏勝利の場合はゼレンスキー大統領の提示する「勝利計画」、アメリカ供与の長距離兵器の使用制限の解除・緩和などが問題になりますが、それはハリス氏勝利の後に。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

EU・フォン・デア・ライエン委員長とハンガリー・オルバン首相 ウクライナ支援で激しい批判の応酬

2024-11-02 23:16:38 | 欧州情勢

(フランス・ストラスブールの欧州議会で演説するEUのフォンデアライエン欧州委員長(左)を見つめるハンガリーのオルバン首相=9日【共同】)

【フォン・デア・ライエン委員長 公然とハンガリー批判 ハンガリー動乱を念頭に「ソ連による軍事介入で、彼らはハンガリー人に責任があると言うのだろうか」】
常々取り上げているように、EU内にあって、ポーランドとハンガリーはいわゆる西欧的価値観とは異なる価値観を前面に出し、言論の自由への弾圧や司法への介入、移民受入れ・性的少数者の権利の問題での消極姿勢など、EUの方針に反対する“異端児”的な存在となっています。

特にハンガリー・オルバン首相はEUのウクライナ支援についても消極的姿勢ですが、最近そのロシア寄りの姿勢を強め、EU議長国の立場にありながら、EUを公然と批判しています。(ポーランドはロシアとの確執の歴史があって、反ロシアの急先鋒としてウクライナを支援しています)

*****ハンガリー首相「ウクライナは勝てない」 支援巡りEUと対立激化*****
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は9日の欧州議会で、ウクライナへの支援に消極的でロシア、中国寄りの姿勢を取るハンガリーが「欧州に安全保障上のリスクをもたらしている」と非難した。

ハンガリーのオルバン首相は8日、「ウクライナはロシアとの戦争に勝てない。EUのウクライナ支援は愚かだ」と発言しており、EUとハンガリーの対立が一段と深刻化している。

フォンデアライエン氏は9日の欧州議会で、「ロシアの戦争での残虐行為を世界が目撃している。それでもなお、侵略者よりも侵略された側に責任があると主張する人たちがいる」とハンガリーを念頭に発言。「ならば1956年のソ連による(ハンガリーへの)軍事介入で、彼らはハンガリー人に責任があると言うのだろうか」と皮肉った。

EU各国はロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、資金や武器、弾薬を供給するなどし、戦闘継続を支えている。

だが7月1日にEU加盟国で構成する欧州理事会の議長国に就任したオルバン氏は同月、他の加盟国と調整しないままウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談。その後、モスクワでロシアのプーチン大統領、北京で中国の習近平国家主席と相次いで会談するなど、独自の「仲介外交」でウクライナ、ロシア間の和平交渉を促そうとしている。

また、欧州市場でシェアを拡大する電気自動車(EV)など、政府の補助金を受けた安価な中国製品に対しEUが警戒を強める中、ハンガリーは中国との経済連携を強化している。さらにオルバン政権は今年2月、ハンガリー国内に中国の警察官を受け入れ、巡回などを認めると発表した。

フォンデアライエン氏は9日の欧州議会で「なぜ中国の警察官を受け入れるのか。これは欧州の主権の防衛ではなく、欧州への外交介入につながる」と批判。

また、EUがビザの発給を厳格化しているロシア国民に対してハンガリーが就労許可手続きを簡略化する措置を講じていることについても、「ハンガリーだけでなくEUの全加盟国にとって安全保障上のリスクとなる」と述べた。

オルバン氏は7月、ウクライナ支援に消極的なトランプ前米大統領とも米フロリダ州で会談している。オルバン氏は今月8日、11月の米大統領選に言及し、「トランプ氏が当選したら、就任を待たずに(ウクライナとロシアの)和平に向け動くだろう。欧州の首脳もこれに応じなければならない」と強調。「トランプ氏が大統領に返り咲いたらシャンパン数本で祝おう」と述べた。

オルバン氏と蜜月関係にあるトランプ氏が大統領選で当選すると、ウクライナ支援を巡る欧州の結束が乱れ、米欧の外交関係が混乱する懸念がある。【10月10日 毎日】
*********************

ハンガリーが中国の警察を受け入れたことについては、中国の観光客の増加に対応するためということを名目にしていますが、海外在住の中国人に対する嫌がらせや弾圧に利用されるのではないかとの懸念があります。

****「中国警察の活動許可」 EUがハンガリー非難****
欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は9日、ハンガリーのオルバン政権が自国内で中国警察の活動を許可していると指摘し「欧州の主権を守ることにはならない。外国による干渉を許すことになる」と非難した。フランス・ストラスブールの欧州議会で演説した。

ハンガリー内務省が国内でのパトロールに中国の警察官の同行を認めたことを受けた発言。欧州議会によると、海外在住の中国人に対する嫌がらせや弾圧に利用されるのではないかとの懸念が強まっている。一方、中国の警察署が複数の加盟国に秘密裏に設置されているとの報告もある。【10月9日 共同】
******************

フォンデアライエン欧州委員長のハンガリー批判は、同じEU加盟国同士とは思えない激しいものです。そこまでEU指導部とハンガリー・オルバン首相の間の溝が深まっているということでしょう。

****〈公然とハンガリーを非難するEU〉フォン・デア・ライエン委員長の演説で見せた対立の要因****
10月9日、欧州議会における演説で、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が、ロシアとの関係を中心にハンガリーのオルバン首相の行動を厳しく非難した。先例のない演説と思われるので、その一部を紹介する。

(ウクライナの戦争)
「世界はロシアの戦争の残虐行為を目撃した。しかるに、今なおこの戦争を侵略者ではなく侵略された者のせいにする向きがある。プーチンの権力の欲望ではなくウクライナの自由への渇望のせいにする向きがある。

よって、彼等に問いたい。彼等は1956年のソ連の侵攻はハンガリー人のせいだというのか? 彼等は68年のソ連による弾圧はチェコ人とスロバキア人のせいだというのか? 彼等は91年のソ連による弾圧はリトアニア人のせいだというのか? 

我々ヨーロッパ人は種々異なる歴史と言語を持っているかも知れないが、平和が降伏と同義語であるヨーロッパの言語はない。主権が占領と同義語である言語もない。ウクライナの人々は、ソ連の支配から中央・東部ヨーロッパを解放した英雄と同じく、自由の戦士である」。

「ウクライナとヨーロッパにとって公正な平和への道は一つしかない。我々は、政治的・財政的・軍事的支援をもってウクライナが抵抗出来るよう助け続けねばならない。

先月、自分は主要7カ国(G7)が約束した500億ドルの融資の一部として最大350億ユーロをウクライナに融資することをキーウで公表した。この融資は凍結されたロシア資産が生む利子をもって償還されることになる。

我々はロシアに損害を弁済させる。我々は、この冬を通じて、そして必要な限り、ウクライナと共にある」。

(ロシアの化石燃料の輸入問題)
「我々は汚いロシアの化石燃料を使い続けるべきだと思っている人達に言いたい。ロシアの戦車がウクライナに侵入して数日のうちにヨーロッパの指導者はベルサイユに参集した。27すべての加盟国が出来るだけ早くロシアの化石燃料から離れて多様化すべきことに合意した。

1000日後の今日、この約束はどうなったか? ヨーロッパは確かに多様化した。――(中略)――しかし、すべての加盟国がベルサイユの約束を実行した訳ではない。その代わり、ある加盟国はロシアの化石燃料を買う別の手段を探しただけだった。

ロシアは何度となく信頼に足る供給者でないことを証明して来た。最早更なる言い訳は許されない。ヨーロッパのエネルギー安全保障を願う者は誰であれ、まずはそれに貢献する必要がある。それが従う必要のあるルールである」。

(移民問題)
「オルバンは、ハンガリーは『その国境を守っており』、ハンガリーでは『犯罪人は拘留されている』と述べた。しかし、昨年、ハンガリー当局が密輸と人身売買の犯罪人を刑期が終わる前に釈放した事実にこの発言はどのように適合するのか訝しく思う。

これはヨーロッパの不法移民と戦うことにならない。これは欧州連合(EU)を守ることにならない。これは隣国とのフェンス越しに問題を投げるだけのことである」。

「我々は皆、域外国境をより良く守りたいと思っている。しかし、それは組織犯罪に共同で対処し我々の結束を示してのみ、成功するであろう。誰が域内に入ることを認めるかについて言えば、ハンガリー政府が追加的なセキュリティー・チェックもしないままロシア国民をEUに招き入れるようなことが、どうして有り得るのか?

ハンガリーの新たなビザのスキームはハンガリーだけでなくすべての加盟国にとっての安全上のリスクとなる。また、ハンガリー政府が中国の警察にその領域で活動を許すようなことが、どうして有り得るのか? これはヨーロッパの主権を防衛することでない。外国の干渉のための裏口である」。

*   *   *
(論評)
ハンガリーと対立する3つの要因
10月9日、欧州議会においてオルバンも出席してハンガリーがEU議長国を務める7月以降本年後半の課題について議論が行われた。ハンガリーとブリュッセルの対立が要因で、時期が今にずれ込んだものらしい。

フォン・デア・ライエンはオルバンに続いて演説したが、オルバンに面と向かって遠慮会釈なく非難を展開したのは、ブリュッセルでオルバンに対する苛立ちが蓄積している現れかと思われる。その要因はいくつかある。

第一に、ロシアの凍結資産を使ったウクライナ支援である。10月9日、EU理事会はG7が合意した最大450億ユーロ(500億ドル)の対ウクライナ融資に対するEUの貢献分として最大350億ユーロの融資を行うことで合意した(今後、欧州議会の承認を要する)。特定多数決で合意を達成しハンガリーの拒否権を回避したが、ハンガリーはルール違反だと不満を表明している。

しかし、問題がもう一つある。それは、ロシア資産(大部分はEUの管轄下にある)の凍結というEUの制裁自体は6カ月毎に更新を要することになっており、そのような先行き不確実な状態では、G7による融資はロシア凍結資産が生む利子収益で償還されるという前提が崩れかねないため、米国が融資への参加の可否およびその規模を決め得ないとしている問題である。

EUは6カ月を36カ月とする解決策を目指しているが、この変更には全加盟国の賛成が必要とされている。問題は、ハンガリーが対ロシア制裁に関する米国の次期政権の方針を見極める必要があるとして、この決定は11月の大統領選挙まで待つべきだと主張していることである。

妨害としか思えず、トランプの立場を慮っているとしか思えない。

第二は、フォン・デア・ライエンも言及しているが、ハンガリーのNational Cardと称するスキームである。就労許可が容易なビザのスキームのようで、元来、対象はウクライナとセルビアの市民が対象だったが、7月にロシアとベラルーシおよびバルカン4カ国にも拡大された。

欧州委員会は現下の地政学的な状況でロシアとベラルーシの市民を招き入れるロジックを疑問視し、そのシェンゲン圏全域に及ぶリスクを重大視しているようである。

ハンガリーが中国の観光客の増加に対応するため、ハンガリーにおける中国警察のパトロールを認めることになった一件も甚だしく胡散臭く思われる。

第三は、「主権防衛法」である。法の支配などを巡るハンガリーとの緊張関係は長期間継続しているが、10月3日、欧州委員会は、この法律(2月に発効)は市民の基本的権利を犯すなどEU法に違反するとして、EU司法裁判所に提訴した。この法律は外国や外国の機関の利益のためと疑われる活動を調査する趣旨で、権威主義的体質の政権が好む種類のものである。

ウクライナに言及しなかったオルバン
オルバンは演説の冒頭、「EUは変わる必要があり、本日はそのことについて諸君を説得したい」と述べたらしい。そうはならなかった。

議員が次々に立って、民主主義の後退とロシア寄りの立場を攻撃した。最大会派の欧州人民党を率いるマンフレート・ヴェーバー(ドイツの政治家)は、オルバンがウクライナに一行たりとも言及しなかったことに衝撃を受けたと述べた。

オルバンは非難に対し、「欧州委員会は権限を逸脱している。欧州委員会は『中立』で『条約の守護者』であるべきなのに、『政治的兵器』になっている」と主張したと報じられている。【11月1日 WEDGE】
******************

フォンデアライエン欧州委員長が取り上げたハンガリー動乱は、ソ連時代のハンガリーの抵抗運動で、ソ連軍侵攻によって鎮圧されました。

****ハンガリー動乱****
1956年10月23日よりハンガリーで起きた、ソビエト連邦(ソ連)や勤労者党政権の権威と支配に反対する民衆による全国規模のデモ行進・蜂起および、ハンガリー政府側がソ連軍に要請した鎮圧によって市民約3,000人が犠牲となり、20万人以上が難民となり国外へ亡命したとされる事件。【ウィキペディア】
*********************

【オルバン首相 国民に「EUへの抵抗」呼び掛け 「外国勢力、今回はEUの意思に屈するのか、それとも抵抗するのか?」】
フォンデアライエン欧州委員長がハンガリーにとって“抑圧に対する闘いの象徴”でもあり、最大の国難でもあったハンガリー動乱を念頭にオルバン路線を批判したことには、オルバン首相は相当に“頭に来た”というか、“地雷を踏んだ”形になったのかも。

オルバン首相は、ハンガリー動乱で旧ソ連に対して行ったようにEUに「抵抗」するよう呼び掛けるという過激な反EU姿勢を明らかにしています。

なお、オルバン首相は今でこそ国粋主義者で親ロシアとされていますが、若かりし頃(未だハンガリーがソ連衛星国として社会主義政権下にあった頃)は社会主義・共産主義への抵抗運動に参加し、ハンガリー動乱で失脚、処刑されたナジ・イムレの再埋葬式で、「共産主義と民主主義は併存し得ない」と社会主義政権打倒を訴える演説を行い、民主化の旗手として名を高めた経歴があります。【ウィキペディアより】

****ハンガリー首相、国民に「EUへの抵抗」呼び掛け 反ソ暴動になぞらえ****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は1956年に起きた反ソ暴動「ハンガリー動乱」から68年を迎えた23日、国民に対し、ハンガリー動乱で旧ソ連に対して行ったように欧州連合に「抵抗」するよう呼び掛けた。

ハンガリーはEUの輪番議長国を務めているが、国粋主義者のオルバン氏は、EUで最もロシアに近い指導者として知られる。同氏はこれまでも西側諸国とロシアの間で戦争になる恐れがあるとあおり、その原因はEUと北大西洋条約機構にあると主張している。

2010年から実権を握るオルバン氏は現在、与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を離脱して野党指導者となったマジャル・ペテル氏の前例のない挑戦を受け、強まる圧力にさられている。

オルバン氏は首都ブダペストの公園に集まった人々に対し、「外国勢力、今回はEUの意思に屈するのか、それとも抵抗するのか? 私たちの答えは1956年と同じように明白でなければならないのではないか」と呼び掛けた。
「われわれが1956年から得た教訓は、ハンガリーとその自由のために、ただそのために戦わなければならないということだ」と付け加えた。

ハンガリー動乱は1956年10月23日に始まり、旧ソ連によって11月4日に鎮圧された。約3000人が死亡、2万人が負傷し、ハンガリーの抑圧に対する闘いの象徴となった。

同日オルバン氏の発言後に行われたデモ行進で、マジャル氏はオルバン政権がロシアに屈服していると非難。
参加者らに向かって「私たちの国は現在、ハンガリーの自由と立憲主義の基盤である1956年から受け継いだものをほぼすべての言動で冒涜するような男によって導かれている」と訴えた。

オルバン氏は、ウクライナ政府が提案する「勝利計画」の下では「ハンガリー国民がある朝目覚めたら、東から襲来したスラブ兵が再びハンガリー領内に駐留していることになるだろう」と警告した。

オルバン氏は演説で、EUはマジャル氏をトップに据えて、ハンガリーに「かいらい政権」を樹立しようともくろんでいるとも主張。

「EUがハンガリーを戦争に追い込もうとしていることも、移民を押し付けようとしていることも、ハンガリーの子どもたちをジェンダー活動家に引き渡そうとしていることも分かっている」と続けた。

オルバン氏は法の支配から性的少数者の権利に至るさまざまな問題で、EUと頻繁に衝突している。 【10月24日 時事】
********************

ハンガリー動乱で旧ソ連に対して行ったように欧州連合に「抵抗」するよう呼び掛けた・・・・もはや、EU議長国の立場は全く関係なく、ハンガリーがEUに残存していることさえ疑われるような激しいEU批判です。

フォンデアライエン欧州委員長とオルバン首相、“両者足を止めてリング中央で打ち合い”状態です。

【スロバキア・フィツォ首相もEUのウクライナ支援を批判】
なお、中央スロバキアの左派・親ロシアのフィツォ首相もEUのウクライナ支援を批判しています。

****スロバキア首相、ロシアのテレビに出演 ウクライナ巡りEU批判****
中欧スロバキアのフィツォ首相は30日、ロシア国営テレビ「ロシア1」に出演し、第二次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」に当たる来年5月9日にモスクワを訪問したいと語り、ウクライナ戦争への欧州連合(EU)のアプローチを批判した。これを受け、国内の野党から批判の声が上がった。

スロバキアのメディアによると、EU加盟国の首脳がロシアのテレビに出演するのは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降初めて。

フィツォ氏率いる左派の民族主義政権は1年前の発足直後にウクライナへの軍事物資の供給を停止し、武器の供給が紛争を長引かせていると主張してきた。

フィツォ氏はロシア大統領府支持派のテレビ解説者オルガ・スカベエワ氏とのインタビューで、来年の戦勝記念日に訪問したいと述べた。

また、ウクライナの和平計画はもはや実行不可能だとし、ロシア語に翻訳されたコメントで、「これはもう和平策ではなく、突然、勝利計画と呼ばれるようになった」などと指摘した。

最大野党のシメツカ党首は「国内でフィツォ氏のつぎはぎ行政は崩壊しつつある。医療は首相にとって議題ではないが、首相はロシアのプーチン大統領に奉仕する時間は見つけるだろう」と批判した。【10月31日 ロイター】
***********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英連邦首脳会議  奴隷貿易への賠償について協議を始めることで合意 英政府は賠償には応じない方針

2024-10-31 21:47:27 | 欧州情勢

(訪問先のサモアで、地元の伝統の踊りを鑑賞するチャールズ英国王=サモア・アピアで2024年10月25日、AP【10月31日 毎日】)

【英連邦 英国王に奴隷制の「償い」要求 英国王は痛ましい過去への言及はあったものの、謝罪はせず】
かつての大英帝国の名残“英連邦(コモンウェルス)”が現代においてどのような意味を持つのか・・・よくわかりませんが、参加国にはそれなりの精神的な意味合いもあるのでしょう。

“英連邦は、英国やカナダ、インド、オーストラリアのほか、アフリカやカリブ海の国などが加盟する緩やかな連合体。英連邦の総人口は27億人に上り、地球の全人口の約3分の1を占める。加盟国は行政や経済、保健医療など各分野で相互に協力でき、若者にとっては英国留学など教育支援を受けられるメリットもある。”【10月31日 毎日】

その英連邦の首脳会議にイギリスからはチャールズ国王が参加しましたが、奴隷制・奴隷貿易というイギリスの「過去」について償いを求められました。

****英連邦諸国、チャールズ国王に奴隷制の「償い」要求*****
英国のチャールズ国王は25日、サモアで開催中の英連邦(コモンウェルス)首脳会議(サミット)で、植民地時代の過去の償いを求められた。

英国の旧植民地を中心とする56か国の首脳が集うサミットに、チャールズ国王が出席するのは戴冠後初。
だが、25日の会議は気候変動など喫緊の課題ではなく、英植民地時代の奴隷制や負の遺産といった歴史をめぐる激論に発展した。

アフリカ、カリブ海、太平洋の多くの旧植民地諸国は、宗主国だった英国や欧州列強が奴隷制に対する金銭的補償か、少なくとも政治的な償いを行うことを望んでいる。英連邦サミットでも補償的正義をめぐる議論を要求しているが、財政難にある英政府はそれを阻止しようとしてきた。

バハマのフィリップ・デービス首相はAFPに対し、「歴史上の過ちにどのように対処するかについて、真の対話を行う時が来た」「補償的正義の議論は容易ではないが、極めて重要だ」と主張。「奴隷制の恐怖は、われわれのコミュニティーに世代を超えた深い傷を残した。正義や補償的正義のための闘いは、まったく終わっていない」と述べた。

数世紀にわたり奴隷貿易から利益を得てきた英王室は、謝罪を求められている。

だが、チャールズ国王はその点については踏み込まず、各国首脳に対し「分裂の言葉を拒む」よう呼び掛け、「英連邦各地の人々の声を聞く中で、過去の最も痛ましい側面が今に与え続けている影響は理解している」と発言。

「過去を変えることは誰にもできない。しかし、われわれはその教訓を学び、今も続く不平等を解消する創造的な方法を見いだすために全力を尽くすことができる」と続けた。

■過去との向き合い
英国のキア・スターマー首相は補償の支払いを公然と拒否しており、英高官らはサミットでの謝罪はないとしている。

だが、サミットでは植民地時代に関する議論を呼び掛ける共同声明案をめぐり、激しい交渉が展開されている。

デービス首相は「補償の要求は単に金銭的なものではなく、何世紀にもわたる搾取の持続的な影響を認め、奴隷制の遺産に対する誠実かつ正直に向き合うことを求めている」と強調した。

次期英連邦事務総長候補の一人、レソトのジョシュア・セティパ氏によると、補償には気候資金のように従来の形態とは異なる支払い方法が含まれる可能性がある。 【10月25日 AFP】
******************

イギリスなど欧州列強が奴隷制・奴隷貿易で多大な富を得、その後の産業革命の原資ともなったこと、その陰で多くの黒人が非人道的状況に苦しみ、奴隷供給国には大きな傷跡を残したことことは周知のところです。

****奴隷貿易****
イギリスは17世紀末から大西洋の黒人奴隷貿易に参入、特に1713年にアシエント(奴隷貿易特権)を認められてからは、アフリカ・アメリカ大陸を結ぶ三角貿易を行い、大きな利益を上げ、イギリス産業発展の原資とされていた。

しかし、黒人奴隷への非人間的扱いや、中間航路の悲惨な状況が知られるにつけて、主としてキリスト教の人道主義の立場から、批判が強まった。

18世紀末から議会内外で奴隷貿易反対運動を続けたウィルバーフォースらの努力が効を奏し、イギリス議会は1807年、本国とアフリカ・西インド諸島間で行われていた奴隷貿易を禁止した。しかし、この時点では黒人奴隷制度そのものは否定されていなかった。

奴隷貿易廃止の背景
アフリカの黒人を奴隷として人身売買する黒人奴隷貿易は、人道主義の立場に立つウィルバーフォースの運動によって、ますイギリスで1807年に実現した。

この動きはイギリス以外にもひろがり、翌年はアメリカ合衆国でも奴隷貿易を禁止、1814年にオランダ、1815年にはフランスがそれに続いた。

19世紀初頭に、欧米諸国でアフリカの黒人を奴隷として人身売買することが急速に禁止されるようになったのには、人道主義的な反対運動が強まっただけではない、大きな経済のしくみの変化が背景にあった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(引用)19世紀初頭、ヨーロッパではかつての重商主義、重農主義の時代が終わり、産業革命の時代を迎えつつあった。

南北アメリカ植民地やアフリカとの関係でも、奴隷を労働力とするプランテーション経営や、アフリカからの奴隷供給をその一辺とする大西洋三角貿易で利益を得ていた時代から、第一次産品の供給地おおび製品の市場としての植民地が求められるようになる。

そうしたなかで、イギリス(1807年)、オランダ(1814年)、フランス(1815年)が相次いで奴隷貿易を禁止する。<川田順造『アフリカ』地域からの世界史9 1993 朝日新聞社 p.185>
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その結果、ヨーロッパ列強のアフリカに対する関心は、現地人首長との交易拠点が置かれた海岸から、急速に内陸に向けられることになり、19世紀前半の「アフリカ探検」ブームを引き起こし、さらに世紀後半の「アフリカ分割」競争へと移っていく。

奴隷制度そのものの廃止へ
欧米諸国が黒人奴隷貿易を禁止するようになったのは、単一商品作物に特化するプランテーションよりも、国内産業育成に目が向いた結果といえるが、そのような転換を遂げなかったブラジルとキューバは依然として大きな奴隷輸入地域だった。奴隷貿易禁止に転じたイギリスは軍事力を使って奴隷貿易国(スペイン)に圧力をかけた。
奴隷貿易が禁止されても奴隷制度そのものは続いていた。19世紀に奴隷制による生産が行われていた主な地域は、イギリス領西インド諸島の砂糖プランテーション、アメリカ合衆国南部の綿花プランテーション、ブラジル南東部のコーヒープランテーションであった。

次の段階では、このような奴隷制度そのものの廃止が改題となってゆき、イギリスでは1833年に奴隷制度廃止が決定される。

アメリカでは奴隷制度の廃止か存続下で国論がわかれ、南北戦争となる中で、1863年に奴隷解放宣言が出され、それ以後各国に広がり、1888年のブラジルを最後に世界から奴隷制度は(一応のところ)姿を消す。【世界史の窓】
********************

【被害を受けた国への賠償について協議を始めることで合意 英政府は賠償には応じない方針】
英連邦(コモンウェルス)首脳会議では、奴隷貿易によって被害を受けた国への賠償について協議を始めることで合意しました。

****イギリス連邦 首脳会議 奴隷貿易の賠償について協議開始へ*****
イギリスの旧植民地などで作るイギリス連邦の首脳会議が開かれ、かつて奴隷貿易によって被害を受けた国への賠償について協議を始めることで合意しました。

イギリス連邦はイギリスの旧植民地など56か国で作る緩やかな連合体で、2年に1回の首脳会議が太平洋の島国サモアで開かれました。

最終日の26日、すべての国が署名し採択された合意文書には、島しょ国への経済支援や気候変動対策に加え、かつてイギリスの奴隷貿易によって被害を受けた国への賠償について協議を始めることが盛り込まれました。

イギリスは16世紀後半以降、主にアフリカ西部からおよそ300万人を奴隷としてカリブ海諸国や南北アメリカの植民地に送り込み、タバコや綿花、砂糖などを栽培させて産業革命を推し進める富を築いたとされていますが、過酷な環境で多くの犠牲者が出ました。

近年、カリブ海諸国を中心に謝罪や賠償を求める声が高まっていて、イギリス連邦の首長を務めるチャールズ国王も首脳会議の開幕に際して「私たちの最も痛ましい過去が反響し続けていることを理解している」と述べ、真摯(しんし)に向き合う姿勢を示していました。

イギリスのスターマー首相は26日の会見で「首脳会議では金銭に関する議論はなかった。その点についてわれわれの立場は非常に明確だ」と述べ、巨額に上ると見られる金銭による賠償以外の方法を模索する考えを示し、地元メディアは債務の軽減や経済支援などの形をとる可能性もあると伝えています【10月27日 NHK】
*********************

****英国の奴隷貿易を巡り「賠償で対話の時」 英連邦が歴史的声明*****
英国の旧植民地など56カ国で構成する英連邦(コモンウェルス)内で、過去の奴隷貿易や植民地支配に対する賠償を求める声が高まっている。

10月25〜26日に南太平洋の島国サモアで開かれた英連邦首脳会議では、「賠償の問題」について協議を始めるとする歴史的な共同声明が採択された。ただ、チャールズ英国王は過去について「痛ましい側面」があったと述べるにとどまり、賠償や謝罪には踏み込んでいない。

「有意義で、誠実で、敬意を持った対話をする時が来た」。英連邦加盟国は同26日の共同声明に、英国が植民地支配時代の「負の歴史」を直視すべきとの趣旨の内容を盛り込んだ。声明には英国も合意した。

英議会の資料によると、英国は1562年から1807年まで奴隷貿易を行い、300万人以上のアフリカ人を北米やカリブ海の植民地に運んだ。

チャールズ国王は10月21日、サモア入り前に訪問したオーストラリアで先住民の上院議員から「英国人は大虐殺をした。土地を破壊した。祖先の命を返せ」と罵倒される一幕もあった。

国王は今回のサモア訪問で、「過去を変えることはできないが、その教訓を学ぶことはできる」と述べたが、謝罪はしなかった。国王は個人的には過去の清算に前向きとされるが、「政治的に微妙な問題に関しては、国王の演説は政府方針の範囲内にとどまる」(英BBC放送)ことが慣例という。

英国の政権は7月の総選挙で保守党から労働党に変わったが、政府見解は変わらず、現在のスターマー首相も「賠償には応じない」との立場だ。

英連邦首脳会議は2年に1回開催される。英メディアによると、次回は賠償問題が主要議題になる可能性があるという。(後略)【10月31日 毎日】
*********************

【もし賠償すれば、その額は巨額に】
謝罪すれば賠償問題へとつながり、その額は膨大なものになる・・・・という現実問題があります。

****どうやって払うの? 歴史の清算は高くつく 英奴隷貿易35兆円、米奴隷制は1285兆円也****
「奴隷貿易は受け入れ難いイギリスの歴史」
米白人警官による黒人暴行死事件に端を発した黒人差別撤廃運動「Black Lives Matter(BLM、黒人の命は大切だ)」が欧州に飛び火し、原因をつくった奴隷貿易(大西洋三角貿易)やそれに続く植民地支配の清算を迫っています。

奴隷貿易の責任を償うとしたら、その額は一体どれぐらいになるのでしょう。

「レイシスト(差別主義者)」という非難や破壊行為から逃れるためか、BLMに対して伝統的な金融機関や法律事務所が謝罪や遺憾の意を表明する例が相次ぎました。

過去の総裁や理事計27人が奴隷貿易に関わった英中央銀行、イングランド銀行は記念像や肖像画の展示を見直すとして、次のような声明を出しました。

「18、19世紀の奴隷貿易が受け入れ難いイギリスの歴史であることは明らかだ。イングランド銀行が直接、奴隷貿易に関与することはなかったものの、過去の総裁や理事が言い訳できないつながりを持っていたことを認識しており、それらを謝罪する」(中略)

しかし「謝罪」は「補償」を伴うのが国際社会の常識です。

1807年に奴隷貿易廃止法を制定したイギリス
奴隷貿易(大西洋三角貿易)は17~19世紀、雑貨や銃などの工業製品がアフリカに輸出され、黒人奴隷(黒い荷物)が大西洋を越えて西インド諸島や北米大陸に運ばれました。黒人奴隷が生産した綿花や砂糖(白い荷物)は欧州に送られました。

スウェーデン・ヨーテボリ大学のクラス・ロンバック教授の論文によると、三角貿易と植民地のプランテーション、関連産業を合わせた国内総生産(GDP)への貢献度は1701年の3.1%から1800年には10.8%に達しています。

1200万人の黒人奴隷が輸送され、300万人が死亡したとされています。1776年、アメリカの独立宣言でこの一角が崩れ、自由貿易や人道主義の高まりとともにイギリスは1807年、世界に先駆けて奴隷貿易廃止法を制定します。

1833年には奴隷制も廃止され、イギリス政府は奴隷約80万人分の損失を補償するため、永久債を発行して財源を捻出します。英政府が償還し終えたのは2015年のことだそうです。

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの奴隷所有者データベースによると、補償金は当時の金額で総額2000万ポンド、現在の価値に換算すると170億ポンド(約2兆2500億円)。4万7000人の奴隷所有者に配分されました。(中略)

また奴隷約80万人の市場価値は2000万ポンドではなく、実は5000万ポンドで、当時のイギリスのGDPの12%。現在、GDPの12%は2640億ポンド(約35兆円)に当たります。(中略)

1862年の奴隷解放宣言でアメリカでは400万人が解放されました。それに対して補償するとなると10兆~12兆ドル(約1070兆~1285兆円)にのぼるという米シンクタンク、ルーズベルト研究所の試算もあります。

「謝罪だけでは十分ではない」
トリニダード・トバゴの西インド諸島大学に拠点を置くカリブ研究協会は「制度化された人種差別、白人至上主義、警察の残虐行為とジョージ・フロイドさんら米国および世界中の黒人犠牲者を生んだ体系的な社会的不正を糾弾する」と表明しています。

カリブ諸国12カ国は「謝罪だけでは十分ではない」と何らかの形の補償を求めています。西インド諸島大学の副学長でカリブ共同体補償委員会委員長のヒラリー・ベックルズ教授は2014年に英下院でこう証言しています。

「イギリスの奴隷船は180年にわたって550万人の黒人奴隷をアフリカからカリブ海に運んできた。奴隷制が廃止された時、残っていたのはわずか80万人だった」

「奴隷制と虐殺の邪悪なシステムが確立されたのはこの英下院だ。この下院は法律を可決し、財政政策を取りまとめ現在、修正を必要とする有害な遺産と永続的な苦しみを生み出すという罪を犯した」

「下院はまた奴隷制からの解放と植民地主義からの独立を実現した。私たちが今期待しているのは、補償のための法律が制定されることだ。過去のひどい過ちが是正され、これらの歴史的犯罪の恥と罪悪感から人類が最終的にそして真に解放されると信じている」(中略)

ベックルズ教授は今回、ロイター通信に「謝罪だけでは十分ではない。私たちは街角の物乞いのように何かを求めているのではない。金銭は二の次だが、道徳的義務から解放されるためにはカリブ諸国の発展のために市場経済で貢献することが求められる」と訴えています。

奴隷制だけでなく過去の植民地支配も裁かれ、補償が求められるとなると、韓国との間で旧日本軍従軍慰安婦問題、元徴用工問題を抱える日本にとっても対岸の火事で済まされなくなってしまいます。【2020年6月29日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】
********************

“スターマー首相は巨額に上ると見られる金銭による賠償以外の方法を模索する考えを示し、地元メディアは債務の軽減や経済支援などの形をとる可能性もあると伝えています”【前出 NHK】

日本の中国に対する国交回復後の支援もその類でしょうか。結果、中国は飛躍的発展を実現しました。
しかし“謝罪”を曖昧なまま行ったことで、未だに“歴史問題”が日中関係を難しくするものとなっています。

【アメリカ バイデン大統領が先住民同化政策について謝罪】
アメリカではバイデン大統領が・・・

****米大統領、先住民に謝罪 白人社会への同化政策巡り****
バイデン米大統領は25日、政府が白人社会への同化を目的に先住民の子どもを150年間、寄宿学校に強制入学させていたことを初めて公式に謝罪した。

先住民の言語や文化を失わせたとし「恐ろしいほど間違っていた。米国史の汚点だ」と述べた。訪問先の西部アリゾナ州フェニックス近郊の先住民居留地で表明した。

バイデン氏は「謝罪は遅すぎた。弁解の余地はない」と強調。「歴史を消し去るのではなく、学び、記憶することで国家として癒やしを得ることができる」と訴えた。

米政府によると、37州で計400以上の寄宿学校を運営し、強制入学は1819年から1969年まで続いた。「過酷な軍国主義的同化政策」で先住民の言語や文化が薄れ、多くの子どもが虐待や性的暴行を受けた。【10月26日 共同】
******************

今この時期に謝罪がなされたのは、選挙対策の意味合いがあるのではと邪推しています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モルドバ・ジョージア  欧米とロシアの間で揺れる両国の選挙 思った以上に根強い親ロシア的なもの

2024-10-29 23:15:31 | 欧州情勢

(ジョージアの議会選挙で与党「ジョージアの夢」が勝利した結果に抗議するデモ参加者。首都トビリシで(2024年10月28日撮影)【10月29日 AFP】)

【モルドバ 大統領選挙とEU加盟の是非を問う国民投票 思いがけず接戦 今後のEU加盟への動きは不透明に】
旧ソ連のモルドバ、欧米とロシアの間で揺れる国のひとつで、親ロシアの未承認国家「沿ドニエストル」にはロシア軍が駐留しています。

そのモルドバでの大統領選挙、及び、EU加盟の是非を問う国民投票が20日に行われました。

直前の19日ブログ“モルドバ  ロシアの介入もあるなかで、新欧米路線の現職大統領再選、RU加盟加盟支持か”で、タイトルにあるように、世論調査の数字をもとに親欧米路線の大統領が再選され、EU加盟の国民投票は加盟が支持されるだろう・・・といった記事をかきましたが、どうも様相が異なるようです。

大統領選ではサンドゥ大統領はトップには立ったものの過半数はえられず、決選投票へ。ロシア支持層が親ロシア候補で一本化すると決選投票は不透明に。更にロシアの選挙干渉も。

国民投票の方は加盟支持が上回ったとは言え、その差は極めて僅か。今後の扱いに影響しそうです。

****モルドバのEU加盟国民投票、僅差で賛成 大統領が勝利宣言****
モルドバで20日に行われた欧州連合加盟の是非を問う国民投票の開票結果が21日発表され、賛成票が50.46%と、反対票をわずかに上回った。

親欧州派のマイア・サンドゥ大統領はこれを受け、「不正がなされた闘いをわれわれは正当なやり方で制した」と勝利宣言した。同時に行われた大統領選の1回目投票では、サンドゥ氏が首位を死守した。

大統領選では、サンドゥ氏が42%を超える得票率で首位となった。親ロシア派の社会党の支援を受けている元検事総長のアレクサンドル・ストイアノグロ氏は、予想を上回る26%近い票を集めた。

サンドゥ氏は記者会見で、「われわれはこの国の将来を決定する困難な闘いの初戦に勝利した」「皆さんの声は届いている。汚職と闘うためにさらに努力しなければならない」などと語り、有権者に決選投票への参加を呼び掛けた。

サンドゥ氏は、「犯罪集団がわが国の国益に敵対する外国勢力と共謀」し、モルドバの民主主義に対する「前例のない攻撃」が行われていると非難。「卑劣な干渉」によって自身の陣営への票が奪われていると批判を強めていた。

一方、ロシア大統領府(クレムリン)はサンドゥ氏に対し、ロシアがモルドバの選挙に干渉したことを「証明」するよう求めた。また、EU加盟への賛成票とサンドゥ氏が獲得した票数に「異常」があると主張している。 【10月22日 AFP】
********************

****11月の決選投票、現職苦戦も モルドバ大統領選****
旧ソ連構成国モルドバで20日に実施された大統領選で首位に立ち、決選投票に進んだ親欧米のサンドゥ大統領が21日に記者会見し、欧州連合(EU)加盟を実現するため自身に投票するよう呼びかけた。

11月の決選投票ではロシアの選挙介入が懸念され、対ロ批判を強めるサンドゥ氏が苦戦を強いられる可能性もある。

大統領選には11人が出馬し、サンドゥ氏は42%を得票した。親ロシアの前大統領の支持を受ける元検事総長ストヤノグロ氏が26%で2位だった。3位以下には親ロ派候補も多く、決選投票では2人の差が縮まるとの見方が強い。【10月22日 共同】
******************

事前の世論調査ではEU加盟支持が多かったものの、実際の国民投票で僅差となったことについては、“旧ソ連のなかで最も貧しい国とされるモルドバ。経済状況がさらに悪化するなかで、EU加盟が明るい将来につながるとの確信を持てない国民が多かったことが背景にあるといいます。”【10月22日 TBS NEWS DIG】といった指摘も。

また、「この状況で無理やり具体的に進もうとすると、また国民の賛否が割れて大きな分断というか、ただでさえロシアの工作とか介入とか、そういうものを受け入れやすいような状況になっている世論がまた混乱するという状況も考えられるわけで、非常に難しいんだろうと思います」【同上】といった指摘あって、今後のEU加盟の扱いは難しくなっています。

とにもかくにも11月3日の大統領選挙の決戦投票でサンドゥ大統領が再選されなければ、話は全く違ってきます。

****モルドバ大統領、EU加盟目標強調 親ロ派対立候補は「悪の手先」****
旧ソ連モルドバのサンドゥ大統領は28日、欧州連合(EU)加盟が国民にとって前進する唯一の道だと述べ、大統領選の決選投票で対決する親ロシア派の候補を「悪の勢力の手先」と批判した。

2期目を目指すサンドゥ氏は20日に行われた大統領選第1回投票で得票率約42%とトップに立ったが過半数に届かず、26%を獲得した元検事総長のストヤノグロ氏と11月3日に決選投票が行われることになった。

20日にはEU加盟の是非を問う国民投票も実施され、賛成がかろうじて半数を超えたが、サンドゥ氏は外部からの「前例のない」干渉があったと非難していた。

サンドゥ氏は28日のテレビ討論会で、「モルドバにとって、EUとの統合以外に選択肢はない」と強調。

「ストヤノグロは悪の勢力の手先にすぎない。彼でなければ、他の誰かだ。泥棒や強盗に国を引き渡してはならない。民主主義を守る必要がある」と訴えた。

27日の討論会ではストヤノグロ氏をロシア政府の利益に奉仕する「トロイの木馬」「モスクワの手先」などと批判していた。

ストヤノグロ氏は27日、サンドゥ氏が大統領の重責に対処できず、国のために何もしていないと反論していたが、28日の討論会には出席しなかった。【10月29日 ロイター】
**********************

【サンドゥ大統領は外部からの「前例のない」干渉があったと非難】
“外部からの「前例のない」干渉”については以下のようにも。もちろん“外部”とはロシアです。

****ロシア、有権者買収に59億円 モルドバ警察が発表、国民投票で****
旧ソ連構成国モルドバで20日に実施された欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票と大統領選について、モルドバの警察当局は24日、ロシア側から買収目的で計3900万ドル(約59億2千万円)が有権者に支払われていたと発表した。地元メディアが報じた。

事前の世論調査では加盟賛成が多数を占め、サンドゥ氏の大勝も予想されており、加盟阻止を狙うロシア側の選挙介入が指摘されていた。

警察によると、9月に1500万ドル、10月に2400万ドル以上がロシアの銀行を通じて送金された。約14万の口座に140万件以上の不正な取引が確認されたという。ロシアに亡命したモルドバの親ロシア政党創設者、イラン・ショル氏が関与したとしている。

投票日直前の今月14〜17日に取引が急増していた。警察は、現金を受け取った有権者も捜査対象になると表明した。(後略)【10月24日 共同】
**********************

これが、どの程度の影響力を持ったのかはわかりません。

【ジョージア総選挙  ロシアに接近する与党が勝利 親欧米路線の大統領「ロシアによる国の乗っ取りだ」 野党は「盗まれた」と抗議活動】
一方、やはり旧ソ連構成国で、また、親ロシア勢力による未承認国家を抱えるジョージアでは26日に総選挙が行われましたが、近年「反スパイ法」とか「LGBT規制法」といったロシアに類似した法律を制定するなどロシアへの接近を強めている与党「ジョージアの夢」が勝利したとされています。

ただ、親欧米路線の野党側は、不正が行われたとして抗議しています。親欧米派のズラビシビリ大統領は「ロシアによる国の乗っ取りだ」と非難し、抗議をよびかけています。

****ョージア議会選、親露・強権の与党が「勝利」*****
南カフカス地方の旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)で26日、議会選(定数150)が行われた。同国が親ロシア路線と親欧米路線のどちらに進むかを方向付ける重要選挙と位置付けられ、国際的関心を集めた。

中央選管の発表によると、親露色を強める与党「ジョージアの夢」が54%の得票率で勝利した。親欧米路線への回帰を訴えた野党側は開票不正が起きたとし、結果を認めず抗議活動を行うと表明した。

議会選は得票率に応じて各党に議席数が割り当てられる比例代表制で行われた。得票率5%未満だった党は議席割り当ての対象外となる。

中央選管の発表によると、開票率約99%の時点で、「夢」の得票率は54%。親欧米派の主要野党4党は計38%となった。投票率は約59%。

2008年にロシアの軍事侵攻を受けたジョージアは反露を一種の「国是」としてきた。「夢」も12年の政権獲得後、親欧米政策を進め、昨年12月にはジョージアの「欧州連合(EU)加盟候補国」の地位獲得を達成した。ただ、近年はウクライナ侵略に伴う対露制裁に参加しないなど、親露傾向も強めていた。

「夢」のオーナーであるイワニシュビリ元首相はロシアで財を成した大富豪。同氏はジョージア国内の親露分離派地域、南オセチアとアブハジアを巡る領土問題の解決を視野に、対露関係の改善を図ろうとしているとの観測も出ている。

さらに、「夢」は議会選に先立ち、外国から資金提供を受けて活動する団体を規制する「反スパイ法」と、性的少数者(LGBTなど)の権利を制限する「LGBT規制法」を制定した。

両法は類似した法律がロシアで施行され、政治・言論弾圧の手段として使われている。EUは「夢」の強権化を批判し、加盟手続きの一時停止を発表。野党側も「『夢』が勝利すればEU加盟が不可能になる」と訴えていた。

議会選で「夢」が勝利したとの結果が発表されたことで、EUとジョージアは関係悪化が避けられず、同国のEU加盟はさらに不透明になる。

米シンクタンク「戦争研究所」は議会選に先立ち、「ロシアか欧米か」と題するリポートを公表。今回の議会選は「ジョージア独立以来、最も重要な選挙となる可能性が高い」と評価していた。「夢」が勝利した場合、ロシアと「夢」が接近し、ウクライナ侵略以降に欧米が進めてきたロシア孤立政策の打撃になるとも指摘していた。【10月27日 産経】
********************

****「ロシアによる国の乗っ取りだ」親欧米派のジョージア大統領が非難 総選挙“不正介入”に抗議を呼びかけ****
旧ソ連・ジョージアの総選挙でロシア寄りの与党が勝利したことを受け、親欧米派の大統領は27日、選挙で不正な介入があったとして抗議を呼びかけました。「ロシアによる国の乗っ取りだ」と非難しています。

ロイター通信などによりますと、旧ソ連のジョージアで26日、総選挙が行われ、ロシア寄りの与党が過半数を獲得しました。

これを受け、親欧米派のズラビシビリ大統領は27日、野党とともに記者会見を開き、「選挙に不正があり、皆さんの票が奪われた」とした上で、EU(=ヨーロッパ連合)への加盟阻止をもくろむロシアによる“特別作戦”があったと主張しました。

さらに、「ロシアによる国の乗っ取りだ」と非難し、選挙結果への抗議を呼びかけました。

ヨーロッパの選挙監視団は27日、有権者への脅迫などの違反行為が確認され、「民主主義が後退する」証拠があると明らかにしていて、アメリカとEUはジョージア当局に選挙違反の徹底的な調査を求めています。【10月28日 日テレNEWS】
*********************

当然ながら、ロシアは選挙介入を否定しています。むしろ介入しているのは欧州の方だとも。

****ロシア、ジョージア議会選への介入否定 欧州による介入を指摘****
ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日、同国が旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)の議会選に介入したとの見方を否定した。

公式結果によると、議会選では親ロシアの与党「ジョージアの夢」が勝利したが、親欧州連合(EU)の野党勢力は結果に異議を唱え、外国の選挙監視団体などからは不正があったとの指摘が出ている。

ペスコフ報道官は、ジョージアのズラビシビリ大統領がロシアによる選挙介入の可能性を示唆していることについて「そうした主張を強く否定する」と発言。

欧州による選挙介入の試みはあったが、ロシアは選挙に介入していないとし、ロシアによる介入を非難することが多くの国で常とう手段になっていると述べた。【10月28日 ロイター】
********************

野党側は抗議活動を行っていますが、結果を覆すのは難しいかも。

****ジョージア、「盗まれた」議会選挙に数万人が抗議****
ジョージアの首都トビリシで28日、議会選挙でロシア寄りとされる与党「ジョージアの夢」が勝利した結果を受け、数万人が抗議デモを行った。

親欧米派の野党は「盗まれた」選挙だと非難。サロメ・ズラビシビリ大統領はAFPに対し、投票では「巧妙な」不正操作が行われたと主張し、ロシアの関与を指摘した。

選挙管理委員会が発表した99%以上の開票結果では、ジョージアの夢が得票率53.92%を獲得。親欧州連合派の主要野党連合は37.78%にとどまった。

28日夜、トビリシ中心部の議事堂前では、数万人がジョージア国旗とEUの旗を振りながら平和的な抗議活動を行った。

与党と対立している親欧米派のズラビシビリ氏はデモ参加者の前で、「皆さんの票は盗まれたが、私たちの未来を誰にも奪わせはしない」「EUへの道を歩むため、私は最後まで皆さんと共にあると約束する。EUこそが、この国が属す場所だ」と呼び掛け、歓声を浴びた。

ズラビシビリ氏はAFPの取材に応じ、26日に行われた議会選挙では「非常に巧妙な」不正工作が行われたと主張した。

複数の州での投票に同一の身分証明書が使い回され、賄賂が横行し、電子投票システムにも不正があったと指摘。
「政府を糾弾するのは非常に難しく、それは私の役割ではないが、この手口はロシアによるものだ」とし、「威嚇的な」ロシアに対処するのは厄介だと述べた。

ジョージアの主要な選挙監視団は28日、複雑かつ大規模な不正行為の証拠が明らかになったと発表。全体のうち少なくとも15%を無効票とするよう要請した。 【10月29日 AFP】AFPBB News
*********************

こうした状況で、中央選管は一部再集計するとしてはいますが、おそらく中央選管には与党「夢」の影響が及んでいるとおもわれますので、再集計といっても今の結果を追認するためのものでしょう。

****ジョージア議会選、一部再集計へ 中央選管****
ジョージアで26日に行われた議会選挙で不正投票が行われたと野党が主張している事態を受け、中央選挙管理委員会は29日、投票所の約14%で投票用紙を再集計すると発表した。
 
選挙管理委員会が発表した99%以上の開票結果では、ロシア寄りとされる与党「ジョージアの夢」が得票率53.9%を獲得。親欧州連合派の主要野党連合は37.7%にとどまった。

野党は、与党に有利になるよう不正が行われたと主張し、「国際的な選挙管理委員会」による選挙のやり直しを要求。28日には、首都トビリシで数万人が抗議デモを行った。

親欧米派のサロメ・ズラビシビリ大統領も、選挙結果は「違法」だとし、「ロシアの特殊作戦」による選挙介入が行われたと主張。

ジョージアの主要な選挙監視団も28日、複雑かつ大規模な不正行為の証拠が明らかになったとして、全体のうち少なくとも15%を無効票とするよう要請していた。

中央選管は「各選挙区から無作為に選ばれた投票所5か所で、地方選管によって再集計を行う」としている。 【10月29日 AFP】AFPBB News
*******************

【日本で考える以上に根強い親ロシア的なもの】
個人的な印象としては、ロシアの介入の話を別にすれば、モルドバでも、ジョージアでも親ロシア勢力が思った以上に強いという感じ。

日本に暮らす私は欧米的な民主主義・自由を是として、ロシア的なものを非としています。
ですから、自由・公正な選挙を行えば、人々は必ず親欧米的なものを選ぶだろうとも。

しかし、それは日本にいる私の考えであり、現実はそれほど単純ではなさそう。現地には現地の事情も。

ロシア語を普段話すような人々、ロシアに文化的に親近感を持つ人々、リベラルな価値観にどうしてもついていけない人々もいますし、自由だ何だといっても、結局甘い汁を吸うのは一部の者で、自分たちは結局はじき出されてしまう、それぐらいなら権威主義だろうが何だろうが、自分たちにも利がある仕組みの方がいい・・・と思う人々も。

モルドバにしろ、ジョージアにしろ、そういう欧米的なものを必ずしも是としない人々がやはり多数いるのでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モルドバ  ロシアの介入もあるなかで、新欧米路線の現職大統領再選、RU加盟加盟支持か

2024-10-19 22:03:32 | 欧州情勢

(2024年10月10日、キシナウにて欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長(左)とモルドバのマイア・サンドゥ大統領)

【モルドバの今後の方向を決める大統領選挙および国民投票】
ロシアとEU・欧米の間で揺れる旧ソ連の国のひとつがモルドバですが、そのモルドバの今後の方向をきめる大統領選挙およびEU加盟の是非を問う国民投票が20日に行われます。

その件については、下記のように10月4日ブログ“ジョージアそしてモルドバ  ロシアと欧米の間で揺れる ロシアの周辺に位置する国々”でも取り上げました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【ロシアの選挙介入を警戒するモルドバ】
“ロシアの周辺に位置する他の国々”のひとつがやはり旧ソ連のモルドバですが、モルドバもロシアと欧米の間で揺れています。

****ロシア系勢力がモルドバ大統領選とEU投票で13万人買収=国家警察****
モルドバ国家警察は3日、大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシア系勢力が13万人以上を買収し、サンドゥ政権の親EU政策を妨害する「前例のない直接攻撃」を仕掛けていると発表した。

国家警察トップのビオレル・チェルナウタヌ氏は記者団に捜査状況を説明し、ロシアが管理するネットワークを経由し、「選挙プロセスの混乱を狙った資金提供と汚職がまん延している」と述べた。9月だけで約1500万ドルがロシアのプロムスヴャジバンクに開設された口座に送金されたと明らかにした。

サンドゥ大統領は2期目を目指している。ロシアが政権転覆工作を繰り返していると長く非難してきた。ロシア政府はこれを否定している。

今回の大統領選では立候補者が過去最多の11人と乱立しているものの、世論調査ではサンドゥ氏が圧倒的なリードを保っている。【10月4日 ロイター】
*************************

モルドバはロシアのウクライナ侵攻後の2022年6月にEUの加盟候補国となりましたが、ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシアとも言われ、国内に抱える親ロシアの未承認国家「沿ドニエストル」にはロシア軍が駐留しています。

アメリカも、ロシアがウクライナ周辺などの諸外国で、親ロシア候補への間接的な資金提供やネット上の世論操作を通じ、選挙に介入しようとしてきたと分析しており、民主主義を弱体化させることを警戒しています。

サンドゥ大統領が危機感を深める背景には、強まるロシアの揺さぶりがあります。

ウクライナ侵攻後、ロシアはモルドバへの天然ガスの供給を大幅に削減。ガス料金は6倍、電気料金は3倍に上昇し、世論調査では、半数がサンドゥ政権で経済が悪化したと回答しています。

プロパガンダ対策でロシア語のニュース報道などを禁止した政権に対し、「強権主義」との批判も出ています。

サンドゥ大統領の支持率は30%台で圧倒的ですが、1回目の投票で過半数を獲得して当選を決めないと、決選投票で野党が連合すれば負ける可能性もあります。

また、国民の多くはEU加盟に賛成とみられていますが、政権への不満が高まれば、投票率が下がり国民投票が成立しない恐れもあります。
10月4日ブログから再録
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

投票日を明日に控えた今も状況は変わっていません。

基本的には親EU路線のサンドゥ氏が優勢ですが、“ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシア”という状況、ロシア語を話す国民が少なくないなかで、ロシア語のニュースや公的な場面での使用が禁止・制限されているということへの不満、ロシアと敵対することでロシアの圧力を受けてガスなどの物価が高騰していること・・・といった状況から、必ずしも全国民が親EU・欧米という訳でもありません。

そしてロシアの介入も。

*****モルドバ、親欧米路線問う選挙 投票まで1週間、ロシアの介入も****
ウクライナに隣接する旧ソ連構成国モルドバで20日、欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票と大統領選が実施される。歴史的にロシアの影響を色濃く受けるモルドバが、EU加盟に向けた親欧米路線を決定付けられるかどうかが焦点となる。

世論調査では加盟支持が多数派で、親欧米の現職サンドゥ大統領が優勢。加盟阻止を狙うロシア側は、大規模な買収を行い選挙介入を図っているもようだ。
 
モルドバと加盟交渉を開始したEUはフォンデアライエン欧州委員長が10日に首都キシナウを訪れサンドゥ氏と会談。記者会見で「モルドバの居場所はEUにある」と連帯を示した。
 
サンドゥ氏は2020年の就任以降、親欧米路線を維持している。22年のロシアによるウクライナ侵攻後には多数の避難民がモルドバに滞在し、サンドゥ氏はプーチン政権批判を強めた。
 
大統領選には11人が乱立し、得票が誰も過半数に届かなければ、決選投票となる。世論調査ではサンドゥ氏が36%の支持率で独走しており、11月3日の決選投票にもつれ込むかは微妙な情勢だ。【10月13日 共同】
*********************

【ロシアの選挙介入・情報工作】
ロシアの介入については、以下のようにも。

****モルドバ当局、ロシアで争乱訓練察知 大統領選など妨害目的か****
モルドバの警察当局は17日、ロシアでモルドバ人数百人に暴動や騒乱の訓練を受けさせる計画を察知したと発表した。

大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシアによる介入疑惑が相次ぎ浮上している。

警察は今月、ロシアが支援する犯罪集団が多数の有権者に賄賂を贈ったり、政府庁舎の占拠計画を進めたりするなど選挙妨害を企てていたと明らかにした。

ロシアは干渉を否定し、ウクライナ侵攻以後ロシアの勢力圏離脱の動きを加速させているモルドバ政権が「ロシア嫌い」をあおっていると非難した。

警察は記者会見で、亡命中の親ロ派実業家イラン・ショル氏と関係のある集団が騒乱を起こすため訓練を企画したとみていると説明。検察は「汚職対策担当が現在、犯罪組織の利益につながる大規模な騒乱準備に関連する複数の事件を捜査している」と述べた。【10月18日 ロイター】
*************************

****
ロシア系勢力がモルドバ大統領選とEU投票で13万人買収=国家警察****
モルドバ国家警察は3日、大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシア系勢力が13万人以上を買収し、サンドゥ政権の親EU政策を妨害する「前例のない直接攻撃」を仕掛けていると発表した。

国家警察トップのビオレル・チェルナウタヌ氏は記者団に捜査状況を説明し、ロシアが管理するネットワークを経由し、「選挙プロセスの混乱を狙った資金提供と汚職がまん延している」と述べた。

9月だけで約1500万ドルがロシアのプロムスヴャジバンクに開設された口座に送金されたと明らかにした。

サンドゥ大統領は2期目を目指している。ロシアが政権転覆工作を繰り返していると長く非難してきた。ロシア政府はこれを否定している。

今回の大統領選では立候補者が過去最多の11人と乱立しているものの、世論調査ではサンドゥ氏が圧倒的なリードを保っている。【10月4日 ロイター】
***********************

【事前の支持率調査では親欧米派のサンドゥ現大統領が大きくリード。国民の大半もEU加盟を希望】
ロシアの情報工作、選挙介入がどこまで効果を発揮するのか・・・・最初にも述べたように、基本的には親欧米路線のサンドゥ大統領の再選、EU加盟支持の方向にあります。

****モルドバ大統領選まで1週間 親欧米路線が継続の見通し 露の介入が不安要素****
ウクライナに接する東欧の旧ソ連構成国、モルドバで20日、大統領選(任期4年)が行われる。同じ日には欧州連合(EU)加盟を国家目標として憲法に明記することの是非を問う国民投票も実施される。

モルドバでは親欧米派と親ロシア派の政治勢力による政権交代が相次いできたが、事前の支持率調査では親欧米派のサンドゥ現大統領が大きくリード。国民の大半もEU加盟を望んでおり、選挙後も親欧米路線が続く公算が大きい。

親欧米派の現職がリード、EU加盟巡る国民投票も
「モルドバの未来は欧州にある。国が欧州に加わるために私は2期目を目指す」。選挙戦でサンドゥ氏はこう述べ、自身への投票を訴えてきた。

米ハーバード大大学院で公共政策を学び、モルドバ首相などを務めたサンドゥ氏は2020年の前回大統領選で親露派のドドン大統領(当時)に勝利。

エネルギー分野などでの対露依存からの脱却を図りつつ、欧州との統合政策を進めてきた。サンドゥ氏はロシアによるウクライナ侵略も強く非難。22年、モルドバの「EU加盟候補国」の地位獲得を実現させた。

国民の多くがサンドゥ氏の路線を支持しているもようだ。大統領選にはサンドゥ氏を含む計11人が候補者登録されているが、モルドバのシンクタンクが今月発表した世論調査によると、サンドゥ氏の支持率は36・1%でトップ。親露派政党の支援を受ける元モルドバ検事総長で、支持率10・1%で2位となったストイアノグロ氏に大差を付けた。

政府庁舎の占拠や大規模買収を計画か
EU加盟の是非を巡る世論調査でも、「賛成」(63・2%)が「反対」(32・4%)を上回っている。順当に行けば、サンドゥ氏の再選とEU加盟目標の憲法明記が支持される可能性が高い。

不安要素はロシアと親露派勢力の動きだ。サンドゥ氏によると、ロシアと親露派はこれまでも政権転覆を狙い、選挙干渉や反政権デモの扇動を行ってきたとされる。

モルドバ警察当局は今月、ロシアに支援された「犯罪集団」が政府庁舎の占拠を含む選挙妨害を計画していたと発表。サンドゥ氏と国民投票に反対票を投じさせるため、ロシアと親露派が1500万ドル(約22億3千億円)を投じ、13万人以上の有権者を買収しようとしたとも発表した。【10月13日 産経】
***********************

ロシアの選挙介入・情報工作で動かせる部分はそんなに大きくはないと思いますが、親EU・欧米路線で取り残さる“ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシア”という人々の不満・不安がどの程度の数字になるのかといったあたりが注目されます。

この記事が読まれる頃には一定の結果が出ていると思いますが。

【親EU路線のサンドゥ大統領を強力に後押しするEU】
EUは親EU路線のサンドゥ大統領を強力に後押ししいています。

****モルドバが大統領選出の準備、EUは直ちに1,8億ユーロを支出****
モルドバの将来の方向性を決定する2つの重要な選挙が間もなく行われるとき、欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は自らモルドバ国民に投票を呼び掛け、同時に1,8億ユーロ(1,97億3万ドル)の寄付を宣言した。(中略)

EUへの加盟を望むモルドバの願望への支持を示すため、EUの執行機関長官は10月10日にキシナウを訪問した。

サンドゥ氏との共同記者会見で、フォンデアライエン氏はモルドバ人に対し、「自由で情報に基づいた選択」を表明するために投票するよう奨励した。(中略)

「モルドバ国民は重要な節目に直面している…私はモルドバ国民が投票を活用し、自由な選択を表明することを奨励する」とフォンデアライエン氏は記者団に対し、国民投票について言及した。

モルドバは2022年6月にEU候補の地位を獲得し、今年初めにEUとの加盟交渉開始にゴーサインを与えられた。

フォンデアライエン氏は、「モルドバの立場は欧州連合内にある」とし、欧州連合への加盟は「今後10年間で国の経済を倍増させる」ことに貢献する可能性があると述べた。

EU長官によると、1,8億ユーロの資金調達パッケージは、バルティ市とカフル市での学校の修復や2つの新しい病院の建設、道路の建設などの「経済成長と公共サービスを生み出す分野」への投資に使用されるという。

フォンデアライエン氏は、モルドバ大統領の国の「欧州への道」に対するコミットメントとモルドバがEU加盟に向けて成し遂げてきた進歩についてサンドゥ氏を称賛した。

サンドゥ氏は、EUの金融支援策は「モルドバの発展可能性に対する自信の象徴」であると述べた。サンドゥ氏は、モルドバの輸出の65%がEU向けであり、「これは我が国の戦略的利益がどこにあるかを示している」と述べた。

ロシアとウクライナの紛争を強く非難するサンドゥ大統領は、モルドバのEU加盟推進を主導しており、2030年までにこの目標を達成したいと考えている。

調査によると、モルドバ大統領選挙ではサンドゥ氏が他の10人の候補者をリードしている。調査では、モルドバ人の大多数がEUへの加盟を支持していることも示されている。【10月13日 VIETNAM.VN】
***********************

ロシアがEUと同じような資金提供を表明すれば、“ロシアの選挙介入”と言われそうですが・・・

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア  兵士補充に苦慮 ウクライナとの戦線に北朝鮮兵士投入 集団脱走の情報も

2024-10-16 22:32:41 | 欧州情勢

(朝鮮人民軍特殊作戦部隊の基地で行われた訓練 2024年10月2日、朝鮮中央通信【10月16日 毎日】
凄い訓練 こんな兵士が3000人いたらウクライナ軍をすぐに圧倒するでしょうが・・・)

【激しい兵士の損耗 補充に苦慮】
ウクライナはもちろん崖っぷちですが、攻めるロシアも苦しい。これまでにロシア軍兵士11万人超が死亡とも。

****ロシア軍の死者 侵攻開始から11万5000人に 米紙報道 9月は最も損失が多い月に****
アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は、アメリカ政府がウクライナ侵攻によるロシア軍の死者数を11万5000人と推定していると報じました。

10日付のニューヨーク・タイムズはロシア軍の死傷者がこれまでに61万5000人に上り、そのうち11万5000人が死亡したとアメリカ政府が推計していることを当局者の話として報じました。

一方、ウクライナ軍の死傷者も30万人を超え、死者は5万7500人に上るとしています。

関係者によりますと、9月のロシア軍の一日あたりの死傷者は1200人に上ったとみられ、侵攻開始以来、最も損失が多い月になったということです。

ロシアの独立系メディア「重要な話」は、ロシア軍が9月に集中して多大な犠牲を払うことになったのは「ロシア側が優勢だ」と西側諸国に示すためだと指摘しています。

ロシアの攻勢をアピールすることで西側諸国がウクライナのゼレンスキー大統領に対して和平交渉への圧力を強めるように促すのがプーチン政権の狙いだとしています。【10月11日 テレ朝news】
*********************

兵士の損耗を補充すべくプーチン大統領は18万人の兵力増強を指示しています。

****プーチン氏、ロシア軍に18万人増員を指示 150万人規模に****
ロシアのプーチン大統領は同国軍に18万人の兵力増強を指示した。ロシア大統領府が16日に発表した。ロシアが2022年2月にウクライナ侵攻を開始して以来、3度目の増員となる。

ロシア大統領府が公開した大統領令によれば、今回の増員によりロシア軍の総員は約240万人、このうち兵士の数は150万人となる。大統領令は12月に発効するという。

今回の増員の前には、ウクライナが先月、ロシア南西部のクルスク州に越境攻撃を仕掛けていた。ロシア領への外国による侵攻は第2次世界大戦以降、初めてだった。

ロシアは先週、クルスク州からウクライナ軍を排除する動きを強化したほか、ウクライナ・ドンバス地方東部の要衝ポクロウシクに向けて徐々に前進している。

プーチン氏は22年以降、予備役と徴集兵の動員に加え、兵士の増員を2度命じている。

22年8月には翌年初頭までに13万7000人の増員を命じ、ロシア軍は115万人の兵士を含む200万人強となった。

同年9月にウクライナ軍が奇襲に成功し、東部ハルキウ州の大半を奪還したことを受け、プーチン氏はロシア国民の即時の「部分的動員」を指示した。この動員では従軍の経験のある国民が徴兵の対象となり、予備役が招集される可能性があった。

この動員により、数十万人が国外に逃亡。その多くは隣国のジョージアやロシア国境近くの旧共産主義国に向かった。

23年11月には当局が目標とする30万人の兵員募集を達成したと発表。動員は一時停止されたが、プーチン氏は翌月、さらに17万人の増員を公式に命じ、ロシア兵の定員は132万人となっていた。【9月17日 CNN】
************************

しかし、長期化に伴い国民の間でのウクライナ侵攻に関する評価は芳しくありません。

*****ウクライナ侵略「より多くの損害をもたらした」ロシア人の47%、6ポイント増…独立系世論調査機関*****
ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が9日公表した調査結果で、ロシアによるウクライナへの侵略が「より多くの損害をもたらした」と答えたロシア人が全体の47%に達し、昨年5月に比べて6ポイント増加した。

「より多くの利益をもたらした」との回答は同比10ポイント減の28%にとどまり、侵略の長期化で批判的な意見が増えている。
 
侵略がもたらす損害としては「死、苦しみ、悲しみ」(52%)や「兵士の死亡」(21%)のほか、「経済の悪化」(18%)や「国際的孤立」(7%)が挙がった。

ただ、和平合意のためロシアが一定の譲歩をする必要があるかとの問いには「全くない」「どちらかといえばない」で計71%を占めた。大多数が譲歩に否定的な意見を持っている模様だ。
 
調査は9月26日から今月2日まで、18歳以上の1606人を対象に対面式で実施した。同センターは、プーチン政権から「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながら調査を行っている。【10月11日 読売】
************************

こうした状況では兵士の補充もままなりませんし、無理に動員を強化すれば国民の反発を招きます。

【兵士補充の“奥の手” 北朝鮮兵士派遣】
これまでも、国民に「戦争」を意識させたくないということで、モスクワなど大都市を避けて、地方や少数民族から兵士を集めていましたが、それでも足りずに奥の手でしょうか。

****ロシアへ派遣された北朝鮮兵、ウクライナが侵入のクルスク州に展開か…「18人逃亡」報道も****
英BBCロシア語版などは15日、複数のウクライナ情報機関関係者の話として、最大3000人の北朝鮮兵の部隊がロシア極東ブリヤート共和国ウランウデ付近の露軍基地で、訓練を受けていると報じた。
 
英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」も15日、北朝鮮兵1万人がロシアに派遣されたと伝えた。ウクライナ国営通信は、自国の情報機関が露西部ブリャンスク州と、クルスク州で約3000人の北朝鮮兵を確認しており、このうち18人が逃亡したと報じている。クルスク州ではウクライナが越境攻撃を続けている。
 
ロシアはウクライナ侵略に絡む北朝鮮との協力を否定しており、北朝鮮兵はモンゴル系のブリヤート人としてロシアの身分証を支給されているとの情報もある。
 
一方、ロシア通信によると、プーチン大統領は14日、露朝が6月に締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准する法案を下院に提出した。【10月16日 読売】
****************************

兵士の数については1万人という報道も。

****北朝鮮が兵士1万人をロシア軍に派遣か、「頭を下げ支援を求めざるを得ず」…英国の元駐露武官が分析****
ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」は15日、西側諸国筋の情報として、ウクライナ侵略を続けるロシア軍に北朝鮮兵1万人が派遣されていると報じた。
 
報道では、「(侵略開始から)2年半が経過した露軍は北朝鮮に頭を下げ、支援を求めざるを得なくなったことを示している」とする英国の元駐露武官の分析に言及した。派遣された北朝鮮兵の役割は明らかになっていないという。(後略)【10月16日 読売】
************************

ひとつ前の記事にあるように、プーチン大統領は14日、露朝が6月に締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准する法案を下院に提出しています。

****プーチン露大統領、「露朝戦略条約」法案を国会提出 北朝鮮と事実上の同盟締結へ****
ロシアのプーチン大統領は14日、北朝鮮と安全保障協力の拡大などを定める「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准する法案を露下院に提出した。

条約は、どちらか一方の国が武力攻撃を受ける恐れが生じた場合に即座に協議を行うことや、実際に武力攻撃を受けた場合に相互が軍事支援を行うことなどを規定。一方が他方に不利益を与える協定などを第三国と結ばないことも定めている。

ロシアは北朝鮮と事実上の軍事同盟を結ぶ形。ウクライナ侵略で欧米諸国と決定的に対立したロシアは、核兵器開発や人権問題などを巡って同じく欧米と敵対する北朝鮮と関係を深め、欧米に対抗する思惑を改めて鮮明にした。露朝の関係強化は、両国の軍事的威圧と対峙(たいじ)する日本にとっても脅威となる。

法案は今後、露下院と上院で可決された後、プーチン氏の署名により成立する見通し。

米国やウクライナによると、ロシアは北朝鮮から調達した弾道ミサイルや砲弾をウクライナの戦場で使用。ロシアは見返りにロケットエンジン技術などを北朝鮮に提供していると観測されている。

露朝間の包括的戦略パートナーシップ条約は、6月に24年ぶりに訪朝したプーチン氏が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記とともに署名していた。【10月15日 産経】
*********************

事実上の軍事同盟ですが、現実は先行して前述のような北朝鮮兵士派兵といったことになっているようです。

アメリカはこうしたロシアと北朝鮮の連携を懸念しています。

****“北朝鮮がロシアに人員派遣”の情報に米政府が懸念示す 「本当ならば両国の結びつきの進展示すもの」****
ウクライナでの戦闘を続けるロシアに対し、北朝鮮が人員の派遣を行っているとの情報について、アメリカ政府が懸念を示しました。

アメリカ国務省 ミラー報道官
「北朝鮮の兵士がロシアのために戦っているという情報を懸念している。もし本当ならば、両国の結びつきが著しく進んでいることを示すことになる」

アメリカ国務省のミラー報道官は15日の会見でこのように懸念を示すとともに、「戦場で大きな犠牲を出し続けているロシアが、さらにやけになっていることも示している」とも指摘しました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、ロシアに対して北朝鮮が兵器の供与だけではなく人員の派遣も行っていると訴えていました。

また、ワシントン・ポストは11日、ウクライナ軍当局者の話として、現在、数千人の北朝鮮兵がロシアで訓練を受けていて、年末までに前線に配備される可能性があるとの見方を伝えています。【10月16日 TBS NEWS DIG】
**************************

【北朝鮮兵士、早くも集団脱走の情報】
ロシア軍の戦術は兵士の犠牲をものともせず前進する人海戦術ですから、その最前線に送られたら死ぬ確率が非常に高い。プーチン大統領はそんな「使い捨て」用に使用するために北朝鮮から兵士を派遣してもらったのか?
金正恩朝鮮労働党総書記はそれを了解しているのか?

ただ、兵士でも一般市民でも、北朝鮮国民は自国から脱出したいっという強い願望がありますので、北朝鮮からロシアへ派遣された兵士にすれば、自国に関係ない戦争で死ぬのはまっぴらだし、この際脱走してウクライナ側へ・・・という話にもなります。

****ロシア国境付近で北朝鮮兵士18人集団脱走 派遣兵か 韓国紙報道*****
韓国紙の朝鮮日報は16日、ウクライナ軍高官の話として、ロシア西部ブリャンスク、クルスク両州のウクライナとの国境付近で、北朝鮮軍兵士18人が集団脱走したと報じた。ウクライナ軍は、脱走したのは北朝鮮が対露軍事協力の一環で派遣した兵士らで、まだ拘束されていないとみているという。(中略)
 
北朝鮮の派兵を巡っては、露政府は否定しているが、ウクライナ側からの情報発信が相次いでいる。
 
米紙ワシントン・ポストは11日、ウクライナ軍関係者の証言として「数千人規模の北朝鮮の歩兵部隊が露国内で訓練を受けている」と伝えた。年末までに前線に配置される可能性があるという。
 
また、ウクライナメディアは10月上旬、東部ドネツク州の露側占領地域で、北朝鮮軍の将校6人がウクライナのミサイル攻撃で死亡したと報じた。
 
米CNNは、北朝鮮がロシアに兵器を供給していることから、これらの兵器に関する工学的な支援や情報交換のために兵士が派遣されたとの情報を伝えている。【10月16日 毎日】
************************

集団脱走しないように監視しながら戦闘に参加させる・・・・なかなか難しいかも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする