孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

加速する温暖化現象 追いつかない各国の対応

2022-07-29 23:19:26 | 環境
(グリーンランドの氷が過去に例のない速さで溶け始めている【7月29日 JBpress】)

【欧米を襲う熱波】
日本も暑い日が続いていますが、欧州・アメリカも熱波・干ばつに襲われています。

アメリカ・テキサスでは46.1℃。

****テキサス州で46.1度を記録…アメリカでも記録的な熱波****
記録的な熱波はアメリカでも広がっていて、各州でこの時期としての最高気温を更新した。

南部テキサス州では19日、この時期としては過去最高の46.1度を記録した。地元メディアは熱波で山火事が発生し、急速に燃え広がって大規模な被害が出ていると報じている。また、20日には28州の1億500万人以上を対象に高温の警報や注意報が出されている。

東部のニューヨークでも熱波で高温の日が続くことを受けて、市内の公共プール36カ所で21日までの2日間、夜の営業時間を1時間延長している。【7月21日 ABEMA TIMES】
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ラスベガス近郊の貯水池ミード湖は水位が低下し、出てきたものは・・・

****水位低下の貯水池から3人目の遺体発見 米ラスベガス近郊****
干ばつで水位が急低下している米ラスベガス近郊の貯水池ミード湖で、遺体が相次いで見つかっており、今週に入り3人目の遺体が収容された。当局が明らかにした。

ミード湖は、同国最大の貯水池。国立公園当局によると、25日午後、スイムビーチに遺体があるとの通報を受け、職員が出動。遺体の収容活動を開始した。

遺体の年齢など身元に関する情報は現時点では公表されておらず、検視が予定されている。

ミード湖では5月に、男性の白骨遺体が見つかった。被害者は頭を撃たれ、たるに詰められた状態で遺棄されていた。警察はこの男性について、ラスベガスで犯罪組織が暗躍していた1970年代末〜80年代初頭に殺害されたとみている。

この男性の遺体発見から数日後にも別の遺体が見つかっており、当局は貯水池の水位が下がればさらなる遺体が見つかる可能性があると指摘していた。

記録的な干ばつに見舞われ、水不足が懸念されている米西部では、貯水池や湖の水位が前例のない水準まで低下しており、ミード湖の水位も現在、1930年代の建設以来最低となっている。 【7月27日 AFP】
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干上がった湖から死体が・・・なんだか小説の出だしにうってつけの話のようにも。
それはともかく、アメリカ中西部の干ばつ、カリフォルニアなどでの山火事・・・といった話は、近年毎年のように耳にするようにも思えます。

****米西部の干ばつ、過去1200年で最悪に 米研究****
英科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」は14日、2000~21年にかけて米西部で起きた干ばつが過去1200年で最悪だったとする論文を掲載した。21年の大干ばつは特に深刻だったと指摘し、22年もこの状況が続くと予想した。

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校とコロンビア大学の科学者らが手掛けた論文によると、人間活動を原因とする気候変動の影響で大干ばつが深刻化した。21世紀は1950~1999年の期間に比べて雨量が8.3%減ったのに加え、気温も1度近く高くなり、著しい乾燥を経験している。

今年に入ってからも、カリフォルニア州デスバレーでは記録を取り始めてから最も早い2月11日にカ氏94度(セ氏34.4度)まで上がった。1月の同州の雨量は観測史上2番目に低く、降水量が少ない状態が続いており、山火事などの被害増加が懸念されている。【2月16日 日経】
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欧州の熱波も聞くだけで汗が噴き出しそう。

****記録的熱波 イギリスで初の40度超え 暑さが原因? 火災も相次ぐ****
ヨーロッパで続く熱波の影響で、イギリスでは、観測史上初めて気温が40度を超えた。

ロンドン郊外のヒースロー空港では19日、気温が40.2度まで上昇し、イギリスの最高気温を更新したほか、市内でも観測史上初めて40度を記録した。

ロンドン市内を走る2階建てバスの車内では、温度計が40度以上を示していた。

ロンドンは夏の最高気温が24度前後で、公共機関の冷房設備があまり整備されていないため、地下鉄やバスの運行にも影響が出ている。

また、郊外では火災が相次いで発生し、市長が不用意な行動を慎むよう注意を呼びかけたほか、現地メディアは、火災が10数件にのぼっていると報じた。

気象庁は、人々が暑さに慣れていないことから、死者が出るおそれもあるとして、警戒を呼びかけている。【7月20日 FNNプライムオンライン】
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“ロンドンの7月の最高気温は平均24度。30度を上回る日は珍しく、エアコン付きの家は少ない”【7月19日 読売】  エアコンなしで40℃・・・どうするんだ?!って思ってしまいますが、欧州は日本みたいに湿気がないので多少気温が上がっても体感的にはさほど問題ないという話もあるようです。【7月28日 “ドイツ在住日本人が明かす「記録的熱波」の真実と最新コロナ事情” MAG2NEWS より】

別に「熱波=温暖化」という訳でもないですが、熱波にしろ、寒波にしろ、極端な気象現象が起きやすくなるというのは温暖化の影響と考えられるでしょう。

【アルプス・ヒマラヤの氷河融解】
気温の上昇でアルプスの氷河の融解も進んでいます。

****気候変動が影響か・・・イタリアで氷河が崩落、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林が“最悪ペース”で消失****
氷河が崩落して起きたイタリアの雪崩事故。気候変動の影響が指摘されています。一方、ブラジル・アマゾンではこの上半期に埼玉県とほぼ同じ面積の熱帯雨林が消失、環境破壊に歯止めがかかりません。

山の斜面を勢いよく滑り落ちる白い影。これはイタリア北部の世界自然遺産、ドロミテの最高峰マルモラーダ山で3日に発生した、大規模な雪崩の映像です。雪崩は氷河の一部が崩落したことで引き起こされたということです。AP通信によりますと、登山客など7人が死亡。13人の行方が分かっていません。

現地の捜索状況を視察したイタリアのドラギ首相は。
イタリア ドラギ首相 「この悲劇を予測することはできなかったが、間違いなく自然環境と気候状況の悪化によるものだ」

事故の背景として環境的要因を指摘。特に、「気温の高さ」との関連が指摘されています。
雪崩が起きる前日、山頂付近の気温は観測史上最高となる10度にまで上昇。この地方にとっては異例の暑さで、氷河が溶けたことで雪崩に繋がったとの見方が伝えられています。

また、ロイター通信は科学者の話として、以前は安定していた氷河の動きが、気候変動の影響で予測が困難になったと指摘しています。国連の気候変動に関する政府間パネルによると、すでに、世界の平均気温は産業革命前と比べて、およそ1.1度上昇。今世紀半ばには「1.5度以上上昇する」とされています。

こうした中、さらに環境にダメージを与える動きが。「地球の肺」とも呼ばれる、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林が減り続けていることが明らかになったのです。

ブラジル ボルソナロ大統領 「アマゾンの違法な森林伐採をゼロにする」
去年、気候変動サミットでこう宣言していたブラジルのボルソナロ大統領。しかし、ブラジル国立宇宙研究所の調査によると、アマゾンの今年上半期の消失面積は埼玉県とほぼ同じ、3750平方キロメートルに及び、2016年以降最悪となりました。

気候変動を抑えるため、森林が吸収する二酸化炭素を含む、温室効果ガスの削減が急がれる中、現実が逆行する実態があらわになっています。【7月5日 TBS NEWS DIG】
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氷河が融けるのはヒマラヤ・チベットも同じ。
ヒマラヤ・チベットは中国・東南アジアの水源でもありますので、将来的には重大な国際問題を惹起することが想像されます。

中国がインドとの関係で国境紛争を抱えている背景のひとつに、チベットの水源を確保したい思惑があるとも。

****中国にとって重要度を増す印中国境****
なぜ中国は、印中国境で緊張を高めたままにしているのだろうか。標高は5000メートル以上もあり、冬は気温マイナス30度にもなるから、人もほとんど住んでいない。そんな場所が最新鋭の兵器を集めて、軍人たちが命を懸けて戦うほど、重要なのだろうか。中国の行動を見る限り、重要だということなのだろう。では何が重要なのか。

印中国境に面しているのは、中国が支配するチベットと新疆ウイグル自治区である。実は、今、中国にとってこれらの地域の重要性は高まりつつある。

一つの原因は、チベットに資源があるからだ。まず、チベットは水資源豊富な地域である。南アジアに流れるインダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川だけでなく、東南アジアのメコン川や、中国の黄河や長江に至るまで、すべての河川の源流はチベットにある。

今、中国は、この水資源をこれまで以上に重視している。中国沿岸諸都市の経済発展が進み、より多くの水資源が必要になっているためだ。水資源を都市部により多く引くことが重要だ。

しかも、水資源の使い方は都市に持ってくるだけではない。新疆ウイグル自治区にもっていって、そこに大農業地帯をつくるなどの方法で、都市部で消費する食糧生産につなげることもできる。

さらに問題なのは、地球の温暖化がもし本当であれば、チベットの水資源はいずれ干上がる可能性が出ていることだ。他の国が使う前に、中国は水資源を少しでも多く使いたいのである。(後略)【6月25日 “ますます緊迫する印中国境 中国は何を狙っているのか” WEDGE】
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【想像以上のスピードで溶け始めているグリーンランドの氷床】
温暖化でグリーンランドの氷が解けて、海面上昇が進行・・・というのは温暖化の定番ネタですが、特に最近は加速しているようです。

****グリーンランドの氷が異例の速さで溶け始めた!****
グリーンランドの氷床が「驚くほど広範囲に、しかも想像以上のスピードで溶け始めている」とのニュースが先週から話題になっている。わずか3日間で180億トンの氷が融解して北大西洋に流れ出たというのだ。(中略)

米国立雪氷データセンターのテッド・スキャンボス上級研究員によると、ほとんどの融解はグリーンランド北部で起きており、「180億トンという数字はウェストバージニア州を厚さ30センチで覆うことができる水量」だという。

氷床が溶け出すと直接的には海面の上昇や洪水の発生を誘発することになるばかりか、高潮や海岸浸食など、市民生活に深刻な被害を及ぼす可能性がある。

仮にグリーンランドの氷がすべて溶けると、海面がいまより約7.5メートル上昇すると言われている。

氷床が溶け出している原因はいくつかあるが、最近の融解理由はグリーンランド上空に高気圧が張り出したことで、広範囲にわたって融解現象が起きたとされる。特に先週の3日間は、平年よりも気温が6度ほど高く、摂氏15度を超えたところもあった。 

1980年代から90年代にかけて、グリーンランドではこうした融解が起きることはほとんどなかったが、2010年以降、融解が進むことが多くなった。

例えば2012年と19年の両年は史上最大といわれるほどの融解が発生した。特に2019年は春から気温が上がり、夏が酷暑となったため、5320億トンの水が海に流れ出た。そのため、世界海洋の水位が2ミリ上昇したといわれる。
2ミリというのは微細な数値だが、全世界の海洋である点を考慮すると甚大である。

今年はまだ7月中ということもあり、両年ほどの融解は起きていないが、8月、9月も温暖な日が続けば、途方もない水量が海に流れ出る可能性があると専門家はみている。

別の理由は人類が化石燃料を燃やし続けてきたというものだ。これは考えようによっては、自然が人類に警告を発しているとも受け取れる。

2020年9月の学術誌「ネイチャー」には、「地球の温暖化を過去1万2000年という単位で眺めた場合、最近の変動は過去に例がないほど特異である」という論文が掲載された。

執筆者はニューヨーク州立大学バッファロー校の雪氷学者、ジェイソン・ブライナー氏で、「過去40年間、北極の温暖化の影響により、グリーンランドの氷床が加速度的に融解している」という内容だ。

今のように人類が石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やし続けた場合、今世紀中に約21兆トンの氷が溶ける可能性があると指摘している。これは過去1万2000年で最も融解が速かった時の、約4倍の速度であるという。(後略)【7月29日 堀田佳男氏 JBpress】
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【追いつかない対応】
加速する温暖化現象の一方で、対応が追いつかないのは周知のとおり。

****化石燃料、EU最大の発電源に 再エネを抜く=欧州統計局****
欧州連合(EU)統計局は30日、2021年に化石燃料がEUで最大の発電源となったと発表した。天然ガスの使用が過去10年で最高となったため、化石燃料が前年に首位だった再生可能エネルギーを抜いた。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起きた20年に再エネが一時的に首位となった。しかし、経済回復に伴って21年には石炭や石油、天然ガスによる化石燃料の電力供給が前年より4%増えた。(中略)

原子力発電の発電量は7%増。再生可能エネルギー源では太陽光発電が13%増え、バイオ燃料が10%増で続いた。水力と風力は悪天候のためそれぞれ減った。【7月1日 ロイター】
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昨日ブログで取り上げた、天然ガス供給不安に対するEUのガス使用量15%削減案も、この温暖化対策の変更の契機としてとらえることもできますが、現実にはガスが減る分、石炭・原子力が増えるということにも。

中国は、そのあたりを指摘して、環境問題における中国のイニシアティブをアピールしています。

****中国、クリーンエネ移行は継続と表明 「欧州は石炭に回帰」****
中国政府は27日、ウクライナ戦争で世界のエネルギー安全保障に課題が生じており、欧州諸国は石炭に回帰しているが、中国のクリーンエネルギーへの移行は今後も続くと表明、二酸化炭素の排出削減目標は達成可能との認識を示した。

北京で会見した国家エネルギー局の章建華局長は、エネルギー消費に占める非化石燃料の比率を現在から2030年まで年間平均1%ポイント増やすと発言。

「昨年はエネルギー供給がタイトで、多くの欧州諸国では石炭が再び使用され始めているが、中国の非化石燃料エネルギーの開発は依然衰えていない」と述べた。

昨年は中国の総エネルギー需要の16.6%が風力・太陽光・原子力・水力などの非化石燃料で賄われ、前年の15.9%から上昇したという。

ウクライナ戦争で天然ガスや一般炭の価格が高騰する中、中国はエネルギー安全保障の重要性を繰り返し強調しており、気候変動対策が後退するのではないかとの懸念が浮上している。【7月27日 ロイター】
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トランプ前政権に比べると温暖化対策を重視するアメリカ・バイデン大統領は、地球温暖化を「明確かつ現在の危機」と呼び、「緊急性と決意を持って行動する責任がある」「はっきりと言う。気候変動は緊急事態だ」と述べています。ただ、もう一歩の踏み込みは難しい状況。

****バイデン氏、気候対策で大統領令発表へ 緊急事態宣言は見送り****
バイデン米大統領が20日のマサチューセッツ州訪問中に気候危機対策を目的とした新たな大統領令を発表する。ホワイトハウスのジャンピエール報道官が19日明らかにした。気候変動に関する緊急事態宣言は見送る見通し。

民主党のジョー・マンチン上院議員が先週、議会で主要な気候変動条項を支持する用意がないと発言したことを受け、民主党議員や環境保護団体はホワイトハウスに積極的な気候変動対策を求めている。

緊急事態宣言が出されれば、国防生産法(DPA)を利用して再生可能エネルギーの製品やシステムの生産を幅広く拡大することが可能になるが、大統領が現段階で宣言を出す可能性は低い。

ジャンピエール報道官は、バイデン氏がマサチューセッツ州訪問でこれまでに行ってきたクリーンエネルギー分野への投資を強調するとともに「気候危機に対処しクリーンエネルギーの将来を確保するための追加措置を発表する」と述べた。

ホワイトハウス当局者は先に、バイデン氏は上院が行動を起こさなければ自身が行動すると明言したと指摘。「あらゆる選択肢を検討しているものの、何も決まっていない」とした。【7月20日 ロイター】
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各国ともに目先の問題への対応が最優先というのはやむを得ないところ。ただ、そうしているうちにも状況は更に進行して・・・ということで、人類が温暖化を止められるかについては悲観的に思えます。

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環境重視の流れのなかで、みせかけの“グリーンウォッシュ”も

2022-07-13 23:04:25 | 環境
(【2021年12月6日 スマートでんきコラム】)

【欧州議会 「原発はグリーン」承認】
社会の基本的な流れとして、温暖化対策やSDGs(持続可能な開発目標)における“持続可能な開発の三側面、経済・社会・環境を調和させる”という理念に見られるように環境対策重視の方向性があります。

ただ、昨今のウクライナ情勢を受けたエネルギー不安から、石炭利用が復活するなど、その時々の事情で紆余曲折はあります。

そうしたなかで物議を醸したのが、EUにおける地球温暖化対策に貢献するグリーンな経済活動の基準。
欧州議会は、このグリーンな経済活動に原発と天然ガスを認定するEU法案を承認しました。

****「原発はグリーン」のEU法案 欧州議会が承認****
欧州連合(EU)欧州議会は6日、地球温暖化対策に貢献するグリーンな経済活動として、原発と天然ガスを認定するEU法案を承認した。議会に提出されていた修正提案は否決した。EU法案は来年1月の施行に向けて前進した。

法案は、欧州委員会が今年2月に発表した。グリーンな産業を認定するEUの独自基準「タクソノミー(分類)」の中に、天然ガスと原発を加える内容。タクソノミーには、2050年に温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にすることを目標に、特定産業に官民の投資を誘導する狙いがある。

欧州議会では、原発事故や核廃棄物がもたらす環境への懸念が指摘され、経済委員会などが先月、EU法案への修正要求を採択していた。6日の本会議(定数705)採決では、修正への支持が278票で過半数に達しなかった。

法案は、7月11日までが異議申立期間。今後、加盟国で構成する欧州理事会が異議申し立てをしない限り、1月に施行される。

法案をめぐっては、非原発国のオーストリアなどが反対する一方、原発推進派のフランスや東欧諸国が支持しており、理事会による反対決議は困難な情勢。オーストリア政府は6日、法案の差し止めを目指し、EU欧州司法裁判所に提訴する構えを示した。【7月6日 産経】
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このあたりは、考え方や現状認識で対応・意見が別れるところ。
原発をグリーンな経済活動に含めることに反対するオーストリアなどのその後の動きに関する記事は、今のとこは目にしていません。

【プラスチック製品規制の世界的流れ】
環境重視の流れの一つがプラスチック製品の規制。日本でも「プラスチック資源循環促進法」が4月1日から施行されています。

****使い捨てプラ、4月から企業に削減義務 代替素材に転換****
コンビニエンスストアやスーパーで無料で配られるプラスチック製のスプーンなどの使用量を減らす「プラスチック資源循環促進法」が1日、施行される。事業者に対し、削減計画を立てて使用量を減らすよう義務付ける。(中略)

削減対象となるのは飲食店やコンビニ、スーパーの店頭で配るストロー、スプーン、マドラーのほか、ホテルが提供するヘアブラシや歯ブラシ、クリーニング店のハンガーなど12品目だ。削減目標の設定は各事業者に委ねているが、全然減っていなかったり、増えたりした場合などには50万円以下の罰金が科されることがある。

法施行をきっかけに削減に取り組む企業が広がっている。
「餃子の王将」を展開する王将フードサービスは持ち帰り用のスプーンを1日から有料化する。全国の700店舗超で、持ち帰りのスプーンやレンゲを1本5円で提供する。「かつてのレジ袋有料化を鑑み、有料化がプラ削減に効果的と考えた」(同社)という。

有料化に踏み切る企業は少なく、植物由来のバイオマスプラスチックを配合したり、紙・木製に素材を変更したりする対応が多い。(中略)

客離れやレジシステムの混乱への懸念から有料化に踏み切る企業は少なく、当面は素材変更によるコスト増が重荷となりそうだ。

もっとも、今回の施策で削減対象となるプラ製品の国内流通量は10万トン弱にとどまる。日本全体のプラスチックの排出量は年850万トン程度で、1%程度にしかすぎない。プラごみは海に流出して環境問題になっているだけでなく、脱炭素の観点でも削減が重要だ。国内では温暖化ガスの総排出量の1%強にあたる年1500万トンをプラスチックの燃焼で排出している。

欧州の一部の国では使い捨てプラ製品の流通禁止といった強い規制もある。3月にケニアのナイロビで開かれた国連環境総会では、200近くの国・地域がプラスチックの使用量を減らし、海洋汚染を低減させる国際枠組みを作る方針を全会一致で決めた。

世界的にプラスチックの規制を強化する流れのなかで、日本のプラ法も実効性が問われることになる。【4月1日 日経】
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私などはあまり意識が高くないせいか、プラスチック製品を敵視するような対応が本当に合理的なものなのかやや疑念もありますが、“世界の大勢”であることはまちがいありません。“あの”インドでも。

****インド、7月より使い捨てプラを禁止 違反者は刑務所収容も****
インドで2022年7月1日よりプラスチック製品の製造や輸入、販売、使用を禁止する規則が施行された。インドでは、プラスチックごみによって排水溝が詰まったり、牛が誤飲したりするケースが続いていた。違反者は、刑務所に収容されるか、最大17万円の罰金が科される可能性がある。

スプーン・フォークなどの使い捨てプラスチックが対象
インド政府は2022年7月1日から、使い捨てプラスチックの使用を禁止。スプーン、フォーク、ストロー、食器、包装用フィルム、風船、キャンディーなどが対象となる。アイスクリームに使用する棒、タバコ容器なども含まれ、対象となるものは多岐にわたる。

今回の規制には、厳しい罰則も設けられている。一部の報道によると、違反者には最大5年間、刑務所に収容されるか、10万ルピー(約17万円)の罰金が科される可能性があるという。

インド政府は今回の規制について2021年に方針を明らかにしていたが、準備期間が不十分であるとし、食品・飲料メーカーや消費財メーカーなどからは今回の規制に対し不満の声も上がっている。

プラスチック関連企業は今回の規制で閉鎖に追い込まれることが考えられるという。また需要に応じて、無許可のプラスチック製造業者が現れる可能性があり、警戒や監視の必要性が指摘されている。厳しい罰則が設けられた背景には、そのような懸念があるようだ。

人口14億人のインドではプラごみが公害問題へ発展
14億人以上と、世界第2位の人口を抱えるインドは、急速な経済成長にともなってプラスチック製品の需要も増加。年間のプラスチック使用料は1,400万tにおよぶという。だがその一方で、排水溝や河川、街中にはプラスチックごみがあふれ、排水溝が詰まる、動物が誤飲するといった問題が生じ、公害問題に発展している。

実際、オーストラリアのMinderoo Foundationが発表したレポートによると、インドはアメリカ、中国に次いで、世界で3番目にプラスチック廃棄物が多いそうだ。

インドではこれまでに州単位でプラスチックを規制する動きがあったが、その成果はまちまち。そのため、今回の国全体での規制に舵を切ったことは大きい。今後もインドのプラスチック規制の動向に着目していきたい。【7月8日 ELEMINIST】
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途上国では先進国以上に、露店やローカルな店で、持ち帰り用にビニール袋やレジ袋などが多用されています。

個人的な経験ですが、数年前インドを観光した際、ローカルな店でプラスチック製品を使わずに紙(新聞紙?)で商品を包装してたのに驚いたことがあります。帰国後に確認したところ、その州は厳しい規制を実施していたようです。

一方で、街や郊外の空き地、道路わきは使い捨てされたプラスチック製品で溢れていました。意識低い私でも「これはひどい・・・」と唖然とするぐらい。

そうした個人的経験からすると、インドに必要なのはプラスチック製品の規制ではなく、ゴミをそこらに捨てないという意識改革、ゴミ回収のスステムの構築ではないか・・・という感も。

なお、インドで厳しい規制がなされた背景には、ヒンドゥー教で聖なる動物の牛がプラスチック製品を誤飲したりする事例が続出していることもあるとか。これも私に言わせると、いくら“聖なる動物”とは言え、病気のために捨てられた牛が街を徘徊していることの方が問題にも思われますが・・・・。

インドでも規制するぐらいですから、意識高いアメリカ・カリフォルニア州では・・・・

****画期的なプラスチック規制法を導入、米カリフォルニア州****
米国はプラスチックごみの排出量が世界で最も多い。またプラごみのうち、海岸に不法投棄あるいは不適切な処理で廃棄された量は沿岸国で3位だ。2016年は推計約4200万トンのプラごみが排出された。にもかかわらず、米国が毎年リサイクルしているプラごみの割合は9%未満だ。

だからこそ2022年6月30日にカリフォルニア州のニューサム知事が署名した、広範囲にわたるプラごみ抑制策を定めた法律は、増え続けるプラごみへの取り組みを国家レベルで大転換させ得るものとして歓迎された。(中略)

新法はいくつかの大きな目標を同時に達成しようとしている。最大の目標は、2032年までにカリフォルニア州での使い捨てプラスチック包装材を25%減らすことだ。21世紀半ばには世界で生産されるプラスチックの量が現在の3倍の年3200万トンずつ増加すると予測される中、今回の新法はプラスチックの生産量を抑制する米国初の法律だ。

包装そのものを小さくしたり、詰め替え可能な容器に切り替えたり、リサイクル可能な紙やアルミニウムといった別の素材を使うことで削減は可能になる。オーシャン・コンサーバンシー(米環境保護団体)は、こうした取り組みによって使い捨てプラスチックを今後10年間で2300万トン近く減らせると予測する。カリフォルニア州資源循環回収局(CalRecycle)によると、同州は毎年450万トンのプラごみを排出している。(後略)【7月11日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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【環境重視の企業・投資活動 なかには見せかけの“グリーンウォッシュ”も】
こうした流れのなかで企業活動としても環境重視を前面に出すことが多くなっており、ESG投資(財務情報だけでなく、環境(Environment)と社会(Social)、ガバナンス(Governance)の視点を取り入れて判断する投資)といった言葉を目にすることも。

しかし、なかには“名ばかり”のものも。そうしたものが排除される仕組みがつくられないと、環境保全や社会の変革などにもつなげようというESG投資は一時的なブームで終わってしまいます。

****ESG投資の実態は“グリーンウォッシュ”にメス****
環境先進国・ドイツから届いたあるニュースが市場関係者の間で話題になっています。ESG投資をめぐってドイツの金融大手が当局の家宅捜索を受けたというのです。
「グリーンウォッシュ=“名ばかりESG投資”の排除に当局が乗り出したか。いよいよブームから選別の時代だ」。
ある金融機関の幹部はいいます。いったい何が起きているのでしょうか。

“グリーンウォッシュ”疑惑に当局動く
5月31日。ドイツ銀行と傘下の資産運用会社・DWSに検察と金融当局が家宅捜索に入ったと、現地メディアが一斉に報じました。当局が動いた理由はESG投資をめぐる疑惑です。

DWSをめぐっては、元幹部が去年「ESGの取り組みが実際よりも誇張されている」などと告発し、株価が大幅に下落。会社側は、根拠がないと告発を否定していましたが、捜索の直後、ドイツ銀行が、DWSのCEOの辞任を発表しました。

環境保護をうたいながら、中身を伴っていないという企業の取り組みに対しては、これまで環境団体がたびたび抗議してきました。ただ、今回、当局が本格的に捜査に乗り出したことに市場関係者の間で驚きが広がりました。

こうした“名ばかりESG”は、グリーンウォッシュ(Greenwash)と呼ばれます。
「うわべだけ」とか「ごまかす」という意味の「Whitewash」に、環境に優しいという意味がある「Green」を組み合わせた造語です。つまり、「うわべだけの環境対策」「環境に配慮しているようにみせかけて実態は違う」という意味です。

アメリカでも…
グリーンウォッシュをめぐる動きはアメリカでも。

アメリカの証券取引委員会は、5月23日、金融大手のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン傘下の資産運用会社に対して、150万ドル、日本円にしておよそ2億円の制裁金を科したと発表しました。
証券取引委員会は、ESG関連の投資の説明で、虚偽の記載や不十分な情報開示があったと指摘。

すべての投資がESG評価を受けているとしていた会社側の説明に対し、実際にはESG評価を受けていないケースがあったと認定したのです。

ESG投資 市場拡大の影で
環境への関心の高まりから、「ESG投資」は拡大を続けています。その規模は、2020年時点で総額35兆ドル、日本円でおよそ4700兆円にのぼるという調査結果もあります。(世界持続可能投資連合まとめ)

人気を象徴するのが、「グリーニアム」という現象です。こちらは「グリーン」と、上乗せ価格などを意味する「プレミアム」を組み合わせた造語。

例えば、同じ企業が発行する社債であっても、ESG社債の方が、通常の社債よりも価格が割高となり、投資家が将来に受け取れる利回りは低くなるというものです。

たとえ上乗せ価格を支払う必要があっても、脱炭素などの取り組みにつながるESG社債の方に投資したいという投資家が増えているのです。

今後も市場の拡大が期待される中、実態を伴わないグリーンウォッシュを放置すれば、ESG投資の成長を阻害しかねない。当局が排除に動き出した背景には、こうした危機感があるとみられます。

実は、日本でも気になる調査結果が。
金融庁がESG投資信託を取り扱う資産運用会社37社に調査を行ったところ、30%にあたる会社が「ESGの専門部署を設置していない」と回答しました。また38%が「専門の人材がいない」と回答。

およそ3割の会社でESG投資のための態勢が整っていない実態が浮き彫りになりました。

ESG市場は成熟へ向かうか 
こうした中、各国では、ESGの基準づくりや監督強化に乗り出しています。

EUは去年3月、資産運用会社に投資先のESG情報の開示を求める開示規則の適用を開始したほか、アメリカもESGの情報開示を強化する統一基準の導入を目指しています。

日本でもESG市場への信頼を向上させるため、今年度末をメドに運用会社の情報開示や顧客への説明などについて、監督指針をまとめるなど、必要な措置をとることにしています。

ESG投資は、脱炭素の分野であれば、温室効果ガスの削減効果の測定や情報開示など、手間やコストもかかり、専門知識も求められます。

市場関係者からは「エコやグリーンといった言葉が飛び交い、玉石混交だという指摘もあるだけに、真面目に取り組む事業者からすれば、グリーンウォッシュの排除は歓迎だ」という声も聞かれます。

投資のリターンだけではなく、環境保全や社会の変革などにもつなげようというESG投資。一時的なブームに終わらせないためには、市場のとしての信頼をどう築き上げ、安心して投資できる環境を整備していくかがカギになりそうです。【6月12日 NHK】
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日本の企業活動でグリーンウォッシュとの指摘があった事例

****グリーンウォッシュとは?実際の事例や見分け方、対処方法をご紹介****
(中略)
グリーンウォッシュの事例
H&M
H&Mは2019年、「コンシャスコレクション」とのキャッチフレーズで、リサイクル素材を使用した商品を売り出しました。
しかし、リサイクル素材の使用量など十分な根拠が示されていないことから、ノルウェー消費者庁は「違法なマーケティングの疑いがある」と非難しました。

マクドナルド
マクドナルドは2018年、イギリス等の店舗でプラスチック製ストローの使用をやめ、「100%リサイクル可能」と謳った紙製ストローに切り替えました。
しかし実際には、ストローの強度を高めたために厚すぎてリサイクルできず、廃棄されていたとして大きな批判を受けました。

三井住友銀行
三井住友銀行は、パリ協定に関する政府方針に準じて脱炭素社会を実現すると表明しました。
しかし実際には、大規模石炭火力発電所への融資を継続しており、NGOからグリーンウォッシュだと指摘を受けました。(後略)【6月18日 COCOCOLOR EARTH】
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消費者も、企業の見せかけの活動に騙されず、「具体的に何をしているのか?」「それは本当に環境に良いことなのか?」をしっかりと考えるようにしないと・・・ということのようです。

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ウクライナ危機で進む「石炭への回帰」 温暖化対策には逆風

2022-07-05 22:47:29 | 環境

(【6月22日 日経】 ウクライナ危機に伴う石炭需要拡大で価格は更に高騰していますが、資源価格高騰自体はウクライナ以前の昨年後半から)

【ドイツ ウクライナ危機で石炭利用拡大へ】
ロシア軍によるウクライナ侵攻は、力による現状変更という安全保障上の直接的問題の他にも、一部地域では飢餓や政情不安にもつながる食糧危機、エネルギー調達の脱ロシアとそれにともなう需給の不安定化、食料・エネルギーなど世界で加速するインフレーション・・・さまざまな影響を世界にもたらしていますが、そのひとつがエネルギー調達の脱ロシアがもたらす石炭利用の拡大および温暖化対策の後退という問題です。

ロシア産ガスをドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」に見るように、欧州でもエネルギーのロシア依存が特に顕著だったドイツは禁断の石炭使用拡大に追い込まれています。

****独、石炭利用拡大へ ロシア産ガスの供給減少で****
ドイツ政府は19日、ロシア産天然ガスの供給減少と国内のエネルギー需要に対応するため、石炭利用の拡大を含む緊急対策を講じると発表した。

ロシア国営の天然ガス独占企業、ガスプロムが先週、欧州へのガス供給を大幅に削減すると警告したことを受けたもの。
ガスプロムは供給削減の理由について、ロシア産ガスをドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」の修復作業に伴うものと説明しているが、欧州連合当局は、ウクライナの支援国に対する報復とみている。

ドイツの経済・気候保護省は「ガス需要を縮小させるには発電用のガス使用を減らす必要がある。その代替として石炭火力発電所への依存を高めることになる」と説明した。

ドイツ政府は2030年までに石炭使用を段階的に削減する目標を掲げているが、方針を転換することになる。

ドイツのガス需要に占めるロシア産天然ガスの割合はウクライナ侵攻前の55%から現在は35%に低下。それを埋め合わせるため、ノルウェーやオランダなどからの調達を拡大するとともに、液化天然ガスの輸入を増やしている。 【6月20日 AFP】
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なお、2030年までに石炭火力発電所を閉鎖するという目標については、引き続き期限通りの達成を目指していくとのことです。

****ドイツ、2030年の脱石炭目標は維持 化石燃料の利用拡大も****
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を受け、化石燃料の利用拡大方針を示しているドイツは20日、2030年までに石炭火力発電所を閉鎖するという目標については、引き続き期限通りの達成を目指していくと表明した。

経済省のシュテファン・ガブリエル・ハウフェ報道官は定例記者会見で、「2030年の脱石炭達成期限については疑いの余地はない」と明言した。

ロシア国営天然ガス企業ガスプロムが先週、欧州へのガス供給を大幅に削減すると通告したことを受け、ドイツ政府は19日、石炭火力発電所の利用を拡大すると発表。ハウフェ報道官は、これによる二酸化炭素排出量の増加を考慮すると、目標は「これまで以上に重要になる」と語った。(後略)【6月20日 AFP】
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実際、2030年の脱石炭目標が達成できるかどうかはわかりませんが、環境政策を重視する緑の党も参加する連立政権としては「脱石炭」の看板を降ろすわけにもいかないでしょう。(近年のドイツ緑の党は党内的には現実主義派が主導権を握っており、石炭利用の拡大を含む緊急対策を了承したことに見るように、相当に現実主義的対応を行っているようです)

【世界的にも進む“石炭への回帰”】
ドイツだけの話ではなく“欧州では、ドイツのほか、イタリア、フランス、英国、オランダ、オーストリアが石炭火力発電の稼働再開か拡大、廃止の延期を表明”【下記 WSJ】とも。
世界的にみても、“石炭への回帰”が鮮明になっています。

****石炭の復活鮮明に 世界エネ争奪戦で急浮上****
ロシアから供給増えるよりは石炭消費の方がマシ

ロシアのウクライナ侵攻で石油・ガスの不足に拍車がかかる中、各国がエネルギーの安定調達を求めて、化石燃料の中でも最も環境負荷の大きい石炭への回帰を強めている。

米国や欧州、中国といった経済規模の大きい主要国・地域の間では、気候変動対策として石炭消費の削減を掲げているにもかかわらず、電力確保に向けて短期の石炭購入を増やす動きが広がっている。

長年にわたる新規投資の減少に加え、足元の需要急増が加わり、石炭の指標価格は供給不足から今年に入り最高値を更新。アジア向けの主要供給国であるオーストラリアのニューカッスル港積み石炭スポット(随時契約)価格は先月、初めてトン当たり400ドルの節目を突破した。

石炭の復活を主導しているのは、ロシアのガス供給削減で電力不足への不安が高まる欧州だ。2030年までに発電燃料としての石炭使用停止を掲げるドイツも、輸入を拡大している。ロベルト・ハーベック独経済相は石炭への依存増大は苦渋の選択だが、必要だとの認識を示した。

エネルギー専門の法律事務所ヴィンソン&エルキンズのパートナー、アレックス・ムシマング氏は「ロシアから(の供給が)増えるよりは石炭(の消費)が増える方がマシというのが足元の雰囲気だ」と話す。

米国の一部地域でも、石炭火力発電所の使用が増えている。異例の猛暑で電力需要が高まっており、今夏に停電のリスクが高まっているためだ。

専門家によると、世界最大の石炭消費国である中国は、石炭の生産と発電燃料としての使用を拡大している。昨年、全国的に電力制限や停電に陥ったことで、警戒感が高まっていると専門家は話している。

インドもエネ需要の高まりを受けて石炭への依存を強めている。シンクタンク「社会・経済進展センター」のラウル・トンジア上級研究員は、4月には石炭火力発電が過去最高を記録したと指摘する。

スイスのグレンコアといった石炭大手は、またとない書き入れ時を迎えている。石炭を今も主力事業に抱える数少ない資源大手の1社である同社は先月、上期の営業利益が32億ドル(約4300億円)になるとの予想を示した。これに対し、2021年通期実績は37億ドルだ。

西側の主要国ではここ10年、石炭の使用が減少傾向にあった。よりクリーンなエネルギーのコスト競争力が高まったことが背景にある。米国のシェールブームやロシアの欧州向け輸出で天然ガスは安定調達が可能になった。太陽光や風力といった再生可能エネも、コスト低下や政府の補助金により存在感を増した。

とはいえ、新興国を中心にエネ需要が急拡大する中で、石炭需要は大幅な伸びを維持しており、今年は過去最高を記録すると国際エネルギー機関(IEA)では分析している。

ただ、二酸化炭素(CO2)排出量が天然ガスの2倍に相当する石炭の復活により、地球の気温上昇を産業革命以前の水準からセ氏2度未満に抑える気候変動目標の達成はさらに遠のく。

一方、各国が石炭の調達を急ぐ中でも、資源大手と長期の契約に踏み込む動きはみられない、と業界専門家や弁護士は話している。これは米国やカタールとの間で長期の液化天然ガス(LNG)契約を結ぶ動きとは対照的だという。

欧州では、ドイツのほか、イタリア、フランス、英国、オランダ、オーストリアが石炭火力発電の稼働再開か拡大、廃止の延期を表明。多くの国が暖房需要が高まる冬季に向けて、天然ガスの備蓄積み増しを急いでいる。(中略)

こうした中、気候変動の専門家らはアジアにおける「脱石炭」の動きが従来の想定よりも遅れると危機感を強めている。エネルギー調査会社によると、世界最大の温暖化ガス排出国である中国はすでに世界の石炭発電能力の約半分を抱え、国内発電所が世界の石炭消費の約3分の1を占める。(後略)【7月5日 WSJ】
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“ロシアから供給増えるよりは石炭消費の方がマシ”とのことですが、インドのようにディスカウントされた安価なロシア産石炭を買い漁るインドのような国も。

****インドのロシア産石炭購入がここ3週間で急増、3割値引きも提示****
インドのロシア産石炭や関連製品の買い付けが6月15日までの20日間で3億3117万ドル相当と、前年同期の6倍以上に急増した。インド政府の未発表データをロイターが閲覧した。西側諸国が対ロシア制裁を強めていることで、ロシア系輸出業者が最大3割の値引きを提示しているという。商社筋2人の話などで明らかになった。

同期間にインドの製油業者が購入したロシア産石油も22億2000万ドルと、前年同期の31倍以上に急増していた。(中略)

インド政府はロシア産品の購入を供給多様化の一環として正当化している。ロシア産品の購入が世界で突然止まれば、世界的に価格が上昇しインドの消費者に打撃を与えるとも主張している。【6月20日 ロイター】
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“インドの消費者に打撃”だけでなく、インドがロシア産に向かうことで、それまでインドが購入していたものが欧州など他の地域にまわり、価格高騰が一定に抑制されている・・・という面もない訳でないでしょう。

【石炭を含む化石燃料インフラ開発が加速 パリ協定目標達成は一層困難】
「脱ロシア」の話はそれぞれの国の事情にもよりますが、結果的に石炭を含む化石燃料インフラ開発が加速し、温暖化対策としての「脱石炭」「脱化石燃料」がこれまで以上に困難になりつつあるのも現実です。

****パリ協定目標達成困難か 「脱ロシア依存」で化石燃料インフラ増****
ロシアのウクライナ侵攻を受け、各国がエネルギーの「脱ロシア依存」を進める中で新たな化石燃料インフラの開発計画が相次ぎ、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」の目標を達成できなくなる恐れがあるとの報告書を、ドイツの科学者らが参加する国際NGO「クライメート・アクション・トラッカー」(CAT)が発表した。

CATは、ウクライナ侵攻後の各国政府のエネルギー政策を調査。液化天然ガス(LNG)のロシア以外からの調達を模索するドイツ、イタリア、ギリシャ、オランダで新たなLNGの輸入基地が計画され、欧州連合(EU)への供給量はウクライナ侵攻前よりも増える可能性があるという。

また、米国やカナダのほか、中東のカタールやアフリカのアルジェリア、エジプトなどで欧州向けのLNG輸出拡大の動きがある。

CATは「燃料価格の高騰で新たな化石燃料インフラへの投資が有益となり、新たな温室効果ガスの排出を数十年にわたって固定化する可能性がある」と指摘。パリ協定が掲げる「世界の平均気温の上昇を産業革命前から1・5度に抑える」という目標に「手が届かなくなる可能性がある」とし、新たな化石燃料インフラの開発や投資を停止するよう提言した。

国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第3作業部会が4月に公表した報告書によると、気温上昇を1・5度に抑えるには、遅くとも2025年までに世界の温室効果ガス排出量を減少に転じさせ、30年までに19年比で43%削減する必要がある。

CATは各国政府の現状の政策のままでは今世紀末までに2・7度上昇すると予測していたがウクライナ危機をへて「状況はさらに悪化しているように見える」としている。

CATの報告書では、石炭火力発電を「段階的廃止」とすることで合意した5月の主要7カ国(G7)の関係閣僚会合にも言及。欧州各国が30年までの廃止を主張したのに対し、日本と米国が「エネルギー安全保障への脅威となることを懸念し、消極的だった」とし、「脱石炭を遅らせても、いっそうのエネルギー安全保障確保にはつながらない」と早期の石炭火力廃止の重要性を強調した。【6月8日 毎日】
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【バイデン大統領 温暖化対策が後回しになりかねないことへの危機感 しかし、政策対応を制約する米連邦最高裁】
ウクライナ危機のなかで温暖化対策が後回しにされる現状への危機感については、バイデン米大統領も表明はしています。

****「行動の窓閉ざされる」 米、温暖化対策で首脳会合 対応後手に危機感****
バイデン米大統領は17日、日欧や中国など約20カ国・地域による気候変動対策の首脳級会合をオンラインで開いた。ロシアによるウクライナ侵攻で燃料価格が高騰。温暖化対策は後回しになりかねず、バイデン氏は「(脱炭素化の達成への)行動の窓は急速に閉ざされようとしている」と演説し、危機感を示した。運輸や船舶、農業など幅広い分野で掲げた目標への賛同を各国に呼び掛けた。

米国設立の主要経済国フォーラム(MEF)の枠組みで開催。バイデン氏主催では3回目となった。
原油や天然ガスの価格が上昇し、各国が資源確保に注力している。会合は改めて脱炭素化への連携を確認し、11月にエジプトで開かれる国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に向け、取り組みの機運を高める狙いがある。

バイデン氏は「気候安全保障はエネルギー安保とも密接に関連している」と強調。化石燃料の利用を減らして太陽光などを活用する温暖化対策が、エネルギーの安定調達にもつながるとの立場から、対策を強化し続ける重要性を訴えた。

会合で米国は、2030年までに新車販売の半数を電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車、燃料電池車などの「ゼロエミッション車」とする米国の目標について、主に運輸分野で各国に賛同を促した。
海運分野では、50年に脱炭素化を達成できるようにするため、海運業者や港湾運営者らの事業者が具体的対策を示すよう求めた。(後略)【6月18日 産経】
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しかし、そのバイデン大統領を阻む存在はアメリカ国内に。またしても保守化傾向を強める連邦最高裁が・・・

****バイデン政権の温室ガス規制政策に痛手、連邦最高裁が判決で制限…「議会の権限委任が必要」****
米連邦最高裁は6月30日、連邦政府が発電所の温室効果ガス排出を規制する権限について、制限する判決を出した。気候変動対策を政策の目玉とするバイデン政権にとり、大きな痛手となりそうだ。

石炭を主要産業とするウェストバージニア州が、連邦政府機関の米環境保護局(EPA)に対し、石炭から温室効果ガス排出量の少ない再生可能エネルギーなどへの移行を促す前提で包括的な排出規制をする権限はないと申し立てていた。

判決は、ジョン・ロバーツ連邦最高裁長官を含む保守派とみなされる判事6人が賛成し、リベラル派とされる3人が反対した。ロバーツ長官は多数派の意見として、「連邦議会がEPAにそうした権限を与えたとは考えられない」とし、包括規制には議会からEPAに対する明確な委任が必要だと指摘した。

現在、EPAは温室効果ガス排出に関する新規制を検討中だが、議会の承認が必要となる可能性が出てきたため、実施が困難になる恐れがある。バイデン政権は2030年までに温室効果ガスの排出量を05年比で50〜52%削減する目標を掲げているが、達成に影響を与えそうだ。【7月1日 読売】
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バイデン大統領はこの最高裁判断について「われわれの国を後戻りさせることを目的とした新たな破壊的判断」と指摘。声明で、判断が気候変動対策に取り組む「米国の能力を損なうリスクがある」とした上で、「公衆衛生を守り、気候の危機に対処するため、合法的な権限を行使することを辞さない」と言明しています。

ただ、野党共和党と足並みをそろえる最高裁の壁を前に、バイデン政権の政策的自由度は大きく制約されているのが現状のようです。

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気候変動  COP26で強まる「脱石炭」「脱化石燃料」の流れ ただし、厳しい現状・将来予測も

2021-11-04 21:39:57 | 環境
(【11月4日 産経】)

【「何も行動しないことへの代償(コスト)は、予防策を行うコストよりもはるかに大きい」】
気候変動に対する取り組みが人類全体にとって差し迫った危機となっているという認識はほぼ定着してきています。

****COP26、首脳会合始まる 「時間がなくなっている」とボンド映画引き合いに****
国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の首脳会合が1日、英スコットランド・グラスゴーで始まった。温室効果ガス削減の具体策などについて、約120カ国の首脳が2日間にわたり協議する。

COP26議長国イギリスのボリス・ジョンソン首相は、開会のセレモニーで各国首脳や代表団を歓迎した。そして、ジェイムズ・ボンド映画の新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」を引き合いに、気候変動に対処するための「時間がなくなってきている」と述べた。

ジョンソン氏は、ボンドは世界を滅ぼそうとする勢力と戦うことが多いとした上で、「(気候変動)は映画ではなく、終末装置は実在する。これこそ悲劇だ」と述べた。

その上で首相は、気温上昇が摂氏2度進むと食料供給が危うくなり、3度進むと山火事やサイクロンが増え、4度進めば「すべての都市に別れを告げることになる」と述べた。

「我々が行動せずにいる期間が長くなればなるほど事態は悪化し、最終的には大惨事によって行動せざるを得なくなる。その代償はいっそう高くつくことになる」

先進国は特別な責任を負っている
ジョンソン氏は、「COP26を気候変動問題に本腰を入れるきっかけにしなければ」、「世界の怒りと焦り」は抑えきれなくなると語った。

また、何もかも「一度に」実行するのは無理でも、自分たちには「刻一刻と時間を刻む終末装置」を解除する技術があるとした。

さらにジョンソン氏は、環境に優しい経済へと移行するには、先進国が「他の国々を支援しなくてはならない、特別な責任があることを認識」する必要を強調した。

未来の子どもたちが「我々を評価」
ジョンソン氏は、政治家は2050年や2060年に何をするのかを語るが、COP参加者の平均年齢は60歳を超えていると指摘。将来生まれてくる子どもたちが、自分たちの行動の是非を判断することになると述べた。

「我々は失敗やミスは許されない。もしそんなことになれば、未来の子どもたちは我々を許さない。グラスゴーの会議が歴史の転換点だったのに、歴史を変えられなかったと言われてしまう」

「自然をトイレ扱いするな」
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、温室効果ガス排出量削減に向けた緊急行動を最も声高に主張する1人。そのグテーレス氏は、「化石燃料への依存が人類を瀬戸際に追い込んでいる」と力説した。

「我々が化石燃料を止めるか、化石燃料が我々を止めるかだ。もうたくさんだと声を上げる時が来た。炭素で自滅するのはもうたくさんだ。自然をトイレのように扱うのはもうたくさんだ。燃やしたり採掘したりして、どんどん深みにはまるのはもうたくさんだ。我々は自分たちの墓穴を掘っているようなものだ」

「文字通り時間切れ」
休養のため参加を取りやめたエリザベス女王に代わって出席したチャールズ皇太子は、新型コロナウイルスのパンデミックによって、国境を越えた危機が「いかに壊滅的か」あからさまになったと述べた。
気候変動問題については、「文字通り時間切れだ」、「私たちは何をすべきかわかっている」と述べた。

そして、増大する債務に苦しむ国々を支援するために、「世界の民間部門の力を結集するため、軍事作戦的な大々的な取り組みが必要」だとした。
「何も行動しないことへの代償(コスト)は、予防策を行うコストよりもはるかに大きい」(後略)【11月1日 BBC】
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一方で、目標とされる気温上昇「1・5度未満」の達成について、現状は相当に厳しい評価がなされており、時間との勝負の取り組みが求められています。

****COP26 Q&A 気温上昇「1・5度未満」へ機運高まる*****
英北部グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で本格交渉が始まった。世界の気温上昇を産業革命前から1・5度未満に抑えるための方策が話し合われる。交渉の焦点や各国の立場などをまとめた。

Q 「1・5度未満」の目標とは
A 2020年に本格始動した温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、世界の気温を産業革命前から2度未満に抑えることを目標とし、できれば1・5度未満とする努力目標も掲げている。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が18年にまとめた特別報告は、2度と1・5度で気象や環境への影響に大きな差があると指摘。1・5度未満を目指す機運が国際的に高まった。

Q 目標は実現できるのか
A 厳しい状況だといわれている。IPCCによると、2030年には世界全体の温室効果ガス排出量を10年比で約45%削減し、50年ごろに「実質ゼロ」に抑える必要がある。だが、COP26開幕前の時点で国連機関が各国の自主削減目標を分析したところ、30年の削減目標のペースでは同年時点で排出量が16%増加、今世紀末に気温は2・7度上昇する。欧米や日本が掲げる排出量の「50年実質ゼロ」を達成しても今世紀末には気温が2・2度上昇するとされた。

Q 交渉の焦点は
A IPCCは2040年までに1・5度に到達する可能性を指摘する一方、今世紀末には1・4度に戻すことも可能としている。そのためには、各国の一段の削減努力が不可欠で、会議では目標を高める道筋をつけられるかが焦点だ。削減目標は5年ごとに見直す仕組み。議長国の英国は、石炭火力発電所を先進国が30年、途上国が40年までに廃止するよう訴えている。

Q 主要国の取り組みは
A 先進国の米国や欧州連合(EU)、日本などは排出量の「50年実質ゼロ」とともに30年の削減目標を示している。一方、温室効果ガスの最大排出国の中国は「実質ゼロ」の目標期限を60年とし、排出量が3番目に多いインドは70年としている。経済への影響のほか、両国は途上国としての立場もあり、さらなる目標引き上げに現時点で慎重のようだ。

Q 「途上国の立場」とは
A 途上国側には多くの温室効果ガスを排出してきた先進国が温暖化対策でより大きな責任を担うべきだとの考えが強い。そのため先進国は途上国の対策に資金援助もしている。先進国は20年までに年間1千億ドル(約11兆円)を拠出し、25年までこの規模を維持すると約束。目標は現時点で未達だが、途上国は26年以降も支援の継続・拡充を求めている。

Q 交渉は「先進国対途上国」の構図なの?
A 主要な対立軸ではあるが、そうとばかりではない。参加国は利害が合致する国と交渉グループをつくっている。途上国内でも中印などのほかにいくつかグループがあり、気候変動の影響に脆弱(ぜいじゃく)な島嶼(とうしょ)国などは、先進国で野心的な対策を目指す欧州連合(EU)と連携も強めている。日本は先進国のうち、米国やオーストラリアなどとグループをつくっている。【11月4日 産経】
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【世界的な「脱石炭」の流れ】
これまで、先進国と途上国の対立から総論賛成・各論反対で、なかなか実際の改革が進まなかった感がありますが、今回は各国・企業などの具体的な取り組みが多く報じられており、それらを見る限り、ようやく前向きの取り組みが始まるのかな・・・という雰囲気も感じられます。

特に、気候変動の最大の原因となっているとされる石炭について、「脱石炭」の流れが出来つつあります。

****【COP26】 石炭からの脱却、190の国と企業が約束 米中などは加わらず****
英スコットランド・グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で3日、190の国と企業が「脱石炭」を約束したと、英政府が発表した。この中にはポーランドやヴェトナム、チリといった主要な石炭使用国も含まれる。

これらの国と企業は、国内外での新たな石炭火力発電への投資をすべて終了することを約束した。
ただ、オーストラリアやインド、中国、アメリカなど、世界最大の石炭依存国の一部は脱炭素化に関する文書に署名しなかった。(中略)

世界の電力の37%は石炭火力
世界的に石炭使用量の削減は進んでいるものの、2019年の世界の電力の37%は石炭火力でまかなわれていた。
南アフリカやポーランド、インドなどでは、エネルギー部門をよりクリーンにするために大規模な投資が必要となるだろう。

COP26に参加する、環境保護団体「グリーンピース」代表団のトップ、フアン・パブロ・オソルニオ氏は、「この声明は概して、化石燃料問題に取り組むための重要な10年間に必要な野心を、また十分に満たしていない」と述べた。

「輝くような見出しとは裏腹に、各国が独自の段階的(石炭)廃止日を定めるうえでの時間的猶予を、各国に与えているようにみえる」【11月4日 BBC】
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****英政府「石炭火力を40年代までに段階的に廃止」 COP26で声明****
英グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、英政府は3日、石炭火力発電について主要経済国は2030年代、途上国は40年代までに段階的に廃止するなどとした声明を発表した。

賛同国には現在は石炭火力に依存するポーランドの他、日本の支援で石炭火力事業が進むベトナムなど、段階的廃止や新規建設停止を初めて表明した18カ国が含まれる。日本は参加していない。
 
「世界全体での石炭からクリーンパワーへの移行」と題した声明では、他の電源と比べて二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力を期限までに段階的に廃止することの他、国内外の石炭火力への新たな投資を停止するとしている。また、石炭関連産業の労働者らが不利益を被らないよう、支援をしながら脱石炭を進めることも盛り込んだ。
 
英国は「石炭が気候変動の最大の原因」として、世界で石炭火力全廃に道筋をつけることをCOP26での最重要課題の一つに位置づけ、主要経済国は30年、途上国は40年までの全廃に合意するよう呼びかけていた。声明では「30年代」「40年代」などとして事実上期限を延長することで多くの賛同を取り付けたとみられる。
 
英政府は各国政府、金融機関など190の国・組織が賛同したとしているが、3日時点でリストは公表していない。英紙ガーディアンによると、国レベルでは40カ国以上が賛同した。世界のCO2排出上位3カ国(中国、米国、インド)や、石炭火力が電源構成の約6割を占めるオーストラリアなどは参加していないという。【11月4日 毎日】
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各国政府だけでなく、金融関連企業も「ネットゼロ」の達成を投融資の軸足に置く方針を表明しています。

****気候対策中心の投融資を確約、COP26で金融関連企業連合****
英グラスゴーで開かれている国連の第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、合計運用資産が130兆ドルの金融機関や投資会社の連合が3日、温暖化ガスの排出を実質なくす「ネットゼロ」の達成を投融資の軸足に置く方針を表明した。

COP26ではまた、少なくとも19カ国が来年末までに国外の化石燃料プロジェクトに対する公的融資を停止することで4日に合意する見通し。

これに先立ち、金融関連企業の連合は、化石燃料脱却の取り組みで「相応の貢献」をすると確約した。

国連の気候変動問題担当特使のカーニー前英中銀総裁が金融関連企業で構成する「グラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ)」の会合を開催。

COP26が目指す、産業革命前からの世界の気温上昇を1.5度に抑える努力目標の実現には、今後30年間で100兆ドルの資金が必要になるとの試算を公表した。政府が達成できる以上の成果を上げるために、金融業界は民間資金を呼び込む方法を探る必要があると訴えた。

また「資金はあっても、ネットゼロに整合的なプロジェクトが必要で、それがあれば非常に強力な好循環を生み出す道がある」と強調した。カーニー氏は、金融機関が投融資に関する気候リスクについて説明し、開示する仕組み作りを主導してきた。

国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、日々のマクロ経済に関する報告書に気候関連データを組み入れることが非常に重要だと強調。

世界の金融規制を担う金融安定理事会(FSA)のクノット副議長(オランダ中銀総裁)は、気候リスクの開示で最低限守るべき国際基準が必要だと述べた。

中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は、金融機関が環境に貢献するグリーン事業を支援できるよう、低利の資金を供給する新たな金融政策措置に取り組んでいると述べた。【11月4日 ロイター】
***********************

イギリス政府は、大手企業や金融機関に対し、気候変動を食い止める施策の提示を義務付ける方針を発表。

****【COP26】 英財務省、金融機関などにネットゼロ計画を義務付け****
イギリスの財務省は3日、大手企業や金融機関に対し、気候変動を食い止める施策の提示を義務付ける方針を発表した。

イギリスは、2050年までに炭素排出量を差し引きゼロにする「ネットゼロ」を目指している。企業は2023年までに、この目標に基づき、低炭素化に向けた詳細な計画を立てる必要がある。

財務省の専門家会議は今後、各企業の計画が満たすべき基準を策定する。一方、計画の実行そのものは義務付けられておらず、環境保護活動グループからは十分でないとの指摘も出ている。

財務省はこの点について、「透明性と説明責任を拡大するのが目的」だとして、「企業単位でネットゼロを義務付けるわけでない」と説明。
その上で、企業の計画が信頼に足るものかどうかは市場が判断するだろうとしている。(後略)【11月4日 BBC】
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【日本は世界とのずれも】
ただ、日本はこの「脱石炭」に関しては、世界の潮流と大きくずれているとの指摘もあります。
 
****日本の姿勢と世界の潮流のずれ****
日本政府は20年、国内でCO2排出量の多い非効率な石炭火力の9割を30年度までに休廃止する方針を決めたが、全廃の時期は明らかにしていない。

また、日米を含む主要7カ国(G7)は国外の石炭火力事業について、新規の公的支援を今年中に終わらせることに合意した。ただし、「排出削減対策が講じられていない場合」として例外を認め、支援継続の余地を残している。
 
国外の石炭火力事業への日本の公的支援額は、G7の中でも突出している。また、岸田文雄首相は2日、COP26首脳級会合での演説で、ゼロエミッション(排出ゼロ)化を前提にアジアで既存の火力発電を活用する必要性を訴え、環境NGOなどから批判を集めた。
 
各国の石炭火力事情に詳しい自然エネルギー財団の大野輝之常務理事は「10月に閣議決定したエネルギー基本計画では30年度の電源構成で石炭火力は19%を占め、日本は石炭を継続利用する意思を明確にしている。電力需要が増える見通しのベトナムなどの途上国も今回賛同しており、日本の姿勢は世界の潮流と大きくずれ、対策が遅れていることを一層目立たせる結果となった」と指摘する。【11月4日 毎日】
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【厳しい現状】
現状の方は前出【産経】にもあるように、“30年の削減目標のペースでは同年時点で排出量が16%増加、今世紀末に気温は2・7度上昇する。欧米や日本が掲げる排出量の「50年実質ゼロ」を達成しても今世紀末には気温が2・2度上昇する”という厳しい状況にあって、コロナ禍からの回復とともに、CO2排出量がコロナ以前水準近くまで増加しているとされ、この状況を変えるためには相当大きな決断が必要とされるように見えます。

****世界のCO2排出、コロナ前水準に迫る 今年は4.9%増****
世界の二酸化炭素(CO2)排出量が新型コロナウイルス流行前の水準付近まで増加したことが、4日発表の報告書で明らかになった。輸送部門の排出量は低水準で安定しているものの、電力・工業部門で石炭・天然ガスの排出量が急増した。

報告書の主筆であるピエール・フリードリンシュタイン英エクセター大学研究員は「一定の増加は予想していたが、増加の激しさと速さに驚いた」と述べた。グローバル・カーボン・プロジェクトがまとめた。

昨年のCO2排出量は、ロックダウン(都市封鎖)や経済活動の停止を受けて、19億トン(5.4%)減と記録的な落ち込みとなったが、今年の排出量は4.9%増加する見通し。

主要排出国では、中国とインドの今年の排出量が2019年を上回る見込み。米国と欧州の排出量は、やや鈍化するという。

今年の世界のCO2排出量は364億トンに達する見通し。

フリードリンシュタイン氏は、今後30年間で排出量を実質ゼロにするには、大幅なCO2排出削減が必要だと指摘。「おおまかに言えば、今から2050年まで毎年、新型コロナ危機の際と同程度(の削減)が必要になる」と述べた。【11月4日 ロイター】
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「グラスゴーの会議が歴史の転換点だったのに、歴史を変えられなかったと言われてしまう」(ジョンソン首相)「我々は自分たちの墓穴を掘っているようなものだ」(グテーレス国連事務総長)「文字通り時間切れだ」(チャールズ皇太子)という切羽詰まった状況です。


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日本  エンジン、石炭火力など長年培われた高度な技術へのこだわりが変化への足かせになることは?

2021-05-22 22:44:47 | 環境

(【5月19日 WSJ】 米エネルギー大手ビストラがカリフォルニア州モスランディングで建設する、廃止された天然ガスプラントを利用した大規模蓄電池施設 完成すれば400メガワットの電力を4時間供給できるようになる)

 

【EVシフトの流れの中で“エンジン”へのこだわりは?】

先ほど食事しながらTVのニュースを観ていると、トヨタが富士24時間レースに水素エンジン自動車を参加させ(社長自らレーサーとして参加するとか)、今後も水素エンジンの開発を進める・・・といったことを報じていました。

 

脱炭素社会の自動車の主流は電気自動車(EV)と一般的にはみられており、すでに中国を筆頭にEVへのシフトが加速しています。

 

“中国、50万円弱の低価格EV販売急拡大「人民の足」アピール”【4月20日 産経】

“中国IT大手、続々とEV市場に参戦 上海モーターショーで世界が注目”【4月22日 AFP】

 

****世界初「夢の全固体電池」も?! 上海モーターショーで注目“中国のテスラ”NIOの実力****

「夢の次世代電池」一番乗りは中国EV企業?

4月19日に開幕した上海モーターショー。トヨタがSUVタイプのEV(電気自動車)を世界初公開し、ホンダも中国で来春発売するEVを披露するなど、EV一色となった。

 

世界的な脱炭素の流れのなか、中国でも2035年までに新車販売の50%以上をEVなどの「新エネルギー車」とする計画が示されていて、各社がアピールに必死だ。

 

そんなモーターショーに先立つこと3カ月。中国の新興EVメーカーが夢の次世代バッテリー「全固体電池」を世界で初めて実用化した―?そんなニュースが一部で話題になった。(後略)【4月27日 FNNプライムオンライン】

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「夢の全固体電池」については、いささか疑問符があるようです。

 

アメリカも負けじと・・・

“バイデン氏「EVでは中国に負けない」 全米50万カ所に充電施設”【5月20日 FNNプライムオンライン】

 

一方、クリーンなエネルギーとしての水素の利用ということでは、トヨタも手がける燃料電池車(FCV)がありますが、燃料電池は水素を酸素と結合させて電気を取り出しているのに対し、燃焼によって水素と酸素と結合させ熱エネルギーとして取り出すのが水素エンジンの原理です。

 

つまりFCVが電気でモーターを動かすのに対し、水素エンジンはあくまでも水素を燃やしてエンジンを動かす・・・ということのようです。

 

そのことで、これまでのエンジンに関する技術も活かせるし、エンジン生産に携わる多くの企業の雇用も守れる・・・ということのようです。

 

価格もFCVより安くなるようですが、ネックは水素ステーションが全く広がっていないこと。

 

私は四輪の免許も持っておらず、車には全く関心も、知識もないので、全くの見当はずれになることを覚悟で感想を言えば、(トヨタの真の狙いがどこにあるかはともかく)水素エンジンへのこだわりは、これまで培ってきた高度な技術に引きずられて、世の中の大勢からどんどん孤立していくとなるような危うさを感じました。

 

仮に、日本国内である程度の販売が可能になっても、水素ステーションが整備されていない外国への輸出もできないでしょう。

 

「長所・強み」を活かそうとして、やろうとすれば何とか可能だけに、ずるするとそこに執着し、結局新たな転換に乗り遅れる、周囲から孤立化する・・・ということは往々にしてあることですが、自動車王国・日本についてもそんな“ガラパゴス化”の懸念を感じた次第。

 

【脱炭素発電の流れのなかで“石炭火力”へのこだわりは?】

電気自動車が今後の主流になるにしても、その「電気」をどうやって発電するかが問題になります。

 

EVシフトする中国ですが、中国のように石炭火力でCO2を排出しながら、その電気でEVを動かしても、社会トータルの脱炭素・カーボンニュートラルは達成できません。

 

その点では、高効率な石炭火力に拘る日本も国際的評価は芳しくないことは、5月8日ブログ“SDGsを目指す世界の流れとは溝もある日本の石炭火力対策”でも取り上げました。

 

****英、G7に石炭火力全廃を提案 サミット議長国、日本孤立も****

6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)議長国の英国政府が、共同声明にG7各国での石炭火力発電の全廃を盛り込む提案をしていることが17日、分かった。

 

国内外の複数の関係者が明らかにした。二酸化炭素(CO2)の排出が多い石炭火力は、日本などが目指す「2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ」達成を妨げる存在。英国はG7が積極姿勢を示すことで、世界全体の排出削減に向けて機運を高める狙い。石炭火力の利用を続ける日本が孤立する可能性もある。

 

G7各国のうち、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5カ国は国内の石炭火力発電について廃止を表明している。【5月17日 共同】

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CO2の排出が多い石炭火力廃止の流れのなかで日本は

“日本の発電電力量のうち、二酸化炭素(CO2)の排出が多い石炭火力の割合は19年度で32%。政府は30年度までに「非効率」な旧式の発電所を段階的に休廃止するが、旧式よりも排出を抑えた発電所は維持する方針だ。しかし、国際的には石炭火力自体の廃止圧力が強くなっている。”【4月22日 東京】

 

****G7気候相会合、石炭火力への国際投資停止で合意 年末までに具体措置****

主要7カ国(G7)の気候・環境相会合は21日、石炭火力発電への国際投資を年末までに停止する方針で合意した。

ロイターが確認した共同声明は「2021年末までに、国際的な石炭火力事業への直接的な政府支援を完全に停止するために、具体的措置を講じることにコミットする」と言明した。

日本が支持に回ったことで、中国など、石炭火力の使用を支持する国にとっては逆風が強まる見通しだ。第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)のシャルマ議長は中国に対し、「長期目標の達成に向けた短期的な政策」を明示するよう求めた。

G7はさらに「他のグローバルパートナーと連携し、ゼロエミッション車の展開を加速させる」ほか、2030年代に電力部門を「圧倒的に脱炭素化」し、いずれは化石燃料全体への国際投資を停止することでも一致。ただ、目標達成に向けた具体的な日程は盛り込まれなかった。

世界の産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるという2015年のパリ協定へのコミットメントも確認した。

バイデン米政権で気候変動問題を担当するケリー大統領特使は20カ国・地域(G20)に対し、G7が表明した方針と一致した取り組みを進めるよう要請した。【5月22日 ロイター】

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「国際的な石炭火力事業への直接的な政府支援を完全に停止」とは言いつつも、結局は日本と議長国イギリスで折り合いがつかず、曖昧なメッセージとなったようです。

 

****G7、石炭火力で折り合いつかず 日本は継続維持****

オンライン形式で開かれていた先進7カ国(G7)の気候・環境相会合が21日、二酸化炭素(CO2)の排出抑制対策をしていない石炭火力発電への「国際投資をやめなければならない」とする共同声明を採択して閉幕した。

 

議長国の英国は「全廃」を模索したが、G7各国のうち、日本は今後も使い続ける方針を維持し、折り合いがつかなかった形だ。

 

共同声明では、新たな政府支援の全面的な終了に向け「年内に具体的な措置を取る」としたものの、高効率の石炭火力は継続を容認する余地も残した。また各国内の石炭火力廃止について踏み込んだ表現は盛り込まれなかった。【5月22日 共同】

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自動車同様、技術的なことは知りませんが、おそらく日本が主張する高効率の石炭火力というのは、それなりの水準にあるのでしょう・・・ただ、自動車のEVシフト同様に、高効率の石炭火力というものを可能にする技術力があるだけに、石炭火力からの決別が難しく、世の中の流れとは異なる方向に・・・という印象を感じたところです。

 

新しい世界に飛び込むためには、これまでの高い技術力、そこへの執着は、かえって足かせになることがあるようにも。

 

【再生可能エネルギーの可能性を広げる蓄電池技術】

その意味では、石油・天然ガスに恵まれたアメリカは、そのことが再生可能ネルギー進展の足かせにもなる可能性がありますが、アメリカ電力業界では新たな動きも見られるとか。

 

再生可能エネルギーの発電コストが大きく低下してきたこともありますが、カギとなるのは、不安定な再生可能エネルギーを蓄える蓄電池技術の開発。

 

****天然ガスを脅かす蓄電池、変わる米電力業界****

再生エネと電力貯蔵の併用でガス発電所が「座礁資産」化も

 

米エネルギー大手ビストラは全米最多クラスの36基の天然ガス発電所を有しているが、これ以上は発電所を買収または建設する予定はない。

 

代わりにテキサス州とカリフォルニア州で太陽光発電所と蓄電池に10億ドル以上を投資し、新技術によって変貌しつつある電力業界で生き残るため、事業の転換を図る意向だ。

 

「次のブロックバスターにならないよう必死だ」。ビストラのカート・モーガン最高経営責任者(CEO)は、経営破綻した米ビデオレンタル大手の名を挙げてこう話した。「私はこのレガシービジネスが衰退していくのを黙って見守るつもりはない」

 

米国では10年前、フラッキング(水圧破砕法による掘削)によって天然ガスが安価に手に入るようになり、天然ガスが石炭に代わって最大の電力供給源となった。今度は天然ガスが同様の市場破壊によって脅威にさらされている。新たな破壊をもたらしているのは、風力や太陽光エネルギーを利用した費用対効果の高い蓄電池だ。

 

米国エネルギー情報局(EIA)によると、2019年の米発電量に占める天然ガス火力発電電力は38%に上り、24時間体制で電力を供給し、ピーク需要を満たしている。

 

風力発電や太陽光発電も大きなシェアを獲得しており、電池コストの低下に伴って、グリーン電力と電池の組み合わせが需要を満たす役割を担いつつある。電池に安価なグリーンエネルギーを蓄え、太陽が沈んだ後や風がやんだ後に放電するのだ。

 

米電力市場に占める蓄電池の割合はまだ1%にも満たず、現在のところ主に太陽光発電装置から給電されている。太陽光発電の出力量はかなり予測可能で、貯蔵によって増やしやすい。

 

しかし、蓄電池と再生可能エネルギーの併用は、何十億ドルもの天然ガス投資を無駄にする恐れがある。そのため、何十年も稼働することを見越して過去10年間に建設された発電所が、採算が取れるようになる前に引退する「座礁資産」と化すことが懸念されている。

 

米国の現在までの再生可能エネルギーの成長は、電力会社に一定量のグリーン電力の調達を義務付ける州の規制や、風力・太陽光発電の経済的競争力を高めた連邦政府の税制優遇措置によるところが大きい。

 

しかし再生可能エネルギーは近年、補助金なしでもコスト競争力を増している。このため化石燃料発電に代えて風力・太陽光発電に投資し、自主的に二酸化炭素(CO2)排出量を削減しようとする企業が増えている。気候変動に対処する州・連邦規制が強化される見込みであることも、こうした傾向を加速させている。(中略)

 

ガス対グリーンエネ

ガス火力発電所は、風力発電や太陽光発電との競争で既に苦戦している。米電力大手デューク・エナジーは依然、ガス火力発電所の増設を検討している。しかし、発電所がさほど長く運営できない可能性があるため、早期に採算を取れるよう財務計算を見直し始めている。(中略)

 

電力網用の蓄電池

電力網用の蓄電池の多くは、電気自動車(EV)に使用されているのと同じようなリチウムイオン製だ。大型の輸送用コンテナのような見た目で、複数の電池をまとめて配列し、大容量の電力を供給できるようにしていることが多い。再生可能エネルギー源に付属しているものもあれば、単独で設置され、電力網から給電されているものもある。

 

蓄電池は、風力発電ファームよりも太陽光発電ファームと併用されることが多い。太陽光の方が発電量を予測しやすいことと、その組み合わせの方が連邦政府の税額控除を受けやすいためだ。風力発電所と蓄電池の併用に取り組んでいる企業もあり、技術コストが低下すれば、市場の拡大が期待できる。(中略)

 

電力市場の競争が激しく、排出規制のないテキサス州でさえも、ガス発電所はほとんど建設されておらず、太陽光発電所や蓄電池の利用が急速に増えている。

テキサス電気信頼性評議会によると、同州では約8万8900MWの太陽光発電、2万3860MWの風力発電、3万0300MWの蓄電池容量が企業によって検討されている。一方、検討中の新たなガス火力発電容量は7900MWにとどまる。

 

電力会社や電力網規制当局は、少なくとも当初は、新たな電力源の信頼性が既存の発電所ほど高くない可能性を考慮する必要がある。2月に起きたテキサス州の大停電は、その懸念を浮き彫りにした。

 

同州では、気温の低下で電力需要が急増していたところに強力な寒波が襲い、風力タービンやガス発電所、原子力発電所などの多くの電力源が凍結。壊滅的な停電が何日も続いた。

 

たとえテキサス州に蓄電池がもっとあったとしても、風力・太陽光発電ファームの生産性が低い時期だったことを踏まえると、数日間に及ぶ供給不足の緩和にはあまり役立たなかった可能性が高い。企業幹部やアナリストはそう話す。現在のほとんどの蓄電池は、一度の充電でせいぜい4時間程度の放電しかできない。

 

カリフォルニア州では昨夏、ガス発電所への依存度を急速に下げた結果、その影響をもろに受けることになった。米西部が熱波に見舞われた8月、同州の電力会社は需要急増による供給不足を緩和するため、計画停電を余儀なくされた。カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)とカリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)が共同作成した事後分析では、その一因に太陽光や風力発電への急激なシフトが挙げられていた。【5月19日 WSJ】

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現在の蓄電池技術は長期間の蓄電にはまだ不十分なレベルですが、こういった技術は利用が広がれば加速度的に進化するものではないか・・・との印象も素人的にはあります。

 

原子力・石炭火力に頼る姿勢を崩さない日本政府が繰り返し主張するのも再生可能エネルギーの不安定性ですが、上記のような流れが加速すれば、その不安定性を補う蓄電池技術の進歩もそう遠い将来のことではないのかも・・・と楽観的に考えてしまいます。

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気候アパルトヘイト  温暖化被害・対応でも拡大する持てる者はと持たざる者の分離

2019-12-15 23:32:36 | 環境

(国境を分断する有刺鉄線【9月19日 GNV】 30年後、50年後には、気候難民の流入を阻止するために、先進国国境でも、富裕層居住エリアでもこうした「壁」が・・・・)

 

【「プライベートの消防隊」で焼火事から豪邸を守る富裕層】

今朝、TVをつけると聞きなれない言葉が。

「気候アパルトヘイト」「プライベートの消防隊」

 

****差別?温暖化が広げる格差“気候アパルトヘイト” *****

NHK総合 【おはよう日本】

 

世界各地で相次ぐハリケーンや洪水などの災害。温暖化との関連も指摘され、対策を求める声が高まっている。

スペインで行われている国連の温暖化対策会議・COP25。危機感を強める世界の若者たちも声を上げた。

そこで注目されたのは「アパルトヘイト」というキーワード。(中略)

アパルトヘイトという言葉は、国連が出した報告書「Climate change and poverty(気候変動と貧困)」で使われ注目を集めたもの。

温暖化が貧困を生み、格差を広げていると指摘していて、このままでは人種差別と同じような事態になりかねないと強い危機感を表したことば。

途上国だけでなく、先進国でも強く意識されるようになってきている。

温暖化との関連が指摘されている、ハリケーンや山火事に相次いで見舞われた米国の状況を取材。
米国ではプライベートの消防隊が富裕層の間で人気を集めている。

温暖化は経済活動によって引き起こされているのに、守られるのは富裕層ばかりで、貧しい人々は放置されている。
今、若者を中心にこうした格差の拡大に怒りの声が広がっている。

国連の専門家によると、こうした同じようなことはほかの国でも起きていると指摘。
国連の報告書で最初に気候アパルトヘイトを指摘したニューヨーク大学・フィリップオーストン教授は、再生可能エネルギーへの転換とともに、温暖化で被害を受けた人たちへの補償も必要だと指摘している。

日本の専門家は今後、こうした災害が繰り返されると、この気候アパルトヘイトを海外の話では済ますことができなくなると指摘。今後の防災のあり方についても、立ち直る力が十分でない人や、場所に関して予防策に尽力すべきだと話している。【12月15日 JCCテレビすべて】

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カリフォルニアの山火事のニュースはよく目にしますが、山火事の現場で富裕層の豪邸の一画だけが焼けずに残っている・・・その理由の一つが「プライベートな消防隊」ということのようです。

 

いろんな消火剤や方法を使って、火の手が回るのを防いでくれるとか。

 

当然、貧乏人には手がない出ない費用がかかりますので、貧乏人は自宅が焼けるのをただ眺めるしかない・・・ということです。

 

****囚人消防士から消火ビジネスまで…「カリフォルニア大火」舞台裏****

(中略)カリフォルニアの火事は毎年のように起きるが、いったいなぜここまで燃えさかるのか。

 

カリフォルニアでは、乾季は一面が茶色い枯れ草だらけになる。(中略)

 

そこそこの長さのある枯れ草が密集して生えているので、いったん火が付けば、あっという間に炎は燃え広がる。そこに乾燥した季節風が「ふいご」のように風を送るのだ。

 

今年は特にこの風が強く、フェーン現象が加わる山の風下側はきわめて乾燥していた。(中略)

 

トランプ大統領は、「毎年カリフォルニアの火事で出費がかさむ」とニューサム知事をツイッターで非難したが、知事は「地球温暖化を信じていない人間から言われる筋合いはない」とツイートし返している。

 

この2人は以前から折り合いが悪い。大統領は下草を刈れと言っているが、その作業は火を消すよりはるかに大変だろう。(中略)

 

ソノマの山火事には、州内506の消防署から応援が駆けつけたほか、他州の159の消防署が消防活動に参加し、ピーク時には5245名の消防士が活動した。

 

さらに、囚人たちが時給1ドルで消防活動に参加している。カリフォルニアでは1946年からこうした動きがあり、今では州内44カ所の収容所が、消火活動に参加させるプログラムを実施している。およそ2600名の囚人が作業に従事できる資格を持っている。

 

スキルを身につけたとしても前科者は消防士として採用されないため、出所後のキャリアにはならないが、“Do the right thing.”(いいことをしよう)という掛け声のもと、囚人達が危険な任務を引き受けてくれている。

 

その一方、プライベートで消防士と契約する人も増加中だ。プライベート消防会社は1980年代から存在し、多くは保険会社のために働いているが、現在は全米に250社ほどあって成長産業になっている。費用は最大で1日3000ドルくらい。昨年はキム・カーダシアンの個人宅で消火活動して、物議を醸した。

 

カリフォルニアではもうしばらく乾燥した天気が続く予想だ。今回、多くの家庭で、家の保険が10%ほど値上がりした。ここ数年、州内に引っ越してくる人より州外へ越していく人の方が多いのも、物価高や悪化する山火事、電気会社の混乱などが原因だろう。この流れはまだまだ続きそうだ。(取材・文/白戸京子)【11月10日 SmartFLASH】

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カリフォルニア州知事とトランプ大統領のやり取り、囚人消防士も面白いですが、今日の論点は「プライベート消防会社」 “現在は全米に250社”・・・ちょっとした山火事ビジネスですね。

 

温暖化ガスをまき散らす経済活動で富を築いた富裕層・先進国住民は、その資金力で温暖化被害に対しても「プライベート消防会社」のような対応を準備しているのに対し、温暖化の被害を集中的に受けて、その被害から立ち直ることも困難な貧困層・途上国という「分離」の構図が「気候アパルトヘイト」ということのようです。

 

【「気候アパルトヘイト」 現状に大きな責任を有する持てる者はしばらくの間うまく対応、しかし、持たざる者はより一層貧困に陥り、生活苦にあえぐ】

まあ、何事につけ富裕層はダメージを免れて更に金持ちとなり、貧乏人は・・・という話はありますが、温暖化もそういう話だとのこと。

 

****気候変動が生む、新たな「アパルトヘイト」*****

気候変動は私たちの住む地球の姿を大きく変えようとしている。この来たるべき変化に対し、持てる者はしばらくの間うまく対応するだろう。しかし、持たざる者はより一層貧困に陥り、生活苦にあえぐ。

 

気候変動は、今すでに二分化されたこの世界の格差をさらに広げているのである。それによって導かれるのは新たなる「分離」、「気候アパルトヘイト(climate apartheid)」だ。

 

なかでも大富豪たちはこの「生存競争」にせっせと備え始めており、想像を超えるような計画をしていると囁かれている。

 

気候アパルトヘイトとは何か

(中略)アパルトヘイトとは本来、アフリカーンス語で「分離」「隔離」を意味する語であり、かつて南アフリカ共和国で行われていた人種隔離政策を指すことが多い。

 

(中略)気候アパルトヘイトは、富裕層と貧困層とで気候変動の引き起こすさまざまな問題に対応する能力が異なり、そのためある種の分離が発生すること、さらに結果として現在の貧富格差を広げてしまう現象のことである。

 

この言葉を初めて使用したのは国際連合人権理事会であるが、発表された報告書には「富裕層がお金を支払うことで猛暑、飢え、武力紛争をしのぎ、残りの人々がそれらを被る状況」と定義されている。

 

(中略)そもそも気候変動は、人間の活動によって、産業革命時から地球の平均気温が約1℃(現時点で)上昇していることに起因している。これにより猛暑や異常気象、海面上昇、頻繁な森林火災などが発生しており、多くの人の生活が脅かされている。

 

(中略)例えば中米では、気温上昇のため多くのプランテーション労働者たちが脱水症状を起こしており、それが原因で腎臓病が増えている

 

また、極端な豪雨や雨不足により、洪水・干ばつが頻繁に起こることで食糧供給が不安定になり、飢えを深刻化させてしまう。そして海面上昇によって海岸地域や低地が浸水すれば、住処を追われる人々が続出する。

 

例えば、バングラデシュは洪水や海面上昇の被害が世界でトップレベルに深刻であり、2019年の大洪水では感染症も流行した。

 

気候変動がゆえに今のままでは生活できなくなる人々は移動を余儀なくされ、「気候難民」となりさらなる貧困や移民問題を招くのである。

 

研究によって推測されている気候変動の実質的な影響を見てみよう。気候変動による海面上昇や砂漠化・異常気象のため、2050年までには1億5千万から2億人もの気候難民が発生すると予想されている。

 

また気候アパルトヘイトが進むことで、2030年までに1億2千万人の人々が貧困に陥るという国連の報告書も発表されている。気候変動はここ50年における開発、保健、貧困対策などの進歩を巻き戻してしまう可能性さえあるという。

 

国連の特別調査員であり、人権の専門家であるフィリップ・オールストン氏は、国連による気候変動への対策は「明らかに不十分」であり、このままでは人権だけでなく、民主主義や法の支配さえも脅かされると示唆した。

 

これらの事態を一時的にもうまく逃れるには、金銭的余裕がものを言う。お金のない貧困層から気候変動に対応できなくなる一方で、富裕層だけがこの事態をうまく対処できる。

 

富裕層は貧困層に比べ、気候変動に対応するための選択肢が多く用意されているということだ。

 

ここで言う富裕層とは単に資産家を意味するものではなく、常にエアコンや丈夫な家、ライフラインや食糧へのアクセスがある工業先進国に住む人々を含む。

 

彼らは貧困層と違って科学技術に頼ったり、値上がりした食糧を手に入れたり、より涼しく標高の高い地域に移動したりするための費用を負担するだけの金銭的余裕があるのだ。

 

しかし、気候変動へ対応するのにかかる諸経費を負担できない貧困層は、その害を真正面から被る。かくして新たなるアパルトヘイトが生まれるのである。

 

国連による持続可能な開発目標(SDGs)に掲げられた理念「誰一人取り残さない」は、早くも失敗に終わりそうだと批判された。

 

ここには特筆すべき矛盾が存在する。気候変動を引き起こしている温室効果ガス排出量のうち半分は、世界で最も裕福な10%の人間によって排出されてきたものであり、一方で最貧層(総人口のうち35億人)が責任を負うのはたった10%未満なのだ。

 

だが皮肉なことに、気候変動が引き起こす害のうち75%を被ってしまうのは後者の貧困層である。

つまり気候変動の原因を作った人々は勝ち残り、責任のない人々が苦しむのだ。

 

さらに、気候変動という問題の存在だけで、貧富の格差を25%悪化させているという研究もある。

 

気候は人の生産性を大きく左右させる一因であり、例えば熱帯地域にあるモーリタニアやニジェールなどは、気温が上昇していなければ一人当たりGDPが現在よりも40%高かったと予想される。

 

一方、元から比較的に涼しい気候であった先進国の一部では、気温が上昇したことで生産性が増したのである。

 

このような状況では、問題の根本解決を図らない限り気候変動・気候アパルトヘイトに拍車をかけかねず、特に先進国にはこの負の連鎖を断ち切る責任があると言える。

 

しかしながら、これは富裕層のなかでもトップに君臨する大富豪たちにとっての脅威では必ずしもない。彼らは少々大それた計画を用意しているようだ。

 

気候アパルトヘイトの上流階級

このアパルトヘイトの中でも、とりわけ上流階級はすでに策を講じている。大金持ちたちは、人口が少なく住みやすい場所に新たな拠点を設けたり、地下壕を建設、さらにはプライベートの消防隊を雇うなどの備えを用意しているのだ。

 

例えば、決済サービスを提供する大手企業PayPal(ペイパル)の創業者であるピーター・ティール氏は、有事の際にニュージーランドに移住できるよう現地の市民権と土地を確保した。(中略)

 

また、フェイスブック社の元プロダクトマネージャーであるアントニオ・ガルシア・マルティネスが米国の一部の森林を買い取り、発電機や何千セットもの弾薬を備蓄していることも報じられた

 

ここでも、安心・安全の居住に適した地域に金持ちが集まり、住みづらい場所に貧困層が取り残されてしまうという気候アパルトヘイトが顕著になってしまう。

 

このような「準備家(prepper)」たちの懸念は底知れぬものだ。貨幣に価値がなくなってしまった時のために貴金属やビットコインなどの仮想通貨を購入したり、さらには2つ目のパスポートを手にいれる方法を模索している者もいる。

 

このように、大富豪たちが気候変動だけにとどまらない、来たるべき「最悪の事態」を憂慮して周到な準備をし始めていることが、アメリカのメディア研究者であるダグラス・ラシュコフ氏の記事でも暴露された。

 

それによると、彼らは食糧供給網に自分たちしか知らない特別なロックをかけることや、生存を保障するのと引き換えに奴隷に近いような労働力を雇う、または(開発可能であるならば)警備ロボットを確保し、自身の財産を守るのに利用することなど、想像を絶するような策謀をめぐらせている。

 

また、チェコ共和国には世界最大の地下壕「オッピドゥム」が建設されており、大富豪専用の避難シェルターとして、地上が大惨事に見舞われても彼らの身を守ることができる。同じような避難所はドイツやアメリカなどにも建設されている。(中略)

 

このように公共サービスが間に合わなくても、大金持ちは個人的に人を雇うことで(プライベート消防会社のように)、災害を生き延びる術を手に入れるのである。

 

気候変動は各国の政策にも影響を及ぼしている。アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏による「壁」の建設計画や、イギリスの欧州連合離脱(ブレグジット)などの政策は、萌芽しつつあるこの気候問題への初期反応なのではないかという指摘がある。

 

2019年9月に大型ハリケーンがバハマを直撃した際にも、多数の人々が家を失いライフラインを絶たれた状況で、トランプ氏は被災者の受け入れに難色を示し拒否した。

 

気候変動の責任

以上で見てきたような「気候アパルトヘイト」を止める術はないのだろうか。先述のフィリップ・オールストン氏によれば、この問題を解決するには世界経済の構造を大きく変える必要があるだけでなく、各国政府や国連、人権団体が率先して気候変動への対策だけに徹するほかないようだ。

 

また、具体的な対策としては炭素税が有効だとも言われている。産業が、なんの代償もなく二酸化炭素を排出することを許さないという狙いだ。

 

しかも再生可能エネルギーへの切り替えは決して非現実的なものではなく、長期的に見ればコストの削減にも繋がるということがスタンフォード大学での研究で分かっている。(中略)そ

 

しかし、富豪たちの計画を暴露したラシュコフ氏も指摘しているように、富豪たちはこのいかがわしい未来を一瞬で良い方向に変えられるほどの富と権力を持ち合わせているはずだ。それにも関わらず、気候変動を悪化させてきた責任をいとも簡単に逃れているのはいかがなものかと問わずにはいられない。(中略)

 

ただ「勝ち組」として生き残るのではなく、気候アパルトヘイトで苦しむ貧困層の損害を最小限にとどめるよう取り組み、コストを負担するのが先進国・富裕層の責任ではないだろうか。

 

そして、気候変動そのものが差し迫った危機であることだけでなく、付随する気候アパルトヘイトが世界の秩序を歪めてしまうことを正しく認識し、国際社会で対策を打つ潮流を作るのが得策だとも思われる。

 

いずれは富裕層も、富や権力だけでは気候変動から逃げ切れなくなってしまうことは明らかだ。各国政府や企業、国際機関が事態を深刻に受け止め、問題の優先順位を高くし、提言だけでなく実質的な対策を打つことが早急に望まれる。(後略)【9月19日 Mina Kosaka氏 GLOBAL NEWS VIEW】

************************

 

気候アパルトヘイトの問題を提起した貧困と人権に関する国連の特任リポーターであるフィリップ・アルストン氏によれば、今世紀において貧しい国の人々が自然災害で亡くなる可能性は、裕福な国の市民の7倍にも達しており。そしてこのギャップは気候変動が進むほどに広がるとのこと。【7月20日 TOCANAより】

 

二酸化炭素排出の責任が最も低い国と地域が、海面上昇による水没などこうした問題を最も深刻な影響を受けるという現実、なのに二酸化炭素排出の責任が高い先進国が応分の責任を果たそうとせず、途上国にも一律的な対応を求めてくる・・・というのは毎年のCOPで繰り返し議論となる問題です。

 

「気候アパルトヘイト」という言葉は、こうした問題を含めて、改めて富裕層・先進国の責任を問う概念です。

 

映画・ドラマが描くディストピアでは、しばしば「気候アパルトヘイト」の行くつく世界が描かれますが、現実はこうしたディストピアを回避できるのか、それとも・・・・。

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温暖化問題  加速する北極の気温上昇 その影響は世界的規模の政治混乱にも 切実さが乏しい日本

2019-12-10 21:47:46 | 環境

(【アピステコラム】)

 

【加速する北極の変化 中緯度地域の干ばつ、洪水、熱波などの異常気象を誘発する可能性】

スペイン・マドリードで国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)が開催中ということで、温暖化に関する記事を多く目にします。その中からいくつか。

 

世界の気温については、2℃上昇を防げるかどうかが議論になっていますが、地球全体が2℃上昇する時、より敏感に反応する北極では4℃上昇して世界の気象に多大な影響を与えることになる・・・という論文が出されています。

 

****北極は数十年で4℃上昇、温暖化は加速モードに*****

(中略)世界の気温が2℃上昇したとき、北極と南極はどうなっているのかを報告する新たな論文が、124日付けで学術誌「Science Advances」に発表された。それによると、すでに北極は温暖化した世界を先取りしており、近いうちに誰もがその影響を目にすることになるという。

 

「緩和措置を直ちにとらなければ、今後2040年で、北極が加速度的に温暖化する段階に入るでしょう」と論文の著者であるポスト氏は警告する。論文は、複数の国から幅広い分野の科学者が共著者に名を連ね、両極の温暖化が現在と未来に及ぼす影響を検証する内容だ。

 

温暖化を先取りする北極

北極では、地球上のどこよりも速く温暖化が進んでいる。この10年だけで北極の気温は1℃上昇した。論文によると、温室効果ガスの排出がこのままのペースで続けば、北極地方の気温は今世紀半ばに年平均で4℃高くなる。特に秋は最も変化が大きく、気温は7℃上昇するという。

 

同じ頃に地球全体の平均気温は2℃上昇するとみられているが、これは悲惨な影響が生じるかどうかのしきい値とされることが多い。

 

すでに北極地方では、先例のない変化がいくつも起きている。陸と海での氷の大規模な減少や、永久凍土の融解、森林火災、季節外れの嵐、春の訪れの早まりなどだ。

 

今年の夏の海氷面積は、人工衛星による観測が始まった1979年以降で2番目の小ささとなった。また、7月の暑さで、グリーンランドの氷床から数十億トンの氷が解けた。森林火災はアラスカからシベリアにかけて数百万ヘクタールを焼き尽くした。

 

「近年の北極地方の温暖化は、すでに広い範囲に明らかな影響を及ぼしていますが、さらに温暖化が加速した状況ではこんなものでは済まないのです」とポスト氏は言う。

 

北極でも南極でも、数々の憂慮すべき変化が生じている。しかし、変化が格段に速いのは北極だ。近い将来、北極の温暖化の影響が高緯度地域にとどまらず、はるかに広い範囲で感じられるようになると論文は警告している。

 

予想以上に速いペースで海氷が消えている

科学者たちが特に心配しているのは、北極の海氷が失われることだ。夏の海氷は、過去40年にわたって10年ごとに10%を超えるペースで縮小している。温室効果ガスの排出ペースがこのまま続けば2025年以内に消滅すると予想されており、もっと早い時期を予想する研究者もいる。

 

論文の共著者で、カナダ、マニトバ大学と米国立雪氷データセンターの極域リモートセンシングの専門家ジュリエンヌ・ストローブ氏は、北極の温暖化により、夏の海氷の縮小はしきい値を超えてしまった可能性があると考えている。

 

「人々が二酸化炭素の排出量を削減して温暖化に歯止めをかけようとしている中でこんなことを言うのは危険なのですが……夏の北極海から海氷がなくなるのは現実になりそうです」

 

ストローブ氏による最近の研究では、北極海の海氷が、現行のほとんどの気候モデルが予測するより速く縮小していることが示唆されている。

 

海氷の縮小は悪循環を引き起こす。つまり、光を反射しやすい海氷が解けると、海面が熱を吸収しやすくなり、海水温が上昇することでさらに多くの海氷が解けるのだ。

 

北極海の海氷が解けると、北半球の中緯度地域に、干ばつ、洪水、熱波などの異常気象が増えるおそれがある。科学者の間でも議論があるが、いくつかの研究では、北極の温暖化によりジェット気流が弱まり、蛇行しやすくなることが示唆されている。そうなると、北極地方の冷たい空気が現在よりも南下し、暖かい空気が北に張り出すようになるという。

 

「北極の温暖化が加速すると、中緯度地域と高緯度地域の温度差が変化して、米国本土をはじめ北半球全体の天気に影響が及びます」と論文共著者である米ペンシルベニア州立大学の大気科学者マイケル・マン氏は説明する。

 

「中・高緯度地域の温度差はジェット気流を作り出しています。温度差が小さくなれば、ジェット気流は遅くなり、高気圧や低気圧が長期にわたって同じ場所にとどまるようになります」

 

マン氏によると、この現象は、今年の夏にヨーロッパを襲った猛暑や、近年、米国東部から中西部までを凍りつかせている北極からの強力な寒波と関連があるという。

 

永久凍土が解けて森林火災が激しくなる

海面上昇も心配されている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が9月に発表した報告書によると、北極圏の陸氷、特にグリーンランドを覆う広大な氷床は、現在の気候モデルの予想より速く解けていて、海面上昇は今世紀末に約1mという現行の予測をかなり上回る可能性があるという。

 

北極圏の永久凍土の融解も進んでおり、強力な温室効果ガスであるメタンを放出して大気中のメタン濃度を急上昇させ、温暖化に深刻な影響を与えている。

 

最近発表された別の研究では、永久凍土が融解した土壌が乾燥することで、北極地方の森林火災の激しさが年々増していくと予測されている。

 

北極ではすでに季節が狂いつつある。(中略)

 

今回の論文は「現在起きている変化と温室効果ガスの排出シナリオとの関係をしっかり評価できています」と米アラスカ大学フェアバンクス校の大気科学者ジョン・ウォルシュ氏は認める。なお氏は今回の論文には関わっていない。

 

2℃の温暖化は排出量を極力少なくできた場合のシナリオですが、この論文は、その場合ですら北極がこれまでとは違った場所になってしまうことを指摘しています」

 

化石燃料の使用による排出量を減らすことで、北極の温度上昇の幅を小さくしたり、数十年遅らせたりすることができるかもしれないと著者らは主張する。

 

「ある意味、北極は私たちに語りかけているのです」とポスト氏は言う。「あとは、私たちがその声に耳を傾けるかどうかです」【1210日 ナショナル ジオグラフィック】

*******************

 

より身近なところでは、以下のような報告も。

 

****オホーツク海の流氷“今世紀末には消える可能性も”温暖化影響****

北海道の網走市などで見られる冬の風物詩、流氷が地球温暖化の影響で、今世紀末には消えて見られなくなる可能性があるとする調査結果をオホーツク流氷科学センターがまとめました。

 

ロシア沿岸部でできる流氷が気温の上昇で北海道まで南下しなくなるためで、研究グループは「流氷を見られなくなる日が予想以上に早いペースで近づいている」と指摘しています。(中略)


札幌管区気象台は、国連が発表した地球温暖化のデータなどをもとにオホーツク海側の冬から春にかけた平均気温をシミュレーションした結果、今世紀末には3度から最大で6度前後上昇する可能性があるとしています。(後略)【1210日 NHK】

*******************

 

【気候変動は食糧生産に影響することで、世界的規模での紛争・政治不安定化にも】

“北極海の海氷が解けると、北半球の中緯度地域に、干ばつ、洪水、熱波などの異常気象が増えるおそれがある”・・・・ということで、単に「気象が変化する」ということにとどまらず、世界の広い範囲で食糧生産や居住可能性に大きく影響してきます。

 

****気候変動が世界の食糧供給の脅威に 研究****

気候変動による異常気象が同時に複数の穀倉地帯を襲うと、世界の食料供給が脅かされると警告する研究結果が9日、英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジで発表された。

 

気候は重要な不確定要素だが、ある地域で穀物が不作だった場合、通常は別の地域の生産によって損失分が補われている。また、短期的な混乱には備蓄や貿易で対応している。だが、論文によると「現在の仕組みが、これまで以上の異常気象に耐えられるかは疑わしい」という。

 

オーストリアを拠点とする国際応用システム分析研究所の研究チームは、気候変動は気温を上昇させるだけではなく、干ばつ、熱波、洪水など深刻な異常気象をこれまで以上に発生させていると指摘する。

 

論文の筆頭執筆者であるIIASAのフランツィスカ・ガウプ氏は、気候が農業生産に打撃を与えると、食糧価格の急騰や飢饉(ききん)が発生し、政情不安や移住など他のシステムにまで危険が及ぶ可能性があると指摘する。

 

1967年〜2012年の気候と穀物生産量のデータは、特にコムギ、トウモロコシ、ダイズについて、世界の複数の穀倉地帯で不作が同時に発生する確率が著しく増加していることを示している。(中略)

 

さらに、ネイチャー・クライメート・チェンジ誌に同時掲載された関連論文は、世界の食料生産の最大4分の1を占める北米西部、欧州西部、ロシア西部、ウクライナで、ジェット気流の変化によって熱波が発生する危険性が急速に高まっていると警告している。

 

独ポツダム気候影響研究所の客員研究員カイ・コルンフーバー氏は、「今回の研究では、食糧システムにおける脆弱(ぜいじゃく)性を発見した。世界規模で風のパターンが固定化されると、世界の主要穀倉地帯で熱波が同時発生する危険性が20倍となる」と説明している。

 

また、共著者であるPIKのジョナサン・ドンジュ氏は「今後、異なる地域で同時に熱波が発生する頻度が増えるだけではなく、熱波の深刻さもはるかに増す」と指摘した。

 

「熱波の影響を直接的に受ける地域で食糧不足となるだけではなく、遠く離れた地域も食糧不足と価格高騰に見舞われる恐れがある」 【1210日 AFP】AFPBB News

*********************

 

食糧供給の不安定化、食糧価格の高騰は、脆弱な地域で政治の不安定化に直結し、地域的な紛争を誘発、より安定した国への膨大な難民の発生を惹起し、世界規模での混乱に・・・・といった事態も想定されます。

 

困ったことに、温暖化による北極などにおける変化は、変化の結果が更に変化を加速させる方向に働くという形で加速度的に進み、ある時点を超えるともはや止められない状況に陥ります。

 

一部の現象はすでにこの限界を超えたのでは・・・と危惧させるところもありますが、全体的なところでは、今はそうした「崖っぷち」に近づいている状況と思われています。

 

【“ステーキを毎日食べたい”小泉環境相が石炭火力の必要性について“丁寧な説明”】

そうした中にあって日本は「化石賞」を授与されるぐらいに評判がよくありません。

 

****石炭火力、日本が支援を継続 途上国の発電所新設、逆行批判も****

地球温暖化対策に逆行するとして批判が強い発展途上国の石炭火力発電所建設への国際援助を、日本政府が今後も続ける方針であることが9日、政府関係者の話で分かった。

 

スペイン・マドリードでの気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)では、石炭火力の廃止を求める声が高まっており、日本の公的援助にはさらに厳しい目が向けられそうだ。

 

政府は「インフラシステム輸出戦略」で「石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、要請があった場合は原則、世界最新鋭の発電設備について導入を支援する」と、条件付きながらも石炭支援の実施を明記している。【1210日 共同】

****************

 

COP25に出席する小泉環境相は「厳しい批判に対しては誠実に逃げることなく、丁寧な説明をする」と語っていますが・・・・

 

****地球温暖化防止 英大学が食堂で牛肉・羊肉メニュー出さず 畜産農家は猛反発****

小泉環境相の「ステーキ、やっぱりステーキ食べたいですね。毎日でも食べたいね」という20199月の発言が、海外で波紋を呼んだ。

 

牛肉をめぐっても、環境に優しくないと批判の声がある。

というのも、家畜の飼育は温室効果ガスを増やすが、特に牛は、鶏や豚に比べて、排出する温室効果ガスが多く、あるデータでは6倍以上だという。

 

なぜかというと、牛は食べた餌を胃の中の微生物によって発酵することで消化しやすくしていて、その際に発生する大量のメタンガスを、げっぷなどで大気中に排出しているため。

 

こうしたことから、イギリスのあの名門大学の学生食堂では、牛肉を使ったメニューは、もう食べられなくなっている。

 

一方で、畜産業界からは反発の声。

イギリスの名門・ケンブリッジ大学では、すべての学生食堂で、3年前から、牛肉と羊の肉を使った料理を提供することをやめている。

 

学生食堂責任者は、「一番下に豚肉はあるが、冷蔵庫の中に、羊肉や牛肉は一切入っていない」と話した。

温暖化の防止に貢献しようとするもので、大学によると、温室効果ガスの削減量は、1年間でおよそ500トンにのぼったという。これは、乗用車で地球を94周回る際の排出量に匹敵する。

 

大学の環境問題担当者は、「ここまでの削減になるとは思わず、ワクワクした」と話した。

 

一方、地元の畜産業者は、猛反発している。

牧場経営者は、「人々は、責任転嫁先を探しているのだと思う」と話した。この牧場では、牛に与える餌はすべて、ここで栽培した草を与えているという。

 

牧場経営者は、「ここでは加工した餌を使っておらず、車を使った牛の運搬も最小限にしているので、温室効果ガスの排出は少ない」と主張している。

 

牧場経営者は、「車や飛行機などを利用する人間こそが、汚染の原因だ」と話した。

 

学生食堂で牛肉を使ったメニューをやめる動きは、イギリスのほかの大学にも広がりつつある。【1210日 FNN PRIME

********************

 

不可逆的な限界点を目前にして、できることはすべてやらないといけない状況で、“ステーキを毎日食べたい”大臣が石炭火力の必要性について“丁寧な説明”をしても・・・恐らく受け入れられないでしょう。

 

別に小泉氏を揶揄するつもりもありませんが、危機感をどこまで切実に感じているか・・・という問題でしょう。

 

ドイツの環境NGOは、去年1年間に異常気象で世界で最も深刻な被害を受けたのは、記録的な豪雨や猛暑に見舞われた日本だったとする分析を発表していますが・・・。

 

日本についていえば、同じ“危機意識の切実さ”の問題は温暖化だけでなく、今後30年間に70%の確率で起きると言われる首都直下地震についても同様でしょう。

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ツバルなど島しょ国家  海面上昇による水没・洪水被害で国家の存続をかけた取り組み

2019-10-16 23:02:11 | 環境

(高潮で冠水したマーシャル諸島マジュロ環礁のエジット島(2014年3月3日撮影)【2月23日 AFP】)

 

【水没以前に洪水で居住不可能に】

台風19号の被害にあわれた方々には、謹んでお見舞い申し上げます。

 

いまだ洪水の水が引かない地域も多々あるようですが、そうした洪水による水没同様に、気候変動による海面上昇で国全体が水没してしまうという危機感を持つ南太平洋の国々があることは周知のところで、そうした国々からは先進国の温暖化対策の遅れ、消極姿勢に対し強い不満が噴出しています。

 

問題は、平均的な海水面の上昇だけでなく、海水面が高くなっているくると異常時の高潮などの被害が大きくなり、水没以前の段階で居住ができなくなるという点もあるようです。

 

****洪水で水源消滅、多くの島が数十年で居住不能に?*****

太平洋に浮かぶ1100以上の島々からなるマーシャル諸島共和国にとって、気候変動は遠い未来の危機ではない。島々の多くを占める海抜の低い環礁は、すでに大きな被害を受けている。

 

(2018年)4月25日付けの学術誌「Science Advances」に発表された研究によって、気候変動が今世紀の半ばごろまでに、この国の水源に致命的な打撃を及ぼすことが明らかになった。

 

島の周囲の海水面が上昇すると、大きい波が打ち寄せたときに、これまでより島の奥深くまで海水が到達するようになる。こうした波が連続して打ち寄せれば、島の淡水源は機能しなくなってしまう。

 

2016年に米国国防総省が想定した海面上昇シナリオでも、海水面が40センチ上昇すると、マーシャル諸島の環礁の1つ(と、おそらくほかの数千の島々)が居住不可能になると予想している。40センチの海面上昇は、今世紀半ばにも現実になる可能性がある。(中略)

 

「この研究から、海岸地域の洪水に対して、波が重要な役割を果たしていることがわかります」。都市で頻発する洪水に及ぼしている気候変動の影響を研究する気象学者のクリスティーナ・ダール氏はそう語る。

 

「海面上昇しか考えないなら、今回調べられた島々は今世紀末まで居住できます。けれども、波の作用も考慮すると、居住可能な期間は大幅に短縮されるのです」

 

晴れの日に洪水が

人類が気候変動を食い止めようと四苦八苦している一方で、海面は上昇を続け、温まった海水がグリーンランドと南極大陸の氷を解かしている。けれども近年、特定の地域が完全に海中に没するよりはるか前に、海からの洪水によって居住不可能になってしまうことがわかってきた。(中略)

 

マーシャル諸島や海抜1、2メートル程度しかないその他の島国にとって、海からの洪水は大問題だ。近年、マーシャル諸島は激しい嵐や高潮に脅かされ、家屋が破壊されたり墓地が海に流されたりする被害が頻発している。そのうえ、最近の干ばつにより水源にも影響が出ている。

 

現時点でも気候変動の影響がこれだけあるのだから、将来はどうなってしまうのだろうか? マーシャル諸島に軍事基地を持つ米国国防総省からの指示を受け、ストーラッツィ氏のチームは、海からの洪水がロイ= ナムル島の環礁に及ぼす影響をモデル化した。

 

ストーラッツィ氏は、2100年までに海水面が50センチ、1メートル、2メートル上昇するという3つのシナリオについて、地球の気候、海からの洪水の振る舞い、海水の浸入に対する地下の帯水層(水が貯まった地層)の反応を調べた。

 

2014年3月、科学者チームに自分たちの研究を確認する機会が与えられた。ロイ=ナムル島の環礁の一部に巨大な波が襲いかかり、内陸の奥深くまで浸入し、海岸の道路を水浸しにしたのだ。

 

「よく晴れた美しい日に洪水が起きたことは衝撃的で、大きな懸念を生じさせました」とストーラッツィ氏は言う。「こうした洪水のほとんどは、何百キロも何千キロも離れた場所の嵐が引き起こした波が原因となって、現地が晴天の日に発生するのです」

 

このときのデータを使ってモデルを調整したところ、海水面が40センチ上昇すると、ロイ=ナムル島は毎年のように海からの洪水に襲われ、淡水が塩水化して飲めなくなってしまうという予想になった。

 

多くの環礁では、地中の帯水層が主要な淡水源になっている。この水が塩水化して飲めなくなってしまったら、島には住み続けられない。

 

「水が飲めなくなる時期が数百年後ではなく数十年後であることはわかりましたが、具体的な時期はわかりません」とストーラッツィ氏は言う。

 

考慮すべきほかの要因も

しかし、この研究が予想する未来は海水面がどの程度上昇するかに依存している。外部の研究者の中には、彼らのシナリオを解釈する際には注意が必要だと指摘するものもいる。

 

「海水面が大幅に上昇すると、しばしば、岩礁からきた土砂が島の表面に堆積します。島の地形が変化しないものとしてしまうと、この点が考慮されません」と言うのは、海面上昇によって海岸線がどのように変化するかを研究しているニュージーランド、オークランド大学の地質学者マレイ・フォード氏だ。「今回の研究は、島の海岸線が自然な振る舞いをしない、最悪の場合のシナリオです」(後略)【2018年4月27日 ナショナル ジオグラフィック日本版

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洪水で水源が失われることは、今回の台風被害でも起きている現象です。

 

最後にあげられているニュージーランド、オークランド大学の研究チームによれば、土砂の堆積で、むしろ島は拡大した・・・とも。

 

****「沈みゆく島国」ツバル、実は国土が拡大していた 研究****

気候変動に伴う海面上昇によって消滅すると考えられてきた太平洋の島しょ国ツバルは、実は国土面積が拡大していたとする研究論文が(2018年2月)9日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表された。

 

ニュージーランドのオークランド大学の研究チームは航空写真や衛星写真を使用し、ツバルの9つの環礁と101の岩礁について1971年から2014年までの地形の変化を分析した。

 

その結果、ツバルでは世界平均の2倍のペースで海面上昇が進んでいるにもかかわらず8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は2.9%拡大していたことが判明した。

 

論文の共著者の一人ポール・ケンチ氏によると、この研究は低海抜の島しょ国が海面上昇によって水没するという仮説に一石を投じるものだという。

 

波のパターンや嵐で打ち上げられた堆積物などの要因によって、海面上昇による浸食が相殺された可能性があるという。

 

オークランド大学の研究チームは、気候変動が依然として低海抜の島国にとって大きな脅威であることに変わりはないと指摘する一方、こうした問題への対処の仕方については再考すべきだと論じている。

 

同チームは、島しょ国は自国の地形の変化を考慮に入れたクリエーティブな解決策を模索して気候変動に適応していかなければならないと指摘し、海面が上昇しても安定していることが分かっており、これからも面積が増えていくとみられる比較的大きな島や環礁への移住などを提唱している。【2018年2月10日 AFP】AFPBB News

******************

 

まだまだ予測が難しい点が多々あるようですが、仮に上記オークランド大学研究チームの指摘するように、島の面積は拡大しても、冒頭記事にあるような海面上昇に伴う高潮・洪水などで居住が困難になるということはありそうです。(面積は拡大しても、平均海抜は低下していき、高潮・洪水の影響を受けやすくなることが考えられます)

 

また、今後グリーンランドや南極の状況如何で、海水面上昇の速度が速まったとき、堆積との兼ね合いがどうなるのか・・・。

 

島の地形にもよるでしょう。

 

そのあたりはよくわかりませんが、現実問題として、次第に居住環境が劣化するという事態が進行しているようにも見えます。

 

【陸地かさ上げや人工島計画】

基本的な対応策の方向は二つ。

ひとつは、安全な地域への集団移住。(場合によっては、“国土”は消滅しますが)

もうひとつは、島の改良。

 

今回の台風被害でも、「地下神殿」や「遊水地」といった対応策で、被害を食い止めた、最小限にとどめた事例もあるようです。

 

海面上昇に対しても、陸地のかさ上げでなんとか・・・というのが後者です。

 

****このままでは国が水没して消滅…陸地かさ上げ計画を検討 マーシャル諸島*****

太平洋の島しょ国マーシャル諸島は、海面上昇によって島々が沈没するのを防ぐために陸地をかさ上げする必要があると、同国のヒルダ・ハイネ大統領が22日に警鐘を鳴らした。

 

マーシャル諸島では、29のサンゴ環礁に点在する1156の島々のうち、どの島なら、かさ上げが可能かについての協議が進められている。

 

大半の島々の海抜は2メートル未満で、政府は陸地のかさ上げこそが同国を消滅から守る唯一の方法だとの考えを示している。

 

ハイネ大統領は、22日付の地元紙「マーシャル・アイランド・ジャーナル」のインタビューで、「島をかさ上げするのは非常に難題ではあるが、やらなくてはならない」と主張した。

 

マーシャル諸島の政府機関が作成した「気候変動の危機」に関する政策文書は、5万5000人の人口を擁する同国について暗い見通しを示し、「冠水や深刻な干ばつ、サンゴ礁の白化現象」が頻発するようになり、「現状および今後の展望は悪くなる一方だと信じるに足りる十分な理由がある」と指摘している。

 

政府は詳細については明らかにしていないが、年内には、かさ上げ計画の計画を策定したいとしている。

 

一方で政府が実現性の高い選択肢として注目しているのが、島しょ国モルディブの人工島「シティー・オブ・ホープ」計画だ。

 

2023年に完成した暁には13万人が住めるようになるとされる同島では現在、基礎を築くために周囲の環礁の砂州に土砂を流し込み、海抜3メートルの壁で補強する工事が進められている。

 

完成すれば、モルディブで最も高い海抜にある自然の島を抜く高さになる見込みだ。 【2月23日 AFP】

*****************

 

上記記事のモルディブと同様の「人工島計画」はツバルでも。

 

****海面上昇に人工島計画、南太平洋 ツバル首相、国土保全で****

南太平洋の島国ツバルのナタノ首相は16日までに共同通信との単独会見に応じ、地球温暖化による海面上昇で国土消失の危機があるとして「人工島」の造成を計画していることを明らかにした。

 

首相は「海抜5〜10メートルまで埋め立て、海面上昇でも、すべてのツバル人が住めるようにしたい」と述べた。

 

ツバルには九つの島があり、人口は約1万人。海抜は平均1〜2メートルで、海面上昇で水没の危機にある。最大の島の環礁地帯を、近くから採取した砂を使って埋め立てる計画で、予定面積は約16平方キロだ。

 

首相は日本など各国の資金援助に期待した。【10月16日 共同】

********************

 

国家生き残りを託す壮絶な戦いでもあります。

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気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっている

2019-10-06 23:18:37 | 環境

(ノルウェー、スバールバル諸島北東島の氷冠から滝のように流れ出る融解水。北極圏は、地球のどこよりも温暖化の進行が速く、氷が急速に解け出している。【106日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

 

【予測の計算はAIで可能。しかし、なんのために予測するのか、予測をふまえてなにをするのか。それを考えるのは人間】

パソコンで作業していると、おそらく私の閲覧履歴をもとに私の好みを予測したと思われる「おすすめ商品」が提示されます。うるさいぐらいに。

 

なかには、思わずクリックしてしまうものもあれば、どうしてこんな広告がでるのだろうと不思議に思うことも。

 

昨日から旅行に出ていますが、今日は時折小雨もぱらつく天気。目的地にでかけるのは何時がいいか雨雲レーダーで予報を確認しながら行動しました。

 

また台風が日本に向かっているようですが、予想進路に幅があり、私の暮らす地域に影響があるのか、ないのか、肝心なところが判然としません。

 

上記は予測に頼る生活、その予測の限界を示すほんの一例です。

 

****あらゆるものを予測する時代 「何のため?」をどこまで考えているか*****

ビッグデータの時代。人工知能(AI)の時代。そんなふうに呼ばれる現代は「予測」の時代でもある。私たちに身近な天気予報をはじめとして、自然災害からギャンブルまで様々な分野で予測技術が使われている。もはや、予測は現代社会に欠かせないインフラになりつつある。

 

最も予測されているのは、私たちの行動かもしれない。ウェブサイトを開けば頼みもしないのに「おすすめ」が続々と現れる。ネットに流れ出た膨大(ビッグ)なデータから、AIが「あなたはこれが好みでしょ」と予測しているのだ。(中略)

 

AIは、どこまで予測できているのだろうか。

そんな疑問を胸に訪ねたのは、日本有数の統計研究機関、統計数理研究所(東京都立川市)。所長の椿広計さん(62)は製造業、公共政策などさまざまな分野で予測を手がけてきた統計家だ。

 

「人間は、難しいですよ」と椿さんは言った。「Aを買ったひとが100人いれば、うち80人はBを買う」といった確率は予測できても、「XさんがBを買う」と決定的に予測するのは難しいという。

 

人間がなにをもとに行動を決めるのか、まだよく分かっていないからだ。

 

■「ラプラスの悪魔」と「バタフライ効果」

いにしえの「予言」や「占い」に始まり、人類は有史以来、未来を予測することに血道を上げてきた。「科学」も、その営みの一つと言えるかもしれない。
 

現在、科学的な予測は大まかに二つある。一つは物理法則などによる決定的な予測だ。たとえば日の出の時刻は、何年後でもほぼ予測できる。

 

ニュートンをはじめとした科学者たちは、次々にこうした「覆らない予測」を見つけてきた。フランスの数学者ピエール=シモン・ラプラス(17491827)は、すべての原子の位置と運動量を知る悪魔がいるとしたら、未来は完全に予測できると考えた。世に言う「ラプラスの悪魔」である。

 

私たちに身近な天気予報も、この延長線上にある。「日射が気温に与える影響」「地球の自転が風に与える影響」など、物理法則にもとづいた膨大な計算式を積み上げて天気をモデル化し、スーパーコンピューターを使って計算して予報のもととなる数値をはじき出すのだ。

 

だが、いまでは大気の運動ではわずかな初期値の差が大きな結果の差になることが分かっている。「ブラジルの蝶の羽ばたきが、テキサスの竜巻を生む」という比喩で語られる「バタフライ効果」だ。

 

長期の天気予報では、初期値がわずかに変わるだけで結果が異なる。(中略)「バタフライ効果」で、時間が経つほどばらつきは大きくなる。実際の長期予報では決定的な予測は使わず、こうした差を取り込んで確率的な予報にしている。

 

実際のところ、天気は先になればなるほど予報は難しい。気象庁の場合、降水の有無についての例年(19922018年)の的中率は、翌日で83%、3日後で75%。これが7日後には67%まで下がる。

 

バタフライ効果により、どこまで技術が進んでも決定的な予測には限界があるという指摘もある。大気の状態を予測する数値モデルが完全でないことに加え、観測誤差をなくすのは不可能だからだ。

 

気象庁数値予報課の計盛正博・数値予報班長(47)は「米国などの研究では、技術が進んでも日単位で予測するのは2週間程度が限界という説があります。台風のときなど、大気が不安定なときほど小さな誤差が予測結果を大きく変えることがあります」と話す。

 

小さなできごとが、将来をまったく変えてしまう。そんなバタフライ効果は、さまざまな分野でみられ、長期の決定的な予測を難しくしている。

 

科学的な予測のもう一つの道が、「経験的な確率」による予測だ。過去のデータから「Aが起きるとBも起きる」といったつながりを調べ、未来を予測する。

 

AI技術の中心とされる「機械学習」も、このやり方だ。データ量の増加とコンピューターの進歩のおかげで精度が上がってきた。バタフライ効果があって長期の予測が難しい場合には、こちらのほうが予測できる可能性がある。

 

もちろん、確率的な予測にも限界はある。まずデータがなければ予測はできない。たとえば「食欲」データを使いたくても、計測は難しい。「食べた量」など、目に見えるデータを「代理変数」として使っていくことになる。

 

さらに過去のデータから確率をはじき出すことの限界もある。AIが強力なのはデータを大量に分析し、人間では見つけられなかったデータ間のつながりを見つけることがあるからだ。だが、過去のデータを使う以上、まったく分かっていないことを予測するのは難しい。

 

そして「Aを買ったひとが100人いれば、うち80人はBを買う」という話と同じように、確率は、あくまで確率でしかないという難しさもある。「あすの降水確率70%」とは、同じ状況が100回あれば70回は雨や雪などが降る、ということだが、あすが本当に雨かどうかは分からない。あたり70個、はずれ30個のくじを引くようなものだからだ。

 

実際の予測モデルでは、決定的な予測も確率的な予測も、さまざまに組み合わせて使われている。

 

■「予測」と人間の飽くなき欲望

結局、世の中すべてをデータ化したり、モデル化したりして予測することは、できない。

「大事なことは、なんのために予測するかなんです」。椿さんはそう言った。

 

たとえば、自治体が少子化対策のために出生率を予測したとする。「晩婚化」「人口」……。自治体にはどうしようもない要因だけから予測しても、できることはあまりない。でも、「保育園や学校の数」「社会保障予算」など、自治体が動かせるデータも含めて予測できれば、政策を考えるのに役立つ。アイデアや努力次第では、将来を変えられるかもしれない。

 

「予測の計算はコンピューターでできます。しかし、なんのために予測するのか、予測をふまえてなにをするのか。それを考えるのは人間です」

 

そうなのだ。欲望のないAIに予測はデザインできない。予測とは「明日を知りたい」という人間の欲望そのもの。そして、それは「未来を変えたい」という欲望にもつながっている。問われているのは、私たちがどんな未来を生きたいか、なのだ。【106日 GLOBE+】

********************

 

【気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっている】

様々な予測があるなかで、今人類にとって最も深刻な予測が温暖化・気候変動に関する予測です。

 

****解説:気候変動、IPCC最新報告書の要点は?****

気候変動の影響はいたるところで表れ始めている。上昇する海水温。崩落する氷床。それが国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新レポート「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書(SROCC)」が明らかにした現実だ。

 

925日に公開された900ページに及ぶレポートは、数千もの研究結果をまとめ、地球の海と氷にすでに現れている影響を描き出し、将来何が起こるかを予測している。

 

気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっていることを科学は証明している。人間の活動による地球温暖化のために、海、極地の氷冠、高山の氷河はすでに限界近くまで熱を吸収しており、人間が依存しているシステムそのものが崩壊の危機にさらされている。

 

例えば、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランのイタリア側にあるプランパンシュー氷河は、いつ崩壊が始まってもおかしくない状態にある。このため道路は閉鎖され、近隣の施設には退去命令が出された。

 

海では漁場が移動して漁獲が落ち込んだところが増え、数万ドル規模の漁業ビジネスから個人操業の漁師までを圧迫している。

 

海洋熱波の発生回数は、わずか30年前と比べて2倍に増加した。地球の人口の27%が住む沿岸地域は、海面上昇と巨大化した嵐の脅威にさらされている。

 

そして「世界の給水塔」である高山の氷河や氷原に依存する多くの人々は、ひどくなる一方の洪水や干ばつに苦しめられている。

 

各国が温室効果ガスの排出を抑えるために直ちに対策を講じなければ、状況は悪化するばかりだ。しかし、強い決断力と行動力によって最悪のシナリオを回避することはまだ可能であると、レポートは主張する。(参考記事:「地球温暖化、目標達成に残された道はギャンブル」)

 

パリ協定以降に判明した2つのこと

2015年、フランスのパリで世界の首脳は、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑えるという目標を立て、さらに1.5℃未満に抑える努力をすると合意した。

 

当時、2℃は「安全な」目標とされていた。経済や社会制度、自然環境には重い負担がかかるが、最悪の事態は避けられると考えられた。

 そ

れから現在までの間に、2つのことが明らかになった。

1に、地球の平均気温が、産業革命前より1℃以上高くなった年がもう現れた。北極圏など一部地域の上昇は、その4倍以上にもなる。

 

2には、1.5℃の上昇であっても、一部の気候には絶大な負担がかかり、環境や社会、経済に壊滅的な影響がもたらされるという証拠が次々に出てきたことだ。

 

1990年以降、IPCCは気候変動に関する証拠を世界中の科学者から集め、5本の包括的評価レポートを作成してきた。そして現在、6本目を作成中だ。また、トピックごとに焦点を絞った特別レポートも作成し、過去1年間だけで3本が公開された。(中略)

 

これらのレポートをすべて合わせてみると、1.5℃であろうと2℃であろうと、いかに達成が困難であるかが日増しに現実味を帯び、暗澹とした未来像ばかりが見えてくる。

 

気温の上昇を1.5℃未満に抑えるには、2050年までに温室効果ガスの排出を「正味ゼロ」にしなければならない。だが、現在人類はまるで違った方向へ邁進している。今のままでは、今世紀末までに地球の平均気温は3.5℃以上上昇するという。

 

台風は強力になり、サンゴは死に、魚は減る

今回のレポートは「海」と「氷」というふたつの重要な要素に焦点を当てている。気候変動はすでに、そのどちらも大きく変えてしまった。

 

その負担の大半を引き受けている海は、1970年以降、大気中の過剰な温室効果ガスに蓄えられた熱の90%以上、そして、二酸化炭素の2030%を吸収している。

 

つまり、今のところは海水が緩衝材となって、陸上生物は最悪の影響を免れていると言える。もしそうでなければ、大気の平均気温は現在の1℃よりもはるかに高くなっていた。(中略)

 

緩衝材としての海は多大な犠牲を払い、その兆候は、科学者だけでなく自然界に注意を払っている者なら誰の目にもはっきりと見て取れる。

 

暖かい海はハリケーンや台風を強大にし、嵐の雨量を増大させる。だが、人間には見えない影響もある。海表面が温まると、海水は軽くなり、その下にある冷たくて栄養に富んだ海水と混じりにくくなる。すると海面近くの水の動きが鈍くなり、酸素の量が減り、海洋生物に必要な栄養が不足する。

 

また、海水に取り込まれる二酸化炭素が増えて酸性化が進み、微小なプランクトンからカキ、巨大なサンゴ礁に至るまで、酸に弱い炭酸カルシウムで殻を形成する生き物に負荷がかかる。

 

全体的には、海洋生物への影響は目に見えて明らかだ。(中略)

 

「証拠はもう山ほどあります。何十年にわたる観測の結果、気候変動は本当に多くの種に影響を与えていると自信をもっていまは言えます」と、カナダ、マギル大学の海洋生物学者であるジェニファー・サンデー氏は言う。

 

もし、人間が今のまま炭素を大量に排出する生活を続けるなら、今世紀末までに海の魚の量は20%近く減少すると、科学は示している。すでに、マグロなど遠洋漁業の漁獲高は停滞しているという。乱獲も原因のひとつだが、気候変動によって問題はさらに悪化している。

 

海面上昇のカギを握る西南極の氷床

温暖化の影響は海だけでなく、高山から極地の氷冠まで、地球のすべての氷にも及んでいる。

 

最新レポートによれば、アンデスやヒマラヤといった高山地域では、数十年前と比較して氷河が後退する速度が約30%速まっている。その影響をもろにこうむっているのが、氷河の近くに住む人々だ。(中略)

 

高山や極地から遠く離れた場所であっても、影響は免れない。20世紀の間に、世界の海面は平均でおよそ16センチ上昇した。海面上昇の原因はこれまで海の膨張によるとされていたが、最新のレポートによると、今では世界の氷の貯蔵庫であるグリーンランドと南極の氷の融解も主な原因になっている。現在、海面は年間で約3.6ミリ上昇しているが、その半分以上は氷床の融解によるものだという。

 

地球の全ての国が最も厳しい目標を達成させたシナリオでも、極地の氷床融解による海面上昇は2100年までに523センチとされている(山岳氷河と温められた海水の膨張でさらに増加)。一方、現在のままでいけば、今世紀末までに氷床の融解水は1155センチの海面上昇を引き起こす。

 

全体として、十分な対策が取られたとしても海面は2100年までに40センチ強、そうでなければ80センチ以上上昇する。

 

IPCCのレポートは、最近の研究による証拠を基に、南極が重要な臨界点を超えてしまえば、数字はさらに跳ね上がるだろうと指摘している。暖かい海水は、繊細な西南極の氷床にじわじわと近づいている。もしそれが到達すれば、融解に歯止めが利かなくなり、広範囲での氷床の融解につながりかねない。

 

 NASAのゴダード宇宙飛行センターの氷河学者ブルック・メドレー氏は「滅亡へのシナリオとも言うべき事態です。いったん始まってしまえば、止めることはほぼ不可能です」と警告する。

 

レポートはその可能性についてはっきりと言及しているが、2100年までに起きることの予測では扱われていない。

 

世界はつながり、循環する

西南極の氷は海の変化に反応し、海は氷の変化に反応する。気候はそのようにして循環しているものだと、米アラスカ大学氷河学者でレポート著者のひとりでもあるレジーン・ホック氏は指摘する。全ての現象は互いに関連しており、世界のどこかで起こったことは、そこだけで終わるものでは決してない。

 

そして、世界のある地域で人間が下す選択もまた、他の全てに影響を与える。つまり、炭素排出が今すぐ削減されれば、この世界の未来は全く違ったものになることを、レポートは示している。

 

レポートの筆頭著者で米フォート・ルイス大学の山岳科学者ハイディ・ステルツァー氏は言う。「私たちの未来は、私たちが何であるか、ともに何ができるかにかかっています。今こそ、人類すべてが解決に向け手を取り合うべきです」【106日 NATIONAL GEOGRAPHIC

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気候変動予測は、将来の生き残りをかけた「未来を変えたい」という願いでもあります。

 

しかし、「もはや仮定の話ではなく、現実の問題となっている」「証拠はもう山ほどあります」という予測に対しても、懐疑的な見方、あるいはあえて確実とも言い難い将来の破局の話より、確実な現在の負担を重視する政治が横行しているのも周知のところです。

 

「炭素排出が今すぐ削減されれば、この世界の未来は全く違ったものになる」「(滅亡へのシナリオは)いったん始まってしまえば、止めることはほぼ不可能」という現状にありながら・・・・

 

ということで、グレタ・トゥンベリさん(16)の「How dare you!」(よくもそんなことを!)という怒りにもなります。

 

現在の負担にとらわれて、将来の破局の危険性から目をそらそうとする対応が民意に左右される民主政治でやむを得ないのであれば、それは民主主義の限界と言えるでしょう。

 

 

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環境対策における各国の温度差 小泉環境相の沈黙 インドネシアの「恒例」煙害

2019-09-25 23:19:17 | 環境

(【9月23日 情報速報ドットコム】)脱石炭火力の具体策を問われて沈黙する小泉環境相)

 

【各国の温暖化対策の温度差 小泉環境相の沈黙 欧州は戦略的に環境対策重視】

国連気候行動サミットでのスウェーデンの高校生環境活動家グレタ・トゥンベリさんの「How dare you!」(よくもそんなことを!)という怒りのスピーチが話題になっていますが、各国の温暖化対策の温度差も明らかになっています。

 

石炭火力発電所の新設・増設を続ける日本はアメリカと並んで、あまり熱意が感じられない部類に分類されています。

 

石炭火力はイメージとは違ってクリーンだとの主張もあるようですが、問題は小泉環境相の(セクシー発言よりは)脱石炭火力の具体策を問われたときの「・・・・」という沈黙でしょう。

 

****国連女性幹部の助けでやっと記者団から解放****

記者から「石炭は温暖化の大きな原因だが、脱石炭火力に向けて今後どうする?」と質問された小泉氏。

 

即座に「減らす」と答えたが、記者から「どのように?」と具体策を尋ねられると答えに詰まった。

 

6秒間の沈黙後、出てきたのは「私は大臣に先週なったばかり。同僚、環境省スタッフと話し合っている」と苦しいコメント。

 

隣に座るクリスティアナ・フィゲレス国連気候変動枠組条約前事務局長から「これは日本だけの問題ではない。彼は大臣になって10日、何をすればいいのか分からなくても驚かない」と助け舟を出してもらい、その場を乗り切った。【9月24日 J-CASTテレビウォッチ

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小泉氏が沈黙したのは大臣になったばかりというだけでなく、政府にそういう考えがなく、当然に具体策もないからであり、その意味では「減らします」と即答断言した小泉氏の“意気込み”は、これまでとは異なるものなのかも。

 

日本の石炭火力発電技術が優れており、(SOx、NOxの排出量について)クリーンだという議論は、たとえそうであるにしても、CO2排出が重視される現在の世界の流れを考えると、温暖化対策を軽視しているという国際的イメージのリスクを過小評価しているようにも。

 

一方、欧州は温暖化対策・環境対策を戦略的に最優先課題として、国際的影響力発揮の梃とするだけでなく、国内の極右・ポピュリズム勢力台頭への対抗策、経済活性化の手段とする方向にあります。

 

****欧州、地球温暖化対策が最大の政治課題に***** 

欧州連合(EU)では、地球温暖化対策が最大の政治課題として浮上する。

 

11月に就任するフォンデアライエン次期欧州委員長は、環境対策を最優先課題に掲げ、今後10年で1兆ユーロ(約120兆円)の投資を目指す方針だ。反移民のポピュリズム(大衆迎合主義)政党が伸長するEUで、環境対策は中道勢力巻き返しのカギと位置付けられている。

 

フォンデアライエン氏は今夏発表した施政方針で、2050年に温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする目標の法制化を公約した。実現に向け、30年までに排出量を1990年比で55%削減する新たな目標を表明。これまでの目標は40%だったが、「より野心的に取り組む」と主張した。

 

ドイツのメルケル政権は20日、気候変動の総合対策を閣議決定した。23年までに540億ユーロ(約6兆4千億円)の拠出を目指す。排出量の少ない鉄道を割安にし、航空機への課税を強化する方針で、電気自動車購入の助成金を増額する。

 

EUでは、環境ビジネスを経済テコ入れの核にしようという動きも進む。独仏両国は今年5月、電気自動車(EV)向け電池の開発に向け、官民共同で最大60億ユーロ(約7500億円)を投資する計画を発表した。マクロン仏大統領はEV生産推進で、仏自動車業界の再生を目指す。

 

環境重視の政策は、EU有権者の関心の高まりを反映したものでもある。5月のEU欧州議会選では環境政党が躍進。緑の党がドイツで21%、フランスでは13%を得票し、左派陣営の主力政党に躍り出た。

 

今春実施のEU世論調査では、93%が気候変動を「深刻な問題」と位置付けた。ドイツや英国、北欧など8カ国では「世界が直面する最も深刻な課題」とする回答が、貧困やテロを上回って首位になった。

 

今夏、欧州各国は熱波で史上最高気温を記録し、独仏では40度を超えた。仏政府は1400人以上が猛暑で死亡したと発表。英国でも列車の減速運行を迫られるなど、異常気象が庶民生活に打撃を与えている。環境活動家、グレタ・トゥンベリさんに呼応する若者デモもEU各国に広がった。【9月24日 産経】

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仕事中に聞こえてきたTV放送のためうろ覚えで恐縮ですが、小泉環境相も何かの会合で、「政府の政策というと安全保障や財政などがあげられるが(何を例示としてあげたかは忘れました。別のものだったかも)これからは環境があげられなければならない」みたいな発言をしていたようにも思います。

 

温暖化対策に限らない欧州の環境対策重視の一例として、フランスの殺虫剤禁止の取り組みも。

 

****パリなど仏5都市、殺虫剤の使用を禁止****

フランスで、首都パリを含む5つの都市が12日、市内での殺虫剤の使用を禁止した。地方部で始まった反化学物質運動が広がりを見せている。

 

殺虫剤禁止に踏み切ったのは、パリに加え、北部リール、西部ナント、南東部グルノーブル、中部クレルモンフェラン。生物多様性と市民の健康の保護の必要性をその理由に挙げている。

 

とはいえ、公園や緑化スペースで公共機関が合成殺虫剤を使用することはすでに法律で禁じられているため、今回の都市部での殺虫剤禁止措置は象徴的な意味合いが大きい。

 

フランスでは今年1月から、個人の庭でも合成殺虫剤の使用が全土で禁止されていて、天然成分のもの以外は使用が認められていない。

 

政府は住宅地から5〜10メートル以内の範囲での殺虫剤の使用禁止を提案しているが、環境活動家らからは十分な施策ではないと批判を受けている。 【9月12日 AFP】AFPBB News

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最初に読んで、蚊やハエ用の殺虫剤スプレーの連想して、「いくら生物多様性といっても・・・」とも思ったのですが、そうではなくて、(多分)農業・園芸で使用するネオニコチノイド系殺虫剤の話で、生物多様性云々は花粉の受粉を媒介するハチやチョウの激減、いわゆる「沈黙の春」現象が急速に進行していることを意識したもののようです。

 

【インドネシア貧困地区ではプラごみは「宝物」】

環境対策に温度差があるのは先述のとおりですが、途上国などになると全く異なる様相にもなります。

 

近年問題視されているプラスチックごみですが、インドネシアの貧困地区では生計を立てる「宝物」にもなります。

 

****プラごみは「宝物」、輸入廃棄物で生計立てる貧困地区住民 インドネシア****

金目の廃棄物を拾い集めて子どもたちの学費を捻出したと、クマンさんは日焼けした顔に笑みを浮かべて話した。クマンさんの住むインドネシア・バングンでは廃品集めが盛んで、住民の多くはその恩恵を受けている。

 

各国が使い捨てのプラスチックごみ問題に取り組む中、バングンの人々にとってごみは現金に等しい。住民の約3分の2は廃棄されたペットボトル、プラスチックの包装やコップを拾って選別し、地元企業に売ることで何とか生計を立てている。

 

クマンさんはAFPの取材に「3人の子どもがいる…全員が大学に行った」と、くるぶしまでごみに埋もれながら誇らしげに語った。「私が一生懸命ごみを拾い集めたおかげだ」

 

バングンは、インドネシアで最も人口が多い島ジャワに位置する貧困地区の一つ。住民たちは、米国、英国、ベルギー、中東などから送られてくる廃棄物から再利用できるものを拾い集めて売ることで生計を立てている。

 

リサイクルごみの最大輸入国だった中国が今年、輸入禁止に踏み切ったことで、世界中のリサイクルごみ業者が混乱に陥り、大量の廃棄物が今度は東南アジアに送られるようになった。バングンでもそれ以来、ごみの量が増えている。

 

国際環境保護団体グリーンピースによるとインドネシアのプラスチックごみの輸入量はここ数年で急増しており、2017年後半は月1万トンだったものが、2018年後半には同3万5000トンにまで拡大。グリンピースは、プラスチックごみの増加は環境と健康に甚大な被害をもたらすと警告している。(中略)

 

■環境保護主義者と住民たちの考えは平行線

しかし、環境保護主義者の見方は異なる。使い捨てプラスチックが夜間に燃やされ、町中に有毒ガスをまき散らし、マイクロプラスチックが水路に流れ込んでいると指摘する。

 

インドネシアは中国に次いで世界2位の海洋汚染国で、2025年までに自国海域におけるプラスチックごみを約70%削減するという目標を掲げている。

 

NGO「エクトン」の環境保護活動家で、ノーベル賞にも例えられる「ゴールドマン環境賞」を受賞したプリギ・アリサンディ氏は「(ごみの受け入れはインドネシアの)私たちにとって高くつく。医療制度の面でも、次世代のために環境をよみがえらせるにしても金がかかる」と指摘する。

 

だが、バングン住民の考えは全く違うようだ。

クマンさんは「ごみはここでは宝物だ」と話す。「なぜかって? 朝に乾かして選別すると、夕方にはお金になっているからだ」 【翻訳編集】

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【恒例ともなったインドネシア野焼き・森林火災の煙害】

インドネシア関連の環境問題として毎年メディアを賑わすのが、野焼き・森林火災の煙害(周辺国への影響、健康被害など)です。いささか恒例行事になった感もありますが、今年は近年では最悪の事態ともなっています。

 

****煙害で空が一面真っ赤に インドネシア****

インドネシアで大規模な森林火災による煙害が深刻化している。スマトラ島中部ジャンビ州では先週末から週明けにかけ、昼間の空が一面赤く染まる現象がみられた。

 

ソーシャルメディアには、同州の村落や幹線道路が真っ赤な霧に覆われたような画像や動画が投稿された。

インドネシア気象気候地球物理庁(BMKG)はインスタグラムで、これは日光が大気中の大きな粒子に当たった時に起きる散乱現象だと説明した。

 

BMKGによると、赤い霧が観測された日の衛星画像では、ジャンビ州周辺にPM10(直径10マイクロメートルまでの粒子状物質)の濃度が高い地点が集中していた。

 

ジャンビ州では先週末、大気汚染の度合いを示すAQI(空気質指数)も、住民に重大な健康被害の恐れがある「危険」レベルに達した。

 

隣接するリアウ州は23日、大気汚染の深刻化を受けて緊急事態宣言を出した。

 

煙害は近隣諸国にも及んでいる。マレーシアでは汚染地域の生徒らにマスクが配られ、約600の学校が一時休校となった。

 

インドネシアの森林火災による焼失面積は32万8000ヘクタールを超え、数百人の住民が避難を強いられた。緊急対策当局によると、現地には消防要員ら9000人余りが出動している。

 

インドネシア警察は野焼きなどによる人為的な火災が大半を占めるとの見方を示し、これまでに200人近くを逮捕した。【9月25日 CNN】

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上記記事にもあるように、毎年、周辺のマレーシアやシンガポールにも汚染が広がり国際問題ともなります。煙はタイやフィリピンにも到達しているようです。

 

****インドネシア、煙害深刻 森林火災、有害物質で死者****

インドネシアで、大規模な野焼きや森林火災によって有毒な煙が発生する「煙害」(ヘイズ)が深刻となっている。近隣のマレーシアシンガポールにも大気汚染は広がって生活に深刻な影響を及ぼし、互いに責任をなすりつけ合う外交問題に発展している。(中略)

 

 ■周辺国でも街かすむ

煙害は、マラッカ海峡を越えて周辺国にも及ぶ。マレーシアの首都クアラルンプールでは20日、超高層のペトロナスツインタワーが、かすんで見えていた。

 

銀行員のジェーン・ウォンさん(50)は、職場でマスクが配られ、出勤以外は外出を避けている。「目やのどの乾燥がひどく、家とデパートと職場を車で訪れるだけ」と嘆いた。

 

教育省によると、19日までに2600校以上が休校に。ボルネオ島サラワク州では、政府が「とても健康に悪い」と認定する汚染値に達した。マハティール首相は「ドローンで人工雨を降らせることも検討している」と述べた。

 

シンガポール政府も「この3年間で最悪レベル」としている。20日からは観光客が集まるF1グランプリが開かれ、主催者は観客用のマスクも用意した。

 

 ■違法野焼き、対策打てず

煙害は毎年起きており、エルニーニョ現象で乾期が長引くと、被害はより深刻になる。引き金は、アブラヤシ農園などの開拓で繰り返される違法な野焼きだ。「開拓方法として最も手軽で安上がりだからだ」と、インドネシアの中部カリマンタン州の林業局長は取材に話した。

 

インドネシアの国家警察は、計249人を放火容疑で捜査中だ。野焼きを依頼した疑いで六つの企業も調べている。

 

原因を作っているのはインドネシアだけではないとされる。同国政府は、同国内でマレーシアなどの外国企業も野焼きをしていると主張している。

 

マハティール氏は「企業が国外で煙害を出した場合、罪に問えるようにする」と述べ、法改正を検討していると表明した。シンガポールのズルキフリ環境相は、インドネシアに支援の用意があると伝えた。ただ、国をまたいでの対策やルールはまだなく、解決への道筋はついていない。【9月23日 朝日】

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インドネシア国内でマレーシアなどの外国企業も野焼き云々の非難の応酬も例年のことです。

 

上記記事にもあるように、アブラヤシ農園などの開拓ための野焼きが多く、また、泥炭地が多いため、いったん火が付くと消火が難しく、大量のCO2を排出することにもなります。

 

当然に健康被害も。

 

****インドネシア森林火災、大気汚染が子ども1000万人に健康リスク 国連****

インドネシアで続く森林火災による大気汚染が、1000万人近い子どもたちの健康を危険にさらしていると、国連が25日警鐘を鳴らした。

 

インドネシアの森林火災により数週間にわたって有害な煙霧が東南アジアの空を覆い、学校や空港は閉鎖に追い込まれ、人々はマスクを買い求めたり、呼吸器系の不調を訴え医療機関に駆け込んだりしている。科学者らは温室効果ガスが大量放出されていると指摘している。

 

インドネシア政府は、農業用地とするために森林が焼き払われたことから広がったこの火事に対処するため、数万人規模の人員と消防飛行機を動員している。同様の火事は毎年のように問題になるが、今年は日照りが続いたため2015年以来最悪の事態となっている。

 

国連児童基金(ユニセフ)によると、スマトラ島とボルネオ島のインドネシア領のうち最も被害が深刻な地域には、18歳未満の子ども1000万人近くが居住しており、うち4分の1は5歳未満だという。

 

幼い子どもは免疫が発達していないため特に被害を受けやすく、また母親が妊娠中に大気汚染にさらされると子どもが低体重で生まれるといった問題が生じる可能性があるという。

 

インドネシア各地ではまた大気環境の悪化によって多数の学校が休校になり、数百万人の子どもたちが授業を受けられない状態が続いている。

 

ユニセフのデボラ・コミニ氏は「インドネシアにとって、大気環境の悪化は日増しに大きくなる深刻な問題」だと述べ「数百万人の子どもらが毎年、健康を脅かし、学校を休む原因となる有害な空気を吸っている…結果として、生涯にわたる身体的な損傷や認識能力の衰えにつながる」と語った。

 

インドネシアと並行してブラジルのアマゾンやオーストラリアなど世界各地で山火事が多数発生しており、科学者らは地球温暖化に及ぼす影響について懸念を強めている。 【9月25日 AFP】

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