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(ベネズエラの憲法改正を問う国民投票では、反政府的なTV局の放送許可を取り消すなどのチャベス大統領の言論の自由抑圧に対し、学生達が反対運動の中心になったことが特徴的でした。“flickr”より By Mauricio Salazar)
一昨日の2日、日曜日はロシア下院選選挙投票日でしたが、それ以外にもベネズエラではチャベス大統領の提案する憲法改正案の国民投票が行われました。
また、香港の立法会議員補欠選挙にも注目があつまりました。
ロシアの下院選挙は各紙で報じられているように、予想どおりのプーチン圧勝に終わりました。
プーチン大統領を支える「統一ロシア」以外で、議席獲得に必要な7%の得票率を超えたのは、プーチン政権より更に反政府野党に厳しく、プーチンの政策には異を唱えない極右政党の「自民党」、プーチン政権が制御可能な“官製野党”として設立を後押しした左派系の「公正なロシア」、あとは古き良きソ連を懐かしむ「共産党」だけという結果でした。
反政府系の野党は全滅し、「統一ロシア」「自民党」「公正なロシア」のプーチン支持3党で議席の9割近くを占めます。
「統一ロシア」は単独でも3分の2を超えて、憲法改正が可能。
残る共産党もプーチン批判は避けています。
完璧な翼賛体制が完成しました。
プーチン大統領の露骨な「大国ロシア」志向、反対意見を封じ込む強権的な色合い、個人崇拝にも近いような最近の傾向には生理的に馴染めないものがありますが、また、今回選挙でも多数の不正・圧力などが報じられてはいますが、基本的にはソ連崩壊後の混乱したロシアを再建したプーチンを国民が強く支持しているということでしょう。
大統領支持率は常に80%前後だそうですから・・・。
選挙結果は予想されたところでしたが、むしろ以外だったのは欧米の今回選挙への反発の強さです。
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米ホワイトハウスのゴードン・ジョンドロー国家安全保障会議(NSC)報道官は2日、ロシア下院選について声明を出し、「選挙不正の疑いが伝えられている」とし、ロシア当局に調査するよう求めた。
また、与党「統一ロシア」に対する政府の肩入れなどを指摘した上で、「米国は懸念を示してきた」と、選挙の正当性に疑念を投げかけた。
米政府がこれほど厳しくプーチン政権を批判するのは異例で、今後、米露関係に影響を及ぼす可能性もある。
ジョンドロー報道官はさらに、全欧安保協力機構(OSCE)が選挙監視団の派遣を断念せざるを得なかったとして、遺憾の意を表明した。【12月3日 読売】
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また、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は3日、投票までの期間に言論および集会の自由を認める権利が侵害されていたと非難しており、投票結果については選挙監視団の報告を聞いてから見解を示すとしています。
一国の選挙に疑問を呈するということは相当なことですが、ロシアと欧米はそのような厳しい政治状況(ミサイル防衛システム配備問題、ロシアの欧州通常戦力(CFE)条約履行停止、その他、対イラン制裁やコソボ問題等での対立、天然ガスの安定供給問題等々)のなかで対峙しているということなのでしょう。
厳しい緊張関係のなかでぎりぎりの線を探すというのは、“和を以って尊しとする”日本人には難しいかも。
選挙前「統一ロシア」幹部だか政府高官だかが、TVインタビューで「欧米とロシアの間には対立があるようだが?」との問いかけに「対立ではなく競争と考えている。もちろん誰しも競争相手が強くなるのは望まないことだが・・・」といった趣旨の余裕の発言をしていたのが印象的でした。
一方で、“意外に”冷静だったのがチャベス大統領。
ベネズエラの憲法改正に関する国民投票は賛成49%、反対51%という僅差で否決されました。
チャベス大統領の終身大統領を可能とする、また、彼が掲げる「21世紀の社会主義」を目指した憲法改正については、11月26日にも取り上げました。(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071126)
予想も困難な選挙でしたが、結果もまさに予想どおりのきわどいものでした。
貧困層の強い支持を背景にしたチャベス大統領でしたが、さすがに今回の改正内容には賛同が得られなかったようです。
チャベス大統領は選挙直前には、“アメリカCIAが妨害工作を画策し、国民投票を妨害し、自分の失脚を狙っている”と主張し、「もし国民投票が暴力を始める口実に使われるとしたら、北米への石油輸出を全面停止する」「国防省に30日夜から軍隊が油田と製油所を警備するよう指示した」と述べていました。【12月1日 AFP】
また、“社会主義化”に対して支持者にも拒否反応があることに対し、「自分を支持しながら反対票を投じれば裏切り者だ」とけん制していました。【12月1日 毎日】
彼のエキセントリックな性格からして、不都合な選挙結果が出そうになると“ただではすまない”のではないか・・・と危惧していましたが、今回のきわどい結果について意外なくらい冷静な対応をしています。いまのところ。
(アメリカの大統領選挙だったら揉めそうな数字ですが。)
「敗北は僅差で悲しくはない」「支持票に励まされた」と繰り返し強調。
「ジレンマの中で何時間か自分自身に問いかけた。今はもうジレンマはなく穏やかな気持ちだ。ベネズエラ国民もそうあってほしいと願う」とのこと。
「今のところは(勝利)できなかった」とチャベス大統領は語っています。
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大統領が会見で繰り返した「今のところは」という言葉は、軍中佐だったチャベス氏が、92年の軍事クーデターに失敗した直後に語ったものと同じ。「次は勝利する」という意味を含むこのフレーズはチャベス氏を一躍有名にし、その予告通り、98年12月の大統領選挙で初当選を飾った。今回も意図的に同じ言葉を繰り返すことで、国民に「再起」を印象づけるのが狙いと言えそうだ。【12月3日 毎日】
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11月26日のブログでも触れたように、チャベス大統領は04年に信任国民投票を実施して政治危機を乗り切ったことがありますが、このとき大統領信任に賛成したか、反対したかという個人情報が国家的にデータ登録されており、かつ、反対者に対しては、その家族を軍隊から“能力不足”という理由で追い出す等の圧力がかけられているとされています。
そんなチャベス大統領がこのままおとなしく結果を認めるのだろうか?という不安がどうしても残ります。
長くなってきたので、香港の話はまた別の機会に。