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(ダルフール難民の少女 “flickr”より By hdptcar
http://www.flickr.com/photos/hdptcar/638614562/)
【依然続くダルフールの惨状】
ひと頃ほど関連記事を目にすることが少なくなったスーダン・ダルフール地方での紛争ですが、2003年の衝突からこれまで約20万人が死亡し、250万人が家を追われたと推測されています。
更に、2004年6月3日の国連事務総長の公式統括によれば、1956年の独立以来、1972年から1983年の11年間を除く期間に、200万人の死者、400万人の家を追われた者、60万人の難民が発生しているとされています。【ウィキペディア】
西部ダルフール地方では、スーダン政府軍とスーダン政府に支援されたアラブ系の「ジャンジャウィード」と呼ばれる民兵が非アラブ系住民の大規模な虐殺を行っていると国際的に批判されていますが、スーダンと隣国チャドが互いに反政府勢力を支援しており、代理戦争的な様相も呈しています。
最近の報告としては、子ども・女性を含む数千人が誘拐され、強制労働を強いられたり、性の奴隷にされたりしていると報じるものもあります。
****ダルフール、数千人が誘拐され奴隷に 慈善団体が報告****
スーダン・ダルフール地方の慈善団体連合会「ダルフール・コンソーシアム」は17日、政府軍や民兵組織がこれまでに同地方で子ども・女性を含む数千人を誘拐し、強制労働をさせたり、性の奴隷にしているとする報告書を発表した。
報告書によると、誘拐されるのは大半が女性や少女で、性的暴行を受けたり強制的に結婚させられたりしており、首都ハルツームに連れて行かれて兵士たちの性の奴隷や家政婦にされるケースもあるという。一方、誘拐された男性や少年は農場で強制的に働かされており、その証拠を今回初めてつかんだとしている。
今回の報告に対し、スーダン政府からコメントは出ていない。政府軍の報道官は、報告の内容は荒唐無稽(むけい)だとしている。【08年12月18日 AFP】
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【ICC 逮捕状】
こうした状況で、国際刑事裁判所(ICC)は昨年7月、スーダンのバシル大統領に対し、ダルフール地方での大量虐殺と「人道に対する罪」、戦争犯罪など10の容疑で逮捕状を請求しました。
モレノオカンポ主任検察官は、昨年12月3日の国連安全保障理事会で、「大量虐殺、難民キャンプ内とその周辺でのレイプは依然として行われており、人道支援も妨害されている。毎月5000人以上の避難民が命を落としている」と、スーダン政府の非協力姿勢を批判しています。【12月4日 AFP】
一方、バシル大統領は11月1日、西部ダルフール地方の紛争で一方的な「停戦」を宣言し、反政府武装勢力に武装解除を呼びかけました。この停戦宣言は、国際社会の批判をかわし、訴追を逃れる狙いがあるとみられていました。
逮捕状請求はICC予備裁判部で審査されていましたが、このほど逮捕状発行が決定たとの報道がありました。
****国際刑事裁、スーダン大統領への逮捕状発行を決定=米紙報道****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は11日、国際刑事裁判所(ICC)がスーダン西部ダルフール地方での大量虐殺(ジェノサイド)をめぐってスーダンのバシル大統領に対する逮捕状を出すことを決定したと報じた。同紙によると、判事が挙げている同大統領に対する正確な罪は明らかにされていない。
ICCのモレノオカンポ主任検察官が昨年7月、予審裁判部に対し、ダルフールにおけるジェノサイド、人道に反する罪、戦争犯罪などでバシル大統領に対する逮捕状を請求していた。
同紙は国連当局者の話として、逮捕状発行の決定は潘基文・国連事務総長に伝達されており、数日以内にICCから正式に発表される予定であると伝えている。同紙の報道について国連の岡部万里江副報道官は「事務総長が何の決定も受け取っていないことを確認できる。そうした伝達を受け取るとは予想していないし、そうした伝達を受け取らないのが普通である」と述べた。
今月の国連安全保障理事会の議長国である日本の高須国連大使は「安保理はまだ報告を受けていない」と語った。またスーダンのモハマド国連大使は「この件については知らされていない。われわれにとっては驚くことではないし、気にもならない」と話した。【2月12日 時事】
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【懸念される逮捕状の影響】
現職の国家元首に対する逮捕状発行は2002年のICC発足以来初めてのことです。
記事の“そうした伝達を受け取るとは予想していない”とは、どういう意味なのか理解しかねます。
圧力をかけてなかったことにしてしまうということでしょうか。それともニューヨーク・タイムズ報道がガセだとということでしょうか。
ダルフールの惨状に関して、スーダン政府及びバシル大統領に大きな責任があるのは言うまでもないところですが、これを硬直的なICC逮捕状という形で追求するのが現実的かどうかについては疑問があります。
一旦発行されると、交渉の進展に併せて政治的にこれを取り下げるような対応は困難となります。
ウガンダの「神の抵抗軍」についても、和平がもう一歩でまとまりかけるところまで漕ぎ付けましたが、首謀者ジョセフ・コニーに対するICC逮捕状の存在が交渉の進展を阻害する形になっています。
逮捕されるとわかっていれば、交渉に応じる者もいなくなります。
スーダンでは、ダルフールの主要反政府組織「正義と平等運動」(JEM)との和平協議がようやく始まったという報道もあります。
****スーダン:ダルフール紛争の和平協議始まる*****
AP通信によると、スーダン西部ダルフール地方の紛争をめぐり、スーダン政府とダルフールの主要反政府組織「正義と平等運動」(JEM)との和平協議が10日、カタールの首都ドーハで始まった。政府とJEMが直接交渉を行うのは初めて。スーダン政府と反政府勢力各派との和平協議は、リビアやタンザニアなどで行われてきたが、主要組織のJEMは参加していなかった。【2月11日 毎日】
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こうした交渉への逮捕状の影響が懸念されます。
また、国連は昨年8月時点で、スーダンの南・北部の平和維持のため国連スーダン派遣団(UNMIS、約1万人)を派遣。さらに、ダルフールの平和維持のため国連・アフリカ連合(AU)合同平和維持部隊(UNAMID)7600人と警察官1500人が展開しており、最終的に約2万6000人規模にする計画です。
逮捕状が現実のもとなると、スーダン国内における国連関係者とスーダン政府の間の緊張も高まります。