孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン大統領のインド訪問 ブット家御曹司とネール・カンジー王朝後継者の顔合わせか

2012-04-08 21:48:48 | アフガン・パキスタン

(09年3月 ギラニ首相(右)と会談する与党パキスタン人民党の若き総裁ラワル・ブット・ザルダリ氏(左 当時20歳) “flickr”より By Sumana Batool http://www.flickr.com/photos/bilawalbhutto/3394756350/ )

【「家族のお下がりで決まったわけではない。求められたから引き受けたのだ」】
ともに核保有国であるインドとパキスタンは、宗教的対立を背景に国家成立時から宿敵の関係にあり、カシミール地方の帰属やバングラデシュ独立をめぐって、これまでも3回の戦争(1947年、1965年、1971年)を経験しています。

そのパキスタンのザルダリ大統領が8日、インドの首都ニューデリーを訪問しました。パキスタンの大統領がインドを訪問するのは、2005年以来7年ぶりです。
大統領の訪印は、インド西部ラジャスタン州にあるイスラム教施設を家族と一緒に私的に訪問するのが主目的だそうです。

“印パ関係は2008年、パキスタンが拠点とされるイスラム過激派組織がムンバイ同時テロを起こして断絶状態に陥ったが、昨年、両国高官の相互訪問が始まった。今回の訪印は、印パ関係の改善を象徴する形となった。”【4月8日 読売】ということで、敵対する核保有国同士の関係改善につながる大統領訪問は、世界レベルの緊張緩和に資するものがあります。

また、アフガニスタンでの紛争が進展しないのも、パキスタンの一部勢力がタリバンを支援していることが大きく、その背景には、米軍撤退後のアフガニスタンにおいてインドの影響を排除したいパキスタンの思惑があるとされていますので、両国関係の改善は、アフガニスタン問題にも影響します。

もちろん両国の因縁の関係が一朝一夕に大きく改善されることはありませんが、それはそれとして、今回注目されるのは、父ザルダリ大統領と共同で与党パキスタン人民党(PPP)の総裁でもあるザルダリ大統領の長男ビラワル・ブット・ザルダリ氏(23)が同行していることです。
学生である19歳で総裁に就任したビラワル氏にとっては、外交デビューということになります。

****パキスタン 大統領長男「デビュー」 インド訪問、父に同行へ****
パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領が8日、大統領就任後初めてインドを訪問し、シン首相と会談する。大統領報道官が7日、産経新聞に明らかにしたところでは、暗殺された妻のベナジル・ブット元首相との間の長男、ビラワル・ブット・ザルダリ氏(23)も同行する。英オックスフォード大での学業を終えたビラワル氏のインドへの顔見せとなり、注目を浴びそうだ。

ビラワル氏は2007年のブット元首相暗殺後、ザルダリ氏と共同で現与党パキスタン人民党(PPP)の総裁になった。10年に英国から帰国後、政治活動を開始。今月3日には党役員会で演説し、党創設者で軍事クーデター後に処刑された祖父のズルフィカル・アリ・ブット初代首相の名誉回復を呼びかけて存在感を示した。

賄賂の要求の仕方から「ミスター10%」と揶揄(やゆ)され、健康不安を抱えるザルダリ大統領の国内での人気は今ひとつ。対米関係が悪化する中、母親とその実父である祖父が暗殺、処刑された重い運命を背負うビラワル氏の将来性に期待する声もある。

ザルダリ大統領は今回の「私的」訪印で、首脳会談に臨んだ後、インド西部のイスラム教施設を訪ねる。カシミール地方の領有権を争う両国の信頼醸成のステップと期待される。インド側からはガンジー家の御曹司で次期首相候補と目される与党、国民会議派のラフル・ガンジー幹事長が同席するとの観測も浮上している。【4月8日 産経】
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ザルダリ大統領の国内政治基盤の脆弱さ、軍部や司法勢力からの攻勢により政権の存続が危うい状況にあること、一方で、そういう逆風のなかで意外にもしぶとく政権を維持していること・・・などは、2月3日ブログ「パキスタン 公認された米無人機攻撃と国軍タリバン支援 ザルダリ大統領の不思議な長期政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120203)でも取り上げたところです。

英オックスフォード大での学業を終えた長男ビラワル氏については、英国留学中だったこともあって、あまり報道がありませんが、2010年にパキスタンの国土の5分の1が被災した大水害発生時に、側近の助言を無視してザルダリ大統領が英仏へ外遊したのは長男ビラワル氏のイギリスでの初演説を見届けるためだったということで、国内で非難を浴び、ただでさえ悪い評判が更に下がったこともあります。

****洪水被害拡大の最中に英仏外遊 パキスタン大統領に批判****
・・・・こうした中、同国のザルダリ大統領がフランスと英国へ外遊に出ていることが、国民の不満に油を注ぐかたちになっている。

ザルダリ氏は洪水被害が拡大していた今月1日にパキスタンを出発。フランスではサルコジ大統領と会談後、仏空軍のヘリコプターで自分の親族が所有するノルマンディー地方の大邸宅を訪問。3日に到着したロンドンでは、宿泊先のホテルに「外遊で無駄遣いした金を被災者の支援に回せ」と抗議する人びとが押しかけた。

ザルダリ氏の今回の外遊の目的の一つは、妻の故ブット元首相との間の一人息子で、オックスフォード大を卒業したばかりの長男ビラワル氏(21)が7日に英中部で初演説し政治家デビューを果たすのを見届けることだとされていた。しかし、ビラワル氏は高まる批判を受け、初演説を取りやめた。
大統領との会食をキャンセルした英国議員の一人はAFP通信に、「国が彼を必要としている時に息子のために多額の金を使ってしまったことで、彼が国の実情を把握していないことがわかってしまった」と非難した。【10年8月7日 朝日】
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また、下記記事は、パキスタン人民党総裁就任に関するビラワル氏の発言です。

****ブット元首相の長男、国連による暗殺事件捜査を求める****
・・・・また、PPPの総裁職については、与えられた義務を果たすだけだと強調するともに、総裁就任の経緯が非民主主義的ではないのかとの質問に対しては、「家族のお下がりで決まったわけではない。求められたから引き受けたのだ」と語りこれをはねつけた。さらに、現段階では「ゆっくりと慎重に」職務に取り組んでいくしかないとの見解を示した。

弱冠19歳の若さでPPPの総裁に就任することになったビラワル氏だが、会見の開始時こそカメラの前で緊張していたものの、その後はリラックスした様子で英語での会見をこなした。【09年1月9日 AFP】
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もともとパキスタンの政治は“家業”的な側面が強く、ブット家が率いるパキスタン人民党の総裁に、暗殺されたブット元首相の忘れ形見であるビラワル氏が就任するというのは、現地の感覚では違和感はあまりないのではないでしょうか。(日本も次第にそんな感じになりつつあります)特に、父ザルダリ大統領の評判が芳しくないだけに、ビラワル氏への期待感があります。

【「この結果の責任を取る。いい教訓になった」】
今回の“外交デビュー”では、“インド側からはガンジー家の御曹司で次期首相候補と目される与党、国民会議派のラフル・ガンジー幹事長が同席するとの観測も浮上している”とのことです。

インド“ネール・ガンジー王朝”の後継者であるラフル・ガンジー幹事長(42)は、卒業したてのビラワル氏とは異なり、これまでに国民会議派の幹事長として実績を積み重ねており、その人気・評判は悪くありません。
ただ、勝てば次期首相の座が確実になるとも言われていた、3月6日のウッタルプラデシュ州議会選挙では党の顔として選挙運動を展開しましたが、手痛い敗北を喫しています。

****インド州議会選 ガンジー家御曹司「敗北」 “ラフル効果”不発****
インド最大の約1億800万人の有権者を抱える北部ウッタルプラデシュ州の州議会(定数403)選挙の開票が6日行われた。
名門ガンジー家の「御曹司」で首相候補の呼び声高い国民会議派のラフル・ガンジー幹事長が党の顔として選挙運動を展開し躍進が見込まれたが、同派は予想を大きく下回った。中央与党の会議派の伸び悩みは2年後の総選挙に向けた政局にも影響しそうだ。

ウッタルプラデシュ州で圧勝したのは野党の社会党(SP)で、州内に多い低カースト出身のマヤワティ氏率いる州政権の単独与党、大衆社会党(BSP)は苦戦。国営テレビの集計によると、国民会議派は、惨敗した前回から議席を伸ばしたが第4党にとどまり、敗北した。

これを受け、ラフル氏は6日、「この結果の責任を取る。いい教訓になった」と報道陣に語った。同氏の今後の政治的求心力に影響するとみられ、次の総選挙に向け会議派は新たな選挙戦略を迫られそうだ。
09年総選挙で会議派はラフル氏の健闘によって、ウッタルプラデシュ州で党勢挽回の兆しを見せた。今回の議会選で“ラフル効果”が出れば、同氏が次期首相の座を確実に手中にするとみられていた。
6日に開票されたのはウッタルプラデシュ州のほか、北部パンジャブ州、同ウッタラカンド州、北東部マニプール州、南部ゴア州。会議派はパンジャブ州とゴア州でも敗北した。【3月7日 産経】
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いずれにしても、現在の高齢シン首相は“つなぎ”で、やがてラフル氏が国民会議派を率いて、王朝4代目首相に臨むことになるのでしょう。

次世代リーダーへの期待
若いビラワル氏にしても、ラフル氏にしても、今までのような不毛の対立を続ける印パ関係を改善したい思いはあるでしょう。これまでの“しがらみ”にとらわれない柔軟な発想が期待されます。
宿敵インド・パキスタンの次世代を期待されるラフル・ガンジー幹事長とビラワル共同総裁が顔合わせを行い、個人的親交を深められれば、それは両国並びに世界全体にとっても意義深いことだと思われます。

コメント
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