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(ハノイ郊外、ホン川(紅河)に架かる、つり橋型の橋としては東南アジア最長となる長さ1500メートルの「ニャッタン橋」、通称「日越友好橋」 【三井住友建設HP】 http://www.smcon.co.jp/2015/010510549/)
【「ベトナムの一貫した政策は、中国の一方的な領有権の主張を拒否することだ」】
隣接する国家間では、侵略・衝突の歴史や経済的力関係などもあって、両者の国民感情はあまり芳しくないことが多いように思われます。
中国への警戒感・反感が根強いベトナムも、そうした一例でしょう。
ただ、ベトナムにとって中国は国境を接する経済関係も強い大国であり、また、1979年にはカンボジアへのベトナムの侵攻を巡って実際に戦火(中越戦争)を交えたこともありますので、中国に対する強い警戒心はあるものの、中国批判デモをときには容認したり、再び抑え込んだりと、対中国関係には慎重で過熱しすぎないような対応をこれまでもとってきました。
昨年5月には、西沙諸島に近いベトナム中部沖約220キロの排他的経済水域内で中国が大型油田掘削施設(オイルリグ)を使って石油の試掘に着手したことで、ベトナムは猛反発し国内では大規模な反中デモが起きました。
5月14日にはベトナム中北部のハティン省で、中国系企業を狙う大規模襲撃事件が発生しています。
しかし、その後両国は批判のトーンを抑制。
中国は7月にオイルリグを撤収。8月には習近平国家主席がベトナム特使の訪中を受け入れ、両国は関係改善をアピールしました。
11月上旬にミャンマーで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議でベトナムなどは中国批判を抑制し、中国はASEANとの協調ムードの演出に成功したように見えました。
もっとも話はそう簡単ではないようで、ここにきて、再び南シナ海をめぐる中国・ベトナムも対立が表面化しています。
“中国は西沙以外でもベトナムやフィリピンと領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島で岩礁を埋め立てるなど実効支配を強化。一方、ベトナムとフィリピンは対中国を念頭に、関係を緊密化している。
ベトナム海軍の軍艦2隻が(昨年11月)24日、親善訪問のためにフィリピンのマニラ湾に初寄港。「中国に挑戦する意図はない」としつつも各国外交関係者を艦内に招待して、南シナ海で中国と領有権を争う両国間の連携をアピールした。”【2014年 11月28日 毎日】
****<中国船>ベトナム漁船に体当たり 西沙周辺海域****
中国とベトナムなどが領有権を争う南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島で26日、ベトナム漁船が中国公船から体当たりや放水を受けていたことが分かった。ベトナム国営メディアが28日、伝えた。
西沙周辺海域では今年5~7月、中国の石油掘削を巡り両国の公船が衝突。その後、関係修復に向かっていたが、トラブルが続けば対立が再燃する可能性もある。
ベトナム側の報道によると、26日朝、西沙周辺で漁をしていたベトナム漁船2隻を中国沿岸警備隊の船が妨害。その後、さらに2隻の中国船が加わり、放水や体当たりを始めた。一部の乗組員はベトナム漁船に乗り移り、船室や装備品を破壊したという。(後略)【2014年11月28日 毎日】
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****中越対立再び?=南シナ海で非難合戦****
南シナ海の領有権をめぐる中国とベトナムの争いが、再び顕在化してきた。きっかけは中国が7日にフィリピンの国際仲裁手続きを拒否したことで、ベトナム外務省は事実上のフィリピン擁護とも取れるコメントを発表。中国側は「絶対に受け入れられない」と反発している。
越外務省報道官は11日、中比の仲裁手続きに関して「ベトナムの一貫した政策は、中国の一方的な領有権の主張を拒否することだ」とコメントをウェブサイトに掲載。国際仲裁裁判所に、ベトナムの主権尊重を求めたことも明らかにした。【12月12日 時事】
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こうした対立の顕在化を早期に沈静すべく、中国側も対応をとってはいるようです。
****中国序列4位が訪越へ****
新華社電によると、中国共産党中央対外連絡部は22日、党序列4位の兪正声・全国政治協商会議(政協)主席が今月下旬にベトナムを公式訪問すると発表した。
中越関係は5月に中国が南シナ海の係争海域で石油試掘を強行したのを受けて悪化。対立の火種が残る一方、関係改善を模索する動きも続いている。【12月22日 時事】
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【ベトナム政府:事故を起こした中国企業に「是正要求」】
こうした微妙な関係にある両国ですが、中国企業が請け負う都市鉄道建設現場で大きな崩落事故が発生したことで、ベトナム政府は中国企業へ厳しい姿勢を見せています。
****「おから工事の輸出」と中国ネット民が皮肉る声も・・・中国企業がベトナムの都市鉄道建設で崩落事故を起こし、ベトナム政府から「是正要求」=中国版ツイッター****
ベトナム政府は12月31日、同国内の都市鉄道建設現場で大きな崩落事故が発生したとして、建設プロジェクトの総請け負い事業者である中国企業に対し、是正を要求する書簡を出した。ベトナムメディア・ベトナム青年報の1日付報道を、中国メディア・中国日報が同日伝えた。
記事は、12月31日にベトナム交通運輸相が、ハノイ市内のガットリンとハドンを結ぶ都市鉄道建設プロジェクトの総請け負い企業である「中国鉄路第6グループ公司」について、ただちにハドン駅の工事中に発生した足場の崩落事故による被害の処理を行うとともに、施工時の安全確保を求めるよう要求する書簡を出したと紹介。
また、書簡が、同社が短期間のうちに同プロジェクトにおいて2件の重大事故を起こしたことを挙げて「総請け負い業者に能力、経験、専門性が不足していることの表れだ」、「社会や公衆に対する責任意識に掛け、労働上の安全確保措置を取らず、付近の住民に心理的な不安をもたらした」と指摘したとした。
そして、交通運輸相が「同社はすべての法的責任を負わなければならない」と語るとともに、契約規定に基づく責任を履行していないことを厳しく警告したと伝えた。同省はまた、同社を「前科」のある請負企業リストに入れるよう交通工事建設管理当局に命じたという。
記事はさらに、洪小勇・駐ベトナム中国大使に対しても、同社を是正し、中国大使が同社、さらに同プロジェクトの監督企業とともに具体的な行動計画を提出するよう求める書簡を副交通運輸相から送ったことを併せて伝えた。(後略)【1月5日 Searchina】
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中国と政治的・安全保障上の問題を抱える日本は、同じように中国と対立するベトナムに接近する形で中国をけん制しています。
ベトナムが中国と厳しく対峙していた昨年6月には、南シナ海に臨むベトナム中部ダナン市に海上自衛隊の輸送艦「くにさき」が入港。
自衛隊員に加え、米軍とオーストラリア軍の隊員が参加し、ダナン市内で医療支援活動を行っています。
また、昨年8月には岸田文雄外相がベトナム・ハノイでファム・ビン・ミン外相と会談し、巡視船に転用できる中古船6隻を供与すると表明しています。
経済支援でも、ベトナムを含む東南アジアは日中の支援競争の主戦場となっていますが、先述の中国企業の失態に対し、日本の支援事業完成が報じられています。
****ハノイに日本支援の「ニャッタン橋」完成 インフラ輸出の「橋頭堡」に****
ベトナムの首都ハノイで4日、空の表玄関であるノイバイ国際空港の「第2旅客ターミナルビル」と、同空港とハノイ中心街のアクセスを改善する大型の道路橋「ニャッタン橋(日越友好橋)」の完成式典がそれぞれ開かれた。
両事業は日本が計1千億円超の円借款を供与、官民連携のインフラ輸出の「橋頭堡(きょうとうほ)」として注目される。式典には日本からも太田昭宏国土交通相が出席した。
第2旅客ターミナルビルは、急増する旅客需要に対応するために新設され、大成建設などが施工し、すでに昨年末に開業した。
ニャッタン橋はホン川(紅河)にかかり、全長3755メートル。複数の塔から斜めに張ったケーブルを橋桁につないで支える「斜張橋」部分の長さは東南アジア最大の1500メートルに達する。IHIインフラシステムや三井住友建設が工事を手掛けた。
式典終了後、太田国交相は「ベトナムの発展にとって画期的だ。日本との協力関係を強化し、戦略的なパートナーシップを増進するために努めたい」と述べた。【1月4日 産経】
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もっとも、日本のベトナムでのODA事業に問題がない訳ではありません。
****新規円借款を一時停止=「蜜月」仕切り直し―ODAリベート疑惑・ベトナム****
日本外務省は2日、ベトナム・ハノイで開いた政府開発援助(ODA)不正防止対策協議会で、鉄道コンサルタント会社「日本交通技術(JTC)」のリベート疑惑発覚を受け、ベトナム政府に対し新規円借款供与の一時停止を通告した。
2012年の統計で、日本の最大のODA供与国はベトナム。同国にとっても、日本はODA受け入れ総額の約4割を占める断トツの支援国だったが、リベート疑惑で「蜜月」は仕切り直しとなった。
また、ベトナムへの円借款停止は、08年の日系コンサル会社の贈収賄事件に次いで2度目で、深刻な汚職体質が浮き彫りになった。【2014年6月2日 時事】
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【東南アジアでの日中の支援競争】
東南アジアでの日中の支援合戦全般で見ると、体力で勝る中国の台頭に著しいものがありますが、その傾向は今後も変わることはないでしょう。
そうした中で、欧米から批判を浴びるタイ軍事政権は中国への接近を進めています。
****中国とタイが「鉄道建設」で協力 「アジア横断鉄道の実現に向けて前進」=中国メディア****
中国メディアの参考消息は20日、中国とタイが19日、タイ国内で全長867キロメートルの鉄道建設に向けて協力することで覚書を交わしたことを伝え、海外メディアが「中国のタイ国内における影響力を強めることになる」との見方を示したことを伝えた。
記事は、中国の李克強首相が19日にタイのバンコクを訪問し、タイ国内の鉄道網の建設でタイと中国が協力することで一致、覚書を交わしたと伝え、「鉄道建設はタイの貿易および観光業の発展に寄与することになる」との見方を示した。
続けて、タイの日刊紙バンコク・ポストの報道を引用し、タイと中国が鉄道建設だけでなく農業分野においても協力を強化すると伝え、関係者の話として「今回の一致はタイと中国の関係が日増しに熱を帯びていることを示すもの」と論じた。
さらに、覚書の内容として、中国はタイ東北部のノーンカーイ県と東部のラヨーン県を結ぶ734キロの路線のほか、首都バンコクとサラブリー県を結ぶ133キロの路線を建設すると紹介した。
また記事は、香港メディアの成報が「李克強首相が強力な鉄道外交を展開している」と報じたことを伝えた。
さらに、中国鉄道事業の海外輸出は、中国とドイツを結ぶ「渝新欧鉄道」、「イランやトルコを経由して欧州へつなぐ路線」、「中国とパキスタンをつなぐ路線」、「アジア横断鉄道」の4つの方向性のもとで展開されているとし、今回のタイとの覚書締結は「アジア横断鉄道の実現に向けて大きな前進」との見方を示したことを紹介した。【12月24日 Searchina】
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中国の“鉄道外交”などの攻勢のなかで、中国と南シナ海問題を抱えるベトナムの他、欧米接近を進めるミャンマーでは日本の進出が成功しているようです。
****ミャンマーに投資する日本 狙いは「中国の代替」か=中国メディア****
中国メディアの参考消息は16日、米メディア・「クリスチャン・サイエンス・モニター」の報道を引用し、日本がミャンマーの銀行業から通信業にいたるまで「ミャンマーのあらゆる産業における重要な投資国」になっていると伝えた。
記事は、長年にわたって経済制裁を受けているミャンマーをサポートしてきた中国の影響力は今なお同国に残っているとする一方、軍事政権から民主主義政権へと代わったミャンマーにおいて、日本が「ミャンマー新政府のパートナーになりつつある」と指摘。さらに、安倍晋三首相は米国のオバマ大統領とともにミャンマーにおける中国の影響力を希薄化させようとしていると伝えた。
続けて、ミャンマーの首都ヤンゴン市から南東へ約20キロメートルにあるティラワ経済特別区の「Class-A地区」開発プロジェクトにおいて、日本政府と日本企業が49%を出資して事業主体を設立したことを紹介。同プロジェクトでは発電所や道路、送電線などを建設するとし、「仮に同プロジェクトが成功すれば日本が最大の受益者になる」と伝えた。
また記事は、米国は今なおミャンマーに対して制裁を行っていることを指摘する一方で、日本のミャンマーへの関与は米国の対ミャンマー政策にも影響を及ぼす可能性があると指摘。現在のミャンマーで鍵を握る投資国は日本をはじめ、韓国やシンガポールなどの国であり、特に日本企業はミャンマーを「日中関係の悪化を背景とした工場移転先の有力候補として見ている」と伝えた。【2014年11月21日 Searchina】
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資金力や国家体制の違いで、中国と体力勝負をしても難しいところが多々あるように思われます。
日本としては、どういう視点から、どういう事業に支援するのかを絞って、日本らしさをアピールしていくことが必要に思われます。