
(息子を腕に「村は焼かれ、夫は他の村人と一緒に喉を切られて殺された」と証言する、ミャンマーから逃れてきたロヒンギャの20代女性=バングラデシュ南部テクナフの難民キャンプで、AP【2月6日 毎日】)
【覚醒剤密輸にかかわる僧侶もいるが・・・】
敬虔な仏教国として知られるミャンマーですが、“ミャンマーでは仏教徒の男性であれば、二十歳になる前に必ず一度僧侶になります。本人の意思ではなく、親が自分の子供を早めにお釈迦様と僧侶の修行や教えに理解してもらいたいという目的で得度式を行って僧侶になり、僧院で生活するようになります。僧侶でいる間は、僧院で生活しながら、お釈迦様の教えと修行などをしなければなりませんので、最低限自分の世話を自分で出来る五・六歳が求められています。僧侶としての期間は一番短くても3日と3ヵ月または本人によって一生僧侶としての修行を続ける場合もあります。”【http://myanmars.jp/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%BE%97%E5%BA%A6%E5%BC%8F%EF%BC%88%E5%83%A7%E4%BE%B6%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%87%BA%E5%AE%B6%E3%81%AE%E5%84%80%E5%BC%8F%EF%BC%89-380.html】ということで、男性は誰でも一生のうち二回出家しなさいと言われているとも。多分、成人後に自分の意志でもう1回出家するということでしょう。
女性でも、同様な形で一時的に比丘になれるようです。
そうした世俗と宗教の垣根が低いともいえる社会ですから、僧侶の中にもいろんな人間が混在しているようです。
****ミャンマー僧院から覚醒剤370万錠 僧侶3人逮捕****
ミャンマー西部ラカイン州の仏教僧院などで覚醒剤の一種であるメタンフェタミンの錠剤約400万錠が押収され、僧侶3人が逮捕されたと7日、国営紙などが報じた。同国では国境地帯や近隣国で生産された錠剤が違法に流通し、社会問題になっているが、僧が検挙されるのは異例だ。
警察などによると、5日夕、バングラデシュ国境に近い同州マウンドーの検問所で、2人の僧が乗った車から錠剤約40万錠が見つかった。その後、2人が所属する近郊の僧院を捜索したところ、約370万錠を発見した。警察は2人と僧院の別の僧を逮捕。末端価格は約8億円に上るという。
マウンドーはイスラム教徒ロヒンギャが住民の多数を占め、昨年10月以降、治安部隊による人権侵害報告が相次ぐ地域。一方で薬物の大量押収も続いており、周辺国などへの密輸の「中継地」と見られている。【2月7日 朝日】
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こうした破戒僧も困りますが、ミャンマー国内にも少数派として生活するイスラム教徒への憎悪を煽る“仏教ナショナリズム”的な僧侶が存在することは、社会的にみてもっと厄介なことです。
【国連人権高等弁務官事務所 ロヒンギャ弾圧は「人道に対する罪」に当たる可能性が高いとする報告書】
上記事件が起きた西部ラカイン州には、ミャンマー国民として認められていないイスラム教徒ロヒンギャが多く暮らしており、一部僧侶の扇動もあって国民世論の圧倒的なロヒンギャ嫌悪、そうした世論に同調した治安部隊のロヒンギャ弾圧が国際的にも大きな問題となっていることは、これまでも再三とりあげてきたとおりです。
国連、人権団体だけでなく、イスラム教徒を多く抱えるマレーシアなど周辺国からも批判が高まる一方で、民主化が期待されたスー・チー政権は国民世論と国軍の壁に有効な対策を講じることができずにいることも。
(1月16日ブログ“ミャンマー 結果を出せないスー・チー政権 言論の自由にも影 “笑顔が消えた”スー・チー氏”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170116など)
国連人権高等弁務官事務所は2月3日、国軍によるロヒンギャ武装集団掃討作戦が「人道に対する罪」に当たる可能性が高いとする報告書を発表しています。
****<「ロヒンギャ」問題>「人道に対する罪」指摘 国連報告書****
ミャンマー西部ラカイン州で少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」に対する迫害が懸念されている問題で、国連人権高等弁務官事務所は3日、軍の「一掃作戦」で多数の人が死亡するなどしており、こうした行為が「人道に対する罪」に当たる可能性が高いとする報告書を発表した。ゼイド高等弁務官は、ミャンマー政府を非難し人権侵害の停止を求める声明を出した。
報告書は、今年1月にミャンマーから隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ204人の聞き取り調査を基に作成された。
204人のうち134人が殺害現場を目撃し、96人は実際に家族が殺害されたと回答。多くの人は、軍による放火や手投げ弾により、家族や友人を失ったと話したという。
また、子供2人を含む女性26人がレイプされたと答えた。25歳の女性は、治安部隊員に夫を殺害されて家に押し入られ、集団でレイプされた。泣き声を上げた生後8カ月の長男までナイフで殺され「死のうと思ったが果たせなかった」と証言したという。
ゼイド高等弁務官は「ミャンマー政府は否定し続けるのではなく、自国民に対する人権侵害をすぐにやめなければならない」と訴えた。(後略)【2月6日 毎日】
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国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は「性的暴力は無作為ではなく、ロヒンギャに対して組織的に」行われていると指摘しています。
****ミャンマー治安機関の責任追及を、少数民族を性的暴行=人権団体****
米国に本拠を置く国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は6日、西部ラカイン州で軍や警察などの治安機関がイスラム系少数民族ロヒンギャの女性や少女に対する性的暴行に組織的に関与していると非難し、治安機関の司令官らを罰するようミャンマー政府に求めた。
HRWは、ミャンマー軍による弾圧を受けて隣国バングラデシュに逃れた約6万9000人のロヒンギャにインタビューし、女性に対するレイプや集団性的暴行などについて報告書にまとめた。
報告書によると、「性的暴力は無作為ではなく、ロヒンギャに対して組織的に」行われているとみられるという。
この件に関するミャンマー政府のコメントは得られていない。
ラカイン州には、推定110万人のロヒンギャが暮らしている。昨年10月にロヒンギャとみられる武装集団が警察施設を襲撃して以来、治安部隊が掃討作戦を進める同地域には記者や人権団体の立ち入りは禁止されている。
政府はこれまで、治安機関による性的暴行や暴力、殺害、市民の拘束など大半を否定。村の焼き討ちなどは、ロヒンギャの武装集団に対する合法的な掃討作戦と主張している。【2月6日 ロイター】
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【イスラム教徒でもある与党法律顧問射殺事件の背後には・・・】
こうしたロヒンギャに対する“民族浄化”ともいえる弾圧が指摘されるなかでも、かつては“ファイティング・ピーコック”とも称されたスー・チー氏の明確な言葉は聞こえてきません。
ASEAN内部からの批判もあって昨年12月19日にヤンゴンで開催されたASEANの非公式外相会議では、スー・チー国家顧問兼外相は問題解決に向けて「時間と裁量の余地」を与えてほしいと各国外相に訴えただけでした。
そうしたなか、1月29日には、ミャンマー最大都市ヤンゴンの空港の国際線ターミナルの外で、インドネシアへの視察から帰国した与党・国民民主連盟(NLD)の法律顧問、コーニー氏が銃で撃たれて死亡する事件が起きています。
コーニー氏はNLD党首のスー・チー氏の信頼が厚い弁護士で、イスラム教徒です。昨年3月末の新政権発足時にスーチー氏を国家顧問に就任させる法案立案にも携わっていました。【1月29日 朝日より】
この事件について、スー・チー氏の改革に反対する勢力の存在も指摘されています。
****少数民族問題でスー・チー氏窮地に****
■空港で起きた惨劇
(中略)
地元紙は犯行の動機についてコーニー氏が ①イスラム教徒だから ②現在進行中の憲法改正を停止させる狙い ③①と②の両方の目的による「政治社会的背景のある暗殺事件」との治安当局の見方を伝えている。
ミャンマーでは「国会議席の25%が軍人」「内務、国防など3大臣ポストは軍人」「軍人の過去の犯罪は赦免」などが盛り込まれている軍政時代の憲法を改正し、民主政権に相応しい憲法に改正する動きが進行中で、コーニー氏はスー・チー顧問の右腕として改正運動の中心にいた。
さらにコーニー氏は急進的な仏教組織の圧力で成立した「仏教徒と非仏教徒の結婚を規制する法律」に反対する運動もイスラム教徒の立場ではなく、弁護士の立場から力を入れていた。
こうした背景から逮捕された暗殺実行犯の出身、チー・リン容疑者(53)は憲法改正に反発する軍関係者かあるいは少数民族であるイスラム教徒を排撃しようとする仏教関係者の使嗾(しそう)に基づいた犯行との見方が強まっている。
■イスラム教少数民族ロヒンギャ問題
今回のコーニー氏の暗殺はスー・チー顧問を苦しい立場に追い込んでいる。
というのもミャンマー西部ラカイン州に集中する少数派のイスラム教徒ロヒンギャ族の人権問題を巡ってミャンマー政府は国際社会、とりわけ加盟国でもある東南アジア諸国連合(ASEAN)から厳しい批判を浴びているからだ。
ラカイン州で昨年10月9日、バングラデシュとの国境に近い地域の警察施設など3か所が武装集団に襲撃され、警察官9人が死亡する事件が発生した。武装集団は正体不明だが、国軍はロヒンギャ族組織の犯行と一方的に決めつけてロヒンギャ族集落の掃討作戦を開始。
人権団体はこの作戦でロヒンギャ族住居は放火され、男性は虐殺、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているとの報告を公表。バングラデシュに避難したロヒンギャ族は2万人以上に達している。
人権団体は「現状は国軍によるロヒンギャ族への民族浄化状態」と国際社会に訴えている。
コフィ・アナン元国連事務総長がロヒンギャ問題の特使としてミャンマー入りしたが、仏教徒の妨害などで実態調査が進まず、「民主化運動の指導者としてノーベル平和賞を受賞したスー・チーさん」への少数民族や国際社会の失望が広がっているのだ。
昨年12月末には南アフリカのツツ司教やパキスタン人のマララ・ユスフサイさんなどノーベル平和賞受賞者11人を含む、人権活動家ら23人が国連に対し、ロヒンギャ族問題への対策を怠っているとしてスー・チーさんを批判する書簡を国連に送り、同問題を国連安保理で協議するよう求める事態も起きた。
加えてイスラム教徒が多数を占めるASEANのマレーシアやインドネシアからも「同胞イスラム教徒の人権侵害への憂慮」が示され、ASEAN会議などでミャンマーが「国内問題である」「人権には配慮している」など苦しい説明に追われる事態が続いている。
■どこへ向かう「戦う孔雀」
こうした内憂外患状態のスー・チー顧問をコーニー氏の今回の暗殺はさらに厳しい局面に追い込んだことは間違いなく、ASEAN外交筋は「コーニー氏ではなく、スー・チー顧問に反発する勢力が背後で暗躍した可能性がある」と指摘する。
スー・チー顧問がロヒンギャ問題をはじめとする少数民族問題で効果的な指導力を発揮できないのは、国軍と仏教勢力という2大支持基盤からの反発が、ようやく実現した民主政権の屋台骨を揺るがしかねないから、という極めて政治的な背景があるからだとされている。
「軍政を相手に戦う姿勢から、NLDの象徴でもあるファイティング・ピーコック(戦う孔雀)と称されたあのスー・チーさんはどこへ行ってしまったのか」という内外からの落胆の声、同じノーベル平和賞受賞者からの批判、ASEAN内部からの厳しい視線、そういったものをスー・チー顧問は「内心忸怩たる思い」で受け止めていることだろう。
国軍や仏教徒の支持をつなぎとめることで政権維持を続けるのか、それとも少数民族や貧困層など民主化の恩恵をいまだに受けていないミャンマーの人々に手を差し伸べる政策に覚悟を決めて踏み切るのか。
ミャンマーのファイティング・ピーコックはどこへ行こうとしているのか、国際社会、ミャンマーの人々は固唾を飲んで見守っている。【2月6日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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【バングラデシュでの厄介者扱いのロヒンギャ】
なお、ロヒンギャが厳しい状況に置かれているのはミャンマーだけではありません。
ミャンマー政府は、ロヒンギャはバングラデシュからの不法入国者だとしていますが、一方でバングラデシュ政府もロヒンギャを厄介者として排除しようとしています。
****バングラデシュ政府、ロヒンギャ難民の島への移動を計画 『BBC』****
バングラデシュ政府は、ミャンマーから逃げてきた少数民族ロヒンギャの難民数千人を、ベンガル湾内の島に移動させることを計画している。
政令は、難民たちをミャンマーに帰す前にテンガール・チャール島に移動させるとしているが、人権擁護団体は強制収容と変わりがないと強く非難している。
テンガール・チャール島は約10年前に、メグナ川の堆積土で形成され、高潮の際には数十センチの水に囲まれてしまう。道路や堤防などは築かれておらず、島を記載する地図はあまりない。
約30キロ西には60万人が住むハティア島があり、現在の難民キャンプからの移動には9時間かかる。
ある地元政府関係者はAFP通信に対し、テンガール・チャール島について、「島に行けるのは冬のみで、海賊たちの隠れ家になっている」と語った。島を洪水から守るため植樹が行われているが、完了するまでには少なくとも10年がかかるという。
同関係者は、「モンスーンの季節には完全に水浸しになってしまう」と話し、「あそこに住まわせるというのは、ひどいアイデアだ」と指摘した。
ミャンマーでは、ロヒンギャの人々は国境を接するバングラデシュからの不法移民として扱われており、国籍の取得ができずにいる。
バングラデシュでも歓迎する人は少なく、迫害され貧困に苦しむロヒンギャの人々は、祖国がない状態だ。
ミャンマー西部のラカイン州でロヒンギャ住民と当局との衝突が起きた昨年10月以来、約6万5000人がバングラデシュ国内に越境して来たと推計されている。
衝突が起きる前にもすでに、登録済みの住民を含め約23万2000人のロヒンギャ難民がバングラデシュ国内で居住しており、その多くは貧弱な設備しかない難民キャンプで生活している。
バングラデシュ政府は今回、ロヒンギャ難民の登録や移住を目的とした委員会を設置。シェイク・ハシナ首相が後押しする取り組みの背景には、観光振興政策があると指摘されている。
約3万2000人の難民が住むコックス・バザールには、世界で最長とされるビーチがあり、政府は難民キャンプが観光客を遠のかせるのではないかと恐れているという。【1月31日 iRONNA】
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【ロヒンギャ以外にも山積する少数民族問題】
ミャンマーが抱える少数民族問題(ミャンマー政府はロヒンギャをミャンマー国民たる少数民族としては認めていませんが)はロヒンギャだけではありません。数から言えば、ロヒンギャ問題はそのほんの一部に過ぎません。
****帰還望まぬミャンマー難民 民主化の果実なお遠く****
ミャンマー国境に近いタイ北西部にある9カ所のキャンプには、ミャンマーの旧軍事政権の弾圧などから逃れた計約10万000人の難民が暮らしていた。アウン・サン・スー・チー氏が政権を率い、「アジア最後のフロンティア」として経済成長に期待が集まるミャンマーの、もう一つの顔を取材した。
タイ北西部の町メソトから車で約1時間半。最大規模のミャンマー難民キャンプ・メラの集落が山麓に広がる。竹や葉を組んだ粗末な家に、7530家族、約3万9000人が生活する。小、中、高校もあり、自治機能を持つ。
だが、各ゲートはタイ国軍が警備を固め、外部との往来は原則禁止。特別に許可を得た元難民を介して取材した。内部には商店街もあるが、仕事はほぼない。コメや炭は支給されるが、足りない食材や生活物資を購入するため、すでに海外に移住した親族の送金に頼るケースが多いという。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2015年までの10年間で、10万人以上のミャンマー難民が海外に移住。米国の約8万人と、オーストラリアの約1万人がそのほとんどを占める。(後略)
キャンプ内のグランドでは学生がサッカーの試合に興じ、病院では国際組織が衛生対策を実施していた。
一方、エイズウイルス(HIV)感染予防の啓発施設で働く難民女性(47)によると、タイ政府のコンドーム供給が昨年8月で止まったという。自身も夫から感染したが「薬の提供も途絶えた」と訴えた。
キャンプ内の調停事務所によると、毎年約300件あるトラブルの200件以上は飲酒がらみだ。禁止されている酒をひそかに調達し、問題を起こす。窃盗や暴行もある。
担当者は「キャンプという『鳥かご』から出られず仕事もない。海外移住を希望して難民認定を何年も待つばかりで、自暴自棄になりやすい」と話した。
難民の大部分は、山を越えたミャンマー側で暮らしていた少数民族カレンだ。カレン民族同盟(KNU)と政府軍との紛争が激化して、多くの住民がタイへ流入。キャンプ・メラも1984年に開設された。
KNUは2012年、政府軍と停戦合意し、旧軍政の弾圧を受けてきたスー・チー氏が昨年3月末に政権を奪取した。難民帰還が本格化するとみられたが、キャンプの早期閉鎖を目指すタイ政府は約70人の公式帰還しか実現できていない。
「難民は土地を追われ、家族を殺され逃げてきた。戻っても仕事や家はなく、政府軍の弾圧が止まる保証もない」。ある長老は、スー・チー政権後も難民流入が続く理由をこう説明した。【2月7日 産経】
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話をミャンマー、スー・チー政権に戻すと、問題が山積し、厳しい現実のなかにはあります。
これまでも再三繰り返してきたように、現実政治家としては世論・国軍の存在を考慮せざるを得ないというスー・チー氏の立場はわかります。
わかりますが、この事態を打開できるのは彼女だけであるのも事実です。
先ずは国際的に注目されているロヒンギャ問題で、アナン元国連事務総長とも協調して、なんらかの行動を示してほしいものです。