孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナへロシアが軍事進攻した場合の経済制裁、ロシアの報復・・・日本の天然ガスに影響も

2022-02-03 23:30:13 | 欧州情勢
(米ホワイトハウスで1月31日、会談するバイデン米大統領(右)とカタールのタミム首長=ロイター【2月1日 朝日】)

【米部隊派遣も「ウクライナで戦うためでない」】
緊迫するウクライナ情勢を受けて、アメリカ国防総省は1月24日、米本土の約8500人の米兵に欧州派遣に向けた準備を命じていますが、この部隊の大半はNATO即応部隊(NRF)が発動する際に加わることを想定しています。

アメリカはこれとは別枠で、NATO加盟国のポーランドとルーマニアに2700人を増派することも決定しています。

ただ、いずれにしても「ウクライナで(ロシアと)戦うためのものでもない」という前提での部隊派遣です。

****米国防総省「ウクライナで戦うためでない」 東欧に2700人増派****
米国防総省は2日、ロシアによるウクライナ侵攻に備え、米軍を東欧に増派すると発表した。いずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドとルーマニアにそれぞれ約1700人と約1000人の米兵が数日中に派遣される。ウクライナ情勢が緊迫化して以降、米軍部隊が公式に東欧に増派されるのは初めて。

一方、バイデン米大統領は2日、フランスのマクロン大統領とウクライナ情勢について電話で協議し、ロシアとの対話継続が必要との認識で一致した。マクロン氏は3日にロシアのプーチン大統領とも電話協議する。
 
米国防総省のカービー報道官は2日の記者会見で、「NATOの東側の抑止力と防衛態勢の強化が求められている。派遣は恒久的ではなく、ウクライナで戦うためのものでもない」と強調した。状況が悪化すれば追加派遣もあり得るとした。
 
国防総省や米メディアによると、現在はポーランドとルーマニアにそれぞれ約4000人と約900人の米軍部隊が配備されている。ポーランドには米本土の空挺(くうてい)師団から派遣され、ルーマニアにはドイツ駐留米軍の機甲部隊が再配備される。ドイツにも米本土から空輸部隊の約300人が送られる。
 
今回の派遣とは別に、国防総省は1月24日、米本土の約8500人の米兵に欧州派遣に向けた準備を命じている。

ホワイトハウスによると、バイデン氏とマクロン氏の2日の電話協議では、ロシアのウクライナ侵攻を阻止するための外交や、侵攻に踏み切った場合の経済制裁の準備について協議。NATOや欧州連合(EU)とともに同盟国が緊密に連携して情勢に対応する方針で一致した。
 
仏大統領府によると、マクロン氏は3日、ウクライナ情勢が緊迫する中で3度目となるプーチン氏との電話協議に臨む。また同日中にウクライナのゼレンスキー大統領、ポーランドのドゥダ大統領とも協議する。
 
ロイター通信によると、マクロン氏はプーチン氏との電話協議後、ロシアを訪問する可能性についても言及しているという。【2月3日 毎日】
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【対ロシア経済制裁の準備加速】
「ウクライナで(ロシアと)戦うためのものでもない」ということで、もしロシアが実際にウクライナに侵攻した場合のアメリカの対応は経済制裁が中心となります。

これまでにない強力な、ロシアにとっては破滅的な経済制裁を実施するとのことですが、
そうした経済制裁でロシアを思いとどまらせることができるのか? 
そもそもロシアに本当にウクライナ侵攻の意思があるのか? ロシアの親の狙いはどこにあるのか? 
ロシアから言わせれば戦争を煽っているのはアメリカであり、ロシア潰しのためにアメリカはウクライナを道具として使おうとしているという主張にもなりますが、そのあたりの話は? 
制裁を実施した場合、欧州側も深刻な“返り血”を浴びることになりますが、そうした制裁を実施できるのか?
・・・・等々、多くの“?”があり、いろいろとメディアでも指摘されていますが、今回はそのあたりの“?”はスルーして経済制裁に向けた準備の話。

アメリカは経済制裁へ向けた準備も進めています。

****米、対ロ経済制裁の準備加速 ウクライナ侵攻備え―日本に影響も****
バイデン米政権は、ロシアのウクライナ軍事侵攻に備え、対ロシア経済制裁の準備を加速させている。ロシアの主要銀行とのドル取引停止や対ロ輸出管理の強化、天然ガスパイプラインの稼働阻止が浮上しており、日本などの外国企業やエネルギー市場にも影響が及ぶ可能性がある。
 
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは28日、金融制裁対象の候補として、ロシア国営のVTB銀行やズベルバンク、世界最大の天然ガス生産会社ガスプロムの銀行子会社を挙げた。この中には北方領土をめぐる日ロ経済協力に関与している銀行が含まれる。ロシア政府が発行する債券の新規取引禁止も検討中という。
 
「最も厳しい手段」(米国家安全保障会議)として取り沙汰されるのが、ロシアのプーチン大統領の資産凍結や、世界の銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアを締め出す制裁。

SWIFTは約200カ国が参加する欧米主導のシステムで、ロシアの金融網を遮断すれば、対ロ貿易を手掛ける日本企業も打撃を受ける。
 
貿易制裁の目玉は先端技術の対ロ輸出規制だ。中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に対する措置と同様に、日本など同盟国からの輸出も規制対象となり、発動されれば「世界の供給網に影響が広がる」(米戦略国際問題研究所)。
 
ロシア経済を支えるエネルギー輸出を制限するため、ロシアとドイツを結ぶ新たな天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の「稼働阻止」(米国務次官)も有力視されている。原油市場では早くも産油国ロシアからの供給不安が高まり、先物相場が約7年ぶりの高値水準で推移している。【1月29日 時事】
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【経済制裁実施の場合、ロシアは報復として欧州への天然ガス供給を停止 代替調達先は?】
どれひとつとっても欧州、世界経済、そして日本への影響は大きなものがありますが、こうした経済制裁を行えばロシアは当然に“報復”を行います。

真っ先に行われる可能性が高いのが、天然ガスの欧州への供給停止でしょう。
ロシア産天然ガスに大きく依存する欧州(EU域内では天然ガスの輸入に占めるロシアの比率は約46%(2021年上半期))としては、ロシアに代わる供給先を早急に確保する必要があります。

そこで今名前があがっているのがカタール。

****カタール、有事に欧州へガス供給も 米国の力添えは必要=消息筋****
液化天然ガス(LNG)の主要産出国カタールは、ロシアがウクライナを侵攻した場合、米国がロシア経済制裁を発動し、報復でロシアが欧州向けガス供給を中断する事態になれば、一部のカタール産ガスの供給先を欧州向けに変更することが期待されている。

事情に詳しい筋によると、米ワシントンで来週、タミム首長とバイデン大統領がこの問題を協議するが、カタールにとっては、同国ガスの購入契約者への説得で米国の力添えが必要になるという。

米政権は欧州向けのガス供給元確保が必要になった場合に備え、ここ数週間、カタールなど主要エネルギー産出国に接触してきた。

消息筋は「2011年の福島の原発事故の際のような世界的なエネルギー供給の大混乱が起きた場合」は「カタールが力になれるかもしれない」と指摘。カタールには欧州に振り向けられる余剰分がある程度あるとした。

ただ、産出量のほとんどは長期契約に向けられているため、そうした余剰分はあまり多くないとし、「短期的な解決策としてガスを欧州に振り向ける場合は、大口のカタール産ガスの顧客に対して米国などからの説得が必要になるだろう」と語った。

カタールはLNG輸出をより長期的に大きく拡大させていきたい意向。消息筋は、欧州連合(EU)がエネルギーの安全保障を確かにし、将来的な供給混乱を回避できるようにしたいなら、EUがLNGの長期契約締結を考えることが必要だと指摘した。【1月27日 ロイター】
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そうでなくても欧州では昨秋から新型コロナウイルスのパンデミックから景気が立ち直りつつあり、需要が増大したことでガスや電力価格が高騰し、天然ガス確保の動きが始まっていました。

そこにもってきてウクライナ危機による“ありえないようなシナリオ”も考えなくてはならなくなっていますが、やはりこういうときに力を発揮するのはアメリカのようです。

****カタールをNATO非加盟の主要同盟国に バイデン氏が意向****
米国のバイデン大統領は1月31日、ホワイトハウスを訪問した中東カタールのタミム首長と会談した。バイデン氏はカタールを北大西洋条約機構(NATO)に非加盟の主要同盟国に指定する意向を明らかにした。ウクライナ情勢を踏まえ、欧州へのエネルギー供給についても議論したとみられる。
 
バイデン氏は会談冒頭、昨年の米軍撤退時に退避したアフガニスタン人の受け入れや、パレスチナ・ガザ地区への支援などを挙げ、「カタールは良き友人であり、信頼できる有能なパートナーだ」と述べた。
 
発表によると、2人は世界的なエネルギー供給の安定についても協議したという。ロシアがウクライナに侵攻した場合、欧州ではロシアから天然ガスや原油の供給が滞り、エネルギー価格が上昇する恐れが出ている。

カタールは世界有数の資源国であり、米国は欧州への液化天然ガス(LNG)提供の可否について打診したとみられる。【2月1日 朝日】
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一方のカタールは、「欧州に回してやっていいけど・・・今後も安定的に長期で取引してほしい」といったところのようです。
また、欧州向け天然ガスについての転売制限の条件も。

****カタール、EUにガス転売制限を要請 ウクライナ情勢にらみ=関係筋****
カタールが欧州連合(EU)に対し、域外への天然ガス転売を制限する必要があると述べたことが分かった。関係筋が明らかにした。転売を制限することで、ロシアがウクライナに侵攻した場合も主要供給国がガスを提供でき、短期的な危機を回避できるとしている。

カタールは、EUが余剰分の液化天然ガス(LNG)について、域内にとどめると約束するよう望んでいる。

関係者は「(転売制限が)実行されなければ、EUに対する緊急輸出がEU外で収益を上げるための現物として転売される恐れがあり、基本的にEUのエネルギー不足が長引くことになる」との認識を示した。

カタールおよび欧州の複数の産業筋は、一部EU諸国がガスの相場上昇が始まった昨年以来、カタール産ガスをEU域外で転売していると指摘した。

関係者によると、カタール側はEUが長く調査を続けるカタールのガス長期契約問題についても、解決の必要があると述べたという。

EU欧州委員会はカタールの長期契約が欧州内の自由なガスの流れを阻害するかもしれないと懸念する。一方、カタールは長期契約が供給の安全保障を確保するとの立場を取っている。【2月1日 ロイター】
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カタールとしては、交渉の立場が優位になったこの時期に・・・ということでしょう。

【有事の際、欧州にガス提供できないか日本にも“打診”】
でもって、前出【ロイター】に“大口のカタール産ガスの顧客に対して米国などからの説得が必要になる”と言う話で、具体的には日本にも“打診”があるようです。

****米とEU、日本などに天然ガス提供打診 露のウクライナ侵攻に備え****
米ブルームバーグ通信は2日、米国と欧州連合(EU)が、ロシアのウクライナ侵攻で欧州への天然ガス供給が停滞する事態に備え、日本や韓国、中国、インドなどアジアの主要輸入国に対し、欧州に天然ガスを提供することが可能かどうか打診していると報じた。
 
EUは天然ガスの約40%をロシアに依存しており、ウクライナで紛争が発生し、ロシアから欧州への天然ガス供給が途絶えた場合、欧州はエネルギー不足に陥る懸念がある。

報道によると、米国とEUは、アジアの主要輸入国が天然ガス生産国と結んでいる長期契約の一部をEUに振り向けることが可能かどうかを協議しているという。
 
米欧は有事に備え、ロシアに代わる天然ガスの供給元を探している。報道によると、カタール、ナイジェリア、エジプト、リビアなどの生産国にも有事の際に天然ガス増産を要請した。しかし、天然ガスは短期間で増産できないため、欧州の天然ガス不足を少数の生産国でまかなうのは難しいと見られている。【2月3日 毎日】
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アメリカから奉加帳を回されると日本としては・・・・“日本や韓国、中国、インドなど”とは言っても、中国が応じるはずもないし、インドもなんだかんだ言って自国利益優先でしょう。そうなると現実味があるのは・・・。

その話はともかく、軍事進攻そして経済制裁ということになれば、ロシアも欧州も深い傷を負うことになりますし、バイデン政権もそうした事態を止められなかった政治責任を国内的に追求されることにも。

誰にとっても得策とは思えませんが、互いに最大限の圧力をかけながら自国に有利なおとしどころに持っていこうというチキンレースのようにも思えます。
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