孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  国内的にも、国際的にも、国軍を制止できず、犠牲者・避難民が増加

2022-02-06 23:23:34 | ミャンマー
(ミャンマー北西部サガイン地域ミンギン郡の焼き討ちされた村。地元メディアによると国軍によって105軒が破壊された。【2月6日 AFP】)

【民主派武装組織 銃などの武器を持つのは3割。そのほかは爆竹なども使って戦闘に】
2月2日ブログ“ミャンマー 景気悪化、物価高騰、大量失業 クーデターから1年 困窮する生活 「沈黙のストライキ」”で取り上げたように、クーデターから1年の節目となる2月2日には国軍支配に対する国民のせめての抵抗として「沈黙のストライキ」が試みられましたが、それすらも軍の厳しい弾圧によって十分な広がりをみせることができません。

抗議デモは国軍の容赦ない弾圧を受け、「沈黙のストライキ」も許されない・・・・となれば、国軍支配を受け入れるか、あるいは武器を手に戦うしかないということにもなり、いわゆる民主派勢力は「国民防衛隊(POF)」を結成して各地で軍事政権への抵抗を続けています。

しかし、銃すら満足にはなく、“爆竹”で戦うという状態で、戦力差は比べようもありません。

****武装勢力、武器求め… ミャンマー国軍との戦闘、泥沼化の懸念*****
国軍によるクーデターから1年が経過したミャンマーで、民主派勢力で作る国民統一政府(NUG)系の武装組織と国軍との戦闘が各地で続いている。

長期化する戦いを離脱し、国境を越えてタイ側に来る武装組織メンバーも増えているようだ。北西部ターク県の山岳地帯で出会った彼らは、みな一様に武器を求めており、専門家は戦闘が泥沼化することを強く懸念している。
 
「ロケット弾やドローンで攻撃してくる国軍に勝つには、武器が必要だ」――。ミャンマー東部カヤー州に接するタイ国境を越えてターク県に潜伏する「カレンニー国民防衛隊(KNDF)」の中枢メンバー、リオ氏(仮名)がそう力を込めた。
 
NUGは2021年5月に「国民防衛隊(PDF)」を組織し、同9月に国軍との戦闘開始を宣言した。分離・独立などを求め各地で長年、国軍と戦っていた少数民族武装勢力の中にはPDFを支援する組織もある。KNDFはそうした地域の若者らが独自に発足させた武装組織の一つだ。
 
リオ氏によると、KNDFは18歳以上の1万人を擁するが、銃などの武器を持つのは3割。そのほかは爆竹なども使って戦闘に臨んでいるという。
 
リオ氏は「我々はテロリストではなく、ミャンマー国民を守るために戦っている。戦闘が激しくなるのはやむを得ない」と話した。
 
タイのタマサート大の調査によると、ミャンマーではクーデターからの1年で、少なくとも計7686件の戦闘があった。中でも少数民族武装勢力の活動が活発な北部カチン州や南東部カイン(カレン)州、カヤー州では、とりわけ戦闘が激しさを増している。
 
カイン州の少数民族武装勢力「カレン民族同盟(KNU)」からPDFに参加し、1月にタイ側に来たダウロン氏(60)は「戦闘員として警察署に爆竹を投げ込んだが、大きな被害はなかった。国軍側に勝つために、威力のある武器を大量生産する必要がある」と訴えた。
 
仲間のドーダー氏(48)は「クーデター前まで銃を持ったことはなかった。しかし、戦いに勝つためには、エンジニアとして働いていた自分の持つ技術を提供しようと思う」と語った。
 
ミャンマー政治を研究するタマサート大のドゥヤパー・プリシャラット准教授は、戦闘の泥沼化に懸念を示す。「武器の調達では国軍が圧倒的に有利な上に、国軍側に被害が出れば出るほど、国軍は相手への攻撃を『違法行為』への防衛だとして正当化する。今後、死者はさらに増えるのではないか」とみる。
 
しかし、現時点で双方が妥協する気配はなく、ドゥヤパー氏は「停戦なくして民主化への平和的交渉は始まらないことを双方が早急に認識する必要がある」と指摘している。【2月3日 毎日】
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【残虐さが報じられる国軍支配】
“爆竹”ではどうにもなりません。
一方、この1年、国軍支配の残虐さを伝えるニュースは多々ありましたが、国際的に大きく注目されたのは、昨年クリスマスイブに起きた事件。

****セーブ・ザ・チルドレンの職員2人が死亡、ミャンマー国軍が殺害か****
国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は28日、クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーの東部カヤー州で、男性スタッフ2人が国軍兵士に殺害されたと発表した。複数の現地メディアは、24日に大勢の市民が国軍の攻撃で殺害されたと報じており、2人はこの攻撃に巻き込まれたとみられる。
 
セーブ・ザ・チルドレンによると、攻撃の犠牲者は女性や子どもを含む少なくとも35人で、この中に男性スタッフ2人が含まれていることを確認したという。2人は近くで人道支援活動をした後、事務所に戻る途中に攻撃に巻き込まれ、行方不明になっていた。
 
現地メディアは、国軍兵士が24日に複数の車両やバイクを燃やし、その近くで多くの遺体が見つかったと報じていた。現場では、国軍の支配に反対する現地の武装勢力や武器を持った市民が、国軍の部隊との武力衝突を続けていたが、殺害された市民は戦闘と無関係だったとみられている。SNSでは焼け焦げた車両などの写真が拡散している。
 
セーブ・ザ・チルドレンは28日付の声明で「援助関係者を含む罪のない一般市民への暴力は容認できないもので、国際人道法にも違反している」と国軍を非難した。【2021年12月29日 朝日】
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国軍兵士は、子供も含む数十人が乗ったトラックから強制的に降ろすと次々に殺害し、その場で遺体を焼き払ったとか。犠牲者は38人とも報じられています。【「選択」2月号より】

今日のニュースでは・・・

****ミャンマー北部で村焼き討ち、被害数百軒 住民は国軍を非難****
軍事クーデターへの抵抗が続くミャンマー北西部で、国軍が村を相次いで焼き討ちし数百軒に被害が出たと、村民と反クーデター勢力が非難している。
 
ミャンマーでは大規模な抗議デモが国軍の容赦ない弾圧を受けた後、市民が「国民防衛隊」 を結成して各地で軍事政権への抵抗を続けている。
 
北西部ザガイン地域のビン村から逃げてきたという女性は4日、自宅を含む民家約200軒が焼かれたと語った。村は先月31日未明に襲われ、砲撃や銃撃の音で村民は取る物も取りあえず逃げ出したという。
 
また、反クーデター派によると、近隣のインマテ村でも民家600軒が焼き払われた。これに先立ち、反クーデター派が国軍支持派の民兵を襲撃しており、国民防衛隊が村を離れてすぐに国軍が民家に火を放ったという。
 
国営テレビは3日、放火したのはPDFの戦闘員だと報じ、「テロリスト」に破壊された家屋だとする焼け跡の様子を放映した。 【翻訳編集】
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【国連「深い懸念」 実効性なし】
こうした事態に国連安保理は「深い懸念を表明」を表明していますが、それで事態が変わるものでもありません。

****ミャンマー情勢、安保理が懸念表明「人民の意思と利益に沿う解決を」****
国連安全保障理事会は2日、ミャンマー軍政が非常事態を継続している状況に深い懸念を表明し、「人民の意思と利益」に沿った事態解決に向けた協議を強く促した。

安保理は昨年2月1日のクーデターから1年となるのに合わせて採択した声明で、民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏やウィン・ミン大統領ら一方的に拘束されている人々の解放をあらためて求めた。

国連人権当局の統計によると、クーデターを受けて発生したストや抗議活動に伴い、約1500人の民間人が弾圧のため殺害され、約1万1800人が違法に拘束されている。

安保理は、全土における暴力の全面停止と民間人保護を要求。声明は「安保理各国は(ミャンマーにおける)最近の新たな暴力に深い懸念を表明するとともに、大量の国内避難民の発生に強い懸念を示している。また、医療・教育施設を含むインフラへの攻撃を非難している」とした。

さらに、「ミャンマー人民の意思と利益に合致する形で、全関係勢力を含む対話の継続と和解」を求めるとあらためて訴えた。【2月3日 ロイター】
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【ASEAN  統一的対応困難】
ASEAN内にはミャンマー対応で温度差があること、議長国カンボジアのフン・セン首相が“スタンドプレー”的にミャンマー国軍と接近していることは2月2日ブログで取り上げたところです。この国軍支配を認めるような行動への反発で外相会談が延期になっていましたが、国軍代表者ではなく「非政治的な代表」を派遣するようにミャンマーに要請する形での開催が決まったようです。

****ミャンマー国軍の代表は招かず ASEAN外相会議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務めるカンボジアは、16~17日にプノンペンで開くASEAN外相会議に、クーデターを起こしたミャンマー国軍が任命した外相を招かないことを決めた。ミャンマー国軍に融和的なカンボジアの姿勢に一部の加盟国が反発したため、会議の開催を優先して方針を変えた。
 
カンボジア外務省のチュン・ソンナリ報道官が3日、明らかにした。ミャンマー国軍が昨年4月にASEANと合意した「暴力の停止」「特使の受け入れ」などの5項目についてほとんど進展がなく、ミャンマー国軍が外相に任命したワナマウンルウィン氏を招くことについて「加盟国間で同意が得られなかった」と説明した。
 
ミャンマー側には官僚などを想定した「非政治的な代表」を派遣するように要請したという。
 
ASEAN外相会議は年間の議論の方向性を決める年初の重要な会議。当初は1月18、19日にカンボジアのシエムレアプで予定されており、フン・セン首相はワナマウンルウィン氏を招く姿勢を示していた。しかし、インドネシアやシンガポールなどが反発し、会議は直前になって延期されていた。【2月3日 朝日】
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ただ、内部に温度差があるASEANがミャンマーに対して何らかの譲歩を迫るようなことはできないでしょう。

【欧米の制裁も、日本の「静かな外交」も成果なし】
欧米はミャンマーに対して制裁を課していますが、これもこれまでのところ市民生活を苦しくするだけで「成果」を示すことができずにいます。

「ミャンマーと太い独自のパイプを持つ」という日本は欧米とは一線を画し「静かな外交」を展開していますが、これもまた成果を出していません。

【国軍は中国とも距離感】
日本が警戒するのは欧米や日本が厳しく対応すれば、その分中国の存在感が増す・・・ということですが、その中国と国軍の関係も、それほど良好なものでもないようです。伝統的にミャンマー軍部には中国への警戒感があります。

****中国ですら手懐けられず。国民を虐殺するミャンマー司令官の正体****
フライン総司令官率いるミャンマー国軍がクーデターで政権を掌握してから2月1日で1年となりましたが、「恐怖政治」の終わりは見えないようです。今回(中略)元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、何がこのような状況を招いたかを分析・解説。(中略)

欧米諸国が早々とミャンマーを去った後、プレゼンスを一気に高めたのが中国とロシアで、中国による経済支援、ロシアによる軍事支援が提供されることに合意されたようですが、その両国に対してさえ、フライン総司令官は気を許さず、距離を保っていると言われています。

中国としては“隣国”として、一帯一路の要所とも言えるミャンマーを確実に影響下に置きたいと考えており、他のアジア諸国に比べると中国に対するアレルギーが少ないとされているミャンマーを国家資本主義陣営に引き入れたいと考えているようです。

そして、安全保障上ではミャンマーは中国とインドに挟まれる形で存在することもあり、対インドの防波堤的な役割も期待されているようです。

国際社会から孤立している中、中国から手を差し伸べられている状況は助かるはずですが、いろいろな情報をまとめると、どうもフライン総司令官は中国にも接近することはしないようです。

なぜでしょうか?

一つの理由として考えられるのは、「中国に対する警戒心を解かないこと」があるようですが、同じ国軍出身で、予想に反して民主化への移管をスムーズに進め、かつミャンマーに経済成長の基盤をもたらしたティン・セイン政権の“成功”のイメージに自らを重ねたいとの思いもあるようです。

ティン・セイン政権が成功した理由は、欧米諸国からの投資を積極的に受け入れると同時に、中国ともよい関係を保ち、2010年に軟禁が説かれたアウン・サン・スー・チー女史を政権に取り込むことで、欧米諸国にラスト・フロンティアという幻想を強調できたことと考えられます。

この考えは、実は2月1日に行われたミャンマー情勢に関する会合で、かつてビルマ出身で国連事務総長を務めたウ・タント氏のお孫さんが表明したものなのですが、この見解に照らし合わせてみると、フライン総司令官が行っている様々な方式は悉くティン・セイン政権のケースと逆方向に進行させていることが分かります。

一応、来年の8月までに民主的な総選挙を行うと約束し、自らの政権を暫定政権と位置付けるのですが、ティン・セイン政権時との大きな違いは、“民主主義のシンボル”に位置付けられるリーダーが存在せず、逆に再度軟禁状態に置かれているという状況です。

アウン・サン・スー・チー女史も、残念ながら10年にわたり国民の期待のみならず、国際社会からの期待にもこたえられなかったと言えます。外務大臣兼国家顧問の立場にありながら、国軍によるロヒンギャへの残虐行為に対して何一つできなかったことは、「しかたなかった」とする意見もありますが、大きな失望を生み出したと思われます。

その結果がどうかは断言できませんが、スー・チー女史の窮状と民主主義の衰退、そして国軍による強権などに対して、民主主義サミットまで開催した国々は実質的には何も効果的な策を打っていません。

「民主主義は失敗した」との批判に耐えられないアメリカの国内事情、「人権擁護を訴えつつ、対応にばらつきが目立つ欧州各国」という事情もありますが、今、争うべきは中国との最前線、つまり台湾と南シナ海という位置づけが、ミャンマーへの対応の遅れと物足りなさを生んでいるのだと感じます。

実際には中国とインドに挟まれた、アジア地域における地政学的な要所にあるにもかかわらず。

そしてそれは、アジアシフトを打ち出している割には、中国以外のアジアにはさほど関心がないのではないかとの疑問につながります。

それは、かつて私が国連にいた際に仲良くなったビルマ人コミュニティの皆さんも感じているようで、ビルマ(ミャンマー)問題を話し合う際のUNにおける各国の煮え切らない雰囲気に強いフラストレーションを感じているようです。

個人的にはどこか北朝鮮問題に似ているような気もしています。

大きな違いは核問題が絡まないことですが、非難はしても行動を取ってこないという現在の状況を嘲笑うかのように、フライン総司令官と国軍は、この1年間で少なくとも2,500件の武力衝突を引き起こし、数えきれないほどの蛮行と虐殺が国軍と警察という治安勢力によって行われています。

クーデター直後は、少数民族と接近することでNLDとの切り離しを行おうとしたフライン総司令官ですが、それがうまくいかないことを悟ると、態度を180度転換して、少数民族への攻撃を徹底し、その攻撃が残虐さを増すことで、「反抗する者は殺害する」とのメッセージを打ち出す強権政治の体裁を示すようになってきました。

これには内政不干渉を掲げるASEANも、隣国中国も大きな懸念を示しているのですが、それぞれに国内での人権問題や少数民族問題を抱える立場であることもあり、フライン総司令官に対する効果的な行動の抑止力にはなっていません。

その証拠に、9月以降の半年で、一気に虐殺や蛮行が報告される案件が急増しており、弾圧の糾弾に対しても、その存在を否定しないという国軍側の姿勢は、完全に国際社会からの離脱を厭わない意思が見えます。

口先だけの介入と非難を続ける欧米諸国
人権擁護や民間人の安全の確保という大原則を掲げつつも、空洞化する国連。

寄り添っているように見せかけつつも、実際には自国経済を豊かにするための“財布”としか取られていない中国。

国際社会からの総スカンを食らう中、武器供与と外交的なサポートで支持を確保し、アジアに勢力の飛び地を確保しようとするロシア。

そして、自国周辺のことについては何としても自分たちで解決したいASEANと、内部で綱引きが過熱する状況。

そして、欧米諸国に続いて、フライン総司令官と国軍による弾圧に避難と懸念を示しつつも、企業の撤退を命じない日本。

そして、誰もdecisiveな行動を取れないことが分かっているフライン総司令官と国軍。

そして“だれも本気で助けに来てくれないことを悟った”ミャンマー・ビルマ国民。(後略)【2月5日 MAG2 NEWS】
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“爆竹”で戦うしかない国内民主派勢力も、国連も、ASEANも、欧米も、日本も、そして中国もミャンマー国軍を動かすことができず、犠牲者と避難民が増え続ける・・・というのが現状です。
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