孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

原油価格動向に見る国際情勢 ウクライナへのロシア軍侵攻 アメリカのイラン核合意復帰協議

2022-02-18 22:34:43 | 資源・エネルギー
(テヘラン近郊のメヘラーバード国際空港。飛行機が折り重なるように駐機する異様な光景の理由は?【2月9日 Newsweek】)

【政治問題化するガソリン価格高騰】
アメリカでも、日本でも、ガソリン価格高騰が問題になっているのは周知のとおり。

****ガソリン高騰抑制策、あらゆる選択肢を排除せず=岸田首相****
岸田文雄首相は18日午後の衆院予算委員会集中審議で、ガソリン高騰への対応策について、あらゆる選択肢を排除しないと強調した。

ガソリン価格の高騰時に揮発油税を軽減するトリガー条項の発動に関して、玉木雄一郎委員(国民)が質問した。

岸田首相はエネルギー価格高騰に対して「国民生活・日本経済を守るため、実効ある激変緩和措置が必要と認識している」とし、「今後のエネルギー市場の状況をみて真に効果的な対策は何か、あらゆる選択肢を排除せず集中的に検討したい」と述べた。【2月18日 ロイター】
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現行制度では、石油元売り各社への補助金の上限が1リットル5円となっていますが、トリガー条項を発動すると約25円安くなる計算。自民党もこの水準を上回る支援を要求しています。

自動車の国アメリカは更に深刻で、ガソリン価格高騰は政権基盤を揺るがし、中間線選挙に直結します。
ガソリン価格が世界的に高騰しているのは原油価格が高騰しているため。理由はコロナ禍からの経済回復で需要が増加しているのに対し、供給増加が追いついていないため。
市場では7年ぶりの高値水準の100ドルに迫る動きを見せています。

****原油価格、第2四半期に125ドルに達する可能性=JPモルガン****
JPモルガン・グローバル・エクイティ・リサーチは、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど主要産油国でつくる「OPECプラス」の生産不足や余剰生産能力を巡る懸念により、原油市場の需給ひっ迫が続き、原油価格は今年の第2・四半期にも1バレル125ドルに達する可能性があるとの見方を示した。(後略)【2月15日 ロイター】
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【ウクライナ情勢緊張が価格押上げ 原油供給を増やせる余力があるのはイラン】
原油価格は国際情勢の動きを敏感に反映します。逆に、原油価格動向が国際情勢を動かすことも。

ウクライナにロシアが侵攻すればロシア産原油の輸出停止にもなりかねず、それを見込めば相場は上昇します。(ロシアはそういう事態を避けたいでしょうから、そのことはロシアの侵攻を難しくしています。)

ここ数年は原油価格が高騰すると、アメリカのシェールオイル生産が増加し、価格は一定に抑えられるという市場メカニズムがありましたが、昨今の脱石油の流れのなかでシェールオイルへの投資が停滞し、このメカニズムが働きにくくなっていることも価格高騰に繋がっています。

そうなると、現在の供給不足をカバーできるのはイランです。そのことがイランの核合意協議を促すことにもなります。

****地政学リスクで100ドル超えが確実となった原油価格****
米WTI原油先物価格は1バレル=90ドル台前半で推移している。7年5カ月ぶりの高値水準だ。「ロシアのウクライナ侵攻が迫っている」との観測が相場を押し上げている。ロシアが侵攻すれば、欧米諸国は経済制裁を科し、ロシアから欧州へのエネルギー供給が止まるという事態が現実味を増しているからだ。

天然ガスの大輸出国であるロシアは原油輸出の大国でもある。ロシアの原油輸出量は日量約500万バレル、そのうち約6割は欧州向けだ。世界の原油生産量(日量約1億バレル)の3%を占めるロシアから欧州への原油輸出が停止すれば、原油価格が高騰するのは必至だ。

だが原油輸出が止まるのはロシアにとっても大打撃だ。天然ガスに注目が集まっているが、ロシア経済を支えているのは天然ガスではなく原油だからだ。旧ソ連が崩壊した要因の1つに1980年代後半の原油価格の急落が指摘されている。

仮に原油価格が高騰したとしても、原油の大半を輸出できなければロシア経済は急激に悪化し、国庫も火の車となる。欧米以上に国内のインフレが深刻化し、長期政権に対する国内の不満が高まる中で、プーチン大統領がこのような「火遊び」をするだろうか。

いずれにせよ、今後しばらくの間はウクライナを巡る緊張状態が原油相場を牽引する要因になることは間違いない。

増産目標を履行できないOPECプラス
(中略)OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成される組織)は協調減産を開始して以降、生産量が目標を上回った月はわずかだったことから、「OPECプラスは増産目標を履行できない。増産余力を有するのはサウジアラビア、UAE、イラクなどに限られている」との見方が広がっている。

OPECプラスは「生産を徐々に回復させる」とのメッセージを発することで原油価格をコントロールしてきた。だが増産目標が達成できないことがわかったことで、OPEC内でも「原油価格は我々の意図に反して1バレル=100ドルを突破する可能性がある」と悲観的になりつつある。

バイデン政権は「必要ならOPECプラスと協議する」と繰り返し述べているが、増産を要請したところで「ない袖」は振れないだろう。

原油高を自ら招いたバイデン政権
原油価格が1バレル=90ドル台に乗っても、世界の原油需要が減退する兆しが見えてこない。「90ドルは始まりに過ぎない」と言わんばかりの勢いだ。

原油高のせいで米国のガソリン価格は1ガロン=3.5ドルと記録的な高値となっている。バイデン政権は1月下旬までに戦略石油備蓄から約4000万バレルの原油を放出したものの、今年に入ってからのガソリン価格高騰を抑制できていない。このままでは今年秋の中間選挙で与党民主党が敗北する可能性が高まるばかりだ。

皮肉なことに「足元の原油高に最も貢献したのはウクライナを巡る地政学リスクを喧伝したバイデン政権だ」という見方もできる。ロシアへの強硬姿勢が政権の求心力を高めるどころか、自らの首を絞める事態を招く構図となってしまっている。

原油価格が直近で1バレル=100ドル台だったのは2014年だ。当時は高油価の後押しを受けて米国のシェールオイルの生産が急増したことで、原油価格は鎮静化した。だが米国の原油生産量は日量1150万バレル前後とコロナ前の水準に遠く及ばない。

(中略)2月4日、米ウォール・ストリート・ジャーナルは「米国のシェール企業にブームの終わりが見えてきた」と報じた。シェール革命によって米国が世界最大の原油生産国になってか3年半足らずで、テキサス、ニューメキシコ、ノースダコタ各州の油田に携わる企業は既にそれぞれが保有する最優良油井の多くを採掘してしまったというのがその根拠だ。

この指摘が本当だとすれば、リグ稼働数が増えたとしてもこれまでと同じペースでは米国の原油生産量は増加しないことになる。国内のガソリン高を抑制する特効薬にはならないのではないだろうか。

自らが招いた原油高に苦しむバイデン政権にとって、残されたカードはイランとの交渉しかないという状況になりつつある。主要産油国の増産余力が限られる中で、米国の制裁により世界の原油市場から閉め出されているイランのみが日量100万バレル以上の原油の増産が可能だからだ。

そのせいだろうか、バイデン政権は2月に入り、核合意再建に関するイランとの直接協議に前向きな姿勢を示し始めている。ロシアのラブロフ外相が2月14日、「イラン核合意再建に向けた協議に目に見える前進があった」と述べたことで原油価格は一時下落した。
 
だが、米国とイランとの間で合意が成立する可能性は高いとは言えないだろう。ロシアとの緊張関係に対処することでいっぱいのバイデン政権に、イランとの交渉に真剣に臨むだけの余裕はない。さらに共和党をはじめ根強い対イラン強硬勢力が米国内に存在しており、国内で求心力を失いつつあるバイデン政権がイランとの妥協を成立させられるだけの政治力があるとは思えないからだ。(後略)【2月18日 藤 和彦氏 JBpress】
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【イラン核合意再建に向けた協議に前進 制裁でイラン経済は疲弊】
あまり進展がなかったアメリカのイラン核合意復帰協議に動きが報じられています。上記のような背景があってのことでしょうか。

****イラン核合意の協議大詰めか 手続き草案大筋合意とロイター報道****
ロイター通信は17日、イラン核合意の正常化に向けた主要国の協議で、段階的な手続きを定めた草案が大筋でまとまったと報じた。複数の外交筋の話として伝えた。米国とイランが妥結に向けて歩み寄る可能性もあり、協議は大詰めを迎えている模様だ。
 
米国務省の報道担当者も17日、米・イランの間接協議について「先週に実質的な進展があった」と述べ、「イランが真剣な態度を示せば、近日中に合意が可能」と強調。逆にこの機会を逃せば正常化が「危うくなる」と指摘した。
 
草案では第1段階として、イランが5%を超えるウラン濃縮活動を停止▽米国の経済制裁の影響で韓国で凍結されているイラン資産の凍結解除▽イランが拘束する欧米人の解放――などを実施すると規定。米・イラン双方による一連の措置が実施された後、米国がイラン産原油の禁輸を含む制裁解除に着手するという。
 
核合意は2015年に米英仏独露中の6カ国とイランが結んだ取り決め。イランが核開発を制限する見返りに米欧側が制裁を一部解除する約束だった。だが18年にトランプ前米政権が合意から一方的に離脱し、制裁を再開。反発したイランは19年以降、合意による制限を超えるウラン濃縮などを進めてきた。昨年4月以降、欧州などの仲介でバイデン政権とイランが正常化に向けた「間接協議」をウィーンで続けている。
 
協議は大詰めだが、イランが米国に再離脱しないよう保証を求めている点などが課題として残っているという。【2月18日 毎日】
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まだまだハードルはありますが、イランも長年の制裁で疲弊しているのは間違いないところで、制裁が解除できないと困窮する市民の不満が暴発しかねません。

イラン経済疲弊を端的に示す事例が飛行機。イランの飛行機は古い飛行機から部品取りしてなんとかしのいでいますが、いずれそれも限界に。

****航空機が折り重なるイラン空港の異様な衛星画像は何を意味するのか****
<そこは経済制裁下で40年間、古い飛行機のつぎはぎで運行してきた解体の現場、航空機の墓場だ。飛べなくなるのも時間の問題かもしれない>

アメリカなど西側諸国から経済制裁を受けながら生き延びるのは容易ではない。イランの航空会社がそのいい例だ。厳しい制約のなかでなんとか運航を続けているが、イランの空港に駐機している数多くの航空機の画像がインターネットで公開され、波紋を広げている。(後略)【2月9日 Newsweek】
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【資金力低下で対外的影響力にも陰り】
国内の市民生活困窮だけでなく、国際的にも周辺地域へのイラン影響力にも陰りが見えます。カネがない以上、仕方ないところ。

イランの支援を受けているイエメンの反政府勢力フーシ派・・・ということも、イランのフーシ派へのコントロールが効かなくなっているのではとの見方もあります。

****UAE攻撃のフーシ派、イランが統制に苦慮か****
イエメンのシーア派武装組織フーシ派がアラブ首長国連邦(UAE)に攻撃を繰り返している問題で、フーシ派の後ろ盾であるイラン政府内部から困惑の声が漏れている。有力な指導者の死亡や資金力の低下で、イランの影響圏である「シーア派の三日月」地帯で代理勢力への統制力が弱まっている可能性がある。

「ライシ大統領は激怒している」。フーシ派が1月17日、24日に相次いでUAEの首都アブダビに攻撃をしかけた事件について、日本経済新聞の取材に応じたイラン大統領府の高官は明かした。イランによる事前の了承はなかったとし、フーシ派による単独行動だと主張した。

フーシ派は31日未明にもアブダビや金融センターのドバイにミサイルやドローンによる攻撃をしかけたと発表した。ミサイルは撃墜され被害は出ていないが、フーシ派はさらなる攻撃を予告。「UAEは安全な国ではない」とのイメージを広げ、外国企業などに揺さぶりをかけようとしている。

一連の攻撃にイランは表向き沈黙している。UAEとは対立しているが、最近では雪解けの動きが見えていた。イランの文化相は1月中旬、ドバイで開催中の万博を訪問した。イラン国営メディアはフーシ派による攻撃が始まる前の1月、UAE側がライシ師を2月に自国に招待したと報じていた。訪問が実現すれば約15年ぶりだ。

イラン革命防衛隊の幹部は取材に対し「フーシ派ははしごをはずされることを恐れている」と語った。フーシ派はイランの後押しを受けてサウジアラビア、UAEなどとの代理戦争を戦う当事者だ。イラン国内は一枚岩でないが、UAEとの緊張緩和を望む政府がフーシ派に手を焼いている状況が浮かぶ。

イランは同じイスラム教シーア派の住民が多い周辺国に影響力を行使してきた。イエメンに加え、イラク、シリア、レバノンにまたがる一帯は「シーア派の三日月」と呼ばれる。イランの代理勢力は各国でアラブ諸国や欧米が支援するスンニ派やキリスト教徒などと権力を争い、武力衝突や内戦にも発展してきた。

だが、三日月には陰りも見える。イランの隣国イラクでは2021年10月の選挙後、シーア派同士で激しく対立して政権発足が難航している。英王立国際問題研究所のレナード・マンスール氏は「イラク各勢力に対するイランの調整力の低下があらわになっている」と分析する。【2月2日 日経】
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国内経済的にも、対外的影響力維持のためにもイランは制裁解除を何としても実現したいとろですが、反米保守強硬派の政治的立場から安易な譲歩・妥協はできない、アメリカから譲歩を勝ち取ったという形でないと・・・ということで、そのあたりの調整をどうするのかがハードルになっています。

そこがクリアされて制裁解除・アメリカの合意復帰への道筋が見えてくれば、イラン原油供給への期待から原油市場も一定に落ち着きを見せることでしょう。

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