(3月22日、ベネズエラの首都カラカスで記者会見に臨むマチャド氏(左)とヨリス氏(AFP時事)【3月23日 時事】 有力な野党統一候補だったマチャド氏は選挙から排除され、その代替候補のヨリス氏は政権側の妨害で登録できませんでした。その後「別の暫定候補者で登録が行われた」との報道もありますが、確認できていません。)
【「マドゥロ大統領が公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だ」(WSJ) 政権側、野党統一候補登録を妨害】
南米ベネズエラのマドゥロ政権・・・・経済失策でハイパーインフレーションを招き、市民生活を3度の食事も満足にできないような危機に陥れ、多くの国外難民を生みながらも、それでも強権支配で今なお健在です。
政権維持が単に力によるものなのか、野党側の対応のまずさによるものなのか、チャベス前大統領以来の強固な岩盤支持層の存在によるものなのか、あるいは、一定の国民に支持されるだけの理由があるのか・・・そのあたりの検証が必要と思われます。
いずれにしても、マドゥロ政権と野党勢力の対話を受けて、2023年10月には、2024年後半に大統領選挙を実施する、いわゆる「バルバドス合意」が成立、7月28日に大統領選挙が行われることになっています。
野党側はマドゥロ政権への激しい対決姿勢から「鉄の女」の異名があるマリア・コリナ・マチャド氏を野党統一候補としました。一部の世論調査ではマチャド氏の支持率は70%超にも及んだとか。
そして懸念されたように政権側は彼女の出馬を認めませんでした。
保守系のアメリカWSJ紙は「マドゥロ大統領が公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だ」と批判している・・・・このたりの話は、1月28日ブログ“ベネズエラ 大統領選を今年後半実施で与野党合意したものの、早くも暗礁に”で取り上げました。
ロシアにしても、カンボジアにしても、ベネズエラにしても、一応「選挙」という形式はとるものの、強権支配者を脅かすような者はいろんな理由をつけて選挙から排除される・・・残念ながら、珍しくもない“よくある話”です。
野党側は、マチャド氏が出馬を断念し、代替候補を急遽擁立することに。「マドゥロ大統領が公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だ」と言われても、野党側としては選挙で戦うしか道がありません。
****野党、代理候補が大統領選出馬へ ベネズエラ、公正な選挙困難****
7月のベネズエラ大統領選への立候補を禁じられた野党統一候補マチャド元国会議員は22日、自身の代理として大学教授コリナ・ヨリス氏が出馬すると表明した。国内外のメディアが伝えた。
独裁色を強め3選を目指すマドゥロ大統領の圧力により、有力候補マチャド氏の出馬が阻まれた形で、公正な選挙実施は困難な状況にある。時間が限られる中、知名度に劣るヨリス氏がどこまで浸透できるかが選挙戦の鍵となりそうだ。
マチャド氏は首都カラカスで記者団に、ヨリス氏を「全幅の信頼を寄せる人」と紹介し「マドゥロ氏に勝利するための大きな一歩」と強調した。【3月23日 共同】
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ところが、この代替候補の登録も政権側に阻まれ、一時は絶望視されました。
野党連合に与えられたログインIDやパスワードでは登録画面に進めないといった“不具合”で、オンライン登録もできない。書類を持ち込もうとしても、当局が登録所周辺を封鎖して、実際に来て登録することもできない。
あまりに露骨な妨害工作に「そこまでやるか?」という感もありますが、そのあたりが強権支配の強権たる所以でしょう。
【“別の暫定候補者で登録が行われた”との報道もあるものの未確認】
それでも、どういう経緯によるものなのかはよくわかりませんが、なんとか別の候補での登録はギリギリで出来たという報道も。
****「公正な選挙」に暗雲=有力対抗馬の登録、紆余曲折―ベネズエラ****
南米ベネズエラで7月に予定される大統領選が、与野党合意に基づく「自由で公正な選挙」となるか危ぶまれている。
25日に締め切られた候補者登録では、反米政権を率いる現職マドゥロ大統領(61)の有力な対抗馬と目される野党連合の候補が紆余(うよ)曲折の末に登録を完了。米国をはじめ国際社会から懸念の声が相次いだ。
野党連合の指導者マリア・コリナ・マチャド氏は26日に記者会見し、候補として擁立した大学教授のコリナ・ジョリス氏(80)に関し、オンラインで手続きを行ったが、選管に登録できなかったと説明。「80歳の女性学者との競争を拒否した」と政権を批判した。
その後、野党連合はX(旧ツイッター)に、選管から「登録の延長」が認められ、別の暫定候補者で登録が行われたと投稿。4月20日までは、候補者の差し替えが可能となっている。【3月27日 時事】
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ただ、このあたりは情報が少なく(上記【時事】以外では、「別の暫定候補者で登録」という件は見ていません)、本当に野党統一候補の登録が認められたのか・・・よくわかりません。(上記【時事】も、現在はネットで確認できません)
スタート時点でこういう状況ですので、選挙の公正さはほとんど期待できないでしょう。
極論すれば、政権側はどのような“得票結果”でも作り出すことができる・・・。そして「国民に支持された」として政権の正統性を誇示する・・・
“時間の無駄”かもしれませんが、別の暫定候補者で登録が行われたのであればやるしかありません。政権の不当性を国民と国際世論に訴えるためにも。
【アメリカの制裁緩和措置の今後は?】
アメリカは昨年10月、マドゥロ政権が野党勢力と協議したことを受けて、ベネズエラに対する制裁の一部を一時的に停止しました。
その後、今年1月には、ベネズエラからの石油や天然ガスの輸入などに対する半年間の期限付き認可について、大統領選挙への野党勢力の参加を認めない限り期限の4月18日に更新しないとしています。
とにもかくにも、もしギリギリで野党候補登録が可能になったのであれば、こうしたことが背景にあってのことでしょうか?
政権側としては最後は認めるものの、時間切れ直前まで圧力をかけることで、極力“戦いやすい相手”に差し替えさせる・・・という戦略?
上記のような期限直前まで野党統一候補が選挙から排除される事態に、アメリカの制裁が前面復活するのではという予測から、駆け込み需要も発生しているようです。
****ネズエラ石油輸出が4年ぶり高水準、米制裁緩和期限前に駆け込み購入か****
ベネズエラの3月の石油輸出が2020年初め以来約4年ぶりの高水準に達したことが、国営石油会社PDVSAの文書や船舶データから明らかになった。
米国が対ベネズエラ制裁緩和措置として発行した石油取引ライセンスが18日に期限を迎えるのを前に、顧客が駆け込みで購入手続きを行った公算が大きい。
米政府は、年内に予定されているベネズエラ大統領選で野党候補が出馬できないのではないかとの見方が広がる中で、公正な選挙を条件に認めたライセンスを延長しない可能性を示唆している。
LSEGの船舶データからは、2月以降はベネズエラの取引相手やタンカー所有者らがライセンス打ち切りの事態に備え、石油を確保しようとしている様子が分かる。(後略)【4月2日 ロイター】
米国が対ベネズエラ制裁緩和措置として発行した石油取引ライセンスが18日に期限を迎えるのを前に、顧客が駆け込みで購入手続きを行った公算が大きい。
米政府は、年内に予定されているベネズエラ大統領選で野党候補が出馬できないのではないかとの見方が広がる中で、公正な選挙を条件に認めたライセンスを延長しない可能性を示唆している。
LSEGの船舶データからは、2月以降はベネズエラの取引相手やタンカー所有者らがライセンス打ち切りの事態に備え、石油を確保しようとしている様子が分かる。(後略)【4月2日 ロイター】
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もし野党候補の登録ができたということであれば、このアメリカの裁緩和措置緩和が更新されるのか・・・よく知りませんが、今後のマドゥロ政権への圧力を継続するためには、一応更新して様子を見るということになるのかも。
登録できなかったのであれば、緩和措置は終了でしょう。
【隣国ガイアナの石油資源を狙い強硬姿勢】
ベネズエラは以前からガイアナ西部を自国領土と主張してしましたが、ガイアナ沖合での大規模油田発見を契機に、マドゥロ政権は力による併合も辞さない構えを見せています。
****ベネズエラ、ガイアナ国境に軍配備 石油資源狙う****
南米ベネズエラは隣国ガイアナで発見された大型油田へのアクセスを狙い、軽戦車、ミサイル搭載哨戒艇、装甲輸送車を国境に配備し、ガイアナ西部を併合するという主張を推し進めている。米バイデン政権にとっては安全保障上の新たな課題が急浮上した格好だ。
軍配備の状況は9日公表された衛星画像のほか、ベネズエラ軍が先ごろソーシャルメディアに投稿した動画で確認できる。
ガイアナで新たに発見されたエネルギー資源に影響力を振るおうと、ベネズエラ政府は取り組みを活発化させている。
ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領とガイアナのイルファーン・アリ大統領は昨年12月、武力行使を回避し、領土紛争の解決に向けて合同委員会を設置する合意書を交わしたが、それに真っ向から反する動きだ。
ベネズエラ政府は昨年終盤から、ガイアナの国土の3分の2を占める、大半が密林に覆われた西部エセキボ地域を自国の領土だとする主張を強めている。ベネズエラ軍には最大15万人の現役兵士がおり、同盟国ロシアに提供された現代兵器を備えている。
ガイアナは米エクソンモービル主導のコンソーシアムが同国沖で油田を発見して以来、世界で注目を集めるエネルギー開発の前線になった。こうした中、ベネズエラは軍配備や好戦的な主張を繰り広げている。旧英国領のガイアナは人口約80万人で、国防軍の総人員はわずか3000人だ。
ガイアナ外務省は、軍配備についてのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の質問に「ベネズエラの不誠実さは意外ではない」とし、「失望したが、驚きではない」と返答した。
ベネズエラ情報省は電話と電子メールでのコメント要請に応じていない。同国は、米国が昨年12月にガイアナで軍事演習を実施し、英国がガイアナ水域に哨戒艇HMSトレントを配備したことに対し、自国の防衛を強化したとしている。【2月10日 WSJ】
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****エキセボ地域帰属を巡る争い 南米のベネズエラとガイアナ****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領は4月3日、首都カラカスの立法院で、隣国ガイアナのエセキボ地域をベネズエラ領に組み入れる法的枠組みを確立する法案に署名した。
両国は、石油などの地下資源が豊富な同地区の帰属を巡って、長年争っている。 ベネズエラは、19世紀の終わりに現在の国境が画定された際に、エキセボ地域は盗まれたと主張している。
立法院で行われた式典でマドゥロ大統領は、この法律によってベネズエラは国際的な場で、自国の主張を守ることができるようになると述べた。
一方のガイアナは、ベネズエラ政府が制定した新法、協議による住民投票、その他の行動を併合への一歩とみなしている。
ベネズエラは長年、ガイアナの面積の約3分の2を占めるミネラル豊富なエセキボ地域の領有権を主張してきた。 これに対してガイアナは、1899年の国際境界委員会が国境画定に決着をつけたと反論している。
しかし、ベネズエラはこの画定に不備があったとして、60年以上無効を主張してきた。【4月4日 AP】
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このベネズエラとガイアナの領土問題にアメリカが絡んできます。(・・・と、マドゥロ大統領は主張しています)
****ガイアナとの係争地に米が「秘密軍事基地」設置 ベネズエラ大統領****
南米ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は3日、同国が領有権を主張している、石油資源が豊富なガイアナのエセキボ地域に米国が「秘密軍事基地」を設置したと非難した。
マドゥロ氏は「ガイアナの暫定管理下にある『グアヤナエセキバ』地域に米南方軍、中央情報局の組織が秘密軍事基地を設置したとの情報がある」と語った。
その上で、基地はベネズエラ南・東部の住民に対する「侵略」であり、係争地をめぐる対立をあおろうと準備していると述べた。
マドゥロ氏はさらに、ガイアナのイルファーン・アリ大統領は自国を統治していないと主張。「ガイアナは米南方軍とCIA、(米石油大手)エクソンモービルに支配されている」と語った。
エセキボ地域はガイアナ領の約3分の2を占め、1世紀以上にわたり同国が管理している。しかし、エクソンモービルが2015年に同地域の沖合で油田を発見したのを受け、ベネズエラとの対立が鮮明となっている。 【4月4日 AFP】
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マドゥロ大統領の強硬姿勢はロシアのウクライナ侵攻を念頭に置いたものでしょう。
“人口約80万人で、国防軍の総人員はわずか3000人”というガイアナに侵攻するのはウクライナ以上に容易でしょうが、当然欧米の強い反発を招きます。特にアメリカとの関係。
すでに制裁も課されている状況で、今更・・・とも言えますし、そうは言ってもアメリカとの経済関係を完全に断ち切りたくもない・・・アメリカ以外との取引にも影響する制裁強化も困る・・・
ロシア同様に石油資源輸出が国を支えるベネズエラ・マドゥロ政権がどこまで本気でそうした暴挙に出るのか、出ないのか・・・。