(【2023年8月21日 中東協力センター】UAEが標榜する「寛容」の象徴として、2023年3 月、アブダビにイスラム教、ユダヤ 教、キリスト教の3宗教の礼拝所 を近接して配置した統合的宗教 施設アブラハム・ファミリー・ハウス が開館 )
【急減した中国のアフリカ向け融資】
中国にとってアフリカは毛沢東の時代から、協調して欧米先進国に対抗する、国連などの場において支持国を確保するといったことで非常に重要な位置づけにあり、歴代政権はアフリカ外交を重視してきました。
習近平国家主席の「一帯一路」においても同様でしたが、「一帯一路」の方針が“大盤振る舞い”から経済合理性を重視するものへと変化するなかで、中国のアフリカ向け融資も急減しています。
****中国のアフリカ向け融資が急減、過去20年で最低に―独メディア****
2023年9月24日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国によるアフリカ向けの融資規模が急速に縮小しており、融資額がこの20年で最低水準になったと報じた。
記事は、ボストン大学グローバル開発政策センターの「グローバル・チャイナ・イニシアチブ」が発表した最新の調査で、昨年の中国による対アフリカ融資額が10億ドル(約1480億円)を下回って過去20年間で最低水準となったことが分かり、同センターが「この研究は、中国が数十年続けてきたアフリカ大陸におけるインフラブームから脱却しつつあることを浮き彫りにしている」と論じたことを紹介した。
そして、アフリカが中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が2013年に始めた「一帯一路」構想の焦点となっており、ボストン大学の調査によると2000年から22年までに中国がアフリカに1700億ドル(約25兆円)の融資を行ったと推定される一方、融資規模は16年にピークを迎えた後急速に減少し始めており、昨年合意に至った融資案件は9件、融資総額は9億9400万ドル(約1480億円)で、04年以来の低水準にとどまったと伝えている。
中国の対アフリカ融資が急速に縮小している理由について記事は、アフリカ諸国の債務負担の深刻化と中国経済の悪化の2点を指摘。
中国による対アフリカ諸国インフラプロジェクトをめぐって欧米の専門家の間で「中国が貧しい国々に持続不可能な債務負担を負わせている」と論じられてきた中で、20年に東アフリカのザンビアが債務不履行に陥り、ガーナ、ケニア、エチオピアといった国々もまた債務の泥沼に苦しんでいるとした。
また、中国も不動産市場の低迷、不安定な人民元為替レート、世界的な中国製品需要の低下など多くの問題を抱えているとし、これまでアフリカ向け融資の大部分を担ってきた中国開発銀行と中国輸出入銀行が戦略を転換し、国内の成長サポートを重視するとともに、海外向け融資も自国に近い市場に向けるようになったと伝えた。
記事はその上で「融資額の減少は必ずしも中国のアフリカへの関与の終わりを意味するものではない」とし、 中国のアフリカ向け支援や「一帯一路」構想が従来のインフラ建設重視から質の高さや環境への配慮といった点を強調するようになったことの表れであるとの見方を示している。【2023年9月25日 レコードチャイナ】
******************
ただ、今も多くの中国企業がアフリカで活動しており、“中国からの融資が大幅に減少しても両者は依然として相思相愛の状態にある”とも。
****中国とアフリカの関係に変化、中国からの融資が激減―仏メディア****
2024年1月8日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、中国がアフリカとの関係を変化させ、融資を大幅に削減していると報じた。
記事は、中国とアフリカ大陸の関係は転換期を迎えており、中国によるサハラ以南アフリカ諸国への中国からの融資が大幅に減少しているとする仏紙ル・モンドの8日付報道を紹介。
国際通貨基金(IMF)が昨年10月に発表した報告書の中で、中国とアフリカの関係は「岐路に立っている」と表現したほか、同6月に中国湖南省で開催された中国・アフリカ経済貿易博覧会(CAETE)でも契約プロジェクト総額が約100億ドル(約1兆4400億円)と、19年に開かれた前回の半分にも満たなかったと伝えた。
そして、変化の背景に中国が国内経済の減速という困難に直面していることがあり、不動産危機、若者の失業、輸出減少の影響を受けて中国が現実予算主義に転じていると指摘。あらゆる資金源が枯渇する中、中国による融資縮小はアフリカにとっては非常に頭の痛い問題だとした。
一方で、「評判を守りたい中国も、アフリカの政府を崩壊させるようなことはしたくない。また、アフリカに対する中国の関心は低下していない」との見方を示し、建設、エネルギーから電気通信に至るまで、数多の中国企業が自らの力でアフリカ市場に進出していると指摘する専門家もいることを紹介した。
その上で、20年間アフリカ各地を渡ってきた欧州の政府関係者が「今では、すべての公共入札に中国企業が参加している。技術的には、中国企業のオファーは欧州とほぼ同等であるものの、欧州の駐在員は現場から離れた冷房完備のホテルを求めるのに対し、中国の駐在員は現場付近の小屋で寝ることを良しとするため、中国人が市場の大半を占めつつある」と語ったことを伝えている。
記事は、中国がアフリカ大陸に注目し続ける理由について、天然資源へのアクセス確保と現地政府の囲い込みという二つの点が少なくとも存在するとし、現時点で中国側の思惑は奏功していると紹介。
そして、アフリカ政府も中国がこれ以上支援から手を引くようなことを望んでおらず、中国からの融資が大幅に減少しても両者は依然として相思相愛の状態にあるとする一方で「アフリカの中国に対する依存度が、中国のアフリカに対する依存度よりもはるかに大きい」という非対称性も今後さらに続くことになるだろうとした。【2024年1月11日 レコードチャイナ】
*******************
【中東産油国、特にアラブ首長国連邦(UAE)からアフリカへの資金が増加】
中国からの融資が減少するなかで、それを埋めるかのように増加しているのが中東産油国、特にアラブ首長国連邦(UAE)からの資金とのこと。
****〈中東産油国が進めるアフリカへの投資〉東西ではない、新興国も参戦する争奪戦****
Economist誌3月16日号の社説‘The Gulf’s scramble for Africa is reshaping the continent’が、最近の経済面及び外交面での湾岸諸国のアフリカ進出の拡大を中国の台頭にとって代わるものとして期待することは、特にアラブ首長国連邦の動きに鑑みれば危険なことだと警告している。要旨は次の通り。
冷戦時代、アフリカの指導者たちは、しばしば西側かソ連のいずれか味方し、援助や武器、投資等彼らが望むものを引き出した。冷戦終結後、道路や港湾の建設を望む場合は中国と取引した。
今日では、ブラジルやインド、トルコなどの中堅大国が経済面及び外交面で進出してきている。しかし、最も衝撃的なのは、アラブ首長国連邦(UAE)、それに次いでサウジアラビアとカタールの突出である。アフリカをめぐる湾岸諸国の影響力争いは、大きな経済的利益をもたらすと同時に恐ろしい戦争の火種にもなりかねない。
湾岸諸国の影響力はお金に由来する。11月、サウジアラビアは初のアフリカ・サミットを開催し、数十億ドルの投資を発表したが、それさえも 2022年に米国企業の投資の7倍に相当する投資を表明したUAEに比べれば小さく見える。
それ以前の10年間は、UAEのアフリカへの投資は、中国、欧州連合(EU)、米国に次いで4位であった。20年と21年、ドバイのサブ・サハラ・アフリカとの貿易額は米国を上回り、ドバイは、財産権の保障が確実で金融規制が緩いこともあり、2万6000以上のアフリカ企業が進出している。
資金不足に直面するアフリカ諸国にとり注目を浴びることは利益をもたらすだろう。22年までの4年間で、アフリカに供与された中国の新規融資は、その前の4年間に比べ80%も減少し、欧米の援助に占めるアフリカの割合は、ウクライナ戦争の影響で減少している。欧米の政府関係者には、中国の手に渡ってしまうかもしれない鉱山への投資を湾岸諸国が行うことで、そのギャップを埋め、地政学的なライバルを出し抜く手助けになることを期待するものもいる。
しかし、アフリカを湾岸諸国の野心と競争の舞台とすることは、大きなリスクを伴う。湾岸の王国独裁国家は、アフリカの民主主義の擁護者でも人権の擁護者でもない。UAEは軍閥を武装させ、混乱を広げ、腐敗したエリートたちに避難所を提供する危険な国である。
そのもっとも典型的な例がスーダンであり、UAEが大量虐殺を行う民兵組織である即応支援部隊(RSF)を支援し国軍と内戦を繰り広げており、約2500万人が援助を必要とする世界最大の人道危機となっている。UAEの友人には、RSF指導者のダガロ、リビアの軍閥ハフタル、チャドのクーデターで権力を握ったマデビ、そしてエチオピアで血なまぐさい内戦を繰り広げたアビイなどがいる。
石油と天然ガスの富は、UAE、サウジアラビア及びカタールが何年にもわたって魅力あるパートナーであることを意味する。しかし、スーダンとリビアから広がる騒乱の波紋は、価値観を共有しない国々にアフリカ政策を委託することの危険性を西側諸国に警告するものだ。そしてアフリカ諸国は、自らが他国の地政学的ゲームの駒として使われることのリスクを知るべきである。
* * *
UAEの中国、米国、EU超えの可能性
(中略)このような湾岸諸国とアフリカとの急速な関係緊密化の背景には、湾岸諸国側には、脱石油化を念頭にアフリカの将来性への期待、多極化する国際社会における影響力の拡大といった戦略的考慮があるが、そのような動きを後押しする太古からの歴史的な繋がり、地理的近接性、イスラム教を通じた連帯や文化的な親和性などの基礎的な要素もある。
アフリカ側から湾岸諸国の投資が歓迎される理由としては、潤沢な資金、意思決定の迅速性、欧米のような上から目線でないことなどが指摘されている。これらの要素を勘案すると、関係緊密化の傾向は一時的なものではなく持続性があり、まさにアフリカの在り方を変える可能性があろう。
負の面の要素は、この社説が後段で触れているアフリカの独裁政権や一方の紛争当事者への支援といった特に政治的介入とアフリカの支配者層との好ましくない癒着である。特にUAEが資金や武器面で支援しているとされる、リビア、エチオピア、チャド、スーダンの政治指導者は、人権尊重や民主主義とは対極的な存在である。
また、経済的繁栄を謳歌しているドバイの裏の面として、違法採掘された金の流出先となってこれら指導者の資金源となっているとの疑いや、ドバイ進出のアフリカ企業数が26,000を超えるというのも驚きであるが、ドバイの不動産がアフリカ・エリートの蓄財に活用されているとの報道もあり、このような面でのアフリカのガバナンスの低下が懸念される。
湾岸諸国への関与の必要性
アフリカの安定は欧州をはじめ世界の安定や発展にとり重要であり、テロの温床となるイスラム過激派を押さえ、政治的安定や民主主義、健全な経済発展に障害となるような中国の経済進出やロシアの軍事的影響力拡大に対抗する必要がある。
他方、サヘル地域等では、フランスの影響力が駆逐され、マリ、ブルキナファソに続き米国の重要拠点であったニジェールもクーデターにより、米国からロシアとの協力強化に舵を切ろうとしている。
このような状況において、西側諸国としては、多極化する世界の中でアフリカに関与して自らの地位を高めようと競争するUAEやサウジアラビアとの連携を模索することが望ましいのではなかろうか。
湾岸諸国は、建前上、米国か中国・ロシアかのいずれの側にも与さない立場であろうが、少なくともロシアや中国との協調に向かわないようには留意すべきであろう。そのためには、米国を中心に西側諸国と湾岸諸国の対話と協力関係の強化が必要であり、またアフリカのそれぞれに事情の異なる国ごとにきめの細かい分析と対応が必要である。【4月10日 WEDGE】
*********************
【アラブ首長国連邦(UAE)とはどんな国?】
今更の話ですが、サウジアラビアとセットで語られることも多いアラブ首長国連邦(UAE)ってどんな国?
アブダビとドバイ、そしてその他五つ、合計七つの首長国の連邦国家ですが、それぞれの首長国は絶対君主制政。
*******************:
連邦の最高意思決定機関は連邦最高評議会(FSC、Federal Supreme Council)で、連邦を構成する7首長国の首長で構成される。結党は禁止されており、UAEには政党が存在しない。
議決にはアブダビ(首都アブダビ市がある)、ドバイ(最大の都市ドバイ市がある)を含む5首長国の賛成が必要になる。
憲法規定によると、国家元首である大統領、および首相を兼任する副大統領はFSCにより選出されることとなっているが、実際には大統領はアブダビ首長のナヒヤーン家、副大統領はドバイ首長のマクトゥーム家が世襲により継ぐのが慣例化している。閣僚評議会(内閣相当)評議員は、大統領が任命する。【ウィキペディア】
********************:
UAE原油の大部分を産出するアブダビと、貿易、観光及び金融に力を入れているドバイの2首長国が、政治・経済・軍事の面で主導権を握っているといえます。
“連邦予算は8割がアブダビ、1割がドバイ、残りの1割は連邦政府の税収によって賄われており、残りの5首長国の負担額はゼロである。事実上、アブダビが北部5首長国を支援する形になっていると言える。”【ウィキペディア】
政党もない絶対君主制、リビア、エチオピア、チャド、スーダンなどを資金・武器で支援・・・欧米的価値観とは異なる国ですが、UAEの政治システム自体は中東・アフリカ世界にあっては“クリーン”と言えるようです。
****腐敗認識指数ランキング、中東・北アフリカではUAEが最もクリーンとの結果****
世界各国の腐敗や汚職を監視する国際的なNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」は1月30日、「2023年度腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index:CPI)ランキング」(注1)を発表した。
ランキングは世界180カ国を対象としており、腐敗・汚職が少ないほど高位となる。中東・北アフリカ地域では、アラブ首長国連邦(UAE)が26位で最も高く、クリーン(腐敗していない)とされており、イスラエルが33位、カタールが40位と続いた。
UAEとカタールのほかの湾岸協力会議(GCC)加盟国は、サウジアラビが53位、クウェートが63位、オマーンが70位、バーレーンが76位だった。中東・北アフリカの指数で180カ国中100位以内の国は次のとおり(かっこ内は前年からの変動)。(中略)なお、首位はデンマーク、日本は16位だった。【2月14日 JETRO】
*********************
資金面でのアフリカなど世界各地における存在感、紛争国・強権支配国への資金・武器支援の他、イスラエルとの国交正常化の口火を切るなど国際政治面でも注目されます。
2020年8月13日にUAEとイスラエルの国交正常化合意が発表され、その1カ月後、9月11日にはバハレーンが国交正常化合意を発表し、スーダンとモロッコもこれに続いた・・・いわゆる「アブラハム合意」です。
昨年の国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)においては、産油国ながら、「化石燃料からの脱却」に向けた会議の議長国としての役割を果たしています。
その外交姿勢はアメリカに追随することのない独自のものがあります。
*******************
中東有数の経済国であるUAEにとって、軍事的緊張の高まりは最も避けなければならない事態だ。イランを中心に中東地域の緊張が強まる中、UAEは融和策に舵を切った。
2020年にはイスラエルと国交を樹立し、その後イランやカタール、トルコなど対立していた周辺国との関係も正常化させた。いまやUAEは、地域の主要国と積極的かつ戦略的にバランスをとっている。
また、アメリカの同盟国でありながら、同国と対立する中国やロシア、シリアとの外交的・経済的関係も拡大している。
例えば対中関係では中国製の5G(第5世代移動通信システム)技術を導入し、アブダビの港湾では中国による軍事施設の建設を進めていると報じられている。
アメリカはUAEとこれらの国々との関係に懸念を示し、是正の申し入れをしているが、UAEは意に介していない。【2023年11月2日 二階堂遼馬氏 東洋経済オンライン“「脱アメリカ依存」進める湾岸諸国の巧みな交渉術多極化する世界で「存在感」が増している”】
************************
駐アラブ首長国連邦大使 磯俣秋男氏によれば
*********************
日本の国益から見たUAEの特色
(1)石油・ガス資源国なるも脱炭素化も強力に推進 →エネルギー安定供給源であり、脱炭素化への取組・貢献のパートナー
(2)政治・社会の安定の下、開放性や良好なビジネス環境を基に経済 多角化・ハブ機能拡大 →潜在性、資金力等を有する中東・アフリカ向けビジネス展開のパートナー
(3)対話と経済交流をベースにした緊張緩和を推進する外交を志向・展開 →中東外交における安定的パートナー。グローバルな課題でも協働可能
UAEの外交~「寛容」の精神・政策に基づく対話外交
• UAEが標榜する「寛容」のイスラム価値観を外交面でも発揮
•「寛容」の精神・政策は、経済面ではUAEのビジネス環境整備、投資誘致、ハブ機 能強化も促進
「寛容」の象徴として、2023年3 月、アブダビにイスラム教、ユダヤ 教、キリスト教の3宗教の礼拝所 を近接して配置した統合的宗教 施設アブラハム・ファミリー・ハウス が開館 【2023年8月21日 中東協力センター】
*******************
とのことです。もちろん、ポジティブな面に焦点をあてれば・・・ということですが。