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(【8月6日 TBS NEWS DIG】)
【アメリカとの防衛協力を強化するマルコス政権 南シナ海をめぐり中国との間で高まる緊張】
南シナ海における中国とフィリピンの領有権をめぐる争いは以前からのもので、2014年には中国がその範囲内の南シナ海の領有権を主張するいわゆる「九段線」について、フィリピンは国際海洋法条約の違反や法的な根拠がないことを確認すべく常設仲裁裁判所に提訴、2016年7月には、中国が主張する九段線内の歴史的権利について「国際法上の法的根拠がなく、国際法に反する」との判決が示されました。
ただ、ドゥテルテ前政権は実質的に上記判決を棚上げする形で、中国との経済関係を重視してきました。同時にアメリカとの関係も悪化。
マルコス政権は中国との経済関係は重視しつつも、安全保障面についてはアメリカとの関係を強化。今年に入ると、南シナ海における中国との緊張が高まっています。
2月にはレーザー照射事件が発生。
****フィリピン、中国に自制呼びかけ 海警局船の妨害行為受け****
フィリピン国防省は(2月)13日、中国は強引な行為を慎み、「挑発行為」を冒さないようにすべきだと指摘した。フィリピン沿岸警備隊はこの日、南シナ海で中国海警局の船が妨害行為をしたと非難している。
国防省の報道官は記者団に「人命を危険にさらすような挑発行為を中国政府は慎むべき時だ」と述べた。ガルベス国防相は中国海警局の行為は「攻撃的で危険」と指摘したという。
フィリピン沿岸警備隊によると、今月6日に南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁にある海軍拠点への補給活動を行う船に対し、中国海警局の船が「軍事級のレーザー」を照射して妨害した。ブリッジにいた乗組員がレーザー照射を受け、一時的に前が見えなくなるなど危険な状況を招いたという。
「フィリピン政府船によるが軍兵士への食料・物資の補給を意図的に妨害したことは、西フィリピン海(南シナ海)におけるフィリピンの主権をあからさまに無視し、明確に侵害している」とした。
中国外務省は、フィリピン政府の非難に関する質問に、海警局は法にのっとって行動していると説明した。(後略)【2月13日 ロイター】
国防省の報道官は記者団に「人命を危険にさらすような挑発行為を中国政府は慎むべき時だ」と述べた。ガルベス国防相は中国海警局の行為は「攻撃的で危険」と指摘したという。
フィリピン沿岸警備隊によると、今月6日に南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁にある海軍拠点への補給活動を行う船に対し、中国海警局の船が「軍事級のレーザー」を照射して妨害した。ブリッジにいた乗組員がレーザー照射を受け、一時的に前が見えなくなるなど危険な状況を招いたという。
「フィリピン政府船によるが軍兵士への食料・物資の補給を意図的に妨害したことは、西フィリピン海(南シナ海)におけるフィリピンの主権をあからさまに無視し、明確に侵害している」とした。
中国外務省は、フィリピン政府の非難に関する質問に、海警局は法にのっとって行動していると説明した。(後略)【2月13日 ロイター】
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フィリピン大統領府は4月3日、アメリカとの「防衛協力強化協定」(EDCA)に基づき、新たに米軍が使用できるフィリピン国内の拠点4カ所を公表しました。南シナ海や台湾における中国を念頭に置いた拠点で、中国側は反発を強めています。
****米軍、台湾近くに3拠点…中国念頭にフィリピンが追加候補発表****
フィリピン大統領府は(4月)3日、比国内で米軍が使用できる追加の4拠点の候補地を発表した。台湾に近い比北部や南シナ海に面したパラワン島近くの拠点が含まれ、海洋進出を強める中国への抑止力強化が念頭にあるとみられる。中国側の反発は必至だ。(中略)
米比は2016年、「防衛協力強化協定(EDCA)」に基づき、米軍が使用できる拠点5か所を指定。今年2月には米国のオースティン国防長官とカリート・ガルベス比国防相が拠点を4か所追加することで合意した。
両国は拠点の整備を本格化させており、3月にはマニラ郊外のバサ空軍基地で滑走路の改修工事が始まった。拠点が整備されれば、米軍はフィリピン各地で装備の備蓄などができ、機動的な部隊展開が可能になる【4月4日 読売】
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なお、マルコス大統領は、「わが国の基地については、攻撃行動への使用は一切認めない。フィリピンが助けを必要とする時に、支援のためだけに使用される」と述べています。
この時期、100隻を超える中国船が集結する事態も。
****南シナ海に「海上民兵」か、中国船100隻以上が集結…退役軍人・漁民で構成****
フィリピン沿岸警備隊は28日、南シナ海の排他的経済水域(EEZ)などで行ったパトロールで、中国軍や中国海警局などを含む中国船計100隻以上を確認したと発表した。
パトロールは18〜24日に行われた。2021年3月に中国船200隻以上が集結したウィットスン礁付近では、100隻以上が確認された。比当局は、中国の退役軍人や漁民らで構成する「海上民兵」が乗っているとみている。(後略)【4月29日 読売】
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4月23日には中比両国が領有権を争うアユンギン礁近くで、中国海警局の船がフィリピン沿岸警備隊の巡視船に約50メートルの距離まで接近し、進路を妨害する“ニアミス”も発生。フィリピンの巡視船が停止し、衝突は寸前で避けられました。
5月に訪米したマルコス大統領はバイデン大統領と会談し、防衛協力を定めたガイドライン(指針)を策定、米比両国の防衛協力体制が強化されました。
****米フィリピン首脳が会談、台湾有事念頭に防衛協力のガイドライン策定****
米国のバイデン大統領とフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は1日、ホワイトハウスで会談した。台湾有事を念頭に米比両軍の相互運用性を向上させるため、両国の防衛協力を定めたガイドライン(指針)を策定した。
共同声明では、太平洋でフィリピン軍の艦艇や航空機などへの攻撃があった場合、「米比の相互防衛条約に基づき防衛義務を発動する」と明記し、南シナ海などで挑発的な行動を続ける中国を強くけん制した。日本を含めた3か国間の協力態勢の構築にも言及した。
バイデン氏は会談で「米国のフィリピン防衛への責任は揺るぎなく、軍の近代化を引き続き支援する」と強調した。米国がC130輸送機3機や巡視船4隻を供与することも表明した。
マルコス氏は「南シナ海やインド太平洋で緊張が高まる中、唯一の条約同盟国との関係を強化し、我々が果たす役割を再定義するのは当然のことだ」と応じた。
指針では両国の優先事項を再確認し、有事の協力枠組みを規定している。指針に沿って今後、防衛力の強化や情報共有を進める構えだ。
米比両国の接近に中国は警戒を強め、経済支援をテコに巻き返しを図ろうとしている。こうした動きを念頭に、エネルギーや食料安全保障分野などで米国がフィリピンへの投資を拡大するため、交渉団を派遣するなど経済協力を進めることも確認した。【5月2日 読売】
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【フィリピンが量級軍艦を座礁させて実効支配の拠点とするアユンギン礁】
なお、中国・フィリピンの“衝突”の海域となているのが南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁周辺。
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フィリピンは1999年、シエラマドレ号と名付けた老朽戦車揚陸艦をアユンギン礁に座礁させ実効支配の拠点としています。中国がフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるミスチーフ礁に建造物を構築したことへの対抗措置です。
船倉は巨大なゴミ屋敷、ネズミやゴキブリが這いまわる、梁を踏んで歩かないと踏み抜いてしまう・・・といった廃船状態ですが、フィリピン国軍は海兵隊員らを約10人ずつ交代で常駐させています。(修理・改造は中国を刺激するので出来ないのでしょう) 中国側は当時から撤去を強く求めています。
【アユンギン礁で今度は中国艦船による“違法”放水】
“衝突”はこの常駐兵士への食糧・水などの補給活動のための船と中国側の警備船との間で起きていますが、今回もまた・・・。
****南シナ海で中国艦船がフィリピン船に“違法”放水 「国際法違反の危険な行為」とフィリピンは非難 「排他的経済水域での全ての違法行為を中止せよ」と要求 ****
フィリピン沿岸警備隊は6日、南シナ海を航行中の沿岸警備隊の船に対し、中国海警局の船が「違法な放水を行なった」として強く非難しました。
画面右側の船に対し、勢いよく放水を行う巨大な艦船。この映像は、フィリピンの沿岸警備隊が6日、公開したものです。
フィリピン沿岸警備隊によりますと、南シナ海で5日、フィリピン軍が駐留するアユギン礁へ水や食料などを輸送する船が向かっていたところ、先導していた沿岸警備隊の船に対し、中国海警局の艦船が放水を行ったということです。
この放水についてフィリピンの沿岸警備隊は「国際法に違反した危険な行動だ」と強く非難。中国側に「フィリピンの排他的経済水域における全ての違法行為を中止せよ」と要求しました。
南シナ海では、中国とフィリピンが領有権をめぐり対立していて、これまでにも両国の船が異常接近したり、100隻を超える中国船が集結したりする事態が起きています。【8月6日 TBS NEWS DIG】
画面右側の船に対し、勢いよく放水を行う巨大な艦船。この映像は、フィリピンの沿岸警備隊が6日、公開したものです。
フィリピン沿岸警備隊によりますと、南シナ海で5日、フィリピン軍が駐留するアユギン礁へ水や食料などを輸送する船が向かっていたところ、先導していた沿岸警備隊の船に対し、中国海警局の艦船が放水を行ったということです。
この放水についてフィリピンの沿岸警備隊は「国際法に違反した危険な行動だ」と強く非難。中国側に「フィリピンの排他的経済水域における全ての違法行為を中止せよ」と要求しました。
南シナ海では、中国とフィリピンが領有権をめぐり対立していて、これまでにも両国の船が異常接近したり、100隻を超える中国船が集結したりする事態が起きています。【8月6日 TBS NEWS DIG】
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****「衝突避けるため」中国側がフィリピン側の非難に反論 南シナ海で中国公船が放水****
(中略)これに対し、中国海警局は7日、声明を発表し、「フィリピン側が再三の警告にもかかわらず無理矢理、2隻の船をアユンギン礁に進入させようとした。衝突を避けるために放水を行ったが、専門的で抑制的な行為で非難を受けるいわれはない」と反論しました。
アユンギン礁を巡っては中国とフィリピンが領有権を巡って争っています。【8月7日 テレ朝news】
アユンギン礁を巡っては中国とフィリピンが領有権を巡って争っています。【8月7日 テレ朝news】
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フィリピン側は2016年の仲裁裁判所による判決を改めて主張していますが、中国側は「仲裁裁判決は違法で無効だ」と反論。
****中国海警局の船、南シナ海でフィリピン船に放水…比のEEZ認めた「仲裁裁の判決は無効」****
(中略)フィリピンは1999年以降、同礁を座礁船を使って実効支配している。2016年の仲裁裁判所による判決ではフィリピンの排他的経済水域(EEZ)と認められた。
比側は「仲裁裁判決を含む国際法に違反している」と非難し、中国大使を呼び出して抗議した。8日には比外務省による声明で「我々の海域での違法行為をただちにやめる」よう求めた。
米国務省は報道官による5日の声明で「中国の行為は地域の平和と安全を脅かす」としてフィリピンへの支持を表明。越川和彦・駐比日本大使もSNSに「(中国の行為は)全く受け入れられない」と投稿した。
中国外務省は8日、比側の対応に抗議したことを明らかにし、「仲裁裁判決は違法で無効だ。判決に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と反発した。(後略)【8月8日 読売】
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中国は、フィリピンがアユンギン礁に座礁させた軍艦の撤去を改めて求めています。
****中国、フィリピンに南シナ海の軍艦撤去を改めて要求****
中国外務省は8日、フィリピンに対し、南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)に座礁させてある軍艦を撤去するよう求めた。
外交ルートを通じて「何度も」セカンド・トーマス礁の問題についてフィリピンに伝えてきたが、フィリピン側はその善意と誠意を「無視」していると指摘。中国は依然として、協議を通じてフィリピンとの海洋問題に対応していくことに前向きだとした。中国は前日にも、この軍艦の撤去を求めていた。(後略)【8月8日 ロイター】
外交ルートを通じて「何度も」セカンド・トーマス礁の問題についてフィリピンに伝えてきたが、フィリピン側はその善意と誠意を「無視」していると指摘。中国は依然として、協議を通じてフィリピンとの海洋問題に対応していくことに前向きだとした。中国は前日にも、この軍艦の撤去を求めていた。(後略)【8月8日 ロイター】
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【常設仲裁裁判所判決から7年】
南シナ海、九段線をめぐっては、映画『バービー』も問題となりました。
****フィリピンは映画バービーの九段線はフィクションと、日本での対応は不明****
フィリピン外務省は、2023年7月21日に公開予定である映画『バービー』に中国政府が他国の了承を得ずに一方的に主張している九段線が登場していることに関して、単なるフィクションであり特段の問題はないとの認識を示した。
新作映画『バービー』は、配給はアメリカ合衆国のワーナー・ブラザース、監督はグレタ・ガーウィグ氏、主演はマーゴット・ロビー主演が務めている映画となる。この映画は、世界的にヒットした着せ替え人形バービーの実写化したものとなる。
ベトナム政府では、『バービー』が7月21日に公開される予定であったため、事前に映画内容の確認をした結果、ベトナム国内における上映を許可しなかった。その理由は、作中において、中国がベトナムの了承を得ずに一方的に主張している境界線である「九段線」を示した地図が登場するシーンがあるためであった。
配給元であるアメリカのワーナー・ブラザースは、中国に進出をすることを目的として、2015年に中国の投資ファンドのチャイナ・メディア・キャピタルと合弁会社を設立しており、中国当局の意向に従わざるをえない状況となっていた。そのためか、今回の「九段線」の問題に関しては、特に何かの主張をしたいわけではないとの旨の見解を示していた。
フィリピン政府では、この問題を調査した結果、「九段線」は架空の世界における架空の線であるだろうとして、深い意味はないだろうとの見解を示した。しかしながら、誤解を防ぐためにも、国内の映画テレビ審査分類委員会に対して、適切な対応を行うように指示をした。フィリピン国内メディアによると、地図にぼかしを入れるよう要請したとしている。
なお、日本国内でも映画『バービー』は8月11日に公開される予定であるが、日本版では「九段線」に関しては、どのような対応が取られるかは、現時点では不明である。【7月13日 ASEAN PORTAL】
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ワーナー・ブラザースの広報は米娯楽誌バラエティに対し、この地図は「子どもがクレヨンで描いたような絵」で、「何らかの主張を意図したわけではない」とコメント。
“審査担当者が問題とされた地図について「子どものような描き方で、欧州、北米、南米、アフリカ、アジア周辺の陸地の多くの場所に破線が書かれていた。アジア大陸の周囲に見える破線は8本しかなかった。そして、地図上ではフィリピン、マレーシア、インドネシアも見られなかった」と語り、あくまでも虚構のストーリーにおける虚構の地図であるとの認識を示した”【7月13日 レコードチャイナ】
フィリピンの審査機関の判断が示された7月12日は、「九段線」をめぐる中国の主張に対してオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が「国際法上の法的根拠がなく、国際法に反する」との判断を下してからちょうど7年に当たる日。
ことさらに政治問題化させることを避けたい配慮もあったのか、なかったのか・・・。
****中国大使館前で抗議行動=南シナ海仲裁判決から7年―フィリピン****
オランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海での中国の領有権主張を退けた判決から7年となった12日、フィリピンのマニラ首都圏マカティ市にある中国大使館前で、活動家らが中国船の南シナ海への不法侵入の中止を訴えた。
中国とフィリピンは南シナ海の領有権を巡り争っている。活動家の団体は、12日を「西フィリピン海(南シナ海)の日」として抗議した。団体代表者は「われわれはハーグでの勝利を誇りに思うとともに、漁業関係者や海軍、沿岸警備隊の勇気ある行動に敬意を表する」などと述べた。
中国外務省の汪文斌副報道局長は12日の記者会見で、判決は「無効」とする従来の主張を繰り返し、「当該判決に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と述べた。南シナ海における中国の主権は「歴史的な根拠があり、判決の影響を受けない」と強弁した。【7月12日 時事】
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