(イスラエルとハマスがガザ停戦で合意したとの知らせに歓喜するガザの人々(15日)【1月16日 BBC】)
【不透明な今後】
国際面で今日一番のニュースと言えば、当然、パレスチナ・ガザ地区の戦闘に関するイスラエルとハマスの6週間の停戦及び人質一部解放の合意(発効は1月19日)でしょう。
ここ数日“合意間近”と言われていましたので意外感はありませんが、2023年10月のハマスによる対イスラエル大規模奇襲から約1年3カ月に及び、ガザで4万6000人以上の死者を出したイスラエルの軍事作戦・ハマスの抵抗がとりあえず停止することは、まずは非常に喜ばしいニュース。
この件に関しては多くの報道がなされていますので、改めてここで取り上げる必要もないですが、一応ひとつの区切りということで簡単に。
まず、合意成立と報道はされていますが、イスラエルが正式承認したわけでもないようで、ネタニヤフ首相は「ハマスが合意の一部に異論を唱えている」【後出 産経】として“見送り”も示唆しています。
****イスラエル首相「ハマスが停戦合意を破っている」 承認見送りを示唆****
15日に発表されたパレスチナ自治区ガザ地区の停戦合意を巡り、イスラエルのネタニヤフ首相は16日、対立するガザのイスラム組織ハマスが合意を破っていると非難する声明を出した。
ハマスが合意の全てを受け入れたと通知されるまで、合意承認の閣議を招集しないと主張した。停戦が19日に予定通り発効するか注目される。
イスラエルは停戦に合意しているが、最終的に合意を閣議で承認する必要がある。一方、ハマスは声明を発表し、停戦合意を守っていると主張した。【1月16日 毎日】
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ただ、ここまで“合意”が国内外に広く報じられ、アメリカ新旧大統領が「自分の手柄だ」と言い立てているような既成事実となった状況で、今更のちゃぶ台返しはさすがのネタニヤフ首相も難しいところですので、おそらくこのまま正式に閣議承認となるのでしょう。
しかし、停戦が維持され、第2段階、第3段階と進めるかどうかは極めて不透明です。そもそも、ガザを今後誰がどのように統治するのかという大問題については何も決まっていません。
****脆弱なガザ停戦合意、難航課題は持ち越し 根深い相互不信…「戦闘終結」などハードル高く****
イスラエルとイスラム原理主義ハマスが15日にこぎつけた停戦合意は、互いに拘束する収監者と人質の身柄交換を先に進め、難航が予想される課題を後で協議する仕組みだ。恒久停戦とガザ再建の実現に向けたハードルは高く、相互不信が根深い中で、脆弱さをはらんでいる。
戦闘再燃の懸念
イスラエルのネタニヤフ首相は停戦合意を受け、米国のバイデン大統領とトランプ次期大統領に電話で謝意を伝えた。一方のハマスも、「勇敢な抵抗の成果」だと声明で合意到達を自賛した。
だが、ネタニヤフ氏は16日、ハマスが合意の一部に異論を唱えていると早くも主張。ハマスが完全に受け入れるまで治安閣議などによる合意の正式承認はできないと述べた。
合意内容に双方ともが満足しているとは言いがたい。ハマスはイスラエル軍のガザ完全撤収による「戦闘終結」を停戦の条件としてきたが、この問題は第2段階の協議に持ち越された。
米国から合意への圧力を受けたネタニヤフ政権は目標である「ハマスの壊滅」を果たせないままだ。
一部報道によると、イスラエル軍はガザとエジプトの境界地帯などで一定期間、駐留を継続する可能性がある。ガザでは今月も仕掛け爆弾や銃撃戦でイスラエル軍兵士が死傷しており、戦闘が再燃して停戦合意が崩壊する懸念は拭えない。
ガザの戦後統治見通せず
「戦闘終結」を巡る協議は、合意の枠組み全体の成否を左右する一つの焦点となる。ネタニヤフ氏はこれまで、停戦は一時的なものにとどめると繰り返し強調してきた。国内の治安のほか、連立政権に加わる極右政党や世論の反発を考慮すれば、軍の完全撤収に応じるのは容易ではない。
ハマスもイスラエルの出方を不安視している。米CNNテレビ(電子版)によると、仲介国が「戦闘終結」を受け入れるよう「イスラエルに圧力をかける」とハマスを説得したが、口頭での約束だ。
停戦合意は、長期的に最大の課題となるガザの戦後統治の具体像には触れていない。
ブリンケン米国務長官は14日、戦後統治の担い手としてパレスチナ自治政府の名前を挙げたが、統治能力を疑問視する向きは少なくない。今後、国際社会を巻き込んだ議論になる可能性もある。
停戦合意を発表したカタールのムハンマド首相兼外相は声明で、今後も米国やエジプトと緊密に協力して仲介を続けると強調。合意履行の厳しさをうかがわせた。【1月16日 産経】
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今回“合意”は、「第1段階」として6週間の停戦期間を設け、その間に人質の解放などを進めるとともに、「第2段階」となるイスラエル軍のガザからの完全撤退や、「第3段階」のガザ再建に向けた交渉を行うという内容。
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第1段階の停戦は6週間で、ハマスはガザで拘束する人質33人を解放し、イスラエル側は収監するパレスチナ人990〜1650人を釈放する。
イスラエル軍はガザから徐々に撤収し、ガザ住民の北部への帰還が始まる。1日当たりトラック600台分の支援物資がガザに搬入される。
改めて停戦の第2段階に向けた協議を行い、イスラエル軍のガザ完全撤退やさらなる人質解放について話し合われる見通しだ。【1月16日 時事】
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イスラエル軍完全撤退を含む第2段階以降は更に厳しくなります。
希望的観測としては、ハマスもいったん停戦した以上、6週間後に改めて戦闘再開というのは「そこまでの力が残っているだろうか?」といったところでしょう。
【合意の背景にハマスの孤立化】
今回の合意成立もハマスの孤立化があります。
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難航していた停戦交渉が前進したのは、イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの停戦が発効した昨年11月27日以降のことだ。交渉過程に詳しい米政府高官は記者団に、それまでのハマスは「騎兵隊が助けに来てくれると信じていた」と語る。イランやその支援を受ける勢力からの援護で状況が好転することに期待をかけていた、との意味だ。
しかし、ハマスと連動してイスラエルの北部境界を脅かしていたヒズボラの大幅な戦闘力喪失がはっきりし、ハマス側の抗戦心理は揺らいだ。12月8日にはヒズボラとともに親イラン陣営を形成してきたシリアのアサド政権が崩壊。イランの弱体化でハマスはさらに域内での孤立を深めた。【1月16日 産経】
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【米現・次政権の「合作」】
そうした中東情勢の変化に、“バイデン米政権の長期に渡る仲介外交と、今月20日の発足を前に中東の不安定要因を除去したいトランプ次期政権の思惑が複合的に作用した結果”【同上】が今回合意です。
****ガザ停戦、現・次期政権の「合作」 激変した中東パワーバランス***
パレスチナ自治区ガザを巡るイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの停戦合意は、バイデン米政権の長期に渡る仲介外交と、今月20日の発足を前に中東の不安定要因を除去したいトランプ次期政権の思惑が複合的に作用した結果だ。中東各地に飛び火した戦闘による域内のパワーバランスの変化も交渉前進の要因となった。(中略)
こうした中(前出の“ハマス孤立化”)で、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、バーンズ中央情報局(CIA)長官、マクガーク中東政策調整官らを中心とするバイデン政権の交渉チームは、カタール、エジプトとともにイスラエル、ハマス双方への働きかけを加速。
ハマスはなおも解放対象の人質リストを巡って明確な返答を拒むなど煮え切らない態度を続けたが、米側がいったん交渉を打ち切る姿勢をみせると一転して歩み寄りをみせたという。
交渉チームにはトランプ次期政権で中東問題担当特使に起用されるスティーブン・ウィトコフ氏も参加した。同高官によれば、カタール首都ドーハでの詰めの協議でイスラエル側の確約が必要な場面では、マクガーク氏らが交渉を続ける間にウィトコフ氏が同国へ飛び、ネタニヤフ首相と面会してすぐにドーハへ戻るといった「連係プレー」も展開された。
バイデン政権は2023年10月にガザでの戦闘が発生して以降、人質となった米国籍保有者の解放と紛争の政治的解決を目指してきた。
一方、自身が当選すれば「戦闘はすぐに終わる」と豪語してきたトランプ次期大統領にとり、ガザ戦闘の早期終結は政治的な利益だ。ハマスの完全壊滅を掲げるネタニヤフ氏も、トランプ氏との親密な関係を維持するには停戦合意は不可欠と判断した可能性が高い。
米政権の移行期という外交的には宙ぶらりんな時期ながら、現・次期両政権の思惑が一致したことが、約15カ月に及ぶ戦闘の終結に向けた突破口を生んだ。【同上】
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バイデン大統領は、自分が提案した停戦案を外交努力で実現させたと、トランプ次期大統領は、「私が歴史的な勝利を収めたからこそ実現した」と、それぞれ“手柄”を自慢しています。
【イスラエル極右閣僚は反対】
イスラエルでは極右閣僚が反対していますが、政権を崩壊させるには至らないのではと見られています。
****極右のイスラエル国家治安相、ガザ停戦同意なら辞任と警告****
イスラエルの極右政党「ユダヤの力」を率いるベングビール国家治安相は14日、カタールで交渉が行われているパレスチナ自治区ガザ停戦と人質解放協定にネタニヤフ首相が同意した場合は辞任すると警告した。
停戦はパレスチナのイスラム組織ハマスへの危険な降伏だとし、スモトリッチ財務相に停戦協定阻止に向けた最後の試みに加わるよう要請していた。
ベングビール氏は「イスラエル国防軍(IDF)隊員の死を無駄にしないためにも、この措置は(協定の)発効を阻止し、ハマスへの降伏を回避する唯一のチャンスだ」とXに投稿した。
スモトリッチ氏は13日、合意には反対と述べる一方で、ネタニヤフ連立政権からの離脱は示唆しなかった。
停戦合意には戦闘停止と人質解放が盛り込まれ、閣僚の過半数が支持するとみられている。【1月15日 ロイター】
停戦はパレスチナのイスラム組織ハマスへの危険な降伏だとし、スモトリッチ財務相に停戦協定阻止に向けた最後の試みに加わるよう要請していた。
ベングビール氏は「イスラエル国防軍(IDF)隊員の死を無駄にしないためにも、この措置は(協定の)発効を阻止し、ハマスへの降伏を回避する唯一のチャンスだ」とXに投稿した。
スモトリッチ氏は13日、合意には反対と述べる一方で、ネタニヤフ連立政権からの離脱は示唆しなかった。
停戦合意には戦闘停止と人質解放が盛り込まれ、閣僚の過半数が支持するとみられている。【1月15日 ロイター】
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とにもかくにも、ガザへの物資搬入が速やかに増強され、人道危機の状況が一日も早く緩和されることを期待します。