孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「反リベラル革命」あるいは「連邦政府解体」とも言うべきトランプ改革がスタート

2025-01-30 23:24:00 | アメリカ

(トランプ新政権の対外支援一時停止方針発表後に閉鎖され、避難民の受け入れをストップしたタイにあるミャンマー難民キャンプの診療所【1月29日 TBS NEWS DIG】)

【200万人超の連邦職員に対し、異例の好条件で「早期退職」を呼び掛け】
トランプ大統領による「反リベラル革命」あるいは「連邦政府解体」とも言うべき改革がスタートしています。

一番驚いたのは、一部を除く200万人超の連邦職員に対し「早期退職」を呼び掛けたこと。

****連邦職員に「早期退職」呼び掛け=米政権、200万人に大なたか―報道****
米メディアは28日、トランプ政権が200万人超の連邦職員に対し、「早期退職」を呼び掛けたと報じた。2月6日までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給するという。

トランプ大統領は連邦機関を「ディープステート(闇の政府)」と敵視しており、自身に従わない公務員の追放を本格化させる。

報道によると、人事管理局が一斉送信したメールには、今後連邦機関が縮小され、職員の扱いが常勤雇用から「随意雇用」に移される可能性に触れられていた。さらに職員には「忠実さ」を測る新たな行動基準を課し、違反があれば解雇を含む懲戒処分の対象になると警告。「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」を選ばせるような内容となっている。

軍や郵政公社、移民対策、国家安全保障に携わる者は対象外。正確な数は不明だが、ホワイトハウスは全職員の5〜10%が募集に応じると見込む。

ニューヨーク・タイムズ紙は、実際に政府が約束した給与を支払う能力があるのかは不透明な上、政治的圧力からキャリア公務員を守る法律に違反する恐れもあると指摘。

最大労組「米政府職員連盟」は声明で、「公務員の追放は多大な影響と混乱をもたらす」と批判し、組合員に安易に応じないよう呼び掛けた。

トランプ氏は既に、非政治任用職の解雇を容易にする職務分類を設ける大統領令に署名。意に沿わない職員を一掃する準備を進めている。

先週には連邦政府の「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業廃止を命じ、担当部署を事実上閉鎖。連邦職員の在宅勤務を認めない大統領令も出し、子育て世帯などが仕事を続けられなくなる可能性が指摘される。いずれの措置も連邦機関縮小や反対派排除に向けた「大なた」の一環とみられている。【1月29日 時事】 
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200万人の5~10%でも10~20万人という膨大な人員整理になります。
“AP通信は「アメリカ政府を猛スピードで縮小させる前例のない措置だ」としたうえで、連邦政府が300万人以上を雇用していることから「ほんの一部が応じたとしても経済に衝撃が走り、社会全体に混乱を引き起こす可能性がある」と伝えています。”【1月29日 NHK】

日本では公務員の職務は政治的圧力・干渉などに脅かされないように強固に守られていますが、さすがアメリカは違う・・・。

「ディープステート(闇の政府)」にかかわるような、あるいはリベラルな思想にかぶれているような者を排除して、新たに大統領に忠実な者で連邦政府を再建しようというもののようです。

“こうした方針は、歳出削減に取り組む「政府効率化省(DOGE=ドージ)」トップで実業家のイーロン・マスク氏が提唱していた経緯があり、今回の方針に影響を与えた可能性もある。マスク氏は今回の方針に関して、Xに「分岐点だ」と投稿した。”【1月29日 毎日】と、影の大統領マスク氏の影響もしてきされています。

政府職員の大幅削減と連邦政府の解体はトランプ支持者の間ではかねてより計画されていたもののようですが、注目されているのは今回措置が“2月6日までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給する”という破格の好条件だったこと。

この条件なら応じる者も少なくないかも・・・と思われますが、民主党側は「履行される保障のない偽りの好条件にだまされてはいけない」と反発しています。

****異例の好条件で連邦政府職員に早期退職を迫るトランプの真意****
<政府職員の大幅削減と連邦政府の解体は、熱烈なトランプ支持者たちが大統領選前から温めてきた大陰謀論。トランプは自分は関与していないと嘯いていたが、大統領就任と同時に計画を実行に移し始めた>

トランプ政権は連邦政府職員に異例の好条件を提示して早期退職に応じるよう呼びかけたが、提示された条件は「空約束」にすぎないと、民主党議員は警告している。

米労働統計局のデータによれば、連邦政府の職員(軍の人員を除く)は3万人前後(原文のまま。 英文元記事を確認したところ“300万人”の誤記と思われます)。

連邦政府のスリム化は、ドナルド・トランプ大統領が就任後に真っ先に取り組むと誓ってきた政策課題の1つだ。トランプが新設し、イーロン・マスクを共同トップに据えた政府効率化省(DOGE)は、政府支出の無駄をなくすため、大幅な人員削減に踏み切ろうとしている。

トランプはDOGEに、行政管理予算局(OMB)及び連邦人事管理局(OPM)と協力して、4月20日までに「効率性の改善と人員削減を通じて、連邦政府の規模を縮小する」計画をまとめるよう命じた。

これに先立ち、就任初日の1月20日に連邦政府職員の新規雇用を凍結する方針を打ち出し、連邦レベルの全ての政府機関にリモートワークの禁止を指示した。

新政権発足早々の相次ぐ改変に動揺が広がるなか、OPMは1月28日、連邦政府の職員全員に宛てて「分岐点」と題したメールを送信。職場の環境・文化が大きく変わろうとしている今、どうするかはあなた方の決断しだいだと伝え、早期退職に応じるなら「尊厳のある公正な門出」が保証されると約束した。

早期退職者には「これまでの日々の仕事量にかかわらず、また職場への出勤を一切求められることなく、2025年9月30日まで給与と手当の全額が支給される」という。この条件で退職に応じるなら、OPMのメールにただresign(辞職する)と返信するだけでいい。

「大統領にはこうした条件を出す権限はない」── 28日に連邦上院議場でそう喝破したのは、ティム・ケーン上院議員(バージニア州選出・民主党)だ。「(議会が承認した)予算には、働かない人員に支給する給与という項目はないからだ」

「偽りの好条件にだまされてはいけない」と、ケーンは連邦職員に警告した。「あなた方は先週トランプにさんざん脅されたから、今すぐ辞職して優遇措置を受けたくなるだろう。だが言っておくが、この約束が守られる保証は一切ない」

OPMのメールはタイトルも内容も、イーロン・マスクが2020年10月にツイッター(現X)を買収した際にツイッターの従業員に送ったメール(「長時間の過酷な労働に耐えるか、辞職するか」を問うもの)に酷似しているとの指摘も聞かれる。

優遇措置に釣られて、早期退職に応じないよう、ケーン以外の民主党議員も次々に連邦職員に警告を発し始めた。
ジャスミン・クロケット下院議員(テキサス州選出・民主党)は28日にXに次のように投稿した。「トランプは連邦政府職員に偽りの早期優遇退職を持ちかけた。彼らがそれを受け入れたとたん、約束を握りつぶし、彼らが職場を去るが早いか、自分に忠実な無資格の未経験者を後釜に据えるだろう」

ジェリー・コノリー下院議員(バージニア州選出・民主党)も28日、「ドナルド・トランプは、自身と『プロジェクト2025』を策定した(右派の)仲間たちが思いつく限りの策略を駆使して、公務員の職を政治的乗っ取り屋で埋めようとしている」と、Xに投稿した。「これは茶番だ。このオファーにだまされるな。トランプはこれまで自分のために働いた全ての人間にそうしてきたように、あなたをゴミのように捨てるだろう」【1月30日 Newsweek】
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「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」・・・・トップの指示に異論をはさめない中国・ロシアの政治体制に近いものにも近づくような感じがあります。

政権に批判的なマスメディアへの締め付けも強まると思いますし・・・アメリカはどこへ行くのか?

【連邦政府の補助金・融資などの一時停止で混乱、裁判所は差し止め、2日で撤回】
連邦政府の人員削減、入れ替えに加え、その業務内容がトランプ政権の方針に合致しているかどうかを精査するため、連邦政府による補助金や融資を28日から一時凍結することも発表。

標的とされたのは、多様性、公平性、包括性(DEI)などに関連する前政権のリベラル色の強いもののようです。

****米、連邦政府の補助金・融資など支援プログラムを一時停止*****
トランプ米政権が行政管理予算局(OMB)の補助金や融資などの財政支援プログラムを一時停止したことが、ロイターが入手したメモで分かった。

メモはトランプ大統領が先週の就任以降に署名している、多様性、公平性、包括性(DEI)に関連するプログラムの廃止を求める大統領令などに言及している。

OMBのマシュー・J・バース局長代行は「当面の間、適用される法律で許される範囲で、連邦政府機関は全ての財政支援の義務や支払いに関連する活動のほか、対外援助や非政府組織、DEI、ジェンダー意識の高まり、グリーン・ニューディールへの財政支援など大統領令の影響を受ける可能性のあるその他の関連機関の活動を一時的に停止しなければならない」とメモで述べた。

停止措置は28日午後5時(日本時間29日午前7時)に発効する。議会民主党の有力議員はメモの報道を受け、OMBに決定を撤回するよう求める書簡を送った。

メモによると、政府機関は一時停止の対象となるプログラム、プロジェクト、活動に関する詳細情報を2月10日までに提出する必要がある。【1月28日 ロイター】
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こういう重要な施策が“メモ”(いわゆる日本語の“メモ”とはまた違うのでしょうが)で処理されるというのも日本的には驚きです。

しかし、こういう措置で生活の最低限の保障も脅かされると混乱が拡大。異議申し立てに基づき連邦裁判所は28日、2月3日まで拠出金凍結を差し止める命令をだしています。

****トランプ政権「全ての財政支援」停止で連邦政府混乱…公的保険サイト一時ダウン、治療薬配布も停止****
米国のトランプ政権が連邦政府による補助金や融資を28日から一時凍結すると発表し、混乱が広がっている。社会保障給付や医療援助などが止まるとの批判を受けて例外を設けるなど対応に追われた。前政権の施策を覆そうとする強引な政権運営に綻びが出てきた。

きっかけは、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)が27日に出した指示だった。トランプ政権の方針に合致しているかどうかを精査するため、28日夕方以降、州政府や民間活動団体(NGO)への拠出、対外援助など「全ての財政支援」を一時停止するよう連邦機関に命じた。

約7000万人が加入する低所得層向け公的医療保険「メディケイド」は連邦政府と州政府の資金で運営されており、凍結対象に含まれているのではないかとの見方が広がった。

各州が担う事務は混乱し、全米の事務的な運用サイトが一時ダウンする騒ぎとなった。米国際開発庁(USAID)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)やマラリアの治療薬の途上国向け配布を停止した。

OMBによると、連邦政府の補助金や助成金、融資は計3兆ドル(466兆円)以上に上り、一部は低所得者向け食料支援や医療助成、学校支援などの財源にもなっている。民間団体が「数十万人の助成金受給者に壊滅的な影響を与える」として異議を申し立てたところ、連邦裁判所は28日、2月3日まで拠出金凍結を差し止める命令を出した。

キャロライン・レビット大統領報道官は28日の記者会見で凍結措置は多様性を重視したバイデン前政権の施策が対象で、メディケイドや中小企業支援などを含まないと軌道修正。OMBや国務省は除外対象を記した文書を追加配布した。

野党・民主党は政権追及の好材料とみて勢いづいている。上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務は「無法、破壊的、残酷な決定だ」と政権を批判した。ニューヨーク州など民主党が強い州では、凍結措置を無効にする訴訟も検討されている。【1月29日 読売】
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結局、トランプ政権は29日、連邦政府による補助金や公的融資の支出を凍結する方針を撤回するに至っています。

****トランプ政権、連邦政府補助金の支出凍結を撤回 裁判所も差し止め****
トランプ米政権は29日、連邦政府による補助金や公的融資の支出を凍結する方針を撤回した。社会福祉や教育分野で公的支援が止まるとの懸念が拡大。政権は「年金や社会福祉分野に影響はない」と釈明していたが、わずか2日で撤回に追い込まれた。

ただ、連邦政府の政策を抜本的に見直す姿勢は変えておらず、将来的にバイデン前政権が決めた気候変動対策の補助金などが覆される可能性は残っている。

ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)は27日に補助金などの全面凍結を決定し、28日から施行する予定だった。しかし、「連邦議会が成立させた予算を凍結することは、前例のない広範囲にわたる違法行為だ」(民主党のマレー連邦上院議員)といった批判が噴出。連邦政府から支援を受けている非営利団体(NPO)の訴えを受けて、連邦地裁が28日に支出凍結の一時差し止めを命じていた。

ホワイトハウスのレビット報道官は29日の声明で「裁判所の判断や不誠実な報道によって、連邦政府の政策に関して混乱が生じた。こうした混乱を収束させるため、(支出凍結の)方針を撤回した」と説明。

一方で「支出の全面的見直しは、全ての省庁で実行される。今後、連邦政府のひどい無駄遣いを終わらせる施策を出していく」と述べた。

連邦上院歳出委員会で民主党トップを務めるマレー氏はXへの投稿で「抗議の声を上げた全ての国民にとって重要な勝利だ。トランプ政権は無能で、法律を軽視しており、深刻な混乱と損害を生じさせている」と政権を批判した。【1月30日 毎日】
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【対外援助の大幅削減に向けた動きで世界の現場で影響】
トランプ大統領は自身の「アメリカ第一」主義との整合性を評価するために対外開発援助を90日間停止する大統領令にも署名しており、その影響は世界に広がっています。

****米政府の対外援助削減、世界中の人道支援が危機に****
トランプ米大統領の対外援助の大幅削減に向けた動きにより、タイの難民キャンプの野戦病院、紛争地帯での地雷除去、エイズウイルス(HIV)などの病気に苦しむ数百万人を治療するための医薬品などが削減の危機に直面している。

トランプ氏は先週、自身の「米国第一」主義との整合性を評価するために米国国際開発庁(USAID)を通じた対外開発援助を90日間停止する大統領令に署名した。

人道支援団体や国連機関によると、もし資金拠出の凍結が恒久的になれば、食料や避難所、医療の提供能力が大幅に制約される恐れがある。

米国は世界の人道援助に対する最大の貢献国となっている。2024年には139億ドルを供給したと推計されており、これは国連がフォローしている援助全体の42%を占める。

ミャンマーからの難民約10万人が避難しているタイのキャンプの診療所は、米国が国際救済委員会(IRC)への資金提供を凍結後に停止を命じられた。

また、ロイターが確認したメモによると、米国の対外援助の削減は数百万人が依存している世界中のHIVやマラリア、結核の救命薬の供給にも影響を及ぼす。

USAIDから請け負っている業者やパートナーは28日、直ちに任務を止めるように命じたメモを受け取り始めた。

「これは壊滅的だ」とUSAID長官補を今月退任したアトゥール・ガワンデ氏は訴える。「寄付された医薬品によって2000万人のHIV感染者が生存している。それが今日で止まってしまうのだ」。さらに、米国の対外援助削減は23カ国の計650万人のHIV感染孤児と脆弱な子どものために活動している団体に打撃を与えると指摘した。

世界食糧計画(WFP)のアフガニスタン担当ディレクター、シャオウェイ・リー氏はロイターに対し、WFPがアフガニスタンへの援助に必要となる資金の既に約半分しか受け取っておらず、600万人超が「パンとお茶だけで」生き延びていることを考えると先行きを懸念していると語った。

国連によると、米国は2024年にWFPに対して47億ドルを拠出しており、全体の54%を占める。

<地雷対策と教育にも打撃>
地雷禁止国際キャンペーンによると、米国は2023年に総額3億1000万ドルを拠出した最大の地雷対策支援国となっており、世界全体の支援額の39%を占めた。除去されていない地雷が最も多くの人命を奪っている国にはシリアやミャンマー、ウクライナ、アフガニスタンなどがある。

米国務省は今月26日、米政府は納税者のドルの管理者としての役割に基づき、米国の国益に焦点を合わせる必要があるとして「トランプ氏は、米国はもはや米国民に見返りのないお金をやみくもにばらまくつもりはないと明言した。勤勉な納税者のために対外援助を見直し、再編するのは正しいことであるだけでなく、道徳的な要請でもある」とコメントした。

ウクライナの教育システムの改善のために教員を養成している非政府組織(NGO)、ティーチ・フォー・ウクライナのオクサナ・マティアシュ理事長は、ウクライナのNGO分野で混乱が起きていると明らかにした。

マティアシュ氏はリンクトインに「凍結されたのは資金だけではない。全ての助成金の背後には、想像を絶するような状況で働く実際の人々がいるのだ」と書き込んだ。【1月29日 ロイター】
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ミャンマー難民を治療していたタイの難民キャンプ診療所では、“入院患者はキャンプ内の住居に帰され、職員らは医療機器を持って出て行ったということです。”【1月29日 TBS NEWS DIG】

アメリカ国務省が人道支援を目的とした資金提供などの対外援助を一時的に停止すると発表したのが26日。
前出のホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)がすべての連邦機関に宛てた文書で、補助金や融資の執行を凍結するよう指示したのが、27日夕方。

両者の関係、行政管理予算局(OMB)の凍結指示の撤回に対外援助の一時的停止も含まれるのか、あるいは別物なのか・・・そのあたりはよくわかりません。

いずれにしても、「アメリカ第一主義の外交政策に一致するかどうかを検証するため」という話なら、一律に全部停止する必要もなく、運用しながら不要と判断するものは順次縮小・停止する措置を取れば済むようにも思うのですが。
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