(【6月18日 レコードチャイナ】)
【10年以上も前に失踪した子供を経年変化に対応した顔認識技術で探し出す 生後数か月の子供も】
最近はAIに関する記事を目にしない日はないぐらい。その有用性・可能性とともに、限界や問題点なども多々指摘されています。
また、中国ではこのAI技術をいち早く実用化し、顔認証システムなどに応用していますが、こちらもいわゆる「監視社会」の問題点が多々指摘されています。
そうした問題点、留意すべき事項は多々ありますが、下記のような話を聞くと、やはりAIの可能性には驚嘆せざるを得ません。
****AIで尋ね人探し!10年前に誘拐された子供4人を探し出す―中国****
(中略)騰訊(テンセント)優図実験室が実施した経年変化に対応した顔認証技術による絞り込みに基づき、警察がDNAによる親子鑑定を行った結果、約10年前に行方不明となっていた4人の子供を探し出した。これは、中国国内で初めてのことであり、非常に素晴らしいブレイクスルーといえる。
テンセント守護者計画の安全専門家である李新氏は、警察官として8年のキャリアがあり、行方不明者捜索・誘拐グループ摘発事件に携わったのは、今回が初めてではない。だが、今回の行方不明者捜索にAIを使った点は、極めて特殊だったといえる。
李氏の同僚が、行方不明となった子供を探す両親から寄せられた子供の写真を見た時、誰もが言葉を失った。どの写真も少しでも汚れたりしてしまわないように1枚ずつぶ厚い油紙に幾重にも包まれていたからだ。
行方不明の子供たちはそのほとんどが3歳以下で、生まれてから撮影された写真が1枚しかないという子供や、生後満1カ月の時の写真だけという子供もいた。
四川省公安庁刑偵局誘拐対策処の蒋暁玲(ジアン・シャオリン)処長は、「写真を集めた時、両親は、『くれぐれも写真を無くさないでほしい』と繰り返し言っていた。両親にとってこれは子供が残してくれた唯一の拠り所だったからだろう」と当時を回想した。
これらの写真に写っている子供たちは全員、四川省公安庁誘拐対策処の未解決事件と関係があった。2008年から2010年にかけて、3歳前後の子供10人が、四川省で連続して誘拐されるという事件が起こったためだ。
四川省公安庁誘拐対策処と事件が発生した県・市の公安当局はこの10年間、誘拐されて行方が分からなくなった10人の子供を探し続けてきた。
蒋処長は「訪問調査やモンタージュ写真の公開、ネットワーク公告など試せることはすべて試してみたが、事件発生から時間がたちすぎており、仲介人の手掛かりもなく、事件は迷宮入りになるかと思われていた」と話した。
しかし2017年12月に転機が訪れた。公安部刑偵局の陳士渠(チェン・シーチュー)副局長が調査のためテンセントを訪れた際に、優図実験室の経年変化に対応した顔認証技術のことを知り、この技術に関する情報を四川警察に伝えたのだ。
李氏は、「難易度は非常に高く、実はその当時、関係者も自信はなかったが、あのぶ厚い油紙に包まれた写真を見て、どこまでも努力していく決心がついた」と当時を振り返った。
その当時、10年以上も前に失踪した子供を経年変化に対応した顔認識技術で探し出したケースは、世界的に見ても皆無だった。
経年変化に対応した顔認証技術については、優図顔認証計算式の責任者である李博士が同僚とともに、0歳から18歳までの子供の顔の成長・変化に対するモデリング・シミュレーションを行い、学習可能な顔のサンプルを大量に生成した。その後、ディープニューラルネットワークのアルゴリズム用いて、これらの人の顔に成長過程で生じる複雑な変化を学習させた。
(中略)ついに大きなブレイクスルーを実現した。「DDL(データ駆動型学習)」と呼ばれるアルゴリズムによる経年変化に対応した顔認識の精確率は96%以上に達した。
間もなく、優図実験室チームは、彼らのモデルを用いて警察に提供された膨大な量のデータに対する第1回のマッチングを実施し、警察は行方不明の子供たちそれぞれに最も似ていた順位トップ5人まで絞り、最終的にオフラインでの確認作業を行った。
(中略)警察はDNA鑑定を経て、この第1回のマッチングで誘拐された4人の子供の所在を突き止めることに成功し、その4人のうち3人の精確率は最高だった。
蒋所長にとって最も印象深かったことは、第1回のマッチングで見つかった4人の子供の中には生後わずか数カ月の写真しかなかった子供が含まれていたことだった。彼女は、「科学技術の力は偉大すぎる」と感嘆を禁じえなかった。
引き続きこの技術を用いてさらに3人の子供が見つかった。当時四川省で相次ぎ連れ去られた10人の子供のうち、現在まですでに7人が見つかっている。
公安部刑偵局の陳副局長は、「誘拐された子供の多くが無事見つかったことは、誘拐されて長年が経過した子供を探す上でAIが重要な役割を担うことができる事実を裏づけている。経年変化に対応した顔認証技術は、DNA鑑定に続き、公安機関が誘拐された子供を捜索する上で、極めて有効な方法を提供するものであり、大きな『一里塚的意味合い』を備えている」とコメントした。【6月18日 レコードチャイナ】
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生後わずか数カ月の写真をもとに10年後に顔認証するというのは驚異的ですが、本来問題とすべきことは、AI云々より、中国では子供の行方不明が異常に多いということでしょう。
中国メディアが取り上げる「日本社会の不思議・驚異」として、“なんと、日本では子供だけで登下校する!”ということがよく挙げられます。
中国では“誘拐”などの子供の行方不明が信じられないぐらいに多く(年間20万人(!)とも)、登下校は親などが付き添うというのが常識になっているようです。
****年間20万人の児童が行方不明に! 中国マフィアの「誘拐イノベーション」****
旧正月に多発 超監視社会に対抗する“最新犯行手口”
(中略)ところで、この分野でも「大国」なのが中国だ。子どもをかどわかして売り飛ばす誘拐犯を指す言葉として、中国語には「人販子」というこなれた単語が存在し、メディアでも日常的に使われている(それだけ身近な概念なのだ)。
香港紙『文匯報』によると、中国で1年間に立件される子どもや女性の誘拐事件は約2万件で、1日平均50件とのこと。また2015年にNHKは、中国で行方不明(誘拐のみとは限らない)になる児童数は年間20万人に達すると伝えている。
誘拐した子どもの「市場価格」は約140万~170万円
中国大手週刊誌『中国新聞週刊』の記事によれば、誘拐した子どもの「市場価格」は、2017年3月時点で8万~10万元(約140万~170万円)ほど。
男の子は女の子よりも高く、男の赤ちゃんが15万元(約260万円)で売買された例もあったという。
さらわれた子どもの多くは、社会保障制度の不備から老後の不安を抱える、農村部の子どもがいない夫婦に売られているようだ。(後略)【2018年2月16日 安田峰俊氏 文春オンライン】
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二言目には「安心・安全」の日本からすれば“とんでもない”ことですが、そのことは今回パス。
【必要となるAI活用のルールづくり】
話をAIに戻すと、その応用は中国だけでなく世界各地で始まっています。
****全米初、訴追手続きにAI導入へ サンフランシスコ、偏見排除狙い****
米サンフランシスコ市検察当局は13日までに、人種の違いによる偏見がもたらす冤罪などの排除を目指し、7月から訴追手続きに人工知能(AI)技術を導入すると発表した。
多様性に富む社会で公正な法治の実現を目指す全米初の試みとして注目を集めている。米メディアが伝えた。
検察官は声明で、犯罪を検討する際に「人種(問題)を取り除く」と説明。全米各地でも活用できるモデルづくりを目指したいと意欲を示した。
米国では黒人など有色人種の犯罪検挙率が高いとされる。背景には捜査当局の偏見があると指摘する声があり、新たな取り組みで市民の不信感を払拭する狙い。【6月14日 共同】
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AIには人種や性別に関する差別・偏見がないのか・・・と言えば、そんな訳でもなく、(AIのことは皆目わかりませんが)AIを学習させる過程で、現在社会に存在する差別・偏見が刷り込まれてしまうことはあるようです。
そうした点には注意する必要がありますが、もっと差別・偏見に凝り固まった人間ははいて捨てるほどいますので、総体的にはAI利用で偏見排除が期待できるでしょう。
ただ、AIに委ねた際に、ブラックボックス化する懸念などもありますので、利用時のルールが必要にもなります。
****OECDがAI活用の基本指針を採択 「人間中心」の原則明記****
経済協力開発機構(OECD)は22日、パリで閣僚理事会を開き、急速に進展する人工知能(AI)の活用に関する基本指針を採択した。
人とAIの共生に向け、基本的人権を阻害しない「人間中心」を掲げ、説明責任や個人情報保護など、AIの開発や利用にあたって重視すべき原則を明記した。国際機関によるAIの指針は初めて。今後はこの指針をたたき台に国際ルール作りが加速することになる。
AIは膨大なデータを分析して判断を下すことができ、生産性の飛躍的な向上が期待されている。一方、病気の診断や融資の審査、就職の採用判断など、人生を左右する決定に使われることも見込まれ、データに偏りがあれば差別的な判断を下したり、プライバシー侵害を招いたりするとの懸念が出ている。
指針では、法の支配を重視する「人間中心」のほか、AIの判断が差別を生まない「公平性」、AIの恩恵から取り残される人のいない「包摂的な成長」などの原則を明記。開発にあたる組織、個人、政府機関に対し、重視するよう求めた。
AIの仕組みは複雑で分かりにくく、「ブラックボックス化される」との懸念も出ている。このため、正しく判断する「高い精度」だけでなく、AIが下した判断の根拠を人々に分かりやすく示す「透明性、説明可能性」の原則も盛り込んだ。
AI開発では、「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)と呼ばれる米巨大IT企業が膨大な個人情報を蓄積して新たなサービスを展開している。こうした個人情報の流出防止など、プライバシーを保護する「安全対策の徹底」も求めている。
OECDの調査によると、AIの普及に伴う自動化によって既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られるという。このため、指針では各国政府が連携して労働市場の変化に対応していくことも求めている。
今回の指針には、日本を含むOECD加盟国のほか、アルゼンチン、ブラジルなどの非加盟国も賛同しており、最終的に40カ国以上が採択する見通し。
6月に大阪で開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でもAIが議題になるとみられ、議長国の日本がルール作りを主導できるか問われることになる。【5月22日 毎日】
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膨大なデータを分析して瞬時に判断を下すことができるということで、人間では問題にならなかったような新たな問題も出てきます。
AIの活用が現実化している車の自動運転では、正面に一群の子供たちを発見したとき、右によければ大勢のお年寄りがいる、左によければ自分が壁に衝突する・・・さて、どうするか?といった問題も。
人間なら、頭が真っ白になって“合理的な判断”などできず、反射的な対応で終わりますが、AIなら分析できます。
分析できますが、子供の命を守るのか、高齢者を犠牲にすべきか? それとも自分の命を・・・といった極めて判断しづらい問題をいかに判断させるべきかを事前に開発段階で人間が悩む必要があります。
仮に大勢の命を救うためなら、運転者を犠牲にするように設計されているとなると、購入者が納得するかどうか・・・。
【“既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られる”ことによる社会変革】
そうした個々の問題もありますが、社会的に大問題となるのは“AIの普及に伴う自動化によって既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られる”ということでしょう。
AIに仕事を“奪われた”人間はどうすればいいのか?
生産性向上で、人間は働かなくてすむようになったとして、収入さえ保証されればそれでいいのか?
****(シンギュラリティーにっぽん)第1部・未来からの挑戦:7 AIが奪う雇用、どう支える****
人工知能(AI)が雇用を奪う、との心配が広がる。テクノロジーが脅威になるとき「公的な支え」が必要にならないのか。個人はどう備えればいいのだろうか。
(中略)
■ベーシックインカム、財源難
AI時代になぜBI(ベーシックインカム)が必要か――。5月16日夜、東京都内であった近未来の社会システムを考えるイベントで、駒沢大学の井上智洋准教授が講演した。「AI時代には生活保護だけでは不十分。幅広く生活を保障する制度が必要になる」
18世紀の産業革命以降、技術革新は肉体労働を中心に雇用を奪ってきたが、AIの登場は知的労働を脅かす、と井上准教授は考える。「工場などでAIやロボットが生産するようになれば、多くの人手は必要とされなくなる。雇用は破壊され、所得格差が広がる」
低成長が続き格差が拡大する先進国を中心に、BIへの注目が高まっているのは確かだ。右派と市民政党の連立政権が誕生したイタリアでは今年1月、ポピュリズムの台頭を背景にBIが貧困層に限って導入された。フランスやインドは20年の法制化をめざす。
しかし、誰にでも最低所得を保障するBIは人々の労働意欲をそがないのか。
フィンランドで昨年末まで失業者2千人を対象に行った実証実験では、BIを受けた失業者と受けなかった失業者で労働意欲に差はなかった一方で、健康状態が「とても良い」「良い」と答えた人は、BIを受けていた方が9ポイント多かったという。それでも、同国社会保健省は本格導入を見送った。
BIという「バラマキ」策が財政を悪化させる懸念もつきまとう。日本でBIが導入されるとしたら、最大の壁はやはり財源問題だ。
三菱総合研究所が昨年4月、国内の会社員ら3千人を対象にしたアンケートによると、BI導入について24%が「必要」とし、月に平均「10万円」の支給が必要と答えた。一方、「不要」は28%だった。
三菱総研によると、18歳以上に月10万円、17歳以下に半額を給付した場合、約130兆円の財源が必要。消費税率を現在の8%から49%に上げないと捻出できない。
アンケートでも、負担を明示するとBIが「必要」との回答は12%に減った。
三菱総研の森重彰浩シニアエコノミストは「負担増に抵抗を感じる人は多く、日本でのBI導入は現実的とは言えない」と指摘する。
■自動化の波「個人の備え必要」
東京都目黒区の商店街の一角に、今年1月オープンした三菱UFJ銀行の新型店舗は、近未来の銀行の一つの姿を予感させる。
スリム化された店頭にはカウンター窓口がない。ネットバンキングの口座開設などは来店客が自分でタブレット端末を操作。税金や公共料金などは自動受付機で支払う。AIを使って店内に10台以上設置したカメラの情報から性別、年齢などを分析し、マーケティングに役立てる。
長引く低金利で厳しい収益が続くメガバンクは、業務量や人員の削減を迫られている。三菱UFJは23年度までに、現在の約500店のうち従来の窓口がある店舗を約半分にする計画だ。
30年ごろ、日本の労働人口の49%が自動化される可能性がある――。野村総合研究所と英オックスフォード大が4年前に出した報告書は、銀行の窓口係と並び、経理事務員などがAIやロボットに取って代わられやすいと予想した。(後略)【5月26日 朝日】
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おそらく産業革命にも匹敵するような社会の変革が現実のものになるのでしょう。
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