![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/d8/49b33d9ffa358beef85d70453fa89f21.jpg?random=42edf7303982336feb17ccdf90a58d0a)
(エジプト・カイロ 15日「ナクバ」の反イスラエル抗議デモ “flickr”より By Nicole Salazar http://www.flickr.com/photos/62920484@N07/5726169308/ )
【イスラエルとアラブ諸国の対立が「地域全体に影を落としている」】
昨年秋以来、イスラエルが入植活動を止めないことがネックとなってとん挫している中東和平交渉ですが、オバマ米大統領は19日、ワシントンで行った中東政策に関する包括演説で、中東和平交渉に関し、将来のパレスチナ国家とイスラエルの国境は、第3次中東戦争(1967年)以前の境界を基本にすべきだとの考えを初めて表明しました。
****中東和平実現へ、イスラエルに譲歩迫る オバマ米大統領****
オバマ米大統領は19日、米ワシントンの国務省で中東政策の重要演説を行った。中東和平実現のため、イスラエルによるパレスチナ占領が始まった1967年の第3次中東戦争までの境界線を基本に、交渉を進めるよう提唱。占領地で入植活動を続けるイスラエルに譲歩を迫った。
米大統領が、占領以前の境界線を和平交渉の出発点とするよう、演説で明確に求めたのは初めて。この基本線通りに占領地から撤退することになれば、入植地を持ち続けることはできない。オバマ政権が求める入植活動の凍結に応じないイスラエルに対し、厳しい揺さぶりをかけた形だ。オバマ大統領は20日、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談する。
オバマ氏は、中東や北アフリカ諸国での民主化の動きが加速する一方で、数十年に及ぶイスラエルとアラブ諸国の対立が「地域全体に影を落としている」と指摘。イスラエルとパレスチナの永続的な和平は急務とし、「2国家共存」による和平の実現に取り組むよう、双方に呼びかけた。【5月20日 朝日】
*********************************
【オスロ合意の破綻】
中東和平の枠組みには、クリントン米大統領時代に、イスラエル労働党政権のラビン首相、PLOのアラファト議長によって合意された93年のオスロ合意がありました。
イスラエルとPLOの相互承認、5年以内にヨルダン川西岸地区とガザに暫定自治政府を作り、イスラエルは占領地から撤退する・・・というもので、エルサレム帰属問題、パレスチナ難民帰還問題、ユダヤ人入植地問題など難問すべて先送りした形でした。
しかし、現実にはオスロ合意後も占領地へのイスラエル人入植活動は止まず、合意後の入植者人口は3倍に増加しています。
イスラエルはヨルダン川西岸が係争地だとして違法性を認めず、地域の「ユダヤ化」と安全保障上の理由から入植を進めました。西岸を「神がユダヤ入に約束した土地」と信じるユダヤ人入植者も少なくありません。
ただ、入植者の多くは、政治・宗教の信条と関係なく安価な住居費を求めて移り住んだ人々だとの指摘もあります。
政府公認の入植地約120カ所に約24万人が住み、人口は毎年約5%増加。加えて、非公認の入植地も約100カ所あり、推定約4000人が居住。西岸地区の面積の約9・3%が入植地となっています。
【ネタニヤフ首相「イスラエルの安全を守れない」】
イスラエルに譲歩を迫る今回のオバマ大統領の演説に、イスラエル側は当然ながら強く反発しています。
****イスラエル:「国土の安全守れぬ」 米大統領演説に反発*****
オバマ米大統領が演説で、イスラエルが第3次中東戦争(67年)で占領した土地を原則として新パレスチナ国家の国土とする案を支持したことに対し、ネタニヤフ首相は声明で「イスラエルの安全を守れない」と反発した。首相は安全保障の観点からヨルダン川西岸への大規模入植地をイスラエル領に組み込みたい考えだからだ。
演説は一方で、パレスチナ側にも厳しい内容だ。イスラエル紙ハーレツ(電子版)は演説を巡り「ネタニヤフ首相の外交的大勝利」との論評を掲載。演説で大統領は、イスラエルの占領地のうち、パレスチナ側が首都に想定する東エルサレムの帰属やパレスチナ難民の帰還については後回しにすると提案した。またパレスチナが国連総会で独立国家の承認決議を求める方針にも反対したからだ。
パレスチナ解放機構(PLO)幹部のエラカト氏によると、PLOは20日にも幹部会を開き、協議した上で談話を発表する。同氏は記者団に「交渉再開に向けオバマ大統領が尽力していることに、アッバス議長は感謝している」と述べるにとどめた。【5月20日 毎日】
********************************
また、ネタニヤフ首相は声明で、2004年にジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が、1967年の境界線への「完全なる撤退」は「非現実的」だとする見解を示していると指摘しています。
イスラエルのネタニヤフ首相は20日、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談予定で、こうした懸念を伝えるとみられています。
オバマ大統領としては、来年の大統領選を前に、行き詰まり状態の和平交渉を打開することで成果をあげたい思惑があります。
【イスラエルに“逆風”の最近の情勢】
最近の中東パレスチナ情勢の変化で、イスラエルを取り巻く環境は厳しくなってきています。
約4年にわたり分裂状態が続くパレスチナ主要組織ファタハとガザ地区を実効支配するイスラム急進派ハマスの指導者が今月4日、暫定統一政府の発足などを盛り込んだ和解案に最終合意しました。
一応、これで西岸地区とガザ地区に分裂していたパレスチナ側の統一がはかられた形ですが、対イスラエル政策などをめぐる双方の隔たりは大きく、今後の対応は未知数です。
また、パレスチナ自治政府は進展しないイスラエルとの交渉に見切りをつける形で、今年9月にも国連総会で独立国家の承認決議を求める方針に出ています。
“国連加盟192カ国のうち中東や南米などを中心に100カ国以上が賛成し、承認される見通しだ。イスラエルが主張する「係争中の領土」でなく「国家」が占領されている実態を明確にすることで、国際的な圧力を高め、交渉を有利な状況で再開するのが主眼。イスラエルに大きな影響力のある欧米の賛成を得ることに力を入れている。”【4月25日 毎日】
更に、これまでイスラエルと親密な関係を維持してきたエジプト・ムバラク政権の崩壊により、エジプトの「イスラエル離れ」が進んでいます。ファタハとハマスの和解もエジプトの仲介によるものでした。
****エジプト「イスラエル離れ」 相次ぐデモ、民意に配慮****
アラブ世界で米国の“代理人”としてイスラエル寄りの姿勢を保ってきたエジプトが、ムバラク前大統領の退陣後、イスラエルと距離を置き始めている。イスラエルや米国が「テロ組織」とみなすイスラム原理主義組織ハマスとパレスチナ主流派ファタハの和解交渉を仲介したほか、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区との検問所開放を決定。国内各地でデモが続く中、根強い反イスラエル感情という民意を政府が無視できなくなっているとの事情がある。
ハマスへの武器流入を懸念するイスラエルは、ガザへの物資搬入を厳しく管理している。ムバラク政権は、東部シナイ半島ラファハからガザへの人道支援物資搬入などを一部認めてきたものの、基本的にはガザとの往来を大幅に制限し、イスラエルのハマス封じ込め策に協力、国内では「パレスチナ抑圧を助けている」との批判が強かった。
ところが、ムバラク氏退陣後に就任したアラビ外相は4月29日、「ラファハ検問所を恒常的に開放する」と表明。実際に開放されれば、事実上の最大野党であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団などからの大量の物資がガザに運び込まれるとみられる。
こうした動きについて、エジプトの元外交官でカイロ・アメリカン大学のアブドッラー・アシャアル教授は「政府が民衆デモで示された国民の力を無視できなくなったためだ」と指摘、「ムバラク路線の“修正”が始まった」とみる。
シャラフ内閣は4月、国民に不人気だったイスラエルへの天然ガス輸出の見直しを発表。今月には、ハマスとファタハの和解を仲介し、前政権時代に頓挫していた交渉をまとめ上げた。
イスラエルや米国はエジプトの変化に神経をとがらせながら、いまのところ表立った批判を控えてはいる。だが、あるイスラエル政府高官はAP通信に「最近のエジプトには頭が痛い」と強調した。
イスラエルはこれまで、アラブ諸国で初めて平和条約を結んだエジプトとの良好な関係を維持することで、後顧の憂いなくハマスやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに戦力を集中してこられた。
しかし、エジプトとの関係が冷え込めば中東での孤立がいっそう深まるのは必至だ。アシャアル教授は「イスラエルは今後、シナイ方面により多くの兵員と注意を割かざるを得なくなる」と分析している。【5月12日 産経】
*****************************
また、中東・北アフリカにおける民主化運動の高まりを受けて、パレスチナや中東各地での反イスラエル抗議行動も高まっています。
16日ブログ「パレスチナ “ナクバ”の15日、各地で抗議行動、イスラエル軍発砲で死傷者多数」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110516)でも取り上げたように、15日のナクバ(大惨事、大破局、大災厄)には各地で激しい抗議行動が見られました。
エジプトの首都カイロでもイスラエル大使館付近で15日から16日未明にかけ、パレスチナの占領終結を求める数千人規模のデモがあり、治安部隊が催涙ガスや実弾などで鎮圧、エジプト保健省は少なくとも350人が負傷したと発表しています。
****中東デモの波、パレスチナ自治区にも*****
イスラエルのネタニヤフ首相がワシントンでオバマ米大統領と中東和平を巡り協議する20日に、パレスチナ自治区や中東各国のパレスチナ難民による反イスラエルデモが呼びかけられている。
15日にパレスチナ自治区だけでなく中東各国のパレスチナ難民も参加して発生したデモは今後、拡大する様相を見せており、中東・北アフリカ一帯で起きた民衆蜂起の波がパレスチナにも波及し始めた格好だ。
「チュニジアやエジプトの政変後、多くのパレスチナ人が『我々もデモで抗議すべきだ』と思っていた」
ラマッラの理髪店主マフムード・アブラティファさん(30)は、こう話す。15日にイスラエルとの境界にある検問所近くでイスラエル治安部隊に投石した一人だ。この日は例年、1948年のイスラエル建国に伴う紛争でパレスチナ難民が発生したことへの抗議デモが行われているが、今年は、自治区だけでなくシリアとレバノンでも難民ら数百人が故郷への帰還を求めてイスラエルとの境界に集結する異例の事態となり、越境阻止のためイスラエル軍兵士が発砲して少なくとも計12人が死亡した。【5月19日 読売】
********************************
こうした“逆風”の情勢を受けて、イスラエル側がどのような対応を示すかが注目されています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます