(ニューデリーにて2023年9月に撮影したトルドー首相とモディ首相【10月16日 ロイター】)
【シーク教指導者で対立が激しくなるインドとカナダの関係】
カナダで昨年6月、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が(カナダ側主張では)インドの工作員に暗殺される事件が起きて以来、カナダとインドの関係が互いに外交官を追放するなど、非常に悪化しています。
シーク教徒はインド国内では少数派ですが、カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがあります。
*****インドとカナダ、互いに外交トップを追放 シーク教指導者殺害めぐり対立悪化****
インドとカナダは14日、互いに外交トップらを国外追放した。カナダで昨年、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が暗殺される事件が起きて以来、両国の対立は激しく悪化している。
カナダ西部ブリティッシュコロンビア州サリーで昨年6月、シーク教指導者ハーディープ・シン・ニジャール氏が、寺院の前で覆面をした2人に射殺された。同国の警察は、インドの工作員らが直接関与したとの信用度の高い疑いがあるとして、捜査を進めている。
警察は、インドの工作員らがカナダで「殺人、恐喝、暴力行為」に関わり、シーク教徒の独立国を求めるカリスタン運動の支持者らを襲撃しているとしている。
一方、インドはこの見方を「ばかげている」と全面否定。カナダのジャスティン・トルドー首相が政治的利益を目的に、同国の大規模なシーク教徒コミュニティーに迎合しているのだと非難している。また、カナダが主張を裏付ける証拠を、全く示していないと主張している。
カナダのトルドー首相は14日午後、テレビの生放送で、最新の捜査で証拠が浮上し、カナダ政府はこれを無視できず、行動を取る必要があると説明。インドについて、カナダ国内での「犯罪」行為を支援するという「根本的な誤り」を犯したと主張した。
そして、「カナダの治安を脅かし続ける犯罪行為を阻止する必要がある。だからこそ私たちは行動に出たのだ」と述べた。
カナダの連邦警察トップはこの日、捜査中の情報を公表するという異例の措置を取ると発表。「私たちの国の治安にとって重大な脅威」と理由を説明し、主にカリスタン運動の支持者らに対する「本物だと信頼できる、かつ切迫した、生命への脅迫が十数件」あるとした。また、脅迫は深刻なもので、「インド政府との対決が不可欠と感じる段階に達した」とした。
警察当局は、インドの工作員12人が犯罪行為に関与している疑いがあるとしたが、ニジャール氏殺害に直接関係したとみているのかは明らかにしなかった。
インドは怒りの声明を発表
インド外務省は同日、声明で激しい怒りを表明した。カナダの主張について、シーク教徒の分離主義者らの影響を受けているとした。
同省はその後、インド駐在のスチュワート・ロス・ウィーラー高等弁務官代理らカナダの外交官6人について、19日までにインドを出国するよう求めたと発表した。
ウィーラー氏はこの日、インド外務省に呼び出され、カナダの動きについて説明を求められた。この面会のあと、ウィーラー氏は記者団に、カナダはインドから要求されていた証拠を渡しており、インドは疑惑について調べる必要があると主張。「真相究明は、両国と両国民にとって有益なことだ」と述べた。
インド政府は、カナダ駐在のサンジャイ・クマール・ヴェルマ高等弁務官に関して、「カナダ政府からの中傷はとんでもないもので、軽蔑に値する」とした。
インド外務省は、トップの外交官を含む外交スタッフを「引き揚げる」と発表。「外国官らの安全確保に対するカナダ政府の取り組みは信頼できない。従って、インド政府は高等弁務官をはじめ、標的とされている外交官や職員らを引き揚げることを決めた」とした。
対立の経緯
インドとカナダの関係は、カナダ議会で昨年9月にトルドー首相が、ニジャール氏殺害とインドの工作員を結びつける信用度の高い証拠があると発言して以来、緊張が続いている。トルドー氏は、カナダの主権に対する侵害行為だと批判した。
これを受け、インドがカナダに対し、外交スタッフ数十人を帰国させるよう求め、カナダ人へのビザ(査証)発行を停止するなど、両国関係は悪化した。
昨年10月にインドがビザ発給を再開すると、凍りついた関係がわずかに改善したかに見えた。
しかし、カナダのメラニー・ジョリー外相は先週、インドとの関係を「緊迫している」、「非常に難しい」と表現。ニジャール氏殺害のような殺人事件がカナダで今後も起きる危険がなお存在するとした。
カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがある。シーク教徒のほとんどはインド・パンジャブ州に住み、宗教的にはインド国内で少数派となっている。【10月15日 BBC】
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【両国政権とも、国内的に苦境にあって、強硬姿勢をとることのメリットがあるという事情も】
両国首脳が双方とも強気の姿勢をとっている背景には、インドのモディ首相率いるインド人民党は先の総選挙で単独過半数を失い、カナダのトルドー首相の自由党は支持率低下に苦しんでいるというように、両国首脳とも国内的には苦しい状況にあり、今回の問題で強硬姿勢をとることで国内的には良い影響があるといった事情もあるようです。
****インドとカナダの関係悪化、両国首相には短期的に追い風か****
インドのモディ首相とカナダのトルドー首相にとって、両国の関係悪化は当面政治的なプラスに働く可能性があるとの見方を複数の専門家が示した。
カナダでインドのシーク教徒独立運動に関わった男性が昨年殺害された事件を巡り、カナダ政府は今月14日に捜査への協力を拒否したインド外交官6人の国外追放を決定。インド側も対抗措置として同国に駐在するカナダ大使代理ら6人に19日までに出国するよう要請し、外交関係がかつてないほど冷え込んだ。
カナダはインド国外で最もシーク教徒が多く、全人口の約2%を占める。近年インドでは分離独立を求めるシーク教徒のデモが相次ぎ、政府は神経をとがらせている。
こうした中で専門家の間では、インド政府による今回の対応を通じてモディ氏が国家安全保障面で毅然とした人物だとのイメージが高まるのではないかとみられている。
元インド外務次官のハーシュ・バルダン・シュリングラ氏は「国民はインド政府が先進国からの脅しや高圧的な措置に立ち向かっているとみなす。一般大衆はモディ首相と政府を強く支持するだろう」と述べた。
モディ氏が率いる与党インド人民党は今年6月の総選挙で過半数議席を失い、同氏の政治基盤は弱体化した。しかし、シンクタンクのオブザーバー・リサーチ・ファウンデーションの外交政策責任者、ハーシュ・パント氏は、トルドー氏がインドに批判の矛先を向ければ向けるほどモディ氏にとって有利になると指摘。
インドの主権と領土の一体性を守るために立ち上がっている指導者とみなされ、モディ氏の人気維持につながると予想した。
一方、来年10月までに総選挙が行われるカナダで、与党自由党の支持率低迷に苦しんでいるトルドー氏にとっても、インドとのあつれきは党内の「トルドー降ろし」の動きから注目をそらす効果がある。
トルドー氏は今月13日、記者団に対して「党内の動きについてはまた改めて話す機会があるだろう。今は政府と全ての議員がカナダの主権のための行動や、内政干渉への反対、この難局における国民の支援に専念しなければならない」と訴えた。
自由党の少数派政権を維持する上で協力が不可欠となっている左派系野党も、インド外交官の退去措置を支持すると表明した。
ただ、トレント大のクリスティン・ド・クレルシー教授は、トルドー氏への追い風は長続きしそうにないとみている。遠くのインドとの関係という1つの事象に比べ、トルドー氏が対処すべき国内問題はずっと多く、より複雑だと指摘した。【10月16日 ロイター】
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上記のような事情もあって、トルドー首相のインド批判も激しくなっています。
****インドの主権干渉は「恐ろしい過ち」、カナダ首相が疑惑巡り批判****
カナダのトルドー首相は16日、インドのシーク教徒独立運動に関わった男性がカナダ国内で殺害された事件を巡りインド外交官の追放を決めたことを受け、カナダの主権に大胆な形で干渉できるとインドが考えたのは「恐ろしい過ち」だと述べた。
カナダ政府は14日、インド外交官6人の追放を決定。国内のインド人反体制派を標的とする広範な動きがなお見られるとしている。
トルドー氏の発言は、1年にわたる論争で両国関係が最悪となる中、これまでで最も強い調子となった。
また、政府としてカナダ国民の安全確保に追加措置を講じる可能性があると述べたが、詳細は明らかにしなかった。
インドは干渉疑惑を否定し、報復としてカナダ外交官6人を追放した。【10月17日 ロイター】
カナダ政府は14日、インド外交官6人の追放を決定。国内のインド人反体制派を標的とする広範な動きがなお見られるとしている。
トルドー氏の発言は、1年にわたる論争で両国関係が最悪となる中、これまでで最も強い調子となった。
また、政府としてカナダ国民の安全確保に追加措置を講じる可能性があると述べたが、詳細は明らかにしなかった。
インドは干渉疑惑を否定し、報復としてカナダ外交官6人を追放した。【10月17日 ロイター】
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【アメリカでも未遂事件 インド・カナダのような激しい対立には至らず】
シーク教徒指導者暗殺についてはアメリカでも未遂事件があったとして、アメリカはインド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴するという対応を示しています。
****米、元インド情報当局幹部を起訴 シーク教徒独立指導者暗殺未遂で****
米司法省は17日、米国とカナダの二重国籍者であるシーク教徒独立運動指導者のグルパトワント・シン・パヌン氏を米ニューヨークで暗殺するように指示したとして、元インド情報当局幹部のビカシュ・ヤダブ被告をニューヨーク南部地区連邦地裁に起訴したと発表した。暗殺は未遂に終わった。
米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は「憲法で保証された権利を行使して米国に住んでいる人々に対する暴力行為や、他の報復行為をFBIは許さない」との声明を出した。
インドの関与を調査している同国政府の委員会関係者は15日、米首都ワシントンで米当局者らと会談した。米司法省はインド情報当局がパヌン氏の暗殺計画を指示したと主張しており、米国がインドに対して調査するよう促していた。(中略)
インドはシーク教徒独立主義者を「テロリスト」と決めつけ、治安を脅かす存在だとレッテルを貼っている。シーク教徒独立主義者はインドの一部を分離し、「カリスタン」という名の独立国を作ることを求めている。1980年代から90年代にかけての独立運動では数万人が死亡した。【10月18日 ロイター】
米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は「憲法で保証された権利を行使して米国に住んでいる人々に対する暴力行為や、他の報復行為をFBIは許さない」との声明を出した。
インドの関与を調査している同国政府の委員会関係者は15日、米首都ワシントンで米当局者らと会談した。米司法省はインド情報当局がパヌン氏の暗殺計画を指示したと主張しており、米国がインドに対して調査するよう促していた。(中略)
インドはシーク教徒独立主義者を「テロリスト」と決めつけ、治安を脅かす存在だとレッテルを貼っている。シーク教徒独立主義者はインドの一部を分離し、「カリスタン」という名の独立国を作ることを求めている。1980年代から90年代にかけての独立運動では数万人が死亡した。【10月18日 ロイター】
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ただ、インド・カナダのとげとげしい対立にくらべると、今のところインドとアメリカの関係は比較的穏やかです。
****シーク教徒殺害計画巡るインドとの会談、米政府「生産的」と評価****
米国務省の報道官は16日、米国内で計画されていたシーク教徒独立活動家の暗殺に関するインドとの協議について、生産的だったと評価し、インド側の協力に満足していると語った。
米政府は、昨年ニューヨークで起きたシーク教分離主義指導者の暗殺計画にインドの工作員が関与していたと主張し、インド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴した。
国務省報道官は、暗殺計画への関与を調査しているインド政府委員会が15日にワシントンで米当局者と会談したとし、会談は「生産的」なものだったと指摘。「我々は(彼らの)協力に満足している。これは継続中のプロセスだ」と説明した。
カナダ政府は14日、インド外交官6人の国外追放を決定した。インド側もカナダの外交官6人の追放を発表。カナダでインドでのシーク教徒独立運動に関わった男性が殺害された事件を巡り、両国の対立は激化している。【10月17日 ロイター】
米政府は、昨年ニューヨークで起きたシーク教分離主義指導者の暗殺計画にインドの工作員が関与していたと主張し、インド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴した。
国務省報道官は、暗殺計画への関与を調査しているインド政府委員会が15日にワシントンで米当局者と会談したとし、会談は「生産的」なものだったと指摘。「我々は(彼らの)協力に満足している。これは継続中のプロセスだ」と説明した。
カナダ政府は14日、インド外交官6人の国外追放を決定した。インド側もカナダの外交官6人の追放を発表。カナダでインドでのシーク教徒独立運動に関わった男性が殺害された事件を巡り、両国の対立は激化している。【10月17日 ロイター】
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カナダとのようにインド批判が激しくならないのは、アメリカは中国包囲網のためにはインドの協力が不可欠ということで、インドに対しては宥和的ですし、大統領選挙を控えて、これ以上もめ事を抱えたくないといった思惑もあるのかも。
【カナダ 中国とも追加関税で対立】
なお、カナダは中国とも、中国製品に対する追加関税をめぐり対立しています。
****中国 カナダの追加関税に「差別的」として調査開始 さらなる対抗措置検討か****
中国商務省は、カナダが中国製品に対し追加関税を課したことについて調査を始めたことを明らかにしました。
カナダ政府は先月、中国製のEV=電気自動車に100%の関税を課す方針を発表していますが、中国商務省はきょう、カナダがEVに加え中国産の鉄鋼、アルミニウムに対し追加関税を課したことについて「差別的な措置だ」として調査を開始したと発表しました。
調査期間は3か月ですが、場合によっては延長される可能性もあるということです。
すでに中国政府は食用油の原料となるカナダ産の菜種について価格が不当に安く抑えられている疑いがあるとして「反ダンピング調査」を始めるなど対抗措置をとっていますが、今回さらに追加の措置をとることでカナダ側に圧力をかける狙いがあるものとみられます。【9月26日 TBS NEWS DIG】
カナダ政府は先月、中国製のEV=電気自動車に100%の関税を課す方針を発表していますが、中国商務省はきょう、カナダがEVに加え中国産の鉄鋼、アルミニウムに対し追加関税を課したことについて「差別的な措置だ」として調査を開始したと発表しました。
調査期間は3か月ですが、場合によっては延長される可能性もあるということです。
すでに中国政府は食用油の原料となるカナダ産の菜種について価格が不当に安く抑えられている疑いがあるとして「反ダンピング調査」を始めるなど対抗措置をとっていますが、今回さらに追加の措置をとることでカナダ側に圧力をかける狙いがあるものとみられます。【9月26日 TBS NEWS DIG】
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