孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  イラク国境近い村を米軍が越境攻撃

2008-10-28 15:53:15 | 国際情勢

(シリアのベドウィン母子 flickrより By Hugo!
http://www.flickr.com/photos/hugo/17236206/)

【子供4人と女性1人を含む農民ら計8人が死亡】
アメリカ軍がイラク国境近いシリアの村を越境攻撃・・・という記事を見て、最初“また核施設関連のなにかか”と思いましたが、そうではないようです。

****シリア「空爆で8人死亡」 イラク駐留米軍は攻撃否定*****
シリア国営通信は26日、米軍のヘリコプターが同日、イラクの国境に近いシリアの村を襲撃し、民間人8人を死亡させたと報じた。シリア政府は直ちに「国際法に違反する侵略行為」と非難し、駐シリア米臨時代理大使に抗議した。米軍がシリア領内を攻撃するのは極めて異例だが、フランス通信(AFP)によると、イラク駐留米軍は27日、「攻撃について、いかなる情報もない」との声明を出した。

シリア側の報道によると、攻撃を受けたのはアブカマル国境検問所から約8キロ離れたスッカリーエという村で、26日夕、米軍ヘリ4機が飛来し、建設中の農家の住宅に向け攻撃を開始。2機は着陸し、米兵が地上からも銃撃した。攻撃で子供4人と女性1人を含む農民ら計8人が死亡した。

米軍は、反米武装勢力がシリア領からイラクに侵入しているとし、2003年のイラク戦争直後からシリアを非難してきた。ただ、イラク当局者は最近、シリア側が国境警備に力を入れているとの見方を示しており、タラバニ・イラク大統領も先月、「シリアとイランはもはやイラクに脅威を与えていない」と語った。
イラク駐留米軍は攻撃を否定しているが、AP通信によると、ワシントンの米軍当局者は、特殊部隊が国際テロ組織アルカーイダに関係する外国人武装組織のネットワークを狙って攻撃したと語ったという。

シリア政府は、イラク政府に対しても「イラクの領土が隣国に対する米軍の侵略拠点とならないよう求める」と強く抗議した。
シリアは今年春、トルコを仲介としてイスラエルとの間接的な和平交渉を再開したほか、ぎくしゃくしていたレバノンとの関係も、初めて大使館を設置して“正常化”するなど、米政府のシリア孤立化政策に対抗し、周辺国との関係改善の動きを強めている。【10月27日 産経】
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AFPによると、米政府高官は27日、米軍が26日にイラク国境を越えシリア領内の外国人戦闘員を攻撃したことを初めて認め、「作戦は成功した」と匿名を条件に語ったそうです。
攻撃の詳細は明らかにされていませんが、“この攻撃で、外国人戦闘員をイラクに潜入させていた仲介者が死亡したとみられる。死亡したとみられるのはAbu Ghadiyaと呼ばれる男で、この地域で主要な外国人戦闘員の仲介者だったという。”【10月27日 AFP】

【「シリアとイランはもはやイラクに脅威を与えていない」】
米軍司令部は、シリアがイラクに流入する外国人戦闘員の主要経由地だとしており、これまで、米政府はこの問題を十分に認識していないとしてシリア政府を非難していましたが、この種の越境攻撃は初めてとみられます。
冒頭産経記事にも“イラク当局者は最近、シリア側が国境警備に力を入れているとの見方を示しており、タラバニ・イラク大統領も先月、「シリアとイランはもはやイラクに脅威を与えていない」と語った。”とあるように、シリア・イラク国境の状況は以前より改善したと思われていました。

今年はじめには、アメリカ軍自体が、シリア側の国境警備強化を評価する発言をしています。

****イラク:シリアからの武装勢力の流入減少 駐留米軍指摘****
イラク駐留米軍のスミス報道官は20日、シリアからイラクへの武装勢力の流入が減少していると指摘した。シリア側の国境警備強化に一定の評価を与え、これまでのシリア非難を幾分緩和した。AFP通信が伝えた。
報道官は「07年初めに月(平均)110人だった武装勢力の流入が、現在は40~50人に減少している」と述べた。シリアからイラクへ流入する武装勢力メンバーの多くは、サウジアラビア出身者とみられる。報道官は流入減少の理由としてシリアの警備強化に加え、サウジがシリアへの入国規制を強化したことも挙げた。
シリアやイランなどを敵視する米国の政策により、シリアは国際社会のみならず中東地域でも孤立化を深めている。イラク問題での米国への協力は、閉塞(へいそく)状況の打開に向けた「外交カード」の一つとみられている。【1月21日 毎日】
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こうしたこともあって、バグダッドなどの治安が改善傾向を示し始めた今年4月以降、米国はシリア非難のトーンを弱めていたとも報じられています。
そのなかでの今回の越境攻撃、事情がわかりません。

【“越境”ということ】
当然、シリアは「国際法に違反する侵略行為」と反発しています。
死亡者とアルカイダ系武装勢力との関係はわかりませんが、事態改善を求めるシリアへの強い要求、場合によっては実力行使もありうる旨の警告、そういったものを省略してのいきなりの越境攻撃であるなら、また、産経記事の“子供4人と女性1人を含む農民ら計8人が死亡”という記事が正確なら、攻撃の正当性には首をかしげてしまいます。

ロシアのグルジア侵攻にしてもそうですが、やはり主権国家の国境を越えて行動を行うということは“戦争行為”であり、最後の手段であるべきです。
テロ支援国家のシリア相手なら、何をしてもいいというものでもないでしょう。

アメリカ軍は、パキスタンのアフガニスタン国境で越境攻撃を繰り返していますが、そうした“越境”に対する感覚が麻痺しているのではないか・・・と懸念されます。
こうした攻撃で得られる成果と、イスラエルやレバノンとの関係改善を進めるシリアを刺激して中東情勢を逆戻りさせる影響を比較すると、はなはだ益少ない行動のように思われます。


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