孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ 危機的な財政状況 重工業中心地である東部との分断、戦闘被害で改善が難しい経済状況

2015-06-04 22:27:11 | 欧州情勢

(3日の砲撃によって破壊されたマリインカの市場 “flickr”より By scrolleditorial https://www.flickr.com/photos/115313787@N08/18441820205/in/photolist-u6D9Dk-tME9eS-tQ1RxH-u5dPZC-u3rbdz-u3rber-u3rbe6-t6zQzB-t8fTgL-u6Yn62-u6XSzV-t8jqmW-u4cGPg-tN7G43-t87Ydp-tNujkj-tPsLx6-tLEvDT-ta9jPv-u3KFFM-u1qs1m-tLa9bu-tPYGvi-u7e2tv-u4TKDq-tPQSXC-tPTx5W-u745yW-tPYHW4-u4TRqe-tahTnw-tN8N7J-u5gPYy-tQ2bT7-tQ2a9L-tQ1CuC-t7KcJh-tMnqFJ-tMjfKi-tQa4nt-tQa2Nr-t8gYE8-tLKa7k-tLirdQ-t6SS3U-u2eTGY-tLGgLY-t8xGnM-tLiXAf-u43zwe)

停戦合意がなし崩し的に破棄される恐れも
ウクライナ東部では3日、ドネツク郊外のマリインカなどで、重火器を使用した2月の停戦合意以来最大規模の衝突が報じられています。

ウクライナ政府側が支配しているマリインカは、戦略的に重要な西方面へ伸びる高速道路上に位置しています。

ウクライナ政府側は、“砲撃があった後、10台以上の戦車と戦闘員約1000人による攻撃が続いた”と説明していますが、「敵は進撃を試みてきたが、大規模攻撃とまでは言えない」(ルイセンコ報道官)とも。
政府軍側も“現地の部隊に大砲の使用を許可し、撃退した”とのことです。【6月4日 毎日より】

当然のごとく、親ロシア派は自らが攻撃を仕掛けたことを否定しており、言い分は食い違っています。

****<ウクライナ>最大の交戦 G7前にEUと露の対立も深まる****
ウクライナ東部ドネツク郊外のマリインカなど数カ所で3日、ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力が激しく交戦した。親露派によると、市民5人を含む19人が死亡、110人が負傷した。

ウクライナ政府側は、政府軍の兵士5人が死亡、39人が負傷したと発表した。今年2月のミンスク合意(停戦合意)の直後に親露派がドネツク州の要衝デバリツェボを制圧して以来、最大の衝突となった。

7、8の両日にドイツで開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、ウクライナ問題が重要な議題となる。今回の衝突について、親露派とウクライナ政府は「相手が攻撃を仕掛けた」と非難し、サミットを前に緊張が高まっている。

安倍晋三首相はサミット出席前の5日にウクライナ入りし、6日にポロシェンコ大統領と会談する。停戦合意の維持に向け、日本がどう関与していくかも注目されそうだ。

現地入りしている全欧安保協力機構(OSCE)の特別監視団によると、3日未明、ドネツクの南西23キロのマリインカへ向け、親露派支配地側からT72型戦車などが西進し、攻撃が始まった。

監視団は親露派指導層と連絡を取ろうとしたが、応答はなかった。監視団は、親露派が意図的に応答を拒否した可能性を指摘した。

同日午後、ウクライナ国防省が監視団に「マリインカが脅威にさらされている」として、重火器使用を通告した。重火器の撤去を規定した停戦合意がなし崩し的に破棄される恐れも出てきた。

ウクライナのヤツェニュク首相は戦闘激化を受け、「ロシアが親露派に軍事作戦開始を指示した」と批判した。ポロシェンコ大統領は4日の最高会議(議会)での演説で、「わが軍は占領者(ロシア軍と親露派)から東部の多くの土地を奪還したが、軍備は十分ではない」と述べ、国防予算を昨年の2倍の40億ドル(約4960億円)にする考えを示した。

ラブロフ露外相は4日、「キエフの政権(ウクライナ政府)の行動でミンスク合意は破綻の危機にある」と批判した。親露派が先に攻撃したとのOSCE監視団の発表については触れなかった。

ウクライナ問題を巡るロシアと欧州連合(EU)の対立も強まっている。5月末、対露制裁への対抗策として、ロシアがEU加盟国の政治家や高官89人を対象にロシアへの入国禁止措置を取っていることが判明したためだ。

ロイター通信などによると、ロシアへの入国禁止リストには英国のクレッグ前副首相やEU閣僚理事会のコルセピウス事務局長(ドイツ)らが含まれている。EUは声明を出し、「恣意(しい)的で容認できない」と批判した。

ラブロフ氏は1日、「ウクライナのクーデター(昨年2月の親欧米派による政変)を積極的に支持した人物が対象だ」と正当化した。また、「EUの一方的な制裁には適切に対応し、我々の方から(制裁合戦の)エスカレートをやめる考えはない」と述べ、対象リストの拡大を示唆した。【6月4日 毎日】
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対外債務は約1263億ドル 外貨準備は約56億ドル
停戦合意が崩壊することも懸念されますが、ウクライナ経済の方も相当に危機的状況にあります。
“デフォルト懸念”とか、“瀬戸際戦略”とか、ユーロ離脱も懸念されるギリシャ問題のような言葉が飛び交っています。

****ウクライナ、高まるデフォルト懸念 成長率マイナス7%・・・債務再編計画めぐり“瀬戸際戦略****
東部での戦闘が続くウクライナで、デフォルト(債務不履行)懸念が高まっている。
国際通貨基金(IMF)は6月に次回の金融支援実施の可否を判断する予定だが、そのためには巨額の債務再編が不可欠と主張。

債権国のロシアは返済計画変更には一切応じず、他の債権者とも交渉は難航しているもようだ。IMFの支援が滞れば、デフォルトは一気に現実味を増す。

ウクライナ中央銀行によると、今年1月時点の同国の対外債務は約1263億ドル(約15兆5千億円)にのぼった。

一方、外貨準備は2月時点で約56億ドルにとどまり、借金返済や為替介入もままならない。紛争の影響で今年の経済成長率は前年比で7%超のマイナスになる見通しだ。

IMFは3月、ウクライナに対し、総額400億ドル規模の支援策を決定。今後4年間でIMFが175億ドル、米欧などが75億ドルを拠出する一方、元本の減免など債務の再編で150億ドルを捻出するとしている。

しかし債権者との交渉は難航が続いているもようだ。年末に満期が迫る30億ドルの債権を保有するロシアは、償還期間の延長などには一切応じない考えを強調。ロシアは民間銀行を含めると250億ドル規模の債権を持つとされる。米ファンドなど他の債権者も、再編には難色を示しているようだ。

IMFは3月、ウクライナに50億ドルを融資。しかし6月に予定する次回の金融支援実施の判断には、再編交渉の妥結が「不可欠」(リプトン筆頭副専務理事)としている。そのため交渉の行方次第では、支援計画が頓挫しかねない。

一方、ウクライナ議会は今月19日、政府が必要に応じ、対外債務の支払いに自らモラトリアム(猶予期間)を与えられる法案を承認。ヤツェニュク首相は「政府が提案する条件で返済させてほしいということだ」と言い切り、債権者に再編への同意を迫った。

モラトリアムは、実施されればデフォルトとみなされる恐れがあるだけに、法案は債権者に圧力をかける“瀬戸際戦略”とみなされている。ロシアのプーチン大統領は「事実上のデフォルト宣言だ」と批判した。

同国東部では戦闘が再び頻発し、死者が連日のように発生している。紛争が再燃し、社会情勢がさらに悪化すれば、ウクライナは社会、経済ともに泥沼の状態に陥りかねない。【5月28日 産経】
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【「我々は実際、経済の20%を失った」】
クリミア併合や親ロシア派との衝突が起こる以前からウクライナ財政は厳しい状態にあり、ロシアとウクライナを巡って綱引きを行っいたEU側も、本音では瀕死のウクライナを抱え込みたくないのでは・・・とも言われていました。

その後の紛争で、状況が極度に悪化しているのは言うまでもありませんが、今この時点でウクライナを破綻させる訳にもいかない・・・ということで、欧米もなんとか支えているところでしょう。

****戦闘で疲弊したウクライナ経済****
遊休状態の炭鉱や工場、まだ見えない復興への道筋

もう使われていない小さな塹壕や解体されたバリケードが点在するウクライナ東部のヴフレヒルスクの町に入る道路の脇に、地元の炭鉱の立坑坑口が遊休状態で立っている。炭鉱は数カ月前、水浸しになった。

ロシアの支援を受けた分離主義勢力がウクライナ政府軍を町から追い出した際の激しい戦闘の最中に、地下水ポンプへの電力供給が絶たれたからだ。

「今は仕事がない」。新たに樹立を宣言した町政のトップ、オレグ・ネレドバ氏はこう話す。
さらに「ポンプで水を吸い出し、再び炭鉱を動かす必要がある」と付け加えるが、いつそれが実現するか明言することができない。

ドネツク市の北東60キロに位置し、かつて8000人近くが住んでいたヴフレヒルスクのような町以上に、ウクライナの壊滅的な経済崩壊の深刻さが強烈な場所はない。近くにある鉄道の要衝、デバリツェボを制圧するための反政府勢力の軍事作戦の一環として3カ月前に繰り広げられた戦闘で「災禍を免れた建物は1つもない」とネレドバ氏は言う。

東部経済の深刻な荒廃
住民は生活を立て直すのに苦労しており、屋根のない小屋でスープを作っている。だが、以前は800人を雇用し、間接的にさらに数百人の住民に生計手段を与えていた炭鉱の沈黙は、疲弊したウクライナ東部経済の復興に向けた課題の大きさを象徴している。

車でドネツク市に戻ろうとすると、すぐにほかの象徴が見つかる。ヴフレヒルスクの先には広大なヒマワリ畑が視界いっぱいに開けてくる。昨年は収穫されず、今では日に焼けて茶色く枯れている。

市の郊外では、米カーギルが1990年代に建設した工場――かつてウクライナが有力生産国だったヒマワリ油を生産していた工場――も、昨年夏に砲撃を浴びた後、遊休状態で放置されている。

近くにあるドネツク・メタラージカル・プラントの警備員は、以前は世界43カ国に製品を輸出していた同製鋼所は今、「たとえ動いているにせよ、設備稼働率は10%だ」と言う。

ウクライナの鉄鋼業界にとって極めて重要なサプライヤーである巨大なアウディーイウカ・コーク・プラントは、散発的な砲撃によって頻繁に閉鎖に追い込まれる。この工場は――差し当たり――まだ、ドネツク州北西部のウクライナ政府の支配下にある。

2月半ばから停戦協定が部分的に順守されている中で、今ようやく、東部の被害の本当の度合いが明らかになってきた。これは第1四半期のウクライナの国内総生産(GDP)が17.6%減と予想よりはるかに悪い数字になり、停戦にもかかわらず事態が改善する兆しがほとんど見られない理由を説明する助けになる。

予想よりずっと悪かった第1四半期のGDP
ウクライナのアルセニー・ヤツェニュク首相は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に対し、第1四半期のGDP統計は「衝撃的だ」と述べた。アイヴァラス・アブロマヴィチュス経済相はこれを「恐るべき」数字と呼んだ。

今年1~3月期に鉱工業生産は前年比で20%以上落ち込み、4月も一向に改善していない。一方、インフレ率は先月、61%に跳ね上がった。通貨フリブナが下落したうえ、国際通貨基金(IMF)による175億ドルのウクライナ救済策の一環として、政府により公共料金が5倍に値上げされたためだ。

ヤツェニュク首相は親ロ派の反政府勢力が支配する地域はウクライナ領土の4%だけだと主張するが、ここにはドンバス地方の重工業の中心地の大半が含まれる。「我々は実際、経済の20%を失った」と首相は言う。

戦闘と鉄道の被害は、双方向の供給を混乱させている。ドンバス産の石炭の他地域への供給と、反政府勢力の支配下にある東部の製鉄所に対するウクライナ中部の鉱石の供給だ。

たとえ東部の紛争が再燃することがなかったとしても、ウクライナの経済生産がどれほど速やかに回復するかは、部分的に産業とインフラの復旧にかかっている。

また、ドネツクおよびルガンスクの「人民共和国」で自治を確立しようとする反政府勢力の指導部の決意にもかかわらず、東部とウクライナその他地域との結び付きを修復できるかどうかにもかかっている。

ウクライナのエネルギー相によれば、国内に95ある炭鉱――発電や製鉄、輸出に欠かせない存在――のうち、キエフの政府側が今支配しているのは35だけで、残りは反政府勢力の支配地域にあるという。

キエフの中央政府が任命したドネツク州知事は、反政府勢力の手中にある炭鉱の6割が水浸しになっていると言う。

ヴフレヒルスクは典型例だ。この炭鉱は以前、10キロ北へ行ったスヴィトロダルスクにあるドネツク州最大の発電所に石炭を供給していた。スヴィトロダルスクは、ウクライナ政府の支配下にあるが、やはり戦闘の前線に位置する町である。

鉄道の損壊のために、ドンバス地方が何とか生産している石炭は、ディーゼルを大量に食うカマーズ製トラックで輸送されている。

高インフレと賃金・年金凍結のダブルパンチ
他の地域では、事態はそれほどひどくない。だが、ウクライナの人々は高いインフレ率と政府に課された賃金・年金凍結に挟まれて、生活を圧迫されている。小売売上高は過去2カ月間で30%落ち込み、自動車販売台数は1~4月期に76%減少した。

「数字がすべてを物語っている。つまり、事態は絶対的に深刻だということだ。だが、東部での軍事紛争がエスカレートしなければ、最悪の局面はもう去った」とアブロマヴィチュス経済相は言う。

一部に希望の兆しも
同氏とヤツェニュク首相は、数週間続くフリブナの安定を含め、希望の兆しが見られると言う。
銀行ではこの4月、民間預金が流入した。民間預金の純流入は2014年1月以来初めてのことだ。

また首相は、生産の落ち込みにもかかわらず、政府の歳入が第1四半期に35%増加したと指摘する。通貨安のみならず、税制改革も反映した結果だという。

反政府勢力の支配地域には手が及ばないことから、キエフの中央政府はとうの昔にやるべきだった改革に集中している。だが、東部の状況が解決されない限り、改革にできることには限度があることは分かっている。

「戦闘状態にある国が大がかりな改革案を可決できた例は歴史上多くない」とアブロマヴィチュス経済相は言う。「我々は批判的な向きが間違っていることを証明すべく迅速に動いている。だが、あいにく、時間は我々の味方ではない」【6月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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5月23日ブログ「ロシア 輸入代替で経済制裁・原油価格下落の打撃は軽減 アメリカの対ロシア政策は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150523)でも取り上げたように、経済制裁と原油価格下落という二重苦状態のロシア経済は、輸入代替を進める形でその衝撃を和らげています。(資源依存の産業構造をどこまで本当に変換できるかは別問題ですが)

危機的な状況は、従来の枠組みから脱して、大胆な改革に乗り出す機会でもある訳ですが、「戦闘状態にある国が大がかりな改革案を可決できた例は歴史上多くない」というのも現実です。

「東部での軍事紛争がエスカレートしなければ、最悪の局面はもう去った」・・・・ここ数日の状況は、そうも言えないように思われます。

“第1四半期のウクライナの国内総生産(GDP)が17.6%減”・・・・軍事紛争がエスカレートすれば、「衝撃的」な経済崩壊に至ります。

経済再建のためには、なんとか軍事紛争のエスカレートを防ぎたいところですが、相手がある話ですので・・・・。
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