孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  アサド政権崩壊の兆しも しかし、アサド後は「シリア分断」「中東再分割」の混沌か

2015-06-02 22:15:27 | 中東情勢

(「IS」によって爆破されたパルミラの刑務所 “同刑務所は1980年代に囚人が大量虐殺されたことで知られ、ハフェズ・アサド前大統領とバッシャール・アサド現大統領の親子2代の政権の残虐さを象徴する場所とみなされていた。ソーシャルメディア上ではシリア反体制派から、刑務所の爆破を称賛する声が相次いでいる。”【6月1日 AFP】

劣勢に立たされるアサド政権
内戦5年目に入ったシリアですが、5月13日ブログ“シリア 「ヌスラ戦線」を中核とする反体制派の巻き返し アサド政権を支えてきたイランの今後”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150513)でも取り上げたように、イランやヒズボラの支援を受けてこれまで優位に立っていたアサド政権政府軍の後退が見え始めています。

また、アサド政権を支えてきたイランにも、アサド政権を見限るような動きがあるとも報じられるなど、動きがあるようです。

****シリア反体制派、巻き返し 要衝を制圧、主要道路も支配下 内戦5年目、政権に打撃****
内戦5年目に入ったシリアで、ここ数年弱体化していた反体制派が攻勢を強めている。

今春以降、北西部の要衝イドリブ県を制圧、南部ダルアでも政府軍に打撃を与えた。反体制派幹部は、1月にサウジアラビアの新国王が即位した後、同国やトルコ、カタールなど反体制派を支援する各国の連携が深まり、軍事支援が強化されたとしている。
 
トルコや米欧が支援するシリア反体制派の統一組織「シリア国民連合」(SNC)によると、傘下の軍事組織「自由シリア軍」(FSA)は現在、シリア国内で約7万人の地上部隊を展開している。

FSAは全体をまとめるリーダーが不在で統率がとれず、ここ数年は諸勢力が各地でバラバラに行動する機能不全に陥っていた。幻滅した兵士が「イスラム国」(IS)などの過激派組織に相次いで移って弱体化し、政権軍やISに対して守勢にまわっていた。

ところが今年3月以降、アルカイダ系のヌスラ戦線などの過激派組織と協力し、地中海沿岸と内陸を結ぶ地域の要衝である北西部イドリブ県を制圧した。

SNCによると、FSAはこれまでに(1)シリア第2の都市の北部アレッポの東半分(2)イドリブ県のほぼ全域(3)ヨルダン国境に近い南部ダルアの大部分(4)首都ダマスカスで郊外のグータ地区など約3割――を掌握。ダマスカスとアレッポを結ぶ主要幹線道路も支配下に置いているという。

FSAはイドリブを拠点に、次は地中海沿岸のラタキアへ進軍する構えを見せている。ラタキアはアサド大統領の父、故ハフェズ・アサド前大統領の生誕地。アサド家と同じイスラム教徒アラウィ派の政権支持者が多く、アサド政権にとっては落とせない重要都市だ。反体制派にイドリブを掌握されたことは、政権の大きな痛手となっている。

 ■支援国が統一歩調
SNCのハーリド・ホジャ議長によると、FSAの反転攻勢が可能になった最大の要因は、サウジのアブドラ国王が今年1月に死去し、サルマン新国王が即位したことに伴う関係国の態度の変化だ。

サウジ、トルコ、ヨルダン、カタールなどは、これまで反体制派への支援内容をそれぞれ決め、統一歩調を取らなかったという。

だが3月にトルコのエルドアン大統領がサウジを訪問し、サルマン新国王と首脳会談をして以降、トルコはサウジが主導する対イエメン空爆を支持し、サウジはトルコのシリア戦略を支持する。

ホジャ氏は「支援国間に調和が生まれ、北部はトルコ、南部はサウジを中心に軍事支援を増強してもらえるようになった」と指摘。米軍と合同で反体制派に装備を提供し、訓練を行うプログラムもトルコ、ヨルダン、サウジで始まったという。

FSAの攻勢に対し、アサド政権軍は戦闘ヘリコプターから、殺傷力の高い「たる爆弾」の投下を繰り返して応戦している。FSAは支援国に、対空戦闘能力を持つ高性能兵器の提供を要請しているという。【6月2日 朝日】
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全く期待できない「自由シリア軍」】
政府軍、IS、アルカイダ系「ヌスラ戦線」、「自由シリア軍」、更にクルド人勢力など各派入り乱れたシリアの戦況は確かな情報が少なくよくわかりません。

上記記事では欧米などが支援する「自由シリア軍」(FSA)の反攻を強調していますが、前回5月13日ブログや4月15日ブログ“混迷の度を深めるイラク・シリア情勢 アルカイダ系「ヌスラ戦線」の台頭など”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150415)でも取り上げたように、イドリブ県などにおける反政府勢力の優勢は、主にアルカイダ系「ヌスラ戦線」が中心となっており、「自由シリア軍」(FSA)はこうしたイスラム過激派に協力する形でアサド政権を攻撃しているようにも思われます。

「自由シリア軍」(FSA)自体については、下記のようにも評されています。

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・・・・さて、(アサド政権の劣勢が明らかになってきた)そのような情勢ともなれば、新たな政権の受け皿としての「穏健勢力」、すなわちシリア国民連合がまとまりを見せてもよさそうなものだが、こちらは元来足場を持たない勢力の寄せ集めであり、全く期待できない。

政府軍が苦戦を強いられているのは、主にヌスラ戦線などのイスラム過激主義勢力と最近のISに対してであって、「自由シリア軍」の気勢が上がっているわけではない。

シリア問題を担当するディミストラ国連・アラブ連盟共同特別代表は、和平協議「ジュネーブ3」を招集すべく各当事者と個別協議を続けるも、反政府勢力は連名でこの開催を拒否する声明を出す始末だ。【6月号 選択】
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また、政府軍が後退すると、今度はISが勢力を拡大してきます。
「自由シリア軍」はアレッポの一部を支配下に置いていると前出【朝日】も報じていますが、政府軍に代って勢いを増すISによって補給路を脅かされる状況にもあるようです。

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ISはアレッポの北の戦闘で成功し、今やトルコ国境にまで迫る勢いで、反政府軍の補給路を脅かしつつある。
この点に関し、反政府軍はISの成功は大きな痛手であると語った。

また政府軍はISと真面目に戦っておらず、反政府軍としては背後からきられたようなものであると非難した。
このISの成功に対して、反政府軍は31日これらの地域の奪還を目指し作戦を開始したと発表した。【6月2日 野口雅昭氏 「中東の窓」 http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/cat_73692.html
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また、サウジアラビアとトルコの協調によって「自由シリア軍」が反転攻勢に・・・とありますが、IS戦闘員の殆どがトルコからシリアへ入っているように、トルコがどういう反アサド勢力を支援しているのかは疑問です。
更に言えば、イドリブ県などでヌスラ戦線の指導する戦闘に自由シリア軍が参加しているように、“穏健派”と“イスラム過激派”の間にどれほどの差異があるのかも定かではありません。

イラン・ヒズボラの思惑
一方【6月号 選択】は、最近明らかになってきたアサド政権の軍事的劣勢は、これまでアサド政権を支えてきたイラン・ヒズボラが姿勢を変え始めたことが原因と指摘しています。

****イランの姿勢に陰り****
・・・・なぜそのような事態になったのだろうか? 

ウオッチャーが一様に指摘するのはイランの姿勢に陰りが見られることだ。シリアにイランの軍事的プレゼンスが感じられなくなっている。

四月末、しびれを切らせてフライジュ国防相がテヘランを訪問し「支援継続の約束は守る」との言質を得たが、戦場には何の変化もないという。

専門家は「イランがアサド家を見捨てたわけではないが、これ以上支援を続けても救えない」と感じ始めたのではないか、と分析する。

国際人権団体の推計によると、政府軍(アサド政権)が意図的に一般市民を狙って投下する「樽爆弾」によって、アレッポ県だけをとっても昨年一年間で三千人が死亡し、二〇一二年以来全国では一万一千人の命を奪っているという。

樽爆弾とは、文字通り樽状の容器に爆発物と殺傷力を増すための金属片などを詰め込み、点火してヘリコプターから投下するという安上がりの兵器だ。

無差別に、というより、わざと子どものいる幼稚園や市場などを狙って攻撃しているとされ、政府軍のイメージは地に堕ちている。

イランとしては米国などとの核合意で国際社会に復権を図ろうとする矢先、そのような政権をいつまでも支援できないと考えたとしても不思議ではないだろう。

政府軍がもう一方で頼りとしているのはヒズボラだ。その最高指導者のナスララ書記長から最近漏れ聞こえた発言が波紋を呼んでいる。レバノンの有力者アウン中将と会談した際、「アサド政権の崩壊はヒズボラの崩壊を意味する」と述べたというのだ。

ここで同書記長は、だからアサド政権を守らなくてはならない、と言っているのではない。反対に、「アサド政権がシリアの支配権を回復することはもはや不可能だ」とまで述べたようである。

つまり、アサド政権の限界を見ているのは、イランだけでなく、同神権政治の「別動隊」たるヒズボラも同じだ、ということだ。

ただ、ヒズボラはシリア政府軍と行動を共にして戦うことはやめていない。特にダマスカス郊外県の戦略上の要衝をめぐる戦いでは常に有利に戦っていると伝えられる。

しかしそこには「アサド後」を見据えたナスララ書記長の冷徹な計算があるのではないか、と言われている。

つまり、ヒズボラが拠点とするレバノン東部に隣接するシリア領内の「ヒズボラ化」が進んでおり、アサド後に必至である「国家分割」において、ヒズボラは固定的な「領土」を初めて得る可能性があるのだ。

イランは、これまでシリアの借金を肩代わりしてきた見返りとして得た権益をどのように守るかについて、アサド政権との間で交渉を続けていると言われる。

しかし、その中でも最大の「権益」はレバノン国家中の「国家」といわれるヒズボラの発展であろう。【6月号 選択】
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イランに支援されているとは言え、イスラエルを主敵とするヒズボラがどうして多大な犠牲を払ってまでアサド政権を支援するのか不思議に思っていましたが、アサド政権崩壊後の「シリア分割」で「領土」を得よう・・・という話であれば「そうなのか・・・」という感もあります。

もっとも、すでにレバノン国内に確固たる影響力を持っているヒズボラが、敢えてシリアに「領土」を必要としているのか・・・そのあたりは知りません。

【「シリア分断」、更には「中東再分割」を招く“パンドラの箱”】
いずれにしても、これまで見てきたような諸情勢を考えると、アサド政権が崩壊した後に訪れるのは決して欧米が支援する“穏健な”「シリア国民連合」による民主的な新シリア誕生などではなく、ISや「ヌスラ戦線」などのイスラム過激派の更なる拡大と、シリアの「国家分割」であり、混乱は今以上に拡大するように思われます。

アサド政権内部でも、国家分裂は避けられないとの見方が強まっているとも報じられています。

***シリア政権、「事実上の国家分裂を容認も****
数年に及ぶ内戦で弱体化したシリア政府は、戦略的に重要な地域を守る一方で、反体制派やイスラム武装組織が国土の大部分を支配下に置くことを許しており、事実上の国の分裂を受け入れる準備ができているようだと、専門家や外交官らは話している。

こうした戦略は、シリア政府軍が先週、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が侵攻したシリア中部の古代都市パルミラから撤退したことからも明らかだ。

シリア政権に近い国内紙アルワタンのディレクター、ワッダーフ・アブデド・ラボ氏は、ISがシリアとイラクにまたがる「カリフ制国家」の樹立を一方的に宣言したことや、国際テロ組織アルカイダ系組織「アルヌスラ戦線」がシリア北部で独自の「首長国」の建国を計画していることに言及し、「世界は、テロリストが創設する2つの国家に対する利害関係を考えるべきだ」と語る。

英国に拠点を置く非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」」によると、シリアのバッシャール・アサド大統領に対する穏健なデモから始まった2011年3月の民衆蜂起以降、シリア政府は国土の4分の3以上を失っている。

ただ、フランスの地理学者でシリア専門家のファブリス・バランシュ氏によると、政権側の支配下にある領土の住民は、全人口の50~60%に当たる。

一方、ISの支配地域には全人口の10~15%が、アルヌスラ戦線など反体制派組織の支配地域には20~25%が、クルド人勢力の支配地域には5~10%が、それぞれ暮らしているという。

■「シリア分断は避けられない」
匿名を条件に取材に応じた政権に近いシリア人政治家は、「シリアの分断は避けられない。政権側は、沿岸地域、ハマとホムスの中部2都市、そして首都ダマスカスを支配下に置きたがっている」

「当局にとってのレッドライン(越えてはならない一線)は、ダマスカスと(レバノンの首都)ベイルートを結ぶ幹線道路や、ダマスカスとホムスを結ぶ幹線道路、それにラタキアやタルトスといった都市が位置する沿岸地域だ」と語った。

ダマスカスを頻繁に訪問するある外交官は、シリア当局が現在の国内情勢に「もちろん懸念を抱いている」ものの、政権側の主要同盟国であるロシアやイランがシリア政権の崩壊を許さないことを確信していると指摘した。

また一部観測筋は、政権側の守りの姿勢は、少ない領土を保ちその安全を確保する戦略を支持するイランによる提案だったとの見解を示している。【5月25日 AFP】
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シリアの「国家分割」の影響は、シリアだけに留まりません。アメリカ・ロシアも「アサド後」を協議したとも。

****アサド政権」ようやく崩壊の兆し 近づく「中東再分割」の号砲****
「二十一世紀のサイクス・ピコ」
・・・・やはり、今後の和平に向けた鍵を握るのは米露二大国の意向であろう。

五月中旬、ケリー米国務長官とラブロフ露外相は黒海のリゾート・ソチで会談したが、英タイムズ紙の報じた諜報筋によれば、二人は「アサド後」を協議したとされる。

ロシアはずっと「アサド抜き」の和平はあり得ないという立場であったが、そのアサド政権にこれだけの異変が起きている。負け馬と分かっていても賭け続けるほどロシア人はお人好しではない筈だ。

アサド抜きだが、アラウィーなど少数派の自治を尊重し、かつイラン(シーア派)の権益も確保するという案に落ち着いて、タルトゥースの不凍港(地中海唯一のロシア軍港)を守ろうとするのではないだろうか。

その時、アサド一家はタルトゥースを離れ、ロシアに亡命する可能性が高い。

それは、まさに「二十一世紀のサイクス・ピコ」と呼ばれる中東再分割の号砲となるだろう。

イラクでは対IS作戦にイランがあからさまな介入をし、これを米国とアバディ・シーア派政権が歓迎するという展開を見せている。

何しろ、「シーア派民兵が政府軍に加わろうと、それが政府の指揮命令に従っているなら問題ない」というのが米国国務省の公式姿勢なのだ

ただ、イラクのシーア派色がそこまで強まれば、西部のスンニ派住民を抹殺してしまうことが不可能である以上、アンバール県等は切り離し、シリアに生まれるスンニ派国家と合併ないし連合することになるのではないか。

今夏、ジュネーブにおける会議が注目されるか否かは、ロシアの胸三寸にかかっている。【6月号 選択】
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しかし、「中東再分割」においては、イスラム過激派ISが大きな領域を占めています。また、シリアの「反政府勢力」とは言っても、その主導権は「自由シリア軍」「シリア国民連合」ではなくアルカイダ系「ヌスラ戦線」が容易に握るでしょう。

また、上記記事には出てこないクルド人勢力も「再分割」において独自の「国家」を要求するでしょう。それはトルコ・イラク・イランのクルド人勢力にも影響します。

更に、前出のヒズボラが要求する「国家」もあります。

「パンドラの箱」を開けたような大いなる混沌です。
シリア分断が避けられないなら、アサド政権がまだ何らかの支配力を保っているうちに、シリア政府、「シリア国民連合」、欧米、サウジアラビア、トルコ、イラン、ロシアなどの間で、「アサド後」の道筋をつけないと、今以上の混乱を招くことが懸念されます。
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