テディちゃとネーさの読書雑記

ぬいぐるみの「テディちゃ」と養い親?「ネーさ」がナビする、新旧の様々な読書雑想と身辺記録です。

― ことだまの花 ―

2011-03-18 23:26:11 | ブックス
 こんにちは、ネーさです。
 あの日から一週間が過ぎようとしています……
 もう一週間? まだ一週間?
 今日もまた計画停電が実施され、混乱続く現状では
 悼む時間も足りません……。

「こんにちわッ、テディちゃでス……」
「がるる……」(屋いるし約:虎です……)

 本日は、追悼の意をこめて、
 或る詩編が収録された詩集を御紹介したいと思います。
 こちらを、どうぞー!

  


 
              ―― 山村暮鳥詩集 ――



 編者は藤原定さん&大江満雄さん、1966年に発行されました。
 山村暮鳥さんは『やまむら・ぼちょう』さんとお読みくださいね。

「むむゥ? しじんさんッ?」
「がるぐるがるるるる?」(←訳:あまり聞いたことないような?)

 暮鳥さん(1884~1924)は、
 明治・大正期の詩人さんです。
 同時期の盟友さんたち――室生犀星さんや萩原朔太郎さんほど
 有名ではないかもしれませんが、
 きっと、この詩を見知っておられる方々は多いはずですよ。
 失礼して、一部を引用させていただきますと……


  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  かすかなるむぎぶえ
  いちめんのなのはな


 詩集《聖三稜玻璃》にて発表されたこの詩の題名は
 『 風景  純銀もざいく 』
 といいます。

「いちめんのォなのはなァ……」
「がるるる……」(←訳:いちめんの……)

 一度耳にしたら決して忘れない、とは
 このような詩句を指して言うのでしょうか。
 いちめんのなのはな――
 視界を覆い尽くす黄色い花の海が
 瞼の裏に広がります。
 
 とても印象的なこの詩は、
 たびたび作品のモチーフとして作家さんたちに取り上げられてきました。
 新井素子さんの『グリーン・レクイエム』や、
 近年では北村薫さんのベッキーさんシリーズにも登場していたのを
 憶えておいでの活字マニアさんもおられることでしょう。

「きいろいィおはながァ、いちめんにィ……」
「ぐるるーぐるがる?」(←訳:どこの風景だろう?)

 暮鳥さんは現在の群馬県高崎市に生まれ、
 茨城県大洗市にて没しました。
 明治45年頃は、福島県平町に住んでいたようです。
 秋田や、水戸、仙台に暮らした経験もあったそうですから、
 その地域のどこかに、
 暮鳥さんの菜の花畑があったのかもしれませんね。
 誰にも秘密の、菜の花の海……
 それとも、暮鳥さんにだけ見える幻の海であったのか……

 前回記事で御紹介しました高田郁さん著『小夜しぐれ』には
 菜の花がテーマとなる短編が収録されています。
 それによると、
 江戸時代の関東地方では、菜の花はとても貴重なものだった、とか。
 
 空想は、さらに飛びます。
 千利休さんが最後に床に飾ったお花は
 菜の花だった、と……。

 黄色の、あるいは金色の、
 菜の花が揺れる光景に、
 暮鳥さんは何を想ったことでしょう――

「かすかなるむぎぶえェ……」
「ぐるるがるるる……」(←訳:いちめんのなのはな……)

 暮鳥さんの著作については、
 残念ながら、
 これが決定版!
 といえるような御本は、未だありません。
 傑作選、童謡集などが何種類か刊行されておりますので、
 図書館などでお好みの一冊を探し出してくださいませ。



 暮鳥さんの夢のように、
 いちめんを菜の花がいろどる美しい風景を、
 どうか、すべての地、すべての人々に。
 
コメント
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