「そ、総員、衝撃に注意~っ!」
ゴゥンッ、ドスン、ガリガリ、ブシュシュウ~ン……
あらららら、どうしましょう、
新春特別企画その③、始まると同時に中断、でしょうか。
名探偵テディちゃムズ一行を乗せた
英国海軍学校の高速船《アテナ》号、失速してゆきます。
「船長、甲板に異常が!」
副長さんの報告に、船橋は動揺に包まれました。
黒影の襲撃者たちは、退艦するついでに
甲板に大穴を開けていったのです。
穴から風と海水が吹き込んで、
《アテナ》号の蒸気機関は不調を来たしてしまいましたよ……!
と、そこに。
「テディちゃムズさん、ロンドンより通信です!」
通信士さんが声を上げました。
『こちらロンドン、ユキノジョン・H・ワトスン博士!
外交行嚢強奪犯の狙いが分かった!』
ベイカー街221Bで留守を守っているユキノジョン・H・ワトスン博士が、
次々と電報を打って寄越します。それによると……
数分前、首相官邸に投げ文あり!
外交行嚢は現金10億クマポンドと引換えだ!
使い古した紙幣を用意せよ!
交換場所はロンドン市内〇✕の△◇!
時刻は2時間後!
みなまで聞かず、走り出すテディちゃムズ。
「ゆこうッ、ろんどんへッ!」
いやしかし、ちょっと待って、テディちゃムズ、
《アテナ》号の現状を鑑みるに、
2時間でロンドン着、というのは――
「ふふんッ!
こんなこともォ~あろうかとッ!」
甲板下の貨物室で、
テディちゃムズと虎くん、マイクマフトお兄ちゃんは
よいしょっ、せーの、と荷解きします。
大きな防水布の中から現われ出たのは………え?
人力飛行機………?
「くみたてェかんりょうッ!」
「がるぐる!」(←訳:強度確認!)
「出発じゃあ!」
組み上げた機体に乗り込んだら、さあ、離陸ですよ。
甲板に空いた大穴と、穴の周囲の乱気流を利用して、
小型人力飛行機は空中に舞いあがります。
テディちゃムズの巧みな操縦で、
たちまち偏西風を捕まえて、
翼は大西洋の荒波を眼下に、ぐんぐんと東へ。
「ううゥんッ、たりないィ!」
順調かつ無茶な飛行を行いつつ、
テディちゃムズは舌打ちしました。
日没を過ぎ、光量が足りない視界では、
ロンドンへの最短空路を見分けるのは困難の極み、ですねえ。
「ほっほっ、ワケもないわ」
ペダルを短い足でせっせと踏みながら、
マイクマフト氏はニヤリと笑いました。
「我が耳のチカラで、案内してみせる!」
飛行機のキャノピーを少しだけ開け、
ムクムク耳を突き出して、
マイクマフト氏は精神を集中いたします。
雲の彼方から、かすかに聴こえるあれは……
ロイアル・アルバート・クマホールで開幕した
大晦日名物の《紅白クマ歌合戦》の拍手と歓声!
「おお、聴こえるぞ!
クマスピーナッツの大ヒット曲が!
Vaundyクマくんの美声が!
B’クマZのギターとシャウトが!
あっちだ、テディちゃムズ!」
かくして、人力飛行機は滑らかに、
えー、正直に言っちゃいますと、だいぶヨタヨタと、
テムズ川沿いにロンドン中心部上空に到り、
着陸態勢に入ろうとして。
「うわッ?」
テディちゃムズお手製の人力飛行機、限界です。
ペダルは曲がり、サドルは外れ、
翼からはメリメリと不吉な音がして、
あわれ、勇ましいクマたち&虎くんは、
まっさかさま……!?!
(次回に、続く!)