あいよっこの旅ログ:::Part2:::

「女性のひとり旅は冒険の始まり!」

ドラマを演じる

2007-11-04 20:28:01 | インポート

「ドラマを演じることが上手になってきたんだな」と感じたできごとがありました。 かつて港や駅では旅立ちのドラマが繰り広げられたものでした。9月の始め東京駅の新幹線ホームで、とても短いけれど心に残るドラマに遭遇しました。ひさびさです。

 ホームに上がったとたんに、「グワ~~ン!ワアワア!」といった大声が地鳴りのように聞こえます。振り返るとおそらく30代でしょうか、男性が両手を上げ下げしつつお腹を突き出して応援コールの真っ最中。「フレー!フレー!○○○さん。フレッフレッ…!」。ひととおり終了するとドアの内側の人と握手して、「がんばってください」と激励しています。 しかしまだ発車には時間があるようで、さらにまた最初から応援コールが始まっているのです。彼の先にある待合室をめざして歩きながら、「送られている人はどんな人だろう?」と見ると、やはりというかデッキに立って「ありがとう。ありがとう」といいながら笑顔満面なのは60代の男性でした。

 待合室の中はなんだかざわざわとしており、大部分の人たちの視線が応援男性に向けられているようです。子どもたちが出入りしながら様子を報告しています。依然として列車は動かず、何度も同じ応援が繰り返されているのです。あるいはかなり前から続いているのでしょうか?

 見送りをしたり、してもらったりは誰しも経験があるでしょうが、この微妙な時間ってけっこうもてあましませんか?一通りのご挨拶をすませると、さらに新しい話題に入ることもできず、同じことを繰り返すこともできず、互いにひそかに発車を期待したりします。口数の少ない男性同士の場合は、いっそう気詰まりな状態になることもあるでしょう。見送りの男性はそこを「応援団」のパフォーマンスで盛り上げました。 待合室の人々は「おっ、また始まった。次また握手してる」といいながら楽しんでいるように見えます。そうこうしているうちについに発車のベルが鳴り、列車が動き始めました。「一緒に走るかな?おお走ってる!」「がんばれー!」と運動会のような声援が!ちょうど待合室のガラスの前で男性のもつれそうな足が止まりました。かなり太目の体型なのでお腹も重そうだし、汗も一杯です。(人のことはいえませんが)すると期せずして人々の間から大きな拍手が沸きあがったのです。

 なんだかとても良い光景を見せてもらったような満足感が残りました。「彼は気づいていないけれど、まさに今ドラマの主人公なんだな」と感じました。見ている人たちも良い観客を演じています。内気とかシャイといわれてきた日本人も、日常生活でドラマを演じることが上手になったのですね。

 黙って静かに様子ながめをするだけでなく、積極的に応援し楽しむ良い観客が、良いドラマには欠かせません。そしてさらに必要なのは主人公の存在です。「人前で恥をかく」とか「笑いものになる」ことは日本文化ではタブーとされてきましたが、一生懸命さや相手をおもいやる気持ちがあれば、多少かっこ悪くて笑われたとしても、そのなかに必ず拍手が混ざっているのだと嬉しく思いました。

写真:奄美大島 古仁屋港 フェリーセンターではカラフルな(食べる)熱帯魚やでっかいイセエビを売っている。