◎パシフィック・リム(2013年 アメリカ 132分)
原題 Pacific Rim
staff 監督/ギレルモ・デル・トロ
脚本/トラヴィス・ビーチャム ギレルモ・デル・トロ 原案/トラヴィス・ビーチャム
撮影/ギレルモ・ナバロ 美術/アンドルー・ネスコロムニー キャロル・スピア
衣裳デザイン/ケイト・ホーリー 音楽/ラミン・ジャヴァディ
cast 菊池凜子 芦田愛菜 チャーリー・ハナム イドリス・エルバ ロン・パールマン
◎音楽だけ、伊福部昭にしたい
原題になっている「Pacific Rim」というのは、環太平洋地域のことだ。
特に、太平洋をとりまいている諸岸の中でも、
先進的な産業地域をいう。
そこに、2013年8月11日午前7時、kaijuが出現するのだ。
これだけで、日本のかつての特撮を愛するぼくらは、十分、報われた。
だから、いまさら一連の円谷プロの作品のここに似てるとか、
他社の特撮のあそこが元とか、アニメのこれはそのままだとか、
もう、そんなことはどうでもいい。
ぼくたちは、ひたすら、この『南海の大決戦』を観ればいい。
かつて、
怪獣は日本に襲いかかる巨大な自然災害であるとともに、
原子爆弾という未曾有の恐怖兵器の象徴でもあった。
だから、ゴジラは放射能を吐き、日本をめちゃくちゃにした。
この作品では、kaijuは血液は猛毒だけれども、
その細胞から抽出されるエキスは薬になる一方、
ロボットには原子炉が搭載されている。
で、原子力ロボットに長年乗り組んでいたため被爆したという設定にもなってる。
なんとも、ギレルモ・デル・トロらしい皮肉だ。
デル・トロは、現実と幻想、地上と地下とかいった二律背反の構造を好む。
この作品もそうで、
上下に異次元が存在していて、とあるトンネルによって繋がっている。
この隧道があるとき、つまり、2013年8月11日午前7時に開通し、
以来、kaijuは人類を脅かすというただそれだけのために出現し、
破壊と殺戮をひたすら繰り返し、人類はその対抗策として、
怪獣と戦うロボットのドラマからヒントをうけイェーガーを製造することになる。
イェーガーの志は人類を守るためにひたすらkaijuをやっつけるというものだ。
なんという単純明快さとおもうんだけど、ところが、ここにもデル・トロの趣味がある。
上下の異次元という二重構造。
イェーガーを作動させるためには心がふたつ必要という二重性。
くわえて、隧道を塞ぐためには、
TNT火薬120万ガロン(だっけ?)という途方もない爆弾が必要になり、
それは当然の帰結として、イェーガーに搭載されている原子炉となる。
人類に危機をもたらす恐れが十二分にある原子力が、
人類を守るという旧態依然とした理屈がどうしても必要になるという皮肉。
そんなあたりが渾然一体となって、
戦い続けるべく運命づけられた人間の戦いの一瞬にだけ焦点をあててる。
いや~、デル・トロ、すげえ。