◇フィクサー(2007年 アメリカ 120分)
原題 Michael Clayton
staff 脚本・監督/トニー・ギルロイ
製作/シドニー・ポラック スティーヴン・サミュエルズ
ジェニファー・フォックス、ケリー・オレント
製作総指揮/スティーブン・ソダーバーグ ジョージ・クルーニー
ジェームズ・A・ホルト アンソニー・ミンゲラ
撮影/ロバート・エルスウィット 美術/ケヴィン・トンプソン
衣装/サラ・エドワーズ 音楽/ジェームズ・ニュートン・ハワード
cast ジョージ・クルーニー ティルダ・スウィントン シドニー・ポラック
◇4日間のサスペンス
どうもフィクサーという言葉の印象は、ぼくの場合、黒幕っていう感じが強すぎて、あんまり好きな語感じゃない。だから、しょっぱな、クルーニーの立場がよく見えなかった。あれ?クルーニーって黒幕なんだよね?てな感じで、まるでとんちんかんだった。ただまあ、台詞を聞いている内に、なるほど闇の仕事人って意味かと理解したものの、やっぱりしっくりこない。
ま、そんなつまらない錯覚はさておき、シドニー・ポラックにしてもジョージ・クルーニーにしても、ふたりとも巨悪に立ち向かうんだけど決して恵まれた環境にはいない主人公が好きらしい。ことに、その巨悪が政治がらみの巨大企業とか公的機関だったりすると、さらに燃えるような印象がある。
で、今回は巨大な農薬会社だ。
さらにクルーニーが揉み消し屋として勤務しているのは巨大な法律会社だ。なんだか『ザ・ファーム』の二番煎じみたいな感じがしないでもないが、ふたりが制作に絡んでいることからもわかるように、よほど作りたい主題なんだろう。こういうエコがらみの話だと、ぼくはどうしても日本の高度成長期をおもいだすけど、どうやら、アメリカでは未だにそういう問題が多発しているらしい。もちろん、中国とかでも深刻な問題になってるし、日本だけが顕在化してないんだけど、ほんとはどうなんだろうね?
でも、クルーニー演じるマイケル・クライトンがいいのは、等身大の人間っていうか、いきなり借金を抱えさせられてどうしようもなくなってるっていう、追い込まれた人間だってことだ。さらに離婚していて、おそらく週一(という説明はないけど)息子の送り迎えをするときだけ会えるという悲しい境遇だ。そういうときについつい手を出してしまうのがギャンブルで、ポーカーですったり儲けたりの繰り返しだ。ベンツはかっこいいけど事務所のリースだから自分のものじゃないし、金に目が眩む人間だと自分でもいう。要するに人生に挫折して自暴自棄になりながら闇の仕事を請け負いながらもやっぱり陽のあたる仕事つまり訴訟担当に戻りたいっていう希望を抱えてたりする。清廉潔白な人間よりもずっと人間臭い。
こういう脛に傷のあるような人間が、自分のやってる仕事に嫌気がさし、親友の身を呈した行動に背中をおされて戦いに身を投じるっていうのは、ぼくのとっても好きな展開なんだけど、いやまあ、ほんとに地味なんだよね、これが。渋みのある大人のサスペンス映画としては成功なんだろうけど、ね。
ただ、脚本はすばらしい。なんだか得体の知れないモノローグが始まったかとおもえば、そうじゃなくて、長年の親友といった方がいい同僚からジョージ・クルーニーのところへ入ってきた電話の長台詞だった。これがかぶさりながら、クルーニーの置かれている立場と、これからメインの舞台となるであろう農薬会社の訴訟の裏舞台がそれとなく見せられる。音楽も打楽器が中心で、全体に不気味な印象が漂っているあたり、いやまじで好きな感じだ。