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新しき土

2013年10月25日 23時03分54秒 | 洋画1891~1940年

 ◎新しき土(1937年 日本、ドイツ 日独版106分 日英版115分)

 原題 Die Tochter des Samurai

 staff 原作・製作総指揮/アーノルド・ファンク

     監督・脚本/アーノルド・ファンク 伊丹万作

     撮影/リヒャルト・アングスト 上田勇 ワルター・リムル

     撮影協力/円谷英二 美術・装置/吉田謙吉 録音/中大路禎二

     衣装/松坂屋 音楽/山田耕筰 作詞/北原白秋 西條八十

     演奏/新交響楽団、中央交響楽団

 cast 原節子 早川雪洲 小杉勇 ルート・エヴェラー 英百合子 マックス・ヒンダー

 

 ◎1000本アップ記念

 実は、この映画は恵比寿の写真美術館で観た。

 75年ぶりに再上映されるという情報を得、

 しかも、ファンク版だけでなく、万作版まで上映されるって話だったから、

 連日、出かけた。

 で、このブログに載せなくちゃとはおもいながら、

「1000本になるまでとっとこ」

 と決めて、このときまで書かないで温存してたんだけど、

 そんなことをしてたおかげで、実はかなり内容を忘れてしまった。

 ファンク版と万作版を比べて、どちらが面白いかは、

 まあ、ぼくの胸の中にだけしまっておくけど、万作版の方がちょっと長い。

 当時のことはよくわからないんだけど、

 役者さんたちは日本語の台詞ばかりか、

 ドイツ語と英語を喋らなくちゃいけないし、

 まったくおんなじではないにせよ、同じ場面を二度撮りしなくちゃいけなかった。

 こりゃ、まじに大変な話だ。

 なんでこんなことになったのか、まあいろいろと考えるんだけど、

 ファンクと万作の山に対する考え方の差が衝突しちゃったんじゃないだろか。

 ファンクにとって山登りは日常の延長だったかもしれないんだけど、

 万作にとっては、

 入念かつ十分な装備を支度してからじゃないと登れないものだったんだろね。

 だから、

 ファンク版では原節子は着物のまま登り、裸足になっても平気で登ってく。

 ところが、

 万作版では原節子は小杉勇と山に登ったのが大切な思い出になってて、

 山ガールよろしく格好も重装備で、その写真も飾ってあったりする。

 また山への道についても、ふたりともそれぞれの国の事情から意見が分かれた。

 ファンクにとって山は登山鉄道の先にあるもので、当然、原節子も列車に乗る。

 これは京都の愛宕鉄道で撮影されたんだけど、

 愛宕鉄道は嵯峨野から清滝までは普通の鉄道だけど、

 清滝から愛宕山頂駅は登山鉄道になる。

 ファンクにしてみれば「あるじゃないか」ってな話だったろうし、当然、撮影した。

 奇しくも、後になって愛宕鉄道は廃線になっちゃったから、

 今ではこの作品はきわめて貴重な映像資料になってるわけだ。

 ところが万作にとって山登りに行くような山へはバスで行くもんだって気持ちがある。

 だいいち、阿蘇山に登るっていう感じで捉えているから、

 なおさら、そんなところに山岳鉄道はなく、行くならバス便だと主張したんだろね。

 だから、そのとおりに撮った。

 原節子はバスで行くわけだ。

 小杉勇は自家用のスポーツカーで追い駆けるからいいんだけど、

 ただ、そのあとがまた違うんだな。

 ファンクの場合、山には湖がつきものだし、原節子が先に入山して、

 その自殺を食い止めようとして追いかけているわけだから、

 当然、近道をしなくちゃいかんわけで、そのためにはカルデラ湖を泳ぐしかない、

 てな感じに主張して、大正池を選んで撮影したんだろうけど、

 その後、洋服も濡れずに登場するのはいいとして、靴下一枚で歩くのは危険ですな。

 で、万作の場合は途中まで車で追い上げるから追いつけるんだとばかり、

 がんがんスポーツカーで飛ばしていくんだけど、

 このとき、円谷英二のスクリーンプロセスが登場するわけですよ。

 まあ、どちらにしても追いつくわけなんだけど、

 格好からいえば、たしかに万作の考えの方が正しいかもしれない。

 ただ、ふしぎなもので、

 ファンクは山岳映画の専門家だから印象的なショットをいれたら、

 もうこんなもんでいいんじゃないかっていうくらい、あっさり感なんだけど、

 万作はちがう。

 冒頭の日本の風景もそうだけど、火山の場面も執拗だ。

 ドイツで日本の風景が公開される以上、

 てんこ盛りにしないとあかんっていうくらい、もはや命がけで撮影してる。

 それと、

 家族の描き方についても、ふたりには見解の相違がある。

 ファンクの場合は、早川雪洲がドイツ語の家庭教師を原節子につけて、

 開放的な感じで育て、小杉勇も恋人のドイツ人とフランクな感じでつきあうけど、

 万作の場合は、たしか、そんな家庭教師の場面はなくて、

 ひたすら長く、純日本的な暮らしぶりを描いてるような印象があった気がする。

 全体的に見ると、

 ファンク版は、原節子の心情を中心に描いていて、

 万作は、日本をしょって立って、ドイツに見せるんだっていう意気込みが強い。

 編集については、これは趣味の問題かもしれないけど、

 ファンク版の方が刈り込まれてる印象があって、

 万作版についてはもったいないから入れなくちゃ駄目だって印象があるね。

 どちらにせよ、

 芳紀まさに16歳の原節子は、当時の大日本帝国の至宝といっていい。

 綺麗だし、スタイルも日本人離れしてるし、とっても利口そうで、品がいい。

 水着も、ショートパンツでの櫓漕ぎも、薙刀も、お茶も、日本髪も、

 いや、ドイツ人に見せたれっていう気合が入ってるわ~。

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