△クヒオ大佐(2009年 日本 112分)
staff 原作/吉田和正『結婚詐欺師クヒオ大佐』
監督/吉田大八 脚本/吉田大八 香川まさひと 撮影/阿藤正一
美術/原田恭明 装飾/沢下和好 特殊メイク/小西修 音楽/近藤達郎
cast 堺雅人 松雪泰子 満島ひかり 中村優子 新井浩文 安藤サクラ 内野聖陽
△1984年、クヒオ大佐、逮捕
容疑、詐欺罪。
1989年、出所。
ちなみに、この信じられないような詐欺事件は、おぼえてる。
大学を出て、社会人になってた。
当時、写真週刊誌があいついで創刊されてて、
たしか、このクヒオ大佐も掲載されていたんじゃなかったかな。
信じられなかったのは、バイアグラを常用してたっていうくらい、
つぎつぎに女性をだまくらかしてたってことだ。
どっから観ても日本人の中年だし、軍服はレプリカだし、
カタコトながらも正確な日本語だったろうし、英語も喋れなかっただろうし、
なにからなにまでちぐはぐで、偽将校だってことはありありとわかるはずなのに、
都合1億円くらい、荒稼ぎしてたなんて、到底、ぼくには信じれなかった。
「なんでだろ?」
わからなかった。
が、さすがに吉田大八は、そのぼくの疑問に答えてくれてる。
松雪泰子の台詞がそれだ。
「わたしは、あなたがアメリカ人だろうとなかろうと、軍人だろうとなろうと、
そんなことは、どうでもいいの。
あなたの職業や肩書が好きなわけじゃなくて、あなたが好きなんだから」
とかいうような台詞だったとおもうんだけど、
世の女性は、たぶん、こういう台詞に憧れちゃうんじゃないかしら?
こんなふうな台詞そのものに恋して、自己陶酔しちゃうんじゃないかしら?
けど、
この松雪泰子は、仕事はしっかりしてるんだけど、男には免疫がなく、
こと恋愛に関してはかなりの奥手で、要するにおばかちゃんだ。
ちょっと足りないから、男についつい騙くらかされてしまう。
吉田大八の演出でよかったのが、彼女をマッサージしてやるところだ。
手をあげてなさいといわれた彼女は、
横になって愛撫を受けているのに尚、なんの疑問もなく、手を上げ続けている。
あほな女だな~とはおもうんだけど、こうされるとどうしても憎めない。
大八演出は、冴えてる。
ただ、松雪さん、こつこつとお弁当屋さんを営んでて、苦労してる。
そういう健気なところを見てると、
世の中を知ったような態度で人に接する、金持ち自慢の高慢ちきな女とかよりも、
よっぽど好いようにおもえるんだけど、
なんだか、どことなく哀れなんだよね。
こういう純朴な女性を騙していたとすれば、
それが、どれだけ悲惨な半生を送ってきたにせよ、罪に伏してもらわないといけない。
っていうか、堺雅人演じるクヒオには共感できないし、哀れともおもえない。
このあたりが、この作品の辛いところで、コメディになりきれないんだよね。
もちろん、コメディとして撮られたかどうかはぼくは知らないから、
いいかげんなことはいってはいけないんだけど、
内野聖陽の登場するすべての場面と本編とが、妙にちぐはぐな感じもあって、
いったい、この映画はコメディなんだろうか、それとも悲劇なんだろうか。
たぶん、本来の意味でいう悲喜劇(コメディ)なのかもしれないね。