☆ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界
(2012年 イギリス、デンマーク、カナダ、クロアチア 90分)
原題 Ginger & Rosa
staff 監督・脚本/サリー・ポッター
撮影/ロビー・ライアン 衣裳デザイン/ホリー・ワディントン
美術/アンドレア・マシスン カルロス・コンティ
音楽/ザ・シャドウズ『アパッチ』 デイヴ・ブルーベック『テイクファイブ』など
cast エル・ファニング アリス・イングラート クリスティーナ・ヘンドリックス
☆1962年、ロンドン
核の恐怖と不安が世界中をおおっていた時代の話だ。
強迫観念というのは、ときにその人間の心を透明化させてしまう。
心臓の鼓動を高鳴らせ、不安感が取り除かれるまでその動悸は熄まない。
主人公のジンジャー(本名アフリカ)の動悸を早めさせたのは、
廃絶をめざした反対運動に自由主義者の大人達に混じって参加していた核と、
広島と長崎に原爆が投下された年に共に生まれた双子のような親友と、
その親友と不倫してしまう実存主義者にして三文作家の尊敬すべき父親と、
父親が浮気してしまったことで狂乱する唖然とするくらい豊満な胸の美しい母親、
そして、
父親の影響でT・S・エリオットの詩を愛し、日々不安に苛まれている自分自身だ。
強迫観念におしつぶされそうになるのは誰にでもあることで、
自分ではどうすることもできない事態を突きつけられたとき、
わが身を可愛いとおもえばおもうほど、
どうしようもできない自分に神経回路が乱れ、
胸の動悸が極端に高まり、全身が恐慌状態となって身動きできなくなる。
なんでこんなことになるかといえば、
ここではエル・ファニングだけれども、
彼女の心がガラスのように繊細かつ純粋で、
同時に世間と現実の醜さを知っているようでいてまるで知らず、
ことに男の、ここではアレッサンドロ・ニヴォラ演じる父親の、
自由で知的という好い面ばかりを観て、同時に抱えている性欲に無知で、
社会も親友も決して自分を裏切らないという子供じみた心が抜けずにいるからだ。
もちろん、少女であることの素晴らしさは謳歌すべきものなんだけど、
同じ日に生まれ、共に育ってきたはずの親友アリス・イングラートは、
そのびっくりするほどの美貌のためか、ひと足はやく大人になってる。
もっとも、身体は大人でも冷静かつ理性的な考えができるほど成長したかといえば、
行動はどうにも奔放かつ衝動的であることをおもえば、
冷静かつ理性的なおとなになっているとはややおもいにくい。
つまりは、
依然として少女でありつづける主人公と、
少女から大人へと脱皮してゆきつつあるその親友との物語で、
それを、さまざまに成長してしまった大人たちが取巻いているという構成だ。
話としては単純だけど、
使用されている音源といい、透明感のある美しい映像といい、
いや、ほんと、
60年代前半の青春物語として、しっかりした出来栄えだったわ。