☆あなたになら言える秘密のこと(2005年 スペイン 114分)
原題 La Vida Secreta De Las Palabras
英題 The Secret Life of Words
staff 監督・脚本/イザベル・コイシェ 撮影/ジャン=クロード・ラリュー
美術/ピエール=フランソワ・リンボッシュ 衣装デザイン/タチアナ・ヘルナンデス
挿入歌/アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ『Hope There's Someone』
cast サラ・ポーリー ティム・ロビンス ハヴィエル・カマラ エディ・マーサン
◎私はもう遠くにいて、多分戻ってこない
ボスニア紛争にかぎらず、
世界のどこのどんな戦争でも、それが終わって何年も経っていくと、
どんどんその記憶は薄れ始め、やがてとっても遠いものになっちゃう。
でも、戦争の直接間接を問わず、犠牲を強いられた身にとってみれば、
死ぬまで忘れることのできない凄惨な記憶として残り続ける。
民族浄化作戦が、そのひとつだ。
人類の歴史上、民族浄化というのは、絶対に許しちゃいけないものだろう。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナはその陰惨な歴史を背負ってしまった。
映画の中で、その体験は「秘密」として語られる。
たとえば、
相手の兵士に銃をつきつけられ母親が、
自分の娘の性器に銃口を挿入するよう強制され、
さらに発砲しろと命ぜられる。
これで孫の顔を見ることはできなくなるなという兵士の言葉は、
人間が絶対に口にしてはいけないことだし、
さらに片方の耳が暴力によって聞こえなくされてしまったヒロイン、
サラ・ポーリー演じるところの元看護婦は、
何十人にも兵士に日々繰り返しレイプされ続け、
そのたびに胸をナイフで切られ、そこに塩を塗りつけられる暴行を受け続けた。
この秘密をいえるまでになる過程が、映画の前半だ。
サラ・ポーリーは、
海底油田の掘削所における火事で被害を受けた職員の手当をし、
その怪我人ティム・ロビンスとその同僚たちと一か月過ごすことで、
徐々に心を開き、ティム・ロビンスだけに秘密を打ち明けるんだけど、
ふたりの間に恋が生まれているから、余計に痛々しい。
むろん、ティム・ロビンスは、
陸に上がったあと、なにもいわずに去ってしまったサラ・ポーリーを見つけようとし、
やがて彼女のもとまで辿りつくことにはなるんだけれど、
その前に、
ボスニア紛争で心に拭い切れない傷を負わされた女性たちのカウンセラーを訪ね、
彼女たちの証言したテープをつきつけられる。
つまりは、こういう意味だ。
「ここに、彼女がいる。このテープを見る勇気と責任が、あなたにあるか。
彼女の心の傷は生涯消えない。その傷をともに背負っていけるのか」
大変なことだ。
一緒に暮らせば、その過去は現在の現実となって、ふたりに生涯ついてまわる。
ティム・ロビンスの決断は、重い。
映画の中で、少女のモノローグがある。
それはおそらくボスニア時代の彼女にちがいない。
悲劇を体験した少女の時はそこで止まり、
看護婦であった自分、工場で働いていた自分、
さらに油田掘削所に派遣された当初の自分は、みんな、少女だ。
少女であった自分が、何年経っても自分のすぐ横にいて、囁き続けてきた。
けれど、ティム・ロビンスとたぶん結婚して暮らすにようになったんだろう。
だから、モノローグはこういうんだ。
「私はもう遠くにいて、多分戻ってこない」