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男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花

2019年11月03日 23時44分06秒 | 洋画1971~1980年

 ☆男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花(1980年 日本 108分)

 監督/山田洋次 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 江藤潤 浅丘ルリ子

 

 ☆第25作 1980年8月2日

 タイトルバックが変わった。

 それまで荒川の土手だったのが、白糸の滝になってる。まあ、茶店の前のベンチのシーソーギャグは変わらないが。山田洋次の原作脚本のタイトルはかならず帝釈天に被さっていたのに、茶店の軒に山を背景にしたところてんの旗になってた。ま、次の本編最初のカットは帝釈天の門なんだけどね。

 けど、すんごい不思議なんだけど、とらやの人達が水元公園に菖蒲を見に行こうとした矢先、寅が帰ってくる。けど、それを隠そうとするんだよね。結果、ばれて喧嘩になる。別に「あ、いいところに。一緒にどうよ」と誘えばいいのに、この余分な気の使い方がいつも悲しい。特に今回は、むりやりな印象が強くて難しいな。

 ところが、この後、俄然おもしろくなる。

 まあ、紆余曲折あるんだけど、寅は男だね。それもどうしようもなく、男の本能を隠せない男だ。

 リリーのために沖縄へ行こうとしてるのに、早く行かなくちゃ死んじゃうかもしれないとかいってるのに、飛行機が怖くて乗れず、にもかかわらず、スチュワーデスが通りすぎただけで鼻の下を伸ばして乗り込んじゃう。

 リリーの看病をしてるのに、海洋博のイルカシヨウのお姉さんに岡惚れしちゃうどころかそれがもとでヤキモチを焼いたリリーと大喧嘩になる。

 もはや古女房なんだけど、男女の関係はないんだな。

 しかし、ふとおもった。これだけ迫られても寅はリリーと結婚しない。男女の関係にもならない。どうひようもないくらい最低の女好きなのに、両思いになる瞬間に相手を避けて逃げ出していく。肝心のことができない。なんでだろうね。

 いつもは、こんなことは考えない。逃げ出しちゃって、終わっちゃうから。けど、今回ばかりは逃げられない。リリーが死線をさ迷った病み上がりだからだ。うまいな、山田洋次。

 しかし、だったらなぜ、寅は応えないんだろう?

 単なる度の過ぎた照れ屋というだけでは片づけられなくないか?性的な問題でも抱えているのか?不能とはおもいたくないがなんでこうも肝心な場面になると腰が引けちゃうんだ?この弱腰はどこから来るんだ?

 もうひとついうと、寅はいつも旅先では他人に好かれる。短い滞在だからだ。本性が見えてこないからだ。

 ところが、今回はちがう。

 リリーと一緒に、部屋は別ながらも下宿しているからだ。当然、下宿先の家族はリリーと寅の生活を見てる。寅の本性を知る。くだらない男だと見抜く。だから、リリーに同情する。かわいそうだとおもい、あんたも苦労するねと声をかける。入院のときは同室の連中も寅をおもしろい男だというだけで、底の浅さは見抜けない。接する時間が短いからだ。うまいな、山田洋次。

 そしてついに、リリーはみずから縁を断とうとする。ひとり、内地に帰る。寅が応えないからだ。寅を愛してるからだ。すごいな、山田洋次。

 ハブにかまれて死んじゃったんだよ、きっと。おばちゃんの台詞は効いてるね。近所のお母さんも子供を叱る。ご飯食べないと寅さんみたいに行き倒れになっちゃうよ。うまくまとめてるね。

 それにしても、寅はばかなのか察しがいいのか、リリーとふたりして「夢だ、夢だ」といってしまう淋しさはどうだろう。寅がひとり庭の軒下で柱によりかかって「夢かあ」と呟くに至るまで、うん、さすがだね。

 台詞は後半が進んでいくにつれてどんどん凄くなってくるし、佐藤峨次郎はいつもより出番が多すぎるくらいだけど、なんとか一座だのといった準レギュラーはまるでいないし、寅のアリアもないし、その分、最後までリリーはからむし、帝釈店前の通りのロケは多いし、いつもとまるで違う。撮り方までちがうように見えてくる。

 なんだ、この回は。凄いな。

 ま、お盆に笠智衆が棚経を上げに来たとき、蛸社長が「書き入れ時ですね」といい、御前さまが「今日はスケジュールが詰まっておりますからお経は少々短めに」と告げ、いいところだけちょこっとで結構でございますと応えて掌を合わせるとらやの面々は、ご愛嬌だけど。

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