△男はつらいよ 知床慕情(1987年 日本 107分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 吉岡秀隆 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 竹下景子 三船敏郎
△第38作 1987年8月5日
まさか、三船さんが寅さんシリーズに出るとはおもわなかった。
当時、三船さんは一枚看板で映画が撮れるような情況ではなかったかもしれないんだけど、でもたしかこのとき、日本アカデミー賞っていうテレビ局の賞番組で助演男優賞にノミネートされてて、でも三船さんは愉しそうに他の受賞者と並んで取材を受けてた。なんだか寂しかった。そんなことをおぼえてる。でも、とってもスタイルが良くてかっこよかった。
ただ、三船さんは亡くなってしばらくしてから、わけのわからん風潮で、どこのどんな役者も名優だとか、糞映画でも名作だとかいう、もうおもねりとねつらいだらけの芸能界になってしまってから、やっぱり名優とかいわれ、担ぎ上げられたけど、当時はそんなこといわれなかった。
世界的なスターであることはまちがいなかったけど、世の評論家や訳知り顔の業界人どもはこぞって三船さんを大根役者といってはばからなかった。嘴の黄色い新参者の業界人や、大学の映画サークルの青二才連中も、みんながみんな、三船さんをこきおろしてた。
そんな中で、ぼくは孤立して三船さんの応援に立ってた。三船敏郎は大根じゃなくて世紀の逸材を使いこなせない監督が三流なんだといいつづけてた。誰も耳を貸さなかったけどね。
まあそんなこんなの時代があって、そのちょっとあとにこの映画が封切られた。
車好きな三船さんがあいかわらずの仏頂面で、おんぼろ車をスピーディに扱ってみせるのはいかにも三船さんらしかったけど、もうちょっとなんとかならなかったのかなあ。三船さんと竹下さんの共演は嬉しかったし、森繁久彌の『知床旅情』も三船さんと共演してるみたいでなんだか嬉しかったけど、でもなあ、せめて三船さんに帝釈天を歩いてほしかったなあ。