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男はつらいよ 寅次郎心の旅路

2019年11月19日 20時34分57秒 | 邦画1981~1990年

 △男はつらいよ 寅次郎心の旅路(1989年 日本 109分)

 監督/山田洋次 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 吉岡秀隆 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 淡路恵子 竹下景子

 

 △第41作 1989年8月5日

 また、夢がない。

 木賃宿にさくらから手紙が届く。一万円入ってる。飲もうという関敬六に「ばかやろう、かたぎの女が額に汗して働いて稼いだ金だ。おまえらの飲み代にできるか」と叫ぶ寅がいるわけだけれども、なんだかまじな出だしだな。やっぱり40作品を過ぎたことで雰囲気を変えようとしたんだろうか。

 ひるがえって、さくら。やっぱり出だしは違う。いつもののんびりした出だしじゃない。寅に憧れるような台詞を吐く満男に「おじさんは社会に否定されたのよ」と。たしかにそのとおりだ。

 なんだか、回を追うごとに寅に対する台詞の風当たりは強くなってる。寅ももちろん自分の人生がどのようなものだったかと肌で濃く感じるようになってきてるから、辛さは増してきてるね。でも、それでいいのだ。

 まあ、それはともかく、淡路恵子と竹下景子の共演は、ちょっと前の『知床旅情』とおんなじじゃんね。だから、淡路恵子の夫の写真が飾ってあるとき三船敏郎かとおもったらオーソン・ウェルズだった。たしかにウィーンだし、スパイだったとかっていうんだからそりゃ三船敏郎じゃなくてオーソン・ウェルズなんだろうけど、でもなあ。

 ま、それもいいとして、寅が恋をしているのかどうかもよくわからない微妙なまま、ラストだ。なんとまあ、つまらない展開だろう。

 寅が初めての海外旅行へ出かけるわけだから、なにかあってもよさそうなものなのに、なんの話の展開もなく、いきなりウィーンだ。しかも、そこらの旅回りと大差のない展開で、せっかくウィーンに行った甲斐がまるでない。嫌々撮ったとしかおもえないような筋立てと撮り方のように感じられたけど、どうなんだろう。

 佳境、空港で寅がおもいきりのけぞって、なんだ惚れてたのかよとおもえる場面では、竹下景子がいきなりのラブシーン。いくら演ずるのが仕事とはいえ、恥ずかしかっただろうな、こんな展開は。なんだか、同情しちゃったわ。

 ただ、ラスト、帝釈天の庫裡で「寅の人生そのものが、夢のようなものですからな」という笠智衆に、さくらはこういうんだ。だとしたらいつ覚めるんでしょうね、と。覚めないんだな、悲しいことに。

 だから、ウィーンから傷心のおもいで帰ってきた寅は、こういう。

「じゃあまた、夢の続きを見るとするか」

 辛いな、こういう台詞は。その寅の心をわかっているのかいないのか、さくらは「また寝るの?」と訊く。

「旅に出るのよ」

 寅の夢は旅しかないからね。このあたりは実にうまいな。冒頭に夢がなかったのはそういうことなんだね。

 しかし、どうでもいいことかもしれないんだけど、柄本明も前田吟も『とんでもありません』という。どうやらこの頃から日本語の乱れが激しくなってきたのかもしれないね。ま、ラストカットの港越しの富士山はやけに好い画だったけど。

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