◎男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎(1981年 日本 104分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 吉岡秀隆 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 松坂慶子
◎第27作 1981年8月8日
松坂慶子、夢の中にまで登場してる。マドンナでは初めてことなんじゃないかしら。それとも、僕が憶えていないだけかな。
あ、この回から吉岡秀隆が登場するんだね。まだ、じゅんの面影があって、おもわず「おお~」と口走ってしまったけど。
松坂慶子はちょうど『愛の水中花』がヒットしてた頃のようで、寅も縁日で「愛の水中花」を売ってたりする。
これはご愛嬌だが、それにしてもこの当時、大阪のカップルが遊びに行く山といえばやっぱり生駒山なんだね。
宝山寺新地(生駒新地)に出かけていくわけで、それも松坂慶子は芸者なんだからその辺のところはよくわかっているはずだよね。だからそれとなく誘っていたってのもわからないんじゃないんだけれども、そこはそれ寅だから。男女の理にはまったくの頓珍漢だから、弟の存在を知るやすぐに下界へ降りちゃう。
で、弟の死を知ることになるんだけど、この弟の恋人のマキノ佐代子が魅せる。お尻をだ。ジーパンのお尻を寅たちに向けて台所に立つんだけど、それはこのお尻と弟の恋人っていう対比が強烈で、だから大きくて形の好いお尻の彼女が抜擢されたんじゃないかっておもうわ。
それと笑福亭松鶴も含めた初音礼子と芦屋雁之助のいかにも浪花的な濃厚なやりとりはどうだろう。ここらの場面は寅では珍しいな。
ただ、やっぱり寅の美学にもならない弱腰の展開だ。いつもどおり逃げるのだ。童貞なのかとその臆病ぶりを罵倒したくもなるけど、これが高倉健だったら「かっこええな~っ」てことになる。ふしぎだね。
それはともかく、松坂慶子はよく演じてる。弟の死を知るまでは好い恋をしかけてて、弟の死を知ったとき、寅が運送屋で「皆さん、お世話になりました」と仕切ってみせたとき、まじで惚れるんだね。で、酔いに任せてついに寅の胸で泣きたいとおもい、そのまま恋を成就させてしまいたい激情にもかられて木賃宿の「新世界ホテル」へ飛び込んでくるんだな。ほんとにもてるな、寅。
でも、寅は逃げるんだ。ほんとに卑怯だな。女をその気にさせておいて、非道い男だとおもうよ。
だから、山田洋次はそのあたりをしっかりと撮ってるね。松坂慶子が夜明け、たったひとりで宿を去っていくワンカットだけじゃなくて、さらにタクシーにまで乗って去っていくところをじっくりとワンカット。このあたりは、さすがだ。
でも、そのあとが良くないんだな。
松坂慶子がとらやにやってくるのはいい。寅を好きで、最後の賭けにやってきたのかとおもわせる。結婚の報告をするわけだから、ぼくらとしては「お、最後の賭けだな。結婚することにしたが、寅がするなといえばしない、おれの嫁になれといわれればなるってところだな」とおもうんだ。でも、ところが、どうやら結婚相手も東京に来てるらしい。
なんとまあ、しかも松坂慶子が寅を好きだとわかってるから、とらやにまで電話をかけてくる。
別れをいいに来たというわけなんだろうけど、ちょっと未練がましい気もしないではないし、なにより「寅がいるかどうかもわからない、せめて寅の故郷を見てみたい」という女ごころがそうさせたと解釈するのがいちばん好いんだろうし、寅と会えたのはまったくの偶然と解釈するのがいちばん納得できるのかもしれないんだけどね。
いずれにせよ、松坂慶子は別れを告げにきたのではなくて、寅を忘れるために柴又に来たんだけど遭っちゃったんだな。
ま、それはいいとして、ラストはいけないな。
寅が、松坂慶子の嫁入り先の対馬まで往っちゃうんだ。夫の斎藤洋介も心の中は穏やかじゃないよ、ほんとは。しかも、松坂慶子が泣いて喜んでるんだから、この先、夫婦仲がまずいことになるんじゃないのかって終わりのようにおもえちゃうんだもん。浅丘ルリ子みたいな展開になればまた話は別だけど、そうじゃないんだからさ。