Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

ドローイング296. 小説:小樽の翆227. 男同士の宴会

2020年11月07日 | Sensual novel

 

 北海道で冬になるとみられる大星雲が天空を一文字に覆っている。翼君の招きもあり、彼のアルバイト先である海沿いの小さなショップへ散策。

 小樽市内から函館本線沿いを浅里方面へゆくと、線路と海岸線の間の僅かな敷地にショップがある。

翼「ここは、海水浴やシュノーケルの器材を貸し出しているんだ。ダイビングは積丹に店があるので、今はそっちが中心かな。こっちは、シーズンオフ。閉店しているから、その間、掃除でときどきやってくるんだ」

そういって翼君は、ノンアルコールビールを出してきた。じゃあアチキはビーフジャッキーがある。

 もう冬が近いから、北海道の海岸は肌寒い。店に置いてある防寒具をかぶりながら、おもてのテーブルで潮騒を聞きながら男同士の会話。

「ここにいると、人間は哲学的になるな」

翼「うん、いろんなことを考えるよ」

「光凛さんとの密会の場所だし」

翼「(笑)まあ、そうなんだけどさ・・。それで人間が生きてゆく目的は、なんだろうって考えちゃうね」

「生きてゆく目的かぁー」

翼「それは一つしか無い。子供をつくること、人間という種類をつなげてゆくことだけだと思う。あとは全てそのための仕組みかな」

「結構本質的なところをついてくるね」

翼「子供をつくるために、セックスをする、その前に彼女をつくる、その前に彼女をさがす、全てが子供をつくることにつながっているんだ。そして子供ができれば、そのために病院が必要だったり、道具が必要だったり、育てる教育が必要だったり、そのために稼がなきゃならないから、仕事をするための大きな町や社会が必要だったり、と次第に大きな世界になる。それが世の中の仕組みかな」

「その通りだろうね。人間の最終目的は、子供をつくることにある、で・す・ね」

翼「このあいだ、朱凛(ひかり)が記録会にでたんだ。そしたらダントツに早い選手ばかりで、自信喪失だった」

「前夜にセックスしたのに(笑)。泳ぐだけが全てじゃないでしょう。朱凛さん、高校出たら沖縄のダイビングの学校にいったらどうかな」

翼「一緒に、ダイビングして暮らすわけ?

「その通り、翼は海上保安大学校だろ。朱凛さんは沖縄でダイビングのインストラクター養成スクールにいく、というのはどうだろう」

翼「離ればなれかなぁ」

「もし大学に落ちれば一緒に沖縄でインストラクター養成スクールにゆく案もある。それに海上保安庁って沖縄に基地があるんだよ。学校出たら沖縄に配属希望をだせばいいんじゃない」

翼「そっかあ、一緒に暮らせるね」

「将来は、二人でダイビングショップを経営すればいいんでは。この先、ずーっと光凛さんと一緒?」

翼「うん、光凛が最初で最後の女で十分だよ。というのもお互いのいろんな事をしっちゃったでしょう。違う女と出会ったら、また振り出しに戻るよね。それを一からというのは面倒くさいよね」

「多分翼は、一番好いときに最高の彼女に出会ったんだよ。死ぬまでお似合いのカップルだと思うよ。

普通は、女と会うたびごとに、恋愛テンションがドンドンと下がっていって、ついには妥協して、まあいいかになって、女に合わせるとか、面倒な事ばかりだよね。大方は、みんなそんな風に、好きでもない相棒とカップルになっているんじゃない。そうして、仮面夫婦なんかになって右往左往して生きるんだろうな。だから翼は早くみつかって、よかったじゃん、ということになるな」

翼「フゥーン、そっかぁ」

小樽の寒さと、冷えたノンアルビールが、冬の到来を予感させる。

・・・

じゃ帰ろうか。オジサン、自転車で途中まで送ってゆく。俺、脚力つよいから大丈夫さ」

そういって翼君の自転車にまたがり、小樽の坂道をグイグイと上がっていった。

コメント
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