Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

ドローイング580. 小説:小樽の翆506. 通い妻

2022年03月05日 | field work

 

 冬は、いつまでも体温で温まっている布団のぬくもりに心地よく、まどろんでいるともう朝はとおに過ぎている。翠は日勤だから、すでに病院で仕事をしている頃だろう。

 おもむろに起き上がって、翠がつくってくれたサンドイッチと珈琲をすすり、天気が良いから郊外へデッサンだな。

 そんなわけで、いつもの店でレンタカーを借りて車を郊外へ走らせる。いつもの寒さだ。山はまだ冬だ。ひとしきり描きおえ、街の風景でも描こう地獄坂へきた。すでに歩いた人の足跡と言うよりは雪に穴があいて連なっている。それでもここからは雪に覆われた街が見える。

遠くで「叔父さぁーん」とアチキを呼ぶ声がする。眼前にある中学校の方からだ。小春だな。

小春「久しぶりじゃん」

「猛吹雪が続いたから家に籠もっていたよ」

小春「あのねぇー、私ユウ君と結婚することにしたの!」

「はあ!、結婚にはまだ数年先じゃん」

小春「以前パパの本棚にあったフレーゲという人の概念記法という本を読んだことがあるの。そこから勉強したんだけど、婚姻年齢は法律が決めた形式だけなのよ。だからといって、それは私の生き方とは関係ないじゃん。男と女の中は、回りが認めちゃえばOKじゃん」

「フレーゲ!、数学の先生ね!!、なんとも早い決断!」

小春「パパにもいったの!」

「ほう!」

小春「パパはねぇー『これでうちも全部片づいた。完売です-!!、って看板を出しておこうか』だって」

「婚姻制度は社会的な制度にすぎないから、それにライフスタイルを合わせる必要は無いというわけだ」

小春「そうよ、ユウ君のママも夕飯をつくってくれるから仕事に専念できるっていって喜んでいた。これでみんなに認められた仲よ!」

「じゃあユウ君の家に通い妻だ!」

小春「ハハハハ!、そうね。来年は子供をつくろうかな!!」

「おおっ、素晴らしい」

小春「だってさぁ中学校は義務教育だから、ところてんみたいに押し出されるじゃん。子供を作るのには調度いいかなぁーって考えたの」

「それで後のことは社会で考えてよ!、というわけだ」

小春「ママがねぇ『また子育てね。これまでにもう何人育てたかしら』だってさ」

「まあ人間が法律や制度といった社会的仕組みをつくるのは、主に税金を取るだけ。法律や制度と男と女の中は関係ないからね。だって逆を考えれば明快だ。法律に従っていればラブラブが保証されるわけではないしさ」

小春「だから今日もユウ君の家へ通い妻よ」

アチキは、ふと思った。家族のライフスタイルとラブラブとをすりあわせることが大切だ。そんなことをしない核家族だから、いろんな問題が発生する。いろんな問題を夫婦で解決しなければならない。たとえば子供を保育所に預けないと仕事に出られないといったように。誰かが育児や家事を引き受け、そして誰かにバトンタッチできる。そこが大切なのだ。

家族が増えるという事は、お互いが少しずつ負担して暮らせる仕組だ。そんな仕組みを思いだしていたとき、ペーヤンのVIGIの家族の話を思いだしていた。そうだあの国が大家族主義だ。なにかがあると20人ぐらいの親族が集まってくる。大家族で考えようというわけだ。

小春を見送って、そんな仕組みを日本が捨ててしまった事に気がついた。これを回復するには2世代ぐらい待たないとあかんな。

・・・

雪の小樽も晴天が広がっている。さて遅いお昼にしよう。五香飯店で水餃子かなぁー。

 

コメント
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