虚無僧は、「家康公のお墨付」があると主張して、特権を振りかざそう
とした。しかし、「御定書」なるものは存在せず、「原本は火事で
消失した。その写しならある」というのだが、この「写し」が また
何種類もある。その一例。
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『御入国の砌(みぎり)仰せ渡され候御掟書 控』
一 虚無僧の儀は、勇士浪人一時の隠れ家として、不入守護の宗門。
よって天下の家臣諸士の席、定むべきの条、その意を得べきこと。
一 虚無僧取立の儀は、諸士のほか、一向坊主、百姓、町人、下賤の者、
これを取立つべからざること。
一 虚無僧諸国行脚の節、疑はしき者見掛け候時は、早速召し捕え、
その所に留め置き、国領はその所役人へ相渡し、地頭、代官所は
その村役人へ相渡し申すべきこと。
一 虚無僧の儀は、勇士兼帯のため、自然 敵など相尋ね候旅行ふ。
よって、諸国の者、虚無僧に対し慮外の品または托鉢に障りむづかしき儀
出来し候節は、その子細を相改め、本寺まで申し達すべし。
本寺において済まざる儀は、早速江戸奉行所まで告げ来るべきこと。
一 虚無僧止宿は、諸寺院あるいは駅宿村々役所に旅宿いたすべきこと。
一 虚無僧、法閑(天蓋か?)猥りに取るべからざるものと、万端心得べきこと。
一 尋ねもの申し付け候節は、宗門諸派丹誠を抽んずべきこと。
虚無僧敵討申したき者これあるにおいては、吟味を遂げ、かねて
本寺に断り、本寺より訴へ出づべきこと。
一 諸士、血刀を提げ寺内へ駆け込み依頼のもの、その起本を問ひ、
抱え置くべし。もし弁舌を以て申し掠むる者これあるにおいては、
早速訴え出づべきこと。
一 虚無僧、常に木刀、懐剣等心掛け所持いたすべきこと。
一 本寺より宗法出し置き、その段油断なく相守らせ、宗法に相背く者
これあるにおいては、急度きっと宗法に行うべきこと。
右の条々堅く相守り、武門の正道を失はず、武者修行の宗門と心得べきものなり。
そのため日本国中往来自由差免し置くところの決定、件の如し。
慶長十九年甲寅年 正月 本田上野介(正純) 印
板倉伊賀守(勝重) 印
本田佐渡守(正信) 印
虚無僧寺へ
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表題に「御入国のみぎり」とあるのは、秀吉によって小田原北条氏が
滅びた後、徳川家康が関東に入国した年。それは「天正18年(1590)」
なのだが、最後に「慶長19年(1613)」となっている。「慶長19年」は
「大阪冬の陣」が起きた年。「天正」と「慶長」を混同していることからも
後世の偽書とされる。
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