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日本の伝統工芸を残すのは、海外の高級ブランドなのかもしれない

2024-01-27 20:15:44 | アラカルト

先日、Instagramに「日本の伝統工芸を海外の高級ブランドが注目している」という、実例を見た気がした。
それは、クリスチャン・ディオールの次の秋冬のメンズコレクションの動画だった。
Instagram:クリスチャン・ディオール2024、冬コレクション 

Instagramを見るだけなら、登録の必要はなかったと思うので、この動画だけでも見ていただきたいのだが、内容はプラチナを薄く伸ばし、糸のように切った和紙に巻き付け、それを絹糸と一緒に織り上げる、という「引き箔」という技術を使った西陣織の帯生地を使ったコートの制作過程だ。

若い頃、着物に凝ったことがあり「金の引き箔」の袋帯は1,2本持っていたと思う。
と言っても、このディオールが制作依頼をした帯地ほど豪華絢爛なものではない。
というのも、このような帯は重く、結び難いからだ。
私自身、自分で着物を着つけることができるのだが、友人の結婚式で着つけた時随分苦労した記憶がある。
その為、このような「引き箔」の帯そのものを見ることは少なくなっているのでは?と、想像している。
まして西陣織となると、その工程は複雑で、一行程づつ分業制で行われている。
それほど時間と手間をかけ、織り上げられるのが西陣織ということになる。

実はこの複雑で一工程づつ分業する、というのは日本の伝統工芸においては、良く見られる行程でもある。
だからこそ、使われる素材だけではなく出来上がった物そのものが、高額な物になってしまうのだ。
まして現在の着物は、日常着ではなく「晴れ着」となっている。
上述したように、自分ひとりで気軽に着られるものではない。
そのような社会的背景等もあり、日本の着物産業そのものは衰退の一途をたどっている、と言っても過言ではないだろう。

しかし、織り上げられ、手で縫い上げられた帯地のコートの豪華絢爛さは、西陣織独特のものだ。
ファッションショーで発表される作品全てが、市場に出されることは無く、おそらく今回の西陣織のコートもプレタポルテ(既製服)として、市場に出ることは無いだろう。
「既製服でありながら、市場に出ないモノをつくる」理由は、ファッションショーそのものが、デザイナーの創造性の発表の場でもあるからだ。
そして、その創造性として発表された物は、デザイナーの今後に大きく関わってくる、と言われている。
あえて日本の伝統工芸品を既製服のファッションショーで打ち出した、ということは、ディオールのデザイナーが「日本の伝統工芸品に興味を持っている」という、意思表示でもあるのだ。

西陣織は、衣服に使えるが織物や染色以外の伝統工芸は無理じゃないか?と思われるかもしれないが、そのようなわけではない。
例えば、会場のディスプレイに使われる可能性もある。
そう考えると、日本の伝統工芸を支え・伝える力があるのは、海外の高級ブランドなのかもしれない、という気がするのだ。