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“男のためのガーデニング”改め

『79億の他人――この星に住む、すべての「わたし』へ②~近江八幡市まちや倶楽部~

2021-11-13 16:39:39 | アート・ライブ・読書
 ボーダレス・アートミュージアムNOMA美術館の秋の企画展は『79億の他人――この星に住む、すべての「わたし』をテーマにNOMA美術館と「まちや倶楽部」の二カ所での開催となっています。
多様性とコミニュケーションを主題として取り上げた美術展は、「NOMA美術館」では多様性を、「まちや倶楽部」ではコミュニケーション困難な方とのコミニュケーションの可能性を感じるものでした。



会場となった「まちや倶楽部」は、レトロな建物の横丁のような場所に垢ぬけたお店が並んでおり、奥が会場となっていました。
一見、ウナギの寝床のような辻には滋賀県らしからぬといっては失礼かもしれませんが、小さいながらもお洒落な店舗が並びます。



奥へと進むと広い部屋が続いているので、その広さに驚きますが、聞いてみると江戸時代からの造り酒屋の内装を変えたものだそうで、店が入りだしたのはこの2~3年くらいとのこと。
商家を改造したNOMA美術館も魅力がありますが、造り酒屋を改修した「まちや倶楽部」での美術展も雰囲気たっぷりの会場です。



大きなタンクは発酵させたお酒を入れるタンクでしょうか。
銘板には昭和の日付がありましたので、近年まで酒屋をやっておられたのかもしれません。



入ってすぐのエントランスに置かれているモニターからは、五十嵐英之さんと倉地雅徳さんが絵を描いている光景が映し出されています。
美術家の倉地さんは、特別支援学校で教員を務め、意思疎通の難しい自閉症の五十嵐さんと出会い「相互描画法」という方法でコミニュケーションを取るようになったといいます。



きっかけとなる絵を五十嵐さんが描き、しれを見た倉地さんが選んだ紙に自分の絵として完成させ、それに反応して五十嵐さんが描いていくという。
二人のセッションは29年目を迎えているといい、セッションから生まれた絵は5000枚を優に超えるとされ、相互に絵を描くという行為のコミニュケーションの記録といえます。



「重症心身障がい者通所施設えがお」からは、肢体不自由と知的障がいによって意思疎通が困難な方との創作活動の様子が動画と作品で展示されています。
絵の具を塗った手で布を掴んだりして色付けされた作品は、無作為に掴んだだけでありながら、アブストラクト作品のような作品になっています。





えがおの作品の中にはTシャツを着た支援者に絵の具を塗った手で抱き着いて造られた作品もあります。
コンクリート壁に囲まれたレトロな建物の高い天井に、色付けられたTシャツが吊るされている光景は何とも言えない味わいがあります。



建物の一番奥にある槽蔵では佐々木卓也さんの女性をモチーフにした粘土作品が並びます。
プリミティブな印象を受ける粘土の女性は皆、真っすぐに伸ばした右腕の肘の内側を左手で触れるポーズをしています。
彼にとって右ひじの内側は“心の安らぐ大切な場所”というのは彼の母親の言葉として紹介されています。



また、粘土作品として造られた女性はすべて実在の女性で、モデルにした女性の名前がつけられているとあります。
本やテレビを含めて自分の見知る誰か(女性)に自分の好むこのポーズを取らせたうえで再現しているという架空のコミニュケーションが交わされているようです。


《ゆみちゃん》

藤本正人さんは、カセットテープのケースに20cmほどの長さの刺し子糸を輪ゴムで留めた「振り子」をつまみ持ち、くるくると回る様子を眺めながら1日を過ごし、そんな生活を40年に亘って続けられてきたといいます。
「振り子」を分解して、福祉施設に来られる方に手渡し、組み立てられて戻ってくると再度分解して、また誰かに渡して組み立ててもらうというルーチンを繰り返されるそうです。
唯々回る「振り子」を眺める日常の中で、分解して他者に渡すのは、他社とのコミニュケーションの回路でもあるという。





会場の入口には「みんなの“鑑賞”」というコーナーがあり、体験が出来るようになっています。
視覚障害の方の体験は、目を閉じて佐々木卓也さんの粘土作品《あやちゃん》を触って体験できます。
最初に目で確認してしまっているので触っても形が把握できましたが、見えてなかったら何かよく分からなかったと思います。



もう一つ紹介すると、野原健司さんの立体感のある絵画を、高さを変えて一番見やすい高さに変えてみる体験です。
後ろにあるチェーンブロックを巻いて高さを変えていく試みは「絵の高さが変えられる壁」とタイトルがついていて、鑑賞方法を自分で選べるようになっています。



ボーダレス・アートミュージアムNOMA美術館は、アールブリュット作品のみにとどまらず一つのテーマの元にボーダレスに作家を紹介してくれるので毎回楽しみにしています。
また作品以外にも近江八幡の近江商人が住んだ街並みや町家を利用した展示会場、今回のように歴史ある造り酒屋での展示や屋外での展示など、伝統的な町にアートが融け合ったような魅力があります。



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