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“男のためのガーデニング”改め

「浄厳院-現代美術展」~現代美術編~

2022-11-03 08:13:00 | アート・ライブ・読書
 近江八幡市安土町にある「金勝山 浄厳院」では2020年から現代美術展を開催されており、2年ぶりに本堂参拝と美術展に訪れました。
「浄厳院現代美術展」では19人のアーティストの作品と友情作品の2作家の作品が展示され、レジデンスアーティストとして5人の海外アーティストの作品が寺院の各御堂に展示されている。

美術展の主宰者は自身もアーティストである「西村のんき」さんで支援学校で教員をした後、個展や展覧会への参加をされ、浄土宗の僧侶でもある方のようです。
また、浄厳院の副住職の勝山さんも美術教師をしながら現代アート作品を創られており、2020年の現代美術展の時は5人の作家が参加されていたにも関わらず、このお二人の作品が印象深かった。



レジデンスアーティストの5人は、ウクライナ・ポーランド・韓国から来日して2か月間、寺に泊まって共同生活をしながら作品を製作されたといい、それぞれ数点の作品を完成されています。
総勢26名のアーティストが約200点の作品が見落としてしまうような場所にまで展示されていますので、見る方も集中して見ないといけません。
会場には作家さんがおられて説明をしていただけますので、作家さんとの会話も楽しい美術展でもありました。



作品は個性の際立つ作品揃いでしたが、膨大な作品数ですので気になった7人の作品をあげます。
吉田重信さんの「翻天覆地」は、楼門の外に生えている銀杏の樹を使った作品で、銀杏の若木に取り囲まれた主幹の下には造花の花が挿し込まれています。
福島県いわき市生まれの吉田さんは、東日本大震災などで社会の秩序や物質が破壊され解体された後、アートの息吹によって全く異なる新たな世界を生み出そうとされているようです。

銀杏の樹の最上部あたりには、葉で隠れて見えにくくなっているが仏像が埋め込まれている。
樹が成長していくことで樹の中に埋没するのか、仏を包み込むように樹が成長していくのか、何十年もの歳月をかけて新たな世界を生み出そうとする試みです。



焼け焦げた和紙で人形(ひとがた)を造られるのは近江八幡市にお住まいの美術教師の奥田誠一さん。
「surfaceー行き交う処ー」というインスタレーションでは、庫裡の土間と和室2間を使ってヒトガタが展示されており、
土間から上がり框をあがった最初の部屋には、年代物の水屋箪笥の上にヒトガタが座っています。



タイトルとなっている「surface」は表層・浮き上がるという意味だといい、畳の上・床の間・襖からヒトガタが湧き出てくるように展示されている。
表層は焼け焦げて穴だらけでユラユラと揺らいでいるヒトガタもある。



作品からはカタストロフィーの後の再生や蘇る生命の印象の方が強く、ヒトガタには蘇ろうとする生命感を感じます。
焼け焦げた和紙という素材の面白さもありますが、美術を専攻して美術教師をされておられますので造形の技術が高い方なんだろうなと思う作品群でした。





書院と本堂とをつなぐ渡り廊下の空間に作品を制作されたのは、モデルでも俳優でもあり作詞作曲をされ歌を歌うパフォーマーと多彩な才能を発揮されている空間アーティストのレイさんです。
「守・破・離・光」と題された作品を見た時に自分が感じたことと、レイさんの話を伺った時の説明と実は全く逆だったので、生き方について大いに考える機会となりました。

当方の見方(写真の順序):「守」生まれた時は混沌の中、「破」良いこと悪いことも山あり谷ありながら必死に生き、「離」終わった感を感じてしまうある転機を迎える。
「光」余分なモノを脱ぎ捨てて真っ白な道を進んで、観音さんのもとへ歩く。観音さまの厨子の向こうには本堂には阿弥陀仏が祀られた西方浄土がある。



レイさんの作品意図:「守」守られてこの世に生まれ、「破」本来の自分に気付き、「離」じぶんらしく生き、「光」優秀(有終)の美を飾る。
着物の着こなしも独特で、虎の絵が描かれた長襦袢の上に、上下ともに裏返しにした羽織を着て、羽織の裏地の柄を見せるスタイルで個性的な「光」を放っておられました。



レイさんは37年間、サラリーマン生活をされていたが家庭の事情で退職され、落ち着いた頃からモデル・俳優・アーティストを始められたそうです。
過去アートには携わったことはなく、「レイ」というのは「0(ゼロ)」点からのスタートという意味。“人生は旅だ”とも“自分は運の強い人間”だとも言われていました。
“自分は運のいい人間だ”と言える人と、“自分には運がない”と思ってしまう人間では人生が大きく変わりそうです。



境内にある「釈迦堂」には今村源さんの「なりゆくさま」という作品が展示されている。
釈迦堂の中に釈迦はおられず、瓦や普段使わないものが置かれた物置に近い状態になっていて、そこに白いビニールで被覆された針金で造られたお釈迦さんが祀られています。
お釈迦さんはどの方向から見ても仏像の姿が確認でき、目や鼻も読み取ることができます。



鐘楼と梵鐘に和紙を重ねた作品は、小松原智史さんの「コマノエ」。
鐘楼の中には墨で描かれた絵の和紙が貼られてあり、急な階段を登って梵鐘が吊るされた階上へとあがる。



梵鐘は寒冷紗にペンキで色づけしたもので覆われており、梵鐘が大きなオブジェへと変貌している。
壁板の模様(滲みの汚れ?)と融合した感があり、インパクトの強い作品でした。



ロシアのウクライナへの侵攻が逐一報道される中、ウクライナのザポリージャから来日して5人の海外アーティストと共同生活をして作品を創られたのはマリア・ルイーザ・フィラトバさん。
ザポリージャはロシアが独立国家として承認した親ロ派地域に接し、原子力発電所を巡る激しい抗争に見舞われている激戦地だと思います。



日本に来て描かれた7点の作品は、ロシア軍によって破壊された街ではなく、戦前ののどかなウクライナの田園風景を描かれています。
もはや存在せず、まだ来ていないユートピア世界を描くことで、復興しなければいけないという強い思いの作品です。



ルイーザさんは各種のメディアに取り上げられていますが、主宰者側のひとりは“あちこちに引っ張り出されて可哀そうに思う。”と言われていました。
同じように寺で合宿された韓国のアンボラさんは、ルイーザさんのことを思って空に虹がかかる絵を描いて平和を祈られているという。



「春陽院」では奥の間にルイーザさんの作品。庭に面した広間には主宰者でもある「西村のんき」さんの屏風絵が展示されています。
庭園や縁側には鏡が設置されていて、鏡が太陽光を反射して絵を照らし出し、太陽の動きに従って光の位置がどんどん変わるように設計してあります。

襖絵や屏風絵には中心に大きな「✖」点が描かれており、キャプションは以下になります。
 コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻、自然災害、
 私たちは✖な世界に幾度も出会う。
 その中でも在るべき方向に向かって、
 力強く生き抜く力を持ち続けたい。



西村のんきさんの作品が展示された間では、裏千家 丹下宗律さんの「お茶会」が行われ、茶道の作法など全く分からないまま参加させて頂きました。
緊張しながら座っているとまず「柚子琥珀」と「栗を模った落雁」が出され、茶釜から柄杓でお湯を注いで茶をたてられます。

寺院などで抹茶と和菓子を頼むことがありますが、目の前で茶釜や棗・水差しなどを使いお茶をたてられるのは初めて見ました。
“自己流でお楽しみ下さい。”とは言われたものの、真似事をするだけにしても緊張しながら抹茶を頂いた様は、まるで落語の「茶の湯(上方版)」の如くでした。



「浄厳院-現代美術展」では26名・約200作品が寺院のあちこちに展示されており、時間を忘れてしまうような美術展でした。
美術館ではなく、寺院での展示ということも魅力を引き立たせるひとつの背景になっているとも思います。
さて、「浄厳院」は仏像や寺宝の宝庫でもありますので、次は本堂仏像編へと続きます...。



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